法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第1回】「法人税の課税所得計算と損金経理(その1)」
筆者:安部 和彦
文字サイズ
- 中
- 大
- 特
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
【第1回】
「法人税の課税所得計算と損金経理(その1)」
国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦
-はじめに-
いうまでもなく、法人税はわが国における基幹税(※1)であり、税理士業務においても最も重要性の高い税目である。しかし、法人税に携わる税理士をはじめとする多くの実務家は、その課税標準である所得の算出方法については、企業会計の処理に若干の調整が必要という程度にざっくりと理解し、それ以上深く突っ込まないで実務にあたっているというのが現状ではないかと思われる。
実務の大半は、そのような理解を前提に通達の該当事項を覚えて適用するという方法でほとんど回っているのであろうが、果たしてそれでよいのだろうか。
また、平成30年度の税制改正で、法人税法における課税所得計算の基本規定である第22条に加えて、主として包括的な収益認識に係る会計基準が設定されたことに合わせて、法人税法における収益の額として益金に算入する金額に関する通則的規定として第22条の2が新設されたが、これにより現在、法人税の課税所得計算のメカニズムに実務家の注目が集まっているところである。
法人税の課税所得計算は、基本的に、収益である益金と費用である損金との差額により算定されるが、損金の方は企業会計の処理から離れた、法人税法独自の規定が数多くあり、その内容を正確に理解することが法人税法の更なる理解につながるものと考えられる。
そこで本連載では、法人税法における課税所得計算に関し、特に「損金経理」に焦点を当て、その基本的な考え方を紹介するとともに、それをめぐる裁判例や裁決事例を基にした様々な事例を検討することで、法人税の実務に資するような知識を習得することを目標としたい。
(※1) 平成30年度予算ベース(国税及び地方税合計103兆1,506億円)で、法人税・法人住民税・法人事業税の占める割合は21.5%である。
(1) 益金と損金の意義
それでは、そもそも「損金経理」とは何だろうか。これを理解するために、まずは「益金」及び「損金」の意義からみていきたい。
法人税の課税標準は、法人の各事業年度における所得の金額である(法法21)。ここでいう「所得」については、法人税法では、次の第22条においてその算定方法に関する基本的な原則を示した規定を置いている。
法人税法第22条の全体像は以下の表の通りとなる。
〇法人税法第22条の全体像
●第1項 課税所得計算の基本算式の提示 ⇒ 所得=益金-損金
●第2項 益金の意義
●第3項 損金の意義
●第4項 公正処理基準
●第5項 資本等取引の意義
第22条では、まず「所得」については、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする、と定義している(法法22①)。これは、企業会計における法人の利益の算定方法である損益法、すなわち、一定期間における収益から費用を控除して利益を算定する方法に対応している。この関係を図示すると以下の通りとなる。
〇法人税法における所得と企業会計における利益との関係
上図の通り、益金と収益、損金と費用、所得と利益とはそれぞれ対応関係にあるが、異なる用語を用いているのは、類似しているとはいえ概念が異なるからである(※2)。損金と費用の具体的な相違点については、本連載において事例を交えながら詳述していきたい。
(※2) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)320頁。
まず「益金」とは何かをみていくと、第22条第2項によれば、別段の定めのあるものを除き、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受け、その他の取引で、資本等取引以外のものに係るその事業年度の収益をいう、とされている。当該益金は、所得税法にいう「収入金額」に相当するものと解される(所法36)。
次に、法人税法において「損金」の意義を規定しているのは、第22条第3項である。そこでは、損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、以下の各号に掲げる額とする、と規定されている(①~③にそれぞれ矢印(⇒)で示された用語は、企業会計における対応する用語である)。
○記事全文をご覧いただくには、プレミアム会員としてのログインが必要です。
○プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

○プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。
○一般会員の方は、下記ボタンよりプレミアム会員への移行手続きができます。
○非会員の皆さまにも、期間限定で閲覧していただける記事がございます(ログイン不要です)。
こちらからご覧ください。
連載目次
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
▷総論
● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)
- 【第1回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その1)
- (1)益金と損金の意義
- (2)企業会計準拠主義と「別段の定め」
- 【第2回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その2)
- (3)損金にならない不正な支出
- (4)資本等取引と損金
- 【第3回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その3)
- (5)確定決算主義と逆基準性
- 【第4回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その4)
- (6)費用収益対応の原則
- (7)権利確定主義と債務確定主義
- 【第5回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その5)
- (8)費用収益対応の原則と権利確定主義との関係
- (9)損金経理とは
▷事例解説
- 【事例1】 即時償却と損金経理
