《速報解説》 IFRS第16号(リース)及び米国基準Topic842を修正項目として取り扱わないこととした改正実務対応報告第18号が公表される ~公表日(2019年6月28日)からの適用~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年6月28日、企業会計基準委員会は、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号の改正)を公表した。これにより、2019年3月25日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、在外子会社等において国際財務報告基準第16号「リース」(以下「IFRS 第16号「リース」」という)及び米国会計基準会計基準更新書第2016-02号「リース(Topic 842)」の取扱いを示すものである。公開草案に対する主なコメントの概要とその対応も公表されている。 なお、わが国の会計基準におけるリース会計の取組みは、別途、審議を行っているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 実務対応報告第18号において、IFRS 第16号「リース」及び米国会計基準会計基準更新書第2016-02号「リース(Topic 842)」を修正項目として取り扱わないこととする。 公開草案に対して、IFRS第16号等について、実務対応報告第18号で修正項目としない場合、連結財務諸表の表示や開示(注記)の取扱いについて、整理する必要があるとのコメントが寄せられたが、仮にIFRS第16号及びTopic842について表示及び注記の論点を検討する場合、IFRS第16号及びTopic842に関する論点にとどまらないものと考えられるため、特段の対応は行わないこととしたとの対応が記載されている(論点の項目(4))。 なお、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)では、当面の間、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)に準じて行うことができるものとする規定がある。 Ⅲ 適用時期等 実務対応報告第18号の改正は、公表日(2019年6月28日)以後適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会、KAMに対応した改正「監査報告書の文例」を公表 ~「監査上の主要な検討事項」を表形式にする場合の記載例も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年6月27日、日本公認会計士協会は、「監査報告書の文例」(監査・保証実務委員会実務指針第85号)を改正した。 これにより、2019年4月5日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年7月5日、企業会計審議会)及び関連する監査基準委員会報告書の作成及び改正に対応するものである。 なお、公開草案に対するコメントの概要及びコメントに対する日本公認会計士協会の考え方も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 実務指針に記載されている「文例」では、下記の事項を含め、監査報告書の文例が示されている。 1 監査上の主要な検討事項の記載 監査上の主要な検討事項に関して、次のことが記載されている(14項)。 実務指針の「文例」では、監査上の主要な検討事項を表形式で記載する例も示されている。 2 監査報告書の記載区分 次の事項が記載される。 3 継続企業の前提に関する事項 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象又は状況が識別されており、重要な不確実性について財務諸表に適切な注記がなされている場合、監査人は無限定適正意見を表明し、財務諸表における注記事項について注意を喚起するために、監査報告書に「継続企業の前提に関する重要な不確実性」という見出しを付した区分を設け、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる旨及び当該事項は監査人の意見に影響を及ぼすものではない旨を記載する(12項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
《速報解説》 定期保険及び第三分野保険に係る 改正法人税基本通達等のパブコメ結果が公表される ~意見募集を経て改正案からの修正あり~ Profession Journal編集部 短期での解約を前提に高い返戻率による節税効果を謳った保険商品に歯止めをかけるべく、既報のとおり4月11日から5月10日にかけてパブリックコメントに付されていた法人税基本通達(及び連結納税基本通達)の一部改正通達に係る意見募集の結果が公表された。 改正通達では、これまで繰り返されてきた、節税を目的とした各保険商品への個別通達による手当てを整備すべく、5つの個別通達を廃止した上で改正通達へ織り込むとともに、新設された法基通9-3-5の2によって、最高解約返戻率が50%を超えるものを3つに区分し、原則としてそれぞれの区分ごとに一定の割合を資産計上する(損金算入を制限する)取扱いとなっている。 上記のページで公表された改正通達は、寄せられた意見を受け、改正案では年換算保険料相当額が「20万円以下」の保険に係る保険料について法基通9-3-5の2の取扱いを受けない(9-3-5の取扱いとなる)としていたところを「30万円以下」とするなど、改正案からの修正が行われている(詳細は下記参照)。 