〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第68回】 「賃貸併用住宅の建築中等に相続が発生した場合における 小規模宅地等の特例の適用の可否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(相続開始は令和5年1月16日)は、賃貸併用住宅(区分所有登記はされていません)とその敷地であるA土地を所有し、1階から4階までを賃貸用(8部屋で各部屋の床面積は同一)として5階部分を甲とその配偶者である乙及び長男である丙の居住の用に供していました。 賃貸の用に供して50年以上経過し建物も老朽化してきたため、建替えを行うことになりました。建替え後の建物は、1階から3階までを賃貸用(6部屋で各部屋の床面積は同一)として4階は甲及び乙の居住用として、5階は丙の居住用として利用することになっています。 甲は、令和4年中に工事請負契約を締結し、同年中に建物の取壊しを行っていますが、建物の引渡しを受ける前に相続が発生しました。甲の相続人は乙及び丙の2人ですが、全ての財産及び債務は丙が承継しています。工事請負契約に係る残代金は、丙が令和5年3月1日に支払い、同日に建物の引渡しを受け、丙名義で建物の登記を行い、同月中に4階部分は乙の居住用として、5階部分は丙の居住用として利用しています。 なお、従前建物の賃借人には立退料を支払い、新たに賃借人を募集し、相続税の申告期限までに6部屋中5部屋は賃貸の用に供していますが、残りの1部屋については、引き続き募集中の状況となります。 工事請負契約の内容等は、下記のとおりですが、相続開始時における工事進捗率が50%で工事の未払金が80,000千円あります。 この場合におけるA土地及び建物に係る相続財産に計上する金額と小規模宅地等に係る特例の適否はどうなりますか。 なお、甲はA土地及び建物以外は、貸付事業を行っていませんので、事業的規模以外の貸付事業に該当します。 【工事請負契約の内容】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [A] A土地及び建物に係る相続財産に計上する金額は、下記のとおりとなります。 小規模宅地等の特例の適用は、下記のとおりとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 建築中の家屋の評価 建築中の家屋は、下記のとおり評価することになります(評基通89、91)。 費用現価の額とは、相続開始日までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。実務的には、工事請負金額に工事進捗率を乗じて計算することになりますので、課税時期における工事進捗率を建築会社に確認することになります。 本問の場合には、費用現価の額は、100,000,000円(200,000,000円×50%(工事進捗率))となります。 2 工事請負金額に係る債権債務 上記1で計算した費用現価の額は、工事完了金額を意味しますので、その工事完了金額に対して既に支払っている金額が大きい場合には、その超過部分については前渡金として相続財産となり、反対にその工事完了金額に対して既に支払っている金額が少ない場合には、その不足部分については未払金として相続債務となります。 本問の場合には、20,000,000円(60,000,000円+60,000,000円-200,000,000円×50%)が前渡金として相続財産となります。 3 借家権控除の適用の可否 借家権の減額の趣旨は、利用について制約を受け、借家権を消滅させるためには立退料の支払いが必要になるためとされていますので、相続開始時点において、建物の賃貸借契約が開始されていない場合には、原則として、借家権控除の適用はありません。 本問の場合には、従前建物の入居者に対して、立退料を支払っていますので、相続開始時点において立退料の支払いが発生する要因はありませんので、自用地及び自用家屋として評価することになります。 4 一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における貸付事業用宅地等の特例の適用 貸付事業用宅地等の特例については、課税時期の直前において貸付事業の用に供されていない部分は認められませんが、一時的に賃貸されていなかったと認められる部分については、貸付事業用宅地等に該当するものとされています(措通69の4-24の2)。 国税庁からの情報(資産課税課情報第9号 令和3年4月1日(事例6) 共同住宅の一部が空室となっていた場合(参考))においては、空室部分の特例が認められる場合として、下記のとおり説明がなされています。 (下線部は筆者による) 本問の場合においては、6部屋中1室については、まだ空室となりますが、入居者を募集しており、いつでも入居可能な状態に空室を管理していれば、継続賃貸として取り扱うことができることになります。 なお、新たに貸付事業の用に供する建物等を建築中である場合には、租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合)の取扱いがある場合を除き、貸付事業用宅地等に該当しないこととされていますので、賃貸住宅の建替えではなく、新たに賃貸住宅を建築する場合には、貸付事業用宅地等には該当しないことになります。 本問の場合には、下記6に記載のとおり、租税特別措置法関係通達69の4-5の取扱いが適用されることになります。 5 新たに貸付事業の用に供された宅地等がある場合の貸付事業用宅地等の特例との関係 平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされました。 ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち、準事業以外のものをいう)を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③四、措令40の2①⑦⑲)。 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」がある場合の判定手順は、【第40回】で解説の通り、下記の手順となります。 まず、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」があるか否かの判定となりますが、継続的に賃貸されていた建物等につき建替えが行われた場合において、建物等の建替え後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、賃貸されていたとき(当該建替え後の建物等を貸付事業の用以外の用に供していないときに限ります)は、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」には該当しないものとされています。 