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[IFRS適用企業の決算書から読み解く]収益認識会計基準導入で売上高はどうなる? 【第1回】「釣った魚を持ち込むと料理してくれる店の売上高は純額計上?」

[IFRS適用企業の決算書から読み解く] 収益認識会計基準導入で 売上高はどうなる? 【第1回】 「釣った魚を持ち込むと料理してくれる店の売上高は純額計上?」   公認会計士 石王丸 周夫   ◆この連載のねらい◆ 「売上」は、会社における最大の関心事です。 その売上が、本年3月30日に企業会計基準委員会から公表された収益認識会計基準(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」)により、様変わりする可能性があります。 「どう変わるのか?」その正確なところは実務を待たなければわかりませんが、現時点でもある程度予測することはできます。 本連載では全4回で、収益認識会計基準がIFRSの考え方を取り入れたものであることに着目し、IFRSを採用している日本企業の決算書を分析することにより、日本基準を採用している会社の売上高がどう変わるのかを予測していきます。   ◆持ち込んだ魚の代金は? 釣った魚を持ち込むと、天ぷらにして食べさせてくれるという店があります。新鮮だし、自分で釣った魚だし、味は格別だろうと思いますが、ここで少し気になることが・・・。それは、「この店は売上をいくらで計上するのか」ということです。 こうした店の営業形態として、考えられるやり方は2つあります。無償支給と有償支給です。 無償支給 釣った魚を持ってきた客が、店にそれを無償で預け、店がそれを天ぷらにして客に提供し、食べてもらうやり方。客が払う料金は、調理代と食事場所提供代であり、店が売上高として計上するのもこれらの料金。つまり、客が持ち込んだ魚については、代金のやりとりはない。 有償支給 客が持ち込んだ魚を店がいったん買い取り、その金額に調理代と食事場所提供代を上乗せして、改めてその客に販売するというやり方。客が払う食事代には、天ぷらの材料となった魚の代金も含まれている。 有償支給の場合、店では2通りの会計処理方法が考えられます。店が払った魚の買取り代と店が受け取った食事代を両建て(総額)計上する方法と、それらの純額を売上計上する方法の2つです。 有償支給における上記2つの方法は、店の利益はどちらも同じになりますが、総額で計上する方法は、魚代の分だけ店の売上が膨らみます。会計的には、どちらが正しいのでしょうか?   ◆会計基準次第で売上計上額が変わる 同じような悩みは大企業の会計でも見られます。まず、以下のグラフを見てください。 ※動かない図はこちら このグラフは、(株)豊田自動織機の2013年3月期から2017年3月期の5年度分について、売上数値(連結ベース)を並べたものです。一見してわかるとおり、2016年3月期の売上が、前年比で22%減少しています。 普通はこんなに減少すると経営不振と見られてしまうのですが、この例では、業績には何の問題もありませんでした。 では一体、何が起きたのでしょうか。 近年、決算書に掲載されている売上数値を見るとき、少し気をつけなければいけないことがあります。それは、決算書のベースになっている会計ルールが変更されると、売上数値が変わってしまうことがあるということです。 たとえば、日本基準とIFRSであれば、いずれを採用するかによって売上数値に差が発生するのです。 上のグラフの場合、売上が急減した2016年3月期以降、それまでの日本基準からIFRSに会計ルールが変更されています。グラフで見られる売上の急減は、他でもないそのせいでした。   ◆業績は問題なし 念のため確認しておきましょう。以下のグラフは、先ほどのグラフを少し変えたものです。 ※動かない図はこちら 豊田自動織機は、2016年3月期と2017年3月期について、日本基準の決算書も作成・公表しています。両年度について日本基準の売上数値に置き換えたのが上のグラフです。 つまり、上のグラフは、2013年3月期から2017年3月期まですべて、日本基準の売上数値を並べたものというわけです。 これを見ると、先ほど見たような売上の急減はないことがわかります。この会社の業績は、順調に推移していますね。   ◆原因は有償支給取引の会計処理 では、IFRSに変更したとき、なぜ売上が減ってしまったのでしょうか。 その理由は有償支給取引の会計処理にあります。 有償支給とは、メーカー(支給元)が別のメーカー(支給先)に材料を売り渡し、支給先で加工後に、支給元がそれを買い戻す一連の取引のことを言います。 このとき支給先でどのような会計処理が行われているかというと、これまでの日本基準では厳密な決まりはなく、複数の考え方があるのですが、その1つとして、上の図表に示したように、売上と売上原価を総額で表示する処理が実務で行われています。 このような処理を行っている会社がIFRSに移行すると、どうなるでしょうか。 結論から言うと、純額処理になります。下の図に示したとおりです。 支給先の会社は、支給品について価格変動リスク等を負っていないことから、加工賃のみを収益計上するという理屈です。 豊田自動織機の売上で起きた変化は、取引の詳細は知りえませんが、ごく単純化するとこのようなものであろうと推定されます。   ◆利益率への影響もおさえておきたい 財務指標への影響も見ておきましょう。 ※動かない図はこちら 上のグラフは、豊田自動織機の売上総利益率(=売上総利益/売上高、粗利率のこと)の推移です。2016年3月期以降、売上総利益率が跳ね上がっていることがわかります。 このグラフだけ見ると、会社が急に儲かり出したかのように思えてしまいますが、それは違います。単なる数字のいたずらです。売上と売上原価が総額表示から純額表示に変わった結果、分母の売上高が圧縮されたけれども、分子の利益自体は変わらないため、利益率が上がるのです。 有償支給先における売上は圧縮され、利益率は跳ね上がる。これが、日本基準からIFRSへ移行したことによる変化です。日本基準で収益認識会計基準が適用になると、一律にとは言えませんが、同様のことが起こると予想されます。   ◆おわりに さて、冒頭の「釣った魚を持ち込むと料理してくれる店」の話ですが、一応結論を述べておきましょう。 収益認識会計基準が適用されると、有償支給の場合、店の売上高は純額計上を軸に考えていくことになると予想されます。 ただし、「買い取った魚を別の客に提供することはあるのか」、「買い取った魚と客に提供する調理後の魚はひも付きになっているのか」といった細かい点によっては結論も変わってくると考えられます。と言っても、個人事業者と見られるこのお店にとっては、全くどうでもよいことです。。。 (了)

