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企業の[電子申告]実務Q&A 【第12回】「認証手続の簡便化」

企業の[電子申告]実務Q&A 【第12回】 「認証手続の簡便化」   SKJ総合税理士事務所 税理士 坂本 真一郎   ●○●○解説○●○● 平成30年度の税制改正前は、法人税等の書面申告書については、法人税法第151条の規定により、代表者及び経理責任者の自署・押印が必要とされ、電子申告についても、オンライン化省令第5条等により、原則として、代表者及び経理責任者の電子証明書で申告等データに電子署名を付与して送信することが必要でしたが、例えば、株主総会の決議等により法人代表者に変更があった場合、申告期限までに新代表者の電子証明書の取得が間に合わず、そのために電子申告できずに書面で申告書を提出するという事例も見受けられました。 このような状況を踏まえて、2018年4月以後の申請等からは、e‐Taxによる申告等データの送信について、法人代表者からあらかじめ委任を受けた当該法人の役員又は社員の電子署名等を付与して送信する場合には、当該代表者の電子署名等は不要とされました。ただし、この場合、適正な運用を担保するため、当該代表者から委任を受けたことを証する電子委任状(※)を申告等データに添付して送信する必要があります。 (※) 総務省及び経済産業省は2018年1月1日に「電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)」を施行し、代表者が電子契約や電子申請の権限を実務担当者に委任したことを電子委任状で証明できるようにしました。これにより「委任された権限が記録された電子委任状の機能を有する電子証明書」を取得した実務担当者が、代表者に代わって電子契約や電子申請をできるようになるので、デジタル化による生産性向上が期待されています。  電子委任状は、電子申告等の都度、申告等データに添付して提出する必要がありますが、例えば、委任期間を代表者任期中など長期間で指定して作成しておけば、申告・申請等の都度、代表者の電子署名を付与するという手間はなくなります。 なお、法人税等の書面申告書における経理責任者の自署・押印制度が廃止されたことに伴い、電子申告における経理責任者の電子署名等についても不要となりました。 【法人納税者の認証手続の簡便化】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (出典:e-Taxホームページ) ~電子申告における電子委任状の取り扱いについて~ 【国税(e-Tax)の場合】 電子委任状について、国税庁はe‐Taxホームページ「平成30年度税制改正に伴い実施するe‐Taxの利便性向上施策について」において、以下の説明文を掲載しています(一部抜粋・下線筆者)。 【地方税(eLTAX)の場合】 一方、一般社団法人地方税電子化協議会はeLTAXホームページで「平成30年4月23日付 地電協第34号」により「法人の代表者から委任を受けた者の署名緩和について」という以下の周知文書を掲載しています(一部抜粋・下線筆者)。 【e-TaxとeLTAXにおける電子委任状の取り扱いの違い】 以上のように、現状、e‐Taxの場合には電子委任状への代表者の電子署名が必須とされているのに対し、eLTAXの場合には任意とされているため、企業担当者としては対応に苦慮するところです。 しかしながら、平成30年6月末に民間企業2社(セコムトラストシステムズ株式会社及び株式会社NTTネオメイト)が総務省及び経済産業省から「電子委任状取扱業務」の第1号認定を取得しており、この電子委任状は、代表者からの委任内容をあらかじめ受任者の電子証明書の中に記録しておく「電子証明書方式」と呼ばれるタイプですので、今後、当該方式がe‐TaxとeLTAX双方に採用されることになれば、申告等データに当該電子証明書で電子署名を付与するだけで送信することができ、別途委任状を作成して代表者の署名をもらう必要も無くなり、問題点は解消されるでしょう。 (了)

#No. 295(掲載号)
#坂本 真一郎
2018/11/22

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例68(法人税)】 「2期連続期限後申告となったため、青色申告の承認が取り消され、欠損金額を翌期以降に繰り越すことができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例68(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆確定申告書の提出期限の延長の特例(法法75の2) 申告書を提出すべき内国法人が、定款等の定めにより、当該事業年度以後の各事業年度終了の日の翌日から2月以内に当該各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあると認められる場合には、納税地の所轄税務署長は、その内国法人の申請に基づき、当該事業年度以後の各事業年度の当該申告書の提出期限を1月間延長することができる。 この特例の適用を受けようとする場合には、当該事業年度終了の日までに、一定の事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署に提出しなければならない。 ◆「青色申告の承認申請書」の提出(法法122①②) 「青色申告の承認申請書」は青色申告の承認を受けようとする事業年度開始の日の前日までに、設立初年度の場合には、設立の日以後3ヶ月を経過した日と設立後最初の事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日までに、納税地の所轄税務署に提出しなければならない。 ◆青色欠損金の繰越控除(法法57①) 法人が欠損金の生じた事業年度において青色申告書を提出している場合には、法人税の計算上、最長で10年間(平成30年3月31日以前は9年間)繰り越して所得金額を計算することができる。 ◆無申告又は期限後申告の場合における青色申告の承認の取消し(国税庁平成12年7月3日付事務運営指針4) 青色申告の承認の取消しは、2事業年度連続して期限内に申告書の提出がない場合に行うものとする。この場合、当該2事業年度目の事業年度以後の事業年度について、その承認を取り消す。 ◆青色申告の承認申請の却下(法法123) 税務署長は、青色申告の承認申請書の提出があった場合において、その申請書を提出した内国法人につき、「青色申告の承認の取消し」の規定による通知を受け、又は「青色申告の取りやめ」に規定する届出書の提出をした日以後1年以内にその申請書を提出したときは、その申請を却下することができる。       (了)

#No. 295(掲載号)
#齋藤 和助
2018/11/22

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第14回】「労働債務の分析(その2)」-従業員に対する退職給付債務-

