酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第110回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その4)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 2 説明内容の二重構造性 前回の1(1)のとおり、節税商品は二重構造性を有しており、融資契約を介在していることが多い。例えば、借入金を使って減価償却資産を購入し、支払利息の計上とキャッシュフローを伴わない減価償却費の計上を織り込むことで所得税や法人税を軽減する節税商品や、不動産が財産評価基本通達によって評価されることを前提として借入金を使って不動産を購入することで相続税を軽減させる節税商品などがそれである。 かような節税商品に特有な説明義務の問題として、「基本的契約に係る説明」と「課税上の取扱いに係る説明」という説明内容の二重構造性を指摘することができる。このことを、本稿においては「説明内容の二重構造性」と呼ぶこととする。 金融サービスの提供に関する法律(金融サービス提供法)は、金融商品販売業者等の説明義務として、顧客に対し重要事項について説明をしなければならないとする(金サ法4①柱書)。具体的には、商品の仕組みに係る説明義務について、例えば、「元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分」(同三ハ)(※1)とか、「当初元本を上回る損失が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分」(同四ハ)(※2)などと規定されているが、租税法に基づく節税構造についてまでも、かかる説明義務に包摂されているか否かについては検討の余地があろう。 (※1) 「元本欠損が生ずるおそれ」とは、当該金融商品の販売が行われることにより顧客の支払うこととなる金銭の合計額が、当該金融商品の販売により当該顧客等の取得することとなる金銭の合計額を上回ることとなるおそれをいう(金サ法4③)。 (※2) 「当初元本を上回る損失が生ずるおそれ」とは、例えば、次に掲げるものなどをいう(金サ法4④)。 ① 当該金融商品の販売について金利、通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標に係る変動により損失が生ずることとなるおそれがある場合における当該損失の額が当該金融商品の販売が行われることにより顧客が支払うべき委託証拠金その他の保証金の金銭の額を上回ることとなるおそれ ② 当該金融商品の販売について当該金融商品の販売を行う者その他の者の業務又は財産の状況の変化により損失が生ずることとなるおそれがある場合における当該損失の額が当該金融商品の販売が行われることにより顧客が支払うべき委託証拠金その他の保証金の金銭の額を上回ることとなるおそれ 商品の仕組みに係る説明義務が、金融サービス提供法の前身である旧金融商品販売法上の説明事項に含まれているかについては、同法審議中の参議院財政金融委員会において、当時の大蔵省金融企画局長が、「手数料とか税金とか商品の仕組み一般」について、「重要事項に密接に関連する部分につきましては、当然その重要事項を説明する必要性があり、当然説明されることになる。」と答弁している。 この答弁から、旧金融商品販売法の予定するところとして、重要事項に密接に関連する商品の仕組み一般についての説明義務が課されることが窺われるが、果たして、租税法上の構造についてまで踏み込む説明がなされるべきなのであろうか。 この点、節税商品取引における商品の構造を説明するに当たっては、商品の基本構造のみならず、課税上の取扱いに係る説明までなされることが求められるべきではなかろうか。なぜなら、節税効果に関する課税上の仕組みを説明してこそ、節税商品の仕組みを説明したことになるからである。 例えば、相続税対策として変額保険を勧誘する際には、どのような場合に相続税対策となり、どのような場合にならないかといったことについても説明義務があると解すべきではなかろうか。これも説明内容の二重構造性の問題として、節税商品取引の説明義務に特有の論点である。 なお、金融サービス提供法4条《金融商品販売業者等の説明義務》2項が、「前項〔筆者注:重要事項の説明義務〕の説明は、顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。」と規定するとおり、かかる説明には適合性原則の適用があることはいうまでもない。 3 説明義務者の専門的知識の欠如の問題(説明義務者の適合性の問題) 仮に、節税商品取引における説明義務者の問題が、一般的金融商品に係る説明義務者の問題と同質であって、その履行上の問題を議論すれば足りるのであれば、特段、節税商品取引に着目して検討する必要はない。 しかしながら、節税商品取引における説明義務の履行には、次に掲げる2つの特徴的な問題が介在することに鑑みて、一般的金融商品取引におけるそれとは異なった観点からの検討の必要性を指摘することができる。 すなわち、1つ目の特徴として、説明義務者としての適合性の問題が存在する。当然のことながら、節税商品取引においては、一般的金融商品取引に比して、特に税務という専門領域に係る知識を必要とするため、販売者の専門的知識の欠如が起こりやすいという特徴がある。販売者の付け焼刃的な知識では、複雑な課税上の取扱いを理解することが困難であるばかりでなく、購入者に対して十分な説明をすることは不可能であろう。ここに説明義務の履行者としての適合性の問題が惹起される。 2つ目に、かような適合性の問題の延長として、税理士資格を有しない販売者が商品の仕組みである課税上の取扱いの説明を個別具体的に行うことにつき、税理士法に抵触するおそれがあることである。税理士でない者による課税上の説明には一定の制限がかかる。この点も、節税商品取引に特有な説明義務の検討が求められる所以の1つである。 このように、説明義務者の適合性の問題として、①販売者の専門的知識の欠如の問題と、②税理士法による説明義務制限の問題を検討する必要性からも、一般的金融商品取引とは別個に節税商品取引を取り上げて検討すべき理由を指摘し得るのである。 4 小括 前述のとおり、米国におけるタックスシェルター・マルプラクティス訴訟の傾向から節税商品過誤訴訟の増加の可能性を探ることが可能であると思われる。 そのような中にあって、節税商品取引が法的問題を孕んでいなければ問題はないのであるが、節税商品の特殊構造ゆえに一般的金融商品取引における説明義務とは異なった検討が必要であることを確認してきた。