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改正金融検査マニュアルのポイントと中小企業へ与える影響 【第1回】「改正された金融検査マニュアル等の特徴とその効果」

改正金融検査マニュアルのポイントと 中小企業へ与える影響 【第1回】 「改正された金融検査マニュアル等の 特徴とその効果」   OAG税理士法人 税理士 山下 好一   金融庁は、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(以下、「金融円滑化法」という)の失効に伴い、金融検査マニュアル及び監督指針(以下、「金融検査マニュアル等」という)の改正を行った。 それに先立ち、昨年の11月に大臣談話として、期限到来後も金融機関や金融庁の方針は何ら変わらないとし、金融検査マニュアル等で措置されている、中小企業向け融資に当たり貸付条件の変更を行っても不良債権とならないための要件は恒久措置であるなどと公表していた。 したがって、借り手側の中小企業や小規模事業者(以下、「中小企業等」という)は、失効後もこれまで通り、貸付条件の変更等の申込みを行うことができる。 そもそも金融円滑化法は、リーマンショックによる百年に一度ともいわれている不況の中、金融機関の自己資本比率維持のための「貸し渋り・貸しはがし」防止の観点から、平成21年12月に施行された。 この金融円滑化法は、23年3月31日までの時限立法であったが、2度の延長を経て本年3月31日に失効を迎えた。 その間の利用状況「中小企業円滑化法に基づく貸付条件の変更等の状況について」[確報値](施行日から24年9月末まで)を見ると、374万件の申込みに対し、348万件の実行がなされ、実行率は93.0%となる。審査中及び取下げを除けば97.4%の実行率となり、金融機関の積極的な取組姿勢をうかがうことができる。 件数は債権ベースであるため、実際の申込企業数は不明(30万社から40万社といわれている)であるが、実行された374万件の債権すべてが真に条件変更を必要としたかの疑問は残るものの、これが倒産件数を抑制していることはいうまでもない。 しかしながら、返済猶予等による資金繰りの改善があっても、それは恒久的なものではなく、その間に事業再生を図らなければ、いずれ資金難に陥ってその企業は淘汰される。 現に、経営の改善が図られず、金融円滑化法が延命措置法として機能していたともいわれている。 金融庁は、条件変更を受けながら経営改善計画等の策定ができない中小企業等が増加の傾向にあることを踏まえ、金融機関に貸付条件の変更等を促すことを目的としていた金融円滑化法を延長せず、今回の金融検査マニュアル等の改正で、これらを補完するため、借り手の経営改善や事業再生等の支援強化など、次のことを明記し、検査・監督で徹底するとしている。 金融機関は、債務者の実態的な財務内容、資金繰り、収益力等により、その返済能力を検討し、債務者に対する貸出条件及びその履行状況を確認の上、業種等の特性を踏まえ、事業の継続性と収益性の見通し、キャッシュ・フローによる債務償還能力、経営改善計画等の妥当性、金融機関等の支援状況等を総合的に勘案し債務者区分を判断する。 この債務者区分に従い、担保及び保証等による調整を行い、分類対象外債権の有無を検討の上、債権の分類を行い、各金融機関の貸倒実績等をもとに償却・引当などを行う。 金融庁の検査官は、立入検査当初に全員で、金融機関が行った債務者区分の判断の妥当性を検査し、その後、事前に割り当てられた各自のパートについて検査している。 この検査過程で、債務者区分の変更があれば、必然的に分類も変わり、最終的には自己資本比率も変わることになる。 金融機関は、4%以上(国内業務に特化)の自己資本比率(国際業務を行う場合は8%)を確保する必要がある。一般的に、「自己資本/総資本」で算出するが、金融機関では、分母に「信用リスク(貸出金等が回収できない危険性)+市場リスク(所有する有価証券の変動リスク)+オペレーショナル・リスク(事務ミスや不正行為等による損失)」を用いるようになっている。 貸付金に回収の危険が生じれば、償却・引当金が大きくなり、ついては分母の信用リスクが増加し、自己資本比率が低下する。自己資本比率を維持もしくは上昇させるためには、分子を大きくするか分母を小さくするか、又はこの両方が必要となる。 そこで、新たに貸付けを行えば正常債権であってもいくらかの引当が生じるため、貸付けの抑制を行う、また不良化した債権を回収する。これで手持現金を多くし、自己資本比率の低下を抑えた。 これが「貸し渋り・貸しはがし」である。 改正金融検査マニュアル等の方針では、貸付条件の変更を行っても、一定の要件があるものの不良債権とはならず、分母の増加を抑制することができる。金融機関の積極的な取組姿勢は、このためと見ることもできる。 現在の我が国経済を見ると、景気は回復している状況にあるが、それはアベノミクスの金融緩和政策による株価の上昇や円安に伴うものであり、一部ではミニバブルとの警戒感も見受けられる。このような状況にあって、中小企業等には、まだまだ景気回復の実感は伝わっていない。 いずれにしても、条件変更を受けながら経営改善が行えず、自らの利益による資金繰りの改善に至っていない中小企業等が多く存在しており、これまで以上の支援が期待される。 (了)
#22(掲載号)
#山下 好一
2013/06/06
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第1回】「経営者の視点で経理財務部門の課題を考える」 ~経理財務分野で解決されるべき課題~