ただし、建替え後の建物等の敷地の用に供された宅地等のうちに、建替え前の建物等の敷地の用に供されていなかった宅地等が含まれるときは、その供されていなかった宅地等については、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当します(措通69の4-24の3)。 本問の場合には、たとえ相続開始前に建物の引渡しを受け賃貸されていたとしても、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。 6 建築中等に相続が開始した場合における小規模宅地等の特例の適否 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等を対象としています(措法69の4①)。したがって、その宅地等が相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていることが要件となりますので、建築中に相続が発生した場合には、相続開始の直前において、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されておらず、小規模宅地等の特例の適用を受けることができないことになります。 しかしながら、事業や居住の継続の観点から一時点で判断することは適当ではありませんので、建築中等に相続が開始した場合には、租税特別措置法関係通達69の4-5、69の4-8において救済措置があります。その内容は下記のとおりとなります。 租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合) (下線部及び①から④の番号は筆者による) 租税特別措置法関係通達69の4-8(居住用建物の建築中等に相続が開始した場合) (下線部及び①から④の番号は筆者による) 本問については、下記の要件等に留意する必要があります。 ① 建築中の建物等の所有者の要件 建築中の建物等の所有者は、被相続人又は被相続人の親族に限られます。 本問の場合には、丙が所有者で被相続人の親族ですので、要件は満たされることになります。 ② 相続開始直前における利用見込要件 建築中の建物等が被相続人又は生計一親族の事業の用又は居住の用に供する見込みである必要があります。その利用見込要件の判定は相続開始直前において行うこととされていますので、相続開始時点における工事請負契約で建築される建物の利用見込状況に応じて判定することになります。 なお、被相続人の居住の用に供されていた建物が一棟の建物(区分所有建物である旨の登記がされている建物を除く)である場合には、その一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等として取り扱います(措令40の2④、措通69の4-7)ので、本問の場合には、4階及び5階部分は、被相続人の居住の用に供される見込みであるものとして取り扱います。 ③ 相続税の申告期限における供用要件 原則として、相続税の申告期限までに事業の用又は居住の用に供することが必要となりますが、相続税の申告期限までに事業の用又は居住の用に供していない場合でも、完成後、速やかに事業の用又は居住の用に供することが確実であれば、供用要件は充足しているものとして取り扱われます。 ④ 事業又は居住部分の範囲 事業用宅地等の部分は、建築中の建物等の敷地のうち被相続人等の事業の用に供されると認められるその建物等の部分に対応する部分に限られ、居住用宅地等も同様の考え方になります。したがって、1階から3階部分までが事業用宅地等になり、4階及び5階部分が居住用宅地等となります。 本問の場合には、宅地等及び建物を取得した丙は被相続人の親族であり、相続開始の直前において1階から3階は被相続人の貸付事業用宅地等として、4階及び5階は被相続人の居住用宅地等として利用される見込みであり、かつ、相続税の申告期限までに貸付事業の用又は居住の用に供されていますので、上記の通達の適用の範疇となります。 ★実務上のポイント★ 賃貸併用住宅を建築中に相続が発生した場合には、特定居住用宅地等及び貸付事業用宅地等の要件と関連する通達や国税庁情報を確認しながら、慎重に特例の適否を判断する必要があります。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第45回】 「弔慰金の支給に係る論点」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 法人税法上の取扱い 役員が死亡した場合、死亡に伴う役員退職給与を支給することは実務上の頻出論点である。この場合、いわゆる過大役員給与に該当しないために功績倍率などに留意すべきであることは、本連載各所で触れてきたとおりである。 ここで、弔慰金については、法人税法上ダイレクトに規定するものはなく、社会通念上適正な額であれば損金算入が認められると認識されている。 弔慰金を役員退職給与と別途支給したことについて損金算入の是非が争われた裁判例をみると、死亡した役員の「最終報酬月額・・・に不相当に高額な部分はなく、相続税法基本通達3-20 の取扱いに準じて判断すると・・・全額損金算入が認められる」とされていること(※1)、そして、国税庁HP上の質疑応答事例「贈与税の対象とならない弔慰金等」において、法人から支給を受けた弔慰金について、相続税法基本通達3-20に準拠したものについては「社会通念上相当と認められるもの」と示されていることからも、実務上、一般的には相続税法基本通達3-20に準拠する額であれば、弔慰金としての支給が損金算入されるものとして取り扱われている。 (※1) 大分地裁平成21年2月26日判決(税務訴訟資料259号順号11147、TAINS:Z259-11147)。なお、併せて支給された功労金等については「比較法人の平均功績倍率及び乙の創業者としての功績等固有の事情を踏まえて、功績倍率3.5で算出される範囲内の役員退職給与であれば相当であると認められるものの、これを超えた部分については名目の如何にかかわらず、過大な役員退職給与として損金算入を認めることはできない(下線部筆者)」として、弔慰金以外の名目であれば、過大な役員退職給与として損金算入の是非を判断すべき旨が示されている。 なお、社会通念上適正とされる額を超えた場合には、弔慰の趣旨を超えたものとして役務提供の対価たる退職給与に当たることとなる(※2)。 (※2) 同旨が示された裁判例として、大阪地判昭和44年3月27日判決(訟務月報15巻6号721頁、TAINS:Z056-2416)がある。 (2) 所得税法上の取扱い 役員が死亡したことにより支給を受けた退職給与は、一般的に、死亡後に支給期が到来し、相続税の課税価格計算の基礎に算入されるため、所得税は課されない(所基通9-17)。 同様に、弔慰金についても、社会通念上相当と認められるものは所得税が課されない(所基通9-23)。 (3) 相続税法上の取扱い 役員の死亡によって相続人が退職給与の支給を受けた場合、それが被相続人たる役員の死亡後3年以内に支給が確定した場合、みなし相続財産として相続税の課税対象とされる(相法3①二)。他方、同じく役員の死亡により相続人が弔慰金の支給を受けた場合、相続税法基本通達3-20により、一定額を超える部分のみがみなし相続財産とされることとなる。 