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《速報解説》 ASBJが、IFRS等との整合性を考慮した「リースに関する会計基準(案)」等を公表~使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを提案~

《速報解説》 ASBJが、IFRS等との整合性を考慮した「リースに関する会計基準(案)」等を公表 ~使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを提案~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年5月2日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際財務報告基準(IFRS)及び米国財務会計基準におけるリースの会計処理等との整合性を考慮し、「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)及び「リース取引に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第16号)を改正するものである。 公開草案は、現行の「リース取引」の用語を「リース」の用語へ改正するなど多くの改正を提案しており、また、関連して、企業会計基準公開草案第74号「『固定資産の減損に係る会計基準』の一部改正(案)」、企業会計基準公開草案第78号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」など多くの公開草案が公表されている。 後述するように、日本公認会計士協会の実務指針等についても、多くの公開草案が公表されている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 1 借手の会計処理 借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(会計基準案BC12項、BC34項)。 2 貸手の会計処理 貸手の会計処理については、次の点を除いて、基本的に、企業会計基準第13号の定めを維持する(会計基準案BC12項)。   Ⅲ 主な内容 1 範囲 本会計基準案は、契約の名称などにかかわらず、次の①から④に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(会計基準案3項)。 なお、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に適用する(会計基準案BC17項)。 2 リースなどの定義 例えば、次の用語の定義が規定されている(会計基準案5項~13項、適用指針案4項)。 IFRS 第16号の定めと整合させており、借手と貸手の両方に適用する(会計基準案BC21項)。 3 リースの識別 リースの識別に関する規定として、主に次のものを定める(会計基準案23項~28項、適用指針案5項~14項)。 次のことに注意する。 4 リース期間 5 借手のリースの会計処理 借手は、IFRS第16号と同様に、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上する(会計基準案31項~33項、適用指針案16項、17項、21項~23項、25項~34項)。 企業会計基準適用指針第16号における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法は踏襲しない。 6 短期リースに関する簡便的な取扱い 借手は、短期リースについて、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認める(企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であるリースをいう(適用指針案4項(2))。 7 少額リース 次の(1)又は(2)について、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認める。 8 借地権の設定に係る権利金等 借地権の設定に係る権利金等は、使用権資産の取得価額に含め、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行う(適用指針案24項)。 ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、一定の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことを認める。 9 利息相当額の各期への配分 リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額は、利息相当額として取り扱い、当該利息相当額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は利息法による(会計基準案34項、適用指針案35項~39項。企業会計基準第13号、企業会計基準適用指針第16号及びIFRS第16号と同様)。 ただし、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合についての簡便的な取扱いを規定する。 10 使用権資産の償却 使用権資産の償却について、基本的に企業会計基準第13号及び企業会計基準適用指針第16号におけるリース資産の償却と同様の会計処理を行う。 11 リースの契約条件の変更 「リースの契約条件の変更」とは、リースの当初の契約条件の一部ではなかったリースの範囲又はリースの対価の変更(例えば、1つ以上の原資産を追加もしくは解約することによる原資産を使用する権利の追加もしくは解約、又は、契約期間の延長もしくは短縮)をいう(会計基準案22項)。 リースの契約条件の変更が生じた場合の会計処理等を規定する。 12 リース期間に含まれない再リース 企業会計基準適用指針第16号は、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として、発生時の費用として処理する取扱いを規定している。 当該規定は、IFRS第16号にはないが、本会計基準案等では、対象となる再リースを特定したうえで、当該取扱いを踏襲する。 借手は、リース開始日及び直近のリースの契約条件の変更の発効日において再リース期間を借手のリース期間に含めないことを決定した場合、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことを認める。 13 セール・アンド・リースバック取引 「セール・アンド・リースバック取引」とは、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下「リースバック」という)する取引をいう(適用指針案4項(11))。 次のことが規定されている。 14 貸手のリースの会計処理 ファイナンス・リースの会計処理について、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性から、企業会計基準適用指針第16号で規定されていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」を廃止する。 15 オペレーティング・リース 企業会計基準第13号では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めている。 本会計基準案等では、フリーレント(契約開始当初数ヶ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にして収益認識会計基準との整合性を図るため、貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することとする(会計基準案46項、適用指針案78項、BC104項)。 16 サブリース取引 「サブリース取引」とは、原資産が借手から第三者にさらにリース(以下「サブリース」という)され、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引をいう(適用指針案4項(12))。 当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」という(適用指針案4項(12))。 サブリース取引は、IFRS第16 号と同様に、ヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行う(適用指針案85項~89項)。 17 転リース取引 サブリース取引のうち、原資産の所有者から当該原資産のリースを受け、さらに同一資産を概ね同一の条件で第三者にリースする取引を転リース取引という(適用指針案89項)。 転リース取引の会計処理について、本会計基準案等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに認める。 18 借手の開示(表示及び注記) 使用権資産について、次のいずれかの方法により、貸借対照表において表示する(会計基準案47項)。 リース負債について、貸借対照表において区分して表示する又はリース負債が含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案48項)。 貸借対照表日後1年以内に支払の期限が到来するリース負債は流動負債に属するものとし、貸借対照表日後1年を超えて支払の期限が到来するリース負債は固定負債に属するものとする。 リース負債に係る利息費用について、損益計算書において区分して表示する又はリース負債に係る利息費用が含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案49項)。 借手の注記として、次のものを注記する(会計基準案53項)。 19 貸手の開示(表示及び注記) 貸手の会計処理について、収益認識会計基準との整合性を図る点並びにリースの定義及びリースの識別を除いて、基本的に企業会計基準第13号の定めを踏襲しており、貸手の表示についても、企業会計基準第13号を踏襲する。 リース債権及びリース投資資産のそれぞれについて、貸借対照表において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案50項。重要性が乏しい場合の規定あり)。 リース債権及びリース投資資産について、当該企業の主目的たる営業取引により発生したものである場合には流動資産に表示する。 当該企業の主目的たる営業取引以外の取引により発生したものである場合には、貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に入金の期限が到来するものは流動資産に表示し、入金の期限が1年を超えて到来するものは固定資産に表示する。 次の事項について、損益計算書において区分して表示する又はそれぞれが含まれる科目及び金額を注記する(会計基準案51項)。 貸手の注記として、次のものを注記する(会計基準案53項)。   Ⅳ 適用時期等 本会計基準は、20XX年4月1日[公表から2年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 ただし、20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる。 経過措置に注意する(本会計基準案等においては、企業会計基準第13号を定めた時の経過措置について継続して適用できることなど)。   Ⅴ 日本公認会計士協会の実務指針等の改正案 例えば、次の実務指針等の改正に関する公開草案が公表されている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 また、「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」(会計制度委員会報告第5号)は廃止する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/05/09

プロフェッションジャーナル No.517が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年4月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.517を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/04/27

