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法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第1回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《減価償却》編 【第1回】   弁護士 木村 浩之   1 はじめに 減価償却をめぐっては、もとより、税務調査等において、資本的支出と修繕費の区分が問題となることが非常に多いといえるが、そのほか、減価償却資産とその他の資産との区分(減価償却資産の範囲)、固定資産の取得価額、少額の減価償却資産等の判定、耐用年数表の適用、除却損失の計上など、その論点は多岐にわたっている。 また近年、減価償却に関する重要な税制改正が相次いでなされており、償却限度額を計算するに当たっても、留意すべき事項は多いといえる。 そこで、本稿では、減価償却をめぐる主要な論点について整理し、6回にわたって解説することとしたい。取り上げる予定のテーマは、以下のとおりである。   2 減価償却資産の範囲 (1) 減価償却資産の一般的要件 減価償却の対象となる資産は、法人税法上、「建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう」とされている(法法②二十三)。 これを受けた政令は、「棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)」として、減価償却資産に該当する資産を具体的に列挙した上で、その範囲から一定の資産を除外している(法令13)。 また、明文に規定はないものの、他人の保有する資産を事業の用に供したとしても、それは自己の減価償却資産とはならないのであるから、減価償却の対象となる減価償却資産については、「自己が保有するものであること」が当然の前提であると解されている。 そこで、減価償却資産に該当するための一般的な要件として、 という要件が導かれる。以下、順に解説する。 (2) 棚卸資産等に該当しないこと ア 棚卸資産との区分 棚卸資産とは、法人税法上、「商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産で棚卸しをすべきものとして政令で定めるものをいう」とされ(法法②二十)、政令がこれらをより具体的に列挙している(法令10)。 列挙されているものに共通する考え方は、棚卸資産となるのは、販売用の資産であるか、あるいは販売用資産の製造等に使用されて短期間に消費されるものであるということである。 したがって、次の要件のいずれかを満たすものは棚卸資産に該当し、減価償却資産と区分されることになる。 例えば、①についていえば、販売促進を目的とした展示物がある場合、それを後に販売する予定であれば棚卸資産に該当することとなり、販売が予定されていなければ減価償却資産に該当することとなる。 また、②についていえば、製造に使用される資材がある場合、それが反復継続して使用されず、短期間に消費されるものであれば、棚卸資産(貯蔵品)に該当することとなり、反復継続して使用されるものであれば、減価償却資産に該当することとなる。 イ 繰延資産との区分 繰延資産とは、法人税法上、「法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう」とされ(法法②二十四)、政令は、「法人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用を除く。)のうち次に掲げるもの」として、繰延資産に該当するものを具体的に列挙した上で、その範囲から一定のものを除いている(法令14①)。 この繰延資産から除かれるものとして、「資産の取得に要した金額とされるべき費用(固定資産の取得価額を構成するもの)」がある。このことから、法人が支出する費用のうち、固定資産の実質的な対価となるものについては繰延資産には該当せず、そのような対価関係のない事実上の効果を有するにすぎないものが繰延資産に該当することになる。 例えば、商標や意匠(デザイン)等の作成費用については、権利として登録する場合には、その実質的な対価として権利(固定資産)の取得価額を構成するのに対して、権利として登録しない場合には、そのような対価関係のない事実上の効果を有するにすぎないものとして、固定資産ではなく、繰延資産に該当し得ることになる。 (3) 事業の用に供していること 「事業の用に供している」というためには、単に「資産を保有している」というにとどまらず、その資産を実際に使用し、それが収益を生む源泉となっていると認められることが必要である(最判平成18年1月24日・民集60巻1号252頁参照)。 したがって、いわゆる稼働休止資産については、収益を生む源泉とはなっていないことから、事業の用に供しているとはいえず、減価償却資産とはならない。 もっとも、現実に収益を生んでいないとしても、単に保管するだけにとどまらず、いつでも事業の用に供することができるように維持管理等されているものについては、潜在的には収益の源泉となるべきものであるから、減価償却資産に該当し得ると解される。 例えば、賃借人のいないマンションであっても、入居者を募集している場合には事業の用に供しているといえるのであり、減価償却資産に該当することになる。また、稼働休止中の資産であっても、稼働中の資産の控え(スペア)等としてメンテナンスを継続されている場合には、減価償却資産に該当することになる(法基通7-1-3参照)。 (4) 時の経過により減価すること 減価償却資産に該当するためには、時の経過により減価する(価値が低減する)ものであることが必要である。