上記通達は、弔慰金等に該当する額の計算基礎を「賞与以外の普通給与」としていることから、定期同額給与としての支給額に注目すべきであることがよく分かる。また、「死亡当時における」とされていることから、いわゆる最終報酬月額と呼ばれる「役員の退職の直前に支給した給与の額」(法基通9-2-27の3(注))と同義であると認識して差し支えないと考えられる。 (4) 最終報酬月額が低額である場合 ここで、最終報酬月額が低額となるケースは、以下の①及び②のようなことが考えられるが、弔慰金を対象としてダイレクトに争点となった裁判例・裁決例は筆者が調査した限り存在しない。したがって、近接論点について示された裁判例等をヒントに検討してみたい。 ① 事前確定届出給与制度を利用して社会保険料を削減している場合 【第7回】で触れたように、社会保険料等を削減する目的で事前確定届出給与制度を利用し、役員報酬としての年間総支給額を変えずに定期同額給与額を減少させるケースは今なお見聞するところである。 このような場合において、不幸にも対象役員が死亡し、弔慰金の支給があった場合において、相続税法基本通達3-20の「死亡当時における賞与以外の普通給与」に該当するか否かの判断はどのようにすべきだろうかという疑問が浮かぶ。この点、【第7回】で述べた通り、筆者は最終報酬月額について、あくまでその月に支給した月額給与であるとする見解を支持しているところである。相続税法基本通達3-20では、「賞与」が弔慰金の判定から除かれているが、所得税基本通達183-1の2(注1)では、事前確定届出給与制度によって役員に支給された給与は「賞与」である旨が示されていることから、事前確定届出給与によって支給された給与は相続税法基本通達3-20の対象外と考えるべきだろう。 ② 年金を受給するために定期同額給与額を減少させている場合 また、事前確定届出給与制度を用いていない場合において、「年金を満額受給したい」という理由で、前年度に比して定期同額給与額を大幅に減少させるケースも考えられる。この場合において対象役員に相続が発生した場合には、より判断が困難となる。最終報酬月額は、その役員の法人に対する長年の貢献度が適切に反映されていることを前提としているため、年金を満額受給したいという個人的な理由で法人からの支給額を減少させたことについて、どのように捉えるかが困難であるためである。 ところで、役員退職給与の損金算入限度額の判断について、退任役員らの最終報酬月額が在職期間中の職務内容等からみて著しく低額であるような特段の事情がある場合には、最終報酬月額を計算の基礎としない1年当たり平均額法によって算定すべき旨が示される裁判例として、札幌地裁昭和58年5月27日判決がある(※3)。ここで、功績倍率法に加え、1年当たり平均額法が認められているのは、裏を返せば、最終報酬月額が著しく低額であるケースが存在すること自体が認められているからであるとも考えられる。 (※3) 行政事件裁判例集34巻5号930頁、TAINS:Z130-5203。詳細は【第29回】参照。 このように考えれば、弔慰金においても、最終報酬月額が著しく低額であるような特段の事情がある場合、そのような事情は斟酌されて然るべきであるとも考えられる。また、最終報酬月額が5万円であることが低額すぎるとして、息子である後継者の報酬月額との合計額の1/2を採用して最終報酬月額とされたケースもあるため(※4)、本来適正とされる最終報酬月額が採用される余地も否定できない。 (※4) 高松地裁平成5年6月29日判決(判例時報1493号65頁、TAINS:Z195-7150)。本件については、木村浩之「法人税の解釈をめぐる論点整理《役員給与》編【第9回】」プロフェッションジャーナル2013年3月7日号参照。 もっとも、通達上は「賞与以外の普通給与」と明記されているため、仮に最終報酬月額が低額であったとしても、課税庁のスタンスは当該最終報酬月額を用いることに変わりなく、税務調査等で争いを避けるためには最終報酬月額を採用することが無難であることは明らかである。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第48回】 「適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いについて解説します。 1 適格現物分配があった場合の現物分配法人の取扱い (1) 資産の譲渡 現物分配法人が適格現物分配により被現物分配法人にその有する資産の移転をしたときは、現物分配時の帳簿価額による譲渡をしたものとします(法法62の5③)。 (2) 適格現物分配により減少する利益積立金額 ① 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において交付資産の帳簿価額に相当する金額の利益積立金額の減少を認識します。 ② 資本の払戻し 資本の払戻しが適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する利益積立金額は、次の算式で計算します。 ③ 自己株式の取得 自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する利益積立金額は、次の算式で計算します。 (3) 適格現物分配により減少する資本金等の額 ① 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、資本金等の額は減少しません。 ② 資本の払戻し 資本の払戻しが適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する資本金等の額は、次の算式で計算します。 ③ 自己株式の取得 自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、現物分配法人において減少する資本金等の額は、次の算式で計算します。 (4) 源泉徴収 適格現物分配による配当金の額については、源泉徴収する必要がありません。 (5) 具体例①(剰余金の配当等) ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 (6) 具体例②(資本の払戻し) ① 前提 ② 現物分配法人の税務仕訳 (※1) 減少する資本金等の額=現物分配直前の資本金等の額(5,000)×減少する資本剰余金の額(1,000)/前事業年度終了時の簿価純資産価額(10,000)=500 (※2) 減少する利益積立金額=交付資産の帳簿価額(1,000)-減少する資本金等の額(500)=500 2 適格現物分配があった場合の被現物分配法人の取扱い (1) 資産の取得 被現物分配法人が適格現物分配により現物分配法人から資産の移転を受けたときは、被現物分配法人が取得する資産の取得価額は、現物分配法人の現物分配直前の帳簿価額となります(法法62の5⑥、法令123の6①)。 (2) 剰余金の配当等 剰余金の配当等が適格現物分配により行われた場合には、移転を受けた資産の帳簿価額 相当額が益金不算入となります(法法62の5④)。 