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組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第48回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第48回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ② 合併の1ヶ月前のリストラと従業者引継要件の判定 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著『組織再編における税制適格要件の実務Q&A(第3版)』(中央経済社)94頁では、「合併の直前」と規定されていることから、合併の直前の従業者を引き継げばよいのであって、合併の1ヶ月前に退職した従業者については引き継ぐ必要はないものとした。そして、合併の直前とは「合併の前日」を指すものとした。 ただし、合併の1ヶ月前に従業者を退職させ、合併の直前の従業者を引継予定の者のみにしてしまえば、容易に従業者引継要件を満たすことができることから、経済合理性もなく、単に従業者引継要件を満たすためだけにリストラを行うことについては、包括的租税回避防止規定(法法132の2)の適用リスクがあるものとしながらも、そのような事案は稀であるとの指摘をしていた。 その理由として、当時は、以下のように解説をしていた。 (ⅱ) 現在の私見 このような解説を行った理由は、ヤフー、IDCF事件が公表される前であったことから、経済合理性基準により包括的租税回避防止規定を検討する事案が多かったからである。ただし、その後、両事件により、制度濫用基準が導入されたため、上記の説明をやや変更する必要があると考えている。 すでに本連載で述べたように、従業者引継要件の制度趣旨は、事業単位の移転である。そうなると、合併の1ヶ月前において被合併法人でリストラを行ったとしても、被合併法人から合併法人への事業単位の移転が行われていれば、従業者引継要件の制度趣旨に反しないということになる。 これに対し、前述のように、「合併前におけるリストラにより被合併法人の従業者が不足し、合併が不成立になった場合には事業が成立しなくなる」場合には、従業者引継要件の制度趣旨に抵触すると考えられる。 具体的には、被合併法人で不足した従業者を合併法人やその他のグループ会社から出向させたり、一時的に派遣社員を雇用したりする場合には、一見、被合併法人に十分な従業者が存在する形になっているが、合併が不成立になったら、合併法人等から出向させた従業者は戻ってしまうし、派遣社員で補充して事業を成立させるというのが、長期的には難しい場合も考えられる。そのため、このような場合には、合併が不成立になった場合には事業が成立しなくなるため、包括的租税回避防止規定が適用されるリスクがあるということになる。 ただし、経済合理性基準により包括的租税回避防止規定を検討したとしても、似たような結論にはなるため、結果として、あまり大きな違いはないということが言える。 ③ 事業規模の縮小と従業者引継要件、事業継続要件 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著106頁では、事業継続要件では、事業の継続のみが要求されており、事業規模の維持までは要求されていないものとした。ただし、同書106-107頁では、事業規模の縮小により、配置転換を行えず、リストラを行った場合には、従業者引継要件に抵触するものとした。 (ⅱ) 現在の私見 事業継続要件が、事業規模の維持まで求めていないのは、条文上、明らかであることから、現在であっても同様に解するべきだと思われる。また、事業単位の移転という制度趣旨を考えれば、たとえ事業規模が縮小したとしても、事業は残っていることから、制度趣旨に反するとまでは断言できない。 そうなると問題になるのが、従業者引継要件である。なぜなら、合併後に、事業規模が縮小する場合において、従業者のリストラが行われたとしても、事業単位の移転という観点からすれば、依然として事業が残っていることから、合併後のリストラを行ったとしても、従業者引継要件に抵触させるべきではないとする意見もあり得るからである。 そのため、平成13年当時では、合併の直前の従業者を合併の直後に引き継いでいればよく、継続雇用は不要であるというのが一般的な考え方であった。そして、法人税法2条12号の8ロ(1)でも、 と規定されており、「継続して従事することが見込まれていること」とは規定されていない。 しかし、平成15年度税制改正、平成29年度税制改正及び平成30年度税制改正により、二段階組織再編成の規定が整備され、 と規定された。 もし、第1次合併により合併法人に引き継がれた従業者が、その後、リストラされても構わないのであれば、第2次合併があった場合の取扱いは不要のはずである。なぜなら、第2次合併を行う前に、該当する従業者を辞めさせても、従業者引継要件に抵触しないからである。 しかしながら、平成29年度税制改正により、主要資産等引継要件における二段階組織再編成の規定は廃止されたものの、従業者引継要件及び事業継続要件における二段階組織再編成の規定が残ったため、二段階組織再編成が行われない通常の事案であっても、組織再編成の直前の従業者を組織再編成の直後に引き継ぐだけでなく、その後の継続雇用も必要であると解される。 このように、現在であっても、事業継続要件では、事業の継続のみが要求されており、事業規模の維持までは要求されていないと解するべきであるものの、事業の縮小により、配置転換を行えず、リストラを行った場合には、従業者引継要件に抵触すると解すべきであると考えられる。 *   *   * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)