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第1回】 「経営者の視点で経理財務部門の課題を考える」 ~経理財務分野で解決されるべき課題~   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 筆者が代表を務める株式会社スタンダード機構は、スコアリングモデルを運営している。 スコアリングモデルとは、その会社の経理財務部門が提供するサービスを他社と比較し、「そのサービスレベルが優れているか、劣っているか」という視点によって客観的に評価する手法であり、平成17年3月に経済産業省の主導で開発されたものである。 この連載では、主に事業会社を顧問先に持つ税理士や公認会計士の読者に向けて、スコアリングモデルの概要、スコアリングデータが示す優秀な会社の傾向、診断に使う個別の評価項目の解説を行う予定である。 読者が顧問先に対してスコアリングモデルを活用すれば、図表1・図表2のような資料を作成することができ、客観的なデータの裏付けをもって、顧問先の経理財務部門の業務の問題点を診断することが可能となる。 図表1 スコアリングモデルのイメージ① ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表2 スコアリングモデルのイメージ② ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 例えば、図表1のように、顧問先の経理財務部門の総合的な能力や、正確性、効率性、安定性、リスク管理、戦略性のレベルを示すことができる。 さらに、図表2のように、経理財務の個別の業務プロセスのサービスレベルの優劣が一目で分かるような診断サービスを提供できる。このように、問題点を適切に把握できれば、業務改善のための解決策も適切に策定できるだろう。 顧問先の業務改善のために役に立ちたいという強い意欲のある読者であれば、特段の専門知識がなくても、連載を読み進むにつれてスコアリングモデルをご理解いただけると思う。   経理財務部門の業務改善の成果は実感しにくい 読者の顧問先では、ライバル会社に比べて、経理財務部門の業務改善が進んでいるだろうか。 経営者は会社が持続的に成長することを目指しているため、成果の見えやすい商品開発部門や営業部門には日頃から注視している。しかし、経理財務部門となると、会社財産の管理や予決算など、非常に重要な業務を担っているにもかかわらず、その成果が見えにくい。 そのため、高度成長期には、経理財務部門はその組織のあり方について十分な検討が尽くされないまま肥大化してきた聖域となっていた。 1970年代に右肩上がりの経済成長が終焉を迎え、1980年代には資産バブル崩壊によるバランスシートの劣化が深刻化すると、経営者の意識はようやく改まった。1990年代の平成不況から2000年の金融ビッグバン以降の“失われた20年”の間に、構造改革という名の下、米国型の経営方式を取り入れた多くの会社で、経理財務部門の変革が急速に進展した。 例えば、経理財務部門の担い手を正社員から派遣社員に変える派遣化、経理財務業務を行う専門会社を作るシェアードサービス、外部の経理財務サービスを提供する会社に委託するアウトソースなど、日頃から顧問先と接している読者ならばいくらでも思いつくだろう。 しかしながら、そうして矢継ぎ早に進めてきた経理財務部門の変革が本当に成果をもたらしたのか。客観的な根拠をもって検証し実感できている経営者がどのくらいいるだろうか。   外部の利害関係者に向けたガバナンス機能 読者の顧問先の経理財務部門は、外部の利害関係者を意識したガバナンス機能を果たしているか。 商取引を始める際、相手先である会社の経営状態に重大な関心を持つ仕入先、銀行、株主など、会社を取り巻く外部の利害関係者は、その会社の経理財務部門が作成した財務諸表に多くを依存しながら、取引先を選別する。 しかしながら、そもそも財務諸表は、付加価値の連鎖と呼ばれる会社の一連の活動の最終成果だけを会計情報として提供するだけで、それに先行する内部の業務処理に関する非会計情報を何ら提供しない。それどころか、上場企業においても、株主状況の有価証券報告書虚偽記載問題、過大な売上計上による不正な財務報告など、会計をめぐる不祥事は後を絶たない。 そうした背景もあり、外部の利害関係者の関心は、外から光が当てられる財務諸表だけでなく、影となって外からは見えない財務諸表の作成プロセスを担う経理財務部門の業務のあり方にも広がろうとしている。 しかしながら、これまで、経理財務部門が担う業務のレベルを客観的に評価する取組みはなかった。   経理財務部門に求める経営者の期待 読者の顧問先の経理財務部門は、ライバル会社に比べて優秀であり、経営者の期待に応えているか。 経営管理の効率性を追求しITによる省力化が進展する今日、経理財務の業務プロセスは自動化されたITの支援なしには考えられなくなってきた。そのような人手が介在しないブラックボックス化したITの連鎖から構成される経理財務業務に、ITリテラシーの濃淡による業務の脆弱化やリスクの増大が危惧されている。 他方、会社の再生事例を数多く見てみると、経理財務部門が経営の視点からどのように振る舞うかが、経営危機に瀕した会社が再生する重要成功要因となっている事例が見受けられる。 これらの今日的課題を踏まえると、経理財務部門に期待される機能は高度化かつ多様化しており、様々な要請の適切なバランスを考慮して定義されなければならない。 しかしながら、そのような複数の視点から、これからの経理財務部門が備えるべき機能を具体的に提示した試みがない。   経理財務部門のサービスレベルを図るベンチマークの必要性 これまで指摘した諸課題が解決されなかった要因の1つに、経理財務部門のサービスレベルを定量化し会社間比較を可能にするベンチマークが存在しなかった実情が挙げられる。 他社に比べて顧問先の会社の経理財務部門にどのような課題があるかをデータで示す。この要請に答えるのが、スコアリングモデルである。 スコアリングモデルの土台となっているのは、平成15年、経済産業省が経理財務の標準的な流れと機能の一覧をまとめたスキルスタンダード(経済産業省スタンダード)である。 スコアリングモデルは、この経済産業省スタンダードに準拠しつつ、経営者や外部の利害関係者に対して、企業価値の最大化に向けて経理財務部門に要請されるガバナンスの共通指標を洗い出し、その達成度に関する会社間比較情報を、分かりやすいベンチマークとして伝えるため、実証事業として開発された。 使い手を考えると、スコアリングモデルは、経営者、経理財務部門の最高責任者、経理財務部門長に対して、経営管理において知っておくべきポイントを、客観的データの裏付けに基づいて提供する。さらに、税理士、公認会計士、経営コンサルタント、銀行、機関投資家など、外部の利害関係者に対して、会社の経理財務部門のあり方を評価するポイントを提供する。 冒頭で触れたとおり、この連載で想定している使い手は、主に事業会社を顧問先に持つ税理士や公認会計士の読者である。 次回は、スコアリングモデルの概要、基本構想について解説する。 (了)
#22(掲載号)
#島 紀彦
2013/06/06
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NPO法人 “AtoZ” 【第10回】「認定NPO法人②」~認定基準について~