適格現物分配の場合には、受取配当等の益金不算入の規定ではなく、適格現物分配の益金不算入の規定により、全額益金に算入されません。 (3) みなし配当 資本の払戻しや自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、被現物分配法人においてみなし配当を計算し、みなし配当相当額が適格現物分配に係る益金不算入の対象となります。 みなし配当の金額については、次の算式で計算します。 (4) 現物分配法人株式の譲渡損益 資本の払戻しや自己株式の取得が適格現物分配により行われた場合には、被現物分配法人においてみなし配当を認識するとともに、被現物分配法人の有していた現物分配法人株式の一部を譲渡したものとして取り扱います。 ただし、適格現物分配は、完全支配関係のある内国法人からの現物分配であるため、現物分配法人株式の譲渡損益は認識されず、譲渡損益相当額は資本金等の額の増減として処理することとなります。 (5) 具体例①(剰余金の配当等) ① 前提 ② 被現物分配法人の税務仕訳 (※) 適格現物分配に該当するため全額益金不算入。 (6) 具体例②(資本の払戻し) ① 前提 ② 被現物分配法人の税務仕訳 (※1) 現物分配法人株式の譲渡原価=現物分配直前の帳簿価額(4,000)×B社にて減少する資本剰余金の額(1,000)/B社の前事業年度終了時の簿価純資産価額(10,000)=400 (※2) みなし配当の金額=移転を受けた資産の帳簿価額(1,000)-現物分配法人の資本金等の額のうち払戻しに対応する部分の金額(500)=500 (※3) 完全支配関係のある内国法人からの現物分配であるため、譲渡損益に相当する100円は資本金等の額の加算として処理されます。 ◆適格現物分配を行った場合の現物分配法人、被現物分配法人の取扱いのポイント◆ 現物分配法人は移転資産を帳簿価額で譲渡したものとされ、譲渡損益は生じません。 現物分配法人において減少する利益積立金額、資本金等の額の計算が必要です。 被現物分配法人に移転する資産の取得価額は、現物分配直前の帳簿価額となります。 被現物分配法人が受ける配当の全額が益金不算入となります。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第137回】 株式会社TOKAIホールディングス 「特別調査委員会調査報告書(開示版)(2022年12月14日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社TOKAIホールディングス特別調査委員会の概要】 【株式会社TOKAIホールディングスの概要】 株式会社TOKAIホールディングス(以下「TOKAI」と略称する)は、2011(平成23)年設立。設立母体となったのは、株式会社ザ・トーカイ及び株式会社ビック東海。エネルギー事業、情報通信事業等を行う子会社等の経営管理及びそれに付帯又は関連する業務を主たる事業とする持株会社であり、子会社36社及び関連会社10社を擁している。売上高210,691百万円、経常利益15,907百万円、資本金14,000百万円。従業員数4,407名(2022年3月期連結実績)。本店所在地は静岡県静岡市。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ静岡事務所(以下「監査法人トーマツ」と略称する)。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 代表取締役常務執行役員で経営管理本部長の中村俊則氏(報告書上の表記は「C4氏」。以下「中村取締役」と略称する)は、遅くとも2022年4月頃には、鴇田前社長の行動について、次のような疑義を有していた。 中村取締役は、こうした疑義について、常勤監査役である村田孝文氏(報告書上の表記は「C7氏」。以下「村田監査役」と略称する)と認識を共有し、後に、特別調査委員会委員長に選任されることになるモリソン・フォースター法律事務所の吉村龍吾弁護士(報告書上の表記は「H1氏」)らの指導・助言を受けながら、取締役会の構成メンバーに、鴇田前社長の解職のための取締役会決議に向けて準備を進めた。 2022年9月15日開催の取締役会では、社内取締役6人による緊急動議として、以下の8項目が説明され、特別利害関係人に該当する鴇田園社長が退出する中で、審議・可決された。 本決議に基づいて、9月22日に特別調査委員会が設置され、調査が開始されたが、10月11日、監査役会による「より客観性が担保された調査を実施すべきである」という意見を踏まえて、委員長であった吉村龍吾弁護士と委員で社外取締役の河島伸子氏(報告書上の表記は「C3氏」)に変えて、委員長に中原健夫弁護士、委員に平井太弁護士を選定し、委員会の構成を変更している。 2 特別調査委員会の調査により判明した業務との関連性が疑われる経費 特別調査委員会は、鴇田前社長が使用した経費について、TOKAIグループとの業務関連性が確認できなかった又は業務関連性に疑義が残る交際費、旅費交通費及びその他の経費の2017年3月期から2022年3月期の各会計期間及び2022年4月から9月までの期間の金額は10,196千円であったと調査結果をまとめている(2022年12月28日付「(訂正)「特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ」の一部訂正について」で、この金額は、10,086千円に訂正された)。 また、VILLA蓼科における女性コンパニオンとの混浴問題については、特別調査委員会は、TOKAI法務室の指摘を引用して、「世間に知れ渡ることにより当社の信用が低下するリスク」が当然存在しており、上場企業であるTOKAIはこうしたレピュテーショナルリスクも踏まえて混浴を実施しない又は中止するという判断がなされてしかるべきであったにもかかわらず、女性出張コンパニオンのクレーム及び取引先の指摘という二度の契機がありながらも混浴が継続されていたことは遺憾であると指摘せざるを得ないという判断を示している。 3 原因分析(調査報告書123ページ以下) 特別調査委員会は、原因分析として次の9項目を挙げている。 2009年10月にTOKAIの前身の1つである株式会社ザ・トーカイの代表取締役に就任して以来、長く経営トップに君臨してきた鴇田前社長に対する牽制機能がまったく発揮されなかったことが、さまざまな事実認定から分析されると同時に、いわゆる3線ディフェンスのすべてが、無効化されてしまっていることが指摘されている。 4 再発防止策の提言(調査報告書134ページ以下) 特別調査委員会が提言した再発防止策は、原因として挙げた「不十分」であった項目の改善を求めるものとなっており、次の10項目が挙げられている。 再発防止策の提言にはよく見られる表現である「風通しのよい企業風上の形成」について、特別調査委員会による具体策を検討したい。