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第25回】「事実認定による否認論をめぐる判例の動向」-「租税法上の一般原則としての平等原則」は事実認定による否認論を正当化することができるか-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第25回】 「事実認定による否認論をめぐる判例の動向」 -「租税法上の一般原則としての平等原則」は事実認定による否認論を正当化することができるか-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は、租税回避の否認に関して租税法律主義の下で否認規定必要説が確立されてきたとの理解を述べたが、その際に、否認規定必要説の確立において重要な役割を果たしたものと解される土地相互売買[岩瀬]事件・東京高判平成11年6月21日訟月47巻1号184頁が、後に最高裁が私法上の法律構成による否認論を含め広く事実認定による否認論に対して慎重ないし否定的な態度をとることに道筋を示したとの理解も述べたところである(Ⅲ2参照)。 ただ、第15回においては、財産評価基本通達総則6項事件・最判令和4年4月19日民集76巻4号411頁(以下「令和4年最判」という)を目的論的事実認定の側から検討しその検討を通じて、同最判が財産評価に係る事実認定による否認を「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化したものであるとの理解を述べた上で、最高裁において財産評価についても事実認定による否認論に関する従来の否定的な立場に軌道修正すべき旨を述べた(Ⅲ3参照)。とはいえ、それで令和4年最判という難解な判決について検討し尽くしたとは思われず、その後も検討を重ね、その一部を公表したが(第21回Ⅳ参照)、改めて本格的に検討し直しその成果を公表しようと考えてきたところである。 そこで、事実認定による否認論に関する判例の従来の否定的な立場については既に検討したところ(拙著『租税回避論』(清文社・2014年)210-215頁[初出・2011年]のほかに、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第9回、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【75】)を参照していただくとして、今回は、令和4年最判の判断過程及び判断内容をもう一度整理し直し、事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」(上記拙著【74】参照)の側から第15回における検討を見直し再構成した上で、「租税法上の一般原則としての平等原則」によって事実認定による否認論を正当化することは租税法律主義の下では許容されないことを明らかにすることにする(Ⅲ)。その検討に入る前に、次のⅡで、財産評価が事実認定であること及びそのことの法的意味を確認しておくことにしよう。   Ⅱ 財産評価と事実認定 1 財産評価の法的性格 第15回では、財産評価を事実認定として性格づけることを前提にして令和4年最判を検討したが、財産評価のそのような性格づけは筆者だけでなく(前掲拙著『税法基本講義』【56】参照)、他の論者によっても説かれるところである。例えば下記の如くである(①碓井光明「相続財産評価方法と租税法律主義」税経通信45巻15号(1990年)9頁、②岩﨑政明「財産評価通達の意義と役割」ジュリスト1004号(1992年)27頁、29頁、③金子宏『租税法理論の形成と解明 下巻』(有斐閣・2010年)368頁[初出・2000年]、④増井良啓「租税法の形成における実験―国税庁通達の機能をめぐる一考察」中山信弘=中里実編『政府規制とソフトロー〔ソフトロー研究叢書第3巻〕』(有斐閣・2008年)185頁、194頁)。 いずれにせよ、財産評価の法的性格を事実認定として捉える考え方は、法的三段論法に基づく法的判断の構造から論理必然的に導き出すことができる、といってよかろう。 このように財産評価の法的性格を事実認定として捉えると、令和4年最判の争点を「財産評価基本通達総則6項の適用問題」として議論するのはミスリーディングであるように思われる。というのも、財産評価が事実認定であり財産評価基本通達がその方法等を定めるもの(上記③の見解では「適用通達」ないし「認定通達」)である以上、同通達の定めにより難い場合(いわゆる「特別の事情」がある場合)に異なる方法等を採用することは、財産評価という事実認定の合理性を担保するために当然必要なことであり、同通達総則6項はそのことを確認しているにすぎないからである。つまり、同通達総則6項は、国税庁長官の指示に係る部分以外は、税務行政の外部にいる納税者や裁判所にとっても事実認定のあり方として当然のことを確認しているにすぎないのである。このような意味で、令和4年最判が判決理由の中で同通達総則6項に言及しなかったのは正当である(そもそも評価通達それ自体について「国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。」と判示している)。 なお、法的三段論法に基づく法的判断という場合における「法的判断」という言葉は、「民事裁判は、事実の確定および法に依拠した判断という作業によって構成されるものであ[る]」(広中俊雄『新版民法綱要 第一巻 総論』(創文社・2006年)42頁)といわれる場合の「法に依拠した判断」(法的判断をこの意味で理解するものとして広渡清吾「法的判断と政策形成―『法律』と『法』の間―」法社会学63号(2005年)15頁、16頁参照)よりも広く、「事実の確定」を含む法の適用過程全体を通じて行われる判断という意味で、用いているが(筆者は前者を「狭義の法的判断」といい、後者を「広義の法的判断」ということにしている)、ただ、「事実の確定」と区別して用いる上記の用語法も、次の2の検討との関係では有益な示唆を与えてくれるように思われる。 2 租税法律主義の下における事実認定と税法的評価(狭義の税法的判断)との峻別・遮断 財産評価に関する前記のような性格づけを前提にして、次に問題にすべきは、事実認定と認定事実(認定される事実)に対する狭義の法的判断との関係をどのように考えるかである。この関係については一般に次のように考えられている(亀本洋『法的思考』(有斐閣・2006年)383頁[初出・1999年]。下線・傍点筆者)。 ただし、「事実認定の事実判断性」の観点からは事実認定について次の指摘がされている(山木戸克己『民事訴訟法論集』(有斐閣・1990年)54頁[初出・1976年]。下線筆者)。 これらの見解からすると、事実認定と法的な観点からの法的評価とは密接不可分の関係にあるが、「法的評価と切り離した限りでの事実認定」においては、「純然たる事実判断」を理念として想定した上で、これを行うべきことになろう。このことは、租税法律主義の下での事実認定については特に強く要請されると考えられる。 それは、租税法律主義の下では、課税要件事実の認定において行われる種々の法的評価(契約解釈、会社法会計等)のうち税法的評価については、税法上の明文の規定に基づいてこれを行うことが要請されるからである。そうでなければ、租税法律主義は、税法の適用の実際において、事実認定を通じて、その存在意義を喪失することになろう。 要するに、租税法律主義の下では、事実認定と認定事実に対する税法的評価との関係について、後者は、課税要件法の解釈によって定立された規範に認定事実を当てはめる際に当該規範に照らして行うべきものとして、前者とは峻別し遮断すべきであると考えるところである(第21回Ⅳ参照)。つまり、後者は、税法における狭義の法的判断すなわち狭義の税法的判断として、法的三段論法では当てはめ(包摂)の段階に位置づけられるべき判断である(この点に関して有益な示唆を与えてくれるドイツ税法の研究として、岩﨑政明「租税法における経済的観察法-ドイツにおける成立と発展-」筑波法政5号(1982年)30頁、67-69頁等参照)。 なお、筆者は上記のような考え方に基づいて、「ナマの事実」という言葉を、税法の適用・税法的評価を受ける前の事実という意味で用い、これには①事実状態や事実行為の探知だけでなく、②法律行為・契約の解釈、③公正妥当な会計処理(法税22条4項)の結果の確認、及び④財産評価も含まれるとの理解を示してきた(前掲拙著『税法基本講義』【56】参照)。   Ⅲ 「租税法上の一般原則としての平等原則」と事実認定による否認論の正当化 1 令和4年最判の判断過程及び判断内容 さて、ここで令和4年最判の判断過程をみておこう。詳しくは第15回における検討を参照していただくことにして、以下では、その骨子のみを述べておくことにする。 令和4年最判は、相続税法22条の適用について、「租税法上の一般原則としての平等原則」との関係で、「相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。」(下線筆者。以下「前提判示」という)と判示した上で、次のとおり判示した(下線及び[❶]~[❺]筆者)。 この判示を判断過程に即して整理すると、それは、前記の前提判示に従って(イの冒頭の「これを本件各不動産についてみると」)、下線部❶で原則的判断を示した上で、それに対する例外的判断として、(1)まず、本件購入・借入れ、本件各通達評価額及び本件被相続人に係る法定相続人の数という事実(以下「本件各認定事実」という)に対する税法的評価(狭義の税法的判断)の観点として、㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)及び㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という観点を設定し、(2)次に下線部❹で、それらの観点に照らして本件各認定事実を評価しているが、そこでは、本件各通達評価額が「本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者」との間で生じさせる「看過し難い不均衡」を「実質的な租税負担の公平に反する」と評価し、もって前記の前提判示にいう「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の存在を肯定し、(3)最後に下線部❺で、本件各更正処分に係る本件各鑑定評価額を、平等原則違反でないとして、相続税法22条に当てはめることにより、結論に至っている。 以上のような判断は、平等原則(憲法14条1項)に関する判例・通説の平等判断枠組み、すなわち、相対的平等の観念に基づき差別(不合理な区別)の禁止あるいは合理的区別の許容の意味での平等原則に基づく判断枠組みを、前記の前提判示で出発点とし、少なくとも「表層的には」これに従った判断であると解されるが、しかし、その判断枠組みが前記判断過程の最後まで、しかも内容的にその判断の「深層まで」貫徹されているとはいえないように思われる(第15回Ⅲ2参照)。この点について、以下では、第15回の検討を事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」の側から見直し再構成することにしたい。 なお、以下の検討は、主として前記の例外的判断について行うが、その前に、前記の原則的判断について次の点を指摘しておくことにする。すなわち、下線部❶は、最高裁が財産評価について「租税法上の一般原則としての平等原則」の適用上「評価額の幅」を認めたものとして重要な意味をもつ判断であると考えられる(筆者とは異なる観点からではあるが「評価額の幅」を検討するものとして、酒井克彦「いわゆるタワマン評価事件に関する諸論点(中)-最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決-」税理66巻3号(2023年)175頁、179頁以下参照)。 そもそも、財産評価も前述のとおり事実認定である以上、裁判において裁判官は、税務行政と同様「その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情」(財産評価基本通達1(3))を経験則に基づき一定の合理的な方法により考慮し財産評価を行うが、自由心証主義に従い、その考慮は裁判官の自由な判断に委ねられることから、財産評価において「評価額の幅」は観念されて然るべきものである。