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金融・投資商品の税務Q&A 【Q46】「非居住者による上場内国法人株式の譲渡の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q46】 「非居住者による上場内国法人株式の譲渡の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 非居住者に対する課税 所得税法上、「非居住者」とは、居住者以外の個人をいいます。「居住者」とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人、とされており、その要件に該当しない場合、所得税法の非居住者とされます。 所得税法上、居住者については、原則として、日本国内だけでなく国外において稼得した所得も課税対象とされますが、非居住者については、以下に記す国内源泉所得のみが、日本における課税対象となります。この取扱いは、非居住者が日本人かどうかにかかわらず、同様です。 〈国内源泉所得の範囲〉   2 株式の譲渡 非居住者による資産の譲渡が上記1の「③ 国内にある資産の一定の譲渡により生ずる所得」に該当する場合、国内源泉所得として、非居住者について日本において課税がなされます。 ここで、非居住者による株式の譲渡については、所得税法施行令において、以下のものが国内源泉所得として取り扱われる、とされています。なお、租税条約の規定により、一部については日本の課税対象から除外される可能性がありますので、個別の検討が必要となります。 非居住者による株式の譲渡が上記のいずれかに該当する場合、非居住者は譲渡益について、日本で所得税の確定申告を行う必要があります。 上記の①から⑤に該当する場合の株式の譲渡益にかかる税率は、上場・非上場の区分に応じ、「上場株式等の譲渡」又は「一般株式等の譲渡」として15.315%(所得税及び復興特別所得税)が適用されます(⑥については一般の譲渡所得として累進課税が適用)。なお、非居住者は日本国内に住所を有しませんので、住民税は課されません。 (※) 「上場株式等」及び「一般株式等」については【Q45】を参照。   3 本件へのあてはめ 本件については、非居住者が行う株式の譲渡が上記2の①から⑥のいずれかに該当するかの検討が必要となります。 一般的に、上場されている内国法人株式で少数(5%未満)の持分割合しか保有していない場合は、②や④に該当しませんので、⑤の要件(日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡)に該当しない限り、日本において申告・納税の義務はないものと考えられます。 なお、国内法だけでなく、非居住者の居住地国と日本との間に租税条約が締結されている場合は、租税条約についての検討も必要となります。   (了)

