経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第141回】 企業結合会計⑨ 「共同支配企業の形成」 仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① C社(共同支配企業)の個別財務諸表上の会計処理 ◆X1年4月1日 (※3-1) A社から移転されるa事業の資産の分割期日の前日における適正な帳簿価額 (※3-2) B社から移転されるb事業の資産の分割期日の前日における適正な帳簿価額 (※4) A社における移転直前の帳簿価額 ② A社(共同支配投資企業)の会計処理 ◆X1年4月1日 【個別財務諸表上の会計処理】 《②-1 a事業をC社へ移転》 (※5) a事業に係る株主資本相当額 【連結上の会計処理】 《②-2 b事業に対する55%の取得についてのれんの算定》 ⇒仕訳なし ただし、b事業に係るA社の持分増加額(55%)について、持分法適用上、のれんを算定する。 ⇒b事業に係るのれん=29.7(※6)-24.75(※7)=4.95 (※6) b事業に対して投資したとみなされる額=b事業の時価54×55%=29.7 (※7) b事業に係るA社の持分の増加額=取得時のb事業の諸資産の時価45×55%=24.75 《②-3 a事業に係るA社持分の減少(45%)による持分変動差額の算定》 (※8) a事業に係るA社の持分の減少(45%)により生じた差額=29.7(※9)-21.6(※10)=8.1 (※9) a事業が移転されたとみなされる額=a事業の時価66×45%=29.7 (※10) a事業に係るA社の持分の減少額=a事業の株主資本相当額48×45%=21.6 ◆X2年3月31日 【個別財務諸表上の会計処理】 ⇒仕訳なし 【連結上の会計処理】 《②-4 C社の当期純利益の取り込み》 (※11) C社の当期純利益10×C社に対する持分割合55%=5.5 《②-5 b事業に係るのれんの償却》 (※12) b事業に係るのれん4.95÷3年=1.65 ③ B社(共同支配投資企業)の会計処理 ◆X1年4月1日 【個別財務諸表上の会計処理】 《③-1 b事業をC社へ移転》 (※13) b事業に係る株主資本相当額 【連結上の会計処理】 《③-2 a事業に対する45%の取得についてのれんの算定》 ⇒仕訳なし ただし、a事業に係るB社の持分増加額(45%)について、持分法適用上、のれんを算定する。 ⇒a事業に係るのれん=29.7(※14)-24.75(※15)=4.95 (※14) a事業に対して投資したとみなされる額=a事業の時価66×45%=29.7 (※15) a事業に係るB社の持分の増加額=取得時のa事業の諸資産の時価55×45%=24.75 《③-3 b事業に係るB社持分の減少(55%)による持分変動差額の算定》 (※16) b事業に係るB社の持分の減少(55%)により生じた差額=29.7(※17)-11(※18)=18.7 (※17) b事業が移転されたとみなされる額=b事業の時価54×55%=29.7 (※18) b事業に係るB社の持分の減少額=b事業の株主資本相当額20×55%=11 ◆X2年3月31日 【個別財務諸表上の会計処理】 ⇒仕訳なし 【連結上の会計処理】 《③-4 C社の当期純利益の取り込み》 (※19) C社の当期純利益10×C社に対する持分割合45%=4.5 《③-5 a事業に係るのれんの償却》 (※20) a事業に係るのれん4.95÷3年=1.65 〈会計処理の解説〉 「共同支配企業」とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいいます(企業結合会計基準11項)。 この「共同支配」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、ある企業を共同で支配することをいい(企業結合会計基準8項)、共同支配企業を共同で支配する企業を「共同支配投資企業」といいます(企業結合会計基準12項)。 【共同支配企業のイメージ】 ある企業結合を共同支配企業の形成と判定するためには、①共同支配投資企業となる企業が、複数の独立した企業から構成されていること及び②共同支配となる契約等を締結していることに加え、③企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であることと④支配関係を示す一定の事実が存在しないことという要件を満たさなければなりません(企業結合会計基準37項)。 共同支配企業の形成は、例えば、複数の共同支配投資企業の子会社同士の合併により形成される場合や、本事例のように複数の共同支配投資企業が共同新設分割することにより形成される場合があります。 共同支配企業の形成は「持分の結合」であり、共同支配企業は、資産及び負債を企業結合直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合会計基準38項、116項)。また、移転された資産及び負債の差額は、移転事業に係る株主資本相当額を払込資本とし、移転事業に係る評価・換算差額等は移転直前の適正な帳簿価額をそのまま引き継ぎます(適用指針193項)。 本事例においては、合弁会社であるC社がA社及びB社から移転されるa事業及びb事業の資産を分割期日の前日における適正な帳簿価額(それぞれ50及び20)により計上しています。また、a事業及びb事業の株主資本相当額(それぞれ48及び20)を払込資本として、a事業に係る評価・換算差額については移転直前の帳簿価額2をそのまま引き継ぎます(①の仕訳を参照)。 共同支配投資企業が受け取った共同支配企業株式の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します(企業結合会計基準39項(1))。 本事例においては、A社及びB社が受け入れるC社株式の取得原価は、移転したa事業及びb事業の株主資本相当額(それぞれ48及び20)に基づき算定しています(②-1及び③-1の仕訳を参照)。 