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消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした]95%ルール改正後の消費税・仕入税額控除の実務 【第2回】「個別対応方式と用途区分①」

[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第2回】 「個別対応方式と用途区分①」   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   1 用途区分の意義 (1) 個別対応方式と用途区分 本連載では消費税の仕入税額控除の実務についてみているところであるが、第2回となる今回、及び次回の第3回で、実額控除制度のうちの一つである個別対応方式について解説する。 付加価値税である消費税の仕組みにおいて最も重要な要素としては、仕入税額控除制度がある。仕入税額控除制度は、課税の累積を排除するため、前段階の税額である課税仕入れに含まれる消費税額を控除する仕組みである。 仕入税額控除制度については、課税仕入税額につき実額での控除を計算する方法として、個別対応方式と一括比例配分方式の2つがある。このうち一括比例配分方式においては、課税仕入れ等に係る消費税額について、特にその中身を区分することなく課税売上割合で按分計算した金額を仕入控除税額とする方法を採っている。一方、個別対応方式においては、課税仕入れ等に係る消費税額について、対応する売上(資産の譲渡等)により必ず以下の3種類のうちのいずれか一つに分類し、その分類に基づき仕入控除税額を計算する方法を採っている(消法30②一)。 個別対応方式におけるこのような3つの分類のことを一般に「用途区分」という。 ここで重要なのは、個別対応方式の適用の際には、上記用途区分が必須とされているということである。すなわち、用途区分を行わないと個別対応方式による仕入控除税額の計算はできず、税務調査においても否認されることとなるのである。 ただし、用途区分が必須であるとしても、必ず三区分に対応する金額がないと個別対応方式の適用がない、というわけではないことに留意すべきであろう。場合によっては、ある区分、例えば「その他の資産(非課税資産)の譲渡等にのみ要するもの」が全く存在せず、結果としてその区分の金額だけゼロとなることもあり得るが、この場合も個別対応方式の適用には問題がない。 (2) 個別対応方式における用途区分の仕分け手順 用途区分の意義を理解したところで、次に理解すべきは個別対応方式を採用した場合の申告実務のステップである。 個別対応方式を採用した場合の申告実務のステップ(仕分け手順)は、概ね以下のようになるものと考えられる。 これを図に示すと以下のようになる。 【課税仕入れの仕分け概念図】 なお、保税地域からの貨物の引取りについても、上記と同様に3つの用途区分・仕分け手順に基づき分類することとなる。 (3) 課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税売上対応分) 用途区分の3分類のうちの一つである課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税売上対応分)とは、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等をいうが、課税売上との直接的な対応関係にある仕入項目(売上原価や製造原価に該当するものがその典型)に限定されず、間接的な対応関係にある仕入項目(一般に、販売費・一般管理費に該当するものを指す)も含まれることとなる。 通達によれば、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等につき、以下のような項目を例示している(消基通11-2-12、11-2-14)。 上記のうち、①②が課税売上との直接的な対応関係にある仕入項目に該当し、③④が課税売上と間接的な対応関係にある仕入項目に該当することになる。 なお、課税仕入れとそれに対応する課税売上が同一課税期間にあったかどうかは、用途区分の判定に何ら影響を及ぼさない(消基通11-2-12)。すなわち、棚卸資産の仕入れ(課税仕入れ)が期末近くでなされ、実際の販売が翌期に行われた場合でも、棚卸資産の仕入れがあった時点で用途区分の判定(当該棚卸資産は販売目的で取得したものであるから、課税売上対応分とする)を行うことになる。 (4) その他の資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等(非課税売上対応分) その他の資産(非課税資産)の譲渡等にのみ要するもの、すなわち非課税売上対応分とは、その他の資産(非課税資産)の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等をいい、課税売上対応分と同様に、非課税売上との直接的な対応関係にある仕入項目(売上原価や製造原価に該当するもの等)に限定されず、間接的な対応関係にある仕入項目(販売費・一般管理費に該当するものを指す)も含まれることとなる(消基通11-2-15)。 その他の資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等には、以下のようなものが該当することとなる。 なお、課税売上対応分のケースと同様に、課税仕入れとそれに対応する課税売上が同一課税期間にあったかどうかは、用途区分の判定に何ら影響を及ぼさない(消基通11-2-12)。   2 共通売上対応分の意義 (1) 共通して要する課税仕入れ等(共通売上対応分) 用途区分のうち共通して要する課税仕入れ等(共通売上対応分)とは、課税仕入れのうち、課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税売上対応分)とその他の資産の譲渡等にのみ要するもの(非課税売上対応分)のいずれにも該当しない課税仕入れ等をいう。 このカテゴリーに該当するものには以下のようなものがある。 共通対応分に係る課税仕入れは、そのうち「課税売上割合」で按分した金額のみ仕入税額控除の対象となる。 (2) 「合理的な基準」による区分 1(2)の図で説明したとおり、共通して要する課税仕入れ等(共通売上対応分)の税額は、課税売上と非課税売上の双方に直接的な対応関係がある課税仕入れに係る税額が含まれるのみならず、売上との対応関係が明確ではない課税仕入れに係る税額も含まれるなど、その構成内容は種々雑多であるといえる。 