#No. 322(掲載号)
#箱田 晶子
2019/06/13

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第5回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第5回】   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   (4) 法人税法22条4項 ア 法人税法22条4項の規定内容と会計の三重構造 法人税法22条4項は次のとおり規定する。 法人税の課税標準たる所得の金額の計算構造の大枠は、企業会計における法人の利益を前提としたものとなっている。法人税法22条4項によれば、所得の金額の実際の計算方法についても同様のことがいえる。 なお、法人税法22条4項中、「、別段の定めがあるものを除き」という部分は平成30年度税制改正において付け加えられた。この点については後に改めて考察を行う。 《会計の三重構造》 企業会計と租税会計(租税法会計)との関係について、両者を別個独立のものとすることも制度上は可能であるが、法人の利益と法人の所得が共通の観念であるため、法人税法は、二重の手間を避ける意味で、次に述べる企業会計準拠主義を採用しているというのが学説の理解である(金子宏『租税法〔第23版〕』37頁、348~349頁(弘文堂2019)参照)。 法人税法22条4項は、当該事業年度の収益の額及び原価・費用・損失の額は、公正処理基準に従って計算されるものとすることを規定している。この規定は、1967年(昭和42年)に、法人税法の簡素化の一環として設けられたものであって、法人の各事業年度の所得の計算が「原則として」企業利益の算定の技術である企業会計に準拠して行われるべきこと、すなわち企業会計準拠主義を定めた基本規定であると解されている。 課税所得の算定については、種々の政策的・行政的考慮から、企業会計の原則とは異なる取扱いが定められていることが多いが、主として法人税法23条以下に置かれている「別段の定め」がない限りは、課税所得の算定は企業会計に準拠して行われる。それを明らかにしているのが、法人税法22条4項の規定である。 この法人税法22条4項と、①「株式会社の計算は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」ことを定める会社法431条の規定及び「持分会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」ことを定める同法614条の規定、②確定申告は「確定した決算」に基づき行うべきであるといういわゆる確定決算主義を定める法人税法74条1項の規定を総合して見ると、わが国の法人税法は、企業所得の計算についてはまず基底に企業会計があり、その上にそれを基礎として会社法の会計規定があり、さらにその上に租税会計がある、という意味での「会計の三重構造」を前提としている。 《企業会計準拠主義と租税法律主義》 会計の三重構造によれば、会社法431条にいう「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」の意義が、租税法上も重要となる。同条は、「商業帳簿の作成に関する規定の解釈については公正なる会計慣行を斟酌すべし」という旧商法32条2項の規定を継承したものであり、会社法及び同法の委任に基づく法務省令に規定されていない株式会社の会計に関する事項について、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うべきことを定めたものである(会社計算規則3条も参照)。 会社法には、会社が商品を販売した場合に契約締結、出荷、引渡し、検収、代金回収等のどの時点で売上を計上すべきかといった会計の処理に関する具体的規定が乏しく、法務省令で、資産・負債の評価を中心とする若干の規定が置かれているにすぎない(会規5~12)。このため、株式会社の会計の処理に関する大部分の事項は、会社法431条のいわゆる包括規定によって処理されることになる(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』636~637頁(有斐閣2017)参照)。 会社法431条が包括規定とされた理由は、旧商法32条2項と同様に、株式会社の会計に関し、詳細で網羅的な規定を設けるのは適当でなく、会社法としては基本的な重要規定だけを設けておき、後は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うこととするのが適当である、あるいはすべての会計事項を法令で定めることは立法技術上困難であると考えられたことによるものと解される(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』638頁(有斐閣2017)の脚注(3)参照)。 租税法の世界には、租税の賦課・徴収は必ず法律の根拠に基づいて行われなければならないという租税法律主義の原則が存在する(憲法30、84)。三重構造が支持される理由の1つは、民間団体が作成するにすぎない会計のルールに法人税法が依拠する際に、この租税法律主義との正面衝突を回避することができることにある。 他方、建前上は三重構造が妥当するとしても、法人税法が企業会計のルールを会社法のフィルターを通さずに取り込むことが直ちに租税法律主義に反するかという疑問も提起しうる。形式上、会社法のフィルターを通したとしても、フィルターの中身が適正公平な課税を実現するに足りるものか、そもそも可視的か、確固たるものか、といった不安もある。 例えば、法人税法22条4項は企業会計のルールに対して法人税法における規範性を無限定に付与するものではなく、法人税法固有ないし独自の見地からフィルターをかけた上で規範性を付与するものであるとすれば、租税法律主義との正面衝突は起きないという説明が成り立つ余地はあろう。最終的な手綱は法人税法が握っているという理解である。 場合によっては、法人税法が企業会計のルールを会社法のフィルターを通さずに取り込んでいると捉えた方が妥当する場面もあるかもしれない。租税法会計は法人税法22条4項を通じて、実体的には企業会計(及び会社法会計)と結び付いているため、三重構造というよりは、トライアングル体制と表現した方が適切ではないかという指摘もある(渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第2版〕』38頁(弘文堂2019)参照)。三重構造は規範的、トライアングル体制は現象的な捉え方というように、同一の分析対象を異なる視覚から表現したものという説明も成り立つかもしれない。 イ 3つの会計の目的の相違 会計の三重構造又はトライアングル体制として、企業会計・会社法会計・租税法会計という3つの会計を結び付けて観察するとしても、次のとおり、それぞれ目的とするところが異なることに注意を要する。 それぞれ目的が異なるため、互いに齟齬又は衝突が生じる場合がありうる。法人税法における別段の定めは、かような齟齬又は衝突を課税計算において解消するために存在するともいえる。ただし、別段の定めが存しない場合、特に法人所得の計算に関する実体的側面においては、法人税法22条4項にいう公正処理基準の解釈が重要となる(渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第2版〕』38頁(弘文堂2019)参照)。 ウ 逆基準性 会計の三重構造という捉え方について述べたが、実際には、次の2つの理由から、逆基準現象とも呼ぶべき現象が生ずることが少なくないといわれている(金子宏『租税法〔第23版〕』349頁(弘文堂2019))。 例えば、法人税法上、減価償却費の損金算入に当たり、法人がその確定した決算において費用又は損失として経理するという損金経理の要件が付加されている(法法31①、2二十五)。このため、法人税法上の償却限度額の範囲内で減価償却費の額を決定し、会計上の減価償却費の計上額をこれに合わせるというような選択がなされる。 この場合、(結果的には齟齬が生じないことはあるかもしれないが)適正な費用配分又は期間損益計算という会計的見地からの償却額の決定はなされないため、企業会計から見て減価償却費が過大又は過少になりうる。もっとも、企業会計が償却計算に関する精緻なルールを欠いていることが問題視されるとすれば、かような逆基準性の問題は会計の側にもその責任があるといえよう。 逆基準性について、租税法会計と企業会計、会社法会計は互いに緊張関係があるという指摘を確認しておく。 (渡辺徹也『スタンダード法人税法〔第2版〕』39頁(弘文堂2019)参照) 以上のことは、中小企業を例に考えると容易に理解できるであろう。 なお、損金経理要件は、法人の内部取引について、どのレベルでの意思決定を要求するかという点についての政策判断を示しているが、同時に、内部取引等については、その費用又は損失として経理すべき額を第三者たる課税庁が認定することはせず、(法の定める範囲内において)企業の行った会計処理を最終のものとして認めることを意味している点にも注意を要する(中里実ほか編『租税法概説〔第3版〕』154頁〔吉村政穂〕(有斐閣2018)参照)。 エ 公正処理基準の意義 《通説の理解》 公正処理基準の意義について確認しておく(金子宏『租税法〔第23版〕』348頁以下(弘文堂2019)参照)。 法人税法22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、抽象的には、一般社会通念に照らして公正妥当であると評価され得る会計処理の基準であるとか、客観的な規範性を持つ公正妥当な会計処理の基準であるといわれる。 公正妥当な会計処理の基準の具体的な中身であるが、学説は、その中心をなすのは、企業会計原則・同注解、企業会計基準委員会の会計基準・適用基準等、中小企業の会計に関する指針(日本税理士会連合会・日本公認会計士協会・日本商工会議所・企業会計基準委員会の4団体で作成した指針)、中小企業の会計に関する基本要領や、会社法、金融商品取引法、これらの法律の特別法等の計算規定・会計処理基準等であるが、それにとどまらず、確立した会計慣行を広く含むと解している。 ただし、公正処理基準の意義を上記のように解するとしても、次の点に注意する必要があることも指摘している。 《裁判所の理解》 裁判例については本連載において別途検討を加えることを予定している。ここでは、公正妥当な会計処理の基準の具体的な中身について、上記学説とおおむね同様の理解を示す裁判例があることを確認しておく。 大竹貿易事件の大阪高裁1991年(平成3年)12月19日判決(民集47巻9号5395頁)は、要旨次のとおり判示し、公正処理基準は明文で定められている会計処理の基準のみならず会計慣行をも含むことを明らかにしている。 法人税法22条4項にいう「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」とは、「客観的な規範性をもつ公正妥当と認められる会計処理の基準という意味であり、企業会計原則のような明文化された特定の基準を指すものではないと解される。勿論、企業会計原則が、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを要約したものとされていることから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の一つの源泉となるものとは解されるが、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準は、企業会計原則のみを意味するものではなくて他の会計慣行をも含み、他方、企業会計原則であっても解釈上採用し得ない場合もある。」 《会社法431条にいう「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」》 会社法431条についても、主として企業会計審議会が公表する企業会計原則その他の会計基準は、一応それに当たると推定されるが、当該会計基準の内容は基本的事項に限られ、網羅的ではないし、それが唯一の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」であると解すべき理由はないことなどから、このような会計基準に限定されるわけではないと解されている(江頭憲治郎『株式会社法〔第7版〕』637頁(有斐閣2017)、神田秀樹『会社法〔第21版〕』282~283頁(弘文堂2019)参照)。 《法人税関係法令の性質》 別段の定めは、形式上、根拠規定として法人税法22条4項を適用することを排除するものであり、この意味で企業会計準拠を否定する規定といえるが、実質的に見ると、企業会計準拠を一律に否定する規定であるとまではいえないものも含まれていることに注意が必要である。このことを確認しておこう。 課税所得を算出するための益金及び損金の計算については、法人税法及び租税特別措置法によって、租税政策上の理由から多数の別段の定めがなされており、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準が大幅に修正を受けている。 法人税法及び租税特別措置法の益金及び損金に関する規定は、この点で、次の3つに分類することが可能である。一般的には、法人税法の規定は①及び②のカテゴリに属し、租税特別措置法の規定は③のカテゴリに属するといわれる(金子宏『租税法〔第23版〕』336頁(弘文堂2019))。 法人税法22条4項は企業会計準拠規定であること及び別段の定めがあるものを除き適用されることからすれば、同項の別段の定め=企業会計準拠を否定する規定(又は企業会計とは異なる規範を定める規定)と単純に説明できそうである。しかしながら、上記①及び②に係る規定のように、別段の定めは、実質的に又は少なくとも部分的に企業会計の規範に準拠又は整合する側面も見せる。すると、別段の定めをもって、企業会計とは異なる規範を定める規定であると一律に表現することは躊躇される。 (5) 法人税法22条5項 法人税法22条2項は、益金の額に算入すべき収益の額について、「資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」としている。また、法人税法22条3項3号は、損金の額に算入すべき損失の額は「資本等取引以外の取引に係るもの」としている。収益及び損失が資本等取引からも生じることを前提として、資本等取引に係る収益又は損失を益金又は損金の範囲から除外しているのである。 この「資本等取引」について、法人税法22条5項は次のとおり規定する。 条文中の「資本金等の額」については、法人税法2条16号において次のとおり定義されている。 資本等取引の意義について学説が整理するところを確認しておく(金子宏『租税法〔第23版〕』344頁以下(弘文堂2019)参照)。 資本等取引というのは、次の2つを含む観念である(法法22⑤)。 狭義の資本等取引について、企業会計原則は、資本維持の要請から、資本取引と損益取引を厳格に区別し、企業の利益と損失は損益取引のみから生じ、資本取引からは生じないという考え方をとっている。しかも、資本剰余金の増減を生ずる取引をも資本取引の範囲に含めている(企業会計原則第1の3、同注解(注2))。 会社法も、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」と定めており(会社431。持分会社については614)、また、株主となる者が会社に払込み又は給付した額のうち資本金に計上しないこととした額は資本取引によって生じたものであるという考え方のもとに、これを資本準備金として計上することを要求し(会社法445②③)、さらに準備金の額の減少については、株主総会の決議を要求している(会社法448、449)。法人税法は、この企業会計原則及び会社法の考え方を前提として、資本等取引による収益又は損失を益金又は損金の範囲から除外しているのである。 次に、法人の利益又は剰余金の分配について、法人税法は、法人所得を法人の利益と基本的に同じものとして観念し、出資者に利益を還元する前の段階の所得を課税の対象としている。そのため、利益又は剰余金の分配は、損金の範囲から除外されている(会社の純資産は流出するが損金とならないから利益積立金額が減少する。法法2十八、法令9)。   (了)