#No. 279(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/08/02

平成30年度税制改正における「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第1回】

平成30年度税制改正における 「一般社団法人等に関する相続税・贈与税の見直し」 【第1回】   国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦   1 はじめに いわゆる公益法人制度改革の一環として、それまで民法34条によって規定されていた公益法人制度が廃止され、代わって2006年5月に一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」)が成立し、2008年12月に施行されて以来、一般社団法人の存在が日増しに高まってきている。 これには、事業承継の際に一般社団法人の法人格を利用することにより相続税の回避が可能となるという、主として税務目的によるという側面もあるものと考えられる。すなわち、法人格を有する代表的な組織形態である株式会社と比較した場合、一般社団法人には株式のような「持分」が存在しないため、原則として相続の際に相続税が課されないということに着目されたというわけである。 このような一般社団法人の特徴に着目した租税回避行為の実行可能性については、一般法人法成立直後から指摘され、事業承継に関心を持つ租税実務家の間では常識となっていたところである。当然のことながら、課税庁はそのような動向には気を配っていたようであり、それもあって今般の税制改正で、「目に余る」租税回避行為に対処するための立法措置を採ったものと考えられる。 そこで本稿では、一般社団法人の特徴と事業承継における具体的な利用のパターン、本年度の税制改正の内容と今後の動向について、以下で確認していきたい(※1)。 (※1) なお、本稿の主たる検討対象は一般社団法人であるが、財産を拠出し、それを原資に例えば奨学金を給付するときに利用される一般財団法人についても検討の射程に入っている。   2 一般社団法人の特徴 (1) 一般社団法人とは 社団法人は、共通の目的を実現しようとする人の集まりをいう。同じように法人格を有する株式会社とは異なり、法人の構成員である社員が利益を得ることを目的としていないことが必要である(非営利目的、一般法人法11②(※2))。これに対し、私法人(※3)のもう1つの類型である財団法人は、設立者が拠出した財産(目的財産)を基礎に、定款(※4)に示された設立者の意思を活動の準則とする法人である。 (※2) 法律上、「非営利」という用語は使用されていないが、11条2項で、定款で社員に対する剰余金又は残余財産の分配権を定めることができない旨が規定されている。ただし、当該条項に違反して剰余金又は残余財産の分配を行ったとしても、罰則規定はない。 (※3) 国家的公共の事務を遂行する目的で、公法に準拠して成立する法人である公法人に対する概念で、私人の自由な意思決定による事務遂行のため、私法に準拠して設立される法人をいう。四宮和夫・能見善久『民法総則(第九版)』(弘文堂・2018年)103-104頁。 (※4) 旧公益法人制度においては、「寄附行為」と呼ばれていた。 前述の通り、社団法人は一般法人法の制定により、準則主義(※5)で設立される非営利目的の一般社団法人(※6)へと改組されることとなった。また、一般社団法人は公益認定等委員会・審議会の諮問に基づいてなされる行政庁の認定を受けることにより、公益社団法人となる(公益認定法4、9)。なお、一般社団法人であっても公益目的の事業を行うことに制限はないが、公益性の認定を受けないと原則として税制上の優遇措置は受けられない(※7)。 (※5) 法律の定める要件を満たし、一定の手続きによって公示されたときに法人の成立を認めるものをいう。旧民法34条における公益法人制度やNPO法人(特定非営利活動法人)のような許可主義と異なり、特定の所管庁(主務官庁)による関与がなく自由度が高いのが特徴といえる。四宮・能見前掲(※3)書102-103頁。 (※6) ただし、一般社団法人は非営利事業のみでなく営利事業も行えるなど、事業についての制限は原則として存在しない。 (※7) ただし、法人税法上、非営利型法人に該当する場合には、収益事業から生じた所得に対してのみ課税される(法法2五・九の二、法令3)。 一般法人法制定に伴う一般社団法人の制度導入後における設立数の統計は、以下のグラフの通りである。 〇一般社団法人の設立数の推移 (出典) 法務省「一般社団法人の登記の件数(主たる事務所)」各年版 (2) 一般社団法人の設立 一般社団法人の設立には、まずその構成員である社員(正会員)になろうとする2人以上の者(設立時社員)が、定款を作成し、それに関し公証人によって認証を受ける必要がある(一般法人法10、13)。 設立者が最低でも300万円の財産を拠出する必要がある一般財団法人と異なり、一般社団法人は財産を拠出する必要がなく(一般法人法153②)、非営利目的の法人であるため、出資や持分という概念は存在しない(※8)。 (※8) 代わりに、基金制度がある(一般法人法131~140)。四宮・能見前掲(※3)書163-164頁参照。 その後、設立登記を行うことにより、法人が成立する(一般法人法22)。 (3) 一般社団法人の組織 一般社団法人において必ず置かなければならない機関は、社員総会と理事である(一般法人法60①)。 社員総会は、社員により構成される法人の最終意思決定機関であり(一般法人法35①)、毎事業年度の終了後に招集される定時社員総会と、必要に応じて招集される臨時社員総会がある(一般法人法36)。社員総会においては、理事・監事の選任・解任、計算書類等の承認、定款の変更等の重要事項の決定がなされる(※9)。社員の議決権は平等(1社員1票)であることが原則である(一般法人法48①)。 (※9) ただし、理事会設置の一般社団法人においては、社員総会は、法律に規定する事項及び定款で定められた事項に限り決議することができる(一般法人法35②)。 理事は法人の業務執行機関であるが(一般法人法60、76①)、一般財団法人と異なり、一般社団法人の場合、理事会は必ずしも設置する必要はない(理事会非設置の一般社団法人)。理事は最低1名置けばよく(一般法人法60①)、自然人のみならず法人でも就任できるものと解されている。 一般社団法人が理事会(※10)を設置する場合、理事は3名以上置く必要があり、業務執行権が代表理事(※11)(理事長)に集中する(一般法人法91)。また、理事会設置の一般社団法人の場合、監事も置く必要がある(一般法人法61)。さらに、理事会が置かれる場合、法人の重要な取引については、その決議を経て執行される(一般法人法90④)。 (※10) 業務執行についての意思決定と代表理事・業務担当理事による業務執行の監督を行う(一般法人法90②)。 (※11) 代表理事は登記事項である(一般法人法301)。 監事は、理事が法令違反の行為や定款違反の行為を行わないよう、その職務を監査する(一般法人法99①)。また、負債の額200億円以上の大規模な一般社団法人については、その計算書類及び附属明細書を監査する会計監査人を置く必要がある(一般法人法2二、62)。 一般社団法人の組織を図で示すと以下の通りとなる。 〇一般社団法人の組織・機関 (4) 一般社団法人の解散 一般社団法人は、以下の事由が生じたときは解散することとなる(一般法人法148)。 一般社団法人が解散すると、清算手続きが開始する。 清算手続きにおいて全ての債務を弁済した後、残余財産があるときは、定款の定めに従って処分される(一般法人法239①)。定款に残余財産の帰属先について定めがない場合には、清算法人の社員総会の決議によって処分方法が決定される(一般法人法239②)。この決議により、社員に残余財産を帰属させることもできると解されている(※12)。 (※12) ただし、社員総会の決議によって残余財産を社員に帰属させることについては、非営利性に反するとして立法論として反対する見解もある。四宮・能見前掲(※3)書156頁。 なお、公益社団法人の場合、残余財産を国・地方公共団体、学校法人等の類似の事業を目的とする他の公益法人等に帰属させる旨の定款を定める必要がある(公益認定法5十八)。   (了)

