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労働基準関係 労務 労務・法務・経営

誤りやすい[給与計算]事例解説〈第2回〉 【事例②】時間外労働手当等の単価計算

誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第2回〉   税理士・社会保険労務士  安田 大   (1 支給額の算定) 【事例②】―時間外労働手当等の単価計算― 〔正しい処理〕 〔解   説〕 1 時間外労働手当等の算定 時間外労働手当等については、通常の1時間当たりの賃金の2割5分以上の率で計算した割増賃金でなければならない。(注) 通常の1時間当たりの賃金は、月給制の場合には、(月額給与額)÷(月平均所定労働時間)で算定することになる。 2 月額給与額 月額給与額には、基本給をはじめ各種手当も含まれるが、次の給与は除外して計算することができる。これらの給与は除外してもよいことになっているだけで、これらを含めて計算しても構わないが、これら以外のものは、必ず月額給与額に含めなければならないのが労働基準法のルールである。 なお、これらの手当は名称ではなく、実態で判断することになる。 3 事例への適用 主任手当については、上記①~⑦に該当しないので、月額給与額から除外することはできない。 また、住宅手当については、住宅に要する費用に応じて支給されるものであれば、月額給与額から除外することができるが、一律支給の手当については、たとえ名称が住宅手当であっても、住宅に要する費用に応じて支給される住宅手当には該当しないので、月額給与額から除外することはできない。 (了)
#2(掲載号)
#安田 大
2013/01/17
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外国人労働者の雇用と在留管理制度について【第4回】「新しい在留管理制度の導入に伴う罰則等について」

外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第4回】 「新しい在留管理制度の導入に伴う 罰則等について」   KPMG BRM株式会社 マネージャー 申請取次行政書士 佐々木 仁   今回の在留管理制度の導入に伴い、在留資格の取消事由、退去強制事由、罰則に改正がなされた。 改正事項の概要は、下記のとおりである。 在留資格の取消事由(改正入管法22条の4) 偽りその他不正の手段により在留特別許可を受けたこと 配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留すること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く) 上陸許可の証印または許可を受けて新たに中・長期在留者となった後または従来の住居地を退去した後90日以内に住居地の届け出をしないこと(いずれも届出をしないことにつき正当な理由がある場合を除く)や虚偽の住居地の届出をしたこと   退去強制事由(改正入管法24条) 在留カード等の偽変造等の行為(行使の目的で、在留カード等を偽造し、若しくは変造し、または偽造若しくは変造した在留カード等を提供し、収受し、若しくは所持すること等) 中長期在留者の各種届出等に関する虚偽届出等や在留カードの受領・提示義務違反により懲役以上の刑に処せられたこと   罰則(改正入管法71条の2、3、73条の2、3、4、6、75条の2、3) 許可を受けて上陸した後の住居地の届出、在留資格変更等に伴う住居地変更届出、住居地等の変更届出、所属機関等に関する変更等の届出等について、虚偽の届出をした者 【内容】1年以上の懲役または20万円以下の罰金 在留カードの有効期間の更新、紛失等による在留カードの再交付等について、申請義務に違反した者 【内容】1年以上の懲役または20万円以下の罰金 許可を受けて上陸した後の住居地の届出、在留資格変更等に伴う住居地変更の届出、住居地以外の変更届出及び所属機関等に関する変更等の届出の義務に違反した者 【内容】20万円以下の罰金 不法就労助長罪に該当する者 【内容】 3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金 ・行使の目的で、在留カードを偽造し、または変造した者 ・偽造または変造の在留カードを行使した者、行使の目的で、偽造または変造の在留カードを提供し、または収受した者 【内容】1年以上10年以下の懲役 行使の目的で、偽造または変造の在留カードを所持した者 【内容】5年以下の懲役または50万円以下の罰金 他人名義の在留カードを行使した者 【内容】1年以下の懲役または20万円以下の罰金 中長期在留者が、法務大臣が交付し、または市町村長が返還する在留カードを受領しないとき、及び入国審査官等から在留カードの提示を求められたが、これを提示しないとき 【内容】1年以下の懲役または20万円以下の罰金 中長期在留者が、法務大臣が交付し、または市町村長が返還する在留カードの受領後に、これを常時携帯しないとき 【内容】20万円以下の罰金 届出を失念・放置した場合や在留カードを常時携帯しない場合、外国人は上記罰則の3、9に記載されている罰金を科されることがある。また上記の罰則に該当すると後日、在留期限の更新や資格の変更が必要になったときに手続上不利になる恐れがある。 このようなリスクを避けるため、外国人は届出や在留カードの携帯を失念しないよう注意が必要である。 (連載了)
#2(掲載号)
#佐々木 仁
2013/01/17
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企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第1回】「進出形態の選択から会社設立手続まで」

