税務争訟に必要な 法曹マインドと裁判の常識 【第9回】 「裁判手続の類型からみた税務訴訟の位置付け」 弁護士 下尾 裕 【第3回】~【第8回】までは、税務訴訟における裁判所の価値判断や傾向について説明してきたが、今回は、税務訴訟の特徴等をより深く理解していただく意味で、読者の皆様がしばしば目にする他の裁判手続等の概要について解説した上、改めて税務訴訟の位置付け等について検討する。 1 裁判所の関与する手続の種類 裁判手続のうち、代表的なものとしては、民事事件、家事事件、行政事件及び刑事事件があり、これら事件分類の差異を大まかに整理すると、以下のとおりとなる。 (※1) 死者を相手方とする親族関係の確認訴訟等、親族関係の訴訟の一部では検察官が関与する場合がある。 (※2) 裁判手続外で事実上和解するケースがある。 2 民事事件の特徴 民事事件は、やや乱暴に整理すると、当事者(原則として、私人)間での財産権等に関連する権利義務に関する紛争を取り扱うものである。 「裁判手続における当事者の主張立証の在り方」という観点で各事件類型相互を比較した場合、最も特徴的であるのは民事事件である。 すなわち、民事事件においては、民法の大原則の1つである私的自治(一定の例外を除き、権利義務関係を当事者の意思により決めることができるという考え方)を前提に、何を裁判所に判断してもらうか、何を主張し、どのような証拠を出すかがすべて当事者に委ねられている。 それゆえ、裁判所は、当事者が民事訴訟に提出した主張立証の範囲でのみ判断を行うことになり、自らに有利な法律上の効果を主張しようとする者は、自ら主張立証を尽くす必要が生じる。 このあたりの特徴を理解するため、以下のような設例を検討してみたい。 この設例では、結論から言えば、①裁判所は、売買代金の請求を認めることはできない(貸金請求を認める必要がある)、②Yが自ら、Xがお金を貸したことを裏付ける自らに不利な証拠を出さない限り、Xの請求は認められないということになる。 一般に、裁判所は、真実を判断する役割があるかのような印象がある読者も多いと思われるが、特に民事訴訟では、仮に客観的な真実に反していても、請求の直接の根拠となる事実について当事者が争っていなければ、そのまま判決の基礎としなければならず、必ずしも真実を追い求めるわけではないことにご留意いただきたい。 3 家事事件の特徴 家事事件についても、基本的には民事事件と同様に、当事者間(私人)の紛争を解決する手続であるが、親族・相続関係に関する紛争を対象とする(それゆえ、法人は原則として当事者にはならない)点において差異がある。 親族・相続関係については、財産権の紛争とは異なり、例えば、扶養義務の存否等に繋がる親子関係の判断等、公益的な判断が含まれる場合があったり、また、成年後見制度適用の場面等、裁判所に後見的な役割が期待される場面もある。 これを踏まえ、家事事件においては、裁判所が当事者の主張立証の範囲等に必ずしも拘束されるわけではなく、また、時には自ら必要な証拠を調査する(職権で証拠調べをする)ことも可能とされている。 ただ、現実問題としては、当事者は自らに有利な事実関係を積極的に明らかにしなければ裁判所には理解してもらえないことから、事実上、その主張立証を行う必要が生じることになる。 4 行政事件・刑事事件の特徴 行政事件・刑事事件は、当事者間の紛争を解決する手段である民事事件・家事事件とは異なり、国が行政処分又は刑罰等により国民の権利・利益を制限することの可否を判断するための裁判手続である。 こうした構造上、行政処分又は刑事処分を基礎づける事実関係等の立証責任は、原則として国民の権利・利益を制限する行政庁側が負担することになる。 その中でも特に刑事事件については、国民の受ける不利益が非常に大きいことから、検察官には事実関係の存否について高度な立証が要求される上に、提出できる証拠に関するルールも非常に厳格である。主なところでは、刑事事件においては、当事者の言い分を書面にまとめた書類や供述録取書のようなものは「伝聞証拠」(≒又聞きの証拠)と呼ばれ、相手方当事者が同意するか又は刑事訴訟法に定める一定のルールに適合する場合のみ証拠として採用されるルールとなっている。 一方、行政訴訟においては、主張立証については刑事事件ほど厳格なルールはなく、裁判所が職権で証拠調べを行うことができるほかは、基本的には民事訴訟と同じルールで審理が進められる。 5 行政事件としての税務訴訟 では、税務訴訟は上記4類型のうち、どの類型に分類されるのであろうか。 既に読者の皆様もお分かりかと思うが、結論から言えば、税務訴訟は、民事事件に分類される国家賠償請求訴訟等を除き、行政事件に分類される。