《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書に係る改正通達を公表 ~端数処理の取扱いにつき意見公募を受け改正案から一部変更~ 税理士 柴田 健次 令和5年8月1日、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」の一部改正(案)が公表され、意見公募(パブリックコメント)が行われました。そして意見公募の結果を踏まえ、令和5年9月28日付で(ホームページ掲載日は令和5年10月6日)法令解釈通達が公表されました。 1 改正の概要 取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等について、表示単位未満の金額に係る端数処理の取扱いが改正されます。例えば、類似業種比準価額の計算における1株当たりの資本金等の額が0円となる場合には、現状においては類似業種比準価額が0円となり、株式価額が適切に反映されないため、端数処理の見直しが行われることになりました。 2 改正の時期 令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されます。 3 意見公募の改正案から変更された評価明細書の記載方法等 意見公募(パブリックコメント)の結果、寄せられた意見には下記のものがあり、この点について評価明細書の記載方法等が変更されました。 上記の結果として、各明細書に記載されていた端数処理の取扱いは、評価明細書の記載方法等の1頁目のまた書き及び(注1)に集約がなされ、小数点未満の端数処理については、同頁の(注2)において課税時期基準と直前期末基準の区分を設けて、内容が整理されました。少数点の端数処理に関する記載ぶりについては、意見公募時の改正案では、「株式数の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨て」とされていましたが、意見公募の結果、「株式数の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨て」に変更されました。 また、自己株式がある場合には、その自己株式数を控除した株式数の桁数を基に端数処理が行われることになりました。 なお、評価明細書の記載方法等の変更ではありませんが、意見公募の結果を受けて、通達前文中の「合名会社等」は「持分会社」に変更されました。 【「取引相場のない株式(出資の評価明細書)の記載方法等」の1頁目一部抜粋】 4 改正前の端数処理で計算した場合 例えば、下記の前提事項及び第4表、第5表の記載がある場合において、乙の相続により丙が株式を相続した場合には、第3表において原則的評価方式による価額が0円、配当還元方式による価額も0円となり、株式の価額が0円となるため、丙が取得した株式評価は0円となります。 ◆前提事項 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第3表(一部抜粋)〕 5 改正の内容 (1) 計算結果により0円となった場合に分数又は課税時期における発行済株式数の桁数で端数を処理(課税時期基準) 第5表における1株当たりの純資産価額や1株当たりの純資産価額の80%相当額の算定、第3表における中会社又は小会社の1株当たりの価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の課税時期における発行済株式数(第1表の1①の株式数(評価会社が課税時期において自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの))の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨てたものを記載します。 第5表の⑪欄、⑫欄の金額及び第3表の⑥欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 課税時期の発行済株式数は35,000,000株であるため、8桁未満の端数を切り捨て (※2) 分数表示 28,150,000/35,000,000 × 8/10 = 225,200,000/350,000,000 小数点表示 0.80428571 × 8/10 = 0.64342856 (※3) 分数表示 426/1,750(第4表の㉖(下記(2)参照))× 0.5 + 225,200,000/350,000,000 × 0.5 = 426/3,500 + 225,200,000/700,000,000 = 310,400,000/700,000,000 小数点表示 0.24342856(第4表の㉖(下記(2)参照))× 0.5 + 0.64342856 × 0.5 = 0.44342856 (2) 計算結果により0円となった場合に分数又は直前期末における発行済株式数の桁数で端数を処理(直前期末基準) 第4表における類似業種比準価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や1株当たりの比準価額の算定、第3表における配当還元価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や配当還元価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の直前期末における発行済株式数(第4表の②の株式数(評価会社が直前期末において自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの))の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨てたものを記載します。 