税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第14回】 「鑑定評価では「用途地域」よりも「用途的地域」が重視される」 ~地域相場を捉える大きなポイント~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 用途的地域とは一体何のこと? 税理士の皆様も、都市計画法や建築基準法の規制に関連して、「用途地域」ということばを耳にしたことがあると思います。 ところで、用途地域とは、市町村(特別区の存する区域は東京都)により、主に市街化の図られている区域のなかで、秩序ある街づくりの観点から何種類かに分けて指定されている地域区分です。各々の地域のイメージは都市計画法の規定に織り込まれていますが、例えば、用途地域が第1種低層住居専用地域であれば、そのイメージは「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」となります。そして、都市計画で用途地域が定められた場合、これが建築基準法の規定につながり、用途地域ごとに建築可能な建物の用途や建蔽率及び容積率が指定される仕組みとなっています。 これに対して、鑑定評価を行う際には、都市計画法上の用途地域とは全く別の概念である「用途的地域」という視点から対象地の属する地域の特性を分析し、その相場を把握した上で個々の土地の特徴(間口・奥行・形状等)を反映させて価格を求めています。なお、ここにいう「用途的地域」は用途地域とは似て非なるものであり、不動産鑑定評価基準に特有の概念です。そして、その意味するところは、“(鑑定評価を実施する時点で)対象不動産と現実の土地利用状況が似ているひとかたまりの地域”を指します。 例えば、都市計画法上の用途地域が第2種中高層住居専用地域に指定されている地域では、街づくりの上からは中高層住宅の敷地としての利用が望ましいといえますが、現実には周囲一帯が戸建住宅の敷地として利用されているケースも珍しいことではありません。このような地域では、用途地域は第2種中高層住居専用地域に属するものの、用途的地域という観点から捉えれば、そこには戸建住宅の敷地としての利用を前提とした土地価格の水準(相場)が形成されているといってよいでしょう。 鑑定評価においては、このような視点から地域の価格水準(相場)を把握することが重要ですが、税理士の皆様からすれば、抽象的で何だか取っ付き難い印象を受けるかも知れません。そこで、以下、用途地域及び用途的地域について詳しく述べてみたいと思います。 2 都市計画における用途地域 都市計画法では、用途地域を次の13種類に区分し、それぞれ定義を置いています(同法第9条)。 (1) 住居系の用途地域 ① 低層住居にかかるもの ② 中高層住居にかかるもの ③ 上記以外のもの (2) 商業系の用途地域 (3) 工業系の用途地域 このように、用途地域の規制は、市町村等が街づくりの観点から、今後の土地利用を計画する際にはこのような利用の仕方が望ましい(あるいはこのような利用に限る)ということを大まかにイメージしたものです。 3 鑑定評価における用途的地域 既に述べた内容と一部重複しますが、その地域に現に存在するすべての土地が都市計画法上の用途地域の意図するイメージに合致して利用されているとは限りません(用途地域に関する都市計画法上の規制が定められる以前から街並みは形成されており、用途の混在している地域も少なからず存在するため、ある1つの用途に純化して地域を区分することは困難な場合が多いからです)。 そのため、都市計画法の用途地域の区分によるだけでは、現実の土地利用の状況を的確に把握することができないケースもあることに留意しなければなりません。 このような理由により、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際には、都市計画法上の用途地域を調査するとともに、その地域における土地利用の実態を調査し(=用途的地域という視点から)、これを基に当該地域の価格水準(相場)を把握しているわけです。 なお、鑑定評価書には「近隣地域」とか「類似地域」という用語が登場してきますが、これらの用語も用途的地域と深く関連しています。すなわち、不動産鑑定評価基準における次の定義からして、都市計画法上の用途地域とは明らかに異なるアプローチの方法を採用していることが読み取れます(下線は筆者)。 このように、近隣地域とは、対象不動産と利用状況が似ており、相互に代替的な関係にある他の不動産の存する地域を1つにまとめたものです。その区分は、都市計画法の用途地域のように条文に基づいた基準によるものではなく、不動産鑑定士の判断に基づく人為的なものです。その結果、状況によっては近隣地域の範囲をやや広めに把握したり、その反対にやや狭い範囲で把握するケースもあり得ます。このことは類似地域についても然りです。 なお、近隣地域と類似地域の大きな相違点は以下のとおりです。 ➤相違点 近隣地域=利用状況が似ているひとまとまりの地域であり、対象不動産を含む。 類似地域=利用状況が似ているひとまとまりの地域であるが、対象不動産を含まない。 4 まとめ 最後に、今まで述べてきたことを整理する意味でイメージ図を以下に掲げておきます(上記1では住居系の用途地域との関連を前提に説明しましたが、ここでは工業系の用途地域を例に取り上げます)。 