既に【第3回】で述べたとおり、課税処分取消訴訟を例にとれば、裁判所の審判対象は「課税処分の違法性一般」であり、租税法を判断の前提として、行政事件訴訟法の特別法である国税通則法の定める手続に則って審理がなされることになる。 税務訴訟が行政訴訟であることを踏まえた特徴については、【第6回】において「裁判所の判断過程の特徴」として整理した箇所と一部重なるが、整理すると以下のとおりである。 (1) 主張立証責任が主に課税庁側にある【特徴①】 この点は、既に上記「4」の項で述べたとおり、課税処分は国民に不利益を科す処分であることから、課税処分の根拠となる事実関係については、基本的に課税庁側に主張立証責任があると考えられている。 ただ、現実問題として、納税者が課税処分を争う場面では、課税庁が納税者とは異なる事実関係を前提に課税を行う場合が多く、この場合、納税者側は自らの認識する事実関係を積極的に主張していく必要に迫られる場面がほとんどである。 その意味では、ここで課税庁側に課される主張立証責任は、課税庁側が十分な主張立証を出来なければ、納税者に有利に判断されるという意味であって、納税者が積極的に事実関係の説明等をしなくてよいという意味ではないことに留意されたい。 (2) 裁判所は当事者の主張及び提出証拠に必ずしも拘束されない【特徴②】 税務訴訟を含む行政訴訟では、裁判所は、原則として当事者の主張立証の範囲で判断を行うが、民事訴訟と異なり、自らの判断で証拠調べを行うことは認められている。 具体的には、裁判所は、税務訴訟においては当事者の主張した事実を前提に判断を行い、請求の直接の根拠となる事実(課税要件を基礎づける事実)について当事者に争いがない場合には、そのまま判断の基礎とする必要がある。 一方、証拠については、必ずしも当事者の提出したものだけで判断する必要はなく、裁判所の判断で証拠を取り調べることも可能とされている。ただ、裁判所は、自ら判決に資する証拠の存否を調査することは困難であることもあり、現実の税務訴訟の現場では当事者に証拠の提出を促す程度の対応に留まっている。 以上を踏まえると、税務訴訟においては、裁判所が独自に証拠の調査等を行うことは期待できないということを念頭に置いて、納税者側において自らに有利な事実又は証拠を積極的に主張立証していく必要がある。 (3) 原則として和解ができない【特徴③】 国税通則法(さらには同法が準用する行政事件手続法)には、民事訴訟法等とは異なり裁判上の和解の制度が設けられておらず、基本的には判決によって結論を下す建付けとなっている。 ただし、実際には、課税庁側が、裁判所からの勧告等を踏まえ、裁判外で課税処分の全部又は一部を取り消すことにより、裁判外で和解したのと同様の処理を行ったケースが存在する模様であり、判決以外での解決が一切存在しないわけではない。 * * * 次回以降は、これまでの総決算として、読者の皆様が税務訴訟を見据えるための留意点として、いつどのような場面で“法曹マインド”を活用していくかということについて、整理していきたい。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第17回】 「退職者による情報の持出しに対する防止策」 弁護士 影島 広泰 -Question- 退職する従業員が転職先に自社の情報を持ち出さないようにするためには、どこに注意して対策を講じればよいでしょうか。 -Answer- 退職者の情報の持出しについては、前回述べた従業員向けの対策に加えて、速やかなアクセス権の制限、ログの集中的な確認、秘密保持契約や競業避止義務契約の締結などが重要になります。 顧客名簿や製造のノウハウなどが競合他社に持ち出される事例は、退職者によるものであることが多い。今後何年もその会社で働こうと思っている者は、競合他社に自社の秘密情報を漏らしたりしないだろう。「退職する際に顧客名簿を持ち出して転職先で営業攻勢をかける」というのが、秘密情報漏えいの典型例である。そのため、秘密情報を保護するためには、退職する従業員から自社の情報を守るための対策が重要ということになる。 なお、情報漏えいに気をつけなければならない退職者には、定年退職者だけでなく、契約期間や実習期間が満了した派遣労働者や実習生など、自社内での勤務を終了する者が広く含まれるので、注意したい。 1 秘密情報に「近寄りにくくする」ための対策(接近の制御) 前回述べたとおり、経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」(以下「秘密情報ハンドブック」という)によれば、自社の秘密情報を保護するための5つの対策の1つ目は、「接近の制御」である。 