そのため、事業者によっては、より厳格な経理の基準を設け、より事業実態に合わせた経理処理を行っているところもみられるが、このような適正な経理処理に熱心な事業者と、悪く言えばどんぶり勘定の事業者とを全く同じように扱うのは、必ずしも公平の観点から妥当とは言えないものとも考えられる。 勿論、事業者がわざわざ手間暇をかけて正確な経理処理を行うのは、その方がより仕入控除税額が多くなるためであり、いわばタックスプランニングの一環であるといえる。 そこで、通達では、倉庫料、電力料等のように生産実績その他の「合理的な基準」により、①課税資産の譲渡等にのみ要するもの(課税売上対応分)と②その他の資産(非課税資産)の譲渡等にのみ要するもの(非課税売上対応分)とに区分することが可能なものについて、その合理的な基準により区分している場合には、その区分したところにより個別対応方式の適用を行うことができる、とされている(消基通11-2-19)。 国税庁は当該通達をより具体化したガイドラインをQ&Aにおいて示している(国税庁消費税室平成24年3月「―平成23年6月の消費税法の一部改正関係―「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え方編】」、以下「Q&A〔Ⅰ〕」と称する)。 このQ&A〔Ⅰ〕問20では、通達では原材料、包装材料、倉庫料、電力料のように製品の製造に直接用いられる課税仕入れ等をその適用事例の典型として示しているが、これは、課税売上対応分と非課税売上対応分と明確かつ直接的な対応関係があることにより、生産実績のように既に実現している事象の数値のみによって算定される割合で、その合理性が検証可能な基準により機械的に区分することが可能な課税仕入れであるからである、としている。これを図で示すと以下のようになる。 【合理的な基準】 基準の合理性は「課税売上割合に準ずる割合」のように事前の(税務署長による)審査の対象とはならず、実務上基本的に税務調査によって事後的に検証されることとなるため、注意を要する。 なお、共通対応分に係る課税仕入れにつき課税売上割合で按分した金額のみ仕入税額控除の対象金額とした場合、事業実態から見て控除税額が過少となると考えられる場合には、税務署長の承認を受けることで、課税売上割合に代えて「課税売上割合準ずる割合」を用いて仕入控除税額を計算することができる(消法30③、Q&A〔Ⅰ〕問20(注))。 (3) 「合理的な基準」の適用例 タックスプランニングの観点から採用される「合理的な基準」について、以下でその適用例を検討することとする。 《事 例》 医療法人A病院はMRI(核磁気共鳴画像診断機器)を保有しており、その購入価格は157,500,000円(税込)である。A病院の課税売上割合は10%であるが、Aにおける当該MRIの使用実績は課税売上(自由診療分)に係るもの25%、非課税売上(保険診療分)に係るもの75%であった。この場合、A病院の仕入控除税額は以下のように計算する。 (※)平成26年4月1日以降の新税率により計算を行っている。 ① MRIの購入費用をすべて共通対応分として処理した場合   ② 使用実績を「合理的な基準」として採用した場合   ②>① ∴2,362,500円(②を採用した場合の仕入控除税額)   3 用途区分の判定時期 (1) 用途区分の判定時期の原則 仕入控除税額の計算方法として個別対応方式を採用した場合、用途区分を行う必要があるが、その判定時期はいつになるのであろうか。 まずその「原則」は通達に示されており、課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日の状況により行うこととなる(消基通11-2-20)。 そのため、申告書作成時やその後の税務調査の時点において、その用途区分を見直してみたところ、課税仕入れを行ったとき判断した用途区分と異なる判断となることが生じ得る。しかし、仮にその後の状況の変化等の理由により、当初の用途区分の判断を修正すべき事態が生じたとしても、当初の判断がその当時の状況から見て正当であれば、用途区分を変更する必要はないこととなる。 【用途区分の判断時期】 例えば、販売目的で購入した商品がその後滅失したり、陳腐化により廃棄を迫られる場合などは、後の状況から見れば対応する売上が存在しないため、用途区分は課税売上のみに対応する課税仕入れとはならないという考え方もあり得る。しかし、消費税法上、用途区分の判定は課税仕入れを行った日の状況により行うとされているため(消基通11-2-20)、販売目的で購入した商品の用途区分は、原則として課税売上のみに対応する課税仕入れに分類すべきということになる(事故や盗難の場合にも仕入税額控除の対象となることを示したものとして、消基通11-2-11(※))。 (※) ただし、事故や盗難の時点では資産の譲渡等とは取り扱われない(消基通5-2-13)。 また、課税仕入れ時の用途区分の判断が当時の状況に照らして妥当であれば、翌課税期間において用途区分を変更する必要が生じたとしても、再判定の必要はなく、修正申告の必要もないこととなる。 さらに、課税仕入れ時の用途区分の判断が当時の状況に照らして妥当であれば、その後に受けた税務調査において、課税仕入れ時の判定後の状況変化に伴う用途区分の変更の必要性を指摘されたとしても、修正申告の勧奨に応じる必要はないこととなる。 (2) 判定時に未確定の場合 一方、課税仕入れを行った日において用途区分が未確定のケースもあるが、どうするのであろうか。 この場合は課税売上のみに対応するとも非課税売上のみに対応するともいえないのであるから、用途区分は両方に共通して要するものに分類することになる。 ただし、課税仕入れを行った日において用途区分が未確定であっても、その日の属する課税期間の末日までにその区分が明らかにされた場合には、その明らかにされた区分により個別対応方式の適用を行うことができる(消基通11-2-20)。仮に課税期間の末日においてもその区分が明らかでない場合の用途区分は、課税売上と非課税売上の両方に共通して要するものに分類することになる。 *   *   * 次回は、個別対応方式を選択した場合の用途区分の問題のうち、交際費・寄付金の取扱い、及び不動産関連費用の取扱いについて解説する。 (了)
#61(掲載号)
#安部 和彦
2014/03/20
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答] 【第23問】「接している2区画のマンションを一体として居住の用に供している場合」-一の家屋-