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第14回】 「労働債務の分析(その2)」 -従業員に対する退職給付債務-   公認会計士 石田 晃一   ←(前回) | (次回)→   ▷従業員に対する退職後給付 従業員に対する退職給付は、一定の期間にわたって労働を提供したこと等の事由に基づき、退職以後に支給されるものであり、積立方法として内部/外部積立、支給方法として一時金/年金支給の別に大別されるほか、事業主が外部積立する掛金の追加的な拠出義務を有するか否かによって、確定給付制度と確定拠出制度に区分される。 退職給付の性格としては功績報償、生活保障等とする考え方もあるが、日本の会計基準では労働対価の後払として整理されており、退職給付は、その発生が当期以前の事象に起因する将来の特定の費用的支出であるとされる。 確定給付制度の場合には、退職によって発生が見込まれる退職給付債務から、退職に備えて外部に積み立てられた年金資産等を差し引くことによって、未積立部分が「退職給付に係る負債」(もしくは退職給付引当金)として計上されることになるが、確定拠出制度の場合には、外部への要拠出額をもって費用処理すれば足りるため、未拠出の金額がある場合に限ってこれを未払金として計上することになる。 なお、小規模企業等で従業員数が少なく、数理計算上の見積もり計算の信頼性が維持できない場合等は、退職給付に係る負債(もしくは退職給付引当金)の計算を期末要支給額の見積もり計算等によることができる、とされている。 ◎退職給付債務の調査における留意点 こうした会計処理は、上場企業等では一般的なものとなっているが、非上場企業で採用されているケースは必ずしも多くなく、特に税務基準による決算を行っている中小企業等にあっては、従業員に対する退職後給付が貸借対照表に反映されていることは稀であろう。こうした場合、対象会社の規模に応じて、年金数理計算の実施を要請するか、期末要支給額の計算を要請する等の対応が必要となる。 なお、期末要支給額は通常、「自己都合退職」の場合の係数で試算されるが、中途退職者が少なく、定年まで勤務する従業員が多い会社の場合は、一般的には要支給額が多くなることの多い「会社都合退職」の場合の係数の採用も検討の余地があるだろう。 ◆中小企業の退職金支給月数 (出所:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」) また、退職金の受給権が在職期間3年未満の従業員には発生しないケース等も多いが、例えば近年になって業容が急拡大している会社等の場合、受給権の発生していない従業員が多く在籍している場合もあるので、従業員の在職期間や入社年月等に関する情報にも留意が必要といえよう。   【実務事例14-1】 自動車部品の製造を行っていたM社は、業績の悪化に歯止めがかからず、同業他社に買収されることとなった。M社では退職給付会計を適用しておらず、退職給付債務が計上されていなかったため、M社の退職給付債務は簡便的に「期末自己都合要支給額」で算定された。 その後、買収スキームとして事業譲渡方式が採用されることとなり、全従業員がいったん会社都合で退職した後、再雇用されることとなったため、買収価格の算定上、「会社都合要支給額」で退職給付債務を改めて計算することとなった。   ▷複数事業主制度 複数の事業主が共同して1つの企業年金制度を設立する場合を「複数事業主制度」と呼ぶ。連合設立型厚生年金基金、総合設立型厚生年金基金等がこれに当たる。 複数事業主制度においては、退職給付債務等の合理的な基準により自社の負担に属する年金資産等の計算をした上で確定給付制度の会計処理を行うこととされているが、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができない場合には、確定拠出制度に準じた会計処理を行うこととされる。 ◎複数事業主制度に関する留意点 確定拠出に準じた会計処理が行われている場合であっても、年金資産の積立不足等が多額に存在する場合には、当該積立不足額について、加盟会社に対して穴埋めのための追加掛金の拠出等が要請される場合もある。さらに、一部の加盟会社が脱退する際、本来であればその会社が負担しておくべきであった積立不足が放置されたまま、残存会社に負担が課せられるケースが社会問題となり、新聞紙上を賑わせた例もあった。そのため、加盟している年金制度全体の直近の積立状況等についても留意が必要である。   ▷早期割増退職金 業績の悪化している会社等では希望退職・早期退職等を募るケースがある。こうしたケースでは通常の退職金に上乗せする形で割増退職金が一時的に支給されることが多い。 割増退職金は勤務期間を通じた労働の提供に伴って発生した退職給付という性格は有しておらず、むしろ将来の勤務を放棄する代償、失業期間中の補償等の性格を有するものとされることから、従業員が希望退職等に応募し、かつ、当該金額が合理的に見積もられることとなった時点で費用処理することとされている。 ◎早期割増退職金に関する留意点 M&Aに際してこうした希望退職等を募るケースは多くはないと思われるが、退職金の支払が買収後に行われるような場合には、割増部分を含めた総額が未払金として多額に計上されることになる。損益面では割増支給部分が一時的な支出として多額に発生する一方、将来におけるレガシーコストは大幅に削減されることから、いずれにしても大規模な希望退職等は将来の事業計画を通じて、買収価格に相応の影響を与えることになろう。   ▷退職給付債務の調査手続 M&Aデューデリジェンスにおける退職給付債務に関する主な調査手続を挙げると以下のとおりである。 (了)

