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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第26回】「原価管理のKPI(その④ 原価計算単位設定)」
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第26回】 「原価管理のKPI (その④ 原価計算単位設定)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、原価管理を構成する複数のKPIから、「原価計算単位設定」から得られる情報を使って原価管理のサービスレベルを評価するKPIを取り上げる。 原価管理は、実際に発生した原価を製品・商品・サービスという原価計算単位で集計する原価計算手続によって行われる。製品別の原価の集計は、複雑な計算が伴うため、製品・商品・サービスの生成過程に関する専門知識や経験を持った人員によって担われることが多い。 そこで、今回は、原価管理の効率性や適正人員配置の判断に関する経営意思決定に役立つKPIを紹介しよう。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 経済産業省スタンダードでは、原価管理において、会社が担う一般的な機能として、「予算策定」と「実績管理」を挙げている。 「実績管理」は、「実績原価算定」と「実績原価分析」という機能で構成される。 今回解説するKPIは、「実績原価算定」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:原価管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、実績原価算定に関連する業務プロセスを、次のように費目別集計、部門別集計、製品別原価算定、原価差異振替に分けている。 〈経済産業省スタンダード:6.2.1費目別集計〉 〈経済産業省スタンダード:6.2.2部門別集計〉 〈経済産業省スタンダード:6.2.3製品別原価算定〉 〈経済産業省スタンダード:6.2.4原価差異振替〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 費目別集計では、実際に発生した原価を、原価発生の形態に応じて費目別に集計する。すなわち、原価を材料費、労務費、経費に区分し、さらに細分化する。通常は、財務会計において費用が形態別に集計されているので、財務会計の基礎データを利用して行う。 部門別集計では、費目別集計で把握された原価を、原価部門別に集計する。まず、経営において担う機能に応じて原価部門を製造部門と補助部門に分類する。原価を、部門個別費と部門共通費に分解し、部門個別費を当該製造部門及び補助部門に賦課し、部門共通費を一定の配賦基準に従い各製造部門及び補助部門に配賦する。そして、集計された補助部門費を製造部門費へ配賦し、製造部門費を計算する。 製品別原価算定では、部門別に集計された原価を製品単位に集計し、製品単位における製造原価を算定する。生産形態の種類別に対応して、単純総合原価計算、等級別総合原価計算、組別総合原価計算、個別原価計算が採用される。 原価差異振替では、原価差異の内容に応じて、当期の売上原価と期末棚卸資産に、賦課又は配賦するか、非原価項目として処理する。 今回のKPIは、実績原価算定に関する一連の業務プロセスを前提に、原価を集計する原価計算単位の数が原価管理の業務量に比例する傾向があることに着目し、効率性の観点から、原価管理担当者1人あたり管理する原価計算単位数を問うものである。 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「原価計算単位数」とは、単位あたりコストを最終的に計算する原価計算対象の数をさす。通常は、原価を最終的に負担させる製品・商品・サービスの数と一致する。 そもそも、このKPIの分子には、原価計算業務量に影響を与える要素が適切である。そこで、原価計算業務量に影響を与える要素として費目数、部門数も考えられるが、原価を最終的に負担させる製品・商品・サービスの数が、原価計算や原価差異分析の業務量に対するより直接的な説明変数である点で、重要なコストドライバーと判断した。 実務では、生産形態の種類によって採用される製品別原価計算方法が異なるので、原価計算単位数を具体的に例示してみよう。 単純総合原価計算を採用している場合、1種類の製品を単一の工程において連続生産するので、原価計算単位数は1個となる。 もっとも、工程別総合原価計算のように、製造工程が2個以上の連続する工程に分けられ、工程ごとにその工程製品の総合原価を計算する場合、工程の数が原価計算単位数となる。 等級別総合原価計算は、同一工程において、同種製品を連続生産するが、その製品を形、大きさ、品位等によって等級別に区分する生産形態に適した原価計算である。製粉会社、醸造会社等に見られる。この場合、等級製品の数が原価計算単位数となる。 組別総合原価計算の場合、異種製品を組別に連続生産する生産形態に適した原価計算である。自動車メーカーや電機メーカー等に見られる。