提言は、「TOKAI代表取締役社長を含む経営陣が率先して風通しのよい企業風土を実現に向けて適切な言動をとる」とともに、「TOKAIグループの役職員が、経営陣らについて何らか問題点を把握した場合には、不利益な取扱いを受けることを懸念することなく、直接の進言、職制上のレポーティングラインでの報告・相談、内部通報窓口への通報等の方法により問題点を指摘することができる」ための各種施策を策定し、実行していくことによって、風通しのよい企業風土を形成すべきであるとしている。 さらに、「適切な事後処置」として、特別調査委員会は、TOKAIがさらなる調査を行うことの要否を検討するとともに、法的責任の有無及び範囲の検討を行ったうえで、TOKAIグループに生じた損害に相当する金額等については、鴇田前社長らとの間で適切に精算されるべきであるとして、提言を結んでいる。 【調査報告書の特徴】 本文だけで138ページ、さらに、解職された鴇田前社長及びその代理人弁護士から提出された書面が29ページ別紙として添付された大部の報告書であるが、結論は、業務との関連性に疑義がある支出は、調査対象とされた6年半の期間合計で約1,000万円に過ぎないものであった。解職動議が提出された時にすでに77歳を超えていた鴇田前社長が、たとえば、70歳を契機に経営の第一線から退くといった決断ができていたら、経済産業省出身の元官僚でありながら、業容拡大を成し遂げた経営者として、晩節を汚すこともなかったのではないかと考えてしまう。 1 取締役会における緊急動議の決議に至るプロセス(調査報告書32ページ以下) 大部の報告書で最も読み応えのある部分が、中村取締役と村田監査役が主導して、鴇田前社長の解職のための取締役会決議に向けた準備工作の記載であろう。社内取締役4人に対する根回しの順序には、鴇田前社長との距離感がうかがえて興味深い。また、社外取締役3人のうち、2021年6月に就任したばかりの河島取締役を除く2人には、解職を求める動議が事前に漏れないようにとの理由から、事前説明をしないことを決めている。 特別調査委員会は、原因分析の中で、とくに、「社内役員が社外役員から鴇田前社長への情報の還流を懸念していたこと」という項目を挙げて、社内役員らが一部の社外役員は鴇田前社長と近い関係にある等と認識していたため、情報還流の可能性を懸念して、取締役会における解職等動議を提出することを事前に相談することを差し控えたという説明を受けたことから、鴇田前社長の問題点を社外役員に相談するという意識を持ちづらかったと分析している。 2 鴇田前社長による抗弁・反論 調査報告書には、鴇田前社長が特別調査委員会委員長にあてた書面が4通、別紙として添付されている。書面で展開されている鴇田前社長及びその代理人弁護士による抗弁・反論の概要は次のとおりである。 なお、女性コンパニオンとの混浴問題については、鴇田前社長の代理人弁護士から、以下のようなコメントが出されている。 主催者であった鴇田前社長の立場と、その命令に従ったに過ぎない他の役職者及び招待されただけの参加者などの立場を同一に論じていることについては、違和感を持たざるを得ない。「会社の役職者もVIPである社会的地位のある方々も品位を欠く行為を行っていた」ことに間違いはないと考えるが、代理人弁護士は「品位を欠くかどうか」については「客観的に判断されるべき」としているものの、見解は示していない。 3 TOKAIによる再発防止策と関係者の処分 TOKAIは、2022年12月23日、「再発防止策及び関係者の処分に関するお知らせ」をリリースして、同日開催の取締役会において、再発防止策及び関係者の処分を決議したことを公表した。 (1) 再発防止策 TOKAIが取締役会で決議した再発防止策は次のとおりである。 (2) 関係者の処分 TOKAIが公表した、関係者の処分内容は、次のとおりである。 4 2021年10月に発覚した子会社従業員による不正 TOKAIは、2021年10月8日付「当社子会社元従業員による不正行為について」をリリースして、名古屋国税局による税務調査により、子会社である株式会社ザ・トーカイ及び東海ガス株式会社の元従業員による不正が発覚したことを公表した。その後、同年12月24日に、「当社子会社元従業員による不正行為に係る調査結果のお知らせ」をリリースして、顧問弁護士を委員長とする社内調査委員会による調査結果を公表している。 (1) 不正の概要 ザ・トーカイの元従業員(行為者A)は、自身が受注した大型太陽光発電設備工事・空調設備工事において、下請業者に指示し実体のない工事代金を請求させて、自身の親族が代表を務める事業者を経由して不正な利益を得ていたものであり、2014年2月から2021年7月までの間の被害総額は173百万円であった。 東海ガスの元従業員(行為者B)は、会計システムから出力される支払いデータの中に、自身の銀行口座に対する振込データを追加し、送金することで不正な利益を得たものであり、2014年3月から2020年6月までの間の被害総額は368百万円であった。 (2) 関係者の処分 調査結果の概要では、行為者Aは懲戒解雇処分、行為者Bは不正発覚後の2021年8月に死亡していることが記載されており、ほかに、両社の代表取締役以下複数の取締役が、「経営管理責任を明確にする」との名目で、月額報酬減俸10%の処分を受けている。 なお、当時、親会社であるTOKAIの代表取締役であった鴇田前社長は、両社の取締役を兼務していたが、社内処分の対象ではなく、報酬の自主返納も行っていない。 (3) 過年度損益の修正 調査結果の概要によれば、これらの不正行為に係る修正額の影響は不正取引が行われた事業年度の各利益項目の1%程度と僅少であることから、過年度の財務諸表の訂正は行わないことが説明されている。 (4) 会計監査人であるトーマツの反応 調査結果の概要には、会計監査人である監査法人トーマツがこれらの不正に関してどのように判断を行っているかの説明はなく、過年度損益の修正を行う必要性に関しても、見解は表示されていない。 一方、特別調査委員会による報告書では、監査法人トーマツから厳しい指摘を受けたことが記載されている(調査報告書33ページ)。これらの不正事案に係る調査の過程において、中村取締役は、会計監査人である監査法人トーマツより、TOKAIの内部統制に関する統制環境や2件以外の不正の有無を厳しく問われ、場合によっては無限定適正意見を出せなくなる可能性があることについても言及されるとともに、統制環境に改善の雰囲気が出てこなければ、監査法人トーマツ内において、TOKAIとの今後の監査契約は締結できないとの意見が出る可能性があるとの認識を示されており、中村取締役は、村田常勤監査役とは、こうした指摘を受けたという情報を共有していた。 (5) 問題点 グループの経営トップである鴇田前社長が、子会社における不正をどのように受け止めていたのかは不明であり、鴇田前社長が特別調査委員会にあてて提出した書面にも一切言及はない。社内調査委員会による調査にとどめたことで、鴇田前社長の取締役としての経営管理責任が不問にされたうえ、監査法人による厳しい指摘が鴇田前社長に伝えられなかったことによって、鴇田前社長に経営トップとして襟を正すべきであるという進言をする機会を逸してしまったように感じられる。