《速報解説》 国会審議中の平成31年度税制改正法案、財務省HPでは新旧対照表が公表される ~配偶者居住権等の評価は相続税法での規定、中小企業強靭化法案等関連法も国会審議へ~ Profession Journal編集部 平成31年度税制改正法案は国税(所得税法等の一部を改正する法律案)及び地方税(地方税法等の一部を改正する法律案等)ともに第198回通常国会での審議が始まっているが、財務省は2月15日に「所得税法等の一部を改正する法律案」の新旧対照表を公表した(地方税については公表済み)。 (※) 特別法人事業税及び特別法人譲与税の創設、森林環境税及び森林環境譲与税の創設については、それぞれ別途「特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律案」「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律案」において規定されている。 既報のとおり平成31年度税制改正では消費税率の引上げに伴う需要変動を平準化するため自動車や住宅等の消費財に係る税制措置が手当てされているが、中長期の課題として昨年度の中小企業向け特例措置の創設に続き個人事業者向けの事業承継税制が創設されることとなり、法案でも下記の租税特別措置が平成31年1月1日から平成40年12月31日までの10年限定で新たに規定されている。 第70条の6の8(個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除)【新旧対照表P470】 第70条の6の9(個人の事業用資産の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例)【新旧対照表P486】 第70条の6の10(個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除)【新旧対照表P487】 この個人版事業承継税制を適用する際は特定事業用宅地等に係る小規模宅地等特例との重複適用が禁止されているほか(措法69の4⑥:新設)、同特例では昨年度の特定居住用宅地等及び貸付事業用宅地等の見直しに続き、特定事業用宅地等の範囲について相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された一定規模の宅地等を除外する等の見直しが行われている【新旧対照表P451】。 なお、個人版事業承継税制の適用に当たっては、その前提として経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)に規定された認定を受ける必要があるが、この新税制創設に伴い認定要件を定めた同法の改正省令案が2月8日付けでパフコメに付されている。 また、この新税制の効果が十分に発揮されることを目的に、遺留分に関する民法特例の対象を個人事業者に拡大する、すなわち新税制の適用を受ける個人事業後継者が取得した事業用資産の価額を、相続人間の合意により、遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことができるよう、上記省令案とは別に経営承継円滑化法自体の改正が予定されており、この改正を織り込んだ「中小企業の事業活動の継続に資するための中小企業等経営強化法等の一部を改正する法律案」(中小企業強靭化法案)が2月15日に閣議決定された。 中小企業強靭化法案ではもう1つの大きな柱として中小企業等経営強化法の改正が織り込まれており、平成31年度税制改正で創設される、中小企業が一定の防災・減災設備を取得等した場合の特別償却制度について、その認定を受けるための事業継続力強化計画等の要件が定められている。 (※) 中小企業等経営強化法に係る改正では他に、ベンチャー企業が社外のエンジニア等高度人材を活用した場合のストックオプション税制の適用拡充に関し、その適用に必要な事業計画の認定制度に係る事項も定められている。 なお、上記特別償却制度は税制改正法案において措置法44条の2(特定事業継続力強化設備等の特別償却(所得税は11条の4))として規定されている【新旧対照表P244】。 また今年度の税制改正では民法(相続関係)の改正に伴う税制措置が講じられるが、相続税における配偶者居住権等の評価について、大綱公表時点では財産評価基本通達の改正が行われるのではと見る向きもあったものの(※)、この評価方法を定めた相続税法(案)第23の2《配偶者居住権等の評価》が下記のとおり新設されている【新旧対照表P51】。 (※) 地上権や定期金に関する権利などは相続税法により規定されているが、土地や家屋、株式といった一般的な財産の評価方法については財産評価基本通達に定められている。 上記規定は大綱の表記とほぼ同様のものであり、配偶者死亡時(二次相続時)の評価等、詳細な取扱いが明らかになっていない部分もある(詳しくは[こちら]を参照)。これらについては今後の政省令や通達等の改正動向に留意が必要だ。なお、大綱での記載を基にした評価方法の計算事例については[こちら]を参照。 (了)
