社外取締役と〇〇マルマル 【第1回】 「社外取締役の存在意義」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 柴田 寛子 1 はじめに 本稿は、「社外取締役と〇〇マルマル」と題する連載の第1回目である。 社外取締役に関しては、2019年12月4日に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)(以下「改正法」という)により、監査役会設置会社であっても、公開会社かつ大会社であり、有価証券報告書の提出義務を負う会社(以下「上場会社」という)において、その選任が義務化される等(なお、社外取締役の選任義務については次稿にて取り上げる)、その果たす役割は、一層重視されている。 このような近時の社外取締役への期待を背景に、本連載では、実務に根ざした多様な観点から、各回毎に異なるテーマを定め、社外取締役に関する諸論点を検証することとしたい。 2 社外取締役の導入状況 本稿のテーマとする「社外取締役の存在意義」を検討するにあたり、社外取締役の導入状況について簡潔に記載すると、2014年会社法改正及びそれに係る法務省令改正(※1)により、上場会社につき「社外取締役を置くことが相当でない理由」を定時株主総会において説明し(会社法327条の2)、かつ、事業報告及び株主総会参考書類に記載すること(会社法施行規則74条の2第1条、124条2項)が求められることとなる「前」である2013年においては、1名以上の社外取締役を選任する企業は、東証の全上場企業中、54.2%(2名以上は30.6%)であった。 (※1) これらの改正の施行日は2015年5月1日である。また、同年6月1日には、株式会社東京証券取引所(以下「東証」という)によるコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という)が施行され、東証第一部及び第二部上場企業を対象として、最低2名の独立社外取締役を選任することが推奨され、かつ、企業の実態に鑑み必要と考える場合には3分の1以上の独立社外取締役の選任を検討すべきことが求められることとなった(CGコード原則4-8)。 しかし、2017年においては96.9%(2名以上は91.9%)に至っている。また、東証の全上場企業のうち、取締役の1/3が社外取締役である企業は2017年において32.7%を占め、取締役の過半数が社外取締役である企業も、同年では4.4%存する(※2)。このように、現在の実務においては、社外取締役を複数名選任することが通例であり、かつ、取締役の1/3以上を社外取締役が占める企業も珍しくない状況にあるといえる。 (※2) 東証「東証上場会社における社外取締役の選任状況及び社外取締役を置くことが相当でない理由の開示状況について」法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会(以下「部会」という)第5回会議(2017年9月6日開催)参考資料19(3頁、7頁)。 3 社外取締役の効用 上記2のとおり、社外取締役の選任が広く普及する現状において、社外取締役の効用として、一般的には、取締役会や委員会を通じた監督や助言、社内向け講演会やリーダー研修の講師、個別案件・分野における助言、CEOの相談相手、将来のトップ候補との面談・会食、外部の人材や会社等の紹介等が指摘されている(※3)。 (※3) 江川雅子「コーポレートガバナンス・コード導入後の取締役会の実態」旬刊商事法務2196号(2019)36頁。 もっとも、少なくとも現時点において、社外取締役の導入により会社の業績が向上するという分析結果は示されていない。かえって、CGコード導入後の2事業年度に限定したものではあるが、東証第一部上場企業では社外取締役の選任によって特に優位な(統計学上意味のある)業績変化は見出せないが、東証第二部上場会社の場合には、むしろ業績が有意に悪化するという統計分析が示されている(※4)。 (※4) 齋藤卓爾「取締役会に関する実証分析」部会第5回会議参考資料23(22~23頁)。もっとも、上述のとおり、当該統計分析は、CGコード導入後の2事業年度に限定したものであり、かつ、部会資料として用いられることのみを目的としたものであることに留意する必要があるが、社外取締役の効用について検証しきれていないことを示す資料として有益と考えられる(田中亘「コーポレートガバナンス改革の本質を問い直す〔上〕-I 社外役員の意義と職責」旬刊商事法務2215号(2019)6頁)。 このように、社外取締役の選任による可視的な効果は見出しにくいにもかかわらず、その選任が推奨され、ひいては義務化されることとなった現状に鑑みると、取締役の存在意義について、導入企業及び社外取締役自身の双方が主体的に認識していることが重要といえる。 4 社外取締役の存在意義 それでは、社外取締役の存在意義はどのような点に見出すことができるだろうか。特に重要なものとして、以下の2点を挙げることができる。 (1) 利益相反における判断 まず、業務執行取締役等において利益相反が生じる場面において、利益相反のない取締役として対象事項の決定を行うという存在意義がある。 利益相反が生じる典型的な場面は、取締役候補の決定(指名)及び取締役の報酬の決定である。これらの「指名」及び「報酬」は、その利益相反性に鑑み、指名委員会等設置会社においては、社外取締役が過半数を占める指名委員会及び報酬委員会において決定することが会社法上の義務とされている。 指名委員会等設置会社以外のガバナンス体制をとる会社においては、このような会社法上の義務はないが、CGコードでは、これらの会社においても、独立社外取締役が取締役の過半数に達していない場合には、独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会の設置が求められている(CGコード補充原則4-10①)(なお、社外取締役と役員報酬については本シリーズの後掲の論稿にて取り上げる)。 (2) 内部統制システムの機能強化 次に、内部統制システムの機能強化という存在意義を挙げることができる。 そもそも、会社法上、内部統制システムの整備は、取締役会の責務とされている(会社法348条3項4号、362条4項6号、399条の13第1項ハ及び416条1項1号ホ)。もっとも、社内に必ずしも精通してはいない社外取締役が、各企業において、どのような内部統制システムが適しているか、その制度設計や運営状況の監督において主導的な役割を果たすことは難しいことが多いと考えられる。 しかし、内部統制システムが、代表取締役、業務執行取締役、(指名委員会等設置会社における)執行役等への報告ラインとしてのみ構築されている場合には、監督の対象となる本人にしか報告がなされないため、職務執行の適正確保という内部統制システムの本来の機能を果たすことはできない。これに対し、社外取締役(を含む取締役会)、監査委員会又は監査役会が、内部統制システムにおける直接の報告先とされていれば、その本来の機能を維持しうる(※5)。 (※5) 金融庁及び東証により設置された「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」による「「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(4)」(2019年4月24日)4頁。 また、近時においては、監査役会設置会社における監査役監査の実効確保のため、監査役等による内部統制部門の「連携」よりも、さらに一歩踏み込んだ「活用」が提唱されている(※6)。「活用」には、監査役等による内部統制部門に対する指示等が含まれると解される(※7)。 (※6) 経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(2019年6月28日)4.5(72頁)。 (※7) 前掲(※4)田中11頁。 このように、社外取締役は、その本来の職責として、内部統制システムの整備状況を監督するにあたり、その報告先が代表取締役等に限定されていないか(社外取締役や監査役等が含まれているか)、また、監査役等による内部統制部門への連携又は活用が確保されているかを検証することで、適切な内部統制部門の構築に効果的に貢献することができる(なお、社外取締役と内部統制システムについては本シリーズの後掲の論稿にて詳述する)。 5 おわりに 以上、本稿においては、社外取締役の存在意義につき概説した。次稿以降、その存在意義を構成する要素を含む様々な観点から、社外取締役に関する諸論点を検証することとしたい。 (了)
[〈税理士が知っておきたい〉中間試案からみる] 改正民法・不動産登記法等のポイント 【後編】 司法書士 丸山 洋一郎 前回に続き、中間試案からみた改正民法・不動産登記法等のポイントをコンパクトに解説していきます。 5 相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み (1) 不動産登記情報の更新を図る方策(改正の概要) (ア) 相続登記の申請の義務化 相続登記が未了であることが所有者不明土地の最も大きな要因となっています。登記未了の理由として、相続登記の申請は義務とされていないため、相続登記が先延ばしにされやすいことが挙げられます。 そこで、所有者不明土地の発生を防止する方策の1つとして、相続による所有権の移転が生じた場合に、その相続人等に対して、一定の期間内に、必要となる登記申請を公法上義務付けることが考えられています。これまで義務ではなかった相続登記が義務化されるということで、インパクトのある改正となりそうです。「一定の期間」がどの程度の期間になるのかはまだ検討中です。 相続登記の申請義務違反の効果として、登記申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのに所定の期間内にその申請をしなかったときは、一定の額の過料に処する旨の規律を設けることも検討されています。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤不動産を所有する顧問先に相続が発生した場合又は相続税の申告の依頼を受けた場合には、相続登記を一定の期間内にすることが義務化されている旨、申請をしない場合は過料に処される可能性もある旨をアナウンスすること ➤状況によっては、上記顧客に相続登記の受託をしてもらえる司法書士を紹介すること (イ) 所有不動産目録証明制度(仮称)の創設 相続人による相続登記の申請を促進する観点も踏まえ、所有不動産目録証明制度(仮称)として、次のような規律を設けることが検討されています。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤相続税の申告の依頼を受けた際には、相続財産を正確に把握する必要がある。市区町村の発行する名寄せだけでなく、「所有不動産目録証明書」(仮称)も相続財産把握のための一助となる。相続人に「所有不動産目録証明書」(仮称)の取得を依頼する場面がでてくるであろう。 (ウ) 登記所(法務局)による不動産登記情報の更新を図る方策 ① 登記名義人が自然人である場合 相続登記が未了であることが所有者不明土地の最も大きな要因となっています。 登記未了を解消するため、所有権の登記名義人が死亡するなどして相続が開始した場合に、新たな登記名義人となる者からの登記申請を促す必要があります。 この促進のためには、登記官が、現在の所有権の登記名義人について相続が開始し、相続に起因して所有権が移転しているかどうかを把握する仕組みの導入が考えられます。しかし、現在の不動産登記制度の下においては、相続登記等の申請がない限り、登記官が登記名義人の死亡の事実を適時に把握することはできません。 そこで、登記所(法務局)が人の死亡情報を保有する、市役所などの他の公的機関と連携し、所有権の登記名義人について相続が開始したこと、すなわち、所有権の登記名義人が死亡したという事実を当該他の公的機関の運営するシステムから取得することが考えられます。 この情報取得のためには、不動産登記記録上の登記名義人と戸籍又は住民票における特定の個人の情報との相互の関連付け、すなわち、登記と戸籍・住民票との「紐付け」を正確にする必要があります。 この実現のためには、氏名及び住所の情報のみでは足りず、それ以外の必要な情報も登記所(法務局)が収集・保有する必要があり、登記名義人から氏名、住所及び生年月日等の情報を事前に登記所(法務局)に申し出てもらうことが検討されています。 なお、相続登記の促進だけでなく、氏名又は住所の変更の登記の促進も検討されています。登記官が、住民基本台帳ネットワークシステムを通じて得た氏名及び住所の情報が登記記録の情報と異なると判断した場合には、当該登記名義人に対して変更後の情報に基づき氏名又は住所の変更の登記を行うことについて確認をとるなどした上で、氏名又は住所の変更の登記を行うことが考えられています(※)。 (※)「氏名又は住所の変更の登記の申請の義務付け」については、後述の「6 登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み(改正の概要)」を参照してください。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤新たに所有権の登記名義人となる顧問先は、登記申請の際に、氏名、住所及び生年月日等の情報を法務局に申し出る必要があることを税理士から注意喚起すること ⇒上記の新たな仕組みに係る規定の施行後においては、新たに所有権の登記名義人となる者は、その登記申請の際に、氏名、住所及び生年月日等の情報の申出を必ず行うものとする改正が検討されています。 ② 登記名義人が法人である場合 法人は、法人として存在し、事業活動を行っている以上、商号・本店所在地等の情報に変更が生じたときはこれを公示するために商業・法人登記の申請が義務付けられています。このことからすると、不動産登記記録においても商号・本店所在地等の情報が変更される必要があります。 そこで、以下のことが検討されています。