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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例87】「火災事故による代替資産の取得に伴う保険差益に係る特別勘定と損金算入」
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例87】 「火災事故による代替資産の取得に伴う保険差益に係る特別勘定と損金算入」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、関東地方のとある県庁所在地に隣接する市に本社がある産業廃棄物処理業を営む株式会社X(資本金3,000万円で3月決算)において、総務部長を務めております。 わが業界の業務内容を一言で言えば、事業活動に伴って生じた廃棄物を収集運搬・処分する活動であるということになりますが、取り扱う廃棄物の性状は顧客である排出事業者ごとに多岐にわたっているのが実情です。また、先に挙げた業務内容から、わが業界は更に、産業廃棄物を収集・運搬する事業(産業廃棄物収集運搬業)と、産業廃棄物を中間処理ないし最終処分を行う事業(産業廃棄物処分業)とに分類されます。 わが社の業務は後者の産業廃棄物処分業に分類されますが、中でも中間処理を主たる業務としております。産業廃棄物の中間処理とは、一般に、事業者から排出される廃棄物に対し、その安全化、安定化、減量化を目的として、物理的、化学的又は生物学的な手段によって変化を与える行為とされていますが、そのような前処理を行うことにより、リサイクルや最終処分をしやすくするという効果があるものと考えられます。労働市場が売り手市場の昨今、業務内容が厳しく避けられがちなわが業界は採用も苦戦しておりますが、その社会的意義は大きいものと自負しており、日々業務に勤しんでおります。 さて、そのようなわが社に対し、先日から税務署の税務調査を受けております。そこにおいて今問題となっているのは、わが社の処理施設において生じた火災に伴い、焼失した機械装置の代替資産を保険金で取得した際の経理処理についてです。調査官は、そもそも焼失したとされる機械装置の解体や撤去に係る証憑書類が保存されていないため、その事実があったかどうかすら疑わしく、その費用を損金に算入することはできないと息巻いております。実際のところ、焼失した機械装置に係る保険金は入金されており、また、解体・撤去を担当した業者の見積書もあるのであるから、その金額を損金に算入するのは当然と考えるのですが、税法上はどのように考えるのが妥当でしょうか、教えてください。 【A】 火災により焼失した機械装置の代替資産を保険金で取得したのが事実であれば、保険金を受け取った年度に代替資産を取得したケースにおいては、その差益相当額について圧縮記帳をすることとなり、保険金を受け取った年度の翌事業年度以後に代替資産を取得するケースにおいては、保険差益相当額以内の金額につき保険差益特別勘定を設ける方法により経理したときは、その金額をその事業年度の損金に算入することとなります。したがって、本件においては、まず、焼失したとされる機械装置の解体や撤去に係る証憑書類等により、当該機械装置の焼失やその後の解体・撤去の事実が裏付けられるかどうかがカギになるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 保険差益の意義 企業は、将来起こる可能性のある災害や事故などに備えて、火災保険や地震保険などの損害保険に加入するのであるが、実際に火災や地震など損害保険の支払いが関係する事故や災害が起きた場合に、保険会社から補償のために受けた保険金の金額が、実際の被害で受けた損壊の金額(被害金額)よりも多いことがある。この場合、その超過差額の金額のことを一般に「保険差益」という。 このように、所有する固定資産が火災や地震等により滅失・損壊した際、当該固定資産に対し火災保険や地震保険等の保険を付していたときには、保険金を受け取ることができるが、当該保険金は、通常、受け取った際に企業の利益として計上されることとなる。そうなると、企業が当該固定資産を引き続き利用して継続的に収益を稼得するために、その保険金を利用して、滅失・損壊した固定資産の代替資産を取得したり、改良をしたりする場合であっても、当該保険金額が益金に算入されると、その金額の一部が法人税として課税され、納税が先行して代替資産の取得資金に不足が生じる可能性が出てくるため、保険金が十分にその機能を果たせなくなってしまうこととなる。そのため、法人税法においては、次項で述べるような措置を講じている。 (2) 保険差益に対する法人税の取扱い その取扱いとは、保険差益に関する圧縮記帳である。これは、所有する固定資産が滅失(損壊を含む)したことにより保険金等を受けた場合に、その保険金等によって滅失等した資産と同種類の資産(代替資産)の取得(所有権移転外リース取引による取得を除く)をしたときは、その代替資産の帳簿価額を滅失した資産の帳簿価額まで圧縮する(引き下げる)ことができる、というものである(法法47)。圧縮記帳という課税上の技術は、保険金相当額の非課税措置ではなく、課税繰延の措置である(※)。 (※) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)422頁参照。 当該取り扱いには、以下の2つのケースがある。 第一に、保険金を受け取った年度に代替資産を取得したケースである。このケースにおいては、滅失した資産について保険金等を受け取った日を含む事業年度において、その保険金等の全部又は一部により滅失等した資産と同一種類の固定資産(代替資産)を取得した場合に、その固定資産について次の算式によって計算した金額の範囲内でその帳簿価額を損金経理(積立金を積み立てる方法を含む)で減額したときは、その減額した金額は、損金に算入される。すなわち、取得した資産について差益相当額について圧縮記帳をすることができるというわけである(法法47①、法令85)。 第二に、保険金を受け取った年度の翌事業年度以後に代替資産を取得するケースである。このケースにおいては、所有する資産が滅失した場合で、取得指定期間内に保険金等の額の全部又は一部で代替資産を取得する見込みである場合には、保険差益相当額以内の金額を、特別勘定(保険差益特別勘定)を設ける方法により経理したときは、その金額をその事業年度の損金に算入することとなる(法法48①)。 また、保険差益特別勘定を設けた法人が、取得指定期間内に保険金等で代替資産を取得した場合には、代替資産の取得価額を圧縮記帳して保険差益相当額を損金算入するとともに、その取得に充てた保険金等の額に係る保険差益相当額の特別勘定を取り崩して益金に算入しなければならない(法法48②、49①)。 (3) 火災事故による代替資産の取得に伴う保険差益に係る特別勘定の金額の損金算入の是非が争われた事例 それでは本件と同様に、火災事故による代替資産の取得に伴う保険差益に係る特別勘定の金額の損金算入の是非が争われた事例(さいたま地裁平成30年2月7日判決・税資268号-17(順号13122)、TAINSコード:Z268-13122)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、産業廃棄物の処理等を目的とする特例有限会社である原告が、平成21年3月期の法人税につき、欠損金額を1,298万3,850円、還付金額を1,028円とする納税申告をしたところ、処分行政庁から、所得金額を1億2,430万2,237円、納付すべき税額を3,664万9,500円とする更正処分及び重加算税の額を1,466万円とする賦課決定を受けたため、被告に対し、本件更正処分のうち上記申告に係る欠損金額、還付金額を下回る部分及び本件賦課決定の取消しを求める事案である。 なお、処分行政庁が上記申告に対して重加算税を賦課した理由は、原告が架空の減価償却費、固定資産除却損、固定資産圧縮損、解体撤去工事費を損金の額に算入し、また、破損事故(平成20年7月30日に発生した原告の所有する誘引送風機設備が破損した事故)に関して支払を受けた保険金、貸付金利息、受取利息を益金の額から除外して、本件確定申告をしていたことを把握したからであり、これが国税通則法第68条第2項に規定されている、「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたとき」に該当するためである。 ② 事案の争点 【争点1】:原告が、本件火災事故に関し支払を受けた保険金をもって代替資産の取得をしたことについて、保険差益に係る特別勘定の金額の損金算入をすべきであるといえるか。 【争点2】:原告の行った保険差益に関する申告に関し、重加算税の賦課対象となる「仮装・隠蔽」の行為はあったといえるか。 ③ 裁判所の判断 【争点1】 【争点2】 なお、本件は控訴されたが棄却され(東京高裁平成30年7月17日決定・税資268号-64(順号13169)、TAINSコード:Z268-13169)、法定期間内に高裁に上告受理申立理由書を提出しなかったため、高裁が上告受理の申立てを却下して(東京高裁平成30年9月26日決定・税資268号-90(順号13195)、TAINSコード:Z268-13195)確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件において問題となっている、法人税法48条の適用の可否は、前提として、同法4項に「確定申告書に同項に規定する経理した金額に相当する金額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り、適用する」とあるため、確定申告書にその明細(この場合「別表十三(二)」を用いる)を記載して添付することが要件となる。本件の場合、原告は確定申告の際、当該別表を添付していないのであるが、その理由を推察すれば、何らかの理由で原告に対し保険金の支払いがあったが、それを原資に代替資産の取得をしなければ、当該保険金が丸々課税対象として益金に算入されることから、それを回避する目的で慌てて法人税法第48条の適用を受けようとしたというのが実際のところではないかと考えられる。なお、当該規定の適用には宥恕規定も存在するが、本件については、裁判所はその適用がないと判示している(法法48⑤)。 それにしても、保険金の支払いがありながら、それに対応する保険事故を裏付けるような証憑書類がないというのは、極めて不自然であると言わざるを得ない。常識的に考えれば、実際のところは、保険によってカバーされていた資産(誘引送風機設備と考えられる)と、原告が主張していた火災によって失われ解体した資産とは別個のものであり、原告が主張した「火災によって失われた資産」というのは、そもそも存在していなかったのではないだろうかと考えられる。そうであれば、当該経理処理(架空資産の計上・除却損の損金算入)に対して重加算税が賦課されるのは、至極当然であると考えられる。 (4) 本件へのあてはめ 火災により焼失した機械装置の代替資産を保険金で取得したのが事実であれば、保険金を受け取った年度に代替資産を取得したケースにおいては、その差益相当額について圧縮記帳をすることとなり、保険金を受け取った年度の翌事業年度以後に代替資産を取得するケースにおいては、保険差益相当額以内の金額につき保険差益特別勘定を設ける方法により経理したときは、その金額をその事業年度の損金に算入することとなる。したがって、本件においては、まず、焼失したとされる機械装置の解体や撤去に係る証憑書類等により、当該機械装置の焼失やその後の解体・撤去の事実が裏付けられるかどうかがカギになるものと考えられる。 (了)
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《税務必敗法》 【第13回】「中間申告・納付のお知らせを忘れた」
《税務必敗法》 【第13回】 「中間申告・納付のお知らせを忘れた」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 X会計事務所の顧問先のA社は、夫婦と従業員1名の計3名で工業用塗料の製造・販売を行う小規模な株式会社である。 A社はインボイス登録事業者であり、簡易課税を適用している。決算期は3月で、課税期間は1年である。資本金は1,000万円であり、申告は電子申告で行っている。 A社の経営成績は芳しくなく、法人税等は地方税の均等割のみとなる年が多く、これまで中間申告・納付は行ったことはない。また、消費税等も毎期納付しているものの、中間申告・納付を行ったことはない。 しかし、×7年度は大口の注文があり、売上が例年よりも増加した。その結果、法人税等は地方税の均等割のみであったものの、消費税等は国税部分が48万円を超え、48万円超400万円以下となった。そのため、A社は×8年度に年1回の中間申告・納付を行うことになった。 一方、X会計事務所の税理士甲は、A社がこれまで中間申告・納付を行ったことがなかったことから、×8年度に中間申告・納付が必要であることに気付かず、その旨をA社に伝えていなかった。 ×8年に入ると中東情勢が悪化し、A社は原材料の仕入れが困難となってきた。その結果、製品を製造・販売することができず、売上が伸び悩み、資金繰りが徐々に悪化していった。 このような状況の中、×8年10月下旬、A社に所轄税務署から「消費税及び地方消費税の中間申告書」が送付された。 驚いたA社は、甲に対し「消費税の中間申告書兼納付書が税務署から送られてきましたが、これは何でしょうか。当社は5月に消費税を納付しています。なぜ、再度納付が必要なのですか?」と問い合わせた。 これに対して甲は「調べたところ、×7年度は消費税の国税分が48万円を超えたからですね。この場合は中間納付が必要となります。」と回答した。 A社は「当社は現在、中東情勢の影響のため、資金繰りが悪化しています。このようなことは事前に説明していただけなかったのでしょうか。」と不満を示した。 その後、A社は緊急融資を受けながら資金を工面し、11月末日までに中間納付を行った。 しかし、中間納付後、A社は別の税理士から中間申告においては「仮決算」の方法があることを聞いて驚いた。 A社は甲に対して「中間申告は仮決算による方法も選択できると聞きました。仮決算をすれば、中間納付額を少なくできたかもしれません。なぜ提案していただけなかったのですか?」と問いただした。 すると、甲は「確かに仮決算の方法もありますが、年度を通して計算すれば最終的な税額は同じですよ。」と回答した。 これに対してA社は「そういう問題ではないんですよ。なぜ、当社の資金繰りを考えていただけないのですか。」と憤慨した。 最終的に、A社からはX会計事務所に対し「担当者を変更し、さらに顧問報酬も値下げしてほしい」というクレームが寄せられた。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「中間申告・納付のお知らせを忘れた」である。 本事例は、税務上のミスは発生していないものの、顧問先の資金繰りを考慮しなかったためにトラブルとなったものである。 現在、中東情勢の影響により資金繰りが悪化している企業も増えてきている。 中間申告・納付は年度途中で発生するため、突然知らされると顧問先も納税資金の確保ができないこともある。そのため、税理士は、顧問先には事前に中間申告の納付予定額・納付期限・納付回数をお伝えしておくことが望まれる。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 中間申告・納付の概要 (1) 中間申告制度と仮決算による申告方法 我が国では、法人税や消費税について、一定の場合、中間申告・納付を行うことが求められている(法人税法71条、消費税法42条)。 また、中間申告においては仮決算に基づく方法も認められている(法人税法72条、消費税法43条)。これは、資金繰りがよくないときなど、納税資金の状況に応じて選択できる申告方法である。 紙面の都合で詳細は割愛するが、中間申告・納付の金額基準や回数については、以下の国税庁のサイトを確認していただきたい。 (2) 納付書について 中間申告における納付書の送付については、法人税と消費税とで取扱いが異なるので、注意が必要である。消費税の中間申告書兼納付書が届く一方、法人税の予定申告分の納付書が届かないケースもある。この場合、法人税の中間納付分につき納付遅延のリスクがあるので十分な注意が必要である。 詳細は、国税庁「【ご注意ください!】法⼈税予定申告分の納付書等の送付について」を参照されたい。 3 中間申告・納付のお知らせを忘れた時の影響 (1) 納付遅延のリスク 事例のように、資金繰りが悪化している中、突然、中間申告・納付が必要であることを知らされた場合、顧問先は納税資金を準備できない可能性がある。もし、納税資金が納付期限までに準備できない場合、納付が遅延し、延滞税が発生する可能性がある。 (2) 顧問先からのクレーム 顧問先からは「なぜ、事前に知らせてくれなかったのか」という不信感が生じ、クレームが来る可能性がある。