理由付記の不備をめぐる事例研究 【第48回】 「交際費等(会議費)」 ~会議費として計上している支出が交際費等に該当すると判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、テレビ・ラジオ番組等の企画・制作等を行う青色申告法人X社に対して、「会議費として計上している支出は交際費等に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成16年5月14日判決(税資254号順号9648。以下「本判決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した(なお、筆者において法令の表記を現行のものに修正している)。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 関係法令の確認 本件更正処分は、会議費として計上している支出が租税特別措置法61条の4の交際費等に該当するものとして、損金算入を否認するものである。 一般に、次の3つの要件全てを満たす支出は交際費等に該当すると解されている(東京高裁平成15年9月9日判決・判時1834号28頁等参照)。 ただし、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」など一部の費用については交際費等から除かれている(措法61条の4④一~三、措令37の5)。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、会議費に係るX社の帳簿書類の記載内容(計上年月日、支払先、内容及び支払金額)を前提として、X社が、会議費として計上している各支出が措置法61条の4の交際費等に該当するというものである。よって、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記は、X社が会議費として計上した費用について、「下記の支払先、支払金額及びその内容からみて、当該各費用は、いずれも取引先等に対する接待等のために支出した費用であり、租税特別措置法第61条の4《交際費等の損金不算入》に規定する交際費等に該当します」と記載している。これによれば、課税庁は、当該各費用の支払先、支払金額及びその支払内容を総合的に考慮した結果、いずれも取引先等に対する接待等のために支出した費用と判断したことがわかる。 また、本件理由付記の「支払先」欄には、スナック、居酒屋、鮨店のほかジャズレストラン、割烹料亭、しゃぶしゃぶ店、串焼店、天ぷら店、ステーキ店、鉄板焼店、ふぐ専門店などの記載がある。「支払金額」欄には1件1万円以上、参加者1人当たりにしても、3千円から5、6千円程度又はそれ以上にも達する金額の記載がある。「支払内容」欄には、名目ないし番組名、参加者名又は人数等の記載がある。これによって、課税庁が、接待等のために支出した費用であると判断をするに当たって、具体的に考慮した事実が判明する。 これらの点からすれば、本件理由付記は、その記載内容から処分の根拠となる法令及び具体的な事実を理解することができるものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるといえる。したがって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 (4) 更なる議論 ~否認の対象としなかった理由等が記載されていないことが理由付記の十分性に及ぼす影響~ 本件訴訟において、X社は、総勘定元帳の〇年〇月〇日の摘要欄に「E.プロモデラー番組打合せ 甲」と記載し、会議費として2万4,458円(税抜)を計上しているが、本件理由付記では、交際費とされる金額は1万4,857円となっており、なぜ、会議費として計上された上記2万4,458円のうち1万4,857円が交際費となるのかについて、その根拠及び判断基準が不明であると主張した。 これに対して、課税庁は、X社が会議費として計上した2万4,458円は、3件の支払先に対する支払が合計されて記載されていたものであり、そのうちB店への支出1万4,857円につき、金額が1万円以上であり、昼食程度を超えない飲食物等の接待に要する費用とは認められず、かつ、同店は通常会議を行う場所とは認められなかったため、更正の対象としたものであると反論した。 本判決は次のとおり判示して、X社の上記主張を斥けた。 判決は、課税庁が同日付けの同じ名目で会議費として計上されている金額のうち1万4,857円以外の費用を交際費等に算入しなかったことの理由ないし判断基準が記載されていないとしても、理由付記制度の趣旨に照らして、理由付記に不備はないという上記評価を覆すことはしなかった。 もっとも、否認の対象とした理由(処分に係る法律上及び事実上の根拠の記載)の記載の程度と、否認の対象としなかった理由ないし判断基準の記載の欠如とが相まって、理由付記制度の趣旨に照らして理由付記に不備があるという判断につながるケースもあり得よう。 * * * 次回は、「電力会社から過大に徴収された電気料金等の返戻額の収益の計上が漏れていること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性の事例を取り上げる。 (了)