〔イメージ図〕 例えば、都市計画法上の用途地域が準工業地域に指定されており、現実に利用されているひとかたまりの地域も工場の敷地という場合には、その地域では工業地としての価格水準が形成されています。 一方、準工業地域のなかにあっても、現実に利用されているひとかたまりの地域が住宅の敷地であれば、そこには住宅地としての価格水準が形成されています(準工業地域は、上記2(3)に記載した定義のとおり、「主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため定める地域」とされていますが、住宅をはじめ工業系以外の用途で利用できる建築物も多いからです(詳細は建築基準法別表第二を参照ください)(=用途地域だけでなく、現実の土地利用状況を踏まえた場合に、その地域における最もふさわしい利用方法(=最有効使用の方法)が何かを把握することが鑑定評価の基本となります)。 ◆ ◆ ◆ 税理士の皆様のなかには鑑定評価書に接する機会のある方も少なくないと存じます。本稿が日頃の疑問点の解消に少しでも役立つことがあれば幸いです。 (了)
〈知識ゼロからでもわかる〉 ブロックチェーン技術とその活用事例 【第4回】 「公共サービス×ブロックチェーン(前編)」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 繰り返しになるが、ブロックチェーンは、全ての取引履歴を信頼性のある形で保存し続けるための技術であり、透明性が高く、データの改ざんが極めて難しく、かつ仕組みが停止する可能性が極めて低い等の利点があることが実証されている。今回から複数回に分けて、ブロックチェーンの活用事例を紹介しながら、概説を行うこととする。 1 デジタル投票(オンライン投票) 適正なオンライン投票・デジタル投票をするためには、①投票者の正当性の確認、②投票内容の秘匿、③複数投票の防止、及び④投票結果の改ざんを禁止することを実現する必要がある。ブロックチェーンの活用により、国政選挙だけに限らず、上場企業の株主総会や組織体の多数決にも適正なオンライン投票・デジタル投票の実現が可能である。 また、国政選挙等の投票率の低下を改善するためにも、ブロックチェーンを活用したデジタル投票が増加するものと考えられる。 【ブロックチェーン投票システムの例】 2 公文書管理 公文書や行政文書に限らず、様々な文書や、行政機関に提出する各種の届出書の作成、更新の履歴等をブロックチェーンで管理することが考えられる。例えば、住民票をブロックチェーン化すれば、本人と転居前後の自治体の電子署名により、移転の手続が完了できるであろう。 3 不動産登記事務 日本の不動産登記事務は、不動産の所在地を管轄する法務局等が行うことになっており(不動産登記法6条1項)、不動産登記にあたっては、管轄法務局へ出頭して申請するか、又は郵送やインターネットを使って申請を行い、登記官の確認を経て、登記官が登記簿に登記事項を記録することによって行う(同法11条他)。そのため、登記申請から登記記録が公開されるまで1週間以上の時間がかかってしまう。 日本に限らず不動産登記記録は、多くの国で当該不動産の過去の権利関係の移転の履歴及び最新の権利に関する公開情報であり、正確性を担保されていなければならない情報である。特に発展途上国では、切実な課題である。よって、不動産登記情報をブロックチェーンで管理することで、関連する業務の効率化、正確性などが図れると考えられる。 4 徴税管理 税金の徴収においては、スマートコントラクト機能を応用することで事務手数料などの煩わしい料金を減額でき、税務当局はリアルタイムで税金を徴収することが可能となる。また、ブロックチェーンは、税金の透明性を提供し、税務当局が税金をどこで利用しているのかを正確に見ることも可能となるため、徴税の在り方自体の変革も可能となる。例えば、ごみの量に応じての徴税や道路の利用量に応じた徴税なども可能となる。 ブロックチェーンを使って納税者と税務当局との関係を変えるだけでなく、税金の登録方法を変更することによって、信頼できるリアルタイムの税金情報を管理できる。将来的には、国を越えた情報の提出と保存も可能となるであろう。 (了)
《速報解説》 東証、改正会社法の施行に伴い 上場制度の整備に係る有価証券上場規程等を一部改正 ~社外取締役の確保義務や株式交付制度の創設に係る制度整備等を定める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月12日、東京証券取引所は、「令和元年会社法改正に伴う上場制度の整備に係る有価証券上場規程等の一部改正について」を公表した。 これは、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)の施行に伴うものである。これにより、2020年12月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する主なコメントの概要及びそれに対する取引所の考え方も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 社外取締役の確保 上場会社は、社外取締役を1名以上確保しなければならない。 2 電磁的方法による株主総会資料の早期提供に関する努力義務 上場会社は、招集通知、株主総会参考書類、計算書類・連結計算書類及び事業報告等を、株主総会の日の3週間前よりも早期に、電磁的方法により提供するよう努める。 