企業の香港進出をめぐる実務ポイント 【第1回】 「進出形態の選択から会社設立手続まで」   アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範   本連載では、これから香港への進出を目指す日系企業に対し、実務面でのポイントについて解説する。 まず、今回から2回に分けて、香港に進出する際の各事業フェーズにおける主要な論点について、以下にまとめたい。   1 進出時 香港に進出して事業を行う形態としては、以下のものがある。 (1) 香港会社法に基づく現地法人 ① 株式有限責任会社及び保証有限責任会社 (Limited Company by Share or by Guarantee) 株式有限責任会社とは、会社の債務に対する株主の法的責任を株式(出資額)に限定する会社であり、日本の株式会社に相当する。 保証有限責任会社とは、資本金の払込みは不要であるが、会社清算時に予め合意した額までの債務につき責任を負う形態の会社である。 ② 無限責任会社(Unlimited Company) 無限責任会社とは、株主の会社の債務に対する法的責任が無制限である会社をいう。 会社がその債務を完済できなくなった場合、株主がその債務を連帯して弁済する責任を負う。 ③ 私的会社(Private Company) 私的会社とは、会社の定款に、以下の3項目につき制限を定めている会社をいう。 私的会社は、登記局へ監査報告書を提出する義務がなく、他社に財務状況が開示されることがない。 ④ 公開会社(Public Company) 上記「私的会社の3条件」を定款に定めない会社は、自動的に公開会社となる。 公開会社は、私的会社に比べると開示の範囲が広く、より厳格な規制の対象となる。 例えば、登記局への監査報告書の提出が必要となり、この監査報告書は誰でも閲覧可能となる。 ⑤ 上場会社(Listed Company) 上場会社とは、証券取引所にて株式・社債の取引がなされる会社である。 私的会社を上場会社に転換する場合、まず公開会社に転換する必要がある。それから証券取引所へ上場を申請し、許可が下りると上場会社となる。   (2) 香港支店(Branch) 外国法人がその支店を香港に開設する形態であり、会社登記局と商業登記所への登記が必要となる。 香港支店には会計監査の義務はないが、会社登記局に対し、支店開設時と毎年の年次報告書提出時において、本社の決算書(英文又は翻訳必須)の提出が求められる。   (3) 香港駐在員事務所(Representative Office) 外国法人が、香港での情報収集などを目的として、駐在員事務所を設置する形態である。 駐在員事務所は、香港における営業活動や契約の締結などは一切行うことができない。 商業登記所への登記は必須であるが、会社登記局への登記は不要。   (4) 個人事業(Sole Proprietorship) 事業主が個人事業の形態で資本や技能などを事業運営に提供し、利益もリスクもすべて個人が背負う事業体である。 債務に対する事業主の責任は無制限となる。商業登記所への登記は必須であるが、会社登記局への登記は不要。   (5) パートナーシップ(Partnership) パートナーシップの形態で各パートナーが資本を提供し、利益はパートナーシップ契約で規定した利益の分配割合に基づき分配される。債務については連帯で責任を負い、パートナーシップを組むためには最低2名が必要となる。 主に法律事務所や会計事務所が採用している形態である。   2 香港法人の設立手続 香港に進出する日系企業が一般的に採用するのは、私的会社で、株式による有限責任会社である。 株式有限責任私的会社の設立手続及び留意点をまとめると、以下のとおりである。 ① 会社名 会社名は、「英語社名のみ」、「中国語社名のみ」、もしくは「英語・中国語社名の併記」のいずれかで登記することができる(英語・中国語の混合社名は不可)。 英語社名には“Limited”、中国語社名には“有限公司”を最後につける必要がある。 また、中国・香港政府と関係があるかのような名称は、実際に関連性があり、また香港行政長官の承認がない限り、使用することができない。 既に会社登記局に登記されている名称及び類似している名称は登記することができないため、会社登記局にて類似商号の確認を行う必要がある。 ② 登記住所 登記住所は、香港内に定めなければならない。 しかし、設立登記するまでに住所が決定しない、もしくは事業所の賃貸もしくは売買契約の締結が間に合わない場合、業者から登記住所を借りて登記することもできる。 なお、その場合、住所の決定後に登記住所の変更の手続を行うことになる。 ③ 資本金 授権資本金、払込資本金、一株当たりの額面金額、表示通貨、株式の種類を定款で定める。 発起人(株主)が、最低一株(HK$1から可)を引き受けることで設立できる。 授権資本金についての最低金額の規定はない。授権資本金の全額を発行しなければならないという規定はないが、実務上は、払込資本金は授権資本金と同額にするのが一般的である。 ④ 発起人(株主) 発起人は最低1名必要で、国籍、居住地、個人・法人は問わない。 発起人は、最低一株を引き受ける必要がある。 ⑤ 会社定款 会社の定款は、「基本定款(Memorandum of Association)」と「通常定款(Articles of Association)」から成り、英語又は中国語のどちらかで作成・印刷する。定款には1名以上の発起人が署名することとされている。 「基本定款」には、会社社名、登記住所が香港にあること、株主の責任が有限であること、授権資本金額・株主数・額面金額などの資本金について、発起人の氏名、住所、職位、引受株式数などが記載される。 「通常定款」には、株主総会、取締役の就任、株主の義務、上述した私的会社の3項目の制限など、会社の運営上の社内規定が記載される。 実務上は、会社設立手続を依頼する業者が作成する必要事項を網羅した定型の定款を採用することが多い。 ⑥ 取締役の任命 私的会社は、最低1名の取締役を任命する必要がある。 18歳以上の個人で、国籍・居住地の制限はない。また、上場会社を含む企業グループに属していない私的会社であれば、法人でも取締役になることができる。 会社登記局で登記される職位は取締役(Director)のみで、香港では代表取締役(Managing Director)という法的地位があるわけではないが、任意で選任することは可能である。 ⑦ 会社登記局への書類提出 会社設立に際し決定すべき事項を確定し、申請書などの必要書類を作成する。 【参考】 私的会社設立のチェックリスト ※PDFファイル 発起人及び取締役が必要書類に署名をした上で、同書類に会社登記料(1,720香港ドル(2012年12月現在))及び商業登記料(450香港ドル(2012年12月現在))を添えて提出する。 