税効果会計における 「繰延税金資産の回収可能性」の 基礎解説 【第4回】 「会社分類とは(後編)」 -分類4・5- 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 1 はじめに 前回は、「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)において、過去の納税状況や将来の業績予測等をもとに会社が5つに分類され、分類1~3について、それぞれ繰延税金資産の回収可能性をどのように判断するよう規定されているのかを説明した。 今回は、残りの分類4~5の会社の繰延税金資産の回収可能性の判断指針を説明する。 2 会社の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い(分類4~5) (1) 分類4 次のの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる会社は、分類4に該当する。 分類4に該当する会社は、繰延税金資産の回収可能性を次のように判断する。 このような会社は、通常、将来において一時差異等加減算前課税所得を安定的に獲得するだけの収益力があるとはいえないが、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じるのであれば、その部分については繰延税金資産の回収可能性が認められるといえるため、翌期に限り繰延税金資産の計上が認められる。 【図1】 分類4に該当する会社のイメージ なお、形式的には分類4に該当するものの、その原因が臨時的なものである等、重要な税務上の欠損金が生じた原因や中長期計画等を勘案すると、繰延税金資産に回収可能性が見込まれるケースも想定される。 このような場合には、以下を行うことで、分類4ではなく分類2又は分類3に該当するものとして取り扱い、繰延税金資産を計上することが可能となる。 【図2】 分類4に該当する会社が、分類2又は分類3として取り扱われるケース (2) 分類5 次の要件を満たす会社は、分類5に該当する。 分類5に該当する会社は、繰延税金資産の回収可能性を次のように判断する。 このような会社は、通常、将来において一時差異等加減算前課税所得が発生する可能性が低く、将来減算一時差異等に将来の税額負担を軽減する効果がないと想定されるため、繰延税金資産は原則として回収可能性がないとされている。 【図3】 分類5に該当する会社のイメージ 3 分類1~5のいずれにも当てはまらない場合 前回からここまで説明してきた5つの分類ごとの要件は、想定されるすべてのケースを網羅したものではないため、もしかしたら、どの分類にも当てはまらないケースもあるだろう。 その場合は、以下の項目等を加味して総合的に最も要件の近い分類とする。 4 分類1~5の概要と回収可能性の判断指針のまとめ 今回と前回で、会社分類ごとの繰延税金資産の回収可能性の判断指針について説明した。 次回以降は、タックス・プランニングの実現可能性について、分類1~5の会社でどのような取扱いとなるかを説明する。 (了)
M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編- 【第2回】 「純有利子負債の分析(その2)」 公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴 ←(前回) | (次回)→ ▷有利子負債の調査 〔主な有利子負債〕 相手先別借入残高の推移を把握し、既存の借入れについては約定どおりの返済が行われているか、新規借入れについては、借入目的、資金使途及び諸条件を把握するとともに、ネットD/Eレシオ、有利子負債EBITDA倍率などを同業他社と比較のうえ分析をする。基準日における相手先別借入金残高を把握し、金銭消費貸借契約書又は金融機関発行の残高証明書などの提供を依頼し、借入条件、金利、担保や保証の有無、その他特別条項・制限条項などを把握する。 特に財務制限条項などの期限前返済の可否、COC条項(Change of Control:チェンジオブコントロール条項)を確認しておく必要がある。