この点においては、税務行政による財産評価も同様であり、裁判官による事実認定に関する自由心証主義に基づく判断に基本的に相当する裁量的判断が税務行政による財産評価にも認められるが(「事実の前における国家機関の対等・平等」については前掲拙著『税法基本講義』【56】参照)、このことは納税者による財産評価についてもいえることである。 2 「裁判規範としての租税回避否認規定」の措定 さて、前記の原則的判断に対する例外的判断についてであるが、まず、財産評価に関する判断に当たって、どのような理由・目的で本件各認定事実に対する税法的評価(狭義の税法的判断)の観点として、㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)及び㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という観点を設定したのかを明らかにすることから、検討を始めることにする。 上記の2つの観点は、上述のとおり、本件各認定事実に対する税法的評価(狭義の税法的判断)の観点であるから、論理的には、本件各認定事実を当てはめるべき課税要件規定からその解釈によって導き出されるべきものである。このような意味で「観点」という語を用いたものと解される判例として、未処理欠損金額引継規定濫用[ヤフー]事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁の次の判示(下線筆者)を挙げることができる。 この判示にいう「観点」は、法人税法132条の2という租税回避否認規定からその解釈によって導き出された要件事実であると解される(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)306頁[初出・2017年]、326頁[初出・2018年]、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第10回Ⅱ参照)。 そうすると、令和4年最判が設定した㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)及び㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という観点も、本件に適用されるべき租税回避否認規定から導き出される要件事実であるとみることができよう。ただ、前記のヤフー事件最判と異なり、令和4年最判は、法人税法132の2のような明文の租税回避否認規定の適用が問題にならない本件では、不文の租税回避否認規定を措定してこれから上記の2つの観点を導き出したものと考えられる。しかも、令和4年最判が措定したものと考えられる租税回避否認規定は、法人税法132条の2のような代替的・補充的課税要件規定という意味での租税回避否認規定(前掲拙著『税法基本講義』【72】参照)ではなく、事実認定による否認論において適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」(同【74】参照)であり、その意味で「不文の租税回避否認規定」であると考えるところである。 以上の検討に基づき、以下では、㋐相続税負担の著しい軽減(下線部❷)という要件事実を内容とする否認要件をⓐ顕著軽減要件といい、㋑租税負担軽減の意図(下線部❸)という要件事実を内容とする否認要件をⓑ軽減意図要件ということにする。 3 「裁判規範としての租税回避否認規定」の適用 次に、本件各認定事実に対する税法的評価(狭義の税法的判断)に当たって、下線部❹は、本件各認定事実のうち本件購入・借入れについてⓑ軽減意図要件が充足されているとの判断を前提として、これを本件各通達評価額と結びつけてⓐ顕著軽減要件が充足されていると判断した。なお、本件各認定事実のうち本件被相続人に係る法定相続人の数についてはⓑ軽減意図要件の充足が問題にされていなかったので、判断の対象とされなかったものと考えられる。 そうすると、令和4年最判が下線部❷及び下線部❸で措定した「裁判規範としての租税回避否認規定」は、論理的には、本件購入・借入れ及び本件各通達評価額に適用され、両者による相続税負担軽減を否認することに帰結することになりそうである。しかし、令和4年最判は、本件購入・借入れによる相続税負担軽減は否認せず、本件各通達評価額による相続税負担軽減のみを否認した(以下では、大石篤史「財産評価の否認」金子宏=中里実編『租税法と民法』(有斐閣・2018年)168頁の表現をお借りし、前者につき「法形式の否認」、後者につき「財産評価手法の否認」という見出しを用いることとさせていただく)。この結論に至る論理構成をどのように理解すべきであろうか。 (1) 法形式の否認 まず、本件購入・借入れによる相続税負担軽減は、債務控除(相税13条)の利用による一種のタックス・シェルター(tax shelter)であり、租税回避に該当すると考えられる(前掲拙著『税法基本講義』【69】参照)。そうすると、本件購入・借入れは、租税回避の定義(ここでは経験的事実を前提とする租税回避の定義。上記拙著【66】参照)によれば、「異常な」行為ということになるが、問題は本件購入・借入れについてどのような行為を「通常の」行為として想定するかである。この問題については、本件購入・借入れをしないことも私的自治の原則の下では当然認められるので、本件購入・借入れをしないことを「通常の」行為として想定すべきことになろう。 しかし、令和4年最判は、そのような「通常の」行為への引き直しによって本件購入・借入れを否認することはしなかった。この点については、最高裁は租税法律主義を尊重し、その否認のためには明文の根拠規定が必要である(否認規定必要説)にもかかわらず、そのような規定が現行法上定められていないことを重視したものと解される(前回Ⅲも参照)。その限りでは、令和4年最判も、事実認定による否認論に関する従来の否定的な立場(前記Ⅰ参照)を堅持したものといえよう(このことは第15回における検討では明らかにできなかったことであるが、ここで、その旨を記しておく)。 (2) 財産評価手法の否認 次に、本件各通達評価額による相続税負担軽減については、令和4年最判は、「租税法上の一般原則としての平等原則」の適用上、財産評価に「評価額の幅」を認め本件各鑑定評価額もこれに収まること(下線部❶。前記1参照)を前提にして、本件各通達評価額を本件各鑑定評価額に引き直したものと解される。 そのような引き直しについても、本件購入・借入れの場合と同じく現行法上明文の根拠規定は定められていないが、にもかかわらず、令和4年最判がそれを認めたのは、本件各鑑定評価額も「評価額の幅」に収まるものとして「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化することができると判断したからであると考えられる。 ここに、令和4年最判が「租税法上の一般原則としての平等原則」を援用した真の意図を見出すことができるように思われる。すなわち、令和4年最判が「租税法上の一般原則としての平等原則」を援用したのは、事実認定による否認論において措定される「裁判規範としての租税回避否認規定」の適用を正当化するためであったと考えられるのである。 しかしながら、事実認定による否認論は、明文の規定がある場合にしか租税回避の否認を許容すべきでないとする租税法律主義の要請を訴訟の場面で潜脱することから、租税法律主義に違反する考え方である(前掲拙著『税法基本講義』【75】、前掲拙著『税法創造論』344頁参照)。したがって、これを「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化することは許容されないと考えられる。 ここで、もし「租税法上の一般原則としての平等原則」が租税平等主義ないし租税公平主義(憲法14条1項)を意味するとしても、そこで要請される租税負担の平等・公平は租税法律を離れて観念されるものではなく租税法律の中に含まれているものとして観念されるべき平等・公平であること(「含み公平観」については前掲拙著『税法基本講義』【21】参照)からすると、そもそも租税法律主義に反する事実認定による否認論において措定される「裁判規範としての租税回避否認規定」の適用を「租税法上の一般原則としての平等原則」によって正当化することはできないであろう。 むしろ、「租税法上の一般原則としての平等原則」は、上記のような客観的な憲法原則としての租税平等主義・租税公平主義を意味するものではなく、「実質より見た現行租税法における基礎原則」としての「公平負担の原則」とりわけ「租税法の解釈適用における公平負担の原則」(田中二郎『租税法〔第3版〕』(有斐閣・1990年)87頁、88頁、89頁)を意味するものと解される(第15回Ⅲ4参照)。これは実質主義ないし実質課税の原則とも呼ばれる考え方であり、税制調査会が国税通則法の制定に当たって「租税制度を構成するについて公平の原則が重要視されるべきことを述べたのであるが、このようにして構成された租税制度のもとで現実に課税を行なう場合においても、租税負担の公平を図ることが重要であることは勿論である。」(同「国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)」(昭和36年7月)9頁)として、その実定法化を提案したものである。 公平負担の原則ないし実質主義は、次の見解(田中・前掲書89頁。下線筆者)で述べられていることからしても、租税法律主義と明らかに抵触する内容を含む考え方である。 令和4年最判では、「租税法上の一般原則としての平等原則」も、「実質的な租税負担の公平」を要請するものとされているが、同最判がその要請を実定税法上の明文の規定に基づくことなく事実認定による否認論の正当化のために援用したことは、そもそも、租税法律主義に反し許容されないと考えるところである。この点について、次の見解(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])A20頁[中川一郎執筆]。下線筆者)は正鵠を射たものである。 事実認定による否認論は、要件事実論の観点から課税要件法の解釈にアプローチしその目的(租税負担の公平)の考慮に基づき、上記の見解が述べているような「補正解釈」という手法を用いて、課税要件法を「裁判規範としての租税回避否認規定」として再構成する考え方であるが(前掲拙著『税法基本講義』【74】、同『税法創造論』342-345頁[初出・2016年]のほか、司法研修所編『増補 民事訴訟における要件事実 第一巻』(法曹会・1986年)10-11頁も参照)、令和4年最判が「租税法上の一般原則としての平等原則」を課税要件法(本件では相税22条)のそのような「補正解釈」の根拠として援用しているかどうか(平等原則の法規創造力の有無及び程度の問題)はともかく、少なくともその「補正解釈」によって措定した「裁判規範としての租税回避否認規定」(ⓐ顕著軽減要件及びⓑ軽減意図要件)の適用を正当化したものと解されることから、「租税法上の一般原則としての平等原則」によるそのような正当化を許容しない私見は、基本的な考え方(租税法律主義重視・貫徹思考)の点で上記の見解と通ずるところがあるように思われる。 なお、前記の見解にいう「補正解釈」という実質的立法について付言しておくと、次の見解(品川芳宣「判批」TKC税研情報31巻4号(2022年)15頁、25頁)は、いわゆる三年しばり特例(平成8年法律第17号による改正前の措置法69条の4)のような措置を想定して説かれたものと思われるが、傾聴に値する見解である。   Ⅳ おわりに 今回は、事実認定による否認論をめぐる判例の動向に関連して、従来の否定的な立場とは異なりこれを認めたものと解される令和4年最判の判断を、事実認定による否認論において措定・適用される「裁判規範としての租税回避否認規定」の側から検討した結果、「租税法上の一般原則としての平等原則」によって事実認定による否認論を正当化することは租税法律主義の下では許容されない旨の結論を述べた。 ただ、この結論を確定するには、なお解明すべき問題が残されていると考えるところである。それは、前記Ⅲ3(2)の最後の方で述べた平等原則の法規創造力の有無及び程度の問題であり、憲法規範論の観点から平等原則それ自体について検討すべきものである。この問題に関する検討は、別稿(井上典之ほか編『棟居快行先生古稀記念 もうひとつの憲法学(仮)』(信山社・2025年刊行予定)に寄稿させていただく予定の「税法における平等原則(租税平等主義)の意義と課題(仮)」)において行うことにするが、その検討をもって令和4年最判に対する「判例・通説の平等判断枠組みの『表層的確認』」(第15回Ⅲ2)及び「判例・通説の平等判断枠組みの『深層的濫用』」(同3)という評価を確定させたいと考えている。 (了)

