今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第1回】 「消滅時効(その1)」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 -はじめに- 2017年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立した。民法のうち、債権関係に関する規定(契約等)について約120年ぶりに大幅な改正を行うものであり、2020年4月1日から一部の規定を除き施行される。 今回の改正は、企業取引や市民生活に大きな影響を与えるものであり、本Web情報誌の中心的読者である、公認会計士、税理士、企業の実務担当者にとっても改正法の知識を習得することは不可欠といえる。 本連載では、主要な改正項目について、できるだけ簡潔に、かつ、分かりやすく解説する。【第1回】は消滅時効についてである。 【Q】 消滅時効とはなんですか? 【A】 債権者が権利を行使しないまま一定期間を経過した場合、その権利を消滅させる制度である。 例えば、企業間で商品の売買を行って、売主側が代金の請求をしないまま一定期間が経過すると、当事者が消滅時効について知っていたかどうかに関わらず、その売買代金債権は消滅時効にかかり、請求できなくなることがある。 【Q】 どのような点が改正になるのでしょうか。 【A】 消滅時効に関する主な改正点は次の点である。 1 消滅時効の起算点と時効期間の見直し 現行法では、消滅時効の原則的な起算点及び時効期間は、「権利を行使することができる時から」(客観的起算点)、「10年」とされている。また、時効期間については、企業間取引のように商行為による債権については5年、その他職業別短期消滅時効として、職業別に1年から3年といった期間がそれぞれ定められている。 現行法の規律については、複雑で分かりにくいとか、職業別に短期の時効期間が定められていることには合理性がないなどの意見があったことから、できるだけ統一化ないし単純化することが求められていた。 そこで改正法では、消滅時効の起算点と時効期間を改正し、①「債権者が権利を行使することができることを知った時から」(主観的起算点)、「5年」、または②「権利を行使することができる時から」(客観的起算点)、「10年」とされた。 ①「債権者が権利を行使することができることを知った時」とは、 という意味である。 一般的な取引債権の場合は、通常債権者は、発生原因、債務者、支払期日等を認識していることから、支払期日から時効期間が起算される。 また、②「権利を行使することができる時」とは、 という意味である。 「債権者が権利を行使することができることを知った時」から5年を経過していなくても、「権利を行使することができる時」から10年を経過すれば、消滅時効にかかることとなる。 【現状の時効期間と改正後の時効期間】 2 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則等 他人の行為によって損害が生じた場合、損害が生じた者(被害者)は、損害を与えた者(加害者)に対して、「債務不履行」(契約違反の場合など)又は「不法行為」(交通事故の場合など)を根拠として、損害賠償請求をすることができる。 このうち、債務不履行を根拠とする場合は、消滅時効の期間は「権利を行使することができる時から10年」とされ、不法行為を根拠とする場合は、「損害及び加害者を知った時から3年」又は「不法行為の時から20年(除斥期間(※))」とされていた。 (※) 除斥期間とは、権利の存続期間であり、期間の経過により当然に権利が消滅するものである。消滅時効のように、時効の中断や停止という制度がなく、当事者の援用も不要とされている。「不法行為の時から20年」という期間については、判例上除斥期間であるとされてきた(最判平成元年12月21日民集12号2209頁)。法律関係をすみやかに確定させることを趣旨とするが、当事者の権利行使が制限されていることから批判も多いものであった。 現行法では、損害の内容で特に時効期間に差はない。この点に関して、生命や身体の利益の方が財産的な利益等他の利益に比べて保護すべき度合いが高いことや、生命や身体について深刻な被害が生じたときには、時効の完成を阻止するための措置をとることが困難な場合もあることから、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効の期間について、見直しが行われることとなった。 【生命・身体に関する損害賠償請求権の時効期間の特則】 上記の図表のとおり、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、時効の期間を延ばすことで、その保護を強化している。また、不法行為に関する20年という長期の権利消滅期間を、除斥期間ではなく消滅時効期間であることが明文化された。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第16回】 「AIで不正会計はなくなるか?」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 昨年10月に行われた一般社団法人日本公認不正検査士協会のカンファレンスでは、「不正調査と人工知能(AI)」がテーマとして取り上げられた。当日は、ベーカー&マッケンジー法律事務所所属の弁護士・井上朗氏が「AIを活用した不正調査の現状と今後の課題」と題して、基調講演を行い、これまで手がけてきた国際カルテル事件におけるアメリカ司法省との戦いの中で、どのようにAIを活用してきたのか、その一端を明らかにした。 