《速報解説》 KAM規定に係る「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の新設含む改正監査基準委員会報告書等が公表される ~コメント対応も明らかに~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年2月27日、日本公認会計士協会は、「監査基準の改訂に関する意見書」(2018年7月5日、企業会計審議会)の公表に伴い、国際監査基準を踏まえて、以下の監査基準委員会報告書等の新設又は改正を公表した。これにより、2018年10月19日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 監査基準の改訂に対応する「財務諸表等の監査証明に関する内閣府令及び企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第54号)などは、2018年11月30日に公布されている。 なお、公開草案に対するコメントの概要及び対応(以下「コメント対応」という。全体で48ページに及ぶ)も公表されている。 本稿では、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の新設が、他の監査基準委員会報告書の改正に関連するので、上記の①と②について解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」の主な内容 今回の改正に際して、財務諸表外の開示と財務諸表内の開示を明確に区別するため、企業会計基準委員会(ASBJ)の会計基準で用いられている用語を参考に、財務諸表内の開示について、財務諸表本表における勘定科目や区分を指す場合は「表示」を使用し、財務諸表の注記を指す場合は「注記事項」に統一している(コメント対応No.7)。 1 監査上の主要な検討事項の決定 「監査上の主要な検討事項」とは、当年度の財務諸表の監査において、監査人が職業的専門家として特に重要であると判断した事項をいう(7項)。国際監査基準では、KAM(Key Audit Matters)として規定されているものである。 監査上の主要な検討事項は、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項から選択される(7項)。 上場企業の監査では、監査人が監査役等とコミュニケーションを行った事項の中には、監査報告書において報告すべき監査上の主要な検討事項が1つは存在していると考えられている(A59項)。 しかしながら、例えば、企業の実質的な事業活動が極めて限定される状況においては、監査人が特に注意を払った事項がないため、9項に基づき監査上の主要な検討事項がないと監査人が判断することがある(A59項)。 監査人は、監査役等とコミュニケーションを行った事項の中から、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定しなければならない。その際、監査人は以下の項目等を考慮しなければならない(8項)。 監査人は、上記に従い決定した事項の中からさらに、当年度の財務諸表の監査において、職業的専門家として特に重要であると判断した事項を監査上の主要な検討事項として決定しなければならない(9項)。 なお、監査役等とコミュニケーションを行った事項には、上記(8項)の①から③に記載された事項以外があり、それらについて監査人が特に注意を払った事項となることがある。また、監査人が特に注意を払った事項には、財務諸表に明記されていない事項が含まれることがある(新しいITシステムの導入など。A18項)。 2 監査上の主要な検討事項の報告 「監査上の主要な検討事項」区分の冒頭に以下を記載しなければならない(10項)。 監査報告書の「監査上の主要な検討事項」区分において、以下を記載しなければならない(12項)。 監査上の主要な検討事項(KAM)に関連する財務諸表における開示への参照などの記載に関して、次のコメント対応が記載されている(コメント対応No.22、27、45)。 3 監査上の主要な検討事項の記載に関する留意点 監査人は、監査上の主要な検討事項の記載に当たって、以下について留意することが適切である(A47項)。 連結財務諸表と個別財務諸表の監査上の主要な検討事項(KAM)の記載に関して、次のコメント対応が記載されている(コメント対応No.9、10)。 4 監査役等とのコミュニケーション 監査人は、以下に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければならない(16項)。 5 比較情報 財務諸表に比較情報が含まれる場合、監査人は、比較情報に係る監査意見の表明方式が比較財務諸表方式か対応数値方式かにかかわらず、過年度の財務諸表監査に関連する監査上の主要な検討事項について、監査報告書において、通常記載しない(A10項)。 次のことが記載されているので、注意が必要である。 6 守秘義務など 監査人は、監査上の主要な検討事項として決定した事項を報告することについて、我が国における職業倫理に関する規定に照らして検討することが必要となることがある(A55項)。 監査人が追加的な情報開示を促した場合において経営者が情報を開示しないときに、監査人が監査の基準に基づき正当な注意を払って職業的専門家としての判断において当該情報を監査上の主要な検討事項に含めることは、監査人の守秘義務が解除される正当な理由に該当する(倫理規則6条8項3号ニ)。 当該事項を監査上の主要な検討事項として報告しない場合、監査人が検討した論点は複合的であり、また、その決定は監査人の重要な判断を伴うことから、法律専門家に助言を求めることが適切と考えることがある(A56項)。 