NPO法人 “AtoZ” 【第10回】 「認定NPO法人②」 ~認定基準について~   税理士 岩田 聡子   1 認定NPO法人の認定基準 今回は、初めて認定を受けようとする場合の基準について解説する。 認定NPO法人となるには、以下の9つの基準を満たし、所轄庁の認定を受けなければならない(NPO法45①一~九)。 (1) パブリックサポートテスト パブリックサポートテスト(以下「PSTという)とは、NPO法人が広く市民からの支援を受けているかどうかを判断する基準で、これを満たすには、次のいずれかの基準に適合することが必要である。 ※下記の用語で、「実績判定期間」とは、認定基準を満たしているか判定するための期間であり、認定申請書を提出する直前の事業年度以前、2年以内に終了した各事業年度をいう(NPO法44③括弧書)。 ① 相対値基準 〈原則〉 実績判定期間における経常収入金額のうちに寄附金等収入金額の占める割合が5分の1以上であること。 寄附金のうちから、匿名・住所不明の寄附金、同一の者からの1,000円未満の寄附金を除く等、収入金額からは上記の寄附金の他、国等からの補助金を除く等、様々な金額を加減算して計算する。 〈小規模法人の特例〉 上記の寄附金等の加減算の計算のうち、一定のものの計算が不要となる。 この特例の適用を受けられる法人は、「実績判定期間の総収入金額÷実績判定期間の月数×12 < 800万円」で、かつ、実績判定期間において受け入れた寄附金の額の総額が3,000円以上である寄附者(役員・社員を除く)が50人以上である法人である。 ② 絶対値基準 実績判定期間内の各事業年度中の寄附金の額の総額が3,000円以上である寄附者の数の合計数が年平均100人以上であること。 匿名、住所不明の寄附金、役員及び役員と生計を一にする者からの寄附金は除かれ、寄附者本人と生計を一にする者も含めて1人と数える。 ③ 条例個別指定基準 認定申請日の前日において、都道府県又は市区町村の条例により、個人住民税の寄附金税額控除の対象となる法人として個別に条例の指定を受けていること。 (2) 活動の対象に関する基準 実績判定期間における 以上①~⑤の活動の事業活動の占める割合が50%未満であること。 会員、役員特定の者のみを対象とした「共益的活動」が多いNPO法人は、認定、仮認定の対象とはならない。 (3) 運営組織及び経理に関する基準 管理運営について、下記①~⑤の基準を満たしていること(NPO法45①三)。 (4) 事業活動に関する基準 事業活動について、下記①~⑤の基準を満たしていること(NPO法45①四)。 (5) 情報公開に関する基準 閲覧の請求があった時は、正当な理由がある場合を除いて、事業報告書等、役員名簿及び定款、その他一定の書類を閲覧させなければならないこと(NPO法45①五)。 (6) 事業報告書等の提出に関する基準 実績判定期間を含む各事業年度において、事業報告書等を所轄庁に提出していること(NPO法45①六)。 所轄庁の条例に定める期限後に提出された場合には、認定、仮認定が受けられない場合があるので、提出日は必ず確認しなければならない。 (7) 不正行為等に関する基準 法令違反、不正行為、公益に反する事実等がないこと(NPO法45①七)。 この場合の法令はNPO法のみでなく、すべての法令が対象となる。 (8) 設立後の経過期間に関する基準 認定又は仮認定の申請書を提出した日を含み事業年度の初日において、設立の日以後1年を超える期間が経過していること(NPO法45①八)。 (9) 認定基準の適合する期間に関する基準 上記の(1)から(8)が、それぞれ定められた期間において認定基準に適合していること(NPO法45①九)。   2 仮認定NPO法人 仮認定NPO法人とは、新たに設立されたNPO法人で、その運営組織及び事業活動が適正であって、特定非営利活動の健全な発展の基盤を有し、公益の増進に資すると見込まれるものとして所轄庁の仮認定を受けたNPO法人をいう(NPO法58)。 仮認定を受けるためには、上記の(2)から(9)の認定基準を満たし、かつ、以下の2つの基準を満たしていなければならない(NPO法59)。 なお、仮認定の申請は1回限りとなっている。   3 申請に向けて 認定・仮認定NPO法人として様々な税金の優遇を受けるためには、高い公益性、内部管理体制の充実、法令を順守した適正な法人の運営、情報公開等が要求されている。 認定・仮認定を取るためには、法律に従い、基準を地道に1つ1つクリアしていくことが大切となる。   (了)
#22(掲載号)
#岩田 聡子
2013/06/06
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧 IFRS

《速報解説》 金融庁、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開催~エンドースメントIFRSの導入を明確化~

《速報解説》 金融庁、企業会計審議会総会・ 企画調整部会合同会議を開催 ~エンドースメントIFRSの導入を明確化~   Profession Journal編集部   金融庁は5月28日、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開き、国際会計基準への対応について協議した。今回の会議のテーマは下記の3つである。   任意適用の緩和 前回の合同会議で示された「任意適用の緩和」の方向性が具体的に示された。IFRSを任意適用するための要件は、現在、4つある(連結財務諸表規則1条の2)。 審議では、上記ニ(3)の「外国に連結子会社(資本金の額が20億円以上のものに限る)を有していること」の緩和が焦点になった。 現在、有価証券報告書提出企業が4,061社。そのうち上場企業が3,550社。その中で外国に資本金20億円以上の連結子会社を有する企業が621社で、これが現在の任意適用可能会社である。この要件を外すと、新たに2,929社が任意適用可能となる(現在、任意適用会社・任意適用表明会社合計20社)。審議の中ではイの上場要件を外す案も検討された。金融庁としては、任意適用企業が増えることにより、IFRS策定への日本の発言力を確保したい思惑がある。 また、IFRSを採用した企業は、合理的な理由なく日本基準等に変更することはできないという方針を示した。   適用の方法 前回の会合で、「IFRSには、のれんの償却や開発費の資産計上などマネジメントの考え方から受け入れがたい基準があり」、「エンドウースメントプロセスを入れて、一部の基準をカーブアウトしたIFRSの任意適用の容認も保持すべき」との指摘があった。 それを受け、今回は、「エンドウースメントIFRS」(カーブアウトIFRS、合同会議では「J-IFRS」(以下「J-IFRS」という))のメリット・デメリットについて検討された。