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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第67回】「バークレイズ銀行事件-実質所得者課税の原則に基づく源泉所得税納税義務の可否-(地判令4.2.1)(その1)」~所得税法12条の規定の趣旨~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第67回】 「バークレイズ銀行事件 -実質所得者課税の原則に基づく源泉所得税納税義務の可否- (地判令4.2.1) (その1)」 ~所得税法12条の規定の趣旨~ 税理士 吉村 優 1 事実の概要 外国法人である原告の東京支店(以下「東京支店」という)は、その事業資金を調達するために、英国ロンドン市にある原告の本店(以下「ロンドン本店」という)から本支店間取引として融資取引により資金調達を行っていた。 原告においては、日本の課税額に係る外国税額控除を十分に受けられない年度が継続し、外国税額控除を受けられずに繰り越された部分が多額となっていた。平成23年頃、原告グループにおいて財務効率を改善するため、その資金調達の方法を、東京支店からロンドン本店に対して社債(以下「本件社債」という)を発行し、ロンドン本店は、外国法人かつ原告の完全子会社であるBに、Bは、内国法人であるCに順次本件社債を譲渡するという形式に変更した。 本件は、原告が、本件社債の利子(以下「本件利子」という)の収益を実質的に享受している者はC又はロンドン本店であるとして、本件利子の各支払に際して源泉徴収をしなかったところ、A税務署長から、本件利子の収益を実質的に享受している者はBであり、本件利子の各支払は外国法人に対する利子の支払に当たるとして、本件利子についての源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び各不納付加算税賦課決定処分(以下「本件各処分」という)を受けたことから、本件各処分の取消しを求めるとともに、本件各処分に基づいてされた源泉所得税の本税、不納付加算税及び延滞税の各納付は法律上の原因なく行われたものであるとして、被告に対し、過納金として53億4,717万6,776円の還付及びその還付加算金の支払を求める事案である。 2 前提事実 ◎ 原告について 〈関係図〉 3 争点 本件の争点は、本件利子の実質所得者(所得税法12条)がロンドン本店であるかBであるかである(なお、Cが本件利子の実質所得者ではないこと、ロンドン本店が本件利子の実質所得者である場合には、原告に本件利子に係る源泉徴収義務が生じないことは、当事者間に争いはない)。 ((その2)へつづく)
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2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】
2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第3回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 Ⅵ 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準 2022年10月28日に、ASBJより以下の会計基準の改正が公表された。 また、2022年10月28日、日本公認会計士協会より以下の改正が公表された。 本改正では、その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、改正が行われている。 1 その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分 (1) 改正理由 その他の包括利益に計上された取引又は事象(以下、「取引等」という)が課税所得計算上、益金又は損金に算入され、法人税、住民税及び事業税等が課される場合がある。 従来、取引等については、その他の包括利益に計上される一方で、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上され、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないものがあった。 そのため、その他の包括利益に対して課される法人税、住民税及び事業税等のほか、株主資本に対して課される法人税、住民税及び事業税等も含めて、所得に対する法人税、住民税及び事業税等の計上区分についての見直しが行われた(改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表)。 (2) 影響があるケース 影響があるケースとして、以下の例示が挙げられている(「改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」の「公表にあたって」3頁、11頁)。 上記以外にも、影響があるケースとしては、以下が考えられる。 なお、株主資本に対して課税される場合については、従来から税効果適用指針等において取扱いが示されているため、以下の場合を除き、影響はない(「改正企業会計基準第 27 号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」の「公表にあたって」3頁)。 (3) 法人税等の計上区分 当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益(又は評価・換算差額等)に区分して計上する(法人税等基準5、5-2、8-2)。 ただし、以下のとおり、例外的な取扱いも設けられている。 (※) 退職給付に関する取引が想定されているが、株主資本やその他の包括利益を用いた会計処理を定めた場合や税制改正が行われた場合に、退職給付に関する取引以外の項目でも該当する可能性がある(法人税等基準29-6、7)。 (4) 株主資本又はその他の包括利益に計上する金額の算定 株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、法定実効税率を乗じて算定する。 なお、課税所得が生じていないこと等から法令に従い算定した額がゼロとなる場合、株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる(法人税等基準5-4)。 (5) その他の包括利益の組替調整(リサイクリング) その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等は、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、これに対応する税額を損益に計上する(法人税等基準5-5)。 なお、税率変更に係る差額はリサイクリングしない(法人税等基準29-10)。 (6) 子会社に対する投資を売却した時の親会社の持分変動による差額に対する税効果 親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した場合には、繰延税金資産又は繰延税金負債を取り崩す。この際、従来は相手勘定を法人税等調整額として取り崩していたが、改正後は、資本剰余金を相手勘定として取り崩す(税効果適用指針9(3)、30)。 また、子会社に対する投資について親会社の持分変動による差額を直接資本剰余金に計上する場合、当該親会社の持分変動による差額に係る一時差異に関する繰延税金資産又は繰延税金負債の差額について、税率が変更されたことによる修正差額を当該税率が変更された年度において資本剰余金を相手勘定として計上する(税効果適用指針51(3))。 (7) その他の包括利益の開示 包括利益計算書におけるその他の包括利益の内訳項目は、税効果を控除した後の金額で表示し、税効果の金額を注記する。