退職者に対して必要となる「接近の制御」は、以下であるとされている(「秘密情報ハンドブック」p.56)。 適切なタイミングで、退職者のアクセス権を制限することは重要である。なぜなら情報にアクセスできなければ、盗むこともできないからである。例えば、退職者のシステムのIDやアクセス権を削除する、入館証やIDカード等を回収し、そのIDカード等では入館できなくなっていることを確認するといった対応を行う。 なお、退職者でも、定年退職者なのか中途退職なのかで現実的なリスクが変わってくる。定年退職の場合はしかるべきタイミングでアクセス権を制限すればよいが、中途退職の場合は、可能であれば申出を受けた後速やかにアクセス権を制限したほうがよい(特に重要な製造ノウハウや顧客名簿等について)。 この点、中小企業の中には、PCのIDとパスワードを複数の従業員で共有しており、そのIDとパスワードを付箋に書いて貼ってあり、退職者が出てもIDとパスワードが変更されていないといった運用になっているところも少なくない。 このような運用では、退職者から情報を守ることは難しくなるし、不正競争防止法の営業秘密として保護されるために必要な「秘密管理性」が認められない危険もあるから、避けたほうがよい。加えて人事異動・退職ごとのパスワード変更やメーラーの設定変更による私用メールへの転送制限、物理的にUSBやスマートフォンを接続できないようにすることなどを併用して行いたい。 2 秘密情報の「持出しを困難にする」ための対策(持出し困難化) 「持出し困難化」については、前回述べた従業員向けの対策(a~j)が、退職者向けにも有効である。 それに加えて、退職者特有の対応として、以下が考えられるとされている(「秘密情報ハンドブック」p.57)。 すなわち、会社貸与の記録媒体やPCやスマホなどの機器を返却させる、ということである。タイミングとしては、定年退職者であればしかるべきタイミングで行えばよいが、中途退職者については退職の申出を受けてから速やかに行ったほうがよい。場合によっては、在職中に使用していたPC等は回収し、実際に退職するまでは初期化された別のPCを新たに貸与して残務に従事させることも考えられる。 なお、退職した従業員等が設定したパスワードが分からずにファイルが開けない、という経験をした方も多いであろう。そうならないように記録媒体や機器の返却時には、内部に保管されたデータのパスワードも退職者に提出させる必要があることに注意したい。 3 漏えいが「見つかりやすい」環境づくりのための対策(視認性の確保) 「視認性の確保」についても、前回述べた従業員向けの対策(a~p)が、退職者向けにも有効である。 それに加えて、退職者特有の対応として、以下が考えられるとされている(「秘密情報ハンドブック」p.58)。 ここで特に重要なのは、「退職をきっかけとした対策の厳格化とその旨の周知」である。具体的には、PCやイントラ等のログについて、退職の申出があった後だけでなく、以前のものも含めて、集中的に確認する対象にする。 上記1で述べたとおり、本来であれば、退職の意向を示した時点で、速やかにアクセス権を制限するのが理想である。もっとも、中小企業の中には、そのような対応は、実務的にも人間関係的にも難しいケースも少なくないであろう。そのようなケースでも、せめて、退職者のログについては集中的な確認を行うことにより、情報漏えいが行われている場合にそれに気づくことができ、漏えいを「未遂」で済ませられる可能性があるからである。 また、退職者に対して、ログについては集中的な確認を行うことをあらかじめアナウンスしておくことにより、情報の持出しに対する強い抑止力が働くことにもなる。 4 「秘密情報と思わなかった」という事態を招かないための対策(秘密情報に対する認識向上) 「秘密情報に対する認識向上」のためにも、退職者から秘密保持契約書(誓約書)等を取得することも重要である。秘密情報ハンドブック(p.60)では、対策として以下が挙げられている。 なお、退職後の「競業避止義務契約の締結」については、それが有効であると認められるためには厳しい要件がある(詳細は、秘密情報ハンドブックの「参考資料5」参照)。 しかし、例えば競合他社に転職した者が、秘密保持契約書に違反して持ち出した顧客名簿を使用しているかどうかを立証することは難しいが、競業避止義務違反であれば、競合他社に転職して職務に従事していることを立証するだけで義務違反を立証できる。特に重要な情報にアクセスできる経営層などとの間では、退職後の競業避止義務を定めた契約書を締結しておくことは、会社にとって大きな武器となる。 5 社員のやる気を高めるための対策(信頼関係の維持・向上等) その他、「信頼関係の維持・向上」のため、以下の対策があるとされている(「秘密情報ハンドブック」p.62)。 「退職金の減額などの社内処分の実施」は、具体的には、競業避止義務契約に反して競合他社に再就職する等、退職後において情報漏えいを行う可能性が高いと認められる場合に、退職金の減額処分や返還請求などが実施されることをあらかじめ社内に知らせておき、それを現実に実施することで、退職者の漏えいに対する危機意識を高めるという対策である。 * * * 以上のように会社の情報は、退職する従業員から漏洩するケースが多いことを認識し、本稿を参考に重点的に対策を講じていきたい。 (了)
