件すべての結果を表示
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

企業不正と税務調査 【第9回】「従業員による不正」 (3)不正の防止・早期発見のための対策

企業不正と税務調査 【第9回】 「従業員による不正」 (3) 不正の防止・早期発見のための対策   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載第2回で「不正発生のメカニズム」として、「不正のトライアングル」という仮説を紹介した。その際に、いかにして「機会」を減らすかが、不正抑止の決め手であることも強調している。 【不正のトライアングル】 そして「機会」を減らすためには必要なことが適切な職務分掌であり、周囲の監視であることはこれまでの不正事例で見てきたとおりである。   1 不正防止のための仕組み作り まずは、従業員が不正行為をしないよう、仕組みを作ることから始めたい。 (1) 基本は適切な職務分掌 機械装置商社の老舗・椿本興業株式会社が5月8日付で公表した「第三者委員会の報告書受領と当社の対応方針について」というリリースでは、顧客本位の営業体制として、営業担当者に、仕入先の選定から発注、納入の立会い、検品、仕入先に対する支払いの指示などの購買業務権限を与え、債権管理までを含めた職務権限が集中させており、これを悪用されたことなどが不正の原因とされている。 この事例からも明らかなように、不正防止の決め手は不正の「機会」を減少させるための適切な職務分掌の実施である。経理部門であれば、出納担当者とは別にネットバンキングの入力・送信処理を行う者を置くとか、営業部門と購買部門を分離するなど、また、営業部門のなかでも、顧客と折衝する者と債権管理を行う者を分離するなど、業務が一人の社員では完結しない体制を作ることが第一歩であることは間違いない。 管理部門の人員に余裕がない中小企業にあっては、こうした職務分掌の一端は、経営者自身が担うべきであろう。 (2) モニタリング機能 次に、監査部門を有する会社であれば監査部門が、中小企業であれば、社長自身が、社員の業務内容を監視しなければならない。 その際には、他社で起こった不正事例を検証して自社の状況に置き換え、業務プロセスのどこにリスクがあるのか、従業員が不正を行うとすればどのような手口が考えられるかを意識して、モニタリングを行うことが肝要である。特に職務分掌が十分に行えない組織である場合には、事後的に、業務内容をチェックし、確認していることを担当者に知らしめておく必要がある。 従業員に対し、「不正をやったらばれてしまう可能性が高い」という意識を持たせるだけで、不正抑止効果は期待できるものである。 中小企業においては、顧問税理士を活用することによって、こうしたモニタリング機能を実現することが可能である。 (3) 商談ごとの採算管理、部門ごとの損益管理を明確化する 前回見たように、営業部門・購買部門従業員による不正は、架空発注により支払われた代金を仕入先から還流させるという方法で成立する。このときに選ばれる商談は、採算性の高いものが多い。なぜなら、通常、赤字商談については厳しく管理をしても、黒字商談については、当初見込みとの乖離が大きくない限り、事後的に問題になることは少ないからである。 不正実行者は、こうした採算管理の裏をついて巧みに架空発注を紛れ込ませ、金員を騙し取っているのである。 そこで、商談ごとの損益管理を厳格化し、受注時の見込損益と差異が出ている商談については、差異の発生原因を分析させ、報告させる仕組みが必要になる。同時に、受注時の見込損益計算が適正に行われているかどうかも検証されなければならない。 また、部門単位で損益を把握し、部門長に責任を持たせることによって、部門内の不正を防止するインセンティブを与えることも可能である。ただし、これが行き過ぎると、部門長自ら架空売上などの不正に手を染めることにつながりかねないというのもまた、他社事例が教えるところである。 (4) 内部通報制度 課内のベテラン従業員や上司の不正に気付く社員は少なくない。不正調査報告書でも、「気付いていても言い出せる雰囲気ではなかった」とか「通報しても改善されない」といった理由で、内部通報制度が機能していない事例が多い。 こうした社内の風潮を改善するために、弁護士などの専門家に依頼して外部通報窓口を開設し、通報者保護を明確に示すことが必要である。また、経営者自らが、「おかしいと思ったことはなんでも相談すること」を社員に求め、その際に「相談内容に誤解があってもその責任は問わないこと」や「相談者の匿名性は守ること」などを繰り返し説明することによって、気になったことを他の従業員と共有できる社内にしていくことが大切である。   2 不正発見のための施策 (1) 経理部門担当者による不正 出納業務を一人で担当する従業員が行う不正の手口は、取引先からの請求書を偽造又は変造して支払金額を増やし、増額部分を自身で管理する口座に振り込むというもので、請求書原本と振込内容を一件ごとに突合すれば、容易に見分けられる場合が多い。 問題はその作業を誰が行うかであるが、最も適役なのは経理部門の責任者又は経営者自身である。毎回突合する必要はないし、送金処理前に行う必要もない。送金処理後に、請求書とネットバンキングから出力させた送金一覧表(できれば監視監督者自身が出力することが望ましい)をじっくり照合すれば、不審な点はその場で発覚しよう。 不定期であっても、こうした照合作業を行うという事実は、出納担当者の不正抑止に大きな効果があることは間違いない。 (2) 営業部門担当者による不正 営業部門の不正事件の特徴の一つは、個々の商談だけを見れば、適切な処理が行われているように見えても、その担当者が取り扱う商談全体を見た場合に、不審な点が浮かび上がってくるところにある。 したがって、不正発見においては、一人の担当者の商談すべてを、請求先・金額、仕入先・金額、回収(支払)条件、粗利益率などに注目して分析する必要がある。 また、営業部門の不正事件は、必ず社内・社外の共犯者を必要とする。不正発見のためには、営業担当者の人間関係を知り、特定の仕入先との癒着がうかがわれるような事象はないか、把握することが望ましい。 なお、社内サーバに保存されたe-mailのデータ解析を行う場合には、刑事告訴を前提にした証拠保全を行う必要があることから、顧問弁護士、専門のデジタル・フォレンジック業者に依頼をした上でとりかかるべきであることは、不正調査を行う者の常識として知っておかなくてはならない。 (3) 購買部門担当者による不正 購買部門担当者の不正は、購買発注業務の一部に架空・水増し発注を紛れ込ませることから、営業部門による事前見積損益よりも粗利益が減少していたり、発注先が変更されていたりして、営業部門が不信感を抱いたことがきっかけで発覚することが多い。 こうした不正を防ぎ、発見するためには、商談ごとの採算管理と部門ごとの損益管理の導入は必須であろう。そして、経理部門が算出した実績をもとに、購買部門と営業部門が予実分析を行う体制ができれば、購買部門の不正は抑止できるし、仮に不正な発注があった場合でも、翌月には発見することが可能となる。 ただし、営業部門の担当者と購買部門の担当者が共犯関係にある場合には、こうした相互監視による牽制機能は働かないので、営業部門責任者による損益管理と経理部門・監査部門による商談別・部門別損益分析により異常点を発見し、仮説を立て、これを検証していくという作業は欠かせない。   3 顧問税理士による従業員不正の発見 経営者が自ら不正を行っている場合に、顧問税理士として不正を発見することは簡単ではなく、したがって、不正発見よりも不正をさせないことに重点を置くべきであることは、本連載【第6回】で解説したとおりである。 一方、従業員による不正に関しては、顧問税理士は職業的懐疑心を発揮して、不正リスクを検討し、不正の兆候を見抜き、顧問先に損害を発生させないことが求められる。上記2で説明した「不正発見のための施策」を経営者任せにするのではなく、経営者と一緒になって、こうした仕組みを構築し、運用していくことが求められている。 そのためには、公表された不正事例については、顧問先企業の状況に照らして、同様の不正が発生するリスクはないか、不正リスクを低減させるためには何をすべきかを常に意識することが必要である。 もちろん、一義的に顧問税理士が不正発見義務を負うということではないが、税務調査で従業員不正が発覚したとき、毎月顧問料をもらっている顧問税理士が何も気付いていなかったというのでは、顧問先の信用は一気に失墜してしまうのではないだろうか。   4 まとめ-従業員を犯罪者にしないために 営業部門、管理部門は人員削減の方針であり、職務分掌なんて考えられない。まして、人事ローテーションをするほど、大きな会社じゃない-中小企業の経営者や小さな組織の責任者は、そう言い訳しながら、特定の者に業務が集中することを「効率化」であると正当化し、本来してはならない権限移譲を「信頼」と呼び替えてはいないだろうか。 従業員による不正を許すことは、会社に損害をもたらす以上に、大事な従業員を犯罪者にしてしまうことを意味する。そういう事態を引き起こさないためには、組織の責任者自らが、不正防止システムの一翼を担っていく気構えが必要である。決して難しいことではない。請求書と振込内容を一件ずつ突合していれば、出納担当者による不正は未然に防止できるし、商談ごとの採算管理を行っておれば、架空発注は不審な数字として浮かび上がってこよう。 まずは、基本的な確認手続を疎かにしないで、継続すること、である。 *  *  * 次回からは、「粉飾決算」について、その代表的な手法である「棚卸資産の架空・過大計上」と「架空売上」について、これまでに発覚した事例を中心に手口を解説するとともに、いかにしてこうした粉飾決算を発見するかについて検討していきたい。 (了)
#21(掲載号)
#米澤 勝
2013/05/30
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