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤不動産を所有する顧問先に、不動産登記上においても会社法人等番号が登記事項として公示されることをアナウンスすること ➤商業登記において、商号や本店移転登記の申請をすれば、その法人が所有する不動産についても情報が連動し、不動産登記上の商号や本店が登記官の職権により変更されることをアナウンスすること (2) 所有者不明土地の発生を抑制する方策(改正の概要) (ア) 土地所有権の放棄 土地の所有者が、相続の開始前に、所有権を放棄することを認め、当該土地の所有権を公的な機関等に帰属させることができれば、所有者不明土地の発生を抑制することができます。もっとも、現行民法においては、所有権の放棄に関する規定や確立した判例はありません。 そこで、上記の観点から、一定の要件のもとに、土地所有権の放棄を可能とする制度を整備することが検討されています。その整備に当たっては、所有権放棄の要件・効果や放棄された土地の帰属先機関とその財政的負担、土地所有者が将来放棄するつもりで土地の管理をしなくなるモラルハザードの防止方法、建物や動産の所有権放棄との関係等について、検討する必要があります。 現時点では、土地の所有者は、次に掲げるような要件を全て満たすときは、土地の所有権を放棄することができるとする規律を設けることが検討されています。 この①~⑤までの要件を満たし、土地の所有権を放棄できるケースは限定的だと予想されます。特に、土地所有者が審査手数料及び土地の管理に係る一定の費用を負担してまで(④の要件)放棄をすることは、当然、手数料次第でもありますが考えにくいのではないでしょうか。 とはいえ、今まで認められなかった土地の所有権放棄が認められた場合はインパクトのある改正となります。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤顧問先や相続税の申告の依頼者本人が不必要と思っている土地や、手放したくても売れない土地について土地所有権の放棄の可能性があることをアナウンスすること (イ) 遺産分割の促進 ① 遺産共有における遺産の管理 所有者不明土地が問題となる典型的なケースは、土地を所有し、所有権の登記名義人となっている者が死亡して共同相続がされたが、遺産分割も相続登記もされずに遺産共有状態のまま放置され、さらに、数次相続が発生する中で、相続人の一部が所在不明となる場合です。 このような土地の管理・処分が必要となった場合には、共有者全員の同意が必要な行為に関する規律が必ずしも明確ではないため、その解釈の明確化を図ることが検討されています。 ② 相続人が選任する遺産の管理者 相続人が多数にわたる場合、相続人間の関係が希薄である場合、相続人が遺産の管理について無関心である場合には、予め遺産の管理者を選任することができるならば、便宜です。そのような管理者の利用が検討されています。 ③ 遺産分割の期間制限を定める規律・遺産分割手続の申立て等がされないまま長期間が経過した場合に遺産を合理的に分割する制度 現行民法には、遺産分割をいつまでにすべきかを定める規定がないため、遺産に属する土地が被相続人名義のまま長期間放置されることがあります。 このような事態に対応するために、❶遺産分割を促進する観点から、遺産分割の合意又は遺産分割手続の申立てをすべき時期を定める規律を設けることや、❷遺産分割手続の申立て等がされないまま長期間が経過した場合の遺産分割の処理の観点から、一定の期間を経過した場合には相続人の主張を制限し、遺産を合理的に分割することを可能とする規律を設けることが、検討されています(なお、論理的には、❶の規律のみを設けること、❷の規律のみを設けること、❶及び❷の両方の規律を設けることが考えられます)。 仮に❷の規律が採用されて、具体的相続分の主張をすることに制限を設けることを前提に、一定の期間の経過後は、遺産に属する財産の分割は、各相続人の法定相続分(指定相続分がある場合にあっては、指定相続分)の割合に応じて、次の各案のいずれかの手続で行うことが検討されています。 なお、❷の具体的相続分の主張期間については10年とする考え方、5年とする考え方が挙げられています。 現行民法には、遺産分割の期間制限は定められておらず、認められた場合にはインパクトのある改正となります。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤顧問先や相続税の申告の依頼者に、遺産分割の期間制限を定める規律・遺産分割手続の申立て等がされないまま長期間が経過した場合に、遺産を合理的に分割する制度が新設されたことをアナウンスすること 6 登記名義人の氏名又は名称及び住所の情報の更新を図るための仕組み(改正の概要) 登記名義人の住所等について変更が生じているにもかかわらず、その変更の登記が申請されないまま放置されると所有者の所在を容易に把握することができなくなります。結果として、所有者不明土地が生ずる大きな原因の1つとなっています。 そこで、不動産の所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更が生じた場合には、当該登記名義人は、一定の期間内に、氏名若しくは名称又は住所の変更の登記の申請の義務付けが検討されています。 《改正された場合、税理士として注意すべきポイント》 ➤不動産を所有する顧問先に氏名や住所等について変更があった場合、その変更登記の申請を法務局にする必要があることをアナウンスすること (連載了)
税理士のための 「東京都感染拡大防止協力金」申請のポイント 税理士 鈴木 涼介 1 はじめに 新型コロナウイルスの感染拡大により、日本全国の多くの事業者が売上の大幅な減少、人件費や家賃などの経費負担に苦しんでいる。東京都においても、一定の施設に対して、施設の使用停止や施設の営業時間の短縮(以下「休業等」という)を要請しているところ、その要請に応じて、休業等に全面的に協力している都内の中小企業等に対して、「東京都感染拡大防止協力金」(以下「協力金」という)の支援を行うこととされた。 東京都は、この協力金の円滑な申請と支給を行うため、税理士などの専門家に申請要件や添付書類の事前確認を受けることを求めている。 そこで、本稿では、制度の概要を簡単に確認した上で、税理士が事前確認を行う際の注意事項についてみていくこととする。 2 制度の概要 この協力金は、休業等の対象となる施設(以下「対象施設」という)を運営している事業者で、休業等の要請に応じて、休業等に全面的に協力している都内の中小企業及び個人事業主に対して支給される。支給額は50万円(2事業所以上で休業等に取り組む事業者は100万円)とされている。支給を受けるためには、一定の申請書類を令和2年4月22日から6月15日までに提出する必要があり、郵送又は持参のほか、オンラインでの提出も可能である。 申請できる事業者は、中小企業基本法で定める中小企業及び個人事業主で一定の要件を満たす事業者である。紙幅の都合上、詳細については、協力金のポータルサイトを参照していただきたい。 