場合によっては、事例のように、顧問報酬の値下げを要求される可能性もあり、また、顧問契約の解約につながる恐れもある。 4 対策 (1) 納税一覧表の作成 対策としては、まず、確定申告期に税務申告ソフトで納税一覧表を作成することが有効である。多くの税務申告ソフトには、確定申告時の税額の内訳が記載された納税一覧表を作成する機能がある。その納税一覧表は、中間納付税額と納付回数も自動計算して表示してくれることが多い。 確定申告時には、この中間納付額が記載された納税一覧表を顧問先に渡すと同時に、中間納付の予定金額・納付期限・納付回数もお知らせすることが有用である。 また、この時点で、顧問先には納税資金の準備もお願いしておくとよいであろう。 (2) 中間申告期が近づいたらリマインド 上記(1)のように、確定申告時に中間納付の金額等をお伝えしても、中間納付に慣れていない顧問先の場合、すっかり忘れてしまっていることもある。そのため、中間申告期が近づいてきたら、リマインドで再度通知しておくとよいであろう。 (3) 文書で伝える このようなお知らせは必ず文書でお伝えして記録に残しておくことが望まれる。もちろん、口頭でお伝えして、顧問先に認識していただくことも重要であるが、文書として記録を残しておかないと、顧問先によっては「言った言わない」問題が発生するリスクがあるからである。 (4) AIの利用 筆者も現在試行中であるが、AIエージェントによって、このような見落としを防止し、さらに自動アラートを発することも可能と考えている。 また、あくまで筆者の予想であるが、将来はAIが組み込まれ、このようなアラートを発する機能がついた税務申告ソフトも増えてくるのではないかと予想している。 人間はどうしてもうっかりミスがある。AIの活用も有効な手段である。 5 終わりに 今回は、消費税をテーマに中間申告・納付のお知らせを忘れた場合のリスクと対策を説明した。もちろん、この点は法人税についても同様である。 このような事前のお知らせの必要性については、本連載【第10回】「税務手続の情報提供を忘れた」でも説明している。 会計事務所は、税金の適正な計算と申告を行うことが業務である。そのため、この業務をしっかりと行っていれば確かに問題はない。本事例の場合も、税務上のミスをしたわけではない。また、「仮決算を行っても、税額は変わらない」という発言も間違った内容ではない。 しかしながら、会計事務所が顧問先の状況やニーズを考慮しないと、顧問先は次第に不満を募らせる場合もある。逆に、将来を予測し、経営に関する事項を顧問先に提案できれば、会計事務所の付加価値も高まるといえる。 本稿が皆様の実務の参考になれば幸いである。 (了)
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金融・投資商品の税務Q&A 【Q106】「暗号資産を譲渡した場合の課税の特例(令和8年度税制改正)」
金融・投資商品の税務Q&A 【Q106】 「暗号資産を譲渡した場合の課税の特例(令和8年度税制改正)」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美 ●○ 検 討 ○● 1 暗号資産の売却をした場合の課税方法(現行) 暗号資産を売却したことにより生じた利益は、原則として、雑所得に区分されます。ただし、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、下記のとおり取り扱うこととされています。 雑所得、事業所得のいずれに該当する場合も、総合課税の対象となりますので、最高税率約56%(所得税及び復興特別所得税として約46%及び地方税10%)の累進税率で課税されることになります。 2 暗号資産の売却による利益に対する課税方法の改正(令和8年度税制改正) 令和8年度税制改正により、暗号資産の売却による利益に対する課税方法が、下記のとおり改正されました。この改正は、金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律の施行の日(本稿公開日時点未施行)の属する年の翌年1月1日の属する年分以後の所得税から適用されるため、令和10年(2028年)からの適用が見込まれています。 (1) 所得区分に関する改正 譲渡所得の範囲に、暗号資産の譲渡による所得が含まれることになりました。ただし、暗号資産の譲渡については、保有期間による長短の区分はなく、特別控除額の控除も適用されません。つまり、5年以上保有する場合も長期譲渡所得の2分の1課税の適用はなく、50万円の特別控除の対象にもならないこととされています。 なお、総収入金額が取得費等の合計額に満たない場合の不足額については、暗号資産以外の資産の譲渡による所得の計算上生じる不足額を暗号資産の譲渡による所得から控除すること等は認められています(譲渡所得内の損益通算)が、暗号資産の譲渡による所得の計算上生じた損失の金額を、事業所得や給与所得などの他の各種所得の金額と損益通算することは認められていません。 (2) 特定暗号資産に係る分離課税の特例 改正金融商品取引法第2条第49項に規定する暗号資産で、その名称が金融商品取引業者登録簿に登録されているものその他一定のもの(特定暗号資産)の譲渡については、特定暗号資産の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(特定暗号資産に係る譲渡所得等)として、税率20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の分離課税が適用される特例が設けられました。この特例は、暗号資産取引業者(改正金融商品取引法第28条第5項に規定する暗号資産取引業を行う者に限られます)への売委託による譲渡又は暗号資産取引業者に対する譲渡に限り、認められます。 特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額は生じなかったものとみなされますので、同じ分離課税であっても、一般株式等に係る譲渡所得等及び上場株式等に係る譲渡所得等とは通算することはできません。 ただし、譲渡損失の金額は3年間の繰越控除が認められ、翌年以降3年間にわたり各年分の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除が可能です。繰越控除の適用を受けるためには、特定暗号資産に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税につき当該特定暗号資産に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書を添付した確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出することが必要です。 (了)
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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第65回】「株式等保有割合の判定」
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第65回】 「株式等保有割合の判定」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 株式等保有割合における「株式又は出資の数又は金額」の読み方は、「株式の数」、「株式の金額」、「出資の数」及び「出資の金額」の4通りの組み合わせがあり得ますが、外国事業体の組成に関する契約条項から、株式に関する定めや拠出資本金及び持分に係る口数に関する定めがないような場合はどのように判定するのでしょうか。 〔A〕 措置法施行令第39条の14の3第5項は、議決権のないものも含む全ての株式又は出資の数又は金額による保有割合に係る要件と、議決権のある株式又は出資の数又は金額による保有割合に係る要件を定めたものと解するのが相当であるという考え方が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 特定外国関係会社(ペーパー・カンパニー) (1) 制度導入の経緯 平成29年税制改正では、BEPSプロジェクト最終報告書との整合性を踏まえ、従来、外国子会社合算制度の適用の有無をその入口で判断していたトリガー税率(当時は租税負担割合20%未満)を廃し、新たに「特定外国関係会社」という概念が創設された。