《速報解説》 名古屋国税局、信託の終了に伴い受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登免法7条2の適用関係につき文書回答事例で見解を示す 税理士 仲宗根 宗聡 本稿では、名古屋国税局が平成30年12月18日付(ホームページ公表は同月26日)で公表した文書回答事例「信託の終了に伴い、受託者兼残余財産帰属権利者が受ける所有権の移転登記に係る登録免許税法第7条第2項の適用関係について」の内容について解説する。 【事前照会の事実関係と信託契約の概要】 甲は、自身が認知症及び要介護状態となった場合における財産管理等を目的として、甲の推定相続人のうちの1人である実子乙との間で、甲を委託者兼受益者、乙を受託者及び受益者の死亡により信託が終了したときの残余財産帰属権利者として、所有する建物、宅地及び金銭を信託財産とする信託契約を締結します。 【事前照会の要約】 このような信託契約を前提として、甲の死亡により、甲の相続人である乙が信託財産を取得する場合、信託契約が終了したことに伴う不動産(信託財産)に係る所有権移転登記について、登録免許税法第7条《信託財産の登記等の課税の特例》第2項の規定が適用され、相続による所有権の移転の登記とみなして登録免許税が課されると解してよいのか、照会します。 【法令の規定】 (1) 登録免許税法の規定 (2) 規定の概要 ① 登録免許税法(第7条①一) ② 登録免許税法(第7条①二) (※) 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託に限る。 ③ 登録免許税法(第7条②) (※1) 信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託に限る。 (※2) 元本受益者が、信託の効力が生じた時における委託者の相続人であること(当初委託者の相続人であること)。 【照会者の見解】 (1) 登録免許税法第7条第2項の適用要件 [要件1]信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合 [要件2]当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合 [要件3]当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人であるとき (2) 要件のあてはめ ① [要件1]信託の信託財産を受託者から受益者に移す場合 事前照会の信託契約(以下「本件信託契約」という)においては、甲の死亡により信託は終了し、乙は残余財産帰属権利者として信託財産を取得します。 乙は、受益者として信託財産を取得していないため、[要件1]を満たさないように思えます。 しかし、登録免許税法には「受益者」の定義がないので、乙が「受益者」に該当するか否かは、信託法の定義にて判断することになります。 ▼ ② [要件2]当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合 本件信託契約は、甲が死亡するまでは、委託者甲が受益者であり、また、甲の死亡後は、甲から委託者の地位を取得した乙のみが残余財産帰属権利者(受益者)であることから、上記[要件2]を満たすと解するのが相当です。 ③ [要件3]当該受益者が当該信託の効力が生じた時における委託者の相続人であるときである場合 乙は、本件信託契約の効力が生じた時における委託者甲の相続人であることから、上記[要件3]を満たすことになります。 (3) 結論 以上のとおり、登録免許税法第7条第2項の趣旨に反しておらず、各要件を全て満たしているものと解されることから、本件信託契約により乙が残余財産帰属権利者として取得した信託財産については、相続により取得したものとみなして、登録免許税法第7条第2項の適用があるものと考えられます。 * * * 上記の見解に対し名古屋国税局審理課長より貴見のとおりで差し支えないとの回答がなされている。 (了)