#No. 295(掲載号)
#石田 晃一
2018/11/22

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第6回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第6回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   9 【STEP5】履行義務の充足による収益の認識 【STEP5】では収益認識の時点及び方法を決定する。 企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するものであると判断したには、当該履行義務は一定の期間にわたりで充足される(一定の期間で収益を認識する)ものとされ、一定の期間にわたり充足するものではないと判断した場合には、当該履行義務は一時点で充足される(一時点で収益を認識する)ものとされる(基準38、39)。 そのため、【STEP2】で識別した履行義務のそれぞれについて、企業は、契約開始時に、企業が履行義務を一定の期間にわたり充足するのか、それとも一時点で充足するのかを判断しなければならない。 具体的には、【STEP5】では以下の3つを検討する。 (1) 一定の期間にわたり充足する履行義務かどうか 以下の①から③のいずれかの要件に該当する場合には、資産に対する支配(6(連載第3回)(4)参照)が顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する(基準38)。 ① 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること 当該要件には、仮に他の企業が顧客に対する残存履行義務を充足する場合に、企業が現在までに完了した作業を当該他の企業が大幅にやり直す必要がない(※)場合には、企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受するものに該当する(適用指針9)。 例えば、清掃サービス、輸送サービス、経理事務の請負業務等の日常的又は反復的なサービスの提供が該当する(適用指針115)。 (※) 大幅なやり直しがないかどうかを判定する場合には、以下の両方の仮定を置く(適用指針9)。 ●企業の残存履行義務を他の企業に移転することを妨げる契約上の制限又は実務上の制約は存在しない。 ●残存履行義務を充足する他の企業は、企業が現在支配する資産からの便益を享受しない。また、当該他の企業は、履行義務が当該他の企業に移転した場合でも企業が支配し続けることになる当該資産の便益を享受しない。 なお、当該①の要件は、企業の履行によって顧客が便益を直ちに享受しない契約に適用されることを意図しておらず、企業の履行によって仕掛品等の資産が生じる又は資産の価値が増加する契約については、基準第38項(2)(上記②参照)又は(3)(上記③参照)の要件を満たすかどうかを判定する(基準135)。 ② 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること 当該要件を判定するにあたっては、基準第37項(資産に対する支配)の定め(6(連載第3回)(4)参照)を考慮する(基準136)。 例えば、顧客の土地の上で建物の建設を行う工事契約の場合や顧客の建物内で行うシステム開発は、通常、顧客が建物やシステムを物理的に占有していることから、顧客は企業の履行から生じる仕掛品を支配している。 なお、企業が顧客との契約における義務を履行することにより生じる資産又は価値が増加する資産は、有形又は無形のいずれの場合もある(基準136)。 ③ 企業が義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じ、かつ、義務の履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有していること 例えば、コンサルティングサービスのように顧客固有のサービスなどに適用できる可能性がある。 一部の財又はサービスについては、上記①又は②の要件を満たすことが困難な場合があるため、当該要件が定められている(基準137)。 ③の要件については、2つに分けることができるため、以下で(ⅰ)と(ⅱ)の2つに分けて解説する。 (ⅰ) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること 資産を別の用途に転用することができるかどうかの判定は、契約における取引開始日に行う。契約における取引開始日以後は、履行義務を著しく変更する契約変更がある場合を除き、判定を見直さない(適用指針10)。また、顧客との契約が解約される可能性は考慮しない(適用指針116)。 (ⅱ) 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること 履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有している場合とは、契約期間にわたり、企業が履行しなかったこと以外の理由で契約が解約される場合(例えば、顧客が契約を顧客側の理由で解約した場合)に、少なくとも履行を完了した部分についての補償を受ける権利を有している場合をいう(適用指針11、121)。 履行を完了した部分についての補償額は、合理的な利益相当額を含む、現在までに移転した財又はサービスの販売価格相当額である。合理的な利益相当額に対する補償額は、以下のいずれかによる(適用指針12)。 また、履行を完了した部分について対価を収受する権利の有無及び当該権利の強制力の有無の判定にあたっては、契約条件及び当該契約条件を補足する又は覆す可能性のある法令や判例等を考慮する。 当該考慮にあたっては、例えば、以下を評価することも含まれる(適用指針13)。 なお、契約で示される支払予定は、顧客が支払う対価の時期及び金額を定めているものであるが、必ずしも、企業が履行を完了した部分について対価を収受する強制力のある権利を有しているかどうかを示すものではない。例えば、契約により顧客から受け取った対価が、企業が履行しなかったこと以外の理由により返金されることが定められている場合もある(適用指針122)。 (2) 一定の期間にわたり充足する履行義務(進捗度の測定) 一定の期間にわたり充足される履行義務の場合、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき一定の期間にわたり収益を認識する(基準41)。 進捗度の見積り方法には、「アウトプット法」と「インプット法」がある。見積り方法の決定にあたっては、財又はサービスの性質を考慮する(適用指針15、17、20)。 原価比例法が原則的な方法ではないため、各社で売上取引種類ごとに実態に即した方法を選択する必要がある。 また、進捗度の見積り方法は、類似の履行義務及び状況については、首尾一貫した方法を適用する(基準42)。 ① アウトプット法の留意点(適用指針18、19、123) ▷選択したアウトプットが履行義務の充足に係る進捗を忠実に描写するような方法で、アウトプット法を適用する。 ▷例えば、生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において、企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が決算日に生産されるが、当該仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合には、企業の履行を忠実に描写していない。したがって、この場合、アウトプット法は適切でない。 ▷アウトプット法の欠点は、履行義務の充足に係る進捗度を見積るために使用されるアウトプットが直接的に観察できない場合があり、過大なコストを掛けないと必要な情報が利用できない場合があることである。 ▷【簡便法】提供したサービスの時間に基づき固定額を請求する契約等、現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受ける権利を有している場合には、請求する権利を有している金額で収益を認識することができる。 ② インプット法の留意点(適用指針20、21、22、125) ▷企業のインプットが履行期間を通じて均等に費消される場合、収益を定額で認識することが適切となることがある。 ▷顧客に財又はサービスに対する支配を移転する際の企業の履行を描写しないものの影響は、インプット法に反映しない。 ▷インプット法の欠点は、インプットと財又はサービスに対する支配の顧客への移転との間に直接的な関係がない場合があることである。例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費、労務費又は他の資源の仕損のコストは、契約の価格に反映されていない著しく非効率な企業の履行に起因して発生したコストであるため、当該コストに対応する収益は認識しない(以下(ⅰ)参照)。 ▷コストに基づくインプット法を使用するにあたっては、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)の状況において、履行義務の充足に係る進捗度の見積りを修正するかどうかを判断する。 (ⅰ) 発生したコストが、履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合 例えば、契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益は認識しない。 (ⅱ) 発生したコストが、履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合 インプット法を修正して、発生したコストの額で収益を認識するかどうかを判断する。例えば、契約における取引開始日に以下の(ア)から(エ)の要件のすべてが満たされると見込まれる場合には、企業の履行を忠実に描写するために、インプット法に使用される財のコストの額で収益を認識(財のコスト=収益の認識額と)することが適切である可能性がある。 (ア) 財が別個のものではないこと (イ) 顧客が財に関連するサービスを受領するより相当程度前に、顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること (ウ) 移転する財のコストの額について、履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること (エ) 企業が財を第三者から調達し、当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと(ただし、企業が本人に該当する場合(11.(連載第7回)参照)) ③ 進捗度を合理的に見積ることができない場合 進捗度を合理的に見積ることができない場合の会計処理として「(ⅰ)原価回収基準」と「(ⅱ)契約初期段階の会計処理」がある。 (ⅰ) 原価回収基準 履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務について原価回収基準により処理する(基準45)。つまり、回収することが見込まれる費用(原価)の金額と同額の収益を認識する(基準15)。 (ⅱ) 契約初期段階の会計処理 原価回収基準にかかわらず、一定の期間にわたり充足される履行義務について、契約の初期段階において、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には、当該契約の初期段階に収益を認識せず、当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができる(適用指針99)。これは、契約初期段階のみ認められている会計処理である。 ④ 進捗度の測定値の見直し 履行義務の充足に係る進捗度は各決算日に見直し、当該進捗度を合理的に見積ることができるか否かについても各決算日に見直す(基準43、154)。 この見直しにおいて、契約における取引開始日後に状況が変化し、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができなくなった場合で、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれるときは、その時点から原価回収基準により会計処理する(基準154)。 ⑤ 代替的な取扱い 代替的な取扱いとして、「工事完成基準」と「船舶による運送サービス」が規定されている。 (ⅰ) 工事完成基準 工事契約について、原則、工事完成基準は認められない。しかし、工事契約について、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することができる(適用指針95)。つまり、工事完成基準により収益を認識できるということである。 「ごく短い場合」について詳細な規定がないため、各社で「ごく短い場合」とはどれくらいかを決定する必要がある。 受注制作のソフトウェアについても、工事契約に準じて会計処理することができる(適用指針96)。 なお、当該代替的な取扱いは工事契約及び受注制作のソフトウェアに限ったものである。 (ⅱ) 船舶による運送サービス 船舶による運送サービスについて、原則は、1つ1つの顧客に対する貨物の輸送サービスごとに履行義務として認識し、かつ、それぞれの履行義務ごとに収益をいつ認識するかを決定する必要がある。しかし、このような方法は非常に煩雑であるため、以下の代替的な方法が認められている。 一定の期間にわたり収益を認識する船舶による運送サービスについて、一航海の船舶が発港地を出発してから帰港地に到着するまでの期間が通常の期間(運送サービスの履行に伴う空船廻航期間を含み、運送サービスの履行を目的としない船舶の移動又は待機期間を除く)である場合には、複数の顧客の貨物を積載する船舶の一航海を単一の履行義務としたうえで、当該期間にわたり収益を認識することができる(適用指針97)。 (3) 一時点で充足される履行義務 履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではないと判定された場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識する(基準39)。 ここで、一時点(支配)がどの時点かを判断する必要がある。 ① 資産に対する支配 資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定するにあたっては、「資産に対する支配」(6(連載第3回)(4)参照)を考慮する。また、支配の移転を検討する際には、例えば、以下の(ⅰ)から(ⅴ)の指標を考慮する(基準40、適用指針14、80~83)。 なお、以下の指標は例示であるため、これをすべて満たさないといかなる場合も支配が移転していないというわけではないし、すべて満たしたからといっていかなる場合も支配が移転しているというわけでもない。 ② 代替的な取扱い 上記①の(v)のとおり、収益認識において出荷基準、着荷基準は原則、認められない。しかし、以下の代替的な取扱いが設けられている。 商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができる(適用指針98)。 通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいう(適用指針98)。具体的には、国内における配送においては、数日間程度の取引が多い(適用指針171)。 上記の取扱いは、国内の販売においてのみ認められるものである。また、数日間程度が何日間かの規定はないため、各社で日数を決定する必要がある。 なお、割賦販売取引について、従来認められていた割賦基準(回収(期限到来)日基準)により収益を認識することは認められない(基準104)。したがって、支配の移転時(商品販売時)に収益を認識し、取引価格に重要な金融要素がある場合は、割引計算等が必要(7(連載第4回)(3-1)参照)となる。 (4-1) 一定の期間にわたり充足される履行義務(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (4-2) 一時点で充足される履行義務(従来との相違点等) ① 従来との相違点 ② 影響がある取引(例示) ③ 適用上の課題 ④ 財務諸表への影響 (了)