まず、財務制限条項については、買収後の経営戦略の制約になる可能性があるため、対象会社の遵守状況を確認するとともに、今後の計画への影響を検討する必要がある。 次に、COC条項とは、金融機関からの借入に限らず取引先などとの契約において、対象会社の株主や代表者といった支配権(Control)が変更(Change)したときに、その契約に解除事由が発生したり、事前又は事後に契約の相手方に対して、通知又は届出を行わなければならないとする条項である。 重要な契約書にCOC条項が存在した場合は、契約の相手方の状況をよく分析し、コンタクトをすべきか検討し、例えば、クロージング日までに、その取引先からM&A後も従前と同じ条件で、継続して取引を行う旨の確約書を入手することを条件にM&Aを実行することもある。 〔COC条項が付されている例〕 なお、主要な契約における財務制限条項やCOC条項の存否・内容は法務デューデリジェンスの調査項目でもあるため、両チームが協力して調査を実施することが望ましい。 【粉飾事例2-1】 笹塚興業は、Z社より新規投資を受けるために、一部の既存の借入金を決算報告書に載せず除外することで、簿外処理して自己資本を多く見せ、Z社へ提出した。Z社は、詳細なデューデリジェンスを実施することなく、新規投資を実行してしまったため、粉飾決算を見抜くことができなかった。 また、中小企業の場合の多くは、関係会社や役員などの関連当事者からの借入金が存在する可能性が多いが、その内容を把握し、その条件を他の借入金と比較するとともに、その取扱いを検討する必要がある。また、取扱いにつき、売り手と交渉が必要な場合がある。 役員からの借入金については、必ずしも借入金勘定に計上されているとは限らず、仮受金等の仮勘定や、未払金・買掛金などの営業債務科目に含まれている場合、簿外処理されている場合もあるため、注意を要する。 借入金に対する担保提供資産が存在する場合、買収後当該資産の処分には制約があるため事前に把握しておく必要がある。 なお、担保として提供されている資産であっても、担保の極度額を上回るような重要な含み益がある場合、こうした余剰部分を顕在化させるために買収後に売却する、という選択肢についても、買収後における金融機関との取引維持の要否も含め、現実的な選択肢であるか否か検討する必要があろう。また、保証については、買収後保証料の金額が変更される可能性も検討しておく必要がある。 ▷現金及び現金同等物の調査 銀行口座一覧表を閲覧し、各口座の使途や口座開設の経緯を把握する。基準日における残高については、実際に預金通帳又は金融機関発行の残高証明書、また実際に金庫の中身を閲覧しておくことをお薦めする。 特に不要な口座の有無を把握し買収後の取扱いを検討するとともに、他人名義の預金口座が存在する場合は、その口座が対象会社に所有権があるかを質問しておく必要がある。また、担保提供、使途制限、引出制限など(拘束性預金)のある預金の有無を把握する。 手許現金や小切手が存在する場合は、横領・着服リスクを鑑みながら管理方法を把握するとともに、残高の実在性を検証する必要がある。また、期末日前後において、関係会社や役員などの関連当事者との出納関連取引に異常はないかも念のため検討しておく必要がある。 キャッシュフロー分析や運転資本分析との関連で、必要最低現預金残高や純有利子負債の季節性を把握し、資金繰りの逼迫状況を分析する。 【粉飾事例2-2】 飯田橋運輸の借入金には、下記のような財務制限条項が付されていた。 ・経常利益が2期連続して赤字にならないこと ・純資産が前期比75%を下回らないこと 飯田橋運輸では、当該財務制限条項への抵触を避ける等の目的で、創業者である元代表取締役及び多くの役職員の関与により、架空売上高を計上し、自社から支出した資金を用いて相手先からの入金があったかのように偽装等をして、粉飾決算を実行していた。 ▷主な手続(まとめ) (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例25】 ナビタス株式会社 「監査役会設置会社への移行および監査役会設置会社移行後の役員人事に関するお知らせ」 (2018.2.8) 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる適時開示は、ナビタス株式会社(以下「ナビタス」という)が平成30年2月8日に開示した「監査役会設置会社への移行および監査役会設置会社移行後の役員人事に関するお知らせ」である。 監査等委員会設置会社への移行に関する開示はよく見かけるが、監査役会設置会社への移行に関する開示は珍しい。実は同社は以前、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行しているのだが、今回再び監査役会設置会社へ戻るというのである。 