上記の種々の理由から、節税商品取引を一般の金融商品とは異なるものとして取り上げる必要性が指摘され得るのである。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第5回】 「国税通則法4条」 -他の国税に関する法律との関係- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法4条(他の国税に関する法律との関係) 1 存在意義と論点 国税通則法4条(以下「本条」という)は、「他の国税に関する法律」に別段の定めすなわち特別規定があるときは、その定めが国税通則法に優先する旨を規定するが、これは、「特別法は一般法を破る。」という法諺ないし法格言を国税通則法と「他の国税に関する法律」との関係について確認的に規定したものである(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)85頁参照)。 本条は、国税通則法が「国税についての基本的な事項及び共通的な事項」(1条)を定め、これに関する別段の定め(特別規定)を「他の国税に関する法律」が規定するという役割分担を前提にして、定められたものであり、立法者がそのような役割分担を前提にして国税通則法及び「他の国税に関する法律」の規定を整備する場合に、両法の適用関係の調整規定として存在意義を有するものである。 ところで、本条では「他の国税に関する法律」(下線筆者)と規定されているにもかかわらず、「国税に関する法律」を「国税の確定、納付、徴収及び還付等に関する事項を規定した法律」としてこれに国税通則法を含めて解説する場合(志場ほか共編・前掲書170頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)691頁)があるが、それは本条の解説としては、国税通則法と「他の国税に関する法律」の規律事項が共通することを示す以外に特に意味がない(中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])D132~150[中川一郎執筆]も参照)。 そもそも、「国税に関する法律」という語は他の条文においてもしばしば用いられているが(例えば国税通則法第1章「総則」だけをみても2条5号~9号、8条、10条、11条、12条1項、13条1項・4項で用いられている)、その用語が他の条文においても前記の解説にいう「国税の確定、納付、徴収及び還付等に関する事項を規定した法律」という意味で用いられているとは限らない。例えば、第3回で検討した「納税者」の定義規定(税通2条5号)が「国税に関する規定により国税(源泉徴収等による国税を除く。)を納める義務がある者」と定める場合、そこでいう「国税に関する法律」は納税義務の成立要件である課税要件に関する事項を規定した法律を含むものである(第3回2参照)から、本条でいう「国税に関する法律」よりも広い範囲をカバーするものである。 しかし、前記の解説は、第3回3で述べた「国税通則法のタイブレーク制的構造」を前提にして、国税通則法の規律対象を「国税の確定、納付、徴収及び還付等に関する事項」として捉えた上で、本条にいう「国税に関する法律」という用語を「国税の確定、納付、徴収及び還付等に関する事項を規定した法律」の意味で用いていると理解すべきであるように思われる(志場ほか共編・前掲書84頁も参照)。というのも、そのように理解しなければ、前記の解説が「国税に関する法律」すなわち「国税の確定、納付、徴収及び還付等に関する事項を規定した法律」に「各種の国税の課税要件及び内容等を定めた課税実体法」やその特例法を含めていること(志場ほか共編・前掲書170-171頁、武田監修・前掲書692頁参照)を合理的に説明することができないからである。 本条については、「国税に関する法律」の意義をめぐる以上のような論点はあるとしても、これ以外には、本条それ自体の内容に関する問題はないように思われる。もっとも、「他の国税に関する法律」の規定を国税通則法に編入する場合には、本条の存在意義が問い直されることがあるのではないかとも思われる。そこで、このことについて次の2で検討しておくことにする。 2 「他の国税に関する法律」の規定の編入と本条の存在意義 「他の国税に関する法律」の規定が国税通則法にかなり大規模に編入された例としては、①平成23年度税制改正における税務調査手続の見直しと②平成29年度税制改正における国税犯則調査手続の見直しがある。 上記①の税務調査手続の見直しに当たっては、それまで各税法(「他の国税に関する法律」)が定めていた質問検査権について、国税通則法において、「一連の手続として、各税法から集約して横断的に整備すること」(財務省「平成24年度 税制改正の解説(平成23年12月改正)」229-230頁)という考え方に基づき、各税法から質問検査権規定が削除されるとともに、各税目を5つのグループに分けそれぞれのグループごとにそれらの規定が集約され(酒税以外の税目)又はそのまま(酒税)国税通則法に同法74条の2ないし74条の6の各規定として編入された(同230-231頁参照)。この点については次の解説(同231頁。下線筆者)がなされている。 この「参考」の中で引用されているのは、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)15頁の答申内容であるが、同16頁は「質問、検査及び諮問の方法等」について次のとおり答申していた。 国税通則法の制定時には、「質問検査権限の国税通則法への集約化」は見送られたが、平成23年度税制改正においてそれが実現し、併せて質問検査の方法等について新たに規定が整備され「国税通則法の制定に関する答申」の想定していたところよりも大幅に明確化が図られたと考えられる。 本条(税通4条)との関係で平成23年度税制改正を評価すると、同改正は「質問検査権限の国税通則法への集約化」によって本条の存在意義を減ずるものとみることができるかもしれない。しかし、国税通則法の当初の構想からすると、質問検査権に関する事項はそもそも国税通則法において規定されるべきものであって「他の国税に関する法律」で別段の定めとして規定されるべきものではなかったのであるから、上記改正による「質問検査権限の国税通則法への集約化」は本条の存在意義に実質的には何ら影響を与えるものではないとみるべきである。 