#No. 271(掲載号)
#石王丸 周夫
2018/06/07

税効果会計における「繰延税金資産の回収可能性」の基礎解説 【第5回】「タックス・プランニングの実現可能性に関する取扱い」

税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第5回】 「タックス・プランニングの実現可能性に関する取扱い」   仰星監査法人 公認会計士 田中 良亮   1 はじめに 連載【第3回】から【第4回】にわたり、税効果会計における会社分類の解説を行った。繰延税金資産の回収可能性を検討する上で、自社がどの分類に属するのか検討することは必須であるため、理解できるまで熟読していただきたい。 さて、今回からは個別テーマを取り上げ、分類に応じて繰延税金資産の回収可能性をどのように検討すればよいのか解説していく予定である。 今回のテーマは「タックス・プランニングの実現可能性に関する取扱い」である。   2 タックス・プランニングとは 連載【第2回】で解説したとおり、タックス・プランニングとは将来の法人税等の発生額を見込む(計画する)ことであるが、将来の法人税等の発生額を見込む際には様々な状況を検討することになる。 将来の利益計画を立案することは当然であるが、例えば保有資産の売却を検討しているのであれば、その時期や金額の見積りが必要となり、その見積りの際には実現可能性を十分に考慮しなければならない。具体的には、当該資産の売却等に係る意思決定の有無、実行可能性及び売却される当該資産の含み益等に係る金額の妥当性を考慮する必要がある。 特に不動産や有価証券の売却にあたっては、法令や取引関係により売却が制限される可能性もあるため、慎重に検討しなければならない。 【図1】   3 会社分類ごとの資産の含み益等の実現可能性に関する取扱い 当然であるが、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額は将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額を構成することになる。 将来の一時差異等加減算前課税所得を見積ることのできる状況は企業により異なることから、タックス・プランニングに基づき、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額を構成する資産の含み益等の実現可能性については会社分類ごとに以下のように判断することになる。 【図2】 タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額の取扱い 分類1 タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込んで繰延税金資産の回収可能性を考慮する必要はない。 分類2 次の①及び②をいずれも満たす場合、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができるものとする。 分類3 次の①及び②をいずれも満たす場合、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)又は第 24 項(※)に従って繰延税金資産を見積る企業においては5年を超える見積可能期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができるものとする。 (※) 回収可能性適用指針第24項抜粋 分類4 次の①及び②をいずれも満たす場合、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができるものとする。 分類5 原則として、繰延税金資産の回収可能性の判断にタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を織り込むことはできないものとする。ただし、税務上の繰越欠損金を十分に上回るほどの資産の含み益等を有しており、かつ、分類4の①及び②をいずれも満たす場合、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができるものとする。 (1) 分類1について 分類1の場合、これまでの実績から将来においても高い収益力に基づく課税所得が安定的に生じることが予測されており、それによって期末における将来減算一時差異等を上回る課税所得が生じることが見込まれるため、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込んで繰延税金資産の回収可能性を考慮する必要はない。 (2) 分類2について(連載【第4回】の【図2】において分類2に該当する会社を含む) 分類2の場合、収益力に基づく課税所得が安定的に生じることが見込まれるものの、将来減算一時差異の解消見込額と一時差異等加減算前課税所得を比較して回収可能性を検討しなければならないため、【図2】の条件を満たす限り資産の売却等の計画も含めたタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得を見積ることができる。 【図3】では、分類2に該当する会社における例示であるが、この中で土地売却益を一時差異等加減算前課税所得に含めて回収可能性を検討している点をご確認いただきたい。 【図3】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※) 【図1】と同様にタックス・プランニングに問題はないものとする。 (3) 分類3について(連載【第4回】の【図2】において分類3に該当する会社を含む) 分類3の場合、収益力に基づく課税所得の発生が安定的ではないため、原則的に将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の回収可能性を判断することになる。したがって、当該期間に属する将来減算一時差異の解消見込額と一時差異等加減算前課税所得を比較して回収可能性を検討しなければならない。 タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額の取扱いは【図3】の例示において、見積れる期間が将来の合理的な見積可能期間に制限されるというイメージをもっていただくと理解しやすいのではないだろうか。 例えば、中期経営計画が×4年3月期までしか策定されておらず、そこまでしか見積ることができない会社であれば、×5年3月期以降に発生が見込まれる土地売却益は一時差異等加減算前課税所得の見積額に含めることができなくなるため、留意が必要である。 (4) 分類4について 分類4の場合、過年度の課税所得の発生額の経緯から、収益力に基づく課税所得の発生の見積りについて長期間は認められないため、翌期に確実性をもって資産の売却等が見込まれる場合にのみ資産の売却等にかかる利益を一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができる。 タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額の取扱いは【図3】の例示において、見積れる期間が翌期(×2年3月期)のみに制限されるというイメージをもっていただくと理解しやすいのではないだろうか。 (5) 分類5について 分類5の場合、通常、将来において一時差異等加減算前課税所得が発生する可能性が低く、将来減算一時差異等に将来の税額負担を軽減する効果がないと想定されるため、繰延税金資産の計上が認められないことから、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額の取扱いにおいても、原則的にはタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を織り込むことはできないものとされている。 ただし、税務上の繰越欠損金を十分に上回るほどの資産の含み益等を有しており、かつ、その実現可能性が高いと見込まれる場合には、当該タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができるものとされている。 (了)

