《速報解説》 企業会計審議会、「監査基準の改訂に関する意見書」を公表 ~監査上の主要な検討事項(KAM)記載は原則平成33 年3月決算分から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年7月5日付で(ホームページ掲載日は平成30年7月6日)、企業会計審議会は、「監査基準の改訂に関する意見書」を公表した。これにより、平成30年5月8日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」を記載することなど、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させるものである。 意見書の公表に際して、公開草案に対する「コメントの概要及びコメントに対する考え方」(以下「コメント対応」という)も公表されているので、改訂監査基準の理解に資するものと思われる。 また、平成30年7月5日に開催された企業会計審議会の「資料3 監査基準の改訂について(公開草案からの修正箇所)」では、公開草案からの修正箇所が示されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「監査上の主要な検討事項」に関する主な改正内容 1 監査上の主要な検討事項 「監査上の主要な検討事項」とは、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項をいう。国際監査基準では、KAM(Key Audit Matters)として規定されているものである。 今回の「監査基準」の改訂に際しても、監査報告書における監査意見の位置付けは、従来と変わりはなく、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は監査意見とは明確に区別されるものである。 監査報告書の記載に際しては、「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、次の事項を記載する。 「監査上の主要な検討事項」のイメージは、企業会計審議会の「資料1「監査報告書の透明化」について」(平成29年10月17、金融庁)の15ページから17ページが参考になる。 「コメント対応」では次のことが記載されている。 2 「監査上の主要な検討事項」と企業による開示との関係 企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、経営者による開示を代替するものではない(二、1(5))。 監査人が「監査上の主要な検討事項」を記載するに当たり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。 監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待されている。 3 「監査上の主要な検討事項」と公共の利益 監査人は、「監査上の主要な検討事項」の記載により企業又は社会にもたらされる不利益が、当該事項を記載することによりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限り、「監査上の主要な検討事項」として記載することが適切である(二、1(5))。 財務諸表利用者に対して、監査の内容に関するより充実した情報が提供されることは、公共の利益に資するものと推定されており、「監査上の主要な検討事項」と決定された事項について監査報告書に記載が行われない場合は極めて限定的であると考えられている。 Ⅲ 監査報告書の記載区分等に関する主な改正内容 監査報告書の記載区分等に関して次の改訂を行う。 「経営者及び監査役等の責任」として、「監査役等には、財務報告プロセスを監視する責任があること」が記載される。 「監査役等の責任」の記載は、監査役等の責任を拡大させるものではなく、経営者による職務の執行を監査するというこれまでも監査役等が担っている役割の一部として、財務報告プロセスを監視する責任があることについて、監査報告書においても明確に記載するものと考えるとのことである(「コメント対応」No.67~69)。 Ⅳ 実施時期等 (了)
