件すべての結果を表示
お知らせ
その他お知らせ
Profession Journal No.94が公開されました!~今週のお薦め記事~
2014年11月13日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル) No.94 が公開されました。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
法人税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第23回】「法人税法22条2項の「取引」の意義(その2)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第23回】 「法人税法22条2項の「取引」の意義(その2)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 この事件では、法人税法22条2項にいう「取引」の意義が重要な論点とされた。 以下では、簡単に判決をみてみたい。 3 判決の要旨 第一審東京地裁平成13年11月9日判決(判時1784号45頁)は、本件増資は、B社と、有利な条件でB社から新株の発行を受けたC社との間の行為にほかならず、X社はC社に対して何らの行為もしていないというほかないとして、更正処分を違法と認定した。 これに対して、控訴審東京高裁平成16年1月28日判決(訟月50巻8号2512頁)は、次のように判示してX社の主張を排斥した。 そして、東京高裁は、両社間における無償による上記持分の譲渡は、法人税法22条2項に規定する「無償による資産の譲渡」に当たると認定判断することができるとした上で、同条項にいう「取引」の意義について、次のように論じている。 この事件はX社から上告された。そして、上告審最高裁平成18年1月24日第三小法廷判決(訟月53巻10号2946頁)は、次のように判示した。 最高裁は、このように判示して、法人税法22条2項にいう「取引」とは、関係者間の意思の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念と解されるとするのである。すなわち、ここにいう「取引」について、X社が法律概念であると主張するのに対し、Yは法律概念ではないと反論し、むしろ経済的概念であると捉えていたのであるが、最高裁は、法律概念でもあり、経済的概念でもあると論じたのである。 法人税法22条2項にいう「取引」を「関係者間の意思の合致に基づいて生じた結果を把握する概念」であると最高裁が位置付けたことは、X社とYの主張にいう法律概念であるか、あるいは経済的概念であるかという点よりもはるかに重要であるように思われるのである。 Ⅱ 法人税法上の「取引」概念 法人税法22条4項は、同条2項にいう「当該事業年度の収益の額」は、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」と規定する。このような規定振りからすれば、同条項にいう「無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」も、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されることになるのである。このように考えると、「取引」という用語の意義は、企業会計の考え方に従って解釈されるべきという理解があり得るように思われる。 この点につき、法人税法22条2項にいう「取引」は、会計からの借用概念であると論じる見解がある。 さて、会計学では、「取引」について、どのように定義されているのであろうか。 例えば、番場嘉一郎教授は、簿記・会計上の「取引」を次のように定義される(番場編『会計学大辞典〔第3版・増補版〕』763頁(中央経済社1993))。 また、広瀬義州教授は、次のように「取引」を定義される(広瀬『財務会計〔第12版〕』78頁(中央経済社2014))。 ところで、これまでこの連載において解説してきたとおり、借用概念というものは他の法律分野からの概念の借用をいうのであって、会計からの借用概念というものはあり得ない。この点をまずは確認しておきたい。 しかしながら、そうであるからといって、会計にいうところの「取引」と同様の意味で理解すべきとする考え方が必ずしも否定されることになるわけではない。すなわち、固有概念として理解することができないわけではないからである。この点について、検討を加えることとしよう。 法人税法22条5項は、「資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しをいう。」と規定している。この規定から、「取引」には、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引と、そうではない取引があると理解することができそうである。 すなわち、例えば、利益準備金の資本組入れのような「資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と、例えば、売掛金を現金で回収したというような「資本金等の額の増加又は減少を生じない取引」があるわけであるが、資本等取引には、前者のような取引が含まれると規定しているのである。 このように、法人税法22条5項が、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と規定しているところから、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引以外の取引」が観念されると考えることは、条文解釈としては自然であるように思われるのである。 次に、法人税法施行規則53条《青色申告法人の決算》をみてみたい。同条は、次のように規定する。 ここでの「資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引」という規定振りは、前述の番場教授のいう「簿記上で取引とは、資産、負債および資本に増減変化を及ぼす一切の事象である。」という点と極めて近似していることが判然とする。このような点から考えると、なるほど、法人税法にいう「取引」とは、簿記・会計にいうところの「取引」と同様に理解されているということができるように思われるのである。 しかしながら、この規定を先ほどの法人税法22条5項の解釈と同じように整理するとどうなるであろうか。 このように、取引には、①「資産、負債及び資本に影響を及ぼす取引」と、そうではない②「資産、負債及び資本に影響を及ぼさない取引」があると理解することができそうである。 果たして、このような理解が可能であるとすると、会計上の「取引」が、①「資産、負債及び資本に影響を及ぼす取引」にとどまるのに対し、法人税法上の「取引」には、会計上の「取引」以外の取引も含まれるということになるように思われる。 このような理解になるのであろうか? (続く)