#No. 271(掲載号)
#田中 良亮
2018/06/07

改正法案からみた民法(相続法制)のポイント 【第2回】「配偶者居住権(長期居住権)」

改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第2回】 「配偶者居住権(長期居住権)」   弁護士 阪本 敬幸   連載【第1回】となる前回は、民法(相続法制)の改正法案(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案(以下「法案」))の全体像を概観したが、今回は、配偶者の居住に関する権利のうち、配偶者居住権(長期居住権(法案1028条~1036条))について解説する。   1 趣旨 高齢化社会の進展により、相続開始時に被相続人の配偶者(以下、単に「配偶者」という)が高齢であることも多いが、その後も配偶者が長期間生活を継続することも多い。そのような場合に、配偶者に住み慣れた自宅建物に居住させるとともに、建物以外の財産を渡す必要性が存在する。 しかし現行法の下では、被相続人が建物を所有していた場合、相続開始後、配偶者が建物所有権を取得するか、建物所有権を取得した相続人と配偶者との間で契約(賃貸借・使用貸借等)が成立しなければ、配偶者は建物を利用できない。前者の場合は建物評価が高額となって配偶者がその他の遺産を取得できない恐れが、後者の場合は契約が成立しない恐れがある。 そこで、配偶者保護の観点から、配偶者の長期的な居住権として「配偶者居住権」を創設することとなった。   2 配偶者居住権の内容 配偶者居住権は、配偶者が、原則として配偶者の終身の間、居住建物全部を、無償で使用・収益することができる権利である(法案1028条1項・1030条本文)。 配偶者居住権は遺言・遺産分割協議・家裁の審判により成立し(法案1028条1項、1029条)、存続期間については、遺言・遺産分割協議・審判の中で別段の定めをすることができる(法案1030条但書)。配偶者保護の観点から創設されたものであるから、配偶者が譲渡することはできない(法案1032条2項)。 用益物権と考えることもできるが、法制審議会では、賃借権類似の法定債権と位置付けている(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明13頁)。   3 成立要件 (1) 遺産分割・遺贈・死因贈与による成立(法案1028条1項) (2) 審判による成立(法案1029条)   4 配偶者居住権の効力等 (1) 使用収益に関する権利義務 配偶者居住権者である配偶者は、原則として終身の間(成立時に別段の定めを置くことは可能)、建物全部を無償で使用収益できることは前述した。 短期配偶者居住権(法案1037条~1040条)においては、使用のみが認められている(しかも、建物の一部を使用していた場合には、その一部しか使用できない)のと異なり、収益が可能である。ただし、建物の使用収益にあたっては、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をしなければならないとされており(法案1032条1項)、建物の改築・増築や転貸するには建物所有者の承諾が必要である(法案1032条3項)。 したがって、例えば被相続人が居住建物の一部を第三者に賃貸して収益していたような場合、配偶者居住権が成立すれば、配偶者は引き続き賃料全部を収受することができるということになる。このような場合、賃料収入があることを前提として、配偶者居住権の評価がなされるから(後記7参照。賃料収入を前払いしたものと考えて評価する)、配偶者が不当に利益を得ることにはならない。 なお、配偶者に前述した用法等に関する義務(法案1032条1項・1032条3項)違反があった場合、建物所有者は配偶者に是正を催告し、配偶者が催告に応じて是正しない場合には配偶者居住権を消滅させることができる(法案1032条4項)。 (2) その他の配偶者の義務等 配偶者居住権者である配偶者は、居住建物の修繕をすることができ(法案1033条1項)、配偶者が修繕しない場合は建物所有者が修繕することができる(法案1033条2項)。建物修繕や、建物につき権利主張する者がいる場合、配偶者は建物所有者に対し通知する義務を負う(法案1033条3項)。 配偶者は、通常の必要費を負担するが(法案1034条1項)、配偶者が通常の必要費以外の費用(有益費等)を負担した場合、建物所有者に対し償還を求めることができる(法案1034条2項)。 配偶者は、配偶者居住権が消滅した場合には、建物の返還義務を負い(法案1035条1項本文)、その際には建物を原状(相続開始時の状態)に回復する義務を負う(法案1035条2項、債権法改正により平成32年4月1日に施行される民法条文(以下、「改正後民法条文」という)599条1項)。 (3) 居住建物を使用収益する第三者との関係 上記のように、被相続人の生前から、居住建物の一部を賃借する第三者がいるような場合、配偶者居住権者である配偶者は引き続き賃料を収受できると考えられる。また配偶者居住権者である配偶者は、建物所有者の承諾を得て、第三者に居住建物を使用収益させることができるとされている(法案1032条3項)。 このように、建物所有者と当該第三者との間に、賃貸借における賃貸人と転借人と同様の関係が生じるため、配偶者居住権の条文の中にも居住建物を使用収益する第三者の保護規定が置かれている。 すなわち、居住建物を使用収益する第三者は(以下、第三者・配偶者間の契約を「第三者賃貸借契約等」という)、配偶者が建物所有者に対して負う債務を限度として、建物所有者に対し、第三者賃貸借契約等に基づく債務を直接履行する義務を負うことになる。また、配偶者居住権者と建物所有者との間で、配偶者居住権を合意により消滅させたとしても、適法に居住建物を使用収益する第三者に対しては対抗できない(第三者賃貸借契約等を終了させることはできない)とされている(以上につき法案1036条、改正後民法条文613条)。 (4) 対抗要件 配偶者居住権の第三者対抗要件は、登記に限定されており(法案1031条2項前段、民法605条)、建物所有者は配偶者居住権の登記義務を負う(法案1031条1項)。登記された配偶者居住権には、対抗力を備えた賃借権同様、妨害排除請求権・返還請求権が認められる(法案1031条2項後段、改正後民法条文605条の4)。 建物賃借権では建物の引渡(占有)も対抗要件とされているところ、配偶者居住権においては対抗要件が登記に限定されたのは、占有を対抗要件とすると、配偶者居住権の成立要件として配偶者の建物居住が求められていることから配偶者居住権が成立すれば即対抗要件取得となってしまうことや、賃借権と異なり配偶者居住権においては賃料収入を得ることはできず、第三者に対して権利を公示する必要性が高いことを考慮したためである(民法(相続関係)等の改正に関する中間試案の補足説明13頁)。   5 配偶者居住権の消滅 配偶者居住権は、期間満了・配偶者死亡・目的建物の滅失等・配偶者居住権消滅の意思表示・建物所有者と配偶者との消滅合意により消滅する。 配偶者居住権の存続期間は、原則、配偶者の終身であるが、期間が定められた場合には期間満了により消滅する(法案1036条、改正後民法条文597条1項、621条)。 また、配偶者の死亡によっても消滅する(法案1036条、改正後民法条文597条3項)。これは、配偶者居住権は、配偶者を保護するために認められた配偶者の一身専属的な権利だからである。 居住建物の全部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合にも消滅する(法案1036条、改正後民法条文616条の2)。 前述の通り、配偶者に用法義務違反等があった場合には、建物所有者から配偶者に対し、催告の上、配偶者居住権消滅の意思表示をすることにより、配偶者居住権は消滅する(法案1032条4項)。 また配偶者居住権が債権であることからすれば、配偶者と建物所有者との間の合意があれば配偶者居住権を消滅させられることは当然であるが、適法に居住建物を使用収益する第三者に対しては消滅を対抗できないことは前述した。   6 建物賃借権との差 既述のように、配偶者居住権の内容は、一般的な建物賃貸借契約に類似しているといえるが、配偶者保護の観点から、建物所有者の負担の下で成立させるものであるため、以下のような違いがある。   7 配偶者居住権の財産的評価 配偶者居住権の財産的価値は、建物所有権よりも低額になるため、配偶者に建物所有権を取得させる場合に比べ、より多くの動産類を配偶者に取得させることが期待されている。そこで、配偶者居住権の財産的評価についての議論がなされているが、本稿執筆現在では、明確な評価方法は定められてはいない。 法制審議会においては、以下のような計算方法が提示されている。頁数の制約もあるため、以下には概要を示すので、詳細はリンクから参照していただきたい。 (了)