#No. 295(掲載号)
#西田 友洋
2018/11/22

企業結合会計を学ぶ 【第6回】「取得原価の配分方法①」-識別可能資産及び負債の範囲-

企業結合会計を学ぶ 【第6回】 「取得原価の配分方法①」 -識別可能資産及び負債の範囲-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 【第3回】で示した次の吸収合併の〔例〕を用いて、「取得」の会計処理における取得原価の配分方法について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 吸収合併 〔例〕 次の条件による吸収合併を行った(会社法2条27号)。 A社(存続会社、取得企業)の吸収合併(取得)に関する会計処理は次のとおりである。   Ⅲ 取得原価の配分方法 1 基本的な考え方 取得企業は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債の時価を基礎として、それらに対して取得原価を配分する(企業結合会計基準98項)。 これは、取得とされた企業結合に特有な処理ではなく、企業結合以外の交換取引により複数の資産及び負債を一括して受け入れた又は引き受けた場合に一般的に適用されているものであり、次のような考え方である(企業結合会計基準98項)。 2 取得における取得原価の配分方法 企業結合会計基準は、取得原価は、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なもの(識別可能資産及び負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産及び負債に対して企業結合日以後1年以内に配分すると規定している(企業結合会計基準28項、結合分離適用指針51項)。 取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとして企業結合会計基準32項に従って会計処理し、下回る場合には、その不足額は負ののれんとして企業結合会計基準33項に従って会計処理する(企業結合会計基準31項)。 3 識別可能資産及び負債の範囲 識別可能資産及び負債とは、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のうち企業結合日時点において識別可能なものをいう(企業結合会計基準99項、結合分離適用指針52項)。 識別可能資産及び負債の範囲は、被取得企業の企業結合日前の貸借対照表において計上されていたかどうかにかかわらず、対価を支払って取得した場合、原則として、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識されるものに限定される(企業結合会計基準99項)。 受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う(企業結合会計基準29項)。 4 識別可能資産及び負債の時価の算定方法 識別可能資産及び負債の時価は、企業結合日時点での時価を基礎にして算定する(企業結合会計基準28項、102項)。 時価は、強制売買取引や清算取引ではなく、いわゆる独立第三者間取引に基づく公正な評価額であり、通常、それは観察可能な市場価格に基づく価額であるが、市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額が時価となる(企業結合会計基準102項、103項)。 結合分離適用指針53項及び362項は次のように規定している。 5 取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失 取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用又は損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識する(企業結合会計基準30項、99項)。 当該負債を「企業結合に係る特定勘定」といい、結合分離適用指針63項及び64項の要件を満たしている場合に限られる(結合分離適用指針62項)。 当該負債は、原則として、固定負債として表示し、その主な内容及び金額を連結貸借対照表及び個別貸借対照表に注記する(企業結合会計基準30項)。 なお、認識の対象となった事象が貸借対照表日後1年内に発生することが明らかなものは流動負債として表示する(結合分離適用指針62項、451項)。 (了)

#No. 295(掲載号)
#阿部 光成
2018/11/22

相続(民法等)をめぐる注目判例紹介 【第2回】「共同相続人間における相続分の無償譲渡」-最高裁平成30年10月19日判決-

相続(民法等)をめぐる注目判例紹介 【第2回】 「共同相続人間における相続分の無償譲渡」 -最高裁平成30年10月19日判決-   弁護士 阪本 敬幸   1 事案の概要 最高裁平成30年10月19日判決(以下、「本件判決」という)は、下記相続関係図(実際の事案では4人の子がいたようだが、簡略化するためXYの2人とした)の場合に、下記①~⑤の事情があったという事案である。 Xは、上記①B死亡時におけるAからYに対する相続分譲渡(以下、「本件相続分譲渡」という)の価額を、遺留分減殺の基礎となる財産額に算入すべき贈与(民法1044条、903条1項)にあたると主張。原審(東京高裁平成29年6月22日判決)は、Xの主張を認めなかっため、Xが上告。   2 判決要旨 (1) 結論 破棄差戻し。争点となった「本件相続分譲渡が遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき贈与にあたるか」という点について、以下のように述べ、これを肯定した。 (2) 理由 上記結論の理由として、次のように述べられている。   3 解説 (1) 本判決の意義 相続分の譲渡とは、一般に、遺産分割前に、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分を移転することをいう(民法905条参照)。共同相続人間で行われる場合と、共同相続人と第三者との間で行われる場合とがある。 