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中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第14回】「膨らみやすい社長借入金(会社貸付金)の解消法」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第14回】 「膨らみやすい社長借入金(会社貸付金)の解消法」   税理士法人トゥモローズ   中小企業の場合、社長が会社に対して資金を提供しているケースは多い。会社の資金繰りの影響や社長が立て替えた会社経費が精算されずに蓄積されたことなどが主な理由であるが、この社長借入金も月日の経過とともに膨れ上がり、事業承継や相続において大きな障壁となるケースがある。 これらの借入金は社長自身の老後資金確保という観点からも、また、後継者に負の遺産を承継しないためにも、事業承継前に適切に精算しておくべきことが肝要である。今回はこの社長借入金について、その発生原因と解消方法等について解説したい。   1 社長借入金の発生原因 (1) 金融機関からの借入れの代替え 一般に会社経営を資本の部に係る資金だけで遂行することは難しく、負債の部からも資金調達をするのが通例である。負債の部からの資金調達の調達先は主に銀行等の金融機関であるが、下記のような理由から、金融機関からの借入れではなく、社長個人の資金を会社に貸し付けるケースも多い。 (2) 経費の立替え 小さい会社や設立当初の会社でありがちなのが、会社経費を社長個人が立て替え、その精算が適切に実施されなかったケースである。経理担当者もいないような会社では、会社のお金と社長個人のお金を区別できていないところも多く、精算されないまま何年も放置されると、その借入金額が多額になることもあり得る。 (3) 役員給与の未払い 会社の資金繰りの影響で、社長に対し給与を支払うことができず、未払金としてしまう会社も多いであろう。将来資金が回るようになった後に支払えばいいと考えていたものの、そこまで好転しないまま未払給与が増殖してしまったケースである。   2 社長借入金の解消方法 (1) 債権放棄 会社に対する貸付金について、社長が債権放棄を行う方法である。債権放棄は民法519条に定められており、債務者に対して債務を免除する意思表示のみで足り、債務者、すなわち会社の同意は必要とされていない。 なお、実務上は税務当局等とのトラブルを回避する意味でも、債権放棄の事実を証する書類(債権放棄通知書や株主総会議事録等)を作成すべきであろう。 (2) DES 会社に対する貸付金を、その会社に対して現物出資する方法である。この方法による場合、その貸付金を時価評価する必要があり、その算定が難しいことが多く、実務上ハードルが高くなる傾向がある。 (※) 東京都主税局ホームページより (3) 擬似DES 資本の部に社長から資金を出資した後、その資金で社長借入金を返済する方法である。この方法の場合には実際に増資資金を用意する必要があるという点が、資金繰りに困窮している社長の場合、困難を伴うことになる。 (4) 返済 会社が不動産を売却したり、金融機関から新規に借入れをしたりして、社長に対する借入金を返済する方法である。 また、社長に対する毎月の支払額の一部を借入金の返済とする方法もある。ただしこの場合、役員給与が減額されることとなるので、将来支給すべき役員退職金の額に影響を及ぼす(すなわち、最終報酬月額が低くなるため、支給できる役員退職金が減少する)ことになるので注意が必要である。 (5) 債権贈与 社長が有する貸付債権を、その後継者に相続時精算課税制度を活用して贈与する方法である。債権自体は残ってしまうため抜本的な解決にはなっていないが、債権者を後継者にすることで、事業承継の弊害を少なくする効果はある。 *  *  * 本連載では【第6回】から今回にかけて、事業承継前(現経営者として活躍している時期)に準備できる老後資金確保の方法について解説してきたが、次回からは事業承継時の対応について解説を行っていく。 (了)

#No. 323(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/06/20

令和時代の幕開けに思い馳せる会計事務所経営 【第3回】「あなたはそれでも事業承継をビジネスにしますか」~大廃業時代とどう向き合うか~(前編:顧客志向マーケティング)