次に、前記②の国税犯則調査手続の見直しについては、その実質的な理由は「国税犯則取締法については、昭和23年を最後に大幅な改正がなされておらず、条文が片仮名・文語体であるなど表現形式が現代離れしているばかりではなく、内容的にも同じ性格の関税法に基づく犯則調査手続の諸規定と比較して不備な点が少なからず認められる」(財務省「平成29年度 税制改正の解説」992頁)、「これに加えて、近年、業務連絡における電子メールの活用や電子データの外部サーバへの保管など経済活動のICT化が進展する中にあって、犯罪嫌疑者の故意や脱税金額の立証等に必要な客観的証拠の収集が一層困難になっている」(同頁)ことにあるが、国税犯則調査関係規定の国税通則法(第11章)への編入は次のような考え方(同993頁。下線筆者)に基づき行われたものである。 ここで述べられている考え方によれば、国税犯則取締法の廃止・国税犯則調査関係規定の国税通則法(第11章)への編入も、「国税についての基本的な事項及び共通的な事項」(税通1条)を定める国税通則法の性格や「他の国税に関する法律」との役割分担に適合するものであり、「法形式面での整備」にすぎず、実質的には本条(税通4条)の存在意義を減ずるものではないといえよう。 最後に、まだ実現してはいないが、国税徴収法の定める国税徴収関係規定の国税通則法への編入について若干コメントしておくことにする。 既に第1回2で国税徴収法の改正の経緯に関してみた、「いわば中間的な租税通則法」という国税徴収法の性格や「実は[手続の]実体的には一本のやつを、便宜主義的に二本に分かれている」という国税通則法との関係に関する見方からすると、国税徴収関係規定の国税通則法への編入は、自然な流れであるようにも思われる。確かに、「国税徴収法も、このような[滞納の場合という]特殊な分野において国税諸法の共通法たる面を有しており、国税通則法とならぶものである」(志場ほか共編・前掲書86頁)から、国税犯則調査という特殊な分野において国税諸法の共通法であった国税犯則取締法の場合(前記②)と同じく、国税徴収関係規定の国税通則法への編入も「法形式面での整備」にすぎないと考えることもできるかもしれない。 しかし、国税通則法が「税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にする」(1条)に当たって国税徴収法の側からみて規定の整備を行ったという同法の実定的構造(第1回3参照)と、「国税通則法が国税諸法の一般法に当たることは、もとより国税徴収法との関係についてもいえることである。」(志場ほか共編・前掲書86頁)という同法の性格を勘案すると、国税徴収関係規定の国税通則法への編入を、単純にあるいは直ちに、自然な流れというわけにはいかないように思われる。これは、国税通則法の実定的構造にビルトインされた実質的考慮と「国税に関する法律」の一般法としての国税通則法の法形式的性格との関係をどのように調整するかにかかっているといってよかろう。その調整の如何によっては、本条(税通4条)の存在意義が実質的に問い直されることになるかもしれない。 (了)
令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第2回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅱ 交際費等の損金不算入制度 1 交際費等の損金不算入制度(概要) 通算法人が平成26年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度(適用年度)において支出する交際費等の額について、次に掲げる通算法人の区分に応じて次に掲げる金額は、その適用年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない(措法61の4①②③)。 [通算法人の交際費等の損金不算入額の計算] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 上記のうち❷の(A)の定額控除限度額を上限に交際費等が損金算入される取扱いを「定額控除限度額の特例」ということとする。 2 通算法人の区分の判定 (1) 資本金の額等が100億円超の通算法人の判定 通算法人については、通算グループ内の通算法人のいずれかで資本金の額又は出資金の額が100億円を超える場合、交際費等が接待飲食費の額を含めて全額損金不算入となる(措法61の4①)。 具体的には、「その通算法人又はその通算法人の適用年度終了の日においてその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人のうちいずれかの法人の同日における資本金の額又は出資金の額が100億円を超える場合におけるその通算法人」が全額損金不算入の対象となる(措法61の4①)。 つまり、通算グループ内で1社でも資本金の額が100億円を超える通算法人がある場合は、通算法人全社で交際費等が接待飲食費の額を含めて全額損金不算入となる。 なお、通算親法人の事業年度の中途において通算承認の効力を失った通算法人(中途離脱法人)の100億円超の判定についても、その効力を失った日の前日に終了する事業年度終了の日(中途離脱法人の適用年度終了の日)において通算グループ全体で判定する(措法61の4①、措通61の4(2)-8)。 また、通算親法人の100億円超の判定において、通算親法人が資本又は出資を有しない法人である場合、通算親法人の資本金の額又は出資金の額とみなす金額は、その適用年度終了の日における確定決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額(貸借対照表にその適用年度に係る利益の額が計上されているときは、その額を控除した金額とし、その適用年度に係る欠損金の額が計上されているときは、その額を加算した金額とする)の60%に相当する金額とする(措法61の4①、措令37の4①、措通61の4(2)-2~61の4(2)-5)。 さらに、通算子法人の100億円超の判定において、通算親法人が資本又は出資を有しない法人である場合、通算親法人の資本金の額又は出資金の額とみなす金額は、その通算法人の適用年度終了の日以前に最後に終了した通算親法人の事業年度終了の日における確定決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額(貸借対照表にその事業年度に係る利益の額が計上されているときは、その額を控除した金額とし、その事業年度に係る欠損金の額が計上されているときは、その額を加算した金額とする)の60%に相当する金額(その適用年度終了の日以前に終了した通算親法人の事業年度がない場合には、通算親法人の設立の日における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額の60%に相当する金額)とする(措法61の4①、措令37の4②)。 (2) 定額控除限度額の特例が適用される通算法人の判定(中小通算法人の判定) 定額控除限度額の特例が適用される通算法人とは、大通算法人以外の通算法人(中小通算法人)をいう(措法61の4②)。 ここで、大通算法人とは、その通算法人又はその通算法人の適用年度終了の日においてその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の通算法人のうち、いずれかの法人が次の法人である場合におけるその通算法人をいう(措法61の4②、法法66⑤二・三)。 なお、通算親法人の事業年度の中途において通算承認の効力を失った通算法人(中途離脱法人)の大通算法人の判定についても、その効力を失った日の前日に終了する事業年度(中途離脱法人の適用年度)終了の日において通算グループ全体で判定する(措法61の4②、措通61の4(2)-8)。 また、通算親法人の中小通算法人の判定において、通算親法人が資本又は出資を有しない法人である場合、通算親法人の資本金の額又は出資金の額とみなす金額は、その適用年度終了の日における確定決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額(貸借対照表にその適用年度に係る利益の額が計上されているときは、その額を控除した金額とし、その適用年度に係る欠損金の額が計上されているときは、その額を加算した金額とする)の60%に相当する金額とする(措法61の4①②、措令37の4①)。 さらに、通算子法人の中小通算法人の判定において、通算親法人が資本又は出資を有しない法人である場合、通算親法人の資本金の額又は出資金の額とみなす金額は、その通算法人の適用年度終了の日以前に最後に終了した通算親法人の事業年度終了の日における確定決算に基づく貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額(貸借対照表にその事業年度に係る利益の額が計上されているときは、その額を控除した金額とし、その事業年度に係る欠損金の額が計上されているときは、その額を加算した金額とする)の60%に相当する金額(その適用年度終了の日以前に終了した通算親法人の事業年度がない場合には、通算親法人の設立の日における貸借対照表に計上されている総資産の帳簿価額から貸借対照表に計上されている総負債の帳簿価額を控除した金額の60%に相当する金額)とする(措法61の4①②、措令37の4②)。 (続く)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第17回】 「郵便代金に関するインボイスの取扱い」 税理士 石川 幸恵 【Q】 郵便切手の購入にインボイスは交付されないのですか。 〔ポイント〕 (1) 郵便切手の購入にインボイスは交付されないと考えられます。 (2) 郵便局での郵便切手の購入は消費税の非課税取引です。 (3) 帳簿に一定事項を記載することで、仕入税額控除を受けられます。 * * * 【A】 (1) 国税庁のインボイスQ&Aにおける郵便サービスに関する記載 国税庁のインボイスQ&Aには、郵便物のポストへの投函についてインボイスの交付が困難とする旨の記載があります。 (※) 下線は筆者による。 そもそも、郵便局での郵便切手類の購入は消費税の非課税取引であり、「郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス」は課税取引です。しかし、郵便ポストに差し出されたときにインボイスを交付するというのは現実的ではないので、インボイスの交付義務が免除されています。 現行の実務でも、ポストに差し出した日に課税仕入れとするのではなく、郵便切手を購入した日に課税仕入れを計上していると思いますが、この取扱いについて、改めて確認してみましょう。 (2) 現行の郵便切手に関する消費税の規定 ① 郵便局での切手の購入は非課税取引である 国内において行われる資産の譲渡等のうち、日本郵便株式会社等が行う郵便切手類、印紙の譲渡については消費税を課さないとされています(消法6①、別表第一四イ)。 このことは、実務でやり取りする領収書からもわかります。下記の【図1】と【図2】は実際に郵便局で支払いをした時の領収書(一部加工あり)です。【図1】は切手(10枚1セットの切手シート)を購入したので、非課税になっています。一方、【図2】は窓口で郵便料金を支払い、その場で郵便物を出したので、課税取引となっているのがわかります。 ② 継続適用を要件として、郵便切手の購入時に課税仕入れとしている 実務では、郵便局で郵便切手を買ってきた日に「通信費/現金」という仕訳をしていると思います。これは、消費税法基本通達11-3-7に基づくものです。 (2) インボイス制度導入後の取扱い ① 郵便局での郵便切手の購入にインボイスは交付されない 郵便局における郵便切手の購入が非課税であることには変わりがないため、【図1】のような切手の購入の領収書がインボイスになることはありません。一方、【図2】のような窓口での郵便料金の支払いは課税取引であり、インボイスとしての記載事項を満たす領収書が交付されるものと思われます。 ② 仕入税額控除を受けるための手続き 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービスは、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨を記載することで、仕入税額控除を受けられます(インボイスQ&A問107)。帳簿の記載方法は、「郵便切手特例」等を追記することになると考えられます。 課税仕入れの時期は、現行と変わりなく、切手の購入時に課税取引として経理処理することになると思われます。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第44回】 「親族外事業承継と拒否権付株式」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私は北関東で職員数名の税理士事務所を経営する税理士のGです。 顧問先L社のK社長は今年で70歳になります。K社長には親族内に会社を継げる人がいないことから、長くK社長を支えてくれた50代のJ専務にL社の経営を任せて経営の一線を退く意向です。 私が立案した株式承継計画をK社長とJ専務にご承認いただき、実行に向けた準備を進めている最中、K社長が経営者の会合でトラブル事例(事業承継した会社を売却されてしまったり、解散されてしまった事例)を耳にしたようで、株式を承継する段階になって、J専務がL社の株式を売却したり、解散したりできない仕組みを設計してほしいとのリクエストを出されてしまいました。 