Ⅲ 「財務諸表に対する意見の形成と監査報告」の主な改正内容 監査人は、適用される財務報告の枠組みにより要求される事項に基づき、特に以下を評価しなければならないとされている(11項)。 また、監査報告書には、「監査意見」区分に続けて「監査意見の根拠」という見出しを付した区分を設け、以下を記載しなければならない(26項)。 そのほか、「財務諸表監査における監査人の責任」(36項)における「会計方針及び会計上の見積りの評価」、「継続企業の前提の評価」、「表示及び注記事項の検討」などの項目や、「財務諸表が適正表示を達成しているかどうかに関する評価」(12項、A7~A9項)、「我が国における職業倫理に関する規定」(26項(3)、A34項、A35項)、《付録 財務諸表に対する監査報告書の文例》など多くの項目が改正されている。 Ⅳ 適用時期等 「監査上の主要な検討事項」に関連する改正は、2021年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する。 ただし、2020年3月31日(米国証券取引委員会に登録している会社においては2019年12月31日)以後終了する事業年度に係る監査から早期適用することができる。 上記以外の改正は、2020年3月31日以後終了する事業年度に係る監査から適用する(違法行為に関連する事項など、別途、規定されているものがある)。 監査上の主要な検討事項(KAM)の早期適用に関して、次のコメント対応が記載されている(コメント対応No.15)。 (了)
《速報解説》 内部監査人の作業の利用や注記事項の監査強化を目的とした監査基準委員会報告書の改正(公開草案)が公表される ~IAASB実施のプロジェクトに対応し14の報告書等を改正、原則2020.4.1以後開始事業年度から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年2月26日、日本公認会計士協会は、監査基準委員会報告書610「内部監査の利用」など多くの監査基準委員会報告書の改正に関する公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、国際監査・保証基準審議会(IAASB)において検討された内部監査プロジェクト及び財務諸表の注記事項の監査を強化するプロジェクトに対応するものである。 改正する監査基準委員会報告書は次のとおりである。 意見募集期間は2019年3月26日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 改正する監査基準委員会報告書が多いので、以下では主な内容について解説する。 「リスク評価関連の監査基準委員会報告書(公開草案)改正の概要」も公表されているので、公開草案全体の概要の理解に資するものと思われる。 1 内部監査人の作業の利用 本報告書は、企業が内部監査機能を有し、監査人自らが実施する監査手続の種類もしくは時期を変更するか又は範囲を縮小するために内部監査人の作業の利用を想定する場合に、以下の事項について判断することについて規定している(9項)。 監査人は表明する監査意見に対して単独で責任を負うことから、計画された範囲で内部監査人の作業を利用した場合でも、監査人が監査に十分に関与したかどうかを総合的に評価しなければならない(15項)。 また、監査人は、監査基準委員会報告書260「監査役等とのコミュニケーション」13項に従って、監査役もしくは監査役会、監査等委員会又は監査委員会と、計画した監査の範囲とその実施時期に関するコミュニケーションを行う際に、内部監査人の作業の利用をどのように計画したかについてコミュニケーションを行わなければならないとされている(16項)。 監査人は、以下の事項を評価した上で、内部監査人の作業が監査の目的に照らして利用できるかどうかを判断しなければならないとされている(11項)。 内部監査人の作業に対して実施する監査人の手続の種類及び範囲について規定されている(20項)。 2 企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価 リスク評価手続において、内部監査に従事する適切な者(内部監査機能がある場合)への質問が要求されている(5項(1))。 また、企業が内部監査機能を有している場合、監査人は、内部監査機能の責任、組織上の位置付け、及び実施された又は実施される予定の業務を理解しなければならないとされている(22項)。 監査人が理解すべき財務報告に関連する情報システムには、総勘定元帳や補助元帳だけでなく、それ以外の情報システムの注記事項に関連する部分を含めなければならず、また、取引種類、勘定残高及び注記事項(定性的及び定量的な情報を含む)を検討することにより、虚偽表示リスクを識別することとされている(17項、25項)。 3 財務諸表監査における総括的な目的 「虚偽表示」とは、報告される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項と、適用される財務報告の枠組みに準拠した場合に要求される財務諸表項目の金額、分類、表示又は注記事項との間の差異をいい、注記事項についても明記されている(12項(6))。 注記事項は、適用される財務報告の枠組みにより求められている、又は明示的か否かにかかわらず記載が認められている説明的もしくは記述的な情報から構成され、注記事項は、財務諸表本表において、又は脚注方式で記載されるが、財務諸表から他の文書に参照をすることによって財務諸表に組み込まれることもある(12項(9))。 