〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第5回】 「解約返戻金と相殺するための役員退職給与支給」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ 役員退職給与は、当該役員の法人に対する貢献度等(業務に従事した期間、退職の事情)や同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、相当であると認められる金額を超える部分は損金不算入であると規定されている(法法34②、法令70二)。 この損金算入限度額の算定方法には一般に「功績倍率法」と「1年当たり平均額法」が存在している。このうち功績倍率法は最も使用されている算定方法であるのは周知の事実である。功績倍率法は 対象役員の最終月額給与 × 勤続年数 × 功績倍率 にて損金算入限度額を求めるというものであり、「最高功績倍率法」と「平均功績倍率法」がある。 両者の違いは、同業類似法人から抽出した功績倍率の最高値を採るか、平均値を採るかである。この功績倍率法自体は、平成29年度税制改正に伴い、法基通9-2-27の2(注)にてその定義が示されたのは記憶に新しい。 ここで、平均功績倍率法を用いた場合、その法人特有の事情は斟酌されないのだろうかという疑問が浮かぶ。裁判例によってその論拠は異なり、例えば東京地裁平成25年7月18日判決(※1)及びその下級審は、平均功績倍率法を採用し、その功績倍率を「当該退職役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払能力など,最終月額報酬及び勤続年数以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数である」と評価している。そして、同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り法の趣旨に最も合致する合理的な方法というべきとしていることからすれば、その法人特有の事情の斟酌は認めていないのだろう。 (※1) 税務訴訟資料263号順号12261 これに対し、例えば大分地裁平成21年2月26日判決(※2)は、平均功績倍率法を採用した上で「退職役員の最終報酬月額は創業者としての功績等、当該役員の法人に対するそれまでの功績がもっとも表れていると考えられる・・・単純にある時期の法人の業績のみを参考にして算出される平均的な役員報酬の水準を上回ることは十分考えられる」。「平均功績倍率を用いて算出される金額をもって直ちに相当・不相当の基準とするのは相当ではなく・・・比較法人の平均功績倍率に加え、その功績倍率の分布状況、平均値算出過程では十分考慮されないが役員退職給与額に相当の影響を及ぼし得る原告・・・の事情をも考慮して不相当に高額な部分の有無及び金額を判断するのが相当である」と示している。 (※2) 税務訴訟資料259号順号11147 この裁判例からは、平均功績倍率法により導かれた不相当に高額な給与部分について、「特段の事情」があれば、「不相当に高額」な部分のうち、「相当」とされる部分もありうる可能性が示されていると思われる。 このように、統一的な見解は存在していないと思われるが、平均功績倍率法にその法人固有の事情が考慮されるという前提に立って、生命保険金解約による解約返戻金の雑収入計上が上記特段の事情になるのかどうか、翻せば、当該解約返戻金の創出が役員の貢献度を計る材料になるかどうかという点を確認したい。 この点、最高裁平成26年1月17日判決(※3)及びその下級審では、ダイレクトにこの件が争点となっている。本件は、代表取締役の急死により多額の死亡保険金を計上し、当該死亡保険金を役員退職給与にて相殺している事案である。 (※3) 税務訴訟資料264号順号12388 原告・控訴人・上告人である納税者は役員退職給与支給の原資は生命保険金であることを鑑み、平均功績倍率法により導かれた金額を超えて支給する相当の事情があると主張した。これに対し、裁判所は、「平均功績倍率法はあくまでも平均値を用いて『退職給与として相当であると認められる金額』を算出するものであるから、平均値による金額を超える部分が常に不相当であると考えることは妥当ではなく、上記金額を超えて相当部分を認めるべき特段の事情・・・がある場合には、平均功績倍率法による金額を超えて相当と認めるべき部分が存在するというべきである(下線部筆者)」として、上記大分地裁判決と同様、特段の事情があれば平均功績倍率法に加えて相当な部分があり得ることを示した。 しかし、同時に課税庁が抽出した同業類似法人の合理性を認め、死亡保険金の計上は上記特段の事情には当たらないと示し、納税者の主張を退けている。 その理由として、死亡保険金の収受と退職給与の支給はそれぞれ別個に考えるべきであり、適正な役員退職給与支給額を超える死亡保険金部分は、代表取締役の死亡によって会社が被る経営上の損失補填のために留保されなければならないと説いている。 したがって、解約返戻金や死亡保険金は役員退職給与支給のための大事な原資であることは言うまでもないが、損金算入限度額自体の判断はそれとは別個に検討するべきであると考える。 (了)
政府税調における連結納税制度の見直しについて ~改正の方向性とその影響~ 【後編】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 (3) グループ調整計算 ~事務負担の軽減を図る観点からの簡素化~ [改正の方向性] [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕平成31年4月18日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [実務上のポイント] 上記で示されたグループ調整計算の個社計算への変更について、筆者が本稿執筆時点で考える実務上のポイントは次のとおりである。 現行制度では、次のように、欠損法人の試験研究費の税額控除枠を他の所得法人の法人税額から控除することで、連結納税制度の税務メリットを享受している連結グループが多い。しかし、新制度では、このメリットが享受できず、税負担が増加する連結グループが生ずる。 このように、既に連結納税制度を採用している企業の税負担の増加につながる改正事項になるため、今後、その改正については慎重な議論が行われることになるだろう。 外国税額控除についても、現行制度において、次のようなケースで連結納税制度の税務メリットを享受している連結グループが多い。しかし、新制度では、このメリットが享受できず、税負担が増加する連結グループが生じる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 現行制度では、所得拡大促進税制や大企業の租税特別措置法の適用除外措置についても、グループ調整計算(全体計算、全体判定)が行われているが、研究開発税制が個社計算に変更された場合、それらについても個社計算、個社判定へ変更になるだろう。 受取配当等の益金不算入制度、外国子会社の受取配当等の益金不算入制度、寄附金の損金不算入制度、貸倒引当金の損金不算入制度、過大支払利子税制の損金不算入制度など所得調整については、グループ調整計算を個社計算に変更しても、ほとんどの連結グループで大きな影響は生じないだろう。 