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公的年金制度の“今”を知る 【第2回】「平成24年の年金改革に対する評価と課題」

公的年金制度の“今”を知る 【第2回】 「平成24年の年金改革に対する評価と課題」   特定社会保険労務士 大東 恵子   1 平成24年の年金改革の主な内容と評価 平成24年の通常国会において、社会保障と税一体改革関連法案8法が可決され、「年金機能強化法」と「被用者年金一元化法」が成立した。 年金財政の持続可能性の確保のため、税制抜本改革により確保される安定財源によって、平成26年度から基礎年金国庫負担1/2が恒久化される見通しになった。また、「被用者年金一元化法」の成立により、長年の懸案であった被用者年金の一元化が平成27年10月1日に実施されることにより、年金の官民格差が是正される見通しとなった。 このことから、抜本的な年金改革に向けて、これまで進まなかった改革項目に一定の決着がつき、一歩前進する見通しとなったことは評価できる。   2 「年金機能強化法」 「年金機能強化法」のうち、私たちの生活に直接関連する年金制度改革の主要5項目について解説し、その評価と課題を述べる。 (1) 基礎年金の国庫負担の割合1/2を恒久化 平成16年改正で導入された財政の枠組みを完成させるため、平成26年4月から消費税財源を用いて、基礎年金給付費の国庫負担の割合を1/2とすることを恒久化。 (2) 受給資格期間を10年に短縮(平成27年10月施行予定) 将来の無年金者の発生を抑え、より多くの人を年金受給に結びつけるため、受給資格期間を現在の25年から10年に短縮。また、寡婦年金(国民年金保険料の納付済期間と免除期間を合わせて25年以上ある夫が、年金をもらわずに死亡したとき、妻に給付される年金)の受給要件も10年と短縮される。 ただし、老齢基礎年金を受け取れる権利ができるということと、満額の年金を受け取れるということは別問題で、受給資格期間が10年では、満額の年金にはほど遠い年金額となる。 20歳から60歳になるまでの40年間、1ヶ月も欠けることなく年金を納めた場合に、老齢基礎年金は満額(平成24年度は786,500円)となる。仮に保険料納付済期間が10年であれば年額20万円足らずとなる。 この制度の目的はあくまでも無年金者の救済であり、保険料納付が10年で許されるという意味ではない。満額の年金を受け取るためには、従来どおり20歳から60歳になるまで40年間の保険料納付が必要であるという理解が不可欠である。 (3) 短時間労働者への厚生年金・健康保険の適用拡大(平成28年10月施行予定) これまで厚生年金・健康保険などの被用者保険のメリットを受けられなかった短時間労働者も、一定の条件を満たせば加入可能になる。現在の加入基準は、労働時間および労働日数が正社員の約3/4(目安として週に30時間)以上働く短時間労働者の場合は加入しなければならない。 この改正ではこの基準が緩和され、 という4要件を満たしていれば、厚生年金(健康保険も併せて)に強制加入となる。 中小企業では、法改正を見据え、短時間労働者の雇用形態を社会保険加入の有無による2つの雇用コースを設け、時間管理・賃金管理をしていく必要があろう。 (4) 産休期間中の保険料免除 次世代育成支援のため、育休中の社会保険料免除に加え、平成26年4月から、産休期間中も被保険者・事業者双方の社会保険料が免除に。また、「年金機能強化法」の附則には、国民年金第1号被保険者に対しても、産前産後期間の国民年金保険料の納付義務を免除する措置について検討が行われるようにする規程が設けられていることも紹介しておく。 (5) 遺族基礎年金の支給対象を父子家庭に拡大(平成26年4月1日施行) 平成26年4月からは、父子家庭にも遺族基礎年金が支給される(平成26年4月以降に死亡した方の遺族年金が対象)。これまでは、遺族基礎年金を受け取ることができる受給権者は、子ども(18歳年度末まで等の要件あり)のある妻、子どもに限定されており、夫は対象外であった。しかし、男女間の公平という観点から、遺族基礎年金の対象者を「子のある妻」から「子のある配偶者」に改め、施行日以降に発生した父子家庭は遺族基礎年金の対象となった。   3 「被用者年金一元化法」の主な内容 「被用者年金一元法」とは、年金の官民格差を是正するため、会社員の「厚生年金」と、公務員の「共済年金」を統合して一元化することである。共済年金制度は、平成27年10月から厚生年金へ統合され、被用者年金制度が一元化される。 これは、今後の少子高齢化に備え、年金制度の規模を拡大して財政の安定を図るとともに、民間企業の会社員と公務員(国立大学法人等職員、私学教職員)とが同一の年金制度に加入することで、公的年金制度全体での公平性を保つためである。 具体的には、次のような変更がなされる。   4 平成24年の年金改革の課題 当初の「年金機能強化法」に盛り込まれていた考えのうち、次の2点は原案から削除された。 「年金生活者支援給付金の支給に関する法律案」は新たな財源を伴うものであり、「年金生活者支援給付金の支給に関する法律案」は退職等により所得状況が急変した場合の対応については言及がないことなど、拙速な法改正を回避したものと思われるが、現役世代の将来の年金財源の確保や、世代間の公平、過剰給付をこれ以上拡大させないためにも、見送られた法案の早期成立が期待される。 *   *   * 次回(第3回)では、今後の年金制度はどうあるべきかについての考察を行う。 (了)
#94(掲載号)
#大東 恵子
2014/11/13
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常識としてのビジネス法律 【第17回】「独占禁止法《平成25年改正対応》(その2)」