ここでいう減価には相場の変動といったものを含まず、資産そのものが消耗等することによって減価するものであることが必要である。 したがって、土地等が減価償却資産には該当しないことはもちろん、美術品、芸術品、骨董品、クラシックカーなど、主にその資産が持つ物理的な効用以外に大きな価値が認められているものについては、減価償却資産には該当しない(法基通7-1-1参照)。 (5) 自己が保有する資産であること 減価償却の対象となる資産は、原則として、自己が所有する資産である必要がある。ただし、次の例外がある。 ア 形式的な所有権の場合 自己が所有する資産であっても、その所有権が形式的なものにすぎない場合には、実質的な資産価値を保有するものとはみられず、減価償却資産とはならない。逆に、他人が所有する資産であっても、その所有権が形式的なものにすぎず、自己が実質的な資産価値を保有するとみられる場合には、減価償却資産となり得る。 例えば、自己所有の資産を譲渡担保によって所有権移転した場合であっても、その所有権移転は担保提供を目的とした形式的なものであり、実質的な資産価値の移転を伴ったものとはいえないことから、その資産は自己が保有するものといえる。 また、同様に、自己が購入した資産を所有権留保によって所有権移転していない場合であっても、その留保された所有権は担保目的の形式的なものであり、実質的な資産価値の移転はあるといえることから、その資産は自己が保有するものといえる。 イ 他人の資産に対する資本的支出の場合 他人の資産に対する資本的支出であっても、その価値を実質的に保有するとみられる場合には、減価償却資産となり得る(耐通1-1-4参照)。すなわち、賃借した他人の土地や建物に資本的支出をした場合であっても、その価値が増加した部分を自己が使用収益し、かつ、その使用収益に関する何らかの権利性が認められるのであれば、自己の保有する減価償却資産に該当することになる。 裁判例においても、自己の事業の用に供している他人の資産につき、資本的支出があった場合には、仮にその資産を正当に使用する権限がなかったとしても、実際に使用収益しており、かつ、費用償還請求権などの権利を有している場合には、その実質的な価値を保有するものとして、自己が保有する減価償却資産に該当することが認められている(大阪高判昭和38年7月18日・税資37号795頁参照)。 これに対して、資本的支出によって価値が増加した部分に権利性があるとまでは認められず、その実質的な価値を保有するものではない場合には、繰延資産又は寄附金に該当することとなる。 なお、賃借建物に対する造作についても、以上と同様に解することができる(耐通1-1-3参照)。 次回は固定資産の取得価額について整理する。 (了)
#22(掲載号)
#木村 浩之
2013/06/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

交際費課税Q&A~ポイントを再確認~ 【第2回】「交際費に該当しない支出」

交際費課税Q&A ~ポイントを再確認~ 【第2回】 「交際費に該当しない支出」   公認会計士・税理士 新名 貴則   税務上の交際費等は、以下のとおり定義されている(措法61の4③)。 ただし、次に掲げる費用のいずれかに該当するものは除くとしている。 このうち②については次回以降に解説することとし、今回は①及び③について解説する。 まず①については、「交際費等」と「福利厚生費」の区分の問題である。 会社としては従業員に対する福利厚生のつもりで支出したものでも、そのすべてが税務上も福利厚生費として認められるとは限らない。つまり、会社としては福利厚生費のつもりでも、税務上は交際費等や給与に該当してしまう場合もある。 そこで、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用」は、税務上の交際費等には該当しない(福利厚生費になる)と規定されている(措法61の4③一)。 また、この他にも次のような費用は、交際費等ではなく福利厚生費として扱う(措通61の4(1)-10)。 しかし、やはりここでも「通常要する費用」の判断が必要になる。あくまで「社会通念上妥当な範囲の支出」であるかどうか、という基準で判断することになるので、判断が難しいケースも多い。 ひとつの判断材料として、社員旅行費用を福利厚生費として処理できる基準は以下のとおりとされる。 ただし、上記の条件を満たしている場合でも、旅行に参加しなかった者に金銭を支給する場合には、参加・不参加に関係なく全員に対して給与を支給したと判断されるので、注意が必要である。   次に③ついて、この「政令で定める費用」には、以下のものがある(措令37の5②)。 (了)
#22(掲載号)
#新名 貴則
2013/06/06
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第9話】「優良法人の税務調査(その3)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第9話】  「優良法人の税務調査(その3)」  公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   (前回のつづき) 午後からは、睡魔との戦いである。 伝票をめくる渕崎統括官の手が止まる。瞼が重く、ついつい心地よい眠りに誘われる。 渕崎統括官は、眠りから逃れるために、異常な力を込めて伝票をめくった。 田村上席は、源泉徴収簿からパートの氏名とその支給額を写している。 時計の針は、午後2時を示している。 テーブルを挟んで座っている会長は、先ほどから眼をつむっている。吉田税理士は目を開けているが、時々、眠気を払うように、頭を振っている。齋藤課長は、頭を下げて、完全に眠っている。耳を澄ますと、小さなイビキが聞こえる。 「・・・ところで・・・」 渕崎統括官が声を発する。 