J-IFRSの導入により、IFRSに対するアレルギーを緩和し、適用しやすくしたいという金融庁の狙いがある。 委員からは、J-IFRSを導入すると、日本企業は、IFRS(指定国際会計基準※)(ピュアIFRS)、J-FRS、日本基準、米国基準の4つの基準を適用できることになり、混乱を招くという複数の意見が出された。 さらに、「日本基準のIFRSへのコンバージェンスが停滞し、日本基準のローカル化につながる」「J-IFRSを任意適用するのであれば、ピュアIFRSの任意適用を断念すべきである。ピュアIFRSの任意適用を優先するのであればJ-IFRSの強制適用を合意するまでは適用に着手すべきではない」といった意見があった。J-IFRSの位置付けを明確にすべきという発言が大勢を占めた。 ※わが国におけるIFRS任意適用企業が適用するIFRSは、金融庁長官が「指定国際会計基準」として定めることとしている。現在は、IASBが定めたすべての基準が採用されている。   単体開示の簡素化 合同会議では、連結財務諸表を作成している会社の単体開示の簡素化についても協議した。 金融庁は、金商法開示と会社法開示の二重の負担を軽減する趣旨から、金商法で要求されている貸借対象法、損益計算書、株主資本等計算書を、会社法の計算書類で代替すること、また、注記事項、附属明細票、主な資産・負債に関して、会社法の計算書類と金商法の財務諸表とで開示水準の大きく異ならない項目については、会社法の要求水準統一すること等を提案。概ね簡素化の方向で一致。ただし、単体開示のみの会社については、見直しは行わないとした。 (了)
#21(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2013/06/03
お知らせ その他お知らせ

財務省ホームページにおける「「所得税法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第5号)の一部改正規定の内容について」の公表について

いつもProfession Journalをご愛読いただき、お礼申し上げます。 さて、5/30付けで、財務省ホームページにおいて、下記の情報が公表されました。 「所得税法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第5号)の一部改正規定の内容について 上記の公表に伴い、5/31付けで、国税庁ホームページにおいて、下記の情報が公表されています。 「平成25年分 所得税の改正のあらまし」の修正について 弊誌では税制改正大綱の内容により《速報解説》を公開しておりますが、下記の記事について追記情報がございますので、ご注意下さい。 《速報解説》 住宅税制(住宅ローン控除等)の拡充・延長について─平成25年度税制改正大綱─
#Profession Journal 編集部
2013/05/31
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

租税争訟レポート 【第10回】勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例

租税争訟レポート【第10回】 勝馬投票券の払戻金に係る所得を 雑所得と判断した事例   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 3年間で28億7,000万円分の馬券を購入し、30億円余りの的中配当を得た元会社員(39)の男性が、競馬の払戻金を一切申告せず、約5億7,000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪で大阪地検に告発され、起訴された。 しかし、男性が実際に馬券で儲けたのは約1億4,000万円に過ぎないことから、男性の担税力を無視した課税庁の処分に対して、批判が出ていた事案の刑事裁判において、第1審判決が言い渡されたものである。   【争点に対する裁判所の判断】 1 馬券の払戻金に係る所得は一時所得か雑所得か 判決は、「被告人の本件馬券購入行為は、一般的な馬券購入行為と異なり、その回数、金額が極めて多数、多額に達しており、その態様も機械的、網羅的なものであり」、かつ、「利益を得ることに特化したものであって、実際にも多額の利益を生じさせている」ことから、被告人の馬券購入による所得は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」には該当しないから、一時所得に当たらず、「雑所得に分類される」とした。 2 「その収入を得るために支出した金額」又は「必要経費」として控除すべき金額の範囲 続いて、必要経費については、当たり馬券の購入費用が払戻金を得るために「直接に要した費用」として必要経費に当たることは明らかであるとしたうえで、「被告人の本件馬券購入方法からすれば、外れ馬券を含めた全馬券の購入費用は、当たり馬券による払戻金を得るための投下資本に当たり、外れ馬券の購入費用と払戻金との間には費用収益の対応関係があるというべきである」として、外れ馬券の購入費用を「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」として必要経費に該当するという判断を示した。 3 所得税法241条所定の「正当な理由」の有無及び可罰的違法性ないし期待可能性の有無 被告人が確定申告をしなかったことについては、「過大な金額の課税がなされることに対する不安もさることながら、実際には申告しなければ馬券購入による所得には課税されないであろう」と予想したものであり、「馬券の払戻金に係る所得について申告義務があることを十分に認識して」いることから、所得税法241条の「正当な理由」について、真にやむを得ないといえるだけの事情を認めず、本件無申告に係る税額から、「可罰的違法性を欠くとはいえないし、期待可能性がないともいえない」として、有罪判決を下した。 4 量刑の理由 量刑について、裁判所は、被告人は、「申告義務をないがしろにし、ひいては納税意識に欠けた犯行といわざるを得ない」としたうえで、その情状について、「過大な課税処分を受けることが予想され、このことが被告人による確定申告を躊躇させたことは否定できない」こと、さらに、「被告人が既に7,000万円を超える額の納税を行っていること、本件発覚後競馬をやめていること、本件無申告が明るみに出たことによって職を失うなど既に十分な社会的制裁を受けていること及び被告人には前科前歴がないこと等」をあげ、「刑の免除はもとより、罰金刑で済まされるべき事案ではない」としながらも、被告人を懲役2月に処し、その執行を2年間猶予することが相当であると判断した。   