不正調査では、億単位の膨大なドキュメント(文書、スプレッドシート、メール)などのすべてに目を通すことは不可能であり、AIによって重要なドキュメントを絞り、それらを読み込んで仮説の修正や裏付けを行い、インタビューによって事実を明らかにしていくというプロセスは、もはや一般的なものであろう。 一方、会計監査の実務では、本連載【第7回】でも説明されているように、大手監査法人では、「不正会計予測モデル」が実用化され監査の品質管理が強化されていることや、「AIによる会計仕訳の異常検知アルゴリズム」が実用化段階に入っているという。 こうした状況の中、本稿では、『AIで不正会計はなくなるか?』をテーマに、不正会計の抑止又は早期発見とAIの活用といった視点から、論考をまとめてみたい。 * * * 不正会計を含む不祥事をいかに予防するかについては、去る3月30日、日本取引所自主規制法人が「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」を公表したところである。その中で、原則4は、予防だけではなく早期発見についても重要性を指摘、以下のように定義されている。 この「不正の芽の察知」、言葉を変えれば、不正の端緒をいかに把握するかについて、AIの活用が考えられるのではないかというのが筆者の結論である。 これまで、不正の端緒の発見は、「人」にかかってきた。例えば、公認会計士の宇澤亜弓氏は、近著『不正会計リスクにどう立ち向かうか!』の中で、不正会計の端緒について、次のように語っている。 (出典) 宇澤亜弓『不正会計リスクにどう立ち向かうか! 内部統制の視点と実務対応』(清文社、2018年3月)、77頁 宇澤氏の指摘については、まったくその通りであると首肯するものであるが、こうした「違和感」を適時適切に覚えられる「職業的懐疑心」の持ち主が不足していることこそ、不正の早期発見が難しい理由の1つであることもまた、事実であろう。 それでは、不正の会計の端緒となる「違和感」をAIに指摘させることは可能であろうか。 活用例として、いくつか検討したい。 1 「情報収集ツール」としての検索エンジンの活用 筆者が本誌で連載している「会計不正調査報告書を読む」の中で取り上げたATT株式会社が仕組んだ架空循環取引(※)については、FACTAが2016年4月号で、『フィルムで大儲け? 怪しい「白鵬のタニマチ」』と題する記事を掲載しており、急拡大する売上について疑問視するとともに、信用調査会社がマークしていることを伝えている。 (※) 詳細は【第65回】藤倉化成株式会社「特別調査委員会調査報告書(平成29年11月10日付)」及び【第66回】KISCO株式会社「特別調査委員会調査報告書(平成29年11月10日付)」を参照されたい。 与信管理担当者が、この記事を目にしていれば、少なくとも取引拡大にはストップをかけたであろうし、普通であれば、取引は中止するはずである。 問題は、日々の業務に忙殺される中、こうした情報をどうやって拾い上げるか、である。 万全ではないにしても、利用したいのが、検索エンジンのアラート機能を活用することによって、情報を収集することだ。本連載【第5回】で、税理士・公認会計士・弁護士である関根稔氏が、「Googleより優秀な税理士は存在しない」と明言しておられるとおり、Googleのアラート機能を活用して、インターネット上の取引先の情報を収集させ、自動的にアラート情報を配信させるよう設定を行うことが可能である。そうすれば、いちいち検索をせずとも、自社の取引先の信用情報に関連するものを吟味することができる。 いざ、破綻事故が起きたときに、「その会社って、以前から、変な噂がありましたよ」などと、信用調査会社の担当者から言われないためにも、情報収集は、検索エンジンのアシストを受けながら、進めたい。 2 不審な取引内容を自動的に検知する基幹システム(その1) 職業的懐疑心を有する者が抱く「違和感」を、自社の基幹システムが感知して、その都度、アラート情報として、経理部門、債権管理部門、審査部門担当者へと通知する仕組みができれば、有効なモニタリング手段となることが期待できる。 これもまた、本誌での連載記事「会計不正調査報告書を読む」で取り上げた事例であるが、2度にわたり特別調査委員会を設置し、その後、東京証券取引所から「改善報告書の徴求」という厳しい処分を受けた昭光通商株式会社。その連結子会社において、不正が発覚したきっかけは、監査法人からの指摘だった。 連結子会社の取引について、「仕入先及び販売先になっているA社及びB社の代表取締役が同一人物であることから、商流の適正性・合理性等について、注意喚起及び調査依頼を受けた(連載【第58回】、【第72回】)」ことから、社内調査を経て、架空循環取引に巻き込まれていたことが判明する。 この監査法人担当者の抱いた違和感は、基幹システムに取引先データを詳細に登録することにより、商談ごとの商流チェックを行わせることで、基幹システムからのメッセージとして受信することが可能となろう。 昭光通商子会社の事例のように、同一の取引において、「仕入先と販売先に資本関係がある、取締役の兼務が見られる、本店所在地が同じ」など、「違和感」を具体化して学習させ、条件に合致した商談について、タイムリーに通知を行う。通知を受けた担当者は、商談内容を確認し、証憑をチェック、販売担当者へのヒアリングなどを通じて、取引の妥当性を検討することにより、事後的な監査によって「違和感」を得るのではなく、進行形の取引について「違和感」の前兆を得ることが可能となろう。 3 不審な取引内容を自動的に検知する基幹システム(その2) 架空循環取引では、本来の販売先ではない会社から売上代金が振り込まれているケースが少なくない。