2019年2月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.306を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第73回】 「国語辞典から読み解く租税法(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 憲法84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」として、いわゆる租税法律主義を定め、国民の経済生活に法的安定性と予測可能性を与えることとしている。その趣旨からすれば、納税義務者及び課税標準等の課税要件や租税の徴収手続は法律によって定められていなければならず、また、課税要件については、その内容が多義的でなく明確かつ一義的に定まっていることが望ましい。 しかし、租税が対象とする納税者の社会生活上の事象は多種多様であり、特に納税者の自由な経済活動により多様な形態の事業、取引等がなされることに鑑みると、それら全てを法律により一義的に規定し尽くすことは不可能であって、その内容の明確性には自ずと限界がある。 したがって、租税法規の用語の解釈は、原則として、定義規定がある場合にはそれにより、そうでない場合には日本語の通常の用語例によって文理解釈して規定の意味内容を明確にすべきであるが、それができない場合には、当該規定の趣旨・目的、定め方、経緯、租税負担の公平性及び相当性等を総合考慮して、その意味内容を合理的に解釈する必要がある。 このように述べるのは、長崎地裁平成28年5月10日判決(税資266号順号12852)である。 本稿では、上記判決にいうところの「日本語の通常の用語例」に着目することとし、国語辞典から租税法を読み解いてみたい。 1 長崎地裁平成28年5月10日判決 さて、概ね上記のように判示する長崎地裁であるが、このような考え方は妥当であろうか。まず、同事件を簡単に紹介しておこう。 この事件は、納税者X(原告)が、国Y(被告)を相手どって提起した課税処分の取消し訴訟である。取消し請求の対象となった処分は、次のようなものである。なお、ここではその他の争点は割愛する。 この点、本件規定に関する通達は「法人の営む事業が指定事業に該当するかどうかは、おおむね日本標準産業分類(総務庁)の分類を基準として判定する。」と示達する(措法関係通達42の6-5)。 ところで、「日本標準産業分類」は、地方自治体が補助金を交付する施策等において、補助対象者該当性ないし事業の定義に用いられているほか、国内の証券取引所に上場する企業の「証券コード」にも用いられている。また、複数の租税関係通達は、個人又は法人の事業が各種租税法規において規定されている「指定事業」に該当するかについて、おおむね日本標準産業分類を基準として判定することとしている。 さて、長崎地裁平成28年5月10日判決では、本件規定にいう「サービス業」の意義が問題となった。同判決は、その説示の中で、「辞書・辞典におけるサービス業の用語例」として、各種の辞書・辞典には、サービス業ないしサービス産業について、以下の用語例が記載されているとする。 これらの辞書は、XとYがそれぞれ訴訟に持ち込んだ資料である。 その上で、本件条項の「サービス業」の解釈について、「Xは、Xの事業が指定事業、すなわち、本件条項の定める『サービス業』に該当すると主張するので、以下検討する。」とした上で、次のように述べている。 そして次のように説示する。 このように示した上で、以下、本件条項にいう「サービス業」に該当するかを判断するに当たって、辞書や辞典に挙げられた用語例のみから文理解釈することはできないとの解釈を展開している。 ここでは、上記判決が、租税法の条文に示されている「サービス業」の解釈を行うに当たって、辞書や辞典の用語例によることの限界を指摘した上で、解釈論を展開していることに注目したい。 この判決は、租税法律主義からすれば文理解釈が重要視されるとした上で、条文が用いている概念について、まず、辞書や辞典を参照し、概念の確定を試みている。しかしながら、辞書や辞典からは確定した概念理解に繋がる解釈を採り得なかったことから、次に条文の趣旨等によって判断をしようとしているのである。 すなわち、辞書や辞典によって文理解釈を試みたのちに、「それができない場合には、当該規定の趣旨・目的、定め方、経緯、租税負担の公平性及び相当性等を総合考慮して、その意味内容を合理的に解釈する必要がある。」という。 なるほど、租税法は財産権の侵害規範であるともいわれることがあるが、そうであるとするならば、条文の解釈は厳格でなければならず、その厳格な解釈に最も相応しい解釈手法が文理解釈であるから、かかる解釈姿勢こそが優先されるという考え方が大前提としてはあり得よう。 2 文理解釈 当然ながら、条文は文章でできている。 「文書」を法律的に定義づければ、「文字その他の記号によって一定の思想を表現している有形物」と説明されている(小林資明『法律文書の読み方〔新版〕』1頁(ぎょうせい1992))。文書は文字で表示されることが多いが、速記号、暗号、点字で表現されているものも、一定の思想が表現されていれば文書であることに変わりないといわれている(前掲書1頁)。 (参考)そのような意味では、例えば、楽譜は音の旋律を表しているものであって、思想を表してないということから、文書には該当せず、記号によって表現されなければならないことから、レコードや録音テープなども文書とはいえないと説明されることがある(前掲書1頁)。 さて、文理解釈に当たって注意すべき点の第一として、林氏は、次のように論じている(林修三『法令解釈の常識』93頁(日本評論社1999))。 この説明を素直に読むと、法令中に定義がなければ、その用語は一般の用法どおりに解釈することになりそうである。そうであるとすると、例えば、所得税法に定義のない「所得」という用語の意味は、辞書や辞典に書いてある意味に従って理解すべきなのであろうか。 (続く)
〔平成31年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第2回】 「「情報連携投資等の促進税制(IoT税制)」 及び「法人税における収益の認識等の基準」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成30年度税制改正における改正事項を中心として、平成31年3月期の法人税申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第1回】は所得拡大促進税制の見直し(改組)について解説した。 【第2回】は、「情報連携投資等の促進税制(IoT税制)の創設」及び「法人税における収益の認識等の基準」について、平成31年3月期決算申告において留意すべき点を解説する。 1 情報連携投資等の促進税制(IoT税制)の創設 データの収集・活用等を行う事業者を支援する措置を講じて、産業競争力の強化や社会問題の解決に向けたデータの利活用を促進するため、生産性向上特別措置法が平成30年6月6日に施行された。また、これに対応する税制措置として、平成30年度税制改正において、情報連携投資等の促進税制(IoT税制)が創設された。 ① 制度の概要 生産性向上特別措置法に規定する「認定革新的データ産業活用事業者」に該当する青色申告事業者が、経済産業局等の認定を受けた計画に基づいて、対象期間内に一定の設備投資を行う場合に、30%の特別償却又は3%の税額控除(一定の賃上げを行う場合は5%)を認める制度である。 ② 適用要件 この税制措置を適用するためには、次の要件を満たす必要がある。 (※1) 業種や資本額による制限なし。 (※2) 〔具体例〕:データ収集機器(センサー等)、データ分析により自動化するロボット・工作機械、データ連携・分析に必要なシステム(サーバ、AI、ソフトウェア等)、サイバーセキュリティ対策製品など ③ 税制措置の内容 対象設備を事業に供用した事業年度において、30%の特別償却又は3%(ないし5%)の税額控除を選択適用することができる。 (※) 次の通り3%以上の賃上げを行った場合、控除率は5%が適用される。 ④ 大企業等における税額控除の不適用要件 大企業等(中小企業者(一定の要件に該当する者を除く)又は農業協同組合等以外の事業者)においては、次のいずれにも該当しない場合、税額控除を適用できない。言い換えれば、いずれかに該当する場合は税額控除を適用できるということである。 仮に、上記の要件のために税額控除が適用できない場合であっても、特別償却を適用することは可能である。 2 法人税における収益の認識等の基準 国際会計基準(IFRS)における収益認識基準に対応するため、「収益認識に関する会計基準」が導入された。この動きに対応して、法人税における収益認識等の基準が明確化されている。 ① 収益認識の価額 次のとおりに明確化されている。 ※貸倒れ又は買戻しの可能性がある場合は、それらがないものとした場合の価額。 ※客観的に見積もられた値引額又は割戻額を、収益から控除できる。 ② 収益認識の時期 次のとおりに明確化されている。 この改正は、平成30年4月1日以後に終了する事業年度から適用される。したがって、平成31年3月期の決算申告には適用されることになる。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第2回】 「種類株式を使った承継対策」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) マネジャー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私は非上場会社X社の創業者オーナーである代表取締役のAです。将来は息子Bに事業を承継してほしいと考えています。 X社の経営は順調で株価は毎期上昇し、今後も堅調に推移すると予想していますので、株式(発行済株式数100株)についてできる限り早くBに承継したいと考えています。