そこでは、利子・配当・使用料等の「受動的所得」しか得ておらず、一見して明らかに租税回避リスクの高いペーパー・カンパニー等については、租税負担割合が20%以上であっても、会社単位で合算課税することとされた。 ここでいう「特定外国関係会社」は、①ペーパー・カンパニー(措法66の6②二イ)、②事実上のキャッシュ・ボックス(同ロ)、③保険に係る事実上のキャッシュ・ボックス(同ハ)、④ブラック・リスト国所在法人(同ニ)の四つをいうが、①については、実体基準及び管理支配基準を満たさない外国関係会社が該当するとされ、さらに、令和元年の税制改正では、持株会社である一定の外国関係会社等が除外されることとされた。 (2) ペーパー・カンパニーの範囲から除外される一定の持株会社 我が国が外国子会社配当益金不算入制度(法法23の2①)を採用していることを背景として、剰余金の配当等が収入のほとんどである外国関係会社については、租税回避リスクが低いと考えられることから、ペーパー・カンパニーに該当しないこととされた。これに含まれるのは、「外国子会社」の株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社(事業要件)で、その収入金額の95%超が子会社からの配当等の額及び一定の預金利子の額であり(収入割合要件)、かつ、その資産の額の95%超が子会社の株式等及び一定の現預金等の資産であるもの(資産割合要件)をいう(措法66の6②二イ(3)、措令39の14の3⑤・⑥)。ここでいう、「外国子会社」とは、その外国関係会社とその本店所在地国を同じくする外国法人で、当該その外国関係会社による持分割合(保有しているその株式等(※1)の数若しくは金額の占める割合又は議決権のある株式等の数若しくは金額の占める割合のいずれか)が25%以上で、かつ、剰余金の配当等の額の支払義務が確定する日以前6月以上継続して株式等を保有されているものとなる場合(外国子会社要件)とされる。 (※1) 租税特別措置法66条の6第1項柱書には、特定外国関係会社等の株式等とは、「株式又は出資をいう」と定義されている。 なお、外国関係会社がペーパー・カンパニーの範囲から除外されず、特定外国関係会社に該当する場合、租税負担割合が27%以上であれば、合算課税の対象とはされない(※2)。また、ペーパー・カンパニーに該当しないとされる場合であっても、経済活動基準(※3)を満たさない外国関係会社については、対象外国関係会社(措法66の6②三)に該当することとなり、その租税負担割合が20%以上でない限り会社単位の合算課税の対象となる。 (※2) 平成29年度税制改正当時の租税負担割合は30%以上とされていたが、令和5年の税制改正により、27%に引き下げられた。税制改正の解説では、同年導入の「国際最低課税額に対する法人税」(いわゆるグローバルミニマム課税)と外国子会社合算税制との併存による追加的な事務負担が生じることを契機として、外国子会社合算税制に関して、想定される租税回避リスクと企業の事務負担等とを総合的に勘案して、上記の見直しを行うこととした旨説明されている(財務省「令和5年度税制改正の解説」473頁)。 (※3) 平成29年税制改正前の適用除外基準と同様であり①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準又は所在地基準から成る。 以下では、「外国子会社」の持分割合の判定は、「出資の数」なのか「出資の金額」なのかが争われた裁決例を検討する。 2 裁決例 《国税不服審判所令和6年11月1日裁決(TAINSコード:J137-2-04)》 (1) 事案の概要 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、外国子会社合算税制上、請求人の外国関係会社である米国LLCは特定外国関係会社に該当しないとして、その課税対象金額を請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入することなく法人税等の申告をしたところ、原処分庁が、当該米国LLCの有する外国法人の株式等の保有割合は25%以上とは認められないことなどから、当該米国LLCは特定外国関係会社に該当するなどとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 請求人が米国で展開する事業組織は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 上記LLC契約①~④のいずれも、株式に関する定めや、拠出資本及び持分に係る口数に関する定めはない。本件各LLC契約の概要は以下のとおり。なお、各契約上で規定されている構成員の地位(及びその名称)は、持株関係の判定において影響を及ぼさない。 また、本件各社員LLCの租税負担割合は、いずれも21%であり、仮に本件各社員LLCが特定外国関係会社に該当しないとすれば、請求人には外国子会社合算税制は適用されないことになる。 (2) 争点とXの主張 本件の争点は、本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当するか否か、具体的には、保有割合の判定において、「出資の数」又は「議決権のある出資の数」を用いて判定することができるか否かである。 これに対し、請求人は、株式等保有割合にいう「出資の数」は、株式会社以外の法人における出資者の地位である「持分の個数」を意味し、契約に「持分」を分割した出資口の数に関する別段の定めがなく、かつ、当該「持分」の譲渡がない場合は、当該「持分の個数」はそれを保有する「社員の人数」と同じになるところ、「持分」は、均一の割合的単位に細分化されていなくても、その数を観念できるとともに、法人の意思決定に関する権限によって支配力を表章するものであるから、その支配力の程度は「社員の人数」すなわち「持分の個数」によって判定可能であり、そうすると、本件各保有割合はいずれも25%以上であることから、本件各LLCは外国子会社に該当し、本件各社員LLCは、請求人の特定外国関係会社に該当しないと主張した。 (3) 審判所の判断 国税不服審判所は、以下のように説示し、本件各社員LLCによる本件各LLCに対する「出資の金額」が本件各LLCの出資の総額に占める割合は、いずれも25%未満であると認められ、したがって、本件各LLCは本件各社員LLCの外国子会社には該当せず、原処分庁の処分は適法と結論付けた。 ① 法令解釈 ② 本件各保有割合の判定について (イ) 「出資の数」について (ロ) 「出資の金額」について (※4) 裁決書では、引用部分のほか、「議決権のある出資の数」及び「議決権のある出資の金額」、並びに、「株式の数」、「株式の金額」、「議決権のある株式の数」及び「議決権のある株式の金額」についても検討しているが、本件ではまず、「議決権」を観念することができず、また出資又は株式の「数」についても観念することができないから、結局、「出資の金額」で判定することになると説示している。 (4) 検討 ① 請求人の主張について 上記(2)のとおり、請求人は、「持分」は、均一の割合的単位に細分化されていなくても、その数を観念できるとともに、法人の意思決定に関する権限によって支配力を表章するものであるから、その支配力の程度は「社員の人数」すなわち「持分の個数」によって判定可能であると主張したが、これは請求人の独自の見解であって、採用できないのは当然であろう。 ② 文理解釈(たすき掛けの有無)について 一般に、「A又はB・・・に係る・・・C又はD」という条文パターンについて、その組合わせは「Aに係るC」「Aに係るD」「Bに係るC」「Bに係るD」の4通りがあり、いわゆる「たすき掛けあり」として、これら全ての組合わせを含んでいると解釈するのか、あるいは、いわゆる「たすき掛けなし」として、「Aに係るC」と「Bに係るD」の2通りの組合わせのみとするのか、という問題がある(※5)。 (※5) 通常は、全ての組み合わせを含んでいると解するのが一般的である。ただし、いずれであるかは個々の条文の解釈により決定されるとされている(伊藤義一『税法の読み方 判例の見方(改訂第三版)』TKC出版143頁参照)。 本件では、株式等保有割合における「株式又は出資の数又は金額」の読み方は、「株式の数」、「株式の金額」、「出資の数」及び「出資の金額」の4通りの組み合わせがあり得ることを前提に、文理解釈における選択適用の通常のルールにより、一つが適用されないときは、残りの適用が予定されるべきであり(※6)、その意味で審判所の判断は極めて正当であるといえよう。 (※6) 青山慶二「外国子会社合算税制の適用は、『出資の数』ではなく、「出資の金額」で判定するとされた事例」(TKC税情、2026年2月)40~41頁参照 ところで、本件類似の裁判例として、法人税法23条の2《外国子会社から受ける配当等の益金不算入》第1項に規定する「株式又は出資の数又は金額」の読み方が争われた大阪地裁令和3年9月28日判決(※7)がある。 (※7) TAINSコード:Z271-13608 大阪地裁は、規定の文理、外国子会社配当益金不算入制度の沿革等から、法人税法23条の2第1項の委任を受けた法人税法施行令22条の4第1項2号の「議決権のある株式又は出資の数又は金額」について、外国子会社が株式を発行する法人であることに鑑み、①「議決権のある株式の数」、②「議決権のある株式の金額」、③「議決権のある出資の数」及び④「議決権のある出資の金額」の4通りを意味するものと解するのが相当であるとした。その上で、原告の有する外国子会社の株式は、その額面金額を観念できないことから、②「議決権のある株式の金額」は存在しないとし、原告が保有する①「議決権のある株式の数」から判断して(※8)、法人税法23条の2第1項の「外国子会社」には該当しないと判示した。 (※8) 原告の有する議決権のある株式の割合は201分の1であり、100分の25に満たないとされた。 (了)
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連結会計を学ぶ(改) 【第24回】「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項等の注記」
連結会計を学ぶ(改) 【第24回】 (最終回) 「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項等の注記」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、連結財務諸表に関する主な注記について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 連結財務諸表の記載 連結財務諸表の表示方法は、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)などで規定されているが、有価証券報告書などを実際に作成する場合には、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という)に規定される様式に従って作成することになる。 連結会計基準は、連結貸借対照表の作成に関する会計処理における企業結合及び事業分離等に関する事項のうち、連結会計基準に定めのない事項については「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)や「事業分離等に関する会計基準」(企業会計基準第7号)の定めに従って会計処理すると規定している(連結会計基準19項、60項)。 このため、連結会計基準を適用する場合にも、例えば、次の規定が適用されることになる(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号)7-2項)。 Ⅲ 連結の範囲等に関する記載 連結財務諸表規則では、財務諸表等規則と同様に、多くの注記事項が規定されている。 以下では、特に連結財務諸表に関係する注記として、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項を記載している。 1 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項 連結の範囲に関する事項その他連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項として、次の事項を注記する(連結財務諸表規則13条)。 2 連結の範囲又は持分法適用の範囲の変更 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項のうち、連結の範囲又は持分法適用の範囲を変更した場合には、その旨及び変更の理由を注記しなければならない(連結財務諸表規則14条)。 連結財務諸表規則ガイドライン14では、連結の範囲又は持分法適用の範囲の変更は、会計方針の変更に該当しないことに留意すること、連結の範囲又は持分法適用の範囲の変更が、当連結会計年度の翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を与えることが確実であると認められる場合には、翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を与える旨及びその影響の概要を併せて記載することが規定されている。 Ⅳ 終わりに 「連結会計を学ぶ」は、今回の「第24回」で終了することとなる。 連結財務諸表の作成は、各社の個別財務諸表を基礎に、連結特有の会計処理を用いて作成することから、個別財務諸表の作成と比較して、会計処理等の誤りが生じやすいものである。 「連結会計を学ぶ」では、基礎的な会計処理等に重点をおいて解説しており、今回の連載が少しでも実務に役立てば幸いである。 (連載了)
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税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A【第2回】「ミニマム経営事業所における留意点」
税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A第2回 ミニマム経営事業所における留意点社会保険労務士富山 直樹 QUESTION ウチの事務所は所長である私とスタッフの2名だけの職場ですが、それでもストレスチェック制度を導入しなければいけないのでしょうか。 ANSWER 結論から言いますと、導入の必要があります。面倒ではありますが、ミニマム経営だからこそ、スタッフの心身の健康を守るメリットも大いにあります。プライバシー保護の問題など、小規模事業所ならではの注意点がありますので、以下で解説いたします。 ― 解 説 ― 1受検の強制はできない 雇入れの際や、年に一度の実施、受診が義務付けられている健康診断とは異なり、ストレスチェックには従業員の受検義務がないことを、まず念頭におく必要がある。つまり、健康診断と異なり、会社から従業員に対して業務命令のような形で受検を強要することはできない。仮に従業員が受検を拒んだ場合は、配慮を行った上での「受検の勧奨」を行うことまでしかできない。 2所長は原則「実施事務」を行えない 人事権を持つ立場にあるもの(所長)は、ストレスチェックの「実施者」や「実施事務従事者(調査票の回収やデータ入力など)」になることが禁止されている。そのため、たとえ小規模であっても、所長が自ら従業員に用紙を配って回収するようなことはできず、外部のストレスチェック委託サービス等を利用して実施体制を整える必要がある。 本来であれば会社は実務担当者を指名するなどして当該事業場におけるストレスチェックの実施計画の策定、委託先外部機関との連絡調整、実施管理等の実務を担当するとされている。 しかし、令和8年2月に公表された実施マニュアルでは、「10人未満の事業場においては会社がこれらの役割を踏まえつつ、事業場内の実務を担うことが考えられる」旨が記載されている。 委託先外部機関との連絡調整、実施管理までも当該1名だけのスタッフに任せるのは現実的ではないため、実施にあたっては委託先外部機関、所長、当該スタッフの三者間での連絡、相談が肝要と考える。 3「集団分析」は原則不可 ストレスチェックには、職場全体のストレス傾向を分析する「集団分析」という仕組みがあるが、10人未満の部署や事業所では個人の特定につながるため、集団分析結果の提供は受けてはならない。そもそも、所長以外のスタッフ1名の場合、集団分析は意味を成さないため、個人のストレス判定のみとなる。 4 所長が勝手に結果を見ることはできない 本人の同意がない限り、事業主(所長)がストレスチェックの結果(高ストレスに該当するかどうか等)を直接把握することは禁じられている。 そのため、結果は外部委託機関と従業員間で完結することになる。 事業主(所長)は、次に記載する面接指導の申出を行ったことや本人の健康管理の目的の範囲では、面接指導結果(意見書)について知ることになるが、入手した情報は当該目的のためにのみ使用することが許されている。 