監査基準委員会報告書は、会計上の見積り及び関連する注記事項が適用される財務報告の枠組みに照らして合理的又は妥当であるかどうか、並びに企業の会計実務の質的側面(経営者の判断に偏向が存在する兆候を含む)について、特定の検討を行うことを監査人に要求している(A45項)。 4 財務諸表監査における不正 不正な財務報告を行う方法として、適用される財務報告の枠組みで要求される注記事項又は適正表示を達成するために必要な注記事項を省略したり、不明瞭に記載したり、又は誤った表示をしたりすることが規定されている(A4項)。 監査チーム内の討議事項として、経営者が注記事項を、適切な理解を妨げるような方法(例えば、あまり重要でない情報を多く含めたり、不明瞭で曖昧な表現を使用したりするなど)で記述しようとするリスクの検討を含むとしている(A10項)。 5 監査計画 注記事項には広範囲かつ詳細な情報が含まれることから、注記事項に関連するリスク評価手続及びリスク対応手続の種類、時期及び範囲の決定は重要であるとし、監査の初期段階における注記事項の検討により、以下の事項に関する判断への役立ちが規定されている(A13項、A14項)。 6 監査の計画及び実施における重要性 定性的な注記事項が重要であるかどうかを判断する際に、監査人が考慮する要因には例えば以下がある(A2項)。 7 評価したリスクに対応する監査人の手続 財務諸表の表示及び注記事項の妥当性の検討に際して、次の事項を検討する(23項)。 監査人が監査手続の実施の時期を検討する際に考慮する要因として、財務諸表、特に貸借対照表、損益計算書、包括利益計算書、株主持分変動計算書又はキャッシュ・フロー計算書に計上された金額についての詳細な説明を提供する注記事項の作成時期がある(A14項)。 8 監査の過程で識別した虚偽表示の評価 監査人が、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されているかどうかに関して意見表明する場合、虚偽表示には、監査人の判断において、財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されるために必要となる、金額、分類、表示又は注記事項の修正も含まれる(3項)。 注記事項に関する虚偽表示も、個別にも集計しても、又は金額、内容もしくは状況を考慮しても「明らかに僅少」である場合があるが、監査人は、「明らかに僅少」ではない注記事項の虚偽表示については、当該虚偽表示に関連する注記事項及び財務諸表全体に与える影響を評価するために集計する(A4項)。 A16項は、定性的な注記事項に関する虚偽表示に重要性があると判断される場合の例を示している。 9 財務諸表監査における法令の検討 監査人が違法行為又はその疑いを報告することがある例として、監査人が違法行為又はその疑いは監査業務の主要な事項であると判断し、監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項の報告」13項が適用される場合を除いて、同報告書701に従って当該事項を報告する場合があげられている(A25項)。 Ⅲ 適用時期等 (了)
2019年2月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.308を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第56回】 「低廉譲渡の場合の争い」 税理士 山本 守之 1 寄附金の意義 法人税法においては寄附金を定義することなく、寄附金の額を規定しています。これは所得計算上必要とされるものは、贈与目的物の額又は価額であって、贈与契約そのものではないからです。 損金算入の規制を受ける寄附金の額は、次の4つに大別されています。 (1) 資産の贈与又は経済的利益の無償の供与 寄附金の額とは、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、法人が金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされているべきものを除く)をした場合におけるその金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は経済的利益のその供与の時における価額をいうものとされています(法37⑦)。 この規定では、資産の贈与と経済的利益の無償の供与を寄附金とみて、その額は金銭にあっては贈与時の額、金銭以外の資産及び経済的利益は贈与又は供与時の価額(時価)としているのです。 したがって、社会通念上寄附金といわれる社会事業団体、神社、学校等に対する寄附金のほか、合理的理由のない債権放棄、金銭の無利息貸付、債務の無償引受け等が原則として含まれるということです。 ただ、資産の贈与又は経済的利益の無償の供与であっても、法人の事業遂行上の経費であることが明らかな見本品、中元、歳暮など広告宣伝費、福利厚生費、交際費などとして処理されるものは除きます。 これらの関係を図解すると次のようになります。 (2) 低廉譲渡、低廉供与 寄附金の課税要件は、法人税法第37条第7項で次のようになっています。 注意したいのは、法人税法第37条第7項は寄附金の課税要件として寄附金の額を定めているということです。そして、寄附金の課税要件は、「経済的な利益の贈与又は無償の供与」であって、すべての経済的取引における価格が問題とされるわけではありません。 また、低廉譲渡の場合の寄附金の額は、法人税法第37条第8項で次のように定められています。 ここでも注意したいのは、低廉譲渡の際の対価の額と時価との差額を寄附金の額としているのではなく、対価と時価との差額のうち「贈与又は無償の供与をしたと認められる金額が寄附金の額に含まれるもの」としていることです。 