人材育成とネットワーク構築を国際化する
村井
税理士などの資格は、その国でしか通用しません。例えば日本企業がタイに行ってタイの税の問題があった場合に、日本の税理士は何もできませんね。そうすると、タイ国内にいて、日本税法を理解し、かつ、税理士業務に近いことをやっている人とネットワークを組むようなことが必要になります。ところが、そういう人はほとんどいないでしょう。
ですから、海外から人を日本に呼んで、奨学金を与えて日本の税法を学んでもらって、税理士の資格を取らせてもいいですよね。それで本国に帰って、日本企業がそちらに進出したときに日本の税理士とネットワークを組むとか。
川田
なるほど。おっしゃるとおりですね。
村井
税理士ががんばって国際課税をやることで、職域なり守備範囲が広がって仕事が増えていった場合でも、タイやインドの税法まで全部理解するなんて無理です。相手の国で日本とつなぐことができるような人とのネットワークを構築したほうがいいと思うんですよね。
川田
今はインターネットがありますから、ネットワークの構築はやりやすいはずなんですね。国内でもそういうものが必要ということなんでしょうね。
村井
近畿税理士会で国際課税の話をしたときに、いろいろ質問を受けたものだから、どう言ったかというと、「とにかく、すぐに使えるかどうかは別として、ここに集まった先生方は少なくとも関心が非常に高いんだろうから、まずは仲間同士で勉強を始めたらどうですか。そこからやってください」と申し上げました。
川田
おそらく先生方としても、「こういう問題は彼が詳しいからちょっと聞いてみよう」とか、そういうネットワークがあるといいなと思っているのでしょうね。
村井
そうなってほしいですね。
流れは変わりつつある
川田
国際課税もG20サミットでテーマとして取り上げられたBEPS(税源浸食と利益移転)の議論に代表されるように大きく変わろうというところですから、ここをチャンスと捉えるかどうかですよね。
村井
近畿税理士会で話をするときに、テーマが国際課税だから、税理士の先生方が来てくれるか心配だったんです。ところが結構来てくれた。あいだに休憩を挟んでも、今までの講演会はけっこう帰られてしまうんですが、そのときはほとんど帰らなかった。意外と大丈夫だなと。だから少しずつは変わってきているようにも思います。
川田
そうなんですね。危機意識はあるのでしょうね。必要に迫られてきているという。
村井
それはあると思います。ただ、方法論が分からないようで。
川田
最近の例で言いますと、国外財産調書とか出国税とか、クライアントの中にもそれに関係している人がいるだろうと思うんです。若手の非常にやる気のある人たちは一旦それらの相談を受けて、それで例えば私なんかに電話してくる人もいる。その姿勢が大事ですね。
先ほど先生が言われたように、丸投げで「私は駄目」とかではなくて、「分かりました」といったん受けてから、「これは難しい話だから、専門家にも相談してみます」とちゃんと言えば、クライアントも「ああ、がんばってやってくれているな」と。そうすれば信頼にもつながりますし、その先生にとっての糧にもなりますよね。
村井
そうですね。ただ、関西では相談するところもあまり近くにないんですね。それに、関西に本社のある企業も、そういう機能はもう東京へ移してしまっている。
川田
東京の一極集中は、そういう面まで進んでいるんですね。
苦労したことは財産に
川田
先生の今の教え子の方で、世界を目指すというか、そういう高みを目指して積極的に学んでやっていこうという方はいらっしゃいますか。
村井
IFAも今、外国語は英語だけでやっているでしょう。以前はドイツ語、英語、フランス語、スペイン語と4つあったんですね。英語に統一したのは、それほど昔の話ではありません。このように今では租税法の世界は英語が共通語とされているけど、研究者の世界は必ずしもそうではない。
川田
それはどういうことですか。
村井
例えば私の教え子たちはみんな、アメリカではなくできるだけドイツに行かせているんです。英語は当たり前だ、ドイツ語もできないとダメだぞと。
たしかに、現在の最近情報はほとんど英語で手に入る。つまり研究者同士の話も英語でできるし、ペーパーも、ドイツ税制改正でも英語で訳されたものが結構あるんです。ただし、古いものはダメです。英語のものがない。ドイツの連邦財政裁判所の判例は宝の山ですが、英語では読めない。
私は今、明治20年の所得税法を中心に研究しているのですが、その頃の税法のいろいろな資料やプロイセンの税法などは、花文字のドイツ語で書いてあったりして、読むのに大変苦労します。ちょっと古い資料を読もうと思ったら、英語は全然使えない。
ですから、実務家の場合には英語だけで問題ないかもしれませんが、学問をやる人は、ドイツ語とかフランス語ぐらいはやっておけと言ってるんです。
今ちょうど教え子が1人ミュンヘンに行っていますが、彼女もドイツ語で大変苦労してるようです。
川田
先生のご指導の下、現地で頑張ってらっしゃるんですね。
村井
ものすごく苦労してる。だけど、やったことは財産になる。
川田
将来的にはすごい財産になるでしょうね。
村井
民法、刑法の研究者は黙っていてもドイツに行くんですね。法典そのものがあそこから入っているわけですから。だけど租税法の世界は、最先端はアメリカです。けれども、長い歴史を見たときにはドイツ法の良さがある。体系や解釈については非常に精緻なものを持っていますから。
日本の将来のためにも、ドイツへも行くことを薦めているのです。
川田
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(2015年2月27日東京都内にて収録)
(了)