この場合、組と呼ばれる製品種類ごとに継続製造指図書が発行されるので、組や継続製造指図書の数が原価計算単位数となる。 個別原価計算を採用している場合、種類の異なる製品ごとに特定製造指図書が発行されるので、製造指図書番号の数を数えて原価計算単位数が求められる。 「原価管理担当者のべ人数」とは、経理財務部門における担当者が、原価管理に費やす時間をのべ人数で表したものをさす。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、原価管理業務を適正な人員で行い1人あたりの生産性を高めることが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 そして、原価管理という業務により最終的にどの程度の細かさでコストが管理されているのかを示す原価計算単位数を会社間で比較し、効率性のレベルを測ることにしたのである。スコアリングモデルでは、この個数が多い会社が少ない会社よりも相対的に望ましいと考えている。 なお、このKPIで原価管理の効率性を比較する場合、業種、取り扱う製商品やサービスの数、生産形態、採用する実際原価計算の種類等という要素が、原価計算単位数の増減に与えるバイアスを除くため、可能な限り条件をそろえて比較することに留意が必要である。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、原価管理に隠れている効率性の問題が発見されず、過剰又は過少な人員配置が放置されたままになる可能性がある。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、生産形態に応じた製品別実績原価算定の業務プロセスが組み込まれていることを確認していただきたい。 例えば、経理規程を閲覧し、採用している製品別原価計算方法を確認する。 次に、分子となる原価計算単位数を確認する。例えば、原価管理資料や原価管理システムマスター一覧を閲覧し、BOM数、製品の品番マスター数、商品の品番マスター数を確認する。 さらに、分母となる原価管理担当者のべ人数の確認に入る。例えば、業務時間実績報告表を閲覧し、1人あたり所定労働時間で割り戻した数値を算出する。原価管理業務以外の業務を兼務している場合、合理的な比率で原価管理業務にかかるのべ人数を算出する。 最後に、分子を分母で除した個数を算出していただきたい。 さて、読者の顧問先において、原価管理担当者1人あたり管理する原価計算単位数は何個になったであろうか。 * * * 次回からは、「経費管理」のKPIを取り上げる。 「経費管理」を構成する複数のKPIのうち、まず「経費処理社内指導」のサービスレベルを評価するKPIから取り上げる。 (了)
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《速報解説》「特別目的会社を利用した取引に関する監査上の留意点についてのQ&A」 の改正(公開草案)
《速報解説》 「特別目的会社を利用した取引に関する 監査上の留意点についてのQ&A」の改正 (公開草案) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年11月29日、日本公認会計士協会(監査・保証実務委員会)は「「特別目的会社を利用した取引に関する監査上の留意点についてのQ&A」の改正について」(公開草案)を公表した。 公開草案は、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)をはじめとする現行の会計基準及び監査基準委員会報告書の参照箇所について所要の見直しを行ったものであり、現行実務の変更を意図するものではないと述べられている。 意見募集期間は平成25年12月19日までである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正事項 特別目的会社の連結及び開示として、次の会計基準等を用いている(Q2等)。 いずれも現行の会計基準等に合わせるものであり、現行実務に影響はないものと解される。 財務諸表等規則8条7項に合わせて「譲渡会社等」の用語に修正している(Q3等)。 財務諸表等規則8条7項の特則は、特別目的会社が資産を譲り受ける場合のみに適用されるので(連結会計基準7-2項、49-3項、49-5項及び54-2項)、特別目的会社の利用として物件の開発行為を行うタイプについては財務諸表等規則8条7項の特則の適用はないことになる。 これも現行実務と同じなので、影響はないものと解される。 特別目的会社に関する開示については、「一定の特別目的会社に係る開示に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第15号)及び「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)においてすでに規定がある。 このため、特別目的会社に関する開示に関する留意点(Q23)では、これらの会計基準等に従ってあらためて整理している。 上記のほか、監査基準委員会報告書の参照箇所について、参照先の改正等に合わせて変更が行われている(Q7等)。 従来、監査基準委員会報告書第14号「専門家の業務の利用」が用いられていたが、現在は監査基準委員会報告書620「専門家の業務の利用」が用いられているので、アップデートするように変更している。 (了)