常識としてのビジネス法律 【第17回】 「独占禁止法《平成25年改正対応》(その2)」   弁護士 矢野 千秋   第3 共同行為の規制 1 総説 共同行為の規制には、「不当な取引制限の禁止」(独3条後段)、「不当な取引制限または不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的協定・契約の締結禁止」(独6条)、および「事業者団体の活動規制」(独8条)がある。 前回に説明した企業結合のような「固い結合」ではなく、契約、協定等による「ゆるい結合」である。   2 不当な取引制限 (1) 意義 「不当な取引制限」とは、経済学用語のカルテルであり、談合(入札談合)という呼称で報道されている共同行為を指す。事業者が「他の事業者と共同して対価を決定する等し」「相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより」「公共の利益に反して」「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義されている(独2条6項)。 (2) 共同行為 不当な取引制限が成立するためには、事業者が他の事業者と「共同して」対価(価格)の決定や数量制限等を行う行為=共同行為でなければならない。この共同行為は、単に外形的に一致した行為(客観的要件)があるだけでは不十分であり、進んでそれが当事者間の主観的な結びつきの要件(主観的要件)であることが必要である。 東芝ケミカル審決取消請求事件判決(東京高判平成7・9・25判タ906号136頁)は、相互の間に「意思の連絡」があったと認められることが必要とする。そして「意思の連絡」とは、明示の合意までは必要でなく(通常ないであろう)、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して暗黙のうちに認容することで足りるとする。 ただし、この「意思の連絡」を直接証拠によって立証するのは極めて困難である(通常そのような証拠は残さないであろう)。 そこで前記判決は と判示している。つまり、 ということである。 公取委も基本的に前記判決と同一の立場を採っている(協和エクシオ入札談合課徴金事件・審判審決平成6・3・30審決集40・49)。 (3) 行為要件「相互拘束・共同遂行」 「相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」が不当な取引制限の行為要件として必要であり、前者を「相互拘束」、後者を「共同遂行」として説明される。しかし公取委も判例も、「相互拘束」に限定し「共同遂行」は独立の要件ではないという解釈を維持している。「相互拘束」のない「共同遂行」は「不当な取引制限」に該当しないということであろう。 価格カルテルや数量制限カルテルにみられるように、合意によって事業活動に対する制約を相互に課すことが、ここでいう「相互拘束」である。その制約を実効性のあるものにするための制裁等の定めは必要とされない。 石油価格カルテル刑事事件最高裁判決も、 と判示している。すなわち紳士協定であっても「相互拘束」の要件を充たす。 (4) 共同行為の種類・内容 ① 価格カルテルと数量制限カルテル カルテルの典型例が、価格カルテルである。単に共同で販売価格を決める場合に限定されず、最高価格や最低価格を設定する場合にも成立する。また、価格に一定の幅を持たせてその範囲を限定したり、価格の算定方式を共通にしたり、あるいは目標価格や標準価格を設定することによって価格を制限する場合にも成立する。 数量制限カルテルは、生産量を制限したり販売量を制限したりするカルテルである。数量を制限することによって、価格を一定に保ったり操作したりすることが可能になるので、結果的に価格カルテルと変わらない。一般的な方法は、全体の供給量(生産量)を決めておいて、それをカルテル参加者が生産の実績に合わせて割り当てられることである。これにより価格競争などがなくなる恐れがあり、価格制限と同じく厳格な規制がなされるハードコアカルテルである。 ② 顧客・販路制限カルテル・市場分割カルテル 共同して(相互に)取引先を制限する行為である。顧客や販路を制限することであり、いわゆる市場分割協定(カルテル)を意味する。 ③ 談合(入札談合)・官製談合 ほとんどの事例は、入札に関する受注調整である。受注を調整する話し合いが談合であり、不当な取引制限に該当する。談合によって価格が人為的にコントロールされるので、価格カルテルと同様である。 (5) 市場効果要件 ① 「公共の利益に反して」 通説・公取委は、「公共の利益=自由競争経済秩序」であるとして、「公共の利益に反して」の文言を重視しない立場である。この立場にたてば、価格カルテルや数量制限カルテルなどは自由競争経済秩序に反する行為であることから、当然に「公共の利益に反する」ことになる。 石油価格カルテル刑事事件における最高裁の判断は、公共の利益=自由競争経済秩序(通説・公取委)としつつ、カルテルの例外(究極の目的=一般消費者の利益の確保等)を認めた中間的なものであり、通説に近い解釈を示したものである。 ② 「一定の取引分野における競争の実質的制限」 「競争を実質的に制限する」とは、市場支配力を形成・維持・強化することをいう。すなわち相互拘束・共同遂行によって参加当事者間の競争を回避し、これによって競争的な価格ではなく、自由な価格設定のメカニズムを左右していると認められる場合に成立する。 競争の実質的制限に関する公取委の姿勢は、当該カルテルの内容と参加事業者の市場占拠率を判断基準の中心に据えている。