令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第3回】 「あなたはそれでも事業承継をビジネスにしますか」 ~大廃業時代とどう向き合うか~ (前編:顧客志向マーケティング)   株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊   辛辣なタイトルですが、まず最初に一言お断りをさせてください。 私は事業承継をビジネスにしている先生方を揶揄しているわけではありません。 すでに事業承継をビジネスにされている先生方が数多くいらっしゃる中で、「時代は事業承継だ! 我々もその分野を強みに会計業界で勝ち残って行こう!!」と新たにこの分野に参入しようとする先生方の方向性は間違ってはいません。 しかし、レッドオーシャン(競争の激しい市場)に準備もなしに入るのは、疲弊するだけではないでしょうか。 もし参入するならば、しっかりとセグメンテーション(市場の細分化)、ターゲティング(ターゲットを絞ったマーケティング)、そしてポジショニング(市場での位置付け)を確立することが大切です。 特にポジショニングにおいては、どの軸を選択しても誰とも被らない、そんな強さが必要ですね!   ➤廃業もビジネスになる時代 さて、近年は「大廃業時代」と言われ、高度成長期を戦ってきた多くの中小企業は後継者がいないことで廃業を選択せざるを得ない状況にあります。また、理由はそれだけに留まらず、黒字経営にもかかわらず人材不足が理由で事業を畳む選択をされる会社も数多く存在しています。 「顧問先が廃業するのは時代の流れだし、仕方ない・・・」 そう考える先生方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、廃業を選択する前に何か手は打てなかったのでしょうか。 ご存知かもしれませんが、今や「廃業」も先生方のビジネスになる時代です。 もちろん本来の先生方のお仕事は税務申告の支援に始まり、経営支援などといった、どちらかといえば会社を成長させることに貢献をすべきであろうと思いますし、私も同感です。 しかし、実際問題として、前述した理由から廃業する会社が数多く存在するのです。 ところで、先生方は「廃業」という言葉を聞いて、どのような印象を受けるでしょうか。 例えば、再生の余地がなく疲労困憊、疲弊をして、やむを得ず事業を畳まざるを得ないというのが廃業のイメージではありませんか。又は、生きていくために、収入を得るために会社をしている、そんな経営者の皆さんから生きていく術を奪うといったマイナスのイメージが強いのではないでしょうか。 もちろん事業がしっかりと承継できれば、それは素晴らしいことです。でも一方で、事業承継せずに事業をどのように畳むかを選択した会社を応援する先生がいても良いと思いませんか? ただし、事務的に廃業手続きをすること、それは全く支援とは思えません。むしろ、廃業の意思決定を促し、しっかり時間を味方につけて段取りよく整理することで、「債務超過廃業」ではなく、「資産超過廃業」を目指すようなサポートが先生方にできませんか? もっと言えば、例えば「経営に明るい」、「マーケティングに明るい」、「SWOT分析に明るい」、そんな先生方が廃業に向かう危機的な会社を再生することに立ち上がっていただく可能性はないでしょうか。 これがタイトルに込めた私のマーケティングのお話の始まりです。 マーケティング論をお話させていただくにあたり、机上の空論やアカデミックさはここでは封印して進めさせていただきます。   ➤「不」を取り除くお手伝い マーケティングの根幹を成すもの、それはズバリ「顧客志向」です。 顧客が今どのような状況にあり、どのような課題があり、どうすれば解決できるか、それがマーケティングを展開する最初の一歩です。 実はここが弱い、もしくは考えられていないことで、「顧客志向」より「自社志向」によったマーケティング戦略を重視している会社が多く見受けられます。 その一例に、マーケティングの会議と言えば、商品設計や価格設定、販売経路やメディア戦略に重きを置いている兆候があり、事態が変化したときに、再度メンバーを招集して行う議題は上記の項目になりがちです。これらは「自社志向」のマーケティング戦略です。 確かに重要な要素ではありますが、その前にもっと大切なのは、「顧客は誰なのか」ということです。 マーケティングとは、すなわち顧客の「不」を取り除くお手伝いをすることです。 「不安」「不満」「不便」「不信」を「安心」「満足」「便利」「信頼」に変えていくことで喜んでいただき、その喜びの対価が、先生方であれば顧問料やコンサル料に値すると考えます。 先生方はお客様の経営課題に耳を傾け、寄り添っていらっしゃいますか。 「税務以外のことは自分の仕事ではない」と右から左に流していませんか。 「中小企業経営者が経営相談するなら誰か?」という問いがあれば、真っ先に名前があがるのが、まさに先生方、税理士です。 例えば、中小企業が直面している喫緊の経営課題であり、先生方においても同様に悩まれている「人材採用」の課題があります。 この課題に対して「大切な顧問先のために誰もやらないなら私が」と考え、立ち上がる先生がいらっしゃれば、恐らくポジショニングの確立ができると思います。 さらに「採用しても定着率が悪いとよく耳にするし、自分の事務所も同様だ。採用に併せて人事評価制度の構築支援ができれば、お客様は喜んでくれるのではないか」、そうお考えになる先生がいれば、今後の先行メリットも享受しつつ、唯一無二の会計事務所を目指せるのではないでしょうか。 事実、私はとある経営団体で昨年から採用ノウハウ講座を実施し、中小企業の課題解決に取り組んでいく中で、採用が難しいのは「中小企業のブランディングが脆弱だからだ」という結論に至りました。 今年からは採用講座をリメイクして、「ブランディング」と「採用」をミックスした講座を展開していますが、参加者の皆様は真剣に耳を傾けていらっしゃいます。まさに「不」を取り払おうと、お客様自身が必死だという現れです。 「税務×人材採用」、「会計×人事評価」、こんな会計事務所経営も今の時代では、全く違和感はありません。   ➤顧問先のM&A、その先にある可能性 「M&Aは顧問先を失う手段だからどうも受け入れられない」という先生方もいらっしゃるかもしれませんが、長くお世話になった顧問先が悩んだ末に選んだ幸せへの航路に、エールと拍手を送ってあげてください。 雇用を守ろうと必死に選んだ道、経営者が愛した商品や顧客、目に見えない数多くの資産を守るための苦渋の選択なのですから、温かく受け入れてあげることも必要です。 しかも、顧問先のM&Aを受け入れることで、先生方にも見えてくることもあります。 M&A後に行われる、新しい組織体制の構築を目指した統合プロセスのことを「PMI(「Post Merger Integration」の略)」と言いますが、このPMIを考えれば、むしろM&Aは顧問先を失うのではなく、買収先をも新たな顧客として迎え入れるマーケティングになり得ないでしょうか。 時代の潮流であるM&Aの中で仲介業者が踏み入れない領域、言うなれば「結婚後の生活」を見守る方が必要とされています。 PMIを進めるにあたり先生の本来業務である財務会計などに近い部分、今多くの先生方が事業として取り入れていらっしゃる「経理代行業務」なども選択肢の可能性はないでしょうか。 また、統合には効率化が欠かせませんので、IT構築支援なども先生方のお仕事になる可能性は十分に秘めていますし、まさにここはまだまだブルーオーシャン(競争の少ない市場)ではないでしょうか。 このように、マーケティングの第一歩は外部環境をしっかりと把握することに尽きます。その上で外部環境から機会を見いだし、自社の強みとかけ算することで差別化を図り競合を凌駕し、競合を意識することなく独自性を発揮していくことにあります。 *  *  * ここまで前編として、マーケティングとは外部環境を絶好の機会とする、また顧客を知り顧客の「不」を取り払うことで成立するとお話してきました。今回は、ここまでとさせていただき、次回の後編では、独自性を発揮するための方法をお伝えしたいと思います。 (了)