国際課税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
法人税に係る帰属主義及びAOAの導入と実務への影響 【第1回】「改正の趣旨と背景」
法人税に係る帰属主義及び AOAの導入と実務への影響 【第1回】 「改正の趣旨と背景」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 はじめに 平成26年度税制改正において、外国法人及び非居住者(以下「外国法人等」という)に対する課税原則が、総合主義から帰属主義に大きく変わるとともに、帰属主義の適用方法として、OECDモデル条約が採用しているAOAが導入された。 AOAとは、帰属所得の計算に関するOECD公認アプローチ(Authorized OECD Approach) の略称である。その内容は、まず、本店と支店を別々の分離した法人と擬制して、機能分析を行って内部取引を認識する。次に、機能分析の結果に基づいて、本店及び各支店への資産と資本の帰属を確定する。その上で、本支店間の取引価格を移転価格税制と同様の方法で算定し、それに基づいて本店及び各支店の帰属所得を計算する、というものである。 今回の改正の影響を最も大きく受ける者は、わが国に恒久的施設(以下「PE」という)を有する外国法人であるが、国外にPEを有する内国法人や個人の居住者も、外国税額控除の計算に関して影響を受ける。また、所得計算の方法の改正だけでなく、本支店間取引について移転価格税制と同様の文書化義務が課された点が実務的に大きな影響を伴う。 今回の改正の結果、国内法の課税原則をOECDで認められた国際課税原則に合わせたことにより二重課税や二重非課税の発生をある程度防止できることが期待されるというメリットがある。しかし、企業にとって次のような点から、コンプライアンス・コストがかかるという問題がある。 こうしたことから、わが国に支店を有する外国法人だけでなく、外国に支店を有する内国法人にとっても税務コンプライアンス・コストが相当の規模で増加することが予想される。 今回の改正は、平成28年4月1日以降開始事業年度に適用される。 大幅な改正であるため、準備期間を考慮して適用開始まで2年の猶予を見込んでいる。 内容が大幅に変わっただけでなく、改正条文の数からみても膨大な量の改正であるため、影響を受ける納税者にとって相当な準備期間を要する。対象となる企業は、早期に影響を評価し適時に対応策の検討を開始する必要がある。 本連載では、改正の趣旨・概要をできるだけ分かりやすく解説するとともに、実務への影響について考察する。 なお、今回の改正は個人の居住者・非居住者にも影響があるが、本稿では法人についての説明となっていることに留意されたい。 また、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者の所属する団体の見解ではないことをお断りしておく。 2 改正の趣旨と背景 2-1 総合主義から帰属主義へ 外国法人や非居住者の課税の範囲については原則として国内源泉所得のみに課税するのが国際的に確立した課税ルールであり、わが国の税法もそれに従っている。国内源泉所得のうち、PEに帰属する所得のみに課税するのが「帰属主義」であり、PEがあればPEに帰属しない所得も含めてすべての国内源泉所得に課税するのが「総合主義」である。 例えば、米国本店が日本の顧客との直接取引によって得た利益は、日本支店に帰属しているとは言えないので、帰属主義の下ではわが国で課税されない。しかし、総合主義の下では、日本に支店があれば支店が関与していない所得でも日本で課税されることになる。 わが国の国内法における外国法人課税の規定は、昭和38年に総合主義を採用して以来、ずっとこれを維持してきた。しかし、世界の趨勢は圧倒的に帰属主義であり、わが国の締結している租税条約は最後の総合主義の条約であったパキスタンとの条約が帰属主義に変更されたことにより、すべてが帰属主義となった。 わが国は国内法と租税条約が乖離する状態が長い間続いてきたが、今回の改正で帰属主義に統一されることになった。 2-2 AOAの導入 帰属主義は国際課税ルールとして確立した原則であり、OECDモデル条約7条がそれに当たる。帰属主義とは、外国法人等の事業所得の課税範囲をPEに帰属する所得に制限する原則である。 帰属主義は一見シンプルだが、2010年にOECDがAOA(OECD公認アプローチ)を導入するまでは、国によって「帰属する」という文言の解釈の違いが存在した。ひとつは支店と本店を全く別個の法人と擬制して本支店間の取引も取引として認識したうえで所得計算をする方法である。これをOECDの議論においてはSeparate entity approachと称していた。欧州諸国の多くはもともと支店を独立した会計単位として会計処理を行う慣例があったという歴史的背景もあって、この解釈を採用すべきと主張した。 これに対立する解釈が、Single entity approachであった。これは、支店の所得は、法人全体の活動による所得のうち、支店が関与した活動による部分として計算されるべきという解釈である。主に米国とわが国が主張していた。 両者の違いが顕著に現れるのは、法人全体が赤字のときに支店だけが黒字になることがあり得るかという命題に対する答えである。 Separate entity approachでは法人全体が赤字でも支店は黒字ということはあり得る。一方、Single entity approach ではひとつの取引から得られる法人の所得を本店と支店で分けるという発想なので、法人全体が赤字のときに支店だけが黒字ということはあり得ない。 Separate entity approachの結論は、移転価格算定方法のTNMMの帰結と同じである。TNMMではグループ取引による合算利益が赤字でも、子会社が単純な機能しか果たしていない場合には黒字であってもおかしくないという結果になる。Separate entity approachは移転価格課税と親和性の高い課税方式である。これに対してSingle entity approachはオール・オア・ナッシング課税と親和性が高い。 例えば、外国法人による商品の輸入販売の場合、棚卸資産の販売地がわが国であれば売買益の総額が我が国の国内源泉所得として課税された。本支店間で利益を分け合うという考え方は、わが国の支店課税方式においては無かった。AOAが導入されると、このような場合には本支店間で所得を配分することになる。したがって、根本的に国際取引の課税に関する考え方が違ってくることになる。 そうした意味において、今回の改正は非常に大きな改正といえる。 AOAが導入された背景には、世界経済のグローバル化がある。 ある企業グループ内部では、関連者間取引と本支間あるいは支店・支店間取引が交錯して取引が行われることも少なくない。このような状況において、グループ内で所得配分を行う場合、関連取引には移転価格課税原則が、本支店間取引には支店課税独自の原則が適用されると、二重課税や二重非課税が生じやすくなる。