共同行為に参加する事業者の市場占有率が50%を超えている場合には通常「競争を実質的に制限する」とされている。もっとも価格制限等のハードコアカルテルの場合は、その分野で実効性のある共同行為がなされている場合は、この要件を充たすものとされる。 (6) その他 ① 国際的協定・契約の規制(独6条) ② 事業者団体の規制(独8条)   第4 不公正な取引方法の禁止 1 総説 (1) 目的 独禁法の3つの規制のうち、私的独占および不当な取引制限は、市場における競争の実質的制限の禁止によって「自由な競争」を維持することを主たる目的としているのに対し、不公正な取引方法は「公正な競争を阻害するおそれがある」行為を規制している。 (2) 特殊指定と一般指定 独禁法2条9項では不公正な取引方法について定義している。「不公正な取引方法」とは、9項1号ないし5号に規定する行為および同項6号イ~へに該当する行為で、「公正な競争を阻害するおそれ(公正競争阻害性)」があるもののうち、公取委が指定するものとされる。 「指定」には特殊指定と一般指定の2種類がある。 「特殊指定」は事業分野を限った指定で、大規模小売業による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法(不当な返品、不当な値引、特売商品等の買いたたき、などである)、新聞業(日刊新聞発行業者が、地域又は相手方により、異なる定価で販売する等である)、特定荷主が物品の運送または保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法の3種が指定されている。 「一般指定」は、業種のいかんにかかわらずすべての事業者に一般的に適用されるものであり16項目からなっていたが、平成21年改正により下記の一部が独禁法2条9項1号ないし5号に規定された(排除措置命令だけでなく課徴金納付命令も課すためである)。 結果、現行では15項目となっている。 (3) 公正競争阻害性 「公正競争阻害性」が違法性の基本的な判断基準となる。独禁法2条9項1号ないし5号に規定する行為および同項6号イ~へに該当する行為で一般指定された各行為類型をみると、「正当な理由がないのに」、「不当に」、「正常な商習慣に照らして不当に」という用語が用いられているが、これらは公正競争阻害性を意味するものである。 ① 「正当な理由がないのに」が用いられている行為については、かかる文言を除いても残りの文言それだけで「公正競争阻害性」を有するので、かかる行為については、原則として「違法」とされる。例外的に「正当な理由」があれば適法となるということだからである。 ② 「不当に」、「正常な商習慣に照らして不当に」が用いられている行為については、かかる文言を除いた残りの文言だけでは「公正競争阻害性」を認めがたい。したがって、個別具体的に「公正競争阻害性」を判断する必要があり、かかる行為については、原則として「適法」とされる。例外的に「不当な事由」があれば違法となるということだからである。 この「公正競争阻害性」の概念は、独禁研報告(※)が①「競争の減殺」②「競争手段の不公正さ」③「競争基盤の侵害」の3種に分類し、これが通説になっている。   2 差別的取扱い(独2条9項6号イ) (1) 総説 独禁法2条9項6号イは「不当に他の事業者を差別的に取り扱うこと」と規定し、これに基づいて一般指定1項から5項が定められている。 平成21年改正により、1項「共同の取引拒絶」中の供給拒絶型が独禁法2条9項1号に規定され、3項「不当な差別対価」中の不当廉売型が独禁法2条9項2号に規定された。そして法定された行為に対しては課徴金が課されることになった(独20条の2)。 これらの差別的取扱いの公正競争阻害性は、独禁研報告の①「競争の減殺」に当たる。 (2) 共同の取引拒絶(一般指定1項) 共同の取引拒絶とは、正当な理由がないのに「自己と競争関係にある他の事業者と共同して」、ある事業者に対し取引を拒絶しまたは取引に係る商品もしくは役務の数量もしくは内容を制限すること(1号:共同の「直接取引拒絶」=一次ボイコット)と他の事業者に前号に該当する行為をさせること(2号:共同の「間接の取引拒絶」=二次ボイコット)である。 前者は、メーカーが共同して安売り業者との取引を拒絶したり、原料の仕入れ会社甲とは取引するが原料の仕入れ会社乙とは取引しないという場合などである。後者は、販売業者が共同してメーカーに安売り業者との取引を拒絶させることなどである。 共同の取引拒絶は、競争者が共同して特定の事業者を市場から排除する目的で行われるのが通常であるから、ある程度の実効性がある限り「競争の減殺」に当たり、原則として公正競争阻害性が認められる。独禁法2条9項1号でも一般指定1項でも「正当な理由がないのに」とされている。 これらの取引拒絶のうち「供給を拒絶しもしくは制限し、または供給を拒絶させもしくは制限させる」供給拒絶型の共同ボイコットが、平成21年改正により、独禁法2条9項1号に規定され課徴金の対象とされた。以下に条文を記す。 これにより「供給を受ける型」が一般指定1項に残された。 着うた事件は、着うた提供事業に必要な楽曲の原盤権を有しているレコード会社5社が共同出資会社を設立して、当該会社に着うた提供業務を委託する一方、着うた提供事業に参入しようとする者に対し、5社が有する原盤権の利用許諾を共同して拒絶する行為が不当な共同の取引拒絶に当たるとされた(東京高判平成22・1・29)。 (3) 単独の取引拒絶(一般指定2項) 単独の取引拒絶とは、「不当に、ある事業者に対し取引を拒絶し若しくは取引に係る商品若しくは役務の数量若しくは内容を制限し、又は他の事業者にこれらに該当する行為をさせること」である。 「不当に」と規定されている通り、原則として、事業者が誰と取引するかは事業者の取引先選択の自由であり適法である。