所得税
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第10回】「内縁の妻は配偶者控除の適用を受けられるか?(その1)」
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第10回】 「内縁の妻は配偶者控除の適用を受けられるか?(その1)」 国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦 1 「配偶者」をめぐる解釈 今回は、結婚により夫婦として共同生活をしているが婚姻届を提出していない、いわゆる内縁の妻について、所得税法上の配偶者控除が認められるか否かという問題について考えてみたい。 ところで、所得税法には、「配偶者」という概念についての定義規定はない。したがって、所得税法上の文脈から「配偶者」概念を理解しようとしても、その材料に乏しく、条文から意義や範囲を画することができない。 そこで、この「配偶者」という概念は、おそらく民法から借りてきた概念、すなわち「借用概念」であると思われるので、民法において理解されている意味内容を探り、そのような理解と整合させるように、所得税法上の概念を理解すべきであると考える。 これは、以前ここでも取り上げた相続税法上の「住所」の概念を民法の概念の理解に合わせようとする通説的な考え方と同じである。 このような考え方は、借用概念についての現在の通説とされる“統一説”と呼ばれるものである。 しかしながら、民法に「配偶者」という用語の定義が用意されているわけではない。 この点は、「住所」という概念について、民法22条にその定義が用意されていた武富士事件のようなケースとは異なるところである。 定義がないとなると、「配偶者」という概念を理解するには、民法における解釈によらざるを得ない。 ところで、民法では、民法が適法とする婚姻関係ではなくとも、準婚理論(婚姻関係に準じるとする考え方)を採用して、実質的な内縁の妻に対しても、貞操義務(民770①一)、同居・協力・扶助義務(民752)、婚姻費用の分担義務(民760)、日常家事債務の連帯責任(民761)、帰属不明財産の共有推定(民762)などを適用させるように解されてきている。 このような考え方が、判例(例えば、最高裁昭和35年10月7日第二小法廷判決など)や学説において承認され、内縁の妻はこれらの法律の適用によって保護の対象とされているのである。 このようなことを考えると、民法自体が「配偶者」としてその保護領域の射程としているのは、必ずしも届出婚主義に基づく婚姻関係のみではないということに気がつく。 民法上は、形式的には婚姻関係が適法に成立した場合の配偶者を法律上の「配偶者」と理解した上で、実質的には法律上の配偶者と類似の法的保護を内縁の妻にも与えているというダブルスタンダードを採っている。 所得税法上の「配偶者」を解釈するに当たって、民法のダブルスタンダードのうち、実質的なスタンダードから借用するという考え方を採用することはできないのであろうか。 ましてや、多くの法律が実質的な見地から、内縁の妻のような事実上の婚姻関係者をも配偶者に取り込んでいることを考えるとなおさらである。 例えば、健康保険法では、「被扶養者」に含まれる「配偶者」に、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むこととしており(健康保険法3⑦)、内縁の妻も包摂されているのである。 2 大阪地裁昭和36年9月19日判決 そこで、内縁の妻が所得税法上の扶養親族である配偶者に当たるかどうかが争われた大阪地裁昭和36年9月19日判決(行裁例集12巻9号1801頁)を見ながら、この点を考えてみたい。 なお、この事件の当時は、配偶者控除という所得控除はなく、扶養控除とされていた。 大阪地裁は、このように判示し、 というのである(この判決はまだ続く)。 (続く)
法人税
税務
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例8(法人税)】 「再生計画の認可の決定により預託金の一部が切り捨てられていたゴルフ会員権を代表者に時価で売却し、簿価と時価の差額を売却損として計上してしまった事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例8(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成25年3月期の法人税につき、利益圧縮のため、帳簿価額1,500万円(入会金500万円、預託金1,000万円)のゴルフ会員権を時価の10万円で売却し、売却損を計上した。 ところが、このゴルフ会員権は運営会社が平成16年3月の再生計画の認可の決定により、預託金の一部が切り捨てられていた。これを税務調査で指摘され、結果として切り捨てられた預託金部分に係る売却損を否認されてしまった。 