【解説】 判決は、一般的には、競馬は趣味や娯楽であり、当たり馬券による収入は一時所得に当たるとしながらも、本件の元会社員の行為は、「一般的な馬券購入とは異なり、継続的、網羅的で資産運用の一種」と判断して、外国為替証拠金取引(FX)や先物取引と同様に、「雑所得」と判断した。 その上で、裁判所は、雑所得の課税実務に合わせて、外れ馬券の購入費や元会社員が開発した独自の競馬予想システムの運営コストも含めて、雑所得のための必要経費であると認定した。その結果、男性の脱税額は約5,200万円と公訴事実から大幅に減少した。 1 刑事事件でありながら現行所得税法の所得区分にまで踏み込んだ判決であること 本件は、大阪国税局が刑事告発し、検察が立件した脱税をめぐる刑事事件である。 本レポート【第8回】でも触れたように、こうした事件における有罪率は過去100%であり、検察も自信を持って起訴したはずである。しかし、大阪地裁の西田裁判長は、国税庁の通達は通達として認めながら、本件に限っては、一般的な馬券購入とは異なるとして、雑所得として課税するのが適正であると判断した。 たいへん画期的な判決であり、杓子定規に通達どおりの課税処分を行ってきた課税当局に反省を促す内容のものである。 2 的中馬券による所得がすべて「雑所得」と判断したものではないこと ところが、本判決は、勝馬投票券の払戻金はすべて「雑所得」であると判断したわけではなく、通常の当たり馬券は「一時所得」として課税することを認めている。 一時所得の要件は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」であるところ、馬券を購入するという行為は「営利を目的」としているはずであり、本件の被告人と一般の競馬ファンとの間で異なる課税方法を認めることは納税者を混乱させるのではないか。むしろ、すべての馬券収入を雑所得とすべきであると判断すべきではなかったかと考える。 3 所得税基本通達に対する見解 判決では、一時所得の例示として、「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」を挙げている所得税基本通達34-1について、「通達は、国民に対する拘束力を有する法規範ではない」と前置きし、「通達が発出された当時、本件のような形態の馬券購入は、そもそも想定されていなかった」とし、さらに、「馬券購入行為の払戻金に係る所得について、その具体的な馬券購入方法等を考慮することなく、通達の例示を根拠として画一的にこれを一時所得として処理することは」、所得税基本通達の趣旨に沿うものとはいえないから、課税当局に対しては、「具体的事案の内容等を検討した上で実質的にそれに見合った所得分類を判断することが求められている」と批判している。 4 無罪判決が妥当ではなかったかと思料されること 元会社員は、すでに約7,000万円の納税を終えており、裁判所が認定した脱税額については、すでに納付されている。本件起訴を契機に退職を余儀なくされ、大きな社会的制裁も受けていることからすれば、所得税法241条後段により、刑を免除すべき事案ではないかというのが率直な感想である。本来、検察は本件を起訴すべきではなく、民事訴訟であれば、被告人は職を失うこともなかったのではないかと思うと、被告人には、十分に酌量すべき情状があったと考えるべきであろう。   (了)
#21(掲載号)
#米澤 勝
2013/05/30
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について 【第2回】「制度の主な内容(手続規定を除く)とその留意点」

教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【第2回】 「制度の主な内容(手続規定を除く)と その留意点」   ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典   1 はじめに 前回は、平成25年度税制改正で創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(以下「本制度」という)の創設の背景と概要について解説した。 本稿では、税法の規定に基づく本制度の主要な内容(手続規定を除く)とその留意点について解説する。   2 本制度の主な内容(措法70の2の2①) 平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、金融機関と「教育資金管理契約」を締結する日に30歳未満の個人(受贈者である子・孫。以下「受贈者」)が、教育資金に充てるために、その直系尊属(贈与者である両親・祖父母等)から教育資金管理契約に基づき以下①~③により金融資産を取得した場合には、その金融資産のうち1,500万円までの金額(既に本制度を利用して贈与税の課税価格に算入しなかった金額がある場合には、その金額を控除した残額)は、贈与税が非課税とされている。 税法で定めている上記「教育資金」「教育資金管理契約」の定義の概要は、下記【図表2-1】のとおりである(措法70の2の2②⑪)。 【図表2-1】 「教育資金」・「教育資金管理契約」の主な内容   3 本制度の留意点 (1) 非課税限度額の範囲(措法70の2の2①、⑪括弧書) 本制度の非課税限度額は、上述のとおり1,500万円であるが、「学校等以外の者に支払われる金額」の非課税限度額は500万円である。 この非課税限度額の考え方は、下記【図表2-2】のように、あくまで総額で1,500万円が限度となるため、留意が必要である(「文科省QA」Q1-5)。 また、本制度の非課税限度額は、受贈者ごとに1,500万円となる。 したがって、【図表2-3】に示すように、たとえ祖父及び祖母のそれぞれから1,500万円を贈与により取得した場合(合計で3,000万円を取得した場合)であったとしても、非課税限度額は1,500万円が限度となり、差額の1,500万円については、その贈与により取得した年分の贈与税の課税対象となるため留意が必要である(「国税庁QA」Q2-3)。 【図表2-3】 教育資金として祖父及び祖母のそれぞれから1,500万円の贈与を受けた場合 (2) 直系尊属となる贈与者の範囲 「直系尊属」とは、例えば、受贈者の父母、祖父母及び曽祖父母をいう。 したがって、民法727条に規定する養子縁組による親族関係がある場合を除き、受贈者の配偶者の直系尊属(例えば、受贈者の妻の父母、祖父母。つまり受贈者からみれば義理の父母、祖父母)は含まれないため、留意が必要である(「国税庁QA」Q2-2)。 【図表2-3】 直系尊属の範囲 (了)