しかし公正競争阻害性(競争の減殺)の観点から、単独の取引拒絶が違法となる場合がある。 単独の取引拒絶が、①独禁法上違法・不当な目的達成のための手段として用いられたり、②相手方の事業活動を困難に陥れる以外に、なんら理由がないのに用いられたり、③濫用的行為の場合などである(これらが「不当に」の内容である)。すなわち、取引拒絶を実行し、これによって取引を拒絶される事業者の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合や、再販売価格の拘束、排他条件付取引などの独禁法上違法な行為の実行を確保するための手段として用いられる場合である。 (4) 不当な差別対価(一般指定3項) 不当な差別対価とは「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」である。 地域によって市場価格に対応する価格が設定され、また大口顧客に値引きをすることは当然に許容される。問題は地域的ダンピングなどや、安売り業者やアウトサイダーなどに高く売りつける場合である。 地域的差別対価の事例としては、全国展開している事業者が特定の地域に的を絞って、当該地域で事業展開している競争者よりも低価格を当該地域に設定した事例があり、相手方による差別対価の事例としては、組合への加入を促進するために取引価格に格差を設け、非組合員には組合員より高い価格で供給した事例がある。 不当な差別対価の公正競争阻害性は「競争の減殺」にあるとするのが通説である。 これら不当な差別対価は、実質的には「不当廉売」(独2条9項3号)に酷似している。そこで、これらの不当な差別対価のうち「商品または役務を継続して供給し」「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある」(不当廉売の2要件である)不当廉売型の不当な差別対価が、平成21年改正により、独禁法2条9項2号に規定され課徴金の対象とされた(独20条の3)。 以下に条文を記す。 第2次北国新聞社事件では、北国新聞社が石川県を主たる販売地域とする北国新聞を基に、富山新聞を新たに発行し、両新聞に大きな価格差を付けたことが、富山県にある競争誌の排除を図ったとされた。前提として両新聞が同一の商品(差別対価の前提条件)かが問題となり、本決定は地方的記事については差異があるが、全国的一般的記事についてはほとんど同一であり、同一新聞と認めて妨げないとした(東京高決昭和32・3・18行集8・3・443)。 (5) 不当な差別的取扱い(一般指定4項) 不当な差別的取扱いとは「不当に、ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利な又は不利な取扱いをすること」である(対価以外の条件)。 加盟店を拘束する目的でリベート(割戻金)の交付、取引保証金の没収等の不利益を与える規定を規約・約定書に設けていた事例などがある。 不当な差別的取扱いの公正競争阻害性は「競争の減殺」にあるとするのが通説である。 (6) 事業者団体における差別的取扱い等(一般指定5項) 事業者団体における差別的取扱い等とは「事業者団体若しくは共同行為からある事業者を不当に排斥し、又は事業者団体の内部若しくは共同行為においてある事業者を不当に差別的に取扱い、その事業者の事業活動を困難にさせること」である。 「排斥」とは、加入拒否、除名、脱退勧告などであり、「差別的取扱い」とは、共同施設の利用制限や過大な負担の賦課などである。 事業者団体における差別的取扱いの公正競争阻害性は「競争の減殺」にあるとするのが通説である。  (了)
#94(掲載号)
#矢野 千秋
2014/11/13
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《速報解説》 ASBJが「修正国際基準(JMIS)」の公開草案に寄せられたコメントを公表

《速報解説》 ASBJが「修正国際基準(JMIS)」の公開草案に寄せられたコメントを公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年7月31日、 企業会計基準委員会は「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)(案)」を公表し、10月31日まで意見募集を行っていた。 平成26年11月7日(掲載日)、企業会計基準委員会は、修正国際基準の公開草案に寄せられたコメントを公表している。 本稿では、公開草案に寄せられたコメントのうち主なものを取り上げ、紹介することとする。寄せられたコメントには、提出された書面の冒頭などにおいて、コメントの趣旨を詳細に記載しているものもあるので、コメントの詳細については、原文をお読みいただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主なコメント コメントの全体的な傾向としては、国際財務報告基準(IFRS)の任意適用の積み上げ及び国際会計基準審議会(IASB)に対する意見発信の観点から、修正国際基準に賛成する意見が多いように思われる。 ただし、以下に述べる個々の項目については様々な意見が寄せられており、今後の企業会計基準委員会の議論の動向に注意が必要と思われる。 1 修正国際基準を選択する企業の動向について 「修正国際基準」の任意適用が可能となることにより、「日本基準」、「米国基準」、「IFRS」及び「修正国際基準」の4つの会計基準が並存することとなる。 この場合、財務諸表の比較が複雑になる可能性や、修正国際基準導入のコストなどを考えると、修正国際基準を適用する企業がどれほどあるのかについて疑問を示すコメントもある。 