居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第23問】 「接している2区画のマンションを一体として居住の用に供している場合」 -一の家屋-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、15年前に2DKのマンション1戸(302号室)を購入して居住していましたが、その後子供らが成長し、従来の住宅の部屋数だけでは狭くなりました。 そこで、5年前にその住宅の真横に当たるマンション1戸(303号室)をさらに購入し、2区画のマンションを一体として使用してきました。 このほど、Xは2区画のマンションを一括して売却しました。 この場合、全部について「3,000万円特別控除(措法35)」の特例を受けることができるでしょうか? A 全部について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 2つの区画の建物が隣接しており、かつ、これらの建物がその家族の構成若しくは生計の状況又はこれらの建物の使用状況等からみて、社会通念上、一戸の家屋として機能していると認められるような場合には、「特例」の適用を受けることができるものと考える。 (了)
#61(掲載号)
#大久保 昭佳
2014/03/20
税務 税務・会計 解説 解説一覧

税務判例を読むための税法の学び方【31】 〔第5章〕法令用語(その17)

税務判例を読むための税法の学び方【31】 〔第5章〕法令用語 (その17)   税理士 長島 弘   10 期限や期日を示す表現 (① 「以前」と「前」、「以後」と「後」) 【第27回参照】 (② 「期限」「期日」「期間」、③ 期間計算に関する国税通則法の定めと民法、④ 「・・・から・・・まで」)【第28回参照】 (⑤ 時をもって定める期限、⑥ 期限の特例と各種消費税の届出書、⑦ 国税通則法第10条第2項の期限の特例に関するその他注意点)【第29回参照】 (⑧ 期間計算が過去にさかのぼる場合、⑨ 「経過する日」と「経過した日」)【前回参照】  ⑩ 「経過する日」と「満了する日」と法律上の年齢 前回「経過する日」について解説した。また期間計算においては通常初日不算入が原則である旨も解説したが、これらから、法律上の年齢は一般常識と異なる点をご存じであろうか。 かつて平成14年7月25日に、国会においても平野博文議員が「国民の常識と法律上の取扱いとの間、さらには各法令相互の間において、齟齬や混乱が見られる」として質問している。 通常、年齢は誕生日の日に加算されると思われているが、法律上の年齢は、誕生日の前日に加算される。 明治35年法律第50号により制定された「年齢計算に関する法律」というのがある。この法律は以下の3条からなっている。 この第1条によれば、まず出生日が期間計算上の初日として、カウントされることになる。そして民法143条(前回、及び第28回参照)によれば「起算日に応当する日の前日に満了する。」とされている。すなわち、平成25年3月15日が出生日であった場合の応当日平成26年3月15日の前日である平成26年3月14日に満了することになる。 もっともこの「前日に満了する」といっても、通常は、前日の午後12時をもって満了することを意味するものと解される。その者の「誕生日の前日の午後12時=誕生日の当日の午前零時」に加算されるもの考えた場合には、一般常識と異なることはない。 しかし、「満了する日」はいつから始まるのであろうか。 「この満了する日」自体は、上記の例でいえば、3月14日である。常識的には、この3月14日が経過した後に加算されるべきであるが、「満了した日」ではなく「満了する日」であるから「経過する日」である3月14日に加算される(時刻としては午後12時(事実上は、誕生日の当日の午前零時と同じ時間)であるが、月日の概念としては3月14日である)のである。 この例として分かりやすいのが、4月1日生まれの者が、いわゆる早生まれとして、3月生まれの者と一緒に就学することである。これは学校教育法(昭和22年法律第26号) の第17条に とあるためである。 平成20年4月1日に生まれた者は、誕生日の前日である平成26年3月31日に満6歳に達したため、平成26年4月1日が「満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年のはじめ」となるのである。 この条文では「達する日」ではなく「達した日」となっているのであるから、翌日になるのではないかという疑問も起きようが、年齢加算は「年齢計算に関する法律」により計算され3月31日午後12時に加算されるため、「達した日」は3月31日であり「達した日の翌日」は4月1日である。 この点判決(東京高裁昭和53年1月30日(上告棄却))においても、 と判示している。 このように、原則、法律上の年齢は、誕生日の前日に加算され計算されることになる。 ただし、年齢規定を法令でおいている中で、日を単位とせずに時刻を単位とする場合は、その効力は誕生日前日の午後12時まで、すなわち誕生日を迎えるまで発生しないため、注意を要する。この点、日を単位とした場合には、上記の如く時刻の部分(午後12時)を切り捨てるため、その効力は誕生日前日の初め(午前零時)から発生しているのと異なる。 とはいえ、日と時刻、いずれを単位として用いているかは、判断が難しい。というのも、この単位を見分け方として、「日」という文言が用いられている場合は日を単位としているという点は問題ないが、「日」という文言が用いられていない場合がすべて時刻を単位としているとは限らない。 公職選挙法第9条第2項には、以下の通り規定されている。 この選挙権に関する規定第9条2項は「日」という文言が用いられておらず、単に「満20年以上の者」としかないため争いが生じ、司法判断を仰いでいる。すなわち、日を単位とせずに時刻を単位とすれば、投票日の24時に満20歳となる投票日の翌日を誕生日とする者は、投票日の投票時間には満20歳に達していないため、選挙権を有しない。選挙権を有しない者が選挙に参加しているなどとして、選挙の無効が争われ、判決が昭和54年11月22日の大阪高裁にあった。 この判決において と判示されている。 よって条文上、「日」という文言が用いられていない場合には、法令の趣旨・目的をも含めて解釈せざるを得ないであろう。 また、法令によっては年齢計算に関する法律を適用していないとして、誕生日当日に年齢が加算されるものもある。 例えば、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号、旧名称「老人保健法」)は、被保険者資格の取得時期として、同法52条に「次の各号のいずれかに該当するに至った日(又は以下省略)」からの資格取得を規定している。そして第1号に「75歳に達した時」と規定されているところ、厚生労働省の見解は、年齢計算に関する法律を適用していないため、「該当するに至った日」とは、誕生日の前日ではなく、誕生日当日であるとしている(尤も、私見としては、何故年齢計算の関する法律を適用しないということが許されるのか疑問を感じている)。 下記の厚生労働省サイト内の「高齢者医療制度に関するQ&A 追加Ⅰ」の14頁「問58」を参照されたい。 この厚生労働省が他と異なる取扱いをしていることによる問題点や、上記の就学や選挙権に関しては、上記平野議員の質問に挙げられている。平野議員の質問内容に関しては、下記の衆議院のサイトを参照されたい。 その答弁は以下のサイトにて確認できる。 (了)
#61(掲載号)
#長島 弘
2014/03/20
会計 内部統制監査 監査 税務・会計 解説 解説一覧