#21(掲載号)
#甲田 義典
2013/05/30
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

会社分割と自己株式の移転

会社分割と自己株式の移転   税理士 竹内 陽一   1 平成18年会社法改正と自己株式の承継 会社分割とは、会社が行う事業に関して有する権利義務の承継とされ、営業の承継から事業に関して有する権利義務の承継とされた。この権利の一つとして自己株式の承継が考えられる。 分割会社が有する自己株式については、吸収分割においては、吸収分割契約書に記載することで、分割会社の自己株式が、承継会社に承継されて、承継会社において他社株として取得できることになった(会社法758条3号)。この自己株式の承継は吸収分割に限られ、新設分割では自己株式の承継に関する規定がないので、新設分割設立会社への自己株式の承継はできないと考えられる。 他方で承継会社は、交付対価として、承継会社株式を、分割会社に交付できる。仮にこの分割で、分割会社の承継資産が自己株式のみで、承継会社の交付対価が承継会社株式のみとすると、分割会社と承継会社の間で株式の交付を相互に行ったことになり、相互持合いの形成となる。 分割会社が交付を受けた承継会社株式を、剰余金の配当として分割会社の株主に交付することもできる。この場合は、承継会社においては分割会社株式を取得し、この部分について等価の、承継会社株式を、分割会社に交付し、分割会社はこの承継会社株式を、分割会社の株主に割り当てることになる。 このことは、分割会社の株主から見れば、保有する分割会社株式については、承継会社が株主に加わった分、その価値が減少し、他方でその価値減少分と等価の承継会社株式を取得したことになる。 以上の事情から、分割比率(分割型分割)を計算する場合、下記の分割比率の算式の分子について、このように、自己株式を承継させる場合は、承継後の事態を想定して、承継会社=他社が取得した自己株式の価額を分子に計上し、分母の分割会社の発行済株式数において、自己株式数を加算した株数で計算することが合理的と考えられる。   2 分割会社からの自己株式の承継の会計 この会社法の改正に対応して、会社計算規則40条には、吸収分割会社の自己株式の処分の場合の会計処理が規定されている。 この考え方は、交付を受ける承継会社からの対価に付すべき帳簿価額のうち、自己株式に係る額である。分かりやすくするために、処分する自己株式の帳簿価額を100(時価100)、この自己株式の係る額として、交付を受ける承継会社株式に付すべき帳簿価額を時価による100とすると、 分割会社の自己株式処分に係る会計仕訳は、 承継会社株式  100  自己株式  100 となり、 差額が生じたときは、その他資本剰余金の額で調整することになる。   3 分割法人からの自己株式の移転の税務(分社型分割) この分割法人からの自己株式の移転について、法人税法は平成18年度改正において、自己株式の譲渡に該当し、法人税法施行令(以下「法令」)8条1項1号に該当すると考えられる。しかし、法令8条1項1号ホに、適格分社型分割と適格現物出資については、この自己株式の譲渡について、同項1号を適用しないこととされた。したがって、非適格分社型分割については、同項1号を適用し、適格分社型分割については、適格分社型分割に係る適格組織再編税制の条文を適用することになる。 平成18年度改正において、自己株式は有価証券から除かれ、税務上の帳簿価額は0とされた。この定義を置いたときに、本件のように移転して他社株となる自己株式、他社株であるが移転して自己株式となる場合に、これらの自己株式について有価証券とみなして処理する規定を置く必要があると考えられる。適格分社型分割については、分割法人は法令119条1項7号が適用されると考えられ、移転する自己株式を有価証券とみなして、 上記2の分割会社の会計仕訳については、税務上は、適格分社型分割は 承継法人株式  0  有価証券(自己株式)   0 となり、 承継法人については、移転を受けた分割法人株式について帳簿価額はゼロなので、 分割法人株式  0  資本金等の額  0 となる。 非適格分社型分割については、この分割法人の自己株式の移転は、自己株式の譲渡に該当するため、法令8条1項1号が適用され、交付を受ける承継法人株式の時価で、資本金等の額を増加させることになる。 分割法人においては、交付される承継法人株式の時価を100とすれば、 承継法人株式  100  資本金等の額  100 となり、 承継法人においては、分社型分割において承継法人の増加資本金等の額の規定(適格・非適格共通)である法令8条1項7号が適用されると考えられ、 分割法人株式  100  資本金等の額  100 となり、非適格分社型分割については、 まさに、相互に株式交付を行った場合と同じ処理となり、分割法人、承継法人ともに資本金等の額を増加させることになる。 表1 分社型分割   4 分割法人からの自己株式の移転の税務(分割型分割) 適格分割型分割については、税務上は、この自己株式の移転は自己株式の帳簿価額による引継ぎであるため、自己株式の譲渡の場合の規定である法令8条1項1号の適用はない。 分割法人においては、法令8条1項15号、法令9条1項10号が適用され、移転する自己株式を有価証券とみなして、 となり、 承継法人においては、移転を受けた分割法人株式の帳簿価額はゼロなので、 となる(法令8①六、9①三)。 分割法人株主においては、分割純資産移転割合が0であるため、 旧分割法人株式の帳簿価額の改定はなく、他方で承継法人株式について、帳簿価額=0で所定の株数を取得することになる。 非適格分割型分割での分割法人からの自己株式の移転は、自己株式の譲渡に該当するために、分割法人については、法令8条1項1号の適用になる。この交付された承継法人株式の株主への割当てについて、分割法人で法令8条1項15号と法令9条1項9号を適用すべきかとの疑問が生じるが、これらの規定は、分割受入資産(交付株式等)をそのまま株主に払い出すことに対応して、純資産の額を減算させる規定である。分割法人として受入資産の株主移転を前提にしない8条1項1号とは整合しない。ここで法令8条1項1号と組み合わせるべきは、交付株式を株主に割り当てる法令9条1項8号等の適用と考えられる。 したがってこの場合、通常の利益剰余金の配当に伴う減算規定である法令9条1項8号の適用が考えられ、分割会社が資本剰余金の配当とした場合は法令8条1項16号と法令9条1項11号の適用と考える。 したがって分割法人においては、仮にこの剰余金の配当を利益剰余金の配当で処理した場合、 となると考えられる。 なお、分割法人の株主については、この場合、株主適格とすると帳簿価額で計算される移転純資産割合が0であるため、旧株の改定はないが、非適格の場合はみなし配当相当額が取得した承継法人株式の帳簿価額となる。 表2 分割型分割   (了)