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2023年1月】 第3四半期決算(2022年12月31日) 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第3四半期決算(2022年12月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 基本的に2022年10月1日から12月31日までに公開した速報解説を対象としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(改正企業会計基準第27号)等が公表されている。 これは、次の2つの論点についての取扱いを示すものである。 2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。 上記の改正を受けて、日本公認会計士協会の実務指針等(「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第4号)等)も改正されている。 Ⅲ 『経団連ひな型』の改訂 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)を改訂している。 これは、2023年3月以降開催の株主総会で、株主総会資料の電子提供制度が始まることなどに対応するものである。 Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 〇 監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の改正(内容:EDINETで提出する監査報告書関係のQ&Aなどを追加) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 コーポレートガバナンス改革と監査役等スタッフの実態に関する考察(内容:監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社の実務面での違い、導入する企業数が増えた監査等委員会設置会社のガバナンス、監査役スタッフの役割について研究) Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2022年4月1日以後に適用されるものとして、次の会計基準等がある。 ① 「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(2021年8月12日、実務対応報告第42号)(内容:グループ通算制度の適用に関する会計処理及び開示) ② 「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(2021年6月17日、改正企業会計基準適用指針第31号)(内容:投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価についての取扱い) また、「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(2022年8月26日、実務対応報告第43号)については、2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。 ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる。 (了)
給与計算の質問箱 【第37回】 「賃上げした場合の手取の増加額と企業の負担増加額」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社では従業員の賃上げを検討しています。基本給を10%又は20%賃上げした場合、給料の手取額はどの程度増えるものなのでしょうか。また、企業の負担はどの程度増えるものなのでしょうか。 A 基本給を10%又は20%賃上げした場合の給料の手取額及び企業の負担増加額は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 基本給を10%賃上げした場合 基本給20万円を10%賃上げして22万円にした場合、30万円を10%賃上げして33万円にした場合、40万円を10%賃上げして44万円にした場合の手取の増加額及び企業の負担増加額を次の〈図表1〉にまとめた。 〈図表1〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 図表における計算条件(後述の〈図表2〉も同様) まず、2万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の16,449円増加する。手取額の増加率は同程度の9.8%である。 3万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の23,368円増加する。手取額の増加率は同程度の9.4%である。 4万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の32,643円増加する。手取額の増加率は同程度の9.9%である。 次に、企業の負担増加額について、2万円賃上げした場合、同程度の19,562円増加する。3万円賃上げした場合、同程度の29,479円増加する。4万円賃上げした場合、同程度の37,428円増加する。ただし企業負担額は経費になるので、税負担は減少する。 2 基本給を20%賃上げした場合 基本給20万円を20%賃上げして24万円にした場合、30万円を20%賃上げして36万円にした場合、40万円を20%賃上げして48万円にした場合の手取の増加額及び企業の負担増加額を次の〈図表2〉にまとめた。 〈図表2〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 まず、4万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の32,898円増加する。手取額の増加率は同程度の19.7%である。 6万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の49,107円増加する。手取額の増加率は同程度の19.7%である。 8万円賃上げした場合、手取額はその80%程度の65,287円増加する。手取額の増加率は同程度の19.9%である。 次に、企業の負担増加額について、4万円賃上げした場合、同程度の39,124円増加する。6万円賃上げした場合、同程度の58,446円増加する。8万円賃上げした場合、同程度の74,856円増加する。ただし企業負担額は経費になるので、税負担は減少する。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第37回】 「鑑定評価書(取引事例比較法)に登場する「標準化補正」の意味」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 日常業務で不動産の鑑定評価書を目にする機会のある税理士の方も少なからずおられると思います。