#No. 271(掲載号)
#阪本 敬幸
2018/06/07

空き家をめぐる法律問題 【事例3】「地震が発生した場合の空き家の管理責任」

空き家をめぐる法律問題 【事例3】 「地震が発生した場合の空き家の管理責任」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、父と同居していますが、父は、祖父から相続した建物を別に所有しています。父はその空き家を物置として利用していますが、高齢ということもあり、空き家に行くことはありません。ただ、私は、父に頼まれて、年に数回、換気や整理をしています。 空き家は、旧耐震基準のもとで建築された建物であり、屋根や壁面も老朽化しています。 地震が発生して、空き家の外壁などが崩れて、通行人等にケガを負わせた場合、私や父はどのような責任を負うことになるのでしょうか。   1 空き家の利用状況 国土交通省は、全国の戸建て住宅の空き家等について利用状況、管理実態などを把握し、空き家に関する基礎資料を得ることを目的として、昭和55年から5年ごとに「空家実態調査」を行っている。 直近の調査結果である「平成26年空家実態調査」によれば、戸建ての空き家の建築時期は、昭和55年以前(旧耐震基準時代)のものが62.3%を占めている。また、管理する頻度は、「月に数回」と「年に数回」とを併せたものが57.4%を占めている。さらに、今後5年間、空き家として利用する割合は21.5%とされており、その主な理由は、「物置として必要」、「解体費用をかけたくない」とされている。 これらの調査結果からは、耐震性能の低い老朽化した建物が、十分な管理をされないまま物置等として利用されている実態が垣間見えるが、このような空き家は、地震等が起きた場合に災害の原因となりうる。 そこで今回は、地震が起きた場合の空き家の管理責任について検討することとしたい。   2 地震と工作物責任(民法第717条) (1) 工作物責任の判断枠組み 前回の解説のとおり、民法第717条第1項は、工作物の設置又は保存の瑕疵によって生じた損害について、その占有者に第一次的責任を負わせ、占有者が責任を負わない場合に、所有者に無過失責任を負わせている。 民法第717条第1項に規定する工作物の設置又は保存の「瑕疵」とは、建物に代表される工作物が、その種類に応じて、通常備えているべき安全性を欠いていることをいう(最判昭和45年8月20日民集24巻9号1268頁参照)。 また、「設置」の瑕疵は、当該工作物が設置された当時の瑕疵をいい、「保存」の瑕疵は、当該工作物が設置された後の瑕疵をいう。 法律効果面の差異はないが、瑕疵の内容を事案に即して検討する上では、区別して考えることが有益である。 (2) 設置又は保存の瑕疵について 本件では、地震との関係を問題にしていることから、建物が備えているべき、通常発生することが予測される地震動に耐えうる安全性をどのように判断するかが問題となる。 地震が建物に及ぼす影響は、地震そのものの規模に加えて、地盤、地質の状況、建築物の構造、施工方法等の事情によって異なる。したがって、瑕疵の判断にあたっても、このような事情を総合考慮して、当該建物が通常発生することが予測される地震動に耐えうる安全性を有しているかを判断することになる。 一般論としては上記のとおりであるが、地震に関連する工作物責任が争われた裁判例においては、当該工作物が耐震基準に適合していたかどうかが争点になることが多い。そこで、実際の裁判例が、耐震基準と設置又は保存の瑕疵との関係をどのように整理しているかを確認しておくことにしたい。 ① 設置の瑕疵と耐震基準の関係 賃貸マンションの1階部分が阪神・淡路大震災によって倒壊し、賃借人が死亡した事故に関して、裁判所は、当該マンションの設置の瑕疵の有無について、当該マンションが建築当時の基準に反して建築されていたことから、建物が通有すべき安全性を有していなかった旨判断している(神戸地判平成11年9月20日判時1716号105頁参照)。 この事案は、当該マンションが建築当時の設計震度による耐震性を有していたとしても、倒壊したと推認された事案であったが、裁判所は、建築当時の設計震度に適合していれば、実際の倒壊状況と同様の結果にはならなかった可能性を重視し、当該マンションの設置の瑕疵を認めた。 このように、建物の設置の瑕疵を判断する場合において、建築当時の耐震基準を満たしていたかどうかは、重要な判断要素ということができる。 本件の物置として利用されている空き家は、旧耐震基準下において建築されたものであるが、旧耐震基準に満たない建物である場合は、建物の設置に瑕疵があると認められる可能性は高くなるだろう。 ② 保存の瑕疵と耐震基準の関係 それでは、旧耐震基準を満たした建物に設置の瑕疵がないとしても、その後に生じた地震で倒壊した場合、保存の瑕疵の有無をどのように考えるべきか。 この点、構造基準等の法規制がなかった当時に設置されたブロック塀が宮城県沖地震によって倒壊し、通行人が死亡した事故に関して、裁判所は、ブロック塀の保存の瑕疵の有無について、次のように判示している(仙台地判昭和56年5月8日判時1007号30頁参照(注:原文ママ・下線は筆者))。 上記の仙台地裁の判断枠組みには異論もあるが、ブロック塀は、設置された当時の旧耐震基準に適合しており、その後に耐震基準が変更されても、そのことのみでは違法とはならないのであるから、原則として、保存の瑕疵がないとする判断は妥当であろう。 問題は、仙台地裁の判示する「特別事情」がどのような場合に認められるかである。 この点については明らかではないが、例えば、行政や周辺住民などから老朽化による倒壊の危険性が指摘されており、これを所有者が認識していたような場合、事実関係によっては、保存の瑕疵が認められるものと考えられる。 (3) 占有者の第一次的責任の可能性 上記(1)で指摘したとおり、民法第717条の工作物責任を第一次的に負うのは、「占有者」である。本件では、相談者が父親から空き家の管理を依頼されていることから、「占有者」と認められる余地があるかも若干検討しておきたい。 民法第717条第1項が占有者に第一次的責任を負わせているのは、占有者が工作物から生じる損害の発生を防げる立場にあるからである。一方で、同項ただし書は、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは免責している。 このような条文の規定からすると、「占有者」と認められるためには、具体的な場合において、当該工作物の設置又は保存の瑕疵から生じる損害の発生を防止することが社会的に期待できるだけの地位にあることが必要というべきであろう。 本件においては、相談者は、父親からの依頼によって、空き家の換気や整理をしているに留まり、建物の老朽化による修繕を行うことまでは任されていない。そうすると、相談者が「占有者」と認められる可能性は低いと考えられる。逆に言うと、本件においては、所有者である父親が、民法717条の責任主体となる可能性があるということである。 (4) 不可抗力が損害額に及ぼす影響 それでは、占有者又は所有者が工作物責任を負う場合、工作物の瑕疵によって生じた全損害を賠償する義務を負うことになるのだろうか。 この問題に関して、損害賠償制度の趣旨は、損害の公平な分担にあるところ、建物の設置の瑕疵と想定外の自然力とが競合して損害発生の原因となっている場合には、自然力の損害発生への寄与度を考慮して、損害額が限定されることになると考えられる。現に、上記の神戸地裁は、同様の理論によって、建物所有者の損害賠償の範囲を建物賃借人の全損害の50%としている。 (了)