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《速報解説》 改正産業競争力強化法、施行は平成30年7月9日に ~株式対価M&Aに係る課税繰延べの特例が開始、 認定経営革新等支援機関は5年ごとの更新制へ~ Profession Journal編集部 既報のとおり先月(6月6日)に施行された生産性向上特別措置法に続き、産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行日が平成30年7月9日となることが、本日(7/6付)の官報号外第147号掲載の産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令において明らかとなった。 産業競争力強化法は日本経済を再生し産業競争力を強化することを目的に平成26年1月から施行され、規制改革や産業の新陳代謝を目的とした施策が行われていたが、改正法(5月23日に公布)では産業構造や国際的な競争条件の著しい変化を受け政府が昨年12月に取りまとめた「新しい経済政策パッケージ」に基づき、新たな施策の追加や見直し等が行われており、産業競争力強化法の他にも中小企業等経営強化法や経営承継円滑化法など関連する複数の法改正が含まれている。 なお今回の施行期日確定に伴い、産業競争力強化法施行規則の他、関係する政令及び府令・省令、告示なども官報同号において公布されている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 経済産業省ホームページより 今回の改正法において税制に関係するものとしては、特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る所得の計算の特例(措法66の2の2、措令39の10の3)を受けるために必要な「特定事業再編計画」の認定制度に関する規定が織り込まれているほか、中小企業向けの施策として「経営力向上計画」の対象にM&A等による事業承継を伴うものを追加することで登録免許税・不動産取得税の特例(軽減税率)が受けられるよう中小企業等経営強化法の一部改正が行われており、これらの特例措置についても改正法の施行の日である7月9日からスタートすることとなった。 また上述の改正中小企業等経営強化法では、6月には認定機関の数が29,188となりその7割以上を税理士(及び税理士法人)が占める経営革新等支援機関制度について、中小企業の経営課題の複雑化及び認定を受けたものの直近1年間で認定支援業務を行っていない者が約3割存在するとの状況を踏まえ、認定期間に5年の有効期間を設け、期間満了時に改めて業務遂行能力を確認する更新制が導入されるとともに、認定廃止の届出制度等について整備されることとなった。 (※) 既に認定を受けている経営革新等支援機関については、施行日から概ね5年以内に順次認定の有効期限がくるよう経過措置が規定される。 (了)
2018年7月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.275を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.66- 「進む“プラットフォーマー”からの情報入手の議論」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 働き方改革法が成立した。非正規雇用の処遇改善(同一労働・同一賃金)や長時間労働の是正、さらには高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す高度プロフェッショナル制度などがこれから実行に移される。 働き方のもとで兼業・副業、クラウドワーカーが増えてくると、給与所得者と個人事業者の区分があいまいになり、給与所得・事業所得・雑所得などの所得分類も、税負担の公平という観点から問題が生じる。 このことについては、2017年2月掲載の本連載No.49「シェアリングエコノミーと税制」において一度問題提起している。シェアリングエコノミー、ギグエコノミーの発達の下で生じる税や社会保障の問題を真剣に検討すべきだという内容である。 今回は、そのことを踏まえたうえで、デジタル経済の主役ともいうべき「プラットフォーマーの責任」という観点からこの問題をとらえてみたい。 * * * 働き方改革が進んでいくと、不特定多数の人(クラウド)に業務を外部委託(アウトソーシング)するクラウドソーシングという形態のもとで働く人々が増加してくる。副業・兼業の推奨もあり、クラウドワーカーの数は飛躍的に増加しつつある。2017年度にはその規模は1,500億円にも達するという。 一方、彼ら・彼女らには、最低賃金法も適用されず、長時間労働のもと低賃金で働いているケースも多いという。また企業の福利厚生制度や社会保険制度も適用されないことが多く、社会保障・セーフティーネットの観点から多くの問題が指摘され始めている。 彼ら・彼女らのセーフティーネットを考える場合には、まずは彼らの所得実態を把握することが必要となる。これは徴税のためというより、効果的・効率的な社会保障の提供のためである。 こういう問題の中心的な責任を担うのは、仲介の場を提供し手数料を得るプラットフォーマーであろう。プラットフォーマーは、クラウドワーカーへの支払いなどを電子的に記録・保存していることが一般的なので、それをマイナンバーと紐づければ正確な所得(収入)が把握できる。具体的には、一定規模以上のプラットフォーマーに、マイナンバーの付いた支払調書(資料情報)の制度を導入することである。 * * * 17年6月19日に開催された政府税制調査会の海外調査報告書には、「経済活動が多様化する中、適正公平な課税を実現していくためには、税務当局が、法定調書やそれ以外の方法により、必要な情報を収集できるような制度的な対応も必要となってくるのではないか。」と記載されている。 (※) 政府税制調査会資料を元に筆者加工。 実は、このような動きは、OECDのポストBEPSの中でも議論されている。3月に公表された中間報告書(Tax Challenges Arising from Digitalization - interim Report 2018, Chapter7. Special feature - Beyond the international tax rules)では、シェアリングエコノミーとギグエコノミーの発達の下で、オンラインプラットフォーマーが負うべき責任として、所得情報の提供が議論されているのである。 わが国でも年末にかけて議論が具体的になっていくのであろうか。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第44回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (3) 三社合併における適格判定について 平成21年1月29日に、国税庁文書回答事例として「三社合併における適格判定について」が公表された。 平成17年改正前商法では、2社以上の法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合には、全体が適格合併に該当するかどうかで判断すべきとしていたが、会社法施行後は、会社法上、 と解されるようになった(※1)。 (※1) 郡谷大輔ほか『会社法の計算詳解(第2版)』382頁、中央経済社。 そのため、本文書回答事例でも、①3社合併が行われた場合には、個々の合併ごとに税制適格要件の判定を行い、②3社合併が行われた場合において、当該3社合併に係る個々の合併に順序が付されているときは、その順序に従って個々の合併ごとに税制適格要件の判定を行うことが明らかにされた。そして、個々の合併に順序が付されている場合として、第1合併の効力発生を第2合併の実施に係る停止条件とすることにより、第1合併の効力発生がないと第2合併の効力が発生しないような契約内容とする場合が、具体例として挙げられている。 これに対し、新設合併とは、2以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものとされている(会社法2二十八)。そのため、新設合併の場合には、2社間の取引とは考えずに、3社の被合併法人の間の取引と考えるため、全体として、税制適格要件を満たすか否かにより判定を行うことになる。 このような考え方は、会社分割、株式交換及び株式移転を行った場合であっても同様である。 (4) 投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について ① 事業性 平成21年3月19日に、国税庁文書回答事例として「投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について」が公表された。 リーマンショックにより投資法人の合併を進める必要があったためであるが、法人税法施行規則に規定された事業の定義について、 としている。 そのため、これを他の事案に当てはめることができるのか、具体的には、不動産賃貸業においても同様に取り扱うことができるのか、ゴルフ場や温泉旅館のように資産保有会社と事業会社を分けている場合の当該資産保有会社においても同様に取り扱うことができるのかが問題となる。しかし、実際には、固定施設がなかったり、従業者が存在しなかったりする場合であっても、事業関連性要件が認められている事案が少なくない。 この点につき、会社法上、事業とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産であると解されている(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)。そして、平成17年改正前商法の時代では、現行会社法と異なり、事業の全部又は一部の移転に該当しない限り、会社分割を行うことができないと解されていたため(平成17年改正前商法373、374の16)、反復継続的に売上げが計上されているかどうかが意識されていた。 これに対し、法人税法施行規則3条1項1号に規定する事業の定義は、法令上の明確化のために、平成19年度税制改正により導入された規定であると解されている。そのため、平成19年度税制改正前と事業の定義は変わっていないと考えるべきである。そのように解するのであれば、本文書回答事例により、事業の定義が緩やかに解されたのではなく、もともと緩やかに解する余地があったとすべきである。 