3 株式交付制度の創設に係る制度整備 株式交付に関し、次の場合に適時開示を求める。 4 その他 ストック・オプションの付与に係る適時開示事由を株式又は新株予約権の募集等に係る適時開示事由に統合するなど、所要の改正を行う。 Ⅲ 施行日 2021年3月1日から施行する。 社外取締役の確保については、施行日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日から適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会から 監基報540「会計上の見積りの監査」等の改正の確定が公表される ~経営者が行った見積りの方法の評価等を規定する監査基準の改訂を受けて反映~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月14日付で(ホームページ掲載日は2021年2月12日)、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」及び関連する監査基準委員会報告書の改正について」を公表した。当該監査基準委員会報告書の改正を受けて、関連する監査基準委員会報告書の適合修正も行われている。 これにより、2020年10月23日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 本改正は、監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)により、監査人は、会計上の見積りの合理性を判断するために、経営者が行った見積りの方法(経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを含む)の評価などが規定されたことから、それらを反映するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査基準委員会報告書540(以下「監基報540」という)の主な改正点は次のとおりである。 1 定義 「会計上の見積り」とは、適用される財務報告の枠組みに従って、金額の測定に見積りの不確実性を伴うものをいう(11項(1))。 「見積りの不確実性」とは、正確に測定することができないという性質に影響される程度をいう(11項(3))。 「固有リスク要因」とは、関連する内部統制が存在していないとの仮定の上で、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴 である(A8項。《付録1 固有リスク要因》を参照)。 2 適切な運用 監基報540において、適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるとは、次の事項を含め、適用される財務報告の枠組みにおいて要求される事項が適切に適用されていることを意味する。この「適切に適用されている」という用語は、適用される財務報告の枠組みに準拠しているだけでなく、その枠組みにおける測定基礎の目的に合致した判断が行われることを意味している(9項、A13項)。 3 リスク評価手続 企業及び企業環境を理解する際、監査人は、企業の会計上の見積りに関連する事項を理解しなければならない。 例えば次の事項である(12項)。 そして、監査人は、当年度における重要な虚偽表示リスクの識別と評価に役立てるために、過年度の会計上の見積りの確定額又は該当する場合には再見積額について検討しなければならない(13項)。 4 経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討 監査人は、経営者がどのように会計上の見積りを行ったかを検討する場合、次の事項に関連する重要な虚偽表示リスクについて十分かつ適切な監査証拠を入手する必要がある。そのために、リスク対応手続として、22項から25項に従って立案し実施する手続を含めなければならない(21項)。 5 会計上の見積りに関する注記事項 監査人は、会計上の見積りに関する注記事項(25項(2)及び28項(2)に記載されている見積りの不確実性に関する注記事項を除く)について、アサーション・レベルで評価した重要な虚偽表示リスクに関する十分かつ適切な監査証拠を入手するためのリスク対応手続を立案し実施しなければならない(30項)。 6 コミュニケーション 監査役等、経営者とのコミュニケーションに際し、監査人は、会計上の見積りに関してコミュニケーションを行うべき事項があれば検討し、重要な虚偽表示リスクの原因が見積りの不確実性に関するものかどうか、又は会計上の見積り及び関連する注記を行う上での複雑性、主観性もしくはその他の固有リスク要因の影響に関するものかどうかについて考慮しなければならない(37項)。 7 適用の柔軟性 監基報540の要求事項の適用の柔軟性に関する指針が規定されている(3項、A7項、A20項からA22項、A63項、A67項及びA84項)。 Ⅲ 適用時期等 なお、上記以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査については、改正前の監査基準委員会報告書540「会計上の見積りの監査」(報告書:第44号、2015年5月29日改正)に基づく従前の取扱いによるので、注意が必要である。 (了)