#No. 517(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/04/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例121(相続税)】 「被相続人の特定居住用宅地等に該当するにもかかわらず、建物所有者が実母であり、別居中の配偶者が取得したため、「小規模宅地等の特例」は適用できないものと誤認し、適用を受けずに申告してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例121(相続税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4) 相続により取得した財産のうちに被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で建物や構築物の敷地の用に供されているものがある場合には、一定要件のもとこれらの宅地等につき一定割合の評価減が受けられる。なお、この特例は借地権にも適用がある。 ◆特定居住用宅地等を配偶者が取得した場合(措法69の4③二) 被相続人の居住の用に供されていた宅地等を、被相続人の配偶者が取得した場合には、無条件で特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例により、330㎡まで80%減額の適用が受けられる。 ◆被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲(措通69の4-7) 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等とは、次に掲げる宅地等をいうものとする。 ◆小規模宅地等の特例における申告要件(措法69の4⑦) 小規模宅地等の特例の適用に関しては、申告要件が付されており、相続税の期限内申告書(その申告に係る期限後申告書及び修正申告書を含む)にこの特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類の添付がある場合に限り適用することとされている。 したがって、当初申告において小規模宅地等の特例の適用がある宅地等に特例を適用しないで申告した場合には、更正の請求はできない。 ◆小規模宅地等の特例における宅地等の選択替えの可否(措令40の2⑤) 小規模宅地等の特例の適用において、特例対象宅地等が2以上ある場合又は特例対象宅地等を取得した者が2人以上あるときは、その選択に関する一定の書類を相続税の申告書に添付することとされている。 したがって、特例対象宅地等の選択は、相続税の申告において確定することとなり、その後において、宅地等についての選択替えは認められず、更正の請求もできない。 ◆国税通則法における更正の請求事由の場合(通則法23①) 申告書に記載した課税標準等もしくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又はその計算に誤りがあったことにより、その申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正の請求をすることができる。 したがって、例えば、小規模宅地等の特例の適用を満たしていない宅地等に誤って特例を適用し、後日これが判明した場合で、他に特例の適用を満たしている宅地等がある場合には、期限内の更正の請求により、改めてその他の宅地等に小規模宅地等の特例を適用することができる。       (了)