そのため、会社法上、事業性が否定されないのであれば、法人税法上も事業性を否定すべきではなく、他の業種であっても、投資法人と同様に事業性を緩やかに解することができると考えられる。 ② 従業者引継要件 さらに、本文書回答事例では、従業者引継要件の解釈についても、 としており、柔軟な解釈が公表されている。 ところで、地方税法では、角田晃「都道府県税関係 会社分割における従業者要件の判定 : 不動産取得税の課税・非課税をめぐって (ここが知りたい最新税務Q&A)」税 68巻2号71頁(平成25年)において、従業者引継要件は従業者が存在する場合にのみ要求される要件であり、従業者が存在しない場合には要求されないという解釈が示されている。当時の角田氏は、東京都主税局資産税部固定資産税課不動産取得税係であったことから、地方税法(不動産取得税)では、従業者が存在しない不動産賃貸業であっても、従業者引継要件に抵触しないという見解が有力になった。 これを法人税法にも当てはめることができるのかは賛否両論が考えられる。この点については、不動産取得税が100%グループ内の再編であっても従業者引継要件を満たす必要があるのに対し、法人税法では100%グループ内の再編では従業者引継要件を満たす必要がないことから、実際のニーズがそれほど多くはなく、敢えてチャレンジをする納税者や公式見解の公表を望む納税者が存在しなかったことから、本稿校了段階では、依然として国税庁による公式見解は公表されていない。 * * * 次回では、平成22年1月に作成され、本稿校了段階において、TAINSに収録されている「組織再編税制の手引」について解説を行う予定である。 (※) 平成21年3月31日に関東信越国税局文書回答事例「株式移転後に株式移転完全子法人を合併法人とする適格合併が見込まれている場合の当該株式移転に対する適格判定について」が公表されているが、平成29年度税制改正により無意味な内容となったため、本連載では解説を行わない。 (了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第1回】 「『所得拡大促進税制』の改組(その1:大企業向け)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 ~はじめに~ 連結納税適用法人を対象に平成30年度税制改正の概要を解説したい。 連結納税適用法人に関する税制は、次の4種類に分類される。 平成29年度税制改正では、連結納税特有の取扱いに関する改正として、「連結納税開始・加入時の時価評価の対象から帳簿価額が1,000万円未満の資産(自己創設営業権等)を除外する」と「スクイーズアウトにより完全子法人化した連結子法人が特定連結子法人に該当する」という改正が実現したが、平成30年度税制改正では、時価評価や連結欠損金など連結納税特有の取扱いに関する改正は行われていない。 平成30年度税制改正は、デフレ脱却と経済再生に向け、生産性向上のための設備投資と持続的な賃上げを強力に後押しする観点から、十分な賃上げや国内設備投資を行った企業について、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができる措置を講じるとともに、情報連携投資について、特別償却又は税額控除ができる措置を講ずることになった(所得拡大促進税制の改組及び情報連携投資等促進税制の創設)。 また、所得が増加しているにもかかわらず、 賃上げや設備投資をほとんど行っていない大企業については、研究開発税制等、生産性の向上に関連する税額控除が適用できないことになった(大企業に対する租税特別措置の適用除外措置の創設)。 これらについて、連結納税制度においても単体納税制度と同様の改正が行われているが、所得拡大促進税制や大企業に対する租税特別措置の適用除外措置については、連結グループ全体での適用が行われるなど、単体納税とは異なる取扱いが生じることになる。 また、生産性向上の推進や官民あわせたコスト削減の観点から、資本金1億円超の大企業について、平成32年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税、消費税、地方税等の電子申告が義務化されることになり、連結納税制度では、単体納税における電子申告とは異なる連結納税特有の論点が生じることになる。 そこで、本稿では、連結納税制度に関係する改正項目について、その具体的な取扱いと実務に与える影響を単体納税と比較しながら解説していくこととする。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 [1] 『所得拡大促進税制』の改組 改正前の所得拡大促進税制について、適用要件のうち、賃金上げ要件を見直すとともに、新たに、設備投資要件を加えた。