この規定は、贈与の意思を隠匿して売買を仮装するがごとき行為に適用されます。「実質的に贈与又は無償の供与であると認められる」ことが必要であるから、「時価と対価との差額」について「経済的合理性が存在せず」、「贈与又は無償の供与をした部分があること」を立証する必要があることになります。 この点について昭和39年3月27日の大阪高裁判決(TAINSコード:Z038-1284)では「・・・譲渡資産の時価と譲渡価格との差額について、任意且つ無償で提供され、相手方もその差額について何らの犠牲を伴わずに受益していると認められるときであって、これに反し合理的な理由による場合は、贈与したものと認められないものと解すべきである」と判示しています。 注意したいのは、法人税法第37条第8項は〔譲渡価額(時価)〕>〔譲渡対価〕の場合について規定していますが、取引の相手を変えれば、〔譲渡価額(時価)〕<〔譲渡対価〕の場合でも同様に扱われるということです。 なお、不当高価譲受けをした場合の趣旨も、同様です。問題は、低廉譲渡の場合について規定され、不相当高価の譲受けについては規定されていませんが、本来第8項は創設的規定と解すべきではなく、第7項の確認的規定と解すべきなのです。その理由は、第7項においてすでに贈与又は経済的利益をもって「寄附金の額」としているからです。第8項は、もっとも多く生ずる低廉譲渡について定めています。このことは、第8項が「・・・前項の寄附金の額に含まれるものとする。」となっているところからも第7項の確認規定とみるべきでしょう。第7項と第8項も寄附金の要件は共通で、「実質的贈与があったこと」と「経済的合理性の不存在」を課税庁が立証しない限り、寄附金認定はできません。 取引の価格について、寄附金認定をする場合は、当該取引価格と時価との差額があることを証明する必要がありますから、課税庁は必ず公正な取引価格を証明しなければなりません。寄附金の課税要件は既述しましたように、「実質的贈与があったこと」ですから、その判定をなすためには、取引価格と時価との差額を計算し、必ず寄附金額を明確にしなければならないのです。寄附金認定したすべての判例は、取引価格と時価との差額を判定するため、時価を明確にしています。 寄附金の課税要件は、「実質的贈与であること」ですから、必ず「経済的合理性の不存在」が立証されなければなりません。法人税基本通達9-4-1は、「子会社のために債権放棄等をしなければ、今後より大きな損失を被ることになることが社会通念上明らかであると認められる場合、その供与した経済的利益の額は寄附金の額に該当しない」ものとします。 また、同通達9-4-2は、子会社に対してやむを得ず行う無利息貸付け等の経済的利益の供与は寄附金と認定しません。これは、たとえ単純贈与であったとしても、経済的合理性があれば、寄附金とならないことを意味します。したがって、寄附金認定する場合、「時価を証明すること」と「経済的合理性の不存在を証明」しなければなりません 私的自治の下に行われている経済取引の価格に対して、課税庁は安易に介入してはいけませんから、法人税法第37条第7項及び第8項と通達や判例は、寄附金認定について厳しい要件を課しているということになります。 2 実務上の問題点 税務上の問題点は、立地等を低廉譲渡すると「その取引は譲渡である」「法人税でいうと寄附金に該当する」といった単純な考え方がまかり通っているということにあります。 この考え方は特に資産税部門に多くみられます。例えば、銀座4丁目の和光で会員用のスペシャル・セール(40%OFF・最大70%OFF)が行われている時があります。この場合に割引分を寄附金であるとする考え方があります。しかし、ここでの割引は「損して得とれ」の考え方に基づいた正常な商売のやり方の1つであると考えるべきでしょう。 寄附金は、単に贈与又は経済的利益の供与という現象面からだけ捉えるのではなく、行為の背景を有機的に捉えて判断すべきです。 3 寄附金課税が否認された例 (1) 事 例 B社の100%子会社であるA社はB社に製品を納入していますが、その納入価額は概算による仮価額とし、期末に適正な原価計算を行い、これを基礎として適正価額としています。適正価額と仮価額の差は、期末に精算しています。これに対して、課税庁は仮価額が取引額であるから精算した金額についてはA社がB社への寄附金として課税しました。 この課税手法をどのように考えるべきでしょうか。 (注) 本事例は、平成26年1月24日東京地裁判決(TAINSコード:Z264-12394)を参考にしています。 (2) 問題点 本件について東京地裁判決では、 としています。つまり、納税者勝訴となります。 (3) 検討 本件において筆者が東京地裁に提出した「意見書」は次の通りです。 低廉譲渡の場合の寄附金の額は第37条第8項で次のように定められている。 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。 注意したいのは低廉譲渡の際の対価の額と時価との差額を寄附金の額としているのではなく、対価と時価との差額のうち「贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」が寄附金の額に含まれるものとしている。 この規定は、贈与の意思を隠匿して売買を仮装するがごとき行為に適用される。 「実質的に贈与又は無償の供与であると認められる」ことが必要であるから、「時価と対価との差額」について「経済的合理性が存在せず」、「贈与又は無償の供与をした部分があること」を立証する必要があることになる。 法人税法第37条第8項の主文の主語は「〈中略〉認められる金額は」の前の文章ですから、「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」です。 