#No. 517(掲載号)
#齋藤 和助
2023/04/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第26回】「家屋の相続税評価額を固定資産税評価額に1.0を乗じて算定することは違法ではないとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第26回】 「家屋の相続税評価額を固定資産税評価額に1.0を乗じて算定することは違法ではないとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産評価基準における家屋の評価方法 家屋の相続税評価額として財産評価基本通達第3章89には、「家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条《固定資産課税台帳の登録事項》の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。」と定められており、別表1において家屋の固定資産税評価額に乗ずる倍率は1.0と定められている。つまり、家屋の相続税評価額=固定資産税評価額ともいえる。 固定資産評価基準において、家屋の評価は、木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という)の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、その評点数に評点一点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとするとし、各個の家屋の評点数は、当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとする。この場合において、家屋の状況に応じ必要があるものについては、さらに家屋の需給事情による減点を行うものとする(固定資産評価基準第2章第1節一、二)。 上記を算式で表すと、次のようになる。 (※1) 評点一点当たりの価額とは、1円 × 物価水準による補正率 × 設計管理費等による補正率を基礎として市町村が定めるもの(固定資産評価基準第2章第4節二) ・物価水準による補正率:木造1.00、0.95、0.90の3区分、非木造一律1.00 ・設計管理費等による補正率:木造1.05、非木造1.10 再建築費は、その家屋と同一のものを評価時点で建築した場合に必要とされる建築費のことであるから、所得税や法人税の所得の計算において取得価額に基づいて減価償却費が計算されることとは異なることになる。また、固定資産評価基準で定められている経年減点補正率の最低限度が0.2であるため、原則として、固定資産税評価額が0となることはないことから、耐用年数を経過すると固定資産税評価額が固定資産の帳簿価額よりも高くなる。 このように家屋の固定資産税評価額と財務諸表に表示される有形固定資産の価額は異なるものとなる。特に、耐用年数を経過した後の家屋について、再建築価額の20%相当額が継続されることについては、疑問のある人もいる。 そこで今回は、相続税評価額について固定資産税評価額に1.0を乗ずる課税標準に対し、異議を唱えた納税者の事例について検討する。   ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。   ▷地裁における当事者の主張 甲と課税庁の主張を簡単にまとめると次のようになる (※2) 耐用年数省令6①、別表第11の「平成19年3月31日以前に取得をされた減価償却資産の残存割合表」において、別表第1、別表第2、別表第5及び別表第6に掲げる減価償却資産(同表に掲げるソフトウエアを除く)の残存割合が100分の10と定められていることを指す。   ▷地裁の判決は 地裁は、次のように述べて甲の請求を棄却した。 上記より、甲の請求は理由がないとされた。 これに不服な甲は控訴したが、高裁においても甲の請求は棄却された。 *   *   * このように固定資産税評価額の残価率20%は合理的であると判断された。制度で決められた方法を否定し、独自の方法により評価額の正当性を主張することは難しい。 なお、地裁の判決において、「木造家屋(中略)の経年減点補正率(最終残価率)を一律20%としているが、これは、一定年数に達してなお使用される家屋について、通常の維持補修を加えた状態において、家屋の効用を発揮し得る最低限の状態を捉えるとした場合に、建物が劣化していても、人が所有している限り何らかの効用が期待され、価値が生じているという考え方に基づくものと解され、この残価率に関する考え方は、家屋の特質を踏まえたものとして合理性を有するというべきであるし、最終残価率が20%であることについては、木造家屋の再建築価額全体に占める主要構造部の割合がおおむね20%であることに基づくもの」として、残価率20%の合理性の根拠が述べられている。 (了)