#No. 323(掲載号)
#杉山 豊
2019/06/20

《速報解説》 会計士協会、「監査報告書に係るQ&A」の公開草案を公表~KAM記載の新実務へ対応~

《速報解説》 会計士協会、「監査報告書に係るQ&A」の公開草案を公表 ~KAM記載の新実務へ対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年6月14日、日本公認会計士協会は、「監査報告書に係るQ&A」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年7月5日、企業会計審議会)において、監査人の監査報告書に「監査上の主要な検討事項」(国際監査基準のKey Audit Matters(KAM)に相当する)を記載するという新しい実務が行われることに対応するためのものであり、監査報告書全般に関するQ&Aも記載されている。 意見募集期間は2019年7月5日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 公開草案の主な項目は次のとおりである。 公開草案は、目次を含めて59ページに及ぶものなので、以下では主な内容について解説する。 【監査報告書全般】 【監査上の主要な検討事項関係】 1 背景 背景として次のことが述べられている。 2 監査上の主要な検討事項の個数及び記載量(Q2-7) 監査上の主要な検討事項は、監査役等にコミュニケーションを行った項目の中の相対的な重要性によって決定されることになるため、個数についての目安は設けられていない。 その記載に当たっては、記載量に関する制限はないものの、想定される財務諸表の利用者が理解できるように、詳細さと簡潔さのバランスを保つことが重要となるとのことである。 重要であると判断した事項の決定は、その数も含め、職業的専門家の判断によるものであり、特に重要であると判断した事項は、個々の監査業務における相対的な重要性を考慮して決定され、同業他社等との比較において重要であるかどうか考慮する必要はないとのことである(Q2-2の解説の(2))。 3 監査上の主要な検討事項と内部統制の重要な不備(Q2-4) 監査上の主要な検討事項は、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項であり、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から選定されるものである。 このため、内部統制の重要な不備は、監査役等にコミュニケーションを行うことが求められているので、監査上の主要な検討事項を選定する際の母集団に含まれることになるが、監査上の主要な検討事項は、内部統制の重要な不備を報告することを目的とするものではないので、内部統制の重要な不備の存在そのものが監査上の主要な検討事項となるわけではない。 ただし、監査上の主要な検討事項として選定した理由又は監査上の対応の記述において、内部統制に関する記述に触れることがあるとのことである。 4 監査上の主要な検討事項と未修正の虚偽表示(Q2-5) 監査上の主要な検討事項は、監査役等とコミュニケーションを行った事項から決定するものであるので、未修正の虚偽表示は監査上の主要な検討事項を検討する母集団に含まれる。 未修正の虚偽表示が監査上の主要な検討事項に該当するかどうかの検討に際しては、監査人は、監査の過程で虚偽表示が識別され、修正されたかどうかの事実に着目するのではなく、虚偽表示の内容や発生状況が当期の監査において特に注意を払った事項に該当するかどうかを検討し、他に識別している事項との相対的重要性に基づき監査上の主要な検討事項の決定を行うことになる。 したがって、監査の過程で識別された未修正の虚偽表示が監査上の主要な検討事項に関連することもあるが、すべての未修正の虚偽表示が、必ず監査上の主要な検討事項になるというものではない。 5 会社に対する財務諸表における注記の拡充の要請(Q2-14) 企業に関する情報を開示する責任は経営者にあるため、監査人による監査上の主要な検討事項の記載は、経営者による開示を代替するものではない。 経営者は、適用される財務報告の枠組みにより求められる財務諸表の表示及び注記事項、又は適正表示を達成するために必要な財務諸表の追加的な注記事項を開示する責任を有している。 経営者が財務諸表に追加情報の注記は必要ないと判断した場合、監査人は財務報告の枠組みに照らして、追加情報の注記がなくとも財務諸表が適正表示を達成しているかどうかを判断しなければならないが、適正表示を達成していると判断したときは、経営者に対して、監査上の主要な検討事項を監査報告書に記載することを理由として注記の拡充を強要することはできない。 6 監査スケジュールや監査役等とのコミュニケーションにおける留意点(Q2-18) 監査上の主要な検討事項は監査報告書の記載事項であるが、監査の最終段階を待って、監査の過程で監査役等とコミュニケーションを行った事項から監査上の主要な検討事項の決定に着手することが想定されているわけではない。 監査の早い段階で、監査上の主要な検討事項の候補の提示及び協議、草案の検討等を行うおおよその時期について、経営者及び監査役等と協議しておくことが重要となる。 7 株主総会における対応(Q2-19) 株主総会において、株主から、監査上の主要な検討事項に関する質問が出ることが想定される場合、想定される質問の内容について事前に会社との間で、監査人が回答すべき事項と会社側が回答すべき事項の区分について十分に協議しておくことが適切であるとのことである。 会社法の規定に従って株主総会において監査人の出席の決議があった場合は、監査人は株主総会に出席し、株主からの質問の趣旨を踏まえて議長から指名を受けて監査人は回答することとなる。 8 監査上の主要な検討事項の監査人の法的責任に及ぼす影響(Q2-20) 監査人が、監査契約に基づいて、一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査上の主要な検討事項を選定し監査報告書に記載している限り、監査上の主要な検討事項の記載が、会社又は第三者に対する監査人の法的責任(損害賠償責任)の帰結に大きな変更をもたらすものではないと考えられる。 監査人は監査基準に準拠して正当な注意義務を払って監査を実施していた場合には責任を負わないという点は、監査上の主要な検討事項が適用される以前からも同じであり、この意味で、監査上の主要な検討事項は、監査人の法的責任(損害賠償責任)の帰結に大きな違いをもたらすものではないと考えられる。 監査人の法的責任は、最終的には個々の事案ごとに裁判所が判断することになる(法規委員会研究報告第1号「公認会計士等の法的責任について」(最終改正2016年7月25日)も参照)。 (了)