老コンサルタントが出会った 『問題の多い相続』のお話 【8回】 「その相続対策、早計ではありませんか?」 ~相続増税と時代の流れで、変わる“優先順位”~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔あらためて「常識とされる相続対策」について考えてみた〕 高齢化の社会経済情勢や国民の意識の変化を踏まえた改正相続法(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)が、7月から本格的に施行されました(一部未施行)。 また、既に平成27年1月1日以降の相続開始分からは相続税の基礎控除が従前の6割まで引き下げられ、これにより相続税の課税割合はそれ以前の4%から8%へと大幅に増加しています。 これら相続に関する法律の改正は、我々(の人生)に直接降りかかってくるものです。 この連載の【第1回】でも取り上げましたが、法改正や時代の流れ、人の意識の変化を踏まえた相続税の節税対策の是非について、少し別の角度から考察してみたいと思います。 〔世間一般の節税策の現状・・・〕 冒頭述べた相続税の税負担増になってから、特に富裕者層をはじめとして、節税対策により高い関心を示す情勢となってまいりました。 ただし、未だ大半の人たちは、 「自分だけはまだまだ死なない!」 「税金がかかるほど財産がない!」 と、極力(無理やり?)意識の外に置いている状態ではないでしょうか。 本来、節税策は、生前から予測を立て計画しておかねばなりません。 すなわち、生前贈与(学資金・生活資金・夫婦間贈与等)や不動産の活用による相続税に係る評価減策等です。また相続開始後においても、二次相続対策を加味した遺産分割を忘れずにしなければなりません。 しかしながら、富裕者層を除く前述の大半の人たちは、いざとなればとりあえず配偶者控除を活用しさえすれば、相続税を納めなくても良いと思っているのではないでしょうか。 考えてみれば、相続関係というのは常に変化するもので、その節税策にも必ず良い点と悪い点(悪くなる点)があり、その結果、リスクの度合いも変わってくるものです。 簡単な事例をご紹介しましょう。 〔早計な節税対策のほんの一例〕 〔老コンサルタントはこう考える(ただし独断と偏見)〕 相続増税だけでなく、少子高齢化や家族のあり方の変化など見聞きする中で、私の相続対策に対する考え方も変わってきました。 例えば、これまで私が行ってきた、資産家のクライアントに対する遺産分割の優先順位は、次の通りでした。 (当然ながら各家庭の事情により優先順位が変わります。あくまで一例としていただき、節税策ありきでは考えないようにしてください。) 今までの私の遺産分割の考え方 ◎第1順位「まず配偶者に相続させる」 夫の財産を妻に相続させることは、次のような理由で有効と思います。 ◎第2順位「家を引き継ぐものに多く相続させる」 特に昔から代々続いているお家にとっては、「誰が本家として先祖関係の祭祀のお世話をしていくのか」といった問題が生じます。また事業家の場合は、その事業を承継する問題も絡んでくれば、生前から後継者問題等の準備をしておく必要があります。 そうなりますと、その柱となる世話役には、それなりの寄与分割合として多めに認めても良いのではないでしょうか。 しかしながら、これも時代とともに「家制度」を引き継ぐウエイトが低くなってきたことは間違いありません。 ◎第3順位「二次相続も考えて節税策を講じる」 第1順位で述べた「配偶者の税額軽減」を活用すれば、確かに今回の相続(一次相続)における相続税額は大幅に軽減されます。しかし、配偶者に多額の遺産を相続させた場合、その配偶者の死亡時における相続時点(二次相続)では、より一層の税負担を強いられることは必至です。 したがって次回の相続を想定し、一次相続と二次相続の合計相続税額を考えることが大切なのです。 ◎第4順位「法定相続割合で遺産を分ける」 第1順位から第3順位までの検討がなされた後、相続人間で話し合いがつかない場合は、法定相続割合で遺産分割されれば、ある意味においてそれが公平な分割なのかもしれません。 