なお「経過的取扱い・・・改正通達の適用時期」によると、改正通達は、令和元年7月8日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険(9-3-5に定める解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険を除く。)の保険料及び令和元年10 月8日以後の契約に係る定期保険又は第三分野保険(9-3-5に定める解約返戻金相当額のない短期払の定期保険又は第三分野保険に限る。)の保険料について適用し、それぞれの日前の契約に係る定期保険又は第三分野保険の保険料については、改正前の取扱いとされる。 ※本誌では近日公開号より、改正通達に関する解説記事を掲載する予定です。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2019年6月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.324を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第60回】 「高額役員給与を考える」 税理士 山本 守之 日産のゴーン前会長をめぐる事件以降、役員の高額報酬のあり方が問題となっています。日米欧のCEO報酬の中央値は、日本2億円、米国12億円、欧州6億円です。 欧米では業績の達成度や株価に応じた株式報酬が多いため、日本と比較して差異が生じます。これに比べると、生活を保障する基本報酬は日本と欧米の差はあまりありません。 本来は、役員報酬を役員の生活を保障する基本給と、業績の裏付けとなる成果給、株価を高めた成果給に分ける必要があります。その上で、高額か否かを判断すべきなのです。 1 非上場会社に集中する役員報酬の税務否認 日本では、課税庁が非上場法人のCEOに対して案外気軽に「高額報酬否認」を適用し、それを裁判所が容認するケースが多いですが、裁判所が、他社を比較するだけで損金性を判断するのは誤りです。 内国法人がその役員に対して支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないとされています(法法34②)。 「不相当に高額なもの」には実質基準と形式基準があり、そのいずれにも該当する場合には、そのうちいずれか多い額が損金不算入となります(法令70)。 このうち実質基準は、内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与(退職給与以外のもの)の額(利益連動給与を除く)が、①その役員の職務の内容、②その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、③その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、その役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(その役員が2人以上ある場合には、これらの役員に係るその超える部分の金額の合計額)です。 税務訴訟等において企業が役員給与の適正額を立証する場合の泣き所は、同業種法人の役員の報酬の支給資料が入手しにくいということです。公表されているのは人事院の「職種別民間給与実態調査」、国税庁の「民間給与実態統計調査」等と株式会社政経研究所の発行した資料などです。 これらの資料と公表されている訴訟資料、審判所裁決例などを参考とし、これにそれぞれの法人の役員の個別事情等を参考として事前検討をするほかありません。この場合は、役員報酬を基本給、成果給、株価成果給などに区分しなければ比較そのものができません。税務否認が非上場会社に集中しており、上場会社は否認できないのが実情です。 役員の退職給与が不相当高額であるか否かを判示した裁判例は少なくありませんが、大別すれば、功績倍率の最高率を適用したもの(1980(昭和55)年6月29日東京地裁判決)、営業規模、業務において優位にある同業法人の功績倍率の平均率を適用したもの(1974(昭和49)年12月13日東京地裁判決、1976(昭和51)年9月29日東京高裁判決、TAINSコード:Z089-3861)、国家公務員等退職手当法の規定を適用したもの(1979(昭和54)年2月28日大阪高裁判決、TAINSコード:Z104-4343)、類似法人の退職給与額を3年間の公表利益との変化関係を示す回帰方程式の2標準偏差内の金額を相当額としたもの(1969(昭和44)年3月27日大阪地裁判決、TAINSコード:Z056-2416)などがあります。 この場合の功績倍率方式とは、次の算式で計算したものです。 1980(昭和55)年5月26日の東京地裁判決(TAINSコード:Z113-4599)において示された全上場会社の実態調査による功績倍率の平均値は、社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6というものでした。 2 過大な役員給与と損金不算入 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、その役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額は、損金の額に算入されません(令70①二)。 これは、役員の退職給与の中には、多分に益金処分の性格もあるので、益金処分たる性格を持つ不相当高額の退職給与について、損金不算入の規定を置いているのです。 この点については、次のような判示(1971(昭和46)年6月29日東京地裁判決、TAINSコード:Z062-2753)があります。 