2 「削除又は修正」の判断基準などについて 「削除又は修正」した箇所についてだけ、ASBJ が修正国際基準として公表する方式に賛成するコメントが多いように思われる。 ただし、すでにIFRS を任意適用している企業があることを考えると、「実務上の困難さ」を理由に削除又は修正を認めることに懸念を示すコメントもある。 3 のれんの会計処理 のれんの非償却に関する規定の「削除又は修正」について、基本的に同意するコメントが多いように思われる。 ただし、のれんの償却年数を20年に制限することや、耐用年数を確定できない無形資産の非償却を「削除又は修正」しないことに同意しないコメントも寄せられている。 4 その他の包括利益項目のノンリサイクリング処理 その他の包括利益項目のノンリサイクリング処理については、基本的に同意するコメントと、個別の項目について反対するコメントが寄せられている。 例えば、IFRS 第9号(完成版)が2018年1月1日から原則適用されるとIAS第39号は廃止され、IAS第39号の減損に関する定めもなくなることから、資本性金融商品についてリサイクリング処理とあわせて減損処理を導入することは適切でないとするコメントがある。 5 教育文書の開発 修正国際基準に対するガイダンスや教育文書が開発されることは、我が国におけるIFRSの適用拡大に役に立つ可能性があるとして、賛成するコメントが寄せられている。 ただし、IFRS に関する解釈や教育文書については、IASB やIFRS 解釈指針委員会とのコミュニケーションなどが必要と考えるコメントも寄せられている。 6 今後の日本基準の位置づけについて IFRS のエンドースメント手続に並行し、我が国会計基準の改善を進めることや、単体決算との関連も踏まえ「日本基準」の位置付けについて検討を要望するコメントも寄せられている。 (了)
#93(掲載号)
#阿部 光成
2014/11/11
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《速報解説》 「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」等の改正(確定)について~「監査・保証 実務委員会実務指針第90号」の改正にも注意~

《速報解説》 「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」等の改正(確定)について ~「監査・保証実務委員会実務指針第90号」の改正にも注意~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成26年11月4日付けで(掲載日11月7日)、 日本公認会計士協会は次の実務指針を公開した。 ①会計制度委員会報告第15号の21-2項は、公開草案に対するコメントを受けて、確定版では公開草案から修正されている。 ③については、「更新(リファイナンス)時の会計処理に関する留意点」を述べたQ16の削除である。 ①及び②については、平成26年8月18日に公開草案が公表されているが、③の改正については、公開草案を公表せずに行う改正であるので、適用に際しては注意が必要である。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正事項 1 会計制度委員会報告第15号関係 次の改正が行われている。 公開草案に寄せられたコメントの概要とその対応についても公表されているので、ぜひ、お読みいただきたい。 上記の会計制度委員会報告第15号の改正に伴い、「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針についてのQ&A」の次のQ5が削除されている。 2 監査・保証実務委員会実務指針第90号関係 前述の会計制度委員会報告第15号の改正に伴い、「特別目的会社を利用した取引に関する監査上の留意点についてのQ&A」(監査・保証実務委員会実務指針第90号)の次のQ16が削除されている。   Ⅲ 適用時期 「会計制度委員会報告第15号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」の改正について」(平成26年11月4日)及び「監査・保証実務委員会実務指針第90号「特別目的会社を利用した取引に関する監査上の留意点についてのQ&A」の改正について」(平成26年11月4日)は、平成27年4月1日以後開始する事業年度から適用する。 (了)
#93(掲載号)
#阿部 光成
2014/11/10
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《速報解説》 国税庁、HPで質疑応答事例を更新~設備投資減税に係る5問含め全22問を新設

《速報解説》 国税庁、HPで質疑応答事例を更新 ~設備投資減税に係る5問含め全22問を新設   Profession Journal編集部   国税庁は11月5日付けでホームページ上の質疑応答事例を更新し、全22問が新たに追加された。 新設された22問の内訳だが、法人税に関する事例が11問と最も多く、その他、所得税3問、源泉所得税1問、相続税・贈与税1問、財産の評価4問、印紙税2問となっている(譲渡所得、消費税、酒税関係、法定調書については新設事例なし)。22問の各リンク先についてはページ下部に一覧表を掲載している。 平成26年度改正で創設され注目度の高い生産性向上設備投資促進税制(措法42の12の5)や中小企業投資促進税制(措法42の6)など設備投資に係る減税措置に関しては、下記の事例が追加されている。 なお、上記のうち③④⑤については経済産業省ホームページにて公表された「Q&A集」にも同趣旨の解説が記載されている。 また平成25年度改正で適用要件が緩和された有料老人ホーム入居者に係る小規模宅地等の評価減特例(措法69の4)については、ようやく改正後の取扱いが盛り込まれた。 が新設されており、 との問いに対し と回答し、これに加えて改正後の適用要件が簡略にまとめられている。 ちなみに老人ホームの入居に関する特例適用については、改正前の取扱いも併せて掲載されているが、これは昨年以前の相続開始であっても未分割のケースなどの参考となるように配慮されたものである。 なお、新設された22問の一覧とリンク先は下記のとおり。   (了)