#No. 279(掲載号)
#安部 和彦
2018/08/02

〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q4】「継続雇用者給与等支給額の範囲」

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q4】 「継続雇用者給与等支給額の範囲」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q4] 平成30年度の税制改正により、継続雇用者給与等支給額の集計方法が変わったと聞きましたが、具体的にはどのように見直されたのでしょうか。   [A4] 継続雇用者の定義が以下のいずれも満たす国内雇用者に変更されました。 ・適用年度とその前事業年度等の期間の各月分の給与等の支給を受けていること ・雇用保険一般被保険者に該当する者に限り、継続雇用制度適用対象者を除く 【解説】 (1) 継続雇用者の定義の見直し 改正前の制度における継続雇用者とは「適用年度及びその前事業年度等において給与等の支給を受けた国内雇用者」をいい(旧措法42の12の5②八)、継続雇用者給与等支給額は、継続雇用者のうち雇用保険一般被保険者に該当する者(継続雇用制度適用対象者を除く)に係る給与等支給額を集計することとされていた(旧措令27の12の5⑭)。 これまで、継続雇用者給与等支給額を集計するためには、まず継続雇用者の範囲を確定させ、さらに給与等支給額を集計すべき対象者を絞り込むという作業が必要であり、適用年度及びその前事業年度等のそれぞれにおいて一度でも給与等の支給を受けた者を拾い出すという作業は相当な負担になっていたと思われる。 たしかに、判定対象期間の2期にわたり給与等の支給を受けていれば、それぞれを比較することで賃上げの効果を測定することはできるが、実際には、個々人において賃上げが達成できているかという観点ではなく、個別の支給事情を考慮しない平均給与等支給額によって賃上げ効果を測定するような制度設計のもとでは、継続雇用者の定義自体がいささか細かすぎたように思う。 改正後の制度では、継続雇用者とは「適用年度及びその前事業年度の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者のうち一定のもの」とされ、「一定のもの」として「雇用保険の一般被保険者に該当するものに限り、継続雇用制度適用対象者を除く」と定義された(措法42の12の5③六、措令27の12の5⑬)。 これによって、期の中途で入社・退職した者は継続雇用者に該当しないこととなり、完全に集計から除外することができるようになった。 細かい話ではあるが、改正前の制度では、雇用保険関連の取扱いは「金額の集計」に関連して定められていたのに対し、改正後の制度では「継続雇用者の定義」の中に組み込まれている点に留意が必要である。すなわち、期の中途で雇用保険一般被保険者資格を得喪した者や継続雇用制度の適用対象者となった者も継続雇用者に該当しないこととなり、そもそも集計に含める必要がなくなった。 なお、定義を満たす継続雇用者が存在しない場合、継続雇用者比較給与等支給額はゼロとなり、本税制の適用要件を満たさないこととなる(措令27の12の5㉒)。 (2) 「期間内の各月」の意義と継続雇用者給与等支給額 継続雇用者の定義に含まれている「適用年度及びその前事業年度等の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた」という表現に関し、「期間内の各月」の取扱いについては、適用年度の月数と前事業年度等の月数が異なる場合には以下のように異なる取扱いが定められているので留意が必要である(特に、みなし事業年度が設定される事業年度付近で留意すべきと考えられる)。 そのうえで、継続雇用者とされた者に係る雇用者給与等支給額が「継続雇用者給与等支給額」とされる(措令27の12の5⑭)。 ① 適用期間の月数と前事業年度等の月数が同じ場合(措令27の12の5⑬一) 適用年度の期間及びその前事業年度等の期間内の各月にわたり給与等の支給を受けた者が継続雇用者に該当する。 【下図では・・・12ヶ月+12ヶ月=24ヶ月】 ② 前事業年度等の月数が適用年度の月数に満たない場合(措令27の12の5⑬二イ) 適用年度の期間及びその適用年度開始の日前1年以内に終了した各事業年度(前1年事業年度等)の期間内の各月にわたり給与等の支給を受けた者が継続雇用者に該当する。 ここで「前1年事業年度等」は、設立の日以後に終了した事業年度に限られ、適用年度開始の日から起算して1年前の日又は設立の日を含む前1年事業年度等にあっては、その1年前の日又はその設立の日のいずれか遅い日から当該前1年事業年度終了の日までの期間(前1年事業年度等特定期間)が対象となる。 【下図では・・・4ヶ月+8ヶ月+12ヶ月=24ヶ月】 (※1) 前1年事業年度等特定期間=上図の前々事業年度(4ヶ月)+前事業年度(8ヶ月) (※2) 最長でも、適用年度開始の日から起算して1年前の日以降の期間が集計対象となる。 ③ 前事業年度等の月数が適用年度の月数を超える場合(措令27の12の5⑬二ロ) 適用年度の期間及びその前事業年度等の期間のうちその適用年度の期間に相当する期間でその前事業年度等の終了の日に終了する期間(前事業年度等特定期間)内の各月にわたり給与等の支給を受けた者が継続雇用者に該当する。 【下図では・・・8ヶ月+8ヶ月=16ヶ月】 (3) 継続雇用者比較給与等支給額 (2)により継続雇用者給与等支給額が定められれば、それと対応する形で継続雇用者比較給与等支給額も集計することができる(措令27の12の5⑮)。この場合においても、適用年度の月数と前事業年度等の月数が異なる場合に応じて、それぞれ以下のように取り扱われるので留意が必要である。 ① 適用期間の月数と前事業年度等の月数が同じ場合(措令27の12の5⑮一) 継続雇用者比較給与等支給額は、継続雇用者に対する前事業年度等に係る給与等支給額とされる。 ② 前事業年度等の月数が適用年度の月数に満たない場合(措令27の12の5⑮二イ) 継続雇用者比較給与等支給額は、以下の算式で求められる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 このような按分計算が求められているのは、前1年事業年度等特定期間に設立事業年度が含まれている場合には、その期間が必ずしも適用年度の月数(上図では12ヶ月)と一致するわけではなく、月数補正が必要になる可能性があるためである。 ③ 前事業年度等の月数が適用年度の月数を超える場合(措令27の12の5⑮二ロ) 継続雇用者比較給与等支給額は、継続雇用者に対する前事業年度等特定期間に係る給与等支給額とされる。 (4) 決算・申告上の留意点 以上説明したとおり、継続雇用者の範囲は厳密には適用年度末まで確定しないものであるが、少なくとも、前事業年度のすべての月にわたり給与等の支給を受けた国内雇用者が最大の母集団となるはずである。ここから、適用年度の中途で退社等により給与等の支給を受けなくなった者等を除外すれば、適用年度における継続雇用者の範囲が確定することになる(適用年度中の新入社員は一切考慮不要)。 とすれば、継続雇用者比較給与等支給額をあらかじめ把握することも、ある程度可能な状況であるといえる(前事業年度のすべての月にわたり給与等の支給を受けた国内雇用者に係る給与等支給額を集計すればよい)。これは改正前の制度において継続雇用者比較給与等支給額の集計も年度末にならないと確定しなかったことと比較して大きな状況変化であると考える。 本税制の適用可否のシミュレーション上、継続雇用者給与等支給額の要件を満たすかどうか事前に検討する上で、集計方法の変更について留意されたい。 (了)

#No. 279(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/08/02

〔平成30年度税制改正対応〕非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度(事業承継税制の特例措置) 【第7回】「事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除」

〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第7回】 (最終回) 「事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除」   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳    今回は、特例経営(贈与)承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合の納税猶予額の免除について解説していく。 事業の継続が困難な一定の事由が生じ、特例措置に係る非上場株式等を譲渡等した場合に、納税猶予額の再計算及び免除を受ける場合の手続きは、以下のとおりである。 ① 事業の継続が困難な一定の事由への該当 ↓ ② 非上場株式等の譲渡等 ↓ ③ 免除申請(2ヶ月以内) ↓ ④ 事業の継続(時価の2分の1以下での譲渡等の後2年間) ↓ ⑤ 猶予税額の再計算及び免除   1 事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、事業の継続が困難な事由として政令で定める事由(2を参照)が生じた場合において、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等したときは、その対価の額(対価の額が時価の2分の1以下である場合には、時価の2分の1に相当する金額とする)をもとに贈与税・相続税を再計算し、再計算した贈与税額・相続税額と直前配当等の額(※1)の合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除される(措法70の7の5⑫、70の7の6⑬)。 (※1) 直前配当等の額とは、譲渡等の日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等(特例経営承継受贈者及び特例経営承継相続人をいう)及び特別の関係がある者が当該特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額をいう(措令40の8の5⑫、40の8の6⑫)。 (出所)財務省「平成30年度 税制改正の解説」p604より抜粋   2 事業の継続が困難な一定の事由 特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等した場合に、譲渡対価をもとに再計算した相続税額・贈与税額との差額について免除を受けるためには、事業の継続が困難な事由として、以下の(a)~(e)のいずれかに該当する必要がある(措令40の8の5㉒、40の⑧の6㉙、措規23の12の2⑳㉓、23の12の3⑳㉓)。 (※2) 判定期間とは、直前事業年度の終了の日の1年前の日の属する月から同月以後1年を経過する月までの期間をいう。また、前判定期間とは、判定期間の開始前1年間を、前々判定期間とは、前判定期間の開始前1年間をいう(措令40の8の5㉒四イロ)。 (※3) 業種平均株価とは、判定期間、前判定期間又は前々判定期間に属する各月における上場株式平均株価(金融商品取引法第130条の規定により公表された上場会社の株式の毎日の最終の価格を利用して算出した価格の平均値をいい、具体的には、非上場株式等の相続税評価額の算定に用いるために国税庁において公表する業種目別株価をいう)を合計した数を12で除して計算した価格をいう(措規23の12の2㉒、23の12の3㉒)。   3 免除される税額 (1) 譲渡等した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例経営承継受贈者等が特例対象(受贈)非上場株式等の全部又は一部の譲渡又は贈与(以下「譲渡等」という)をした場合(特例経営承継受贈者等と特別の関係がある者以外の者に対して行う場合に限る)において、次の①及び②の合計額が、その譲渡等の直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫一、70の7の6⑬一)。 ① 譲渡等の対価の額(対価の額が、譲渡等をした時における譲渡等をした数又は金額に対応する特例対象(受贈)非上場株式等の相続税評価額の2分の1以下である場合には、相続税評価額の2分の1に相当する金額)をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 譲渡等があった日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 (2) 合併した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例認定(贈与)承継会社が合併により消滅した場合(吸収合併存続会社等が特例経営承継受贈者等と特別の関係がある者以外のものである場合に限る)において、次の①及び②の合計額が、その合併の効力発生直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫二、70の7の6⑬二)。 ① 合併対価の額(対価の額が、合併がその効力を生ずる直前における特例対象(受贈)非上場株式等の相続税評価額の2分の1以下である場合には、相続税評価額の2分の1に相当する金額)をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 合併がその効力を生ずる日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 (3) 株式交換・株式移転した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例認定(贈与)承継会社が株式交換又は株式移転(以下「株式交換等」という)により他の会社の株式交換完全子会社等となった場合(他の会社が特例経営承継受贈者等と特別の関係がある者以外のものである場合に限る)において、次の①及び②の合計額が、その株式交換等の効力発生直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫三、70の7の6⑬三)。 ① 交換等対価の額(対価の額が、株式交換等がその効力を生ずる直前における特例対象(受贈)非上場株式等の相続税評価額の2分の1以下である場合には、相続税評価額の2分の1に相当する金額)をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 株式交換等がその効力を生ずる日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額 (4) 解散した場合 特例経営(贈与)承継期間の末日の翌日以後に、特例認定(贈与)承継会社が解散をした場合において、次の①及び②の合計額が、解散の直前における猶予中贈与税額・相続税額に満たないときは、猶予中贈与税額・相続税額から①及び②の合計額を控除した残額に相当する贈与税・相続税が免除される(措法70の7の5⑫四、70の7の6⑬四)。 ① 解散の直前における相続税評価額をこの特例の適用に係る贈与・相続により取得をした特例対象(受贈)非上場株式等のその贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した納税猶予分の贈与税額・相続税額 ② 解散の日以前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者が、その特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額   4 免除を受けるための手続き 特例経営承継受贈者等が、上記3(1)から(4)のいずれかに該当することとなった場合において、その贈与税・相続税の免除を受けようとするときは、その該当することとなった日から2月を経過する日(2月を経過する日までの間に特例経営承継受贈者等が死亡した場合には、特例経営承継受贈者等の相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から6月を経過する日。以下、「申請期限」という)までに、免除を受けたい旨、免除を受けようとする贈与税・相続税に相当する金額及びその計算の明細その他の財務省令で定める事項を記載した申請書(免除の手続きに必要な書類その他の財務省令で定める書類を添付したものに限る)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の5⑫、70の7の6⑬、措規23の12の2㉔、23の12の3㉔)。   5 譲渡等の対価の額が相続税評価額の2分の1以下である場合 (1) 猶予税額の再計算 上記3のうち解散以外(譲渡等・合併・株式交換等)で(a)~(c)のいずれかに該当する場合において、特例経営承継受贈者等が、下記(2)の適用を受けようとするときは、申請期限までに担保を提供した場合で、かつ、この特例の適用を受けようとする旨の申請書を納税地の所轄税務署長に提出した場合に限り、再計算対象猶予税額(※4)から上記3(1)から(3)の①及び②の合計額を控除した残額を免除し、①及び②の合計額を猶予中贈与税額・相続税額とすることができる(措法70の7の5⑬、70の7の6⑭)。 これは特例措置の適用を受けた株式についてその相続税評価額の2分の1以下で譲渡、再編行為等が行われた場合、その免除額が過大になることを防ぐため、その譲渡、再編行為等が相続税評価額の2分の1で実行されたものとして、猶予税額を再計算するものである。 (※4) 再計算対象猶予税額とは、以下の金額をいう(措法70の7の5⑬、70の7の6⑭)。 (出所)財務省「平成30年度 税制改正の解説」p606より抜粋 (2) 猶予税額の免除(再免除の特例) 上記(1)により担保提供を行い、猶予中贈与税額・相続税額とされた金額の期限及び免除については、その譲渡等の日、合併又は株式交換等の効力が発生した日から2年を経過する日において、事業継続の要件に該当するか否かにより異なる。 ① 事業を継続している場合 次の(a)から(c)に掲げる会社が、その譲渡等の日、合併又は株式交換等の効力が発生した日から2年を経過する日において、その事業を継続している場合として政令で定める場合(※5)には、特例再計算贈与税額・相続税額(※6)に相当する贈与税・相続税については、当該2年を経過する日から2月を経過する日(「再申請期限」という)をもって納税の猶予に係る期限とし、上記(1)により猶予中贈与税額・相続税額とされた金額から特例再計算贈与税額・相続税額を控除した残額に相当する贈与税・相続税については免除され、特例再計算贈与税額・相続税額については納付することとなる(措法70の7の5⑭一、70の7の6⑮一)。 (※5) 「事業を継続している場合として政令で定める場合」とは、2年を経過する日において次に掲げる要件のすべてを満たす場合とする(措令40の8の5㉛、40の8の6㊳、措規23の12の2㉗、23の12の3㉗)。 (※6) 特例再計算贈与税額・相続税額とは、譲渡等の対価の額、合併対価の額又は交換等対価の額に相当する金額を、贈与・相続の開始の時における価額とみなして計算した贈与税・相続税の納税猶予額に、譲渡等の日、合併又は株式交換等の効力発生日前5年以内において、特例経営承継受贈者等及びその特別の関係がある者がその特例認定(贈与)承継会社から受けた剰余金の配当等の額及び役員給与のうち、法人税法第34条又は第36条の規定により損金不算入となる金額を加算した金額をいう(措法70の7の5⑮、70の7の6⑯)。 ② 事業を継続していない場合 2年を経過する日において事業を継続していない場合は、上記(1)において猶予中贈与税額・相続税額とされた金額(再計算対象猶予税額)に相当する贈与税・相続税ついては、上記(2)①の再申請期限をもって納税猶予に係る期限となり、贈与税・相続税及び納税猶予期間に対応する利子税を納付しなければならない(措法70の7の5⑭二、70の7の6⑮二)。 (3) 再免除の申請 上記(2)①の規定により贈与税・相続税の免除を受けようとする特例経営承継受贈者等は、再申請期限までに、免除を受けたい旨、免除を受けようとする贈与税・相続税に相当する金額及びその計算の明細その他の財務省令で定める事項を記載した申請書(免除の手続きに必要な書類その他の財務省令で定める書類を添付したものに限る)を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の5⑯、70の7の6⑰、措規23の12の2㉘㉙、23の12の3㉘㉙)。   6 税務署長による調査 税務署長は、上記4、5(1)、5(3)による申請書の提出があった場合、これらの申請書に記載された事項について調査を行い、申請期限又は再申請期限の翌日から起算して6月以内に、免除をした贈与税・相続税の額又は却下した旨及びその理由を記載した書面により、申請書を提出した特例経営承継受贈者等に通知することとされている(措法70の7の5⑰、70の7の6⑱)。   (連載了)

#No. 279(掲載号)
#日野 有裕、梶本 岳
2018/08/02

平成30年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】「『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設(その1:連結納税と単体納税の取扱いの比較)」

平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設 (その1:連結納税と単体納税の取扱いの比較)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [3] 『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』の創設 大企業が、前期より所得が多いにも関わらず、一定の賃上げと設備投資を行わなかった場合、研究開発税制など一部の租税特別措置を適用させないという制度が創設された。 これを『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』という。 連結納税においても単体納税と同様に大企業に対する租税特別措置の適用除外措置があるが、連結納税の場合、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 具体的には、連結納税における『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』について、単体納税における取扱いと比較すると次のようにまとめられる。 なお、『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度又は連結事業年度から適用される。 (了)