企業担当者のための「不正リスク対応基準」の理解と対策 【第2回】「不正リスク要因の検討の重要性」

企業担当者のための 「不正リスク対応基準」の理解と対策 【第2回】 「企業自ら不正リスク要因を検討することの重要性」   公認会計士 金子 彰良   前回の不正リスク対応基準をめぐる現状把握と不正リスクの想定に続き、【第2回】では、不正リスクを識別するための不正リスク要因の検討の重要性について解説する。   《不正リスク要因の検討》 不正が発生した背景には、経営者による内部統制の無視のように、内部統制が無効化された状況がその原因であることもあるが、不正な財務報告の事案における原因や不正の手法を分析すると内部統制の脆弱性があることも多い。この点について、昨年3月に訂正内部統制報告書で開示すべき重要な不備があり内部統制は有効でないとの評価結果を報告した明治機械株式会社の事案の一部「押込販売」「架空販売」の概要をみてみる。 まず、関連する業務プロセスの概要と売上計上基準は次のとおりであった。 次に、上記のような業務プロセスと売上計上基準のもと、行われた「押込販売」「架空販売」の不正の手法(手口)を見てみる。 これらの不正はトップ・マネジメントが関与し、かつ外部共謀があったという点で、内部統制が機能しにくい環境であったことが原因であると推察される。 しかし、一方で製品の出荷から検収まで相当の期間を要する商慣習にもかかわらず売上計上基準に出荷基準を採用していたことや、売上計上後の検収処理時においても顧客ないしエンドユーザーへの納品を確認していなかったことを鑑みると、売上計上に関する業務プロセス上の内部統制にも脆弱な部分があったと考えられる。   リスクが潜在的なものである以上、内部統制は「・・・たら」や「・・・れば」といった仮定の話からリスクの有無を取り扱うことが多い。本事案で、ある特定の事象から、押込販売・架空販売があるかもしれないという不正リスクを強く意識することができていたら、内部統制の整備・運用面である程度対応ができたと思われる。 例えば、取引の流れと商慣習から、「売上はどのタイミングで実現したと考えるのが妥当か」を検討することによって、得意先にて検収が実施されるまで返品される可能性が残ることから、売上の計上基準として「検収基準」の採用を検討できたかもしれない。 また例えば、売上の計上基準として「出荷基準」を採用した場合でも、出荷から顧客引渡しに期間を要する可能性があることを問題視することで、現物の納品を確認する統制を検討できたかもしれない。   このように考えると不正リスク対応は、「押込販売・架空販売があるかもしれない」という不正リスクを認識することができるかどうかが、まず大事だということがわかる。 上場会社は、金融商品取引法の内部統制報告制度への対応で一定の内部統制の整備・運用レベルに達していると思われるが、今回の不正リスク対応基準の設定経緯を考えると、これまで以上に様々なタイプの不正を想定して内部統制を整備・運用しなければならない。 そして、適切に自社の不正リスクを想定するためには、自社において不正が発生する要因、すなわち「不正リスク要因」を理解する必要がある。   それでは、上記の明治機械株式会社の押込販売・架空販売の事案における不正リスク要因はどのようなものだったのか。2つの調査報告書(平成25年2月14日付第三者委員会及び平成25年3月11日付社内調査委員会)などをもとにまとめると、次のように推察される。 まず、外部環境として企業が属する半導体業界が急激な市況の悪化に見舞われていた。そして、問題が起きた子会社においては債務超過に陥るかどうかという微妙な状況があり、子会社の経営幹部には業績目標達成の強い動機(プレッシャー)が存在していた。 このような事業環境の下、子会社事業に関連する親会社部門の人事権を掌握する者が、子会社の経営幹部であり、グループガバナンスにおいて監視の対象となりにくい状況だった。それに加えて、子会社の一部の経営幹部には財務的な調整を容認する雰囲気が醸成されており、さらに、社内ルールが有名無実化しているなどコンプライアンスに対する意識がきわめて低かったと考えられる。 企業の財務状況においては、決算月(3月)に突出した出荷・売上高計上が行われており、また、前年度の売上について、多額の売掛債権が滞留していたという状況にあった。 不正な財務報告があったときは、「あのときの・・・」というように後から振り返れば、それを示唆していた状況に思い当たることが多い。このようなとき、関係者からすれば、結果として不正が発生してしまったが、事前に想定することはできなかったと弁明するかもしれない。 しかし、不正リスク対応基準においては、財務報告の重要な虚偽表示につながる不正への対応として、不正リスク要因を検討し、それらが不正リスクに該当するかどうか判断することが求められている。基準では、監査人に向けて、職業的懐疑心を発揮して不正リスク要因を検討し、それらが不正リスクに該当するか判断すること、また、不正による重要な虚偽表示を示唆していた状況に早期に気付いて、職業的懐疑心を高めるよう求めている。 この「職業的懐疑心」という用語は監査基準の中で使用されているものであるが、「不正をキャッチするアンテナの感度を上げる」という意味で、企業内で内部統制を推進・評価する立場の担当者にとっても求められる大事な感覚である。もし、不正リスクがあると認識した場合は、その予防策としての内部統制が十分に整備・運用されているか評価しなければならない。その結果、既存の内部統制に脆弱なところがあれば、不正リスクが許容可能な水準におさまるように、内部統制を見直して強化する必要がある。   不正な財務報告に限らず、一般に不正を犯す当事者には、不正のトライアングルと呼ばれる不正のリスク要因が存在する。不正のトライアングルは米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが体系化したもので、不正は「動機」「機会」「正当化」の3つの要素が揃った時に発生するとされている。 前述した明治機械株式会社の押込販売・架空販売の事案における不正リスク要因も不正のトライアングルで説明することができる。下図表は、前述した不正リスク要因を「動機」「機会」「正当化」の3つに再分類したものである。 【図表】不正のトライアングル 不正リスク要因は必ずしも不正の存在を示すものではないが、不正が発生した状況においてはこの3つの不正リスク要因が存在すると考えられる。したがって、自社の不正リスクの有無を判断するためには、この3つの不正リスク要因を認識し、これらが揃ったときにどのようなことが起こり得るか検討することが、不正リスク対応の第一歩となる。   さて、企業にとっては不正リスクを認識するためにどのように不正リスク要因を検討すればよいだろうか。 そのヒントが、不正リスク対応基準の付録1「不正リスク要因の例示」にある。これは、日本企業における過去の不正事案を分析し、どのような状況が不正リスク要因として不正につながるようになったのかを示したものである。 付録1では、不正リスク要因を不正のトライアングルの考え方に沿って3つに区分して例示している。 不正リスクがあるかどうか不正リスク要因を検討することは、監査人のみならず、企業自らも実施すべきものである。これらは例示であるため、チェックリストとして使用することができる性質のものではない。つまり、これだけで不正な財務報告を見抜くことができるわけではない。しかし、「不正をキャッチするアンテナの感度を上げる」ためのヒントとして使用することは可能であると考える。 また、不正リスク対応基準の導入に伴い、監査人から不正リスクの検討に関連したディスカッションや質問があるかもしれない。企業として不正リスクに関する見解と対応をあらかじめ整理しておくことで監査人対応もスムーズになると思われる。 *   *   * 最終回では、この付録1に関連して、企業が不正リスクに対応しうる内部統制と不正リスクマネジメントをどのように構築していくのがよいか解説をする。 (了)
#61(掲載号)
#金子 彰良
2014/03/20
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 過年度遡及修正