5 高ストレス者への面接指導は ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員が面接指導を希望した場合、医師による面談の場を設ける必要がある。専属の産業医がいない小規模事業所がほとんどであると考えられるが、その場合は、各地域に設置されている「地域産業保健センター」(通称:地さんぽ)を無料で利用し、医師の面接指導を依頼することができる。 あまり聞き馴染みのない名前かもしれないが、概ね労働基準監督署管轄区域ごとに設置されており、「労働者数50人未満の小規模事業者やそこで働く方を対象として、労働安全衛生法で定められた保健指導などの以下の産業保健サービスを無料で提供」というのが主な目的となっている。 是非一度、「地さんぽ」でインターネット検索をしてみてはいかがだろうか。 6 報告義務は不要 ストレスチェックを行った場合、実施結果を管轄労働基準監督署へ報告する義務があるが、これは「従業員数50人以上の事業場」に義務付けられており、50人未満は不要となる。 7 不利益取扱いの禁止 ストレスチェックの受検を拒否すること、ストレスチェックの結果、面接指導を申し出たこと、面接指導の結果を理由として、従業員の不利益となる取扱い(配置・昇進・評価等)は禁止されている。 ― あ と が き ― 「外部業者を選定し、連絡を取って、スタッフに受検意思確認を行い、面談の申し込みがあったら地さんぽに連絡して・・・。ただでさえミニマム経営なのに、こんなにやることが増えるのか?」そんな声が出てくるのも、ごもっともである。しかし、これらを適切に導入かつ有効に活用することで有力な経営戦略の一つとしていく道も考えられる。 そもそもストレスチェックが始まったきっかけは、労働者の「なんとなく疲れた」「元気がない」といった心身の不調を可視化し自認することで、更なる悪化を防ぐ目的があったと考えられる。可視化だけでも本人が自らの状態をより自認することにより、次の対策に進め、労働者本人にとっても会社にとっても、不幸な結果を予防することにつなげることが期待できるのではないだろうか。 ミニマム経営だからこそ、スタッフの離脱は重くのしかかる。「ヒトへの予防的投資」として、ぜひ前向きに取り組んでほしいと思う次第である。 (了)
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空き家をめぐる法律問題 【事例77】「数次相続により共同相続人が多数となった空き家を売却する場合の対応」
空き家をめぐる法律問題 【事例77】 「数次相続により共同相続人が多数となった空き家を売却する場合の対応」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 祖父名義の空き家について、祖父の死亡後も遺産分割協議が未了のままとなっています。現在、多数の相続人がいますが、誰も空き家を利用する予定はないため、低額でも売却して処分したいと考えています。しかし、共同相続人の中には売却に関心を示さない者もいます。 どのように将来の売却に向けて準備をすればよいでしょうか。 1 検討の視点 遺産分割協議が未了のまま長期間が経過すると、当初の相続人の相続(数次相続)が発生することがある。数次相続によって関係者が増加すると、空き家の売却に必要な合意形成が困難になることも少なくない。空き家を売却するためには、原則として共有者全員の同意が必要となるため、関心を示さない相続人の権利をどのように整理するかが重要となる。そこで、本事例では、売却に向けた権利関係の整理方法について検討する。 2 協議関係者を少人数化させる方法 (1) 協議関係者を少人数化させる目的 資産価値の乏しい相続財産がある場合、被相続人と交流の乏しかった共同相続人の中には、遺産分割協議に関与することを望まない者もいる。また、共同相続人が多数に及ぶ場合、その居住地が点在していることが多く、意思確認や書類の取得に時間的・費用的負担を要することもある。このような場合、相続財産の処分に向けて、できるだけ協議関係者を少数化することが有用である。 (2) 共有持分の譲渡又は放棄による方法とその限界 相続開始後・遺産分割前の相続財産は共同相続人の共有に属し、民法第249条以下の物権法上の共有と性質を同じものと解されている。そのため、相続財産に含まれる特定の財産について、共同相続人が有する共有持分の譲渡や放棄を利用して権利を集約することも可能ではある。 もっとも、共有持分の譲渡は、特定の財産についての持分を移転するものであるため、譲渡人が当然に相続に関する遺産分割手続から離脱するわけではない。また、特定の財産の共有持分が譲渡された場合、その譲渡部分は遺産分割の対象から逸出し、共有関係の解消は、遺産分割手続ではなく共有物分割手続によることになる。 本事例のように、単に一部の相続人から空き家についての共有持分を取得することではなく、数次相続によって多数化した相続関係を整理し、最終的に売却可能な権利関係を形成することを目的にする場合には、共有持分の譲渡を受ける方法だと、遺産全体についての遺産分割関係が残り、相続人としての地位や協議当事者の整理が十分に実現しないおそれがある。 また、共有持分の放棄では、放棄された持分が他の共有者に割合的に帰属するため、誰に権利を集約するかを自由に決定できない。したがって、売却に向けて協議関係者を意図的に少人数化し、特定の者に権利関係を集約するという観点からは、共有持分の譲渡又は放棄ではなく、次の相続分の譲渡を用いる方が適切である。 (3) 相続分の譲渡又は放棄による方法 相続分の譲渡は、遺産全体に対する割合的な持分又は相続上の地位を、他の相続人又は第三者に譲渡する方法である。譲渡人は、当該相続に関する遺産分割手続から離脱し、譲受人がその相続分を承継して遺産分割協議に参加することになる。この点で、相続分の譲渡は共有持分の譲渡とは機能が異なる。共有持分の譲渡は、特定の財産についての共有関係を変動させるものであるのに対し、相続分の譲渡は、遺産分割協議の当事者構成そのものを整理するものである。 これに対し、相続分の放棄は、共同相続人が自己の相続分を放棄するものである。相続放棄とは異なり、はじめから相続人でなかったことにはならないが、放棄者は当該相続における遺産分割手続から離脱することになる。そのため、「誰が取得してもよいので自分は関与しない」という者にとっては、相続分の放棄も選択肢となり得る。 もっとも、一般的には、放棄された相続分は他の相続人に割合的に帰属するため、特定の者に権利を集約したい場合には適しない。売却を想定して中心となる相続人又は売却手続を担う者に権利関係を集約したい場合には、相続分の放棄よりも、相続分の譲渡を受ける方法が適している。 3 所在等の不明な共有者がいる場合 数次相続が発生している事例では、遺産分割に関心のない相続人だけでなく、所在等が不明で連絡を取れない相続人がいることもある。このような場合、単に多数決で売却を進めることはできない。 事案に応じて、不在者財産管理人や所有者不明土地・建物管理人の選任申立てや、所在等不明共有者の持分取得又は持分譲渡権限付与の手続等を活用することになる。もっとも、これらの手続は要件や効果・権限が異なり、また、後者の手続については相続開始から10年を経過していないと利用できない場面があるため、相続開始時期や遺産分割協議の状況等を踏まえて選択することになる。 4 本事例において まず、祖父の相続関係を調査し、現在の共同相続人と各相続分を確定する必要がある。その過程で、空き家の処分に関心を示さない相続人がいる場合には、空き家についての共有持分のみを譲り受けるのではなく、祖父の相続に関する相続分の譲渡を受けることを検討する。共有持分の譲渡では、空き家の持分を取得できても、譲渡人の相続人としての地位や遺産分割協議の当事者関係を十分に整理できないおそれがあるからである。 相続分の譲渡を受けて協議関係者を集約した後、残る関係者間で、空き家を売却し、売却代金から関係諸費用を控除した残額を相続分に応じて分配する旨の遺産分割協議を行うことになるものと思われる。 (了)
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事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第37回】「AI事業会社の架空売上」