「平成23年分の領収書の綴りは、どこにありますか?」 急に声をかけられた齋藤課長は、驚いた様子で頭を上げた。 「・・・平成23年分、ですか?」 齋藤課長は、少しふらつきながら立ち上がると、ゆっくりと部屋の片隅に置かれている段ボールの方へ向かった。 「・・・すみませんが・・・」 今度は、田村上席調査官が吉田税理士に向かって、尋ねる。 「・・・この2人のパートの方、住所が記載されていないのですが・・・」 吉田税理士は立ち上がって、源泉徴収簿を覗いた。 「齋藤課長、この2人の住所・・・分かりますか?」 齋藤課長は、開いた段ボールから領収書の束をつかみながら、振り返る。 「・・・誰の住所ですか?」 「柴田さんと・・・宮崎さんですが・・・」 田村上席の声を聞いて、齋藤課長は頷く。 「住所を書いてませんか?・・・ちょっと調べますから待ってください」 齋藤課長は、段ボールの中から平成23年分の領収書の綴りを取り出し、渕崎統括官に渡してから、応接室を出ていった。 「・・・この人、途中入社ですが、年末調整をしていますね」 田村上席が、吉田税理士に確認する。 「前の会社の源泉徴収票があるのですか?」 吉田税理士が首をかしげる。 「そうですね・・・源泉徴収簿に添付してませんから、本人からもらっていないのでしょうね・・・」 吉田税理士が小さく呟く。 「もっとも、本人からは、所得のないことを確認していると思いますが・・・」 「そうですか。本人から源泉徴収票の提示がない場合、本人の責任を明らかにするため、会社が年末調整をするのではなくて、本人に確定申告させなければ」 田村上席は、眠そうな目をしている吉田税理士に少し強い口調で伝えた。 その時、会議室のドアが開いて、齋藤課長がメモを持って戻ってきた。 「すみません・・・経理の担当者が・・・源泉徴収簿に住所を記載するのを忘れていて・・・これが2人の住所です・・・」 齋藤課長は、田村上席にメモを手渡した。 齋藤課長が席に着くと、会議室は再び静寂に包まれた。 渕崎統括官の領収書をめくる音が、規則的に聞こえる。 時々、会長が咳をする。 「すみませんね・・・風邪ではないのですが、年のせいで喉が弱くなって・・・」 吉田税理士に向かって説明する。 「会長はもう退席されてもいいですよ」 吉田税理士は笑いながら声をかけた。 時計は、午後4時を示している。 会長は、いつも4時過ぎに帰宅することになっている。 渕崎統括官は、壁に掛かっている時計を見る。 附箋の付いている領収書の綴りが、渕崎統括官のテーブルの前に堆く積まれている。 「すみませんが・・・」 渕崎統括官が、齋藤課長に声を掛ける。 「この附箋をした領収書をコピーしていただけますか?」 「・・・この領収書ですね・・・」 齋藤課長は、4つの領収書の綴りを重ねて、運ぼうとする。 一つの綴りがずれて齋藤課長の腕から落ちそうなのを見て、吉田税理士が「1つ持ちましょうか」と声をかけた。 「いえ、大丈夫ですよ」 齋藤課長は、腕でズレを直しながら、領収書の綴りをコピー機のある2階に運んでいった。 再び、渕崎統括官は、時計を見た。 時計は、午後4時20分を示している。 「コピーを頂いたら、今日の税務調査は終わりたいと思っているのですが」 渕崎統括官は田村上席の方をチラッと見ながら、吉田税理士に告げた。 田村上席は既に、テーブルの上を片づけ始めている。 「コーヒーでもいかがですか」 会長が声をかける。 「いいえ、もう、帰りますから結構です。ありがとうございます」 渕崎統括官が礼を言う。 その時、吉田税理士が「・・・損失の処理の件ですが・・・」と渕崎統括官に話しかけた。 「・・・その件は、署で再度検討してからお答えしますので」 渕崎統括官は、机の上に置かれた電卓や筆記用具などを鞄に入れながら、そう答えた。 (つづく)
#22(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/06/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載22〕 会社分割によりヘッジ対象資産・ヘッジ手段を移転する場合の税務処理

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載22〕 会社分割により ヘッジ対象資産・ヘッジ手段を 移転する場合の税務処理   税理士 朝長 英樹 公認会計士・税理士 有田 賢臣     1 一般的なヘッジ取引の税務処理 平成12年度税制改正により、デリバティブ取引等を時価評価する制度(法法61の5)が創設されると共に、ヘッジ処理に関する制度が創設された。 このヘッジ処理は、いわゆる繰延ヘッジ処理(法法61の6)と時価ヘッジ処理(法法61の7)の2つとなっている。 本件においては、この2つのヘッジ処理のうち、法人税法61条の6(繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ)に定められている繰延ヘッジ処理の会社分割における取扱いが問題となる。 法人税法61条の5第1項においては、内国法人が行ったデリバティブ取引のうち、事業年度終了の時に未決済となっているものについて、みなし決済損益額を益金の額又は損金の額に算入するものとされているが、61条の6第1項においては、ヘッジ対象資産等に係る損失額を減少させるためにデリバティブ取引を行っている場合には、そのデリバティブ取引のみなし決済損益額のうち、ヘッジが有効である部分の金額(以下「繰延ヘッジ損益額」という)を益金の額又は損金の額に算入しないものとされている。 また、デリバティブ取引のみなし決済損益額のうち、ヘッジが有効でない部分の金額(以下「ヘッジ損益額」という)は、当該事業年度において、益金の額又は損金の額に算入し、翌事業年度(注)において、損金の額又は益金の額に算入することによって戻入処理が行われる(法令121の5②)。 (注) この戻入処理の時期については、法人税法上、特に定めは設けられていないが、有効性判定を期中に行うことがあること等からすると、翌事業年度の期首において行うものと解するべきである。   2 適格分割でヘッジ対象資産とヘッジ手段のデリバティブ取引を移転する場合の取扱い (1) 分割法人 適格分割によってヘッジ対象資産とヘッジ手段のデリバティブ取引を移転する場合には、まず、その適格分割の直前に有効性判定を行い、みなし決済損益額を「繰延ヘッジ損益額」と「ヘッジ損益額」に区分することが必要となる。 「繰延ヘッジ損益額」に関しては、分割法人において益金の額又は損金の額への計上を行わず(法法61の6②、法令121①)、含み益又は含み損の状態で分割承継法人に引き継ぐこととなる。 また、「ヘッジ損益額」に関しては、分割法人において益金の額又は損金の額に算入され(法令121の3④)、分割承継法人において戻入処理が行われる。改めて言うまでもないが、分割法人の分割事業年度の翌事業年度においては、この戻入処理が行われることはない(法令121の5②括弧書)。 (2) 分割承継法人 適格分割によってヘッジ対象資産とヘッジ手段のデリバティブ取引を分割法人から分割承継法人に移転する場合には、ヘッジ処理を分割法人から分割承継法人に引き継ぐ状態とする措置が講じられている。 適格分割により、分割承継法人がヘッジ対象資産と共にヘッジ手段のデリバティブ取引の移転を受ける場合には、その分割承継法人は、そのデリバティブ取引に係る帳簿要件を満たしているものとみなされる(法法61の6③)。 また、分割承継法人が適格分割後に「繰延ヘッジ損益額」を計算するに当たっては、分割法人において行った直近の有効性判定におけるデリバティブ取引の利益額又は損失額を用いることとされている(法令121の3④括弧書)。 上記1においても述べたが、分割法人の分割事業年度に計上された「ヘッジ損益額」に相当する金額については、分割承継法人の分割事業年度において戻入処理が行われる(法令121の5③)。 【設例】 〈会計上の仕訳〉 ① 分割法人(当社) 単独新設分割により子会社を設立した場合の分割法人の会計処理は、共通支配下の取引として処理される(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下「企業結合指針」)260項)。 資産及び負債の適正な帳簿価額を基礎として移転の処理が行われるが、その帳簿価額には、時価(又は再評価額)をもって貸借対照表価額としている場合の当該価額及び対応する評価・換算差額等の各内訳科目(その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益及び土地再評価差額金)の額が含まれ、原則として、そのまま引き継ぐこととされている(企業結合指針408項)。 移転するデリバティブ取引に係る分割期日の前日の帳簿価額(前期末の貸借対照表価額)が40、対応する繰延ヘッジ損益の帳簿価額が40である場合の仕訳は以下のとおりとなる。 なお、法人税法上の取扱いと異なり、移転するデリバティブ取引を会社分割直前の時価に評価替えすることや、会社分割の直前に有効性判定を行うことは想定されていないと思われる。 ② 分割承継法人(S社) 単独新設分割により子会社を設立した場合の分割承継法人の会計処理は、共通支配下の取引として処理される(企業結合指針261項)。分割法人から受け入れる資産及び負債は、分割期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。   〈税務上の仕訳〉 ① 分割法人(当社) まず、有効性判定の結果に基づき、移転するデリバティブ取引のみなし決済損益額について、「繰延ヘッジ損益額」と「ヘッジ損益額」に区分し、後者を益金の額として計上する。 次に、適格分割(分社型分割)による資産及び負債の移転の処理を行う(法法62の3①)。 適格分割(分社型分割)により交付を受けた分割承継法人(S社)の株式の取得価額は、その直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額となる(法令119①七)。この移転資産・移転負債には、デリバティブ取引のようなオフバランスの「資産」や「負債」も含まれる。 ② 分割承継法人(S社) 適格分割(分社型分割)により移転を受けた資産・負債の取得価額は、その適格分割(分社型分割)の直前の分割法人における帳簿価額となる(法令123の4)。資本金等の額については、分割法人の適格分社型分割の直前の移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算した金額に相当する金額だけ増加する(法令8①七)。上記①の場合と同様に、この移転資産・移転負債には、デリバティブ取引のようなオフバランスの「資産」や「負債」も含まれる。 分割法人において益金の額に算入された「ヘッジ損益額」は、分割承継法人において損金の額に算入することにより戻入処理が行われる。   3 非適格分割でヘッジ対象資産とヘッジ手段のデリバティブ取引を移転する場合の取扱い 分社型分割により完全子会社を新設する場合には、適格要件を満たすことが多いと思われるが、会社分割後に分割承継法人の株式を譲渡することが予定されているような場合には、非適格分割となる。 非適格分割においては、分割法人に適用されていた繰延ヘッジ処理は分割承継法人に引き継がれず、移転するヘッジ対象資産とデリバティブ取引はいずれも時価で譲渡されたものとして処理される(非適格分割によりデリバティブ取引が時価で譲渡される場合の税務処理は、本誌No.17掲載の「会社分割によりデリバティブ契約を移転する場合の税務処理」を参照のこと)。 (了)
#22(掲載号)
#有田 賢臣