過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第7回】「過去の計算書類と遡及適用」

過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第7回】 「過去の計算書類と遡及適用」   公認会計士 阿部 光成   《解 説》 会社計算規則では、過年度遡及会計基準に対応して、「遡及適用」、「誤謬の訂正」などの定義があるので、これらの定義を理解する必要がある。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 定義 会社計算規則では、次のように定義している。   Ⅱ 遡及適用の会計処理 1 遡及適用 過年度遡及会計基準は、会計方針の変更が行われた場合に、原則として、新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用するとしている(過年度遡及会計基準6項)。 会社計算規則でも、遡及適用について、 と定義している(会社計算規則2条3項59号)。 このように遡及適用は、正当な理由による会計方針の変更に伴う処理であり、新たな会計方針を過去の財務諸表、計算書類、連結計算書類に遡って適用していたかのように会計処理することであり、会社法の計算書類においても同様に取り扱われる。 ただし、会社法の計算書類では、当期の計算書類の開示のみを要求している、いわゆる単年度開示の制度であるので 、過年度遡及会計基準に対応した会社計算規則の規律も、いわゆる単年度開示をベースにしたものとなっていることに注意が必要である(高木弘明、新井吐夢「過年度遡及処理に関する会社計算規則の一部を改正する省令の解説」『旬刊経理情報』(中央経済社、No.1281、2011.5.10・20)41ページ)。 したがって、過去の計算書類に「遡及適用」したとしても、過去の計算書類が誤っていたわけではない。 2 会計方針の変更に関する注記 会社計算規則102条の2では、次のように規定している。 3 遡及適用による累積的影響額 過年度遡及会計基準では、新たな会計方針を遡及適用する場合の処理として、 と規定している(過年度遡及会計基準7項(1))。 前述のように、会社法の計算書類は、いわゆる単年度開示の制度であるので、「表示する財務諸表のうち、最も古い期間」は、「当期」となることから、遡及適用による累積的影響額については、「遡及適用をした場合には、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額」を注記するものとしている(会社計算規則第102条の2第1項3号)。 (了)
#61(掲載号)
#阿部 光成
2014/03/20
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