3 事前確認における注意事項 東京都では、協力金の円滑な申請と支給を行うため、税理士などの一定の専門家(以下「専門家」という)に申請要件や添付書類の事前確認を受けることを求めており、その事前確認のための手引きとして、「『感染拡大防止協力金』専門家事前確認に係る手引き」を公表している(東京税理士会会員専用ページにて閲覧可能)。ここでは、この手引きを踏まえつつ、税理士が事前確認を行う場合における注意事項をみていきたい。 (1) 申請書類の準備 専門家の事前確認は、あくまでも、「申請要件を満たしているか、添付書類が十分かなどを行う」ことが目的である。つまり、申請書類の記入等は、申請者本人が行うことが前提となっており、専門家が自らの責任と負担でそれらを行うことは想定されていないと考えられる。 東京都においては、これまでにアドバイスや指導を受けている専門家がいる場合は、その専門家に事前確認の依頼をするよう求めていることから、税理士においては、顧問先から事前確認の依頼を受けることが多数となろう。顧問先の中には、小規模零細の事業者もあるところ、そのような事業者は申請書類の記入等がスムーズにいかないことも考えられることから、一緒に申請書類の記入等を行っていくこともあり得ると考えられる。 一方、顧問先以外の事業者については、営業実態などを把握しているわけではないことから、記入例を示しつつ、原則どおり、本人に記入等してもらった上で、事前確認を行うべきであろう。 (2) 事前確認の方法と観点 事前確認は、対面、メール・電話、テレビ会議など任意の方法で、「提出書類の内容確認」及び「業態や休業の状況の聞き取り」を行うこととなる。つまり、事前確認は、形式及び実質の両面で行っていく必要がある。 まず、形式的な確認として、申請書類が整っているかチェックし、不足がある場合には、申請者にその旨伝え、追加で提出してもらう必要がある。次に、実質的な確認として、業態や休業の状況を聞き取りながら、申請書類に記載の内容等と合致しているか確認することとなる。とりわけ、東京都は専門家に対して、以下の事項についての妥当性を確認することを求めている。 顧問先以外の事業者から事前確認の依頼を受けた場合には、聞き取りだけでは十分ではない場合が多いと考えられることから、その事業者の回答の裏付けとなる資料の提示を求めることも必要となろう。 (3) 本人確認 申請書類の中には「本人確認書類」が含まれていることから、事前確認においては、申請書類と本人確認書類との記載の整合性を確認しておくことが重要である。特に、申請者が個人事業主の場合、「東京都感染拡大防止協力金申請書兼事前確認書」の表面の「申請企業の情報」における「住所」は、本人確認書類記載の住所としなければならない。 法人が申請する場合の本人確認書類は、「法人代表者」の運転免許証やパスポート、保険証等である。法人の実在性を確認する書類の添付は求められていないところ、顧問先以外の法人から事前確認を依頼された場合については、法人の実在性確認を行った方が良いと考えられる。この点については、法人の登記事項証明書を確認する方法のほか、国税庁の「法人番号公表サイト」で確認する方法が考えられる。ただし、法人番号公表サイトでは、法人の代表者を確認することはできない点に注意すべきである。 (4) 対象施設の確認 東京都が公表している「対象施設一覧」を参照し、休業等の対象施設に該当するかどうかを確認する必要がある。若干分かりにくさはあるが、この協力金は休業等の要請をされている施設を運営する事業者に対するものであるという点が重要である。 そのため、例えば、百貨店自体は対象施設に該当しないが、百貨店に入っているテナントが対象施設に該当して、休業等を行っているのであれば、そのテナントについては協力金の支給対象となる。また、協力金の対象施設は、「都内」に所在している必要がある。都外に本社がある事業者や都外在住の個人事業主が、都内の事業所について休業等した場合は協力金の対象となる。一方、都内に本社があったとしても、都外の事業所において休業等を行った場合は、その都外の事業所は対象とはならない。 (5) 適用対象事業者であるかの確認 この協力金は、中小企業基本法に定める中小企業又は個人事業主に該当する必要がある。中小企業基本法では、業種ごとに、「資本金要件」又は「従業員数要件」が定められており、いずれかの要件を満たす必要がある。 「資本金要件」については、法人の登記事項証明書や計算関係書類などで確認することが考えられる。個人事業主においては、資本金の概念がないことから、「従業員数要件」のみで判断することとなる。従業員数要件の「従業員」は「常時使用する従業員」をいうが、その範囲は労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」と解されている(中小企業庁HP「 FAQ「中小企業の定義について」」)。 日雇い労働者や季節労働者は、原則として、解雇予告の適用が除外されていることから、そのような日雇い労働者等は「常時使用する従業員」には含まれない。顧問先以外の事業者から事前確認の依頼を受けた場合は、雇用形態を聞き取ったり、従業員名簿や源泉徴収簿などの書類を確認したりして、従業員数の確認を行うことが考えられる。 (6) 営業実態の確認 適用対象事業者であったとしても、緊急事態措置を実施する前(令和2年4月10日以前)から営業していなければ、協力金の支給は受けられない。申請書類として「営業活動を行っていることがわかる書類」を添付する必要があるところ、直近の確定申告書(税務署収受印又は電子申告の受信通知のあるもの)を添付するよう求められている。 それだけでは営業していたか分からない場合は、直近の月末締め帳簿などを添付することとなる。設立後決算期や申告時期を迎えていない場合は、個人事業の開業・廃業等届出書や法人設立設置届出書などを添付することとなる(いずれも税務署又は電子申告の受信通知のあるもの)。また、東京都の手引きでは、上記書類のほか、事業所の外景・内景の写真をもとに営業実態の確認を行うことを求めている。 したがって、事前確認ではこれらの書類を確認し、営業実態があるかどうかを確認する必要がある。営業実態の確認は、顧問先の場合であれば何ら問題ないが、顧問先以外の事業者の場合には、極めて慎重に確認を行う必要があろう。顧問先以外の事業者については、上記書類や写真のほか、電気代、ガス代又は水道代などの領収書、店舗の賃貸借契約書、従業員のタイムカード等で確認することが考えられる。 (7) 許認可の確認 申請者は、法令等が求める営業に必要な許認可を得ている必要があり、申請書類として許認可を得ていることが分かる書類を添付する必要があることから、事前確認において、その書類を確認する必要がある。例えば、飲食店であれば「飲食店営業許可証」、古物商であれば「古物商許可証」などを確認することとなる。 (8) 休業等の取組状況の確認 実際に休業等していなければ、当然、この協力金の支給は受けられないことから、休業等の取組状況について確認する必要がある。申請書類として、休業を告知するホームページ、店頭ポスター、チラシ、DM等の書類を添付する必要があることから、それらの書類の確認と事業者からの聞き取りを行うこととなる。 