L社の株式には譲渡制限が付されていますが、K社長のいない取締役会が承認すればL社株式を売却することができてしまいますし、私の提案したスキームは新社長が株主総会で多額の配当を行ったり、解散を選択することも可能なスキームになっています。このようなケースでK社長に安心してL社株式を譲渡していただく良い方法はないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 拒否権付株式 拒否権付株式とは、株主総会や取締役会において決議すべき事項について、当該決議のほか、拒否権付株式を保有する株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要となる株式をいいます(会108①八)。 拒否権付株式を発行している法人の定款で定めた事項については、株主総会や取締役会の決議に加えて拒否権付株式を有する株主による種類株主総会の承認を経なければ、その効力が発生しません。したがって、K社長の保有株式のうち1株を拒否権付株式に変更して引き続きK社長が保有し、残りの普通株式をL専務に承継すれば、L専務が株式の譲渡や解散を実行しようとした場合でも、種類株主総会で否決して阻止することが可能となります。 〈K社長保有株式の処遇〉 〈拒否権付株式を発行した場合の意思決定フロー〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 株主総会や取締役会で決議する全ての決議事項について拒否権を付すことも可能ですが、拒否権の範囲を広く設定しすぎると、円滑な会社運営に支障をきたし、種類株主総会の招集や議事録作成などの事務作業も増えることになりますので、拒否権の範囲は目的に応じて必要最低限に留めることをお勧めします。 〈拒否権を設定する決議事項の一例〉 また、拒否権付株式は、「種類株主総会における決議の否決」という拒否権を有するのみであり、株主総会や取締役会で決議すべき事項の決定権はありません。したがって、取締役会や大株主である決定権者(L専務)と、拒否権付株式を保有する拒否権者(K社長)との間で意見の対立が起きた場合、経営執行がストップしてしまう「デッドロック」という状態に陥る可能性があります。 [2] 取得条項付株式 拒否権付株式は非常に強い権限を有しているため、経営陣の意に沿わない株主の手に渡ることがないようにしなければなりません。そこで、株主に相続が発生した場合など一定の事由が生じた場合に、発行会社が株主の同意なく買い戻すことができる取得条項を組み合わせた株式(取得条項付株式)として発行することが一般的です(会2十九、108①六)。 拒否権付株式に組み合わせる取得条項は、株主の死亡や意思能力の喪失など、議決権の行使が困難になった場合を想定して設計することが一般的ですが、特定の期日や株主の年齢を取得条項とし、期日到来後には取締役会の決議により任意のタイミングで取得するような設計にすることも可能です。 〈取得条項の一例〉 [3] 事業承継税制を活用する場合の留意点 拒否権付株式を発行している会社の事業承継において、贈与又は相続の時に後継者以外の者が拒否権付株式を保有している場合には、経営承継円滑化法の認定を受けることができません(措法70の7の5②一、70の7の6②一、措令40の8の5⑨、40の8の6⑨)。 したがって、今回のL社株式の承継にあたって事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予)の活用を予定している場合には、K社長が拒否権付株式を保有することはできません。 [4] 結論 親族以外の役員や従業員に事業承継を行う場合、どれだけ信頼できる後継者であっても、自らが育てた会社を売却されてしまうことがないか、私物化されてしまうようなことがないか、不安になることもあるようです。 そのような場合、本事例のように株式を譲り渡す先代経営者が引き続き拒否権付株式を保有すれば、後継者に対して一定の牽制機能を持ち続けることが可能です。ただし、拒否権付株式が意図せず第三者の手に渡ってしまうことがないよう、その効力はK社長の判断能力のある期間とし、拒否権付株式に一定の取得条項を付しておくことが必要でしょう。会社経営は親族内・外であろうと承継した人たちを信じるしかありませんので、次世代の経営判断の足かせとなるような拒否権付株式は一代限りとすべきです。 なお、具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第48回】 「土地と建物と株式の取得者が異なる場合の特定同族会社事業用宅地等の特例の適否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲(令和4年8月3日相続発生)は製造業であるA株式会社の代表者で100%の株式を所有していました。甲は、令和3年3月に長男に代表権を移譲し、退職金を受け取り、その後は、非常勤取締役の会長として勤務していました。株式については、生前に長男に承継せずに100%保有したまま相続が発生しています。 また、甲はA社に甲の所有するB土地及び建物を賃貸し、A社は本社及び工場で使用していました。A社は周辺相場程度の家賃を甲に支払っていました。 甲の相続人は、配偶者と長男の2人ですが、遺言書を下記のとおり遺していました。 甲の相続に伴い、A社は建物を取得した配偶者に対して家賃を支払い、長男の子はB土地を取得しましたが、B土地の固定資産税及び都市計画税は配偶者が負担しています。なお、配偶者は甲と生計を一にしていましたが、長男及び長男の子は、甲及び甲の配偶者と生計を別にしています。 長男の子は、将来的には次の後継者候補となりますが、相続開始の直前において役員ではなくA社の従業員となります。長男の子が相続税の申告期限までにA社の役員になった場合には、B土地について小規模宅地等に係る特定同族会社事業用宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] 長男の子は、他の要件を満たせば、小規模宅地等に係る特定同族会社事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定同族会社事業⽤宅地等の意義 特定同族会社事業⽤宅地等とは、相続開始の直前に被相続⼈及びその被相続⼈の親族その他その被相続⼈と政令で定める特別の関係がある者が有する株式の総数⼜は出資の総額がその株式⼜は出資に係る法⼈の発⾏済株式の総数⼜は出資の総数の10分の5を超える法⼈の事業(貸付事業を除く、以下同じ)の⽤に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続⼜は遺贈により取得した当該被相続⼈の親族(相続税の申告期限においてその法⼈の役員(清算⼈を除く)である者に限る)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続きその法⼈(相続税の申告期限において清算中の法⼈を除く)の事業の⽤に供されているものをいいます(措法69の4③三、措令40の2⑯⑰⑱、措規23の2⑤)。 