公開日: 2014/11/13 (掲載号:No.94)
文字サイズ

法人税に係る帰属主義及びAOAの導入と実務への影響 【第1回】「改正の趣旨と背景」

筆者: 小林 正彦

法人税に係る帰属主義及び

AOAの導入と実務への影響

【第1回】

「改正の趣旨と背景」

 

税理士法人トーマツ
パートナー
税理士 小林 正彦

《本連載の構成》

1 はじめに

2 改正の趣旨と背景

2-1 総合主義から帰属主義へ

2-2 AOAの導入

3 改正の内容

3-1 外国法人の法人税

3-2 内国法人の法人税

3-3 外国法人の所得税

4 企業活動への影響

5 適用開始日(平成28年4月1日以降開始事業年度)までに準備すべき事項

1  はじめに

平成26年度税制改正において、外国法人及び非居住者(以下「外国法人等」という)に対する課税原則が、総合主義から帰属主義に大きく変わるとともに、帰属主義の適用方法として、OECDモデル条約が採用しているAOAが導入された。

AOAとは、帰属所得の計算に関するOECD公認アプローチ(Authorized OECD Approach) の略称である。その内容は、まず、本店と支店を別々の分離した法人と擬制して、機能分析を行って内部取引を認識する。次に、機能分析の結果に基づいて、本店及び各支店への資産と資本の帰属を確定する。その上で、本支店間の取引価格を移転価格税制と同様の方法で算定し、それに基づいて本店及び各支店の帰属所得を計算する、というものである。

今回の改正の影響を最も大きく受ける者は、わが国に恒久的施設(以下「PE」という)を有する外国法人であるが、国外にPEを有する内国法人や個人の居住者も、外国税額控除の計算に関して影響を受ける。また、所得計算の方法の改正だけでなく、本支店間取引について移転価格税制と同様の文書化義務が課された点が実務的に大きな影響を伴う。

今回の改正の結果、国内法の課税原則をOECDで認められた国際課税原則に合わせたことにより二重課税や二重非課税の発生をある程度防止できることが期待されるというメリットがある。しかし、企業にとって次のような点から、コンプライアンス・コストがかかるという問題がある。

外国法人の日本PEにとっては、課税所得計算方式が、資本配賦の計算をはじめとして多くの点で変更されていること

内国法人で外国にPEを有する法人は、外国税額控除を適用する場合、本支店間内部取引を認識したうえで、PEの帰属所得の算定と文書化について移転価格税制と同様の対応が必要になること。また、海外支店の所在地国がAOAを導入している国か否かで計算方法が異なること

こうしたことから、わが国に支店を有する外国法人だけでなく、外国に支店を有する内国法人にとっても税務コンプライアンス・コストが相当の規模で増加することが予想される。

今回の改正は、平成28年4月1日以降開始事業年度に適用される。
大幅な改正であるため、準備期間を考慮して適用開始まで2年の猶予を見込んでいる。

内容が大幅に変わっただけでなく、改正条文の数からみても膨大な量の改正であるため、影響を受ける納税者にとって相当な準備期間を要する。対象となる企業は、早期に影響を評価し適時に対応策の検討を開始する必要がある。

本連載では、改正の趣旨・概要をできるだけ分かりやすく解説するとともに、実務への影響について考察する。

なお、今回の改正は個人の居住者・非居住者にも影響があるが、本稿では法人についての説明となっていることに留意されたい。

また、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者の所属する団体の見解ではないことをお断りしておく。

 

2 改正の趣旨と背景

2-1 総合主義から帰属主義へ

外国法人や非居住者の課税の範囲については原則として国内源泉所得のみに課税するのが国際的に確立した課税ルールであり、わが国の税法もそれに従っている。国内源泉所得のうち、PEに帰属する所得のみに課税するのが「帰属主義」であり、PEがあればPEに帰属しない所得も含めてすべての国内源泉所得に課税するのが「総合主義」である。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

法人税に係る帰属主義及び

AOAの導入と実務への影響

【第1回】

「改正の趣旨と背景」

 