連結上では、共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資について持分法を適用します(企業結合会計基準39項(2))。それにより、共同支配投資企業では、共同支配企業に対する持分の増加によるのれん(又は負ののれん)と、移転した事業に対する持分の減少による持分変動差額が認識されます。 本事例においては、A社及びB社がそれぞれC社に対して持分法を適用し、C社に対する持分の増加によるのれん(それぞれ4.95及び4.95)が認識されています(②-2及び③-2を参照)。また、移転したa事業及びb事業に対する持分の減少による持分変動差額(それぞれ8.1及び18.7)が認識されています(②-3及び③-3の仕訳を参照)。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編- 弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 又吉 重樹 ←(前回) | (次回)→ 本連載では、法務デューデリジェンスにおいて弁護士が具体的に何をどう調査しているのかを、調査項目ごとに詳述している。今回はその第3章として、「業務関連主要契約」項目を取り上げる。 《第3章》 -業務関連主要契約- 【第3回】 「業務関連主要契約の調査」 はじめに 買収者は、「買収後に自らが企図する経済的効果を実現できるか」という観点から、対象会社が買収後も買収前と同様に事業を維持できるか否かに関心を持つことが多い。 「業務関連主要契約」項目においては、かかる関心事に応えるべく、個々の契約を精査していくこととなる。他方、通常、対象会社は、事業活動のために多数の契約を締結しているため、時間・コストとの兼ね合いから、いかなる範囲の契約をいかなる深度で精査すべきか、判断に悩む場合も少なくないと思われる。 そこで、本稿では、「業務関連主要契約」における一般的な精査対象資料及び調査手続を概観したうえで、調査資料の範囲・深度の特定・限定について一案を紹介することとしたい。 1 精査対象資料 「業務関連主要契約」項目調査資料としては、〔共通編〕【第2回】に掲載した「資料依頼リスト」の「Ⅳ 業務」欄に掲記のようなものが挙げられる。 2 調査手続 「業務関連主要契約」項目の調査では、一般には、対象会社に主要な取引先との契約書の提示を求め、その内容を精査することとなる。契約書が作成されていない場合等には、インタビューで補完することも考えられる。 通常、契約条件のうち、例えば以下のようなものが確認の対象となる。 このほか、重要な契約条件の中に明らかな違法条項がある場合等も、デューデリジェンス報告書への記載を検討すべきであろう。また、対象会社の業界における一般的な契約書のサンプルを入手することができれば、当該サンプルと対象会社が締結している契約の差異を確認することにより、違法・不当な契約条項の有無の確認に役立つ場合がある。 筆者の所属する法律事務所においては、こうした各確認事項を下表のような一覧表にまとめてデューデリジェンス報告書に別紙として添付するとともに、報告書本紙において、各確認事項のうち特に解説を要する事項を抜粋し、依頼者に情報提供することが多い。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 冒頭で述べたとおり、買収者としては、「対象会社が買収後も買収前と同様に事業を維持できるか否か」に関心を持つことから、契約書精査の内容も、「解約リスク」の分析を中心としたものとなる。Change of Control条項や、契約の有効期限・自動更新条項等が注目されるのはそのためである(もちろん、保証債務の有無や契約条件の違法の有無等、解約リスクに還元されない論点も少なくないが)。 なお、財務デューデリジェンスでは対象会社の正常収益力が調査・分析の対象となる関係上、主要取引先との契約の解約リスクは、財務デューデリジェンスにおいても検討の対象となる。その意味で、財務デューデリジェンスと法務デューデリジェンスとは、一定程度、重複する。 ただし、法務デューデリジェンスでは、契約書の記載を第一次的な拠り所として、法令や裁判例に照らし、「現に解約が主張され、その効力をめぐって法的紛争となった場合」に予想される帰結を分析する。したがって、法務デューデリジェンスによる解約リスク分析は、財務デューデリジェンスによる分析の基礎となり、これを補完するものと位置づけられる。 他方で、法務デューデリジェンスは、解約リスクが顕在化した場合の財務的インパクト(売上減、利益減等)の定量的分析の精度においては、財務デューデリジェンスに及ばない。各デューデリジェンス間の協働や調査結果の統合的理解が必要である所以である。 3 調査資料の範囲・深度の特定・限定について 「業務関連主要契約」は法務デューデリジェンスにおける重要な調査項目の1つであるが、対象会社が締結している数多の契約のすべてを網羅的かつ詳細に確認することは、コスト・時間の側面から非現実的・非効率的である。 では、どのようにして、精査の対象とする契約を選抜(特定・限定)すべきか。 調査対象とする契約の範囲・深度の特定・限定について一般的な基準は設定しがたく、最終的には、依頼者(買収者)において、自らが当該買収により企図する経済的効果の内容に照らし検討・判断する事項である。ただし、依頼者(買収者)としても、デューデリジェンスを実施する前の段階で、どの契約書を確認すればよいか、分からない場合も多いであろう。 そのような場合、1つの選択肢として、対象会社自身に、「現在行っている事業を維持するうえで重要と考えられる取引先」のピックアップを求める方法が考えられる。具体的には対象会社自身に対し、「重要な取引先のリストと、当該取引先との契約書の写し」の提示を求めるのである。 このような方法は、買収側がすべき判断を、対象会社に丸投げしているようにみえるかもしれない。