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日本の企業税制 【第55回】「地方法人課税の偏在是正の動向」

日本の企業税制 【第55回】 「地方法人課税の偏在是正の動向」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇「地方法人課税に関する検討会」の設置 総務省は、5月11日、地方法人課税における税源の偏在を是正する新たな措置について検討を行うため、地方財政審議会に「地方法人課税に関する検討会」を設置することを発表した。第1回検討会は5月23日に開かれる。 今回の設置は、与党の平成30年度税制改正大綱における次の指摘を踏まえたものである(下線は筆者)。 平成30年度地方財政計画によれば、道府県税の税収(176,930億円)のうち地方法人二税の占める割合は26.5%(46,904億円)であり、市町村税(218,092億円)のうち法人住民税の割合は9.1%(19,915億円)である。地方税合計(395,022億円)では、地方法人二税の割合は16.9%(66,819億円)となる。なお、このほかに、地方法人特別譲与税となる地方法人特別税の税収は20,260億円である。   〇税収の偏在の状況 都道府県ごとの税収の人口1人当たりの額で比較すると(平成28年度決算速報ベース)、最大の自治体と最小の自治体の金額の倍率は、地方税合計では2.4倍に対して、地方法人二税においては6.1倍(地方法人特別譲与税を合わせると4.4倍)であり、地方法人二税の偏在の大きさがわかる(表参照)。 こうした税収の状況から、都道府県レベルでは、財政力指数が1を超え、地方交付税交付金が支給されない不交付団体となっているのは東京都のみであり、同指数が0.3を下回るのは鳥取、高知、島根の3県である(平成28年度)。 これまで、このような偏在の状況を踏まえ、地方法人二税においては、地方法人特別税及び地方法人税の創設によりその是正措置が講じられてきた。   〇地方法人特別税による是正措置 地方法人特別税は平成20年10月1日に創設され、法人事業税(所得割)のうち、消費税1%相当の税源交換と同等の効果を有する規模(従前の法人事業税収の5割弱)である約2.6兆円を地方法人特別税の規模として設定された。人口及び従業者数によりその全額を都道府県に譲与される仕組みである(なお、前年度の地方交付税の算定における財源超過団体に対しては、この改正による減収額として算定した額が財源超過額の2分の1を超える場合、減収額として算定した額の2分の1を限度として、当該超える額を譲与額に加算する激変緩和策が講じられた)。 創設当時、地方団体の間での財政力格差が拡大し、例えば、東京都及び23区の財源超過額(基準財政需要を基準財政収入が上回る額)は1.6兆円に達しており、財政力指数の下位8県の財源不足額の合計に匹敵する規模となっていた。こうした状況を改善すべく、あくまでも税制の抜本的な改革において偏在性の小さい地方税体系の構築が行われるまでの措置として本税は創設された。 そうした背景から、その後、平成26年10月1日の消費税率8%段階の対応として、その規模は3分の2に縮小(148%→67.4%、なお、平成27年度税制改正による所得割の税率引下げに伴い、地方法人特別税の実質的な税率を一定に保つため、平成27年度は93.5%、平成28年度からは152.6%とされている)、法人事業税(所得割)への復元がなされ(2.9%→4.3%、なお、平成27年度税制改正により平成27年度3.1%、平成28年度から1.9%に引き下げられている)、平成31年10月1日の消費税率10%段階において、法人事業税(所得割)に復元される(4.8%)こととなっている。   〇地方法人税による是正措置 平成26年10月1日の消費税率8%段階の対応として、地方法人特別税を縮減し、法人事業税への復元を行う一方で、地方法人税が創設された(道府県民税5.0%→3.2%、市町村民税12.3%→9.7%、地方法人税4.4%)。地方消費税の実質増収額(地方消費税の増収額から社会保障充実化等分を控除した額)を偏在是正額の目途として、その税収全額を地方交付税原資とした。したがって、東京都のような不交付団体には交付されない。 平成31年10月1日の消費税率10%段階において、地方法人特別税が廃止される一方、地方法人税が拡大し10.3%となり、道府県の法人住民税の税率はわずか1.0%(市町村は6.0%)となることとされている。   〇見直しに向けて 平成31年度税制改正に向けて、偏在是正策の検討が行われるが、消費税率10%の段階においては、道府県民税の税率はわずか1.0%であり、その見直しを行ったとしても偏在是正規模はわずかである。だとすれば、復元される法人事業税において、地方法人特別税に代わる新たな偏在是正策を講じる必要があるのではないか。 (了)