飲食店においては、夜20時から翌朝5時までの営業時間の短縮を要請されているところ、もともと、夜20時で閉店している飲食店については、通常の営業時間と変わらないため、協力金の支給を受けることができない点に注意が必要である。また、施設の中で複数の業態が混在している場合、休業等対象部分が確実に休業等を実施している必要がある。そのため、休業等対象部分とそれ以外の部分とが明確に区分されているか、写真等で確認する必要があろう。 なお、顧問先以外の事業者における事前確認の場合、上記営業実態の確認と同様に、極めて慎重に確認を行うべきであろう。 (9) 支払金口座の確認 協力金の支給は、振込で行われるため、支払金口座振替依頼書を提出する必要があるところ、振込先の口座は申請者本人の口座(法人の場合はその法人の口座)に限られることから、申請者の口座で間違いないか確認する必要がある。 なお、東京都の協力金については、所得税法又は法人税法上、その事業者の収入金額又は益金の額に算入すべきものである。そのため、とりわけ個人事業主においては、事業用口座を支払金口座として指定するようにし、収入金額の計上漏れとならないように注意すべきであろう。 4 おわりに 中小企業及び個人事業主においては、資金繰りが切迫しており、税理士として迅速な対応が求められる。一方、東京都から、事前確認を行った税理士に照会がかかることもあることから、とりわけ顧問先以外の事業者からの事前確認の依頼については、依頼を受けるか否かを慎重に判断し、事前確認を行った場合には照会時に適切に対応できるようにしておく必要がある。 (了)
[新型コロナウイルスを乗り越えるための] 中小企業の経営相談 【第3回】 「債権回収と連鎖倒産回避」 虎ノ門第一法律事務所 弁護士 山口 智寛 株式会社バンカーズ・アイ 代表取締役 山田 正貴 -相談内容- 当社はコロナショックのあおりを受けて、売上げが激減してしまっています。 なんとか資金繰りの目処はつきましたが、得意先に対する売掛金の未収分が蓄積しており、得意先が倒産して売掛金が回収できなくなれば、当社も連鎖倒産を免れません。 このような事態を防ぐには、どうすれば良いでしょうか。 ● ● ● 回 答 ● ● ● 1 未収金蓄積を防ぐための債権管理の方法 商品としてのモノやサービスは最初から存在しているわけでなく、先に時間、資材、労力を投入してようやく販売できるようになる。 販売代金が後払いの場合、売掛金の回収漏れがあるということは、すなわち先行投資が単なる浪費であったことを意味する。また、売掛金の回収サイト(売上が発生してから実際に入金されるまでの期間)が長ければ長いほど、未回収の先行投資が積み重なることになり、資金繰りが悪化する。 相手方の支払いが滞った後(未収金が固定化した後)に債権回収を実現する方法については後述するが、いずれの方法もかなり時間と労力を要するものと言わざるを得ない。経営の安定確保のためには、相手方の信用が悪化してから対策を練るのではなく、日ごろから売掛金を適切に管理し、確実な回収を図ることが重要である。 (1) 売掛金の管理体制の整備 まず、売掛金台帳を整備し、得意先、発生日、入金日、金額を一覧にして、売掛金を確実に把握していただきたい。入金日に入金が無かった場合には、速やかに取引先に連絡して入金が遅れた理由と、いつ入金できるかを確認して約束する。その約束の日にも入金が無かった場合には、同じことを繰り返すようにする。 このような連絡は、取引内容と取引先担当者を熟知する営業担当者から行う方が効率が良い。売掛金管理について経理担当者任せにするのではなく、経理担当者と営業担当者が連携を図って対応するような体制を構築すべきである。 (2) 取引相手の選別と情報収集 できるだけ支払遅延や倒産などと無縁な信用できる取引相手を選別して取引するように心掛けることで、売掛金の未回収リスクを減らすことができる。新規の取引先については、決算書を見せてもらったり、法務局で会社の商業登記簿謄本(全部事項証明書)や本社・経営者自宅の不動産登記簿謄本(全部事項証明書)を入手したり、関係先からも情報収集したりして、可能な限り正確な情報に基づいて「本当に取引をしても良い相手かどうか」を見極めたい。 既存の取引先についても、適宜のタイミングで客観資料を確認したり、営業担当者から取引先の状況の報告を受けたりして、継続的に信用情報を追うようにすべきである。特に営業担当者には、取引先の経営者や担当者の態度、オフィスや事業所の雰囲気、従業員の様子等から敏感に変化を察知してもらうようにしたい。 特定の取引先に売上の大部分を依存する場合、その取引先に信用不安が起きれば、自社の売掛金の大部分が未収となり一気に資金繰りが悪化することは避けられない。このようなことを避けるために、取引先を分散させたり、商品やサービスごとに異なる販路を構築したりすることは、有効なリスク回避策と言える。 (3) 売掛金の回収サイトの短縮 売掛金の回収サイトを短縮することは、会社の資金繰り改善に直結する。新規の取引先に対しては、相手方の要望や状況も考慮しつつも、できるだけ回収サイトを短めに設定して取引条件の交渉を行うように心掛けたい。そのためには、経営者が取引先との交渉を担当する営業担当者とコミュニケーションを取り、回収サイト短縮の必要性をしっかりと理解してもらうように努める必要がある。 既存の取引先との間では、業界の慣行や長年の取引関係の中で売掛金の回収サイトの短縮を実現することは困難であろうし、そのような交渉を行うことで取引を打ち切られてしまう可能性もあるだろう。しかし、例えば、新製品やサービスの販売を開始した段階で、それらについては従前よりも短いサイトで取引させてほしいと働きかけてみる等の工夫ができる余地はある。 (4) 契約書の整備 口約束でも契約は成立するが、やはり、取引の規模や内容にかかわらず契約書を作成しておくことが望ましい。契約書を作成する目的は、主に契約内容を明確化することにあるが、それだけでなく、契約書には紛争の解決指針や解決方法を定めておくことで債務不履行を未然に防ぐ効果もある。つまり、契約書の整備は債権管理の重要な一手段である。 日常的に受発注の取引が発生していて、毎回の取引ごとに逐一契約書を作成することは非現実的だという場合には、取引基本契約書を作成して取引全体に共通する事項についてルールを定めておくと良い。契約書の作成方法がわからない場合には、弁護士に相談していただきたい。 2 連鎖倒産を回避するための債権回収の方法 このように、未収金蓄積を防ぐために債権管理に努めていても、取引先の資金繰りが悪化して多額・長期の未収金が発生し、自社の資金繰りにも大きな悪影響が及ぶことがある。このような状況に直面した場合、連鎖倒産という最悪の事態を回避するために、どのようにして債権回収を図れば良いのだろうか。 (1) 自力での交渉 債権回収のために最優先で行うべきことは、相手方との丹念な交渉である。直接訪問、電話、メール、文書等の手段をフル活用して支払いを催促する。相手方は資金繰りに窮して他の支払いを優先して自社への支払いを後回しにしている可能性もある。粘り強く交渉を重ねて「あの会社は後回しにできない」と思わせ、相手企業の支払先リストにおける自社の優先順位を上げさせることが重要である。 