#93(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2014/11/06
お知らせ その他お知らせ

Profession Journal No.93が公開されました!~今週のお薦め記事~

2014年11月6日(木)AM10:30、Profession Journal(プロフェッションジャーナル)  No.93 が公開されました。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2014/11/06
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.22-「始まるいわゆる『出国税』の検討」

monthly TAX views -No.22- 「始まるいわゆる『出国税』の検討」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   10月21日に開催された政府税調基礎問題小委員会で、いわゆる「出国時の譲渡所得課税の特例」が提出された。この段階で提出されたということは、来年度改正で導入に向けた議論が始まるということであろう。 「出国時特例」とは、 のことをいう。 背景には、今後行われる相続税や所得税の課税強化を前に、日本の富裕層が日本脱出を図るタックスプランニングが盛んになりつつあり、また、富裕層を対象とした、タックスヘイブン国への脱出をアドバイスする書物やサービスも拡大しているという事情がある。 政府税調資料によると、シンガポール、香港、ニュージーランド、スイスといったキャピタルゲイン非課税国への永住者数は、ここ10年で2倍以上増加している。 ここ2、3年の間に、国外財産調書制度の創設(平成24年度改正)、受贈者の国籍を外国籍化する相続・贈与税回避スキームへの対応(平成25年度改正)などが行われてきたのだが、来年に予定される相続税増税や、引き続く所得税増税は、この流れを加速するものとの認識があるのだろう。 実は筆者は、この税制をこれまで提唱してきた。 例えば、拙稿「税制之理【第75回】今後の議論となるか、出国税」(『税務弘報』13年7月号)や、ダイヤモンドオンラインの「目覚めよ!納税者【第53回】富裕層がシンガポール、香港に脱出─彼らの狙う租税回避をどう防ぐ(13年7月12日)」である。 その理由は、国は自国の居住者に対する全世界所得に対して課税権を持つという先進諸国で確立されたルールをかいくぐることは、国家にとって見過ごすべきではない、という考え方による。税収減になることや、正直者が馬鹿を見るといった納税道義の問題が生じるからである。 これに対しては、日本国政府の税金の使い方には大きな問題がある、といった反論がある。それはその通りだと共感するし、それは厳しく追及すべきだと思うが、この問題(国際的租税回避に厳しく対応していくこと)とは分けて考える必要があろう。 現に、米国、英国、フランス、ドイツ、カナダなどほとんどの先進国は、このような税制を持っている。わが国でこのような法制が遅れたのは、「日本人は外国に居住などすることはない」という、一種の神話のようなものが長く存在してきたからだろう。 しかしこの税制は、主に執行上のさまざまな課題があるので、導入に当たっては、十分な検討を要する。国際税制の専門的知識の不十分な委員が多い政府税制調査会の検討では不十分なので、実務的に十分詰めてほしい。 出国税導入に当たっての課題を整理すると、以下のとおりである。 第1に、出国時に時価評価をしなければならないが、それが執行上可能かという問題である。 株式などの資産は、評価益が実現した段階で課税する「実現主義」となっている。これを、非居住性になる際を課税のタイミングととらえて、出国直前の居住者に対して、出国直前に資産を譲渡したものとみなして、時価で株式等を評価してその譲渡益(キャピタルゲイン)に対して課税を行う具体的な方法を詰める必要がある。 第2に、どこまでの資産を対象とするかという問題である。 諸外国をみると、株だけでなく資産一般を対象とする国から、株式等に限定する国など、その対象範囲はさまざまである。 第3に、二重課税の調整をどうするのかという問題で、これが最も悩ましい。 日本と居住国で二重課税(同じ課税所得に複数回課税すること)になる場合に、その調整をどうするのかということだが、二重課税は避ける必要がある。 先進諸国をみると、出国した後も引き続き(日本の)居住者として課税する方式や、国内源泉所得の範囲を拡大して非居住者として課税する方式をとっている場合もある。 英国は、出国者が5年以内に再入国して居住者となった時点で、国外で実現した所得に対して課税する方式をとっている。 このような税制には詰めるべき論点も多く残っているので、実際に導入されている先進諸国の例を参考にしながら、十分な検討を行う必要がある。 (了)
#93(掲載号)
#森信 茂樹
2014/11/06
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈平成26年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「通勤手当の非課税限度額の引上げ」