本判決は、共同相続人間における相続分の譲渡により、譲受人には遺産の共有持分の移転が生じること、遺産分割手続においても増加した相続分に応じた相続財産の分配を求めることができるようになること、という点を考慮すれば、相続分の譲渡は、譲渡人から譲受人に対して経済的利益を合意により移転するものということができるとして(相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き)、民法903条1項にいう「贈与」にあたるとしたものである。民法903条1項にいう「贈与」にあたるということは、相続分の譲渡が、同条項が定める持ち戻しの対象となるということを意味する。 下級審では、本判決同様、共同相続人間における相続分の譲渡が贈与にあたるとしたもの(東京高判平成29年7月26日・判時2370-31)と、贈与にあたらないとしたもの(東京高裁平成29年6月22日判決。本判決の原審)に分かれていた。本判決により、今後の裁判実務においても統一的な運用がなされるものと思われる。 今後、一部の相続人に対する相続分の譲渡を考える際は、相続時にはこれが民法903条1項の「贈与」となることを理解した上、持ち戻し免除の意思表示をすべきか、あるいは、相続分を譲渡するのではなく遺産分割手続の中で一部相続人の取得する財産の額を多くすべきか(後述の通り、この場合は民法903条1項の「贈与」の問題は生じないと思われる)、等を検討すべきであろう。 (2) 本判決の考え方 本判決は、共同相続人間における相続分の譲渡が民法903条1項にいう「贈与」にあたると判断したものであり、判断の基礎には、共同相続人間の実質的な公平を図ろうという持ち戻し制度の趣旨を全うする点があると思われる。すなわち、民法903条1項が持ち戻しを定めた趣旨は、被相続人から一部の共同相続人に対し、他の共同相続人の意思と無関係に経済的利益を移転させることにより、相続時に他の共同相続人の取得する財産が減少するという不公平を是正することにある。 ところが、同じく被相続人が生前にその財産を一部共同相続人に取得させる場合でも、「被相続人が個々の財産を贈与していれば持ち戻しとなるが、個々の財産ではなく相続分を無償で譲渡すれば持ち戻し不要である」というのでは、あまりにも不公平な結果となってしまうのである。 本判決の原審は、相続分の譲渡は遺産分割が終了するまでの暫定的なものであり、最終的に遺産分割が確定すれば、遺産分割の遡及効(民法909条本文)によって相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから、譲渡人から譲受人に相続財産の贈与があったとは観念できないことなどを理由に、相続分譲渡は民法903条1項の「贈与」にあたらないとしていた。 しかし本判決では、相続分の譲渡は、「譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができる」とした後に、「遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは,以上のように解することの妨げとなるものではない。」と述べられており、形式的な遡及効の点ではなく、実質的な経済的利益の移転という点に着目し、共同相続人間の公平の実現を意図したものといえよう。 なお、上記の通り、民法903条1項は、一部の相続人が、その他の相続人の意思と無関係に、被相続人から経済的利益の移転を受けることによる不公平を是正する趣旨である。したがって、相続分の譲渡が行われることなく、遺産分割協議の中で、全相続人の合意の下、一部の相続人が法定相続分に応じて算出される額よりも多くの相続財産を取得する場合(現に多くの遺産分割協議で行われていることである)は、当該相続人以外の相続人もそのことを了承する旨の意思表示を行っているのであるから、民法903条1項の「贈与」となる余地はないだろう。 (3) 税との関係 共同相続人間における相続分の譲渡が、課税上も贈与として贈与税が課せられるかは、本判決とは別問題である。 現在の相続税の実務上、共同相続人間で無償の相続分譲渡があった場合、譲受人に対して贈与税が課されることはなく、相続税の中で処理されている。すなわち、相続分譲渡が無償であれば、譲受人のみに増加した相続財産について相続税が課せられ、譲渡が有償であれば、譲受人には増加した相続財産について相続税が、譲渡人には譲渡対価について相続税が課せられる。 このような処理がなされる理由は、相続税法は各共同相続人に対する相続税の課税について各人が現実に取得した相続財産の価格に応じた課税を行うことを原則としており、共同相続人間で無償の相続分の譲渡があった場合でも、遺産分割協議の中で一部の共同相続人に対して多く相続財産を取得させることにより相続分の譲渡と同様の結果が生じた場合でも、同じ税を課すことが、広く納税義務者となる国民との関係では公平であるからと思われる。 また、相続分の譲渡について贈与税を課した上で、譲渡後の相続分に応じた遺産分割の結果、譲受人が現実に取得した相続財産の価格に応じてさらに相続税を課すことは、二重課税となるとも考えられる。未分割遺産に対する課税を定めた相続税法55条の「相続分」には、共同相続人間における譲渡により取得された相続分が含まれるとした判例(最判平成5年5月28日・判タ818-89)からしても、このような処理になるのが自然であろう。 他方で、本判決は、上記の通り共同相続人間の公平という点を考慮したものであると考えられ、課税の場面での原則・公平とは異なる上、民法903条1項にいう「贈与」と、相続税法上の「贈与」とを同じ意味と理解しなければならないわけでもない。したがって、本判決が影響して、共同相続人間における相続分の譲渡について贈与税が課せられるようになるといったことはないと思われる。   4 その他 本判決は共同相続人間での相続分の譲渡に関するものであり、第三者に対する相続分の譲渡の場面では別の取扱いがある。第三者に対する相続分の譲渡は、譲渡人の割合的な持分を移転させるものであって、相続人の地位を移転させるわけではない。したがって、相続分が無償で譲渡された場合、譲受人には相続税ではなく贈与税が、譲渡人には相続税が課せられる(東京高判平成17年11月10日)。この機会に、第三者に対する相続分の譲渡についても確認することをお勧めする。 なお本判決とは直接関係ないが、改正相続法では、遺留分算定の基礎となる財産額の算定の上で持ち戻しの対象となる生前贈与は相続開始前10年に限定されることとなっているので、この点も確認されたい。 (了)