設備投資減税を正しく活用して強い企業をつくる~設備投資における管理会計のポイント~ 【第6回】「「設備投資の経済性計算」の代表的手法①」―回収期間法・内部利益率法―

設備投資減税を正しく活用して強い企業をつくる ~設備投資における管理会計のポイント~ 【第6回】 「「設備投資の経済性計算」の代表的手法①」 ―回収期間法・内部利益率法―   公認会計士・税理士 若松 弘之   〈「設備投資の経済性計算」の代表的手法〉 設備投資の可否や、複数案から最も企業にとって有利な設備投資案を選択する場合には、「設備投資の経済性計算」が必要となる。もちろん、少額な設備投資についても、これを一律に求めるものではなく、企業にとっての重要性を勘案しながら運用することになる。 以下では、実務において用いられる代表的な手法を紹介する。 これらの手法を実行するに際して注意すべきことは、算定結果はあくまで1つのものさしであり、これが絶対的な解ではないということである。 算定過程には将来見積りを多く含んでいるため、見積りと実績が乖離するリスクがある。 また、数字面だけでは推し量ることのできない様々な要因が存在することも十分考慮しながら、過去の経験値も参考にして、慎重に意思決定することが大切である。 ① 回収期間法 回収期間法は、その理解しやすさから、実務で最も多く導入されている方法である。回収期間法とは、「設備投資総額が将来のキャッシュ・インフローにより、どのくらいの期間で回収できるのか」を示す目安である。 厳密に「キャッシュの時間的価値」を考慮して割引回収期間を算定する方法もあるが、理解や導入のしやすさを重視して、ここでは単純回収期間を算定する方法を解説する。 以下では、設備投資A案とB案の2つの投資案があるケースを想定してみよう。経営者は、回収期間が短い方をより安全な設備投資案として意思決定するものとする。 A案とB案の回収期間をそれぞれ算定すると、A案:3.15年とB案:3.96年となり、経営者は、A案の投資を選択することが合理的と考えられる。 しかし、ここで1つ留意すべき点がある。それは、5年後におけるキャッシュ・フロー累計額(この設備投資によって得られた正味キャッシュ)は、A案が900万円であるのに対して、B案は1,500万円となることである。 もし、B案の回収期間が1年程度遅いとしても、その回収リスクを許容できるとするならば、B案を選択した方がより多くのキャッシュが手許に残ることになる。 また、この回収期間法ではキャッシュの時間的価値を考慮していないことにも注意が必要である。 つまり、B案の方が設備投資額が大きくキャッシュの拘束期間も長いため、本来、厳密にキャッシュの時間的価値(=資金調達コスト)を考慮すべきであろう。 回収期間法は、上記のようにいくつかのデメリットはあるものの、計算が簡便であり、その結果も直感的に理解しやすい点や、設備投資回収の安全性を最優先する点がメリットとなり、中小企業等でも幅広く用いられている手法である。 ② 内部利益率法 内部利益率法は、設備投資したキャッシュが企業内部に留まっている間にどの程度の利回りで運用されているかを比率の形で示すものである。 例えば、1,000万円を3年間銀行に預けて、3年後に1,331万円で戻る場合、以下のとおり、複利計算による内部利益率は10%といえる。 したがって、内部利益率法は、設備投資によってもたらされる将来キャッシュ・フローを現在の価値に割り引いた結果、ちょうど設備投資額と同額になる利回りを算出する方法である。 もしも算出された内部利益率が、企業の借入利子率や株主配当後の利益率目標などよりも高ければ、設備投資は企業の純資産の増加に貢献するものとなり、その実行は望ましいといえる。 それでは設例を見てみよう。なお、設備投資A案及びB案の前提条件は、①と同じである。 内部利益率法によって、A案とB案を検討すると、A案が14.2%となり、9.1%のB案よりも優位といえる。 例えば、内部利益率の目標が10%であったり、資金調達コストが10%であったりする場合には、A案は投資適格となるが、B案は不適格となる。 ただし、この場合も「回収期間法」と同様に「本当にB案が不利なのか?」を慎重に考える必要がある。この点については、次回あらためて検討したい。 *   *   * 次回は、設備投資の経済性計算の代表的手法のうち、「正味現在価値法」と「投資利益率法」の解説を行い、それぞれの手法のメリット・デメリットなども整理してみたい。 (了)
#61(掲載号)
#若松 弘之
2014/03/20
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経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第37回】消費税に関する会計処理③「控除対象外消費税額」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第37回】 消費税に関する会計処理③ 「控除対象外消費税額」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 資産に係る控除対象外消費税額の会計処理 ② 資産以外に係る控除対象外消費税額の会計処理 ③ 未払消費税額等の算定 (*1) 仮払消費税等計上額4,000,000-控除対象外消費税額1,000,000=3,000,000   〈会計処理の解説〉 控除対象外消費税額とは、「支払った消費税」のうち、「預かった消費税」から控除することができない部分のことをいいます。まずは、その発生の仕組みから解説しましょう。 原則として、事業者が国内で行った資産の消費又はサービスの提供には消費税が課せられます。しかし、これらの取引の中には、課税の対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、消費税を課税しない「非課税取引」というものがあります。非課税取引には、例えば以下のようなものがあります。 このような取引を行った場合、当該取引には消費税が課せられません。では次に、以下の図を見てください。以下の図は、一般的な病院の取引を示しています。 消費税は、事業者が負担するものではなく、事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて次々と転嫁され、最終的に資産の消費又はサービスの提供を受けた消費者が負担します。しかし、上図のような場合、医療機器や薬剤の仕入に係る消費税を、最終消費者である患者に転嫁することができないため、事業者である病院が消費税を負担することとなります。 一般の事業会社においても、土地の貸付けなど、事業活動の中に非課税取引に該当するものが含まれています。非課税取引による売上がある場合には、当該売上に係る仕入から発生した消費税額は、会社が負担すべき消費税となります。すなわち、当該消費税額は会社が負担すべき消費税として取り扱い、「預かった消費税」から控除することができません。 このようにして発生した、控除できない消費税額が「控除対象外消費税額」となります。 では、会計処理の解説に戻ります。本事例の会社は、課税取引と非課税取引の両方を行う会社を想定しています(本業である食品の卸売のほか、土地の貸付けを行っていると考えてください)。 控除対象外消費税額は、期末決算で消費税の申告計算を行うまで金額が分からないため、期中においては、控除対象外消費税額か否かは関係なく、仕入に係る消費税はすべて「仮払消費税等」として処理します。 控除対象外消費税額が資産に係るものの場合(例えば、病院が購入した医療機器に係る消費税、本事例では600,000)、当該消費税額は資産の取得原価に算入し、減価償却を通じて費用化されていきます。 一方、控除対象外消費税額が資産以外に係るものの場合(例えば、病院が使用する注射器などの消耗品に係る消費税、本事例では400,000)、当該消費税額は「租税公課」等として費用処理します。 控除対象外消費税額に該当しない部分(本事例では3,000,000)は、「預かった消費税」から控除することができるので、会計上、「仮受消費税等」と相殺消去します。 なお、法人税法上、資産に係る控除対象外消費税額であっても、課税売上割合が80%以上、控除対象外消費税額が20万円未満等の場合には、損金経理を要件として、当該消費税額を資産の取得原価に算入せず、損金算入することが可能です。したがって、このような一定の要件を満たす場合には、会計上も、資産に係る控除対象外消費税額を「租税公課」等として費用処理することが認められています。 (了) ※来月は、昨年5月に続き「退職給付会計」を取り上げます。
#61(掲載号)
#大川 泰広
2014/03/20
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

