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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第17回】「棚卸資産の評価基準~通常の販売目的で販売する棚卸資産の評価基準~」
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第17回】 「棚卸資産の評価基準 ~通常の販売目的で販売する棚卸資産の評価基準~」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、棚卸資産の評価について解説する。具体的には、「通常の販売目的で販売する棚卸資産の評価基準」について解説する。 「通常の販売目的で販売する棚卸資産の評価基準」とは、以下のように評価することをいう。 なお、「トレーディング目的で保有する棚卸資産の評価基準」、「販売用不動産等の評価」については、本フロー・チャートでは解説していない。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (次ページ【STEP1】へ進む) (前ページ【はじめに】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 正常な営業循環過程から外れた棚卸資産(通常の営業取引の流れで販売できない、滞留又は処分見込み等の棚卸資産)とそれ以外の棚卸資産については、検討過程が異なる。そのため、棚卸資産に正常な営業循環過程から外れているものがないかどうかを判定する。 正常な営業循環過程にある棚卸資産については、【STEP2】を検討する。一方、正常な営業循環過程から外れている棚卸資産については、【STEP6】を検討する。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 収益性の低下の有無の判断は、原則として個別品目ごとに行う。ただし、複数の棚卸資産をグループとした単位で行うことが適切と判断されるときには、継続して適用することを条件として、グルーピングして収益性の低下の有無の判断を行う(基準12)。 以下のような場合に、グルーピングすることが適切であると判断される(基準53)。 なお、グルーピングを行うと、各棚卸資産の含み益と含み損が相殺されることで、結果的に収益性の低下がないと判断される場合や収益性の低下(棚卸資産評価損)の金額が小さくなる可能性がある。そのため、実務上、グルーピングを行う場合は、慎重に行う必要があると考えられる。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 収益性が低下しているかどうかの判定においては、正味売却価額が必要となる。一方、正味売却価額ではなく、収益性が低下しているかどうかの判定において再調達原価(購買市場の時価に、購入に付随する費用を加算したもの(基準6))を用いることができる場合もある。そのため、まず、正味売却価額を用いるのか、再調達原価を用いるのかを判断する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 再調達原価の採用の適否 製造業における原材料等のように再調達原価の方が把握しやすく、正味売却価額が当該再調達原価に歩調を合わせて動くと想定される場合には、継続して適用することを条件として、再調達原価(最終仕入原価を含む)を用いることができる(基準10)。それ以外の場合は、正味売却価額を用いる。 再調達原価を用いる場合は、【STEP4】を検討する。正味売却価額を用いる場合は、(2)を検討する。 (2) 正味売却価額の算定 正味売却価額とは、期末における売価から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう。「売価」は売却市場において市場価格が観察できるかどうかで算定方法が異なる。したがって、正味売却価額は市場価格が観察できるかどうかで算定方法が異なる。 売却市場において市場価格が観察できる場合、正味売却価額とは、期末における売価(売却市場の時価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう(基準5)。 売却市場において市場価格が観察できない場合、正味売却価額とは、期末における合理的に算定された価額(売価)から見積追加製造原価及び見積販売直接経費を控除したものをいう(基準8)。 見積追加製造原価とは、販売までに追加の製造原価が発生する場合の当該見積額をいう。 見積販売直接経費とは、棚卸資産の出荷の輸送費、販売手数料、倉庫料等の販売に直接関連して発生する費用をいう。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 収益性の低下が生じている場合、正味売却価額(又は再調達原価)と帳簿価額の差額を評価損として計上する必要があるため、ここでは、収益性の低下の有無を検討する。 これ以降は正味売却価額を用いている場合を前提として、解説する。なお、再調達原価を用いる場合と検討内容に変わりはない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 正味売却価額と帳簿価額の比較 正味売却価額が帳簿価額を下回っているか、上回っているかで検討過程が異なるため、正味売却価額と帳簿価額を比較する。 正味売却価額が帳簿価額を下回っている場合は、(2)を検討する。正味売却価額が帳簿価額を上回っている場合は、(3)を検討する。 (2) 正味売却価額が帳簿価額を下回っている場合 正味売却価額が帳簿価額を下回っている場合、収益性が低下していることになる(基準7)。そのため、【STEP5】を検討する。 (3) 正味売却価額が帳簿価額を上回っている場合 期末日における正味売却価額が帳簿価額よりも下落していないものの、将来販売時点の正味売却価額が帳簿価額よりも下落している場合が考えられる。この場合、すぐに販売可能であれば、企業は販売により投資を回収すると考えられるが、契約や事業遂行上等の制約により、すぐに販売できないものは、収益性の低下を反映するように評価損を計上する必要がある(基準46)。このような場合、【STEP5】を検討する。契約や事業遂行上等の制約がなければ、これ以上の検討は不要である。 