税理士法人トーマツ
パートナー
税理士 小林 正彦

《本連載の構成》

1 はじめに

2 改正の趣旨と背景

2-1 総合主義から帰属主義へ

2-2 AOAの導入

3 改正の内容

3-1 外国法人の法人税

3-2 内国法人の法人税

3-3 外国法人の所得税

4 企業活動への影響

5 適用開始日(平成28年4月1日以降開始事業年度)までに準備すべき事項

1  はじめに

平成26年度税制改正において、外国法人及び非居住者(以下「外国法人等」という)に対する課税原則が、総合主義から帰属主義に大きく変わるとともに、帰属主義の適用方法として、OECDモデル条約が採用しているAOAが導入された。

AOAとは、帰属所得の計算に関するOECD公認アプローチ(Authorized OECD Approach) の略称である。その内容は、まず、本店と支店を別々の分離した法人と擬制して、機能分析を行って内部取引を認識する。次に、機能分析の結果に基づいて、本店及び各支店への資産と資本の帰属を確定する。その上で、本支店間の取引価格を移転価格税制と同様の方法で算定し、それに基づいて本店及び各支店の帰属所得を計算する、というものである。

今回の改正の影響を最も大きく受ける者は、わが国に恒久的施設(以下「PE」という)を有する外国法人であるが、国外にPEを有する内国法人や個人の居住者も、外国税額控除の計算に関して影響を受ける。また、所得計算の方法の改正だけでなく、本支店間取引について移転価格税制と同様の文書化義務が課された点が実務的に大きな影響を伴う。

今回の改正の結果、国内法の課税原則をOECDで認められた国際課税原則に合わせたことにより二重課税や二重非課税の発生をある程度防止できることが期待されるというメリットがある。しかし、企業にとって次のような点から、コンプライアンス・コストがかかるという問題がある。

外国法人の日本PEにとっては、課税所得計算方式が、資本配賦の計算をはじめとして多くの点で変更されていること

内国法人で外国にPEを有する法人は、外国税額控除を適用する場合、本支店間内部取引を認識したうえで、PEの帰属所得の算定と文書化について移転価格税制と同様の対応が必要になること。また、海外支店の所在地国がAOAを導入している国か否かで計算方法が異なること

こうしたことから、わが国に支店を有する外国法人だけでなく、外国に支店を有する内国法人にとっても税務コンプライアンス・コストが相当の規模で増加することが予想される。

今回の改正は、平成28年4月1日以降開始事業年度に適用される。
大幅な改正であるため、準備期間を考慮して適用開始まで2年の猶予を見込んでいる。

内容が大幅に変わっただけでなく、改正条文の数からみても膨大な量の改正であるため、影響を受ける納税者にとって相当な準備期間を要する。対象となる企業は、早期に影響を評価し適時に対応策の検討を開始する必要がある。

本連載では、改正の趣旨・概要をできるだけ分かりやすく解説するとともに、実務への影響について考察する。

なお、今回の改正は個人の居住者・非居住者にも影響があるが、本稿では法人についての説明となっていることに留意されたい。

また、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者の所属する団体の見解ではないことをお断りしておく。

 

2 改正の趣旨と背景

2-1 総合主義から帰属主義へ

外国法人や非居住者の課税の範囲については原則として国内源泉所得のみに課税するのが国際的に確立した課税ルールであり、わが国の税法もそれに従っている。国内源泉所得のうち、PEに帰属する所得のみに課税するのが「帰属主義」であり、PEがあればPEに帰属しない所得も含めてすべての国内源泉所得に課税するのが「総合主義」である。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

「法人税に係る帰属主義及びAOAの導入と実務への影響」(全15回)

【第1回】 「改正の趣旨と背景」

1 はじめに

2 改正の趣旨と背景

2-1 総合主義から帰属主義へ

2-2 AOAの導入

2-3 改正の概要

2-3-1 外国法人の日本支店の課税所得計算の見直し(概要)

2-3-2 内国法人に影響する改正点(概要)