ただし、Bは当社に入社したばかりのため、当社のことを理解し経営者として成長するまでは、経営権は渡せないと考えています。 この場合、どのようにするのが良いか悩んでいます。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 種類株式等の内容 株式会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権などについて内容の異なる2つ以上の種類の株式を発行することができます(会社法108)。また、非公開会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権について、株主ごとに異なる扱いを定款で定めることができます(会社法109)。 ご相談内容の場合、下記株式の導入を行うことが考えられます。 [2] 議決権制限種類株式(無議決権株式)による対応 普通株式の99株を議決権制限種類株式とした上で、議決権制限種類株式99株をA氏からB氏へ贈与又は譲渡(以下、「贈与等」とする)します。この場合であっても、経営権についてはA氏が100%有することとなります。 贈与等後の株主関係は下図のようになります。 〈議決権制限株式(無議決権株式)とした場合〉 [3] 拒否権付種類株式(黄金株)による対応 普通株式の1株を拒否権付種類株式としたうえで、普通株式の99株をA氏からB氏へ贈与等します。 B氏が主導で行う株主総会について、A氏は一定事項(組織再編行為等定款記載の内容)について拒否権を有することが可能となります。これによりB氏がA氏の意に沿わない経営を行う際には拒否権の発動を行い、B氏の経営についてA氏が抑止力を発揮することができます。 贈与等後の株主関係は下図のようになります。 〈拒否権付株式とした場合〉 [4] 属人的株式による対応 定款に「A氏の保有する株式については議決権を〇〇倍とする」との属人的な定めをした上で、普通株式の99株をA氏からB氏へ贈与等します。 属人的株式の議決権の内容を調整することにより、株主総会普通決議・特別決議を通じた経営権をA氏が所有することが可能です。 仮に、「A氏の保有する株式については議決権を100倍(A氏の議決権が過半数となるような倍数)とする」との属人的な定めを置いた場合の贈与等後の株主関係は下図のようになります。 〈属人的株式(A氏保有株式の議決権を100倍)とした場合〉 [5] 各手法の相違点 上記で紹介した3つの手法については、下記のような相違が考えられます。 〈相違点〉 なお、贈与により取得した場合の無議決権株式・拒否権付株式の評価については、無議決権株式は、原則として議決権の有無を考慮せずに評価することとなります。また拒否権付株式は、拒否権を考慮せずに評価することとされています(国税庁 文書回答事例 「相続等により取得した種類株式の評価について」)。 譲渡の場合についても本件を前提にすると、相続税評価額を譲渡の対価としておけば、課税上の問題は生じません。 [6] 結論 種類株式(無議決権株式や黄金株)又は属人的株式の導入後に、A氏からB氏へ贈与等することにより、経営権(又は、一定の影響力)をA氏に残したまま、財産権をB氏に移転することができます。 B氏に自発的な経営を任せたい場合は、拒否権付種類株式や適当な設定を行った属人的株式の発行を行うことが考えられます。A氏が主導的に経営を行う必要がある場合は、議決権制限種類株式の活用が有効です。なお、贈与時期については、X社の株価推移を確認した上で、慎重な検討が必要です。 なお、具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q43】 「株式報酬プランにより取得した外国親会社株式を売却した場合の課税関係」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 経済的利益の課税(RSU権利確定時) 外資系企業に勤めている方の中には、インセンティブ報酬として外国親会社のRSUを付与されることがあります。RSUの詳細な内容は各社により異なりますが、一般的には、付与(Grant)から1~3年後に、対象者が自己都合によって退職しない等の一定の要件を満たすことを条件に、権利が確定(Vest)し、一定数の株式が対象者に交付されます。 所得税法上、本件のような外国親会社から付与されたRSUについては、一般的に、日本子会社への勤務の対価として交付されるものであるため、条件が成就して権利が確定(Vest)した時に、 株数 × 確定時の株価 × 確定時の円相場(TTM)で計算された金額が、給与所得(収入)として取り扱われます。 