ただし、契約や事業遂行上等の制約により、すぐに販売できないものであっても、他の会計処理によって収益性の低下が適切に反映されている場合には、評価損を計上する必要はない。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 会計処理 正味売却価額が帳簿価額を下回っている場合、帳簿価額と正味売却価額との差額を評価損として計上する(基準7)。期末日における正味売却価額が帳簿価額よりも下落していないものの、契約や事業遂行上等の制約により、すぐに販売できず、将来の販売時点で収益性の低下がある場合、合理的に算定した価額を売価として、正味売却価額を算定し、評価損を計上する。 具体的な会計処理は以下のとおりである。 【会計処理(税効果は除く)】 前期に計上した評価損については、洗替え法か切放し法のいずれかの方法を棚卸資産の種類ごとに選択適用できる。また、物理的劣化や経済的劣化、若しくは市場の需給変化の要因ごとに選択適用できる。 一度、採用した方法は、原則として、継続して適用しなければならない(基準14)。 (2) 表示 収益性の低下に基づく評価損(前期に計上した評価損を戻し入れる場合には、前期の評価損の戻し額と当期の評価損の相殺後の金額)は売上原価とする。一方、棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生すると認められるときには製造原価とする(基準17)。 収益性の低下に基づく評価損が、臨時の事象(例えば、重要な事業部門の廃止、災害損失の発生など)に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上する(基準17)。 正常な営業循環過程から外れていない棚卸資産の検討は、ここで終了である。 (次ページ【STEP6】へ進む) (前ページ【STEP5】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 正常な営業循環過程から外れている棚卸資産の場合、正常な営業循環過程から外れていない棚卸資産と検討過程が異なる。 (1) 合理的な価額の算定の可否 営業循環過程から外れている棚卸資産ということは、廃棄や値引販売が見込まれる棚卸資産であることから、売却市場における市場価格を観察することはできないと考えられる。そのため、収益性の低下を反映するために合理的な価額を算定する必要がある。しかし、その価額を合理的に算定することはできない場合もある。そのため、まず、合理的に価額を算定できるかどうかを判断する。 合理的に価額を算定できる場合は、(2)を検討する。合理的に価額を算定できない場合は、(3)を検討する。 (2) 合理的な価額を算定できる場合 営業循環過程から外れている棚卸資産について、収益性の低下を反映するために合理的に価額を算定できる場合、帳簿価額と合理的に算定した価額の差額を評価損として計上する。 具体的な会計処理及び表示は、【STEP5】と同様である。 (3) 合理的な価額を算定できない場合 営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産について、合理的に算定された価額を算定することができない場合には、その状況に応じ、以下のような方法により収益性の低下の事実を適切に反映するよう会計処理を行う(基準9)。 ① 帳簿価額を処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)まで切り下げる方法 帳簿価額を処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)まで切り下げる方法とは、帳簿価額と処分見込価額の差額を評価損として計上する方法である。この方法は、棚卸資産自体が物質的に劣化しており、今後、販売できる見込がなく、処分することしかできない場合等に採用することが考えられる。 ② 一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法 一定の回転期間を超える場合、規則的に帳簿価額を切り下げる方法とは、回転期間に応じて規則的に評価損を計上する方法である。例えば、回転期間が1年以上の棚卸資産は取得原価の50%まで評価損を計上し、1年半以上の棚卸資産は取得原価のうち70%まで評価損を計上し、回転期間が2年以上の棚卸資産は取得原価の全額を評価損として計上する。 この方法は、ライフサイクルが短く、一定の期間を超えると、販売価格が下がり、販売することはできるが、値引き販売しないと販売することができない場合等に採用することが考えられる。 この方法を採用する場合、会社の実態を適切に財務諸表に表せるように評価のルールを定める必要がある。 なお、具体的な会計処理及び表示は、【STEP5】と同様である。 * * * 以上、6つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
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金融商品会計を学ぶ 【第5回】「金融資産の権利に対する支配が他に移転したとき」
金融商品会計を学ぶ 【第5回】 「金融資産の権利に対する支配が他に移転したとき」 公認会計士 阿部 光成 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)では、金融資産の消滅の認識について、「金融資産の権利に対する支配が他に移転したとき」を規定している(金融商品会計基準8項)。 本稿では、権利に対する支配の移転について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 支配の移転に関する基本的な考え方(財務構成要素アプローチ) 金融資産の消滅の認識に関する支配の移転については、次の2つの考え方がある(金融商品会計基準57項、金融商品実務指針244項)。 金融商品会計基準は、財務構成要素アプローチを採用し、その理由を次のように述べている(金融商品会計基準57項、58項)。 証券・金融市場の発達により金融資産の流動化・証券化が進展すると、例えば、譲渡人が自己の所有する金融資産を譲渡した後も回収サービス業務を引き受ける等、金融資産を財務構成要素に分解して取引することが多くなるものと考えられている。 リスク・経済価値アプローチでは、金融資産を財務構成要素に分解して支配の移転を認識することができず、取引の実質的な経済効果が譲渡人の財務諸表に反映されないことになる。 