さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第67回】 「ヤフー事件」 ~最判平成28年2月29日(民集70巻2号242頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第25回】 「公益財団法人と一般財団法人の違い」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕 相談内容 先日相談(第21回)しました、電気メーカーBを経営しているZです。最近、公益事業を行うために一般財団法人を設立しました。ところで、財団法人には公益財団法人と一般財団法人があるとのことですが、どのような違いがあるのでしょうか。どちらを選ぶべきか、制度の概要とポイントを教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 公益認定の概要 公益認定は、一般財団法人(又は一般社団法人)が公益認定申請書を提出し、民間有識者がその申請書を「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下、「公益認定法」といいます)に基づき判断し、行政庁が公益認定します。提出先は、活動が2つ以上の都道府県にまたがって行われる場合は内閣府、1つの都道府県内で行われる場合は都道府県となります。 公益認定基準は具体的に公益認定法第5条に列挙されており、主要なものとしては以下の通りです。 [2] 公益法人(公益財団法人、公益社団法人)のメリット・デメリット (1) メリット 〇社会的な信頼 上記のような公益認定法の基準をクリアしないと公益法人にはなれないので、公益法人となることは社会的に信頼しうる法人であることの証明となります。実際、対外的な活動において「公益法人」であると初対面の相手であっても信頼されるため、事業が進めやすいと感じることが多々あることでしょう。 〇税制優遇措置がある 公益認定されると、主として以下のような幅広い税制上の優遇措置が受けられます。 (2) デメリット 〇事務負担の増加 社会的な信用と幅広い税制優遇措置を受けられることから、公益法人となった後も公益認定基準を順守しなければなりません。具体的には、①公益認定申請の内容と同様の事業の運営、②理事会・評議員会の法令に則った開催、③会計帳簿の作成等が必要になります。これらを役員だけで運営・管理するのではなく、事務局を置いてガバナンス体制を構築することが求められます。 〇行政庁による監督・情報公開 行政庁への毎年の報告義務や、行政庁による定期的(3年に1回程度)な立入検査を受ける必要があります。また、公益法人には情報公開も求められており、要請があれば財務諸表、定款、役員名簿等を公開する必要があります(HPにおいて財務諸表や定款、役員名簿を公開している公益法人も多くあります)。 [3] 結論 上記の通り、公益法人になると行政庁による監督や情報公開により、財団の運営に対して一定のけん制効果が働くことが期待されます。例えば、財団が事業会社の株式の寄附を受けるなど重要で多額の財産を持った場合、公益財団であれば財産の流出など不正が起きにくく、一般財団より永続性が高くなると考えられます(結果的に財産の適正な管理につながる)。 まずは、一般財団において何年か実際に事業を運営しながら、公益財団を目指すかどうか判断しても良いのではないでしょうか。 実際の手続きに際しては、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第45回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (5) 収益認識会計基準との比較 収益認識会計基準が法人税法22条4項の公正処理基準に該当する可能性があることを前提とすると、同項を通じて、同基準の規律が法人税法においても通用する可能性が出てくる。同基準が入り口(穴)を通って、法人税法の世界に流れ込んでくるイメージである(間に会社法によるフィルターを通す見方もあり得る)。 収益認識会計基準の基本となる原則は、次のとおりである(基準16)。 同基準では、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に関する有用な情報を財務諸表利用者に報告するために、このような基本となる原則を示している(基準115)。 収益認識会計基準は、この基本となる原則に従って収益を認識するために、5つのステップを適用する(基準17)。その中のステップ3(契約における取引価格の算定)の概要は次のとおりである(本連載第1回参照)。 注目されるのは、次の2点である。 第1に、収益認識会計基準によれば、資産の販売等に係る収益の額(取引価格)を財又はサービスの顧客への移転と交換に「企業が権利を得ると見込む対価の額」としていることである。財又はサービスの顧客への移転と交換に「流入」するものに着目しているといってよいであろう。 これは、法人税法の考え方とは合わない面がある。無償取引からも収益が生じる法人税法は、従来から、資産の販売等に係る収益の額は当該資産等の時価相当額で計上すべきであると解されていたからである。第一次的には、「流入」するものの“時価”そのものに着眼するのではなく、「流出」するものの“時価”に着眼するものであったと言い換えてもよいであろう。 第2に、収益認識会計基準によれば、契約において、顧客と約束した対価に変動する可能性のある部分(変動対価)が含まれる場合には、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ることとなる対価の額を見積もるという点である。