この不都合を回避することがOECD租税委員会に求められていたのである。 なお、BEPSとの関係であるが、AOAの議論は過去20年以上にわたり行われてきたものであるのに対して、BEPSの議論は最近取沙汰されるようになったものである。AOAはどちらかといえば二重課税防止に力点がある。これに対してBEPSは租税回避防止が目的である。 「国際課税ルールの見直し」という点では共通点もあるが、目的が異なるので、相互に関係する部分は少ないといえるだろう。 2-3 改正の概要 2-3-1 外国法人の日本支店の課税所得計算の見直し(概要) わが国に所在するPEを通じて事業を行う外国法人に対して、本店とPEが分離・独立の企業であると擬制した場合にPEに帰属する所得を算定し、これに課税することとした。 関連する主な改正点は以下のとおりであり、多岐にわたる。 なお、法令解釈通達が平成26年7月9日付けで発遣されている(「課法2-9他2課共同」)。 2-3-2 内国法人に影響する改正点(概要) 内国法人については、支店形態で海外進出している場合に、外国税額控除の控除限度額の計算が変わるとともに、文書化を行う義務が新たに課された。外国税額控除を適用しない場合には影響がない。 主な改正点は以下のとおり。 (1) 国外源泉所得の定義(見直し) 改正前は国内源泉所得以外の所得との定義であったが、改正後は、「国外事業所等帰属所得」、国外資産の運用保有所得、国外資産の譲渡所得等積極的に定義することにより明確化した。 (2) 国外事業所等帰属所得(見直し、新設) 国外事業所等帰属所得(以下「国外PE帰属所得」という)の計算は、外国法人のPE帰属所得の計算に準じて行う。つまり、国外PEが内国法人と独立して事業を行う事業者であるとしたならば、当該国外PEが果たす機能、使用する資産、内部取引その他の状況を勘案して認識する。 ただし、以下の点については外国法人のPEの計算とは異なる。 (3) 国外PEの帰属資本の額(新設) 国外PEへの帰属資本の計算方法は、資本配賦法又は同業者比準法のいずれかを選択できる。いったん選択した方法は、特段の事情がない限り継続適用が必要になる。 帰属資本の配賦計算は外国税額控除の控除限度額の計算のためにのみ必要なので、銀行及び証券会社を除く内国法人は、外国税額控除を適用しない場合には行わなくてよい。 外国税額控除を適用する場合には、銀行・証券以外でも資本配賦計算が必要になる。 銀行等が国外PE帰属資本の算定上リスクウェイト資産を計算する場合、信用リスクが全リスクの80%を超えており、かつ貸出債権に係る信用リスクがその50%を超えるときには、貸出債権の信用リスクのみに基づいて計算ができる(法規28の10)。 (4) 国外PEの範囲(新設) 国外PEの範囲は、租税条約相手国所在のものは条約の規定により、それ以外はわが国の国内法による。積極的な定義はなく、「国外にある恒久的施設に相当するものその他法令で定めるものをいう。」(法法69④一)とある。 (5) 外国税額控除の対象とならない外国法人税(新設) 国外PEから本店等に対する内部利子等の支払いに対して課された源泉税は、わが国の外国税額控除の対象とならない(法令142の2⑦四)。その外国法人税の課税標準である支払金額が、わが国の法人税の課税標準として認識されるからである。 (6) 国外PE帰属所得に関する文書化(新設) 外国税額控除の適用を受けるためには、国外PEの外部取引に関する書類のほか、本店等との内部取引について文書化し、調査の際に要求があった場合には遅滞なく提示、提出しなければならない。内部取引の価格算定については、移転価格税制と同様の算定方法が適用され、文書化も必要になる(法法69⑲、法規30の2)。 (了)
法人税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
租税争訟レポート 【第20回】「株主優待券の使用に係る費用に対する課税(国税不服審判所裁決)」
租税争訟レポート 【第20回】 「株主優待券の使用に係る費用に対する課税(国税不服審判所裁決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 (※) 本件の請求人は、株式会社安楽亭であることが判明している。 【事案の概要】 本件は、飲食業を営む審査請求人(以下「請求人」という)が、使用された株主優待券の券面額を売上値引き等として経理し、確定申告していたところ、原処分庁が、当該株主優待券の使用に係る費用の額が交際費等に当たるとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、同処分の一部の取消しを求めた事案である。 前提となる事実と請求人の経理処理は以下のとおりである(下線は筆者による)。 本稿では、交際費等に該当するための三要件について、請求人がこれをすべて否定し、株主優待券の使用により生じた費用を交際費等に該当しないという主張をしたのに対し、国税不服審判所がその主張をすべて斥けた点に注目して、原処分庁による更正処分を認めた事例の検討を行いたい。 1 〔争点1〕本件各更正処分に理由附記の不備の違法があるか (1) 請求人による主張 【更正通知書に附記された理由の結論部分(抜粋)】 請求人は、まず、原処分庁の審査請求における主張では、行為の形態を「権利の贈答」としており、これは、更正通知書に附記された理由の中にある、行為の形態を「接待又は贈答」という記載と一致しないとして、本件各更正処分には理由附記の不備の違法がある、と主張した。 (2) 審判所の判断 これに対し、国税不服審判所は、次のとおり判断して、請求人の主張を斥けた。本件各更正通知書については、原処分庁が本件株主優待券の使用に係る費用が交際費等に当たるとして本件各更正処分を行うに至った理由並びに当該更正処分の対象となった科目及び金額について、更正の根拠を具体的に明示したものであると認められる。 したがって、本件株主優待券の使用に係る費用に関する本件各更正通知書の理由附記は、更正の根拠を原処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示しているといえるから、本件各更正処分に理由附記の不備の違法はない。 これに対し、請求人は、行為の形態に関し、原処分庁は、本件各更正通知書においては、「接待又は贈答」と記載していたにもかかわらず、審査請求においては、「権利の贈答」と主張しており、本件各更正通知書からは、原処分庁が認定した行為の形態が「権利の贈答」であることは理解できない旨主張する。 しかしながら、本件各更正通知書の理由附記が法人税法の要求する理由附記として欠けることがないことは上記のとおりであり、請求人の主張する内容をもってしても、かかる判断は左右されない。 2 〔争点2〕本件株主優待券の使用に係る費用は交際費等に当たるか (1) 請求人の主張 請求人は、株主優待券の使用に係る費用は、交際費等の三要件である「支出の相手方」、「支出の目的」及び「行為の形態」のいずれも満たさないことから、交際費等に該当しないと主張した。 