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所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第3回】「馬券訴訟(その3)」~継続的行為としての「競争順位の予測行動」~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第3回】 「馬券訴訟(その3)」 ~継続的行為としての「競争順位の予測行動」~   国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦   1 「継続的行為」 一時所得の要件を考えるに当たっては、「継続的行為から生じた所得」が一時所得から外されていることと、「一時の所得」であることの2つの場面で、ある種の継続的な性質を有する所得を排除している点に気がつく必要がある。 すなわち、継続的行為から生じた所得が一時所得に該当しないだけではなく、一時の所得でない所得も一時所得に該当しないのである。 つまり、一見すると類似したこの2つの継続性のいずれに該当しても、一時所得には当たらないということになるのである。 上図が示すとおり、継続的行為から生じた所得の場合は、その発生する所得の態様(結果)が一時のものであるかどうかにかかわらず、原因が継続的行為に基づく限り、その原因によって生じた所得は一時所得に該当しないことになる。 また、原因が継続的な行為であるかどうかに関わりなく、何らかの原因により発生した所得が「一時の所得以外の所得」であれば、かかる所得は一時所得に該当しないことになる。このように解するのが最も文理に素直な解釈であるといえよう。 もっとも、「一時の所得」を現象(結果)としてのみ捉えるのは、前回述べた所得源泉があるか否かを判断の基礎とするという考えに必ずしも合致しない。そうであれば、一時の所得とは、その表面的な形態(結果)により判断するのではなく、所得源泉性を認めるに足りる程度に、かかる行為(原因)に継続性が認められるか否かという点から判断をすることが要請されよう。   2 一回的行為が連続・継続した場合の継続的行為性 所得の基礎が所得源泉となり得ない臨時的・不規則的なものであっても、連続して継続的行為となることにより、所得源泉を有するものとみられるに至る場合があり得る。 この点、名古屋高裁金沢支部昭和43年2月28日判決(行裁例集19巻1=2号297頁)は、 とする。 そもそも継続的行為とは、一回的行為が連続することによって成り立つものである。 〈名古屋高裁金沢支部昭和43年2月28日判決〉 すなわち、上記名古屋高裁金沢支部判決が述べるとおり「連続的行為性」から、継続的行為の有無を判断することもあり得るのである。   3 Yの主張に対する疑問 本件において、Y(原処分庁)は、「馬券の購入行動が所得稼得活動だ」と主張している。このYの主張には、次のような大きな疑問がある。 すなわち、X(請求人)の所得稼得活動の本質は、「馬券購入行動」ではなく、「競争順位の予測」であるという点である。 つまりXがしていることは、様々な情報や経験則に基づくノウハウを活用して、いかなるコンディションの馬場で、いかなる体調の馬が、いかなる騎手の下で、次のような評価を経た後に、どのような着順になるかを予想することである。 Yは、馬券購入行動が所得稼得活動であると考えているようであるが、Xは、①該当する競走馬、レース条件の計算式を適用して、合計評価ポイントを算定し、②算定された合計評価ポイントを基に、当該レースの購入金額・買い方パターンを決定し、③購入基準に照らし合わせて、買い目と1点当たりの購入金額を決定するという行動をしており、予測と購入金額の決定の後、初めて、Yがいう「馬券購入行動」をするのであって、いわば、馬券購入行動自体は、Xの所得稼得活動の最終の段階であり、極端に言えば本人以外の者に購入を依頼してもよいような作業である。 Xがその構築したシステムやノウハウ、収集した資料に基づく知見を発揮するのは、馬券購入行動そのものにあるのではなく、それ以前の段階であるという点を見過ごしているといわざるを得ない。 このようなXの所得稼得活動は、いわば投資家が株券を購入すること自体に能力を発揮するのではなく、経済分析、投資対象者の経済活動の分析などを行うこととまったく変わりがないのである。たまたま、それが株券ではなく、馬券であるというだけのことであるといっても過言ではあるまい。 また、本件において、Yは、「JRAが開催する競馬においては、馬券を購入する行為とその競争の結果(着順)との間に相関関係がないことは明らか」と述べている。このことは至極当然のことであり、この論旨自体は問題がない。 しかし、このYの主張にも大きな疑問がある。 すなわち、いかにXが知見と研究に基づき構築したシステムを活用して馬券を購入したとしても、当然ながら、かかるXの行為が競走馬の着順を左右できないことは言わずもがなである。Xは、これまでの情報収集等で築き上げたノウハウを使って競走馬の着順を予測しているのであって、着順を左右しようとしているわけではないのは当然である。 これは議論以前の問題である。   まとめ ― 本裁決の問題点 本件裁決は、上記のようなYの主張を基礎とした判断を展開しているようであるが、上記の2つの点に加えて、さらに大きな問題点を残しているといわざるを得ない。 一般論での一時所得該当性の議論においては、所得源泉性が重要とし、すなわち、行為や原因が所得判定要素であるかのように述べているにもかかわらず、本件の検討においては、結果の側面、すなわち所得発生の「偶然性」を基礎とした判断を展開していると思われる点である。所得源泉性が重要であるとの論理一貫性からすれば、所得発生の偶然性にこだわった結論に問題はなかったのであろうか。 ここまで詳述してきたように、Xは自らの知見と研究に基づき独自に開発したシステムを活用して競走馬の順位予測を行い、それに基づき購入した馬券により所得を得ていたことは明らかであり、その所得嫁得活動は、一回的行為の連続による継続的行為に基づくもので、所得源泉性を有するものと認められるに十分な程度の継続性を有するものといい得るのであって、これらの点に加えて、他の一般的な馬券購入行動とはその規模からしても異なることをも併せ考えれば、本件馬券に係る所得は、一時所得に当たらず雑所得に該当すると解するのが相当であったように思えてならない。 本件は東京地裁にそのステージを移している。今後の判決の動向に注目したい。 (了)
#31(掲載号)
#酒井 克彦
2013/08/08