Ⅱ 金融資産の権利に対する支配の移転 金融商品会計基準は、「金融資産の権利に対する支配が他に移転したとき」とは、次の要件がすべて充たされた場合としている(金融商品会計基準9項)。 ②に関して、譲受人が特別目的会社の場合には、金融商品会計基準注解4が規定されているので、注意する。 1 法的に保全されていること 譲渡人に倒産等の事態が生じても譲渡人やその債権者等が譲渡された金融資産に対して請求権等のいかなる権利も存在しないこと等、譲渡された金融資産が譲渡人の倒産等のリスクから確実に引き離されていることが必要となる(金融商品会計基準58項(1))。 次の観点から判定する(金融商品実務指針31項)。 金融商品実務指針245項は、契約又は状況により譲渡人は譲渡を取り消すことができる場合、又は譲渡人が破産、会社更生法、民事再生法等の下に置かれたときに管財人が譲渡金融資産に対し返還請求権を行使できる場合には、譲渡された金融資産に対する譲受人の契約上の権利が譲渡人及びその債権者から法的に保全されていないので、金融資産の消滅を認識しないと規定している。 高度な法律上の解釈を要する場合には、弁護士等法律の専門家の意見を聴取する(金融商品実務指針248項)。 2 契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できること 譲受人が譲渡された金融資産を実質的に利用し、元本の返済、利息又は配当等により投下した資金等のほとんどすべてを回収できる等、譲渡された金融資産の契約上の権利を直接又は間接に通常の方法で享受できることが必要となる(金融商品会計基準58項(2))。 「支配の移転が認められる譲渡制限」について、金融商品実務指針は、次のように述べている(金融商品実務指針32項、249項)。 3 買戻す権利及び義務を実質的に有していないこと 譲渡人が譲渡した金融資産を満期日前に買戻す権利及び義務を実質的に有していることにより、金融資産を担保とした金銭貸借と実質的に同様の取引がある(金融商品会計基準58項(3))。 現先取引や債券レポ取引といわれる取引のように買戻すことにより当該取引を完結することがあらかじめ合意されている取引については、その約定が売買契約であっても支配が移転しているとは認められない。 このような取引については、売買取引ではなく金融取引として処理する。 「支配の移転が認められる譲渡人の買戻権」について、金融商品実務指針は、次のように述べている(金融商品実務指針33項、250項)。 「金融商品会計に関するQ&A」のQ10では、「原債務者による原債権の期限前償還やデフォルトに伴う譲渡人の買戻権がある債権譲渡の場合に、支配の移転は認められますか。」との設問が設けられている。 Q10では、債権の流動化等においては原債務者による原債権の期限前償還やデフォルト等の限定した場合においてのみ買い戻す場合について、買戻価格が譲渡価格から著しく低い価格でない限り、買戻しは譲渡人にとって不利な条件と考えられ、それにもかかわらず買い戻すことは実質的に買戻権ではなく買戻義務と考えられるとして、他の消滅の認識要件を満たしている限り、支配は譲受人に移転しているものと考えられると述べている。 (了)
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確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望 【第3回】「今回改正が意味すること②」
確定拠出年金制度の改正をめぐる今後の展望」 【第3回】 「今回改正が意味すること②」 特定非営利活動法人確定拠出年金総合研究所(NPO DC総研) 理事長 秦 穣治 4 実施のスピード感 厚生労働省は今回の改正を“企業年金制度の大改革”と明言しているが、その理由は、【第1回】及び【第2回】をお読みの読者はご了解いただけたことと思われる。筆者がこの部分に相当数のページを割いて説明したのは、まさにそのことをご理解いただきたいためである。 今回改正は小手先のものではなく大改正なのだ、ということをしっかりご理解いただくと今までの延長線上にはない次世代企業年金制度が見えてくる。しかしながら、法改正案に盛り込まれた内容だけではわかりづらいのも事実で、今回あえてしつこく記述させてもらった。 ただこれから具体的な全体像を設計していく段階になると、すぐに問題になりそうなのが次の2点である。 今回の法改正案に盛り込まれた内容は、DCが中心で、かつ現行のDCに比べれば明らかに条件良化となるから、いわば、問題の少ないところから法案化されたと言ってよいであろう。 ただし、DC制度にとって発足以来の懸案となっている、 上記の点については、DC単独での解決が難しく、今般、厚生労働省はDB・DCを一体化して問題を解決するしか道はない、と腹を括ったように思われる。したがって、結果としては既得権を多く有していたDBにとって条件悪化は不可避になるかもしれない。 いずれにせよこの問題は、企業年金部会の今年度の最大の課題となるであろう。 一方、拡張されるDC部分だが、“DC資産運用の改善”項目を除けば(【第2回】で詳述)、課題は、対象者拡大を狙いとした が中心となるが、実はこれがなかなか難問なのである。 なぜかと言うと、金融機関が優れて資産運用に特化していればよいDBとは違い、DCは、金融機関が、商品提供から加入者への諸運用サポートサービス全般を請け負うシステム金融商品の側面を持ち合わせていることである。すなわち、DCは税制メリットを持つ年金制度であるとともに“システム金融商品”である(NISAよりも税制上ははるかに有利)。 DC制度発足以来、今までこの側面が意識的に看過されてきた。なぜなら、次世代成長マーケットとして、また、あらゆる業態の金融機関の相乗り商品として「せっかく国が用意してくれた仕組みだから、有効に活用するしかない」というのが大勢だったからである。 しかしながらDCも実施して十数年経ち、金融機関としてもそれぞれの立ち位置がはっきりしてきた現在、「国が用意してくれた仕組みにどこまで乗るか」を計りながらDCビジネスに取り組んでいくしか道がなくなってきている。 例えば、上述の簡易型DCにせよ、逆マッチング拠出制度にせよ、個々の運営管理機関が実施しようとすれば、相応のシステム開発と運営の組織整備を行う必要があり、これはそのままコストアップ要因になるから、それに見合う収益が本当に見込めるのかどうかを冷静に判断していく必要がある。 