前述のATT事件でも、販売先とは異なる名称の会社から代金が振り込まれていたことが判明している。他にも、上場企業などの有名な社名を借用して架空循環取引が演出された事例も存在する。 こうした状況を基幹システムが判別して、アラート情報を通知することを検討したい。 売上代金入金時の「違和感」としては、次のようなものが考えられよう。 多くの上場会社では、売掛金の入金消込処理の自動化が進んでいるものと思われるが、債権管理担当者がこうした「違和感」に気づかず、基幹システムにいったん学習させてしまうと、自動的に仕訳が生成され、「違和感」を見逃してしまうことにつながりかねない。 債権管理部門の事務手続きの合理化は必要であるが、一方で「違和感」を埋没させないためにも、こうした「違和感」については、基幹システムから、アラート情報として、経理部門、債権管理部門、審査部門担当者へと通知する仕組みが必要である。 * * * 以上、いくつか活用例を検討してきたが、ポイントは、職業的懐疑心を有する社員の暗黙知を具体化して、基幹システム上でアラート情報を生成させ、リアルタイムで商談内容を検証することにある。 前述の「不祥事予防のプリンシプル」でも、原則4の解説として、「どのような会社であっても不正の芽は常に存在しているという前提に立つべきである」ことを述べている。そのためには、属人化している暗黙知を形式知へと変換することが求められている。 AIの活用によって不正会計はなくなるかと問われれば、「完全になくすことなど不可能である」ということを結論とせざるを得ないが、AIの活用が、不正会計の抑止と早期発見に資するものであることは間違いない。不正を行う社員は不正が容易に発覚しないことを知っているからこそ、発覚後のリスクを分かっていながら、不正に手を染めてしまうものである。 とすれば、基幹システムによる監視活動を行うことは大いに抑止力になるだろうし、早期発見により、社内で問題解決が行われれば、レピュテーションリスクにさらされることもなくなる。 不正会計と戦うためのAIの活用について、大いに議論が盛り上がることを期待したい。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(公開草案)等を公表 ~IFRS第9号(金融商品)適用の在外子会社等に係る連結財務諸表上の取扱いを規定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年5月28日、企業会計基準委員会は、以下の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、在外子会社等において国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」(以下「IFRS第9号「金融商品」」という)を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の連結財務諸表上の取扱いを規定するものである。 意見募集期間は、平成30年7月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」 在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合、連結決算手続上、次のように修正する。 Ⅲ 「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)」 持分法適用関連会社においては、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」に準じて処理を行う場合には、当該修正を行う。 Ⅳ 適用時期等 (了)
2018年5月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.269を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第47回】 「行政におけるAI活用」 税理士 山本 守之 今回は趣向を変えて「行政におけるAI活用」というテーマで書いてみました。 * * * 平成30年1月に日本政府は行政の電子化に向けた「デジタル・ガバメント実行計画」を発表しました。 かねてより政府は、全ての行政手続きをインターネット申告で行うことを可能にできると見込んでいましたが、現在、全ての行政手続きのうち、ネット申告をしている割合は12%にとどまっており、行政部門のIT(情報技術)、AI(人工知能)の活用が進んでいない現状があります。 本来、行政事務のデジタル化を率先して行う場でこそ、ITやAIの活用によって大幅な事務の効率化やコストの削減がなされなければならないのです。 筆者は今年85歳になりましたが、昨年12月から1ヶ月間、誤嚥性肺炎で入院していました。その際、介護保険の認定(要介護2)も受け、食事、洗濯、入浴、清掃などの介護を受けました。 このような高齢者介護の分野でも、AIの試験導入が広がっています。高齢者のケアプラン(介護計画)の作成にもAIを導入し、様々なデータをAIに学習させて業務の効率化を図っています。 高齢者介護はそれぞれ必要なサービスも異なるため情報が多くなりますが、AIはこうした複雑な情報の扱いに適しているため、活用の場が広がると期待されています。 介護現場では介助をする人(ヘルパーさん)が人材の中心であり、自立を支援するケアプランを作成する人材が不足している現状があるのです。 ◆フランスは「AI立国宣言」、日本は・・・ 今年の3月に、フランスのマクロン大統領は「フランスをAI立国とする」と宣言しました。