なお、一般の給与については、国内において支払われる場合、給与支払者により源泉徴収がなされますが、RSUの場合、株式報酬自体は外国親会社から付与されるものであり、権利確定時には株式が外国親会社から本人の海外の証券会社の口座に交付される等の理由から、国外で支払われたものとして、勤務する日本法人において源泉徴収はなされていないことが多いと思われます。その場合は、従業員は、確定申告において給与所得を申告し、納税を行う必要があります。 なお、外国親会社等により供与された株式報酬等の経済的利益に関し、各従業員につき、勤務先の日本子法人から「外国親会社等が国内の役員等に供与等をした経済的利益に関する調書」が所轄税務署に提出されます。 この調書は、株式を取得する権利等が外国親会社から従業員に直接付与される場合に、従業員が当該権利の行使等により得た経済的利益を税務当局が的確に捕捉することを目的として提出が求められているものです。すなわち、税務署側では権利の行使等が行われた事実、株式の価額、数等を把握していますので、給与所得の申告漏れには注意が必要です。 2 株式の譲渡に係る課税(株式売却時) 上記のRSUの権利確定により取得した親会社株式の取得価額は、確定時(株式交付時)における株式の価額(時価)となります。 親会社株式を譲渡した場合の譲渡所得については、給与所得その他の所得と区分して株式等の譲渡に係る譲渡所得として分離課税の対象となります。親会社株式が国外の証券取引所において上場、売買されており、税務上の上場株式に該当する場合、上場株式等に係る譲渡所得として20.315%の税率(所得税及び復興特別所得税15.315%、住民税5%)が適用されます。 なお、譲渡損失が生じた場合は、他の上場株式等の譲渡から生じた譲渡益と損益通算をすることは可能ですが、日本国内の証券会社を経由して行われた譲渡でない限り、上場株式等に係る配当所得等の金額との損益通算及び譲渡損失の繰越控除の適用はないと考えられます。 3 本件へのあてはめ 本件の①株式報酬の権利確定による株式の取得、及び、②株式の譲渡は、課税上は別々の事由として取り扱われ、それぞれの所得ごとに①給与所得、②上場株式等の譲渡に係る譲渡所得として計算を行う必要があります。 ①の給与所得は他の所得(すでに源泉徴収されている給与所得を含む)と合算の上、総合所得の対象となり(最高税率約56%)、②の譲渡所得は、他の上場株式等の譲渡所得とあわせて、20.315%の分離課税の対象となります。 【事例】 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第44回】 「サンヨウメリヤス土地賃借事件」 ~最判昭和45年10月23日(民集24巻11号1617頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
改めて確認したいJ-SOX 【第1回】 「J-SOX(内部統制報告制度)の目的は何か」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 -連載開始にあたって- 内部統制報告制度が導入され、2018年4月からの事業年度で10年目を迎えました。 上場企業の財務報告に係る内部統制を強化し、ディスクロージャーの信頼性を高めようという目的のもと、平成20年4月1日以後開始事業年度から同制度は適用されました。その後、2年間の実務運用を経て、現場の声を反映する形で制度が見直され、現在に至っています。 内部統制報告制度(以下、本連載では「J-SOX」といいます)の導入を機に、内部統制の強化を図った企業も多いのではないでしょうか。財務報告の信頼性を確保できる体制が構築され、今も継続して更新・改善されているのであれば、この制度は大成功であったといえるでしょう。 一方、次のような声を聞くこともあります。 もし、あなたの企業がこのような状態に陥ってしまっているのであれば、それはとても、もったいないことです。 なぜなら、 といったメリットを享受できない状況にあるからです。 内部統制の評価が制度として求められている以上、避けることはできません。同じ時間をかけるのであれば少しでも意味のあることをして、企業の成長に一役買ってみるのはどうでしょうか。 本連載では、次のような方を想定し、内部統制評価の実務をできるようになることを目標に解説していきます。 なお、本連載で記載した内容は執筆者の所見に基づくものであり、所属する法人の見解ではないことをあらかじめお断りしておきます。 1 J-SOXの目的 J-SOXの目的 財務報告に係る内部統制を有効なものとすることで、財務報告の信頼性を確保する。 J-SOXの導入以前は、財務諸表監査の一環として、監査人によって内部統制の評価が行われていました。財務諸表の観点から監査人が独自に内部統制の有効性を評価し、その評価結果を踏まえて、財務諸表の数字を検証するといった具合です。 