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」の解説 【第1回】「制度導入の趣旨・背景と適用期間の確認」

「商業・サービス業・ 農林水産業活性化税制」の解説 【第1回】 「制度導入の趣旨・背景と 適用期間の確認」   公認会計士・税理士 新名 貴則   ◆連載開始に当たって◆ 平成25年度税制改正により、中小企業活性化のために設備投資を促進する税制が創設された。具体的には「商業・サービス業及び農林水産業を営む中小企業等の経営改善に向けた設備投資を促進するための税制措置の創設」という。 これについては、本誌に寄稿した2013年3月28日公開の拙稿「商業・サービス業・農林水産業活性化税制の創設-平成25年度税制改正」において、以下のとおり解説している。 税制の概要 中小企業等が器具備品及び建物附属設備を取得した場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除(当期の法人税額の20%が上限)を認める税制措置を創設する。 ただし、下記の要件を満たす必要がある。   〔イメージ図〕 本連載では、本制度の創設に係るポイントや適用要件等を具体的に解説していく予定である。   1 制度導入の趣旨・背景 アベノミクス効果により、大企業を中心として景気回復の傾向は見られるものの、多くの中小企業は依然として苦しい経営状態が続いている。 このような状況において、今後次のとおり消費税率の2段階引上げが予定されている。 【消費税率(及び地方消費税率)の引上げスケジュール】 これを実行するか否かは、税率引上げ前における経済状況等を総合的に勘案した上で決定することになっているが、実際にこの引上げが実行された場合には、中小企業は次のようなダメージを受ける可能性が高い。 中小企業は地域経済と雇用を支える非常に大事な存在であるにもかかわらず、このようなダメージを受けることによって倒産が相次ぐような事態になると、地域経済及び雇用に大打撃となる恐れがある。 そこで、税制優遇措置を導入することで、中小企業の魅力向上や業務改善に貢献する設備投資を促進し、消費税率の2段階引上げに備えて経営状態の安定及び活性化を実現するために、この商業・サービス業・農林水産業活性化税制が導入されたのである。   2 適用期間 この制度が適用されるのは、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの期間(指定期間)である。 この指定期間内に取得し、事業の用に供した資産(器具及び備品、建物附属設備に限る)について適用されることになる。 【適用期間と消費税率(地方消費税率を含む)引上げの関係】 (了)
#31(掲載号)
#新名 貴則
2013/08/08
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

相続税対策からみた生前贈与のポイント 【第3回】「配偶者の老人ホーム入居金を負担した場合の贈与税」

相続税対策からみた 生前贈与のポイント 【第3回】 「配偶者の老人ホーム入居金を 負担した場合の贈与税」   税理士法人タクトコンサルティング 税理士 山崎 信義     1 妻の生活費を夫が負担した場合の贈与税の取扱い 妻の生活費に充てるため、夫が妻に贈与した金銭のうち、通常必要と認められるものには、妻に係る贈与税が非課税とされる(相続税法21条の3第1項2号)。 しかし、その具体的な額は、相続税基本通達21の3-6で妻(受贈者)が必要とする額と夫の資力等を勘案し、社会通念上適当と認められる範囲の金銭とされているのみであり、上限がいくらなのかは明確にされていない。 実務上は、個々のケースに応じ、その金銭の贈与が贈与税の非課税財産とされるかどうかを判断することになる。 老人ホーム入所の際に支払う入居金は、住居に係る生活費と考えられる。妻が負担すべき老人ホームの入居金を夫が負担した場合、その負担額が「通常必要と認められるもの」に該当すれば、妻に係る贈与税は非課税となる。 この場合、該当するかどうかは個別判断になるため、同様の事例における課税当局の判断を参考にするのが有用である。 この点につき、国税不服審判所で争われた事例を次で紹介する。   2 裁決事例から考える「妻の老人ホーム入居金を夫が負担した場合」の贈与税課税 (1) 平成23年6月10日裁決の内容 Aは夫と一緒に施設利用権付有料老人ホームに入居していた。 病により余命いくばくもないことを悟っていたAの夫は、入居に当たり自分の死後の手続等も考え、妻のAを主契約者、自らを追加契約者とし、Aが負担すべき入居金1億3,370万円のうち大半(1億2,359万円)を負担した。 その後、夫は3年も経たず死亡し、Aは夫の相続税の申告を行ったが、夫負担の入居金は課税財産として申告しなかった。 しかし、「夫が負担した入居金はAに対する相続開始前3年以内の贈与に当たり、相続税の課税価格に加算すべき」と税務当局より指摘され、結果、国税不服審判所での争いとなった。 この事例では、夫がAの老人ホーム入居金を負担した行為が、「生活費に充てるための贈与」に該当するかどうかが最大の争点となった。 Aは、夫が負担した入居金について、「夫婦で入居するため夫が負担する費用だから、扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものに該当し、相続税法21条の3第1項第2号により贈与税は非課税であり、よって相続税の申告に含めるべきものではない」と主張した。 Aの主張に対し国税不服審判所は、まずAが夫から金銭贈与を受けて老人ホームの施設利用権を取得したと整理し、次に「相続税法21条の3第1項第2号の立法趣旨から、生活費に該当するか否かの判断は、個々の具体的事情に即して社会通念に従って判断すべき」と指摘。 問題の老人ホームについては、「入居金が億単位できわめて高額」「居室が広い」「共用施設にレストラン・ラウンジ・大浴場など多数」「医療支援・食事サービス・生活助言・文化・レクリエーション支援などサービスが充実、無料サービスもある」等から、施設利用権取得のための金員は社会通念上、日常生活に必要な住の費用であるとは認められないと判断し、さらに、この老人ホームが介護付有料老人ホームではなく、Aが要介護状態にはなく老人ホームに入居することが避けられなかったわけでもないことから、「この入居金は相続税法21条の3第1項第2号の生活費には該当せず、贈与税の非課税財産とはならない」として、Aの主張を退けている。 (2) 平成22年11月19日裁決の内容 国税不服審判所の裁決事例には、(1)とは反対に、被相続人が配偶者のために老人ホームの入居金を負担した場合において、「妻の生活費に充てるために行った贈与であるから、相続税法21条の3第1項第2号により贈与税は非課税であり、よって相続税の申告に含める必要もない」と判断されたものもある。 この事例について国税不服審判所は、被相続人から配偶者に入居金相当額の金銭の贈与があったとしたうえで、次に挙げる理由により「入居金相当額の金銭の贈与は、介護を必要とする配偶者の生活費に充てるために通常必要と認められる」と判断している。 (3) 判断のポイント 夫婦の一方が配偶者の老人ホーム入居金を負担した場合について、前述(1)の裁決と(2)の裁決では判断が分かれている。 このうち、生活費の贈与として贈与税が非課税とされた(2)の裁決においては、介護の必要性があることや、老人ホーム施設が介護の目的を超えた豪華なものではないことが判断基準となっている。 夫婦で入居する老人ホームの入居金につき、夫が妻の分も一緒に負担することは珍しくない。 このような場合においては、(2)の裁決で示された①~④の判断基準を参考に、税務上のトラブルが生じないよう慎重に対応したいものである。 (了)
#31(掲載号)
#山崎 信義
2013/08/08
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

租税争訟レポート 【第13回】非課税貯蓄申込書の受付義務と損害賠償

租税争訟レポート【第13回】 非課税貯蓄申込書の受付義務と損害賠償   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【事案の概要】 本件は、障害者手帳の交付を受ける原告が、被告株式会社A銀行(以下「被告銀行」という)B支店に定期預金の預入をした際、所得税法10条所定の非課税貯蓄申込書等を郵送したところ、被告銀行が郵送による受付はしないとしてこれを返却したため、定期預金の利子所得について所得税及び地方税の課税を受けた等と主張し、被告銀行に対し債務不履行責任又は不法行為責任に基づき、被告国に対し国家賠償法上の賠償責任に基づき、被告埼玉県に対し同法上の賠償責任に基づき、課税額相当損害金38円及び慰謝料10万円の連帯支払を求める事案である。   【当事者の主張】 1 原告 (1) 所得税法10条2項、3項は、非課税貯蓄申込書等は金融機関の営業所等に対してのみ提出することができるものとし、所得税基本通達10-14、同10-15は、郵便等によって金融機関の営業所等に非課税貯蓄申込書等の提出があった場合の取扱いについて規定しているのであるから、被告銀行は、郵送により提出された非課税貯蓄申込書等を受け付ける義務があり、被告銀行は債務不履行責任及び不法行為責任を負う。 (2) 被告銀行は所得税法に違反しているのであるから、東村山税務署担当官は、被告銀行に対し指導監督する義務があるところ、それを怠ったものであり、被告国は、国家賠償法上の賠償責任がある。 (3) 利子等の支払い又はその取扱いをする者の営業所等で道府県内に所在するものを通じて利子等の支払いを受ける者に利子割額の納税義務を課し、その結果、原告の住所地ではない被告埼玉県に利子割額を納税することとなる地方税法の規定は、違憲無効であるから、被告埼玉県は、国家賠償法上の賠償責任がある。   2 被告銀行 所得税法上、金融機関は、郵送された非課税貯蓄申込書等を受け付ける義務を負っていないものであるから、郵送された第1非課税貯蓄申込書等及び第2非課税貯蓄申込書等を受け付けなかったことについて、被告銀行が不法行為責任を負うことはない。 被告銀行は、インターネットバンキングを利用した預金の預入を受け入れた後で、非課税貯蓄申込書等が郵送により到着した場合に、さかのぼって非課税扱いとすることはシステム上の整備を必要とすることから、郵送された非課税貯蓄申込書等を受け付けないこととしているものである。 3 被告国 所得税法上、金融機関は、郵送された非課税貯蓄申込書等を受け付ける義務を負っていないものであり、すべての預金等について非課税制度の取扱いを義務付けられているとはいえず、非課税制度の取扱いを行わない預金等を商品化しても問題はないものである。 したがって、東村山税務署担当官が被告銀行に対し指導監督をすることをしていないことをもって、被告国に国家賠償法上の賠償責任が生じることはない。 4 被告埼玉県 原告が指摘する地方税法の規定は、合憲である。   【裁判所の判断】 1 所得税法の解釈について 所得税法10条3項所定の金融機関の営業所等に非課税貯蓄申込書等が提出された場合、当該営業所等は、これを受け付けて、関係法規に従った手続を行うことが定められているのであり、当該営業所等はその義務を負うと解釈される。当裁判所は、同法10条2項、3項所定の「提出」に郵送による提出が含まれると解釈する。 2 被告銀行に対する請求について 民法1条2項所定の信義則に基づき、被告銀行は、原告と被告銀行との間の預金契約上の付随義務として、郵送により提出された非課税貯蓄申込書等について、これを受け付ける義務を負うと認める。郵送により提出された非課税貯蓄申込書等を受け付けず、これを原告に返却した被告銀行の行為は、預金契約上の付随義務に違反したものであり、債務不履行責任を負う。 3 被告国に対する請求について 所得税法10条3項所定の原告の住所地を所轄する東村山税務署担当官としては、必要な調査をした上で、被告銀行に対し、非課税貯蓄申込書等を受け付けて、所定の手続をした上で、所得税法施行令47条の2に従い、当該金融機関の営業所等の所在地の所轄税務署長に送付することの指導監督をすべき義務があったというべきである。 東村山税務署担当官は、上記義務に違反し、被告銀行に対して指導監督をすることをしていないのであるから、被告国は、国家賠償法1条1項に基づく賠償責任がある。 4 被告埼玉県に対する請求について 原告の住所地ではない被告埼玉県に利子割額を納税することとなる地方税法24条1項5号、71条の9、同条の10の規定が違憲無効であることをもって、本件に関し、被告埼玉県が国家賠償法上の賠償責任を負うこととなると解することはできないから、被告埼玉県の国家賠償法上の賠償責任に関する原告の主張は、主張そのものが成り立たないものである。 したがって、地方税法の上記規定が違憲無効であるかを検討するまでもなく、原告の被告埼玉県に対する請求は理由がない。   【解説】 原告が、インターネットバンキングを利用して定期預金を預け入れた後、非課税貯蓄申込書等を郵送したところ、被告銀行はこれを返却した。