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第37回】 「AI事業会社の架空売上」 弁護士 原 正雄 2024年10月に東証グロースに上場したO社において、翌2025年4月、売上が過大計上されている可能性が浮かび上がった。証券取引等監視委員会の調査がきっかけである。 ただちに第三者委員会が設置され、同年7⽉25⽇、調査報告書が提出され、同月28日、その公表版が公表された。その結果、過去3年半で売上が合計119億円、過大計上されていたことが明らかになった。O社が受け取っていた代金は、O社が広告代理店に提供した金額が戻ってきただけであり、売上としての実態を伴っていなかった。 同年10月29日、法人としてのO社とY社長ら4名が、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載など)の罪で起訴された。2026年5月25日、O社に罰金3億円、2名に懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決が言い渡された。他方、Y社長ともう1名は、同日時点で公判がまだ始まっていない。 以下、第三者委員会の調査報告書を中心に、O社の不正について分析する。 1 O社の概要と売上 O社は、2014年11月設立で、会議等の発言を「文字起こし」して議事録などを自動作成するAIプロダクト(以下、本AIサービス)を提供する会社であった。 資本金約23億円、従業員数75人(連結)、売上約60億円で、売上のうち本AIサービス分が約53億円であった。本AIサービスと有料アカウント数は、下表のとおり急成長を遂げていた(2024年12月期有価証券報告書)。もっとも、実際は、そのほとんどが架空売上であった(2025年7月28日「第三者委員会の調査報告書(公表版)公表に関するお知らせ」)。 2 売上過大計上 (1) 本AIサービス提供開始と、同額取引の開始 O社が本AIサービスの提供を開始したのは、2020年1月である。前年4月の人工知能展示会に出展し、大きな反響を得たことがきっかけであった。 しかし、売上は計画を大きく下回った。普通預金残高が1,000万円を切る等、資金繰りは逼迫した。資金調達のため、売上実績を作ることが課題となった。 本AIサービスの売上は、ユーザーにアカウントを発行した時点で計上する。ただし、「スーパーパートナー」と称する販売店(以下、SP)には、アカウントを一定量まとめて販売しており、その販売時点で売上を計上していた。SPはアカウントをユーザーに転売するが、転売できなくてもSPの責任であり、O社の売上には影響しない。 そのため、SPに広告宣伝費などの名目で資金を提供し、その資金を元手にSPにアカウントを購入させれば、ユーザーが存在しなくても売上計上できる。Y社長は、売上を確保できるなら売上と同額の広告費を支払ってよい、との意向を示すようになった。ある営業担当は、広告代理店等に対して「Y社長曰く、たとえばですが、1億円の売上成果が出るのであれば、1億円近くの広告費用をかけても良い、というスタンスです」などと説明していた。 2020年6月下旬、O社は、以下の取引を開始した。 (2) 本件SPスキームの形成 O社は、上場を目指していた。そのため、2020年11月、AW監査法人と監査契約を締結して会計監査を受けるようになった。また、2021年3月、証券会社AVを主幹事とする新規上場アドバイザリー契約を締結した。 そうしたところ、AW監査法人から、上記J社との取引について「アカウント利用料1,500万円については、実質的な負担は貴社が行っていることから、売上計上はできない」と指摘されてしまった。O社は、売上先と外注先が同一で同額の取引は、監査法人が売上と認めないと認識した。 以後、O社は、売上先と外注先を分けるようになった。 2021年6月、O社は、以下の取引を開始した(以下、本件SPスキーム)。 その後、O社は、本件SPスキームに関与する広告代理店やSPの数を増やしていった。Y社長は、Googleスプレッドシートを用いて本件SPスキームによる資金移動のスケジュールを管理し、架空の売上を作っていた。 3 監査法人などの対応 (1) 監査法人の交代 2022年2月頃、AW監査法人の監査によって、O社の外注先である広告代理店と販売店であるSPとの間で、代表取締役や本店所在地が同一であったり、同一グループに属していたりするケースが複数存在することが判明した。 AW監査法人は、循環取引の可能性があると指摘し、同年7月、前事業年度(2021年12月期)の監査を完了できず、進行期(2022年12月期)の監査契約も締結できないと告げた。 O社は、会計監査人を、AW監査法人から監査法人SDに交代することになった。 (2) 後任の監査法人SDの対応 ① AW監査法人からの引継ぎと、監査法人SDによる確認 監査法人SDは、AW監査法人から「広告宣伝の取引先と本AIサービスの販売先とが同一グループ内の会社であることが判明し、その広告宣伝費と売上とがほぼ同様の増加推移を示していることから、循環取引の疑念が生じた」と引継ぎを受けた。 そこで、監査法人SDは、O社に対し、監査契約を締結する条件として、問題視された広告代理店との契約を解消するよう申し入れた。2022年8月頃、O社は、当該広告代理店への広告宣伝費の支払を停止した。 それを確認した監査法人SDは、2022年9月、O社と監査契約を締結し、2022年12月期の会計監査を行うことになった。 監査法人SDは、監査において、当該広告代理店への支払終了後も、対応するSPへの売上が減っていないことを確認した。この確認は、仮に循環取引が行われていた場合、広告代理店への支払停止によって資金が回らず、当該SPの売上も減るはず、という前提によるものであった。 ② 「広告宣伝費」の支払先の変更 もっとも、O社は、当該広告代理店への支払を停止した金額を、別の広告代理店A社への「広告宣伝費」に上乗せしていた。すなわち、SPへの資金提供の経路がA社に代わっただけであった。SPの売上が減らないのは当然であった。 例えば、2022年7月、A社へのテレビCM 費用として広告宣伝費4,290万円が計上されている。しかし、ここで実際の広告宣伝費は、1,430万円にすぎなかった。残りの2,860万円は、A社からSPに提供され、SPによる本AIサービスのアカウント購入費用に充てられていた。 なお、監査法人SDは、A社への広告宣伝費についても監査していた。しかし、上記テレビCMについては、対象番組(ニュース番組)や放送日などが具体的に記載された資料の提出を受けたため、整合性を確認できたと判断してしまった。 ③ 監査法人SDによる売上の実在性の確認 監査法人SDは、SPへの本AIサービスの売上も監査していた。 しかし、監査法人SDは、SPとの契約書、発注書、納品書、請求書の提出を受け、それらが整合していることを確認した。銀行入金明細の提出を受け、SPからの入金が実在することも確認した。資料「議事録利用量ランキング」において、各SPがランキングに掲載されていることや、O社がエンドユーザー数を把握していることも確認した。そのため、実在性を確認できたと判断してしまった、とのことである。 他方、ユーザー管理用データベース等を見ていれば、SPへ発行したアカウントが稼働していないことを確認できた。しかし、監査法人SDは、そうした資料の提出は求めていなかった。 (3) 社外取締役や監査役の対応 上記のとおりO社は、AW監査法人から循環取引の疑いを指摘されていた。 会計監査人がAW監査法人から監査法人SDに交代した直後の2022年8月、O社は「重要事項の共有説明会」を開催し、株主への説明を行った。また、取締役会でも、社外取締役や監査役らに説明をした。 社外取締役や監査役らは、O社の説明に納得するとともに、その後の監査法人SDからの監査報告を受け、循環取引の疑義は解消されたと認識した、と説明している。 もっとも、報道によれば、同年9月1日に中途入社した経営企画部長が、すぐに循環取引の疑いに気付いてY社長ら経営陣や常勤監査役に報告し、対応を促した。しかし、対応する様子がなかったため、同月末に退職した。後に証券取引等監視委員会がO社へ調査に入ったのは、同部長の退職後の告発がきっかけのようである(日経新聞2025年10月10日)。 上記のとおり、常勤監査役は、経営企画部長から、循環取引の疑いについて報告を受けていた。にもかかわらず、同年10月17日、常勤監査役は、全株主に対し、メールで「調査報告書」と題する書面を送付し、①循環取引の疑いについて自ら資料を確認したこと、②AW監査法人に提出した資料は十分であったこと、③2021年12月度の監査役会監査報告に変更がないこと、を伝えた。本件SPスキームを主導していた取締役CFOから、株主に説明をしてほしいと依頼を受けたことが理由であった。 