また、1年当たり平均額法を適正なものとして、功績倍率法を斥けた次のような国税不服審判所の裁決例(1986(昭和61)年9月1日、TAINSコード:J32-3-09)があります。 3 役員給与・否認のあり方 類似法人との比較を否認された例もあります。 縫製加工業を営む同族会社がラックコートの製造販売がヒットして大幅に売上が増加したため、代表取締役の報酬を前年度の960万円から1,800万円に、その妻である取締役の報酬を300万円から960万円にそれぞれ引き上げて支給したものです。 これに対してY税務署長は類似法人を抽出し、その役員報酬の平均値を超える金額を過大報酬とし、代表取締役は620万円、取締役は380万円が役員報酬の相当額であると主張しました。これに対して裁判所では、 と判示しました(1994(平成6)年6月15日名古屋地裁判決、TAINSコード:Z201-7349)。 この判決では、結果として売上増加率(1.43倍)と売上総利益の増加(2.25倍)を加味して1.5倍の範囲の増加が相当であると判断しており、その根拠に合理性はありませんが、実務上当然とされていた「類似法人との比較」を否定したことに意味があるように思われます。 訴訟の中ではさまざまな基準がありますが、平均的な手法を否認されたものに合理性のあるものもあります。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第14回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の目的論的解釈の過形成⑤- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、競馬事件を素材にして、大阪事件・最判平成27年3月10日刑集69巻2号434頁と、これに対する「面従腹背判決」ともいうべき札幌事件・東京地判平成27年5月14日訟月62巻4号628頁について、それぞれの判断枠組みを比較することによって、後者が示した判断枠組みを、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成として批判的に検討した。ただ、札幌事件では東京地裁の判断は、控訴審・東京高判平成28年4月21日判時2319号10頁及び上告審・最判平成29年12月15日民集71巻10号2235頁で否定され、馬券払戻金の所得区分に関する判例の判断枠組みは、下記のとおり、「文理に照らし」行う解釈(文理解釈)を「起点」とする判断枠組みとして、確立されることになった(下線筆者)。 前回の検討では、上記の判断枠組みの「起点」を「文理に照らし」行う解釈(文理解釈)として理解し、「終点」に係る判示部分のうち、1つ目の下線部分を「行為の数量的態様」といい、2つ目の下線部分を「行為の客観的利益状況」ということにしたが(前回Ⅱ参照)、今回も前回同様それらの語を用いることにする。 ところで、競馬事件における2つの最高裁判決を受けて、所得税基本通達34-1(2)が2度改正された(税通令6条1項5号も参照)。まず、大阪事件最判を受けて所得税基本通達34-1(2)に平成27年5月改正により注記が追加された(平27課個2-8、課審5-9改正。以下「第一次改正」という)。次に、札幌事件最判を受けて上記注記が平成30年7月に改正された(平30課個2-17、課審5-1改正。以下「第二次改正」という)。 今回は、所得税基本通達34-1(2)に関するこの2度の改正の意味を、税法の目的論的解釈の過形成に関する研究の一環として、検討することにしたい。 Ⅱ 所得税基本通達34-1第一次改正 所得税基本通達34-1(2)に、第一次改正により、下記の注記が追加された(下線筆者)。 追記された(注)1の下線部のうち実線部分は、大阪事件最判がその判断枠組みの「終点」において示した(重要な)間接事実(判決文では「事情」)である、行為の数量的態様及び行為の客観的利益状況に相当するものと解される。したがって、第一次改正は、その限りでは、大阪事件最判に従っているといえる。 では、第一次改正は、大阪事件最判の判断枠組みを正しく理解した上で行われた改正といえるであろうか。確かに、(注)1の下線部のうち破線部分も、大阪事件の事実関係を簡潔に要約したものであるから、そのようにもいえそうである。しかし、大阪事件最判の判断枠組みからすれば、(注)1の下線部のうち実線部分と破線部分にはそれぞれ異なる位置づけが与えられるべきであるが、第一次改正はそのことを正解していないように思われる。 大阪事件最判の判断枠組みによれば、(注)1の下線部のうち実線部分は、間接事実たる行為の数量的態様及び行為の客観的利益状況であるから、破線部分の事実は特に前者を推認させる再間接事実として位置づけられるべきである。しかしながら、第一次改正は、実線部分と破線部分とを並列的に記述していることからすると、実線部分と破線部分につき間接事実と再間接事実という異なる位置づけを行っているとは理解することができない。百歩譲って、仮にそのような異なる位置づけを行っていると理解することができたとしても、再間接事実を破線部分に限定していると考えざるを得ない。 そうすると、いずれにせよ、第一次改正の(注)1の射程は、大阪事件最判が前提にした事実関係と(破線部分に関して)類似する事案に、限定されることになる。換言すれば、第一次改正は、(注)2の定めが原則であって、馬券払戻金は原則として従前どおり一時所得に該当するが、大阪事件のような事案に限って例外的に雑所得に該当することを明らかにしたものにすぎないといえよう。要するに、第一次改正の(注)1は、基本通達の中にありながら、いわば「個別通達」としての意味しかもたなかったといってもよかろう。 