しかし、①対象会社が締結している契約をもっとも把握しているのは対象会社自身であるし、②法務デューデリジェンスが行われる段階では、売主ないし対象会社も買収に基本的に同意していることが前提であるから、対象会社の協力を期待できる場合が多いことからして、このようなやり方でも、一定程度、精度の高い回答を得られる可能性がある(※)。 (※) もちろん、対象会社の回答をそのまま鵜呑みにしてよいわけではない。依頼者(買収者)側において、必要に応じビジネス・財務・法務のデューデリジェンス担当者等の助言も得ながら、対象会社の回答を検証する必要はある。 また、法務デューデリジェンスと並行して実施されている財務デューデリジェンスにおいて、各契約の財務的インパクトの把握が進めば、その情報を基に、法務デューデリジェンスの対象とする契約書を特定・限定したり、対象会社から提供を受けた契約書に漏れがないかを検証したりすることも考えられる。 筆者が経験した製造業を営む会社を対象会社とする法務デューデリジェンスにおいても、財務デューデリジェンスを担当する公認会計士から情報共有を受けた結果、仕入先・販売先・配送業者のいずれも、それぞれの上位5社との取引高が全体の取引高の95%以上を占めることが確認できたため、依頼者(買収者)と協議し、徴求資料の範囲を、「主要取引先(仕入先・販売先・配送業者等の類型ごとに上位5社)との契約書の写し」に限定することができた例がある。 4 対応の検討 以上のようなプロセスを経て顕出された指摘事項は、依頼者(買収者)が当該買収により企図する経済的効果との関係でどの程度の重要性を有するかを確認したうえで、その対応策を検討することとなる。 例えば、相手方に一方的な解約権を付与する内容のChange of Control条項が規定されている場合でも、依頼者(買収者)が当該買収により企図する経済的効果を得るうえで、当該契約が必要不可欠とまではいえない場合は、対象企業の価値評価(ひいては、買収価格の評価)の問題に収斂される場合もあり得るし、買収後に、当該条項の撤廃等の交渉をすれば足りる場合もあり得る。 他方、当該契約が、依頼者(買収者)が当該買収により企図する経済的効果を得るうえで必要不可欠なものである場合には、当該Change of Control条項等の存在が、M&A自体の障害(Deal Break Point)となる場合もあり得る。 そのような場合には、当該買収にかかる買収契約書中に、買収実行の前提条件(Condition Preceding)として、売主・対象会社に、当該契約の相手方から当該買収を理由に解除権を行使しない旨の覚書を取得させる等の対応策を講ずることも考えられる。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第3回】 「後継経営者にとってのライフプランの考え方」 税理士法人トゥモローズ 前回の「創業経営者のライフプラン」では、創業者のライフプランについて解説を行ったが、第3回目となる今回は、創業者から事業を引き継ぐ後継者のライフプランについて、そのポイントを説明していく。 1 事業承継の適齢期 少し前のデータとなるが、下図のように、後継者の事業承継時の平均年齢は、『50.9歳』である。これに対して、事業を承継した経営者たちが、「事業を承継したタイミングがちょうどよい時期だった」とする承継時の平均年齢は『43.7歳』となっている(「中小企業白書(2013年版)」P127)。 これらからすると、事業承継における後継者の最適年齢は、『45歳』くらいであると考えておいていただきたい。 【事業承継時の現経営者年齢別の事業承継のタイミング】 (出典) 中小企業白書(2013年版)P127 つまり後継者は、この『45歳』を1つの境として、先代経営者より事業を承継する前提でライフプランを組み立てる必要がある。 さらに、2代目、3代目としての後継者であれば、事業承継として代表権を引き継ぐ数年前には引き継ぐ会社に入り、後継者候補として社内外において引き継ぐべき会社の全体像を把握しておくべきである。 一方で、先代経営者の事業承継時の年齢は、日本全体の高齢化に比例して高齢化が進んでいる。中小企業における先代経営者の事業承継時の平均年齢は、会社規模や業種にもよるが、平均で『67歳から70歳』である(「中小企業白書(2013年版)」P125)。 【規模別・事業承継時期別の経営者の平均引退年齢の推移】 (出典) 中小企業白書(2013年版)P125 筆者(弊法人)が依頼を受けた事業承継の案件において、経営者が高齢であり事業を引き継ぐ時間的余裕が持てなかったケースがあった。 このケースでは、事業承継のサポート依頼を受けた時点で依頼者である先代経営者は既に代表を降り、会長職に就任していた。実務上においても、創業時からの従業員である親族外の新代表取締役に多くの権限委譲をしており、現役から退きつつある状況であった。 このような状況の中で、サラリーマンである二女の配偶者に後継者としての白羽の矢が立ったのであるが、結果として、この候補者は後継者候補を降りてしまった。 理由としては様々の要因があったものの、既に現役を退いた先代経営者から経営や実務のノウハウを直接引き継げる状況になかったことや現経営陣との関係性などから、後継者となることは難しいと判断したようだ。 大きな要因の1つは、この親族が「事業を引き継いでいくという覚悟」を持てるだけの時間が足りなかったことにあったのではなかろうか。 筆者からみるとこの候補者は、経験や資質ともに後継者候補としては適任であったと考えていたのだが、先代経営者、後継者候補ともに、あと数年早く事業承継を意識し検討し、事業を引き継ぐ時間的余裕があれば、親族内承継の道があったかもしれない案件であった。 事業承継は、事業を引き継ごうと決意してから実際に事業を引き継ぎ切れるまでに、おおよそ5年くらいの期間を要するといわれている。したがって、後継者においては、先代経営者の年齢や引退時期を考慮し、この引き継ぐ期間も加味したライフプランの設計が必要となる。 