#No. 279(掲載号)
#足立 好幸
2018/08/02

海外移住者のための資産管理・処分の税務Q&A 【第5回】「金融資産②(非上場株式を保有している場合の留意点)」

海外移住者のための 資産管理・処分の税務Q&A 【第5回】 「金融資産②(非上場株式を保有している場合の留意点)」   税理士・行政書士 島田 弘大   Question 私は来年、海外への移住を検討しています。現在、日本の非上場株式を保有していますが、特に問題はないでしょうか。 「国外転出時課税制度」があるというのは聞きましたが、実際にどのように検討していけば良いのか分かりません。   Answer 1 はじめに 海外への移住を検討している日本の居住者(個人)が日本の非上場株式を保有しているケースはよくある。この場合、国外転出時課税制度について慎重に検討する必要があるが、実際にどのような順序で検討していくべきか、順を追って説明する。   2 非上場株式も国外転出時課税制度の対象資産 まずは、非上場株式が国外転出時課税制度の対象資産に該当するか検討する必要であるが、これはこれまでの連載でも対象資産の詳細を見てきた通り、非上場株式は「有価証券」であり、国外転出時課税制度の対象資産に該当する。 (※) 国外転出時課税制度の対象資産の詳細については本連載【第4回】を参照。   3 非上場株式の価額が1億円以上かどうか 改めての確認となるが、国外転出時課税制度は一定の居住者が1億円以上の「対象資産」を所有等している場合には、その「対象資産」について譲渡又は決済があったものとみなして、「対象資産」の含み益に所得税が課税される税制である(所法60の2)。 したがって、非上場株式の価額が1億円以上かどうかを次に検討しなければならない。1億円未満であれば出国時に含み益に対して課税されることはないが、1億円以上であれば国外転出時課税制度の対象となるため、非常に重要なポイントとなる。 なお、もし非上場株式以外に対象資産を有している場合には、それらの対象資産すべての価額の合計額が1億円以上であるかどうかを判定するため、注意が必要である。 それでは、非上場株式の価額はどのように計算するのか。   4 非上場株式の価額の判定時期と算定方法 (1) 判定時期 対象資産の合計額が1億円以上かどうかは、「国外転出の時」又は「国外転出の予定日から起算して3ヶ月前の日」の時点で判定し、次のように確定申告書を提出する時期により異なる。 (2) 算定方法 国外転出時における有価証券等の価額については、原則として、所得税基本通達23~35共-9及び59-6の取扱いに準じて算定する(所基通60の2-7)。上場株式の場合は金融商品取引所の公表する最終価格をもって算定するため非常にシンプルであるが、非上場株式の場合は注意が必要である。 非上場株式の評価方法は下記の通りである。 一般的に非上場株式は(A)(B)によることが難しいため、(C)の方法を適用することになると考えられるが、所基通59-6は次の4条件のもとで、財産評価基本通達の178から189-7(取引相場のない株式の評価)の例により評価するとしている。 相続税法上の算定方法を基本としつつも、上記の通り、いくつか条件があるため、慎重に株価評価を行う必要がある。   5 評価額の合計額が1億円以上だった場合は納税猶予を選択するか検討 上記4で計算した非上場株式の価額(それ以外にも対象資産があればそれらすべてを含めた合計額)が1億円未満であれば、これ以上の検討は必要ない。しかし、1億円以上である場合にはさらに、含み益について譲渡所得の申告・納税を行うか、もしくは納税の猶予を選択するかを検討することになる。 国外転出時課税の申告をする人が一定の手続を行った場合には、国外転出時課税の適用により納付することとなった所得税について、国外転出の日から5年間、納税を猶予することができる(所法137の2①)。また、国外転出の日から5年を経過する日までに届出を行うことにより、最長10年まで延長することができる(所法137の2②)。 したがって、5年以内(最長10年まで延長可能)に帰国予定である場合には、基本的には納税の猶予を選択した方が良いと考えられる。ただし、納税を猶予される所得税額及び利子税額に相当する担保の提供や納税管理人の選任、さらに毎年所定の届出書の提出が必要になるため、煩雑な事務手続きが必要であることは事前に理解しておく必要がある。 また、納税を猶予しているにもかかわらず、5年以内(最長10年まで延長可能)に帰国できないこととなる場合には、利子税と合わせて納付する必要があるため、その点も留意が必要である。 非居住者となった後に非上場株式を譲渡する場合にも、納税猶予分の所得税額のうち、その譲渡をした部分の金額に応じた所得税について納税猶予の期限が確定するため、譲渡の日から4ヶ月以内に、利子税を併せて納付する必要がある。 つまり、5年以内(最長10年まで延長可能)に帰国するのが確実で、また非上場株式を譲渡する予定がなければ、煩雑な事務手続きは必要になるものの、基本的には納税の猶予を選択した方が良いだろう。   (了)

#No. 279(掲載号)
#島田 弘大
2018/08/02

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第61回】「主たる債務の契約書に追記した債務の保証に関する契約書」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第61回】 「主たる債務の契約書に追記した債務の保証に関する契約書」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   当社は福利厚生の一環として社内貸付制度を設けており、貸付時に「金銭借用証書」を従業員から提出してもらいます。 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する部分については、課税事項には該当しないとのことですが、次のような文書はどうなりますか。 【事例】 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する部分については課税事項に該当しないが、事例の場合は、消費貸借契約の年月日(2018年7月10日)と保証契約の年月日(2018年7月28日)が異なるため、契約書を追記したことになり、一の文書には当たらず、第1号の3文書(消費貸借に関する契約書)に該当するとともに、第13号文書(債務の保証に関する契約書)にも該当し、それぞれ所定の収入印紙が必要となる。 [検討1] 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する部分とは 主たる債務の契約書に併記した債務の保証に関する契約書とは、金銭借用証書に債務者と保証人が署名押印し、「借受人が返済期限までに返済できない場合は、保証人が全額返済します。」と記載した文書がこれに当たり、主たる債務(消費貸借の元本、利息の返還債務)の契約書に併記された債務の保証契約は課税事項として取り扱わないこととされている。 [検討2] 一の文書とは 「一の文書」とは、その形態からみて1個の文書と認められるものをいい、文書の記載証明の形式、紙数の単複は問わない。したがって、1枚の用紙に2以上の課税事項が各別に記載証明されているもの又は2枚以上の用紙が契印等により結合されているものは、一の文書となる。 ただし、一の文書に日時を異にして各別の課税事項を記載証明する場合には、後から記載証明する部分は、新たに課税文書を作成したものとみなされる。   ▷まとめ したがって、事例の場合は1枚の用紙に金銭消費貸借契約と主たる債務の契約書に併記された債務の保証契約が記載されているものの、日付を異にしており、後から記載証明する保証契約については、新たに課税文書を作成したものとみなされることにより、7月10日の作成時には第1号の3文書の契約金額に見合う収入印紙を、7月28日には第13号文書に係る200円の収入印紙の貼付が必要となる。 なお、第1号の3文書の消費貸借契約については債務者が納税義務者となり、第13号文書である保証契約は保証人が納税義務者となる。   (了)