同様に個人型DCの推進に当たっては、承認・運営監督機関である国民年金基金連合会(国基連)が関連システム投資及び組織整備を行う必要がある。 しかし、厚生労働省は、個人型DC加入者に対する加入促進のインセンティブとしての補助金(ドイツのリースター年金など)を出すつもりはなく、また、国基連のシステム開発に対する補助も予定していないことから、結果として、DC個人型の運営管理手数料の引上げ要因となりえる(国企連が徴求するもので運絵管理手数料に上乗せ)。筆者の勝手な想像であるが、当面、厚生労働省は個人型DCを一気に推進するつもりはないように見える。 厚生労働省は、民間ベースのシステム開発等にも時間を要することは承知しており、今回の法改正によって、将来の企業年金の“形”“方向性”を示し、システム開発等の機が熟するのを待つイメージかと思われる。施行日は早くて2017年1月1日からで、今から1~2年はある見通しである。いずれにせよ、施行後も、できるところから進めてくれればよい、というスタンスである。 5 運営管理機関をはじめとする金融機関の反応 今まで、DCは「法制化したことはすべて金融機関として実現してほしい」ということで理解され、事実、金融機関は曲りなりにもそのように対応してきた。したがって、運営管理機関間には、多少の差はあるもののサービスに決定的な違いがない形で今日まで来ている。 しかしながら、今改正の厚生労働省の基本スタンスは ということになった。 このこと自体は、選択する幅が広がり、結果として競争の自由度も上がるわけだから、望ましいことには違いない。しかし、今まで、基本的には法制化されたことはすべてやる、と考えてきた金融機関からすると、非常に困ったことになる。 加えて、ご存知の方も多いとは思うが、日本の場合、加入者一人ひとりの口座管理を受け持つ、金融システムとして一番重い部分(記録関連機関と称し、RKと略す)が4社あり、特に、そのうち、NRKとJIS&Tという2大陣営は大手金融機関の相乗りによる複雑な資本構成になっている。仮に、それらRKを利用する運営管理機関間で、DCのサービスレベルを変える事態が発生した場合、そのシステム開発負担をどうするのか、など悩ましい問題が発生する可能性がある。 運営金融機関として法制化されたものを「やらない」というのはかなり勇気のいる決断ではあるが、それでも、必要とされるシステム開発及び運営のための組織整備のコスト負担を考慮すれば「やめる」という経営判断もあり得る。DCビジネスは既に14年目を迎えており、運営管理機関相互の厳しい競争もあって、必ずしも収益性の高いビジネスとは言えなくなっている。10年、20年のレンジで見れば、相応の収益性を計算出来るかもしれないが、直近を見ただけではとても明るい展望を描けない状況にある。「依然として儲からないビジネスに追加投資を迫るのか?→NO」ということは、少なくとも新規顧客の一部を捨てる可能性が高まることになるわけであるものの、ビジネス・デシジョンとして納得的ではあって、それはそれで良いと思われるが、問題は既存のお客様である。それぞれの運営管理機関は既に多くの顧客(事業主)と加入者を抱えており、それらに対して「相応の追加サービスを提供できない」ということは許されるのか、というタフな局面にぶち当たる。良くも悪くも金融機関の面子が試されることになるわけである。 いずれにしてもDCビジネスにおける、運営管理機関による一律サービス時代の終焉となる可能性がある。言葉を替えれば、いよいよ、DCを重要なビジネス・パーツと考えている運営管理機関のみがDC市場で生きていける、少数による厳しい競争の時代が来る、前触れになるかもしれない。 (了)
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中小企業事業主のための年金構築のポイント 【第5回】「老齢基礎年金の繰上げ」
中小企業事業主のための 年金構築のポイント 【第5回】 「老齢基礎年金の繰上げ」 特定社会保険労務士 古川 裕子 1 老齢基礎年金の繰上げ受給 老齢基礎年金の支給開始年齢は65歳であるが、受給資格期間を満たしている60歳以上65歳未満の者(任意加入被保険者を除く)は、65歳に達していなくても老齢基礎年金の請求をすることができる。これを「繰上げ受給」という。 ただし、請求時の年齢により一定率の割合で計算した額が「減額」される。 なお、減額率は月単位で1ヶ月に0.5%の割合である。 〈 事 例 〉 20歳から60歳まで国民年金に加入し、保険料をすべて支払った人が、60歳で老齢基礎年金を繰上げ請求した場合 60歳から支給される年金は546,100円になり、65歳から受給できる額に比べて234,000円(780,100円-546,100円)減額される。 2 繰上げ請求時における主な注意点 繰上げ請求をした場合は、下記の点に注意が必要である。 3 繰上げによる損得の境界線 繰上げ受給をしていた場合は、下表の損得分岐点で示した年齢より長生きすると、65歳から受給した場合と比べて合計受給額は少なくなる。 ▷繰上げ年金受給額(累計は65歳支給を100とした場合) 4 請求の手続 繰上げ受給を希望するときに、年金請求書と老齢基礎年金支給繰上げ請求書を年金事務所に提出する。 《おさらいQ&A》 (了)
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現代金融用語の基礎知識 【第18回】「債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)」