内定・採用に関する「よくある質問」 【第2回】「採用内定者の研修に賃金の支払いは必要か」

内定・採用に関する「よくある質問」 【第2回】 「採用内定者の研修に賃金の支払いは必要か」   社会保険労務士 菅原 由紀   入社前研修について 使用者が内定者に対して、入社前に課題を与えたり、参加を義務づける研修を行うことがある。 これらの研修は、社会人として必要な社会常識の習得や、入社後に業務で必要となる知識を事前に習得させることを目的にする場合や、会社等の雰囲気やカラ―を理解し、会社等の一員として早く溶け込んでもらうことを目的にする場合など様々であろう。 さらに、使用者側が内定辞退防止を目的として、このような研修を実施するケースも多くあるであろう。   入社前研修の2つのタイプ 入社前研修には大別すると、次の2つのタイプがある。 しかし、使用者が入社前研修を行うことについては、その目的からして、現実的には、②のタイプは考えにくいと想像する。また、入社前研修を自由参加としていても、多かれ少なかれ内定者は拘束力を感ぜざるを得ないと思われる。   入社前研修は「労働」になるのか 一般的には、内定者が在学中の学生の場合、採用内定後入社日まで、当然の義務として研修への参加を課すことは適切ではないと考えられている。 したがって使用者は、内定者との間で別途個別の同意をすることで、入社前研修を命じているようである。 使用者が、内定者を広く研修に参加させたいのであれば、入社日を4月1日ではなく研修開始日にするとか、内定時の誓約書等において、内定者に対して入社前研修に参加することへの合意をとり、その合意のもとに行うことが必要である。 多くの使用者が入社前研修を実施しているが、任意参加の形式をとっているか、双方合意の上で実施しているのが実情のようである。 なお、「労働時間」について最高裁は との立場を明らかにしている。 つまり、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮監督下にある時間」とされ、指揮監督下にあるとは、使用者の作業指示等の指示命令を受け、従わなければならない場合をいう。 したがって、内定時の誓約書等において、内定者に対して入社前研修に参加することへの合意をとり、その合意のもとに行う研修が「研修」という名目であっても、実態として使用者の指揮監督下に行われるものであれば、それは「労働」ということになり、労働に対しては賃金が支払われなければならない。 一方、入社前研修に参加・不参加の自由があり、さらに参加した場合でも使用者の指示に対して諾否が言える自由があるような場合は「労働ではない」と考えられる。この場合には「労働ではない」ため、賃金の支払いは発生しない。 しかし、実務上は研修が労働か労働ではないか判断がつかないような場合もあり、そのような場合使用者は、研修自体を「アルバイト」(労働)として「研修手当」等の名目で日当を支払っていることもあるようである。 (了)
#61(掲載号)
#菅原 由紀
2014/03/20
労務・法務・経営 経営