2022年までに15億ユーロを投資し、フランス国内でAI研究を進め、他のEU諸国や米国、中国の水準に追いつくことを目標にするとしています。 マクロン大統領は、フランス国民のデータを公的機関や企業がシェアする場合に、「前向きな姿勢が重要である」とも述べています。また、「データの共有によりAI領域の研究を前進させ、農業分野でも役立つものにできる」としています。 一方日本は、あくまでも「ものづくりの国」という態度を改めていません。これが日本のAI化を妨げているという批判もあります。 また、新技術が登場するときには、「自分は置いて行かれるな」と早計し、理解することを諦める人が必ずいます。これがAI化を進めるに当たってのブレーキとなっています。 日本は、アメリカと中国がAIブームになり、慌ててAIに手を出したが、「何のためか?」がはっきりしていないので迷走しているのです。 世界の成長戦略は「GAFA」と呼ばれる米巨大4社が先行し、アリババ集団などの中国企業やSPAなどの欧州勢が追従しています。これに比べ日本は、AIやビックデータなどの出遅れにより先端分野で太刀打ちできていません。 現在の第4次産業革命の時代に、ものづくりに固執した日本の政策の失敗は明らかで、産業政策は機能不全に陥っています。 ◆通商戦略の甘さ 通商戦略の甘さも問題です。トランプ米大統領による鉄鋼などの輸入制限措置に対して、日本は適用除外ばかりを求めているのは情けないものです。自由貿易を主張するのならば、トランプ大統領の保護主義に対して、なぜ真正面から批判しないのでしょうか。 その結果、トランプ政策に対抗措置を示したEUは適用除外され、日本は適用除外されなかったのです。 環太平洋経済連携協定(TPP)を11ヶ国で守ったところまではよいのですが、そこで安心してしまっては意味がありません。TPPと東アジア地域包括経済連携(RCEP)を結合し、米国を呼び戻すのも、米中貿易戦争を防ぐ道でもあるのです。 また、エネルギー戦略も混迷しています。東日本大震災による福島原発事故を受けて再生可能エネルギー開発を優先することが求められていましたが、わが国、経済産業省は原発再稼働を優先し、再生可能エネルギーの開発を後まわしにしたため、この分野でも日本の出遅れは著しいのです。 ◆IT分野への転職で賃金増 IT分野での求人が増え、「賃金が1割以上増えた」という転職者が全体の3割ほどとなっています。厚生労働省によると、前職よりも高い賃金を手にする人の割合が35%~37%となっています。 平成30年2月の失業率は2.5%と低い水準にあります。一部の職種では人手不足が深刻という課題もあります。転職で成長産業に人が移れば、その分野で日本の成長力が高まる可能性があるのです。 ただし、転職で賃金が減ったり、希望する額に届かない人も少なくありません。社会人の学び直しなどの政策支援も必要となるようです。 ◆手探りの自治体 行政のデジタル化やIT、AI導入の効果は大きく、今後も国や自治体がこれらを採用する例は増えていきます。 例えば、さいたま市では毎年8,000人の保育園入所希望者があり、これを市内300ヶ所に割り振っています。優先順位や兄弟入所などの複雑な要素を考慮するために、30人の職員で50時間を費やすこともあるといいます。この作業をAIで行うと、わずか数秒で行えたというのです。また、豊橋市では、要介護度の認定にAIを活用する実験をはじめています。 このような自治体の業務の効率化やコスト削減効果は非常に大きなものです。また、国や自治体の保有するインフラの老朽化が問題となっていますが、ここでもAIを活用することで大幅なコスト削減がなされるのです。 ◆AIとがん治療、保険 SBI生命保険と近畿大学は、AIを使ったがん患者向けの臨床試験をはじめました。患者のがん組織や血液などの遺伝子情報などのデータを基に、AIで適切な治療法を見つけ出すなどして活用しています。 また、膨大な量の情報を扱うことを得意とするAIが、費用負担軽減の保険商品の開発なども行っています。 ◆産業革命の関連人物からAIへ 産業革命の関連人物を考えると、第一次産業革命では、ダヴィンチ、ミケランジェロ、コペルニクス、ガリレイです。第二次産業革命はダーウィン、第三次産業革命がフロイトとなり、現在の第四次産業革命ではついに人ではなく、AIなどのIT技術ということになるでしょう。 世界経済フォーラム会長のクラウス・シュワブ氏は「変化が著しさを増す中で、それを積極的に受け入れたい人々、待ちこがれている人々と変化を恐れる人々の相克がある」としています。 「いずれ消えていく職業」の第一に税理士を挙げる人と、変化を求める税理士のあり方を考える人がいるなかで、私たちはAIをどのように考えるべきでしょうか。 (了)
小規模宅地等の特例に関する 平成30年度税制改正のポイント 【第1回】 「特例居住用宅地等の「家なき子特例」の見直し」 税理士 風岡 範哉 平成30年度税制改正により、平成30年4月1日以後の相続等から、いわゆる“家なき子特例”や“貸付事業用宅地”に係る小規模宅地等の特例の要件が厳格化された。 小規模宅地等の特例は、利用区分や限度面積、減額割合等の適用要件が多岐にわたることから、これまでも数次の改正が行われてきたが、今回も適用要件の改正が行われることとなった。 1 小規模宅地等の特例の見直し (1) 小規模宅地等の特例の概要 個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業又は居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので、限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」という)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、80%又は50%の割合を減額することができる(措法69の4)。