現代金融用語の基礎知識 【第18回】 「債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)とは 「債務の株式化」とは、文字通り債務を株式に変えることなのだが、債務を負っている企業の側からすると、借入金などの債務を資本金(あるいは資本金と資本準備金)に変えることであり、企業に対して貸付金などの債権を有している債権者(銀行など)からすると、債権を株式に変えることである。 英語では「Debt Equity Swap(デット・エクイティ・スワップ)」と言い(Debtは債務、Equityは株式、Swapは交換という意味)、実務ではよく略して「DES」(デス)と言われる。この債務の株式化は、通常、借入金などの債務の弁済が困難になった企業において行われるのだが、最近報じられたシャープの経営再建策に中にも盛り込まれている。 2 どのようにして行うのか 債務の株式化は会社法の規定に基づいて行うのだが、会社法において債務を資本金に変える手続が直接定められているわけではない。債務の株式化は「現物出資」の一種なのである。 企業への出資は、通常、「金銭出資」である。金銭出資とは、企業に対して金銭を提供して、その企業の株式を取得するというものである。それに対して、現物出資では、企業に対して、金銭ではなく現物、すなわち金銭以外の財産を提供して、その企業の株式を取得する。 債務の株式化とは、例えば、企業に対して貸付金を有している銀行が、その貸付金という財産を提供することによって株式を取得するというものである。その場合、企業にとっては、結果として借入金が資本金等に変わることになるのである。 なお、現物出資を行う場合、企業に提供される財産の価額について、裁判所が選任する検査役による調査を受けなければならないのだが(会社法207条1項)、債務の株式化の場合は、これが原則不要とされる(会社法207条9項5号)。 〈どのように債務を株式に変えるのか〉 3 債務の株式化は企業に対する支援なのか? こうした債務の株式化は、シャープのような大企業に限らず、中小企業においても広く行われており、一般的には金融機関等による企業に対する支援と捉えられている。しかし、借入金を返さなくてもよくなるのだから、ありがたい方法だなどと安易に捉えない方がよい。債務の株式化は、債務の免除とは異なるのである。債権者が今度は株主となり、経営に口を出してくるようになる。これは非常に厄介なことだということを認識しておかなければならないだろう。 (了)
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《速報解説》 『国外転出時課税制度』に係る所得税基本通達の一部改正が公表~7月1日からの適用開始に向け新設31項で取扱いの詳細を示す~
《速報解説》 『国外転出時課税制度』に係る所得税基本通達の一部改正が公表 ~7月1日からの適用開始に向け新設31項で取扱いの詳細を示す~ 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 国外転出時課税制度が平成27年7月1日から適用される。これに先立ち、国税庁は所得税基本通達(法令解釈通達)の一部改正(平成27年4月23日付課資3-2、課個2-7ほか)により出国時課税制度に関する法令解釈通達を発遣した。この通達は法令と同様、平成27年7月1日から適用される。 なお本制度については4月8日付けでFAQやリーフレットが公表されている。 1 概要 本通達は、所得税法の以下の規定の解釈適用に関する指針を示すものである。 2 留意点 以下、本通達の規定のうち特に留意すべき規定について上記1の区分ごとに解説する。 (1) 所得税法60条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例)関係 対象となる有価証券等の範囲について、法律の条文上は特段の定義はなく、本通達において、その譲渡による所得が譲渡所得として課税されるものについては対象に含まれるとしている。 そのうえで、例として、受益者等課税信託の信託財産に属する有価証券や、任意組合等の組合財産である有価証券、質権や譲渡担保の対象となっている有価証券を挙げている(60の2-3)。 また、未決済デリバティブ取引等の範囲についても、その取引による決済による所得が事業所得又は雑所得として課税されるものについては対象に含まれるとして、受益者等課税信託に係る信託契約に基づき受託者が行う未決済デリバティブ取引等や任意組合等の組合事業として行われる未決済デリバティブ取引等が例として挙げられている(60の2-4)。 対象となる有価証券には、譲渡所得が非課税とされる有価証券も含まれる(60の2-5)とされる。 国外転出時の有価証券等の価額については、原則として、所得税基本通達23~35共-9及び59-6の取扱に準じて算定した価額による(60の2-6)。 修正申告をする場合、対象資産の一部について国外転出課税の適用を受けずに確定申告を提出していた場合は、対象資産の区分ごとの定めに応じて、転出時か転出の3ヶ月前の日の価額による。すべての対象資産について適用せずに確定申告をした場合は、転出時の価額による。税務署長が更正を行う場合も同様となる(60の2-8)。 納税猶予を受けている期間中に対象資産の全部又は一部を贈与により居住者に移転した場合で、贈与時の価額が転出時よりも下がっている場合には、所得税法60条の2第6項の転出時の課税取消し、又は同条第8項の値下り後の価額による所得の減額のいずれかの規定の適用を選択できる。ただし、いずれかの規定の適用を受けた後においては、帰国した場合の更正の請求はできない(60の2-9)。 納税猶予期間中に対象資産を譲渡・決済等をして、所得税法60条の2第8項による転出時の課税所得の減額を受ける場合、譲渡所得等の計算上、転出後に行った譲渡・決済等に要した費用は控除できない。その理由として、同8項は対象資産の国外転出時の価額等を対象資産の実際の譲渡価額又は利益・損失の額とすることができる規定であるからとしている(60の2-10)。 納税猶予期間の満了時の対象資産の価額が転出時を下回るなどにより納税額が過大になっている場合には、所得税法60条の2第10項により課税所得が減額されるが、これは納税猶予期限が繰り上げられた場合には適用にならない(60の2-11)。 (2) 所得税法60条の3(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例)関係 60の3-2は、所得税法60条の3第5項において対象資産の価額の合計額が1億円以上かどうかの判定を行う場合の対象資産の範囲として、贈与・相続・遺贈時に贈与者等が所有していた対象資産(当該贈与・相続・遺贈により非居住者に移転した対象資産を含む)とされているので、文言をそのまま理解すれば、贈与者等が所有していない対象資産であっても贈与により移転したものは含まれることになる。所得税法60条の3第5項は「贈与等のときに有している有価証券等・・・」とあるので、通達のほうが法律の規定よりも範囲が広くなっているのではないかと思われる。 納税猶予適用贈与者から贈与を受けた非居住者は、納税猶予期間中に対象資産を譲渡等した場合は、猶予適用贈与者に譲渡等をしたことを通知しなければならない(所得税法60条の3第9項)が、その通知がなかった場合でも、譲渡等の日から4ヶ月を経過する日をもって(所得税法137条の3第6項)納税猶予期間は終了する(60の3-3)。