会社登記局の審査を経て承認が下りると、約4~5営業日後に会社設立証明書(Certificate of Incorporation)及び商業登記証(Business Registration Certificate)が発行される。 香港法人の設立記念日は、この会社設立証明書に記載された日となる。 ⑧ 取締役会の開催 会社設立の承認後、すぐに第1回の取締役会を開催し、通常以下の事項について決議を行う。 ⑨ 会社秘書役の選任 私的会社には、会社秘書役(Company Secretary)の選任が義務付けられている。 年次報告書(Annual Return)、取締役会や株主総会の議事録・書面決議書などの法定書類の作成、登記、保管が役割となる。 会社秘書役になれるのは、香港居住者又は香港にて設立された会社である。 ⑩ 会計監査人の任命 香港のすべての会社は、会社の事業や規模にかかわらず、毎年の年次株主総会において会計監査人を任命し、会計監査を受けなければならない。 ⑪ コモンシールの作成 香港のすべての会社は、コモンシール(Common Seal)を作成する必要がある。 コモンシールは必ず金属製であり、日本の会社実印に相当する重要なものである。 株式証明書や重要文書作成の際に押印を求められ、使用する場合には取締役会の承認が必要となる。 ⑫ シェルフカンパニー 会社設立を急ぐ場合、すでに会社設立が完了しており、会社設立証明書、商業登記証、定款等が既に発行されているシェルフカンパニーを業者から購入して使用することもできる。 社名変更や増資が必要な場合はその手続、及び新規会社設立と同様の会社設立後の手続を完了すると、事業が開始できる。 次回は、会社設立後の運営、組織再編、撤退までのポイントを取り上げる。 (了)
#2(掲載号)
#白水 幹範
2013/01/17
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会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第1回】「会計事務所の中にはおかしいことがたくさんある」

会計事務所 “生き残り” 経営コンサル術 【第1回】 「会計事務所の中には おかしいことがたくさんある」   株式会社 経営ステーション京都 代表取締役 京セラ株式会社 元監査役 公認会計士・税理士 田村 繁和   私たちはクライアントの社長に「こうすれば会社が強くなりますよ」と話をすることがあります。しかし、アドバイスは立派ですが、実際に自分の所でやっていないことを話すのは実に滑稽です。 私も見習いの頃、所長が熱く語っているのを側で聞いていました。しかし、事務所で実行していないことばかりなので、思わず笑ってしまいたくなりました。 後日そのことを質問したところ、「会計事務所は特別なのでいいんだ!」とのことでした。何が特別なのかはあえて聞きませんでしたが、自分が経営する時には、そんなことがないようにしたいと思ったものでした。 その当時、おかしいなぁと思った話をご紹介します。   (1) 「経営理念や経営方針を定めて、毎朝、朝礼で唱和していくべきだ」 事務所では、経営理念や経営方針もなく、その時の気分で所長方針が出ていました。朝礼もなく、ダラダラと集まってダラダラと仕事を始めていました。 しかし、残業手当が付くわけでもなかったのですが、事務所社員は黙々と仕事をこなし、徹夜もいとわないという熱心さでした。 その素朴で真面目な職人気質は、現在の私たちにないすばらしいものだと思っています。   (2) 「がんばっている社員には、給料をしっかり出すべきだ」 クライアントの中に急成長している運送会社がありました。仕事は激務でしたが、給料はものすごく高いものでした。そして、社員も満足して喜んで働いていました。それを見てこのようなアドバイスをしていました。 しかし、所長は大きな外車に乗って、事務所社員の給料はかなり安いものでした。そして「会計事務所の給料は安い方がいいんだ。安いからがんばって資格をとる。自分がそうやってがんばってきた」という話を何度も聞かされたものでした。   (3) 「社員は家族と同様に考えて大切にすべきだ」 しかし、なぜか2年から3年でコロコロ社員が辞めていく会計事務所があります。 「資格者を採用しているからそれは当然のことだ」という方もおられます。 しかし、会計事務所もひとつの会社です。 会社であればキャリアを積んだ人材も必要です。2年から3年で辞めるような人ばかりであれば、一般の企業から見れば、会社の体をなしていないのではないでしょうか。 会計事務所には、このようなおかしいことがまだまだたくさんあるものです。 「会計事務所は特別なんだ」で簡単に片づけられる問題でもありません。 この業界でこれからがんばっていこうと思われる方は、一般企業の成長の足跡を学んでみることも必要なのではないでしょうか(ちなみに、私の経験のような事務所でないところもたくさんありますので誤解のないように……)。 (了)
#2(掲載号)
#田村 繁和
2013/01/17
労務・法務・経営 経営

事例で学ぶ内部統制【第6回】「キーコントロール比率を比較する」(その1)

事例で学ぶ内部統制 【第6回】 「キーコントロール比率を比較する」 (その1)   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、プロセスレベルの内部統制(PLC)から、キーコントロールについて取り上げる。 PLCとは、財務報告の信頼性を阻害するリスクを予防又は発見するため、取引の発生から財務報告に至る個々のプロセスレベルで組み込むコントロールである。 PLCの整備をどのように行うか、という課題も重要だか、制度実施から5年目を迎えている実務では、PLCの有効性の評価にかかる業務負荷を減らすことに企業の関心が高い。 そこで、PLCにおいて設定したコントロールから重要なコントロールだけを“キーコントロール”として絞り込み、運用評価の対象とする方法が採用されることがある。 実務家交流会では、PLCにおいて設定したコントロール総数に対してキーコントロールが占める比率を参加企業同士で比較しながら、キーコントロールをどのような基準で設定しているかという課題について意見交換した。   キーコントロール比率とは? まず、キーコントロール比率を定義する。 図1のように、PLCの評価対象となるのは、取引の発生から集計、記帳といった会計処理を通じ財務報告に至るまでの一連のプロセスに組み込まれているコントロールである。 図1 取引の発生から財務報告に至る一般的な流れ ※画像をクリックすると拡大します。 