#No. 322(掲載号)
#阿部 光成
2019/06/17

《速報解説》 IAASBの内部監査プロジェクト等を踏まえ監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」等が改正される~原則2020年4月1日以後開始する事業年度に係る監査等から適用~

《速報解説》 IAASBの内部監査プロジェクト等を踏まえ 監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」等が改正される ~原則2020年4月1日以後開始する事業年度に係る監査等から適用~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年6月12日、日本公認会計士協会は、監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」など多くの監査基準委員会報告書を改正した。これにより、2019年2月26日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)において検討された内部監査プロジェクト及び財務諸表の注記事項の監査を強化するプロジェクトに対応するものである。公開草案に対する「コメントの概要及びコメントについて」も公表されている。 改正する監査基準委員会報告書は次のとおりである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 改正する監査基準委員会報告書が多いので、以下では主な内容について解説する。 1 内部監査人の作業の利用 本報告書は、監査人が監査証拠を入手するために内部監査人の作業を利用する際の、監査人の責任に関する実務上の指針を提供するものである(1項)。 監査証拠の入手に当たって、監査人自らが実施する監査手続の種類もしくは時期を変更するか、又は範囲を縮小するために、監査人に内部監査人の作業を利用することを要求するものではない(3項)。 企業が内部監査機能を有し、監査人自らが実施する監査手続の種類もしくは時期を変更するか、又は範囲を縮小するために内部監査人の作業の利用を想定する場合に、以下の事項について判断することについて規定している(9項)。 監査人は表明する監査意見に対して単独で責任を負うことから、計画された範囲で内部監査人の作業を利用した場合でも、監査人が監査に十分に関与したかどうかを総合的に評価しなければならない(15項)。 また、監査人は、監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」13項に従って、監査役もしくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会と、計画した監査の範囲とその実施時期に関するコミュニケーションを行う際に、内部監査人の作業の利用をどのように計画したかについてコミュニケーションを行わなければならないとされている(16項)。 監査人は、以下の事項を評価した上で、内部監査人の作業が監査の目的に照らして利用できるかどうかを判断しなければならないとされている(11項)。 内部監査人の作業に対して実施する監査人の手続の種類及び範囲について規定されている(20項)。 2 企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価 リスク評価手続において、内部監査に従事する適切な者(内部監査機能がある場合)への質問が要求されている(5項(1))。 また、企業が内部監査機能を有している場合、監査人は、内部監査機能の責任、組織上の位置付け、及び実施された又は実施される予定の業務を理解しなければならないとされている(22項)。 監査人が理解すべき財務報告に関連する情報システムには、総勘定元帳や補助元帳だけでなく、それ以外の情報システムの注記事項に関連する部分を含めなければならず、また、取引種類、勘定残高及び注記事項(定性的及び定量的な情報を含む)を検討することにより、虚偽表示リスクを識別することとされている(17項、25項)。 3 財務諸表監査における総括的な目的 「虚偽表示」とは、報告される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項と、適用される財務報告の枠組みに準拠した場合に要求される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項との間の差異をいい、注記事項についても明記されている(12項(6))。 注記事項は、適用される財務報告の枠組みにより求められている、又は明示的か否かにかかわらず記載が認められている説明的もしくは記述的な情報から構成され、注記事項は、財務諸表本表において、又は脚注方式で記載されるが、財務諸表から他の文書に参照をすることによって財務諸表に組み込まれることもある(12項(9))。 監査基準委員会報告書は、会計上の見積り及び関連する注記事項が適用される財務報告の枠組みに照らして合理的又は妥当であるかどうか、並びに企業の会計実務の質的側面(経営者の判断に偏向が存在する兆候を含む)について、特定の検討を行うことを監査人に要求している(A45項)。 4 財務諸表監査における不正 不正な財務報告を行う方法として、適用される財務報告の枠組みで要求される注記事項又は適正表示を達成するために必要な注記事項を省略したり、不明瞭に記載したり、又は誤った表示をしたりすることが規定されている(A4項)。 監査チーム内の討議事項として、経営者が注記事項を、適切な理解を妨げるような方法(例えば、あまり重要でない情報を多く含めたり、不明瞭で曖昧な表現を使用したりするなど)で記述しようとするリスクの検討を含むとしている(A10項)。 5 監査計画 注記事項には広範囲かつ詳細な情報が含まれることから、注記事項に関連するリスク評価手続及びリスク対応手続の種類、時期及び範囲の決定は重要であるとし、監査の初期段階における注記事項の検討により、以下の事項に関する判断への役立ちが規定されている(A13項、A14項)。 6 監査の計画及び実施における重要性 定性的な注記事項が重要であるかどうかを判断する際に、監査人が考慮する要因には、例えば以下がある(A2項)。 7 評価したリスクに対応する監査人の手続 財務諸表の表示及び注記事項の妥当性の検討に際して、次の事項を検討する(23項)。 監査人が監査手続の実施の時期を検討する際に考慮する要因として、財務諸表、特に貸借対照表、損益計算書、包括利益計算書、株主持分変動計算書又はキャッシュ・フロー計算書に計上された金額についての詳細な説明を提供する注記事項の作成時期がある(A14項)。 8 監査の過程で識別した虚偽表示の評価 監査人が、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されているかどうかに関して意見表明する場合、虚偽表示には、監査人の判断において、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されるために必要となる、金額、分類、表示又は注記事項の修正も含まれる(3項)。 注記事項に関する虚偽表示も、個別にも集計しても、又は金額、内容もしくは状況を考慮しても「明らかに僅少」である場合があるが、監査人は、「明らかに僅少」ではない注記事項の虚偽表示については、当該虚偽表示に関連する注記事項及び財務諸表全体に与える影響を評価するために集計する(A4項)。 A16項は、定性的な注記事項に関する虚偽表示に重要性があると判断される場合の例を示している。例えば、減損損失の認識に至った事象又は状況について注記していない場合、会計方針の記述が不正確な場合があげられている(A16項)。 9 財務諸表監査における法令の検討 監査人が違法行為又はその疑いを監査報告書において報告することがある例として、監査人が、違法行為又はその疑いは監査上の主要な検討事項であると判断し、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」に従って、当該事項を報告する場合があげられている(A25項。監基報701第13項が適用される場合を除く)。   Ⅲ 適用時期等 (了)