#21(掲載号)
#竹内 陽一
2013/05/30
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第2回】「生産活動と税金」―試験研究費の税務―

経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第2回】 「生産活動と税金」 ─試験研究費の税務─   仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久     1 企業会計の取扱い 試験研究費とは、試験及び研究のために要する費用です。企業が支出する費用を機能別に分類した場合の費用項目であり、原材料費、労務費、経費等を含む複合費です。 企業会計では、試験研究費を含む研究開発費は、発生時にすべて期間費用として処理することを原則としているため、企業会計の実務においては、研究開発部門で発生した費用の全額を、試験研究費として処理している例がみられます。   2 試験研究費と税務 税務上の取扱いの相違から、試験研究費は、その内容や性質等により次の4つに区分されます。   3 試験研究費と税額控除 企業の試験研究を税制面から助成するため、試験研究活動の費用に関しては、一定の要件を満たせば一定の範囲内で納付すべき法人税額を軽減する以下(1)~(4)の4つの税額控除制度が設けられています。 また、税額控除の対象となる試験研究費とは、製品の製造又は技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する費用で、次に掲げる費用をいいます(措法42の4⑫一、措令27の4⑥)。 ただし、試験研究に充てるために他の者から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除します。 (1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度 青色申告法人が、事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合に、当該試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。ただし、税額控除額が当該事業年度の法人税額の30%相当額(注)を超える場合は、その30%相当額が限度とされています(措法42の4①)。 (注) 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、税額控除限度額は、当該事業年度の法人税額の20%相当額となります(下記4参照)。   (2) 特別試験研究に係る税額控除制度 青色申告法人が、事業年度において損金の額に算入する特別試験研究費の額がある場合に、当該特別試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。 なお、特別試験研究費の額とは、試験研究費の額のうち、国の試験研究機関又は大学と共同して行う試験研究、国の試験研究機関又は大学に委託する試験研究、その用途に係る対象者が少数である医薬品に関する試験研究などに係る試験研究費の額をいいます。 ただし、特別試験研究税額控除額が、当該事業年度の法人税額の30%相当額(注)から試験研究費の総額に係る税額控除制度により控除された金額を控除した残額を超える場合は、その残額が限度とされています(措法42の4②)。 (注) 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、税額控除限度額は、当該事業年度の法人税額の20%相当額から試験研究費の総額に係る税額控除制度により控除された金額を控除した残額となります(下記4参照)。   (3) 中小企業技術基盤強化税制 中小企業者等である青色申告法人が、事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合に、当該試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。ただし、上記「(1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度」又は「(2) 特別試験研究に係る税額控除制度」との重複適用はできません。 なお、一般的には、試験研究費の税額控除においては、中小企業者等に該当した場合には、中小企業技術基盤強化税制を選択することが有利と考えられます。ただし、中小企業者等税額控除額が当該事業年度の法人税額の30%相当額(注)を超える場合は、その30%相当額が限度とされています(措法42の4⑥)。 (注) 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、税額控除限度額は、当該事業年度の法人税額の20%相当額となります(下記4参照)。   (4) 試験研究費の額が増加した場合等の税額控除制度 青色申告法人が、平成20年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合で、一定の要件を満たすときに、上記(1)、(2)及び(3)の制度とは別枠で、当該試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。 ただし、試験研究費の増加額に係る税額控除額が当該事業年度の法人税額の10%相当額を超える場合は、その10%相当額が限度とされています(措法42の4⑨)。   4 平成25年税制改正事項について (1) 税額控除限度額の拡大 上記3で述べた「(1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度」「(2) 特別試験研究に係る税額控除制度」「(3) 中小企業技術基盤強化税制」における税額控除の上限は、平成24年3月31日までの間に開始する各事業年度においては時限措置で法人税額の30%相当額となっていましたが、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、法人税額の20%相当額に引き下げられていました。 それが平成25年税制改正により、2年間の時限措置として、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度においては、控除税額の上限が法人税額の30%相当額に再度引き上げられています(改正後措法42の4の2一)。 (2) 特別試験研究費の範囲の拡大 上記3の「(2) 特別試験研究に係る税額控除制度」における特別試験研究費の額に、一定の契約に基づき企業間で実施される共同研究に係る試験研究費等が追加されました(改正後措法42の4⑫三)。 (了)