#No. 271(掲載号)
#羽柴 研吾
2018/06/07

AIで士業は変わるか? 【第17回】「AIの実用化で公認会計士の財務諸表監査は消滅するのか」

AIで 士業は変わるか? 【第17回】 「AIの実用化で公認会計士の財務諸表監査は消滅するのか」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに AIの開発には目覚ましいものがあり、近い将来、公認会計士による財務諸表監査にも大きな影響を及ぼすことが予想される。 果たしてAIが「不正会計」の発見に有用なものか、あるいは効率的・効果的に財務諸表監査を実施するに際しての救世主となるのか、今のところ予断を許さない。公認会計士も、M&Aなどを含む会計に関連する幅広い業務を行っていることから、AIの活用場面は何も財務諸表監査に限られるものではない。 本稿では、財務諸表監査が公認会計士に独占的に認められている基本的な業務であることに着目し、AIの実用化により(財務諸表監査を担う)公認会計士という職業が消滅するのではないかとする世間に流布する見解について、思いつくままに述べてみたい。   Ⅱ 財務諸表監査とAI 1 AIを用いた内部統制の構築 公認会計士の行う財務諸表監査は、会社が適切な内部統制を構築していることを前提として成り立っている。会社が構築する内部統制にAIを組み込むことにより、不正な報告あるいは資産の流用の隠蔽などに関する危険に対処することができ、また、領収書や請求書などの取引の証憑から、直接、コンピュータシステムによる画像処理によって会計上の仕訳を行うようにすれば、人間の手入力による入力ミスなどは起こらないようにできるであろうし、さらに会計上の仕訳入力の前段階で、AIによって、取引の異常性をチェックできるようにすれば、不正な取引を早期に発見することも可能であろう。 このように、会社側がAIを組み込んだ内部統制によってすべての取引に対してチェックできる体制を構築するとなれば、公認会計士の財務諸表監査におけるサンプリングは、ほとんど意味のないものとなるであろう。 こうした状況を迎えた場合、会社としては、AIを用いた内部統制の構築を実行できる人材を求めることになるであろう。その際、その人が公認会計士である必要はない。必要となるのは資格ではなく、能力である。 2 財務諸表の作成責任と監査 適切な財務諸表を作成する責任は、会社の経営者にある。公認会計士の行う財務諸表監査の目的は、経営者の作成した当該財務諸表に対して監査人が意見を表明することにあり、財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する監査人の責任とは区別される。これを二重責任の原則という(「監査基準の改訂について」(平成14年1月25日、企業会計審議会)三、1(1))。 AIが実用化され、会社において、財務諸表作成に関連する適切な会計基準等の調査・検討を十分に行える情報をもてば、公認会計士のそれと比較して遜色のないものとなるであろう。また、会社側でAIを活用し、事例検索を行えばよいので、あえて公認会計士に意見を求める必要もない。 では、会社が公認会計士に期待するものは何か。それは会計基準等に関する深い洞察や、会計学の観点からの「会計専門家」としての見解となろう。となれば、AIは、そのような「会計専門家」にとって有力なツールとなり、それを活用して的確なアドバイスを会社に行える公認会計士が生き残るのかもしれない。 ところで、過去を振り返ってみると、「監査基準の設定について」(昭和31年12月25日、大蔵省企業会計審議会中間報告)では、監査は、相当の専門的能力と実務上の経験とを備えた監査人にして初めて有効適切に行いうること、また、高度の人格を有し、公正なる判断を下しうる立場にある監査人にして初めて、依頼人は信頼してこれを委任することができると述べられている。 未来を語る前に、自身がこのような監査人であるかどうかを改めて問うてみてはどうか。   Ⅲ 財務諸表監査を担う公認会計士は残るだろう 前述のように、会社において、AIを活用した内部統制を構築し、また、財務諸表作成に関連する適切な会計基準等の情報をもつようになれば、財務諸表監査を行う公認会計士の役割は縮小し、巷間言われるように、公認会計士という職業が消滅することになるのだろうか。 結論からいうと、筆者は、AIが実用化されても公認会計士による財務諸表監査は残ると考えている。ただし、それは財務諸表監査が失敗したときに、責任を取るべき存在としてである。 確かに、財務諸表の作成責任は会社の経営者にあるし、不正な報告はあってはならないものであるが、それでも虚偽記載のある財務諸表が全くなくなるとは思えないし、また、会社が適切な会計基準等の適用を誤ってしまうことも考えられる。 誤った財務諸表が作成され公表されてしまったときに、誰かが責任を負わなければならない。責任を負うのは、AIを含む機械ではなく、人間である。 誤った財務諸表の作成・公表に関する責任は、第一義的には会社の経営者であるが、財務諸表監査を実施した公認会計士も、財務諸表の適正表示に関する意見表明に対する責任を負うのである。 AIがどれほど有用なツールであったとしても、財務諸表の適正表示に関して最終的に判断するのは人間であることに変わりない。そして、財務諸表監査においては公認会計士に責任が帰着する。 このように、公認会計士は、財務諸表監査に関する責任を取るために存在しなければならない以上、消滅しないということになる。 (了)