#No. 322(掲載号)
#泉 絢也
2019/06/13

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第48回】「相栄産業事件」~最判平成4年10月29日(集民166号525頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第48回】 「相栄産業事件」 ~最判平成4年10月29日(集民166号525頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 322(掲載号)
#菊田 雅裕
2019/06/13

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第87回】株式会社スペースバリューホールディングス「第三者委員会調査報告書(2019年4月11日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第87回】 株式会社スペースバリューホールディングス 「第三者委員会調査報告書(2019年4月11日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【第三者委員会の概要】   【株式会社スペースバリューホールディングスの概要】 株式会社スペースバリューホールディングス(以下「SVH」と略称する)は、2018(平成30)年10月に設立された持株会社。システム建築事業、立体駐車場事業及び総合建設事業等を展開するグループ会社の経営管理及びそれに附帯する業務を主たる事業とし、傘下に国内グループ12社、海外グループ6社を有している。資本金7,000百万円。グループ従業員数1,283名。登記簿上の本店所在地は石川県金沢市だが、東京都港区に東京本社を置く。東京証券取引所1部上場。 主たる事業子会社である日成ビルド工業株式会社(以下「NBK」と略称する)は、1961(昭和36)年7月設立。システム建築事業、立体駐車場事業を主たる事業とする。SVH設立前の平成30年3月期の業績は、連結売上高76,563百万円、連結経常利益4,397百万円。SVHの上場に伴い、2018年10月上場廃止。   【調査報告書の概要】 1 第三者調査委員会設置の経緯 SVHは、調査開始から第三者委員会設置までの間に3度、適時開示を行っている。特徴的なことは、特別調査委員会が調査を開始してから約1ヶ月後に、調査の対象範囲が拡大されて、最後は、第三者委員会にほぼフリーハンドの「件外調査」を行うことを認めた点である。 時系列に沿って、問題となった事案を見ておきたい。 (1) 2019年3月期第3四半期決算発表延期の時点 SVHが、2019年2月12日に公表した「2019年3月期第3四半期決算発表の延期のお知らせ」の中では、会計監査人である有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」という)が「必要な調査を行うよう」指示した事案は、マレーシアで駐車場の運営管理事業を行う子会社に関する以下のような疑義であった。 (2) 特別調査委員会の設置 上記のあずさ監査法人の指摘を受けて設置された特別調査委員会の構成は以下のとおりである。 なお、本リリースでは、調査対象事案として、以下の事実が追加されている。 (3) 特別調査委員会から第三者委員会による調査へと変更した時点 約1ヶ月後の3月11日、SVHは、「(開示事項の経過)特別調査委員会の調査状況及び第三者委員会設置に関するお知らせ」を公表して、「監査法人から調査範囲を拡大して追加調査を行うよう要請」があったことを理由として、特別調査委員会の調査を、日本弁護士連合会「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠した第三者委員会に引き継ぐことを公表した。 そのうえで、「EPS社立体駐車場建設コストに関する疑義及びNBK社レンタル工事未払金に関する疑義について、実施すべき調査手続はほぼ完了している状況」である一方、NBKにおける原価付け替えは、「当初の当社の見込みである子会社の特定の支店において実施されていたとの予測とは大きく異なり、当社の子会社において全国的規模で実施され、更にそれは支社長、支店長及び営業所長という権限者の関与のもとで組織的に実施されている実態が明らかになりつつある」ことから、調査範囲を拡大した追加調査が必要であることが書かれている。 (4) 第三者委員会による調査へと変更した理由 上記3月11日付リリースでは、第三者委員会による調査へと変更した理由として、以下の2点が挙げられている。 2 第三者調査委員会による調査の概要 第三者委員会は、調査概要を大きく次のように分類して報告している。 (1) 原価付替えその他会計に係る不適切処理案件 特別調査委員会での調査の端緒となったのは、NBK長崎営業所における受注工事についてNBKの実行予算を超過した外注費を、同所工事担当者が実行予算超過の事実を隠蔽し、協力業者に対して、一部は別の工事に付け替えて支払いを行い、また、一部は支払いを滞らせていた、という事案(長崎事案)であった。 長崎事案は、2018年8月に、協力業者からNBK福岡支店に長崎営業所からの支払いがない旨の連絡があったことから発覚し、内部監査室が、長崎営業所の協力業者に残高確認を行ったことで、4,000万円を超える債務未計上が明らかになった。 第三者委員会は、長崎事案の調査の結果として、実行予算外発注の発生回避、発生を隠蔽するための原価付替えは、長崎営業所や九州ブロックに固有の事象ではなく、NBK全体における事象であることを懸念して、件外調査を行った。その結果、長崎事案及び福岡事案以外にNBKの営業店48拠点のうち、営業店21拠点において、件数では146件、金額は合計で約8,500万円の原価付替えを追加で確認し、原価付替えはNBKの特定の営業店やブロックに限定されることなく、広範に行われていることが判明した。 第三者委員会の調査では、原価付替え以外にも、債務の未計上、売上の先行計上などの会計上の問題が発見されている。 (2) レンタル工事未払金の過大計上 NBK管理本部経営管理部において、2018年3月期の税務申告書の勘定科目内訳明細書を作成する過程で、取引先に紐づかない内訳明細が不明のレンタル工事未払金9億2,290万円が存在している事実(未払金の過大計上)が発覚した。 第三者委員会による調査の結果、NBKが2018年3月期第1四半期において会計処理の変更を行った際に、過去の会計期間において発生した会計上の誤謬が放置されていたことを原因とすることが判明した。 (3) マレーシア案件 EPSが、マレーシア国有地を取得して駐車場を建築、運営するプロジェクトについては、当初の計画と比して、建設工事期間の延期、これに伴う完成及び稼働の遅れが生じ、かかる遅延により当初の建設予算としては5億2,000万円程度を予定していたにもかかわらず、2018年9月末時点で合計約6億円以上を現地パートナーに支払っている。 本立体駐車場については、2018年10月にあずさ監査法人から現地視察を実施したい旨の依頼があり、当該依頼を受けてSVHによる現地調査を実施し、2018年12月から2019年1月にかけて、今後の事業計画の見直しや建設コスト等の精査を行った。