公開日: 2021/04/01 (掲載号:No.413)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例28】「従業員が窃取した棚卸資産の販売に関する損害賠償請求権と貸倒損失」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例28】

「従業員が窃取した棚卸資産の販売に関する損害賠償請求権と貸倒損失」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、首都圏近郊のある市に本社を置く事務機器販売会社A株式会社で総務部長をしております。わが社は企業向け事務機器を扱っているため、取引先は企業のみですが、扱う品目数は膨大であるため、在庫管理はすべてコンピュータで行っています。

現在の在庫管理システムが導入されたのはちょうど1年ほど前で、これは数年前に起こった従業員による在庫の横流し事件を契機に、旧システムの更新という形で行われたものでした。旧システムの下では、チェック体制の不備により、在庫管理を担当している者(法人経理には一切関与していない)が虚偽の入力をして商品を簿外とすることが可能であったため、その商品を個人的にインターネットオークションサイトに出品して販売することにより、懐を肥やすようなケースがあったのです。

その際、A社としては、従業員B(事件発覚後懲戒解雇)が行った、A社の有する棚卸資産を窃取し個人的にインターネットオークションサイトに出品して販売益を得る行為からは損害が生じており、当該損害につきA社はBに対し損害賠償請求権を有しているものと解しております。実際、A社はBに対し、先日、損害賠償請求訴訟を提起しており、現在も当該訴訟が継続中です。

ただし、Bはギャンブルで多額の借金を抱えており、その返済に困って当該窃取を行ったことから、仮にBに対する損害賠償請求権が認められたとしても、その回収は困難であると想定されます。

そのためA社は当該事件につき、Bに対する損害賠償請求権の全額が回収不能と判断して、その金額を全額損金算入しております。

ところが先日の税務調査で調査官は、Bがインターネットオークションサイトで得た収益をA社の法人税の申告上益金に算入していないのは、仮装隠蔽行為にあたるとして、重加算税を賦課すべき事案であると主張しました。Bは犯行が発覚することを隠すため、システム上は商品が廃棄等されたように工作しており、少なくともA社の法人税の申告時にはBの行為はA社の誰も把握しておりませんでした。そのため、A社はBの行為を隠蔽しようもないといえますので、重加算税の賦課は到底容認できるものではないと考えますが、いかがでしょうか。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例28】

「従業員が窃取した棚卸資産の販売に関する損害賠償請求権と貸倒損失」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、首都圏近郊のある市に本社を置く事務機器販売会社A株式会社で総務部長をしております。わが社は企業向け事務機器を扱っているため、取引先は企業のみですが、扱う品目数は膨大であるため、在庫管理はすべてコンピュータで行っています。

現在の在庫管理システムが導入されたのはちょうど1年ほど前で、これは数年前に起こった従業員による在庫の横流し事件を契機に、旧システムの更新という形で行われたものでした。旧システムの下では、チェック体制の不備により、在庫管理を担当している者(法人経理には一切関与していない)が虚偽の入力をして商品を簿外とすることが可能であったため、その商品を個人的にインターネットオークションサイトに出品して販売することにより、懐を肥やすようなケースがあったのです。

その際、A社としては、従業員B(事件発覚後懲戒解雇)が行った、A社の有する棚卸資産を窃取し個人的にインターネットオークションサイトに出品して販売益を得る行為からは損害が生じており、当該損害につきA社はBに対し損害賠償請求権を有しているものと解しております。実際、A社はBに対し、先日、損害賠償請求訴訟を提起しており、現在も当該訴訟が継続中です。

ただし、Bはギャンブルで多額の借金を抱えており、その返済に困って当該窃取を行ったことから、仮にBに対する損害賠償請求権が認められたとしても、その回収は困難であると想定されます。

そのためA社は当該事件につき、Bに対する損害賠償請求権の全額が回収不能と判断して、その金額を全額損金算入しております。

ところが先日の税務調査で調査官は、Bがインターネットオークションサイトで得た収益をA社の法人税の申告上益金に算入していないのは、仮装隠蔽行為にあたるとして、重加算税を賦課すべき事案であると主張しました。Bは犯行が発覚することを隠すため、システム上は商品が廃棄等されたように工作しており、少なくともA社の法人税の申告時にはBの行為はA社の誰も把握しておりませんでした。そのため、A社はBの行為を隠蔽しようもないといえますので、重加算税の賦課は到底容認できるものではないと考えますが、いかがでしょうか。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~40】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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