すなわち、「支出の相手方」については、株主優待券が使用者を制限していないことから、株主優待券を使用して飲食等した者が株主以外の不特定多数の者である場合には、支出の相手方は、事業に関係ある者等ではない。 また、「支出の目的」については、販売促進・広告宣伝(請求人店舗等の口コミ依頼)・顧客及び株主からの意見収集・投資家向け広報にあり、取引関係の円滑な進行を目的としたものではない。 最後に、「行為の形態」についても、株主優待券の配付を株主としての当然の権利と考え、接待供応行為を受けていると意識していない株主もおり、接待供応行為は成立しないし、仮に株主が国家公務員であった場合、その国家公務員たる株主は国家公務員倫理規程違反に問われる可能性があるが、そのような理由で処分を受けたとは聞いたことがないから、請求人から株主に対する、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為は存しないと主張した。 (2) 審判所の判断 これに対し、国税不服審判所は、交際費等の三要件説に立ったうえで、請求人について、要件を充足しているかどうかを判断した。 最初に、「行為の形態」については、請求人は、株主に対し、その持株数に応じて、請求人店舗等において現金同様に使用可能な株主優待券を配付し、株主優待券を使用して請求人店舗等で飲食した場合には、その飲食代から本件株主優待券使用額分の値引きを行っていたのであるから、本件株主優待券を無償で配付してこれを使用させていたものとして、同行為が本件における接待供応行為に当たると認めるのが相当であると説示した。 請求人による、株主優待券の配付を株主としての当然の権利と考えている株主もおり、接待供応行為を受けていると意識していない株主もいるという主張については、そもそも株主優待制度とは一般に会社が株主に対して任意で行うものであり、株主優待制度の継続を求める株主が存在するなど、請求人においても株主の当然の権利とまではいえないとして、これを斥けている。 次いで、「支出の相手方」については、請求人は株主に対し、株主以外の一般顧客に対する各種割引券等とは別に作成した優待券を配付しているのであり、明らかに、株主を対象として接待供応行為を行っていると認められる。したがって、本件株主優待券に係る接待供応行為に要した費用も、株主のために支出したというべきであり、支出の相手方は株主、すなわち会社の出資者として事業に関係ある者等と認めるのが相当であると判断した。 請求人による、株主優待券は株主以外の者でも使用可能であり、必ずしも株主が本件株主優待券を使用しているとは限らないとする主張に対しては、請求人が、株主に対して、接待供応行為によって得る利益を第三者に付与する権能を与えたという意味を持つにすぎないため、支出の相手方に関する上記判断を左右するとはいえないとしている。 最後に、「支出の目的」については、請求人の一般株主は、株主優待制度を期待して、請求人株式を取得し保有し続けているものと考えられ、株主優待制度の存在が、株の長期保有ひいては株価の安定に寄与しているものと認められるなどの事実に照らせば、株主優待券を配付して使用させることの目的は、株主の歓心を買って株主の地位を維持する関係を構築することにあり、それによって、一般株主を安定株主とし、また、一般株主ひいては市場の好感を得て株価を安定、上昇させるなどして、事業の円滑な遂行を図ることにあると認めるのが相当であるとして、要件を満たしているとした。 請求人による、株主優待券配付の目的を販売促進・広告宣伝・顧客及び株主からの意見収集・IRであるという主張には、会社がある行為を複数の目的をもって行うことは日常的に行われるところであり、交際費等の要件においても、支出の目的が交際目的のみに限られることが要求されているのではなく、支出の主たる目的が交際目的であれば足りるとして、その主張を斥けた。 3 裁決の検討 (1) 三要件説 ある支出が、交際費等に該当するための要件としては、萬有製薬事件高裁判決(※1)が、三要件説を採用し、これが確定したことから、以下の3つの要件が必要とされる。 (※1) 東京高等裁判所平成15年9月9日判決。 本裁決は、株主優待券の使用に伴い発生した費用が、この三要件に該当するかどうかをめぐる請求人の主張を、国税不服審判所がことごとく排斥したものであり、株主=利害関係者等であるという、判断が明らかにされたものである。 (2) 請求人の経理処理 冒頭「事案の概要」のところで述べたとおり、請求人は、自社店舗での株主優待券の使用は「売上値引き」、FC店舗での使用は「支払手数料」としてそれぞれ損金の額に計上し、優待券に代えて物品を贈った場合にのみ、物品の購入対価を交際費等として損金の額に含めない経理処理を行っており、本件における請求人の主張と整合性のある経理処理であり、交際費等の該当性についても、事前に協議がされたうえでの判断であることが見てとれるが、上記(1)のとおり、株主=利害関係者等である以上、株主優待券の使用により生じた費用が交際費等に該当しないという国税不服審判所の判断を引き出すことはできなかった。 (3) 株主が国家公務員であった場合 請求人の主張の中のユニークなものとして、仮に株主が国家公務員である場合には、その国家公務員たる株主は国家公務員倫理規程違反になるではないかというものがあった。 同規定は第3条で、利害関係者から金銭、物品又は不動産の贈与(せん別、祝儀、香典又は供花その他これらに類するものとしてされるものを含む)を受けることその他を禁止しており、第5条は、利害関係者でなくとも、供応接待を受けることを禁じるものであるが、国税不服審判所は、この主張についても、措置法61条の4に規定する交際費等の要件としての贈答行為を受けた公務員が直ちに国家公務員倫理規程第5条第1項に違反するものでもないのであるから、請求人の主張はその前提を欠き採用できないとしている。「直ちに・・・違反するものでもない」の根拠は明言されていないが、株主優待制度が、同規程の「社会通念上相当と認められる程度を超えて」はいないというのが、その理由であろうと推測することは可能である。 (4) 交際費等として計上すべき金額 交際費等として計上すべき金額について、国税不服審判所は、直営店舗に関しては、配付した本件株主優待券が使用されたことによって請求人が対価を受け取らなかった役務提供の原価であるとしており、原価には人件費を含むと判断した。 この判断は、取引先等に自社の経営するレストランで接待した場合における、交際費等として計上すべき金額として、提供した料理のメニュー記載の金額ではなく、その料理の原価相当額(材料費、人件費等)となるとする実務上の解釈とも一致しており、妥当な判断であると言える(※2)。 (※2) 岸田光正『厳選100問 交際費等の税務』(清文社、2014年)22ページ。 一方、FC店等に関しては、請求人がFC店等に対して支払った支払手数料の額が、FC店等における本件株主優待券使用額であると認められることから、FC店等の役務提供の原価ではなく、実際にFC店等で値引きされた金額が交際費等の額となると判断した。 (了)