これにより、否認された売却損に係る税額300万円につき損害賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 平成16年3月にゴルフ場運営会社の再生計画認可の決定により預託金のうちの950万円(95%)の切捨てが確定。 前任税理士はこの事実を知らされなかったため、貸倒処理をせず平成16年3月期の法人税申告書を提出。 前任税理士は平成18年5月に上記事実を確認するも更正の嘆願等は行わず。 平成19年1月に税理士は前任税理士から業務を引き継ぐ。 平成25年3月期に利益圧縮のため税理士主導によりゴルフ会員権を代表者に時価の10万円で売却し、簿価との差額1,490万円を売却損に計上。 平成25年9月に税務調査により平成16年3月期の貸倒損失計上漏れを指摘され、売却損のうち貸倒損失部分を否認される。 《基礎知識》 ◆金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(法基通9-6-1) 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。 ◆更正の期間制限(旧通法70) 法人税に係る更正については、法定申告期限から5年を経過した日以後においては、することができない。ただし、次に掲げる更正(純損失等の金額に係るものに限る。)については、法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 依頼者の所有するゴルフ会員権の運営会社は、平成16年3月に再生計画認可の決定を受け、預託金の95%が切捨てとなった。前任税理士は、この決定を依頼者から聞かされたのが平成18年であったことから、そのままとなり、上記事実が引き継がれないまま前任税理士から税理士に交代した。 そして上記事実が失念されたまま減額更正の期間が過ぎ、平成25年3月期の法人税申告において、利益圧縮のため税理士がゴルフ会員権を代表者に時価の10万円で売却することを提案し、簿価との差額1,490万円を売却損に計上した。その後、税務調査により売却損のうち貸倒損失部分を否認されることとなる。 税理士は上記事実を聞かされていなかったが、多額の売却損を計上するに当たっては、専門家として慎重に事を運ぶべきであり、ゴルフ会員権の運営会社の状況を調査すべきであったと思われることから、税理士にも責任がある。 《予防策》 [ポイント①] コミュニケーションをとる 今回の事例は、ゴルフ会員権の運営会社に再生計画の認可の決定があったことにつき通知が来ていたにもかかわらず、その重要性を認識できなかった依頼者がすぐに税理士に報告しなかったことにより起きた事故である。 税理士は常日頃から、依頼者とのコミュニケーションをとり、会社の資産の状況等に変化がある場合には、税理士にその情報が伝わるような仕組みを作っておくことが必要である。 [ポイント②] チェックリストを活用したダブルチェック体制を構築する 申告書作成時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げるので、固定資産の売却等の特別損益については、チェックリスト等を作成して、担当者だけでなく、所長又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。 (了)
所得税
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居住用財産の譲渡所得3,000万円特別控除[一問一答] 【第8問】「区分所有に係る建物とその共有敷地(マンション)を譲渡した場合」-居住用財産の範囲-
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第8問】 「区分所有に係る建物とその共有敷地(マンション)を譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q X、Y及びZは、その共有(各人の持分1/3)に係る土地に共同で建物を建てて区分所有とし、それぞれの区分所有に係る建物に居住していました。 このほど、Xは建物と共にその敷地の持分の全部を譲渡しました。 この場合、Xについて「3,000万円特別控除(措法35)」の適用対象となる居住用財産の範囲はどこまででしょうか? A 建物の全部及び敷地のうち、X共有持分に相当する部分(全体の1/3)が「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができる。 〈解説〉 敷地の共有持分割合とその建物の全体床面積に占める区分所有に係る建物の床面積の割合とが概ね等しい場合には、敷地のうちその共有持分に相当する部分が、区分所有に係る建物に対応する敷地であるとして、「特例」の適用を受けることができる。 マンションや公団等の譲渡が、これに該当する。 (了)
税務
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財産評価
〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第10回】「土地を評価する③」~路線価方式による評価~