そのため、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」及び注記する「税効果の金額」について、「その他の包括利益に関する、法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及び税効果の金額」と改正された(包括利益基準8)。 2 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 (1) 改正理由 グループ法人税制が適用される場合の子会社株式及び関連会社株式(子会社株式等)の売却(連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合)に係る税効果について、従来では、当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されている場合は、連結上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額は修正していなかった。 しかし、連結上、消去される取引に対して税金費用が計上されることとなり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも適切に対応していないため、改正が行われた(「改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」の「公表にあたって」7頁)。 (2) 影響を受けるケース 100%子会社を所有する親会社の連結財務諸表において、その100%子会社同士又は親会社と100%子会社との間で、親会社又は100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合に、連結財務諸表について影響を受ける(「改正企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の公表」の「公表にあたって」7頁)。 なお、個別財務諸表における取扱いは改正されていないため、税効果適用指針8項及び9項に従い繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する(税効果適用指針143-2)。 (3) 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱い及び子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の一時差異の取扱い 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上、当該売却損益を繰り延べる場合、連結財務諸表において、以下の会計処理を行う(税効果適用指針22、23、39)。 3 適用時期等 (1) 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(法人税等基準20-2、包括利益基準16-5、税効果適用指針65-2)。 (2) 適用初年度の経過措置 ① その他の包括利益に対して課税される場合の法人税等の計上区分 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用する。 ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができる(法人税等基準20-3、包括利益基準16-5、税効果適用指針65-2)。 ② グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果 改正の対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられる。また、会計処理については、購入側の企業における再売却等についての意思の有無により判断することになるが、この点についても、過去の連結財務諸表における子会社等に対する投資に係る一時差異への税効果会計の適用において、一定の判断がなされていたと考えられる。したがって、遡及適用が困難となる可能性は低いため、経過的な取扱いは設けられていない(税効果適用指針163)。 (3) 会計方針の変更の注記 重要性が乏しい場合を除き、会計方針の変更の注記が必要である。連結財務諸表において同一の内容が記載される場合には、一部の項目を除き、その旨を記載し、個別財務諸表における記載を省略することができる(財務諸表等規則8条の3、連結財務諸表規則14条の2、会社計算規則102の2)。 【事例:(株)モスフードサービス 2024年3月期有価証券報告書】 Ⅶ 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等 1 グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い 2023年3月28日に「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)(以下、「改正法人税法」という)が成立し、国際的に合意されたグローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルール(IIR)に係る取扱いが定められ、2024年4月1日以後開始する対象会計年度から適用されている。 改正法人税法では、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させ、当該課税の源泉となる純所得(利益)が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する。 グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等及び税効果会計についてどのように取り扱うかが明らかでなかったことから、2024年3月22日に、ASBJより以下の会計基準の改正が公表された。 補足文書は、課税取扱いを適用する場合に実務に資するための情報を適用することを目的としている。 (1) 連結財務諸表及び個別財務諸表における取扱い ① 会計処理 (※) 「対象会計年度」とは、法人税法第15条の2に規定する多国籍企業グループ等の最終親会社等の連結等財務諸表(法人税法82①)の作成に係る期間をいう(課税取扱い5)。 ② 特に見積りが困難な場合 (ⅰ) 適用初年度 適用初年度は特に見積りが困難な状況が考えられるが、「財務諸表作成時に入手可能な情報」に基づき見積ることとなる。 《適用初年度において情報の入手が困難な場合の会計上の見積りの例》 (ⅱ) 適用初年度の翌年度以降 適用初年度の翌年度以降は、適用初年度に比べればグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の申告に向けて情報を入手する体制がより強化され、実績値の把握等によって、入手可能となる情報が増加することがあると考えられる。しかし、グローバル・ミニマム課税制度においては、対象範囲の判定や個別計算所得等の金額等の算定にあたって必要な情報を適時かつ適切に入手することが困難な場合があると考えられる。このような場合には、適用初年度の翌年度以降においても、上記(ⅰ)の(ア)(イ)に示した例を参考とすることが考えられる(補足文書14)。 ③ 見積金額と確定額の差額 上記①(又は②)により入手可能な情報に基づき見積もった金額と翌事業年度の見積金額又は確定額との間に差額が生じる場合がある。しかし、各事業年度において財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積もっている限り、当該差額は誤謬にはあたらず、当期の損益として処理する。 また、会計上の見積りの変更にあたって、当該差額に重要性がある場合には、会計上の見積りの変更注記(企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、「遡及基準」という)18)を行う(課税取扱いBC11)。 (2) 四半期及び中間における取扱い なお、課税取扱い第 7 項を適用するときは、その旨を注記する(課税取扱い13)。 (3) 表示 貸借対照表及び損益計算書における表示は、以下のとおりである。 (4) 適用時期 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(課税取扱い14)。 四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記(上記(2)参照)については、上記の適用時期に関わらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(課税取扱い15)。 (5) 会計方針の変更注記 課税取扱いの適用については、以下の見解に分かれると考えられる。四半期又は中間の注記事例から考えると、会計方針の変更注記の会社もあったが、会計方針の変更注記を記載していない会社の事例の方が多いと推測される。 2 グローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い グローバル・ミニマム課税制度を導入するための法人税法の改正は数年にわたって行われ、令和6年度の税制改正において所得合算ルール(IIR)が導入され、令和7年度税制改正大綱で、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)の導入が予定されている(前回参照)。 そこで、ASBJにおいてグローバル・ミニマム課税制度に係る税効果会計の取扱いが検討され、2023年3月31日に以下の実務対応報告が公表され、2024年3月22日に改正が行われた。 (1) 会計処理 したがって、法定実効税率もグローバル・ミニマム課税に係る法人税等を含まない税率を使用すると考えられる。 (2) 適用時期 課税税効果取扱いの公表日以後適用する(課税税効果取扱い4-2)。 (3) 注記 課税税効果取扱いを適用した旨の注記は必要ない(課税税効果取扱い16)。 Ⅷ 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正 ASBJでは、原則、年1回、4月1日を基準日として、会計基準等の要変更事項を検出し、基準変更の要否を検討している。今回、2024年4月1日を基準日として、会計基準等の変更が行われ、2025年3月11日に以下の会計基準等の改正が公表された。 1 包括利益の表示に関する改正 包括利益基準及び株主資本適用指針におけるその他の包括利益の取扱いに関して、連結財務諸表上の取扱いに関する記載に使用されるべき表現となっていなかったため、表現の見直しを図ることを目的として改正が行われた。 (1) 包括利益基準の改正 包括利益基準では、これまでに公表されている会計基準等で使用されている「純資産の部に直接計上」、「直接純資産の部に計上」及び「直接資本の部に計上」という用語について、連結財務諸表上は「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替えるための変更を行っている(包括利益基準16、42-3)。 (2) 株主資本適用指針の改正 株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額は純額で表示するが、主な変動事由ごとにその金額を表示することができる(企業会計基準第6号「株主資本等変動計算書に関する会計基準」8)。 ここで、株主資本適用指針では、連結株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額を主な変動事由ごとに表示する場合の例として示す項目について、「純資産の部に直接計上されたその他有価証券評価差額金の増減」等の用語が使用されていたため、当該用語について見直しを行っている。 また、同様の区分により内訳を示している包括利益基準と用語の統一を図ることで、連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書と連結株主資本等変動計算書の連携が理解しやすくなると考えられるため、「当期発生額」及び「組替調整額」という用語に変更されている(株主資本適用指針11-2、21-2)。 (3) 実務上の影響 上記(1)及び(2)の改正は、用語の修正であり、連結株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額を主な変動事由ごとに表示していない限り、実務的な影響はないと考えられる。 (4) 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(包括利益基準16-6、株主資本適用指針14-4)。 2 特別法人事業税の取扱いに関する改正 改正前の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」では、特別法人事業税の取扱いについては個別の規定はなかった。 そのため、特別法人事業税の取扱いの明確化を図るため法人税等基準が改正され、税効果会計における特別法人事業税の取扱いについても改正を行うため税効果適用指針が改正された。 (1) 法人税等基準の改正 特別法人事業税について、事業税(所得割)と同様の取扱いになることを明確化するための変更を行った(法人税等基準5)。 また、開示について、「法人税、住民税及び事業税」が表示科目の例を示していることがより明確となるように表現の変更を行った(法人税等基準9)。 (2) 税効果適用指針の改正 法定実効税率の算式に特別法人事業税率が含まれることが明確化された(税効果適用指針4、46)。 (3) 実務上の影響 上記(1)及び(2)の改正は、今までの実務に沿った明確化のための改正であるため、多くの会社にとって実務的な影響はないと考えられる。 (4) 適用時期 適用時期は、以下のとおりである(法人税等基準20-4、税効果適用指針65-4)。 3 種類株式の取扱いに関する改正 種類株式取扱いの適用対象となる種類株式に関して、会社法施行に伴い削除された商法の条文を参照したままとなっていたため、会社法を参照する定めに変更された。 (1) 種類株式取扱いの改正 種類株式取扱いの適用対象となる種類株式について、会社法第108条第1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式として定義された。 ここで、会社法第108条第1項では、旧商法で認められていなかった種類の株式を発行することが可能とされ、旧商法で認められていた種類の株式についても設計の柔軟化が図られていることから、種類株式取扱いの適用対象は、改正前の種類株式取扱いの開発時において想定されていなかった種類株式にも拡大する。 (2) 実務上の影響 会社法施行後の種類株式について、これまでも種類株式取扱いに沿って会計処理を検討していた場合は、実務的な影響は大きくないケースもあると考えられる。一方、種類株式取扱いに沿って会計処理を検討していなかった場合は、会計処理の再検討を行う必要がある。 (3) 適用時期 適用時期は、以下のとおりである。 (了)
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リース会計基準を学ぶ 【第5回】「借手のリースの会計処理①」-使用権資産及びリース負債の計上額、借手のリース料、使用権資産の償却-