《速報解説》 監査基準の改訂に対応した 監基報720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」等の改正が確定 ~2022年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月14日付で(ホームページ掲載日は2021年2月12日)、日本公認会計士協会は、「監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正及び関連する監査基準委員会報告書の改正について」を公表した。当該監査基準委員会報告書の改正を受けて、関連する監査基準委員会報告書の適合修正も行われている。 これにより、2020年10月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 本改正は、監査基準の改訂(2020年11月6日、企業会計審議会)により、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容(その他の記載内容)について、監査人の手続を明確にするなどが行われたことから、それらを反映するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 監査基準委員会報告書720(以下「監基報720」という)は、その名称を監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」と改正する。 監査報告書の文例も示されている。 監基報720の主な改正点は次のとおりである。 1 定義 「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容をいう(11項(1))。 その他の記載内容は、通常、財務諸表及びその監査報告書を除く、企業の年次報告書に含まれる財務情報及び非財務情報である。 付録1では、その他の記載内容に含まれる可能性がある数値又は数値以外の項目の例が記載されている。 「年次報告書」とは、法令等又は慣行により経営者が通常年次で作成する単一又は複数の文書であり、企業の事業並びに財務諸表に記載されている経営成績及び財政状態に関する情報を所有者(又は類似の利害関係者)に提供することを目的としているものをいう(11項(3))。 監基報720は、決算短信等の財務情報の速報には適用されない(7項)。 2 その他の記載内容の通読及び検討 監査人は、その他の記載内容を通読しなければならず、通読の過程において、次のことを行わなければならない(13項)。 また、監査人は、13項に従ってその他の記載内容を通読する過程において、財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払わなければならない(14項)。 3 重要な相違があると思われる場合など 監査人は、重要な相違があると思われる場合(又は重要な誤りがあると思われるその他の記載内容に気付いた場合)、当該事項について経営者と協議し、必要に応じてその他の手続を実施する(15項)。 4 監査報告書 監査人は、監査報告書に「その他の記載内容」又は他の適切な見出しを付した区分を設けなければならない(20項)。 「その他の記載内容」区分には次の事項を含めなければならない(21項)。 ただし、12項に基づいて実施した手続の結果、その他の記載内容が存在しないと判断した場合には、その他の記載内容が存在しないと判断した旨及びその他の記載内容に対していかなる作業も実施していない旨を記載する(21項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 会計士協会、リモートワーク対応第3号から第5号を新たに公表 ~証憑の真正性や往査の制限に係る留意事項のほか、リモート会議等の活用についても言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月12日、日本公認会計士協会は、次のリモートワーク対応を公表した。 これらは、リモートワーク対応第1号「電子的媒体又は経路による確認に関する監査上の留意事項~監査人のウェブサイトによる方式について~」、リモートワーク対応第2号「リモート棚卸立会の留意事項」に続くものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ PDFに変換された証憑の真正性に関する監査上の留意事項 監査人が被監査会社からPDFで企業内部の記録や文書を入手する場合における監査上の留意事項を記載している(別紙が添付されている)。 1 PDF変換された監査証拠 PDF変換された監査証拠とは、紙の文書等の原始文書を、電子情報として表示、転送、保存のためにPDF変換した監査証拠である。 2 留意事項 原始文書等の原本からPDF変換する過程において、故意又は不注意により情報が変更されるリスクがあるとし、(1)監査人の要請により被監査会社がPDF変換を行うケース、(2)被監査会社がその業務プロセスにおいて証憑をPDFに変換して保存しているケース、(3)被監査会社が取引先等外部からPDFを入手しているケースに関する留意事項が記載されている。 (1)監査人の要請により被監査会社がPDF変換を行うケースについて、次のような留意事項が記載されている。 Ⅲ 構成単位等への往査が制限される場合の留意事項 我が国を含む世界各国の構成単位への往査が困難な場合が生じていることから、構成単位への往査等による関与に代えて、リモートワークによる監査手続の実施が考えられる。 