これを受けて、原告は、その住所地を所管する東村山税務署担当官に対し、被告銀行に指導監督を求めたが、指導監督は行われなかった。 原告は、源泉徴収された税額38円に加えて、「疾患の症状が悪化する等の精神的苦痛」の代償として慰謝料10万円を求める本人訴訟を提起し、裁判所は、原告の訴えを全面的に認めた。 被告銀行が郵送による提出を受け付けない理由は、「さかのぼって非課税扱いとすることはシステム上の整備を必要とする」ためであり、企業としての経済合理性を追求した選択であることは、預金者の利便性を犠牲にすることの可否はともかく、納得できるものである。 しかし、課税当局の対応について、理解に苦しむところがある。原告が主張するとおり、所得税基本通達10-14、10-15は、非課税貯蓄申告書等が郵送で提出される場合もあることを前提に発遣されたものであることは明らかであり、また、提出には、郵送は含まないという主張は、一般的に考えても受け容れがたい。また、国税通則法22条には、申告書その他の書類が、「郵便又は信書便により提出された場合」の提出時期についての規定を置いているように、租税手続において「提出」が「郵送」を含むことは、裁判所の認定するとおりである。 その結果、裁判所は、相談を受けながら被告銀行に対する指導監督を怠ったとされた東村山署担当官のみならず、以前に原告と面談した複数の納税者支援調整官もまた、「所得税法上、金融機関は、郵送された非課税貯蓄申込書等を受け付ける義務を負っていない」「非課税制度の取扱いを行わない預金等を商品化しても問題はない」という趣旨の説明をしており、「徴税当局における所得税法の解釈に誤りがあったことに起因する」と断じた。 なお、裁判所は、原告は、被告銀行が郵送により提出された非課税貯蓄申込書等を受け付けない方針であることを知りながら、その方針が違法であることを明らかにする手段として、一連の預入手続を行い、本件訴訟を提起したものであると認めながら、この事実は、原告の損害賠償請求権を消滅ないし減縮する事実には当たらないと判断した。 (了)
#31(掲載号)
#米澤 勝
2013/08/08
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税務判例を読むための税法の学び方【16】 〔第5章〕法令用語(その2)

税務判例を読むための税法の学び方【16】 〔第5章〕法令用語 (その2)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) 3 「直ちに」「すみやかに(速やかに)」「遅滞なく」 これらはいずれも、ある行為又は事実とその後に続く行為との間の時間的な近接性を表す、一般的には「すぐに」という言葉で表現される内容を意味する法令用語である。これらの言葉が通常使われたとしても、言葉に差があると意識して使い分けられることはないであろう。 しかし、法令用語としてこれらの間には、時間的許容範囲、遅滞があった場合の違法性の有無・程度といった点に差異がある。 ① 直ちに 上記のうちでも、時間的即時性が最も強いものは、「直ちに」であり、「即時に」「間髪を入れずに」という趣旨を表すときに用いられる。 このため「直ちに」という場合は、一切の遅滞は許されないと解されるのが通例である。 その使用例として、国税通則法第82条第2項で見てみよう。 したがって、異議申立書が提出された場合には、その異議申立書を、即時に、間髪を入れずに国税局長又は国税庁長官に送付しなければならないこととなる。 ② すみやかに 「直ちに」よりは急迫の程度、時間的近接性の度合いが低い場合について用いられ、通常の事務処理に従ってできる限り早く行えば、即時に、間髪を入れずに行われなくても、違法又は不当の問題が発生しないものとされている。 その使用例として、国税通則法第103条で見てみよう。 ここでは、「すみやかに」返還すればよいという「直ちに」よりもやや緩やかな時間的近接性を許容している。 それは、返還すべき帳簿書類等が、担当の国税審判官、国税副審判官や国税審査官等複数の関係者がそれぞれ保管していることもありうるところから、「直ちに」返還することが困難な場合があると考えられるからである。 ③ 遅滞なく 「直ちに」と比べると時間的即時性はやや弱くなり、正当な又は合理的な理由があれば、その限りでの遅れは許されるものであると解されている。すなわち、事情が許す限り最も早くという意味であって、合理的理由があれば遅滞も許されるのである。 しかし、正当な理由等がなく遅滞した場合には、違法又は不当の問題が発生すると解されている。 その使用例として、国税通則法第56条第1項で見てみよう。 ここで「直ちに」ではなく「遅滞なく」と規定しているのは、還付の手続には相応の日時が必要であるところから、その手続のために要する時間的許容を認める趣旨である。 ④ 「すみやかに」は訓示規定か 「直ちに」や「遅滞なく」が、違反した場合に違法又は不当の問題を生ずるのに対して、「すみやかに」は訓示的な意味で使われることもあるといわれる。 「できるだけすみやかに」(警察官職務執行法第3条第2項)とか、「なるべくすみやかに」(国家公務員法第95条)が、訓示的であることが分かるような使い方の例として挙げられる。 しかし、「速やかに」としながらその違反に対して罰則を設ける立法例もあり(道路交通法121条第1項第9号(道路交通法94条1項に規定する免許証の記載事項の変更届出等の義務違反に対するもので、「速やかに」はこの94条1項にある))、また上記のような訓示規定の例とされているものについても、正当な理由や合理的な理由もなく遅滞した場合に、違法又は不当の問題を全く生じないとはいえないであろう。 また、もしこれが単なる訓示規定であり、遅れが違法や不当の問題を生じずに許されるものならば、最終的には、正当な又は合理的な理由がある限りでの遅れは許されるものとされる「遅滞なく」よりも、時間的即時性が弱いことになってしまう。 したがって、訓示的意味合いを含んでいたとしても、それは単なる訓示規定ではなく、正当な理由や合理的な理由もなく遅滞した場合には、違法又は不当の問題を生じるものと解すべきである。 ⑤ 「直ちに」の手続的意味 「直ちに」は、時間的即時性を示すだけでなく、本来とるべき手続等を踏むことなく行うことができるという手続面での即時性を示すために用いられる場合がある。 例えば、酒税法第28条の3第6項、第54条第5項及び第6項等で、末納税引取りの条件不履行により徴収される酒税や無免許製造の酒類等について徴収される酒税について、「直ちにその酒税を徴収する」と規定されている。 これは、「通常の納税告知書によって納期限が指定されるという手続を経ないで、即座に」という意味であり、単に時間的即時性を示しているのではない。 ⑥ まとめ 「直ちに」は、一切遅れを許さない趣旨で用いられ、一方、「遅滞なく」は、正当な又は合理的な理由があれば遅れることも許される、「速やかに」は両者の中間に位置している。したがって、即時性の度合いの強い順に、「直ちに」「すみやかに」「遅滞なく」となっている。 また、「直ちに」は、時間的即時性を示すだけでなく、本来とるべき手続等を踏むことなく行うことができるという手続面での即時性を示すために用いられる場合がある。 (了)