しかし、大阪事件最判の判断枠組みによれば、行為の数量的態様及び行為の客観的利益状況という間接事実を推認させる再間接事実は、第一次改正が大阪事件を想定して示した(注)1の破線の下線部分以外にも、考えられ得る。そうすると、大阪事件最判と第一次改正とは射程を異にすることになるが、このことは、次のⅢでみるように、札幌事件によって露顕することになった。 Ⅲ 所得税基本通達34-1第二次改正 札幌事件最判は、前記の判断枠組みを判示した後、続けて次のとおり判示した(下線筆者。下線部のうち直線の実線部分に関する筆者による、要件・要件事実[主要事実]・間接事実の理解については、前回Ⅳの末尾参照)。 この判示の下線部のうち破線部分の事実は、第一次改正後の(注)1に施した破線の下線部分の事実とは明らかに異なる。つまり、札幌事件最判が前提にした事実関係は、明らかにその(注)1の射程外にあるのである。 そこで、札幌事件最判が示された後、第一次改正後の(注)1が、そのような射程外の事実をも射程内に取り込むために、第二次改正によって下記のとおり追記され(下線・太字筆者)、(注)1の適用範囲が拡大されることになった。 第二次改正で追記されたのは、上で引用した(注)1の下線部のうち破線部分及び二重線部分と(注)3である。 (注)1は、破線部分で札幌事件の事案に類似する事実を追記するほか、「など」を追記することによって、大阪事件や札幌事件の事案に類似する事実だけにとどまらず、より広範囲な事実にも、適用範囲を拡大したものと解される。 そのほか、(注)3も、競馬の馬券払戻金に係る所得に関する(注)1の取扱いを、競輪の車券払戻金等に係る所得にも準用する旨を定めることによって、(注)1の適用範囲を拡大したものと解される。 以上により、34-1(2)は(注)も含め、名実ともに「基本通達」としての性格を「回復」したといえよう。 なお、(注)1の下線部のうち二重線部分が、前掲・札幌事件最判に施した二重線の下線部の説示に対応するものであることは明らかであるが、それは、同最判によれば、「客観的にみて営利を目的とするもの[=行為]」と同じ意味内容を示す説示であると解される。すなわち、(注)1の下線部のうち二重線部分は、同最判によれば「利益発生の規模、期間その他の状況」(行為の客観的利益状況)という間接事実によって推認される、「客観的にみて営利を目的とする行為」であることという要件事実(主要事実)、を示す部分であると解される。したがって、(注)1の下線部のうち二重線部分は、これを破線部分と同列に位置づけ、もって(注)1の適用範囲を限定するものとして、理解し取り扱うべきではない。 Ⅳ おわりに 以上において、所得税基本通達34-1(2)の第一次改正及び第二次改正を検討した。その結果、第一次改正は、馬券払戻金の所得区分に関する判例の判断枠組みを限定的に捉え同(注)1の射程を狭く限定し過ぎた点に、決定的な問題があることを明らかにした。 第一次改正のそのような問題は、前回検討した札幌事件東京地判における、文理解釈の「潜脱」による目的論的解釈の過形成の問題と、思考過程ないし論理操作の点は別にして、適用範囲ないし射程の「過形成」という結果の点では、共通するものであると考えるところである。 (了)
平成31年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第1回】 「研究開発税制の見直し(その1:総額型の控除率の見直し)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 ~はじめに~ 本連載では、連結納税適用法人を対象に、平成31年度税制改正の概要を解説したい。 連結納税適用法人に関する税制は、次の4種類に分類される。 平成31年度税制改正については、既存の税制の見直しが中心となっており、まず、デフレ脱却・経済再生を後押しするため、イノベーション促進のための研究開発税制の見直しや中小企業による積極的な設備投資等の支援に係る改正が行われている。 次に、都市・地方の持続可能な発展のための地方税体系の構築を目的として事業税の一部を分離して特別法人事業税及び特別事業譲与税を創設することになった。 また、組織再編税制では、親会社が子会社を完全子会社化した後に行う逆さ合併や間接保有の完全親会社の株式を用いた組織再編も適格組織再編成に該当することになり、国際課税では、過大支払利子税制及び移転価格税制について「BEPSプロジェクト」の合意事項等に沿って諸外国において対応が進んでいることを踏まえて必要な制度改正が行われた。 そして、連結納税については、連結納税開始又は加入時の時価評価や連結欠損金など連結納税特有の取扱いに関する改正は行われていないが、加入日の特例規定の適用手続の簡略化や連結子法人の本店等所在地の異動届出の簡略化が図られることになった。 本稿では、連結納税制度に関係する改正項目について、その具体的な取扱いと実務に与える影響を単体納税と比較しながら解説していくこととする。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 [1] 研究開発税制の見直し 連結納税では、連結グループ全体を1つの法人とみなして研究開発税制が適用されるが、平成31年4月1日以後に開始する連結親法人事業年度から、単体納税と同様に次のような改正が行われている(平成31年所法等改正法附則1、48)。 (1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度について、増加インセンティブを強化する観点から控除率カーブを見直し、税額控除率及び控除上限の上乗せ措置の適用期限を2年延長する(高水準型は予定どおり廃止される)。 試験研究費の総額に係る税額控除制度(以下、「総額型」という)について、改正前後の取扱いは以下のとおりとなる。 