その結果、想定していた収益性が見込めない状況が確認され、また、NBKから EPSを経由して現地パートナーに対して支出された資金が、目的以外の使途で使用されているのではないかとの懸念が生じていた。 第三者委員会は、現地でのヒアリングも含めた調査の結果、本件プロジェクトに関して支出した資金(NBKにおける貸付金、2019年3月期第3四半期においてSVHの「建設仮勘定」)について、資産性を認めることはできないと結論づけた。 (4) 件外調査で判明した事実 第三者委員会が「件外調査」として実施した調査の結果、不適切事案として指摘した事案は多岐にわたり、中には反社会的勢力との付き合いなども含まれるが、本稿では、代表取締役会長兼社長CEOの職にあった森岡篤弘氏(以下「森岡代表」という)が、不適切な会計処理に関与したという事実認定がされた「山下町案件」について、概要をまとめておきたい。 特別調査委員会が調査の一環として実施した従業員アンケート及び役職員に対するヒアリングにおいて、横浜市中区山下町に建設が計画された外資系ブランドホテルに関するSVAとC1社との間の設計契約に係る業務委託料等の支払いにつき、2018年3月期第2四半期に行われた会計処理を問題視する回答があった。 その概要は、同ホテルの開発プロジェクト案件にあたり、C1社に対して支払った業務委託料及び合意解約時に支払った解約金に係る会計処理について、会計方針等検討委員会の損失処理とすべきとの検討結果とは異なり、森岡代表の関与の下で建設仮勘定として資産計上を維持したというものであった。 第三者委員会は、森岡代表の関与の下で会計方針等検討委員会の結論とは異なる会計処理がなされたという点を重視し、ガバナンスにも焦点を当てた第三者委員会の立上げに伴い、NBKのガバナンス体制における重大な疑義の端緒であると考えて、件外調査の対象として調査を実施した。 第三者委員会は、事実認定の結果、森岡代表は、C1社が作成した設計図に資産性がないことを認識しているにもかかわらず、これを損失処理としないよう指示をしたと認定でき、事実上の粉飾指示と評価できるとして、その「慎重さを欠く経営姿勢」が「内部統制システムの無効化」につながっていると結論づけた。 (5) ガバナンス調査 2019年3月6日に、特別調査委員会、SVH監査役会及び東京証券取引所あてに、インサイダー疑惑などを告発する匿名の告発状が届き、また、特別調査委員会が実施した従業員アンケートの結果や、第三者委員会が実施したヒアリングの過程で、森岡代表の行状や経営姿勢について問題視する声が多数挙がっており、具体的には、次のような指摘があったことが報告されている。 こうした告発や指摘を受け、第三者委員会は、以下の4点につき調査を行い、その結果を踏まえて、森岡代表の社長としての資質と、それがSVHのガバナンスに与えた影響を検証することとした。 それぞれの調査結果についての詳細は割愛するが、結果として、第三者委員会は森岡代表の「社長としての資質」について、次のように評価している。 (6) 三様監査 第三者委員会は、内部監査について、以下のとおり評価した。 次いで、監査役監査の評価は、概ね以下のとおりである。 さらに、第三者委員会による会計監査人の評価は、概ね次のとおりとなっている。 そのうえで、三様監査の連携状況については、常勤監査役が内部監査に同行していることから、内部監査室と監査役との連携が密に取られており、内部監査の実効性を上げることに寄与していると評価したものの、監査役と会計監査人、内部監査室と会計監査人の連携については、いずれもコミュニケーションが不十分であると評価している。 3 原因分析 第三者委員会は、原因分析の総括として、以下の5点を挙げている。 そのうえで、第三者委員会は、森岡代表の経営権の行使について、上記の5つの根本原因により、一部の役員・執行役員を巻き込んだ支配の構図を形成し、20年という長期にわたる体制維持を可能としたものであると結論づけている。 4 再発防止策 第三者委員会による再発防止策の提言もまた、上記の根本原因を払拭することを目的としている。具体的には以下のとおりである。 さらに、第三者委員会は、提言した再発防止策について、次のように附言している。   【調査報告書の特徴】 189ページにわたる大部の調査報告書は、創業家出身で代表取締役会長兼社長であった森岡代表を辞任に追い込み、2名の社外取締役が定時株主総会で退任し、会計監査人の交代という結果につながった。 本報告書公開時には、森岡代表の交遊関係、特にメールの受発信履歴や女性関係などまで克明に報告する必要があったのかどうかというコメントが出る一方、マスコミ等では、創業家出身社長の行状が面白おかしく伝えられるなど、何かと話題になった報告書ではあった。 1 報告書の「結語」 調査報告書に「結語」「結びに代えて」といった独立した章を設けて、第三者委員会の調査全体を通じた意見や、第三者委員会を設置した組織に対する今後の期待などを表明しているケースは少なくないが、本報告書では、「結語」だけで4ページに及んでいる。その見出しは、「経営トップの聖域化」「経営者責任と経営者倫理」「SVHの社会的意義」「結語に代えて」となっている。 その中では、NBKがホールディングス化したことにより、取締役会におけるけん制機能が発揮された事実やホールディングス化最初の四半期決算においてコンプライアンス意識や適正な会計処理を指向したことが、問題発覚のトリガーとなった事実が認められると、SVHの今後に期待する記述が見られた。 2 代表取締役の異動と取締役の辞任 第三者委員会による調査報告の期限とされた4月11日の前日、SVHは、「代表取締役の異動に関するお知らせ」をリリースして、代表取締役会長兼社長CEOとして社内で絶大な権力をふるってきた森岡篤弘氏が代表取締役を辞して、取締役グループ営業管理本部長の職にあった森岡直樹氏が代表取締役社長CEOに就任したことを公表した。異動の理由としては、「今般の決算延期の状況に鑑み、経営体制の変更を行い、一日も早い信頼回復に向けて取り組んでまいります」ということである。 その後、森岡篤弘氏は、4月18日付で、取締役を辞任している。辞任の理由としては、「第三者委員会の調査結果を踏まえ、経営責任を重く受け止め」たためであると説明されている。 3 SVHによる再発防止策 4月26日、SVHは再発防止策を公表した。以下はその概要である。 4 第三者委員会等の調査費用 SVHが5月17日にリリースした「特別損失の計上及び業績予想の修正に関するお知らせ」によれば、第三者委員会等の調査費用は324百万円であったことが公表されている。この金額に、過年度の有価証券報告書等の訂正に係る監査費用が含まれているかどうかは、明記されていない。 5 会計監査人の異動 SVHは、6月3日、「会計監査人の異動に関するお知らせ」をリリースして、会計監査人であるあずさ監査法人が退任し、新たにPwC京都監査法人を会計監査人として選任する議案を、定時株主総会に付議することを公表した。 通常、会計監査人の異動に関するリリースでは、異動の理由として「任期満了」とのみ記載されることが多いが、本リリースでは、あずさ監査法人の退任の理由として、以下の文章が明記されている。 もっとも、第三者委員会報告書で、「職業的懐疑心の不足」「指導・助言機能の不足」という評価をされたあずさ監査法人からすれば、監査業務を継続する意思はなかったのではないかと思う方が普通だろう。 (了)