#31(掲載号)
#長島 弘
2013/08/08
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載31〕 合併に係る個人株主の課税関係

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載31〕 合併に係る個人株主の課税関係   税理士 内藤 忠大   Q 私が株主となっているA社がB社に吸収合併されることになりました。 この場合の所得税の課税関係を教えてください。 A 合併があった場合の被合併法人の株主には、みなし配当課税と株式譲渡損益課税の所得計算に関する取扱いと、合併法人株式の取得価額の計算の取扱いがある。 みなし配当課税は、合併が適格合併かどうかによりその適用の有無が決まる。また株式譲渡損益課税は、合併対価に合併法人株式以外の金銭等があるかどうかによりその適用の有無が決まる。合併法人株式の取得価額は、みなし配当の有無及び株式譲渡損益の有無によって計算方法が異なる。   (1) みなし配当課税と合併との関係 ① みなし配当課税 法人が剰余金の配当をすると、当該法人の課税済み利益である利益積立金が株主に配当として帰属するが、剰余金の配当という手続をしなくても、法人の利益積立金が株主に帰属することがある。そこで、剰余金の配当がされたことと経済的実質が同様となる一定の事由が生じたときは、一定の金額を剰余金の配当とみなすこととされている(所法25)。この一定の事由には、法人の合併(適格合併を除く)や法人の自己の株式の取得などがある。 株主において配当とみなされた金額は、支払法人の利益積立金額の減少額と理論的には一致することになる。このため、支払法人側の処理を確認することにより、みなし配当課税の理解が深まる。 ② 合併に伴う当事者間の取引 合併は、被合併法人の株主の視点では、被合併法人株式が合併法人株式その他の合併対価に変わるだけであるが、被合併法人と合併法人との間の法人税法上の取扱いは、複雑な取引を行っていることになる。そしてこの取引内容は、適格合併と非適格合併では異なる。 適格合併では、被合併法人の資産及び負債は帳簿価額により合併法人に引き継がれる(法法62の2②)。また、被合併法人の資本金等の額と利益積立金額も、原則として、同額が合併法人において増加する(法令8①五、9①二)。資産と負債の差額(=増加した資本金等の額と利益積立金額)の対価として合併法人株式が被合併法人に交付され、それが直ちに株主に交付されることになる。 このように、適格合併では、被合併法人の利益積立金額は合併法人に引き継がれ、被合併法人の利益積立金が株主に帰属することはないので、みなし配当課税はされない。 【適格合併】 なお、利益積立金額と資本金等の額の合併における取扱いに関しては、平成22年度税制改正において、基本的な考え方が変更されている。詳細については、論末のコラム「合併における利益積立金額の引継ぎについて」を参照いただきたい。 非適格合併では、被合併法人は資産及び負債を時価で合併法人へ譲渡するとともに合併対価を取得し、直ちに株主に交付したものとされる(法法62①)。合併法人は、合併により移転してきたものの対価として合併法人株式等の合併対価を交付するので、合併法人株式の時価相当額が資本金等の額の増加額となる(法令8①五)。 非適格合併では、被合併法人の資本金等の額と利益積立金額は、株主への合併対価の交付の際に清算されることになり、それがみなし配当課税につながる。 【非適格合併】 合併法人の処理と株主の処理は表裏一体であり、適格合併と非適格合併では被合併法人の利益積立金の行き先が違うので、株主におけるみなし配当課税の取扱いも異なる。   (2) 適格合併の場合の課税関係 ① みなし配当課税 (1)②で見たとおり、合併が適格合併である場合、被合併法人の利益積立金相当額は合併法人に引き継がれ、被合併法人株主に帰属することはないため、みなし配当課税は生じない(所法25①一)。 ② 株式譲渡損益課税 適格合併では、合併法人株式以外の合併対価はないため、被合併法人から合併法人に対する投資の継続性が認められる。つまり、キャピタルゲイン・キャピタルロスの清算は不要とされ、株式譲渡損益課税は生じない(措法37の10③一)。 ③ 合併法人株式の取得価額 投資の継続性が認められるため、取得した合併法人株式の1株当たりの取得価額は、被合併法人株式の取得価額を引き継ぐことになり、具体的には次の算式により計算する(所令112①②、措通37の10-24)。 (通常の場合) (無対価合併の場合)   (3) 非適格合併の場合の課税関係 ① みなし配当課税 非適格合併は、被合併法人の株式等の払戻しとして合併対価が交付されたことになるので、合併対価の種類にかかわらず、合併対価の額の合計額が被合併法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった被合併法人の株式に対応する部分の金額(次の算式により計算した金額)を超える場合の、その超える部分の金額が、剰余金の配当等とみなされる。   ※合併の日の前日の属する事業年度終了の時のもの 配当とみなされた金額は、原則として総合課税とされ、また、配当所得の金額の10%又は5%の配当控除が受けられる(所法92)が、みなし配当額が10万円以下の場合は、申告不要を選択し、所得税の計算の埒外に置くこともできる(措法8の5、9)。 ② 株式譲渡損益課税 非適格合併であっても、合併対価が合併法人株式のみの場合は、適格合併と同様、被合併法人から合併法人への投資の継続性が認められるため、株式譲渡損益課税はされない。ただし、みなし配当として課税された部分は、合併法人に対する新たな投資として取得価額を構成することになる。一方、金銭等の交付がされれば、投資関係は一旦清算すべきものとされ、株式譲渡損益課税がされ(措法37の10③)、合併法人は新たに取得したものとされる。 株式譲渡損益を計算する場合、合併対価の額の合計額のうち剰余金の配当等とみなされた部分の金額以外が株式等に係る譲渡所得等の収入金額とみなされる。