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第10回】 「土地を評価する③」 ~路線価方式による評価~ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 今回は土地評価の路線価方式について学ぶこととする。 〔路線価方式の計算〕 路線価方式による宅地評価は、基本的には で行われ、これに一定の調整計算(*)を行うこととなる。 ※国税庁ホームページより 〔宅地評価(路線価方式)による調整計算〕 宅地評価を詳細に説明することは紙面の関係上、別の機会に譲ることとし、本稿では割愛するが、宅地評価(路線価方式)による調整計算項目のみ列挙することとする。 〔宅地評価(路線価方式及び倍率方式の共通)の調整計算〕 また、宅地評価(路線価方式及び倍率方式の共通)の調整計算として主なものに、以下のものがある。 なお、財産評価基本通達には明記されていないが、利用価値が著しく低下している宅地については、10%減額できることとされている(国税庁タックスアンサー(財産の評価)No.4617「利用価値が著しく低下している宅地の評価」参照)。 (了)
国税通則
税務
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小説 『法人課税第三部門にて。』 【第21話】「退職した税務職員の再任用制度」
小説 『法人課税第三部門にて。』 【第21話】 「退職した税務職員の再任用制度」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「そうか・・・蔵本さんも今年が定年で、退職されたのか・・・」 渕崎統括官が椅子にもたれながら、「定期人事異動速報」を見ている。 蔵本は統括官で、この7月の人事異動で退職している。 職員は皆昼食に出ているので、法人課税第三部門は渕崎統括官以外、誰もいない。 「最近は退職して税理士になったとしても仕事がないって聞くし、蔵本さん、どうするのかな?」 渕崎統括官がつぶやく。 「統括官は食事終わりました?」 いつの間にか田村上席が、渕崎統括官の机の傍らに立っている。 食事の後らしく、爪楊枝をくわえている。 「いや、まだだが・・・ところで君は、蔵本さんを知っているよね」 「くらもと・・・?」 田村上席は、口から爪楊枝を外し、ゴミ箱にポイと捨てる。 「確か蔵本さんは、君の前任署の上司じゃなかったか?」 「ああ・・・蔵本統括官ですか」 田村上席は懐かしそうに蔵本の名を口にした。 「その蔵本統括官が、どうかしたのですか?」 渕崎統括官は、読んでいた「定期人事異動速報」を開いたまま田村上席に見せた。 開かれたページには130人以上の課長・統括官級の退職者の氏名が掲載されており、その中にある「蔵本明」という氏名に赤いチェックが付けられている。 「ああ、退職されたんですか・・・僕はずいぶんいろいろなことを蔵本統括官に教わったんですが・・・」 田村上席は残念そうに、その名前を見つめる。 「でも、退職したら税理士になるんでしょうね」 田村上席は、渕崎統括官に問いかける。 「いや、わからない・・・」 渕崎統括官は、頸を傾げる。 「どうしてですか。蔵本統括官はもちろん税理士の資格も既に持っているでしょうし、税務職員は、退職したら税理士になるものだと思っていましたけど」 田村上席は、渕崎統括官を責めるような口調で言う。 「しかし、税理士業界も不況業種だから・・・税理士になったからといって、すぐに食べていけるというものでもないだろう」 今度は田村上席が頸を傾げる。 「それじゃあ、あの・・・再任用制度を希望する、ということですか?」 田村上席がポツリと言う。 「・・・それも選択肢の1つかもな」 渕崎統括官は頷く。 「週4日勤務して給与は月額30万円ぐらいもらえるらしいし・・・もっとも賞与はもらえないから年収として360万円ほどになる。・・・しかし、これぐらいもらえるなら、仕事の少ない税理士をやるより良いとも思うが・・・」 渕崎統括官は椅子の背にもたれて天井を見上げる。 「・・・ということは、渕崎統括官は退職したら、再任用を希望するのですか?」 田村上席は、目を大きくして尋ねる。 「・・・まあ、まだ決めてはいないが、再任用も悪くはない・・・」 渕崎統括官は、自嘲気味に言う。 「そうなんですか・・・ところで・・・統括官は・・・あと何年で・・・退職ですか?」 田村上席は、おそるおそる尋ねる。 「あと、3年だな・・・まあ3年なんて、あっという間だよ」 田村上席は、薄くなっている渕崎統括官の頭髪を見る。 「しかし、もし、僕が再任用されて、その配属先の上司が田村君だったら、その時はよろしく頼むよ」 渕崎統括官は笑いながら言う。 「・・・そんな、ご冗談を・・・」 田村上席は、頭を掻きながら顔を赤くする。 「・・・いや、冗談じゃないさ。僕が退職して再任用されると、もちろん・・・統括官ではなく、一般の調査官になるし・・・」 渕崎統括官は笑いながら話を続ける。 「・・・何年か前に税理士から聞いた話だが・・・税務署から税務調査の連絡を受けた税理士が、その担当者の名前を「税務職員録」で調べると、「調査官」となっていた。だから、その税理士は、「30歳過ぎぐらいの若い職員が税務調査に来ますよ」と納税者に伝えていたところ、当日税務調査に来た職員はずいぶん老けていて、大変驚いた、と・・・」 田村上席も苦笑いする。 