【試験研究費の総額に係る税額控除制度(総額型)】 ▷根拠条文 改正前:旧措法68の9①②⑤ 改正後:措法68の9①②③ ▷対象法人 改正前:連結法人のすべて 改正後:同上 ▷税額控除限度額 ▷控除限度となる法人税額基準額 ▷繰越控除 改正前:限度超過額の繰越制度はない。 改正後:同上。 ▷税額控除額の個別帰属額の計算方法 改正前:下記A参照。 改正後:下記B参照。 ▷地方法人税における税額控除 ▷住民税における税額控除 連結納税における試験研究費の総額に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法は、次のとおりとなる。 A 改正前(旧措法68の9⑬二・五、旧措令39の39㉒一・二) [試験研究費の総額に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] [ⅰの額の計算方法] (注1) この場合の特別試験研究費は、分子と異なり、試験研究費の総額に係る税額控除制度の適用対象としたものを含む。 [ⅱの割合] (注2) 個別増減試験研究費割合とは、当該連結法人の個別増減試験研究費/当該連結法人の比較試験研究費となる。個別増減試験研究費とは、当該連結法人の試験研究費から比較試験研究費を減算した金額をいう。 B 改正後(措法68の9⑬二・五、措令39の39㉗一・二・三) [試験研究費の総額に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] [ⅰの額の計算方法] (注1) この場合の特別試験研究費は、分子と異なり、試験研究費の総額に係る税額控除制度の適用対象としたものを含む。 [ⅱの割合] (一) 下記(二)以外の場合 (注2) 個別増減試験研究費割合とは、当該連結法人の個別増減試験研究費/当該連結法人の比較試験研究費となる。個別増減試験研究費とは、当該連結法人の試験研究費から比較試験研究費を減算した金額をいう。 (二) 平成31年(2019年)4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの間に開始する連結親法人事業年度で、試験研究費割合が10%を超える場合 (注3) 個別試験研究費割合とは、当該連結法人の試験研究費/当該連結法人の平均売上金額となる。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例75(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆渡切交際費(法基通9-2-11) 役員や従業員に前渡しする交際費で、使途や使用金額を問わず、後日の精算も行わないものをいう。渡切交際費は、交際費ではなく、支給した役員や従業員の給与として取り扱う。したがって、役員に支払う渡切交際費を損金算入するためには、定期同額給与として処理する必要がある。 ◆定期同額給与(法法34①一、法令69) (1) その支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとである給与(以下「定期給与」という)で、その事業年度の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの (注) 源泉税等の額とは、源泉徴収をされる所得税の額、特別徴収をされる地方税の額、定期給与の額から控除される社会保険料の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。 (2) 定期給与の額につき、次に掲げる改定(以下「給与改定」という)がされた場合におけるその事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又はその事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額又は支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるもの ① その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3ヶ月までに継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額の改定 ② その事業年度において臨時改定事由によりされたその役員に係る定期給与の額の改定(①に掲げる改定を除く) ③ その事業年度において業績悪化改定事由によりされた定期給与の額の改定(減額改定に限られ、①及び②に掲げる改定を除く) (3) 継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの ◆渡切交際費を定期同額給与として処理する場合 渡切交際費を定期同額給与として損金算入する場合には、以下の処理が必要である。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第39回】 「別表6(19) 地域経済牽引事業の促進区域内において 特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、前回解説したいわゆる「地域未来投資促進税制」のうち、特別償却に代えて税額控除制度を適用する場合の「別表6(19) 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」(※1)の記載の仕方を採り上げる。 (※1) 平成31年度税制改正を受け法人税申告書の様式が改正され、一部変更の上、この別表は6(17)から6(19)に番号が変更となった。