#No. 271(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第9話】「年金受給権と一時所得」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第9話】 「年金受給権と一時所得」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・死亡した人の公的年金で、その人の死亡後に支給期の到来するものは、当然、その死亡した人の所得だと思っていたのですけど・・・」 浅田調査官は、中尾統括官に尋ねる。 所得税の調査報告書を読んでいた中尾統括官は、顔を上げる。 「・・・公的年金?」 浅田調査官は頷く。 「ええ、死亡後に受け取った公的年金などは・・・死亡した人の所得ではなく、支給を受けた遺族の一時所得であると・・・」 浅田調査官は、不満そうに、所得税基本通達34-2を開く。 「この9-17というのは・・・何だったかな?」 中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「これは、相続税の課税と所得税の課税の調整を図るために・・・死亡した人の給与や退職金について、その人の死亡後に支給期の到来するもののうち、相続税が課されるものについては、死亡した人の所得として課税しない・・・という内容です。」 浅田調査官は、再び通達をめくり、所得税基本通達9-17を確認する。 浅田調査官は、中尾統括官の机上にある罫紙に図を描く。 「したがって、その死亡後に支給期限が到来するもののうち、相続税で課税されるものは、所得税を課税しない・・・ということなんですね。」 浅田調査官は、図を見ながら言う。 「そうだな。死亡した人の給与等、公的年金等又は退職手当等で、その死亡後に支給期の到来するものについては、死亡した人に所得税を課さないことを明らかにしているのだろう。」 中尾統括官は付け加える。 「しかし・・・これって亡くなった人の所得だと思うのですが・・・」 浅田調査官は頸を傾げる。 「それに関しては、いろいろと議論はあるが・・・相続税の課税と所得税の課税の調整を図るために、便宜的に、このような取扱いをしていると考えればいいのではないかな。」 中尾統括官は、淡々と言う。 「・・・所得税基本通達34-2は、亡くなった人に課税せず、相続税の課税価格の計算の基礎にも算入されなかったものについては、その支払を受ける遺族の一時所得として課税することを明らかにしている・・・これは、課税漏れを防ぐ意味もあると思いますが・・・」 浅田調査官は通達集を見ながら思案している。 中尾統括官は、机の上に置かれているパソコンを開く。 「国税庁のホームページには、次のようなタックスアンサーがあるよ。」 そう言いながら、中尾統括官は、「No.4123 相続税等の課税対象になる年金受給権」を浅田調査官に見せながら、次の図を描く。 「例えば、被相続人の死亡後3年経過後に確定した退職手当等のように、被相続人の所得に該当せず、相続税の対象にもならないもの(相法3①二)については、その相続人等の一時所得として取り扱うことをこの通達で明示しているんだ。」 中尾統括官はそう言いながら、大きく頷く。 (つづく)

#No. 271(掲載号)
#八ッ尾 順一
2018/06/07

《速報解説》 生産性向上特別措置法、施行日は平成30年6月6日に~中小企業向け固定資産税の減免措置、コネクテッド・インダストリーズ税制がスタート~

《速報解説》 生産性向上特別措置法、施行日は平成30年6月6日に ~中小企業向け固定資産税の減免措置、コネクテッド・インダストリーズ税制がスタート~   Profession Journal編集部   平成30年度税制改正で創設された設備投資減税に係る施策のうち、①中小企業が一定の設備投資を行った際に固定資産税が3年間減免(課税標準⇒0~1/2)される特例措置(地法附15条47項)、及び、②IoT等の革新的情報産業活用設備を取得等した場合の特別償却又は税額控除(措法42条の12の6)、いわゆるコネクテッド・インダストリーズ税制の適用に必要な認定制度等を定めた「生産性向上特別措置法」は今国会で成立し5月23日に公布されていたが、このほど施行期日を定める政令の公布(平成30年6月5日官報第7277号)により、施行期日が平成30年6月6日で確定、同日より両制度の適用が開始されることとなった。 平成30年6月5日付の官報では、次の関連する法令告示もあわせて公布されている。 コネクテッド・インダストリーズ税制に係る租税特別措置法の省令ついては、3月31日公布の所得税法等の一部を改正する法律では規定されていなかったが、6月6日付けの官報第7278号で租税特別措置法施行規則の一部を改正する省令が公布され、これらの規定が整備されている。 なお①固定資産税の減免措置については、6月14日公開の本誌No.272より連載がスタートする(②については8月下旬より連載開始予定)。 また、生産性向上特別措置法と同日に公布された産業競争力強化法等の一部を改正する法律については、現在、関連する法令告示がパブリックコメントに付されており(意見・情報受付締切日は2018年6月26日)、7月上旬の施行が予定されている。 【①の参考図】 (※) 経済産業省ホームページより 【②の参考図】 (※) 経済産業省ホームページより   (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 270(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/06/06