1 リモートワーク方式 リモートワーク方式による監査手続の実施又は構成単位の監査人が実施する作業への関与とは、電話回線又はインターネット等の送受信技術を活用して、構成単位及び構成単位の監査人との間で必要な情報を送受信することにより、監査人が、グループ監査チームとして、遠隔地から監査手続の実施又は構成単位の監査人が実施する作業への関与を実施することをいう。 2 留意事項 次のような留意事項が記載されている。 Ⅳ リモート会議及びリモート会議ツールの活用について リモート会議及びリモート会議ツール利用時の特徴を理解の上、公認会計士事務所(監査法人)においてリモートワークを適切かつ効率的に実施するためのものである。 1 基本的な考え方 公認会計士事務所(監査法人)の経営者は、情報漏洩のリスクの適時・適切な把握、必要となる対策の実施を行うことが求められることから、リモート会議及びリモート会議ツールに対するリスク対策に限界があることを考慮に入れ、方針を決めることになると考えられる。 2 留意事項 対応策の例について、(1)経営者(公認会計士事務所(監査法人)の所長など)、(2)セキュリティ担当者、(3)利用者に分けて記載されている。 例えば、(1)経営者について、リモートワーク全般の方針の決定・見直し、関連規程の整備・見直しなどが記載されている。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を更新 ~会計基準の適用を前に追加情報の開示等について審議~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年2月10日、企業会計基準委員会は、議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(2021年2月10日更新)」をホームページに掲載した。 これは、2020年4月9日に開催された第429回企業会計基準委員会の議事概要の公表から約10ヶ月を経過した現状を踏まえ、また、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)の適用が開始されることから、審議されたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計上の見積りを行う際の留意点 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用が開始される。 第429回企業会計基準委員会の議事概要及び第432 回企業会計基準委員会の議事概要で示した考え方のうち、次のことは従来と変わりない。 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」は、重要な会計上の見積りとして識別した項目について、次の事項を開示すると規定している。 そこで、第429 回企業会計基準委員会等の議事概要で示した考え方のうち、重要性がある場合に「追加情報」としての開示が求められる新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」で求められる開示に含まれることが多いと想定され、前段に記載した他の開示と合わせ、新型コロナウイルス感染症の影響について、より充実した開示になることが想定される。 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」に基づく開示において、第429 回企業会計基準委員会等の議事概要で示した開示がなされる場合、改めて追加情報として開示する必要はないものと考えられる。 新型コロナウイルス感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断について開示することが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示しているケースが見られる。 「会計上の見積りの開示に関する会計基準」に基づく開示は、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目について求められるものであるため、このような開示は、「会計上の見積りの開示に関する会計基準」により求められる開示には含まれないが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになると考えられる。 (了)
2021年2月10日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.406を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〈判例評釈〉 ユニバーサルミュージック高裁判決 【第1回】 公認会計士・税理士 霞 晴久 1 はじめに ポール・マッカートニーやスティーヴィー・ワンダーなどの洋楽ビッグネームが所属していることで知られるユニバーサルミュージックが行った組織再編に係る更正処分に対する司法判断が話題となっている(※1)。 (※1) 令和2年8月10日付日本経済新聞「国税『伝家の宝刀』条件は 法人税法の規定適用巡り最高裁判断へ」参照。 処分行政庁は、同社の日本法人が関与した組織再編について、法人税法132条に定める同族会社の行為計算規定を適用し、同法人の行為計算を否認する課税処分を行った。