「田村君は、僕が退職する頃には統括官になっているだろうから・・・僕が部下になる可能性は十分にありうる。でも・・・できれば税務調査ではなくて、内勤をしたいがね」 「税務調査は嫌ですか?」 「うーん・・・やっぱり税務調査は精神的に疲れるから・・・定年で一旦退職すると、むしろ申告書の受付のような、あまり気をつかわない内勤がいいよ」 渕崎統括官は笑いながら言う。 「そうですか・・・でも、統括官のように、税務調査に関する豊富な知識と経験を使わないなんて・・・少し、もったいない感じがしますね」 田村上席は、真剣な顔で言う。 「そんなことはないさ。しかし、僕も年をとったせいもあるのだろうけど、確かに今の若い職員を見ていると、覇気がないように見える」 渕崎統括官の力のこもった言葉に、田村上席は大きく頷く。 「確かにそうですね・・・税務調査も、もちろん昔のように無茶な税務調査はできなくなって、これからは情報収集を中心としたスマートな調査手法を開発していかなければならないのだけれど、でも、結局は人間が行うことですから、仕事に対する情熱・・・そう、やる気はやっぱり大切ですよね」 田村上席は付け加える。 「・・・老兵は去るべきなんだろうけど、まだ僕なんか、若い税務職員に、自分の知識や経験などを伝えたいと思っているから、再任用されて、時間があれば、そんなこともやってみたい気持ちはある・・・」 「それは良いことですね・・・私が統括官になったら、ぜひ、渕崎統括官、いや、渕崎調査官を私の法人課税部門でスカウトしますよ」 田村上席がそう言うと、2人はお互いに顔を見合わせて、大きく笑った。 (つづく)
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第9回】「役員借入金と税金」―役員借入金の解消策―
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第9回】 「役員借入金と税金」 ―役員借入金の解消策― 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 役員借入金の特徴 (1) 財務数値の悪化 金融機関は、企業の財務数値等を用いて信用格付を行っています。 役員借入金の金額が大きくなると自己資本比率(自己資本÷総資本)が悪化し、会社の財務体質の評価が下がる場合があります。 仮に、役員借入金を解消することができれば、自己資本比率が改善し、銀行の信用格付が高くなります。 (2) 相続税の課税財産 役員が会社に貸している債権の回収は難しいと思われる場合であっても、役員に万が一のことがあった場合には、役員が会社に対して有する債権(会社からみた場合の借入金)は相続税の課税財産として、原則として帳簿価額で評価されます(評基通204、205)。 仮に、役員借入金を資本金に振り替えることができれば、相続税の課税財産としては、評価減が可能な会社に対する出資(株式)として評価されます(評基通178~180、185、188、188-2、189~189-6)。 2 役員借入金の解消方法 (1) 役員借入金の免除 会社と役員の契約において、役員からの借入金を免除してもらう方法です。 (2) 資金繰りの中から返済 役員報酬等の人件費、諸経費の削減による余剰資金を、借入金の返済原資とする方法です。 (3) 資本金へ振り替え(通称DES:デット・エクイティ・スワップ) 役員が会社に対する貸付金(=借入金)を現物出資して会社の債務を消滅させ、会社の資本金に振り替える方法です。 (4) 疑似DES(疑似デット・エクイティ・スワップ) 債務消滅益に対する課税を回避し、かつ、借入金の帳簿金額の全額を資本金に振り替えないと債務超過が解消できない時には、疑似DESが用いられる場合があります。 疑似DESとは、債権者である役員が金銭払込みによる増資を行った後、会社が役員に借入金を弁済する方法で、結果的にDESと同様な効果が得られます。 疑似DESは、現物出資ではなくあくまでも金銭出資の一種ですので、平成18年度税制改正後においても債務消滅益は生じません。 しかしながら、DESと効果は同じであることから、経済合理性のない租税回避のみを目的とした疑似DESは、同族会社の行為計算の否認等を受けるリスクがありますので注意が必要です。 特にDESに関する会計上、税務上の取扱いはとても複雑です。 本稿の内容は、読者が理解しやすいように厳密ではない解説をしている部分がありますので、本稿に基づく情報によりDESを実行する場合には、専門家にご相談されることをお勧めします。 (了)
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貸倒損失における税務上の取扱い 【第6回】「子会社支援のための無償取引②」