2 監査等委員会設置会社へ移行した理由 ナビタスは、平成28年5月13日、「監査等委員会設置会社への移行および定款一部変更に関するお知らせ」を開示し、同年6月29日に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行している。その「監査等委員会設置会社へ移行する目的」には、次のように記載されている。 他の監査等委員会設置会社への移行に関する開示における目的の記載と同様、簡潔で抽象的である。おそらく本当ではないのだろう。 本連載【事例15】で取り上げた、株式会社フュートレック「監査等委員会設置会社への移行中止に関するお知らせ」では、監査等委員会設置会社への移行の本当の理由は、コーポレートガバナンス・コードの「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」を踏まえたものだろうと述べた。しかし、ナビタスの場合は異なる。同社はJASDAQ上場会社であるため、その原則の適用対象とはならないのである(注)。 (注) 本則市場の上場会社は、コーポレートガバナンス・コードの基本原則・原則・補充原則の全てについて、実施しない場合の理由の説明が求められるが、マザーズとJASDAQの上場会社は、基本原則についてのみ、実施しない場合の理由の説明が求められる(東京証券取引所・有価証券上場規程第436条の3)。 おそらく同社の目的は、平成27年5月1日に施行された改正会社法における次の規定を踏まえたものだと思われる。会社法において、上場会社(正確には公開大会社で有価証券報告書提出会社だが)は、社外取締役を1人も置かない場合、定時株主総会でその理由を説明しなければならないとされたのである。 実際、監査等委員会設置会社への移行に伴い監査等委員である社外取締役に就任したのは、社外監査役だった方である。 3 監査役会設置会社へ戻る理由 それでは、なぜ再び監査役会設置会社へ戻るのだろうか。今回の平成30年2月8日の開示における「移行の理由」では、次のように記載されている。 日本語としておかしな点が見受けられるが、それはさておき、この理由も、監査等委員会設置会社への移行の理由と同様にわかりにくい。簡潔で抽象的だからということもあるが、そもそも統治形態の変更が「経営の透明性」や「事業内容の多様化」とどう関係するのか、理解しにくい。おそらくこの理由も本当ではないのだろう。 4 本当の理由は謎だが 「監査等委員会設置会社へ移行してみたけれど、勝手がわからない。やはり昔から馴染んできた監査役会設置会社の方がやりやすい」と思ったのだろうか。もしもそうだとしたら、そのように正直に記載した方が、投資家にとってはわかりやすいし、それはそれで前向きな理由だと思われる。 なお、当初、監査役会設置会社移行後に社外監査役に就任するのは、監査等委員である社外取締役の方とされていた(監査等委員会設置会社へ移行する前、もともと社外監査役だった方)。 しかし、ナビタスは、平成30年4月13日、「社外監査役候補者の選任に関するお知らせ」を開示し、異なる方が社外監査役に就任するとした。監査等委員である社外取締役の方は、同社の節操の無さに愛想を尽かしてしまったのだろうか。 (了)
AIで 士業は変わるか? 【第15回】 「テクノロジーが税務サービス業界与えるインパクト」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 公認会計士・税理士 高木 宏 AIを含むテクノロジーは、既存の業界地図をあっさり塗り替えてしまうほどの力があります。“アマゾンエフェクト”はその端的な例ですが、たとえば自動車産業において、5年後または10年後は、従来の自動車メーカーではなく、電気自動車メーカーのテスラや自動運転の実験を繰り返しているグーグルやアップル、あるいは、今は全くその存在が知られていないベンチャー企業が主要な地位を占めている可能性があります。 税務サービス業界においても、さまざまなテクノロジーが日々開発されており、今後も相当なスピードで進みそうです。 日本には言語の壁があるので、これまでアメリカの企業が行ってきたような、付加価値の低いサービスをインド等の国外にアウトソースしてしまうオフショアリングはあまり進んでいませんでした。AIを含むソフトウェア開発についても、まずは英語圏で開発が先行する可能性はありますが、中国で滴滴出行が先に自国マーケットを抑えウーバーを追い出してしまったように、日本で開発されたテクノロジーがデファクトスタンダードになる日が来るかもしれません。あるいはドコモのiモードのように、一世を風靡しても、後から「ガラパゴスだった」と言われてしまうかもしれません。 