#No. 295(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/11/22

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第13回】「アメフト部タックル事件と大学へのガバナンス」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第13回】 「アメフト部タックル事件と大学へのガバナンス」   弁護士 原 正雄   2018年5月6日、大学アメリカンフットボール部(以下、アメフト部)の試合で、N大学の部員A選手が危険な反則タックルを行い、相手大学の部員を負傷させた事件(以下、本件)が発生した。本件は、U監督が部員に反則タックルを指示したのではないか、ということで大変な社会問題となった。 5月31日、N大学は第三者委員会を設置して、事実関係と原因究明に着手した。6月29日には第三者委員会の中間報告書が公表され、同年7月30日、第三者委員会の最終報告書(以下、第三者報告書)が公表された。 第三者報告書によれば、本件は「指導者としての基本的な資質を欠いたU氏及びI氏から、精神的に過度のプレッシャーを掛けられた上、ルールを逸脱した危険タックル等の反則行為を指示されたA選手がこれを実行に移し、対戦相手のK大学アメフト部のB選手を負傷させた」というものである(第三者報告書38頁。以下、頁のみ記載)。 また、第三者報告書は、本件が問題となった後のN大学の事後対応について、以下の4点を「問題点」として指摘している(24~27頁)。 以下、第三者報告書に基づいて、「大学のガバナンス」という観点から、本件を分析する。   1 N大学におけるアメフト部の位置付け N大学では、競技部は重要な経営資源であった(14頁)。そのため、アメフト部などの競技部は、学生による任意団体ではなく、大学の組織の一部であり、大学としての事業の一環とされていた。 具体的には、N大学には、付属機関として保健体育審議会が設置されており(N大学保健体育審議会規程1条)、アメフト部はこの保健体育審議会に属している。このためアメフト部は正式名称を「N大学保健体育審議会アメリカンフットボール部」という。アメフト部の部長は、理事長・学長・副学長・常務理事・学部長等の中から選ばれ、そうして選ばれた部長が、監督やコーチを指名する(8、9頁)。 本件当時、アメフト部の部長は、N大学の枢要ポストである常務理事(人事担当)であるU氏が就任していた(14頁)。これは、N大学のT理事長が認めた人事であった。T理事長は、4期10年に及ぶ長きにわたり理事長の職にあり、N大学において絶大な権限と影響力を有していた。そのT理事長が容認した結果、U監督によるアメフト部の独裁体制が可能となった、とされている(28頁)。 そうだとすると、本件での反則タックルは、現場の暴走ではなく、理事会の経営方針に従ってアメフト部を運営した結果である可能性も否定できない。この点について、第三者報告書には特段の記載はない。   2 N大学による事後の対応 A選手は、反則タックルがU監督の指示であった、と説明していた。これに対して、U監督は、反則タックルを指示したことを否定した。 第三者報告書によれば、U監督は、常務理事でもあったため、T理事長に本件の事実経過を随時報告していたことがうかがえる(22頁)。その上で、N大学は、5月23日、大学の講堂でU監督が出席する記者会見を開催し、U監督に弁明の機会を付与した(17頁)。また、N大学は、反則タックルを理由に刑事告訴されたU監督のために、弁護士費用を肩代わりすることを検討していた(24頁)。さらに、T理事長は「私としては経営側の立場であり、今回の対応は教学の責任者である学長にお願いをしている」と述べていた(19頁)。 こうした経緯は、U監督の行動について、理事会が「経営方針の範囲内である」として受け入れていた様子をうかがわせる。   3 N大学による隠蔽工作への関わり 本件は、わずか1週間ほどで社会問題に発展した。そうした中、N大学のI理事が、反則タックルをしたA選手に対して、以下のとおり告げた。 上記は、暗にU監督らの関与がなかったかのように説明することを求めて「口封じ」を図ったものであった(15頁)。また、上記「大学が総力を挙げて」との発言は「口封じ」が大学の総意であるとするものであった。この点について、何らかの裏付けがあっての発言なのか、そうでないのかは、第三者報告書には記載はない。 後に、N大学は、I理事を辞任させた。ただ、それは、上記「口封じ」を記載する中間報告書が公表され、N大学がさらなる批判を浴びた後のことであった。これが、理事会としての自浄作用が働いた結果なのか、それとも社会的に批判されたことだけが理由なのかは、第三者報告書を読む限り、判然としない。 また、上記以外にも、N大学の職員が、アメフト部員数名に対して、U監督の指示について話さないよう求めるという隠蔽工作を行っている(15頁)。第三者報告書においては、当該職員の立場、所属、役職は一切不明である。大学から当該職員への指示の有無も、一切不明のままである。   4 「大学によるアメフト部に対するガバナンス体制の検証」 第三者報告書は、調査嘱託事項の1つを「大学によるアメフト部に対するガバナンス体制の検証」としている(2頁)。 「ガバナンス」という言葉は、コーポレートガバナンス・コードでは「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義されている。すなわち、会社の意思を決定する取締役会に対する監督を意味する。 本件でアメフト部に「ガバナンス」という言葉を用いたのは、アメフト部が大学から独立した組織であり、意思を決定するのは監督であることを前提としている。しかし、上述したとおり、アメフト部は、N大学の組織の一部である。アメフト部に「ガバナンス」という言葉を用いるのは、本来、相応しくない。 第三者報告書は、調査嘱託事項においてアメフト部に「ガバナンス」という言葉を用いた結果、同部を独立した組織であるかのように前提してしまい、アメフト部の暴走という結論を先取りした形になってしまった。   5 大学に対する「ガバナンス」 学外に対して、誰が、どのようにして、大学についての責任を負うかが、大学におけるガバナンスである。大学におけるガバナンスの対象は、理事会以外にはありえない。 ただ、理事の選任方法は、寄付行為で定める(私立学校法38条1項)。私立学校法は、大学に対するガバナンスを求めていない。N大学での理事の選任方法の定めは明らかではなく、N大学に対するガバナンスがどのように実現されるかは、不明である。 第三者報告書を読む限り、上述したとおり、①本件での反則タックルは、理事会の方針に従ってアメフト部を運営した結果である可能性も否定できない。また、②U監督の行動について、理事会が「経営方針の範囲内である」として受け入れていた様子もある。さらに、③隠蔽工作についての理事会の関わりの有無も、明らかにされていない。 本件では「再発を防止するための対策」も調査嘱託事項とされている。真に再発を防止するには、徹底した原因究明が不可欠である。原因を究明するためには、本来、理事会に対するガバナンスという観点から、上記①~③についても検証すべきであった。その上で、再発防止策を提言すべきであった。 また、上述のとおり、第三者報告書のみでは、N大学のガバナンスに疑念が残る形となってしまっている。N大学の名誉回復という観点からも、こうした点にもっと踏み込むべきであった。   6 理事長の声明 第三者委員会が公表された4日後(8月3日)、N大学の理事長は「理事長として・・・、改めて学生ファーストの精神に立ち返って今後の大学運営を行っていくことを、学生諸君、保護者の皆様に宣言いたします。教職員の皆様も、わたくしの決意を受け止め、行動していただきたい」とする声明を公表した。また、I理事の「口封じ」についても「なぜこんな卑劣な行為があったのか、驚愕と激しい怒りがこみ上げました」と記載している。 上記は、理事長である「わたくし」が、今後も理事長の職務を継続するとの決意を表明した上で、理事長に批判的な教職員もいる中で一致団結を求めるものである。また、I理事の「口封じ」については、理事会と関わりのない暴走であったとするものである。 上記は、第三者委員会の認定と結論を踏まえてのものである。ただ、開示文を見る限り、「競技部へのガバナンス強化」や「競技部の改革」は謳っているものの、理事会に対するガバナンス強化には言及していない。これまで「学生ファーストの精神」を実現できていなかったのは、あくまで理事会である。N大学の理事会が、本件への反省を踏まえて「学生ファーストの精神」に立ち返った大学改革を実現できるか、見守っていきたい。 (※) なお、警視庁は、U監督が反則タックルを指示した事実は認められないと判断したとのことである(日本経済新聞2018.11.13夕刊)。 (了)