そのため、事務負担の軽減を優先し、単体法人の取扱いと全く同じでもいいのではないかと考える。 その場合、それに係る単体法人のグループ法人税制について、見直しをする必要があるかは疑問がある。 つまり、個別申告方式を導入する時点で、理論的な連結納税制度の構築を放棄していることになるため、このような細かい計算項目についてのみ理論的取扱いを追求することに意味はないであろう。 また、そもそも連結納税制度と単体納税制度は課税の仕組みが異なることから、連結納税を選択していないグループ法人との公平性を考慮する必要はないのではないかと思う。 (4) 新制度の適用関係 ~移行スケジュールと経過措置のイメージ~ [改正の方向性] [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 例えば、最短だと、新制度適用まで、次のようなスケジュールが一案となろう。 [実務上のポイント] 上記で示された新制度の適用関係のイメージについて、筆者が本稿執筆時点で考える実務上のポイントは次のとおりである。 新制度への準備期間に何年が必要か、という点については、既に連結納税を採用している企業、システム会社、課税庁、それぞれに必要な準備期間を考慮して決定する必要があるが、2年か3年が妥当であろう。 まず、企業側は、連結納税を継続するかどうかを旧制度と新制度を比較して検討する期間と、新制度による決算・申告のトライアルやシステム研修等の準備期間が必要であるし、システム会社は新しい連結納税システムの開発期間、運用期間が必要になり、課税庁は、法律・通達やQ&Aの公表などの準備期間が必要になる。 いずれにせよ、準備期間を何年にするかは今後、慎重に議論されることになるだろう。 現行制度では、いったん連結納税を採用すると単体納税に戻れないのが原則であり、新制度でもその点は変わらないだろう。 ただし、新制度になると税負担が増加する連結グループが生じることになるため、新制度の準備期間に限って、単体納税に戻る選択肢(チャンス)を与えることは当然のことと思われる。この点、連結納税採用企業が単体納税に戻ることができるのは、今後、唯一のチャンスかもしれない。 そのため、すべての連結グループが、連結納税を継続すべきか、単体納税に復帰すべきかを検討することが必要になる。 単体納税に戻ったグループが、再び連結納税を開始するのに一定の制限期間が設定されるかどうかは、連結納税を継続すべきか、単体納税に復帰すべきかを検討する上で考慮すべき点の1つであろう。 連結納税の採用を予定している企業は、連結納税開始時の取扱いが現行制度と新制度で異なることから、最初に、新旧いずれの制度を採用した方が有利かを検討する必要がある。 連結納税の加入を予定している企業は、連結納税加入時の取扱いが現行制度と新制度で異なることから、最初に、新旧いずれの制度で加入した方が有利かを検討する必要がある。 仮に、準備期間中に旧制度を採用し、単体納税に戻ることも可能になる場合、準備期間中に現行制度を採用し、親法人や子法人の繰越欠損金の解消を実現した上で、準備期間中に再び単体納税に戻る企業グループも出てくる可能性があろう。 (5) その他の論点 [改正の方向性] [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 [出典]財務省 説明資料〔連結納税制度〕令和元年6月26日 (6) 今回の専門家会合で方向性が示されなかった事項について 今回の専門家会合では方向性が示されなかった事項のうち、(1)~(5)で記載した実務上のポイント以外で、筆者が気になる点について以下に挙げてみる。 ① 加入、離脱、取りやめ時の「みなし事業年度」の設定はどうなるのか? ② 現行制度の「連結欠損金(特定と非特定)」が新制度へどのように引継がれるのか? ③ 繰越欠損金(連結欠損金)の繰越控除額の計算方法はどう変わるのか? ④ 連結欠損金の控除限度割合(50%)の取扱いは考え方が変わるのか? ⑤ 住民税と事業税の計算の仕組みは変わるのか? ⑥ 住民税の控除対象個別帰属税額と控除対象個別帰属調整額の取扱いは変わるのか? 以上の点についても、今後どうなるか注目する必要があろう。 3 連結納税の実務への影響 ~上記2のポイント踏まえて~ 上記2において、見直しの方向性と実務上のポイントを記載したが、それらを踏まえた上で、既に連結納税を採用している会社とまだ連結納税を採用していない会社、それぞれについて、連結納税の実務への影響をイメージしてみたい。 (1) 既に連結納税を採用している会社への影響 ① 事務負担はどれくらい軽減されるのか? 今回の見直しは、個別申告方式への変更によって、納税者及び課税庁の事務負担の軽減を図ることが最大の目的といえるが、既に連結納税を適用している会社について、実際に、事務負担がどれくらい軽減するかについては、以下のように考えられる。 ② 税効果会計はどうなるのか? 新制度においても法人税では損益通算ができるため、繰延税金資産の回収可能性の検討について、現行制度と同様に、連結グループを一体として行うことになる。つまり、連結グループを一体として企業分類を設定し、全社参加でスケジューリングによる回収可能額の計算を行う実務については、変更がないだろう。 また、新制度でも地方税は単体納税が適用される場合、現行制度と同様に、法人税、住民税、事業税の別に回収可能額の計算を行うことになる。 いずれにせよ、損益通算があることから、連結納税の税効果会計の実務には、大きな影響はないことが予想される。 ③ 連結納税システムはどう変わるのか? 連結納税の実務において、連結納税システムには「申告書作成システム」と「税効果会計システム」の2つがある。 まず、現行制度の連結納税の申告書作成システムは、「1つのシステムを全社で使用するもので、各社が個社入力をした後に、ボタン1つで全体計算を行い、連結納税申告書と各社の地方税申告書を完成させる」、全社参加型システムが一般的である。 この点、個別申告方式になった場合、連結納税申告書システムは、次の2つのタイプに分かれると予想される。 また、連結納税の税効果会計は、現行制度と同様に、連結グループを一体として企業分類を設定し、全社参加でスケジューリングによる回収可能額の計算を行うため、連結納税の税効果会計システムは、既存のシステムの仕様をほとんどそのまま承継した全社参加型のシステムが主流になるだろう。 ④ 連結納税から単体納税に移行する連結グループはどれくらいありそうか? 新制度への移行に伴い、既に連結納税を採用している連結グループのうち、単体納税に移行する企業はどれくらいあるだろうか。 この点、筆者が日常業務の中で感じることだが、潜在的に単体納税に戻りたいと思っている会社は多い(今は戻りたいけど戻れないため思っているだけであるが)。 (2) まだ連結納税を採用していない企業への影響 ① 新制度適用後は、連結納税を採用する企業は増えそうか? 個別申告方式への移行により、現行制度より連結納税の事務負担が減るため、連結納税を採用しやすい環境になることは間違いない。 ただ、個別申告方式への移行により、連結納税の事務負担が減るとはいえ、単体納税よりは事務負担が重いことは明らかである。