組織再編税制における不確定概念 【第9回】「損失の二重利用①」

組織再編税制における不確定概念 【第9回】 「損失の二重利用①」   公認会計士 佐藤 信祐   法人税法上、損失が二重に利用できるケースが存在し、実務においても活用されるケースが多い。 損失の二重利用を行うためだけにストラクチャーを組むことは少ないが、事業目的のために選択したストラクチャーの結果として、損失が二重に利用できてしまうケースも少なくない。 そこで本連載では、第9回目と第10回目の2回に分けて、このような損失を二重に利用するケースについて、租税回避行為として認定されるか否かについて解説を行う。   1 問題の所在 たとえば、10億円で設立した子会社において、9億円の赤字が発生した場合には、当該子会社において9億円の繰越欠損金が発生することになる。しかし、それだけではなく、親会社が保有する子会社株式についても9億円の含み損が発生することになる。 【損失の二重発生】 当該子会社株式のすべてを譲渡した場合には、親会社において9億円の子会社株式譲渡損が発生するとともに、子会社においては9億円の繰越欠損金が存在し、損失が二重に存在することになる。   2 子会社株式の譲渡+合併による損失の二重利用 (1) 個人に対する子会社株式の譲渡 このように、子会社株式譲渡損と子会社の繰越欠損金といった二重に損失が発生するという問題はあるが、子会社において繰越欠損金を使用できるだけの収益力がない場合には、実質的に、子会社において繰越欠損金を使用できないことから、二重に損失が利用できてしまうという点については、それほど大きな問題にはならない。 しかしながら、平成13年度税制改正により導入された組織再編税制においては、適格合併による繰越欠損金の引継ぎを認めているため、グループ内で子会社株式を譲渡することにより、損失を二重に計上する場合も考えられる。 具体的には、以下の事例を参照されたい。 【個人に対する子会社株式の譲渡】 〈現状〉 〈ステップ1:A社株式の譲渡〉 〈ステップ2:合併〉 このような場合には、P社の保有するA社株式の帳簿価額が10億円であるのに対し、1億円で譲渡を行っていることから、9億円のA社株式譲渡損が計上されることになる。 さらに、B社はA社を吸収合併することにより、本件合併が適格合併に該当し、かつ、繰越欠損金の引継制限が課されない場合には、A社の繰越欠損金(9億円)をB社に引き継ぐことが可能になる。 すなわち、本事例においては、単純化のために、A社株式の含み損とA社で発生した繰越欠損金の金額を一致させている。 このような場合には、過去においてA社で発生した繰越欠損金(9億円)について、株主であるP社で認識するとともに、合併法人であるB社に引き継ぐことが可能になっていることから、損失を二重に認識することが可能になっている。 なお、X氏がA社及びB社の発行済株式総数の50%を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係(以下「支配関係」という)が生じてから5年が経過していない場合には、繰越欠損金の引継制限が課されるが、5年を経過している場合には、繰越欠損金の引継制限が課されないことになる。 このような場合に、A社株式を譲渡したことが、損失の二重利用のための行為で、経済人として不合理不自然な行為であるとして、包括的租税回避防止規定(法法132の2)を適用することがあり得るか否かであるが、P社がA社株式を譲渡しない場合には、P社がB社株式を取得することになってしまい、今まで、X氏のみがB社の株主だったのにかかわらず、P社とX氏がB社の株主になることから、資本関係が歪になるという問題が生じる。 このような資本関係の歪さが事業活動に悪影響を与えるか否かという点については、同じX氏グループの傘下であることから、それほど大きな影響はないというのが実態ではあるものの、B社における経営意思決定をスムーズに行うために、資本関係の歪さは解消しておきたいというニーズは少なからず存在する。 すなわち、B社株式を譲渡しなければならない絶対的な理由はないものの、B社株式を譲渡してはいけない絶対的な理由もなく、譲渡してもかまわないなら譲渡しておきたいという程度のニーズであることがほとんどであると思われる。 このような状況下において、B社株式を譲渡するための経済合理性としては弱いのではないかと感じられるかもしれないが、包括的租税回避防止規定を適用するためには、経済人として不合理不自然な行為であることが必要となるが、「譲渡してもかまわないなら譲渡しておきたい」という程度の理由であっても、譲渡したことが、経済人として不合理不自然な行為であると言えるわけがなく、さらに、資本関係の歪さを解消するためにグループ内で株式を譲渡するということは日常的に行われており、包括的租税回避防止規定を適用できるだけの異常性は存在しない。 なお、このストラクチャーにおいては、適格合併の前にグループ内で株式譲渡が行われていることから、支配関係発生日をどの時点で捉えるのかという点が問題となっていた。 この点については、平成22年度税制改正により、グループ内で株式譲渡を行ったとしても、支配関係が洗い替えられないことになったため、現行法上は、特に問題にはならない。 (2) 完全支配関係のある内国法人間で子会社株式を譲渡した場合 なお、上記の事例と異なり、完全支配関係のある内国法人間で株式を譲渡した場合にどのように取り扱われるのかという点も問題となる。 具体的には以下の事例を参照されたい。 【完全支配関係のある内国法人に対する子会社株式の譲渡】 〈現状〉 〈ステップ1:A社株式の譲渡〉 〈ステップ2:合併〉 上記の事例では、P社が保有するA社株式をB社に譲渡したとしても、グループ法人税制が適用され、譲渡損失が繰り延べられるように思えるのかもしれない。 しかしながら、B社がA社を吸収合併したことにより、A社株式が消滅することから、その時点で譲渡損失が実現することになる。 なお、譲渡損益の繰延べについては、譲渡法人又は譲受法人が適格合併により解散する場合には特例が定められているが(法法61の13⑤⑥)、譲渡損益の繰延べの対象になった譲渡損益調整資産が適格合併により消滅した場合についての特例は定められていないため、上記の適格合併により、譲渡損益が実現するという結論になる。 この点については、平成24年8月3日に札幌国税局が回答した「グループ法人税制における譲渡損益の実現事由について」において明らかにされている。 (3) 否認され得る事例 これらのケースと異なり、否認され得る事例としては、以下のものが考えられる。 【損失の二重計上】 〈現状〉 〈ステップ1:A社株式の譲渡〉 〈ステップ2:合併〉 この事例においては、事前にP社が保有するA社株式を譲渡してから合併を行う場合と、そのような株式譲渡を行わず、いきなり合併を行う場合とで、合併後の資本関係は何ら変わらない。 すなわち、たとえば、合併の1ヶ月前にP社が保有するA社株式をB社に譲渡した場合には、P社においてA社株式譲渡損を計上するためだけに行った行為であり、経済合理性がないと認められることから、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用され、納税者の行為を引き直した(私法上、真正に成立している法律関係を別のものに組み替えた上で、租税法を適用する)上で、事前に株式を譲渡しなかったものとして、P社において発生したA社株式譲渡損が否認される可能性は否めない。 ただし、実務上、A社をB社の直接子会社とすることで、A社の株主総会、取締役会はB社が支配することになるため、いきなり合併を行うよりも、A社株式を譲渡し、A社をB社の子会社にすることで、両社の統合がうまくいくという事業目的があることも少なくないと考えられる。 そのような場合には、事前にA社株式を譲渡する行為については、経済人として不合理不自然な行為であるとは言い難く、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (了)
#21(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/05/30
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