【第2回】 「改正の内容①」

3 改正の内容

3-1 外国法人の法人税

3-1-1 改正の概要

3-1-2 国内源泉所得(ソ-スル-ル)の改正

3-1-3 課税標準の改正

3-1-4 PEの定義の不変更

【第3回】 「改正の内容②」

3-1-5 恒久的施設帰属所得金額の計算

3-1-5-1 恒久的施設帰属所得に係る所得の金額の計算

3-1-5-2 還付金等の益金不算入

3-1-5-3 保険会社の投資資産及び投資収益

【第4回】 「改正の内容③」

3-1-5-4 PE帰属資本に対応する負債利子の損金不算入

【第5回】 「改正の内容④」

3-1-5-5 外国銀行等の資本に係る負債利子の損金算入

3-1-5-6 法人税額から控除する外国税額の損金不算入

3-1-5-7 本店配賦経費に関する書類の保存がない場合における本店配賦経費の損金不算入

3-1-5-8 PEの閉鎖・再進出の扱い

【第6回】 「改正の内容⑤」

3-1-6 恒久的施設非帰属所得に係る所得金額の計算

3-1-7 繰越欠損金

3-1-8 税額の計算

【第7回】 「改正の内容⑥」

3-1-9 中間申告

3-1-10 確定申告

3-1-11 納付

3-1-12 還付

3-1-13 更正の請求

3-1-14 青色申告

【第8回】 「改正の内容⑦」

3-1-15 PEに係る取引に係る文書化

3-1-16 更正及び決定

3-1-17 帳簿書類の備付け等

【第9回】 「改正の内容⑧」

3-1-18 PEの定義

3-1-19 外国法人の内部取引に係る課税の特例(独立企業原則の適用)

【第10回】 「内国法人の法人税①」

3-2  内国法人の法人税

3-2-1 外国税額控除の改正

3-2-1-1 国外源泉所得

【第11回】 「内国法人の法人税②」

3-2-1-2 国外所得金額の計算

【第12回】 「内国法人の法人税③」

3-2-1-3 控除限度額の計算

3-2-1-4 外国税額控除の対象とならない外国法人税の額

3-2-1-5 文書化

3-2-1-6 適格合併が行われた場合の繰越控除限度額等

3-2-2 連結事業年度における外国税額の控除

【第13回】 「外国法人の所得税」

3-3 外国法人の所得税

3-3-1 外国法人に係る所得税の課税標準

3-3-2 国内に恒久的施設を有する外国法人の受ける国内源泉所得に係る課税の特例

【第14回】 「企業活動への影響」

4 企業活動への影響

4-1 外国法人・内国法人に共通の影響

4-1-1 AOA導入国がまだ少ないことによる影響

4-1-2 移転価格並みの独立企業間価格の計算と文書化が必要なこと

4-1-3 重要な人的機能の認識により所得配分のあり方が変わること

4-1-4 資本配賦計算が必要になること

4-2 日本に支店をもつ外国法人への影響

4-3 外国支店を有する内国法人への影響

【第15回】 「適用開始日までに準備すべき事項」

5 適用開始日(平成28年4月1日以降開始事業年度)までに準備すべき事項

5-1 外国法人の日本支店の準備

5-2 国外PEを有する内国法人の準備

筆者紹介

小林 正彦

(こばやし・まさひこ)

デロイト トーマツ税理士法人 東京事務所
移転価格サービス
パートナー/税理士

1957年生まれ
長野県松本市出身

【職歴】
・1980年4月東京国税局採用
・1980年から2006年まで、国税庁、東京国税局調査部、東京国税局管内税務署において移転価格・相互協議、APA審査、法人税調査、所得税調査、源泉税調査事務等国際課税関係事務を中心に幅広い国税に関する実務を経験
・2006年7月税大研究部教授を最後に国税庁を退官、税理士法人トーマツに入社
・2008年7月パートナー就任
・現在、移転価格サービス所属パートナー、租税争訟支援サービスチームのヘッドとして、移転価格を含む税務調査対応、不服申立て、移転価格プランニング、APA申請、相互協議等に幅広い分野に関するコンサルティング業務に従事

【著書】
・『平成25年1月施行の実務に対応!税務調査のすべてQ&A』共著(清文社)

#