結果的には、みなし配当額がある場合には、被合併法人株式等に対応する資本金等の額相当額が収入金額となり、みなし配当額がない場合には、交付金銭等の額の合計額が収入金額になる。どちらの場合も、取得費は被合併法人の株式の帳簿価額の合計額である。 なお、株式譲渡損益課税は分離課税とされているため、株式譲渡損失が生じても、総合課税を選択したみなし配当とは損益通算することはできない(措法37の10)。法人株主とは取扱いが異なるので注意が必要である。 ③ 合併法人株式の取得価額 (イ) 金銭等の交付を受けていない場合 投資の継続性が認められるので、旧株式の取得価額を基に付替計算をする。なお、みなし配当相当額は、合併法人に対する新たな投資になるので、取得価額に加算する。計算式は次のとおりである(所令112、措通37の10-24)。 (通常の場合) (無対価合併の場合) (ロ) 金銭等の交付を受けている場合 金銭等の交付を受けている場合は、投資関係が清算される。したがって、合併法人株式は新たに取得したものとされ、合併法人株式の取得価額は、取得時の時価相当額となる(所令109①五)。   (4) 適格合併の判定 みなし配当課税の有無は、合併が適格合併か否かに依存する。適格合併とは、法人税法2条12号の8に規定がされており、その要件を満たしているものが適格合併とされる。適格合併であることの要件の詳細についてはここでは言及しないが、合併法人株式(合併法人の株式又は出資をいう)又は合併親法人株式※(合併法人の100%親法人の株式又は出資をいう)のいずれか一方の株式又は出資以外の資産(交付金銭等)の交付がされないことが絶対条件になる。 ※合併親法人株式のみを交付をする三角合併も適格合併に該当する場合もあるが、本稿では三角合併を省略している。 この交付金銭等には、被合併法人の株主等に対する剰余金の配当等(株式又は出資に係る剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう)として交付される金銭その他の資産及び合併に反対する株主等に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭等は該当しない。 また、合併に際し株主に対し交付しなければならない株式に1に満たない端数が生じたため、会社法234条1項の規定等によりその端数の合計数に相当する株式等を譲渡し、又は買い取った代金として株主等に金銭が交付されたときは、その1に満たない端数に相当する合併法人又は合併親法人の株式等の交付がされたものとして取り扱われる(所基通57の4-1、措通37の10-24(3)、法基通1-4-2)。   (5) 反対株主が買取請求により対価の支払いを受けた場合の取扱い 合併に反対する被合併法人の株主の買取請求は、被合併法人に対して行われる(会社法785①)。合併効力発生日前に株式の価格の決定について協議が整ったときは、被合併法人又は合併法人から対価が支払われ、合併効力発生日以後に協議が整ったときは合併法人から対価が支払われることになる(会社法786①)。被合併法人又は合併法人のいずれが支払う場合であっても、この対価はこれらの法人の自己株式の取得の対価となるので、法人税法上も買取請求の対価は合併全体の対価の一部として取り扱わないことを確認的に明示している(上記(4)参照)。 ところで、法人が自己の株式を取得することは、一般的にみなし配当事由に該当する(所法25①四)。被合併法人が買い取る場合はみなし配当額の計算ができるが、合併法人が買い取る場合は、被合併法人と資本金等の額と利益積立金額の構成割合が異なるため、合併法人の合併後の資本金等の額を基準にみなし配当課税をすることは適切とはいえない。そこで、合併法人が買い取る場合と平仄を揃えるため、被合併法人が買い取る場合もみなし配当とされる事由から除外していると思われる(所令61①八)。 このように、反対株主が買取請求をしたことにより支払いを受けた対価は、上記のとおりみなし配当課税はされないので、全額が株式譲渡損益課税の対象とされる(所法25①四、所令61①八、措法37の10①)。また、被合併法人又は合併法人側は利益積立金額を減少させられないので、対価全額を資本金等の額から減算させる(法令8①十八)。   (6) 1に満たない数の株式等の取扱い 合併法人が、法人の合併に際し株主に対し交付しなければならない株式に1株に満たない端数が生じたため、会社法234条1項(1に満たない端数の処理)の規定等によりその端数の合計数に相当する株式を他に譲渡し、又は買い取った代金として株主に金銭が交付された場合は、所基通57の4-1《一株に満たない数の株式の譲渡等による代金が交付された場合の取扱い》に準じて取り扱われる。 すなわち、その株主に交付された1に満たない端数に相当する数の株式については所得税法施行令112条1項の規定による取得価額の計算が行われ、その上で譲渡があったものとして株式譲渡損益を計算することになる。 ただし、その交付された金銭が、その交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的に株主に対して支払う被合併法人の株式の取得の対価であると認められるときは、当該取得の対価として金銭が交付されたものとして取り扱われる。 (了)
#31(掲載号)
#内藤 忠大
2013/08/08
会計 税務・会計 解説 解説一覧 IFRS

会計リレーエッセイ 【第8回】「IFRS早期適用会社の監査人としての実務的な検討事項」

会計リレーエッセイ 【第8回】 「IFRS早期適用会社の監査人としての 実務的な検討事項」   新創監査法人 統括代表社員 公認会計士 柳澤 義一   前回までの会計リレーエッセイの登場者は、この分野では国際的に活躍している日本を代表する方々ばかりであり、いきなり私のようなものがレベルを落としてよいものか迷うところであるが、それを承知でお読みいただきたい。 たまたま私が業務執行を担当していた関与先であるトーセイ株式会社(東証一部上場)がIFRSの早期適用をすることになり、まさにその意思決定プロセスから現場の苦労に至るまで監査人として立ち会うことができたので、その時に感じたIFRS適用の実態と私見を述べたい。 トーセイ会社(以下「会社」)は東証一部の上場会社であるが、シンガポール証券取引所にも重複上場を目指すということになり、提出する書類にIFRSを適用することになった。 そこでさっそく、会社の社長を交えて役員、経理部、そして私どもの監査法人の担当者による日本基準との差についての検討が始まった。