《速報解説》 国税庁、「収益認識に関する会計基準」に対応した改正法人税基本通達等を公表~中小企業は従前の取扱いによることも可能とする等の整備方針を示す~

《速報解説》 国税庁、「収益認識に関する会計基準」に対応した 改正法人税基本通達等を公表 ~中小企業は従前の取扱いによることも可能とする等の整備方針を示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年5月30日、国税庁は、「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)を公表した。 これは、平成30年度の法人税関係法令等の改正のうち「収益認識に関する会計基準」の導入に伴う改正に対応し、所要の整備を図ったものである。 改正通達の公表に際して、特設ページ「「収益認識に関する会計基準」への対応について」が公表され、主な改正項目に関する詳細な説明や、「収益認識に関する会計基準」に沿って会計処理を行った場合に会計・法人税・消費税のいずれかの処理が異なることとなる典型的なケースを示した「収益認識基準による場合の取扱いの例」等を確認することができ、改正法人税基本通達の理解に資するものと思われる。 また、平成30年5月29日には、「消費税法基本通達の一部改正について」(法令解釈通達)も公表されている。これは、消費税関係法令の一部が改正されたことに伴い所要の整備を図るものであり、こちらも「収益認識に関する会計基準」に係る改正が行われている。 本稿は、これらのうち主な事項について解説を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 法人税基本通達等の整備方針 整備方針は次のとおりである(「「収益認識に関する会計基準」への対応について」16ページ)。 ① 「収益認識に関する会計基準」は収益の認識に関する包括的な会計基準である。 ② 履行義務の充足により収益を認識するという考え方は、法人税法上の実現主義又は権利確定主義の考え方と齟齬をきたすものではないことから、改正法人税基本通達には、原則として「収益認識に関する会計基準」の考え方を取り込んでいく。 ③ 一方で、「収益認識に関する会計基準」について、過度に保守的な取扱いや、恣意的な見積りが行われる場合には、公平な所得計算の観点から問題があるため、税独自の取扱いを定める。 ④ 中小企業については、引き続き従前の「企業会計原則」等に則った会計処理も認められることから、従前の取扱いによることも可能とする。   Ⅲ 法人税基本通達等の主な改正内容 1 概要 次のものが改正されている。 「I 法人税基本通達関係」に関する項目は次のとおりである(上記のⅡからⅣまでは割愛する)。 2 収益の計上の単位の通則(法人税基本通達2-1-1) 資産の販売等に係る収益の額は、原則として個々の契約ごとに計上する。 ただし、次に掲げる場合には、それぞれに定めるところにより区分した単位ごとにその収益の額を計上することができる。 3 資産の販売等に伴い保証を行った場合の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の3) 資産の販売等に伴いその販売もしくは譲渡する資産又は提供する役務に対する保証を行った場合において、当該保証がその資産又は役務が合意された仕様に従っているという保証のみであるときは、当該保証は当該資産の販売等とは別の取引の単位として収益の額を計上することにはならない。 4 ポイント等を付与した場合の収益の計上の単位(法人税基本通達2-1-1の7) 資産の販売等に伴い、自己発行ポイント等を相手方に付与する場合において、一定の要件のすべてに該当するときは、継続適用を条件として、当該自己発行ポイント等について当初の資産の販売等とは別に、将来の取引に係る収入の一部又は全部の前受けとすることができる。 5 資産の販売等に係る収益の額に含めないことができる利息相当部分(法人税基本通達2-1-1の8) 資産の販売等を行った場合において、次に掲げる額及び事実並びにその他のこれらに関連するすべての事実及び状況を総合的に勘案して、当該資産の販売等に係る契約に金銭の貸付けに準じた取引が含まれていると認められるときは、継続適用を条件として、当該取引に係る利息相当額を当該資産の販売等に係る収益の額に含めないことができる。 6 資産の引渡しの時の価額等の通則(法人税基本通達2-1-1の10) 販売もしくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とは、原則として資産の販売等につき第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額をいう。 なお、資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度終了の日までにその対価の額が合意されていない場合は、同日の現況により引渡し時の価額等を適正に見積もるものとする。 7 変動対価(法人税基本通達2-1-1の11) 資産の販売等に係る契約の対価について、値引き等の事実により変動する可能性がある部分の金額(変動対価)がある場合において、一定の要件のすべてを満たすときは、変動対価について引渡し等事業年度の確定した決算において収益の額を減額し、又は増額して経理した金額(引渡し等事業年度の確定申告書に当該収益の額に係る益金算入を減額し、又は増額させる金額の申告の記載がある場合の当該金額を含む)は、引渡し等事業年度の引渡し時の価額等の算定に反映するものとする。 8 相手方に支払われる対価(法人税基本通達2-1-1の16) 資産の販売等に係る契約において、いわゆるキャッシュバックのように相手方に対価が支払われることが条件となっている場合(損金不算入費用等に該当しない場合に限る)には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日の属する事業年度において、その対価の額に相当する金額を当該事業年度の収益の額から減額する。 9 検針日による収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-4) ガス、水道、電気等の販売をする場合において、週、旬、月を単位とする規則的な検針に基づき料金の算定が行われ、法人が継続してその検針が行われた日において収益計上を行っているときは、当該検針が行われた日は、その引渡しの日に近接するものとする。 10 役務の提供に係る収益の帰属の時期の原則(法人税基本通達2-1-21の2、2-1-21の3) 役務の提供に係る収益の額は、その役務の提供が、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに該当する場合には、役務の提供の期間において履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度の益金の額に算入し、履行義務が一時点で充足されるものに該当する場合には、引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入する。 11 履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係る収益の額の算定の通則(法人税基本通達2-1-21の5) 履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに係るその履行に着手した日の属する事業年度から引渡し等の日の属する事業年度の前事業年度までの各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する収益の額は、提供した役務につき通常得べき対価の額に相当する金額に当該各事業年度終了の時における履行義務の充足に係る進捗度を乗じて計算した金額から、当該各事業年度前の各事業年度の収益の額とされた金額を控除した金額とする。 12 請負に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-21の7) 請負による収益の額は、原則として引渡し等の日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ただし、当該請負が、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものに該当する場合において、その履行義務が充足されていくそれぞれの日の属する事業年度において進捗度に応じて算定される額を益金の額に算入しているときは、これを認める。 13 知的財産のライセンスの供与に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-30) 知的財産のライセンスの供与に係る収益の額については、次に掲げる知的財産のライセンスの性質に応じ、それぞれ次に定める取引に該当するものとする。 14 知的財産のライセンスの供与に係る売上高等に基づく使用料に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-30の4) 知的財産のライセンスの供与に対して受け取る売上高又は使用量に基づく使用料が知的財産のライセンスのみに関連している場合又は当該使用料において知的財産のライセンスが主な項目である場合には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日の属する事業年度において当該使用料についての収益の額を益金の額に算入する。 15 工業所有権等の使用料の帰属の時期(法人税基本通達2-1-30の5) 法人税基本通達2-1-21の2及び2-1-21の3並びに2-1-30の4にかかわらず、工業所有権等又はノウハウを他の者に使用させたことにより支払を受ける使用料の額について、法人が継続して契約によりその使用料の額の支払を受けることとなっている日において収益計上を行っている場合には、当該支払を受けることとなっている日は、その役務の提供の日に近接する日に該当するものとする。 16 商品引換券等の発行に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-39) 商品引換券等を発行するとともにその対価の支払を受ける場合における当該対価の額は、原則としてその商品の引渡し等に応じてその商品の引渡し等のあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ただし、その商品引換券等の発行の日から10年が経過した日(同日前に一定の事実が生じた場合には、当該事実が生じた日。「10年経過日等」という)の属する事業年度終了の時において商品の引渡し等を完了していない商品引換券等がある場合には、当該商品引換券等に係る対価の額を当該事業年度の益金の額に算入する。 17 非行使部分に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-39の2) 商品引換券等を発行するとともにその対価の支払を受ける場合において、その商品引換券等に係る権利のうち相手方が行使しないと見込まれる部分の金額(非行使部分)があるときは、その商品引換券等の発行の日から10年経過日等の属する事業年度までの各事業年度においては、当該非行使部分に係る対価の額に権利行使割合を乗じて得た金額から既に益金の額に算入された金額を控除する方法その他のこれに準じた合理的な方法に基づき計算された金額を益金の額に算入することができる。 18 返金不要の支払の帰属の時期(法人税基本通達2-1-40の2) 資産の販売等に係る取引を開始するに際して、相手方から中途解約のいかんにかかわらず取引の開始当初から返金が不要な支払を受ける場合には、原則としてその取引の開始の日の属する事業年度の益金の額に算入する。 ただし、当該返金が不要な支払が、契約の特定期間における役務の提供ごとに、それと具体的な対応関係をもって発生する対価の前受けと認められる場合において、その支払を当該役務の提供の対価として、継続して当該特定期間の経過に応じてその収益の額を益金の額に算入しているときは、これを認める。 19 本人と代理人の区分 法人税は、利益に対して課する税金であるため、総額表示か純額表示かによって、課税所得が変わることは基本的にはない。 このため、販売するのが本人であっても代理人であっても、履行義務の充足のタイミングについては変わらないと考えられるため、法人税基本通達では対応しない。   Ⅳ 消費税法基本通達の主な改正内容 第9章 資産の譲渡等の時期の「第3節 長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例」が第9章 資産の譲渡等の時期の「第3節 リ-ス譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例」へ改正されるなど、「長期割賦販売等」から「リ-ス譲渡」へ改正されている(消費税法基本通達9-3-1、9-3-4など)。 また、「法人が行う長期割賦販売等の範囲」、「長期割賦販売等の要件」が削除されている(消費税法基本通達9-3-2、9-3-3)。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 270(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/05