リース会計基準を学ぶ 【第5回】 「借手のリースの会計処理①」 -使用権資産及びリース負債の計上額、借手のリース料、使用権資産の償却- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回から3回にわたり、借手のリースの会計処理について解説する。 リース会計基準は、主として借手の会計処理について改正を行うものであり(リース会計基準BC13項)、基本的に、借手のすべてのリースについて資産及び負債の計上を求めるものである(リース会計基準BC13項、BC39項)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 基本的な考え方 リース会計基準は、IFRS第16号と同様に、借手のリースの費用配分の方法について、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを採用している(リース会計基準BC39項)。 このため、現行の「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)に基づき、オペレーティング・リース取引として会計処理しているリース取引についても、リース会計基準では、基本的に、使用権資産及びリース負債を計上することになる。 次の事項が論点となる。 なお、本稿では取り上げないが、リース会計基準及びリース適用指針では、リースの契約条件の変更が行われた場合について詳細に規定されているので、当該変更に該当するときには、会計処理等に注意が必要である。 Ⅲ 使用権資産及びリース負債の計上額 借手は、リース開始日に、使用権資産及びリース負債を計上する(リース会計基準33項、34項)。 使用権資産及びリース負債は、それぞれ次のように算定する。 上記の使用権資産及びリース負債の計上額の算定のイメージを示すと、次のとおりである。 上記のほか、借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含めるとする規定などがある(リース適用指針27項)。 仕訳で示すと、次のようになる(「[設例9-1]リース料が当月末払いとなる場合」参照)。 〈リース開始日〉 〈支払日〉 借手のリース料は、原則として、利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分とに区分計算し、前者は支払利息として会計処理を行い、後者はリース負債の元本返済として会計処理を行う(リース適用指針38項)。 Ⅳ 借手のリース料 借手のリース料は、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、次の①から⑤のもので構成される(リース会計基準35項)。 Ⅴ 使用権資産の償却及び利息相当額の各期への配分 1 減価償却 使用権資産については、次のように減価償却を行う(リース会計基準37項、38項、BC47項)。 上記の「①契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース」とは、次の(1)から(3)のいずれかに該当するものをいう(リース適用指針43項)。 2 利息相当額の各期への配分 利息相当額は、借手のリース期間にわたり、原則として、利息法により配分する(リース会計基準36項)。 借手のリース期間にわたる利息相当額の総額は、リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額になる(リース適用指針38項)。 利息法においては、各期の利息相当額をリース負債の未返済元本残高に一定の利率を乗じて算定する(リース適用指針39項)。 現行の「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)に基づき、オペレーティング・リース取引のリース料を定額で費用処理している場合と比較し、リース会計基準では、利息相当額について利息法により各期に配分することから、借手のリース期間の前半部分では支払利息が多めに計上されることになる。 3 割引率 借手がリース負債の現在価値の算定のために用いる割引率は、次のとおりである(リース適用指針37項、BC66項)。 (了)
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計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第47回】「うっかりミスが何度も繰り返される箇所を要チェック①」~損益計算書の「法人税等調整額」~
計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第47回】 「うっかりミスが何度も繰り返される箇所を要チェック①」 ~損益計算書の「法人税等調整額」~ 公認会計士 石王丸 周夫 1 計算チェックがスルーされやすい箇所 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 損益計算書の法人税等調整額の数字が間違っているというミスです。ただし、「法人税、住民税及び事業税」と法人税等調整額の2つを合計した金額は間違っていません。内訳金額としての法人税等調整額が間違っていたというものです。 公表資料のみではその原因を正確につかむことはできませんが、合計が合っているので、おそらくは内訳金額の入力ミスか更新漏れだったと考えられます。いずれにしても、うっかりミスであることは間違いなさそうです。 さて、今回注目してほしいのは、うっかりミスの内容や原因ではなく、それが発生した場所です。計算書類等のどの箇所で発生したのかということです。計算書類等の作成作業では、うっかりミスが発生しやすい場所がいくつかあります。この連載の既出事例も参考にしながら、うっかりミスが繰り返される箇所を整理していきたいと思います。 では早速、事例を見ていきましょう。 【事例47-1】 損益計算書の法人税等調整額を訂正。 〈訂正前〉 〈訂正後〉 (出所) 株式会社ケイブ「「第30回定時株主総会招集ご通知」の一部訂正について」(2024年8月24日) この事例の会社は、2024年8月8日に本事例を含む「第30回定時株主総会招集通知及び株主総会参考書類」を公表(電子提供措置の開始)し、2024年8月24日に当該誤記載の訂正を公表しています。 間違っていたのは、【事例47-1】の下線部で、損益計算書の法人税等調整額の数字です。訂正前が「△36,648」、訂正後が「△38,648」でした。8を6と見間違えて入力したようにも見えますが、実際にそうだったかどうかはわかりません。そのような入力ミスではなく、税効果の金額が内容的に修正された可能性もあります。しかし、「法人税、住民税及び事業税」と法人税等調整額の合計金額は訂正の前後で変化がないので、入力ミスでないとすれば、税効果修正後の損益計算書更新漏れではないかと考えられます。 いずれにしても、このミスは作成後に計算チェックを行えばすぐに見つけることができます。「法人税、住民税及び事業税」と法人税等調整額の合計が△38,116になればよいわけです。 ところが、現実にはそう簡単ではありません。 実際、他社でも全く同じ場所でほぼ同じミスが起きています。計算チェックを行えば見つかっていたはずだというのは、後から考えればそうかもしれませんが、実際にはこの箇所の計算チェックがなぜかスルーされやすく、ミスが見つからないようです。その理由はともかく、このようなミスが多いということは知っておくべきでしょう。 2 類似事例の確認 他の事例についても確認しておきましょう。 この連載では、損益計算書(又は連結損益計算書)の法人税等調整額が間違っていた事例として、次の2つを紹介済みです。 両事例とも、計算チェックを行っていれば発見可能なミスということで、今回の【事例47-1】と全く同じパターンですね。 【事例3-1】と【事例11-1】は、実例をもとに、一般化した事例として筆者が作成したものでした。会計ソフト等により経理作業の自動化が進んでいる時代に、本当にこのような間違いが起きているのか懐疑的だった人もいたかもしれませんが、2024年に発生した実例である【事例47-1】を見れば、ご納得いただけると思います。 以上のように、同じ箇所で同じミスが繰り返されていることから、この箇所でのミスの防止・発見は簡単ではないとわかりました。この箇所でミスが起きやすいことを頭に入れておき、当該箇所については、他の箇所よりも注意深く確認することが必要ではないでしょうか。すなわち、ミスが繰り返される箇所を知っておくというのもまた、うっかりミスの防止・発見法の1つだというわけです。 3 ミスが繰り返される箇所は他にもある ミスが繰り返される箇所は他にもあります。この連載で解説したものは次のとおりです。 〈うっかりミスが繰り返される箇所〉 これらの箇所が盲点になりやすい理由については、各回の解説で述べましたので、必要であれば復習してみてください。 〈今回のまとめ〉 損益計算書の法人税等調整額は、うっかりミスが繰り返し起きている箇所です。作成時や確認時に計算チェックをして、間違いがないことを確かめてください。 (了)