第4表の④欄、第4表の㉖欄の金額、第3表の⑬欄の金額及び第3表の⑲欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 直前期末の発行済株式数は35,000,000株であるため、8桁未満の端数を切り捨て (※2) 分数表示 14.2 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 426,000,000/1,750,000,000 = 426/1,750 小数点表示 14.2 × 0.85714285/50 = 0.24342856 (※3) 分数表示 2.5/0.1 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 750,000,000/1,750,000,000 = 75/175 小数点表示 2.5/0.1 × 0.85714285/50 = 0.42857142 上記により原則的評価方式による価額は310,400,000/700,000,000(0.44342856)円(第3表の⑥)となり、配当還元価額方式による価額は75/175(0.42857142)円となり、丙が取得した株式の評価金額は、2,142,857円(5,000,000株×75/175(0.42857142)円)となります。 6 別表ごとの改正の端数処理 今回の改正で端数処理に影響がある部分を評価明細書ごとに表示すると、下記の通りとなります。課税時期基準と直前期末基準で、使い分けがされていますので、課税時期と直前期末において発行済株式数(自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの)が異なる時には注意が必要となります。 〔第3表〕 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第6表〕 〔第7表〕 〔第8表〕 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第32回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び建物等の 取得等の日の判定」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和5年5月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社の株式を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中にA土地があります。A土地は令和2年に古家付きの土地として購入しており、その後、古家の取壊しを行ったうえで、アスファルト舗装を行い、駐車場の用に供しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となります。 A土地購入等に係る時系列及び詳細は、下記の通りとなります。 上記の場合に、甲株式会社の第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地、構築物の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、令和2年から令和5年までA土地の路線価に変動はないものとします。 また、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等(A土地)」及び「3年以内取得家屋等(構築物)」の内訳は下記の通りとなります。 (※) 簡便的な処理方法として、「212,316千円」としての計上も認められます。 ◆ ◆ ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。 ② 取得等の日の判定 財産評価基本通達185括弧書における課税時期前3年以内に取得又は新築した場合における「取得等の日」の定義は、明らかにされていませんが、平成11年11月30日の東京地裁判決(TAINSコード:Z245-8540)では、旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4(相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例)に係る「取得等の日」の意義について、下記の通り判示しています。 上記の旧措置法69条の4は、昭和63年12月に創設され、平成8年3月の税制改正において廃止されたものとなりますが、この規定は、昭和末期のバブル期において相続開始前の土地等及び家屋等を取得することによる相続税対策が横行したことを背景として、個人が相続開始前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等について取得価額で課税するといった内容となります。この旧措置法69条の4は、あくまでも個人の取得に限られていましたが、法人においても同様の租税回避行為があったため、取引相場のない株式においても平成2年8月の財産評価基本通達の改正で課税時期前3年以内取得の取扱いが定められました。 なお、旧措置法69条の4は、地価高騰時においては「取得価額 < 時価」となり課税上の問題はありませんでしたが、反対に地価下落時においては、「取得価額 > 時価」となり、課税処分が憲法29条に規定する財産権の侵害に当たることになります。平成7年10月17日の大阪地裁判決(TAINSコード:Z214-7593)では、相続税の申告において、相続開始前3年以内に取得した土地等をその取得価額で評価するという特例は、地価急落時のような著しく不合理な結果を来すことが明らかな場合には適用できないとして納税者の主張を一部認めた事例となります。このような背景から、前述のとおり旧措置法69条の4は、平成8年3月の税制改正において廃止されましたが、財産評価基本通達185括弧書の課税時期前3年以内取得の取扱いは、廃止されませんでした。これは、財産評価基本通達185括弧書の評価方法は、取得価額ではなく、通常の取引価額(時価)と定め、あくまでも時価評価の観点から肯定され、旧措置法69条の4のような地価下落時においても財産権の侵害には当たらないためと考えられます。 