#No. 517(掲載号)
#菅野 真美
2023/04/27

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第16回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第16回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解⑦」   東洋大学法学部准教授 泉 絢也     問9 NFTを贈与又は相続により取得した場合 経済的価値のあるNFTが贈与税や相続税の対象になることは当然であるとしても、NFTの評価方法について、実務家は頭を悩ませていた。 FAQの解説では、NFTの評価方法については評価通達に定めがないことから、評価通達5(評価方法の定めのない財産の評価)の定めに基づき、評価通達に定める評価方法に準じて評価するとしている。 そして、例えば、評価通達135(書画骨とう品の評価)に準じ、その内容や性質、取引実態等を勘案し、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するとしている。 ただし、現状では、ポジショントークをせずに、理論的かつ客観的にNFTの時価を算定してくれる精通者とはいったい誰なのか、そのような者がどのくらいいるのか、信頼できる評価方法としてどのようなものがあるかという問題がある。 逆にいえば、国税庁もNFTの時価評価には苦労することが予想されるため、結局、税務調査においては、直近の取引価格、オファー価格、フロアプライス(コレクション中の最低価格)などわかりやすい指標、入手しやすい指標が重視される可能性もある。 また、NFTの著作権者の相続が発生した場合には、評価通達148(著作権の評価)に準じた評価も候補に入ってくる。 また、解説では、課税時期における市場取引価格が存在するNFTについては、当該市場取引価格により評価して差し支えないとしている。   (了)

#No. 517(掲載号)
#泉 絢也
2023/04/27

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第15回】「TDK事件(審裁平22.1.27)(その2)」~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第15回】 「TDK事件(審裁平22.1.27)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第2項1号二・2号ロ、 租税特別措置法施行令39条の12第8項1号、 租税特別措置法通達66の4(4)-5(現行66の4(5)-4)~   税理士 松田 祐弥     5 審判所判断の検討 本件に関して今後の利益分割法の適用を検討する上で参照意義があると思われる各争点について、審判所判断をもとに検討する。 (1) 争点3 独立企業間価格の算定において、残余利益分割法を適用したことの適否 ① 基本三法又は基本三法と同等の方法の適用について 審判所は、本件国外関連取引は、重要な無形資産を介する一連の取引であるとの事実認定を行った上で、独立企業間価格の算定方法については「独立企業間価格の算定方法については、(・・・)基本三法が規定されており、基本三法が適用できない場合に、基本三法に準ずる方法その他政令で定める利益分割法等の適用ができるものとされている(※2)。同様に棚卸資産の販売又は購入に係る取引以外の取引に関する独立企業間価格の算定方法として、基本三法と同等の方法が規定され、基本三法と同等の方法が適用できない場合に、基本三法に準ずる方法と同等の方法その他政令で定める利益分割法と同等の方法が適用できることとされている」として、独立企業間価格算定方法に対する基本的な理解を示している。 (※2) 平成23年度税制改正により、基本三法の優先適用が廃止され、個々の事業の状況に応じて最も適切な方法を選定する方式(ベストメソッドルール)に改められた。 その上で、本件国外関連取引の一体性の有無に関して、「本件国外関連取引について基本三法及び基本三法と同等の方法が適用できるか否かを検討する前提として、まず、本件国外関連取引を一の取引とみるべきか否かについて検討するに、独立企業間価格の算定は、原則として個別の取引ごとに行うべきであるから、例外的に複数の取引を一の取引と見る場合には、個別の取引で評価するよりもより合理的であるとする理由が必要であるというべきである」として、基本的に個別に検討すべきとの判断を示した。 さらに、「本件では、請求人グループの行う一連の国外関連取引が一体的に営まれている事情は認められるものの、そのことから直ちに本件国外関連取引(・・・)を一の取引と見るべき合理的な理由は認められない」として、個別の国外関連取引ごとに独立企業間価格を算定することを検討すべきとの判断を示している。 複数の国外関連取引をまとめて評価することが適切な場合の判断基準を、その合理性に求めている点で本裁決はOECDの考え方(※3)に一致したものであり、妥当なものと考える。 (※3) OECD移転価格ガイドライン(2010年) パラ3.9 ② 残余利益分割法の適用について 審判所は、本件国外関連取引に係る独立企業間価格算定方法について、「基本三法及び基本三法と同等の方法を用いることはできないと認められる」としたうえで、「請求人及び国外関連者は、(・・・)それぞれ重要な無形資産を有しており、このような場合に残余利益分割法を適用することは有効な方法であると認められる」との判断を示した。 さらに、本件国外関連取引について、「・・・を最終製品とする一連の取引であり、利益分割法は請求人と国外関連者の営業利益の合計額を基本として用いられる移転価格算定手法であることから、本件棚卸資産及び本件無形資産供与取引のそれぞれについて利益分割法を検討するのではなく、国外関連取引に係る分割対象利益に影響がある非関連者間取引に挟まれる関連取引全体を対象に一つの移転価格算定手法を使って独立企業間価格を算定することには理由があると認められる」との判断を示した。 利益分割法は取引単位ごとに適用するのが原則であるところ、審判所は「利益分割法は請求人と国外関連者の営業利益の合計額を基本として用いられる移転価格算定手法であること」をもって本件国外関連取引を一体の取引として検証するとしている。これは利益分割法の説明をするに過ぎないトートロジーであり、本件国外関連取引が一体であると判断する根拠はここでは示されていない。本件国外関連取引は棚卸資産取引と無形資産供与取引が一体となって行われているとも考えられるが、審判所がその一体性を認めているものではないため、特に利益分割法の適用上、何をもって一体の取引と判断するのかの明確かつ客観的な基準に関しては、今後の検討課題であると考える。 (2) 争点4の③ A社が支出した研究開発費の負担金を請求人の分割指標としての研究開発費の金額に含めたことの適否 審判所は、「双方が所有する無形資産の価値を判断する要素については、法的な所有関係だけではなく、無形資産を形成等させるための活動において関連当事者の行った貢献についても勘案する必要があることから、当該無形資産の形成などのための意思決定、役務の提供、費用負担及びリスク管理において、関連当事者が果たした機能等を総合的に勘案し判断することが相当であると解される」としたうえで「請求人及びA社は(・・・)研究開発によりそれぞれ製造にかかる無形資産を形成していることから、研究開発費を残余利益の配分指標として用いる事は合理的であると認められる。また、(・・・)A社は(・・・)本件研究開発において相応の役割を果たしており、本件研究開発を通じて生じる(・・・)無形資産の形成等に貢献していると認められることから、本件負担金は、残余利益分割法による独立企業間価格の算定に当たっては、A社の分割指標としての研究開発費とみるのが相当である」(※4)との判断を下した。 (※4) 平成23年度改正前措置法通達66の4(4)-5では、残余利益の分割要因について「無形資産の価値に応じて、合理的に配分」を原則とし、なお書きで「無形資産の開発のために支出した費用等の額により行っている場合には、合理的な配分としてこれを認める」と規定していたが、平成23年度改正後の措置法通達66の4(5)-4では、「これらの者が有する無形資産の価額、当該無形資産の開発のために支出した費用の額等を用いることができる」との並立的な表現に変更された。 上記のとおり、審判所は分割要因の帰属先を請求人からA社に変更する必要があると判断し、A社側の所得配分割合が大きくなった結果、多額の移転所得金額の取消しを命じる裁決になったものであり、利益分割法を適用するにあたって、分割要因の果たす役割の重要性を強く認識させる事例であると考える。   6 まとめ 本裁決は、製造特許や商標権等の法的所有者だけでなく、無形資産を実質的に形成等を行った者にもその無形資産の経済的価値に見合った利益を帰属させるとする考えに基づくものである。 移転価格事務運営指針3-13(無形資産の形成、維持又は発展への貢献)においては、「無形資産の使用許諾取引等について調査を行う場合には、無形資産の法的な所有関係のみならず、無形資産を形成、維持又は発展(以下「形成等」という。)させるための活動において法人又は国外関連者の行った貢献の程度も勘案する必要があることに留意する。なお、無形資産の形成等への貢献の程度を判断するに当たっては、当該無形資産の形成等のための意思決定、役務の提供、費用の負担及びリスクの管理において法人又は国外関連者が果たした機能等を総合的に勘案する。この場合、所得の源泉となる見通しが高い無形資産の形成等において法人又は国外関連者が単にその費用を負担しているというだけでは、貢献の程度は低いものであることに留意する」とあるものの、リスク管理等の内容については詳細には定められていない。無形資産取引に係る移転価格課税は多額となる傾向にあるなか、納税者の予測可能性の確保という観点からも、国内の法令等で詳細について定める必要があると考える。   (了)