〈中小企業も気をつけたい〉 産業廃棄物に関する企業対応と不正業者による不法投棄リスク

〈中小企業も気をつけたい〉 産業廃棄物に関する企業対応と 不正業者による不法投棄リスク   行政書士 石下 貴大   1 はじめに 数年前、大規模な産業廃棄物の不法投棄がニュースとなった。 その廃棄物の量は、実に約150万トン。廃棄物処理業者2社が首都圏などから運び込み、複数回にわたって不法投棄していたのだ。 2社は既に解散や破産しているが、不法投棄された自治体ではこれらの撤去や原状回復に数百億円かかっており、その費用に関して投棄を依頼した業者や関係者に請求する方針である。 *  *  * 例年、この時期になると、個人宅だけでなく企業でも引越しが増え、引越しの際には多くのゴミが出るだろう。 ゴミが出れば業者に委託して処理してもらうのが一般的だろうが、上記の事例のようにならないよう、以下では、企業がゴミの処理を委託するときの注意から、産業廃棄物の不法投棄のリスクについてお伝えさせていただきたい。   2 産業廃棄物とは? 産業廃棄物とは、会社や工場などの事業に直接関係する活動に伴って発生した廃棄物及び輸入された廃棄物であって、廃棄物処理法(正式には「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」)に定められた21種類の廃棄物をいう。 【産業廃棄物の種類】(表をクリックすると別ウィンドウで拡大表示されます)  *は、特定の業種の事業所から排出されるものに限定される。 つまり、事業活動から出るゴミのすべてが産業廃棄物に該当するわけではない。 たとえばオフィスを引っ越す際、不要になった机や棚、椅子などが出てくるだろう。それらは法定されたもの以外は「産業廃棄物」ではなく、「一般廃棄物」となる。 廃棄物処理法では、「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない。(第3条)」と規定し、これにより、排出事業者の処理責任が明確化されている。ゴミを出した会社自体が処分場に運搬することが規定されているのだが、実際には自分たちで処理をするのでなく、業者の方に処理を委託するだろう。 このとき、処理を委託する事業者についてはそれぞれ産業廃棄物収集運搬業、一般廃棄物収集運搬業の許可を取得していることが必要になる。具体的には、廃棄物についての管理ができる人員がいること、車両や容器など運搬するために必要な設備を備えていること、経営上問題ないとされる財産的要件を満たしていることなどの要件を満たし、許可を取得した業者のみが産業廃棄物や一般廃棄物を「業として」運搬することができる。 そしてゴミを出す側、排出事業者としては、その責任において適正な業者に委託することが求められている。   3 排出者責任とは 資源の枯渇、多くの環境問題が存在する中で、廃棄物の処理に伴う環境への負荷の低減に関し、排出者としても責任を負わなければならない。「排出者責任」とは、廃棄物等を排出する者が、その適正なリサイクルや処理に関する責任を負うべきであるとの考え方である。 具体的には、主に次の事項が法定されている。 廃棄物の排出者が廃棄物の処理に伴う環境への負荷の原因を作っているという考えにより、排出者が廃棄物の処理に伴う環境負荷低減の責任を負うこととされている。つまり、処理を委託した廃棄物が不法投棄や不法輸出などの不適正な処理がなされていた場合には、責任は処理業者だけでなく、廃棄物を排出した排出事業者もその責任を負うのだ。 たとえば自社の引越しから出た廃棄物の運搬を委託した業者が無許可業者であり、かつ、その廃棄物を不法投棄したとする。その後その業者が倒産をしてしまい、実質的に原状回復などが不可能になってしまった場合、排出者の責任として、代わりに廃棄物の撤去などを行わねばならない(これを「措置命令」という)。 処理の委託費用を払って廃棄物を持って行ってもらったにもかかわらず、膨大な出費のもとで原状回復費用も出さねばならない可能性があるのが排出者責任なのだ。さらには不適正な業者に委託したということで会社名を公表されるリスクまである。コンプライアンスへの意識がますます高まっている中で会社として違法行為が報道されれば、企業のイメージ・信用の失墜につながり、大きな経営問題に発展する可能性もあるだろう。 こうした規定はいうまでもなく、廃棄物が適正に処理されるように、排出者も責任を持って業者に委託しなければなないという趣旨である。 この排出者責任は法令の改正を重ね、近年さらに強化されている。 無許可業者に廃棄物の処理を委託した場合、廃棄物処理法では5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれの併科と規定されている(第25条)。いかに委託先の違反であっても、排出者も同様に罰金だけでなく懲役までもが適用されている。それは不法投棄などだけでなく、書類の不備や保管違反までもが法律違反として重く見られているのである。その責任の重さからも、法の理解や廃棄物処理業者の選定などは重大な義務であり、また、経営面においても重要な事項と捉える必要があるだろう。 廃棄物を減らすのも排出者責任の大きな役割ではあるが、処理を委託する際にも廃棄物の適正処理のためにしっかりとした対応をしていくことが、これからの企業経営においてとても重要な位置づけとなる。 (了)
#61(掲載号)
#石下 貴大
2014/03/20
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女性会計士の奮闘記 【第15話】「大切なことはキーマンへ直接伝える」

女性会計士の奮闘記 【第15話】 「大切なことはキーマンへ直接伝える」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   ◆  ◆  ◆   〈ゴルフ会員権の譲渡損失の損益通算の不適用〉 -平成26年度税制改正- 生活に通常必要でない資産は、売却して損失が出ても、他の所得との損益通算ができませんが、その範囲が拡充されました。 「生活に通常必要でない資産」とは、 をいいますが、 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の経営に影響を与える税務・会計上の情報は、パンフレットや説明書きを渡すだけでなく、キーマンとなる担当の方にきちんと伝えることが必要です。 担当の方が不在でも、ちゃんと伝わったかどうか確認しましょう。「わかっていらっしゃるだろう」と思い込むことは危険です。 内容を間違いなく理解してもらって初めて「伝えた」ことになるのです。 (了)
#61(掲載号)
#小長谷 敦子
2014/03/20
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