そのため、個別申告方式への移行が連結納税の採用を全面的に後押しするとは思えない。 また、連結親法人にSRLYルールが導入されることで、連結親法人の開始前の繰越欠損金を他の連結子法人の所得と相殺して一瞬で巨額の税負担を減少させるという連結納税の最大の採用動機が失われることから、この点は連結納税の採用には大きなマイナスとなるだろう。 ただし、連結法人(連結親法人を含む)の開始前・加入前の繰越欠損金は、単体納税では自社の所得金額の50%を限度としてしか相殺できないが、連結納税では自社の所得金額の100%と相殺することができるため、連結法人の繰越欠損金の活用が見込まれる場合、連結納税を採用する企業も増えるだろう。 ② 連結納税を開始、加入、離脱するなら改正前か? 改正後か? この点、現行制度と新制度のいずれで開始、加入、離脱すると有利かどうかを慎重に検討する必要がある。例えば、現行制度では、特定連結子法人に該当せず、時価評価が必要となり、繰越欠損金が切り捨てられるが、新制度では、時価評価も繰越欠損金の切捨ても行われない場合、新制度の適用開始まで待つことも一案である。 一方、新制度の場合、開始、加入時に時価評価が行われない場合であっても、その後、含み損益の利用制限が課されることがある。また、離脱時には一定の場合、離脱法人が時価評価する必要も生じる。このような場合、現行制度で開始、加入、離脱をしてしまった方が、その後の税負担も減少し、事務手続も簡便になるだろう。 ③ 準備期間に連結納税を開始して、その後、取りやめるのもよいのか? 連結親法人や連結子法人の繰越欠損金の期限切れが迫っており、連結納税を採用した方が税負担が減少するのは明らかであるが、連結納税の事務負担の重さに躊躇して採用できていない場合でも、準備期間において連結納税の開始を行い、その後、取りやめを行うことができれば、それも一案になるだろう。 4 おわりに 以上、仮に、専門家会合で示された取扱いがそのまま実現した場合に想定される実務への影響について解説した。 しかし、専門家会合で議論された内容については、今年の9月末までに開催される政府税制調査会の総会でも報告に留まる見通しであり、本稿執筆時点で、何も確定したものではない。また、現状、個別論点(特に、税負担が増える見直し)については反対意見もあると言われている。 そのため、実際の改正の内容は今後の議論によることから、今後も、その行方に注目していきたい。 (連載了)
平成31年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第8回】 (最終回) 「その他の税制改正」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [7] 国際税務の見直し 国際税務についても単体納税と同様に、以下の項目に係る改正が行われている。 1 移転価格税制の見直し 移転価格税制について、BEPSプロジェクトを踏まえ、独立企業間価格の算定方法として、DCF法を追加するとともに、DCF法で独立企業間価格を算定するものであること等の要件を満たす一定の評価困難な無形資産取引において、予測と実績が一定程度乖離した場合に独立企業間価格の事後的な調整措置を導入することとなった。 連結申告法人についても単体申告法人と同様の改正が行われている(措法68の88⑦二・⑧⑨⑩⑪、措令39の112⑦六・⑫~⑰・⑲六)。 なお、この改正は、令和2年(2020年)4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(平成31年所法等改正法附則73②)。 2 外国子会社合算税制の見直し 外国子会社合算税制について、米国等のビジネスの実態を考慮し、現地で行われる実体のある事業を遂行するうえで欠くことのできない機能を果たす一定の外国関係会社をペーパーカンパニーの範囲から除外する。 連結申告法人についても単体申告法人と同様の改正が行われている(措法66の90②二イ、措令39の114の2⑤~⑨)。 なお、この改正は、内国法人の平成31年4月1日以後に終了する連結事業年度の合算課税(外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度に係るものに限る)について適用する(平成31年所法等改正法附則1、75①)。 3 過大支払利子税制の見直し 過大支払利子税制について、BEPSプロジェクトを踏まえた以下の見直しを行うことになった(措法68の89の2、68の89の3、措令39の113の2、39の113の3)。 なお、この改正は、令和2年(2020年)4月1日以後に開始する連結事業年度について適用される(平成31年所法等改正法附則74①)。 [改正前の損金不算入額の計算方法] [改正後の損金不算入額の計算方法] [適用除外基準] (注) 単体申告法人の場合、改正後は、適用除外基準(二号)として、「国内企業グループ(持株割合50%超)の合算純支払利子等の額が合算調整所得の20%以下のとき」が定められているが、連結申告法人については当該適用除外基準(二号)は設定されていない。 [8] 連結納税に係る届出手続の簡略化 1 加入日の特例規定の適用手続の簡略化 平成31年4月1日以後に他の内国法人が連結親法人との間に完全支配関係を有することとなった場合の「連結納税への加入時期の特例」の適用を受けるための手続について、連結親法人(改正前:連結子法人)に一元化する(法法14②、平成31年所法等改正法附則1、15)。 具体的には、『連結納税への加入時期の特例を適用する旨を記載した書類』の提出について、改正前は連結子法人が当該連結子法人の所轄税務署長に提出していたものを、改正後は、連結親法人が当該連結親法人の所轄税務署長に提出することになった。 ここで、「連結納税への加入時期の特例」とは、連結親法人事業年度の中途において、連結親法人との間に完全支配関係を有することとなり、かつ、その完全支配関係を有することとなった日(加入日)から加入日の前日の属する月次決算期間の末日まで継続して連結親法人による完全支配関係がある場合に、連結納税の承認があった日として、完全支配関係発生日の前日の属する月次決算期間の末日の翌日に連結納税に加入したものとみなす取扱い(第1号加入時期の特例)、及びその完全支配関係を有することとなった日(加入日)から加入日の前日の属する月次決算期間の末日まで継続して連結親法人による完全支配関係がない場合に、加入と離脱のみなし事業年度を設けなくてよいものとする取扱い(第2号加入時期の特例)の2つがある(法法14②、4の3⑩)。 この場合、その特例が適用されない場合の完全支配関係発生日の前日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、『連結納税への加入時期の特例を適用する旨を記載した書類』を所轄税務署長に提出する必要がある(法法14②)。 なお、平成30年度税制改正において、連結子法人は『完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類』の提出が不要となり、連結親法人のみが当該書類を提出することとなったが(法令14の7③)、今回の改正により、完全支配関係を有することとなった旨の届出と連結納税への加入時期の特例の届出をまとめて、連結親法人のみが、『完全支配関係を有することとなった旨を記載した書類及び連結納税への加入時期の特例を適用する旨を記載した書類』を当該連結親法人の所轄税務署長に提出すればよいことになる。 