2 後継者のライフプランにおける留意事項 まず、後継者のライフプランにおいて検討しなければならないことは、事業を引き継ぐタイミングと他のライフイベントを照らし合わせることだ。 上述のとおり後継者が事業を引き継ぐタイミングは45歳前後と、ライフプランにおける資金計画の中でも支出合計がピークへ向かうタイミングである。しかし、これに対して事業の引き継ぎ期間中は、現状の給与水準を落として入社することも想定される。 また、実際に事業を引き継ぎ経営者となれば、サラリーマン時代とは異なり、毎月の報酬の支給が必ずされるとは限らず、会社の資金繰りの影響を受け、会社の状況によっては未払いとなることもあり得る。 このような中で、前回の「創業経営者のライフプラン」で触れた資金設計の住宅資金設計、教育資金設計、老後資金設計の3要素を中心とした自身のライフイベントと後継者候補として入社した後、後継者として経営を引き継いだ後の資金計画を設計する必要がある。 ① 住宅 サラリーマン時代に住宅ローンを組んでいる場合において、ボーナス返済を選択しているときは、返済資金について注意が必要となる。 一般的に中小企業においては、役員に対する役員賞与の支給は行っていないケースの方が多いはずであるから、サラリーマン時代からのボーナス返済を継続することは、返済時における家計への負担が想像以上に大きくなる。 また、仮に事前確定届出給与の支給が設定できた年度があったとしても、事業年度によって設定が未確定である事前確定届出給与を、住宅ローンのボーナス返済とひもづけて返済原資とすることはおすすめできない。 ② 教育 例えば20代後半で結婚をし、間もなく子供が生まれた場合、事業承継前後の時期で子供が高校・大学の進学時期を迎えることとなる。 日本政策金融公庫の「平成29年度 教育費負担の実態調査」によると、高校入学から大学卒業までに必要な入在学費用は、子供1人当たり『935.3万円』となっている。さらに、仕送りを行っているような場合には、年間平均93万円として4年間総額『約372万円』の仕送りを行わなければならない。 たとえ一人っ子であったとしても、事業承継を行う前後に950万円から1,300万円程の教育資金が必要となることを想定しておかなければならないのである。 ③ 老後資金 資金設計上、老後資金において注意すべき点は、創業経営者同様に、日々の生活費の水準が高くなってしまっている点にある。定年退職後のサラリーマンに比べ、経営者の場合には付き合い等が多く、交際費等が高額になりがちである。 ④ 相続資金 後継者のライフプランにおいて検討しておくべき重要事項として、先代経営者である親からの相続がある。相続においては、遺産を取得するのみならず、相続税の納税や相続した遺産の取得のための費用、維持管理のためにも費用は生じてくる。これら相続資金の収支をできるだけ早い段階で資金計画の中に盛り込んでいくべきである。 なお、これらの収支を資金計画の中に設定するためには、ある程度の精度で親の相続について事前に把握をしなければならない。相続財産の把握、相続税額の試算、相続人間の遺産分割に向けた協議、そして納税資金や代償資金の確保などの検討を行う必要がある。 また、相続税額の試算のためには、非上場株式である自社株式についても、株価を算出しなければならない。そして、当該株式について、生前に後継者として取得をすべきであるのか、相続まで据え置くのか。生前に引き受ける際には譲渡として有償で引き受けるか、贈与により無償で引き受けるのか。さらには贈与によった場合には、事業承継税制の適用の検討等、自社株式の取扱いについては、慎重に資金計画に取り込む必要がある。 3 親族外承継である後継者の場合 親族内承継であれば、事前に自身が後継者候補として事業を引き継ぐことを前提としたライフプランを描くことも可能であろうが、それ以外の親族外承継である場合には、ライフプラン作成前から事業承継を前提としたライフプランを想定することは困難である。 社内の役員、従業員承継により後継者となる者の場合には、ライフプランはさらに難しいものとなる。今まではサラリーマンとしてのライフプランを敷いてきたものが、事業承継を境に経営者としてのライフプランに置き換わることとなる。 また、事業承継に際して、先代経営者に対する株式の取得対価の支払いが必要となることも想定される。さらに、その対価のために借入れを行った場合や既存の法人借入金に対して、社長個人として保証債務を求められることもあるだろう。 親族外承継による後継者に関しては、これら事業承継に際したライフプランの練り直しが課題となる。 (了)
《速報解説》 国税庁、小規模宅地等特例の平成30年度改正に係る 改正措置法通達を公表 ~貸付事業の事業的規模を明確化~ 税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 角田 壮平 去る7月9日に国税庁は平成30年度税制改正に係る「相続税法基本通達等の一部改正について」を公表した。以下では、小規模宅地等の特例に係る項目のうち重要度の高い論点につき解説をする。 1 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等の詳細(改正通達69の4-24の3) 平成30年度税制改正大綱において、 と記載されており、相続開始前に駆け込みで取得した賃貸不動産等は当該特例の対象外とされた。 当該改正点につき、法令上は、下記の通り規定されている(措置法69の4③四)。 上記条文において、「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(省略)を除き、」とされている部分の詳細が、本件改正通達により明らかになった(改正通達69の4-24の3 新たに貸付事業の用に供されたか否かの判定)(新設)。 本件通達では、「新たに貸付事業の用に供された」とは、貸付事業の用以外の用に供されていた宅地等が貸付事業の用に供された場合又は宅地等若しくはその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の当該宅地等が貸付事業の用に供された場合をいうと示されている。 