そして、これなら日本においても早期適用に踏み切ろうと判断した。 個々具体的な内容について述べることは控えたいが、「IFRS早期適用」と言うと、単に日本基準と異なる部分について連結決算上会計処理を変更するというように理解されるが、意外と個別決算の問題が大きく関わってくるケースが多い(以下の①)。 また、重要性の原則をどのように考えるかも、大きなポイントである(以下の②)。 ポイントをまとめると、以下のとおりである。 ① 個別決算にも適用が可能なものについての税務上の扱い 《個別決算にIFRS合わせて日本基準の範囲内で会計処理を変更した場合に生じる税務上の調整》 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 そして問題なのは「※」の部分、すなわち会計処理の変更により課税所得が増えてしまうようなケースであり、一定の要件(例えば、公認会計士監査)により別表減算調整ができるようにすれば、IFRS導入のインセンティブになるものと思われる。 ② IFRSがもつ重要性の基準についての考え方が分かりにくい 重要性の判断についは、会社の判断、監査人の判断に委ねられているため、どうしても日本人は厳しい方向や右倣え主義で考えがちになり、結局、より厳格な方向に行きやすい。 重要性の範囲内であれば、いわゆる簡便法を使うこともオーケーなのであり、そのことが基準上明記されていない。   【最後に私見として】 IFRS早期適用会社には、個別決算にもIFRS適用を認めるべきである。 その場合、収益を従来よりも先に計上しなくてはならない、あるいは経費化を遅らせなければならない、などにより、課税所得が増えてしまうケースについては、公認会計士による監査など一定の要件を前提に、少なくとも課税所得が従来と変わらないように減算調整を認めるべきであろう。 また、重要性の幅について、もっと大胆な発想を持つべきではないか。 重要性の範囲内であれば、簡便法として従来の会計処理でオーケーであるということをもっとはっきり言うべきではないか。 公認会計士は本来IFRSを推進するというスタンスに立つべきであるにもかかわらず、IFRSに対して、すべての公認会計士が本当に心の中で十分な納得感があるのかどうか疑わしい。 それは、当初、やたらに解釈をしてはいけない、解釈できるのは唯一ロンドンだけ、といったようなことが「流布」されてしまったためではないだろうか。 そんな屈辱的なことを言われてまで従う理由があるのかという感情論も心底にあるのかもしれない。例えば、当初は減価償却で定率法は認められないといったことを誠しやかに述べていた人もいたぐらいである。 もちろん真実はそうではないのであるが、一度ついたイメージはなかなか払拭できない。 IFRS適用は、単なる会計基準の変更にすぎないのだから、我々がかつて山ほど経験してきた従来の会計基準の変更の一形態にすぎないと考えるべきである。 どこかのテレビCMではないが、「IFRSなんて会計基準の変更なんだから、誰だってできる!!」という気持ちで臨むべきではないだろうか。 IFRSを特殊なものとして、神棚に上げて拝んでしまっているのは、何を隠そう監査法人自身なのではないか。監査法人の中で「IFRS担当」というポジションを特殊部隊にしてはいないか。 会計は皆で使ってこそ意義があり、私だけ「知ってます顔」は、決して良い結果を生まない。公認会計士はそのことを肝に銘じるべきであろう。 一方で、カーブアウトやJ-IFRS、また、中小企業はまったく別基準だのといった、何かIFRSを「別物扱い」にした動向についても、もっと冷静になっての議論がほしい。 すべての会計は一つの円の中にあり、同心円なのだから、もっとおおらかにIFRSを考えたらどうであろうか。 (了)
#31(掲載号)
#柳澤 義一
2013/08/08
会計 監査 税務・会計 解説 解説一覧 財務諸表監査

「企業価値評価ガイドライン」改正のポイント

「企業価値評価ガイドライン」 改正のポイント   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年7月3日、日本公認会計士協会は、「経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」の改正について」を公表した。 主な改正内容は次のとおりである。 本稿では改正点を中心に、企業価値評価ガイドライン(以下「ガイドライン」という)のポイントについて解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 改正の概要 1 位置付け ガイドラインは、公認会計士が株式の価値を評価する場合の実施、報告について取りまとめた研究報告である。 企業価値評価は、依頼人の意思決定を補助するための参考資料として利用されるものであって、当該業務は保証業務ではない。 ガイドラインは、公認会計士が企業価値評価を実施するために準拠しなければならない「基準」や「マニュアル」ではないという位置付けにある。 しかしながら、企業価値評価業務については、不正や企業価値評価を巡る紛争の原因となる可能性も懸念されることから、実際に評価業務を行う際には、ガイドラインを参照することが期待されている。 2 対象会社 ガイドラインは、基本的に、株式の評価が困難な非上場会社を対象としている。 上場会社の株式であっても、株価の推移等から判断して、市場の完全性や株価の操作性の点を考慮し、場合によっては非上場会社と同様に、ガイドラインを参照する必要があることに留意すると述べられている。 3 不正や企業価値評価を巡る紛争への対応 公認会計士は、次の事項に留意する必要がある。 4 企業価値など ガイドラインは次表のように企業価値概念を整理している。 ガイドラインの評価対象は、株主に帰属する価値(株主価値)であり、評価対象会社が継続的に事業活動を行うことで獲得される利益やキャッシュ・フロー等から生み出される価値を評価することになる。 【企業価値概念】 【評価業務の分類】 (※) 一般に鑑定は、様々な意味で使用されている。ガイドラインでは、鑑定を、上表の内容欄に記述しているとおり、裁判所からの鑑定命令によって行われる業務に限定し、裁判目的で実施されるものとして使用している。   算定人は、企業価値評価の結果を、原則として依頼人のみに報告し、算定書は依頼人の意思決定を支援するために取りまとめられるものである。 算定書に利用制限が付されたとしても、算定結果に対して、個別・具体的に、また、批判的にその結果を検討する検討人が存在することを、算定人は強く意識して、業務を行う必要があるとガイドラインは述べている。 