貸倒損失における税務上の取扱い 【第6回】 「子会社支援のための無償取引②」 公認会計士 佐藤 信祐 清水惣事件は関係会社間における無利息貸付けに利息相当額の収益を認識することができるか否かが争われた事件である。 この事件では昭和39年度及び昭和40年度に無利息貸付けを行ったことにつき、利息相当額につき収益とし、同額を寄附金と認定して、寄附金の損金不算入額を加算する更正処分が行われたものである。 なお、第1審・大津地裁昭和47年12月13日判決、控訴審・大阪高裁昭和53年3月30日判決とかなり古い判決ではあるが、現在の法人税基本通達9-4-1、9-4-2が昭和55年に定められた通達であり、本事件の影響を受けたものと言われていることから、無利息貸付けに係る法人税法上の取扱いを理解するためには、理解しておくべき判決であると言える。 4 清水惣事件 (1) 第1審・大津地裁昭和47年12月13日判決(高裁民集31巻1号103頁、訟月19巻5号40頁、判時695号54頁、税資66号1112頁、金判345号11頁) ① 判決の概要 第1審においては、 として、原告(納税者)の請求を認容し、本件更正処分が取り消された。 本判決については、約40年前の判決とはいえ、現在の税実務からするとかなり違和感のある判決である。そのため、その後の控訴審で取り消されているとはいえ、無利息貸付けについての法人税の考え方を理解するためにも、まずは先入観を抜きにして判決文を読む必要がある。 ② 被告側の主張 第1審における被告(近江八幡税務署長)の主張をまとめると、以下の通りである。 ③ 原告側の主張 これに対し、原告(納税者)の主張をまとめると以下の通りである。 被告は、原告が本件融資を無利息にしたのは、法人税の負担を不当に軽減することを企図したものと主張するが、原告にはそのような意図はなかった。 経済合理性の有無の判定は、親会社が子会社に無利息融資すること、そのこと自体が不合理、不自然かどうかによって決すべきであって、子会社を如何に経営するか、したがって、その資本金、借入金更には営業実績等の一切は税務行政庁がせん索干渉すべき事柄ではないというべきである。 親会社が出資をして子会社を設立し、親会社への利益還元を期待してこれを育成援助することは世上通例のことである。そして、育成援助の仕方も、当該企業が営利政策の見地から自由に資金の融通、担保の供与、資材の支給等の方法を選択決定できるのであり、原告の訴外会社に対する本件無利息融資行為も、子会社である訴外会社の育成援助のための初歩的な通常の手段に属し、したがって、本件無利息融資は、被告の主張のような不合理、不自然なものということはできない。 原告会社は本件無利息融資によって税負担を減少させたのではなくこれによって子会社たる訴外会社を育成して倍旧の利潤をあげ、訴外会社共々納税の実を挙げている次第であって、かえって法人税納付を増加させる結果となっているのである。 本件の無利息融資は、原告会社が商業人として利潤追求のためにする子会社育成援助の手段であって、このことは原告会社の事業活動に関係があるというより、直接事業収益に向けられた事業活動の一環であり、事業活動そのものなのである。 ④ 裁判所の判断 このように、被告側は寄付金に該当するものと主張し、原告側は寄付金に該当しないものと主張したが、裁判所は原告側の主張を認め、更正処分を取り消した。 その理由をまとめると、以下の通りである。 ⑤ 総括 このように、第1審判決は、現在の税実務からするとかなり違和感のある判決が下された。 法人税法において、経済的便益を受けた側ではなく、経済的便益を提供した側に対して課税を行うということは、法律家にとっては違和感があるということは有名な話ではあるが、本判決にもその影響があることは推察できる。 また、この点につき、大淵博義教授は、 と述べられている。 次回では、控訴審判決について解説を行う予定である。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載46〕 自己株式と現物給与などに関する消費税の課税関係
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載46〕 自己株式と現物給与などに関する 消費税の課税関係 税理士 飯田 聡一郎 1 自己株式として取得される株式の譲渡者側の取扱い (1) 通達における取扱いの確認 有価証券を譲渡した場合は、消費税法上は非課税売上に該当する。しかし、有価証券の譲渡であっても、株主が保有する他社株を、その株式の発行法人に譲渡する場合は、資産の譲渡等に該当しないこととされている。 上記通達のとおり、発行法人が自己株式として取得した場合の株主の譲渡、あるいは株式発行法人が自己株式を処分した場合については、資産の譲渡等と考えないことになる。 なお、上場株式について、公開買付けの場合は自己株式の取得であることが明らかであり、上記通達に該当するが、証券市場での買入れについては、譲渡した法人がその株式の買い手が株式発行法人であるかどうかはわからないため、株式発行法人である上場会社が、公開買付け以外の市場取引で自己株式を取得した場合は、その株式を譲渡した法人については単に、有価証券の譲渡と割り切って考えることになる。 (2) 資産の譲渡等に該当しない理由 なぜ、自己株式として取得される場合の取引、自己株式の処分として行われる取引が資産の譲渡等に該当しないのかについて検討を加える必要がある。 自己株式の取得という行為は、かつて発行した株式について払戻しをする行為と考えられる。また自己株式の処分は、新株発行と同様の行為と考えることができる。