この特例措置のことを「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」という。 (2) 制度趣旨と改正の経緯 租税特別措置は、特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより、国による特定の政策目的を実現するための特別な手段であるとされ、「公平・中立・簡素」という税制の例外措置として設けられている。 また、小規模宅地等の特例は、被相続人が事業又は居住の用に供していた小規模な宅地等については、一般にその相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできないものであって、相続人において事業又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約があるのが通常であることから、相続税の課税上、特別の配慮をすることを目的として昭和58年に創設された制度である。 そこで、今回の改正前においては、①持ち家に居住していない者に対する特定居住用宅地等の特例及び②貸付事業用宅地等の特例に関して、居住又は事業の継続への配慮という政策目的に沿ったものとなっていない使われ方があるという指摘を踏まえ、改正に至ることとなった。 2 居住用宅地(持ち家に居住していない者)の見直し (1) 特定居住用宅地等 小規模宅地等の特例は、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等のいずれかに該当する宅地等であることが必要となる。 このうち特定居住用宅地等とは、相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、下記〔図表1〕の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する被相続人の親族が取得したものをいう(措法69の4③二)。 特定居住用宅地等に該当する場合は、限度面積330㎡まで、居住用宅地等の課税価格から80%の減額をすることができる(措法69の4①一、②)。 この制度は、居住用資産は生活の基盤そのものであり、その他の資産とは異なった扱いをすることが正当化されると考えられ、居住の継続を保護するという趣旨に沿うべく、相続人により居住が継続される場合に限って適用を認めることとしたものである。 〔図表1〕 従来の特定居住用宅地等の要件 (2) 「家なき子」特例 今回の改正となったのは、「被相続人と同居していない親族」(〔図表1〕のC)に対する部分である。 特定居住用宅地等の特例は、被相続人と同居していない親族においても適用を受けることができる。親の死亡後に、実家に戻ることが想定されるからである。 ただし、(イ)被相続人の配偶者及び同居している親族がいないこと、(ロ)その被相続人と同居していない親族において、3年以内に自己又は自己の配偶者の持ち家に居住していないことなどが要件となっていた。 このように、持ち家がない子供が特例適用の対象となることから「家なき子特例」などと呼ばれている。 (3) 改正の背景 さて、従来の制度では、相続人又はその配偶者名義で自宅を所有していないことが要件となるため、家屋を他の親族へ売却することで“家なき子”に該当するケースがある。 そこで、相続人が親族などに自己の持ち家を売却するなどして適用可能な状態を意図的に作出し、相続税を軽減する行為が問題とされていた。 (4) 改正点 今回の税制改正において、家なき子特例の対象を、自己、自己の配偶者に加え、3親等内の親族、関係する同族会社や一般社団法人等の所有する家屋に居住している者を除外することとされた(措法69の4③二ロ)。 また、相続開始時に居住していた家屋を相続前に所有していた者が除外される。 つまり、相続人が自己の居住する家屋を3親等内の親族に売却し、家なき子特例の適用を受けるということができなくなったのである。 (ⅰ) 3親等内の親族 3親等内の親族とは、次の親族図のうち「①から③」及び「一から三」の範囲の者をいう。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (ⅱ) 同族会社等 今回適用要件に加えられる同族会社等については、次のように規定されている(措令40の2⑫)。 (5) 適用時期 上記の改正は、平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する宅地等に係る相続税について適用される(H30所法等附118①)。ただし、経過措置が設けられており、次回(第2回)(編集部注:第3回へ変更となります)で触れることとする。 (了)