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給与計算の質問箱 【第63回】「社会保険の料率の変更」~令和7年度対応~
給与計算の質問箱 【第63回】 「社会保険の料率の変更」 ~令和7年度対応~ 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和7年度において各種社会保険の料率の変更はあるでしょうか。 A 労災保険、厚生年金保険、子ども・子育て拠出金の料率の変更はない。雇用保険、健康保険、介護保険(第2号被保険者)の料率は変更がある。 * * 解 説 * * 1 料率の変更がないもの (1) 労災保険 労災保険料は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 〔労災保険率表〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 厚生年金保険 厚生年金保険の料率は、18.3%を折半して会社負担が9.15%、役員・従業員負担が9.15%である。役員・従業員は、標準報酬月額×9.15%=厚生年金保険料が給料から天引きされる。 例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×9.15%=27,450円の厚生保険料が給料から天引きされる。 〔令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)〕 (※) 協会けんぽホームページより (3) 子ども・子育て拠出金 子ども・子育て拠出金は、会社が全額負担し従業員の負担はないことから給料計算には関係しない。 子ども・子育て拠出金の料率は、0.36%である。子ども・子育て拠出金の額は、被保険者個々の厚生年金保険の標準報酬月額×0.36%の総額である。 例えば、厚生年金の標準報酬月額300,000円の役員1名だけが社会保険に加入している会社の場合、300,000円×0.36%=1,080円の子ども・子育て拠出金を年金事務所へ支払う。 2 料率の変更があるもの (1) 雇用保険 令和7年4月1日から令和8年3月31日までの一般の事業の雇用保険料率は、会社負担が0.9%(令和6年4月1日から令和7年3月31日は0.95%)、従業員負担が0.55%(令和6年4月1日から令和7年3月31日は0.6%)である。従業員は、給料の総支給額×0.55%=雇用保険料が給料から天引きされる。 例えば、給料の総支給額300,000円の場合、300,000円×0.55%=1,650円の雇用保険料が給料から天引きされる。 〔令和7年度の雇用保険料率〕 (※) 厚生労働省ホームページより (2) 健康保険 協会けんぽに加入の東京の会社の令和7年2月分(3月納付分)までの健康保険の料率は、9.98%を折半して会社負担が4.99%、役員・従業員負担が4.99%だった。令和7年3月分(4月納付分)からの健康保険の料率は、0.07%引下げの9.91%を折半して会社負担が4.955%、役員・従業員負担が4.955%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×4.955%=健康保険料が給料から天引きされる。 例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×4.955%=14,865円の健康保険料が給料から天引きされる。 (3) 介護保険(第2号被保険者) 第2号被保険者とは、40歳以上65歳未満の役員・従業員をいう。40歳未満及び65歳以上の役員・従業員の給料からは介護保険料を天引きしない。 協会けんぽに加入の東京の会社の令和7年2月分(3月納付分)までの介護保険の料率は、1.6%を折半して会社負担が0.8%、役員・従業員負担が0.8%だった。令和7年3月分(4月納付分)からの介護保険の料率は、0.01%引下げの1.59%を折半して会社負担が0.795%、役員・従業員負担が0.795%になった。役員・従業員は、標準報酬月額×0.795%=介護保険料が給料から天引きされる。 例えば、標準報酬月額300,000円の場合、300,000円×0.795%=2,385円の介護保険料が給料から天引きされる。 (了)
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《税理士のための》登記情報分析術 【第22回】「売買の登記」~不動産売買契約と所有権移転の時期~
《税理士のための》 登記情報分析術 【第22回】 「売買の登記」 ~不動産売買契約と所有権移転の時期~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 事業承継対策や相続対策のために、税理士から顧客に対し、社長個人が所有する不動産の会社への売買や、親族間での不動産売買を提案することがある。不動産の売買を行う場合は登記を行うことになるため司法書士との連携が重要となる。 今回は司法書士の目線からみた不動産売買のポイントについて解説を行う。 1 売買の登記に必要な書類等 売買を原因として所有権移転登記を行う場合に、必要となる書類は以下のとおりである。 【売主の必要書類】 ※このほか登記記録上の売主の住所と現在の住所が異なる場合には、沿革を付けるため住民票等が必要になる場合がある。 【買主の必要書類】 買主の必要書類は、売買にあたり金融機関から融資を受けるか否かによって、内容が異なる。融資を受ける場合、購入した不動産に対して抵当権等の担保設定登記を行うことが多く、そのための書類が別途必要になるためである。 〔融資を受けない場合〕 〔融資を受ける場合〕 正式には司法書士から顧客に対して必要書類の案内を行うが、事前に税理士からもこれらの書類が必要になることを伝えておくと、顧客としても心づもりができスムーズに手続を進めることができる。 なお、不動産の売買に伴う手数料の見積りには、最新年度の固定資産税評価額が分かる固定資産税の評価証明書か納税通知書が必要となるため、早い段階で司法書士に共有するとよいだろう。 2 売買契約書のポイント 社長と会社間あるいは親族間での不動産売買では、司法書士が売買契約書の作成を行うことも多いが、司法書士として気になるポイントとして、次のものがある。 (1) 売買代金 「不動産をいくらで売買するか」ということは、売買契約書の基本的な要素である。 適正な金額でなければ、贈与税など税務上の問題が生じるリスクがあることは司法書士も認識しており、それらを踏まえ売買代金をいくらとすべきなのかという点については、税理士からの情報提供が欠かせない。 (2) 所有権移転の時期 売買契約は、契約締結と同時に売買対象物の所有権が売主から買主に移転することが原則である(民法176条、555条)。 ただし、不動産売買契約書には以下のように、所有権の移転の時期に関する条項が入っていることが多く、売買代金を買主が売主に対して支払ったときに移転すると定められていることが多い。 仮に上記条項の入った売買契約書を2024年12月1日に締結し、2025年1月15日に買主が売主へ売買代金を支払った場合には、所有権の移転の日付は「2025年1月15日」となる。 【売買の登記の登記記録例】 上記の条項を設けることで、売主としては、売買代金の支払いを受けるまで不動産の所有権が自分に留まることになるため、安心して取引を行うことができるという効果がある。 一方で、売買代金が高額である場合には、資金調達に時間を要したり、分割払いになることもある。また、事業承継対策や相続対策として売買を行う場合には、すぐに所有権を買主に移したいという事情もあり得よう。 そのような場合には、上記の条項を削除するか、下記のように記載を変更して、原則通り、売買契約締結と同時に所有権が移転することを明確にすることもある。 3 本人確認・意思確認が重要 前回取り上げた親族間で行われる贈与のケースにおいても、本人確認・意思確認の重要性について解説したが、売買のケースでも、その重要性は変わらない。 後々に疑義が生じないようにするためにも、司法書士がしっかりと本人確認・意思確認を行ったという事実は重要といえるだろう。 (了)