この点について前述の通り昭和39年3月27日の大阪高裁判決は「〈中略〉譲渡資産の時価と譲渡価格との差額について、任意且つ無償で提供され、相手方もその差額について何らの犠牲を伴わずに受益していると認められるときであって、これに反し合理的な理由による場合は、贈与したものと認められないものと解すべきである」と判示しています。 税実務において、課税要件を知らない課税庁職員が、高額、低廉譲渡について単純な発想で寄附金又は受贈益と認定しようとすることがありますが、「実質的に贈与又は無償の供与がある場合(又は高額譲受け)」だけ寄附金の額が生じます。 したがって、適正な原価計算によって取引した場合は、たとえ親子会社であっても寄附金課税が発生する余地はないのです。 つまり、寄附金が生ずるのは時価と対価の差額がある場合のうち、「実質的に贈与又は無償の供与をした場合」でなければなりません。時価との差額が存在するだけでは、寄附金と認定することはできず、課税庁は「時価との差額」と「実質的贈与」と「経済合理性の不存在」を立証しなければならないのです。 (了)
〔平成31年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第4回】 (最終回) 「「大企業に対する租税特別措置の適用除外」 及び「災害による損失等」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成30年度税制改正における改正事項を中心として、平成31年3月期の法人税申告においては、いくつか留意すべき点がある。【第3回】は、「法人税率の段階的引下げ」、「欠損金の繰越控除限度額の見直し・繰戻し還付の不適用の延長」及び「租税特別措置法の適用期限の延長」について解説した。 最終回となる【第4回】は、「大企業に対する租税特別措置の適用除外」及び「災害による損失等」について、平成31年3月期決算申告において留意すべき点を解説する。 1 大企業に対する租税特別措置の適用除外 平成30年度税制改正により、所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資に消極的である大企業については、研究開発税制等の税額控除が適用できないこととされた。 平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に開始する各事業年度に適用されるため、平成31年3月期決算申告にも適用されることになる。 (※1) 中小企業者であっても、前3事業年度の平均所得金額が15億円を超える場合は、平成31年4月1日以後に開始する事業年度からは、この適用除外の対象会社となる。 (※2) 税額控除と特別償却の選択適用が認められている場合は、特別償却の適用は可能である。 税額控除を適用するためには、次のいずれかが必要となる。 2 災害による損失等 平成30年は地震や豪雨などの災害によって、全国で大きな被害が発生している。被災した個人や法人を救済するため、税務上の様々な取扱いが設けられている。その中でも、法人の決算に関係のある主な取扱いについて解説する。 ① 資産の滅失・損壊による損失等 法人の保有する棚卸資産や固定資産が災害によって被害を受け、次のような損失や費用が発生した場合は、損金に算入される。 固定資産が被災したことにより除却の意思決定を行ったものの、事業年度末時点で実際の除却処理が完了していない場合も考えられる。本来は除却処理が完了して初めて除却損が損金に算入されるが、次のような固定資産については「有姿除却」として、当該資産の帳簿価額からその処分見込価額を控除した金額を除却損として損金に算入できる。 ② 資産の著しい損傷による評価損 法人の保有する棚卸資産、固定資産や一定の繰延資産(固定資産を利用するための分担金等)が、災害によって滅失とまではいかなくとも、著しく損傷することがある。これにより、その資産の時価が帳簿価額より下落した場合は、その下落部分を評価損として損金に算入できる。 ③ 復旧のための費用 災害によって被害を受けた固定資産に対する支出を、資産計上すべきか修繕費として損金算入できるかについては、次のような取扱いとなっている。 ④ 災害見舞金等 ➤ 従業員等 災害により被害を受けた従業員やその親族等に対して、一定の基準に従って災害見舞金品を支給した場合は、損金に算入することができる。ここでいう「一定の基準」とは、次の2つの要件を満たすものが該当する。 ➤ 専属下請先の従業員等 また、従業員と同等の事情にある専属の下請先の従業員やその親族等に対して、一定の基準に従って災害見舞金品を支給した場合も、損金に算入することができる。 ⑤ 被災した取引先の支援 ➤ 災害見舞金 被災前の取引関係の維持・回復を目的として、被災した取引先の復旧過程において、法人が取引先に対して災害見舞金を支出した場合は、交際費等として取り扱わず全額を損金に算入する。 ➤ 債権の免除 被災した取引先の復旧支援を目的として、被災した取引先の復旧過程において、取引先に対する売掛金、貸付金等の債権の全部又は一部を免除した場合、その損失は寄附金や交際費等として取り扱わず、全額を損金に算入する。 ➤ 低利又は無利息での融資 被災した取引先の復旧支援を目的として、災害発生後相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程の期間)内に、当該取引先に対して低利又は無利息での融資をした場合、当該融資は正常な取引条件で行われたものとされる。したがって、通常受け取るべき利息との差額を寄附金として取り扱う必要はない。 ⑥ 義援金や見舞金の受取り 法人が義援金や見舞金を受け取った場合は、法人の益金に算入される。 (連載了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第35回】 「別表6(29) 特定税額控除規定の適用可否の判定に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 今回は、平成30年度の税制改正により導入された、生産性の向上に関する税額控除制度の適用制限に関する「別表6(29) 特定税額控除規定の適用可否の判定に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、青色申告書を提出する法人が平成30年度改正後の租税特別措置法第42条の13第6項(法人税の額から控除される特別控除額の特例)に規定する「特定税額控除規定」の適用を受ける場合に作成する。 これは、中小企業者等以外の法人(※)が平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する各事業年度において、研究開発税制等の生産性の向上に関する税額控除制度を適用しようとする場合に、以下の(イ)及び(ロ)の要件のいずれにも該当しない場合(その事業年度の所得の金額が前事業年度の所得の金額以下である場合を除く)には税額控除ができないという制度である。 (※) 中小企業者等とは、租税特別措置法第42条の4第8項6号に規定する中小企業者(資本金1億円以下の法人など)又は農業協同組合等をいう(中小企業者のうち適用除外事業者に該当するものは除く)。 つまり、企業収益が増大している大法人のうち賃金引上げや国内設備投資に消極的なものに対しては、生産性の向上に関する税額控除の適用を制限することとしたものである。 この制度が適用される「特定税額控除規定」は、次のとおりである。 なお、「継続雇用者給与等支給額」や「国内設備投資額」「当期償却費総額」などは、「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除」で定められている意義と同様であるため、【第29回】の解説をあわせて参照していただきたい。 Ⅲ 「別表6(29)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後開始する事業年度。 (3) 別表の記載例 (4) 別表の各記載欄の説明 〔継続雇用者給与等支給額に係る要件〕欄 〔国内設備投資額に係る要件〕欄 〔所得金額に係る要件〕欄 〔継続雇用者給与等支給額及び継続雇用者比較給与等支給額の計算〕欄 〔当期償却費総額の計算〕欄 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例71(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の「簡易課税制度選択届出書」の提出制限(平成22年改正)(消法37③一) 平成22年度の税制改正により、課税事業者となることを選択した事業者が、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入を行い、原則課税で申告をした場合には、調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間から3年間、原則課税の課税事業者として拘束され、「簡易課税制度選択届出書」の提出はできない。 ◆「簡易課税制度選択届出書」の提出がなかったものとみなされる場合(消法37④) 調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の「簡易課税制度選択届出書」の提出制限の適用を受ける課税事業者となることを選択した事業者が、課税事業者選択1期目及び2期目において、「簡易課税制度選択届出書」の提出後に調整対象固定資産の課税仕入を行った場合には、「簡易課税制度選択届出書」の提出はなかったものとみなされる。 ◆課税事業者選択届出書(消法9④) 免税事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、「課税事業者選択届出書」をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間については、納税義務は免除されない。 ◆課税事業者届出書(消法57①一) 基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高が1,000万円超となった事業者は「課税事業者届出書」を速やかに所轄税務署長に提出しなければならない。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第26回】 「国際相続における相続法の適用」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 顧問先(日本人)がアメリカに不動産を購入する予定なのですが、この方の相続発生時において、日本で作成した遺産分割協議書の英文を添付して現地の法務局に提出すれば、相続の手続はできますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷国際相続で適用される相続法はどの国のものか 税理士が国際相続の相続税の申告を受注する際、日本の相続法や相続税法を理解しているだけでは、適切な申告処理や相談に対応することは難しい。 例えば、日本に住んでいる日本人が海外の不動産を有している場合や、日本に住んでいる外国人が日本の不動産を有している場合で、これらの者について相続が発生した場合、日本の相続法が適用できるとは限らない。 