#No. 322(掲載号)
#米澤 勝
2019/06/13

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第27回】「収益性の分析(その1)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   ←(前回) | (次回)→   第2節 収益性の分析 【第27回】 「収益性の分析(その1)」   〔分析の対象となる主な勘定科目〕   ▷ビジネスモデルの把握 対象会社の収益性及び収益力を理解するためには、損益計算書の分析は欠かせない。売上高に対する変動比率や固定費項目などで収益構造を把握し、併せて売上から売上原価を引いた売上総利益やさらに販売費及び一般管理費を引いた営業利益などの水準を把握し、市場規模や競合他社の数値をベンチマークとして比較分析することになる。 しかし、対象会社のビジネスモデルを理解した上で分析しなければ単なる数字上の分析に過ぎず、M&A後のシナジーも期待できない。また、例えば、経済事象が一緒であっても会計処理が異なる場合がある。そのため損益計算書の分析に並行して、対象会社のビジネス全体のサプライチェーンやバリューチェーンを把握し事業構造(事業の特徴)、損益構造(もうけの仕組み)を明確に理解し、対象会社の事業戦略が「絵に描いた餅」になっていないかを見極める必要がある。 ◆製造業の場合の事業構造把握例 筆者らの経験においても、対象会社にインタビューをしながら鳥瞰図を描き、ビジネスモデルを把握することが多く、これは、対象会社の事業価値の源泉を把握すると同時に、M&A実行後の経営改善の有無やシナジーの創出を検討する重要な議論のベースになる。 ◆ビジネスモデル鳥瞰図(例) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (松澤綜合会計事務所作成)   ▷市場規模や競合他社の把握と比較分析 対象会社が属する業界の市場規模や競合他社を把握し、必要な数値や金額をベンチマークとして、対象会社の売上高や売上高総利益などと比較分析を行うことは、対象会社の属する業界の現状や将来予測、対象会社の事業計画の達成可能性の確度を検討する上で重要である。 なお、市場規模は簡単にWebサイトで検索することができ、見つからない場合は、市場規模の理論値を推定で算出することもできる。 ◆市場規模の理論値算出に役立つ主なサイト・資料等   ▷売上高や各利益の成長率の比較分析 売上高成長率は、対象会社の規模に照らして売上高がどの程度増えたかを測る指標であり、当然のことながら、売上高成長率が高ければ、対象会社に成長力があり、今後売上高を伸ばすことが期待できるであろう。売上高成長率の過去からのトレンドを分析し、市場規模の成長率や競合他社の成長率と比較することが重要である。 売上高成長率は、複数年度で把握する必要があり、年平均成長率であるCAGR(Compound Annual Growth Rate)が使用されることが多い。なお、計算式は下記のとおりである。 例えば、対象会社の売上高のCAGRが2%であっても、対象会社が属する市場規模のCAGRが5%の場合、対象会社の市場シェア(市場占有率)が下落していることを意味することになる。また、競合他社の売上高のCAGRが15%であった場合、当該他社がM&Aにより成長している可能性もある。よって、売上高が成長した要因が、その会社の事業そのものの成長にあるのか、それとも外部環境や外部要因によるものなのかをしっかりと見極める必要がある。 また、どの分析も同様であるが、利益率(EBITDAマージンを含む)も併せて分析をする必要がある。例えば、売上高が成長する一方で利益率が減少するケース、また逆に売上高が減少しても利益率が増加するケースがあるためである。売上高の増加は利益の増加に直結しているわけではなく、M&Aにおける損益計算書の分析の主眼は、あくまでEBITDA又はEBITDAに影響するその他の要素の分析にある。 なお、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)は損益計算書上の利益と並んで、企業評価の際に重視される指標であり、投資状況の評価や、経済環境の異なる企業間の経営成績を評価するのに用いられ、対象会社の業種により計算方法は若干異なるが、簡易的に下記のように計算する。 簡易EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 又は 簡易EBITDA = 税引前利益 + 減価償却費 + 支払利息 EBITDAは経済環境による差異を排除した利益水準の実態を把握するというものであり、広義の「営業キャッシュフロー」を意味している。 ◆M&Aにおける損益計算書の分析のイメージ (松澤綜合会計事務所作成)   ▷売上高や各利益の内訳分析 対象会社の内部管理体制に依存するものの、下記のような分析も可能である。なお、上述したとおり、利益率(EBITDAマージンを含む)も併せて分析をする必要がある。 (了)