企業の内部では、取引の開始、承認、記録、処理、報告を含め、取引の発生から財務報告に至るまで、次のような事象が発生している。 企業はPLCの整備段階で、誤謬や不正により財務報告の信頼性が阻害されるリスクを識別し、適切なコントロールを設定する。財務報告の信頼性は、 という6条件が揃うことにより確保される。この条件がアサーションとなる。 そこで、識別したリスクがどのアサーションに影響を及ぼすのかを特定し、アサーションに対応したコントロールを設定する。 図1では、取引の流れに沿って、法律行為の発生、台帳への転記、ITインフラへの入力、ITインフラにおける電子データの処理の箇所でリスクを識別し、リスクに対して9個のコントロールを設定している。 今回の議論の対象であるキーコントロール比率とは、コントロール総数9個に対して、運用評価の対象となる重要なコントロールの数が占める比率をいう。 例えば、コントロール総数9個のうち2個だけを運用評価の対象とすると、キーコントロール比率は22%となり、9個すべてを運用評価の対象とすると100%となる。 なお、議論を単純化するため、リスクとコントロールを紐付けるアサーションは具備されていると仮定する。   キーコントロール比率の事例 議論の冒頭、筆者(株式会社スタンダード機構)が参加企業に対して、「キーコントロールを採用しているか。社内で設けたキーコントロールの選別基準は何か。キーコントロール比率はどのくらいか」といった質問を投げかけた。 この質問に対し、すべての参加企業がキーコントロールを採用していたが、その比率を比較すると、次のような傾向に分かれた。 【高位グループ】キーコントロール比率 60%以上 参加企業A(キーコントロール比率:100%)は、「キーコントロールの定義は定めていない。さらに問題なのは、財務報告の信頼性に直接関連しないコントロールについて、監査法人はキーコントロールと認識しない立場だが、わが社としては金融商品取引法目的よりも広くリスクを認識し対処する方向であり、監査法人と差異が発生しているという点だ。 例えば、(図1で説明すれば)契約書を承認するコントロールは、法律行為の偽装などのビジネスリスクを抑えるために有効だが、この時点では契約という約束だけで、物品やサービスの受け渡しもなく、会計データも生成されていないため、財務報告の信頼性に影響しないリスクであると整理するのが多数派だろう。 しかし、わが社では、そのようなビジネスリスクに対してキーコントロールを置いて運用評価の対象としている。その結果、キーコントロール数が膨らんでしまった」(建設会社)と話した。 参加企業B(キーコントロール比率:90%)は、「わが社は、A社さんと異なり、リスクとコントロールはアサーションで紐付けられる範囲にしている。そして、①リスクの重要性が発生可能性と金額的影響から見て高い、②リスクを低減する唯一のコントロールである、③セルフチェックではないという3つの条件を満たすものをキーコントロールとすると社内規程に定めた。しかし、実際にはその選別基準が適用されたことはない」(プラント会社)と、選別基準があるものの絞込みができていない実情を報告した。 参加企業C(キーコントロール比率:70%)は、「キーコントロールについてあまり議論をしておらず、現状では1個のリスクに対し、1個のキーコントロールを対応させている。たまに1個のリスクに対し複数のコントロールが存在する場合、より強いコントロール、実務的には、運用評価が容易なコントロールを運用評価の対象とする程度だ」(航空会社)と、キーコントロールを重要課題と考えていなかったため、多少の驚きを交えて意見交換に参加していた。 いずれも、“キーコントロールの基準が存在しない”とか、“基準を定めたまま適用していない”など、キーコントロールの適切な導入が進んでいないため、結果としてキーコントロール比率が高止まりしていた。 【中位グループ】キーコントロール比率 30%以上60%未満 参加企業D(キーコントロール比率:51%)は、「定義として、①プロセスにおける唯一のコントロールである、②他のコントロールを包括しているコントロールである、③特に重要性の高い会計処理である、④リスクに対してコントロールの効果が高い、⑤アサーションがより多く網羅されている、⑥複数のリスクに対するコントロールとなっているという基準を定めた。それと併せて、これまでの整備評価や運用評価の結果を考慮し、キーコントロールを選別している」(食品メーカー)と話した。 参加企業E(キーコントロール比率:45%)も、「わが社も、D社さんと同じく、放置したら常識的にリスクが何度も実在化し金額的に重要と想定されるものや、実際過去に何度かリスクが実在化し金額的に重要と想定されるものを重要リスクと定義して、重要リスクの低減に最も効果的なコントロールを運用評価の対象とした」(運輸会社)と、経験則を反映してキーコントロールを選別していた。 いずれも、明確なキーコントロールの選別基準を定めながら、実際に過去に発生した不正や誤謬、過年度のPLCの評価結果を踏まえてキーコントロールを選別することにより、運用評価の対象となるコントロールを絞り込んでいた。 しかし、この中位グループから報告されたキーコントロールの選別基準に対しては、複数の参加企業が課題を投げかけた。 次回は、議論の俎上に上がった「キーコントロールの選別基準に対する課題とは何であるか」を掘り下げながら、キーコントロール比率を大胆に絞り込んだ低位グループの事例を紹介する。 (了)
#2(掲載号)
#島 紀彦
2013/01/17
税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔巻頭対談〕 平成25年度 “税” の行方

〔巻頭対談〕  平成25年度 “税” の行方  (本対談は2012年12月17日に行われましたが、その後の政治・経済情勢の変遷に伴い、加筆・修正しています。) 新政権の経済対策 阿部 氏 森信 氏 (次ページ「消費税」「住宅税制、自動車関連税制」へ続く) 消 費 税 住宅税制、自動車関連税制 (次ページ「所得税」「相続税」へ続く) 所 得 税   相 続 税 (次ページ「金融所得課税」「法人税」へ続く) 金融所得課税   法 人 税 (次ページ「税の決め方」「平成25年度税制改正」「新政権に期待すること」へ続く) 税の決め方   平成25年度税制改正   新政権に期待すること (了)
#1(掲載号)