贈与を受けた者からの通知が適切に行われるような対策を講じておかないと、更正の請求ができる場合に該当するにもかかわらず期限を徒過して更正の請求の権利を失うおそれがあるので、注意が必要である。 (3) 所得税法95条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例に係る外国税額控除の特例)関係 所得税法95条の2第1項の外国税額控除は、所得税法137条の2第9項により(担保提供の命令に応じない、継続適用届出書に記載された事項と相違する事実が判明した場合、納税管理人の解任等)、納税猶予期限の繰上げがあった場合には、適用はない(95の2-1)。 (4) 所得税法137条の2(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)関係 納税猶予期間中に国外転出の年分についての期限後申告、修正申告、更正・決定に係る納付すべき所得税額には、納税猶予は適用されない。ただし、対象資産の価額や損益計算の誤りに基づくのみである場合には、当初から納税猶予の適用があることとして取り扱う。この場合、担保の提供は修正申告書の提出日の翌日又は更正通知書の発せられた日の翌日から起算して1月を経過する日までに提供しなければならないこととして取り扱う(137の2-1)。 納税猶予の適用の取りやめる旨の書面による申出があり、全額の納付があった場合は、全額の納付があったときに納税猶予の期限が確定し、適用は終了する。任意で納税猶予を取りやめた場合には、所得税法60条の2第10項の規定(納税猶予期間満了のときに対象資産の価額が下落し又は損失が生じている場合の当初課税の減額)の適用はない(137の2-4)。 国外転出課税の適用を受けて転出した者が納税猶予期限までに死亡した場合、当該相続人が適用資産を取得したかどうかにかかわらず、納税猶予に係る税額の納付義務は相続人が承継する。相続人が複数いる場合には、国税通則法5条2項(相続による国税の納付義務の承継)の規定に基づき計算した額となる(137の2-5)。 納税猶予分の納付義務を承継した相続人が承継した納税猶予分の所得税額の全部又は一部について納税猶予の期限が確定する事由が生じた場合には、すべての猶予承継相続人に係る承継猶予税額の全部又は一部について期限が確定する。(137の2-6)。 取引相場のない株式は、以下のいずれかに該当する場合に担保として認める(137の2-8)。 イ 国外転出時課税された財産のほとんどが取引相場のない株式であり、かつ、それ以外に担保として提供すべき適当な財産がないと認められること ロ ほかに財産があるが、他の債務の担保となっており、担保として提供することが適当でないと認められること (5) 所得税法153条の5(国外転出をした者が外国所得税を納付する場合の更正の請求の特例)関係 国外転出課税を受けた個人が、納税猶予期限までに対象資産を移転したことにより当初申告額が過大になっているとき(所得税法60条の2第8項、9項)、及び、納税猶予期間中に行った適用資産の移転に係る外国税額について外国税額控除の適用を受けている場合には、所得税法153条の2第2項(国外転出をした者が帰国をした場合等の更正の請求の特例)の規定による更正の請求(期限は資産の移転の日から4ヶ月)とは別に、所得税法153条の5の規定による更正の請求(期限は外国所得税を納付することとなる日から4月以内)ができる(所得税法153条の5)(153の5-1)。 (了)
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《速報解説》 日本公認会計士協会より「統合報告の国際事例研究」が公表~海外9社の事例を検証、横断的検討も~
《速報解説》 日本公認会計士協会より「統合報告の国際事例研究」が公表 ~海外9社の事例を検証、横断的検討も~ 公認会計士・税理士 若松 弘之 1 はじめに 平成27年5月18日付けで、日本公認会計士協会(経営研究調査会)から、経営研究調査会研究報告第55号「統合報告の国際事例研究」が公表された。 統合報告に関しては、2013年12月に国際統合報告評議会から「国際統合報告フレームワーク」(以下、「<IR>FW」という。)が発行された後、各国でこれに準拠した統合報告書が公表されはじめている。本研究報告は、海外9社の2013年度の年次報告書を対象とし、統合報告の実務動向などについての調査研究結果を取りまとめたものとなっている。 なお、同様趣旨の研究報告として平成 25 年1月に公表済みの同研究報告第49号「統合報告の国際事例研究」から抜粋した10社の事例についても、本研究報告に附属資料として追加されており、<IR>FW公表前後の統合報告事例の比較などの点においても有用なものとなっている。 2 研修報告の内容 本研究報告は、まず前段で調査研究の目的や手法を述べたうえで、主たる内容として、様々な業種や国の9社の統合報告事例を紹介している。そして、とりまとめとして、各事例の横断的検討も試みている。 メインの事例紹介では、(1)会社概要 (2)報告体系(3)開示の特徴 という観点で、各社5ページ程度で簡潔に事例を分析検討している。 (2)では、各社のディスクロージャー全体における統合報告の位置付けや統合報告書の構成内容などを明らかにしたうえ、(3)では、<IR>FWにおける7つの「指導原則」と8つの「内容要素」への準拠状況や特徴的な取組みなどを評価している。特に(3)は、原則主義アプローチをとる<IR>FWの性質上、抽象的になりがちな部分に対する実務対応イメージをつかむために有用なものとなっている。 また、各事例の横断的検討の結果として、各社が戦略やビジネスモデルとの関連において、企業価値創造モデルに焦点を当てている点に触れている。さらに、前回調査結果と最も顕著な違いがあった部分として、指導原則の「情報の結合性」を挙げたうえ、各社が結合性を高めるために創意工夫している点にも言及している。 * * * 本研究報告は、統合報告に関する国際フレームワークの開発が進み、日本国内においても100社を超える企業が統合報告的な開示を進めている状況に鑑み、日本公認会計士協会が<IR>FW公表後としては初めて海外事例を幅広く調査分析した結果である。 今後ますますの拡大が期待される統合報告実務の参考となる有用な研究報告であるため、ぜひご一読されることをお勧めする。 (了) ↓お薦め連載記事↓