鵜野和夫の不動産税務講座 【連載2】「贈与税の税率と住宅取得等資金贈与の特例~若い世代へ『資金』移転して経済の活性化を(下)」

鵜野和夫の不動産税務講座 【連載2】 贈与税の税率と住宅取得等資金贈与の特例 ~若い世代へ『資金』移転して経済の活性化を (下)   税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 [直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税]の特例が適用される住宅の要件は 図表-3 平成24年「住宅取得等資金の非課税」の添付書類一覧(新築又は取得用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表-4 平成24年「住宅取得等資金の非課税」の添付書類一覧(増改築等用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   工事費100万円以上の増改築、大規模な修繕などにも適用   受贈者本人が所有し、居住している家屋になされた工事であること   受贈者の親族などからの住宅取得や工事は制限されているが   贈与者の3年以内に死亡したときの相続税の課税価格の算入は   相続時精算課税制度という特例もある-これも次世代への資産移転促進制度だが (了)
#21(掲載号)
#鵜野 和夫
2013/05/30
税務 税務・会計 解説 解説一覧

税務判例を読むための税法の学び方【11】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その4)

税務判例を読むための税法の学び方【11】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その4)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ④ 併合的接続詞「及び」「並びに」による段階構造の分析 法令文において語句を併合的に結び付ける併合的接続詞には、「及び」と「並びに」が用いられる。すなわち、前回の選択的に結び付ける語は英語の「or」に相当するものであるが、併合的に結び付ける「及び」「並びに」は、英語の「and」に相当するものである。 両者は、文字的意味の上では同じものであり、日常用語としては同じような意味で区別せずに使われている。しかし、法令用語としての「及び」と「並びに」は、明確に使い分けられている。 単純に並列的に並ぶだけのときには、「及び」が使われ、語句が3つ以上であっても、同じ段階で並べるときは、最初の接続は「、」でつなぎ、最後の部分を「及び」で結ぶ。すなわち、「A及びB」や「A、B及びC」「A、B、C及びD」というふうに表現される。 例えば、所得税法第22条第1項は、「居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。」とある。ここでは「総所得金額」「退職所得金額」「山林所得金額」が同じ段階で並べられている。 このように語句を単純に並列するだけのときには「及び」のみを使うが、結合される語句に意味の上で上下があるような場合には、「及び」のほかに「並びに」を使ってその違いを文言の上で明らかにすることになる。大きな意味の併合的接続詞には「並びに」を用い、小さな意味の併合的接続詞には「及び」を用いる。 すなわち、「AもBもCも・・・・・・である」というときでも、「AとB」との結び付きが「C」との結び付きよりも一段階強いときには「A及びB」としてそれを一組にし、さらにその「A及びB」のグループと「C」とを「並びに」を使って結び付けて、「A及びB並びにC」と表現し、この間の関係を明らかにするのである。 前々回に紹介した所得税法第10条後半の「この項の規定の適用を受けようとする旨、その者の氏名、生年月日及び住所並びに障害者等に該当する旨その他必要な事項を記載した書類を提出したとき」を再び図で示せば、次のようになる。 なお、先に「最後の部分を「及び」で結ぶ」と書いたが、併合的接続の要素の中で最後に「その他~」がある場合には、「その他~」の直前の要素の前に「及び」や「並びに」が入る。なおこれは選択的接続である「又は」「若しくは」の場合も同様である。 この併合的接続が3段階になるときは、一番小さい段階の接続だけに「及び」を用い、その上の接続にはいくつ段階があってもすべて「並びに」を用いる。最も大きい接続に用いる「並びに」を「大(おお)並びに」と呼び、それよりも小さい接続に用いる「並びに」を「小(こ)並びに」と呼んでいる。 この「大並びに」も「小並びに」も、共に「並びに」と表示されているだけなので、どちらが「大並びに」でどちらが「小並びに」かは、列挙されている語句の意味により解釈しなければならない。 さらに条文の中には、この併合的接続が4段階以上にわたる場合も出てくる。そのような場合も、一番小さい段階の接続に一回だけ「及び」を使い、それ以外のところについては、「並びに」を何回も使うことになる。すなわち「小並びに」が2段階以上になるのであるが、その場合も語句の意味により解釈するしかない。 もう一つ、別の例で示そう。 所得税法第23条第1項には、「利子所得とは、公社債及び預貯金の利子(略)並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配(略)に係る所得をいう。」とある。 この下線部を図で示せば、次のようになる。   次に、「大並びに」「小並びに」の例を示そう。 国税通則法第50条は、「国税に関する法律の規定により提供される担保の種類は、次に掲げるものとする。」とあり、その第4号には、「建物、立木及び登記される船舶並びに登録を受けた飛行機、回転翼航空機及び自動車並びに登記を受けた建設機械で、保険に附したもの」とある。 この下線部を図で示せば、次のようになる。 次に、接続要素の組み合わせについて書く。すなわち「A及びB・・・・・・(に係る)・・・・・・C及びD」という表現で、タスキ掛けの組合せがある場合とない場合とがあることは、「又は」の場合と同様である。 すなわち、その組合せは「A(に係る)C」、「A(に係る)D」、「B(に係る)C」及び「B(に係る)D」の4通りがあり、通常、これらのすべての組合せを含んでいる(いわゆるタスキ掛けあり)と解される。 しかし、なかには、「A(に係る)C」と「B(に係る)D」」の2通りの組合せのみ(いわゆるタスキ掛けなし)を意味する場合もある。 これがタスキ掛けとなるかどうかを内容から判断しなければならない点は、前回の選択的接続詞の場合と同様である。 なおここで、他の併合的接続詞についても触れておく。 ◆「かつ」 「かつ」は、大きな接続のために用いられるほか、接続される言葉が互いに密接不可分であって、一体として意味が完全に表されるような場合に用いられる。また、「かつ」を用いて加重的要件を示す場合もある。