土地(又は建物及びその敷地)が対象となっている鑑定評価書のなかに必ずといってよいほど登場するのが「取引事例比較法」です。この手法は、土地の利用状況が類似する地域のなかで実際に成立した売買事例を基に評価する方法であり、規範的な事例がいくつか収集できれば実証的で説得力に富むものとなります。 ただ、その計算過程(しばしば比準作業と呼ばれます)に「標準化補正」という専門用語が登場し、それがどのようなことを意味するのか迷われた経験をもつ方もおられるのではないでしょうか。今回はこの「標準化補正」について解説し、取引事例比較法についての理解を深めるための一助としたいと思います。 2 取引事例比較法及び「標準化補正」の意味するところ 不動産鑑定評価基準によれば、取引事例比較法の意義が次のように述べられています。 地域要因の比較及び個別的要因の比較を行うに当たっては、上記のとおり、取引事例地(売買がなされた土地)と評価対象地の諸条件(価格形成要因)を直接比較する方法が考えられます。しかし、事例地も対象地もそれぞれ間口・奥行・形状・道路付け等が異なり、個別的な特徴があることから、特徴のある土地同士を直接比較するよりも、シンプルでスタンダードな(=標準的な)区画形状の土地の価格を求め、それとの比較により対象地の価格を求めた方が分かりやすい面があります。 このような面を考慮したためか、不動産鑑定評価基準には「このほか(=上記のほか)地域要因及び個別的要因の比較については、それぞれの地域における個別的要因が標準的な土地(筆者注:いわゆる標準的な画地)を設定して行う方法がある」という規定が置かれており(総論第7章第1節.Ⅲ.2.(3))、実務においてもこの方法が多く適用されています。下記の〈資料1〉は、この方法に基づく取引事例比較法のイメージ図です。 〈資料1〉取引事例比較法のイメージ ちなみに、標準的な画地とは、上記のとおり近隣地域のなかで間口・奥行・形状・道路付け等の個別的な要因が他の土地と比べて何ら優劣のない土地を指します。例えば、近隣地域において、道路に一面のみが接する土地が多く存在している場合は、これと同じ条件を有する土地が標準的な画地の選定対象とされます(その点で、このような地域では角地は標準的な画地の条件を備えていないといえます)。また、間口・奥行のバランスのよい整形地が連なっている地域では、不整形な部分を含む土地は標準的な画地とはいえません。 このように、標準的ということは、その地域における土地の利用状況を眺めた場合、最も普遍的に使用されている画地がイメージされます。 そして、「標準化補正」とは、事例地の価格を基に標準的な画地の価格を査定する際に、事例地に特徴的な要因を取り除いて比較することを意味します。 例えば、下記の〈資料2〉で【取引事例地①】は不整形地であり、取引価格がその分だけ割安となっていると判断されることから、標準的な画地の価格を求める際には整形地のレベルに補正(増価修正)する必要があります。また、【取引事例地②】も間口・奥行のバランスが劣る土地であり、取引価格がその分だけ割安となっていると判断されることから、同様の補正作業が必要となります。 以上の一連の過程を経て、標準的な画地の価格が査定されることになります。 〈資料2〉標準化補正のイメージと対象地の状況 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 3 標準的な画地との比較による対象地の価格の決定 標準的な画地の価格を査定する作業は取引事例比較法を適用する際の一過程であり、対象地の価格は標準的な画地との諸条件の比較を経て決定されます。 再び、上記〈資料2〉によれば対象地は整形地であり、かつ、二方路地のため、標準的な画地に比べて利用効率が優る(出入りの便がよい)分だけ価値は上昇します。すなわち、標準的な画地の価格に対し、対象地の有するこのような個別的要因を反映させて(=増価を織り込んで)対象地の価格が決定されるという仕組みです。 4 計算式のイメージ 今まで述べてきたことを計算式でイメージすると以下のとおりです。 なお、実際には5件程度の取引事例を採用してこのような作業を行いますが、本稿では単純化のため上記〈資料2〉の2件を例に取り上げました。 (1) 標準的な画地の価格の査定 【取引事例地①】との比較より (注1) 地価変動率は横ばいと査定しました。以下同様。 (注2) 不整形地:-10% (注3) 最寄り駅への接近性:+5% (その他の条件は同じ前提です) 【取引事例地②】との比較より (注4) 間口・奥行のバランス:-10% (注5) 環境条件:-2% (その他の条件は同じ前提です) 採用した事例の数に対応して標準的な画地の価格も何通りか試算されますが、最終的には、事例資料の信頼性、取引時点(できるだけ至近のものが望ましい)、補正の程度の少ない事例か否か、取引当事者の属性等を考慮して1つの価格を査定することになります。 本件の場合、これらについて検討の結果、標準的な画地の価格を上記2価格の中庸値である216,000円/㎡と査定しています。 (2) 対象地の価格の決定 対象地は二方路地であり、標準的な画地と比べて出入りの便が優ることから、個別的要因格差率を(+3%)と査定し、対象地の価格(単価)を222,000円/㎡と決定しました。 (了)
〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第9回】 「経営難に陥った企業におけるM&A(前編)」 -コロナ禍も重なり経営者は自力再生からスポンサー探索を決断- 株式会社日本M&Aセンター コーポレートアドバイザー統括部 ゼネラルマネージャー 経営支援室 副室長 公認会計士 長坂 晃義 経営難に陥った企業であっても自力再生できることが経営者にとって理想的です。しかしながら経営者の能力を超え、外部環境の変化が起きる昨今においては、それを成し遂げていくことも難しくなってきています。そういった意味では、第三者であるスポンサーを探索しM&Aの手法を使うことで、事業存続や雇用の継続を目指すことも珍しくなくなってきました。 本稿では2回にわたり、とある企業が自力再生から私的整理によるスポンサー型の抜本再生へ舵を切り、事業を残した道のりを、事業環境の変化、経営者の心境の変化を交えて振り返ります。 【対象企業データ】 ※情報管理の観点から、実際の事例とは一部内容を変更しております。 1 メインバンクへの相談 リーマンショックの影響を受け受注が大幅に減少したことにより経営が悪化し債務超過に転落し、金融機関への返済が厳しくなったことから、社長はメインバンクの意向もあり中小企業再生支援協議会(現中小企業活性化協議会)に相談することにしました。協議会のもと経営改善指導を受け、経営改善計画書を作成し、その計画に基づき経営資源を集中することで徐々にではありますが、収益改善効果を生みだすことができました。 しかしながら、現状のキャッシュフローでは既存の借入の返済が困難である状況には変わりがありません。また、社長にご子息はいらっしゃいましたが、大手企業に勤務されており後継者として考えにくい状況でした。 