#阿部 泰久
2013/01/10
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「確定申告の種類と給与所得者の申告」

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「確定申告の種類と給与所得者の申告」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   【1】 はじめに まもなく、平成24年分所得税の還付申告書の受付が開始される。 そして、平成24年分の所得税について確定申告書を提出する義務がある場合には、所轄税務署長に対し、平成25年2月16日から同年3月15日までの間に、確定申告書を提出しなければならない(所法120①)。 所得税法は、所得税の課税対象とならない所得(非課税所得)を限定的に規定しており(所法9~11)、それ以外の所得は所得税の課税対象となる。また、所得はその性格によって10種類に区分され、その区分ごとに所定の方法により所得金額を計算することとされている(所法23~35)。 所得税法は総合課税を原則としながらも、土地建物の譲渡による所得や株式の譲渡による所得などの分離課税となる所得もある上、各個人の事情を所得税計算に反映するために設けられた「所得控除」が数多く存在する。 これらは法人税の計算にはみられない制度であり、所得税の計算過程を複雑にしている。 今後数回にわたり、平成24年分の確定申告にかかる所得計算と所得控除について、留意点を実務的な観点からまとめることにする。 第1回目は、申告の種類と給与所得者の確定申告について解説する。   【2】 還付を受けるための申告 確定申告書を提出する義務のない人も、所得税の計算上控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額、予定納税額の還付を受けるために確定申告書を提出することができる(所法122①)。 この還付を受けるための申告(以下「還付申告」という)は、任意のものであり、【3】で解説する義務の申告とは区別される。 所得税法上、還付申告について申告期限の定めはなく、国税通則法に還付金の請求権についての時効が定められている。国税通則法74条1項には、「還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する」と規定されている。 5年を過ぎると還付の請求をすることができなくなるということであるから、還付申告できる期間は、その請求をすることができる日(=その年が終了する日の翌日である翌年1月1日)から5年間ということになる。   【3】 確定所得申告 還付申告は、確定申告義務のない人が還付を受けるために行うものである。確定申告義務がある場合に、結果として申告内容が還付になったとしても、その申告(確定所得申告)と還付申告は区別される。 “確定申告義務がある場合”とは、確定申告書の提出や確定申告書への記載、明細書の申告書への添付を要件として適用される特例を適用しないものとして計算した所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額との合計額を超える場合をいう(所法120①、措法41の2の2④、所基通120-1)。 すなわち、各種特例適用前の所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額の合計額を超える場合である。このとき、源泉徴収税額や予定納税額の有無は問われないため、確定所得申告の場合でも源泉徴収税額や予定納税額が計算された所得税額よりも多ければ、還付となることもある。 この場合であっても、確定所得申告は還付申告に該当しないため、確定所得申告は、原則的な申告期間である翌年2月16日から同年3月15日までの間に行うこととなる(所法120①)。   【4】 確定損失申告 確定損失申告とは、純損失や雑損失の金額を翌年以後に繰り越すための申告をいう。 この申告によっても、源泉徴収税額や予定納税額の還付を受けることがある。しかし、この申告も【2】の還付申告には該当しないため、申告書の提出期間は、翌年2月16日から同年3月15日までとなる(所法123①)。   【5】 給与所得者の還付申告 給与所得者は、年末調整で所得税の精算が行われているため、基本的には確定申告をする必要はない。しかし、次のような人は、確定申告をすることにより源泉徴収税額や予定納税額等の還付を受けることができる。 年末調整で適用することができない所得控除(雑損控除、医療費控除、寄附金控除)の適用を受ける人(所法72,73,78) 一定の要件に該当する住宅を取得したり、住宅に特定の改修工事をしたことにより、住宅借入金等特別控除の適用を受ける人(措法41) 特定支出控除の適用を受ける人(所法57の2) 年末調整を受けずに退職したため、源泉徴収された所得税額が納めすぎとなっている人 なお、年末調整を受けた人が源泉徴収票を添付して還付申告をするときには、一部の記載内容を省略して申告書を作成することができる(所法122①、所規47の5)。 具体的には、所得控除のうち年末調整で適用を受けたものについては、第1表にそれぞれの金額を記載せず合計金額で記入し、第2表の該当部分の記載も省略することができる。   【6】 給与所得者の確定申告義務 給与所得者でも確定申告が必要となる場合がある。原則として、次に該当する人は確定申告をしなければならない。 (1) 平成24年分の給与の収入金額が2,000万円を超える人(所法190) (2) 給与の支払いを1箇所から受けている人で、給与所得以外の所得金額の合計額が*20万円を超える人(所法121①一) (3) 給与の支払いを2箇所以上から受けている人で、従たる給与と給与所得及び退職所得以外の所得金額以外の所得金額との合計額が20万円を超える人(所法121①) (4) 同族会社の役員や親族等で、その同族会社から給与の他に貸付金の利子、不動産の賃貸料や動産の使用料等の支払いを受けた人(所法121①、所令262の2) (5) 災害によって住宅または家財に被害を受けたため災害減免法の適用を受け、給与について源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた人(災害減免法3②) なお、平成24年分の確定申告書の記載例については、国税庁ホームページで公開されている。 次回は、平成24年分の確定申告に関係する税制改正の概要について、主なものを解説する。 (了)