#No. 322(掲載号)
#松澤 公貴
2019/06/13

税務争訟に必要な法曹マインドと裁判の常識 【第7回】「税務訴訟における法令適用(法令解釈)①」

税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第7回】 「税務訴訟における法令適用(法令解釈)①」   弁護士 下尾 裕   1 税務訴訟における法令適用の特徴 税務訴訟における法令適用(法令解釈。以下単に「法令適用」という)の特徴としては、①租税法規を文理解釈する傾向が強いこと、②他の法規と比較しても通達が重要な位置付けにあること、及び、③【第6回】でも言及したとおり、いわゆる「借用概念」を通じて、私法上の考え方が租税法規の解釈適用に影響を及ぼすことの3点が主に挙げられる。 このうち①については既に【第4回】で詳細に取り上げていることから、今回は②及び③の各特徴について中心的に取り上げたい。   2 租税法規における通達の位置付け 租税実務においては、通達が非常に重要な意味を持っており、「通達行政」などと揶揄されることもある。 では、税務訴訟において、「通達」とはどのような位置づけにあるのであろうか。 結論からすれば、通達は課税庁が自らの考え方を示すものであり、課税庁に対する自己拘束力はあるものの、「法令」ではないことから、裁判所を拘束するものではないという位置づけとなる。よって、理論的には、裁判所は、通達を無視して、租税法規の解釈を示すことは可能である。 では、税務訴訟において「通達」は意味を持たないのかといえば、それも間違いである。【第4回】で述べたとおり、裁判所は租税公平主義に重きを置いており、納税者が一般に「通達」を前提に租税実務を行っている状況においては、自らの判断においても、公平性の観点から、通達による運用を無視することはできない。 この点で参考になるのは、裁判所が「財産評価基本通達」に対する考え方を示した以下の裁判例である。 「財産評価基本通達」は、元来幅のある概念である「時価」を画一的に算定するための通達であり、通達の中でもより公平性が要求される点で特殊性を有するものであるが、この裁判例からも裁判所の通達に対する考え方の一端を垣間見ることが可能である。 ここでの裁判所の考え方は、少し乱暴な言い方をすれば、基本は通達を尊重するが、問題があるときは介入するという思想である。   3 借用概念を通じた私法概念の影響 次に、借用概念を通じた私法概念の影響について詳しく見てみたい。 借用概念とは、【第1回】及び【第6回】で取り上げたレポ取引の裁判例で問題となった「利息」のように、私法において用いられている概念を租税法規の文言としてそのまま取り込んだものである。言い換えれば、他の法令における「汎用的な用語」を特段の定義を置かずに租税法規に持ち込んだものであるといえる。 こうした借用概念については、課税要件明確主義の要請もあり、特段の定義等のない限り、私法上の概念と同じ意味として理解をすべきものと考えられており(統一説)、その結果、租税法の解釈適用の中にそのまま私法上の解釈適用が取り込まれることになる。 〈借用概念のイメージ〉 この点に関連して、近年、日本企業等も外国法に準拠した事業体を取引に使用したり、外国法に準拠した取引等を行う場面が特に増加し、これに伴い、裁判所も「外国法に準拠した法概念に対しどのように租税法規を適用するか」という難しい課題に直面しつつある。 外国私法概念を日本の租税法に適用するのが難しいのは、なぜであろうか。これはひとえに、日本と外国では、法制度の前提が異なるからに他ならない。 例えば、日本法人がイギリスにある完全子会社A社を存続会社として、無対価にて別の完全子会社B社と統合するケースを考えてみたい。 イギリスでは、日本の合併制度に類似した「merger」という法制度があるものの、非公開会社においては実務的にはほとんど利用されておらず、本件のようなグループ内再編では、単純に特定の会社の資産・負債等をすべて存続会社に移管(事業譲渡)して、空になった会社を清算するという手法が用いられるようであるので(租税研究2012年7月号「外国における組織再編成に係る我が国租税法上の取扱い」17/30ないし19/30)、本事例でもかかる手法が用いられると仮定する。 この場合において、B社の株式に関する譲渡損益については、どのように考えるべきであろうか。ここでの問題は、B社株式について法人税法第61条の2第2項が適用されるか、言い換えれば、A社及びB社間のイギリスにおける統合が当該条文における「合併」と言えるかの問題である。 〈関係図〉 上記手法は、消滅会社の権利義務をそのまま引き継いでいるわけではない(包括承継ではなく、個別承継である)という意味で日本の会社法の「合併」とは異なるが、現地の実務上は「合併」に極めて類似した制度といえる。このような場合において、どのような判断枠組みで「合併」該当性を考えるのか、具体的には日本法をベースに考えるのか、全く法制度が異なる国もある中でどのように摺合せを行うのかという点こそが、この問題の本質である。 (※) この点、前掲「外国における組織再編成に係る我が国租税法上の取扱い」は、上記英国の合併類似行為についても一定の場合に「合併」と整理できると結論づけている。   4 裁判所の外国私法概念等に対する考え方 では、裁判所は外国私法概念を租税法規に適用するにあたって、どのような考え方を採用しているのであろうか。この点を考える最近の素材として、LPS訴訟に関する最高裁平成27年7月17日判決民集69巻5号1253頁がある。 この判例は、米国デラウェア州の法律に基づいて設立されたリミテッド・パートナーシップ(以下「デラウェアLPS」という)が行う不動産賃貸事業に係る投資事業に出資した者につき、当該賃貸事業に係る損失の金額を同人の所得の金額から控除することができるかが争われた事例で、その争点はデラウェアLPSが所得税法等における「法人」であるか、言い換えれば、出資者に損益が直接帰属する「パス・スルー」であるかが争われたものである。 この点に関し、最高裁は、「法人」該当性の判断基準について以下のように判示した上、デラウェアLPSが「法人」に該当するものと結論付けている。 最高裁は、上記判例において、「法人」が借用概念であることを前提に、「我が国においては、ある組織体が権利義務の帰属主体とされることが法人の最も本質的な属性であり、そのような属性を有することは我が国の租税法において法人が独立して事業を行い得るものとしてその構成員とは別個に納税義務者とされていることの主たる根拠であると考えられる上、納税義務者とされる者の範囲は客観的に明確な基準により決せられるべきである」と述べており、明言は避けているものの、外国私法概念について日本法の概念との本質的な類似性を基準に検討する方向性を示しているものと理解できる。 ここからは全くの私見であるが、日本の法律は、すべて日本の法制度を前提として制定されるものである。また、日本の裁判官は、日本の法制度については深く理解できるとしても、諸外国の法制度を同程度に理解することは現実的ではない。その意味では、裁判所が、外国私法概念に租税法規を適用するにあたっても、日本の法制度の考え方を中心に考えるのはやむをえない部分があるように思われる。 *  *  * 次回も引き続き、税務訴訟における法令適用(法令解釈)について、外国私法概念に類似した問題である契約準拠法の問題等を取り上げる。 (了)

#No. 322(掲載号)
#下尾 裕
2019/06/13

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第15回】「不正アクセスから情報を守るサイバーセキュリティ対策」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第15回】 「不正アクセスから情報を守るサイバーセキュリティ対策」   弁護士 影島 広泰   -Question- 不正アクセスなどから個人情報等を守るために、サイバーセキュリティが重要なことはよく分かっていますが、当社は小規模で、コストを掛けることは難しいですし、そもそも、まず何をすべきなのかも分かりません。 中小企業の経営者として、サイバーセキュリティを確保するために、何をしておけばよいでしょうか。 -Answer- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表している「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」の「情報セキュリティ5か条」から始めるとよいでしょう。 ◆情報セキュリティ5か条 ① OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう! ② ウイルス対策ソフトを導入しよう! ③ パスワードを強化しよう! ④ 共有設定を見直そう! ⑤ 脅威や攻撃の手口を知ろう! 情報漏えいの原因として3番目に多いサイバーセキュリティ(【第11回】参照)について、どのような対策を講ずればよいであろうか。 【第9回】で述べたとおり、経営者がサイバーセキュリティに関して行うべきことは、経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」に整理されている。しかし、このガイドラインは、「大企業及び中小企業(小規模事業者を除く)のうち、ITに関するシステムやサービス等を供給する企業及び経営戦略上ITの利活用が不可欠である企業」の経営者を対象としていることから、多くの中小企業にとっては対策のハードルが高い。 中小企業向けの分かりやすいガイドラインとしては、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(2019年4月9日公開の「第3版」を以下「本ガイドライン」という)を公表しているため、今回は、これに基づいた対応を解説する。   1 経営者が認識し実施すべきこと 本ガイドラインでは、経営者は以下の3つの原則を認識すべきであるとしている。これは、基本的にはサイバーセキュリティ経営ガイドラインと同様である。つまり、経営者が認識すべきことは、大企業でも中小企業でも変わらないということである。 その上で、経営者は以下の7項目について、自ら実践するか社内の責任者・担当者に指示するべきであるとしている。なお、この7項目は、サイバーセキュリティ経営ガイドラインにおいて、経営者が担当幹部(CISO等)に指示すべき「重要10項目」の一部となっていることから、サイバーセキュリティ経営ガイドラインの10項目の中で特に大事なものが何かを示しているという意味で、大企業における対応を考える上でも示唆を与えている。   2 実際の対応(情報セキュリティ5か条) 以上は、経営者が認識すべき点と、実践すべき取組を記載したものであるが、枠組みを示しているだけであるため、実際に何をすればよいのかが今ひとつ分かりにくいと感じた方も多いであろう。 本ガイドラインでは、後半部分が「実践編」となっており、情報セキュリティの具体的な対応策が分かりやすく記載されている。詳細は本ガイドラインに当たっていただければと思うが、特に重要な5つの対策が「情報セキュリティ5か条」として列挙されているから、以下、これを紹介する(本ガイドライン17頁、付録1)。 ① OSやソフトウェアは常に最新の状態にしよう! OSやソフトウェアは、自動更新機能をオンにするなどして、常に最新の状態に保つ必要があるとされている。 この対策は、個人情報保護法の通則ガイドラインの技術的安全管理措置で義務付けられている「外部からの不正アクセス等の防止」において、中小規模事業者(従業員100人以下)が講ずる手法として例示されている「個人データを取り扱う機器等のオペレーティングシステムを最新の状態に保持する」と同様の指摘であるから、是非とも対応しておくべきものであるといえる。 ② ウイルス対策ソフトを導入しよう! ウイルス対策ソフトを導入し、ウイルス定義ファイル(パターンファイル)を常に最新の状態にしておくことが必要であるとされている。 これも、個人情報保護法の技術的安全管理措置の「外部からの不正アクセス等の防止」において、「個人データを取り扱う機器等にセキュリティ対策ソフトウェア等を導入し、自動更新機能等の活用により、これを最新状態とする」とされているところと同じであるから、是非とも対応したい。 ③ パスワードを強化しよう! 「パスワードは『長く』、『複雑に』、『使い回さない』ようにして強化しましょう。」とされている。パスワードが推測されたり、解析されたり、他のサービスから漏えいしたID/パスワードが悪用されたりすることを防ぐためである。 なお、パスワードの定期的な変更をルールとしている企業もあるかもしれないが、近時は、パスワードの定期的な変更はかえって危険であるとされている。定期的な変更を要求すると、他のサービスと使い回しにしてしまったり、短いものにしてしまったりする傾向があるからである。 現在では、総務省の「国民のための情報セキュリティサイト」や、JIPDECのプライバシーマーク(JIS Q 15001:2006)のガイドラインでも、パスワードの有効期限の設定は記載から外されている。もしパスワードの定期的な変更が継続されているならば、社内のルールを見直す必要があると考えられる。 ④ 共有設定を見直そう! クラウド上のデータ保管サービスや、ネットワーク接続したコピー機などで、設定が誤っており、第三者に公開してしまっているケースが後を絶たない。改めて共有の設定を確認する必要がある。 ⑤ 脅威や攻撃の手口を知ろう! 標的型攻撃のメールや、企業などの公式ウェブサイトによく似せた偽サイトでID/パスワードを盗む手口など、攻撃側の手口は日々進化しているため、常に新しい情報を入手することが必要である。 以上の「情報セキュリティ5か条」は、対応に大きなコストが必要なく、かつ近時の情報漏えいの原因を分析した結果として重要であるとされているものばかりであるから、中小企業においても是非とも実践していきたい。 (了)