#No. 323(掲載号)
#阿部 光成
2019/06/17

《速報解説》 キャッシュレス・消費者還元事業における各事業者の登録・申請までの全貌~軽減税率・キャッシュレス対応推進フェアが全国各地で開催~

《速報解説》 キャッシュレス・消費者還元事業における 各事業者の登録・申請までの全貌 ~キャッシュレス対応推進フェアが全国各地で開催~   Profession Journal編集部   経済産業省・中小企業庁による「軽減税率・キャッシュレス対応推進フェア」が、東京での開催を皮切りに全国各地で順次開催されている(本稿公開時点では東京、広島、大阪で開催済み)。 本フェアでは、2019年10月1日の消費税率引上げ後の消費の落ち込みを防ぐ対策の1つである「キャッシュレス・消費者還元事業」への参加を検討する事業者向けに、本事業の説明、キャッシュレス決済の体験コーナー、特別講演など、様々なコンテンツが用意されている。 消費税率引上げがいよいよ現実味を増す中で、キャッシュレス決済の導入を真剣に検討する事業者も増加すると思われるが、一定の業種・取引については対象外となるなど、参加に際しては注意すべきポイントも多い。税理士としては、クライアントからの本事業に関する相談にも対応できるよう、登録・申請の手続き等含め、改めて全貌を確認しておきたい。   〇 キャッシュレス・消費者還元事業の仕組み 政府が推進するキャッシュレス・消費者還元事業(以下「ポイント還元事業」)とは、2019年10月1日に予定されている消費税率引上げに伴い、需要平準化対策として、キャッシュレス決済による生産性向上及び消費者の利便性向上の観点から消費税率引上げ後の一定期間に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を用いたポイント還元・割引の支援を行うというもの。 消費者への還元として、消費税率引上げ後の9ヶ月間(2019年10月1日~2020年6月30日)にわたり、消費者がキャッシュレス決済手段を用いて中小・小規模の小売店・サービス業者・飲食店等に対して支払いを行った場合、個別店舗については5%、フランチャイズチェーン加盟店については2%を消費者に還元する。 消費者還元の仕組みは、まず、キャッシュレス決済事業者を公募し、登録された決済事業者が中小・小規模事業者を募集・加盟店として登録したのち、キャッシュレス手段を中小・小規模事業者(加盟店)に提供する。そして、その提供された決済手段を用いて消費者が商品を購入することで、決済事業者から消費者にポイントが発行等される仕組み。 《消費者還元の仕組み》 (出所) 経済産業省「キャッシュレス・消費者還元事業サイト」より。以下、図表同様。   〇 公募対象となるキャッシュレス決済事業者の要件 ポイント還元事業で公募対象となっているキャッシュレス決済事業者は、一般的な購買に繰り返し利用できる電子的な決済手段(クレジットカード、電子マネー、QRコードなど)を対象となる決済手段としていることに加え、次の要件を満たす必要がある。   〇 キャッシュレス決済事業者の登録 上記の要件を満たした上で、キャッシュレス決済事業者の登録までの大まかな流れは、以下の通りとなっている。 (※) 2019年4月12日(金)~2020年2月28日(金)17時必着(厳守) なお、決済事業者向けに全116問(本稿公開時点)のFAQも公表されており、端末補助や加盟店登録、決済事業者登録などについて幅広い事項が掲載されている。   〇 中小・小規模事業者に対する補助 1 決済端末及び加盟店手数料補助 ポイント還元事業では、中小・小規模事業者がキャッシュレス決済を導入する際に必要となる端末等導入費用の1/3を決済事業者が負担し、残りの2/3を国が補助する。また、中小・小規模事業者がキャッシュレス決済を行う際に、決済事業者に支払う加盟店手数料(3.25%以下)の1/3についても国が補助を行う(※)。 (※) 加盟店登録要領に規定するフランチャイズチェーン等に属する中小・小規模事業者を除く。 2 補助の対象となる中小・小規模事業者の範囲 補助の対象となる中小・小規模事業者は、次の定義に該当している必要がある。 (※1) 旅館業は資本金5千万円以下又は従業員200人以下、ソフトウェア業・情報処理サービス業は資本金3億円以下又は従業員300人以下とする。 (※2) 資本金又は出資金が5億円以上の法人に直接又は間接に100%の株式を保有される中小・小規模事業者は補助の対象外とする。 (※3) 事業協同組合、商工組合等の中小企業団体、農業協同組合、消費生活協同組合等の各種組合は補助の対象とする。 (※4) 一般社団法人・財団法人、公益社団法人・財団法人、特定非営利活動法人は、その主たる業種に記載の中小・小規模事業者と同一の従業員規模以下である場合、補助の対象とする。 しかし、上記の中小・小規模事業者の定義に該当する場合であっても、登録申請時点において、確定している(申告済みの)直近過去3年分の各年又は各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超える中小・小規模事業者、いわゆる「過小資本企業」は補助の対象外となる。 なお、補助の対象外となる業種・取引については、キャッシュレス・消費者還元事業サイトで詳細が公表されている。   〇 中小・小規模事業者の加盟店登録 上記の定義に当てはまることを前提に、中小・小規模事業者(加盟店)の登録は、ポイント還元事業の登録を受けた決済事業者を通じて行う。 キャッシュレス・消費者還元事業サイトでは、仮登録を受けた決済事業者が提供するそれぞれのプランが公表されており、そこでは提供可能な決済手段、加盟店手数料、提供端末、問い合わせ先などの情報が掲載されている。 加盟店登録までのステップは下記の通り。 *  *  * ちなみに、前述したとおり「軽減税率・キャッシュレス対応推進フェア」が各地で開催されているほか、中小・小規模事業者向けに5月中旬から全国でポイント還元事業の説明会が行われているので、本事業の参加を検討する際は参考とされたい。 (了)

#No. 322(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2019/06/14

プロフェッションジャーナル No.322が公開されました!~今週のお薦め記事~

2019年6月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.322を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2019/06/13