平成30年度税制改正における 所得控除の見直しと実務への影響 【第1回】 「改正内容の確認と影響」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 平成30年度税制改正では、「働き方改革」を後押しする観点から、特定の収入にのみ適用される給与所得控除及び公的年金等控除の控除額がそれぞれ引き下げられ、一方で、すべての所得者に適用される基礎控除の控除額が引き上げられることとなった。 これらの改正は平成32年(2020年)分の所得税(個人住民税は平成33年(2021年)度分)から適用される。 (※) 財務省ホームページより 本稿では、改正法令を踏まえた今回の改正内容及び、企業の総務・経理実務に及ぼす影響について、2回にわたり解説する。 【1】 見直しの概要 平成30年度税制改正において、給与所得控除、公的年金等控除及び基礎控除の控除額に見直しが行われた。 改正前後の控除額の比較等、見直しの詳細については、以下の速報解説をご参照いただきたい。 各控除額の見直しについてポイントを整理すると、次のとおりである。 ◆給与所得控除(所法28②③④) ◆公的年金等控除(所法35②③④、措法41の15の3) ◆基礎控除(所法86) 【2】 控除額の見直しに伴う措置 (1) 所得要件に係る措置 給与所得控除と公的年金等控除の引下げ等の見直しにより、扶養親族等の範囲が変わることのないよう、扶養親族等に係る所得金額要件の引上げが行われている。 〈表1〉のとおり、給与・公的年金等の収入金額に換算してみると、改正前後で対象となる者の範囲は変わっていないことがわかる。 〈表1〉 改正前後の所得金額要件 なお、配偶者や親族が青色事業所得者や家内労働者である場合には、「青色申告特別控除」及び「家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例」の見直し(それぞれ10万円引下げ)にも注意が必要である(措法25の2③、27)。 ただし、〈表1〉で確認したとおり、扶養親族等を判定するときの所得金額要件が10万円ずつ引き上げられていることから、改正前後で扶養親族等となる者の範囲に変わりはない。 〈表2〉 青色申告特別控除、家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例の見直し (※) 申告期限内の電子申告等の要件を満たした場合は65万円 (2) 所得金額調整控除の創設(措法41の3の3) 今回の給与所得控除及び基礎控除の見直しは、給与所得控除から基礎控除へ控除額を10万円振り替えることを意味する。ただし、給与収入が850万円になると給与所得控除は上限額195万円に達し、給与収入が850万円を超えても給与所得控除の額は195万円で固定される。 したがって、給与収入850万円以下の所得者にとっては、控除額が給与所得控除から基礎控除に振り替えられるだけなので、改正前後で税負担は変わらない。一方、給与収入850万円超の所得者は、給与所得控除の上限額が引き下げられていることから(改正前220万円→改正後195万円)、改正後は税負担が増えることとなる。 この税負担の増加に対し、子育てと介護に配慮する観点から、本人が特別障害者に該当するか、同一世帯内に23歳未満の扶養親族、又は特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族がいる場合には、所得金額調整控除により税負担の増加を生じさせない仕組みが導入される(措法41の3の3)。 具体的には、給与等の収入金額850万円を超える居住者が、以下の(ア)から(ウ)のいずれかに該当する場合には、総所得金額の計算において給与所得の金額から下記〈調整額〉の金額が控除される。 + 【3】 給与所得者への影響(まとめ) 以上より、今回の見直しが給与所得者に及ぼす影響をまとめる。 (1) 控除額の見直しによる影響 ① 給与収入850万円以下の所得者 ➡影響なし 給与所得控除は10万円減少するが、基礎控除が10万円増加するため、全体としての控除額は改正前後で変わらない。 ② 給与収入850万円超の所得者 (ア) 子育て世帯等の所得者:影響なし 給与所得控除は最大25万円減少し、基礎控除は10万円増加する。これに、所得金額調整控除が加味されるので、全体としての控除額は改正前後で変わらない。 (イ) 子育て世帯等以外の所得者:税負担増 給与所得控除が最大25万円減少し、基礎控除は10万円増加する。所得金額調整控除の適用がないため、改正後の控除額は改正前よりも減少し税負担は増える。 〈控除額の見直しによる給与所得者への影響〉 (2) 扶養親族等の所得金額要件の改正による影響 〈表1〉に示したとおり、扶養親族等を判定するときの所得要件は改正前後で実質的に変わらない。したがって、所得金額要件の改正により税負担が増減することはない。 * * * 次回(5/31公開)は、各控除額の見直しが、企業の源泉徴収と年末調整の実務に及ぼす影響について解説する。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例62(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(所得拡大促進税制)(旧措法42の12の5①) 青色申告書を提出する法人が、平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、当該法人の雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額(以下「雇用者給与等支給増加額」という)の当該基準雇用者給与等支給額に対する割合が増加促進割合以上であるとき(次に掲げる要件を満たす場合に限る)は、法人税額から、当該雇用者給与等支給増加額の10%相当額(当期の平均給与等支給額が前期の平均給与等支給額より2%以上増加した場合には2%、中小企業者等である場合には12%の割増)を控除することができる。ただし、法人税額の10%(中小企業者等である場合には20%)相当額を限度とする。 ◆雇用者給与等支給額(旧措法42の12の5②) 適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、当該金額を控除した金額)をいう。 ◆基準雇用者給与等支給額(旧措法42の12の5②) 平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度(=基準事業年度)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。なお、基準事業年度がない場合には、最も古い事業年度等の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額の70%に相当する金額とする。 ◆増加促進割合(旧措法42の12の5②) 次に掲げる適用年度の区分に応じ、それぞれ次に定める割合をいう。 ◆比較雇用者給与等支給額(旧措法42の12の5②) 適用年度開始の日の前日を含む事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第38回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第5章》 平成18年度税制改正) 6 欠損等法人 『平成18年版改正税法のすべて』352頁では、欠損等法人の規制に関する制度趣旨について、以下のように記載されている。 このように、繰越欠損金や資産の含み損を有する法人を買収し、これらの繰越欠損金や資産の含み損を利用して、法人税の課税所得を圧縮する行為を防ぐために設けられた規定であるということが言える。 ここで重要となるのは適用事由の範囲であり、法人税法57条の2第1項では、以下のものが適用事由に該当するものとされている。 このうち、④が分かりにくいが、①~③の適用事由に該当する前に、欠損等法人を被合併法人とする適格合併を行うことにより、欠損等法人の規制を免れる行為を防ぐためのものである(※)。そして、平成22年度税制改正により、欠損等法人の残余財産が確定する場合についても付け加えられた。 (※) 『平成18年版改正税法のすべて』358頁。 しかし、そもそも事業を開始していない場合には、みなし共同事業要件を満たすことができないことから、①の適用事由に該当する前に適格合併を行うことは考えにくい。そして、そもそも債権の譲受けを行うことが稀であることから、③に該当することも考えにくい。 そのため、実務上、②の適用事由に該当する前に適格合併を行う場合に、④に該当するかどうかを検討することが多いと思われる。なぜなら、「欠損等法人が旧事業のすべてを当該特定支配日以後に廃止し、又は廃止することが見込まれている場合」と規定されていることから、適格合併後に事業を廃止する場合であっても、④に該当する可能性があるからである。 これに対し、①②に該当するかどうかのご相談は、実務上もかなり多いように思われる。なぜなら、欠損等法人の規制に該当してしまうと、当該欠損等法人を合併法人とする適格合併により繰越欠損金を引き継ぐことができなくなってしまうからである。 実務上も、欠損等法人の繰越欠損金が100万円程度であり、被合併法人の繰越欠損金が10億円であった場合に、当該被合併法人の繰越欠損金が引き継げなくなったという事案が生じている。さらに、①における事業の開始、②における資産の受入れは、合併による事業又は資産の受入れも含まれるため、適格合併を行ったことを理由として、①②の適用事由に該当することもあり得る。 このようなことを避けるためにも、欠損等法人の規制に該当するかどうかは慎重な判断が必要になってくる。 なお、⑤については、「欠損等法人が特定支配関係を有することとなったことに基因して」と規定されていることから、特定支配関係が成立した後の後発事象により、特定役員のすべてが退任したり、使用人の20%以上の者が退職したりしても、欠損等法人の規制には抵触しないと考えられる。そのため、実務上、⑤に該当することは稀であると思われる。 このように、欠損等法人の規制は、繰越欠損金や資産の含み損を有する法人を買収し、これらの繰越欠損金や資産の含み損を利用して、法人税の課税所得を圧縮する行為を防ぐために設けられた規定である。 その制度趣旨を鑑みると、他の者と50%ずつの株式を保有することで、特定支配関係を発生させないようにしたとしても、欠損等法人の規制を免れるための行為であると認定された場合には、同族会社等の行為計算の否認(法法132)が適用される余地があると考えられる。 * * * 次回では、資産調整勘定及び負債調整勘定について解説を行う予定である。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第17回】 「アパート・倉庫のPE認定」 -なぜアマゾンは日本にPEがないのか- 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私は、外国に居住して、インターネットで外国の商品を販売しています。最近注文が増えてきたことから、日本で倉庫を借りて、注文に応じて発送することを予定しています。 商品の販売で日本に拠点がない場合は、たとえ倉庫を借りていたとしても、売上について、日本で課税されることはないのでしょうか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷恒久的施設(PE)とは 非居住者や外国法人の課税範囲を決める場合、恒久的施設(PE:Permanent Establishment)の存在が重要となる。 日本においてPEが存在し、そのPEに帰属する所得がある場合は、その所得については日本における課税範囲となる。例えば、外国の法人が商品の販売業を営んで、日本の顧客に商品を売ったとしても、日本にPEがない場合は、日本で売上分の所得について課税されることはない。 