#No. 517(掲載号)
#松田 祐弥
2023/04/27

「人的資本可視化指針」の内容と開示実務における対応のポイント 【第3回】「人的資本の可視化のためのその他の考慮事項」

「人的資本可視化指針」の内容と 開示実務における対応のポイント 【第3回】 「人的資本の可視化のためのその他の考慮事項」   PwCあらた有限責任監査法人 ディレクター 公認会計士 北尾 聡子   【第2回】では、人的資本の可視化の方法について、参考となるフレームワークや考え方の紹介、可視化を行う際の実務上の対応のポイントの解説を行った。人的資本の可視化を推進することにより、企業は投資家の理解を得ながら、中長期的に企業価値の向上を実現することが期待されている。 【第3回】(最終回)においては、人事戦略を実質が伴った強靭なものとするための考慮事項として、可視化を支える基盤・体制づくりについて解説する。加えて、有価証券報告書における制度開示対応や積極的な任意開示を行う際の開示実務におけるポイントを解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。   第3章 人的資本の可視化のためのその他の考慮事項 1 可視化を支える基盤・体制づくり 人的資本の可視化を推進する上で、継続的かつ効果的な可視化を支える基盤・体制を整えることは重要である。可視化を支える「①基盤・体制の確立」と「②可視化戦略の構築」が一体的に取り組まれることで実質を伴うものになると考えられ、絵にかいた餅となっては意味がない。 そこで、本稿では、「①基盤・体制の確立」について解説する。「②可視化戦略の構築」については、【第1回】及び【第2回】で紹介した、(a)価値協創ガイダンスやIIRCフレームワーク、(b)人材版伊藤レポート、人材版伊藤レポート2.0、(c)FRC報告書、(d)逆ツリー分析を参照されたい。 (出典:内閣官房「人的資本可視化指針」P.32) (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.33をもとに筆者作成 ⇒ 経営トップには、リーダーシップを発揮する(本気度を示す)ことが求められる。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.33をもとに筆者作成 ⇒ 取締役会・経営会議等で議論した内容(頻度・深度)を開示することで、説得力(信頼性)が増す。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.34をもとに筆者作成 ⇒ 取締役会等で重要な指標・目標をモニターしていることは、「リスク管理」の開示要素として有効。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.33をもとに筆者作成 ⇒ 社内の議論が活発化し、従業員エンゲージメントの向上(*)も期待できる。 (*):従業員が、企業が目指す姿や方向性を理解・共感し、その達成に向けて自発的に(会社に)貢献しようという意識を持っていること(自発的意欲) (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.34をもとに筆者作成 ⇒ 横断的・統合的な組織対応を進めることで、効果的な可視化が実現できる。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」P.34をもとに筆者作成 ⇒ 取引先と綿密なコミュニケーションを取り、開示への協力を依頼するなどして、バリューチェーンにおける連携を深めることにより実効性のある取り組みを開示することができる。   2 開示実務における対応ポイント (1) 開示を検討するに際して参考となる代表的な開示事項の例(女性活躍推進法等、人的資本可視化指針、人的資本:開示事項・指標参考集などで紹介されている主な指標) (☆):2023年3月31日以後終了する事業年度の有価証券報告書の「従業員の状況」において開示することが求められている。 (※) 内閣官房「人的資本可視化指針」及び厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)」において女性活躍推進法等で求めている各種指標並びに金融庁「記述情報の開示の好事例集2022」で開示されている指標を参考に筆者作成 (2) 有価証券報告書における開示対応のポイント ① 従業員の状況で開示が求められている3つの指標 上記3つは、人材の多様性(ダイバーシティ)確保に関連した指標である。 〈開示の前提条件(開示対象範囲)、計算方法を明確にする〉 例えば、以下のような前提条件を補足情報として開示することが期待される。 〈財務数値や有価証券報告書内の関連数値との整合性・関連性を意識する〉 例えば、以下の点に留意することで、開示の信頼性を高めることが可能になると考えられる。 ② サステナビリティに関する考え方及び取り組みで開示が求められている事項への対応 〈戦略、指標及び目標を開示する上での留意すべき実務上のポイント〉 開示に際しての実務上の留意ポイントを、以下いくつか紹介する。ただし、これらはあくまで参考であり、最初から完成度の高いものを追求する必要はない点にご留意いただきたい。 (3) 任意開示を戦略的に活用した開示対応 企業は、有価証券報告書に加え、事業報告やコーポレートガバナンス報告書など法令や取引所のルールで求められる書類、あるいは統合報告書、サステナビリティレポート、中期経営計画、IRウェブサイトなど、さまざまな任意の媒体で情報開示に取り組んでいる。 これらの開示媒体は、それぞれ媒体ごと・企業ごとに説明の力点の置き方や情報の網羅性、開示対象として想定する主体が異なる。有価証券報告書の中に、人的資本を含むサステナビリティに関する開示がどんどん取り込まれることにより、有価証券報告書が統合報告書に近づき、将来的に統合報告書が不要になるのではないかという疑問を持たれるかもしれない。しかしながら、開示媒体ごとで、開示対象として想定する主体や開示目的・内容が異なることから、有価証券報告書と整合的かつ補完的な形で、任意開示をさまざまなステークホルダーへの発信と対話の機会として、戦略的に活用していくことが重要と考えられる。 ◆まとめ◆ 企業がこれまで開示していなかった事項を新たに開示するということは、はじめの第一歩(前進)を意味し、たとえ制度対応という消極的対応に映るものであったとしても、評価されるべきと考える。人的資本の可視化を最初から高い完成度で進めていくことは難しいため、段階的に社内体制の構築や議論を積み重ねながら、制度開示(有価証券報告書等)や任意開示への対応を充実させていく必要がある。 開示は、行う側と見る側、両方にとって意味のあるものでなければならない。一般に、企業はガバナンス体制図を示して各部署間の関係性を説明するが、外部から見るとその関係性がわかりづらい組織図になっているケースが実は多い。社内では当たり前に感じているものであるために、わかりづらさに気づきづらいためだと考える。同じように、なぜその開示を行っているのかを考え、改めて開示内容を見返したときに、実は読み手にとってわかりやすい開示にはなっていないことに気づくこともあるだろう。財務数値と異なり、人的資本にかかる指標に関しては、例えば有給休暇取得率、平均勤続年数等の指標が開示されていたとしても、その値を企業がなぜ開示しているのか、また、他社と比べて優れているのか、企業が目標として掲げているものとどれくらい乖離しているのかなどがわからなければ、せっかく開示をしてもあまり意味がないことになってしまう。 したがって、開示を行う側は、読み手(現在及び将来の投資家、従業員及び取引先等の幅広いステークホルダー)を意識した開示を行うことを心がけることが重要である。開示を見る側に積極的にフィードバックを求めることは、企業の開示を洗練させていくための必須の営みであると考える。企業が「人的資本の可視化」において、社内外からのフィードバックを取り入れ、開示の磨き上げを行い、人材戦略の構築・人的資本への投資を加速させ、持続的な企業価値向上に果敢に取り組むことが、今期待されている。   (連載了)