- 【事例2】 役員に対する土地建物の現物支給
- 【事例3】 役員退職給与に係る「不相当に高額」の意義
- 【事例4】 米国のリミテッドパートナーシップを通じた不動産投資から生じた費用及び損失の取り込みの可否
- 【事例5】 医療法人の有する医業未収金の償却と損金経理
- 【事例6】 機械装置の取得と減価償却費の計上
- 【事例7】 医療用検査機器の機械装置該当性
- 【事例8】 医薬品共同開発負担金の損金性
- 【事例9】 減価償却資産の判定単位
- 【事例10】 賃貸用マンションのリフォーム費用の損金性
- 【事例11】 関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性
- 【事例12】 返品調整引当金の意義とその廃止の経緯
- 【事例13】 従業員への慰安目的で実施する「感謝の夕べ」に要する費用の損金性
- 【事例14】 分掌変更により支払う役員退職給与の損金性
- 【事例15】 特許業務法人の社員は使用人兼務役員に該当するのか
- 【事例16】 宅地造成に伴う雨水排水路工事費に係る見積金額の損金計上
- 【事例17】 建物内部造作の「器具及び備品」該当性
- 【事例18】 臨床検査の委託を受ける会社における検査機器に対する特別償却の適用
- 【事例19】 仮装経理による棚卸資産過大計上分に係る特別損失の損金性
- 【事例20】 売上原価と棚卸資産の評価方法
- 【事例21】 従業員名義預金口座に振り込まれていた決算賞与の損金性
- 【事例22】 役員給与における「不相当に高額な部分」の意義と租税法律主義
- 【事例23】 土地建物を一括で購入した場合の建物の取得価額と減価償却費
- 【事例24】 法人間の船舶取引に係る譲渡価額と減価償却費
- 【事例25】 事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性と寄附金課税
- 【事例26】 中古自動車販売業の代表者に対する役員報酬の過大性
- 【事例27】 支払利息の損金性と同族会社の行為計算否認
- 【事例28】 従業員が窃取した棚卸資産の販売に関する損害賠償請求権と貸倒損失
- 【事例29】 ガソリンスタンドに対する売掛金の減額処理の寄附金該当性
- 【事例30】 出向元法人が負担する出向者給与負担差額の損金性
- 【事例31】 法人の破産手続きと破産債権に関する貸倒れの時期
- 【事例32】 修繕費の損金計上のタイミングと仮装行為
- 【事例33】 業績悪化事由による賞与の減額と事前確定届出給与
- 【事例34】 事業年度末における未使用ポイントの損金算入の可否
- 【事例35】 医療法人の代表者の配偶者が使用する車両と定期同額給与となる経済的利益
- 【事例36】 同族会社の代表者と同居する愛人に対して支給する給与の損金性
- 【事例37】 法人の代表者が自分個人名義のクレジットカードで支払った飲食代金の交際費該当性
- 【事例38】 不動産業者が外務員に支払う歩合給の損金計上時期
- 【事例39】 役員退職給与の支払時における損金算入
- 【事例40】 過大支払電気料金の損金性と損害賠償請求権
- 【事例41】 ゴルフ場の運営会社に営業権を譲渡した場合の寄附金該当性
・・・ 以下、順次公開 ・・・
筆者紹介
安部 和彦
(あんべ・かずひこ)
税理士
和彩総合事務所 代表社員
国際医療福祉大学大学院教授東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。【主要著書】
・『消費税 インボイス制度導入の実務』(清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ 消費税の判定誤りと実務対応』(清文社)
・『新版 医療・福祉施設における消費税の実務』(清文社)
・『【第三版】税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』(清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税Q&A』(清文社)
・『Q&A 医療法人の事業承継ガイドブック』(清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(清文社)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(税務経理協会)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(税務経理協会)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(中央経済社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(清文社)【主要論文】
・「わが国企業の海外事業展開とタックスヘイブン対策税制について」(『国際税務』2001年12月号)
・「タックスヘイブン対策税制の適用範囲-キャドバリー・シュウェップス事件の欧州裁判所判決等を手がかりにして-」『税務弘報』(2007年10月号)
など
Profession Journal関連記事
関連書籍
-
ドリル式
組織再編成の確定申告書 別表四・五(一)徹底攻略
公認会計士・税理士 佐藤信祐
定価:4,400円(税込)
会員価格:3,960円(税込)
-
〔新版〕企業への影響からみる
収益認識基準 実務対応Q&A
EY新日本有限責任監査法人 編
定価:4,180円(税込)
会員価格:3,762円(税込)
-
現場の視点で疑問に答える
収益認識[会計・法務・税務]Q&A
公認会計士・税理士 貝沼彩、公認会計士・税理士 照井慎平、 公認会計士・税理士 西澤拓哉、公認会計士・税理士 三上光徳 著
定価:2,640円(税込)
会員価格:2,376円(税込)
-
新版
消費税の会計処理と法人税務申告調整 パーフェクトガイド
公認会計士・税理士 鶴田泰三 著
定価:2,640円(税込)
会員価格:2,376円(税込)
-
第4版 法人税別表4、5(一)(二)書き方完全マスター
プロフェッションネットワーク/ 公認会計士・税理士 伊原 健人 共著
定価:3,520円(税込)
会員価格:3,168円(税込)
-
奇跡の通達改正
公認会計士 山本史枝 著
定価:2,640円(税込)
会員価格:2,376円(税込)
-
見るポイント間違っていませんか!?
決算書の前期比較術
公認会計士 山岡信一郎 著
定価:2,200円(税込)
会員価格:1,980円(税込)
-
例解 新収益認識基準の会計・税務
公認会計士 山本史枝 著
定価:3,740円(税込)
会員価格:3,366円(税込)