そんな中、平成16年10月、当時報道でも大きく取り上げられました有名企業の有価証券報告書の虚偽記載が発覚しました。これを受け、金融庁では有価証券報告書提出会社に対して自主的に点検させたところ、相次いで訂正報告書が出され、最終的に、自主的な点検を要請した会社4,538社中、10%を超える589社が訂正報告書を提出する事態となったのです。 訂正の内容は、株式に関する訂正が最多で372社ありましたが、財務諸表の訂正も190社ありました(【図表1】参照)。 【図表1】 有価証券報告書提出会社の自主的な点検の結果 (出典) 金融庁「有価証券報告書提出会社における自主的な点検について」 金融庁はこれを証券市場に対する信頼を揺るがしかねない由々しき事態であると捉え、その対応策としてJ-SOXを導入したのです。 今はすでにJ-SOXが制度として定着しているため、なぜこの制度が導入されたのかを忘れてしまった方もいるかもしれません。もしかしたら、知らない方もいるかもしれません。J-SOXの導入背景は、目的を理解するうえで重要です。ぜひこの機会に押さえてください。 2 制度の概要 内部統制の評価は、概ね以下のような手順で進められるのではないかと思います(【図表2】参照)。 【図表2】 内部統制評価の概要 ※上記は一例です。実際の手順は、各社の状況に応じて柔軟に決定されると考えられます。 (1) 内部統制の適切な整備・運用 内部統制監査が行われる前提として、各社・各部署で内部統制が適切に整備され、運用されていることが想定されます。J-SOXでは内部統制をどのように整備し、運用するかを一律に示すことはせず、各社の状況等に応じて、適切に創意工夫して内部統制を整備・運用するよう求めています。そのため、組織やルール等の新設・改廃の都度、内部統制を変更する必要がないかを検討しなければなりません。 (2) 評価範囲の絞込み 日本で内部統制報告制度を導入する際、先例であった米国の内部統制報告制度を参考にしました。米国の内部統制報告制度は、財務報告に影響する内部統制の有効性を個別に積み上げていく手法で、企業全体の内部統制の有効性を評価(※)します。 (※) 内部統制の有効性を評価するのは監査法人などの監査人です。 この手法の場合、評価を受ける側の対応コストが膨大となる批判が米国内であったため、日本では別の手法を採用しました。その手法は、トップダウン型のリスク・アプローチと呼ばれるものです。具体的には、①全社的な内部統制の有効性を評価し、②その評価結果を踏まえて個別に検討すべき内部統制(例えば、A社の〇〇事業の売上計上プロセスに係る内部統制)を選定して評価します。 このようにすることで、重点的にリソースを投入できるため効率的(企業側に過度な負担をかけない)で、なおかつ重要な内部統制の有効性を高めることができるため財務報告の信頼性を担保するというJ-SOXの目的も達成できます。 なお、トップダウン型のリスク・アプローチ以外にもJ-SOXの特徴はありますが、内部統制を評価する側の視点で解説する観点から、本連載では割愛させていただきます。 (3) 評価~報告 実際には、全社的な内部統制や業務プロセスに係る内部統制等、複数の評価対象があるため、評価するタイミングが異なるといったこともありますが、概ねの流れは【図表2】のようになると考えられます。 それぞれの詳細は、次回以降の連載で説明します。 * * * 次回からは、「2 制度の概要」で示した内部統制評価の概要を掘り下げていきます。 第1弾目となる次回は、内部統制とはどのようなものなのか、内部統制という抽象的な概念を噛み砕いて説明していきます。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ 第7節 関連当事者取引 【第19回】 「関連当事者との取引(その1)」 ▷関連当事者取引がM&Aに与える影響 M&Aに際して買収対象となっている会社が、当該会社と相応の資本関係を有する会社や、創業者等との人的関係を通じた関係を有する会社等との間で恒常的な営業取引を行っている場合、そうした営業取引がM&Aによる買収後も従前と同条件で継続されるものとは一概には言えない場合も多いであろう。 こうした人的関係や資本関係等によって関連性を有する当事者、すなわち関連当事者間で行われる取引は、取引行為その他の経営活動を通じて、正当とは言えないような利益の供与/享受がなされていたり、不当な取引条件等に基づいていたりするような場合もあり得る。 このように、関連当事者間で行われる取引は、本来的には不要である取引が強要されたり、取引条件が不当に歪められていたりする場合等、当事者間で利益の相反する取引となっている可能性が高いことから、M&Aに際しては、当該取引を行うことについての経済合理性や取引条件の妥当性等について検討する必要があり、M&Aによる買収後、こうした取引が是正/解消されることで、買収対象事業がどのような影響を受けるかについて、慎重に吟味する必要があると言える。 