2 連結子法人の本店等所在地の異動届出の簡略化 平成31年4月1日以後に連結子法人の本店等所在地に異動があった場合に提出することとされている届出書について、提出すべき法人をその連結子法人(改正前:連結親法人)とした上、連結親法人の納税地の所轄税務署長への提出を要しないこととする(法法20、平成31年所法等改正法附則1、16)。 改正前は、連結子法人の本店又は主たる事務所の所在地に異動があった場合、連結親法人が①及び②の両方に異動届出書を提出する必要があった(旧法法20②)。 [9] 連結納税に係る別表様式の改正(別表4の「被合併法人等の最終の事業年度の欠損金の損金算入額」(26欄)の追加) 平成31年度税制改正を踏まえた別表様式の見直しにおいて、旧別表4の「仮計」(25欄)と「寄附金の損金不算入額」(26欄)の間に、これまで別表4の2(付表を含む)のみにあった「被合併法人等の最終の事業年度の欠損金の損金算入額」(26欄)が追加された。 これは、「法人税法施行令第112条第20項」が適用される場合を想定しているものと思われる。 それが適用されるケースを説明するにあたって、まず、法人税法第81条第4項について解説することとする。 同項では、『連結法人間の合併について、合併日の前日の属する事業年度(合併日が連結親法人事業年度開始日である場合を除く)の連結法人の単体申告において発生した被合併法人(他の連結子法人)の個別欠損金額を、合併法人(連結法人)の合併日の属する連結事業年度(連結申告)で損金に算入する』という取扱いを定めている。 そして、その合併法人(連結法人)における損金算入額を記載する項目として、別表4の2(付表を含む)に「被合併法人等の最終の事業年度の欠損金の損金算入額」(今回の別表様式の改正で、7欄から34欄に移動している)が設けられている。 なお、被合併法人等の「等」については残余財産の確定においても同様の取扱いとなっているため、残余財産確定法人を含めるという意味である(この場合、合併日の前日=残余財産の確定日、被合併法人=残余財産確定法人、合併法人=残余財産確定法人の株主、という読み替えになる)。 そして、今回、別表4に追加された「被合併法人等の最終の事業年度の欠損金の損金算入額」(26欄)については、従来から法人税法第81条第4項と同様の趣旨で設けられている法人税法施行令第112条第20項が適用される場合に記載されることになると思われる。 具体的には、法人税法施行令第112条第20項は、期中に2度、連結内で合併をした場合に適用される。 例えば、連結親法人P社⇒連結子法人A社⇒連結子法人B社、という資本関係で(その他にも連結子法人が存在し、連結親法人P社は決算日を3月31日とする)、 というケースが生じるものとする。 この場合、①及び②は共に、被合併法人(①:B社、②:A社)では、最終事業年度は連結法人の単体申告となるが、このとき、①で発生した連結子法人B社の欠損金額を、法人税法施行令第112条第20項の適用により、連結子法人A社の②の連結法人の単体申告において損金に算入することになる。 この場合、連結子法人A社で損金算入される連結子法人B社の欠損金額を今回追加された26欄に社外流出で記載することになる。 これは、連結法人間の残余財産の確定の場合(①②のいずれも残余財産の確定の場合、あるいは、①②のいずれかが残余財産の確定、いずれかが合併の場合)においても同様となる。 (連載了)
基礎から身につく組織再編税制 【第7回】 「適格合併(支配関係)」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、支配関係がある場合の適格合併の要件について解説します。 1 支配関係がある場合の適格合併の要件 支配関係がある場合の適格合併の要件は、次の4つです。 2 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、被合併法人の株主に合併法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の八)。 ただし、次の①から⑤を交付しても、金銭等不交付要件には抵触しません。 (①から④の内容は前回解説した「完全支配関係がある場合の適格要件」と同様のため、解説を省略します。) ⑤ 合併法人が被合併法人の発行済株式の総数の3分の2以上を保有する場合に少数株主に交付される金銭 合併の直前に、合併法人が被合併法人の発行済株式の総数の3分の2以上を保有する場合には、合併法人以外の少数株主に金銭その他の資産を交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないとされています。 3 支配関係継続要件 「支配関係継続要件」とは、支配関係がある法人同士の合併の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3③二)。 ① 当事者間の支配関係 下図のように、当事者間の支配関係があるときは、被合併法人が合併により消滅するため、支配関係の継続は求められていません。 ② 同一の者による支配関係 下図のように、合併前に被合併法人と合併法人との間に同一の者による支配関係があるときには、合併後に、同一の者と合併法人との間にその同一の者による支配関係が継続する見込みがあることが求められています(法令4の3③二)。 当初の合併後に次の合併が予定されている場合の支配関係継続要件 ① 次の合併で当初の合併法人が被合併法人となる場合 当初の合併後に合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、当初の合併の時からその適格合併の直前の時まで支配関係が継続する見込みがあることが求められています(法令4の3③二)。 ② 次の合併で同一の者が被合併法人となる場合 当初の合併後に同一の者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を同一の者とみなして支配関係を継続する見込みがあることが求められています(法令4の3㉕一)。 4 従業者引継要件 (1) 従業者引継要件とは 「従業者引継要件」とは、被合併法人の合併直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が合併後に合併法人の業務((2)参照)に従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の八ロ(1))。 (2) 「合併法人の業務」について ① 合併法人との間に完全支配関係がある法人がある場合 合併法人の業務には、合併法人との間に完全支配関係がある他の法人の業務も含まれます。 下図のように、従業者が合併法人の業務だけでなく、100%グループ内の法人(P社、B社)の業務に従事していれば、80%判定に含めてもよいとされています。 ② 当初の合併後に適格合併を行うことが見込まれている場合 当初の合併後に行われる適格合併により被合併法人の合併前に行う主要な事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 上図のC社の業務に従事していれば、80%判定に含めてよいとされています。 (3) 「従業者」とは 従業者引継要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、合併の直前において被合併法人の合併前に行う事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人が選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、被合併法人の合併前に行う事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。 5 事業継続要件 (1) 事業継続要件とは 「事業継続要件」とは、被合併法人の合併前に行う主要な事業((2)参照)が合併後に合併法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の八ロ(2))。 ① 合併法人との間に完全支配関係がある法人がいる場合 合併法人との間に完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 当初の合併後に適格合併を行うことが見込まれている場合 当初の合併後に行われる適格合併により主要な事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれる場合には、その適格合併に係る合併法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 (2) 「主要な事業」とは 被合併法人の合併前に行う事業が2以上ある場合には、そのいずれが主要な事業に該当するかは、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定します。 6 従業者引継要件の具体例 〔前提〕 〔従業者引継要件の判定〕 被合併法人であるB社の合併直前の従業者のうち、A社では5割しか受け入れていないが、A社と完全支配関係があるC社で残りの5割を受け入れており、合併法人の業務には完全支配関係がある法人の業務も含まれることから、被合併法人であるB社の合併直前の従業者すべてが合併法人の業務に従事することが見込まれていることとなります。 〔結論〕 従業者引継要件を満たします。 ◆支配関係がある場合の適格合併の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件においては、原則として株式以外の対価を交付しないことが求められています。 発行済株式の3分の2以上を保有する場合には、少数株主に金銭を交付しても金銭等不交付要件を満たします。 支配関係継続要件は同一の者による支配関係がある場合に求められ、当事者間の支配関係がある場合には求められていません。 合併後に次の合併が見込まれている場合には留意が必要です。 被合併法人の合併直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が、合併法人の業務に従事することが見込まれているかを確認します。 被合併法人の主要な事業が、合併後に合併法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 (了)
企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第17回】 (最終回) 「会計で「ココロのマニュアルモード」をオンにする」 公認会計士 石王丸 香菜子 *資料* A社とB社はPN社と同業の大手企業である。A社・B社とPN社の直近の利益は以下の通りである。 *追加資料* A社・B社とPN社の直近の決算書概要は以下の通りである。 * * * 1 電子レンジのオートモードは万能か 最近の電子レンジは高性能ですね。ご飯や飲み物を温める際、出力や時間を考えることなく、スイッチ1つ押して電子レンジのオートモードにお任せです。しかし、オートモードに頼ってばかりいる主婦は(・・・誰ですか?)、たまにミスをしてしまうのです! ほんの少量残ったご飯を電子レンジに入れて、うっかりオートモードを押すと・・・、アチチ、やけどするくらい熱い! ほかにも温めすぎで固くなってしまうこともありますよね。温めるものが極端に少量の場合、電子レンジが温度を正しく検知できず過度に加熱してしまうことがあるようです。たいていの場合はオートモードに任せてよいのですが、場合によっては、マニュアルモードを使う必要があるのですね。 電子レンジと同じように人のココロにも、「オートモード」と「マニュアルモード」のような2つのシステムがあると考えられています。 1つ目のシステムは、自動的・無意識的に高速で働く、オートモードのようなシステムです。このシステムは、情動的・直感的で、自分でコントロールしている感覚はなく、努力をほとんど必要とせずに働きます。例えば、突然大きな音が聞こえた時に音のした方向を感知する、「1+1=」と見ると反射的に「2」と思い浮かべてしまうなどは、このシステムの働きです。 2つ目のシステムは、意識して制御的に働かせる、マニュアルモードのようなシステムです。このシステムは、合理的・論理的な判断や思考を行うことができるのですが、働かせるのに努力や注意が必要で、反射的に高速で処理することはできません。例えば、騒がしい場所で小さな特定の音に耳を澄ます、「123×456」を短時間で筆算するなどのタスクを行う際には、こちらのシステムを働かせます。 心理学では、前者のオートモードのようなシステムを「」、後者のマニュアルモードのようなシステムを「」と呼ぶことがあります。システム2を働かせるには努力が必要なので、通常はシステム1が自動的に働き、日常的な判断や意思決定などにうまく対処しています。システム1ではうまく対処できない複雑なことに遭遇すると、システム2が駆り出されることになります。 電子レンジのオートモードと同様、システム1の対応はたいていの場合は正しいのですが、システム1の対応にはバイアス(特定の状況で決まって起きる系統的なエラー)があるため、うまく対応できないことがあるのです。これまでの本連載で取り上げてきた様々なバイアスやフレーミング効果・アンカリングなどは、全てシステム1の性質と考えることができます。 さて、カズノ君は、初めに、同業大手企業とPN社の利益の金額だけに注目したようですね。「利益」はわかりやすく、誰もがまず注目する指標ですので、システム1は「利益の金額が大きい」=「収益性が高い」と直感的な判断をしてしまいます。ここで、システム2の力を借りてみましょう。 2 利益を稼ぐのに使った元手も考える A社とB社の当期純利益は、どちらも15,000百万円ですが、その収益性は同じと言えるでしょうか。企業の収益性を図るには様々な指標がありますが、ここではを考えましょう。自己資本利益率は、自己資本(純資産)に対する当期純利益の割合を言います。 企業は、自己資本(=株主資本)と他人資本(=負債)の両方を元手として事業を行っています。他人資本について利息を支払い、税金も引いた後の当期純利益が、株主に帰属する利益です。