しかしながら、当事者たちに伝えておくことがあります。それは母親(又は父親)の生活が万一困窮するような事態になった折は、その面倒は子供たちが等分にみる義務があるということです。 要は、権利の裏には必ず義務がついてくるものなのです。 これからの私の遺産分割の考え方 上記のような今までの順位付けの考え方が、時代や社会の変化、私自身の老齢化もあいまって、下記のような順位に変わってきました(あくまで私見です)。 ◎第1順位「二次相続も考えて節税策を講じる」 一番オーソドックスな考え方だと思います。税制改正による相続増税も順位上げの要因です。 ◎第2順位「法定相続割合で遺産を分ける」 相続人間の個々人の権利意識の主張が、より一層高まってきたように感じます。 ◎第3順位「まず配偶者に相続させる」 法律的に、配偶者居住権等をはじめ、配偶者への配慮が講じられるようになりました。 ◎第4順位「家を引き継ぐものに多く相続させる」 少子化や独居老人増の社会変化によって、自宅保有の欲求が減少し、空き家対策を講じなければならないような状況です。また、祖先の供養についても散骨・樹木葬等で多様化され、「家制度」の崩壊が進んでいます。 〔ならばこの老コンサルタントの場合は?(自分勝手な独り言)〕 上記のような考え方の変化を受けて、例えば私のような財産極小の老コンサルタントの相続対策を考えますと、結論から言えば、①二次相続も考えて・・・と、③まず配偶者に・・・の併用になるでしょうか。 ただし、節税のための生前贈与はしません。理由は次の2つのリスクがあると考えるためです。 1つは私亡き後、昨今頻発する自然災害で家が倒壊し新築しなければならない場合、妻が相続した遺産を活用することで、二次相続対策にもなります。もちろん「配偶者居住権」等の検討も不要です。 もう1つは、妻が先立ち、私が残された場合です。現在息子夫婦、孫たちと同居していますが、私は「老人ホーム」へ入居する予定です。なぜなら一人残された私が認知症になって、万一亡き妻と息子の嫁を間違えたら大変なことになります(冗談です・・・)。いずれにせよ、ホーム入居費用だけは確保することが必須です。 (了)
《速報解説》 監査基準改訂を受け公益法人等の監査実務指針が改正される ~「独立監査人の監査報告書」の文例を見直し、医療法人など他の改正実務指針等も順次公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年7月18日付(ホームページ掲載日は7月30日)、日本公認会計士協会は、「非営利法人委員会実務指針第34号「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の財務諸表に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」の改正について」を公表した。公開草案に対するコメント対応も公表されている。 これにより、2019年5月10日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年7月5日、企業会計審議会)及び関連する監査基準委員会報告書の改正を受けたものである。 なお、「医療法人の計算書類に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第39号)の改正など、その他にも同様に、監査基準の改訂に関連する改正がなされているものがあるのでご留意いただきたい。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は、「独立監査人の監査報告書」の文例の改正である。 Ⅲ 適用時期等 2020年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 (了)
《速報解説》 公認会計士・監査審査会、 令和元事務年度版の「監査事務所検査結果事例集」を公表 ~監査法人GC等を踏まえた業務管理態勢の問題点に係る事例を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和元年7月30日、公認会計士・監査審査会は「監査事務所検査結果事例集(令和元事務年度版)」を公表した。 今回の事例集の特徴は次のとおりである。 「令和元年版 モニタリングレポート」も公表されており、監査法人の状況などについて、会計専門家ではない一般の利用者にもわかりやすく説明がなされている。 事例集は、公認会計士・監査審査会が行う監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたものであり、基本的に、監査事務所に関する内容である。 