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第77回】「日本標準産業分類から読み解く租税法解釈(その2)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第77回】 「日本標準産業分類から読み解く租税法解釈(その2)」   中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦   Ⅲ 統計学上の産業分類と租税法の解釈 租税法の解釈論において、日本標準産業分類に従った解釈を展開すべきか否かについて争われた事例は少なくない。この点が極めて重要な論点とされた事例については後述するとし、以下では、まず簡単にいくつかの事例を概観することとしたい。 1 所得税法 所得税法27条《事業所得》1項は、「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得・・・をいう。」とし、これを受けて所得税法施行令63条では、各種事業が掲げられている。 ここに示されている「事業」該当性を巡って、日本標準産業分類が持ち出されることがある。 例えば、日本標準産業分類がかかる施行令の解釈に登場した例として、神戸地裁平成4年10月28日判決(判タ814号146頁)の説示を確認しておきたい。 このように、同地裁は、日本標準産業分類における分類が、所得税法施行令63条にいう事業該当性の判断に直接影響を与えるわけではないとする。しかしながら、その上で、同地裁は次のように続ける。 すなわち、神戸地裁は、日本標準産業分類は所得税法上の事業該当性を判断する直接の基準にこそならないものの、日本標準産業分類の区分と所得税法施行令63条の事業区分に類似性が認められることから、一応の判断の参考には資すると理解しているようである。 (注) 神戸地裁第二民事部における上記判断は、平成元年(行ウ)34号であるが、上記判決と同日に、平成4年(行ウ)34号事件も判示されている。かかる訴訟においても上記引用部分は同様の説示がされている。 2 相続税法 納税者(原告)が、国(被告)に対し、日本標準産業分類において平成14年に大分類として新設されていた「情報通信業」を、いわゆる株価通達(類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等についての法令解釈通達)において平成21年まで独立の分類にせずに放置していたことに不作為の違法があると主張した事例として、東京地裁平成28年9月16日判決(税資266号順号12902)がある。 同地裁は、まず、株価通達の作成が日本標準分類に基づいていることを確認する。 その上で、不作為の違法を訴える原告の主張を次のように排斥している。 株価通達が日本標準産業分類を参考にしているとはいえ、あくまでも株価通達は上意下達の命令手段であり、法令によって日本標準産業分類によらなくてはならない旨の規定がない以上、必ずしも日本標準産業分類に従わなければならないと解すべき根拠はないということである。 3 消費税法 自ら製造行為を行わない製造問屋を製造業として第三種事業に区分することは、他の者から購入した商品をその性質及び形状を変更しないで他の事業者に販売する事業を卸売業等と定める消費税法施行令57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》5項又は6項と矛盾するとして、同法基本通達13-2-5《製造業等に含まれる範囲》の取扱いは不合理であるとした納税者の主張が排斥された事例として、名古屋地裁平成17年12月22日判決(税資255号順号10253)がある。 同地裁は、その論拠として、次のように説示する。 そして、日本産業標準分類に基づく判断基準を示した通達と異なった課税処分がなされたという点については、以下のとおり判示する。 かかる判断は、控訴審名古屋高裁平成18年5月18日判決(税資256号順号10399)においても維持されている。 上記3つの判決では、日本標準産業分類の取扱いが、必ずしも個別の租税法規定の解釈ないし通達の考え方において規範性を有するものではないと考えられているようである。 しかしながら、Ⅱで確認したとおり、租税法の各条項においてもしばしば日本標準産業分類が用いられているのであって、このこととの折り合いは如何につけるべきなのであろうか。   Ⅳ 統計と租税法 1 立法事実としての日本標準産業分類 そもそも、租税法を規定する際にも、日本標準産業分類が参考にされることはあるようである。 例えば、次の国会答弁などをみると、日本標準産業分類が租税法の立案において参考とされていることを窺わせる。 すなわち、消費税法創設当時の昭和63年12月19日の第113回国会参議院税制問題等に関する調査特別委員会において、「日本標準産業分類において製造業に分類されている中には、卸売業と同様に10パーセント程度の付加価値しか得ることができない事業があり、このような事業について、・・・事業区分を政令でどのように定めるのか」という旨の質疑がなされている。 これに対し、大蔵省主税局長(当時)は、「現在の法人税におきましても、貸倒引当金の運用でございますとか、もろもろの特別措置の場合は、卸とその他に分けている場合がございます。そうしたものをも先例としつつ分類をすることになろうと思います。」と答弁している。 仮に、日本標準産業分類が立法事実を構成しているとすれば、かかる分類は法解釈を展開する上で重要な資料となり得ることを示唆しているとみることもできよう。 ところで、当時の法人税基本通達11-2-10においては、法人税法における貸倒引当金について「おおむね日本標準産業分類(略)の分類を基準として判定する。」とする先例があり、消費税法における事業の判定についても、日本標準産業分類に基づくことが前提とされていたのである。 その後、業種によっては実際の仕入率とみなし仕入率との間にかい離があり、速やかにこれを是正し、制度の公平性を高めるべきである旨の税制調査会実施状況小委員会報告(平成2年10月30日に税制調査会総会へ提出)等を受けて、平成3年法律第73号による消費税法の改正がなされた。 かかる改正により、事業区分が2区分から4区分に細分化されたが、この改正について解説した国税庁発行の文献にも、おおむね日本標準産業分類によることを示す記載があり、消費税法上の課税実務は、原則として日本標準産業分類に従って事業の範囲を確定してきたという事実もある。 2 事業承継税制と日本標準産業分類 ところで、日本標準産業分類とは、統計法2条《定義》9項を受けたものである。同条項は、「この法律において『統計基準』とは、公的統計の作成に際し、その統一性又は総合性を確保するための技術的な基準をいう。」と定義している。 この統計法の目的は、「この法律は、公的統計が国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報であることにかんがみ、公的統計の作成及び提供に関し基本となる事項を定めることにより、公的統計の体系的かつ効率的な整備及びその有用性の確保を図り、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上に寄与すること」にある(統計1)。 かような目的を有する統計法の考え方は、租税法にいかなる関連を有するであろうか。 ここで、今日関心が寄せられている事業承継税制について考えてみたい。同税制は、中小企業基本法上の「中小企業」を対象とするものである。 すなわち、中小企業基本法2条は、中小企業者の範囲を次のように規定している。 したがって、これをまとめれば、以下のようになる(中小企業庁HP参照)。 事業承継税制が対象とする中小企業者の範囲について、中小企業基本法に従うということであるから、同法2条各号の解釈適用に関心を寄せる必要があろう。そこで、同条にいう「製造業、建設業、運輸業」などはどのように定義されているのかが問題となる。 この点につき、中小企業庁は、FAQ「中小企業の定義について」の中で、次のような問と回答を用意している。 ここでは、日本標準産業分類に従った解釈が展開されているのである。 上記の中小企業基本法上の「中小企業」は、明らかに法人税法における中小企業軽減税率の適用範囲となる企業(資本1億円以下の企業)とは異なるものである。 なるほど、これはあくまでも「中小企業者の範囲」であって、「中小企業」の範囲ではないから、定義されている概念自体が異なるものである。 そうであるからといって、「中小企業」を資本金1億円以下と捉える法人税法と、「中小企業者の範囲」を上記のようなものに限定する事業承継税制の考え方の二本立ての構造は、それぞれの法条の目的を異にするという理由以上の混乱を招来することになりはしないであろうか。 中小企業基本法の目的は、「この法律は、中小企業に関する施策について、その基本理念、基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、中小企業に関する施策を総合的に推進し、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ることを目的とする。」というものである(中小基本1)。 事業承継税制は、かかる政策目的の一環として、租税特別措置法内に位置付けられている。 租税特別措置法が事業承継税制の規定中に用いている、中小企業基本法の定める「中小企業者の範囲」と、法人税法にいう「中小企業」の範囲が異なるということは、事業承継税制が、相続税法のみならず法人税法をも検討対象としつつ行うべき政策であることからすれば、極めて不安定な運営がなされるおそれをも意味するように思われるのである。 (続く)