1年後、2年後、3年後に、どのようなテクノロジーが主流になっているのかを見極めるのは、本当に難しいです。また、テクノロジーも大切ですが、新しいサービスが出てきたときに「自分のビジネスにどのように活用できるか」をいち早く考える俊敏性も、今後さらに重要になると思います。 以下では、現在税務サービス業界で提供されているサービスのうち、どのようなサービスがこれからテクノロジー、AIに置き換わっていく可能性が高く、どのようなサービスが置き換わらずにプロフェッショナルな仕事として残っていくかを考えてみましょう。 税務業界のサービスは多岐にわたりますが、主なものには、 などが挙げられます。1つずつ検討してみましょう。 まず、①の記帳代行サービスは、かなり近い将来、影響を受けることになると思います。銀行の預金通帳、請求書、領収書等は、スキャンすればPCが読み取って仕訳を起こしてくれるようになるでしょうから、今のテクノロジーがさらに進化して廉価になれば、遅かれ早かれこのサービスを手作業でやることはなくなり、仕事のボリューム及び価格は劇的に下がる可能性があります。 ②の現金出納も、現在は請求書を自動的に読み取って支払ってくれるようなことはありませんが、これも遅かれ早かれ自動でできるようになると思います。 ③の申告書作成サービスも、かなりの作業が自動化されるでしょうから、サービスのボリューム、単価が下がると覚悟する必要があります。「紙でプリントアウトしてチェックして」とか「手打ちをして」といった作業は、どこまで自動化できるかを今から検討しておく必要があります。クライアントが自社で行うよりも依頼した方が安い、というくらいの価格競争力をつけておく必要がありそうです。 ④の申告書の作成に付随して発生するサービスは、データベースが充実してくれば、かなりの部分が不要になります。ただし、難しい判断の部分は、税務リスクとベネフィットを勘案する必要がありますので、最後までプロフェッショナルのアドバイスが必要になると思います。 ⑤以降については、テクノロジーへの置き換えがなかなか難しいサービスです。企業再編に絡む税務サービスは、まずクライアントとのディスカッションの中で問題点が浮き彫りになって、分析・検討へと進む場合が多く、高いコミュニケーション能力が求められる分野です。これがAIに置き換わるまでには、ずいぶん時間がかかるように思います。 AIを使った開発にはコストがかかりますから、将棋や囲碁のように決まったルールが何十年も続くのであれば開発コストを吸収できますが、毎年変わる税制と企業のニーズ(これもクライアントの組織の中でもさまざまな部門の方がさまざまな思惑で動かれるので単純ではありません)をすべて考慮に入れるようなソフトウェアを開発することは、コストとベネフィットが釣り合わないように思います。 ⑥は、さらに複数の国における税法と取扱い、次々と変わっていくモノやサービスの提供を考慮に入れなければならないので、AIに置き換えるのはなかなか難しいでしょう。 ⑦の移転価格税制の分野におけるデータ収集の部分では、AIが活用されれば、省力化と正確性の向上が見込まれるように思います。しかし、機能分析や最終的にどのfactorにどの程度の比重を置いて移転価格を決定していくかというような判断の部分をAIに置き換えることは難しいように思います。ただ、各国の税務当局がデータを持ち寄ってデータ集積を図るような動きがあれば、税務プロフェッショナルが提供するサービスの内容も大きく変わるかもしれません。 ⑧の税務デューデリジェンス業務は、これまでプロフェッショナルの経験や勘に頼ってきたところもあり、また、監査業界でテクノロジーの導入が進めば、AIを含むテクノロジーを活用して、網羅的な作業が短期間で可能になる可能性があります。 ⑨の相続税関連については、これも高いコミュニケーション能力が問われる分野ですので、AIを使って代替する、ということが難しい分野だと思います。 最後の⑩コミュニケーションにおける英語の役割ですが、今後は単純な作業がなくなり、テクノロジーを活用しながら、密なディスカッションの中で判断をしていくことが増えていくと思われ、そのような状況においては、自動翻訳ソフトウェアを使ってコミュニケーションすることで信頼関係を築けるとも思えないので、今後も英語の苦手な日本人が英語の研鑽から解放されることはないと思います。ただし、廉価で使い勝手の良い言語変換機が開発されれば、簡単な作業系の依頼についてはどの事務所でも対応できる、ということになると思います。 ◆ ◆ ◆ ここまでを簡単にまとめると、(1)単純な作業はAIを含むテクノロジーが代替してくれるが複雑なコンサルティング業務はなくならない、(2)新しいテクノロジーを利用するにはシステム投資が重要になるので、資金力、収益力、グローバルネットワークが重要な競争力になる可能性がある、(3)高いコミュニケーションスキルとヒューマンスキルがさらに重要になる、(4)これからはクリエイティブな考え、発想が重要で、暗記力はあまり問題ではなくなる、(5)英語は引き続き万国の共通言語として重要なコミュニケーションのツールとしてあり続ける、というようなことではないかと思います。 今後、AIをはじめとするテクノロジーの活用によって、会計士試験、税理士試験の難関をくぐり抜けてきた優秀な人材に相応しい、クリエイティブで高度な業務が仕事の中心となっていくと思います。 (なお、以上述べてきたことは筆者の個人的見解であることを念のためお断りさせていただきます。) (了)