本稿では、事例集に記載された事項のうち、一般事業会社における会計処理等においても参考になると考えられるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 取締役、監査役、投資者等による活用を期待 事例集は、上場会社等の取締役・監査役や投資者等に対する参考情報の提示という観点から、最近の不正会計事案に関するものも含め、審査会検査で確認された指摘事例を記載し、また、監査事務所の改善取組において前向きな取組例も取り入れているので、会計監査人の適切な評価のために、是非参考にしていただきたいと考えているとのことである。 Ⅲ 個別業務における「問題となった事例」 事例集は、次のような事例について述べている。 会計上の見積りについては、継続して不備が頻出していると述べている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「非営利組織モデル会計基準」を公表 ~法人形態間の財務報告の相互整合性向上を図る~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年7月18日付(ホームページ掲載日7月31日)、日本公認会計士協会は、非営利組織会計検討会による報告「非営利組織における財務報告の検討~財務報告の基礎概念・モデル会計基準の提案~」を公表した。これにより、2019年4月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、非営利組織における財務報告の在り方に関する「財務報告の基礎概念」と「モデル会計基準」について検討した報告書である。 公開草案に対するコメントの概要及び対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 非営利組織における財務報告の共通性を高めていく必要性が高まっているとの認識のもとで、非営利組織における財務報告の基礎概念及び非営利組織モデル会計基準(以下「モデル会計基準」という)を提案している。 次の附属資料がある。 公開草案の公表時に、公開草案に対する質問項目が記載されていたことから、各質問項目についてコメント対応が記載されている。公開草案に賛同する意見と否定的な意見が寄せられている。 1 モデル会計基準の位置付け モデル会計基準は、非営利組織に該当する法人に適用される会計基準のモデルとなる枠組みとして位置付けられ、非営利組織に該当する法人に適用される複数の会計基準間の相互整合性を高め、財務報告の目的を達成することを可能とする。 2 企業会計の基準との関係 財務報告の基礎概念、認識及び測定に関する個別論点の検討に当たっては、非営利組織の財務報告目的及び組織特性の反映を基軸としつつ、企業会計との整合性を考慮している。 3 対象組織 モデル会計基準は、民間非営利組織を対象としているので、営利企業及び公共部門に属する経済主体(政府、自治体、独立行政法人その他の政府機関等)は対象組織に含まれない。 また、組織の大小にかかわらず、すべての非営利組織に共通して適用すべき会計の在り方を提示しているものである。 4 財務報告の基礎概念 非営利組織の組織特性、財務報告の目的、有用な財務情報の質的特性、財務諸表の構成要素、認識と測定といった財務報告の基礎となる概念を検討し、「非営利組織における財務報告の基礎概念」として取りまとめている。 資源提供者及び債権者を非営利組織の財務報告における主たる情報利用者と考えている。 非営利組織の財務報告における財務諸表の構成要素である資産、負債、純資産、収益、費用について整理している。そのほか、認識及び測定についても整理している。 5 モデル会計基準 モデル会計基準は、財務報告の基礎概念を受けて、非営利組織において財務諸表を作成するためのルールを定めたものであり、非営利組織の各現行制度、その下に運用されている各会計基準、実務上の取扱いを踏まえて整理し、以下について記載している。 (了)
