現代金融用語の基礎知識 【第18回】「債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)」
筆者:鈴木 広樹
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現代金融用語の基礎知識
【第18回】
「債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)」
事業創造大学院大学 准教授
鈴木 広樹
1 債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)とは
「債務の株式化」とは、文字通り債務を株式に変えることなのだが、債務を負っている企業の側からすると、借入金などの債務を資本金(あるいは資本金と資本準備金)に変えることであり、企業に対して貸付金などの債権を有している債権者(銀行など)からすると、債権を株式に変えることである。
英語では「Debt Equity Swap(デット・エクイティ・スワップ)」と言い(Debtは債務、Equityは株式、Swapは交換という意味)、実務ではよく略して「DES」(デス)と言われる。この債務の株式化は、通常、借入金などの債務の弁済が困難になった企業において行われるのだが、最近報じられたシャープの経営再建策に中にも盛り込まれている。
2 どのようにして行うのか
債務の株式化は会社法の規定に基づいて行うのだが、会社法において債務を資本金に変える手続が直接定められているわけではない。債務の株式化は「現物出資」の一種なのである。
企業への出資は、通常、「金銭出資」である。金銭出資とは、企業に対して金銭を提供して、その企業の株式を取得するというものである。それに対して、現物出資では、企業に対して、金銭ではなく現物、すなわち金銭以外の財産を提供して、その企業の株式を取得する。
債務の株式化とは、例えば、企業に対して貸付金を有している銀行が、その貸付金という財産を提供することによって株式を取得するというものである。その場合、企業にとっては、結果として借入金が資本金等に変わることになるのである。
なお、現物出資を行う場合、企業に提供される財産の価額について、裁判所が選任する検査役による調査を受けなければならないのだが(会社法207条1項)、債務の株式化の場合は、これが原則不要とされる(会社法207条9項5号)。
3 債務の株式化は企業に対する支援なのか?
こうした債務の株式化は、シャープのような大企業に限らず、中小企業においても広く行われており、一般的には金融機関等による企業に対する支援と捉えられている。しかし、借入金を返さなくてもよくなるのだから、ありがたい方法だなどと安易に捉えない方がよい。債務の株式化は、債務の免除とは異なるのである。債権者が今度は株主となり、経営に口を出してくるようになる。これは非常に厄介なことだということを認識しておかなければならないだろう。
(了)
「現代金融用語の基礎知識」は、毎月第4週に掲載されます。
連載目次
「現代金融用語の基礎知識」(全25回)
- 【第1回】 「NISA(ニーサ)」
- 【第2回】 「クラウドファンディング」
- 【第3回】 「JPX日経インデックス400」
- 【第4回】 「ビットコイン」
- 【第5回】 「日本版スチュワードシップ・コード」
- 【第6回】 「影の銀行」
- 【第7回】 「イスラム金融」
- 【第8回】 「会社役員賠償責任保険」
- 【第9回】 「GPIF」
- 【第10回】 「バーゼル銀行監督委員会」
- 【第11回】 「太陽光ファンド」
- 【第12回】 「日本版コーポレートガバナンス・コード」
- 【第13回】 「多議決権種類株式」
- 【第14回】 「不適当合併等」
- 【第15回】 「監査等委員会設置会社」
- 【第16回】 「REIT(リート)」
- 【第17回】 「税務に関するコーポレートガバナンス」
- 【第18回】 「債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)」
- 【第19回】 「デビットカード」
- 【第20回】 「ラップ口座」
- 【第21回】 「フィンテックと金融持株会社」
- 【第22回】 「アクルーアル」
- 【第23回】 「特設注意市場銘柄」
- 【第24回】 「トヨタ自動車のAA型種類株式」
- 【第25回】 「日本版スクーク」
筆者紹介
鈴木 広樹
(すずき・ひろき)
公認会計士/事業創造大学院大学准教授
早稲田大学政治経済学部卒業。
證券会社で企業審査に従事した後、現職。【主著】
『タイムリー・ディスクロージャー(適時開示)の実務』税務研究会
『株式投資に活かす適時開示』国元書房
『株式投資の基本-伸びる会社がわかる財務諸表の読み方』税務経理協会
『検証・裏口上場-不適当合併等の事例分析』清文社
『適時開示実務入門』同文舘
『税務コンプライアンスの実務』(共著) 清文社
等
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