なお、相続開始前3年以内に下記のような事象が生じたとしても、これらの事象は新たに貸付事業の用に供された場合には該当しない旨も示された。 2 事業的規模の明確化(改正通達69の4-24の4) 平成30年度税制改正大綱において、 と記載されており、下線部分の事業的規模について、措置法、措置法施行令(以下、「措令」)、措置法施行規則を確認しても詳細を見出すことはできなかった。 ちなみに、措令では、事業的規模について、下記の通り規定されている(措令40の2⑯)。 また同項に規定する「準事業」とは、下記の通り定められている(措令40の2①)。 すなわち、措令では、事業的規模の貸付事業を「特定貸付事業」と名付け、その特定貸付事業には準事業は含まれないということである。 改正通達にて、特定貸付事業の詳細が明らかになった(改正通達69の4-24の4 特定貸付事業の意義)(新設)。 具体的には、貸付の種類により下記の通りに判定することとなる。 (了)
《速報解説》 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)に係る 改正措置法関係通達が公表される ~設備投資要件の「国内資産」に係る項目等を新設~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成30年6月29日、国税庁より「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された。 この中には、平成30年度の税制改正で抜本的に改正された「賃上げ・投資促進税制」(旧・所得拡大促進税制)に関する通達の新設・改正も含まれている。 そこで本稿では、該当通達の改正等の概要について取りまとめておくこととしたい。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。 2 改正点 今回改正等された通達は下表の通りである。 3 改正事項 (1) 継続雇用制度対象者の判定(廃止) 旧・措通42の12の5-5は、月の途中で継続雇用制度の適用対象となった者に対して、継続雇用前の職務に対する給与等の額と継続雇用後の職務に対する給与等の額とを同一の日に支給している場合において、継続適用を要件として、当該給与の全体について継続雇用制度対象者に対して支給した給与等の額として取り扱うことを認めることが明らかにされていた。 これは、改正前の制度においては、継続雇用制度の適用対象者に対して支払う給与等は、改正前制度の適用要件に用いていた平均給与等支給額の算定基礎となる「継続雇用者給与等支給額」の集計対象から除くこととされていた(旧・措令27の12の5⑭)ことに関連して設けられていたものである。 しかし、平成30年度の税制改正によって「継続雇用者」の定義から継続雇用制度の適用対象者が除外され(措法42の12の5③六、措令27の12の5⑬)、このような取扱いを定める意義が失われたことから、本通達が削除されたものと考えられる。 (2) 国内資産の範囲の明確化(新設) 中小企業者等に該当しない法人に対して新たに適用要件として定められた「国内設備投資額」とは、法人が適用年度において取得等をした国内資産で当該適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額をいう(措法42の12の5③八)。そして「国内資産」とは、国内にある当該法人の事業の用に供する機械及び装置その他の減価償却資産(時の経過によりその価値の減少しないものを除く)をいう(措令27の12の5⑰)。 また、適用要件を満たしているかどうかの判定に用いられる「当期償却費総額」とは、法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額をいう(措法42の12の5③九)。 これらのうち、「国内資産」及び「取得価額」並びに「償却費として損金経理をした金額」の具体的な取扱いに関連して以下の通達が新設された。 ① 国内資産の内外判定(措通42の12の5-6) 国内資産に該当するかどうかは、その資産が法人の事業の用に供される場所が国内であるかどうかにより判定するのであるが、例えば次に掲げる無形固定資産が事業の用に供される場所については、原則として、それぞれ以下に定める場所による。 ② 国内事業供用が見込まれる場合の国内資産の判定(措通42の12の5-7) 法人の有する資産が適用年度終了の日において当該法人の事業の用に供されていない場合であっても、その後国内において当該法人の事業の用に供されることが見込まれるときには、当該資産は国外資産に該当することが明らかにされた。 これは、国内資産の定義規定(措令27の12の5⑰)において「・・・事業の用に供する機械及び装置・・・」という表現が用いられていることから、適用年度末において実際に事業供用されている必要はないことは文理解釈上明らかであったが、この点について確認的に明らかにされたものと考えられる。 ③ 「資本的支出」及び「償却費として損金経理をした金額」の取扱い 「国内設備投資額が当期償却費総額の90%以上であること」という適用要件に関連して、以下の通達が新設された。 (a) 資本的支出の範囲(措通42の12の5-8) 法人の有する国内資産につき資本的支出を行った場合の当該資本的支出に係る金額は、措通42の12の5-11ただし書(償却費として損金経理をした金額)の適用があるものを除き、「国内設備投資額」に含まれるものとすることが明らかにされた。 この「措通42の12の5-11ただし書」は、償却費として損金経理をした金額に法基通7-5-1又は7-5-2による金額を含めない取扱いを継続的に適用している場合を指すが、この適用を受ける場合には、当該資本的支出に係る金額は国内設備投資額に含まれないということである。 この趣旨については次の(b)で考察しているので参照されたい。 (b) 償却費として損金経理をした金額の範囲(措通42の12の5-11) 当期償却費総額は、法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額をいうが(措法42の12の5③九)、これには、法人税基本通達7-5-1又は7-5-2の取扱いにより償却費として損金経理した金額に該当するものとされる金額が含まれることが明らかにされた。 ただし、法人が継続して、これらの金額につきこの「償却費として損金経理をした金額」に含めないこととして計算している場合には、国内設備投資額の計算につき当該法人の有する国内資産に係るこれらの金額に相当する金額を含めないこととしているときに限り、この計算を認めることとされている。 この趣旨について考えてみるに、法基通7-5-1に掲げられている項目が「償却費として損金経理をした金額」に含められた上で、減価償却超過額を構成するという取扱いは、対応する当初支出が設備投資額を構成していることが前提となっていると考えられる。 とすれば、これらの項目を「償却費として損金経理をした金額」に含めず、別途の項目として税務調整を行っている場合には、そうした前提が崩れることから、対応する当初支出は設備投資額に含めるべきではないということになる。 措通42の12の5-8は、このことを確認的に明らかにした取扱いであると考えられる。 (参考)法人税基本通達7-5-1(償却費として損金経理をした金額の意義) (参考)法人税基本通達7-5-2(申告調整による償却費の損金算入) ④ 「国内資産の取得価額」の取扱い (a) 圧縮記帳をした国内資産の取得価額(措通42の12の5-9) 法人の有する国内資産のうち、圧縮記帳の適用を受けたものがある場合には、その圧縮記帳前の実際の取得価額によるものとする。 ただし、措通42の12の5-11ただし書の適用があるものにあっては、その圧縮記帳前の実際の取得価額から、同通達の「当該法人の有する国内資産に係るこれらの金額に相当する金額」を控除した金額によるものとする。 (b) 贈与による取得があったものとされる場合の適用除外(措通42の12の5-10) 贈与による取得は、「国内設備投資額」の定義を満たす「取得等」には該当しない(措法42の12の5③八、措令27の12の5⑯)ことを踏まえ、以下の取扱いについて明らかにされた。 (※) 資産を著しく低い対価の額で取得した場合においては、措通42の12の5-11の取扱いの適用はない。すなわち、当該資産を時価相当額で受け入れたうえで、贈与相当額について減額し、これを「償却費として損金経理をした金額」として取り扱うわけではないので留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 金融庁、平成30年7月豪雨の被災者に向け有報等の提出期限に係る措置について財務(支)局への相談を呼びかけ 公認会計士 阿部 光成 平成30年7月12日、 金融庁は、「平成30年7月豪雨に関連する有価証券報告書等の提出期限に係る措置について」を公表し、次のように述べている。 なお、それぞれの開示書類の提出期限は次のとおりである。 ・有価証券報告書の提出期限:事業年度経過後3ヶ月以内 ・四半期報告書の提出期限:四半期会計期間経過後45日以内 ・半期報告書の提出期限:中間会計期間経過後3ヶ月以内 臨時報告書についても、豪雨という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなると記載されている。 上記に述べた事項以外でも、今般の豪雨により実務上の支障が生じているなど、お困りのことがあれば、遠慮なく所管の財務(支)局まで相談していただきたいとのことである。 また、7月13日、 金融庁は、平成30年7月豪雨による被災者等からの各種金融機関の窓口の問合せや金融機関等との取引に関する相談等への対応のため、「平成30年7月豪雨金融庁相談ダイヤル」を開設している。詳しくは下記金融庁ホームページを参照されたい。 (了)
2018年7月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.276を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第66回】 「新聞報道からみる租税法(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 (3) 更正の予知と新聞報道 (ア) 事件の概要 更正の予知がない段階で提出された修正申告には過少申告加算税が課されず免除されるところ、かかる更正の予知の認定に新聞報道が影響を及ぼした事例として、いわゆるルノワール事件がある。 この事件は、ルノワールの絵画「浴後の女」と「読書する女」の売買取引において、買い主であるD商事の主張する絵画購入費と実際に売り主に支払われた金額について、15億円相当の差額が行方不明になっているなどとして世間の注目を集めた取引を巡り、かかる取引の仲介を取り持ったX(原告・控訴人)の仲介手数料の計上漏れに関して争われた事件である。 税務署長Y(被告・被控訴人)は、Xが、平成元年の所得税の確定申告において本件仲介手数料収入を含めるべきであったにもかかわらず、その存在を秘匿する目的で、本件仲介手数料として受け取った小切手3枚を「G」の仮名で裏書きした上、同名の仮名口座に入金するなどして、あたかもXには同収入がなかったかのように仮装することにより、2億3,500万円の本件仲介手数料収入のすべてを隠蔽し、そのように仮装し、隠蔽したことに基づき、平成元年分の所得税の確定申告を行ったものであり、これが、国税通則法68条《重加算税》1項に該当するとして重加算税の賦課決定処分を行った。 これに対して、Xは、Xの行った修正申告には国税通則法65条《過少申告加算税》5項(以下「本件規定」という。)が適用されるべきであるなどとして、上記処分の取消しを求めた。 