つまり、外国法人や非居住者の行った日本の売上に係る所得について課税ができるためには、日本にPEがあるかどうかが大切となっており、PEの定義については、所得税法で定められている。さらに、PEに入らないものについては施行令で定められているが、これが平成30年度の税制改正で改正が行われた(施行時期は平成31年1月1日)。 改正前から資産の購入、保管をするために使用する場所はPEから除外されているが、今回の改正ではこれらの場所が、非居住者や外国法人の事業遂行にとって、準備的又は補助的な性格を有する場合に限られるとされている。 ▷恒久的施設をめぐる事例 さて、恒久的施設か否かを争った事例(東京地方裁判所平成24年(行ウ)第152号所得税決定処分等取消請求事件、TAINSコード:Z265-12672)から、恒久的施設に該当するポイントは何かを探ってみたい。 この事例は、以前に日本に居住していた日本人Xが、米国人と結婚して、米国に居住することになった。従来からXは日本においてアパートを借り、インターネット(楽天市場やヤフーオークション)を通じて商品を販売していた。 Xは結婚後、外国に居住してからも引き続き日本にアパートを借り、さらに倉庫も借りた。アパートにあるパソコンを受注のサーバーとし、X自身はネットを通じて外国で注文を受け、それに基づいて在庫確認、発送の指示を行い、日本においてはパートを2、3人雇い、商品の保管、梱包、発送、返品等を行っていた。 この件に関して、課税当局はアパート等を非居住者XのPEとして課税処分を行ったが、これに対してXはPEに該当しないとして争ったもので、地裁も高裁も原告敗訴(PEに該当する)となった。 Xは米国の居住者であることから、「PEか否か」を判断するためには、日米租税条約を検討することになる。日米租税条約5条4項では、下記のものは恒久的施設(PE)に含まれないとされている。 Xの有するアパートがこのPEに該当するとなったのは、次のような理由による。 まずXは、アパートのある場所を企業の所在地としてホームページで掲載し続けた。これは、楽天市場やヤフーオークションで自動車用品の販売をするためには、国内に事業所があることが取引条件となる重要な要素であった。 さらに従業員が、日本語の取扱い説明書を同梱し、商品の撮影を行うことは、販売商品の価値を高める作業であり、単なる保管や引渡しを超えている。また、販売した製品の返品先としてアパートの住所を指定し、そこから倉庫に転送されていた。 これらの活動を総括して、Xの営む事業においてアパート等は準備的又は補助的な性格の活動を行う場所とはならず、PEであると判断された。 ここでキーとなるのは、空き家状態のアパートを所在地としてホームページに掲載していたこと(PEが日本にあることを表明しているようなもの)、パートといえどもXが直接雇った人がアパート等で単なるデリバリー業務を超えた作業を行っていたことが要因とも考えられる。 それでは、アマゾン(Amazon.com)のような外国法人が大規模に日本で事業を営んでいても、その事業収益について課税されているという話を聞いたことがないが、それはなぜなのか。 ▷なぜアマゾンにはPEがないのか? アマゾンは日本において巨大な倉庫を有している。アマゾンについて調べると、日本に子会社と思われるアマゾンジャパン合同会社がある。この会社は2016年にアマゾンジャパンとアマゾンジャパン・ロジスティクスが合併し組織変更して設立された会社であり、オンラインストアの運営のサポートをしている。 おそらく、注文自体はネットを通じて直接アマゾン本社に入ってくるが、そこから、倉庫にあるものについては、出荷の依頼をかけて、顧客に配送しているのではないかと考えられる。 ただし、これらの発送業務をすべてアマゾンジャパン合同会社が行っているのではなく、合同会社が外注しているように見受けられる。なぜなら外注先には有価証券報告書を提出している会社もあり、その会社の有価証券報告書をみると、在庫管理や注文後の発送、デリバリー業務に関して必要な人材の確保や、より有効なデリバリー業務ができるようにするためのコンサルティング業務等を請け負っていると記載されているからである。 おそらくアマゾン本体の社員が日本において受発注、配送、入金までの一連の作業に関わることはなく、子会社や子会社が契約した第三者がこれらの業務をこなすことで、日本にはPEがないという実態が構築されているものと想定される。 しかし、上述のとおり改正税法において、事業を行う一定の場所を使用し又は有する非居住者や外国法人と特殊の関係にある者が事業活動を行う場合で、その一定の場所等がその者のPEを構成する等の一定の要件に該当するとき(その事業活動が一体的な業務の一部として補完的な機能を果たすときに限る)で、細分化された活動の組み合わせによる活動全体が非居住者や外国法人の事業の遂行にとって準備的又は補助的な性格のものでない場所については、PEとみなされることとされた(所令1の2⑤二ロ)。「特殊の関係にある者」とは、個人又は法人との間に直接・間接の持分割合50%超の関係その他の支配・被支配の関係にある者をいう(所令1の2⑨)。 これをアマゾンに当てはめると、アマゾンジャパン合同会社はアマゾンの子会社と考えられることから、例えば合同会社が倉庫を借り、そこで商品の配送業務全般に関わっていた場合は、アマゾンの事業において、これらの事業は準備的・補助的な性格のものではないとみなされ、PEとして課税されることになる可能性が高いと考えられる。 ただし日米租税条約では、特殊の関係にある者が行う事業についてまで言及していない。施行は来年からであるが、改正に伴いアマゾンや課税当局がどのような対応をとるのか、今後の成り行きを見守りたい。 (了)