所得税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
〈平成26年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第3回】「『扶養控除等(異動)申告書』記載内容の検討」
〈平成26年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第3回】 「『扶養控除等(異動)申告書』記載内容の検討」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 (1) 申告書の受領時期 給与所得者は、給与の支払者に対し、扶養控除等申告書を毎年最初に給与の支払いを受ける日の前日までに提出することとされている(所法194①)。また、申告内容に異動があった場合には、その都度異動内容の申告(以下、異動申告という)をしなければならない(所法194②)。 年末調整では、扶養控除等申告書に記載された内容に基づいて、人的な所得控除の金額を計算することになる。したがって、年末調整業務を始めるに当たり、年末調整の対象となる者(以下、従業員等という)から扶養控除等申告書が提出されているかどうか、また、異動申告が適切に行われているかどうかについて検討を行う必要がある。 平成26年中に、下記のような事情が生じた従業員等がいる場合には、異動申告が行われているか確認しておく。 なお、扶養控除等申告書を提出していない人や異動申告をしていない人がいる場合でも、年末調整を行う時までにそれらの書類が提出されれば、提出された申告書の内容に基づいて年末調整を行う。 (2) 記載内容の検討と注意点 ① 控除対象配偶者、扶養親族 控除対象配偶者と扶養親族を判定するための要件に、共通した次の2つがある(所法2①三十三・三十四)。 〈控除対象配偶者及び扶養親族判定の共通要件〉 「生計を一にする」とは、同居していることを要件とするものではない(所基通2-47)。 所得者が勤務地の関係で単身赴任している場合や、子が修学のため下宿している場合であっても、生活費や学資金を送金している等の事実があれば、「生計を一にする」ものとして扱われる(所基通2-47(1))。 次に、「合計所得金額38万円以下」の合計所得金額とは、1年間の各種所得金額の合計額(損益通算後、各種繰越控除適用前)をいう。 なお、合計所得金額には、①所得税が非課税とされる所得(非課税所得)、②源泉分離課税の対象となる所得、③確定申告をしないことを選択した配当所得や上場株式等の譲渡所得等は含まれない。 〈表1〉 合計所得金額に含まれない所得の例 【誤りやすい事例】 ② 障害者控除、寡夫(寡婦)控除、勤労学生控除 障害者控除、寡夫(寡婦)控除、勤労学生控除について制度の概要をまとめると、〈表2〉のとおりである。障害者、寡夫(寡婦)、勤労学生に該当するかどうかを判定する要件を、正確に理解しておくことが重要である。 〈表2〉 各制度の概要 【誤りやすい事例】 ③ 同居老親等、同居特別障害者 同居老親等と同居特別障害者に該当するかどうかを判定する要件は、〈表3〉のとおりである。 「老親等」及び「同居」の示す内容を正確におさえておくことが必要である。 〈表3〉 同居老親等、同居特別障害者の要件 【誤りやすい事例】 (3) 扶養控除等申告書の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 * * * 次回は、「保険料控除申告書 兼 配偶者特別控除申告書」を取り上げる予定である。 (了)
法人税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
貸倒損失における税務上の取扱い 【第30回】「判例分析⑯」
貸倒損失における税務上の取扱い 【第30回】 「判例分析⑯」 公認会計士 佐藤 信祐 相互タクシー事件において寄附金の認定がなされたものの、資本等取引であるとして債務免除益の認定はなされなかった。 そのため、本稿においては、現行法上、同様のスキームが行われた場合において、債務免除益が認定される可能性があるか否かについて解説を行うこととする。 ③ 債務免除益の認定可能性について 相互タクシー事件においては、第三者割当増資により払い込まれた金銭について、親会社からの借入金の弁済に充てられることから、疑似DESといわれる手法が行われたことになる。現行法上、親会社から子会社に対する貸付金を現物出資する手法、すなわち、DES(デット・エクイティ・スワップ)が行われた場合において、非適格現物出資として取り扱われるときは、子会社において債務消滅益課税が発生することになる。 なお、このような擬似DESについて、租税回避行為であるとして、実質的にDESと同様に取り扱うべきであるという考え方もある(八ッ尾順一『五訂版 租税回避の事例研究』(清文社)165頁)。そのため、以下では、擬似DESが租税回避行為であると認定され、債務消滅益(債務免除益)として課税されるか否かについて検討を行う。 第27回から第29回までで解説したように、相互タクシー事件、日本スリーエス事件のいずれにおいても、増資により新株を発行した子会社における受贈益課税は行われていない。この点については、当時の法人税法において、会計上の資本準備金と法人税法上の資本積立金がおおむね一致していたことから、受贈益課税までは課さなかったと推定されるため、両事件において受贈益課税が課されなかったといって、擬似DESを行った場合に債務消滅益課税(債務免除益課税)がなされないとは断定できないのかもしれない。そのため、両事件を参考にするのであれば、時価がゼロ円である株式9億円を発行し、対価として9億円の払込みを受けるような場合については、時価を超える金銭の払込みについて受贈益課税を課すというリスクが考えられる。 しかしながら、新株予約権を発行する場合において、その新株予約権と引換えに払い込まれる金銭の額がその新株予約権のその発行の時の価額に満たないときは、その満たない部分の金額に相当する金額は、発行法人の課税所得の計算上、損金の額に算入されないこととされており、新株予約権の発行の時の価額を超えるときは、益金の額に算入されないこととされている(法法54⑤)。法人税法上、発行法人において、新株予約権を負債として取り扱うことから、あえてこのような規定が設けられているが、この規定が設けられた趣旨としては、「平成18年版改正税法のすべて(大蔵財務協会)」349頁において、財務省主税局税制第三課課長補佐である佐々木浩氏、長井伸仁氏、一松旬氏が と解説している。 このように、資本等取引の類似取引である新株予約権の発行において、時価と異なる価額であったとしても、損金及び益金の額に算入しないと考えられているのであるから、株式の発行においては、時価を超える金銭の払込みであっても資本等取引と考えることにより、受贈益課税は課されないということが、法人税法の基本的な考え方であると考えられる。 