2013/06/06
リース 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第8回】リース会計①「オペレーティング・リース取引の会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第8回】 リース会計① 「オペレーティング・リース取引の 会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① ×1年4月30日(第1回支払日) ② ×1年5月31日(第2回支払日) ③ ×6年3月31日(第60回支払日) 〈会計処理の解説〉 リース取引とは、企業が必要とする機械設備等をリース会社が購入し、これを企業に賃借する取引をいいます。 リース取引の概要を図で示すと、以下のようになります。 リース取引は、法形式的には機械設備等の賃貸借取引ですが、実質的にはファイナンスを利用した機械設備等の購入という金融取引の性質を有しています。 リース取引が金融取引、賃貸借取引のいずれに該当するかは、リース契約の内容から実質的に判断する必要があります。 そこで、会計上は、一定の判断基準に基づき、リース取引を以下のように分類し、異なる会計処理を行うこととしています。 (1) ファイナンス・リース取引 次の要件を満たすリース取引のことをいいます。 (2) オペレーティング・リース取引 ファイナンス・リース取引以外のリース取引をいいます。したがって、上記の2要件のうち、いずれか1つでも満たしていない場合、当該リース取引はオペレーティング・リース取引となります。 ファイナンス・リース取引は、賃貸借取引の性質よりも、金融取引の性質の方が強い取引です。したがって、会計上はこれを表現するために、「通常の売買取引に係る方法」に準じて会計処理を行います。 一方、オペレーティング・リース取引に該当する場合には、法形式に則って、「通常の賃貸借取引に係る方法」に準じて会計処理を行います。 以上を踏まえ、本事例の会計処理を検討してみましょう。 本事例におけるリース取引は、リース契約の条件からオペレーティング・リース取引と判定されます。なぜなら、リース期間中に解約不能期間がないためです。これは、先ほど示した要件のうち、「解約不能」の要件を満たしていないことになります。 オペレーティング・リース取引に該当する場合には、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行います。そのため、工作機械Aをリースしたことにより発生したリース料を、発生の都度、費用として認識する処理を行うこととなります。 本事例におけるリース取引は、オペレーティング・リース取引と判定されますが、契約条件によっては、ファイナンス・リース取引と判定される場合もあります。同じ工作機械をリースで調達したとしても、契約条件によってオペレーティング・リース取引にもファイナンス・リース取引にもなりうるのです。 次回は、ファイナンス・リース取引に該当する場合の会計処理方法を解説します。 (了)
#22(掲載号)
#大川 泰広
2013/06/06
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

林總の管理会計[超]入門講座 【第4回】「間接費の考え方(その2)」

林總の 管理会計[超]入門講座 【第4回】 「間接費の考え方(その2)」   公認会計士 林 總   (了)
#22(掲載号)
#林 總
2013/06/06
会計 税効果会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

税効果会計を学ぶ 【第11回】「将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第11回】 「将来解消見込年度が長期にわたる 将来減算一時差異」   公認会計士 阿部 光成   前回に引き続き、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号。以下「監査委員会報告第66号」という)を適用する際の留意点について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異 将来減算一時差異には、棚卸資産の評価減や賞与引当金のように(いずれも計上時には税務上、損金算入できないものとする)、スケジューリングの結果、一般に、短期間で解消されるものがある。 一方、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、将来解消年度が長期となる将来減算一時差異も存在する。 将来解消年度が長期となる将来減算一時差異は、企業が継続する限り、長期にわたるが将来解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有するものである(監査委員会報告第66号5(2))。 監査委員会報告第66号は、将来解消年度が長期となる将来減算一時差異については、会社分類(例示区分)に関連付けて次のように規定している(監査委員会報告第66号5(2))。   Ⅱ 税効果会計に関するQ&A 1 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異のスケジューリング 「税効果会計に関するQ&A」のQ1では、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に関して、会社分類(例示区分)③及び④(但書)の場合、例えば、退職給付引当金について5年間(合理的な見積可能期間)のスケジューリングを行った上で、その期間を超えた年度であっても、最終解消年度までに解消されると見込まれる退職給付引当金に係る繰延税金資産については、回収可能性があると判断できると述べられている。 