#No. 517(掲載号)
#北尾 聡子
2023/04/27

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第10回】「会計上の見積りの変更に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第10回】 「会計上の見積りの変更に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における会計上の見積りの変更に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 会計上の見積りを変更した場合、会計上の見積りの変更の内容や、会計上の見積りの変更が計算書類又は連結計算書類の項目に与える影響額等について、注記する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 会計上の見積りの変更に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき会計上の見積りの変更に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第102条の4)。 (※1) 将来への影響額を合理的に見積ることが困難な場合には、その旨を記載すれば足ります。 (2) 注記事項の解説 会計上の見積方法は、適用する方法によって損益の金額が異なる可能性があるため、原則として同じ方法を継続して適用することが求められますが、正当な理由がある場合には、見積方法を変更することができます。 この場合、財務諸表の期間比較を適切に行えるよう、2(1)に示したような注記事項の記載が求められます。 それでは、具体的にどのような注記が行われているのか、事例を見ていきましょう。 [株式会社キッツ 2022年12月期 連結注記表] ※株式会社キッツ「第109回定時株主総会招集ご通知に際しての電子提供措置事項」19頁より抜粋。 [株式会社白洋舎 2022年12月期 連結注記表] ※株式会社白洋舎「第130回定時株主総会招集ご通知」35頁より抜粋。 [市光工業株式会社 2022年12月期 連結注記表] ※市光工業株式会社「第93回定時株主総会招集ご通知」45頁より抜粋。 *  *  * 次回の第11回は、「表示方法の変更に関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 517(掲載号)
#竹本 泰明
2023/04/27

税理士事務所の労務管理Q&A 【第13回】「減給の制裁」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第13回】 「減給の制裁」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   無断欠勤や遅刻等が多い従業員に対して、制裁として減給する場合がありますが、今回は、減給する際の留意点等について解説します。 * * 解 説 * * 1 減給の制裁の上限 労働者が遅刻・早退や勤務時間中に無断で外出を繰り返したとき等に、制裁として減給処分を課すことがありますが、その額には、上限が定められています。 就業規則において、減給の額を定めることになりますが、減給の額は、1回の事案に対しては減給の総額が平均賃金(※1)の半額以内(※2)、一賃金支払期に発生した数事案に対しては、賃金の総額(※3)の10分の1以内にしなければなりません(労働基準法第91条)。 (※1) 平均賃金とは、原則として、平均賃金を算定しなければならない事由の発生した日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額をいいます(労働基準法第12条)。 (※2) 1日に3回の違反行為があった場合は、1回の減給額が平均賃金の半額以内であればよく、3回分の減給の合計額が平均賃金の1日分の半額を超えていても差し支えありません(基収1789号)。 (※3) 一賃金支払期に現実に支払われる賃金の総額をいいます。したがって一賃金支払期に支払われる賃金の総額が欠勤等のため少額になったときは、その少額となった賃金総額を基礎とします(基収1338号)。 したがって、例えば6ヶ月にわたって月給の10%をカットするという制裁処分をすることはできません。   2 遅刻・早退をした場合の取扱い 遅刻・早退をした時間分の賃金カットは制裁ではありません。遅刻・早退をした時間分を超える賃金カットが減給の制裁の対象になります。   3 二重処分 正式に減給の額を決める前に、とりあえず自宅待機等を命じることがありますが、1回の違反行為に対して、自宅待機を命じ、その後正式な処分として減給することは、1事案に対して二重の処分を課すことになり、刑法の一事不再理の原則(1つの犯罪に対しては、罪も1回限りとする原則)に反するので、適切な処分とはいえません。   4 勤務状況の悪い従業員の処遇 (1) 降格と減給処分 勤務態度が改まらないと、降格ということもありえますが、降格となると当然賃金は低下します。降格となったことによる賃金の低下は、減給の制裁ではありません。ただし、従前の職務に従事させつつ、賃金額のみを減じる場合には、減給の制裁となります(基収518号、基発917号)。 降格は実質的には、継続的な減給ですので、処分に当たっては相当の秩序違反に限って行うべきものと考えます。 (2) 解雇 勤務状況の悪い従業員を解雇する場合も考えられますが、解雇理由に正当性がなければ、解雇はできないのが一般的です。 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています(労働契約法16条)。 「客観的に合理的な理由」とは、誰が見ても解雇はやむを得ないと考えられる理由です。勤務状況が悪いというだけでは難しく、仮に訴訟になった場合などは、①就業規則に解雇事由を明確に定めておくこと、②勤務不良の客観的な裏づけ資料や再三の注意を誰がいつ、どのようにしたのか等を明確にしておくことが必要になります。 勤務状況の悪い従業員の処遇は、なかなか難しいと思いますが、減給の制裁のみならず、降格や解雇をする場合は、相当慎重にしなければなりません。 (了)

#No. 517(掲載号)
#佐竹 康男
2023/04/27
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