したがって、これを超えて否認しようとするのであれば、極めて異常な取引に対してのみ、同族会社等の行為計算の否認を適用するという考え方になると思われるが、一般的に、疑似DESではなく、DESが行われる理由としては、疑似DESだと払い込んだ金銭が借入金の弁済に充てられないリスクがあるためであるのに対し、そもそも子会社に対する疑似DESにおいてはそのようなリスクがないことから、子会社に対する支援策としては擬似DESも一般的に行われているため、同族会社等の行為計算の否認を適用してまで、債務免除益を認定し、課税することまでは避けるべきであると考えられる。 ④ 総括 このように、相互タクシー事件においては、債権放棄を行った場合には法人税基本通達9-6-1(4)、9-4-2を適用することができないことから、「増資払込み+株式譲渡」というスキームを選択したものの、これを否認されている。 本連載における重要な論点の一つではあるが、そもそも法人税基本通達9-6-1(4)、9-4-2を適用するためのハードルが高く、実務上、これが認められる可能性がかなり低いという問題がある。 これは、第5回から第14回で解説したように、法人税基本通達9-4-1、9-4-2についての法人税法上の条文根拠が曖昧であるという点にも関連するが、それ以上に、法人税基本通達9-4-2に規定する「例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるとき」という内容が曖昧であるという点も挙げられる。また、いずれ本連載においても解説するが、法人税基本通達9-6-1(4)の適用についても、回収不能であることを立証することが必要であり、実務上、かなりハードルが高いという実態もある。 このような事情から、実務上、子会社の再生については、第2会社方式が選択されるようになった。「第2会社方式」とは、受皿会社に対して子会社の資産とそれに見合う負債のみを移転し、残った子会社を清算することにより、親会社において、子会社の債務超過に相当するだけの貸倒損失を認識するというスキームである。それでも、法人税基本通達9-4-1、9-4-2が改正された平成10年当時、筆者が税務の世界に入った平成13年当時では、通常清算を利用したスキームを選択し、法人税基本通達9-4-1、9-4-2の適用可能性を模索していたというのが個人的な感触である。 しかしながら、最近においては、特別清算を選択することにより、法人税基本通達9-6-1(2)の適用可能性を模索するようになったというのが個人的な感触である。なお、法人税基本通達9-6-1(2)においては、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合」において適用されるものであるから、いわゆる協定型(本来型)といわれる手法について直接的に規定されているが、実務上は、和解型(対税型)といわれる手法を選択することが一般的である。このような、和解型(対税型)であったとしても、債権者における損失負担の額が大きく変わることは考えにくいことから、法人税基本通達9-6-1(2)を適用することにより、損金の額に算入することができる場合が多いのが実態である。また、「対税型」という別名からも分かるように、法人税基本通達9-6-1(2)を適用し、貸倒損失として損金の額に算入するための手法として和解型の特別清算というものが利用されているという実態もあり、その一方で、「特別清算」という風評被害についても、筆者の経験した事案に限定すれば、通常清算と何ら変わるものではなかったということと考慮すると、子会社の再生については、和解型(対税型)の特別清算を利用した第2会社方式を選択することが望ましいのではないかと考えられる。なお、第2会社方式についての詳細な論点についても、本連載で触れていきたいと考えている。 次回においては、相続税の判例ではあるが、相続発生前に債権放棄を行うことにより、貸付金を消滅させ、相続財産全体についての相続税評価額を引き下げた行為について、同族会社等の行為計算の否認が適用されるか否かについて争われた事件について解説を行う。 (了)
会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
IFRS
日本の会計について思う 【第11回】「のれんの会計処理をめぐる経緯」
日本の会計について思う 【第11回】 「のれんの会計処理をめぐる経緯」 関西学院大学教授 平松 一夫 修正国際基準公開草案第1号の公表 前回私は、「修正国際基準(公開草案)の意義と3つの疑問」というテーマで、修正国際基準に対して若干の疑問点を提示しつつも、戦略的な意味でこれを評価するコメントを書かせていただいた。 今回はその公開草案第1号が取り扱っている「のれんの会計処理」について、その経緯の概略を述べることとする。それは、のれんの会計処理を巡って、日本はこれまで欧、米、国際の思惑に翻弄されてきたとの思いを私自身が強く抱いているからである。その点で今回の国際修正基準の公表は、まだ公開草案の段階ではあるが、良い意味で一矢を報いる可能性を持つと考えるのである。それは公開草案第2号「その他の包括利益の会計処理」についても同様である。 もともと、連結会計が導入される前の日本では、旧商法がのれん(営業権)について5年内に均等額以上の償却をすると規定していた。実際にはこの規定ではいかようにでも償却ができたと考えられる。すなわち、5年内であるから償却期間は1年でも5年でもよいと解釈できる。また、均等額以上との定めであるから、金額もかなり恣意的に決めることができたと思われる。 このような規定が設けられた背景として、商法の理念である債権者保護思想がある。のれんは法律的な権利でもなく実体を伴わない無形の資産であるから、早く償却する方が、担保力のない資産を計上しておくよりも健全な貸借対照表を示すことができる。同時にそれは保守主義の原則にも合致するものであった。 1991年OECD(経済協力開発機構)での激論 のれんをめぐる会議で私が鮮明に記憶しているものがある。1991年春、パリのOECD(経済開発協力機構)で開催された会議である。各国の関係者が集い、今後ののれんの扱いを議論した。たまたま私は日本の状況を説明するよう要請され、上記のような5年内均等額以上償却について報告したのであった。 当時、アメリカではのれんを40年で償却することが普通であった。上記の会議の少し前、1989年にソニーがコロムビア映画を巨額で買収したが、それはソニーの在米子会社を通じた買収であった。親会社であるソニーが買収していたのであれば、巨額ののれんを5年以内に償却しなければならないから、さすがにソニーにとっても損益への影響が相当の額に上ったはずである。しかし、在米子会社は巨額ののれんを40年で償却することができたので、毎年の損益への影響はそれほど大きくなかった。 同じ頃、欧州のいくつかの国ではのれんを自己資本から直接控除していた。