仮にこうした取引を全て独立第三者間価格で置き直した場合、M&A対象となる事業の収益性が極端に悪化するようなケースもあろう。そのような場合、買収に際して取引相手との関係性を維持することの是非を含めた慎重な判断が必要となる。 他方、買収対象会社が関連当事者との間で、一過性の取引、例えば不動産や有価証券の売買等を行っているような場合で、当該売買価格や決済条件が仮に適正とは言えないものであったとしたらどうであろうか。 こうした一過性の取引であれば、買収後に再びこのような取引がなされることはないであろうから、過去における売買でどのような財務的なインパクトが買収対象会社に生じたか、について検討すればM&A実行に際して検討はこと足りる、と言えるであろうか。 確かに再びそうした取引が実行されなければ、新たな問題は生じない、とも言えるかもしれないが、例えば過去に行われた取引で恣意的な価格設定等が行われていたような場合で、税務当局の事後的な調査でそれが否認されるようなことがあれば、買収した会社の業績に影響が生じる可能性もあろう。 このように、関連当事者間取引は、独立第三者間取引と比較してどの程度の財務インパクトを買収対象会社が享受/提供しているか、という収益性判断の問題であると同時に、課税当局から見て適正範囲にある取引と言えるか否か、という税務リスク判断の問題も絡んだ領域でもある。 こうした取引条件の一般化(正常化)に関する議論は、本連載で今後取り上げる「正常収益力の把握」の項で、また、税務リスクの有無に関する議論は、「税務関連」の項で、それぞれ詳述することとして、本稿では今回と次回の2回に分けて、関連当事者に関する検討範囲と関連当事者取引の類型や事例等について紹介していくことにする。 ▷関連当事者の範囲 「会社計算規則」並びに「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」において定義される「関連当事者」は以下のとおりである(会社計算規則第112条4項、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条17項)。 買収対象会社が上述の法令等に従って関連当事者取引を開示している場合には、当該開示内容を中心に内容の検討を行うことになるが、買収対象会社がこうした開示を行っていない場合には、上記の属性に従って情報を収集・整理していく必要がある。 これらはいずれも、財務諸表等の作成に際して開示対象とされる者の範囲を定めたものであり、M&Aに際して検討の対象とすべき範囲を直接的に画するものではないが、投資に際して有用な情報の範囲を画する、という意味で両者は共通しており、検討に際して参考となるであろう。 【実務事例19-1】 運送業を営むA社ではドライバーの確保がままならず、提携関係にあったG社に株式を売却することとなった。A社の株主でもあるオーナー社長は当該地域でガソリンスタンド業も手掛けており、A社では当該オーナー系列のガソリンスタンドで格安で給油を受けていた。G社への株式売却に際して、当該オーナーは引き続き同条件での給油をG社に対しても一定期間行うことを約束した。 このほか、上述した属性には含まれていないような当事者との取引であっても、買収対象会社にとって重要な取引について、取引条件が独立第三者間価格と大きく異なっているような場合には、当該取引が買収後、どのような影響を受けるかを吟味する必要があるだろう。 こうした取引の有無を把握するためにも、買収対象会社の事業内容の把握に際して、主要な取引先との取引内容や取引条件等について概括的に把握しておくことも有用と言えよう。 【実務事例19-2】 小売業を営むY社では商圏人口の減少が著しく、近隣の同業であるS社がY社の事業を買収することとなり、Y社の取引先との取引条件を調査したところ、主要商品に関する当該地域の仲卸業者の社長とY社創業者とは旧知の仲であったことから、主要商品の調達価格が相場よりも数%程度安価であったことが判明した。 S社は当該仲卸業者との取引は当初から継続しない意向であったが、自社仕入先への発注量を拡大することで結果的に調達価格の水準を下げることができた。 【実務事例19-3】 温泉旅館Aは業績の悪化に歯止めが掛からず、スポンサーによる出資を仰ぐこととなった。料理食材の仕入は料理長である板長の親戚筋の業者から継続的に仕入れていたが、当該仕入価格は相場よりも相当程度割高であることが判明した。 当該取引条件は是正することとなったが、結果としてこの板長は退職することとなり、急遽、料理人を募集することとなったが、腕の良い料理人が見つかるまで半年ほどを要し、それまでの間、近隣の料理旅館から一部食材の調達を受けることとなった。 (了)