すなわち、「変動対価」という契約上の対価の金額をそのまま収益の額(取引価格)とするのではなく、直接的であるにせよ、間接的であるにせよ、値引きやリベート、貸倒れの見込みなどを織り込んで算定する可能性があるという点である。 この変動対価の額の見積りにあたっては、最頻値法又は期待値法のうち、企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いる(基準51)。 変動対価の額の見積りは、①又は②のうち、 企業が権利を得ることとなる対価の額をより適切に予測できる方法を用いる 間接的であるにせよ貸倒れの可能性がある部分を収益として計上しないという点は、種々の観点から、法人税法の立場からすればドラスティックな印象を受けるであろう。 また、法人税法ではこれまで返品権付販売については返品調整引当金を計上していたが、収益認識会計基準においては、変動対価として処理される。つまり、顧客から受け取った又は受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、受け取った又は受け取る対価の額のうち、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識し(基準53)、その分は収益に計上されないことになる。 もっとも、見積もられた変動対価の額のすべてが直ちに収益から減額されるわけではない。 見積もられた変動対価の額については、変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めることになり(基準54)、それ以外の部分が取引価格に含まれない、言い換えれば、収益の額から減額されることになる。 いずれにしても、法人税法の立場からすれば、取引価格の算定に見積りの要素が入ると、同様の取引であっても個々の企業によって収益の額(取引価格)が異なることにつながり、課税の公平に反するのではないかという点に関心が向くことになる。法人税法としては、恣意的な見積りは論外であるが、過度に保守的な算定が行われることもまた認め難い。 法人税法のように「流出」するものの“時価”に焦点を当てて収益を計上する場合には、貸倒れや返品の見込みの影響を加味して収益の計上額を算定することは受け入れることができないという見方もあり得る。権利確定時に収益を計上するという考え方とも衝突する可能性がある。 このような事情があり、法人税法22条の2第4項及び5項の創設という着想が生まれたのであろう。 このように法人税法としては、上記のような収益認識会計基準のステップ3は受け入れ難い面がある。これが法人税法22条4項を経由して、法人税法の課税所得計算の世界にそのまま流れ込んでくることを阻止せねばならないという視点が生まれてくる。 以上を踏まえると、平成30年度改正法は、法人税法22条の2第4項に法人税法独自の益金算入額のルールを明記し、同項の「別段の定め」から22条4項を除き、念には念を入れてであろうか、22条4項にも「別段の定めがあるものを除き」という語句を挿入して、22条の2をここでいう「別段の定め」として位置付けるような措置を施したものといえよう。こうすることで、上記のような流れ込みが起きないように、企業会計から法人税法会計へとつながる入り口(穴)を少なくとも部分的に塞いだというようなイメージである。 ここでは、法人税法22条の2を巡る「別段の定め」論議は議論百出の様相を呈しているが、少なくとも22条の2が22条4項の「別段の定め」であるという理解は学説の支持を得つつあることを指摘しておこう(泉絢也「収益認識会計基準公表に伴う法人税法の改正」千葉商大論叢57巻2号71頁以下参照)。 また、法人税法22条の2第5項において、第4項の引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額は、第4項の資産の販売等につき、その対価の額に係る金銭債権の貸倒れが生ずる可能性がある場合、あるいはその販売又は譲渡に係る資産の買戻しの可能性がある場合においても、その可能性がないものとした場合における価額とすることが明記された。このことは、収益認識会計基準のステップ3は受け入れ難い面があることを法人税法が具体的に表明したものであると捉えうることは既に述べた。 もっとも、法人が、これらの見込みを考慮して取引価格を決定する場合に、法人税法22条の2第5項の適用をどのように考えるかという問題は残されている。後で検討するが、例えば、元本債権のみならずその利息債権の貸倒れの可能性も含めて上乗せ金利を設定している場合に、5項はかかる上乗せ部分を「通常得べき対価の額」の算定上考慮しないとすることまでを定めるものであろうか。 (了)
〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第5回】 「不正・虚偽表示・重要な誤り」 -不適切な会計処理に関する用語- 公認会計士 阿部 光成 ◆はじめに 「監査基準の改訂に関する意見書」(2019年9月3日、企業会計審議会)では、近時、我が国では、不正会計事案を契機として、改めて監査の信頼性が問われている状況にあるとし、「不正会計事案」という言葉が用いられている。 このほかにも、「会計不祥事」「粉飾決算」「不適切会計」など、会計・監査に係る法令や基準には、不適切な会計処理に関連する様々な言葉が見られる。 さらに2020年11月6日に改訂された「監査基準」では、「虚偽表示」のほかに、「重要な誤り」という用語が使用されている。 そこで今回は、これらの用語について取り上げることにする。 ◆会計・監査の用語 会計・監査では、不適切な会計処理に関連する用語として次のものがあり、法令や会計基準などにおいて、様々な用語が使用されていることがわかる。 ◆「虚偽表示」と「重要な誤り」 2020年11月6日の改訂「監査基準」では、「重要な誤り」の用語が使用されている。 改訂「監査基準」では、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容を「その他の記載内容」といい、監査人は、「その他の記載内容」を通読し、「その他の記載内容」と財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかについて検討することを明確にしている。 その結果、監査人が、重要な相違に気付いた場合や、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない「その他の記載内容」についての「重要な誤り」に気付いた場合には、経営者や監査役等と協議を行うなど、追加の手続を実施することが求められる。 「その他の記載内容」に「重要な誤り」がある場合に、追加の手続を実施しても当該「重要な誤り」が解消されない場合には、監査報告書にその旨及びその内容を記載するなどの適切な対応が求められる。 ここで、「虚偽表示」と「重要な誤り」の区別について、監査基準の改訂の際の公開草案に対して、次のコメントが寄せられ、金融庁の考え方が示されている(「コメントの概要及びコメントに対する考え方」No.9)。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第109回】 ネットワンシステムズ株式会社 「外部調査委員会調査報告書(2020年12月14日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【ネットワンシステムズ株式会社外部調査委員会の概要】 【ネットワンシステムズ株式会社社内調査チームの概要】 【ネットワンシステムズ株式会社の概要】 ネットワンシステムズ株式会社(以下「ネットワン」と略称する)は、1988(昭和63)年2月設立。情報インフラ構築と関連サービスの提供を主たる事業とする。売上高186,167百万円、経常利益16,563百万円、資本金12,279百万円、従業員数2,431名(いずれも2020年3月期連結実績)。本店所在地は東京都千代田区。東京証券取引所1部上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ。 ◎外部調査委員会設置に至る経緯 【調査報告書の概要】 1 外部調査委員会設置の経緯 調査報告書によれば、ネットワンは、2020年10月22日、外部機関aからの指摘により、次の疑義を認識した(以下、下記の事案①及び②を総称して「甲事案」という)。 ネットワンは、この指摘を踏まえて、社内調査を行ったところ、甲事案における不正流出の疑義が相当程度高まったことから、甲事案の事実関係の調査、甲事案の類似案件の調査等を目的として、11月2日開催の取締役会において、ネットワンと利害関係を有しない外部専門家のみを委員とする外部調査委員会の設置を決定した。 また、ネットワンは、外部調査委員会の設置に先立つ10月31日、C氏からの説明を端緒として、C氏が、案件3において、ネットワンの売上先である売上先d社に「リスク費(※)」を保留するスキームを利用し、当該「リスク費」を当該案件以外の案件の費用の支払に使用することにより原価付替を行ったとの疑義(以下「乙事案」という)を認識した。 (※) 報告書において「リスク費」又は「プール金」とは、ある案件において追加の費用が発生した場合に備え、あらかじめ仕入先又は売上先に保留される資金を指す。 ネットワンは、乙事案の調査を進めていたが、A氏が、甲事案においてネットワンの資金を仕入先に流出させ、更にそれを自己のプライベートカンパニーに流入させたのは、「リスク費」をネットワン社外に保留し、追加発注等が生じた場合に使用する目的であった(すなわち、原価付替を行う目的であった)と説明していたことも踏まえ、11月16日、外部調査委員会に対する委嘱事項に、乙事案の事実関係の調査、並びに甲事案又は乙事案と類似する原価付替の疑義の調査を追加するとともに、会計処理に専門的な知識を有する委員として、ネットワンと利害関係を有しない公認会計士3名を外部調査委員会の委員に追加した。 2 甲事案に対する調査結果 外部調査委員会は、甲事案について調査を行った結果、案件1及び案件2について、ネットワンの資金合計219,857,004円が、A氏の欺罔的行為によりネットワンから流出したことを認定した。 (1) 案件1について ネットワンは、案件1において、仕入先b社に対し、サーバ設計役務等の名目で合計52,000,000円の発注を行ったところ、このうち19,500,000円分は、仕入先b社への委託役務に紐づかない水増し取引に該当し、当該取引によって、2018年12月28日及び2019年4月26日に、ネットワンの資金合計21,060,000円(消費税額等を含む)が仕入先b社に対し不正に流出した。なお、上記21,060,000円は、その全額が、仕入先b社から、A氏が代表取締役を務めその発行済み株式の全てを保有するプライベートカンパニーに送金され、そのほとんどがA氏の個人的な費消に充てられた。 (2) 案件2について ネットワンは、案件2において、仕入先c社に対し、4項目の名目で合計184,071,300円の発注を行ったところ、当該取引は架空取引であり、当該取引によって、2019年9月30日、ネットワンの資金198,797,004円(消費税額等を含む)が仕入先c社に対し不正に流出した。なお、この198,797,004円のうち170,033,430円が、第三者を経由して、最終的に、A氏のプライベートカンパニーに送金され、そのほとんどがA氏の個人的な費消に充てられた。 3 乙事案に対する調査結果 外部調査委員会は、乙事案について調査を行った結果、f社を工ンドユーザーとする案件3において、リース会社である売上先d社に保留されていた「リスク費」のうち14,269,400円が当該案件以外の費用に充てるために売上先d社から払い戻され、そこからネットワンの利益分を控除した13,132,500円が仕入先又は外注先に支払われたことを認定した。 なお、個人的な着服の嫌疑については、原価付替を通じてC氏個人が不正に利益を得ていないかについても調査を行ったが、同氏が不正に利益を得た事実は認められなかったと調査結果をまとめている。 4 不正行為に及んだ動機/背景事情 (1) 甲事案におけるA氏の動機(調査報告書39ページ以下) 調査では、A氏は、ネットワンの資金を不正に流出させ、プライベートカンパニーに流入させた目的につき、案件1に関連して発生する可能性がある追加作業に充てる資金及び5年目の保守更新時に発生することが見込まれる赤字に充てる資金を保留しておく目的であった旨弁解している。 この弁解に対し、外部調査委員会も、案件1の5年目の保守更新において50,000,000円以上の赤字が発生することが見込まれることが確認されたことから、赤字を補填するための資金を要していたというA氏の弁解を全て排斥することは難しいと言わざるを得ないとしながらも、A氏のプライベートカンパニーに資金を流入させた時点では、その主たる目的はA氏の個人的費消に充てることを認識し、それを前提にA氏が個人的費消を続けていたことが認められるものという判断を示している。 (2) 乙事案における背景事情 乙事案において、原価付替が行われた背景事情について、外部調査委員会は、「公共事業案件の特殊性」として、①入札時点では仕様の細部が定まっておらず、受注後に追加原価が発生しやすい傾向にあること、②追加原価が発生したとしても、エンドユーザーの予算が決まっているためにその請求をすることができず、ネットワンの負担となることが多かったことを挙げている。 そのうえで、案件を受注した後に発生した追加の機器や役務をネットワンが無償で供与する際のルールとしては、事後的に担当者が追加原価の申請を行い、社内でその承認を経る手続があったものの、追加原価申請を行った担当者に対し、「見積時に見落としただけなのではないか」という見方で圧力をかけられ、場合によっては上長から叱責されることもあり、「追加原価申請自体が『悪』である」との評価が少なからず存在したこと、追加原価申請は、その金額によって本部長又は経営委員会の決裁が必要となるため、担当者には大きな負担となっていたこと、さらに、あらかじめ「予備費」を設定することについての社内のルールの整備が十分ではなかったことという事情が相まって、社外のリース会社に「リスク費」を保留する手法が採用されるに至ったと考えられるとまとめている。 5 「原因分析」と「再発防止策の提言がない」調査報告書 外部調査委員会は、調査報告書において、「不正行為に関する原因分析の詳細」及び「再発防止策の提言」についても記載がないことについて、不十分な調査結果に係る調査報告書であるとの指摘・批判は甘んじて受けるとしても、批判は当たらないとして、その理由を、委員会の与えられた調査スコープと、それに向けて限られた時間の中で最善を尽くして調査した結果を、ありのままに記載するには、このような形が最善と考えたからであると説明したうえで、調査結果としてネットワンの損益に重要な影響はなかったことについて、委員会の調査関与メンバーの認識が一致したからであるとまとめている。 しかし、外部調査委員会は、ネットワンにおける課題について、2012年、2013年、2019年と3度にわたって大きな不祥事件が発覚し、都度、調査委員会を立ち上げて調査を尽くしたにもかかわらず、今般、4度目の不祥事が発覚した事実は重いと指摘し、委員会としては、①ガバナンスの在り方(2019年設置調査委員会による調査において、資金横領問題や原価付替に係る原因究明等を十分に検討していない理由や背景等も含む)、②内部統制や統制環境の在り方、③内部監査の在り方、さらには、④企業文化に係る改革への指針に触れないまま調査を終えることは躊躇われることから、委員会としては、2021年3月までには、少なくとも上記①ないし③についての原因分析等を含む調査結果をまとめ、再発防止策の不足部分につき提言したいとして、報告書を締め括っている。 6 社内調査チームによる調査結果の概要 外部調査委員会による調査に先行して開始されていた社内調査チームによる調査の概要は次のとおりである。 (1) 調査の目的 ネットワンは、2020年9月、外部機関からの指摘により、納品実体のない取引によりA社に流出した資金の一部が、A社からB社又は同社の関連会社であるC社へ支払われ、ネットワンが売上として計上した取引にかかる役務や物品の提供に充てられていた可能性があるとの疑義(原価計上不足の疑義)及び過年度の会計処理の再検討の必要性について認識するに至ったことから、この疑義についての調査及び過年度の会計処理についての検討を行うため、社内メンバーと外部専門家から構成される調査チームにより調査を行うこととしたものである。 (2) 調査結果の概要 ① 損失計上時期の変更 ネットワンは、2020年3月に行った過年度決算訂正において、納品実体のない取引に関連する立替金約51億円について、当該立替金を支払うこととなった商流の架空案件が発生した2018年3月期から2020年3月期の期間にわたって損失計上をしていたが、本調査の結果、立替金約51億円に対応する損失は、一連の架空循環取引の開始時点である2016年3月期から2020年3月期の全期間にわたって負担すべき性質を有する金額との結論に至ったことから、損失の計上額を修正した。 ② 売上原価の追加計上 ネットワンは、納品実体のない取引によりA社に流出した資金の一部について、元従業員甲氏の指示によりA社からB社等へ支払われ、当該支払いを対価としてB社等がネットワンへ物品及び役務を提供していた可能性を認識したため、原価計上不足の疑義及び会計処理の必要性を認識し、関連する取引のリストの提供を受けた結果、2015年3月期から2020年3月期の期間にわたって合計1,569百万円に相当する役務や物品の提供が、B社等からネットワンに対して行われていた事実が確認された。そこで、当該期間に追加で1,188百万円を売上原価計上するとともに、架空循環取引の過程でA社に支払われ、ネットワンに対して提供された役務等の対価である381百万円を特別損失から売上原価に振替処理をする修正を行った。 【調査報告書の特徴】 2020年11月2日に、ネットワンが適時開示した「外部調査委員会設置に関するお知らせ」を読んだ時には、「やはり資金の横領もあったのか」と、「どうして特別調査委員会の調査では発覚せず、外部機関―おそらくは証券取引等監視委員会かと思われる―によって指摘されるまで、発覚しなかったのだろう」という2つの感想を抱いたものであった(なお、特別調査委員の調査報告書については本連載の【第97回】及び【第98回】を参照されたい)。 今回の報告書でも、 という2点に注目して、内容を読み進めたのであるが、1点目については、明言こそされていないものの、社内調査チームによる調査結果も合わせて読むと同一人物であったことが推認できたものの、2点目の疑問については、明確な答えは提示されていない。 1 2019年12月に設置した特別調査委員会による調査に対する批判 外部調査委員会は、2019年12月に設置された特別調査委員会が、A氏による資金流用疑義や原価付替疑義を発見できなかったことについて、直接的な批判はしていないが、調査報告書62ページの「第7 最後に」という項目では、ネットワンのガバナンスの在り方の問題として、2019年設置の特別調査委員会による調査において、「資金横領問題や原価付替に係る原因究明等を十分に検討していない理由や背景等も含む」とのかっこ書きに、さらに以下のような注書きを附している(黒塗りは調査報告書による)。 2019年12月に設置された特別調査委員会でも、甲氏による資金横領問題が発見されていたかどうかはともかく、C氏による原価付替は発見されていたにもかかわらず、ネットワン側と委員会側との何らかの折衝の結果、「原因究明等を十分に検討していない」ことを指摘しているように読み取れるところではあるが、外部調査委員会の意図がどのあたりにあるのかまでは理解できない。 こうしたネットワンの企業文化については、今年3月19日までに取りまとめることが予定されている、下記の「ガバナンス・企業文化改革委員会」による内部統制環境、内部監査等に関する検証結果及び再発防止策の提言等の公表により、明らかになるかもしれない。 2 ガバナンス・企業文化改革委員会の設置 外部調査委員会の提言を踏まえる形で、ネットワンは、調査結果の公表と同時に、「ガバナンス・企業文化改革委員会」の設置を公表した(「「ガバナンス・企業文化改革委員会」設置のお知らせ」)。その概要をまとめておきたい。 3 東京証券取引所への「改善状況報告書」の提出 ネットワンは、外部調査委員会による調査報告書の公表と同時に、東京証券取引所に提出した「改善状況報告書」も公表した。報告書の大部分は、2020年3月に公表した循環取引に関するものであるが、報告書の最後(44ページ)に、「新たな不適切な事案の発生について」の項目を置いているので、内容を確認しておきたい。 まず、「新たな不適切な事案」については、資金流用の疑義を認識した後、事態の早期解決を図るため外部調査委員会を設置し、調査を進めてきたこと、その後、原価付替の疑義を新たに認識するに至り、同種の原価付替の疑義に関しても外部調査委員会の委嘱事項に追加したうえで、外部調査委員会によって、元従業員がネットワンの資金を流出させていた事実や原価付替が行われていた事実等が認定されたことを説明している。 次いで、今後の対応方針として、上記の「ガバナンス・企業文化改革委員会」の設置、内部統制環境、内部監査等に関する検証結果及び再発防止策の提言等を2021年3月19日までに受領し、公表する予定であること、「ガバナンス・企業文化改革委員会」による検証が、迅速かつ実効的に実施されるよう全面的に協力し、提言等を真摯に受け止め、経営ビジョンである「全てのステークホルダーから信頼され支持される企業(アドマイヤード・カンパニー)」に変革したと関係者の皆様から評価いただけるよう、全社一丸となって改革に取り組む所存であると締め括っている。 (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第10回】 「ハラスメントの事前防止策と再発防止策」 弁護士 柳田 忍 拙稿第2回から第9回においては、ハラスメント事案が発生した後に会社がとるべき対応策や手続の流れについて説明した。