これを不服として同法人が提訴した第一審では国側が敗訴し、さらに令和2年6月24日、その控訴審判決(※2)において、国側は再度敗れる結果となった。 (※2) 東京高裁令和2年6月24日(令和元年(行コ)第213号、TAINSコード:Z888-2315)。 第一審の東京地裁判決(※3)で特に注目を集めたのは、法人税法132条に関するこれまでの判決にない納税者有利の基準(筆者は仮に「およそない基準」と呼ぶ)が示されたことである。その後の控訴審において、かかる新基準が維持されるか否かに関心が集まっていたところ、東京高裁はこれを全面的に否定し、ヤフー事件の最高裁判決で示された法人税法132条の2の不当性要件の判断枠組みと同様の考え方を提示し、第一審の考え方を改めるとともに、高裁が示した判断枠組みにおいても納税者の行為計算に経済合理性があるとした。 (※3) 東京地裁令和元年6月27日判決((第1事件)平成27年(行ウ)第468号、(第2事件)平成29年(行ウ)第503号、(第3事件)平成30年(行ウ)第444号、TAINSコード:Z888-2250)。 本連載では、近年蓄積されている行為計算否認に係る様々な裁判例(IBM事件、ヤフー/IDCF事件、TPR事件等)における法人税法132条及び同法132条の2《組織再編成に係る行為又は計算の否認》の判断枠組みを比較しながら、本件の控訴審判決を検討することとしたい。 2 事案の概要 (1) 原処分の概要 多国籍企業であるフランス・ヴィヴェンディ(※4)(V社)傘下のユニバーサルミュージックグループの日本法人で、合同会社であるX(原告・被控訴人)は、国際的なグループ組織再編成に伴い、借入債務約866億円(本件借入れ)を負担し、平成20年12月期から同24年12月期までの事業年度(本件事業年度)において、本件借入れに係る利息を損金に算入して確定申告したところ、処分行政庁は、当該利息につき、同族会社に係る一般的否認規定である法人税法132条を適用し、その損金算入を否認した。Xは当該更正処分等(本件各更正処分)を不服とし、その取消しを求め本訴を提起した。 (※4) ヴィヴェンディ(Vivendi S.A.)は、メディア事業、テレビ事業、映画事業、音楽事業等を行うヴィヴェンディ・グループ法人における究極の親会社であり、フランス法人である。 なお、本件事業年度にXが損金に計上した利息(本件利息)(※5)は、各期10億4,763万円余ないし44億1,081万円余であった。 (※5) 平成20年10月29日にXとVグループ傘下のフランス法人IF社との間で締結した金銭消費貸借契約によれば、借入利率は、平成26年10月29日までは年6.8%、それ以降は年5.9%と定められており、本件借入れの使途は、系列内の日本法人3社の株式購入代金及びその関連費用にのみ使用することとし、借入期間は20年、返済期限は平成40年(令和10年)10月29日までで、借入れ後1年までは300億円の限度で借入金の一部が返済可能であり、借入れ後8年以降はいつでも借入金の全部又は一部が返済可能とされていた。 (2) 本件における組織再編成の概要 V社を頂点とする多国籍企業グループ傘下の米国エンタテインメント企業Universal Music Group Inc.(下図ではV社とオランダ法人D1社の中間にあり、表示は省略されている)の間接的な100%子会社であったユニバーサルミュージック株式会社(日本の関連会社U社)は、日本で音楽事業等を営んでおり、当時は黒字を計上していたが、以下のプロセスに従い組織再編成が行われた(本件組織再編)結果、X社に吸収合併され、結果的に多額の本件借入金を負担することとなった。 【本件組織再編のスキーム概略図】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※6) V社グループの外部の金融機関等からの資金調達は、V社が一括して行い、調達された資金は、グループ内資金管理会社であるフランス法人IF社及びGT社を通じてV社グループ法人に貸し付けられていた。 (※7) 上図では省略されているが、同時に、直接の親会社を別のオランダ法人とするV社グループ傘下の日本法人2社を買収している。 なお、上記③の追加出資の資金約295億円は、V社から、フランスのCMS統括会社のGT社に短期関係会社勘定として送金された後、他の関係会社を経由し、英国法人B社への出資を経て、最終的にオランダ法人D2社に出資されたものである。 また、上記⑤の株式買収資金約1,144億円(約9億5,875万ユーロ)については、そのうち約4億8,292万ユーロが、オランダ法人D3社によって、同じくV社グループ傘下のオランダ法人ポリグラム(上図では省略)に対して貸し付けられ、同社によるフランスCMS統括会社IF社からの借入金の返済に充当された。 残りの約4億7,583万ユーロは、オランダ法人D3社からオランダ法人D2社に貸し付けられ、同社のIF社及びGT社からの借入れの返済に充当された。以上により、IF社に返済された資金は全てGT社に対し短期関係会社勘定として送金され、最終的には、日本の関連会社買収資金の約9億5,875万ユーロは、全て、GT社からV社に短期関係会社勘定として送金された。 (続く)