「5年間(合理的な見積可能期間)のスケジューリングを行った上で」と述べられているので、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異であったとしても、まず5年間(合理的な見積可能期間)についてはスケジューリングを行うことが必要であり、その上で、その期間を超えた年度であっても、最終解消年度までに解消されると見込まれる将来減算一時差異に係る繰延税金資産については回収可能性があると判断できることになると解される。 2 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異 役員退職慰労引当金については、就任している役員の現在の年齢などによっては、役員を退任し実際の支給が行われるまでに相当の長期間を要することがある。 役員退職慰労引当金についても、監査委員会報告第66号の将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に該当するのかどうかの論点が考えられる。 これについて、「税効果会計に関するQ&A」のQ1では、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、スケジューリングの結果に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断するものであり、退職給付引当金や建物の減価償却超過額のように将来解消見込年度が長期となる将来減算一時差異には該当しないと述べられている。 このため、役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産の回収可能性については、これまでの役員在任期間の実績や内規などに基づいて役員の退任時期を合理的に見込み、当該役員の退任時期に将来減算一時差異が解消され、税金負担額を軽減できる範囲内で、繰延税金資産を計上することとなる。 3 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に関する限定的な取扱い 監査委員会報告第66号では、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異として、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異を挙げている。 本来、繰延税金資産の回収可能性は、一時差異等のスケジューリングに基づいて判断すべきものである。 これに対して、退職給付引当金や減価償却については次の性質を持っている。すなわち、退職給付引当金は、従業員の退職金に関する制度設計に基づいて計上され、基本的に、会社の意思による影響を受けないで、長期間にわたって一時差異等の解消が性格上予定されているものである。また、減価償却費は、会社の採用した会計方針(減価償却方法)に基づいて、計画的・規則的に実施することにより、長期間にわたって、規則的に一時差異等の解消が予定されているものである(手塚仙夫『税効果会計の実務(第7版)』(清文社、2011年6月)57ページ参考)。 前述のとおり、本来、繰延税金資産の回収可能性は、一時差異等のスケジューリングに基づいて判断すべきものであるが、このような退職給付引当金や減価償却の性質に鑑みて、監査委員会報告第66号はこれらについて特例的な取扱いをしたものと解されるので、退職給付引当金や減価償却についての限定的な例示と解すべきものと考える。 (了)
#22(掲載号)
#阿部 光成
2013/06/06
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

年次有給休暇管理上の留意点 【第1回】「年次有給休暇の基本」

年次有給休暇 管理上の留意点 【第1回】 「年次有給休暇の基本」   社会保険労務士 菅原 由紀   ◆年次有給休暇の基本 「休暇」とは、労働契約において労働義務がない日をいう「休日」とは違い、労働契約上の労働日について、その労働提供義務を免れるものをいう。 休暇には法律で定められている「法定休暇」と使用者が独自に就業規則等で定めた「法定外休暇」がある。 年次有給休暇(以下、「年休」という)は、付与が義務付けられている「法定休暇」の一つである。 《休暇の種類》 使用者は労働者に対して、毎年決められた日数の年休を与えなければならない。 年休は、雇入日から6ヶ月継続勤務し所定労働日の8割以上出勤した者に対して、最初は10日与えられる。 その後1年ごとの勤務年数に応じて8割以上出勤する条件を満たせば、雇用形態にかかわらず、条件を満たした労働者に対して所定の日数が与えられるものである。したがって、パート・アルバイトにも与えなければならない。 出勤率の計算にあたっては、年休の取得日、産前・産後休業、育児・介護休業期間、業務上の負傷又は傷病のため休業した期間は出勤したものとみなす。また、遅刻・早退した日でも1日出勤したものとされる。   ◆年休の付与日数 年休は、以下の日数を付与することになる。 《年休の付与日数(基本)》 週所定労働時間が30時間未満で週の労働日数が4日以下又は年間所定労働日数が216日以下の者については、比例付与の規定がある。 《短時間従業員の比例付与日数》   ◆年休の単位 年休は1日単位が原則であるが、半日単位で与えることは通達により認められている。また、平成20年の労働基準法の改正によって、労使協定を締結すれば年5日の範囲で時間単位で与えることができるようになった。 年休を取る権利は、2年で時効によって消滅する。 年休は、労働者が請求した時季や日数を与えることが原則だが、会社の正常な運営を妨げる場合、使用者は労働者が申し出た時季を変更することができる。   ◆年休の買上げ 年休は現実に使用者が労働者に与えなければならないものであり、事前にその買上げを予約し、これにより年休の日数を減らしたり、請求された日数を与えないことは、法律違反である。 ただし、次の場合は買上げが認められている。   ◆年休の賃金 年休期間中の賃金は、次の方法のうち、会社があらかじめ定めたいずれかの方法で計算する。 (イ)と(ロ)は就業規則等で、(ハ)の場合は労使協定を締結した上で、就業規則等によって定める必要がある。 この場合の賃金の選択は、労働者によって取扱いを変えたり、会社の恣意によって、その都度選択するといった性格のものではなく、就業規則等によって方法を定めた場合は、必ずその定められた方法で賃金を支払わなければならない。   ◆年休の使途 年休の取得理由については、労働者の自由に委ねられている(自由利用原則)ため、使用者は労働者が年休の取得を申し出てきた場合に、その使途を尋ねることは許されないというのが原則である。 ただし、使用者は上記のように「時季変更権」があることとの関係で、使用者が「休暇の使途を考慮して時季変更権の行使を控えようとする場合」などには、労働者に対して年休の使途を尋ねることは許されるとされている。   ◆年休取得による不利益取扱い 使用者は、年休を取得した労働者に対し、賃金の減額その他不利益な取扱いをすることは禁止されている。 例えば、賞与を実出勤日数に応じて支給するため、年休を通常の欠勤と同じようにみなして賞与を査定したり、年次有給休暇を取得した月の皆勤手当を減額又は不支給にすることは不利益な取扱いになる。 逆に取得しないことで有利な取扱いをすることも、年休の取得意欲を削ぐことになるため、不利益な取扱いに含まれる。 (了)
#22(掲載号)
#菅原 由紀
2013/06/06
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〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第6回】「産後8週間経過後の対応(3)」―子の看護休暇・次世代育成支援―

〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第6回】 「産後8週間経過後の対応(3)」 ―子の看護休暇・次世代育成支援―   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回に引き続き、子を養育する従業員に対する育児・介護休業法による制度のポイントと企業の対応策について解説し、その後、次世代育成支援対策推進法(本文中は「次世代法」とする)について触れていくこととする。   2 子の看護休暇 (1) 制度の概要 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、1年に5日(子が2人以上の場合は10日)まで、病気・けがをした子の看護又は子に予防接種・健康診断を受けさせるための休暇を取得することができる。 (2) 対象者から除外される従業員 日々雇用される者及び労使協定により対象外とすることを定めた次の従業員については、対象者から除外することができる。 (3) 企業側の注意点 ① 休暇の日数 「5日(又は10日)」は1年度における取得可能日数であり、「1年度」は、別段の定めをしないときは、毎年4月1日から翌年3月31日となる。 管理の都合(例えば年次有給休暇についても基準日を設け、一斉に更新をしている)により、4月1日とは異なる起算日を設定するときは、就業規則に規定し、従業員に周知をしておく必要がある。 ② 年次有給休暇との関係 「子の看護休暇」は、年次有給休暇とは別に与えなければならない。 したがって、年次有給休暇として10日付与している従業員については、さらに5日(又は10日)の「子の看護休暇」を与えることとなる。 なお、年次有給休暇とは異なり、有給・無給のいずれとするかは労使間で定めることができる。 無給とする場合には、事後トラブルを回避するためにもその旨を就業規則に明記しておくとよい。 ③ 取得手続 子の看護休暇の申出は、次の事項を会社に伝えて行う。 取得手続は、会社側が最も気を付けておきたい点である。 育児・介護休業法に定められた育児休業や時間外労働の制限等は、1ヶ月前の申出など事前手続を要するが(前回参照)、子の看護休暇はいつまでに手続をすべきであるか、法令の定めがない。 つまり、当日の朝に連絡があった場合でも取得を認めることとなる。 制度の趣旨は子の傷病時の看護等のための休暇であるから、急病にも対応できるものが望まれ、当日の電話による口頭の申出でも取得を認め、書類の提出は事後でも差し支えない扱いとすることが必要とされている。 このため、子を養育する従業員がいる部門では、フォロー体制について検討をし、当日の急な申出があっても業務の進行への影響を最小とするルール作り(例:業務情報の共有により他者もサポートできる仕組みを構築する等)を行っていくとよい。 なお、この体制整備については子の看護休暇を取得する従業員のためとして行うのではなく、子を養育していない従業員に対しても、自身が急病により欠勤をするとき、家族の慶弔休暇等により業務を離れる必要があるときなど、すべての従業員に関係のある事例を想定しながら制度設計をしていくと、より理解を得やすく、現実的なフォロー案が従業員側から出ることも期待できるであろう。   3 次世代育成支援 (1) 制度の概要 次の世代を担う子どもたちが健やかに生まれ育つ環境を作るため、次世代法が制定され、101人以上の従業員を雇用する企業は、「一般事業主行動計画」(以下「行動計画」)を策定し、都道府県労働局に届出、公表、従業員への周知が義務付けられている。 (2) 行動計画の策定 行動計画では、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、計画期間、目標、目標達成のための対策及びその実施時期を定めなければならない。 なお、これから行動計画を策定しようとする場合は、下記【参考】の「両立支援のひろば(厚生労働省)」に公開されているものを参照しながら進めていくとよいであろう。 企業規模、業種、地域を絞って検索することができるため、各社に合ったものを定めるときには役立つものと思われる。 また、同サイトには「両立診断サイト」も設けられており、質問に回答をしていくことで、他企業の平均と自社の現状との比較をした診断結果をグラフで確認することも可能である。 この連載の初回に触れた通り、従業員優遇の福利厚生としてのみではなく、重要な人的資源の活用のための経営戦略の一環として両立支援に取り組んでいくためにも、同業他社の現況も把握をしながら進めていくことは意義のあることといえる。 (3) 制度上のメリット 上記の行動計画により両立支援の取組みを進めることは、従業員の働きやすさの向上・職場への定着率のアップ・働く意欲の向上にもつながり、これと相まって、長期的には企業の成長と生産性の向上をもたらすことが期待できる。 その他の優遇措置として、税制上のものがある。 一定期間内に取得・新築・増改築をした建物等について、行動計画の認定を受けた日を含む事業年度において、普通償却限度額の32%の割増償却ができる。 ただし、平成26年3月31日までの期間内に始まるいずれかの事業年度において次世代法の認定を受けること、という期限がある点に注意を要する。 詳細は【参考】の資料を確認していただきたい。   4 おわりに 両立支援策の設計においては、「他の従業員の理解を得ながら進めていくこと」が重要である旨を当連載の中で幾度か述べてきた。 今回の記事中でも触れたが、やむを得ず急な休みを取得するケースは、子を養育する従業員だけではなく、他の従業員についても起こりうることである。 「私には関係ない」と考える各従業員にも当事者意識を持たせること、一部の社員をターゲットにした制度ではなく、全従業員が何らかのメリットを享受できると思われる制度設計をしていくとよいであろう。 次回は苦情処理等について触れていくこととする。 (了)
#22(掲載号)
#佐藤 信
2013/06/06
労務・法務・経営 法務

親族図で学ぶ相続講義 【第6回】「資産家の相続」

親族図で学ぶ相続講義 【第6回】 「資産家の相続」   司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司     [被相続人甲野太郎 相続関係説明図]   資産家の相続の場合には、一般庶民にはない苦労があります。 今日はそのあたりの事情で、よくある話について述べましょう。 1 乙山桜子に相続させたくないとき だいたい、2つくらいパターンがあります。 ひとつは、いわゆる「農家の相続」というやつです。 農家では、田んぼを遺産わけすることを“たわけ”(田分けの意を兼ねる)といって嫌う傾向があります。 田んぼを兄妹で分けると、経営規模が縮小して共倒れになってしまうという考え方が根本にあります。 また、乙山桜子は、すでに他家に嫁ぎ、そのときに財産を分けたし、その後も援助をしたのだから相続には口出しするなという意味もあります。 次に、乙山桜子が何らかの問題を抱えているケースがあります。 だいたい資産家というのは、入るものもデカイが、出る方も大きいので、失敗すると負債もかさむのです。 で、乙山花子が債権者に追われているとすれば、これに相続をさせると甲野家の資産が目減りする(債権者に持っていかれる)ことになります。 こういう場合に、甲野太郎が生前に打っておける手をご紹介します。 まず、遺言を書けばよろしいです。 つまり、「全財産を長男の甲野一郎に相続させる」と書いておけばいいのです(公正証書遺言がベスト)。 しかし、これだけでは万全とはいえません。 というのは、乙山桜子には遺留分があるのです。 この事例では、乙山花子は、甲野太郎の全財産のうちの4分の1を遺留分として、遺言の効力を減殺することができるのです(遺留分減殺請求権)。 そこで、この懸念を払しょくするために、乙山桜子に「遺留分の放棄をさせる」という手があります。 遺留分というのは、被相続人(甲野太郎)の生前に放棄することができるのです。 この条文にあるように、乙山花子に家庭裁判所に向かわせ、そこで遺留分放棄の許可を受けます。 これによって、乙山花子は、甲野太郎の死亡後に遺留分減殺請求権を行使することができなくなります。 以上に述べた方法、つまり、遺言と生前の遺留分放棄の方法を併用すると、甲野太郎は自由にその遺産を処分することができるようになります。   2 甲野浩に相続させたいとき 資産家ならではの悩みは、相続税ですね。 相続税は、相続の発生が課税原因ですから、この問題を根本的に解決するには相続の回数を減らすしかありません。 そこで、「孫を養子にする」という手法がとられることがあります。 今日の事例の相続関係図では、甲野太郎の子の甲野一郎が存命ですから、孫の甲野浩は甲野太郎を相続しません。 しかし、甲野太郎が甲野浩を養子にすれば、甲野浩は相続人となります。 養子というのは、年長養子(養子の年が養親の上のケース)や尊属養子(甥が叔父を養子にするなど)が禁止される程度でありまして、孫を養子にする、弟や妹を養子にするなど、かなり柔軟に養子縁組をすることができます。 このように孫を養子にして、孫に相続させることによって、「親→子→孫」という2回の相続をする場合に比べて、相続の回数を1回減らすことができるのです。 (了)
#22(掲載号)
#山本 浩司
2013/06/06

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