《速報解説》 改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される~パブコメを受けESG要素への言及も~

《速報解説》 改訂コーポレートガバナンス・コードが公表される ~パブコメを受けESG要素への言及も~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成30年6月1日、株式会社東京証券取引所は、改訂コーポレートガバナンス・コードを公表し、また、金融庁は、「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表した。 これにより、平成30年3月26日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、平成30年3月の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」の提言を受けたものである。 「「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について」(以下「コメントに対する考え方」という)と「投資家と企業の対話ガイドライン案に対するご意見の概要及びそれに対する回答」も公表されているので、コーポレートガバナンス・コード及び「投資家と企業の対話ガイドライン」の理解に資するものと思われる。 パブリック・コメントにおいて、「ESGに関する対話が進む中、企業のESG要素に関する『情報開示』についてコードに盛り込むべき」との意見が複数寄せられたことを受け、本年3月30日公表の制度要綱で示したコード改訂案に加えて、コードの第3章「考え方」において、「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化している(「コメントに対する考え方」(番号295~303))。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ コーポレートガバナンス・コードの改訂 主に次の事項が改訂されている。 「コメントに対する考え方」(番号35、36、214、215)では、「資本コスト」は、一般的には、自社の事業リスクなどを適切に反映した資金調達に伴うコストであり、資金の提供者が期待する収益率と考えられ、適用の場面に応じて株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることが多いものと考えられると記載されている。 また、原則5-2において、資本コストの数値自体の開示は求められていないが、「投資家と企業の対話ガイドライン」1-2において「目標を設定した理由が分かりやすく説明されているか」との点が示されていることも踏まえ、同原則が求める「収益力・資本効率等に関する目標を提示」する中で、投資家に対して、自社の資本コストについての考え方や経営における活用状況などを分かりやすく説明することが求められるものと考えると記載されている。   Ⅲ 投資家と企業の対話ガイドライン 「投資家と企業の対話ガイドライン」は、スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードが求める持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に向けた機関投資家と企業の対話において、重点的に議論することが期待される事項を取りまとめたものであり、両コードの附属文書として位置付けられるものである。 次の5つの事項が述べられている。   Ⅳ 適用時期等 コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、本年6月1日から施行する。 上場会社は、改訂後のコードの内容を踏まえたコーポレート・ガバナンスに関する報告書を、準備ができ次第速やかに、遅くとも本年12月末日までに提出するものとする。 「コメントに対する考え方」(番号20)では、改訂されたコーポレートガバナンス・コードの原則について、実施する意思があっても、本年12月末日までに実施することが難しい場合にあっては、「コードの各原則を実施しない理由」の説明において、今後の取組み予定や実施時期の目途を記載することが考えられると記載されている。 また、「コメントに対する考え方」(番号24)では、利用者への配慮の観点から、コーポレート・ガバナンスに関する報告書更新の際には、新旧いずれのコードに基づく記載であるかを明記する等の対応が上場会社においてなされることが期待されると記載されている。 (了)

#No. 270(掲載号)
#阿部 光成
2018/06/05

プロフェッションジャーナル No.270が公開されました!~今週のお薦め記事~

2018年5月31日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.270を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2018/05/31
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