#No. 322(掲載号)
#酒井 克彦
2019/06/13

谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第13回】「租税法律主義と実質主義との相克」-税法の目的論的解釈の過形成④-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第13回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の目的論的解釈の過形成④-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに これまで税法の目的論的解釈の過形成として検討してきたのは、租税法規の趣旨・目的の法規範化論(第7回)や租税法規の趣旨・目的の措定論(前回)であったが、今回は、馬券払戻金(いわゆる競馬所得)の所得区分が争われた競馬事件を素材にして、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成を検討することにする。 競馬事件のうち大阪事件(最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁)と札幌事件(最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁)では最高裁の判断が示されたが、両判断の間に示された札幌事件の第一審・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁は、大阪事件最判が示した文理解釈重視の判断を「潜脱」し、同最判が否定した検察官の主張にみられる一種の目的論的解釈によって、同最判とは「真逆」の結論を導き出した。 札幌事件東京地判について、筆者はこれを大阪事件最判に対する「面従腹背判決」とみて批判するものであるが、その意味するところを、以下では、大阪事件最判の判断枠組みと比較しながら、述べることにしたい。   Ⅱ 大阪事件最判の判断枠組み まず、大阪事件最判が馬券払戻金の所得区分について示した下記の判断枠組み(下線・太字・[]書筆者)からみておこう。 この判決は、一時所得に関する「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」という要件のうち「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」という部分について、これに該当する所得は一時所得ではなく雑所得に区分されることを前提にして、その部分に係る要件を「文理に照らし」解釈すること、すなわち、当該要件の文理解釈を「起点」として、馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みを示した上で、その判断枠組みの「終点」においては、①「行為の期間、回数、頻度その他の態様」、②「利益発生の規模、期間その他の状況」③「等の事情」を「総合考慮」して当該要件該当性の判断をすることが相当である旨を判示している。 では、その判断枠組みの「起点」と「終点」とを連結するために行われた論理操作はどのようなものであろうか。最高裁は、以下のような論理操作を行ったものと考えられる。 最高裁は、「起点」においては、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」(下線筆者)という要件の「文理に照らし」行う解釈(文理解釈)によって、所得を生み出す行為が㋐「継続的行為」であること及び㋑「営利を目的とする行為」(ここでいう「目的」は主観的目的ではなく客観的事実によって認定されるべきものと解されるので「客観的にみて営利を目的とする行為」)であること、という2つの規範を定立しそれらを要件事実(主要事実)として導き出したものと解される。 このような理解は、札幌事件最判の調査官解説において明確に示されているように思われる。すなわち、三宅知三郎「判解」法曹時報71巻5号(2019年)1126頁、1132頁-1133頁は、札幌事件最判が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」該当性を検討するに当たって、「継続的行為該当性」と「営利目的該当性」を分けて検討していると述べた上で、「本判決[=札幌事件最判]が平成27年最判[=大阪事件最判]と異なる判断枠組みを用いたものとは解されない。」と述べ、しかも「営利目的該当性」について札幌事件最判も「営利目的について客観性を求めたものと思われる。」と述べているのである。 他方、「終点」においては、「起点」に呼応して、㋐「継続的行為」であることという要件事実について、①「行為の期間、回数、頻度その他の態様」(以下「行為の数量的態様」という)を、㋑「客観的にみて営利を目的とする行為」であることという要件事実について、②「利益発生の規模、期間その他の状況」(以下「行為の客観的利益状況」という)を、それぞれの要件事実を推認させる間接事実(判決文では「事情」)として、示したものと解される(「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」という要件に係る要件事実(主要事実)及び間接事実に関する以上の理解については、Ⅳの末尾に掲げる札幌事件最判の判示を参照)。 判決文では、①行為の数量的態様及び②行為の客観的利益状況に関する説示の直後に③「等の事情」という文言が付加されていることからすると、前記㋐㋑の要件事実を推認させる間接事実には①②以外のものもあり得ることが想定されているとは解されるが、これらの2つの間接事実は、多くの場合に要件事実を強く推認させるという意味で「重要な間接事実」であるからこそ、特記されたものと解される。 なお、以上の判断枠組みは、基本的には、第10回で検討したヤフー事件最判の下記の判断枠組み(下線・太字・[]書筆者)と同じである。 もっとも、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」という要件は、ヤフー事件における不当性要件とは異なり、規範的要件でないことから、ヤフー事件最判における❶の下線部の判示に相当する判断は、大阪事件最判では必要なかったものと考えられる。また、大阪事件最判は文理解釈に基づく判断であり、その判断においては、前述のとおり、要件の文言から特段の解釈的操作なしに規範の定立及び要件事実の導出が可能であることから、ヤフー事件最判における目的論的解釈に基づく規範の定立及び要件事実の導出に関する❸の下線部の判示に相当する判断も、大阪事件最判では必要なかったものと考えられる。   Ⅲ 札幌事件東京地判の判断枠組み 1 重要な間接事実の「すり替え」 これに対して、札幌事件東京地判は馬券払戻金の所得区分について下記の判断枠組み(下線・太字・[]書筆者)を示した。 この判示の末尾の括弧書で参照されている「別件最高裁判決」は大阪事件最判であり、しかもその下線部分の判示は「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」の部分以外は全く同じ表現になっていることからすると、札幌事件東京地判は、一見したところ、大阪事件最判に「従って」馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みを示しているかのようにも思われる。 しかし、もしそうであるとすれば、札幌事件東京地判はなぜ大阪事件最判における「文理に照らし」の部分を「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」に置き換えたのであろうか。その理由を解明するために、以下では、大阪事件最判が前提にした事実認定と札幌事件東京地判が行った事実認定とを比較してみよう。 まず、①行為の数量的態様について、大阪事件最判は、「被告人が馬券を自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして[いた]」と説示した。 これに対して、札幌事件東京地判は、「原告が、数年間にわたって各節に継続して、相当多額の中央競馬の馬券を購入していたことは確かである」と認めながらも、次のように説示した(下線筆者)。 この説示は、馬券購入の態様について自動的・機械的購入か又は「一般的な競馬愛好家」的購入かを問題にしていることからすると、①行為の数量的態様をいわば「行為の性質的態様」ともいうべき間接事実に置き換えてその事実認定を行ったものと解される。 次に、②行為の客観的利益状況について、大阪事件最判は、「当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ[ていた]」と説示した。 これに対して、札幌事件東京地判は、「原告が数年間にわたって各節に継続して相当多額の馬券を購入し、結果的に多額の利益を得ていたことは確かである」と認めながらも、次のように説示した(下線筆者)。 この説示は、馬券購入の一般的な非営利性及び本件における性質(「一般的な競馬愛好家」的購入)を問題にしていることからすると、②行為の客観的利益状況をいわば「行為の性質的利益状況」ともいうべき間接事実に置き換えてその事実認定を行ったものと解される。 以上を要するに、札幌事件東京地判は、①行為の数量的態様及び②行為の客観的利益状況という重要な間接事実について、これらをそれぞれ行為の性質的態様、行為の性質的利益状況に置き換えて、大阪事件最判とは異なる事実認定を行ったものと解される。 重要な間接事実のこのような置換えは、「文理に照らし」行う解釈(文理解釈)の、「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」行う解釈への置換えに対応して、行われたものと解される。後者の解釈によれば、馬券払戻金の所得区分に関する判断において「当該行為ないし所得の性質」が踏まえられるが故に、前記①②の重要な間接事実について行為の性質(行為の性質的態様及び行為の性質的利益状況)が重視され、また、「本件競馬所得」が「個別の馬券が的中したことによる偶発的な利益が集積したにすぎないもの」と性質決定されることになると考えられるのである。 「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」行う解釈は、次の2で述べるとおり、文理解釈ではなく目的論的解釈の一種であると考えられる。そうすると、いずれの解釈方法によるかで、馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みの「起点」となる規範及び要件事実が異なってくる以上、その「終点」にある重要な間接事実の前述のような置換えは、重要な間接事実について単に表現の点で変更を加えるにとどまらず、内容の点でも変更を加えるものであるといえ、したがって、重要な間接事実の「すり替え」ともいうべきものである。 2 「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」行う解釈の意義 以上の理解によれば、札幌事件東京地判が判断枠組みの「起点」に置く「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」行う解釈は、馬券払戻金の所得区分について馬券購入行為の本来的な性質を踏まえて検討することを要求するものとして、結局のところ、「所得や行為の本来の性質を本質的な考慮要素として判断すべきであるという解釈」と同じ意味をもつことになると考えられる。 「所得や行為の本来の性質を本質的な考慮要素として判断すべきであるという解釈」は、大阪事件最判の下記の判示(下線筆者)で否定された検察官の主張にみられるものである(札幌事件東京地判によれば、被告も基本的に同様の主張を行っている。なお、札幌事件東京地判は、大阪事件最判に従い被告のそのような主張を否定しているが、それにもかかわらず、上記解釈と同じ意味をもつ「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」行う解釈を採用した点で、「自家撞着」に陥っているといえよう)。 検察官のこの主張では、所得区分に関する判断が、大阪事件最判とは異なり「文理に照らし」ではなく、「所得の種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし」(3つ目の下線部)行われるべきである旨が判示されていることに注意すべきである。 大阪事件では検察官は上告受理申立て理由の中で次のとおり主張していた(下線筆者)。 検察官のこの主張をも考え合わせると、「所得や行為の本来の性質を本質的な考慮要素として判断すべきであるという解釈」は、法解釈方法論の観点からみれば、目的論的解釈に属する解釈方法ということができよう。しかも税法学の観点からみれば、所得や行為の(形式ではなく)「本来の性質」(実質)を「本質的な考慮要素」とする点で、実質主義ないし実質課税の原則の系譜に連なる目的論的解釈(第7回Ⅳ参照)ということができよう。そうすると、札幌事件東京地判は、文理解釈を採用した大阪事件・最判とは、馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みの「起点」を異にすることになる。 「租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではな[い]」(最判平成22年3月2日民集64巻2号420頁)という厳格な解釈の要請(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)【44】)の下では、「文理に照らし」行う解釈(文理解釈)の、「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」行う解釈(税法学的観点からみれば、実質主義ないし実質課税の原則の系譜に連なる目的論的解釈)への置換えは、文理解釈の「潜脱」ともいうべきものである。目的論的解釈は文理解釈の補完としては許容される(前掲拙著【45】)とはいえ、判例が採用した文理解釈を、同じ判断枠組みの中で目的論的解釈に置き換えることは、文理解釈の「潜脱」というべきであろう。 大阪事件最判と札幌事件東京地判とでは、このように、判断枠組みの「起点」における法解釈の方法を異にすることから、論理的には、法解釈によって定立される規範やそこから導き出される要件事実を異にすることになり、結局のところ、「終点」における重要な間接事実をも異にすることになる、ということができよう。 要するに、札幌事件東京地判は、大阪事件最判が示した馬券払戻金の所得区分に関する判断枠組みについて「起点」を「潜脱」し、「終点」を「すり替え」たものということができよう。   Ⅳ おわりに 以上の検討を基にして両判決の判断枠組みを整理し表にまとめると、次のようになろう。 札幌事件東京地判は、大阪事件最判が馬券払戻金の所得区分に関して示した判断枠組みについて、表現上は、「起点」を「文理に照らし」から「当該行為ないし所得の性質を踏まえた上で」に置き換えるだけで、他の部分はそのまま踏襲しているが、実際には「終点」をも置き換えて事実認定を行っていることからすると、前述のとおり、同判決における「起点」の置換えは「潜脱」、「終点」の置換えは「すり替え」というべきであり、したがって、判断プロセス全体をみれば、同判決は大阪事件最判との関係では「面従腹背判決」(面=「終点」、腹=「起点」)というべきである。 札幌事件東京地判は大阪事件最判の判断枠組みに「面従」しているにすぎず真に従っているわけではなく、現に、大阪事件最判が判断枠組みの「終点」で示した重要な間接事実を「すり替え」ているのであるから、札幌事件東京地判は大阪事件最判の判断枠組みを実質的には全面的に否定したといっても過言ではなかろう。この点に、札幌事件東京地判における目的論的解釈の過形成が認められるのである。これは、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成というべきものである。 札幌事件東京地判における目的論的解釈の過形成は、同事件の控訴審・東京高判平成28年4月21日判時2319号10頁及び上告審・最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁により否定・是正され、大阪事件最判の判断枠組みが「修復」され判例として確立されたといえよう。 なお、札幌事件最判は、前記の判断枠組みを判示した後、続けてこれに本件を当てはめて次のとおり判示した(下線筆者)。 この当てはめに関する判断からすれば、前記Ⅱで述べたように、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」という要件については、所得を生み出す行為が㋐「継続的行為」であることと㋑「客観的にみて営利を目的とする行為」であることが要件事実(主要事実)であり、他方、①「行為の期間、回数、頻度その他の態様」(行為の数量的態様)が㋐を推認させる間接事実であり、②「利益発生の規模、期間その他の状況」(行為の客観的利益状況)が㋑を推認させる間接事実である、と解されるところである。 (了)