〈平成26年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「通勤手当の非課税限度額の引上げ」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子     (1) 改正の概要 非課税とされる通勤手当の範囲は、所得税法施行令において、〈表1〉のとおり定められている(所法9①五、所令20の2)。 〈表1〉 非課税とされる通勤手当 今回の改正は、〈表1〉のうち、②自転車その他の交通用具を使用する人に支給される通勤手当が対象であり、①、③、④の取扱いに変更はない。 ②について、改正前と改正後の非課税限度額を示すと、〈表2〉のとおりである。 〈表2〉 自動車その他の交通用具を使用する人に支給される通勤手当 (注) 改正所令の規定では「自転車その他の交通用具」が「自動車その他の交通用具」とされているが、取扱いについての変更はない。 改正後の規定は、平成26年4月1日以後に支払われるべき通勤手当(※)について適用される。 (※) 4月1日以後に「支払われるべき」通勤手当であって、4月1日以後に「支払われた」通勤手当ではない。規程等により、4月1日以後に支払うこととなっている通勤手当が対象である。   なお、次の通勤手当については、改正後の規定は適用されない(附則2)。   (2) 年末調整における対応 改正所令施行前(平成26年10月19日以前)に支給された通勤手当については、改正前の非課税限度額に基づいて所得税と復興特別所得税が源泉徴収されている。今回の改正により、4月から10月までの源泉徴収の計算に差が生じることもあり得るが、計算のやり直しはしないこととされている(附則3)。 したがって、通勤手当の一部が課税対象となっていた従業員等のうち、改正により新たに非課税となる通勤手当が生じる者がいる場合には、年末調整で過納となっている税額を精算することとなる。 具体的な精算手続は、次のとおりである。 なお、源泉徴収簿全体の記載例は、国税庁ホームページ「年末調整で精算する際の源泉徴収簿の記載例」に掲載された下記を参考にしていただきたい。   (3) 中途退職者への対応 中途退職者の中にも、今回の改正により、課税の対象とされていた通勤手当の一部が非課税となる人がいる可能性がある。 該当者がいる場合には、退職時に交付した源泉徴収票の支払金額を訂正し、訂正後の源泉徴収票を再交付する必要がある。 具体的には、源泉徴収票の「支給金額」欄の金額を、改正後の非課税限度額で計算した金額に訂正するとともに、「摘要」欄に「再交付」と表示して退職者へ交付する。 〈再交付する源泉徴収票の記入例〉 【設例】 平成26年9月30日退職、退職時に交付した源泉徴収票に記入されている支払金額2,250,000円、改正により新たに非課税となる通勤手当の金額13,500円の場合 *  *  * 次回は、「扶養控除等(異動)申告書」の記載内容について解説を行う予定である。 (了)
#93(掲載号)
#篠藤 敦子
2014/11/06
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

こんなときどうする?復興特別所得税の実務Q&A 【第13回】「非居住者へ支払う不動産の譲渡対価から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理」

こんなときどうする? 復興特別所得税の実務Q&A 【第13回】 「非居住者へ支払う不動産の譲渡対価から源泉徴収する 所得税及び復興特別所得税の処理」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   先日、当社は、中古マンションを購入しました。売主は、中国人のA氏です。それに伴い、11月末までにマンションの譲渡対価をA氏の口座へ振り込まなければなりません。マンションの譲渡対価は、5,000万円です。A氏は、中国に在住しており、所得税法上の非居住者です。 非居住者へ支払う不動産の譲渡対価から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税の処理についてご教示ください。 また、非居住者から「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けることにより源泉徴収が免除されるかどうかご教示ください。 非居住者へ不動産(鉱業権、温泉を利用する権利、借家権、土石(砂)等を除く)の譲渡対価を支払う場合、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。ただし、“個人”が自己又はその親族の居住用として不動産を購入し、かつ、その不動産の譲渡対価が1億円以下の場合は、所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなくてもよい(所得税法施行令281条の3)。 今回のケースにおいては、買主が“法人”であるため、10.21%の税率で所得税及び復興特別所得税を源泉徴収しなければならない。 不動産の譲渡対価から源泉徴収する所得税及び復興特別所得税は、次の通りである。 当社は、源泉徴収した所得税及び復興特別所得税5,105,000円を12月10日までに納付しなければならない。 また、非居住者から「外国法人又は非居住者に対する源泉徴収の免除証明書」の提示を受けることにより源泉徴収が免除されるのは、次の①~⑨に限られる。 不動産の譲渡対価は、上記②を除き、源泉徴収は免除されない。したがって、今回のケースにおいては、源泉徴収は免除されない。 (了)