本問の場合には、下線部の要件を充足しているかどうかが問題になります。 2 法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲 租税特別措置法関係通達69の4-23(法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲)では、下記のとおり定められています。 租税特別措置法関係通達69の4-23(法人の事業の用に供されていた宅地等の範囲) (下線部は筆者による) 〔上記(1)について〕 被相続人の有する宅地等の上に特定同族会社が建物を有する場合に相当の対価で貸付けを行っている場合が該当します。宅地等の貸付けが事業に該当する場合に限るとされており、事業には準事業(事業と称するに⾄らない不動産の貸付けその他これに類する⾏為で相当の対価を得て継続的に⾏うもの)が含まれていますので、その貸付けが相当の対価を得て継続的に行われていることが必要となります。 したがって、宅地等の貸付けが使用貸借である場合には、特例の対象にならないことになります。 〔上記(2)について〕 被相続人の有する宅地等の上に被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族が建物を有する場合に相当の対価で建物を特定同族会社に貸付けを行っている場合が該当します。建物の貸付けが事業に該当する場合に限るとされており、事業には準事業(事業と称するに⾄らない不動産の貸付けその他これに類する⾏為で相当の対価を得て継続的に⾏うもの)が含まれていますので、建物の貸付けが相当の対価を得て継続的に行われていることが必要となります。 一方で被相続人の有する宅地等の上に被相続人の生計一親族が建物を有する場合には、被相続人から無償で借り受けていることが前提となります。この場合における無償には、相当の対価に至らない程度の対価の授受がある場合を含みます(措通69の4-4)。民法上の使用貸借の場合には、借主は、通常の必要費を負担することになっています(民法595)ので、固定資産税その他の通常の必要費について借主が負担していたとしても、通達の「無償」に含めて考えることになります。 したがって、被相続人の有する宅地等の上に被相続人の生計一親族が建物を有する場合には、使用貸借であることが前提となりますので、土地が賃貸借である場合には、特例の対象にはなりませんが、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例に該当する可能性はあります。 また、建物所有者は被相続人又は被相続人の生計一親族に限られている点には注意が必要です。特定事業用宅地等の場合には、【第16回】で解説のとおり、生計一親族以外の親族もその範囲に含まれていますが、特定同族会社事業用宅地等の場合には、生計一親族以外の親族はその範囲に含まれておらず、より厳格な要件となっています。 以上をまとめると、被相続人が有する宅地等の上に被相続人以外の個人が建物を有する場合には、下記の要件を満たす必要があります。 なお、上記の取扱いは、相続開始の直前において配偶者居住権が設定されていない場合が前提となります。配偶者居住権が設定されている場合には、上記の通達(注2)の読み替えに基づき特例の適否を判断することになります。 3 本問への当てはめ 特定同族会社事業用宅地等の要件整理については、【第45回】で解説していますが、本問の場合には、下記のとおり、要件を満たし特例の適用を受けることができます。 (1) 相続開始直前における同族過半数要件 相続開始の直前において判定を行うこととされていますので、被相続人が100%の株式を保有していることから要件を満たすことになります。 (2) 法⼈の事業の⽤に供されていた宅地等であること 本問の宅地は、A社の製造業の本社及び工場で使用していますので、A社の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当せず、かつ、被相続人が所有する土地及び家屋をA社に賃貸していますので、租税特別措置法関係通達69の4-23(2)に該当し、要件を満たしていることになります。 (3) 清算中の法人非該当要件 A社は清算中の法人に該当しませんので、要件を満たしていることになります。 (4) 取得者の役員要件 長男の子が相続税の申告期限において役員であれば問題ありませんので、要件を満たすことになります。 (5) 取得者の宅地等の保有要件、事業継続要件 長男の子が相続税の申告期限まで宅地等を保有し、申告期限まで引き続きA社の事業の⽤に供されていますので、要件を満たすことになります。 宅地等を取得した長男の子と家屋を取得した配偶者が生計別であるため、租税特別措置法関係通達69の4-23(2)の要件を満たしていないのではないかという意見もあるかと思いますが、本通達は、あくまでも相続開始の直前の要件を明確にしたものとなりますので、そのまま相続後に当てはめることは適当ではありません。 特例の趣旨は、その法人の事業の継続の保護にありますので、その宅地等が申告期限まで引き続きA社の事業の用に供されている状態であれば、事業継続の要件は満たすことになると考えられます。 ★実務上のポイント★ 配偶者の生活の糧のため、建物は配偶者に承継し、将来の相続対策のため土地は後継者である子に承継させる場合もあるかと思います。遺言や遺産分割のアドバイスの時に要件を満たすか否かは重要となりますので、1つ1つの要件を確認しながらアドバイスをすることが重要となります。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第78回】 「デンソー事件」 ~最判平成29年10月24日(民集71巻8号1522頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第16回】 「請求人面談の留意点(その2)」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 釈明陳述録取書と質問調書 (1) 主張と証拠は別々の書面に著される 担当審判官は、質問採取手続の結果を可視化するために、審査請求人の主張に関する回答については釈明陳述録取書に、主張を裏付けるための証拠としての回答については質問調書に分けて作成することになる。 