本稿においては、そもそもハラスメントを発生させないための事前防止策と再発防止策について述べる。 1 総論 事業主は、パワハラ・セクハラ・マタハラによって労働者の就業環境が害されることのないように、雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられている(※1)。雇用管理上必要な措置には、(1)ハラスメントがあってはならない旨の方針及びハラスメントの内容の明確化、(2)(1)の従業員への周知徹底、(3)相談体制の構築、(4)教育研修の実施、(5)再発防止措置の実施など、事前防止策や再発防止策の実施に該当するものが含まれている。また、令和2年6月に施行された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「改正労働施策総合推進法」という)においても、事業主は、パワハラ・セクハラ・マタハラに起因する問題に関する相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱いを禁止されたり、パワハラ・セクハラ・マタハラの問題に対する労働者の関心と理解を深めるとともに、労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をすることを求められるなど、事前防止策や再発防止策の実施が要請されているといえる(※2)。 (※1) 例えば、パワハラにつき、改正労働施策総合推進法第30条の2第1項、同第3項、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)。 (※2) 例えば、パワハラにつき、改正労働施策総合推進法第30条の2第2項、第30条の3第2項。 事前防止策や再発防止策の構築により、ハラスメント事案の発生を予防できる可能性が高まるが、その他にも以下の効果を期待することができる。 まず、役員や従業員がハラスメントの加害者として責任を負う場合であっても、その使用者は責任を免れることができる可能性が高まる。拙稿第7回において述べたとおり、被害者が会社の代表者の不法行為について会社の責任を追及する場合や、使用者責任を追及する場合で、役員や従業員の不法行為が認められるときは、ほぼ自動的に会社の責任も認められることになる。そのため、会社が事前防止策や再発防止策を講じていても会社の責任が認められることになってしまうが、会社自身の不法行為責任や債務不履行責任については、会社が事前防止策や再発防止策を講じている場合に否定される可能性が高まる(大津地判平成30年5月24日労経速2354号は、被告会社がパワハラ防止について、研修を行い、相談窓口を設置して周知し、啓蒙活動や注意喚起を行っていることなどに照らし、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任)を否定している)。 拙稿第7回記載のとおり、会社自身の不法行為責任や債務不履行責任が認められる場合には、会社のレピュテーション(評判)に甚大な被害が及ぶことになると思われることから、これを避けるという観点からも、事前防止策と再発防止策の構築には意味がある。 また、事前防止策や再発防止策は、従業員に対する警告をも意味することから、ハラスメントを行った従業員に対する懲戒処分を有効とする方向に働くものと思われる。 以下においては、事業主の措置義務、裁判例及び実務上の観点から、事前防止策と再発防止策の実施に関するポイントを説明する。 2 事前防止策手段 (1) ハラスメントがあってはならない旨の方針及びハラスメントの内容の明確化 会社は、主に以下を定めたルールの策定を行うべきである。特に①については、パワハラ・セクハラ・マタハラの具体例を挙げるなどして、従業員に予測可能性を持たせると、高い抑止効果を期待することができる。 (2) (1)の従業員への周知徹底 (1)の周知徹底の方法としては、ポスターの掲示やパンフレットの配布、イントラネットへの掲載等が考えられるが、組織のトップ自らが従業員に向けたメッセージとして(1)を周知徹底する方法も有効である。 (3) 相談体制の構築 相談窓口の体制や運用等については、拙稿第4回において述べたとおりである。重要なことは、単に形ばかり相談体制を構築するのではなく、これを実効性のあるものにすることである。 (4) 教育研修の実施 ハラスメントにかかる研修は定期的に行うことが重要である。ハラスメント研修を一旦実施したきり、しばらく実施しない会社も多いが、従業員の記憶喚起や、新しいタイプのハラスメント(昨今においてはコロナハラスメントやリモートハラスメント等)の知識の更新等のために、定期的に研修を行うべきである。 仮にハラスメント研修を定期的に行わない場合であっても、最低限、中途入社の従業員に対してこれを実施することを忘れてはならない(東京地判裁平成28年12月21日(判例集未搭載)は、被告会社が新入社員に対してはセクハラ防止に係る研修を実施しているが、中途採用者に対してはこれを実施していなかったことを理由に、被告会社に債務不履行に基づく損害賠償責任を認めている)。 3 再発防止策 (1) ハラスメントに係るルールの見直し及び周知・徹底 まず、発生したパワハラ・セクハラ・マタハラの内容を前提にハラスメントに関する社内ルールの見直しを行うべきである。 また、実際に発生したハラスメントの概要を従業員に対して周知すべきである。