#No. 322(掲載号)
#影島 広泰
2019/06/13

《速報解説》 日本監査役協会、KAMに関するQ&A集の前編を公表~監査役等への支援ツールとして早期適用時に必要となる対応事項を解説~

《速報解説》 日本監査役協会、KAMに関するQ&A集の前編を公表 ~監査役等への支援ツールとして早期適用時に必要となる対応事項を解説~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年6月11日、日本監査役協会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」を公表した。 KAM(Key Audit Matters)の選定は監査人が行うものの、監査役等(監査役もしくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会)と協議した事項の中から選定されるため、監査役等は、KAMの取扱いにおいて重要な役割を果たすことが期待されている。 そこで、KAMの導入は新しい制度でもあり、監査役等への支援ツールとしてQ&A集を公表するものである。今後、後編の公表を予定している。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 Q&A集・前編では、KAMの概要及び早期適用を行う場合に対応が必要となる事項(監査契約の締結、監査計画の策定段階)を取り扱っている。 以下では主なQ&Aについて解説する。 1 KAMの適用会社及び適用時期 KAMは、金商法に基づく有価証券報告書等提出会社が対象である(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満、かつ負債総額200億円未満の企業は除く)。 2 会社法監査における監査役等の監査報告書 会社法上の会計監査人の監査報告書では、KAMの記載は任意である。 ただし、任意とはいえ、会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMが記載されれば、監査役等は、会計監査人の監査報告書に記載されたKAMの相当性を含めて会計監査人の監査の方法を評価することになる。 今後、公表されるQ&A集・後編で、会社法監査における監査役等の監査報告書の具体的な対応を記載する予定である。 3 KAMと事業上のリスク 会社の事業上のリスクがKAMの記載に含まれることが考えられるとし、例えば、過去の大型買収案件におけるのれんの減損リスクなどをあげている。 4 KAMと特別な検討を必要とするリスク 「特別な検討を必要とするリスク」は、会計上の見積りや不正の疑いのある取引、関連当事者間で行われる通常ではない取引等の特異な取引等、監査人が監査実施の過程においてリスク・アプローチの観点から特別な検討を行う事項である。 KAMの決定に際し、「特別な検討を必要とするリスク」は考慮することになり、KAMの候補となるが、そのすべてがKAMになるというものではない。 また、KAMとされなかった事項についても、監査人は通常の監査を行うので、監査役等としては、監査人の監査を注視することになる。 5 KAMと未公表情報 KAMの記載に関する未公表情報について、監査人の守秘義務解除の適否は、多くの場合、表現の工夫により回避できるものと考え、監査人と監査役等との十分な議論や、執行側との意見交換について記載されている。 KAMの記載は、財務諸表利用者に対して、監査の内容に関するより充実した情報が提供されることにより、公共の利益に資するものと推定されるとの基本的な考え方が重要である。 6 KAMと財務報告に係る内部統制に関する事項 KAMとして「財務報告に係る内部統制に関する事項」が記載されることが考えられるとし、例えば、ITシステムの新規導入や変更があげられている。 7 KAMの記載個数 KAMが1つもないということは考えにくいが、一方で相対的な重要性であることから、現実にはある程度絞り込まれたうえで、記載する個数が決まってくるものと考えられている。 8 KAMと監査契約 KAMの早期適用は、執行側と監査役等が充分協議した上で決定し、監査契約の締結に際して監査人の合意を得ることが前提となる。 任意とされる会社法監査へのKAMの適用を行うかどうかを確認しておくことも必要と考えられている。 監査役等は、KAMの導入により、監査見積時間数及び報酬額等への影響について、監査人に説明を求め、その影響が適正に反映されているかを確認する。 9 監査人と監査役等との見解の相違 監査人と監査役等との見解の相違がある場合には、議論を尽くすことが必要とされている。 監査報告書作成時にも見解の相違がある場合には、監査役等はそれらを整理し、何らかの対応をとることが考えられるとし、今後、公表されるQ&A集・後編で取り上げる予定である。 なお、監査人との意見交換については、その都度、書面に残すことが望ましいと考えられている。 10 監査役等の責任の記載 監査人の監査報告書(会社法、金商法のいずれにおいても)に、監査役等の責任として、財務報告プロセスを監視する責任があることが記載されることになった。 この記載によって、法令で規定されている監査役等の責任が変わる趣旨ではないとのことである。監査役等の責任の法的根拠は会社法であり、財務報告プロセスの監視も取締役等の職務執行の監査の範囲内にあるとのことである。 (了)