#21(掲載号)
#草薙 信久
2013/05/30
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例2(法人税)】 「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例及び貸倒損失を計上して繰戻し還付を行わなかったことにつき損害賠償請求を受けた事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例2(法人税)】   税理士 齋藤 和助   《事例の概要》 甲社の業績悪化に伴い、金融機関からの借入金返済のため、連帯保証人となっていた代表者一族の所有する不動産を売却する必要が生じた。 平成22年に代表取締役であるA氏が所有する福岡の物件を売却し、うち1億4,000万円を甲社の借入金返済に充当した。 さらに平成24年に、A氏の実母であり甲社の役員であるB氏が底地を所有しA一族のグループ会社である乙社が建物を所有する東京のビルを売却し、B氏の売却代金の一部9,000万円を甲社の借入金返済に充当し、乙社の売却代金1億7,000万円を甲社に貸し付けた。 税理士は、平成22年分及び平成24年分のこれらの譲渡取引につき「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例(所得税法64条2項)」を適用せずに申告した。さらに、甲社の平成24年9月期の法人税において、甲社に貸し付けた売却代金につき、貸倒処理をせずに申告を行った。 A氏が別の税理士に相談したところ、一連の取引については納税の必要がないと言われ、その税理士が平成22年分、平成24年分の所得税申告についてはそれぞれ更正の申出、更正の請求を、平成24年9月期の乙社の法人税申告については平成25年3月期(決算期を3月に変更)で貸倒処理をして繰戻し還付を行ったところ、そのすべてが認められた。 そこで、これら一連の取引について回復できなかった税額(具体的には、乙社の繰戻し還付ができなかった地方税額1,200万円)の賠償及び甲社及び乙社の顧問料500万円の返還並びに別の税理士に支払った報酬1,000万円の返還請求を受けた。   《賠償請求の経緯》 ・税理士はグループ全体の顧問税理士であった。 ・甲社は土地を所有しており、売却された場合には約2億円の売却益が発生する見込みであった。 ・甲社は、乙社の借入金を毎月100万円返済していた。 ・税理士は、確定申告時点において求償権行使不能と判断されない場合であっても、その後、求償権が行使不能な状況に陥ったときには更正の請求等が可能となることを知らなかった。 ・別税理士は、成功報酬で更正の請求並びに繰戻し還付請求業務のみを請け負っていた。   《基礎知識》 ◆保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例(所得税法64条2項) 保証債務を履行するために資産を譲渡した場合で、保証債務の履行に伴う求償権を行使することができないこととなったときは、その行使不能額については、譲渡所得の金額の計算上、譲渡がなかったものとみなされる。 ◆金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(法人税基本通達9-6-1) 甲社が「債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる」場合には、貸倒損失の計上が認められる。 ◆欠損金の繰戻しによる還付(法人税法80条) 法人が欠損金の生じた事業年度において、青色申告書を提出している場合で一定の要件に該当する場合には、前1年以内の事業年度に納付した法人税の繰戻し還付を受けることができる。ただし、法人地方税には繰戻し還付の適用がない。   《税理士の落とし穴》   《税理士の責任》 これら一連の取引については、更正の請求等及び税務調査により認められていることから、何ら処理をしなかった被保険税理士に責任があると思われる。 しかし、継続的に会社をみている顧問税理士と、単発で還付申告等を請け負う税理士とでは自ずと立場が違う。 顧問税理士の立場においては、関与先に既に支払能力がないとの判断はしづらく、自力更生を信じて決算を組んだであろうことは想像できる。 一方、単発で業務を請け負う税理士の立場においては、前後のつながりなく、依頼通りの申告を行い、成功報酬を得られれば良いことになる。 したがって、貸倒処理が認められたことは別税理士だからできた等の事情も捨てきれず、顧問税理士にすべて責任があるとはいえないと考える。   《予防策》 [ポイント①] 更正の請求等の利用 「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例(所得税法64条2項)」の能否判定は、所得税基本通達51-11~16によるが、確定申告時点において、求償権行使不能と判断されない場合であっても、その後、求償権が行使不能な状態に陥ったときには、更正の請求等ができる。 したがって、このようなケースにおいては、絶えず会社の業績を把握し、いつでも求償権行使の能否判定ができるようにしておく必要がある。   [ポイント②] コミュニケーションをとる 今回の事例は、依頼者が顧問税理士の関与内容に不満を持ち、別税理士に相談したことから始まったものである。 顧問税理士がどのように考えて貸倒処理をしなかったのか、また、どのような理由で求償権が行使可能と判断したのか等を説明し、依頼者の要望等を汲み上げ、これに沿った処理を行っていれば防げた部分もあることから、依頼者とのコミュ二ケーションを密にとり、関係を友好に保つことが何よりも重要である。 (了)
#21(掲載号)
#齋藤 和助
2013/05/30

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