#No. 295(掲載号)
#原 正雄
2018/11/22

《速報解説》 改正相続法の施行日は2019年(平成31年)7月1日で確定~配偶者居住権は2020年4月1日以後開始の相続から~

《速報解説》 改正相続法の施行日は2019年(平成31年)7月1日で確定 ~配偶者居住権は2020年4月1日以後開始の相続から~   Profession Journal編集部   本日(2018年11月21日)付け官報第7394号にて、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」及び「法務局における遺言書の保管等に関する法律の施行期日を定める政令」が公布され、本年7月13日に公布された「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(以下、改正民法)及び「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の施行日が確定した。 改正民法の施行期日は原則2019年(平成31年)7月1日とされ、遺留分侵害額の金銭債権化や特別寄与料請求権の新設などが適用される。ただし、遺産分割前の預貯金の仮払い制度は施行日前に開始した相続に関し施行日以後に預貯金債権が行使されるときにも適用される(改正民法附則5条1項)など改正項目によっては経過措置が定められているので留意が必要だ。なお、この仮払い制度に関しては、単独行使による金融機関ごとの払戻し限度額を150万円と規定した改正法務省令が既報のとおりパブコメに付されていたが、本日の官報同号にて改正案どおりの内容で公布されている。 また、配偶者居住権について規定された改正民法2条の施行は2020年(平成32年4月1日)とされ、同日以後に開始した相続については、配偶者居住権を踏まえた遺産分割の対応が求められることとなる。この配偶者居住権の評価方法をめぐっては来年度の税制改正大綱において何らかの言及があるとみる向きもあるが、どのような対応となるか今後の動向に注目される。 さらに、法務局における自筆証書遺言書の保管制度は2020年(平成32年)7月10日からスタートされ、今後、関係法令による整備が進められることになる。なお、自筆証書遺言の方式の緩和については、改正民法附則1条2号で「公布の日から起算して6月を経過した日」から施行されることが規定されており、いち早く来年(2019年)1月13日がその開始時期となる。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 295(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/11/21

プロフェッションジャーナル No.294が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年11月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.294を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/11/15

日本の企業税制 【第61回】「シェアリングエコノミー・仮想通貨等の所得把握に向けた検討状況」

日本の企業税制 【第61回】 「シェアリングエコノミー・仮想通貨等の所得把握に向けた検討状況」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇政府税調での議論が進む「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備」 10月10日に政府税制調査会第17回総会が開かれてから11月7日の第20回総会まで、4回の総会が開催された。 特に10月23日の第19回総会では、経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について、今後の総会における議論の素材を整理するため、「納税環境整備に関する専門家会合」を設置することが決定され、その後、第20回総会までの2週間で、専門家会合が3回(10月24日、29日、11月5日)、集中的に開催され、第20回総会では「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について(意見の整理)」が報告された。 経済社会のICT化等への対応については、平成30年度与党税制改正大綱でも、「経済のICT化等の動向や諸外国の制度も踏まえ、適正な記帳の確保に向けた方策を講じつつ、事業所得等の適正な申告、所得把握に向けた取組みを進める」とされていたところであり、早ければ平成31年度税制改正のテーマの1つにもなりうる。 専門家会合での議論の対象は主に、「シェアリングエコノミー」、「仮想通貨取引」、「金地金取引」の3点であった。   〇シェアリングエコノミーの実態 すでに昨年の政府税制調査会では、経済のICT化に関連して次のように述べられていた。 (2017年11月20日「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告②(税務手続の電子化等の推進、個人所得課税の見直し)」より) 本年7月に、内閣府経済社会研究所が発表した『シェアリング・エコノミー等新分野の経済活動の計測に関する調査研究』報告書によれば、シェアリング・エコノミー全体の生産額規模(2016年)は約4,700億円~5,250億円程度と試算され、そのうち「SNA(国民経済計算)の生産の境界内ではあるが、捕捉できていないと考えられるもの」の規模は950億円~1,350億円程度とされている。   〇仮想通貨取引 仮想通貨の世界的な市場規模は急速に拡大しており、仮想通貨全体の時価総額は平成26 年から平成30 年にかけて約1,000 倍に増加している。 また、本年5月の国税庁の報道発表資料によれば、確定申告をした者で、公的年金等以外の雑所得に係る収入金額が1億円以上ある者(平成29年分549人)のうち、仮想通貨取引による収入があると判別できた者は331人(速報値)であった。 しかし、仮想通貨はインターネットを通じて簡易に口座間の移転を行うことができ、複数の交換業者を利用している顧客も少なからずおり、交換業者をまたがって口座間の移転が行われた場合、移転先の口座を管理する交換業者においては、移転元における仮想通貨の取得価額が把握できないため、当該仮想通貨における損益の計算もできないという現状にある。 こうしたことから、国税庁では、仮想通貨関連団体とともに納税者自身による適正な納税義務の履行を後押しする環境整備について検討するため、「仮想通貨取引等に係る申告等の環境整備に関する研究会」を本年4月から開始している。 当面の協議事項例として、仮想通貨取引所利用者に対する所得計算上必要な情報の提供といった申告利便向上策が挙げられている。   〇金地金取引 金地金取引については、近年、金の密輸入事件が多発し社会的に大きな問題となっていることを受け、平成30年度税制改正において、金の密輸に対する抑止効果を高め、密輸者に一層の経済的不利益を与える観点から、関税法上の無許可輸出入罪の罰則及び輸入に係る消費税等のほ脱罪の罰則を強化したところである。 国内で金地金を貴金属取扱業者に売却する際、1回200 万円超の取引であれば、業者から税務当局に対して買取額等を記載した法定調書が提出されるが、200万円を下回るよう小口に分割して売却された場合には、調書による報告の対象とはならないという限界が指摘されている。   〇税制上の方策 今回、政府税制調査会総会で報告された「経済社会のICT化等に伴う納税環境整備のあり方について(意見の整理)」では、自主的な適正申告の実現に向けた方策として、 の3点が掲げられている。 ただし、①納税者に対する更なる情報提供及びその活用に関しては、 といった中長期的な方策の指摘が中心であり、また、③源泉徴収に関しては、 との指摘もあり、乗り越えるべき課題は多い。 一方、②税務当局による必要な情報の取得等については、仮想通貨取引やシェアリングエコノミーに関して、 といった、制度設計につながる指摘が見られるところであり、まずは、こうした対応から制度化が行われるのではないかと見られる。 (了)

#No. 294(掲載号)
#小畑 良晴
2018/11/15
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