そして、資本の払戻し、あるいは新株の発行については、株式発行法人にとっては、資産の譲渡等とは考えていない。 株式保有法人が、株式発行法人に当該株式を譲渡する場合は、それ自体、資産の譲渡であるが、消費税では、資産の譲渡については、同一性を保持したまま、他人に移転させることとされている。この限りでは、資産の同一性が保持されないので、上記通達で、資産の譲渡等に該当しないと明記された。 なお、会社が自己株式を取得する場合は、他人が保有している時点では、発行法人への議決権や配当請求権、残余財産分配請求権を有する資産(有価証券)であるが、自己株式となった時点で会社法では、資本剰余金等のマイナス概念として、支払額が帳簿価額として認識されるのみである。法人税においても、株式発行法人が有する自己株式は有価証券から除かれている。 2 現物出資による場合の取扱い 株式発行法人にとって、株式の交付は、新株発行であっても、自己株式の処分であっても、会社法においても、法人税においても資本等取引なので、譲渡ではない。しかし、資産を現物出資して、他社株を取得した場合は、現物出資により、株式の交付を受けた法人は資産の譲渡等となる。 この点については、確認的に、消費税法施行令2条1項では次のように規定されている。 金銭以外の資産の出資、つまり現物出資は、資産の譲渡等に含まれると規定されている。株式の発行は資産の譲渡等ではないのに、一方で現物出資が資産の譲渡等に含まれるというのは、どのように解釈すべきであろうか。 下記のように、取引を分解して考える必要がある。 上記の①有価証券の交付については、資産の同一性が保たれない移転で資産の譲渡等とは認識せず、②現物による払込みは、資産の同一性を保った資産の移転であるため、資産の譲渡等と認識することになる。 この場合、譲渡を行った者は出資者側であるから、出資者が課税事業者であれば、現物出資した資産の種類に応じて、課税資産の譲渡あるいは非課税資産の譲渡を認識する必要が生じる。この場合の課税標準額の計算にあたっては、株式の取得の時における価額が課税標準額となる(消令45②三)。 ちなみに、現金による払込みの場合は、上記②の部分が、出資者から支払手段の譲渡があったことになる。しかし、消費税法上は支払手段の譲渡は非課税で、かつ課税売上割合の計算にも影響しないため、事実上の対象外取引として考えられる(消費税法別表第一第二号、消基通3-2-3)。 3 中期国債ファンドの解約について 自己株式に関わる取引の他に、証券投資信託などの金融商品の場合でも、譲渡なのか解約なのかで、消費税の取扱いが異なる。 国税庁の照会事例では、中期国債ファンドを設定後30日以内に換金した場合は、その時の時価で有価証券を譲渡したこととして取り扱い、一方で設定後30日経過して解約した場合には、分配金は利子となり、元本部分については課税関係が生じないこととなる。 これは、30日経過後は、手数料なしで解約できる契約となっていることから、30日以内の場合は事実上の譲渡と考え、30日経過後は解約による分配金と元本の返還と考えることになる。 4 現物給与の課税関係 上記のように、取引を2つのモノの流れに分解して考える場合に、現物給与について、資産の譲渡等に含まれるのか否かという疑問が生じる。 上記の①労働役務については、消費税法第2条第1項第12号で、給与等を対価とする役務の提供は課税仕入から除かれるため、課税対象外取引と考えられる。一方で、②現物給与については、資産の譲渡等が行われていると考えることもできる。 しかし、現物給与については、基本通達において、単に現物を給付することとする場合の現物給付は代物弁済に該当せず、結果として資産の譲渡にならないとされている。 また、この点について、国税庁消費税課が作成した消費税審理事例検索システム(平成12年)の質疑応答事例でも、もう少し踏み込んだ記載がなされている。 この質疑応答事例でも、現物給与は、代物弁済に該当しない限り、課税対象とならないと解説している。 この点については、国税庁消費税課係長・課長補佐を歴任され消費税の創設・導入に尽力された木村剛志先生が著書の中で、 としている。書きぶりからすると、代物弁済との認定が容易ではないため、課税の対象としないという考え方のようである。 理論上は、同じように資産の引渡しが行われて、異なる課税関係となる点は、疑問が残らないわけではない。しかし、条文上は、消費税法第2条第1項第8号及び消費税法施行令第2条で、資産の譲渡等の範囲を定めており、代物弁済、負担付贈与、現物出資などについては資産の譲渡としているのに対して、現物給与についての規定はない。 そこで、消費税法基本通達5-1-4で、現物給与が資産の譲渡等に該当しない取扱いであることを確認的に明らかにしていると考えるのが自然な解釈である。 1つの仮定だが、現物給与1,000万円とした場合に、それが課税対象を構成した場合、現物支給を行う会社側が消費税を受け取っていないのにもかかわらず、消費税を負担することは消費税の趣旨からは理論的ではないように思われる。一方で、交換や代物弁済などについては、課税しない構成とすれば消費税の脱法行為がまかり通ることになる。 その意味では、課税上の弊害と消費税の負担とのバランスを考慮して、ぎりぎりのところで、資産の譲渡等に含まれる範囲を定めたと考えることができよう。 (了)