#No. 322(掲載号)
#谷口 勢津夫
2019/06/13

「教育資金」及び「結婚・子育て資金」の一括贈与非課税措置に係る平成31年度税制改正のポイント【前編】

「教育資金」及び「結婚・子育て資金」の一括贈与非課税措置に係る 平成31年度税制改正のポイント 【前編】   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕   Ⅰ 教育資金の一括贈与の非課税措置 1 はじめに 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置(以下、教育資金の一括贈与の非課税措置)は平成25年度税制改正において、平成31年3月31日までの時限措置として創設された。同制度は、平成31年度税制改正において一部見直しのうえ、適用期限が2年延長された。 2 創設の背景 家計資産の大部分(平成25年において約60%)を60代以上の世代が保有している状況においては、この家計資産を若年世代へ移転させることが経済を活性化させるうえで重要である。 平成25年度税制改正において、直系尊属からの贈与における税率引下げや相続時精算課税の要件が緩和され、世代間で贈与を促す仕組みが講じられた。しかし、単に贈与を促すだけでは、預金口座の名義が変わるだけで、使用されなければ経済は活性化しない。 そこで、贈与された資金が有効に使われることまでを視野に入れた税制措置を設けることが有効と考えられたことから、教育資金の一括贈与の非課税措置が創設された。 (※) 以上、財務省「平成25年税制改正の解説」P642より。 3 平成31年度税制改正の背景 近年、制度創設当初に比べ新規の適用件数が減少しており、また相続税回避のために相続発生直前に非課税措置を使った教育資金の一括贈与を実行する事例があるなど、見直しが必要との声があった。そこで、格差の固定化につながらないよう必要な措置を講じた上で延長されることになった。 4 制度の概要 (1) 適用要件 平成25年4月1日から令和3年3月31日までの間に、30歳未満の個人(所得1,000万円以下の者に限る)がその直系尊属(祖父母や父母)から次の贈与を受けた場合、1,500万円の金額までは非課税となる(措法70の2の2①)。 この非課税措置は、この規定の適用を受けようとする受贈者が、「教育資金非課税申告書」を取扱金融機関の営業所を通じて、信託される日、預金等を預け入れる日又は有価証券を購入する日までに、当該受贈者の納税地の所轄税務署長に提出した場合に限り適用される。 (2) 教育資金の範囲 (※) 費用の内容や取扱いなどの詳細は、下記文部科学省のホームページで確認することができる。 文部科学省ホームページ「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」 (3) 贈与者の死亡・教育資金管理契約の終了 ① 贈与者死亡の場合 教育資金の一括贈与の非課税措置を受けてから3年以内に贈与者が死亡した場合は、その時点で残っている教育資金残額に対して、受贈者が相続により取得したとみなされることになる(措法70の2の2⑩⑪)。その結果、相続税の申告が必要になる可能性がある。 ② 教育資金管理契約の終了 教育資金管理契約は、次の3つの事由うち、いずれか早い日に終了する(措法70の2の2⑩)。残額がある場合は贈与税が課税されることになる。 5 改正点の内容 (1) 旧制度からの主な改正点 (2) 受贈者の所得制限 格差拡大の防止の観点から、旧制度にはなかった所得制限が設けられ、教育資金の一括贈与を受ける前年の受贈者の合計所得金額(所法2①三十)が1,000万円を超える場合は、非課税措置が適用できないことになった(措法70の2の2①)。 (3) 教育資金の範囲 改正後の新制度では、教育資金の範囲から学校等以外の者に支払われる金銭で受贈者が23歳に達した日の翌日以降に支払われるもののうち、以下のものを除外することになった(ただし、教育訓練給付金の支給対象となる費用は除外しない。措令43の4の3⑦⑧)。 (※1) 令和元年7月1日以降の支払いから適用される。 (※2) なお、教育資金の細かな範囲については文部科学省の告示で示されるが、本稿執筆現在においては、本改正を受けた改正告示は公布されていない(改正前の告示(第68号)は[こちら])。 (了)

#No. 322(掲載号)
#日野 有裕
2019/06/13

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第6回】「資産と債務をセットにした信託契約」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第6回】 「資産と債務をセットにした信託契約」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) マネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一   相談内容 私Aは、個人事業主として「建物及び土地(以下「賃貸不動産」とする)」の賃貸事業をしていますが、80歳を迎え、最近は物忘れがひどくなってきており、賃貸不動産の管理や銀行との融資条件の交渉等が難しくなっていると感じています。なお、賃貸不動産は銀行借入で取得したものです。 私としては、できれば長男Bに賃貸事業を承継してほしいと考えています。ただし、贈与による事業承継をする場合、多額の贈与税が生じ、現実的ではありません。 この場合、どのようにするのが良いか悩んでいます。 〈具体的な信託契約の内容〉 〈信託のイメージ図〉 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ■ □ ■ □  解 説  □ ■ □ ■ [1] 信託による効果 Aに意思能力がなくなった場合、Aが行う法律行為である賃貸契約及び不動産売買契約等についての契約が無効になるリスクがあります。 Aに意思能力がなくなる前に上記内容の「信託契約」を締結することで、財産の形式上の所有権はAから受託者Bに移り、不動産の所有権移転登記を行うため、賃貸契約及び不動産売買契約等は受託者Bが単独で行うことができるようになります。   [2] 信託財産の課税上の取扱い 信託財産の課税上の取扱いでは、受益者課税の原則が取られており、信託の受益者が、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなされ、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして所得税及び法人税を課税することになります(所法13、法法12)(※3)。したがって、信託設定時にAを受益者と設定すれば実質的な経済価値は移転しないため、Bに贈与課税がされることはありません。また、上述の通り所得税はAに課税され、Bに課税されることはありません。 (※3) 所得税法上、信託から生じる所得が損失である場合には、なかったものとされる点に留意が必要です。 これは、信託財産に属する資産及び負債並びに信託財産に帰せられる収益及び費用は、形式的には受託者に帰属するものの、信託は基本的には受託者が受益者のために資産の管理及び処分その他の行為を行う仕組み、換言すれば財産の所有及び管理とその収益とを分離するためのものであり、実質的な利益及び不利益を受益者に享受せしめようとする趣旨であるといわれています(武田昌輔 編著『DHC コンメンタール 法人税法』(第一法規、2019年)953の2ページ)。   [3] 銀行借入(消極財産)の信託 信託法においては、信託の対象となる財産は積極財産に限られ、消極財産は信託財産に含まれないとの立場が取られています(道垣内弘人 編著『条解 信託法』(弘文堂、2017年)100ページ)。 しかし、信託法第21条1項3号では、信託設定時において、信託行為の定めにより、委託者の負担する債務を信託財産責任負担債務とできる旨が明らかにされています。これにより、委託者の属する積極財産と消極財産の集合体である事業について、信託行為の定めによって、積極財産の信託と合わせて債務引受をすることによって、実質的に当該事業を信託したのと同様の状態を作り出すことが可能となったとされています(前掲書101ページ)。   [4] 免責的債務引受による効果 AからBへ免責的債務引受が可能であれば(※4)、Aが意思能力を喪失したときにも、Bは金銭消費貸借契約に定めた融資条件(融資期間の変更や金利の改定等)変更の契約を銀行と締結することが可能です。 (※4) 債権者である銀行の同意が必要です。 信託法上は、債務者名義に関係なく、「信託契約」に定めることにより信託財産責任負担債務となりますが(信託法21①三)、受託者が単独で銀行と融資条件変更の契約を締結するためには免責的債務引受が必要です。   [5] 免責的債務引受を行った信託財産責任負担債務の課税上の取扱い 「信託契約」で定めた信託財産責任負担債務の債務者を免責的債務引受によりBへ変更しても、前債務者Aは受託者から債務免除を受けたわけではありません(相法8)。信託財産責任負担債務が信託財産をもって履行する債務である限りにおいては、税務上は実質的に受益者に帰属するものと解されます。したがって、A・B間での贈与課税は生じません。 また、委託者Aの相続発生による信託終了の場合、帰属権利者であるBは当該信託の残余財産を受益者Aから遺贈により取得したとみなすことになります(相法9の2④)。相続財産から債務控除できる被相続人の債務は、相続又は遺贈により財産を取得した相続人(又は包括受遺者)が負担するもので、確実と認められるものに限られます(相法13、14)。 したがって、帰属権利者である相続人Bが当該信託に属した信託財産責任負担債務である本件銀行借入を確実に負担する限りにおいては、当該債務相続について債務控除が適用されると考えます。   [6] 結論 本件の場合、A・B間で上記の「信託契約」を締結することにより、Bに不動産賃貸事業を任せることができます。これによりAの意思能力に問題が生じたとしてもBが事業の法律行為を行うことになり、また「信託契約」締結を基因とする追加的な課税負担もなく、円滑な事業承継が可能となります。 なお、認知症対策として「信託契約」を締結し事業継続はできたとしても、相続財産の承継は親族間の問題として引き続き残りますので、遺言を「信託契約」と同時に締結することをお勧めします。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)

#No. 322(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2019/06/13
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