交渉において相手方に対して圧力を加えるためには、支払時期を過ぎているので本来的には遅延損害金が発生していること(従前、商取引における遅延損害金は年6%だったが、2020年4月1日以降は法改正により年3%に変更されている)、及び、もし交渉で解決できない場合には遅延損害金を付加して訴訟等の法的手続により請求する意思があることを告げて、断固とした姿勢を見せるべきである。 交渉の経緯については後々、訴訟等で証拠として用いる可能性があるから、交渉の日時、場所、当事者、内容等を逐一記録に残して管理していただきたい。また、相手方から支払いの繰延べの要請があり、これに応じる場合には、新たな支払期日、支払方法、遅延した場合の対応方法等を明記した合意書を作成することを怠ってはならない。 (2) 相殺、保証金償却、債権譲渡、代物弁済、担保権の実行、保証人への請求等 売掛金債権そのものを回収できなくても、一定の法的手段を用いることで、実質的に債権回収の実現を図ることができる。いずれの手段も一定の条件下において初めて実行できるものなので、契約内容や関係当事者の状況をよく検討する必要がある。 (3) 代理人弁護士による交渉及び法的手続(訴訟等) 自力での交渉や回収が困難であれば、弁護士に相談することを検討していただきたい。弁護士が関与する場合でも、いきなり法的手続に入るのではなく、弁護士名義の書簡を送り、相手方の出方を見ることが多い。 弁護士名義の書簡は、そこに弁護士の氏名が記載されていることに加えて、通常、「内容証明郵便」という普通の郵便物とは一見して異なる方式の郵便を利用するので、書簡を送るだけでも相手方に一定の心理的圧力を加える効果が期待できる。自社の再三の催促にも応じなかった相手方が、弁護士名義の書簡を送っただけで慌てて支払いを行う、ということも少なくない。 弁護士による支払催促や交渉でも解決できない場合は、法的手続に着手することを検討せざるを得ない。もっとも、一口に法的手続と言っても、訴訟だけでなく、民事調停、支払督促など他の方法もあり、いずれを選択するのが適切かはその時点における状況に応じて個別具体的に判断するしかない。 どの法的手続によったとしても、ある程度の費用と時間がかかることは避けられず、また、当該法的手続によって必ずしも債権回収を果たすことができるとは限らず、最後の一手としての強制執行まで必要になってくる可能性も十分にある(債権回収の最終手段は強制執行である)。 このように、代理人交渉及び法的手続が有用であるとは言っても、弁護士に依頼すれば債権回収は容易に実現できると考えるのは早計である。きちんと見積もりを取り、費用対効果の観点から弁護士への依頼の要否を判断していただきたい。 (了)
老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【9回】 「二次相続対策、うまくいくもの、いかないもの」 ~これまでのお話の「その後」から学ぶこと~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔久しぶりのご挨拶〕 皆さま、お久しぶりです。財務コンサルタントの木山順三です。 この連載『老コンサルタントが出会った『問題の多い相続』のお話』は昨年、ほぼひと月に1回のペースで順調に寄稿していたのですが、実は昨年秋から今年1月にかけて大きな相続案件に携わっており、大変ご無沙汰しておりました。 その仕事が片づきホッとしたところで、連載再開にむけて、過去にご紹介したエピソードを読み返してみました。すると、これらの案件のうち、その後の二次相続対策に頭を悩ませているものが複数あることに気がつきました(しかも上記案件の忙しさもあって手つかずの状態です・・・)。 そこで今回は、これら二次相続対策を必要とする案件が抱える問題をご紹介したうえで、逆に上手く対策ができたケースもご紹介することで、読者の皆さんの参考になるものがあればと思い、筆をとることにしました。 〔なかなかうまくいかない案件〕 ① 連載【第6回】でご紹介したOさんは、昨年103歳の天寿を全うされ、相続手続も無事終了しました。相続財産は、親戚への遺贈を除き、一人息子の長男が引き継ぎました。 二次相続時の懸念材料は、阪神間にある故人の大きな居宅です。相続人とその家族は東京在住で、ほぼ利用価値はありません。むしろ売却の上、金融資産で保有するか、東京の物件に買い替えたほうが良いと考え、そのように勧めました。 ところが故人の孫たちは、「あれはお祖母ちゃんとの思い出の場所だから、売りたくない!」と言って、アドバイスを受けつけません。一人息子の長男も高齢(83歳)ですので、いつ相続になってもおかしくありません。 元気なうちに手続きすればいいのに・・・現に地価も下落傾向です。 ② 連載【第1回】でご紹介したKさんは、「母親・次男」対「長男」の確執があるものの、なんとか遺産分割協議によって父親の相続手続きが完了しました。問題は二次相続の際の遺産分割です。 夫人に対しては、兄弟仲の悪さを考慮し、遺言書作成とともに居住用マンションを売却し、すでに夫人が所有されている医療設備付きマンションへの住み替えを提案しています。 しかしながら、当人は元気いっぱいで、なかなか聞く耳を持ってくれません。夫人の相続の際には、その居住用マンションが兄弟間で必ず揉める原因になるという確信を持ちながら、遺言書も作成できず、今日に至っています。 ③ 連載【第2回】でご紹介したHさんは、とても深刻な状態です。一次相続はすべて配偶者に相続させたものの、これからの二次相続を考えるとゾッとします。 なにしろ、財産に占める居宅の割合が高く、かつ、推定相続人(多数の代襲相続人を含む)が複雑で、誰かが不動産を取得したとしても、その取得者が代償分割でその自宅を取得するだけの金融資産を有していません。当然今回は、分割協議において各々が権利を主張する可能性が大です。 したがって、夫人には当家の争いごとを避けるべく、元気な間に自宅を売却し、自らは有料老人ホームへ行かれるようお勧めしています。ご自宅を処分するのは寂しいと思いますが、そのほうが生活資金の余裕と生前贈与等の相続対策もできるからです。 とにかく分割協議で揉める可能性が高く、それを避けるためには金融資産を主体とした財産分与の遺言書作成が必至で、そのためにも不動産の売却を行う必要があるのです。 現在、夫人をたびたび説得しているのですが、元気いっぱいで近所のお年寄りの世話に飛びまわっておられます。時間的には、そんな余裕はないのですが・・・ 〔二次相続対策の成功事例〕 ここまでのお話とは反対に、私の提案の成功事例をご紹介しましょう。 連載【第4回】でご紹介したAさんは、物事を客観的に見つめ、判断し、かつ、第一線を離れられた後も、常に堅実的な考えの持ち主でした。 現在、一人娘は米国在住で、国籍も取得しています。また奥様は多少病身ぎみですので、元気な間にご夫婦で「介護付き老人ホーム」へ移ることを提案しました。 幸いにしてインバウンドのおかげで、15年前に8,500万円で取得したマンションが1億数千万円で売却できました。そして、少し高級でしたが「介護付き老人ホーム」に申し込み、それでも売却金の約半額が残りました。 