令和2年度税制改正における 国外財産調書制度の見直し 【第3回】 税理士 谷口 勝司 2 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の見直し (1) 加重措置の適用対象に相続税を追加 イ 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の適用対象に、国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合が追加された(調書法6③)。 国外財産調書制度では、その適正な提出に向けたインセンティブとして、過少申告加算税等の軽減措置・加重措置が設けられている。このうち加重措置については、改正前は所得税に関する修正申告等だけが対象とされていて、相続税に関する修正申告等は対象外であった(上記Ⅰ2(2)(【第1回】)参照)。 改正前において相続税が加重措置の対象外とされていた理由としては、被相続人による国外財産調書の不提出又は未記載について、これを一律に別人格である相続人(実際に相続税の申告納税をする納税義務者)の責任とすることは適当でないと考えられたことが挙げられる。 一例として、X3年12月1日に相続人による相続税の期限内申告書提出があり(被相続人はX3年2月3日死亡)、その後の税務調査によって国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合を取り上げてみよう。この場合、X2年分国外財産調書は被相続人がその提出期限であるX3年3月15日までに死亡しているので、その提出義務はないことになる(調書法5①ただし書)。このため、被相続人が提出すべき前年分(X1年分)の国外財産調書の提出や当該国外財産の記載があったかどうかによって、相続人に対する過少申告加算税等について加重措置の適用の有無を判断することは酷であることから、改正前の制度では加重措置の対象から相続税は除外されていたのである。 しかし、令和2年度税制改正において、相続開始年の国外財産調書等の記載の柔軟化(上記1(前回参照))及び加重措置の適用の判定基礎となる国外財産調書の見直し(下記3(1)(次回参照))の改正が行われ、相続があった場合の国外財産調書に関するスケジュールは全体として後倒しされた。今回の改正は、納税義務者である相続人が提出義務者となる国外財産調書を加重措置の判定基礎とすることにより、相続税に関する修正申告等についても加重措置の適用対象に追加したものといえよう。 ロ その修正申告等が相続税に関するものである場合には、次に掲げる者については、上記イに関わらず、過少申告加算税等の加重措置は、適用しないこととされた(調書法6⑤)。 (イ) その相続税に係る相続人で相続開始年の翌年分の国外財産調書の提出義務がないもの (ロ) その相続税に係る相続人で相続開始年の翌年の12月31日においてその修正申告等の基因となる相続国外財産を有しないもの 相続税に関して修正申告等があった場合の加重措置は、下記3(1)ロ(次回参照)にあるとおり、被相続人の相続開始年の前年分の国外財産調書、相続人の相続開始年の年分の国外財産調書及び相続人の相続開始年の翌年分の国外財産調書の全ての提出がない場合、換言すれば悪質なケースについて、加重措置の適用対象とされている。 このため、例えば、提出義務がある被相続人が相続開始年の前年分の国外財産調書を提出せず、相続人が上記1(前回参照)の柔軟化措置により、相続国外財産を除外することにより相続開始年の年分の国外財産調書の提出を省略し、その後、相続開始年の翌年の12月31日までにその相続国外財産の譲渡等をしたことにより、相続人が相続開始年の翌年分の国外財産調書の提出義務がないといったケースでは、被相続人又は相続人に提出義務がある国外財産調書は、被相続人の相続開始年の前年分の国外財産調書のみとなり、被相続人の国外財産調書の提出がないことのみに基因して過少申告加算税等の加重措置が適用されてしまうのは酷であるため、上記(イ)のとおり、相続開始年の翌年分の国外財産調書の提出義務がない相続人については、過少申告加算税等の加重措置は適用しないこととされている。 また、相続税は、課税遺産総額の各法定相続人の法定相続分相当額に対して税率を適用して相続税の総額が計算され、その相続税の総額について実際の相続割合で按分して各相続人の税額が計算されるため、ある相続人に相続国外財産の申告漏れがあった場合には、その申告漏れの相続国外財産を有しない相続人についても申告漏れの税額(増差税額)が発生し、過少申告加算税が課されることになる。他方で、申告漏れの相続国外財産を有しない相続人は、その申告漏れの相続国外財産を国外財産調書に記載して提出することはできないため、上記(ロ)のとおり、相続開始年の翌年の12月31日において申告漏れの相続国外財産を有しない相続人については、過少申告加算税等の加重措置は適用しないこととされている。 (2) 加重措置の適用対象からの除外 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の適用対象から、次に掲げる場合が除外された(調書法6③)。 上記イ及びロの「責めに帰すべき事由がない」場合とは、例えば、国外財産調書の提出義務者やその相続国外財産に関する資料を保有する者が、災害、病気による入院等があったことにより、国外財産調書の記載や提出が困難であると認められる場合のほか、相続国外財産の内容、管理状況その他の客観的な事実に基づき、相続人が相続国外財産の存在を知り得ることが困難であると認められる場合が該当する(調書通達6-4の2)。 (了)