#No. 279(掲載号)
#山端 美德
2018/08/02

租税争訟レポート 【第38回】「架空循環取引をめぐる青色申告承認取消等の処分の要件該当性(宮崎地方裁判所平成28年11月25日判決)」

租税争訟レポート 【第38回】 「架空循環取引をめぐる青色申告承認取消等の処分の要件該当性 (宮崎地方裁判所平成28年11月25日判決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 本件は、青色申告の承認を受けていた株式会社である原告が、平成20年3月期に係る法人税の確定申告に当たり、有限会社Bとの間で魚(カンパチ)の売買を行ったとして、同売買に係る売上額を益金の額に算入するとともに、B社に対する仕入取引を損金の額に計上したところ、日南税務署長が、同売買は架空の取引であり、また、これにより原告が受領した金員は何ら対価性なく得たものであるから、同金員の受領は「無償による資産の譲受け」として益金の額に算入されるとして、原告に対して、青色申告の承認の取消処分、法人税の更正処分、重加算税の賦課決定処分をしたことについて、原告が、Bとの取引は架空ではなく上記各処分は違法であるなどと主張して、本件青色取消処分、本件更正処分、本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。 原告とB社との間の取引が行われた背景には、2010(平成22)年に発覚したメルシャン株式会社(以下「メルシャン社」と略称する)水産飼料事業部による架空循環取引事件が存在していた。なお、判決文の中では、メルシャン社は「D社」と表記されているが、混乱を避けるため、メルシャン社で統一する。   【本件取引が架空取引であるという認識を原告は有していたか】 1 処分行政庁の主張 処分行政庁である日南税務署は、以下のように事実認定を行った。 そのうえで、原告の取締役をはじめ関係者は、平成20年8月に行われた国税局の調査において、本件各取引が架空のものであることを認め、原告代表者も、平成22年5月から同年8月にかけて行われたメルシャン社の社内調査委員会による調査等において、本件売上取引が架空のものであったことを認識していた旨述べていることに加え、原告代表者やその関係者が本件各取引の架空性を認識していたことをうかがわせる事実が複数存在することから、原告代表者は、本件各取引が架空の取引であったことをその取引当時から認識していたものというべきであると主張した。 2 原告の主張 これに対し原告は、本件各取引を正常取引と認識しており、金員の受領についても、正当な代金であると主張した。 3 裁判所の判断 裁判所は、証拠、関係者の供述及び証人尋問の内容から、以下のように判断した。 そのうえで、原告代表者も、取引当初から、本件売上取引が飽くまでメルシャン社から原告に対し資金を回すことを目的として行われたものであり、カンパチの引渡しを予定しない架空の取引であること、本件仕入取引も実体を伴わない架空の取引であることを認識して、本件各取引を行ったものと認めるのが相当であると結論を述べたうえで、争点の検討に入ることとした。   【各争点に対する裁判所の判断】 原告が、本件取引が架空のものであることを認識しているという前提条件のもと、裁判所は、次の4つの争点について、以下のとおり判断を下した。 1 [争点1]原告が得た金員は、「無償による資産の譲受け」として益金の額に算入すべきものであるか 原告は、「被告が本件金員を受贈益として評価するのであれば、本件売上取引について、これが形式上は売買であるものの、実際には贈与契約であることについてまで明確に主張・立証すべきである」として、処分行政庁による主張・立証が不十分であるとしたが、裁判所は、更正処分の適否について判断するに当たっては、本件金員の受領が「無償による資産の譲受け」に該当するか否かが問題になるのであって、原告と誰との間に民法上のいかなる典型契約が成立したかについてまで判断が求められるわけではなく、ただ、本件金員が本件売上取引の売買代金(及びその消費税)として受領されたものであるかどうか、返還あるいは何らかの債務の履行としての弁済が予定されたものであるかどうかについて判断することで足りるものと解されるとして、事実認定の結果、次のように結論づけた。 2 [争点2]処分行政庁による賦課決定処分の要件該当性 裁判所は、原告による「本件各取引は、実体を有するものであり、少なくとも、原告代表者はそのように認識していた」「原告の会計処理には原告代表者は関与していない」という主張を一蹴し、 と判断して、処分行政庁の賦課決定処分に違法性はないと結論づけた。 3 [争点3]青色取消処分の要件該当性 裁判所は、原告の青色申告承認を処分行政庁が取り消したことについても、 として、原告の主張を斥ける判断をした。 4 [争点4]租税公平(平等)主義との関係 原告は、本件の一連の取引に関わった各社、とりわけ、同様の循環取引を行っていたG社についても原告と同様の処分が行われるべきであるところ、実際には、原告のみが本件各処分を受けており、明らかに租税の公平性を害していると主張したが、裁判所は、 としたうえで、原告の主張は、処分行政庁による更正処分や賦課決定処分が違法となることを基礎付け得るものであるとは認められず、また、他の納税者の取扱いの一事をもって、原告に対してされた青色取消処分について、処分行政庁の裁量権の逸脱・濫用を基礎付ける事情は認められないと結論づけた。   【解説】 メルシャン社が2010(平成22)年8月12日に公表した社内調査報告書において、「E養殖」として社名が挙げられているのが、本件訴訟における原告である。同報告書19ページには、以下のような記述があり、メルシャン社がE養殖に対して有していた架空の売掛債権の回収を仮装するために、架空製造・架空販売が行われたことが明らかにされている。 メルシャン社による架空製造された飼料の代金支払いが循環して、カンパチの販売代金として、原告であるE養殖に入金され、その資金が、メルシャン社が原告に対して有していた架空売上による売掛金の回収に偽装されていたという実態を持つ取引を、裁判所は、「無償による資産の譲受け」として益金の額に算入すべきであるという処分行政庁の主張を認容して、納税者である原告の主張を斥けた。 なお、メルシャン社社内調査報告書の「D養殖」は、判決文では、G社となっており、原告であるE養殖は、G社(D養殖)に対する課税処分が、同社に対するものと異なっていることが、租税公平(平等)主義の観点から公平さを欠く旨主張しているが、上述のとおり、裁判所によってその主張は一蹴されている。 1 原告が得たとされる経済的利益とは何か メルシャン社社内調査報告書によれば、原告であるE養殖との間では、メルシャン社が製造を委託していた飼料への使用禁止薬物混入問題をめぐる賠償、台風による養殖魚の被害の救済措置、メルシャン社における先行売上・架空売上の計上など、長年にわたり複雑な貸し借りが行われてきた。本件訴訟で問題となった取引は、そうした貸し借りの結果、メルシャン社に滞留したE養殖に対する売掛債権の回収を偽装することにより、メルシャン社水産飼料事業部の存続を企図して行われたものであり、直接的に原告の利益となる取引ではなかった可能性がある。 判決は、原告であるE養殖は、B社から入金された金員をメルシャン社に対して有していた買掛金の支払いに充てたことを「経済的利益の供与を受けた」としたうえ、B社からのカンパチの仕入代金については、損金の額に計上しながら支払っていないことから、これを否認するという課税庁の処分を認容したものであるが、原告であるE養殖で計上されていた買掛金は、果たして実体のあるものであったのかどうかまでは、よくわからない。 2 メルシャン社のD養殖に対する代金返還請求訴訟 原告であるE養殖は、訴訟の中で、D(メルシャン社)がG(D養殖)に対し、原告と同様の一連の架空取引を理由として、G(D養殖)に渡った金銭のうち一部の返還を求める訴訟を提起していることを理由に、メルシャン社としても原告から資金の回収を予定していたことから、受贈益にはあたらないという主張を行っている。 ところが、実際には、メルシャン社は原告であるE養殖に対しては、代金の返還請求訴訟を提起しておらず、裁判所は、そうした事実も含めて、経済的利益の供与があったと認定した。ところが、前項で指摘したとおり、メルシャン社水産飼料事業部が架空計上した売上による売掛金の回収を偽装するために仕組んだ架空循環取引であるという視点からこの行為を見れば、原告であるE養殖には、本来、メルシャン社の架空売上に係る債務は存在しないにもかかわらず、資金だけをメルシャン社の指示のとおり循環させたに過ぎないのであって、よって、メルシャン社は、原告であるE養殖に対しては代金返還請求訴訟を提起しなかったのではないかと考えられはしないだろうか。   (了)