旧措置法69条の4の規定と評価通達の取扱いを比較すると下記の通りとなります。 上記の通り、評価方法に差異はあるものの、取得時期や基本となる適用対象財産(土地等及び家屋等)については、同じとなります。 そして、旧租税特別措置法関係通達69の4-3は、「取得等の日」について、下記の通り規定しています。 なお、所得税においては、譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期は、原則として資産の引渡しがあった日とし、例外として契約の効力発生日を認めています(所基通36-12)。ただし、相続税における取得は、所有権の取得を意味するため、売買契約日ではなく、引渡しが行われた日が取得日となります。 通常の売買契約においては、代金決済の日を資産の引渡日とされていることが実務上の慣行となりますが、その場合には、代金決済の日が取得日になります。本問の場合においても、売買契約書に売主は買主に売買代金全額の受領と同時に引渡しを行う旨が記載されていますので、残代金を支払った令和2年5月15日が土地の取得日となります。 ③ 本問の場合の当てはめ ■A土地の相続税評価額に計上するべき金額 直前期末基準を採用している場合においても相続開始を起算日として3年間遡りますので、令和2年5月1日から令和5年5月1日までの間に土地等及び家屋等を取得していれば、対象となります。本問の場合には、令和2年5月15日に土地を取得していますので、A土地は3年以内取得土地等に該当することになります。 相続税評価額に計上する金額は取得の日から課税時期までにおける路線価の変動がないため、通常の取引価額は、A土地の購入時の土地代金である200,000千円が相当かと考えられます。 仮に路線価の変動がある場合には、通常の取引価額をどのようにして求めるかは、実務上、判断に迷うことになりますが、考えられる方法として、不動産鑑定評価を行う方法、取得価額を基に時点修正を行う方法、相続開始時点における路線価による評価額に1.25倍をする方法等があります。 また、帳簿価額により計上する方法も認められていますが、本問における帳簿価額は、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用が含まれており、これらを除外していいかどうかについては明らかにされていないため、その判断に迷うことになります。 あくまでも財産評価基本通達185括弧書は、「帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとする。」とされていますので、これを厳密に解釈するのであれば、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用も帳簿価額に含まれているため、除外するべきではないと解されます。また、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、相続税評価額と帳簿価額の差額として含み益を算出する目的もあり、帳簿価額には仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用が含まれているため、相続税評価額にも含めないと正しい含み益は算出できないため、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用は除外するべきではないという解釈もできます。 一方で、相続税評価額は、課税時期における通常の取引価額、すなわち時価とされていますので、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用は除外するべきであるという議論も当然あるかと思います。 現時点において、課税時期3年以内の土地等の相続税評価額の詳細な求め方は確立していないためあくまでも私見となりますが、「通常の取引価額」として相続税評価額を求めたという主張で帳簿価額の時点修正を行い、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用を除外したということであれば、通常の取引価額として認められることになろうかと思います。しかしながら、単に帳簿価額を使用するという場合には、簡便的な処理方法ということになりますので、仲介手数料、固定資産税等精算金及び取壊費用を除外しないでそのまま計上することが相当かと考えます。 したがって、本問の場合には、通常の取引価額に相当する金額は200,000千円となりますが、簡便的な処理方法として帳簿価額212,316千円も認められるものと考えられます。 ■構築物の相続税評価額に計上するべき金額 3年以内取得土地等及び家屋等の範囲には、構築物もその範囲に含まれていますので、相続開始前3年以内に構築物を取得した場合には、構築物の評価は、通常の取引価額により計上することになり、実務的には、帳簿価額により計上することになります。 構築物の財産評価は、その構築物の再建築価額から、建築の時から課税時期までの期間(その期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とする)の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額の100分の70に相当する金額によって評価する(評価通達97)とされていますが、間違って100分の70を乗じないように注意する必要があります。 ☆実務上のポイント☆ 課税時期前3年以内の起算日は、直前期末ではなく、相続開始日となり、取得の日の判定は、原則として引渡日となります。3年以内取得土地等及び家屋等の相続税評価額に計上するべき金額は、原則として通常の取引価額であり、例外として帳簿価額を認めているという評価通達の規定を確認し、相続税評価額に計上すべき金額を検討する必要があります。 (了)