そんな中で日本M&Aセンターへの相談は金融機関より紹介を受ける形で始まりました。当初のお相手探しは株式譲渡前提、すなわち、既存の借入金を譲受企業が全て引き継ぐ前提でのスタートとすることにしました。これは社長が金融機関に迷惑をかけずに事業承継を目指すという強い意志があったことによります。また当然ながら紹介元金融機関も同様の方向を目指しておりました。足元の業績も少しずつですが改善してきたことを踏まえ、「とにかくマーケットの声を聞いてみましょう」ということでお相手探しを始めました。 2 お相手探しスタート 前述のとおり希望条件として株式譲渡前提としてお相手探しをスタートしました。 足元の業況が黒字に転換したことや、本格的なマッチングが奏功し、候補先も数社出てくるとともに本格的な検討へ進む企業も出てきました。しかしながら、設備の状況などから条件面が一致せず、見送りになるケースもあり一進一退の状況です。 その主な理由は事業性の否定でなく、財務負担の重さ、すなわち、過大債務による債務超過であることに懸念を示したことにあります。ここが本件のポイントであり、あくまでも事業自体、取引先や従業員のスキルには魅力を感じる企業があったということです。 3 資金繰りの悪化に伴う方針転換 業績は業務改善によって一時的に良くなった場合であっても、大幅に財務が痛んだ企業を建て直すことは容易ではなく、自主再生と抜本再生を同時に考えることが大切であることの重要性をそろそろ社長に伝えるリミットが迫ってきているように感じました。抜本再生とはすなわち債権カットを伴うスポンサー探しとなります。この場合、個人保証をしている社長にも債務保証の履行を求められ痛みを伴うことになります。そのため社長の決断も別次元のものとなってきます。 このようなお相手探しが進んでいく中で、コロナ禍が発生し、工事着工延期、既存工事の工期延長等により急激に資金繰りが悪化してきました。金融機関の支援を受けている状態で新規融資も難しい状況でしたが、コロナ融資を受けることで一時的な資金補填はできました。しかしながら中小企業ではありがちなのですが、資金繰りを回すために社長の個人資産を企業に拠出することもやむを得ず行うことになりました。個人資産を投入するということは、企業からすると借入金ですが、一方で社長からすると貸付金(=債権)となります。社長に万が一のことがあると相続財産にもなってしまうデメリットもあります。 このような場合、事業の継続、従業員の雇用を維持するためにも抜本再生を前提としたお相手探しに切り替えていくしかありません。経営者に自力再生と抜本的な金融支援が伴うM&Aを同時に考えることが大切であることを繰り返し説明しました。そこまで経営者の背中を押せた理由は、今日までのマーケットの声(事業性でなく財務の否定)を聞いていたからです。経営者が理解を示されたので、メインバンクに相談したところ支店本部の協議の上で協力が得られることとなり、事業が棄損しないように協議会関与による私的整理を協議会に相談する流れとなりました。 抜本再生を実現するにあたって金融機関の同意は当然ながら必須です。その前提条件の1つとして、経済合理性が求められます。具体的には、スポンサーの対価等による金融機関への弁済が、清算・破産した場合の弁済額より上回る必要があります。抜本再生に向けて、この経済合理性を満たす条件提示を受けられるスポンサー探しをすることになりました。 こうなってくるとあとは資金繰りも見ながら時間との勝負になります。そこで、債務者代理人弁護士と協議の中で、再生計画案作成の時間を短縮する意味において、すでに相手探しで動いており、財務資料を入手している日本M&Aセンターにて再生計画策定をサポートさせていただくことになり、財務DDを実施し、協議会検証型にて再生計画案の作成に筆者自身が携わることになりました。こうして作成した再生計画案を協議会の弁護士、会計士に検証をしてもらい進める、いわゆる「検証型再生スキーム」に入ることになります。 ◆今回のまとめ◆ ① 債務超過の原因が、過去のリーマンショックによるものであり、事業性の問題ではなかった。 ② 事業は徐々にではあるが、収益改善傾向であった。 ③ 債権者も債務者も自力再生を望んでいたが、当初よりマーケットの声は異なっていた。 ④ 活性化協議会検証型による迅速な再生計画の作成着手。 奇しくも、新型コロナウイルス感染拡大が抜本再生にむけて経営者の背中を押すことになったわけですが、次号においてはその顛末について述べていきたいと思います。 (つづく)
《速報解説》 国税庁が「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ」を公表 ~金額計算のための算式や相続・贈与時の評価方法についても一部明らかに~ Profession Journal編集部 令和5年1月13日、国税庁はNFTに関する税務上の取扱いに係るFAQを公表した。 FAQでは、NFT(Non-Fungible Token)について、「ブロックチェーン上で、デジタルデータに唯一の性質を付与して真贋性を担保する機能や、取引履歴を追跡できる機能をもつトークン」をいうとし、NFTに関する税制上の取扱いに係る一般的な質問について、【所得税・法人税関係】、【相続税・贈与税関係】、【源泉所得税関係】、【消費税関係】、【財産債務調書・国外財産調書関係】に分けたうえで全15問を紹介している。 まず、【所得税・法人税関係】の最初の1問として「NFTを組成して第三者に譲渡した場合(一次流通)」を取り上げている。具体的な内容としては次のとおり。 (※) 国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて(情報)」3頁より抜粋 上記のほか7問が取り上げられ、解説とともに金額計算のための算式なども一部示されている。 次に【相続税・贈与税関係】では、NFTを贈与又は相続により取得した場合の取扱いが示されており、NFTの評価方法についても言及しているほか、【源泉所得税関係】では、NFT取引に係る源泉所得税の取扱いとして、NFTの購入代価を支払う際に、「著作権の使用料」として所得税を源泉徴収する必要があるかどうかについて取り上げている。 また、【消費税関係】では、NFT取引に係る消費税の取扱いについて、「デジタルアートの制作者」である場合と「デジタルアートに係るNFTの転売者」である場合に分けて解説している。 最後に【財産債務調書・国外財産調書関係】では、そもそもNFTを保有している場合に財産債務調書・国外財産調書への記載が必要かどうか、また、必要な場合の価額の記載方法を示している。 * * * 今後、ブロックチェーン技術の発展、浸透とともにNFTに関する取引等の増加が見込まれる。それに伴いNFTに関する税制上の取扱いについて新たな疑問が生じることも想定されることから、本情報の更新については注視しておきたい。 (了)
2023年1月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.502を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。