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告法人で地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律(以下「地域経済促進法」という)第24条に規定する承認地域経済牽引事業者に該当するものが、租税特別措置法(以下「措置法」という)第42条の11の2第2項(地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除)の規定の適用を受ける場合に作成する。 すなわちこれは、青色申告を提出する法人が、指定期間内(平成29年7月31日から令和3年3月31日までの間(※2))に、地域経済活性化に貢献する一定の事業計画に基づいた承認地域経済牽引事業について、一定の規模の機械装置、器具備品、建物及びその附属設備並びに構築物(以下「特定事業用機械等」という)を取得し、その事業の用に供したときは、その事業の用に供した日を含む事業年度において、その特定事業用機械等の基準取得価額(100億円(又は80億円)を限度とする)の2%又は4%(又は5%)(※3)の税額控除ができる制度である。 (※2、3) 平成31年度の税制改正において、本制度の適用期限が平成31年3月31日から2年延長されるとともに、主務大臣が確認を行う課税特例要件のうち、直近事業年度の付加価値額の増加率が8%以上の上乗せ要件を満たす場合には、機械装置・器具備品の投資について「50%」の特別償却もしくは「5%」の税額控除が新たに受けられることとなり、対象資産の取得価額の合計額は80億円が限度とされる改正が行われている。 本制度において適用される特別償却と税額控除の割合の一覧は次の通りである。 なお本税額控除制度は、中小企業者等以外の法人が平成30年(2018年)4月1日から令和3年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度において、研究開発税制等の生産性の向上に関する特定の税額控除制度を適用しようとする場合に、以下の(イ)及び(ロ)の要件のいずれにも該当しない場合には、適用ができないことになっている。詳細は、【第35回】の解説を参考にしていただきたい。 Ⅲ 「別表6(19)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成31年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 (4) 別表の各記載欄の説明 〔特定税額控除規定の適用可否〕欄 〔法人税額の特別控除額の計算〕欄 〔機械設備等の概要〕欄 (※5) 本稿公開日現在、平成31年度税制改正を踏まえた特別償却の付表(6)の様式は公表されていない。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第11回】 「有価証券を寄附する場合の注意点」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 有価証券を公益法人等に寄附する場合、租税特別措置法40条の適用を受けるために何か注意する点はありますか。 - 回 答 - 有価証券の寄附者が租税特別措置法第40条の適用を受けるためには、寄附財産そのものが当該公益法人等の公益目的事業において直接利用されることが必要とされます。 しかし、有価証券はその性質上、そのもの自体を公益目的事業の用に供することはできません。この場合、有価証券から生ずる果実(配当金)の全部が当該公益目的事業の用に供されるかどうかにより、当該財産が当該公益目的事業の用に直接供されるかどうかを判定することになっています。 したがって、当該有価証券からの配当が見込まれないような場合は、適用を受けられない恐れがあります(措置法40条通達13注書)。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 財産等が贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供されるかどうかの判定は、原則として、当該財産等そのものが、当該贈与又は遺贈を受けた公益法人等の当該贈与又は遺贈に係る公益目的事業の用に直接供されるかどうかにより行われます。 しかし、有価証券のようにその性質上、そのもの自体を公益目的事業の用に供することができない場合は、当該有価証券から生じる配当金の全部を公益目的事業の用に供することをもって、判断するとされています。 したがって、定期的に配当が行われていない有価証券の場合は、この条件に該当しないため、租税特別措置法第40条の適用が受けられない恐れがあります。 なお、寄附先が行政庁から公益認定を受けた公益社団法人・財団法人であり、 以上全てを満たす場合には、承認特例の条件に該当することとなるため、国税庁長官への承認申請後3ヶ月以内にその申請について国税庁長官の承認がなかったとき、又は承認しないことの決定がなかったときは、譲渡所得税が非課税とされる制度もあります。 ただし、有価証券の寄附者が承認申請後一定の期日までに定められた書類の提出を行わなかった場合や、公益社団法人・財団法人の役員等及び社員並びにこれらの人の親族等に該当していた場合、若しくは該当することが予定されていた事実が後になって判明した場合には、非課税承認が取り消されます。 非課税承認が取り消された場合、書類の提出を怠ったケースでは寄附者に、役員等に該当もしくは該当することが予定されていたケースでは公益社団法人・財団法人に、原則としてその取り消された日の属する年分の譲渡所得等として所得税が課されることになります(措令25の17⑩⑫⑬)。 (了)