このうち、釈明陳述録取書は主張書面であることから、相手方である原処分庁に送付して反論の機会を与えることになる。 一方、質問調書は国税不服審判所の判断のために用いるものであり、原処分庁に内容が共有されることはない。 たとえ原処分庁から閲覧請求があったとしても、質問調書は担当審判官の職権による質問(国税通則法第97条第1項第1号)をもとに作成された書面であり、同号は同法第97条の3第1項の閲覧対象から除外されているためである。 (2) 質問調書と質問応答記録書 質問調書に類する書面に質問応答記録書がある。 質問応答記録書は質問てん末書ともいわれるが、これは、税務署の調査官が質問採取手続の結果を可視化するために作成するものであり、作成目的、作成過程、様式については両者に大きな相違点はない。 この点、質問応答記録書は、税務調査において客観的な証拠資料が十分でない場合に、納税者の過少申告の意図を可視化することを事実上の目的として作成されることが多いようであり、これが影響してか、質問応答記録書に安易に署名することについて警鐘を鳴らす専門家が少なくない。 一方、質問調書は、不利益処分を受けた納税者の権利救済の場面で作成され、口頭による答述を可視化することで、合議体(担当審判官及び参加審判官)、ひいては裁決する各地域審判所長にまで審査請求人の回答内容を共有するための書面である。 質問採取手続が質問応答記録書と同様であることから、その作成と署名に警戒感を持つこともやむを得ないだろうが、自己が経験した真実をできるだけ調書に反映させて原処分の取消しを手繰り寄せる機会でもあることから、担当審判官の求めには誠実に対応しておきたいところである。 2 質問調書のまとめ方 質問調書のまとめ方には大きく2つの方法がある。 ひとつは、担当審判官による質問と審査請求人による回答のキャッチボールをできるだけ忠実に再現するように取りまとめた形式であり、「1問1答形式」ともいわれる。 もうひとつは、担当審判官の質問を概括的なもの(たとえば、「当時の経緯を教えて下さい。」など)とし、それに対して審査請求人がまとめて回答した上で、適宜担当審判官が補足的な質問を加え、その追加の回答を織り込んで取りまとめられた、「少ない設問に対して1問当たりの回答が長文になる」形式である。 いずれが採用されるか否かは担当審判官の個性や事案の特性にもよるが、一般的には、後者の方が取りまとめる側の文言整理の余地が介在し、ややもすると、回答した審査請求人のニュアンスから遊離する可能性を孕むようである。 3 釈明陳述録取書・質問調書の作成 (1) 文章に起こす作業 担当審判官による質問と審査請求人による回答がひと通り終了すると、休憩を挟むとともに、担当審判官と補佐をする分担者(国税審査官)は、口頭による回答を文章に起こす作業を行うことになる。 しかし、真っ新な状態で一から文章を作成することは時間的に至難の業であるため、形式的な記載(人定質問の回答)や過去の主張書面等から想定される回答内容をあらかじめ入力しておき、当日の回答内容によって加除をして完成させることで時間の短縮を図る場合が多いようである。 文章に起こす作業の過程において、担当審判官又は分担者から適宜補足の質問がなされることがある。 担当審判官がまとまった時間を要すると判断した場合には、例えば「1時間後に再度ご来所ください」などと一時解散を促すこともある。 (2) 回答の確認 釈明陳述録取書・質問調書の文章作成が終了すると、担当審判官が文案を答述者に一時交付して目視で確認させるか、読み聞かせるかのいずれかによって、答述内容の確認をさせることになる。 そこで、答述者から訂正の依頼があればその依頼を反映した上で再度確認させる。 最終的に、答述者が文案に納得すれば、末尾に、 という奥書を添えて、答述者(陳述者)の欄に署名を求めることになる。 そして、調書(行政文書)としては、これに「質問調書(又は釈明陳述録取書)」というタイトルの表紙を付けて、これを取りまとめた公務員(担当審判官と分担者)が記名押印して完成する。 (3) 控えの交付は受けられるか 答述者(審査請求人)の立場からすれば、今回の請求人面談において自己がどういった答述をしたかの記録を得たいのは当然の要望であり、質問調書の控えを担当審判官に求めたいところである。 しかし、質問調書は、担当審判官が審査請求事件の処理のための職務(公務)として作成した行政文書であり、答述者又は代理人に交付することを目的に作成したものではないことから、たとえ答述者に対してといえども、作成時に写しを交付してはならない(撮影させてはならない)取扱いになっている。 また、たとえそれが署名前のものであっても同様である。 答述者が答述内容を確認する手段としては、以下の術が考えられる。 (注) 上記の記述は、国税庁課税総括課「質問応答記録書作成の手引」(平成29年6月)ⅢFAQ 問43の回答に基づいているが、実際の請求人面談の場においては、担当審判官の裁量によって、署名前のものを(例えば)Wordファイルに複写し、それを印刷したものを答述者に交付するといった弾力的な運用をしているケースもあるため、著者の個人的意見としては、まずは諦めずに担当審判官に要請してみることを勧めたい。 (4) 後日の提出としたい場合 確かに自らの答述が記載されているが、ニュアンスを含めて代理人とともに慎重に検討し、郵送等の手段で後日改めて提出したい場合、担当審判官は、その日に投下した労力に対する成果が得られなくなるため難色を示す可能性が高いと思われる。 しかし、質問採取手続自体が答述者の協力に基づく任意の手続であり、答述者がその意向を崩さない以上、担当審判官としては無理に調書を録取することまではできない。 (5) 調書完成後 最後に、以後のスケジュールなどについて担当審判官から説明がある場合があるが、審査請求人又は代理人としても不明な点はできるだけ明らかにしておきたい。 4 信頼関係を構築する機会 請求人面談は、主張の確認や審査請求人しか知り得ない事実関係の録取といった直接の目的に加え、 がある程度推察できることにより、信頼関係を構築する機会でもある。 実際に、電話又は書面だけのやりとりでは相手が見えず疑心暗鬼になっていた状況が、請求人面談を機に改善することもある。 国税不服審判所は税務行政の自己反省機能であるから、原処分庁と「同じ穴のムジナ」という先入観を持つことなく、担当審判官と直接コミュニケーションを取る絶好の機会である請求人面談に臨まれることを願う。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第84回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 〈Q9〉 収益認識会計基準の履行義務充足基準との関係 法人税法22条の2第1項の引渡基準と収益認識会計基準の履行義務充足基準との関係はどのように考えるべきか。 