実務家による実務家のための ブックガイド -No.5- 竹村彰通 著 『データサイエンス入門』 〈評者〉 Sansan(株)シニアアドバイザー 安井 肇 AI(人工知能)によって将来代替される可能性の高い仕事の一つとして会計士が挙げられてから数年が経つ。現に監査業務へのAI導入が大手監査法人では研究が進められている。期末監査で膨大な事務量をこなす現場からは、これを歓迎する意見も聞かれるが、反面、自らの将来に不安を禁じえない会計士も少なくないと思う。 そんな会計士に、本書の著者は「はじめに」において、「データから有用な情報を引き出し、それを意思決定につなげていくような仕事は人間の仕事として残るであろう」と語る。同時に、「データの見方を学びデータサイエンスの動向を理解することは、将来の仕事のあり方を考えるためにも重要なことである」と言う。 この“データサイエンス”とは、データに基づく意思決定を支える科学を指す。そして著者は、僅か160頁余の中に、データサイエンスのエッセンスを難しい数学を使わずに述べているので、評者のような文科系人材でも短時間かつ容易に読破可能である。 本書の構成は、次のようになっている。 冒頭に述べたAIの脅威は、コンピュータ容量の制約が事実上なくなり、ビッグデータ時代に突入したことから生じている。その制約があった過去には、データは最初から数値で表現されたものに限られていたが、今やテキスト(文字)データ、さらに音声や画像もデータとしてコンピュータによる分析が可能となった。 換言すれば、ビッグデータとAIがセットとなり、データサイエンスの重要性を高めている。 翻って、会計士の基本業務である監査は、企業の財務情報というアサーションの適切性をアシュアする仕事である。これまでの数十年間は、主にパソコンを使ってその業務に当たってきた。これまで人海戦術を必要とした部分をAIに任せることが可能となる時代、会計士は何をビジネスとしていけばよいのであろうか? 今後は、ビッグデータとAIが創り出すエコシステムの適切性を検証してほしいというニーズが出てくるかもしれない。例えば、AIを動かすアルゴリズムに対するアシュアランスなどである。 これまで会計士は、ともすればマニュアルに従って手際よく定型化した仕事を効率良くこなすことに心血を注いできた。しかし、今後は、現在発展途上のデータサイエンスを前提に、自らの未来を考え、切り開いていく必要がある。 その第一歩として、本書によってデータサイエンスの基礎を学ぶことは、大変意義のあることであろう。 (了)
《速報解説》 CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)、 今夏のガイドライン改訂に向け中間整理を公表 ~社外取締役の再任に関する基準設定の要請等、今後の方向性を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2018年5月 18日、経済産業省は「CGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会)(第2期)中間整理」を公表した。 これは、昨年12月に経済産業省の立ち上げたCGS研究会(第2期)における「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン。2017年3月公表)のフォローアップに関する中間整理である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 概要 上場企業に対するアンケート調査などに基づいて、コーポレートガバナンス改革を形式から実質へと深化させていく上で重要と考えられる事項に関して、CGSガイドラインの見直しも含めた今後の対応の方向性について取りまとめている。 1 社外取締役の活用 社外取締役には、最低限のリテラシーとして、財務・法務を含め、企業経営に関する基礎的な知識・知見を有していることに加えて、社外取締役としての役割を果たすためのアベイラビリティ(社外取締役として企業のために費やせる時間や労力があること)やコミットメント(企業価値向上への意思・意欲があること)も求められると考えられている。 