#1(掲載号)
#篠藤 敦子
2013/01/10
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第1話】「事前通知」

小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第1話】 「事前通知」   公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   ここは河内税務署。 「おーい、山口君」 渕崎統括官が山口調査官を呼ぶ。 法人課税第三部門は、この2人以外は全員税務調査に出ているため、誰もいない。 「・・・来週から調査に行く準備はできているのか?」 山口調査官は、先ほどから20分間余り、机の引き出しの中を一生懸命に探っている。 渕崎統括官の声で、手を止めて、顔を上げる。 「まだ・・・調査を選定してた相手先には、連絡していないのですが・・・」 山口調査官は、小さな声で返事をする。 渕崎統括官の顔が歪む。 「まだ?・・・一体、どういうことなんだ!」 小柄な渕崎統括官の高い声が、誰もいない部屋に響く。 「今日はもう木曜日だろう! 相手先に連絡して、来週の月曜日から税務調査をさせてくれと言っても、相手先が困るじゃないか。事前通知は余裕を持たなければ」 渕崎統括官は、山口調査官を睨みながら言う。 「・・・早く、調査予定の会社に連絡しろよ」 渕崎統括官は、黙って俯いている山口調査官を見ながら、少し、怒りすぎた自分を反省する。 「ところで君は、新しい税務調査の手続は知っているだろうな」 渕崎統括官は、山口調査官を見て、不安に思った。 「ええ、改正の国税通則法の研修は受けましたから、ある程度は知っていますが」 山口調査官は、自信のある声で応える。 「そうか。「事前通知」については、先行的な取組で、すでに10月から改正国税通則法に従って、実施しなければならないから」 渕崎統括官は、語気を強める。 「そうそう、事前通知をするのは、納税義務者と税務代理人だからな。分かっていると思うけれど・・・」 「税務代理人って、税理士のことですよね」 山口調査官が確認する。 「当たり前だ!」 渕崎統括官の声が高くなる。 「・・・しかし、税務代理人って、「税務代理権限証書」を税務署に提出した税理士等のことなんですよね」 いつの間にか、山口調査官は、改正された国税通則法の資料を持っている。 「確かに、そうだ」 渕崎統括官は小さく頷く。 「・・・ということは、この「税務代理権限証書」を提出していない税理士に対しては、事前通知をしなくてもよいのですね?」 今度は、山口調査官の声のトーンが若干高くなる。 渕崎統括官は、手元にある『税務六法』を見る。 「確かに、君の言うとおりだ。・・・しかし、今までは、申告書の「税理士署名押印」欄に記載があれば、それで連絡していたのだが・・・」 「ただしそれは、単に“申告書を作成した”というだけの意味しかない・・・つまり、通則法にいう税務代理人ではない・・・ですよね?」 山口調査官は意地悪そうに言葉を発する。 「そうだが・・・申告書の署名から税理士の関与が把握できるから、とりあえず納税者にその旨を確認して、了解を得てから、関与税理士に対して「税務代理権限書」を提出するように求めたらどうかね。今までの慣行を重んじて」 渕崎統括官は、子供を諭すように言う。 「それに・・・国税庁の公表している「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」にも、次のように書かれている」 渕崎統括官は、プリントしたFAQを山口調査官に見せた。 「・・・そうですね。それでは、まず納税者に連絡して、関与税理士が税務代理人であることを確認してから、税理士に連絡します。・・・確か、僕の税務調査を予定している会社の税理士は、なぜか「税務代理権限書」を提出していないケースが多いんです」 山口調査官は、机の上に積まれている法人税の申告書を見ながら、言う。 壁に掛けられている時計の針は、午後の3時を示している。 「・・・とりあえず、早く、納税者に税務調査に行くことを通知しなさい」 まだ、FAQを読んでいる山口調査官に、渕崎統括官は催促する。 「ええ・・・でも、その前に見つけないと・・・」 山口調査官は呟きながら、再び引き出しの中をまさぐり始めた。 「さっきから何を捜しているんだ?」 渕崎統括官は、怪訝そうに尋ねる。 「・・・ええ、私の・・・身分証明書と…質問検査章が見当たらないので・・・」 山口調査官は、頭を掻きながら、ボソボソと応える。 「何!?・・・そんな大事なものを・・・失ったら大変なことになるぞ・・・」 山口調査官は、渕崎統括官の言葉で一瞬、青ざめる。 「それがなければ、税務調査なんかできない!・・・始末書を書いてもらわなければ」 渕崎統括官が怒鳴った瞬間に、「統括官、ありました!」と山口調査官は大きく叫んだ。 「・・・・・・」 山口調査官のホッとした表情を見て、渕崎統括官は苦笑いをした。 (つづく)
#1(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/01/10
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の見直しをめぐる実務への影響(1)

「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の 見直しをめぐる実務への影響(1)   税理士 齋藤 和助   1 はじめに 会計検査院は平成24年10月19日に、財務大臣宛に「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」について意見表示を行った。 その内容は、『特例を取り巻く状況が大きく変化していることを踏まえ、特例について、相続財産の処分が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産の処分が行われる場合における相続税と所得税の負担の調整という本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう意見を表示する。』というものである。 本稿では、今回の会計検査院の意見表示の内容と、見直しが行われた場合の実務への影響を2回にわたってみていきたい。   