#93(掲載号)
#上前 剛
2014/11/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第13回】「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括②」

組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について 【第13回】 「2つの東京地裁平成26年3月18日判決の総括②」   公認会計士 佐藤 信祐   東京地裁平成26年3月18日判決に係る2つの事件においては、朝長英樹氏から3本の鑑定意見書が出されており、平成23年10月28日にみなし共同事業要件について争われた事件(東京地裁平成23年(行ウ)第228号)に対して提出された内容については、前回解説した通りである。 本事件においては、平成24年5月14日には資産調整勘定について争われた事件(東京地裁平成23年(行ウ)第698号)に対しても提出された鑑定意見書について考察を行うこととする。 (2) 平成24年5月14日付鑑定意見書 ① 概要 本鑑定意見書については、以下の内容について所見を述べるものとなっている。 上記のうち、(ⅲ)については、本事件への当てはめについて記載されたものではなく、包括的租税回避防止規定を適用した場合に、分割法人と分割承継法人の双方に対して適用する必要があるという点を述べているに過ぎないため、本稿においては、(ⅰ)(ⅱ)についてのみ考察を行うこととする。 ② 完全支配関係継続要件における「継続することが見込まれている」の解釈 組織再編税制の全体の体系としては、税制適格要件を満たしたものについては強制的に適格組織再編成として取り扱われ、当該要件を満たさないものについては非適格組織再編成として取り扱われることになる。 そのため、本鑑定意見書においても、 と解説されている。 また、「見込まれている」の解釈について、朝長英樹『企業組織再編成に係る税制についての講演禄集』日本租税研究協会90頁(平成23年)において、 と記載されていることを理由として、本鑑定意見書においては、 と解説されている。 このような解釈については、平成13年度に組織再編税制が導入された時点から継続している考え方であるが、実際の感覚よりもはるかに高い売却の蓋然性が求められていたというのが印象であり、むしろ、税制適格要件を満たすものと主張する場合において、組織再編成後の後発事象に該当するか否かを立証することは、それほど難しいことではないということも言える。 しかしながら、本論点の結びにおいて、 と記載されている点については、相当の疑義を感じざるを得ない。 本事件においては、そもそもM&Aを行うこと自体には事業上の目的が存在しており、分社型分割を行った後に、分割法人株式と分割承継法人株式の双方を譲渡したことを原因として、非適格分割に該当していることから、譲渡をすることは「作り出された行為」であるとは言い難い。 すなわち、「譲渡をすること」が問題なのではなく、「分割をしたこと」が問題になるのであるが、株式譲渡後に分割法人が合併されていることを考えると、「分割をしたこと」についても事業上の理由は存在し、「作り出された行為」とも言い難い。 そうなってくると、問題とされるべき行為については、株式譲渡後に分割を行うのではなく、株式譲渡前に分割を行ったという点になってくるが、第11回で解説したように、判決文の文言については、そのようなストラクチャーの順番を問題とするものではなく、「『移転資産に対する支配』が継続しているか否かの指標とされる『当事者間の完全支配関係』が一時的に切断されるが短期間のうちに復活することが予定されているもの」であることが問題視されていることから、本鑑定意見書とは異なるロジックにより判決がなされたということが分かる。 ③ 法人税法132条の2の解釈 本鑑定意見書においては、法人税法132条の2の解釈について詳細に述べられているが、細かな内容を除けば、 という説明が中心的なものとなっている。 しかしながら、本鑑定意見書を読み進めていくと、 としたうえで、 と解説されており、結論からすると、実務の一般的な感覚とさほど変わらないように思え、経済合理性で判断するのか、制度の濫用で判断するのかという話については、かなりアカデミックな話ともいえる。そもそも、経済合理性の判断について、制度趣旨を踏まえたうえで判断すれば足りるはずであり、敢えて別物として説明することにどれほどの意味があるのかという論点については、今後の租税法学者の研究に委ねたい。 【争点1】についての判断がどのようになったとしても、本事件においては、納税者の行った行為が「不自然」「不合理」であるか否かという点が問題となるはずであるが、東京地裁平成26年3月18日判決については、いずれの事件においても、その部分については十分に触れられていない。すなわち、【争点1】は学術的にはともかくとして、本事件における判決への影響という意味ではさほど重要な論点ではなく、【争点2】がかなり重要な論点であるにもかかわらず、判決文の内容については、納税者の行った行為が「不自然」「不合理」なものとは言い難いように思えるというのも率直な感想である。 次回においては、本鑑定意見書において、「青色欠損金の繰越額や資産の含み損を利用するもので、現在、特に問題があるもの」として指摘されているものとして、100%子会社との吸収合併を例に挙げているが、この点について考察を加えたい。 (了)
#93(掲載号)
#佐藤 信祐
2014/11/06
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