本件規定は、過少申告がなされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について「更正があるべきことを予知してされたもの」でないときには、過少申告加算税を賦課しないとするものであるが、本件では、ここにいういわゆる「更正の予知」の有無が1つの争点となっている。 なお、Xは、平成3年4月2日、K代議士とともに国税庁長官を訪れ、本件仲介手数料を得たのに申告をしていないこと及び本件仲介手数料につき修正申告を行う意思があることを説明している(修正申告を行ったのは、同年7月4日である。)。 (イ) 東京地裁平成14年1月22日判決(訟月50巻6号1802頁) 東京地裁では、「平成3年3月30日付けの新聞報道とその後の原告の対応」として、次のような事実が認定されている。 さらに、1面のほか、社会面における記事についても触れている。 続けて、これらの記事が掲載されたJ紙の、翌日の朝刊の記事についても次のように認定している。 加えて、J紙のほか、W紙における記事掲載についても触れている。 こうした、本件事件を巡る一連のマスコミ報道を確認した後、東京地裁は以下のとおり、本件規定の解釈について判示する。 このように、東京地裁は、いわゆる「端緒把握説」に立って更正の予知のタイミング、すなわち、過少申告加算税が免除される時点を捉えているものと解されるが、同地裁はこうした立場から次のように本件を検討している。 こうした検討を踏まえ、結論として、東京地裁はYの処分を妥当なものであるとした。 このように、本件においては、Xが国税庁長官に面会し修正申告の意思表示をするまでの経緯について、新聞報道を加味した上で判断していることが分かる。 もちろん、東京地裁は新聞報道のみをもって「更正の予知」の有無を判断しているわけではなく、本件取引を巡る関係者の動向等を勘案した上で上記のような結論を導いているわけであるが、新聞報道がXの修正申告の意思表示に与えた影響については無視できないものであったであろうことが推察される事案である。 もっとも、本件のように、新聞報道によって自らの更正処分の可能性を知るといったケースは特異であると片付けることもできるかもしれない。 しかしながら、例えば国税庁の最新の動向を新聞報道で知るといったことは、何も本件のような特殊事案ではなくとも、一般的な納税者においてもあり得るところであり、ルノワール事件からはそうした一面をくみ取ることもできるのではなかろうか。 (ただし、個々の納税者における更正の予知について、新聞報道の有無のみをもって判断されることはないと思われることを指摘しておきたい。) 結びに代えて 財産権の侵害規範である租税法においては、租税法律主義の要請の下、予測可能性の保障が求められる。 本稿(その1)において取り上げた興銀事件は、予測可能性が十分に担保されていたか否かの判断に当たって、「一般国民の間に相当程度の流通量がある」新聞での報道が手掛かりとされた事例であるといえよう。 もっとも、興銀事件は平成8年当時のものであるから、その後新聞の流通量は減る一方で、インターネット媒体による記事が増加傾向にあると思われるが、それでもなお新聞報道による周知が国民の予測可能性に与える影響は無視できないといえ、興銀事件を巡る地裁及び高裁の判断等を過去のものと理解すべきではないように思われる。 なお、一般社団法人日本新聞協会の発表によれば、新聞の発行部数と世帯数は以下のように推移しているという(同協会のホームページに掲載されたデータを基に筆者がグラフ化。なお、同ページでは平成12年からのデータが公表されている)。 興銀事件は平成8年当時の事件であるため、上記日本新聞協会の発表からはその当時の正確な発行部数を知ることはできないが、平成12年から平成19年まで毎年4,700万部程度の発行部数で推移していることからすれば、平成8年当時もほぼ同様もしくはそれ以上の発行部数であったことが推察されよう。仮にその推察が正しいとすれば、ここ20年余りで一般紙の発行部数は850万部ほど減少していることとなる。 しかしながら、平成29年度においても3,876万部の発行数を維持していることに鑑みれば、依然として新聞は国民の周知に相当程度の役割を果たしていると解され、予測可能性の有無を判断するためのものさしとしての機能は無くなっていないと思われる。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q1】 「平成30年度税制改正により変更・追加された事項の全体像」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 ◆はじめに◆ 平成30年度税制改正によって、従来の所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)が抜本的に改組され、租税特別措置法上のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」と改められた。 この改正により、適用要件や控除税額の計算が変更されたほか、改正前の制度における用語の定義自体も変更されたものがあり、従来の理解のまま改正後の制度を適用しようとすると結論を誤る可能性がある。 そこで本連載では、平成30年度税制改正により変更された点に焦点を当て、改正後の制度を適用する上で留意すべき事項についてQ&A形式で解説することとしたい。 本連載は単体納税制度における取扱いを前提としており、連結納税制度における取扱いについては触れていない。また、新制度について引き続き「所得拡大促進税制」と称するのは本来適当ではないと考えるが、適当な呼称が定着していないことに鑑み、本連載においては引き続き「所得拡大促進税制」と称する。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。 [Q1] 平成30年度の税制改正により、所得拡大促進税制について抜本的な見直しが行われたと聞きましたが、具体的にはどのように見直されたのでしょうか。 [A1] 平成30年度の税制改正では、主に以下のような見直しが行われています。 ① 適用要件の見直し ② 控除税額の計算方法の見直し ③ 上乗せ控除制度の見直し(人材投資に積極的な企業向け) 【解説】 平成25年度の税制改正によって創設された「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)は、賃上げの促進を通じて個人消費・投資の活性化を促し、ひいてはデフレ脱却と経済再生の達成を志向するという一貫した政策目標のもと、本税制の適用を促進すべく、毎年のように適用要件の見直し等が行われ5年が経過し、本来の適用期限の終了時期を迎えようとしていたところである。 そのような状況下、平成29年12月8日には「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定され、その中では「生産性革命」という項目が大きな柱として設定されている。特に、賃上げや設備投資・人材投資の加速は生産性革命を達成するための重要な要素とされている。 これを踏まえ、平成30年度の税制改正では、生産性革命を達成するための重要な要素である「賃上げ」と「投資」(設備投資・人材投資)の促進を税制面から支援すべく「所得拡大促進税制」の抜本的な見直しが行われている。本税制のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」に改められていることからして、本税制は単なる「賃上げ促進」のみではなく、一定の投資促進も政策目標に含めた税制に改組されたと理解すべきである。 これに伴い適用要件が抜本的に見直され、一定の賃上げ及び設備投資を行った企業に対して税額控除の適用を認めることとされた。ただし一律に適用要件を定めてしまうと中小零細企業に与える影響が大きいと考えられることから、設備投資の要件は大企業についてのみ求めることとし、賃上げに係る要件についても中小企業と大企業で異なる水準を設定している。 控除税額の計算についても、改正前の制度では「基準年度」からの増加額及び「前年度」からの増加額(上乗せ)を基礎として計算していたが、基準年度が既に5年以上前のものであり直近の賃上げの実態と乖離していることから、基準年度を廃止し、前年度からの増加額を基礎として計算する方法に改められた。 なお人材投資については適用要件に含めるのではなく、一定の人材投資を達成した企業に対して上乗せ控除を認めるという制度となっている。 (了)
〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第1回】 「適格請求書発行事業者の登録制度」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 適格請求書発行事業者の登録については、課税事業者に限られるのであるが、免税事業者であっても、以下のような場合には申請を行うことができる。 免税事業者が課税事業者となる課税期間の初日から登録を受けようとするときは、原則として、当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書を提出しなければならない。 免税事業者が登録を受けるためには、原則として、消費税課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要があるが、登録日が平成35年10月1日の属する課税期間中である場合は、課税選択届出書を提出しなくても、登録を受けることができる。 この場合においては、登録を受けた日から課税事業者となることから以下のようになる。 適格請求書発行事業者の登録は、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(以下「登録日」という)からその効力を有するのであるから、登録等の通知による通知を受けた日にかかわらず、適格請求書発行事業者は、登録日以後に行った課税資産の譲渡等について適格請求書を交付することとなることなる。 ただし、登録日から登録の通知を受けた日までの間に行った課税資産の譲渡等について、既に請求書等の書類を交付している場合には、当該通知を受けた日以後に登録番号等を相手方に書面等(既に交付した書類との相互の関連が明確であり、当該書面等の交付を受ける事業者が同項各号に掲げる事項を適正に認識できるものに限る)で通知することにより、これらの書類等を合わせて適格請求書の記載事項を満たすことができる。 免税事業者である新設法人の場合、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、消費税課税選択届出書を提出すれば、その事業を開始した日の属する課税期間の初日から課税事業者となることができる。 この場合において、新設法人が、事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出した場合において、税務署長により適格請求書発行事業者登録簿への登載が行われたときは、その課税期間の初日に登録を受けたものとみなされる。 適格請求書発行事業者は、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「登録取消届出書」という)を提出することにより、適格請求書発行事業者の登録の効力を失わせることができる。 なお、この場合、原則として、登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われることとなるが、登録取消届出書を、その提出のあった日の属する課税期間の末日から起算して30日前の日から、その課税期間の末日までの間に提出した場合は、その提出があった日の属する課税期間の翌々課税期間の初日に登録の効力が失われることとなるので注意が必要である。 適格請求書発行事業者は、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合でも免税事業者とはならない。 登録番号の構成は、以下のとおりである。 (了)