つまり、ROEは、株主が拠出した元手を使って、株主に帰属する利益をどのくらいあげることができたかという収益性を示しています。 それでは、3社のROEを計算してみましょう。 A社とB社の当期純利益は同じですが、A社のROEは非常に大きく、元手に対して効率的に利益をあげていることがわかりますね。PN社のROEはA社には及びませんが、B社よりも高くなっています。 ちなみに、日本企業のROEの水準は、近年は改善傾向にあるものの、欧米企業のROEの水準と比較すると低いことが問題視されています。2014年に経済産業省から公表されたいわゆる「伊藤レポート」では、日本企業のROEの目標水準を8%とすべきとされて話題になりました。 また、ROEは次のように分解することで、詳しく分析することができます。 さらに、3社のROEを分解してみましょう。 A社では売上高利益率が高いことはもちろん、レバレッジも高い(総資産に占める自己資本の割合が低めで、負債をうまく利用している)ことが高水準のROEに貢献していると分析できそうです。 このように自社のROEを分解し、各指標をさらに具体化して社内の各現場レベルでの目標に落とし込むと、収益性の向上に役立てることができます。 * * * ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 人のココロの中にあると考えられる2つのシステムのこと。自動的・無意識的に高速で働くシステム1の持つバイアスが、時として意思決定を誤る原因になる。 ▷ 自己資本に対する当期純利益の割合。株主から拠出された元手を使って、どれだけ効率的に利益をあげることができたのかを示す。 (連載了)
企業結合会計を学ぶ 【第23回】 「子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、子会社が親会社を吸収合併する場合の会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 個別財務諸表上の会計処理 1 概要 子会社が親会社を吸収合併する場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針209項、210項、440項)。 ◎親会社(吸収合併消滅会社) 親会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産、負債及び純資産の適正な帳簿価額を算定する。 ◎子会社(吸収合併存続会社) 【資産及び負債の会計処理】 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上する。 子会社は、親会社が所有していた子会社株式を自己株式として株主資本から控除する。 増加すべき株主資本は次のように会計処理する。 【株主資本】 移転された資産及び負債の差額は、純資産として処理する(企業結合会計基準42項)。 具体的には、結合分離適用指針84項(逆取得となる吸収合併の会計処理)に準じて会計処理する(結合分離適用指針408項)。 2 子会社が親会社から受け入れる資産及び負債の修正処理 前述のように、子会社(吸収合併存続会社)が親会社(吸収合併消滅会社)と合併する場合には、子会社の個別財務諸表上、原則として、親会社の適正な帳簿価額により資産及び負債を受け入れる会計処理を行う。 合併前に子会社が親会社に資産等を売却しており、当該取引から生じた未実現損益を連結財務諸表上、消去しているときは、子会社の個別財務諸表上、連結財務諸表上の金額である修正後の帳簿価額により親会社の資産及び負債を受け入れる(結合分離適用指針211項、439項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針211項)。 Ⅲ 連結財務諸表上の会計処理 1 会計処理 親会社と子会社との合併において、子会社が吸収合併存続会社(親会社が吸収合併消滅会社)となる場合は、企業集団の観点から取引の実態をみると、親会社を吸収合併存続会社とみなした吸収合併と同様に考えることができる(結合分離適用指針441項)。 このため、吸収合併が行われた後に子会社が連結財務諸表を作成する場合には、子会社の個別財務諸表における処理を振り戻し、親会社が子会社の非支配株主から株式を取得したものとした会計処理を行うこととし、合併以前の連結財務諸表における処理を合併後も継続するように会計処理することが適当と考えられている(結合分離適用指針212項、441項)。 具体的には次のように会計処理する。 2 子会社が連結財務諸表を作成しない場合の注記事項の算定基礎 吸収合併が行われた後に、子会社が連結財務諸表を作成しない場合は、結合分離適用指針212項に準じて算定された額を基礎として、親会社が吸収合併存続会社であるとみなした場合の個別貸借対照表及び個別損益計算書に及ぼす影響の概算額を注記する(結合分離適用指針213項)。 これは、合併後に子会社が連結財務諸表を作成しない場合は、経済的実態に即した情報が開示されなくなること、及び合併後も連結財務諸表を作成する場合との比較から、親会社を吸収合併存続会社とみなした場合の財務情報のうち、一定の事項について注記を求めるものである(結合分離適用指針441項)。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q20】 会社分割において、労働契約の承継に関して異議の申出ができるのは、どのような場合か 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 労働契約の承継に関して異議の申出ができるのは、承継される事業に主として従事する者(【Q15】参照)の労働契約について、分割契約又は分割計画に承継会社が承継する旨の定めがない場合、又は、承継される事業に主として従事する者以外の労働契約について、分割契約又は分割計画に承継会社が承継する旨の定めがある場合のいずれかに該当する場合となる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 異議の申出ができる場合 労働契約承継法(4条、5条)では、一定の場合に、会社分割時の労働契約の承継に関して、労働者に異議の申出の権利を与えている。 この「一定の場合」とは、次の①又は②のいずれかに該当する場合である。 ① 承継される事業に主として従事する者の労働契約について、分割契約又は分割計画に承継会社が承継する旨の定めがない場合 ② 承継される事業に主として従事する者以外の労働契約について、分割契約又は分割計画に承継会社が承継する旨の定めがある場合 つまり、会社分割による事業の承継によって、承継される事業に主として従事している者の労働契約が承継されず、又は、承継される事業に主として従事している者以外の労働契約が承継されて、これまで主に従事していた事業と切り離される不利益が生ずる可能性がある場合に、分割会社及び承継会社が決定した労働契約の承継に関して、当該対象となる労働者が反対意見を表明できるようにしているのである。 