#No. 321(掲載号)
#阿部 光成
2019/06/12

《速報解説》 国税庁が「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動への的確な対応」として取組内容・調査事例を公表~2020年1月からは事業者等へ取引者情報の報告を求める仕組みも~

《速報解説》 国税庁が「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動への的確な対応」として取組内容・調査事例を公表 ~2020年1月からは事業者等へ取引者情報の報告を求める仕組みも~   Profession Journal編集部   電車内でほとんどの乗客がスマートフォンを使用している姿は今や当たり前のものとなり、2020年には次世代通信システムである5Gの導入が予定されるなど、スマートフォンやタブレット端末の普及とICT(情報通信技術)の著しい発展については疑問の余地がない。 このような状況によって、事業者だけでなく消費者(個人)もその保有する資産を活用することで、気軽に収入を得ることができるようになった。例えばInstagramやYouTube等の広告収入、メルカリ等のネットフリーマーケットでの売買、Uber、Uber Earts等によるドライバー(宅配)収入、Airbnb等による民泊収入、さらには仮想通貨(暗号資産)に係る取引などもこれに当たる。 これら活動で得た所得は時に高額となり申告・納税を要するケースが生じるにもかかわらず、インターネットを通じた取引は一般に見えづらく、捕捉されにくいという一面がある。 国税庁はこのたび、上記のような、いわゆるシェアリングエコノミー等新分野を通じた経済活動に対する最新の取組内容を公表、重要課題の1つとして推進している旨をアピールした。 上記資料ではまず、シェアリングエコノミー等ネットワークを通じた取引には下記の特徴があり、適正な申告を行っていない納税者を見過ごさないよう、国税庁として的確な対応が必要であるとしている。 国税庁が行う対応として示されているのは、仮想通貨等業界団体との協同によるセミナー活動や確定申告のスマホ専用ページ作成などの『適正申告のための環境作り』、次に課税上問題があると見込まれる納税者に向けたお尋ね文書の送付等による自主的な申告内容の見直し要請を行う『行政指導の実施』、さらに大口・悪質な申告漏れ等が見込まれる納税者に対する反面調査や外国当局への情報提供要請、情報技術専門官によるデジタルフォレンジックを用いた証拠収集などの『厳正な調査の実施』となっている。 ただしこれらの取組みは、新たな経済分野に限らずこれまでも行われてきたものといえる。今回の取組内容で注目されるのは、上記対応の前提ともなる『情報収集・分析の充実』として示された3つの事項だ。 1つ目が「法的な枠組みの積極活用」として、これまでも課税上有効な情報を収集するために、事業者等に対し任意の協力を求め必要な情報を照会していたが、今年度の税制改正によってこの任意の照会(協力要請)について法令が整備されるとともに、悪質な無申告者等一定の場合には事業者等に対し取引者の氏名等情報の報告を求める仕組みが、2020年1月1日からスタートする点を紹介。 2つ目は「プロジェクトチームの設置等」として、すでに全国税局・沖縄国税事務所に設置し電⼦商取引に関する情報収集・分析等に取り組んでいる「電⼦商取引専門調査チーム」をはじめ、関係部署の指名された職員で構成されるプロジェクトチームをすべての国税局・沖縄国税事務所に設置し、緊密な連携・協調を図ることで情報収集・分析等の取組を強化する体制が、7月からスタートする(全国で200人規模を予定)。 3つ目が「ICTの積極活用」として、インターネット上で公開されている⼤量かつ様々な情報を効率的に収集する技術など新たなICTの活⽤を進めるとともに、デジタル・テクノロジーに精通した人材の育成・登⽤を進めるというもの。また、情報の一元管理とマイナンバーや法人番号をキーとした資料情報の横断的な活⽤を⽬的としたシステム整備にも取り組むとしている(2020年1月開始予定)。 これら取組みの実効性については今後明らかになると思われるが、課税当局としては情報の公開・非公開に関わらず、法定された様々な制度を駆使して情報収集に当たる姿勢を示すことで、一定の牽制を図るねらいもあると考えられる。 【参考①】 (※) 国税庁ホームページより さらに本資料では、実際の調査事例として、動画配信を行い事業者から換金可能なポイントを取得した調査対象者が換金していないポイント部分について申告漏れとなっていたケースや、チケット転売サイトで購入したチケットをネットオークションに出品・売却する際に同一者であることがばれないよう親族名義による複数のID登録等を行っていたケース(無申告)、仲介業者を通じて多額のアフィリエイト(インターネット上の成功報酬型広告)による報酬を得ていたケース(無申告)などが紹介されている。 【参考②】 (※) 国税庁ホームページより (了)

#No. 321(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2019/06/12

《速報解説》国税庁、台湾との金融口座の「自動的情報交換」開始を公表

《速報解説》 国税庁、台湾との金融口座の「自動的情報交換」開始を公表   税理士・行政書士 島田 弘大   1 はじめに 2019年5月31日、国税庁は「台湾に対する金融情報の提供等について」を公表した。 今回公表された金融情報の提供はCRSに基づくものである。CRS(Common Reporting Standard:「共通報告基準」)とは、OECDによる国際基準やBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトに基づいたものであり、日本でも昨今の税制改正により対応が始まったものである。 すでにCRSに基づく金融口座情報の自動的情報交換は始まっているが、今まで台湾は含まれていなかった。2019年分以降のCRSに基づく金融口座情報に相当する情報を台湾に提供する方針を今回公表した形である。 なお、以下文中の意見に関する部分について私見が一部含まれることをご容赦いただきたい。   2 CRSの自動的情報交換の状況 CRSに基づく非居住者金融口座情報(CRS情報)の自動的情報交換について、2018年9月末が期限とされていた「初回のCRS情報交換状況」が国税庁から2018年10月に公表されたのは記憶に新しい。 その昨年の公表によると、初回の情報交換により、日本の非居住者に係る金融口座情報89,672件を58ヶ国・地域に提供した一方、日本の居住者に係る金融口座情報550,705件を64ヶ国・地域から受領した(2018年10月31日現在)とされる。 これから対象となる国・地域も多く控えているため、この数字は年々増加することが見込まれる。   3 今回新たに金融口座情報の自動的情報交換に加えられた台湾 2015年11月26日に日本と台湾双方の民間窓口機関(注)において「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための交易財団法人交流協会と東亜関係協会との間の取決め(以下、「日台民間租税取決め」)」が締結されており、その中で規定されている「情報の交換」について、これまで両協会間で自動的情報交換の実施に向けた調整が行われてきた。 (注) 日本側の民間窓口機関は公益財団法人交流協会(2017年1月1日から公益財団法人日本台湾交流協会に名称変更)であり、台湾側の民間窓口機関は東亜関係協会(2017年5月17日から台湾日本関係協会に名称変更)である。 2018年11月30日には、その実施手続について両協会間で合意がなされていたが、日本の国内法の整備も整ったことから、2019年分以降のCRSに基づく金融口座情報に相当する情報を台湾に提供することとなる。 なお、台湾から日本に対しても同様に、一定の条件を満たすことを前提にして、2019年分以降のCRSに基づく金融口座情報に相当する情報が提供される予定である。 (了)

#No. 321(掲載号)
#島田 弘大
2019/06/10
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