また、税額控除額について、平成24年度からの給与の増加額を改め、前年度からの給与の増加額を税額控除の対象とするとともに、税額控除割合を向上させ(法人税額基準額も拡大させ)、さらに、教育訓練費要件を満たした場合は税額控除額を上乗せする仕組みに改正した。 連結納税における所得拡大促進税制については、単体納税における取扱いと比較するとわかりやすいが、改正後も改正前の制度と同様に、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 具体的には、改正後の連結納税における所得拡大促進税制について、単体納税における取扱いと比較すると次のようにまとめられる。 なお、改正後の所得拡大促進税制は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度から適用される(平成30年所法等改正法附則86、108①)。 1 所得拡大促進税制(大企業向け) (了)
〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第3回】 「贈与税の納税猶予制度の特例(その2)」 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳 3 贈与税の申告 (1) 期限内申告・担保の提供 特例措置の適用を受ける特例経営承継受贈者(後継者)は、この制度の適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書及び、当該非上場株式等の明細及び納税猶予分の贈与税額の計算に関する明細、その他財務省令で定める事項を記載した書類を添付して提出しなければならない(措法70の7の5⑤)。 上記の「その他財務省令で定める事項を記載した書類」としては、特例認定贈与承継会社の定款、贈与の直前及び贈与の時における株主名簿、円滑化法認定における認定書及び申請書、特例承継計画の確認に関する確認書及び申請書、贈与契約書などが規定されている(措規23の12の2⑭)。 申告期限は、一般措置と同様に贈与を受けた年の翌年の3月15日であり、当該申告期限までに納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供する必要がある。この担保について、特例措置の対象となるすべての株式を担保として提供した場合には、担保の額が当該納税猶予分の贈与税額に満たないときであっても、納税猶予分の贈与税額に相当する担保が提供されたとみなされる(措法70の7の5④)。 (2) 納税猶予分の贈与税額 特例措置において納税が猶予される贈与税額は、特例対象受贈非上場株式等の価額を特例経営承継受贈者に係るその年分の贈与税の課税価格とみなして、贈与税額を計算した金額とされている(措法70の7の5②八)。 仮に、特例対象受贈非上場株式等(評価額10億円)と500万円の現金を同一年に贈与された場合、次のとおり、贈与税の納税猶予額は542,995,000円、納付すべき贈与税額は2,750,000円となる。 4 相続時精算課税制度 (1) 適用対象者の拡大 平成29年度改正において、事業承継税制の納税猶予が取り消された場合の贈与税負担を緩和することを目的とし、贈与税の納税猶予と相続時精算課税制度の併用が可能となった(措法70の7②五ロ)。 平成30年度改正においては、事業承継税制の適用対象者が拡大された(前回参照)ことを受けて、相続時精算課税制度についてもその適用範囲が拡大され、特例措置による贈与に限り、受贈者が贈与者の推定相続人又は孫でない場合においても相続時精算課税制度を選択することが可能とされた(措法70の2の7)。 したがって、先代経営者及び配偶者からの贈与に限らず、おじ・おば等の同族関係者から特例措置による贈与を受ける際にも相続時精算課税制度を選択することが可能となった。 今回の改正により、親族外の後継者に対して贈与税の納税猶予を適用する場合においても相続時精算課税制度の選択が可能となったわけであるが、特例贈与者が死亡したときは、納税猶予の適用を受けた非上場株式等を特例経営承継受贈者が遺贈により取得したものとみなして、相続税を計算することとされている(措法70の7の7)。 納税猶予を適用することで、非上場株式等を承継しない他の相続人の相続税負担が相対的に増加する結果となることから、実務上は特例措置による親族外承継が活用されるケースはそう多くないことが予想され、相続時精算課税制度についても親族間の特例贈与の場合に選択されるケースが中心になるものと予想される。 (2) 納税猶予分の贈与税額 上記3(2)のケースにおいて、特例経営承継受贈者が相続時精算課税を選択した場合の納税猶予額は195,000,000円、納付すべき贈与税額は1,000,000円となる。 5 納税猶予期限の確定事由 特例措置の適用を受けた非上場株式等については、贈与税の申告後も継続保有することにより、納税猶予が継続することとなる。