そのため、欧州企業はのれんの償却を気にする必要がなかったのである。先の会議では、アメリカが欧州を「卑怯である」と攻める構図が鮮明であった。たとえ40年とはいえ、アメリカでは償却によって損益に影響が出る。他の条件が同じならば、欧州企業の方が損益面で業績が良く見えることになる。とりわけアメリカでは、株主が毎期の損益動向を厳しくチェックし、経営者の評価につなげることになる。それが「欧州企業は卑怯である」というアメリカの悲痛な叫びになっていたのである。 だが、日本は5年である。日本ではのれんの償却を短期で負担しなければならず、経営者に対する評価がより厳しくなるはずである。しかし、現実にはそうはならない。そこがアメリカとの経営文化の違いである。短期的に毎期の損益で経営者を評価するアメリカと、長期的に企業業績をみて経営者の評価を行う日本との間には大いなる違いが認められるのである。 連結のれんの20年償却、さらに減損へ こうした議論が重ねられる中で、のれんは20年で償却するという方向が次第に固まっていった。欧州、アメリカ、国際も20年で決着させようとしたし、日本も連結のれん(連結調整勘定)を20年償却とした。ようやく長年の懸案事項が決着したかに見えた。少なくとも日本としては真剣に国際的動向に配慮し、これと協調して同じ会計処理にしたのである。 ところがアメリカと国際では早くも別の方向が模索されていた。それが減損である。減損についてここで詳しく述べる必要はあるまい。減損の場合、規則的な償却ではなく、場合によれば長期にわたり資産計上され続けるし、状況が変われば一気に損失に計上しなければならないのである。 のれんの減損が日本の経営者にとって受け入れにくいことは容易に想像できる。日本の経営者にとっては安定配当が望ましい実務であり、そのためには毎期の利益が安定することが大切である。20年償却はその方向に合致するが、減損はそうではない。アメリカでは配当性向が一定であることが好まれるが、日本では配当額が安定していることが望まれる。 のれんの会計処理を巡っては、とりわけ日米の会計思考の違いが典型的に露呈したといえる。今後、修正国際基準が国際的に受け入れられるかは分からないが、少なくとも日本の立場をきちんと説明するという意味では、世界に対して優れた情報を発信したと言ってよいであろう。 (了)
会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
IFRS
IFRSの適用と会計システムへの影響 【第1回】「IFRSをめぐる現状」
IFRSの適用と会計システムへの影響 【第1回】 「IFRSをめぐる現状」 公認会計士 坂尾 栄治 IFRSとわが国におけるこれまでの流れ IFRSとは、世界的に承認され遵守されることを目的として国際会計基準審議会(IASB)により設定される会計規定の総称です。もっと、簡単にいえば、国際的に統一的な会計処理および表示のルールです。このIFRSは、2009年6月30日に金融庁-企業会計審議会から「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」が公表されると一躍脚光を浴びました。 なぜ脚光を浴びたかというと、2012年に上場企業を対象としてIFRSの強制適用の判断を行い、強制適用する場合には2015年または2016年に適用開始になるであろうとされていたためです。 そのため、上場企業はIFRSを適用した場合、現在自社で適用している会計基準(日本基準、一部米国基準)とどのような差があり、また適用するためにはいつまでに何をしなければいけないのかを知ろうと躍起になっていました。 システムベンダーや会計系のコンサルタントたちは、「現状のシステムではIFRSに対応できない」とか「IFRSへの対応を急がないと間に合わなくなる。」といって各社をあおっていました。 しかし2011年6月に金融庁の自見庄三郎担当大臣が会見でIFRSの強制適用を2017年以降にする考えを示したことにより、一気にトーンダウンしました。 米国においても、米国基準をIFRSに近づけていくコンバージェンスの作業から、コンバージェンスプロセスに加えて、2011年に承認手続きを経て個々の基準の受入を図るエンドースメントをあわせたコンドースメントアプローチを提唱し、一方的にIFRSに合わせていく方向性から、米国基準の存在感を強く打ち出す方向へと舵を切りなおしました。 そのため、日本の上場企業の多くはIFRSの強制適用は遠い将来の出来事だと考えるようになりました。 任意適用の状況 このように、多くの企業にとってIFRSは遠い将来考えればよいものになってしまったのですが、一方ではIFRSを任意適用する企業が出てきています。 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令により一定の要件を満たす会社について、2010年3月31日以後に終了する連結会計年度からIFRSの任意適用が認められることとなりましたが、いつ強制適用されるかも定かではないIFRSを任意適用する企業があるのか疑問に感じる人もいるのではないでしょうか。 しかし、実際に2014年9月現在でIFRSを任意適用している企業は36社あり、また任意適用を予定している企業が10社あります。この程度では、全上場会社のうちの2%にも満たないと思われるかもしれませんが、その多くが大企業であることから、時価や売上額から考えるともっと多くの割合を占めることとなりますし、加えて、ここにあげた企業以外にも水面下でIFRSへの対応を粛々と進めている企業は数多く存在していることを考えると、どうも遠い将来に考えればよいものではなさそうに思えてきます。 ではなぜこれらの企業は、強制されてもいないIFRSを自ら進んで任意適用するのでしょうか。 IFRSを適用するメリット IFRSを任意適用する企業は、当然IFRSを適用することに何らかのメリットがあるから、強制されてもいないIFRSを適用していると考えられます。 では、どのようなメリットがあるのでしょうか。メリットは各社毎に異なっていると思いますが、たいていの場合は以下の3つのどれかに当てはまるのではないでしょうか。 このうちの「1.グローバルマネーの呼び込み」と「3.連結財務諸表作成やグループ経営管理の効率化」については、グローバル化が急速に進む昨今の状況をかんがみると、多くの企業で真剣に検討する必要があるように感じられます。 修正国際基準について考える ASBJは2013年7月に開催した第268回委員会において、エンドースメントされたIFRSの開発に関するロードマップ「IFRSのエンドースメントと手続きに関する計画の概要(案)」を公表し、2014年7月31日に「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」の公開草案が公表されました。 修正国際基準では、「のれん」や「その他の包括利益」の除外または修正が提案されていますが、これらの基準はIFRSの根幹を成すものであり、IASBとしてはそれらの基準を除外または修正した基準はたとえ日本版といえどもIFRSの名称を付すことは認めないとの見解を示しているとも聞きます。 