そこで以下では、このような相続の事案が生じた場合、どの国の相続法が適用されるのかを検討する。 ▷法の適用に関する通則法 国際間で人や物の動きがあると、その動きに関係する国が複数生じることになるが、この場合、どの国の法律が適用されるかが重要になる。日本人や日本にある資産がその動きに関わるからといって、日本の法律が必ず適用されるとは限らない。どこの法律を適用するかについて、日本では「法の適用に関する通則法」の定めに従う。 法の適用に関する通則法36条によると「相続は、被相続人の本国法による。」となっている。これはつまり、被相続人が日本人の場合は、日本の相続法で相続関係の処理を行うという意味である。たとえ財産が外国に所在していても、日本の相続法に基づいて処理することになる。 他方、被相続人が外国人の場合は、日本に財産が所在していたとしても、被相続人の本国の相続法に基づいて処理をするという意味である。例えば、日本の相続法には「遺留分の減殺請求」という制度があるが、他の国等の相続法ではこの制度がないところもあるため、日本にある相続財産についても、相続人が遺留分の減殺請求を訴えることができない場合もある。 ▷「相続統一主義」と「相続分割主義」 上述のとおり、日本では「被相続人がどこの国籍か」によって適用される相続法が決まるが、このように「被相続人がどのような種類の人か」によって相続法の適用が決まる考え方を『相続統一主義』という。日本は相続統一主義であり、被相続人の国籍を基準にして判定する国であるが、被相続人の国籍ではなく被相続人の住所地を基準にして判定する国もある。 また、「どのような財産がどこにあるか」を基準に相続法の適用を判定する国もある。例えば、動産については被相続人の住所地法を基準とし、不動産については不動産の所在地法を基準として判断する国もある。このように財産の種類に応じて相続法の適用が決まる考え方を『相続分割主義』という。米国の場合、相続法は連邦で定められるのではなく各州で定められているが、原則的には相続分割主義となっている。 ▷日本居住の米国人が日本に不動産を遺して死亡した場合の相続法の適用は では上記を踏まえ、日本に居住している米国人が日本に不動産を遺して死亡した場合、どの国の相続法が適用されるのかを検討してみたい。 米国人が日本で亡くなった場合の相続法の適用を「法の適用に関する通則法」にあてはめてみると、被相続人は米国籍であることから、米国の相続法となる。米国には連邦相続法はなく州法となるので、被相続人と関係の深い州の州法に基づいて検討していくことになる。そこで仮に、被相続人と関係の深い州を特定して相続法を調べると、「不動産については所在地の法律に従う」と定められていたとしよう。この場合は、不動産の所在地が日本であるから、不動産に関しては日本の相続法に従うことになる。 ここで法の適用に関する通則法41条によると、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」とされていることから、日本の相続法による相続の手続が行われることになる。このため、相続の登記をする場合も日本の相続法に基づいて相続が行われる。この41条のような状況になることを「反致」(はんち)という。 ▷日本居住の日本人が米国に不動産を遺して死亡した場合の相続法の適用は 次に本事例のように、日本に居住している日本人が米国に不動産を購入した後に死亡した場合、相続法の適用はどの国の準拠法になるかを検討する。 この場合、日本人の相続であることから、日本の相続法が適用となる。つまり、被相続人の遺産が米国にある場合も、日本の相続法によって処理せよということである。 ところで、米国の州法は基本的に相続分割主義であり、不動産については所在地の法律に従えとなっている。このため、米国にある不動産について相続の登記をしようとして、日本の相続法を前提に作成された遺産分割協議書等のコピーに英文の翻訳を添付して提出したとしても、おそらく受け付けてもらえない。 なぜなら、米国における相続というのは、遺産分割協議や遺言だけで財産の移転ができないからである。 遺産は包括承継という形で権利が移るのではなく、一旦、遺産財団に被相続人の財産が移転し、管財人が遺産や債務を精査し、債務を遺産から返済し、税金を納付し、最後に相続人に財産を渡すというシステムになっている。そして、原則的には、プロベート(probate)といい裁判所が介入して相続の手続を進行していく。たとえ遺言があったとしても、である。 このため、相続の登記をする際に、その地の相続法のルールに従って相続手続が行われたことを証する書類がなければ、現地の登記官も適正な相続が行われていないと判断することが予想される。日本では法の適用に関する通則法により日本法での相続と定められていると反論しても、受け入れられることは難しいと考える。 このように、法の適用に関する通則法とは異なり、相続の手続がスムーズに行われるように、米国の不動産については現地の相続法に従って相続を行い、登記をすることになるのが現実的な対応といえる。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第7回】 「「公益の分配が適正に行われること」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 措置法40条の適用要件における「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」ためには、公益の分配が特定の人に限られることなく適正に行われることが必要とされますが、この「公益の分配が適正に行われること」とは、具体的にどういうことですか。 - 回 答 - 当該贈与又は遺贈を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益が、それを必要とする者の現在又は将来における勤務先、職業などにより制限されることなく、公益を必要とするすべての者(やむを得ない場合にはこれらの者から公平に選出された者)に与えられるなど公益の分配が適正に行われることを指します。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 「教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与する」という要件を満たすと判断されるには4つの要件を満たす必要があり(【第5回】参照)、そのうちの1つに、「寄附を受けた公益法人等の事業の遂行により与えられる公益の分配が、その公益を必要とする全ての人に与えられるなど、特定の人に限られることなく適正に行われること」というものがあります。 これは、公益法人の事業の結果生じる公益が、それを必要とする者に対し、職業、勤務先などに制限されることなく、必要とする全ての者に対し公平に与えられることを意味しています(措置法40条通達12(2))。 したがって、例えば、助成金を支給する事業であれば、特定の企業に属する研究者のみを対象としていては、公益の分配が公平とは考えられません。 また、奨学金の支給を行う事業であれば、広く一般から公募せずに法人の利害関係者のみを対象にしていては、やはりこれも公益の分配が公平とは考えられません。 公益法人として認定を受けるための要件、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するか」と同じ考え方であるといえます。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第20回】 「関連当事者との取引(その2)」 公認会計士 石田 晃一 ←(前回) | (次回)→ ▷関連当事者取引の類型 関連当事者取引は、一過性の特殊な取引として行われることもあれば、定型的な取引として営業活動の一環となっている場合もある等、取引相手となる「関連当事者」の属性が広範であることから、取引の内容や種類も多岐にわたることが多い。 今回は関連当事者取引の主な類型について、取引の属性ごとに整理してみよう。 ➤ 営業上の継続的な取引 主要製品の販売先や、主要原材料の仕入先が関連当事者に該当する場合、当該会社の営業利益の大部分が関連当事者との取引から構成されていることとなり、事業上の合理性や、場合によっては当該会社の存在意義も含めて検討が必要となるであろう。 そのほか、典型的な営業上の取引として、例えば次のような取引が挙げられよう。 ➤ グループ間の横断的な取引 経営の合理化/効率化のため、グループ内の共通業務を別会社化したり、外部に業務委託したりする、いわゆるアウトソーシングも近年はよく見受けられる。グループ内の経営資源を集約することで一元管理を可能とし、経営の効率化を図る一方で、管理機能や所有資産の共有化が図られることで、以下のようなグループ間における横断的な取引関係も増加していくことだろう。 ➤ 財務的な取引や一過性の単発取引 企業グループ内での資金管理を一元化することで手許資金のスリム化を図ったり、親会社が自社の信用力を背景に一元的に資金を調達することもよく見受けられる。 このような財務的な取引については、一過性の取引として行われたり、反復的に行われるとしてもいったん反対取引で解消されることが多いと言える。単発の取引であることから当該取引を行う必要性等に関する動機が比較的把握しやすい反面、一過性のものであることから、取引の有無そのものの把握が困難な場合もある。 ▷経済合理性の認められない取引 関連当事者との取引は、例えば関連当事者との資本関係や相互の取引関係の強弱等に起因して、明らかに低廉な価格で取引がなされたり、不合理で複雑な取引条件で実行されたりするケースも多いが、場合によっては当該取引そのものに経済的な合理性が認められないような場合もあり得る。 取引自体の経済合理性が疑われるような関連当事者取引としては、例えば以下のようなものが挙げられる。 ◎年間を通して反復して頻繁に行われる取引や決算期前後の多額な取引 ◎取引価格に合理性がなく、取引を通じて多額の利益/損失が生じて(又はこれらを回避して)いる取引 【実務事例20-1】 部品販売会社のB社では、親会社であるA社で開発の頓挫した試作品を親会社の決算直前に帳簿価額で買い取り、自社の決算期を跨いで数ヶ月後に短期間で廃棄していた。B社役員の説明では「試作品でいいから買いたいという顧客がいたので仕入れたが、結果的に商談が成立しなかったので廃棄した」とのことであった。 ◎取引条件が恣意的に決定されていたり、手続等の前後関係が不透明な取引 ◎特定株主・役員や創業者等の傍系会社からの大量購入や独占的発注 【実務事例20-2】 電子部品の輸入商社を営むE社では、社長が高級外車に乗っており、車検費用や保険料が法人の経費として修繕費に毎年計上されていた。ある年、得意先接待の帰りに生じた自動車事故の多額の修理費用が広告宣伝費に計上されていた(E社の当該年度の広告宣伝費は予算が余っていた)。 経済合理性の認められない取引は異常な取引であると言え、M&Aに際しては是が非でも検出することが不可欠であると言えるが、こうした取引の実態に関しては暗黙的な箝口令が敷かれ、取引当事者の口が一様に重いことが常である。 こうした取引の実態について、買収対象会社が意図的な隠蔽を行うようなことがあれば、弁護士等の法務デューデリジェンスチームと連携して、売買契約書等における表明保証条項による補償についても検討すべきであろう。 売買契約書等における表明保証条項による補償については[法務編]【第8回】を参照されたい。 (了)