したがって、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡するなど一定の事由が生じた場合には、納税が猶予されている贈与税の全部又は一部について納税猶予の期限が確定し、猶予税額を利子税と併せて納付しなければならない(措法70の7の5③)。 納税猶予の確定事由については、雇用確保要件以外は一般措置と同様であるため、主要なもののみ挙げることとする。 6 雇用確保要件 (1) 年次報告書の提出 特例認定贈与承継会社は、当該認定に係る贈与税の申告期限から5年間、贈与税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日(以下「第一種贈与報告基準日」という)の翌日から3月を経過する日までに、常時使用する従業員の数や、特例認定贈与承継会社が資産保有型会社又は資産運用型会社に該当しないこと等を都道府県知事に報告(【様式第11】)しなければならない(円滑化規則12①)。 一般措置においては、平成30年度改正後も認定を受けた中小企業者が5年間で平均8割の雇用を維持することができなかった場合は認定取り消し(円滑化規則9②三)となるため、従業員数確認期間(経営贈与承継期間と同様、贈与税の申告期限の翌日以後5年を経過する日をいう)の末日から2月を経過する日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額と利子税を納付しなければならない(措法70の7③二)。 一方、特例措置においては、一般措置において雇用確保要件が規定されている租税特別措置法70条の7第3項2号を除いて一般措置を準用することとされており、5年間で平均8割の雇用を維持することができなかった場合でも納税猶予の期限が確定しないこととされた(措法70の7の5③)。 (2) 都道府県知事の確認 特例措置の適用を受けた場合において、特例贈与報告基準日(贈与税の申告期限の翌日から1年を経過するごとの日)におけるそれぞれの常時使用する従業員の数の合計を基準日の数で除して計算した数が、当該認定に係る贈与の時における常時使用する従業員の数に100分の80を乗じて計算した数を下回る数となった場合には、その下回る数となった理由について都道府県知事の確認を受けなければならない(円滑化規則20①)。 この確認を受けようとする場合には、当該認定に係る有効期限の末日の翌日から4月を経過する日までに、【様式第27】による報告書(※1)を都道府県知事に提出する必要がある(円滑化規則20③)。 (※1) 従業員の数が100分の80を下回る数となった理由について、認定経営革新等支援機関の所見の記載があり、理由が経営状況の悪化である場合又は認定経営革新等支援機関が正当なものと認められないと判断したものである場合には、認定経営革新等支援機関による経営力向上に係る指導及び助言を受けた旨が記載されているものに限る。 道府県知事は、上記の報告を受けた場合において、確認をした時は、【様式第28】による確認書を交付し、確認をしない旨を決定したときは【様式第29】により申請者である特例認定贈与承継会社に対して通知をしなければならないこととされている(円滑化規則20⑭)。 (3) 継続届出書の提出 特例措置の適用を受ける特例経営承継受贈者は、特例経営贈与承継期間内(5年間)は毎年、その期間経過後は3年ごとに、継続届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の5⑥)。 その際、上記(1)の年次報告書と、雇用確保要件を満たすことができていない場合には上記(2)の報告書及び道府県知事の確認書(様式第28)を継続届出書に添付しなければならない(措令40の8の5⑳、措規23の12の2⑮六)こととされた。なお、特例措置に係る継続届出書の様式は、本稿執筆現在、国税庁ホームページにおいて未公表である。 継続届出書が届出期限(第一種贈与基準日(※2)の翌日から5月を経過する日及び第二種贈与基準日(※3)の翌日から3月を経過する日)までに納税地の所轄税務署長に提出されない場合には、届出期限の翌日から2月を経過する日をもって同項の規定による納税の猶予に係る期限となり、猶予されている贈与税の全額と利子税を納付する必要がある(措法70の7の5⑥⑧)。したがって、雇用確保要件を満たせていないことについて道府県知事の確認が受けられた場合には納税猶予が継続され、確認が受けられなかった場合には、納税猶予の継続が認められず納税猶予の期限が確定することとなる。 (※2) 「第一種贈与基準日」とは、贈与税の申告書の提出期限の翌日から1年を経過するごとの日をいう(措法70の7の5②九イ)。 (※3) 「第二種贈与基準日」とは、特例経営贈与承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日をいう(措法70の7の5②九ロ)。 