すなわち「かつ」の後に続けて規定される内容が、「かつ」の前に述べられている内容と共に必要とされる要件であることを示す場合である。 所得税法第2条第4号は非永住者の内容を規定しているが、「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。」とある。ここでは日本の国籍を有していないことの他にさらに「過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である」という要件を加えている。 ◆「・・・・・・と・・・・・・と」 次に、「・・・・・・と・・・・・・と」というのは、名詞を連結するのが通例である。したがって、条文の中に名詞の次に「と」があった場合には、次の名詞(又は名詞句)で「と」を伴うものを探し出し、これらの両者を併合し、あわせてどういう連結となっているかを考えるとよい。 所得税法第201条第1項2号イ号は、その支払う退職手当等とその支払済みの他の退職手当等がいずれも一般退職手当等に該当する場合の源泉徴収額を定めており、「その支払う退職手当等の金額とその支払済みの他の退職手当等の金額との合計額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額」とある。この下線部は、「その支払う退職手当等の金額」と「その支払済みの他の退職手当等の金額」との合計額となる。 (了)
#21(掲載号)
#長島 弘
2013/05/30
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載21〕 合併に伴い合併法人の役員報酬を増額した場合の取扱い

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載21〕 合併に伴い合併法人の役員報酬を 増額した場合の取扱い   日本税制研究所研究員 朝長 明日香     1 「役員給与に関する質疑応答事例」(国税庁 平成18年12月)の問4の取扱い 平成18年度の税制改正において、役員給与に関する取扱いの大幅な改正が行われたことは、周知のとおりである。 役員報酬に関しては、事業年度中の支給額が毎月同額であるものを「定期同額給与」と位置付ける一方、①期首から3月以内の改定及び②業績の著しい悪化に伴う減額改定の場合において、改定前の各支給時期における支給額と改定以後の各支給時期における支給額がそれぞれ同額であるときは、これらの改定を行った役員報酬についても「定期同額給与」に該当するものとされた。 平成18年12月に国税庁から公表された「役員給与に関する質疑応答事例」は、この平成18年度の税制改正を受けて作成されたものである。 この「役員給与に関する質疑応答事例」の問4(合併に伴う定期給与の増額)では、被合併法人の役員と合併法人の役員とを兼務していた者が合併(期首から3月経過後に行われたもの)によって合併法人の業務に従事することとなり、合併法人が、その役員に対し、被合併法人が支給していた報酬の額を合わせた金額を支給することとしたケースについて、その役員に対する報酬が「定期同額給与」に該当するのか否かということに対する回答を示している。 このケースに対する当局の回答は、次のとおりである。 この問4のケースは、上記①及び②のいずれにも該当しない改定であるが、上記の回答のとおり、国税庁は、このケースの役員報酬を「定期同額給与」と認めている。   2 「臨時改定事由」による改定の創設 平成19年度の税制改正においては、①期首から3月以内の改定及び②業績の著しい悪化に伴う減額改定に、新たに、③「臨時改定事由」による改定が追加され、これら3つのいずれかに該当する改定を行っても、役員報酬は「定期同額給与」に該当することとされることとなった。 この「臨時改定事由」による改定は、法人税法施行令69条1項1号ロにおいて次のように規定されている。 そして、平成19年12月には、この法人税法施行令69条1項1号ロの「臨時改定事由」に関する解釈として次の法人税基本通達が制定されている。 このように、法人税法施行令69条1項1号ロの規定は、役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更、及び、これらに類するやむを得ない事情のいずれかが生じている場合に適用されることとなるわけであるが、「その他これらに類するやむを得ない事情」(同前)にどのような内容のものが含まれるのかということについては、個々の事例に即して検討する必要がある。 現在、上記1の「役員給与に関する質疑応答事例」は国税庁ホームページから削除されているが、同質疑応答事例は平成19年度の税制改正前の法令を基に作成されたものであり、同改正によって創設された規定の取扱いに含まれることとなり、不要となったものと考えられる。 財務省の解説によれば、「臨時改定事由」による改定に関しては、「事業年度開始の日から3月経過日等までには予測しがたい偶発的な事情等によるもので、利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないもの」(財務省『平成19年度 税制改正の解説』331頁)とされている。この解説からすると、「利益調整等の恣意性」があるのか否かが「臨時改定事由」に該当するのか否かの判断基準として重要であると解される。 このような平成19年度の税制改正の考え方や上記1の「役員給与に関する質疑応答事例」が平成19年度の税制改正に合わせて削除されていることからすると、上記問4のケースは、「臨時改定事由」による改定に該当する、と整理されているものと考えられる。   3 本件の取扱い 上記1の「役員給与に関する質疑応答事例」の問4のケースは、本件とは異なる事由によるものであるが、同ケースが「臨時改定事由」による改定に該当すると整理されていることからすると、法人税法施行令69条1項1号ロの「臨時改定事由」は、「役員の職制上の地位の変更」や「役員の職務の内容の重大な変更」(同前)に限定されたものではなく、これらの他にも多くの事由が「臨時改定事由」に該当するものと考えられる。 合併があったことを理由として恣意的に行った改定が「臨時改定事由」に該当しないことは言うまでもないが、本件は、被合併法人の報酬水準に合わせるために合併法人の役員の報酬の改定を行ったものであり、「利益調整等の恣意性」が全くないことが明らかであることから、「臨時改定事由」による改定として取り扱ってよいものと考える。 (注) 平成19年度の税制改正においては、3月経過日等後にされる改定のうち「特別の事情」(法令69①一イ括弧書)があると認められるものは通常の3月以内の改定に含めることとされたが、これは「継続して毎年一定の時期に行われる改定」(財務省『平成19年度 税制改正の解説』330頁)を前提とした取扱いであるため、本件は、これに該当しない。   (了)
#21(掲載号)
#朝長 明日香
2013/05/30
会計 監査 税務・会計 解説 解説一覧 財務諸表監査