4 新規上場 2024年1月、主幹事証券であるAVが、引受審査を開始した。 同年6月、O社は東証に新規上場を申請した。JPX上場審査部は、主幹事証券のAVの引受審査の結果を確認したうえで、会計監査人や役員らとの面談、事業所等の実査等を行った。 同年9月5日、O社は上場を承認されたが、直後の同月10日、主幹事証券のAVから、販売先と外注先が同じ取引が存在しており調査が必要、と伝えられた。O社は、資料を改ざんして虚偽の報告を行い、当該状況を乗り越え、翌10月11日、東証グロース市場への上場を果たした。第三者委員会は、これを「悪質な偽装工作」と評価している。 なお、同月17日、社外監査役の一人が、取締役会において、今後は循環取引と疑われる取引が発生しないよう気を付けるように、と進言した。しかし、その後の監査計画において、循環取引が重点監査項目にされた事実はない。 5 再発防止策と内部通報制度 以上のとおり、本件では複数のアラートが表示されていた。にもかかわらず、経営陣の暴走を止めることができなかった。そうした中、どのような再発防止策をとるべきか。 本件では、Y社長ら経営トップにおいて誠実性が欠如していた。そのため、再発防止策としては、経営トップに対する牽制機能(ガバナンス)の強化が不可欠である。社外役員や監査役による牽制機能の強化である。 また、内部監査は社長が直轄することが多いため、社長自身の不正については機能しない。そこで、内部監査部門からの報告先に、社外役員も追加すべきである。 さらに、O社では内部通報制度が設けられていたが、利用実績がなかった。そこで、内部通報制度について改めて周知し、不正は通報されるという認識を共有すべきである。調査も、内部調査ではなく、外部の者が行う体制にすることも一案、とされている。 なお、本件を受けて、上場審査の在り方も見直され、内部通報制度の整備状況をより厳格に確認すべきことになった(2025年12月12日/IPO連携会議「新規上場時の会計不正事例を踏まえた取引所の対応について」、2026年3月18日/日本証券業協会「新規上場時の会計不正事例を踏まえた引受審査に関するガイドライン」)。 (了)
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〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』~ある国税不服審判所の記録~【第6話】「義足の浅川審判官②」
〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第6話 義足の浅川審判官② 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・措置法施行令37条の5第2項は、次のように規定しています・・・」 そう言うと、永途は、ゆっくりと読み上げる。 「・・・このように『通常要する費用』とは規定していますが、通達の述べている『通常会議を行う場所』とは、法令のどこにも書いてありません・・・」 永途の声が少し大きくなったので、何人かの審理部の職員が顔を上げて、振り向く。 「・・・そうだなあ・・・」 葛本審査官は、スクッと立ち上がり、自分の席に戻る。 そして、ロッカーから一冊の本を持ってくる。 『法人税関係:措置法通達逐条解説』(6訂版:財経詳報社)である。 「・・・平成2年の発刊の本で古いけど・・・『会議に関して通常要する費用の例示』についての解説では、次のように書かれている・・・」 葛本審査官は、ページ(476頁)を開き、小さな声で読み上げる。 「・・・こんなふうに書いていますが、永途さんは、これをどう読みますか?」 葛本審査官は、微笑みながら、永途に問いかける。 「・・・そうですねえ・・・私の担当の審査請求人は、ドイツからバイヤーが来て、その取扱商品のドイツにおける宣伝について、審査請求人と打ち合わせをしていたと主張しています・・・ただ・・・場所は・・・会社の近くのスナックということだけど・・・」 永途は、思案顔になる。 そのとき、ドアの方から、再び、床を叩くような音が響く。 永途が振りかえると、先ほどの初老の老人である。 そのとき、葛本審査官が立ち上がる。 「・・・浅川審判官・・・ちょっと教えて下さい・・・」 葛本審査官は、浅川審判官に椅子を差し出し、永途を紹介する。 「・・・今年、審判所に配属された永途審査官です・・・今、交際費についての質問を受けていたのですが、浅川審判官のご意見をお聞きしようと思って・・・」 葛本審査官は、ニコニコしながら、先ほどから、永途に聞いた事件の概要を簡単に説明する。 「・・・そうですねえ・・・私は、交際費のことは・・・あまり知りませんけれど・・・それに関する判例がいくつかあったと思います・・・」 そう言うと、浅川審判官は、引きずるような音を響かせながら、自分の席に行く。 ノート型のパソコンを開き、判例を検索しているようである。 しばらくして、浅川審判官は、印刷したコピーを持ってくる。 「・・・これは神戸地裁平成4年11月25日判決だが・・・その支出の内容は・・・実質的にも会議としての実体を備えたものでないと判断されているから・・・永途さんには、余り参考にならないかも知れない」 と浅川審判官は言って、永途に判例を見せる。 「はい・・・『開催場所は、焼鳥屋、焼肉店、ステーキハウス、割烹店等であって、通常会議が行われるには相応しくない場所』と述べていても、それだけで会議費を否定しているのではなく、この事件では、会議費としての実体がないという事実認定で、会議費を否定している・・・もし、会議費としての実体がある場合、その会議の場所がどこであっても、認められるのではないかと思うのです・・・この判決でも・・・」 永途は、再び、声が高くなる。 「・・・確かにそうかも知れない・・・ドイツから取引先のバイヤーが来て、ビールを飲みたいと言うので、会社の近くのスナックで、ビールを飲みながら、取扱商品のマーケティングについて協議をしたというのであれば・・・会議費として処理しても良いかもしれないが・・・しかし、それは、通達の考え方と異なるからなあ・・・」 浅川審判官は、腕を組んで、正面にいる永途をみる。 (つづく)
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《速報解説》 国税庁が令和8年分の路線価を公表~全国平均路線価は5年連続上昇も上昇地域と下降地域の二極化が進行~
《速報解説》 国税庁が令和8年分の路線価を公表 ~全国平均路線価は5年連続上昇も上昇地域と下降地域の二極化が進行~ Profession Journal編集部 令和8年7月1日付けで国税庁は、相続税及び贈与税の算定基準となる令和8年分の路線価(1月1日時点)を公表した。 令和8年分の全国平均路線価は前年に比べて2.9%のプラスとなり、5年連続の上昇となった。昨年の令和7年分は2.7%のプラスであり、コロナ禍の影響で下落した令和3年分以降、4年連続の上昇となっていた。今年はその上昇傾向がさらに加速した形となる。 都道府県別で見ると、36都道府県で上昇し、8県で下落となった。昨年は東京都の平均上昇率が8.1%と最も大きく、全国平均と比べても大きな伸び率となっていたが、今年も国内外の投資マネーの流入、インバウンド(訪日客)や都市部のマンション需要などから昨年を超え、9.4%の上昇となった。 なお、地点別の路線価最高額は、今年も東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり5,336万円を記録し、41年連続で全国路線価トップとなっている。昨年は4,808万円であり、前年比11%のプラスとなった。 〇顕著な上昇が見られる地域と二極化の進行 コロナ禍後のインバウンド需要の拡大や海外投資家の動向は、引き続き特定エリアの地価を牽引している。 今年の調査においても、前年比の上昇率で見ると長野県白馬村(32.7%プラス)、同県野沢温泉村(31.3%プラス)、北海道富良野市(28.0%プラス)、東京都浅草(27.5%プラス)が大きな上昇率を示した地域となり、いずれも主に観光需要によるものと考えられる。 一方で、こうした恩恵を受けられていない地方エリア等については路線価の下落が続いている地域も少なくない。都市部や有名観光地が上昇を続ける半面、それ以外の地域との二極化はますます鮮明なものとなっている。思わぬ税負担が生じる地域と、資産価値の目減りが続く地域が混在しているため、実務においては対象地域の最新の傾向を見極める必要がある。 〈参考:各局が公表した最高路線価(別表)のページ〉 (了)