7 事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除 特例経営贈与承継期間の末日の翌日以後に、事業の継続が困難な事由として政令で定める事由が生じた場合において、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等したときは、その対価の額(対価の額が時価の2分の1以下である場合には、時価の2分の1に相当する金額を下限とする)をもとに贈与税額を再計算し、再計算した贈与税額と直前配当等(配当金及び損金不算入となった役員給与)の額の合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除される(措法70の7の5⑫一~四)。 (※) 国税庁HP「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」より 上記の「事業の継続が困難な事由として政令で定める事由」とは、次に掲げる事由とする(措令40の8の5㉒)。 上記(a)の「収益の額が費用の額を下回る場合として財務省令で定める場合」とは、特例認定贈与承継会社の経常損益金額が零未満である場合をいう(措規23の12の2⑳)。 再計算された贈与税額と猶予税額との差額について免除を受けるための手続き及び再計算された贈与税について担保提供を行ったうえで改めて納税猶予を受けるための手続き等については、本連載の後段において詳述することとする。 * * * 次回からは、相続税の納税猶予制度の特例について解説する。 (了)
海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第4回】 「金融資産①(国外転出時課税の対象資産)」 -仮想通貨・FX取引の取扱い- 税理士・行政書士 島田 弘大 Question 私は来年、海外への移住を検討しています。現在、日本の上場株式や投資信託、未決済のFX(外国為替証拠金)取引、さらには仮想通貨も保有していますが、これらは国外転出時課税の対象資産に含まれますか。 Answer 1 はじめに 海外への移住を検討している日本の居住者(個人)が移住前に必ず検討しなければならない論点が「国外転出時課税」である。質問のように、日本の上場株式や投資信託、未決済のFX取引だけでなく、最近よく話題になる仮想通貨を保有している場合も国外転出時課税の対象になるのだろうか。 以下では国外転出時課税の概要とその対象を細かく検討する。 2 国外転出時課税の概要 国外転出時課税とは、平成27年度税制改正により新しく創設された税制で、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいう)をする一定の居住者が1億円以上の「対象資産」を所有等している場合には、その「対象資産」について譲渡又は決済があったものとみなして、「対象資産」の含み益に所得税が課税される税制である(所法60の2)。 繰り返しになるが、この税制は平成27年7月1日以後に国外転出する場合に適用される税制であることに留意したい。つまり、平成27年6月30日以前に国外転出した方については適用されないため、これから国外転出する方が必ず留意しなければならない税制ということである。 3 国外転出時課税の「対象資産」 上記のとおり、1億円以上の「対象資産」を所有等している場合に本税制が適用される。つまり、「対象資産」に何が含まれているかが非常に重要である。 所得税法60条の2第1項から3項では、国外転出時課税の「対象資産」について規定されている。細かく条文を確認していきたい。 (1) 所法60の2①~③で規定されている対象資産の範囲 ① まず所得税法60条の2第1項では、「有価証券」と「匿名組合契約の出資の持分」について規定している。 ② 次に同条2項では、未決済の「信用取引」と「発行日取引」について規定している。 ③ さらに同条3項では、未決済の「デリバティブ取引」について規定している。 (2) 所得税法における有価証券の定義 さらに、所得税法60条の2第1項の「有価証券」の定義については、所得税法2条1項17号で下記のとおり規定されている。 さらに金融商品取引法2条1項を見てみると、下記のとおり、その内容について限定列挙されている。 4 結論 さて、話を質問の内容に戻して、それぞれが国外転出時課税の対象資産に該当するか検討したい。 (1) 上場株式・投資信託 上場株式は上述の金融商品取引法2条1項9号、投資信託は同項10号に規定されているため、所得税法上の「有価証券」に該当する。つまり、国外転出時課税の対象資産に含まれることになる。 (2) 未決済のFX(外国為替証拠金)取引 上述のとおり、金融商品取引法に規定するデリバティブ取引は国外転出時課税の対象となる。本稿では金融商品取引法2条20項に規定するデリバティブ取引の内容は割愛するが、FX(外国為替証拠金)取引は金融商品取引法2条20項のデリバティブ取引に該当すると考えられるため、国外転出時課税の対象資産に含まれることになる。 (3) 仮想通貨 仮想通貨を保有している場合、仮想通貨が上述の金融商品取引法2条1項に限定列挙されている「有価証券」の範囲に含まれるかどうか検討することになるが、仮想通貨は金融商品取引法2条1項の各号いずれにも該当しない。つまり、現行法では国外転出時課税の対象資産には含まれないと考えられる。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第20回】 「非上場株式の譲渡が低額譲渡に当たるかについては、譲渡直前における譲渡人にとっての価値により評価するのが相当であると判断した事例」 税理士 佐藤 善恵 〔概要等〕 A社の代表取締役であった甲は、自ら所有していたA社株式をB社に譲渡した(以下、これを「本件譲渡」という)。 甲は、本件譲渡について、配当還元方式による評価額(1株当たり75円)を基に算定した金額を譲渡対価としたが、課税庁は、その株式の価額を所得税基本通達59-6(1)に基づき、譲渡直前の議決権割合を基準にして類似業種比準価額による評価額(1株あたり2,505円)であると認定した。そして、それをもとに低額譲渡(所法59①二)に当たるとして所得税の更正処分が行われた。 A社の評価通達上の会社区分が「同族株主のいない会社」に当たることについては、双方争いはない。 なお、甲は、これに係る所得税の申告期限前に死亡したため、同人の相続人らが準確定申告において上記内容の申告を行ったものである。 《本件譲渡前後のA社の株主構成%(発行済株式総数に対する割合)》 〔関係法令等〕 所得税法59条1項2号は、著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る)により譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の譲渡所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、その資産の譲渡があったものとみなす旨規定している。 所得税基本通達59-6は、所得税法59条1項に規定する「その時における価額」について、原則として、次によることを条件に、「財産評価基本通達」の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。 評価通達188は、同通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)の「同族株主以外の株主等が取得した株式」は、次のいずれかに該当する株式をいい、その株式の価額は、次項の定めによる旨を定めている。 〔納税者の主張(要旨)〕 ◆争点(1)①について 所得税基本通達59‐6は、評価通達188(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは、譲渡直前で判断すると定めているが、同通達(2)~(4)は同様の条件は規定されていない。そうすると、評価通達188(3)のうち「同族株主のいない会社」であるかどうかの判定は、所得税基本通達59-6(1)により株式譲渡直前の議決権の数により行うことになるとしても、「課税時期において株主の1人及び・・・15%未満である場合におけるその株主の取得した株式」は、その文言どおり、株式の取得者の取得後の議決権割合により行うのが相当である。したがって、・・・配当還元方式により評価すべきこととなる。 〔裁判所の判断〕 譲渡所得に対する課税は、元の所有者に課税する趣旨のものと解される。・・・譲渡所得の基因となる資産についての低額譲渡の判定をする場合の計算の基礎となる当該資産の価額は、当該資産を譲渡した後の譲受人にとっての価値ではなく、その譲渡直前において元の所有者が所有している状態における譲渡人にとっての価値により評価するのが相当であるから、評価通達188(1)~(4)の「取得した株式」を「有していた株式で譲渡に供されたもの」と読み替えるのが相当であり、譲渡直前の議決権の数によることが相当であると解される。 譲渡の時における価額の算定に適用する場合には、会社区分の判定においても、株主区分の判定においても、譲渡直前の譲渡人の議決権割合によるのが相当である。 本件株式の価額は、類似業種比準方式により評価すると1株当たり2,505円であると認められ、1株当たり75円を対価とする本件譲渡は低額譲渡に該当するから本件更正処分は適法である。 〔判断の分水嶺〕 譲渡直前を基準に判定すると判断されたことが結論に結びついている。 裁判所は、譲渡所得の伝統的解釈(譲渡所得の趣旨は、値上がり益の清算であること)を捉えて、譲渡する側の価値を基礎に評価する(すなわち、譲渡直前を基準にする)との考え方を明示しているのが特徴的である。この点が判断の分水嶺といえよう。 〔本判決が示唆するもの〕 本判決は控訴されており、未確定である。 (了)