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《速報解説》 ASBJ、リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」を公表~日本基準による開示情報やアンケート結果等を示し国際議論への貢献を図る~
《速報解説》 ASBJ、リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」を公表 ~日本基準による開示情報やアンケート結果等を示し国際議論への貢献を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成27年5月19日、企業会計基準委員会は、リサーチ・ペーパー第1号「のれんの償却に関するリサーチ」を公表した。 のれんの償却に関しては、すでに次のものが公表されている。 ①のディスカッション・ペーパーでは、リサーチ・グループは、のれんの償却を再導入することが適切であろうという結論を下している。 リサーチ・ペーパーは、企業会計基準委員会事務局が行ったリサーチ作業に関して予備的な結果を示している(日本語版と英語版)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 実施したリサーチ作業 日本基準では依然としてのれんの償却を要求しているという事実を踏まえて、日本企業の現在の実務に関する実態調査を行っている。 次のリサーチ作業が行われている。 2 考察 「VII. 我々の予備的な考察」では、学術文献のレビューにおいて行った考察を除いて、以下の考察が述べられている(概要を述べているので、正確にはリサーチ・ペーパーをお読みいただきたい)。 学術文献の限定的なレビューを行った結果については、学術論文の研究成果によって、減損のみのアプローチの方が償却及び減損アプローチよりも優れていると結論を下すことは、少なくとも、困難であると考えられたと述べられている。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.120が公開されました!~今週のお薦め記事~
2015年5月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.120が 公開されました。 プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布中! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
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日本の企業税制 【第19回】「BEPS行動3:外国子会社合算税制の強化」
日本の企業税制 【第19回】 「BEPS行動3:外国子会社合算税制の強化」 一般社団法人日本経済団体連合会 常務理事 阿部 泰久 1 はじめに BEPS行動3(外国子会社合算税制の強化)は、軽課税国に置かれた外国子会社への利益移転を防ぐため、外国子会社の利益を親会社の利益に合算して課税する外国子会社合算税制(CFCルール、タックスヘイブン税制)に関して、各国が導入すべき国内法の基準について勧告を策定するものであるが、わが国の現行税制とは大きく異なる方式が提示されている。 そこで、本稿では、草案の概要を紹介しつつ、わが国の現行税制を踏まえて、草案にどう対応していくべきか、経団連の考えを紹介する。 2 公開討議草案の概要 草案は、BEPS対策の観点から効率的CFCルールを構築すべく、その構成要素として7つのビルディング・ブロックを提示、それぞれのあり方に関し「勧告」を行いつつ、関連する質問を提示している。ただし、(4)対象所得の特定については「勧告」を行わず納税者の意見を求めている。 (1) 外国子会社(CFC)の定義 ①法人事業体に加え、パートナーシップ、信託及びPE(CFCがこれらを所有している場合または親法人国においてこれらが親法人とは別の課税事業体として取り扱われる場合に限る)に対しても、CFC税制を適用すること、②異なる国において異なる取扱いを受けることによってCFC税制を回避することを防止する修正ハイブリッドミスマッチルールを導入すること、が勧告されている。 (2) 閾値等 CFCを適用除外にする基準として、①実効税率をベースとして計算する低税率要件(low tax threshold)を含めるべきこと、②低税率要件は、CFC税制を採用する国の税率よりも有意に低い税率を使用すべきこと、が勧告されている。 (3) 支配の定義 親会社からの支配状態がどのようなものであれば、そのCFCの所得が親会社に合算されるのかという支配要件について、以下の要件が含まれるべきことが勧告されている。 (4) 対象所得の特定 対象所得の定義については勧告を示さず、いくつかの可能なアプローチを議論している。 いずれのアプローチをとるにせよ、CFC税制は、BEPSの懸念を引き起こす所得について、正確に特定し合算させるべきであり、とりわけ、持株会社の所得、金融・銀行サービス所得、販売所得、IP所得、デジタル商品・サービス所得、キャプティブ保険・再保険所得の文脈では、正確に特定し合算させるべきとする。 実務的には、CFC税制は、少なくとも以下の所得を対象とすることが可能でなければならない。 なお、「正確に特定し合算させるべき」とは、CFC所得に上記の所得全部を含めるべきという意味ではなく、最低限、それぞれのカテゴリーでBEPSを生じる所得を合算すべきであり、CFC国における価値創造活動による所得を合算すべきではないという意味である。 さらに、レントやリース所得、キャピタル・ゲインもCFC所得の対象に含め得るとされている。 合算すべき所得の特定方法として、①分類アプローチ(Categorical approach)、②超過利潤アプローチ(Excess profits approach)のオプションが検討されている。 分類アプローチは、上記の所得について、それぞれ実質分析(substance analysis)をクリアできないものはCFC所得に分類する。超過利得アプローチはCFCの所得から標準的なリターン(リターン率×適格資本)を控除した残額をCFC所得に分類する。 また、実際のCFC所得の合算方法としては、事業体アプローチ(Entity approach)と取引アプローチ(Transactional approach)を挙げ、取引アプローチをベスト・プラクティスとすべきとしている。 (5) 対象所得の計算ルール CFC所得をどのように計算するのかについては、 が勧告されている。 (6) 対象所得の合算ルール 計算されたCFC所得を誰に、どのように合算すべきかについては、以下が勧告されている。 (7) 二重課税の排除 二重課税の排除方法については、以下が勧告されている。 3 経団連のコメント 経団連では、4月30日にOECD租税委員会に対して、公開討議草案に対するコメントを提出した。その主な内容は以下の通りである。 (1) 外国子会社の定義 草案では一定のPEも含むと提案されているが、PEについては、各国で認定に伴う取扱いの差異や納税者と課税当局との主張の相違などが見られる。そのため、当該PEが現地で登記されるなど、取扱いが明確になっている場合を課税の前提とすることが望ましい。 また、組織再編等で企業を買収した場合に、当該買収先企業の子会社等が意図せずCFCの対象となっていた場合についてまで課税を及ぼすことは適切ではない。組織形態の再編のために、一定の猶予期間を設けるなどして、企業買収の場合についても配慮すべきである。 (2) 閾値 草案の低税率要件を導入すべきとする勧告に賛成する。ただし、閾値については、シンプルかつ明確なものが求められる。 各国の税率に基づき、トリガー税率を設定する場合、CFC適用法域との比較において、対象は著しいBEPSを想起させる低税率に絞ることが適切である。あわせて、実効税率の判定にかかる負担を軽減するため、BEPSの懸念が少ない国については実効税率の判定から除外する「ホワイトリスト方式」を導入することが望ましい。 (3) 支配の定義 支配の基準を50%超とした公開討議草案の支配の定義の水準に、基本的に賛成する。支配の判定時期については、基本的に年度末で統一することが望ましい。 また、例えば、CFCに50%ずつ出資していた場合に、支配の定義に該当しているかどうか調査するためには、非関連者も含めパートナー企業の株主について調査する必要が生じるが、この場合、パートナー企業がとりわけ上場企業であった場合には、その株主が非常に多岐にわたるため、調査することは極めて困難である。企業が調査等を行うべき範囲を明確化することが望ましい。 (4) 対象所得の特定 超過利得アプローチと比較して分類アプローチの方が対象となる所得が区分されており、真に問題となる所得を捕捉するというCFC税制の趣旨とも整合的である。 また、所得について、能動的所得をCFC所得外、受動的所得をCFC所得と扱うOECDの提案は基本的に理解できる。その際、実質分析を行うことになるが、能動的/受動的所得の判定については、当該企業の事業実態を考慮し、BEPSリスクの少ない企業については、企業の外形等からできるだけ簡便に判定を行い、事務負担等を軽減するかたちとすることが望ましい。 また、金融業など、その事業の性質から受動的所得と判断されやすい業種については、広く能動的事業による所得と認められるよう、各国において判断を統一することが求められる。 草案では、販売所得とサービス所得を一律に受動的所得と扱うこととしたうえで、実質分析を行うとしているが、適切な事業実態を伴う企業において、販売/サービス所得が多数を占めることを踏まえれば、このような提案は、BEPS対策のために過度に対象を広げるものであり、企業の事務負担も大きく増加するため、賛成できない。 保険については、その性質に基づき、何が受動的所得/能動的所得にあたるのか慎重に判断することが求められる。少なくとも、一定のグループ間取引、再保険取引等について、保険市場の特殊性から、能動的所得とすべき場合があることに留意すべきである。 (5) 対象所得の計算ルール 所得計算については、親会社の所在地国の税制に従って再計算するのは、対象となるCFCの会社数が多い場合には納税者に過大な負担が生じることとなる。したがって、CFC所得の計算に際しては、親会社の所在地国の法令のみならず、CFCの現地法令に基づく計算も認めることに妥当性がある。その観点から、親会社の所在地国の税制のみならずCFC法域の税制を選択できるオプションが必要である。 (6) 対象所得の合算ルール 所得の合算については、課税所得の計算・合算の正確性を期すため、期末日を基準とすることを明確にすべきである。 (7) 二重課税の排除 草案では、複数国でCFC税制が適用される場合には、CFCに近い法域から、CFCを適用するとしているが、各国間で課税方式・除外基準等が異なる場合、どの所得にCFC課税がなされたのか判別することは非常に困難であり、結果的に二重課税が発生するおそれが大きい。 そのため、基本的には複数国間でCFC税制が適用される場合には、CFCに近い法域のみ課税権を有するという形で考え方を整理すべきである。 4 おわりに BEPS対策の観点から真に効果的・効率的なCFC税制を構築することは、企業間の競争条件を均衡化する観点からも必要であり、世界で最も厳格とされるCFC税制が適用される日本企業の立場からすれば、企業間の競争条件の均衡化とは、まずは不十分なCFC税制を有する国における制度の見直しであるべきである。 その上で、CFC税制の重畳適用による二重課税の確実な防止・排除などの視点も踏まえれば、できるだけ各国のCFC税制の差異をミニマイズすることが理想である。 一方で、各国はすでに様々な形態のCFC税制を採用していることも事実であり、単に各国の制度を画一的にコンバージェンスすれば良いというものでもない。 例えば、CFC税制の設計に際し、EUは欧州裁判所判決との整合性を図らなければならず、OECD加盟国の相当数が欧州諸国であることを踏まえると、勧告はEUを意識したものとならざるを得ないと考えられるが、それらが他国の既存の制度とマッチするかについては十分な検証を要する。 各国で現に多様な制度が執行されているなかで、OECDが勧告すべきは、あくまでもBEPS対策の観点から実質的に有効なCFC税制についての考え方の整理であり、形式的に単一のベスト・プラクティスの勧告ではない。 経団連としては、日本の現行法制を踏まえ今後も維持すべき制度上のメリット等、具体的に訴えていくべき点は何かを引き続き検討しており、課税当局とも協調しながら、さらに意見発信を行っていく。 【参考 主要国のCFC税制の概要】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