組織の風土ごとに発生しやすいタイプのハラスメントがあり、同一組織内においては一度発生したハラスメントと同様のハラスメントが発生しがちであるためである。周知の際には、あくまで、ハラスメントの概要を把握するために必要最低限度の情報のみを周知し、加害者や被害者の特定に繋がる情報を安易に公表しないよう注意すべきである。 (2) 再度の教育研修の実施 まず、発生したハラスメントの内容を踏まえたうえで全従業員に対して再度教育研修を実施し、教育研修の対象にはかかるタイプのハラスメントが起きた理由、これを再び起こさないための方策等を含めることが有用であると思われる。 更に重要なのは、ハラスメントの加害者に対する教育研修の実施である。ハラスメントの加害者に対しては、(再度の)ハラスメント行為の予防のために、個別に研修や面談による指導を実施し、自らの行為がハラスメントに該当することを認識させること等がポイントとなる。 この点、神戸地判平成29年11月27日判夕1449号205頁は、国立大学法人(Y1大学)が、Y2教授がアカデミックハラスメント(以下「アカハラ」という)行為を行ったこと、及び、再度アカハラ行為に及ぶおそれがあることを認識していたにもかかわらず、Y2教授に対して個別に教育、研修を実施していなかったこと等を理由に、Y1大学の責任を認めている。 Y1大学は、Y2教授のアカハラ行為発生以前から、ハラスメント防止規程やガイドラインを作成して全教職員や学生にパンフレットの体裁で配布し、Y1大学の基本姿勢、ハラスメントの具体例、ハラスメントをなくすための心構えや方法、対応手順を紹介するなどして、ホームページにも同様の情報を掲示し、全学教職員会議において、ハラスメント対策に関する講演会を開催するなどしており、更に、Y2教授によるアカハラ行為を把握した際にはY2教授に対して口頭での厳重注意処分を行っていたが、それにもかかわらず、上記のとおり、Y1大学の責任が認められたのである。本判決には実効性のある研修の実施の重要性が表れているといえる。 (了)
〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第13回】 「退職した税理士との業務委託契約」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 枝廣 恭子 〔質 問〕 当事務所で勤務していた税理士が都合により退職することとなりました。長年勤務していたこともあって、担当していた顧客からの信頼も厚く、新たな担当者への引き継ぎができるまで、当面の間、一部の顧客を引き続き担当してもらいたいと考えています。 業務を委託する契約を締結しようと思いますが、どのような点に注意すればよいのでしょうか。 〔回 答〕 ➤ 守秘義務に関する条項、顧客の引抜防止のための条項、中途で業務が終了した場合の報酬に関する条項等を定めておくことが重要です。 ➤ 債権法の改正において、業務委託に関連する項目にも改正があったため、これまでに使用している業務委託契約書の内容を確認し、場合によっては改定を検討することも必要です。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 契約を締結する際の注意点 (1) 業務委託契約の類型 特定の業務を他の企業や個人に委託する業務委託契約は、実務において広く利用されている契約の形態であるが、法律上「業務委託契約」という類型の契約は存在しない。一般に業務委託契約と呼ばれているものは、契約の内容に応じて分類され、税理士(又は税理士法人)と外注先の税理士との間の契約は、税務代理といった法律行為が内容である場合は「委任型」の業務委託契約、その他の業務(法律行為以外の業務)を内容とする場合は「準委任型」の業務委託契約に該当する(民法643条、656条)。 そして、税理士と顧問先や顧客(以下「顧客等」という)との間でも委任契約又は準委任契約を締結するが、税理士が受任した業務を他の税理士に「再委任」をするには、委任者の承諾又はやむを得ない事情があることが必要である(民法644条の2第1項、656条)。 したがって、事務所に所属しない税理士に業務を外注することを検討する際は、顧客等との間の契約において再委任が許容されているか、あるいは再委任をする際に条件が付されているとして、その条件をクリアしているか(顧客等の承諾が必要である旨が規定されている場合はあらかじめその承諾を得ること)の確認が必要である。顧客等との契約に再委任に関する規定がなければ、法律の規定に則り、再委任をすることについて、原則として顧客等(委任者)の承諾を得ることが必要である。 (2) 守秘義務 税理士は、税理士法上、守秘義務を負っている(税理士法38条。「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は窃用してはならない。」)。また、顧客等との間の契約にも、守秘義務に関する条項が設けられているのが一般的である。 そして、外部の税理士に業務を委託する場合、必然的に顧客等の秘密情報を開示することとなる。仮に、顧客等との間の契約に再委託を許容するような条項が含まれていれば、その前提として再委託先に対する秘密情報の開示も含まれていると考え得る。他方で、再委任をする際には、法律と同様に承諾を得ることが求められている、あるいは再委任が禁止されているような契約の場合は、顧客から再委任の承諾を得るが、その際に、合わせて守秘義務を解除することについても十分に説明し、同意を得るべきである。 (3) 顧客の引抜防止対策 外注先の税理士との業務委託契約を終了した後に、あるいは場合によっては業務委託契約が継続している間に、外注先の税理士が顧客等を勧誘し、その結果として、顧客等が外注先の税理士との直接契約に切り替えてしまうおそれがある。そこで、外注先の税理士による顧客等の引抜きを防止するための条項を定めておくことが重要である。具体的には、引抜行為や勧誘行為、あるいは、委任元の税理士(税理士事務所)を誹謗中傷したり、その社会的評価を下げたりするような行為を禁止する条項を定めておく。 また、仮に契約に違反して引抜行為が行われた場合であっても、実際には顧客等を取り戻すことは難しく、損害賠償の問題となる場合が多いが、その場合も、損害額の算定や立証は困難である。そこで、一定の牽制の意味も含めて、損害賠償の予定額や計算方法を定めておく方法もある(ただし、あまりに高額な損害賠償の予定額を定める条項は無効と認定されるおそれがあるので注意が必要である)。 (4) 報酬の定め 民法の改正により、委任契約(準委任契約)が中途で終了した場合に、受任者に帰責事由がある場合であっても、履行の割合に応じて報酬を請求できることが明文化された(民法648条第3項)。したがって、外注先の税理士の責任によって業務委託契約が中途で終了した場合、たとえ契約には割合的に報酬を請求できる旨の規定がなくても、外注先の税理士は履行の割合に応じて報酬を請求することができる。そこで、中途で終了した場合の報酬の額について争いにならないよう、報酬の定め方について可能な範囲で基準を定めて明確にしておくとよいであろう。 なお、成果に対して報酬を支払う成果型報酬の方式で契約を締結した場合で、業務が中途で終了して成果が一部分であったとしても、割合的な報酬の支払いを請求できるので注意が必要である(民法648条の2第2項)。 2 民法改正に合わせた業務委託契約書の見直し 上記のとおり、委任契約(準委任契約)に関連する条文の改正もなされたので、これを機会に、従前の業務委託契約書を見直す、あるいは新たに締結する際には、関連する条項を改定するとよい。 (了)
《速報解説》 社債の利子について「同族会社との間に法人を介在させた場合」も総合課税(累進税率)の対象に ~令和3年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 利子所得は、利子の支払を受ける際、利子所得の金額に一律15.315%(他に地方税5%)の税率による所得税・復興特別所得税が源泉徴収され、これにより課税関係が完結する源泉分離課税の対象とされている。また、特定公社債(※)の利子については、その支払を受ける際に税率15.315%(他に地方税5%)の税率で所得税・復興特別所得税が源泉徴収されるが、申告分離課税により確定申告をして源泉徴収税額の還付を受けることができる。 (※) 特定公社債とは、国債、地方債、外国国債、公募公社債、上場公社債、平成27年12月31日以前に発行された公社債(同族会社が発行した社債を除く)等の一定の公社債や公社債投資信託等をいう。 このように社債の利子については原則分離課税とされている。 ただし、特定公社債以外の公社債の利子で、その利子の支払をした法人が同族会社に該当するときにおける、その判定の基礎となる一定の株主(「特定個人」という)及びその親族等が支払を受けるものについては、源泉徴収(上記と同様、国税15.315%・地方税5%)が行われた上で、総合課税(累進税率が適用され、最高で国税45.945%・地方税10%)の対象となる(措法3①四、措令1の4③)。 これは、少数株主による会社支配が可能な同族会社について、本来、総合課税(累進税率)が適用されるべき所得(役員報酬等)を、源泉分離課税(一定税率)の適用を受ける利子所得に転換することによって税負担を軽減する事例がみられたため、これを適正化する観点から、平成25年度税制改正によって上記の取扱いとされた(財務省「平成25年度 税制改正の解説」P86)。 ここで、総合課税の対象となる特定個人及びその親族等(措令1の4③)には法人が含まれていないことから、下図のように個人が同族会社との間に、その個人が支配する法人を介在させることで、総合課税の対象となる所得を分離課税へ転換することが容易となる。 このため、令和3年度税制改正大綱では、同族会社が発行した社債の利子で、その同族会社の判定の基礎となる株主である法人と特殊の関係のある個人及びその親族等が支払を受けるものについて、総合課税の対象とされることが明記された。また、個人及びその親族等が支払を受けるその同族会社が発行した社債の償還金についても、総合課税の対象とされる。 なお上記の「法人と特殊の関係のある個人」とは、法人との間に発行済株式等の50%超の保有関係がある個人等をいう。 この改正は、令和3年4月1日以後に支払を受けるべき社債の利子及び償還金について適用される。 (了)
《速報解説》 緊急事態宣言の発令に伴い、 ⾦融庁から有価証券報告書等の提出期限の取扱いが公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021(令和3)年1月8日、金融庁は、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、2021(令和3)年1月7日に、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことに伴うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 金融庁の公表 次のことについて記載している。 (了)