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第63回】「震災減価率の査定は考えるほど容易ではない」
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第63回】 「震災減価率の査定は考えるほど容易ではない」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 本連載の【第16回】では、土砂災害(特別)警戒区域内の土地を例として、鑑定評価や固定資産税評価、そして相続税評価におけるアプローチの方法等について取り上げました。そこでは、自然災害が現実に生じた場合、それが土地価格に与える影響度を不動産鑑定評価基準に速やかに取り込んで評価実務に活かすことが現時点では難しい反面、固定資産税評価においてはその影響度を何がしかの形で評価額に反映させて対応している自治体も見受けられる旨も併せて述べました(相続税の財産評価においては、財産評価基本通達に規定されている「特別警戒区域補正率表」の適用)。 このような相違がある背景としては、自然災害による影響度を不動産鑑定評価基準に的確に反映させるためには、被災地の市場における取引状況や減価度合いの普遍性といった観点から十分な検証を要するところ、税務においては課税の公平性という観点から被災地とそうでない土地との間で税額のバランスを図る必要があること等が指摘されています。 今回取り上げるテーマもこの延長線上にあるものですが、平成23年3月の東日本大震災及び令和6年1月の能登半島地震の発生を契機として、震災の影響を受けた土地の評価(震災による減価率の査定)をいかにすべきかが、鑑定評価上の課題となっています。 以下、税務における扱いとの関連も踏まえつつ、震災減価について述べていきます。 2 鑑定評価における格差率の目安 鑑定評価において土地価格を求める際には、その土地の収益性から試算した価格(=収益還元法による価格)とともに取引事例比較法による価格(=比準価格)が重要な役割を果たすことはいうまでもありません。そして、取引事例比較法を適用するに当たり、比較対象とする土地間の価格形成要因の相違を推し測る目安として活用されているものが「土地価格比準表」です。 しかし、「土地価格比準表」は経験則に基づく最大公約数的な価格形成要因の格差を比準に反映させるという要素が強く、経験則による定量化が難しい要因について、これを合理的根拠に裏付けられた形で指針として反映させることには困難が伴います。今回取り上げている大震災後の土地価格の評価は、その典型例です。 その最大の理由は、震災後における土地取引の件数が極めて少ないこと、該当地域で仮に取引が見受けられたとしても、それが果たして鑑定評価における正常価格の成立要件(=誰もが売り買いしても等しく当てはまるような状況で価格が成立すること)の検証が極めて難しい点にあります。また、それ以前の問題として、震災後の復旧が開始し元の状態に戻るまでの間に(あるいは復旧が進行中の段階で)取引需要そのものが存在するのか否かという根本的な課題が待ち構えています。 そのため、このような状況下で、震災減価率なるもの(=震災の影響を受けた土地の価格がどれだけ低下するか)を多数意見が一致するような形で査定すること自体、不動産鑑定士にとっても悩ましい問題です。 3 固定資産税評価や相続税の財産評価における被災地の補正率の例示 既に述べた理由により、税務評価においては自然災害による影響度を評価額に反映させる措置が採用されている事情もあることから、参考までにいくつかの例を掲げておきます(自治体のホームページで筆者が調査したものです)。 (1) 令和6年能登半島地震により被災した土地の固定資産税評価額の取扱い例 被害程度に対応した補正率を、「がけ地補正率」(=自治体ごとに取り決めた「がけ地を含むことによる減価率」を指します)を準用して適用している自治体があるほか、次のとおり被害の程度に対応した独自の補正率を設けている自治体もあります。 ① A市及びB町 ② C市 (2) 相続税の財産評価における取扱い 相続税の財産評価においては、「東日本大震災に係る財産評価関係質疑応答事例集(情報)」(平成23年10月国税庁資産評価企画官情報)が発出され、課税時期が東日本大震災の発生日より前である場合とそれ以後である場合に分けて、それぞれの評価方法が規定されています。 ただし、震災発生直後の価額に関しては、双方の場合とも、震災発生直後の価額は当時(平成23年)の路線価(倍率地域の場合は評価倍率)に調整率(※1)を乗じて計算する方法で統一されています。 (※1) 調整率は(状況に応じて)0.75・0.90に区分。 4 鑑定評価における震災減価率検討上の課題 鑑定評価という視点に立った場合、「震災減価率査定の拠り所をどこに求めればよいか」が課題となります。 ここで、震災減価率という形で格差率を「土地価格比準表」に反映させるためには、震災後の土地の取引事例が一定数収集可能であり、震災前後の価格水準の相違とその程度を市場参加者(売り手・買い手)の行動から経験的に付けることができることが、その前提となってきます。 しかし、現実問題として捉えた場合、震災被災地の土地取引(購入)需要はほとんど見出し難い状況にあり、震災後当分の間、インフラ復旧が進展しない限り購入の意思を示す人を探すのは困難であるのが実情です(※2)。 (※2) 例えば、公益社団法人福島県不動産鑑定士協会が実施した「東日本大震災後の福島県不動産市場動向に関するアンケート調査結果・第16回調査(平成30年7月)」によれば、不動産市場に関する自由回答として次のものが見受けられました。 「被災者の土地購入は激減」「売り物件が少なく、不動産取引(媒介)は低調」「問い合わせが激減しており、震災前よりもひどい状況である」「被災者からの問い合わせが全く無くなっており、市民の方々からの問い合わせも激減しています」 これらの点を踏まえれば、鑑定評価で求めるべき価格(正常価格)は市場性の著しい減退を反映したものとなるといえますが、現時点ではその程度を定量的に推し測るための実証的な資料に乏しいのが実情です。そのため、現時点で震災減価率なるものを画一的に定め、これを評価の指針とすることは精度上大きな問題を残すように思われます(※3)。 (※3) 実務的には、被災がないものとした場合の更地価格から復旧費用及びスティグマ(心理的嫌悪感)相当額を控除して求める方法も考えられますが、控除する金額を客観的にどのように見積もるかが次の課題となります。 今回のテーマを「震災減価率の査定は考えるほど容易ではない・・・・・・」と名付けた背景には、上記のような事情が潜んでいます。 (了)
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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第21回】「投資アドバイスを求められた時の注意点」