〔会計不正調査報告書を読む〕【第8回】株式会社クロニクル・ 過去の会計処理の訂正に係る「第三者委員会調査報告書(最終報告)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第8回】 株式会社クロニクル・ 過去の会計処理の訂正に係る 「第三者委員会調査報告書(最終報告)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【株式会社クロニクルの概要】 株式会社クロニクル(以下「クロニクル」という)は昭和55年、宝石貴金属製品の卸売業者として創業。平成12年から投資事業を開始。その他の事業として子会社においてWEB情報事業を手がける。連結売上高2,108百万円、連結経常損失△697百万円。従業員49名(数字はいずれも2012年9月期)。平成16年12月JASDAQ上場。   【報告書のポイント】 1 調査結果により判明した事実 (1) 営業貸付金等 平成20年6月、前代表取締役会長が中心となって進めた会社買収に絡み、契約書を作成することなく、買収予定会社及びその親会社に対して608百万円の貸付金が発生することとなった。 クロニクルは、買収予定会社の株式を親会社が売却した代金300百万円を受け取り、残額を債権放棄することで合意していたにもかかわらず、当該損失を平成21年9月期に計上することを避けるため、日付を遡って金銭消費貸借契約書を作成し、会計監査人からの残高確認依頼に対しては虚偽の返信を行わせた。 その上で、平成23年9月期に貸付金308百万円に対して個別引当で全額につき貸倒引当金を設定すべく、債務免除を依頼する書面を作成させた。 その結果、本来、平成21年9月期に計上すべき債権放棄による損失308百万円が貸付金として計上されたまま、有価証券報告書が作成された。 (2) 営業出資金 前代表取締役会長は、シンガポールにおいて組成したファンドに、クロニクルから出資させ、当該ファンドから自らに資金を流して私的に流用することを計画し、懇意にしていたファンドマネージャーにファンドの組成を依頼し、合計約904百万円の投資をさせた。 ファンドマネージャーは、受け入れた資金について運用を行わず、前代表取締役会長の指定する口座に送金する一方、ファンドの投資内容について定期的に報告書を提出して投資実体があるかのように装い、評価損の計上を免れていた。 クロニクルがファンドへ送金した資金については、営業出資金ではなく、前代表取締役会長に不法に領得されたものであり、ファンドへの送金時点で財産上の損害が生じており、当該年度に損失を計上すべきであった。 (3) 預在庫 子会社における時計販売において委託販売を行っているところ、帳簿上の預在庫として計上されている商品のうち410百万の商品について実在性がないことが判明した。 その原因は、以下のとおり前代表取締役会長が主導したものであるが、実務処理は、現代表取締役社長及び取締役(子会社の代表取締役)が担当していた。   2 関係者に対する厳しい処分の提言 最終報告書は「第4 改善策」の冒頭において、関係者に対する厳しい処分を提言している。 クロニクルの会計処理の訂正を要する可能性がある事象については、いずれも、平成23年8月3日に死亡した、前代表取締役会長が主導して行ってきたものであり、現任の取締役4名も平成23年12月に就任した1人を除いて、その行為に加担又は実務処理を行い、前代表取締役会長の行為に異議を唱えたり、止めたりすることはなかったものである。 前代表取締役会長の行為の一部には、業務上横領罪又は特別背任罪が成立しているものもあると考えられ、同人に対する損害賠償請求権が発生しているが、同人はすでに死亡し、死亡時点においての正味財産はなかったものと推察されることから、損害賠償請求権に対する未収入金は現時点では計上せず、請求金額の実現可能性が高まった時点での認識を行うことが妥当であると考えられる。 〔関係者の処分の提言内容〕   3 会計監査に対する問題点の指摘 会計監査人は、以下の対応を実施すべきであったとし、「会計監査が調査対象事項のような事象への抑止力につながらなかったこと自体は否定しない」として、問題点を指摘した。   4 調査報告書の特徴 現任の取締役4名のうち3名、監査役3名全員に対して、「辞任のうえ報酬の自主返納」を迫る非常に厳しい報告書が公表された事案である。 また、3月26日には、証券取引等監視委員会が、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、クロニクルに対し6,443万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。 法令違反の事実は、以下の「重要な事項につき虚偽の記載がある」有価証券報告書等を、関東財務局長に対し、提出したものである。 証券取引等監視委員会が虚偽記載と認めた事実は、調査委員会の報告とも一致しており、クロニクルも異議を申し立てていないことから、有価証券報告書等の虚偽記載は事実として認めているようである。 そうすると、第三者調査委員会が提言を行った「関係者の処分」についても、クロニクルの見解が出されるべきではないかと思料するのだが、本稿執筆時点においては、調査委員会の提言に対する反論はもちろん、辞任するかどうかも含めて、何らコメントは出されていない。 一方、訂正報告書をめぐっては、監査法人との間で協議がまとまらず(3月14日付リリース)、その後、会計監査人の異動が発表され(4月5日付リリース)、「早急に提出する予定で作業を進めて」いる(4月19日付リリース)ということであるが、こちらも本稿執筆時点においては、訂正報告書は出されていない。 (了)
#21(掲載号)
#米澤 勝
2013/05/30
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第5回】「産後8週間経過後の対応(2)」―短時間勤務、時間外労働・深夜業の制限―

〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第5回】 「産後8週間経過後の対応(2)」 ―短時間勤務、時間外労働・深夜業の制限―   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回は子を養育する従業員の休業取得について触れたが、今回は働きながら子を養育する従業員に対し、会社が実施する支援策、法で定められた短時間勤務等の各種制度について触れていくこととする。   2 職場復帰の支援 (1) 復帰支援制度を設ける 長期休業をしていた従業員は、「能力や技術を維持できているだろうか」「社内体制や環境の変化に対応していけるだろうか」など、職場復帰にあたり不安や悩みを抱えることも多いと思われる。 このようなことから、職場復帰をスムーズにし、仕事と家庭の両立をしやすくするためにも、会社が積極的に職場復帰を支援する制度を構築、運用していくことは重要といえる。 なお、後述する短時間勤務制度の利用、時間外労働・深夜労働の制限のため育児休業前と異なる業務への転換を伴うときは、情報提供(例:職務マニュアル)を行いながら、新しい業務内容について復帰前から理解を促しておくとよいであろう。 (2) 各種情報の取扱い 電子メール等による情報提供や在宅講習を実施するときは、情報の取扱いについて気を付けなくてはならない。 例えば、能力・技術の維持を図るための業務情報、社内体制の変更や施策を伝達する電子メールは、在宅支援を受ける者のPCのセキュリティ、書類の保管(鍵の付いたキャビネットを用意させる)など一定の基準を設けた上で運用し、機密情報が外部に漏洩しないルール作りが不可欠である。   3 仕事と家庭の両立の実現に向けて 少ない人数で事業を営む会社については、従業員からの短時間勤務等の希望を受け入れることが困難なこともあると思われるが、両立支援のため何らかの取組みを実施し有能な人材を確保・流出防止に努めることにより、将来の会社の発展につなげていきたい。 両立支援のため会社が取り組む施策の例を掲げると、以下のようなものが考えられる。 職場復帰をした従業員は、通常の労働時間より短時間勤務等で復職した方が仕事と家庭の両立をしやすいことがある。 以下、育児・介護休業法により定められている短時間勤務等について触れていくこととする。   4 短時間勤務・所定外労働の制限(3歳に満たない子を養育する従業員) 以下の制度については、平成24年6月までは、従業員数が100人以下の事業主は適用が猶予されていたが、平成24年7月以降は企業規模にかかわらず実施をしなければならない点に注意を要する。 (1) 短時間勤務制度 事業主は、3歳に満たない子を養育する従業員について、従業員が希望すれば利用できる短時間勤務制度を設けなければならないとされている。 対象となる従業員は、次のいずれにも該当する者である。 短時間勤務制度は、次の①~③に該当する者は労使協定を締結することにより適用除外とすることができる。 なお、③に該当する従業員を労使協定により適用除外とした場合、事業主は、代替措置として、以下のいずれかの制度を講じなければならない。 中小企業であって、短時間勤務制度がなじまない職場については、労使協定を締結した上で時差出勤制度を導入するなど代替措置をとる必要がある。 (2) 所定外労働の制限 3歳に満たない子を養育する従業員が申し出た場合には、事業主は、所定労働時間を超えて労働させてはならないとされている。 原則として3歳に満たない子を養育するすべての従業員(日々雇用者を除く)が対象となるが、労使協定がある場合、次の者は適用除外とすることができる。 近年は、長時間労働に伴う心身の故障が増加傾向にある。 子を養育する従業員のためだけではなく、職場全体の労働時間を見直すことも併せて実施していくと良いであろう。 参考までに、現在の短時間勤務等の導入状況について見てみると以下の通りである(「平成23年度雇用均等調査結果」P21~)。   5 時間外労働・深夜業の制限(小学校就学前の子を養育する従業員への対応) 「4 短時間勤務・所定外労働の制限」では「3歳」に満たない子を養育する従業員への対応を述べたが、次は小学校就学前の子を養育する従業員に対し会社が講ずべきものについて触れていく。 (1) 時間外労働の制限 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する従業員から請求があった場合、制限時間(1月24時間、1年150時間)を超えて労働時間を延長してはならない。 3歳未満の子を養育する従業員に対する措置は、所定労働時間を超える労働をさせないものであった。一方、小学校就学前の子を養育する従業員の場合、時間外労働を行わせることは構わないが、月又は年間で定められた一定時間を超過しないように気を付けた上で労働させる必要がある。 ただし、次のいずれかに該当する者は対象外とされている(労使協定の締結は不要)。 (2) 深夜業の制限 小学校就学前までの子を養育する従業員が申し出た場合には、その従業員を深夜(午後10時から午前5時まで)において労働させてはならない。 ただし、次のいずれかに該当する者は対象外とされている(労使協定の締結は不要)。 なお、(1)(2)のいずれも事業の正常な運営を妨げる場合は、請求を拒むことも可能である。 これらの制度を上手に運用していくためには、時間外労働や深夜業の制限について全従業員に周知していくだけでは足りず、本来であれば時間外労働等の制限を請求した従業員が担当するはずであった作業をどのようにして分担していくか、あるいは従業員の補充を行うのかといった職場内の業務全体の見直しをしていく必要がある。 ※見直しの例については、前述の「3 仕事と家庭の両立の実現に向けて」を参照していただきたい。   6 おわりに 前回解説した育児休業と同様に、短時間勤務制度等についても、導入にあたっては周囲の従業員の協力が欠かせない。 各社員に理解を求めることのほか、長時間労働の改善や業務の見直しについて全従業員からの提案を受け入れるなど、全社一体となって取り組んでいくことが望ましい。 次回は、子の看護休暇その他の両立支援策について触れていくこととする。 (了)
#21(掲載号)
#佐藤 信
2013/05/30
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