当初奥様は私の提案に渋っておられましたが、Aさんはよく理解され、積極的に奥様を説得されたことで、最終的には納得していただけました。 これで、たとえ相続が起きても、米国籍の娘さんとの遺産分割および遺産整理手続きをスムーズに行うことができそうです。また、娘さんとしても病気がちな母親の世話を専門の施設に託すことができ、ひと安心の模様です。 〔違いはどこに?〕 上記3つの案件は、なぜうまく対策が進まないのでしょうか。またAさんの案件は、どうしてスムーズに二次相続対策を打てたのでしょうか。 私なりに分析してみると、以下のとおりです。 (なお、結果としてコンサルはスムーズに進みましたが、当家にとって成功かどうかは、後々までの結果を見なければ判断できないことは、言うまでもありません。) 〔これだ!という結論は出ず・・・〕 ここまでの結論として、二次相続対策を確実に進める「これだ!」という提案はありません(結論が出なくてすみません!)。 老コンサルタントから言えることは、「常にクライアントの状況を把握し、その時々にあった提案をし、場合によっては強く否定し、また場合によっては妥協もしなければならない」ということでしょうか。 しかしながら、これだけは忘れてはなりません。 それは常に当家のことを考えてコンサルする、という強い心構えです。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」を公表 ~操業、営業停止中の固定費等の会計処理などについて言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年4月22日、日本公認会計士協会は、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その4)」を公表した。 監査上の留意事項(その4)では、①操業、営業停止中の固定費等の会計処理と②銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当について述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 操業、営業停止中の固定費等の会計処理 「企業会計原則」注解12 では、特別損益の内訳に臨時損益があげられている。 監査上の留意事項(その4)の基本的なポイントは次のとおりである。 2 銀行等金融機関の自己査定及び償却・引当 2020年3月17日付けで、「銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(銀行等監査特別委員会報告第4号)が改正されている(2020年3月31日以後終了する事業年度から適用)。 監査上の留意事項(その4)の基本的なポイントは次のとおりである。 (了)
2020年4月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.366を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第70回】 「違法支出金の損金性」 税理士 山本 守之 1 わが国における違法支出金の損金性への認識 わが国の多くの学者が、「違法支出金は損金の額に算入できない」とし、大学教育においてはそれが当たり前のようになっています。このような考え方は、アメリカ税法によるものです。 米国の内国歳入法典162条(a)項では、「いかなる営業若しくは事業であれ、その遂行に当たり、課税年度において支払われ又は発生した全ての通常かつ必要な経費は、控除として許容されるものとする」としています。 しかし、米国ではこれとは別に、「公序の理論(パブリック・ポリシー)」によって違法支出金の必要経費控除を認めていません。「公序の理論」は、アメリカにおける違法支出金について経費控除否定の論拠として判例の集積を経て形作られた法原理です。 例えば、1952年のリリー判決では、支出自体が違法であるものとして支出を禁止する連邦又は州の法律によって示されているものについては、公序に反する結果が生ずるので控除は認められないとしています。 この理論はアメリカにおける経費控除の一般的判断基準である「通常かつ必要」な経費に関する解釈原理として発展したものと言われています。 アメリカ税法の解釈としてはともかく、違法支出金の損金性否認の根拠を、わが国法人税法のどこに求めるかという根本的な問題は解決されていません。 わが国法人税法においては、課税所得に関して必要な事項を完結的かつ網羅的に規定しているのではなく、相当部分は白紙となっており、その白紙部分は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」によって計算することとしているのです(法22④)。 つまり、法人が損金として計上したもののうち、「公正妥当と認められる会計処理基準に反するもの」と、「別段の定めがあるもの」、「客観的事実に反するもの」のみ損金算入を否認する構造となっています。 このため、「通常かつ必要」の理論を適用して損金算入を否認するには、法人税法第34条(役員報酬の損金不算入)や法人税法第36条(過大な使用人給与の損金不算入)のような別段の定めを置かなければならないのであり、「通常かつ必要」を前提として損金算入を否認するのは、法解釈の限界を超えていると言わなければならないでしょう。 筆者の私見とすれば、支出の事実が納税者によって立証されたものであり、しかも、実際問題として企業経営上支出を余儀なくされたものであれば、その支出に違法性があるということだけで損金性を否定するのは無理だと思います。 現実の課税実務においても、違法支出金というだけでは損金性を否定していません。例えば、租税逸税犯が薄外から支出した違法な費用を刑事裁判等で損金と主張することを否定したり、脱税経費について原価、費用、損失のいずれかに当たらないとしているのです。 わが国法人税法は、アメリカとは異なる構築がされており、損金性の判断はあくまで実定法にその根拠を求めるべきであるからです。 わが国税法の構築がアメリカと異なっているにもかかわらず、多くの学者が大学教育の通説として、違法支出金を単純に損金不算入としているのが気にかかります。 2 違法支出金の損金性について争われた裁決事例 以下では、国税不服審判所の裁決事例(平成25年6月6日、非公開裁決、TAINSコード:F0-1-528)から違法支出金の損金性についてみていきます。 問題となった「違法支出金」とは、次のような保険業法に反するというものです。 また、本件販売促進費の支払が保険業法第300条第1項で禁止されているにしても、同法はあくまでも業法に過ぎず、本件販売促進費の支払が民事上違法あるいは不法と評価されるものではないため、同法で禁止されているからといって、直ちに「所得を生ずべき業務について生じた費用」(所法37①)の該当性を失うものではありません。 ◎国税不服審判所の裁決 国税不服審判所の裁決は以下のようになっています。 ◎筆者の私見 原処分庁の主張のうち「販売促進費の支払の事実は認められない」ことについては、この費用は保険業法で禁止する違法な支出金ですから、保険契約者は「受け取っていない」とし、領収書も発行していなかったのです。 