〈A9〉 引渡基準と収益認識会計基準の履行義務充足基準は完全にイコールの関係にあるものではないが、両者の親和性を認めることができる。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 収益認識会計基準における履行義務充足基準 法人税法22条の2第1項創設の契機となった収益認識会計基準は、収益の認識時期のルールについて、履行義務充足基準ともいうべき基準を採用している。 収益認識会計基準では、収益を認識するために5つのステップが設けられており、そのステップ5では、履行義務の充足による収益の認識配分の作業を行う。すなわち、約束した財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識する(基準17(5)、35、46)。 資産(収益認識会計基準において、顧客との契約の対象となる財又はサービスについて「資産」と記載することもあるため注意)が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである(基準35)。 この場合の「資産に対する支配」とは、「当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)」をいい、このことを考慮して、「資産に対する支配を顧客に移転」した時点を決定する(基準37、40前段)。 支配の移転を検討する際には、例えば、次の(1)~(5)の指標を考慮する(基準40後段)。 上記のうち(1)については、現時点で対価に関する企業の権利が無条件であること(IFRS・2010ED 30(a))、すなわち対価を受け取る期限が到来する前に必要となるのが時の経過のみであるものをいい(基準150)、企業が対価を収受する現在の権利を有しない場合には、顧客が確定期限の未到来以外に対価の支払を拒絶できる法律上の抗弁(停止条件の未成就、不確定期限の未到来(先履行義務の未履行)、同時履行の抗弁)を有すると説明されることがある(片山智裕『ケーススタディでおさえる収益認識会計基準』233~235頁(第一法規2019)参照)。 支配の移転は、財又はサービスを提供する企業、あるいは当該財又はサービスを受領する顧客のいずれの観点からも判定でき、企業が支配を喪失した時又は顧客が支配を獲得した時のいずれかとなる。 通常、両者の時点は一致するが、企業が顧客への財又はサービスの移転と一致しない活動に基づき収益を認識することがないよう、顧客の観点から支配の移転を検討する(基準132)。 財又はサービスは、瞬時であるとしても、受け取って使用する時点では資産である。資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんど全てを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む)であり、資産からの便益とは、例えば、財の製造又はサービスの提供のための資産の使用、他の資産の価値を増大させるための資産の使用、負債の決済又は費用の低減のための資産の使用、資産の売却又は交換、借入金の担保とするための資産の差入れ、資産の保有といった方法により直接的又は間接的に獲得できる潜在的なキャッシュ・フロー(インフロー又はアウトフローの節減)である(基準133)。 2 履行義務充足基準と引渡基準 履行義務充足基準と引渡基準の関係はどのように考えられるのか。 同異点を深掘りして考察する余地はあるものの、実現主義、権利確定主義及び民法上の引渡しと調和する可能性のある引渡基準を念頭に置くと(本連載第77回、第78回、第82回参照)、両者の内容や適用結果は相当程度接近するのではないか、という見立てが有力である。 例えば、履行義務充足基準は、資産に対する支配の顧客への移転に着目するものであり、同じく支配の移転を観念する民法上の引渡しと親和性があるという予想はつくし、ひいては、法人税法上の引渡しに接近していく道のりも見えてくる。 これまでにも、法人税法上の収益計上時期が争われた事案において、引渡しを履行義務(給付義務)という視点で表現する裁判例(東京地裁昭和53年5月19日判決・判タ416号187頁)や、支配の移転をもって引渡しと捉えているような裁判例(東京地裁平成9年10月27日判決・行集48巻10号778頁など)が存在した。 より精細な照合作業を行うべきではあるが、法人税法上の引渡し(通達上のものを含む)と収益認識会計基準の履行義務充足基準との親和性を認めることができそうである。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年7月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年7月1日から7月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ コーポレート・ガバナンス関係 経済産業省が「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を改訂し公表している。 取締役会による「監督」、社外取締役、ガバナンス体制などについて記載している。 Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 学校法人先端教育機構 社会構想大学院大学による研究報告書「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」(内容:企業及び公認会計士の双方の視点から「公認会計士による監査がどのように見られているか」について定量(量的)・定性(質的)の両面から調査したもの) ② サステナビリティ教育検討プロジェクトチーム報告書「公認会計士のサステナビリティに関する知見及び能力の育成に向けた検討」(内容:公認会計士のサステナビリティ教育の在り方について包括的な検討を行ったもの) ③ 「「倫理規則」の改正について(定期総会に付議する予定の改正案の公表)」(内容:倫理規則の体系及び構成等の見直しを行うもの。当該倫理規則は日本公認会計士協会の定期総会(2022年7月25日)に付議する予定の改正規定案であるが、7月25日に開催された第56回定期総会において、「倫理規則の一部変更案」として承認されている。なお、「倫理宣言」が公表されている) ④ 「「監査事務所検査結果事例集(令和4事務年度版)」の公表について」(公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) (了)