2 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例制度の変遷 (1) 制度創設(昭和45年) この特例は、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産が譲渡される場合には、当該相続財産に対して相続税のほか、値上がり益である譲渡所得税が課されることとなるため、相続税と所得税の負担の調整を図るという趣旨で創設されたものである。 具体的には、相続又は遺贈により財産を取得した個人が、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続財産を譲渡する場合には、その譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に、譲渡した相続財産に対応する相続税額を加算(以下「取得費加算」という)することができるというものである。 これにより、譲渡所得金額が取得費加算額分圧縮され、所得税の負担が軽減されることになる。 (2)  制度見直し(平成5年) 昭和60年代初めから生じた地価の急激な高騰等を背景とした土地税制改革の一環として、平成4年から、土地等に対する相続税の評価割合が地価公示価格の7割程度から8割程度に引き上げられた。 これらの影響により、当時は、相続財産の価額のうち土地等の占める割合が7割強となり、相続税納付のために譲渡される相続財産は土地等が9割強とそのほとんどとなった。さらに、土地等の長期譲渡に係る所得税率が20%(課税所得金額が4,000万円超の部分は25%)から30%に引き上げられたことに伴い、譲渡所得税がかからない物納との負担バランスの調整及び従来の相続税と所得税の負担の調整を見直すことが必要となったことから、相続財産である土地等を譲渡した場合における所得税の更なる負担の軽減を図るため、改正が行われることとなった(以下「平成5年改正」という)。 具体的には、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上、取得費加算額を、「譲渡資産に対応する相続税相当額」から「その者が相続した全ての土地等に対応する相続税相当額」に改めた。 つまり、相続で取得した土地等であれば、実際に譲渡していない土地等の価額についても、譲渡した土地等の取得費加算の対象となることとなった。   3 会計検査院の検査内容 会計検査院はこの特例の適用状況等の検査を全国の税務署のうち58税務署において土地等の譲渡に係る譲渡収入金額が3,000万円以上で、平成21~22年分において特例を適用した者延べ1,966人を対象として行った。 その結果、特例適用者の取得費加算額1,214億円のうち、土地等に係る取得費加算額は1,211億円であり、相続した全ての土地等に対応する加算割合※1と、譲渡割合※2の関係をみると、加算割合が譲渡割合を50ポイント以上上回る者が1,041人(全体に占める割合52.9%)見受けられ、これらの者の土地等に係る取得費加算額は768億円(同63.4%)となっていた。 つまり、土地等を多く相続してその一部を譲渡した者は取得費加算上著しく有利な状況となっている。 さらに、会計検査院は、平成5年改正により増加した取得費加算額への影響について試算しており、これによると、取得費加算額は786億円増加しており、その結果、所得税額は118億円減少している。 ※1  相続した全ての土地等に対応する相続税相当額に対する取得費加算額の割合 ※2  譲渡した土地等に係る相続税評価額が相続した全ての土地等に係る相続税評価額に占める割合   4 現状分析による会計検査院の指摘 地価高騰は、いわゆるバブル経済が破綻したことや、土地税制改革等の地価抑制のための措置が図られたこともあり沈静化し、地価は高騰前の水準でほぼ安定的に推移している状況となっている。 また、譲渡所得税率については、前述のとおり平成4年に30%に引き上げられた後は、地価が下落傾向にあったこともあり、平成7年以降数次にわたる改正により税率の軽減が図られ、現在は15%となっている。 さらに、地価の高騰及びその後の地価の下落に伴い、土地等を譲渡して金銭で相続税を納付することが困難な者が増えたことから、物納申請者数は、平成4年度には12,778人にまで達したが、その後、地価が高騰前の水準で推移し、平成18年度の税制改正における物納財産の明確化等の影響もあり、物納申請者数は急減し、平成22年度においては、448人となっている。 会計検査院はこれらの状況から、平成5年改正による相続税と所得税との更なる負担の調整は、特例を取り巻くその後の状況が大きく変化した結果、その必要性が著しく低下しているとし、本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう求めている。   5 今後の動向 上記指摘から、政府税制調査会(第6回:11/12開催)においても議題として取り上げられており、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例につき、平成5年改正は廃止され、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合には、その譲渡した土地等に対する相続税額のみを取得費加算の対象とする、本来の制度に戻る可能性がある。 この場合、実務においては、相続人に対する相続財産、とりわけ土地等を譲渡した場合の譲渡所得税額等のより細かい情報の事前提供が必要となる。 次回は、この実務への影響について具体的に考えてみたい。  (了)  【参考】 会計検査院ホームページ 「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」
#1(掲載号)
#齋藤 和助
2013/01/10