このような基準が、今後多くの企業に適用されることとなるかは疑問を感じずにはいられません。システムベンダーや会計系のコンサルタントの間でも、修正国際基準の普及には疑問を呈する人が多いように感じます。 実際、ピュアIFRSとは異なり国際的には通用せず、また、日本基準とも比較可能性のない基準を適用するメリットが見出せません。しかしながら、修正国際基準の議論を通じて、再びIFRSに注目が集まっているのも事実であり、少なくともその一点では、修正国際基準がIFRSの適用促進に貢献するのではないかと感じています。 IFRSは強制適用されるのか 目下の目標は、2016年末までに300社程度の企業がIFRSを任意適用することであり、強制適用はそれ以降の話ということになってくると思われます。自民党の「日本再生ビジョン」では、2016年までにはIFRSの強制適用の是非や適用に関するタイムスケジュールを決定するように議論を進めるとしています。 IFRSの適用にあたっての準備期間に3年程度を見込むとすると、2016年中にIFRSの強制適用を決めたとしても強制適用の時期は2019年以降になりそうです。 となると、今は自社にとってIFRSを任意適用するメリットがあるのかどうかについて検討するにとどめ(メリットがあれば任意適用に向けて準備を進めるべきであるが)、IFRSの動向について定期的に情報を収集するというのが、多くの企業のとるべき方向ではないでしょうか。 * * * なお本文中、意見に関する部分は私見であることを申し添えます。 (了)
会計
包括利益
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第62回】包括利益②「その他有価証券における包括利益」―組替調整額
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第62回】 包括利益② 「その他有価証券における包括利益」 ―組替調整額 仰星監査法人 公認会計士 石川 理一 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 前期末 (*1) 800×法定実効税率40%=320 ② 期首 ③ A社株式の売却時 (*2) 売却による組替調整額 400 ④ 期末 〈会計処理の解説〉 1 その他有価証券評価差額金 時価のある有価証券は時価をもって貸借対照表価額とします。そして、貸借対照表価額と取得価額との差額(評価差額)の一部又は全部は、税効果を調整の上、「その他有価証券評価差額金」として純資産の部に計上します(この連載の【第48回】参照)。 その他有価証券評価差額金の期中増減の税効果を控除した後の金額は、その他の包括利益の内訳項目として連結包括利益計算書に表示されます。 そして、その他の包括利益の各内訳項目別に税効果の金額及び次に解説する組替調整額の注記が求められています(基準8、9項)。 2 組替調整額の注記 連結包括利益計算書に表示されるその他有価証券評価差額金の金額は、連結貸借対照表のその他有価証券評価差額金(その他の包括利益累計額の内訳項目)の期首残高と期末残高の差額(期末残高420-期首残高480=△60)で求めることができます。 ただし、売却損益や減損処理した金額については、組替調整額として開示することが必要になります。したがって、組替調整額や当期発生額を把握するために上記のような期中増減表の作成が必要になります。 なお、期中に取得したその他有価証券を期中に売却した場合に発生した損益についても組替調整の対象となることに注意が必要です。 * * * 次回は包括利益の表示について解説します。 (了)
労働保険
労務
労務・法務・経営
雇用保険
最新!《助成金》情報 【第6回】「雇用関連助成金の活用(その6)《事業縮小時に離職する労働者の再就職支援に関する助成金》」
最新!《助成金》情報 【第6回】 「雇用関連助成金の活用(その6) 《事業縮小時に離職する労働者の再就職支援に関する助成金》」 特定社会保険労務士 五十嵐 芳樹 《労働移動支援助成金》 この助成金は、事業縮小に伴い離職に至る労働者の再就職支援や労働者を受け入れた事業主を助成することで、早期再就職の実現を目的とするもので、次のA・Bの2種類がある。 ただし、いずれも1年前から資本的・経済的・組織的関連性が密接な再就職先は対象外となる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (1) 目的 この奨励金は、事業縮小に伴い離職に至る労働者に対して、民間職業紹介事業者(労働局に同意書提出済み)に委託して再就職支援を行う事業主を助成することで、早期再就職を目的とする制度で、支給対象となる措置は次のように区分される。 (2) 対象労働者 この奨励金の対象となるのは、次のすべてに該当する労働者である。 (3) 支給額 ① 基本の支給額 (※3) 中小企業の定義については【第1回】「雇用関連助成金の活用(その1)」の「6 中小事業主の範囲」を参照 (※4) 再就職実現時は、6ヶ月(45歳以上は9ヶ月)以内に再就職が実現した場合 (※5) 訓練・グループワーク加算の場合は「委託費用=総額-訓練・グループワーク加算」 ② 上乗せの支給額 上記「① 基本の支給額」と「② 上乗せの支給額」の合計支給限度額は1人当たり60万円、1年度1事業所当たり500人分である。 ③ 休暇付与支援の支給額 (4) 手続の流れ (5) 活用のポイント 事業縮小を粛々と達成するには、従業員の不安を取り除き納得と協力を得ることが欠かせないが、そのためには離職対象者に対する再就職支援の実施が重要であるため、事業縮小の達成にはこの奨励金は特に有効と思われる。 (1) 目的 この奨励金は、次のように雇い入れ又は受け入れた労働者に対してOff-JT又はOff-JTとON-JTを行った事業主へ助成することで、労働者の早期再就職を目的とする。ただし、受給資格認定申請書提出日前日の6ヶ月前から支給申請書提出日までに解雇(勧奨含む)や特定受給資格者を雇用保険被保険者数の6%を超えて、かつ4人以上出した場合は支給対象とならない。 (2) 対象労働者 この奨励金の対象となるのは、次のすべてに該当する労働者である。 (3) 支給額 この奨励金の支給額は、1つの職業訓練計画について対象者1人当たり次の額となる。 ただし、対象となる訓練には要件が定められているため、事前の確認が必要である。 (※7) 全体時間数のうちOFF-JTは1割以上、OJTは9割以下 (※8) 1年度1事業所当たり5,000万円を上限とする。 (4) 手続の流れ (5) 活用のポイント 事業所都合による事業縮小に伴い離職せざるを得ない人の中には、現役で活躍する人材も多いと思われるが、それら人材を雇い入れて新たな環境に適応できるよう訓練を実施し、従前事業所での技術技能や知識経験を活かし就労してもらいたい事業所には、特に有効と思われる。 (了)