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第21回】 「投資アドバイスを求められた時の注意点」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇国民の約5人に1人がNISA口座を持つ時代に 今や“空前の投資ブーム”と言えるほど、国民の投資熱が過熱しています。2024年に制度が刷新されより利用しやすくなったNISAは、2024年6月末時点で、口座の保有数は約2,428万口座になりました。なんと、国民の約5人に1人が口座を保有している状況です。 もちろん自分年金作りに欠かせないiDeCoも、順調に加入者を増やしており、今般の税制改正大綱においては大幅な掛金上限額の拡大が発表され、大いに期待されています。 ここまで投資に対する関心が高まると、先生方におかれましても関与先から「投資について教えてくれないか?」などと請われることがあるかもしれません。 しかしながら、投資には必ずリスクが伴うものですから、安易にアドバイスを請け負うものではありません。最悪のケースでは損失を被った際に「先生がそう言ったから」と責任を押しつけられる可能性もあるので、慎重になるべきでしょう。 とはいえ、NISAやiDeCoは国の制度であるがゆえに、「税理士の先生であれば知っていても当然」と思われることもあるかと思います。 そこで今回は、ファイナンシャルプランナーとして筆者がどのような情報提供あるいは投資アドバイスを行っているのかをご紹介したいと思います。 〇不確実なことは口にしない まず、「しない」ことから申し上げます。 当然ながら「絶対に儲かる」は禁句です。 さすがに「先生はNISAでどのくらい儲かりましたか」など直接的な質問はないとは思いますが、それでも「どのくらいのリターンが望めるのかを知りたい」というのは自然なことです。 仮に先生方に投資キャリアがおありで、自信がある場合も同様です。なぜならば、その過去に再現性がないからです。 おそらく今手元にある投資で得た利益は、長い時間をかけて築いたものでしょう。また、必ずしもうまくいった時ばかりではなく、損失を被ったこともあるでしょう。それらをひっくるめての現在の状況を単純にお話してしまっては、相手をミスリードすることになります。 また、市況を語るのもNGです。知識があればあるほど、これからの経済の行方に対してひとこと言いたくなるかもしれませんが、将来どうなるかなど、誰ひとりとして予測することは不可能です。 同様に、「この会社の株価が上がるだろう」とか「この投資信託が良い」というような話もしません。証券会社や銀行の窓口では、「この株が買い」だとか、「この投資信託がお勧め」だという話もありますが、それは金融商品を販売することでビジネスをしている人たちの「売りたい商品」であり、私たち投資家が買ったところで、必ず利益が出るという確実性はまったくないものだからです。 つまり、投資アドバイスを求められた際に、不確実なことは口にしないというのが鉄則です。 特に筆者のように商品販売をしないファイナンシャルプランナーは、個別商品の推奨ができないことになっているので、再現性の乏しいこと、不確実性の高いことは、一切口にしない、としています。 〇アドバイスは「再現可能」で「確実」なことだけ では、どのような話を「アドバイス」するのか? それは再現可能で、確実なことです。 具体的には、次の5つがあります。 1つめは「制度の仕組み」です。NISAであれば、運用益非課税であることの詳しい説明。iDeCoであれば、掛金が全額所得控除、運用益非課税、受取時において利用できる控除の仕組みです。これらの制度をきちんと説明することが、何よりのアドバイスになります。 2つめは「投資と投機の違い」です。投資とは、私たちの暮らしをより安全に、豊にするために働く企業を長期で応援し、その成長の恩恵を受けることです。一方で投機は、誰かの損失を誰かが独り占めするような短期での利益の取り合いです。これでは私たちは報われません。 3つめは「コストの低減」です。例えば、1つめと重複しますが、税金はコストです。したがって、課税されない仕組みの中で投資ができれば、その節税分は確実な利益となります。あるいは、投資を実行する際のコストも挙げられます。投資信託であれば、購入時の手数料や信託報酬、解約時の手数料は、できるだけ負担しないように考慮すべきです。 4つめは「リスクをコントロールする技術」です。つまり「分散」です。投資タイミングを分散する、投資対象を分散するのが基本です。例えば前者はドルコスト平均法と呼ばれる定時定額で金融商品を購入する方法が最もメジャーな考え方ですし、後者は国際分散投資が投資ですべての財産を失わないための合理的な考え方です。 5つめは「お金との距離感」です。私たちの暮らしには、増えないけれど確実に流動性を保ちながら用意しておくべきお金もあれば、経済成長の恩恵を積極的に狙ってこそ備えるべきお金や、万が一の時に暮らしを守ってくれるお金もあります。そのようなお金の適材適所を知ることで、日々の暮らしを豊に送りながら、将来にも明るい未来を描けるようになります。 * * * 今、投資に関する情報があふれています。その多くが「こうしたら儲かる」「こうしたら得する」といったものばかりだからこそ、先生方には、あたり前のことだけれど意外と教えてくれる人がいない大切な情報を、クライアント様にお伝えしていただければと考えます。 投資への関心が高まっている今だからこそ、「金融商品を売ってビジネスをする人たち」とは異なる立場での適切なアドバイスとして、今回お伝えした内容を参考にしていただければ幸いです。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.610が公開されました!~今週のお薦め記事~
2025年3月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.610を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第138回】「消費税法における「課税仕入れの日」(その2)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第138回】 「消費税法における「課税仕入れの日」(その2)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 6 検討(承前) (2) 権利確定主義と無条件請求権説 消費税法30条1項1号にいう「課税仕入れを行った日」がいつを指すのかについては、同法に明確に規定されているわけではないから、解釈に委ねられることになる。この点、「課税仕入れを行った日」と「資産の譲渡等」の時期を同様の基準により判断すべきか否かについては、本件地裁判決がこれを否定するのに対して、本件高裁判決はこれを肯定している。本件高裁判決が説示しているのは、所得税法や法人税法における課税の時期の議論で中心的に展開されている無条件請求権説である。無条件請求権説に立った引渡基準が採用されているといってよかろう。 本件高裁判決は、次のように論じる。 これは、所得課税法における権利確定主義の考え方、とりわけ無条件請求権説の考え方に近いものであるということができる。 そもそも、所得課税法における課税のタイミングとしては、権利確定主義が採用されていると解されている。 最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決(民集28巻2号186頁。以下「最高裁昭和49年判決」という。)は、次のように説示する。 また、同最高裁は、権利確定主義について次のように説示する。 また、最高裁昭和46年11月9日第三小法廷判決(民集25巻8号1120頁。以下「最高裁昭和46年判決」という。)は、次のように説示する。 このように、最高裁昭和46年判決は、権利確定主義という表現こそ使っていないものの、収入実現の可能性(蓋然性)が高度であるタイミングによる課税を行う旨説明している。 権利の確定は収入実現の蓋然性の高さを意味すると思われるところ、権利確定主義は所得課税法において通説的に採用されている考え方である。これは、いわば、課税のタイミングにおける法的テストとしての性質をも帯有している。 しかし、本件高裁判決は、上記の最高裁昭和46年判決や同昭和49年判決のような説示の仕方をしているわけではない。 本件高裁判決が述べる「資産の譲渡等」の時期に係る説示を理解するために、ここで無条件請求権説について触れておきたい(岩﨑政明「所得の時間的帰属-収入すべき権利の確定時期と判断基準について-」税務事例研究140号34頁(2014))。 権利確定主義について、清永敬次博士は、「確定をいうのであれば、契約の目的物を相手方に引渡すことによって、すなわち売主が自己の給付義務を履行することによって相手方が同時履行の抗弁権を失ったとき、売主の代金支払を受くべき権利は一層確実となるのであるから、そのときに権利が確定したといってもよい」とされ、その具体例について、「割賦販売の場合、売買契約の締結によって代金債権は発生する。商品は直ちに相手方に引渡されるが、代金債権全部の実現は長期にわたり支払について若干の不安がないでもない。