残業代の適正な計算方法 【第5回】 「残業代の支払方法」

残業代の適正な計算方法 【第5回】 「残業代の支払方法」   社会保険労務士 井下 英誉   1 はじめに 第1回から第4回の内容に基づいて残業代が正しく計算されても、支払方法に問題があれば、未払賃金問題としてトラブルになる可能性がある。 そこで連載最終回となる今回は、残業代の正しい支払方法について解説する。   2 残業代の支払方法 ① 法所定計算方式 毎月の実時間外労働時間数(第1回から第3回までを参照)に時間外労働単価(第4回を参照)を乗じて算出した時間外労働手当(残業手当)を支払う方式である。 残業代の支払方法として、法に則した最も一般的な方法である。 ② 定額支払方式 残業代を定額で支払う場合、「基本給とは別の手当として支払う方法」と「基本給に含めて支払う方法」の2種類がある。 イ 定額残業代として別手当で支払う方法 残業代を予め固定で支払う方法で「定額残業代として時間外労働○○時間分を支払う(時間設定)」と「定額残業代として○○円を支払う(金額設定)」の2種類がある。 第1回から第4回までの内容を理解していれば、実務上も導入しやすい方法といえる。 ロ 基本給に定額残業代を含めて支払う方法 基本給の一部に残業代を含めて支払う方法で、「基本給=本来の基本給+固定残業代」という考え方になる。 ハ ○○手当の一部に定額残業代を含めて支払う方法 「営業手当に残業代を含める」、「職務手当に残業代を含める」という方法である。○○手当=固定残業代であれば、イの方法と同様の考え方になる。   3 定額支払方式の留意点 定額支払方式で支払う場合は、上記イからハのいずれの場合も、時間設定か金額設定かを就業規則で明確にし、定額に含まれる具体的な時間や金額は個別に労働条件通知書等で明示する必要がある。 また、この方法により支払いが行われる場合、当該賃金計算期間の残業時間が予め定めた時間(金額設定の場合は、当該月の残業時間に残業単価を乗じた額が予め設定された金額)に満たない場合でも、その時間分に相当する残業代を基本給や手当から控除することはできない。 一方、当該賃金計算期間の残業時間が一定の時間(金額設定の場合は、当該月の残業時間に残業単価を乗じた額が予め設定された金額)を超えた場合は、超過した時間(金額)分の残業代は当該計算期間分の賃金支払期に精算して支払わなければならない。 以上、定額支払方式を導入する場合の留意点を解説してきたが、法所定計算方式から定額支払方式に変更する場合は、次の2つの点も留意しなければならい。 (連載了)
#21(掲載号)
#井下 英誉
2013/05/30
労務・法務・経営 経営

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第9回】「緩和ケア病棟の魅力」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第9回】 「緩和ケア病棟の魅力」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 緩和ケア病棟の地域差と充足率 がん対策基本法が制定されるなど、がん医療は今日の医療政策の重点課題であり、今後さらに重要な領域となることが予想される。 かつてはがん医療といえば手術を想起させることが多かったが、今日は集学的治療がその中心である。また、価値観の多様化により、緩和ケアはがん医療にとって不可欠な領域であり、ホスピスによるケアを希望する患者も少なくない。 このような状況で、緩和ケア病棟は地域差が大きく人口当たり病床数及び病院数の最大と最小の都道府県には、それぞれ8.3倍と12倍の差がある(図表1)。 図表1 都道府県別の緩和ケア病棟の充足率 このような地域差は、地域の競争状況と密接に関係する。急性期病院の競争が激しい地域ほど、緩和ケア病棟が多いという傾向が顕著にみられる。激戦区に立地する地域一般的な医療を提供する急性期病院が経済性を向上させるための手段として緩和ケア病棟を選択しているものと予想される。地域によっては入院待ちする患者が後を絶たない。 そこで、2012年度診療報酬改定において、緩和ケア病棟入院基本料の評価体系が見直され、入院初期の緩和ケアに対する評価が行われた。 図表2に示すように、改定前の緩和ケア病棟は包括払いであり、かつ診療報酬が逓減しない定額の仕組みであったため、特にターミナル期においてはDPC/PDPSを算定する病床よりも収益性が高い傾向があったものと予想される。 図表2 緩和ケア病棟入院料 しかしながら、2012年度診療報酬改定で逓減制が導入されたため、入院期間が短く、在宅復帰を推進してする緩和ケア病棟が高く評価されることになる。 ちなみに、緩和ケア病棟の平均在院日数は、全国平均で35.7日(公私病院連盟 経営概況調査報告書)であるため、今回の点数設定では、増収になる病院が多いものと予想される。 今後、急性期病院でも緩和ケア病棟を新設しようとする動きが盛んになるであろう。   2 緩和ケア病棟が適する病院 緩和ケア病棟が適する病院は、地域一般的な急性期医療を提供する急性期病院である。 緩和ケア病棟を有する病院の診療機能を分析すると、がん診療連携拠点病院未承認(全体の約72%)、地域医療支援病院未承認(全体の約95%)、300床未満の病院(全体の約57%)、DPC病院(全体の約61%)、民間病院(約61%)となっている。しかしながら、がんの手術を実施する病院であることが注目される(全体の約72%)。 がんに対する知見が深いことに加え、末期がん患者が入院するので、疼痛コントロールができることが必須になる。緩和ケア病棟が包括払いだからといって、何の処置もせずにただ寝せておけばいいというわけではない。適切な医療行為が行われる前提で、高い点数設定がなされていると解釈すべきである。 ただし、地域中核病院で緩和ケア病棟を設置することは政策的な理由がない限りは、望ましくないと筆者は考えている。これらの病院はがん診療連携拠点病院の承認を受けていることが多く、高額な放射線機器を有している。放射線機器を保有していれば、緩和ケア病棟に入院する患者にも放射線治療をして痛みを和らげてあげたいと考えるのが医療人の思いであろう。採算を度外視して、最良の医療を提供したいと思う気持ちに駆られるのは当然のことであり、放射線治療を行わないことに対してスタッフは悩みを抱えてしまうことも十分に考えられる。 しかし、放射線治療には多額のコストがかかり、設定されている点数では大幅な赤字に陥るはずである。赤字でも実施すべき医療があるのは事実だが、緩和ケア病棟のように積極的な治療をしない前提の病棟の患者に対して、このような治療を継続していけば、やがて破綻してしまうことは目に見えている。 だからこそ、高額医療機器を保有しない、悪性腫瘍に対応できる中小規模の病院が適している。   3 緩和ケア病棟の経済性 緩和ケア病棟は、中小規模の病院にとって、一般病院の中では高い収入が期待できる。一般病院全体の入院収入よりも、緩和ケア病棟は高収入である。収入が多いだけではなく利益率も優れており、概ね5%程度が期待できる。2012年度改定で、入院初期の点数が増加したことから、適切な運営を行えばさらに業績は良くなることであろう。 がんの末期患者は、ターミナル期が近付くにつれて医療資源の投入量が多くなるのが一般的である。従来は、収入が逓減しない仕組みであったが、改定により状況が変わったことには留意しなければならない。   4 成功するための要件 緩和ケア病棟の設置に成功するためには、2つの必須要件がある。 まず1つ目は、優秀なスタッフを集めることである。 緩和ケア病棟では、全国平均で15床に1名の専従医師を配置しており、理想的には12床に1名が望ましいといわれる。さらに看護師は1床に1名程度が必要になり、15床を開棟する場合には15名を集めなければならない。特に看護師が重要な鍵を握るのが緩和ケア病棟の特徴である。この他にも心理的なケアのために臨床心理士を置くことも有効であり、そのような病院も緩和ケア病棟を有する病院の12%程度ある。 なお、患者に対する精神的なケアだけではなく、スタッフに対する良き相談相手としてもぜひ採用を行うことをお勧めしたい。 過酷な勤務となる緩和ケア病棟の看護師はバーンアウトしやすい。優秀なスタッフが適当な人数いなければ、設備だけあっても、患者を入院させることはできないのは言うまでもない。 もう1つは、病床利用率を70%以上に維持することである。 緩和ケア病棟は、急性期病床と異なり午前退院、午後入院というような運用は難しい。そもそもいつ空床が出るか予測できない側面もあり、入院予約中の患者に事前連絡することも難しい。また現場からは、たとえ空床があったとしても、1日1人しか入院させられないという声も出てくるであろう。さらに、繊細な患者の気持ちにも配慮した病床コントロールが求められる。 収益性は、病床利用率に大きく左右される。 (了)
#21(掲載号)
#井上 貴裕
2013/05/30
労務・法務・経営 経営