#No. 279(掲載号)
#米澤 勝
2018/08/02

[IFRS適用企業の決算書から読み解く]収益認識会計基準導入で売上高はどうなる? 【第3回】「「特大ハンバーガー、10分で完食したら無料!」は変動対価だった」

[IFRS適用企業の決算書から読み解く] 収益認識会計基準導入で 売上高はどうなる? 【第3回】 「「特大ハンバーガー、10分で完食したら無料!」は変動対価だった」   公認会計士 石王丸 周夫   ◆値段は1つではない 「特大ハンバーガーを10分で完食したら無料」といったたぐいのキャンペーンをたまに見かけます。そんな時に気になるのが、その店の売上高の計上方法です。 ハンバーガーの売価を1個2,000円とすると、以下の2つの方法が考えられます。 どちらが正しいのかは、このあと見ていきたいと思いますが、それにしてもずいぶん高いハンバーガーですね。いったいどんなハンバーガーなんでしょうか。1個2,000円ですからね。しかし、完食すれば無料ですから、10分でたいらげる自信があれば、定価は0円になります。 つまり、この特大ハンバーガーの値段は、1つではないのです。 このように、時と場合により変動しうる売買価格のことを、収益認識会計基準では「変動対価」と呼んでいます。変動対価が含まれる取引の例の1つにリベートがあります。 今回は「リベート」がテーマです。   ◆またしてもIFRS移行で売上減少 まず、以下のグラフを見てください。 ※動かない図はこちら このグラフは、住友ゴム工業(株)の2012年12月期から2016年12月期の5年度分について、売上数値(連結ベース)を並べたものです。 住友ゴム工業は、2015年12月期と2016年12月期について、日本基準による数値とIFRSに移行後の数値の2つを開示しています。上のグラフでは、その2つの年度について、日本基準とIFRSの両方の数値を表示しました。 このグラフで見てほしいのは、まさにそこです。いずれも、IFRSの数値が日本基準の数値を下回っています。6%の減少です。売上数値が6%減るというのは、それなりに大きなインパクトがあります。   ◆リベートの会計処理に原因が では、IFRSに変更したとき、なぜ売上が減ってしまったのでしょうか。 その原因は、リベートの会計処理にあります。リベートというのは売上割戻ともいい、メーカーや卸売業社が、取引量等に応じて得意先企業に支払う販売奨励金のことです。 算定方法や名目は様々ですが、得意先に刺激を与えて販売拡大をもくろむというものです。実質的には、販売価額の一部減額、売上代金の一部返金と考えられます。 その場合、会計処理としては、リベートを売上高から控除するのが適切と考えられていますが、日本の会計基準(企業会計原則)では特にそうした処理は示されておらず、売上高から控除する処理と販売費及び一般管理費とする処理の2つが併存してきました。 一方で、IFRSでは、リベートが得意先に対する販売促進費等の経費の補填であることが明らかな場合を除き、売上高から控除することになっています。 したがって、リベートを販売費及び一般管理費に計上してきた企業がIFRSに移行すると、リベートの額を売上から控除するように組み替える処理が必要になります。 図で示すと以下のとおりです。 住友ゴム工業の売上で起きた変化は、取引の詳細は知りえませんが、ごく単純化するとこのようなものであろうと推定されます。 次に、リベートが変動対価の一例である理由も考えてみましょう。 リベートの額が、一定期間経過して取引量等が確定するまでわからないというところがポイントです。一方で売上は、リベートの額が決まる前に計上するので、将来変動する可能性を内包した見積額で計上することになります。 その見積額が「変動対価」です。 変動対価による売上計上が求められるのは、冒頭の特大ハンバーガーの例でも同様です。すなわち、客にハンバーガーを引き渡した時点では、その客がチャレンジに成功するかどうかわからないため売上金額(2,000円 or 0円)を確定できず、その時点で売上代金を見積もって計上するのです。 見積り方法は2つ、「期待値」か「最頻値」です。 「期待値」というのは、複数のシナリオを想定して、各シナリオの確率を加味して全シナリオの平均値を求める方法です。「最頻値」というのは、最も発現する頻度の高いシナリオに沿った値を採用する方法です。 期待値はシナリオが多数ある場合に適しており、最頻値はシナリオが2つの時に適しています。 ハンバーガーの例では、シナリオは「客が10分以内に食べ終わるか終わらないか」の2択ですから、見積額は最頻値によって求めます。 仮に7割の客がチャレンジに成功しているという実績が観察されているのであれば、最頻値は0円となり、ハンバーガー引渡し時点で売上を0円で計上します。逆に、7割の客がチャレンジに失敗しているなら、売上を2,000円で計上します。これが冒頭の例題の解答です。 要するに、「純額処理すべし」というわけですが、冒頭に示した純額処理の方法とは少し違います。 冒頭の純額処理では、ハンバーガーの引渡し時点で一律に2,000円を売上計上し、10分後にチャレンジの結果を見て売上金額を確定させるというものでした。なぜそれではいけないのかというと、そこにはまた別の問題があります。 「いつ売上を計上するのか」というタイミングの問題です。 この例で売上を計上すべきタイミングは、ハンバーガーが「客のものになった」時点となります。客がハンバーガーを自由に食べることができるようになるのは、店員が客にハンバーガーを引き渡した時点ですから、その時点でハンバーガーは客の支配下に入ったと見てよいでしょう。 したがって、ハンバーガー引渡し時点で、見積額により売上計上するわけです(説明のためのたとえ話です。引渡しの10分後にチャレンジの結果がわかるので、その結果を見て、売上高2,000円 or 0円を計上するというのが現実の処理と考えられます)。   ◆利益率はわずかによくなる 財務指標への影響も見ておきましょう。 ※動かない図はこちら 上のグラフは、住友ゴム工業の売上高利益率の推移です。 利益を売上高で割ったものが売上高利益率ですが、上のグラフでは、分子の利益が「営業利益」の場合と「事業利益」の場合の2つがあります。日本基準の場合は営業利益を使用し、IFRSの場合(2015年12月期と2016年12月期)は事業利益を使用しています。 「事業利益」というのはこの会社が独自に開示している指標で、日本基準の営業利益に相当する数値です。したがって、事業利益率は、日本基準の営業利益率に相当する指標であり、両指標は比較可能なものだというわけです。 その前提でグラフを見てください。すると、この連載の前回までの事例と同様に、IFRSの場合に利益率が良くなることが観察されます。説明するまでもなく、これは単なる数字のいたずらで、IFRSでは、売上と販売費及び一般管理費が相殺され、分母の売上高が圧縮される一方、分子の利益は変動しないことから、売上高利益率が上昇するのです。 リベート取引がある場合、売上は縮小し、利益率は上昇する。これが、日本基準からIFRSへ移行したことによる変化です。 収益認識会計基準が適用されると、同様のことが起こると予想されます。   ◆おわりに さて、変動対価については、もう1つ大事なことを知っておく必要があります。 それは、変動対価が「一物多価」に対応した概念だということです。 「一物多価」とは、同一の物財が様々な価格で売られることを示す言葉であり、同一の物財が同一の価格で売られることを示す「一物一価」とは対極の概念です。 一物多価の状況が生まれる理由は、簡単に言えば、「同一の物財であっても、人によって評価が異なる」からです。ハンバーガーの例では、2,000円払ってもよいと思ってチャレンジする人もいれば、ある程度の成功確率を信じて、0円になることを期待してチャレンジする人もいるわけですが、あれは、ハンバーガーの製造コストというよりも、チャレンジ料の意味合いが強いのです。 このように、製造コストとは無関係に値付けされたものは、評価がバラつきます。 「成功すればタダ、失敗すれば2,000円」という設定を高いと感じるか安いと感じるかは、人それぞれの好みの問題です。要するに、人の好みが価格に強く反映する世の中では、価格は変動的なのです。 世の中の流れとしては、「一物一価」から「一物多価」です。会計の世界も遅ればせながら、その流れを取り込もうとしているかのように見えます。 (了)