また、取締役会・社外取締役を総体(集合体)として捉え、それら全体として必要な資質・能力を備えること、また、企業経営に対して複合的・多様な視点を有する構成とすることを検討することも有益であると考えられている。 CGS研究会では、社外取締役の選任・再任プロセスの明確化、在任期間の上限の設定などに関して議論され、CGSガイドラインでは、社外取締役の再任に関する基準を設けることを検討するよう記載することが考えられている。 2 指名委員会・報酬委員会の活用 指名委員会・報酬委員会における議論の対象や企業の置かれた状況によって差異があり得ることを踏まえ、CGSガイドラインにおいて、企業価値の向上に向け、社外者中心の委員会をより有効に活用するためのベストプラクティスを示すという観点から、委員会の構成や運営方法等について、かかる差異に応じて場合を分けて記載することが考えられている。 3 社長・CEO等の指名・後継者計画 社長・CEO等の指名・後継者計画について、CGSガイドラインにおいて、指名・再任・解任プロセスの客観性・透明性の確保や後継者計画の実効性確保を図ろうとする企業が参照できるベストプラクティスを示す必要性が高いと考えられている。 4 経営陣の報酬設計 CGSガイドラインにおいて、例えば経営陣幹部の報酬の方針や設計のあり方のベストプラクティス(例えば、業績連動指標の選択に当たって考慮すべき事項、グローバルに事業展開しておりグローバルな経営人材市場において人材確保をしようとする企業において役員報酬の設計を行う際の留意点など)について整理を行うことなどが考えられている。 5 取締役会の議長 取締役会や社外取締役を有効に機能させる環境を整備し、企業価値の向上を実現するという観点から、CGSガイドラインにおいて、どのような場合に業務執行者以外が取締役会議長を務めることが望ましいか(例えば、監督機能の強化を志向する企業や、社外取締役が少数しかいない企業において社外取締役が発言しやすい環境を作ろうとする場合など)について改めて明確にすることが有益であると考えられている。 Ⅲ 今後の予定 中間整理において示された今後の対応の方向性を受けて、今夏を目途に、CGSガイドラインの改訂を行う予定である。 (了)
《速報解説》 消費税の軽減税率制度の実施に伴う適切な価格表示について 関係省庁から具体例等が示される ~事業者の判断によりテイクアウトと店内飲食で税込価格を統一する例も~ Profession Journal編集部 来年(2019 年)10 月1日から実施される消費税の軽減税率制度では、「酒類及び外食を除く飲食料品」及び「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」が軽減税率の適用対象品目とされている。 前者に関しては、テイクアウトや出前には軽減税率(8%)が適用され、店内での飲食の場合は標準税率(10%)が適用されることとなり、テイクアウト等のできる外食店やイートインスペースのあるコンビニ、ファーストフード店などでは、同一の飲食料品の販売において、適用される消費税率が異なる場面が生じる。このため飲食業界では、軽減税率適用後の価格設定や価格表示について、来店客への説明や従業員への周知方法等、早めの検討が必要といえる。 このような状況から、このほど消費者庁や中小企業庁等の関係省庁は連名で、適切な価格表示を推進し事業者間の公正かつ自由な競争を促進するため、上記のような場面における価格表示の具体例等を示した。 今回示された具体例は、「事業者がどのような価格設定を行うかは事業者の任意である」としたうえで、まず、 という価格設定に関する考え方に大きく分けられる。 さらに(1)(テイクアウト等と店内飲食で異なる税込価格を設定する場合)を、 という表示方法に分けて、それぞれ具体例等を示している。 まず、上記(1)の①(両方の税込価格を表示する方法)は、例えば、「テイクアウト等」と「店内飲食」が同程度の割合で利用され、消費者の価格判断を行う際の利便性を向上するためなどの理由で事業者が判断する方法としており、次のような価格表示の具体例が示されている。なお、両方の税込価格に併せて、税抜価格又は消費税額を併記することも認められる。 (※) 中小企業庁ホームページより 次に(1)の②(どちらか片方のみの税込価格を表示する方法)は、例えば、「テイクアウト等」の利用がほとんどである小売店等において「店内飲食」の価格を表示する必要性が乏しい場合や、「テイクアウト等」と「店内飲食」両方の価格を表示するスペースがない等の理由により事業者が判断するとしており、次のような価格表示の具体例が示されている。 (※) 中小企業庁ホームページより 上記のように、片方の税込価格を表示しないという判断に対しては、あらかじめ価格を表示しない場合にまで課されるものではないとして、消費税法上の総額表示義務(63条)には違反しないとしている。ただし、テイクアウト等の場合であることを明瞭に表示せずその税込価格のみを表示している場合には、消費者への誤認を与え景品表示法上の有利誤認に該当するおそれがあるとしている。 続いて(2)(テイクアウト等と店内飲食で同一の税込価格を設定する場合)だが、例えば、軽減税率(8%)が適用されるテイクアウト等の税抜価格を102円とし、標準税率(10%)が適用される店内飲食の税抜価格を100円とすることで、税込価格を共に110円とする方法がこれに当たる。 事業者がこのような価格設定を判断する理由の例としては、「出前」について配送料分のコストを上乗せするためにテイクアウト等の税抜価格を上げる、「店内飲食」の需要を喚起するために店内飲食の税抜価格を下げる、さらには、従業員教育の簡素化や複数の価格を表示することに伴う客とのトラブル防止に資する等が示されており、次のような価格表示の具体例が示されている。 (※) 中小企業庁ホームページより なお、上記で示した3つの具体例に加え、参考として「税抜価格を表示する方法」も次のように具体例と共に示されているが、総額表示義務の特例(消費税転嫁対策特別措置法10条1項)は2021年3月31日までの適用であるため、現在この特例により税抜価格の表示によっている場合も、軽減税率実施のタイミングで総額表示へと切り替えたほうがよさそうだ。 (※) 中小企業庁ホームページより なお上記に示した具体例の他、それぞれの場合の注意事項や消費者への対応にあたって参考となる情報も示されているため、すでに価格設定及び表記方法の方針を決めている場合でも、今回取りまとめられた情報については、一度目を通しておきたい。 【参考図】 (※) 中小企業庁ホームページより (了)
《速報解説》 「統合報告・ESG対話フォーラム」、 開示と対話促進に必要な“4つの視点”を提言 ~積極的に開示を行う企業の支援等、“4つのアクション”を実行へ~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年5月18日、経済産業省は「統合報告・ESG対話フォーラム報告資料」を公表した。 これは、昨年12月に経済産業省の立ち上げた「統合報告・ESG対話フォーラム」がとりまとめた報告資料であり、「開示と対話の促進のために必要な4つの視点」と「今後のアクション」を示すものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開示と対話の促進のために必要な4つの視点 報告資料では、開示と対話の促進のために必要な4つの視点として、次のものをあげている。 各項目では、企業経営者の意見と投資家の意見が記載されており、4つの視点に関する様々な意見が記載されている。 また、参加者・有識者からのメッセージも記載されており、様々な意見があることがわかる。 ① 「目的を持った対話」を理解する 企業と投資家がともに、開示・対話を単なるコストではなく、企業価値向上に向けた投資として捉え、「目的」を明確にして取り組むことである。 ② 共通言語を活用する 企業や投資家の多様性・独自性を尊重しつつも、「価値協創ガイダンス」等の共通言語を使うことで、より効果的・効率的な情報開示や対話を行うことである。 ③ 社内でも対話する 「価値協創ガイダンス」を活用した開示や対話を契機として、経営者のみならず社外取締役や実務担当者も含む社内の対話を深め、自社の価値創造プロセスを理解することである。 ④ 投資家が企業評価手法を示す ESG等の非財務情報や対話が、どう投資判断に反映されるかが見えないことで、企業が開示・対話に消極的にならないよう、「価値協創ガイダンス」等を使って投資家が自らの評価手法を示すことである。 なお、ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の英語の頭文字を合わせた言葉である。 Ⅲ 今後のアクション 報告資料では、上記で掲げた4つの視点の実現を後押しするため、今後のアクションとして次の“4つのアクション”を実行、展開するとしている。 「価値協創ガイダンスロゴマーク」や「アクティブ・ファンドマネージャー宣言」など、上記報告内容に関連するウェブサイトや解説資料も紹介されている。 (了)
2018年5月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.268を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。