NPO法人 “AtoZ” 【第9回】「認定NPO法人①」~優遇措置について~

NPO法人 “AtoZ” 【第9回】 「認定NPO法人①」 ~優遇措置について~   税理士 岩田 聡子   1 認定NPO法人とは? 認定NPO法人制度とは、NPO法人に対する税制上の優遇措置であり、会費、寄附金等で運営されるNPO法人を支援するために設けられた。 これは、NPO法人のうち、その運営組織及び事業活動が適正であって、公益の増進に資するものは所轄庁の認定を受けることにより、認定NPO法人となることができる制度である(NPO法44①)。 平成23年6月から、認定NPO法人となる要件であるパブリックサポートテスト(以下「PST」という)に新たな要件が追加された。 さらに平成24年の法改正により、所轄庁が国税庁から都道府県(一の指定都市内にのみ所在する場合はその指定都市)となり、PST以外の要件をすべて満たしている法人に対して、3年以内にPSTを満たし、認定NPO法人に移行することを目標に仮認定制度が設けられた。 この改正により、認定NPO法人制度に対する関心も高まり、新たな制度により認定NPO法人が増加することが期待されている。   2 認定NPO法人に対する優遇措置 (1) 個人が認定NPO法人等へ寄附金を支出した場合 個人が認定NPO法人等に寄附をした場合には、次のいずれかの寄附金控除を適用することができる(NPO法71) 。 ① 寄附金控除(所得控除) 認定NPO法人に対する寄附金は、特定寄附金として次の金額を総所得金額から控除することができる。 特定寄附金の額の合計額-2,000円=寄附金控除額(所得控除額) ただし、特定寄附金の額の合計額は、総所得金額等の40%相当額が限度となる。 ② 認定NPO法人等寄附金特別控除(税額控除) 認定NPO法人に対する寄附金は、他の税額控除の対象となる寄附金と合わせて、控除対象寄附金として次の金額を所得税額から控除することができる。 (控除対象寄附金額-2,000円)×40%=税額控除額 ただし、控除対象寄附金額は総所得金額等の40%が限度、また、税額控除額は所得税額の25%相当額が限度となる。 (2) 法人が認定NPO法人等へ寄附金を支出した場合 法人が認定NPO法人等に寄附をした場合には、一般寄附金の損金算入限度額とは別に、特別損金算入限度額が認められる(NPO法71、法法37④、措法66の11の2②)。 法人の寄附金の損金算入限度額=一般寄附金の損金算入限度額+特別損金算入限度額 ・一般寄附金の損金算入限度額  (資本金等の額×0.25%+所得金額×2.5%)×1/4 ・特別損金算入限度額  (資本金等の額×0.375%+所得金額×6.25%)×1/2 (3) 相続人等が認定NPO法人に相続財産等を寄附した場合 相続又は遺贈により財産を取得した者が、その取得した財産を相続税の申告期限までに、認定NPO法人に対し寄附をした場合には、その寄附をした財産は相続税の非課税財産となり、相続税の課税の対象からは除かれる(NPO法71、措法70⑩)。 ※仮認定NPO法人(次回解説)には、この規定の適用はない。   (4) 認定NPO法人のみなし寄附金制度 認定NPO法人が収益事業を行っている場合、法人税の申告をしなければならない。 この場合、その収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額は、その収益事業に係る寄附金の額とみなし(みなし寄附金)、寄附金の損金算入限度額までを損金の額に算入できる(措法66の11の2①)。 損金算入限度額は、次のいずれか多い金額である。   3 認定NPO法人のデメリット 認定NPO法人は、通常のNPO法人より多くの閲覧書類等を備え付けなければならず、毎年の所轄庁への報告、5年ごとの認定の更新においても様々な書類の提出を行わなければならない。 そのため、事務量が増え、法人の負担が増加することとなる。 また、認定の更新のためには、常にPST要件等を意識しながら、法人の運営を行うことも必要となってくる。 認定を受け、優遇措置を受けるということは、NPO法人自体の内部管理体制の充実や、より一層の情報公開等が求められることであり、結果的にそれが社会的信用につながっているのである。   (了)
#21(掲載号)
#岩田 聡子
2013/05/30

新着情報

もっと見る

記事検索

メルマガ

メールマガジン購読をご希望の方は以下に登録してください。

#
#