そこで、各賦払金の支払期の到来ごとに代金債権が部分的に確定していくのである。このように考えていけば割賦基準は立派な権利確定主義である。」とされる(清永「権利確定主義の内容」税通20巻11号90頁(1965))。 また、福岡地裁昭和42年3月17日判決(訟月13巻6号747頁)は、権利確定主義の立場から、「権利の確定の時期としては原則として法律上の権利の行使ができるようになったときを基準」と解するべきと説示する。 これは、いわゆる大竹貿易事件最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決(民集47巻9号5278頁)が、「売主は、商品の船積みを完了すれば、その時点以降はいつでも、取引銀行に為替手形を買い取ってもらうことにより、売買代金相当額の回収を図り得るという実情にあるから、右船積時点において、売買契約による代金請求権が確定したものとみることができる。」とするところに通じる。 例えば、商品の売主としては、商品の引渡しがいまだ済んでいないので、売買代金請求権が成立しているとはいっても、買主から同時履行の抗弁権の主張がなされるかもしれない。権利確定主義になぞらえて考えると、売主にとっての売買代金請求権の発生時期は、民法555条《売買》の売買契約の成立時期と符合する。すなわち、売買代金請求権の要件事実は、①財産権移転を約束することと、②代金支払を約束することである。したがって、これら2つの事実が認定されれば、資産の譲渡人としては売買代金請求権が成立することになる。しかしながら、他方で、商品の引渡しが完了していない限り、買主からの同時履行の抗弁権の主張がなされ得ることにもなる。 同時履行の関係が明確である場合には、売買代金請求権が必ずしも障害なく履行できるとはいえず、売買代金請求権に係る権利障害事実ないし権利阻止事実が完全に撤去されるまでは、権利確定主義にいう「権利の確定」とは評価されるべきではないということになりそうである。そこで、ここに「引渡基準」の法的根拠を説明することが可能となるのである。 このように考えると、売買代金請求権の成立事実(上記①及び②)の存在だけでは必ずしも収入実現の蓋然性が高いとはいえないのであって、同時履行のような権利抗弁の存在効果の発生のない状況になった段階で初めて収入実現の蓋然性が高くなるということができる。すなわち、この場合は、売買代金請求権に対する障害が取り除かれない限り、「収入実現の蓋然性」が高いとはいえないことになるのである。 かように、売買代金請求権に対する抗弁権の主張ができない段階、すなわち商品引渡しの段階においてはじめて権利確定主義の見地から課税のタイミングが到来したとする考え方を無条件請求権説という。 本件高裁判決が「資産の譲渡等を行った」時期について、次のように説示するのは、まさに上記に論じた無条件請求権説の考え方に近いものといえそうである。 本件高裁判決のその部分を再掲しておこう。 (3) 消費税法基本通達の立場 そこで、やや迂遠に感じられるかもしれないが、国税庁の発遣している消費税法基本通達の取扱いについて確認しておきたい。 国税庁は消費税法基本通達11-3-1において、次のように通達している。 消費税法基本通達11-3-1《課税仕入れを行った日の意義》 このように国税庁は、消費税法30条1項1号にいう「課税仕入れを行った日」については、「資産の譲渡等」の時期の「取扱いに準ずる」と通達しているものの、かかる「取扱いに準ずる」の意味が判然とせず、本件高裁判決がいうようにこれらを「表裏⼀体的な関係にある」として、同じ時期を指すものという意味なのか、それともあくまでも「準ずる」にすぎず、完全一致を前提として解しているわけのものではないのかという点に解釈の余地が残されているようにも思われる。 さらに、同通達の逐条解説が次のようにコメントしている点からすると、より判然としない点もある(末安直貴『消費税法基本通達逐条解説〔令和6年版〕』640頁(大蔵財務協会2024)。 このようなコメントが付されており、「課税仕入れを行った日」の解釈について、資産の譲渡等を行った時期の「取扱いに準ずる」という点に加えて、さらに、基本通達本文にはない「原則として」という表現まで追加されている点をみると、厳格な意味において本件高裁判決がいうような「表裏一体的な関係にある」とみているのかどうかは判然とはしない。 もっとも、上記逐条解説は、さらに注目すべき次の一文を付している(末安・前掲書640頁)。 これはどのような意味を有するのであろうか。 なぜ、「課税仕入れを行った日」の解釈として、資産の譲渡等を行った時期の「取扱いに準ずる」ことが所得税や法人税における所得金額の計算上の資産の取得の時期や費用等の計上時期と同じになるのかについて、その理由は記載されていない。また、所得税や法人税における「資産の取得の時期」とは何を指しているのであろうか。少なくとも、「収入や収益の計上の時期」と記載しているのではない。「費用等の計上時期」と記載していながら、「収入や収益の計上の時期」とはせずに、「資産の取得の時期」と説明していることには特別の意味があるのであろうか。 少なくとも、この表現ぶりからすれば、消費税法上の資産の譲渡等の時期について国税庁は、所得税法や法人税法上の収入や収益の時期ではなく、両税法にいうところの資産の「取得」の時期に関心を寄せていることは明らかであろう。そうであるとすると、本件地裁判決が資産の所有権を基準に「課税仕入れを行った日」を読み解こうとした解釈と必ずしも離れた立場ではないのかもしれない。 所得税法や法人税法の取扱いにおいて資産の取得の時期が問題となるのは様々な例があろうが、その多くは償却資産などの取得の時期が論点とされよう。その時期が必ずしも収入や収益の計上時期である保障はないことからすれば、この点についても大いに関心を寄せるべきなのかもしれない。 しかしながら、上記消費税法基本通達は、同通達の第9章の取扱いに準ずるとしているところ、第9章の取扱いを確認すると不思議なことに気がつく。 そこで、第9章の代表的な通達を確認することとしよう。 消費税法基本通達9-1-1《棚卸資産の譲渡の時期》 消費税法基本通達9-1-2《棚卸資産の引渡しの日の判定》 このほかにも、消費税法基本通達第9章には多くの取扱いが示されているため省略するが、この第9章について上記逐条解説は次のような説明から始まる(末安・前掲書491頁)。 消費税法基本通達11-3-1にいう「課税仕入れを行った日」が示しているのは、同通達の解説に従えば、所得税や法人税にいう「資産の取得の時期」となるが、他方で、同通達第9章の解説に従えば、どうやら、「資産の取得の時期」とされているわけではなく、むしろ発生主義の説明から明らかなとおり、収入や収益の計上時期を指しているようである。 そこで、上記の消費税法基本通達9-1-1の解説を確認したい(末安・前掲書492頁)。 ここでは、❶所得税法には法人税法22条4項のような「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)の適用がないこと(すなわち、企業会計原則が所得税法における法源とはなり得ないこと)が無視されていることや、❷「収入」概念と「収益」概念の混同により所得税法36条《収入金額》1項の「収入」の取扱いが全て法人税法22条2項の「収益」の説明に内包されてしまっていること、❸法人税法22条の2の取扱いはどのように消費税法上の取扱いに反映されるかについて言及されていないこと(後述)など、記述上気にかかる点はあるものの、考え方としては、消費税法基本通達第9章は所得税や法人税にいう収入や収益の計上時期の取扱いと同様に考えるということであろう。そして、消費税法基本通達11-3-1にいう「課税仕入れを行った日」についてはこの取扱いに準ずるというのであるから、例外の有無についていったん措くとすれば、国税庁としては、所得課税法の採用する課税のタイミングの考え方に従うという態度を示したものと解される。 そして、所得税法や法人税法の解釈においては無条件請求権説が通説として採用されていることを併せ考えれば、差し当たり、本件高裁判決の考え方は国税庁の見解と同様のものであるとみることができそうである。 (続く)