課税庁は、この事実を反面調査で取り上げて支払の事実はないとしています。 しかし、支出した甲の記録から支出の1時間前に引き出されていることが明らかであり、引出額が支出額と同額であることから支払の事実は容易に推認できたはずです。 また、保険料の値引分(販売促進費の支出)がなければ、保険契約をしないとしていた相手方の言動もあり、相手方はその後も保険契約を継続していたのですから、販売促進費(保険契約報酬から支払われた保険料の割引分)の支出を課税庁は推認できたはずです。 それを反面調査の契約相手方の答弁だけ取り上げ「支出の事実はない」と判断した原処分の判断は、余りにも平面的であると非難されても仕方がありません。この点は原処分庁の調査能力が疑われても仕方がないでしょう。 次に、原処分庁で必要経費としない理由の1つについて、「本件販売促進費の支払は、保険業法300条第1項第5号で禁止されている行為であり、業務の遂行上、通常かつ一般的に必要であると客観的に認められるものではなく、業務関連性があるものとは認められない。」としています。 しかし、これはアメリカの内国歳入法典162条の「控除として容認されるためには通常性、必要性を要する」というのと、わが国税法の「課税要件法定主義」との違いを理解していないと考えられます。 わが国税法は必要経費について通常性は要求されておらず、違法支出金も法令に制度の定めがなければ控除が認められるのです。 気を付けたいのは、所得税法第45条2項では違法支出金は「刑法に規定する賄賂と不正競争防止法に規定する金銭等」であり、事例のような保険業法第300条第1項第5号はこれに含まれないということです。 課税庁には租税法における「課税要件法定主義」を学んでほしいと思います。 課税要件法定主義とは、 というものです。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第27回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 〈更なる検討〉 ~無償による資産の譲渡又は役務の提供に対する法人税法22条の2第2項の適用の可否~ 法人税法22条の2第2項は、無償による資産の譲渡又は無償による役務の提供の場合にも適用されるのであろうか。例えば、酒井克彦教授は、次のような見解を示される(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』252頁(中央経済社2019)参照)。 なるほど、「資産を無償譲渡又は低廉譲渡した場合に、当該資産の適正時価を導入して収益を計上することの当否については、企業会計原則上まだ何ら触れるところがないので、これを明らかにすることが妥当である。」という意見に代表されるように(昭和41年10月17日付大蔵省企業会計審議会中間報告「税法と企業会計との調整に関する意見書」三(7))、資産の無償譲渡等から当該資産の時価相当の収益を計上すべきであるという企業会計の基準は見当たらない。 無償取引に関して引渡日又は役務提供日に近接する日に収益計上するような一般に公正妥当と認められる会計処理の基準はないと解するならば、無償取引に対して法人税法22条の2第2項が適用されることは考え難く、1項の適用のみを考えればよいという考え方も出てくる(なお、無償譲渡の場合にも贈与契約等の契約や債権債務関係を観念しうることはいうまでもない)。 しかしながら、「無償による資産の販売等の会計処理においては、実務上は法人税法の規定が会計基準として機能するいわゆる逆基準性が生じる可能性がある」という指摘があるように(鈴木一水「収益会計基準と法人税法上の収益額」税務事例研究164号11頁)、無償取引に係る法人税の取扱いが資産の無償譲渡や無償による役務提供に係る収益を計上する会計慣行を形成してきた可能性も否めない。実際に、申告調整によらずに、かような会計処理を実行している企業も存在する。 このことを踏まえた上で、本稿では、現に存在する無償取引に係る会計慣行等に加えて、将来において基準や慣行が作成ないし生成されうることも考慮し、法人税法22条の2第2項の要件論や解釈論の場面・・・・・・・・・・において、同項は無償取引に適用されることはないと断ずることには慎重でありたい。例えば、法人税法22条の2第2項を目的論的に解釈することで同項は無償取引を適用対象とするものではないとするような理解からは距離を置くのである。 法人税法22条の2第2項の適用の場面・・・・・を想定するならば、一般に、無償取引の場合には引渡日又は役務提供日に近接する日に収益計上するような一般に公正妥当と認められる会計処理の基準はないと解されていることを前提として、同項が無償取引に適用されることは実際には考え難い可能性があるという程度の理解にとどめておく(泉絢也「収益認識会計基準公表に伴う法人税法の改正」千葉商大論叢57巻2号71頁以下参照)。 いずれにせよ、例えば、次のような疑問を投げかけておこう。 ◆有償取引と無償取引で適用する収益計上基準は異なると解すべきか。有償取引について、契約効力発生日基準を法人が継続的に採用していた場合に、単発的に発生した無償取引についても契約効力発生日基準を適用すべきであろうか。 ◆無償取引には近接日基準の適用はなく、引渡・役務提供基準のみが適用されることになるか。 ◆固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期について、引渡基準を原則としつつも、契約効力発生日による近接日基準も許容している法人税基本通達2-1-14は、無償取引にも適用があるのであろうか。 ◆そもそも、同通達による収益経理を採用した場合、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったことになるのであろうか。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例85(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆土地とともに取得した建物等の取壊費等(法基通7-3-6) 法人が建物等の存する土地を建物等とともに取得した場合又は自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合において、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用の合計額(廃材等の処分によって得た金額がある場合は、当該金額を控除した金額)は、当該土地の取得価額に算入する。 ◆土地とともに取得した建物を取り壊した場合でやむを得ない理由がある場合(国税庁タックスアンサーNo.5401) 初めは建物を事業に使用する目的で取得したが、その後やむを得ない理由が生じたことにより、その使用を諦めなければならないような場合には、その取得後おおむね1年以内にその建物を取り壊したときであっても、その建物の帳簿価額と取壊費用の合計額は、土地の取得価額に含めないで、取り壊したときの損金の額に算入することができる。 (了)