異議の申出の効果 前述の①又は②に該当する者が労働契約の承継に関して異議の申出をした場合は、前述の①に該当する労働者の労働契約については、分割会社に残ることなく承継会社に承継され、また、前述の②に該当する労働者の労働契約については、承継会社に承継されず引き続き分割会社に残ることとなる。 異議の申出の方法 異議の申出の方法は、分割会社から通知された異議の申出の期限日(以下、異議申出期限日)までに、書面によって行わなければならない。したがって、電子メール等で行うことはできない。 当該書面には、前述の①に該当する労働者については、労働者の氏名及び労働契約が承継会社に承継されないことについて反対である旨を、前述の②に該当する労働者については、労働者の氏名、当該労働者が承継される事業に主として従事する者以外に該当する旨及び労働契約が承継会社に承継されることについて反対である旨をそれぞれ記載する必要があるとされているが、異議の申出の理由を記載する必要はなく、仮に異議の申出の理由を求められたとしても、その記載の有無又は内容が、異議の申出の効力に影響を及ぼすことはない。 なお、厚生労働省より、以下の通り、異議申出書の例が示されている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 異議申出期限日 異議申出期限日は、分割会社が定めることとなるが、株式会社が分割をする場合で分割契約又は分割計画について株主総会の決議による承認を要するときは、分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日から当該株主総会の日の前日までの期間の範囲内で、株式会社が分割をする場合で分割契約又は分割計画について株主総会の決議による承認を要しないとき又は合同会社が分割をする場合は、分割契約又は分割計画に係る分割の効力が生ずる日の前日までの日で定めなければならない。 また、分割会社が異議申出期限日を定めるときは、労働者が異議の申出を行うか否かを判断する期間が必要となることから、労働者への書面による通知がなされた日と異議申出期限日との間には少なくとも13日間を置かれなければならないとされている。 なお、異議申出期限日は、労働者へ通知すべき事項の1つであるため、上記を踏まえて決定した日を書面で通知する必要がある。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第16回】 「譲渡による親族内承継」 税理士法人トゥモローズ 前回は親族内承継に係る株式の移転手段のうち「贈与」について詳細を説明したが、今回は「譲渡」による株式の移転について解説したい。 1 贈与と譲渡の比較 株式を次世代へ移転するに当たり、贈与とすべきか譲渡とすべきか、比較検討する必要がある。贈与に関するポイントは前回述べた通りであるが、譲渡のポイントをまとめると下記の通りである。 (1) 遺留分侵害額請求の回避 贈与による株式の移転の場合には、将来の相続において、後継者以外の相続人から遺留分侵害額を請求される可能性がある(※)。これに対して、譲渡による株式の移転の場合には、適切な対価で譲渡されている限り、将来の相続で後継者以外の相続人から遺留分侵害額を請求されることはない。 (※) 平成30年の改正民法(相続法)により、令和元年7月1日以後発生の相続からは、従来の遺留分減殺請求に代わり、金銭の請求権である遺留分侵害額請求権が認められることとなった。 (2) 譲渡対価の準備 譲渡により株式を取得する後継者は、その譲渡対価相当の資金を用意する必要がある。一般的には新会社を設立の上、ファンドや金融機関から資金を調達するケースが多い。 (3) 譲渡に対する課税 譲渡の場合に発生する税金は、譲渡人である現経営者の含み益部分に対する譲渡所得課税のみである。ただし、低額譲渡と認定された場合には、譲受人である後継者に対するみなし贈与課税の可能性もある。このため、譲渡対価の設定には細心の注意が必要である。 なお、贈与と譲渡の長所・短所を比較すると、下記の通りである。 2 低額譲渡の課税関係 非上場株式を譲渡する際、「その譲渡対価をいくらにすべきか」という問題が生じる。親族内承継における譲渡対価には、恣意性が介入しやすく、第三者との譲渡に比べその対価の設定について税務当局から指摘を受ける可能性が高くなる。 以下では、通常の取引価額よりも著しく低い価額での取引(以下「低額取引」)をした場合の課税関係について、親族内承継の場合に想定できるケースを以下にまとめる。 (1) 個人(現経営者)⇒個人(後継者) 「個人」から「個人」に対して非上場株式を低額譲渡した場合の売主及び買主の課税関係をまとめると、以下の通りである。 売主である個人は、実際に受けた対価が譲渡所得課税の対象となる。これに対し、買主である個人については、時価と対価の差額につき、みなし贈与として贈与税が課税される。 (2) 個人(現経営者)⇒法人(後継者の設立した法人) 「個人」から「法人」に対して非上場株式を低額譲渡した場合の売主及び買主の課税関係をまとめると、以下の通りである。 売主である個人は、時価で譲渡したものとみなして、すなわち、譲渡所得計算上、実際に受け取った対価ではなく時価を譲渡対価として、譲渡所得を計算することとなる。 なお、みなし譲渡課税に該当するかどうかの線引きは、時価の1/2未満かどうかである。すなわち、時価の1/2未満の対価での譲渡はみなし譲渡課税の対象となり、時価の1/2以上の対価での譲渡はみなし譲渡課税の対象とはならない。ただし、同族会社の行為計算の否認に該当する場合においては、時価の1/2未満であってもみなし譲渡課税の対象となる可能性もあるので注意が必要である。 なお、買主である法人については、常に時価にて受け入れるため、時価と対価の差額(受贈益)について法人税が課税される。 (了)
令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第5回】 「自身の“ものさし”が経営の邪魔をしていませんか」 ~リーダーに必要な条件とは~ (組織論①:リーダーシップ編) 株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊 おそらく先生方もご存知でしょうし、私が大好きで尊敬する「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・ドラッカー博士の著書『ポスト資本主義社会』より、上記の文章を引用させていただきました。 引用文からわかるとおり、今回のテーマは「組織論」、その中でも「リーダーシップ」についてお話させていただきます。 ➤存在しているだけの「楽譜」には意味がない まず、ドラッカー博士の言葉にある「楽譜」こそ「経営理念、ミッション、ビジョンそしてバリュー」そのもの、そしてオーケストラを見事に奏でさせる「指揮者」は経営者である「所長先生」そのものである、と本稿では定義させてください。 ところで、先生の事務所には「楽譜」、つまり、経営理念やビジョン、ミッション、そしてバリューを掲げていらっしゃいますか? この問いについては、本連載の【第2回】の「ブランディング論」、【第3回】及び【第4回】の「マーケティング論」でお話させていただきました。 実際のところ、多くの事務所にみられるのは、その「楽譜」がただ存在するだけということです。 これらは発信されてこそ活きるもの、浸透されてこそ価値のあるものではないでしょうか? それではどのように発信し、浸透させるのでしょう。 ➤ホームページに命を吹き込む 例えば、現代では多くの事務所がホームページを作成しています。 そのホームページが、ただ飾られるだけ、存在するだけになっていませんか? ただ飾られているだけ、存在するだけとは「更新されていないこと」を指しています。 更新されていないのであれば、むしろホームページはないほうが良いとさえいえます。 ホームページが「事務所の生命」だと考えれば、その状態では息をしていないことになり、活力を感じないことは、ホームページを訪ねてくる取引先や見込み顧客、そして見込み顧客ともいえる採用候補者にもそのように映るのです。 事務所が「生き物」であるとすれば、毎日、毎月、毎年、刻々と変化しています。 その変化をこの世に伝える使命を受けているのは、まさにこのホームページであり、そのホームページに命を吹き込むのは、経営者である所長先生しかいません。 私は毎月経営者として、「column」を会社のホームページ上で発信しています。 「毎日は無理。途中で挫折するならやらないほうが良い。1年に一度では息をしていないのと同じ。毎月ならば負担なく更新できる」そう考えて、毎月楽しく経営者としての生き様を伝えるツールとして活用しています。 リーダーとして、この世に自身の生き様、価値観、思考を説くことはリーダーシップに繋がりませんか? 文章など短くとも長くとも構わない、格好をつけずとも、飾らない自分の言葉で語る姿こそ、顧客にそして社員にも響く、リーダーシップそのものではないでしょうか。 更新を続けることでSEO対策などせずとも検索上位に顔を出す、ホームページから研修の依頼が舞い込む、そんなこともあるのです。 本稿が、もう一度事務所のホームページの現状について考えていただくきっかけになれば幸いです。 ➤「何となく」で行う習慣を見直す また、以前はよく朝礼で、経営理念やビジョン、ミッション、そしてバリュー(ここでは「行動規範」とさせていただきます)を社員全員で読み上げる、そんな光景もありました。 今でもそのような朝礼を実施されている事務所もあろうかと思います。 「楽譜」の浸透を図ろうとする意味では全く否定はしませんが、少し首を傾げるとすれば、その朝礼そのものが形骸化していませんか、ということです。 何となく朝の儀式であり、何となく全員で声を出して読み上げる、何となくその日の担当者が昨日の出来事や諸注意事項などの一言を述べ、何となく最後に所長先生が「今日も頑張ろう!」と締める・・・。その場面を少し客観的に、冷静に見たときに、それに「気」を感じることができますか? 「「気」を感じることができない」「何となく儀式として続けている」ただそれだけであれば、むしろいっそのことやめてしまうことも考えるべきです。 いくら朝礼のテーマが「楽譜」の浸透であったとしても、その「楽譜」をもとに音を奏でて「曲」になっていなければ意味がありません。 それでは、どのようにすれば音を奏でて「曲」となるのでしょうか。 例えば、「楽譜」を社員が正々堂々と顧問先に語る姿があり、新たな見込み顧客に所長先生が、威風堂々と事務所の「楽譜」を語る、さらに演奏する社員1人ひとりが、演奏を指揮する指揮者である所長先生が、常にどんな時も「楽譜」と同じ立ち居振る舞いをする。その振る舞いが「曲」となり、その演奏会の聴衆者である顧客が評価をします。そこに「また聴きたい」という強い想いがあれば、事務所から顧客は離れないでしょう。その「聴きたい」という想いは、その顧問先の成長の実感そのものなのではないでしょうか。 ➤「絵に描いた餅」とならないために 「先生」と呼ばれる方は、顧客にとってはまさに経営者の見本、教本として、経営を指南していく立場であり、立派な経営資源である「楽譜」を発信する立場にあろうと私は信じています。 さて、そんな私もその「楽譜」が見本となるように、聖書として「マスタープラン」と称した「経営計画書」を肌身離さず持ち歩いています。本稿が公開される8月がまさに会社の決算ですが、そのファイルはすでにボロボロです。 なぜボロボロなのか? それは毎日、毎週、毎月読み返し、自分の立てた「楽譜」どおりに行動できているのかを確認しているからです。 「絵に描いた餅」となるのは恥ずかしいため、振り返りは怠りません。 だからこそ、私の「マスタープラン」の中にある、何のことはないパワーポイントのシートにでさえ誇りを覚え、愛情すら感じます。 私にももちろん顧客がいますので、この「マスタープラン」自体が立派な教本です。 ➤リーダーに必要な3つの条件 さて、今回のタイトルでもある「リーダーに必要な条件」に、ここまで読んで気づいていただけましたでしょうか。 その1番重要な要素は「影響力」、つまり、「人を動かす力」にあります。 所長先生の存在が人を動かす力を持ち、所長先生の言動が人の行動を左右させる力です。 所長先生の生き様、価値観、思考がこの世に伝わっていますか? ポジティブならば思い馳せる憧れ、さらにネガティブならば妬み、僻み、ヤッカミなど、実はどれをとっても影響力の証なのです。 思い切って公然と、生き様、価値観、思考をこの世の中に発信してください。 そして2つ目に挙げるとするならば「鈍感力」、つまり、「ぶれない心」です。 所長先生を見本となるような経営者とさせていただくならば、生き様、価値観、思考が人の何十倍もタフです。 あえて「鈍感力」とさせていただいた理由、それは多くの経営者がとても社員想いで顧客想いだからこそ繊細に気遣える「敏感さ」をもって、自身の決断という鉈を振り下ろす方々だからです。 その「敏感さ」はとても大切ですが、その「敏感さ」が悪い方向に働くと、信念すら曲げてしまいかねない言動となって、一貫性がぶれかねません。とくに、窮地の時にこそ人間は弱くなるものです。 そして、本来の自分と違う言動は、得てして「虚像」であると、周りの人は見透かすものです。 敏感な自分に気づいた上で、あえて「鈍感力」を首尾一貫して持って、ぶれない心で経営にあたってください。もちろん、間違っていることがあれば、それはしっかりと謝罪してください。 さて、3つ目は「決断力」です。考えてから動くのでなく、今の時代は考えながら動く必要があります。 今やスピード重視の時代です。 先生方の仕事は精緻を極めるかもしれませんが、相反関係であるスピードと正確性を、経営者がどちらか一方しか選択できないのであれば、スピードを選択するべきだと思います。 案外、経営者の勘は外れていないと言われていますが、繊細さが邪魔をして、躊躇することで、奇想天外で斬新なアイデアがこの世に出ないことすらあります。 したがって、「自分にNOを作らない」「まずは挑戦してみる」ということが、先生方にとって、意外にも1番の決断なのかもしれません。 * * * ここまで述べたような、先生自身の既存の“ものさし”が経営の邪魔をしていませんか? 先生の事務所経営の常識が、経営的には非常識の場合もあるかもしれません。 これらについて一度、疑いの目を向けてみて、そこに新しい発見があれば、本稿の役目は果たせたと思っています。 (了)
2019年8月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.330を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。