#No. 279(掲載号)
#石王丸 周夫
2018/08/02

空き家をめぐる法律問題 【事例5】「空き家の相続放棄に関する問題」

空き家をめぐる法律問題 【事例5】 「空き家の相続放棄に関する問題」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 約1ヶ月前に、実家で生活していた私の父が死亡しました。父の相続財産には、老朽化した実家がある程度で、他に価値のある財産はありません。実家は地方ということもあり、買手が付く見込みも低そうです。 私は都心で生活しており、実家の管理等の負担も避けたいので、実家を相続することをためらっています。相続放棄をすれば、実家を相続しなくて済むと思うのですが、この他に相続放棄をするに当たってどのようなことに留意するべきでしょうか。なお、父の相続人は私だけです。   1 問題の所在 不動産を相続した場合でも、地域事情によっては売却が進まないため、維持費を負担し続けなければならない場合がある。このような負担を回避するために相続放棄をすることが考えられるところである。 一方で、【事例1】から【事例4】で検討してきたように、空き家の所有権者(又は管理者)となった場合には、民事上も行政上も様々な法的責任を負うリスクがある。そこで、今回は、相続放棄をすることによって、このような法的リスクを回避できるのかを検討することとしたい。   2 相続放棄後の管理義務について 相続開始後、相続放棄をした者は、当初から相続人とならなかったものとみなされるため(民法第939条)、相続財産に関する権限を有しないはずである。しかし、相続放棄によって相続財産の管理が行われず放置されると、次順位の相続人や他の相続人などに損害を与える可能性がある。 そこで、民法は、相続放棄後も相続放棄をした者に、事務管理(民法第697条)の一種として、相続財産の管理義務を負わせている。 (※)下線筆者   3 相続人不存在の場合の管理義務について 民法第940条によれば、同条に基づく管理義務が消滅する時期は、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」と規定されている。それでは、他に相続人がいない場合も、相続放棄をした者は、同条に基づく管理義務責任を負うのであろうか。 この点に関して、同条が相続放棄をした者に管理義務を負わせた趣旨は、相続放棄によって、相続財産の管理が放置されることによる損害を防ぐ点にある。また、相続財産管理制度は、相続財産管理人が、相続人や特別縁故者の存在を確認しながら、相続財産を管理・換価して最終的に国庫に帰属させるものであることからすると、相続人の有無によって区別する理由はない。 したがって、相続放棄をした者は、相続財産管理人が就任するまで管理義務を負うというべきである。 なお、その場合の解釈論としては、①民法940条を類推適用するか、②同条に規定する「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」という文言は、次順位の相続人が存在する場合の管理義務の終期を確認的に定めたものにすぎないと解釈して適用することになるものと考えられる。 実際にも、市町村が空き家の管理費用等を支出した後、相続放棄をした相続人に対して求償するという事態も散見されるところであり、これは相続放棄をした管理義務を前提としたものである。   4 相続放棄をする前後の留意事項 (1) 相続財産管理人の予納金 相続財産管理人の申立権は利害関係人に認められており、この利害関係人とは、相続財産について、法律上の利害関係を有する者を意味する。 相続債権者や成年後見人が典型例であるが、事務管理をしている者も含まれると解されている。上記のとおり、民法第940条の管理義務の法的性質は、一種の事務管理と解されていることから、相続放棄をした者にも申立権は認められる。 ただし、相続財産管理人の選任を申し立てる際に、相続財産の規模・内容からして、相続財産管理人の報酬を含む管理費用の財源が見込めない場合、実務上、管轄の家庭裁判所に数十万円から百万円程度の予納金を納付することが求められている。例えば、現金、預貯金等の流動資産が乏しく、他に換価価値のある財産がないような場合には、将来の相続財産管理人の管理費用に充てるため、予納金が求められることになるであろう。 このため、相続放棄後も、相続財産管理人の選任が行われず、空き家が十分に管理されないといった事態が継続することになる。 しかしながら、相続放棄をした者は、たとえ相続放棄をした後でも、管理を引き継ぐまでは管理者としての責任を負うのであり、その場合には、【事例1】から【事例4】で見たような法的リスクを負うことになるので、本件の相続人もこの点も念頭において相続放棄を選択することが求められる。 (2) 法定単純承認への配意 相続放棄を検討している者が、上記の法的リスクを回避しようとして相続放棄までの間に空き家を取り壊そうとすると、当該行為は、相続財産の全部又は一部を処分したものとして法定単純承認事由となるので注意が必要である(民法第921条第1号本文)。一方で、屋根や外壁の補修などの保存行為の限度であれば法定単純承認事由とはならないので、管理はこの限度に留めるべきであろう(同号ただし書)。 また、相続放棄が行われるまでの期間は、相続が開始してから比較的短期であることが多いのに対して、相続財産管理人が選任されるまでの期間は、長期に及ぶ傾向にある(そもそも相続財産管理人の選任申立てが行われないこともある)。このような場合に、管理費を支出し続けるよりも安い費用で建物の収去が完了できるのであれば、空き家を取り壊す選択肢も視野に入ってくるところである。 しかしながら、例えば、相続債権者が存在しており、事実上、債権回収を諦めていたような場合に、相続放棄をした者が空き家を処分すると、法定単純承認事由(民法第921条第3号)に該当し、相続放棄が無効となる可能性もあるので、注意が必要である。 そうなると、相続放棄をせず、相続人において建物を収去して更地として管理することも考えられるところであるが、この問題は、空き家の収去費用、将来の土地・建物に係る管理費用(固定資産税の負担を含む)、相続財産管理人を選任した場合の予納金の見込額など、種々の観点から慎重に検討せざるをえない。   5 補論-空き家の所有権放棄?- 空き家の所有者が一方的な意思表示によって所有権放棄をすることの可否が論じられることもあるが、民法学上、不動産の所有権を放棄することは認められないと解されてきた。 また、所有権放棄が行われるような空き家は、管理が行われず、民事上や行政上の責任を負う可能性が高い劣悪な状態のものであることが推測される。仮に、所有権放棄の可能性を認めるにしても、例えば、空き家のブロック塀が崩れて被害を被った者が、損害賠償請求をしてきた場合に、所有権放棄を行ったことを理由に責任を免れることは、信義則・公平の見地に照らして認められないことになるであろう(事案は異なるものの、このような考え方の参考になる裁判例として、最判平成6年2月8日民集48巻2号373頁参照がある)。 (了)

#No. 279(掲載号)
#羽柴 研吾
2018/08/02
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