検討人としては、M&A当事会社のうち相手方当事会社、当事会社の反対株主、両当事会社の監査役や監査委員会、ステークホルダー、不正が発覚した際に設置される不正調査のための内部調査委員会や外部調査委員会などがあげられている。 【評価アプローチ】 (※) ガイドラインでは、コスト・アプローチに関して、特に時価純資産法といった評価法とイメージが合致しにくいことから、これに代えてネットアセット・アプローチという呼称を使用している。   5 ガイドラインを利用する際の留意点と価値評価の限界 今回の改正により、「(2) 提供される情報の検証」として、提供された情報は、無批判に使用するのではなく、ガイドラインに記述されているような慎重さや批判性等を発揮して、その情報の検討・分析が必要であることが明記されている。 提供された情報については、詳細な調査、証明、保証といった検証作業に代えて、当該情報が利用可能かといった観点からの検討・分析を行い、非常識・非現実的な情報を受け入れることがないように留意すると述べられている。 また、「(3) 将来予測数値の不確実性」として、提供される情報の中には、将来予測数値が含まれる場合があるが、不確実性の高い状況にあっても、それを評価で採用するかの判断に際しては、検討・分析が必要である点に留意が必要であると述べられている。 その際、次の事項を検討・分析し、提供された非常識・非現実的な将来情報を無批判に受け入れ、機械的にそれを評価に使用するのではなく、批判性を発揮して、基礎資料としての有用性及び利用可能性の判断を行うことが重要であると述べている。 6 取引目的の業務受嘱等で留意すべき点 公認会計士の資質、独立性・中立性及び正当な注意義務等についての留意点が述べられている。特に、株式譲受・譲渡、合併などの取引目的の場合には、企業価値評価業務を円滑に進めるだけでなく、不正や企業価値評価を巡る紛争の予防や回避に配慮を払う必要があり、専門性、全体観、慎重さなどの留意点が述べられている。 これらの留意点が十分に発揮できない場合には、業務を受嘱しないか、又は業務委託契約の途中解約などの対応が必要となる。   Ⅲ 企業価値評価における価値形成要因 1 企業価値等形成要因 企業価値評価は、機械的に行うのではなく、個々の事情に応じて、その特殊性を適切に把握し、判断しながら業務を進める必要がある。 そのためには、価値等形成の源泉に加えて、マネジメント・リスクについても検討・分析する必要があると述べられている。 企業価値等形成要因は、「一般的要因」、「業界要因」、「企業要因」、「株主要因」、「目的要因」の5つに大別される。 2 マネジメント・インタビューの実施 評価対象会社のマネジメントに対するインタビューは、入手した基礎資料に表れていない会社の実態を知り、資料の有用性及び利用可能性を裏付ける手続として重要である。 ただし、マネジメント・インタビューは、評価業務を適切に行う上で有効な手続であるが、不正に対しては、必ずしも有効ではない場合もある。企業価値評価が不正に利用される場合、経営者や上位管理者が関わっている場合が多いためである。 評価人はこのような不正の可能性についても留意して評価業務を行う必要がある。 (了)
#31(掲載号)
#阿部 光成
2013/08/08
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

林總の管理会計[超]入門講座 【第8回】「費目別計算は奥が深い」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第8回】 「費目別計算は奥が深い」   公認会計士 林 總   「管理可能費」と「管理可能支出」   材料費はいつ計上すべきか (了)
#31(掲載号)
#林 總
2013/08/08
会計 研究開発費 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第15回】ソフトウェア会計②「製品マスター完成後に発生するコストの会計処理」 ─バグ取りや保存媒体のコストなど

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第15回】 ソフトウェア会計② 「製品マスター完成後に発生するコストの会計処理」 ─バグ取りや保存媒体のコストなど   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 製品マスター完成後に発生したコストは、以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① 機能の強化・改良に係るコスト  (*1) 諸口には材料費、労務費、経費等が該当します。 ② バグ取り・ウイルス対策等の保全コスト ③ CD-ROM等の保存媒体の取得・制作に係るコスト 〈会計処理の解説〉 前回解説したとおり、市場販売目的のソフトウェアの改良等のコストは、製品マスター完成までに発生したものを研究開発費として費用処理し、製品マスター完成後に発生したものを無形固定資産として計上します。 製品マスター完成後は、改良等のコスト以外にもさまざまなコストが発生しますが、そのすべてを無形固定資産として計上できるわけではありません。 製品マスター完成後に発生するコストには以下のようなものがあり、その内容によって会計処理方法が異なります。 製品マスター完成後、その機能を改良・強化するために発生したコストは無形固定資産として計上します。 ただし、製品マスター完成後であっても、研究開発活動と考えられるような大幅な改良コストについては、研究開発費として処理しなければなりません。例えば、主要なプログラムの過半部分を再制作する場合や、ソフトウェアのオペレーションシステムなど、動作環境を大幅に修正する場合は、これに係るコストを無形固定資産ではなく、研究開発費として処理することとなります。 バグ取り、ウイルス対策等にかかるコストは、あくまでソフトウェアの機能維持が目的であるため、資産として計上するのではなく、発生時に費用として処理します。 保存媒体の取得・制作コスト、利用マニュアル等の制作コストは、製品マスターの制作にかかるコストではなく、製品として販売するために必要なコストであるため、無形固定資産ではなく製造原価として処理します。 以上をまとめると、下図のようになります。 次回は、自社で利用しているソフトウェアの会計処理について解説します。 (了)
#31(掲載号)
#大川 泰広
2013/08/08
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