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第1回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第1回】   弁護士 木村 浩之     1 はじめに 法人が支給する役員給与については、その恣意的な支給によって法人税の額が操作され得るといった観点から、課税上の弊害を回避して適正な課税を実現するために、損金算入の制限規定が設けられてきた。 従来、役員給与については、定期に定額支給される「報酬」とそれ以外の「賞与」に区別して、賞与に該当するものについて損金不算入とされていたが、新会社法の制定等に伴い、平成18年度の税制改正において、役員給与の損金不算入に関する規定が大幅に改正され、現在に至っている。 現在の法人税法においては、役員給与のうち、一般的な給与(退職給与、ストックオプションによるもの、使用人兼務役員の使用人分を除くもの)については、 のいずれかに該当しない限りは、損金算入が認められない(法法34①)。 また、この規定によって損金算入が否定されない役員給与であっても、不相当に高額な部分の金額については、いわゆる過大給与として損金算入が認められない(法法34②)。 さらに、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによって支給される、いわゆる不正経理に基づく役員給与についても、損金算入が認められない(法法34③)。 なお、ここでいう役員給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む(法法34④)。 以上をまとめると、次のとおりとなる。 ※画像をクリックすると拡大します。 この役員給与の損金不算入に係る規定をめぐっては、多岐にわたる論点があり、本稿では、以下の項目について、順次、論点整理の上、解説していくこととしたい。   2 役員(使用人兼務役員を含む)の範囲 (1) 税法上の「役員」 役員給与の損金不算入に関する規定は、税法上の「役員」に対する給与に適用される。 そこで、税法上の「役員」の範囲が問題となるが、法人税法においては、「役員」とは、次の者をいうとされている(法法2十五、法令7)。 このように、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人という会社法その他の法令に規定される役員としての地位を有する者(限定列挙であり、事実上役員として待遇される使用人、例えば、執行役員などはこれに含まれない)のほか、事実上会社の経営に従事する者、いわゆる「みなし役員」も税法上の「役員」に該当することになる。 役員の範囲をめぐっては、この「みなし役員」に該当するか否かをめぐって問題となることが多いといえる。 また、税法上の「役員」に該当する者であっても、使用人としての職制上の地位を兼務する「使用人兼務役員」については、使用人分の給与は役員給与の損金不算入に関する規定が適用されないため、その範囲をめぐっても問題となることが多い。 そこで、以下では、これらの役員(使用人兼務役員を含む)の範囲をめぐる諸問題について検討する。 (2) みなし役員の範囲 ア 使用人以外の者 使用人以外の者で経営に従事するものは、法人税法上、役員とみなされることになるが、通達では、「相談役、顧問その他これらに類する者でその法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるもの」がこれに含まれるとされている(法基通9-2-1)。 さらに敷衍すると、 は、これに含まれると解される。 ここで重要なのは、使用人以外の者に付された肩書、役職等のみに着目するのではなく、それが実際に「経営に従事する」という実質的な内容を伴ったものであるかどうかを判断する必要があるということである。 実質的に経営に従事していると認められない限りは、肩書、役職等は単なる美称であり、その者は「みなし役員」には該当しない。 イ 同族会社の使用人 同族会社の大株主又はその同族関係者など、法人に対する影響力を有すると認められる一定の要件に該当する者については、たとえ使用人であっても、経営に従事している場合は、実質的には役員と同様の地位にあると認められることから、税法上役員とみなされることになる。 具体的な要件は、上記(1)のB(b)のとおり、 同族会社の判定の基礎となった株主グループに所属していること(50%超基準) 所属する株主グループの所有割合が10%を超えていること(10%超基準) 本人らの所有割合が5%を超えていること(5%基準) という3つの要件をすべて満たす必要がある。 実務上は、3要件の充足性は比較的明らかであり、同族会社の使用人のみなし役員該当性をめぐっては、その者が「経営に従事する」といえるか否かが問題となることが多いといえる。 なお、非同族会社の使用人については、たとえ経営に従事する者であっても、役員とはみなされない。 例えば、支店長、支配人などについては、法人の経営について相当の権限を有している場合があるが、「みなし役員」とはならない。 ウ 「経営に従事する」の意義 みなし役員に該当するか否かは、その者が「経営に従事する」といえるかどうかの事実認定をめぐって問題となることが多い。 一般には、「経営に従事する」というためには、単に法人の一部の職務を遂行しているだけでは足りず、会社の事業運営上の重要事項に関する意思決定に参画している必要があるといえる。 この点が争われた裁判例で、「法人の(登記上の)取締役は、いずれも別途職業を有して法人の業務には実質上全く関与せず、法人から何らの報酬も受けていず、当初の出資者として形式上取締役になっているに過ぎないこと、代表取締役は法人の業務に従事してはいるものの、すでに老齢であって、むしろその子が法人の営業活動の中心となり、商品の仕入、販売並びに集金等の業務を担当していることから、その子が形式上役員として登記されていず、法人に出資していなくても、法人の事業運営上の重要事項に参画しているというべきであるから、『その他使用人以外の者で法人の経営に従事しているもの』に該当し、同人を税法上法人の役員として取扱うべきである。」旨判示されたものがある(山口地判昭和40年4月12日・税資41号330頁)。 このように、「経営に従事する」といえるかどうかは、他の取締役がどのような業務を担当しているかといった比較の観点のほか、その者による実質的な代表行為の有無、経営会議・取締役会への参加状況など、その者自身がどの程度実質的に法人の意思決定に参画しているかが重要なポイントになるものと考えられる。 次回は、「使用人兼務役員」の範囲をめぐる論点について取り上げる。 (了)
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#木村 浩之
2013/01/10

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