《速報解説》 監査役協会、昨年7月の前編に続き 「『新オレンジ本』から読み解く監査役スタッフ業務の再整理(後編)」を公表 ~「期末業務」及び「監査役会の運営に関する事項」について検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年7月25日付(ホームページ掲載日は7月30日)で、日本監査役協会の本部監査役スタッフ研究会は、「『新オレンジ本』から読み解く監査役スタッフ業務の再整理(後編)」を公表した。 これは、2018年7月26日付(ホームページ掲載日は7月31日)の「『新オレンジ本』から読み解く監査役スタッフ業務の再整理(前編)」に続くものであり、「監査役監査と監査役スタッフの業務」(通称「新オレンジ本」)を精読し、改めてスタッフ業務を見つめ直すことを通じて、時代の変化に対応し継続的にスタッフ業務の品質を維持・向上していけるよう、スタッフ業務の再整理に取り組んだものである。 表紙を含めて67ページあるので、以下では主な内容について解説することとする。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 期末業務 1 期末監査スケジュール策定 期末監査スケジュール策定の際の具体的な工夫や、事業報告等の監査などの多くの項目について、具体例が記載されている。 例えば、事業年度末日から株主総会終了後までの約3ヶ月間を期末監査期間と対応させて、取締役会や監査役会の開催日、事業報告や計算関係書類等の受領予定日等を記載したスケジュール表を策定している会社があるとのことである(1ページ)。 また、次のような工夫をしている会社がある(2ページ)。 2 株主総会想定問答の作成 次のような具体的な事例などが記載されている(43ページ)。 Ⅲ 監査役会の運営に関する事項 1 監査役会における取締役等からの報告聴取 次のような具体的な事例などが記載されている(49ページ)。 2 会計監査人の監査報酬等の同意 次のような具体的な事例などが記載されている(53~54ページ)。 (了)
2019年8月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.329を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.79- 「軽減税率、KFCの値付けに賛意」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 参議院選挙が終わり、いよいよ消費税軽減税率の導入が間近に迫ってきた。混乱が予想されるのは、テイクアウトとイートインの区別だが、KFCは、イートイン(レストランサービスとして標準税率の10%)とテイクアウト(食品として軽減税率の8%)を税込み価格同額にして、消費者の混乱を避けるという方針を打ち出した。 標準税率の適用されるイートインと軽減税率のテイクアウトを税込みで別価格にすると、「テイクアウト」と言って購入し、その場で食べるお客が出てきて、店側もどう対応すべきか煩わしいということが理由のようだ。 そうは言っても、消費者一人一人にテイクアウトかイートインかを尋ね、正確な納税のための区分経理を行う必要はある。 これは、ドイツのマクドナルドで実際にとられている方式だ。重要なポイントは、店側に商品の値付けの自由度があるということである。増税分の転嫁は必要だが、一方で顧客や従業員が混乱しないようにすることも、店側にとっては重要である。双方を比較考量したうえでの決断だろう。 * * * 消費税額は、売上に係る消費税額から仕入に係る消費税額を差し引いて納税すればよく、個別の品目にどれだけ消費税額を上乗せするかどうかは店側の自由である。消費税は売上全体として計算・納税されるので、価格転嫁は全体として出来ていればよいわけだ。 これまでわが国では、一斉に(前日に徹夜して)すべての商品を消費増税分だけ値上げする一斉値上方式が多かった。これが、消費増税前の駆け込みや反動減を招き、結果として経済の混乱を招いてきた。 今回のKFCの決断に対して、わが国のマスコミが、「KFCは過剰な転嫁をしている」「益税ではないか」といった、見当違いのコメント記事を書かないことを願っている。 政府も、消費税の正確な理解が進むよう、広報をしっかり行う必要がある。 (了)
《相続専門税理士 木下勇人が教える》 一歩先行く資産税周辺知識と税理士業務の活用法 【第4回】 「相続・事業承継を複眼的に捉える視点」 公認会計士・税理士 木下 勇人 今月18日(日)に、税理士を志す方や税理士としての経験がまだ浅い方に向けて、「相続」及び「事業承継」に関するセミナー講師として登壇する機会をいただいた。 共にこれまで語りつくされてきたテーマではあるが、この機会に本連載の「特別編」として、筆者が提唱する「複眼的視点」によって今後の相続・事業承継実務に携わる上で必須となる事項をご紹介したい。 * * * はじめに 相続・事業承継というテーマはCFP®試験科目でも1つのテーマとして捉えられています。この「相続」と「事業承継」がどのように関わり、税理士としてどのように対処すべきか、私見ではありますが、複眼的な視点をご紹介したいと思います。 1 税理士が身につけるべき「相続」の視点 「相続」と聞いて、税理士としてまず頭に浮かぶのは、相続税額の計算ではないでしょうか。 相続税額の計算は、相続又は遺贈により財産を取得した者の取得財産ごとの積上げ計算が前提ですので、遺言がなければ、相続人間の遺産分割協議が成立している必要があります。もちろん未分割であれば総額計算にて行いますが、分割後には相続人間の調整が入るため、遺産分割協議が成立していると考えてもいいのではないでしょうか。その取得した財産額に比例して相続税総額が配分されるイメージです。 相続財産につき相続税を計算するための評価が財産評価ですが、これを規定しているのは財産評価基本通達です。取引相場のない株式や土地を含めた各種財産の評価方法が定められていますが、あくまで相続税算出のための評価額です。遺産分割は遺産分割時点の時価を原則としていますが、当事者間の合意があれば、相続税評価額を時価として採用しても問題ありません。ただし、いわゆる「争族」となった場合には相続税評価ではなく時価を採用して遺産分割を行うこともありますので、相続税法と民法の乖離が生じる財産(例えば土地など)をイメージするとよいかもしれません。 2 税理士が身につけるべき「事業承継」の視点 (1) 承継コストを抑えるための自社株評価引下げ 次に、「事業承継」と聞いて、税理士としてまず頭に浮かぶのは、自社株の承継問題ではないでしょうか。 子供へ承継させる親族内承継であれば、譲渡対価を受け取ることは想定しないかと思いますので、贈与か相続で承継させることになります。その際に承継者側が負担するコストが贈与税・相続税になりますが、株価が高い場合にはその承継コストも高くなるため、納税資金の問題が生じます。そのため、いかにして株価を引き下げるのか、ここも税理士が注目する視点です。 株価引下げや上昇を抑制するために組織再編を行うこともありますが、相続税を不当に減少させることが目的とみなされてしまうと、経済合理性がないものとして組織再編行為が否認されるリスクが残ります。 (2) ビジネスとして捉えた場合の「事業承継」 「事業承継」を次世代への経営承継と捉えることもできます。つまり、従業員を抱える組織を承継しビジネスとして成功させるためには、人・もの・金・情報を承継させる必要があります。また、変化の激しい昨今のビジネス環境に耐えられるだけの柔軟性も必要になります。社長交代を伴う場合には、先代社長がいなくてもビジネスが成立するだけの基盤も必要です。 その意味で、後継者教育は欠くことができないファクターになるでしょう。 ビジネスとして成功しない=業績悪化、ということになれば、自社株評価もおのずと下がります。高騰する自社株が問題になるということは、基本的にはビジネスとして成功していることを意味します。事業承継によりビジネスが失敗しては本末転倒ですので、事業承継問題でプライオリティが高いのはビジネスの成功であることは言うまでもありません。 3 「相続」「事業承継」の複眼的視点 (1) 個人資産としての両者の関係 個人資産の承継としての「相続」に対して、ビジネスの承継まで含んだ自社株承継としての「事業承継」があります。ただし、自社株を被相続人が保有する個人財産の一部と捉えれば、単なる「相続」と捉えることも可能です。 自社株の承継を「相続」ではなく「事業承継」と捉える場合、そこには「経営」という視点が入りますが、その意味では、個人資産で営む不動産経営も事業承継の一貫として捉えてもいいのではないでしょうか。不労所得を生み出す不動産経営を事業として捉えない風潮があるように感じますが、不動産経営も立派な経営です。 個人資産で経営に関係あるものを次世代に「相続」させることが「事業承継」であると捉えるべきと考えます。 法人が絡んだ場合、自社株承継のみが「事業承継」と捉えるのではなく、個人資産で事業に関係する資産(自社株、会社貸付金、会社所有建物敷地など。以下、「事業用資産」と呼びます)は次世代に確実に承継させる必要があると考えます。 (2) 民法を介在させた場合の複眼的視点 事業に関係ある個人資産を「相続」させることを「事業承継」と捉えた場合、個人資産に占める事業用資産の割合が多いと、相続人間で不平等が生じます。その場合、遺言がなければ遺産分割協議が難航する可能性が高くなります。 遺産分割協議成立を条件とした各種規定(小規模宅地等の特例、農地・自社株などの納税猶予制度、配偶者の税額軽減特例)の適用可能性はもちろんのこと、非承継者との調整を行うためには、遺言の存在と遺留分侵害額請求権行使に対する資金確保が必須と考えます。 「相続税だけの視点」ではなく「民法の視点」も取り入れて両者を複眼的に捉えることが、今後の相続・事業承継実務では不可欠になるでしょう。 (了)