#No. 268(掲載号)
#小畑 良晴
2018/05/17

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第58回】「印紙税一括納付承認申請手続の改正(平成30年度税制改正)」

〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第58回】 「印紙税一括納付承認申請手続の改正(平成30年度税制改正)」   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   平成30年度税制改正により、平成30年4月に印紙税法の一部が改正され、印紙税一括納付承認申請手続について改正があったとのことですが、どのような内容ですか。 [改正の概要] 預貯金通帳等については、その預貯金通帳等を作成しようとする場所の所轄税務署長の承認を受けることによって、預貯金通帳等に係る印紙税を、印紙を貼り付けることに代えて、金銭にて一括して納付することができることとされている。 この一括にて納付する場合の特例は、その年の4月1日から翌年3月31日までの期間内に作成する預貯金通帳等については、毎年、2月16日から3月15日までの間に承認申請書を税務署に提出し、承認を受ける必要があったが、今回の改正により、承認を受けようとする課税期間(4月1日から翌年3月31日までの期間)の開始前に承認を受けていれば、その承認の日以後の各課税期間内に作成する預貯金通帳等について、一括納付の特例が適用されることとなった。 ただし、承認内容に変更があった場合は、改めて承認を受ける必要がある。 (注1) 「預貯金通帳等」・・・普通預貯金通帳、通知預金通帳、定期預金通帳、当座預金通帳、貯蓄預金通帳、勤務先預金通帳、複合預金通帳及び複合寄託通帳をいう。 (注2) 承認内容の変更により改めて承認を受ける必要がある場合の例 ・預貯金通帳等の作成場所が変更となった場合 ・通帳の種類を普通預金通帳のみの承認を受けていたが、新たに定期預金通帳の承認を受けようとする場合等 (注3) 一括納付の適用を受ける必要がなくなった時には、「印紙税一括納付承認不適用届出書」の提出を行う必要がある(新設の様式)。 [適用時期] 平成30年4月1日以後に作成する預貯金通帳等に係る承認について適用される。 (※) 承認を受けようとする最初の課税期間の開始の日の属する年の3月15日までに提出する。   (了)

#No. 268(掲載号)
#山端 美德
2018/05/17

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第2回】「海外企業の買収(M&A)に係る課税関係」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第2回】 「海外企業の買収(M&A)に係る課税関係」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社(J社)は、余剰資金を海外のM&Aに充てる計画であり、現在、X国法人であるX社の株式を全部取得する方法によってX社を買収することを検討しています。 税務上の観点から留意すべき点があれば教えてください。 [A] 株式譲渡によって海外の企業を買収する場合、株式を取得する側としては、買収後の課税関係について検討することが必要となります。 特に重要な点として、日本法人であるJ社が直接株式を取得するのか、それとも他国(例えば、A国)に設立された実体ある株式取得法人であるA社を通じて間接的に株式を取得するのかによって、X社からの配当の支払に対するX国(源泉地国)における源泉徴収課税、支払を受けた法人の居住地国における課税関係が異なり得ることになります。 さらに、買収したX社(子会社)の株式を将来において売却して譲渡益を得る可能性もありますので、その場合の課税関係についても検討しておくことが重要といえます。 ・・・[解説]・・・ 1 源泉地国における源泉徴収課税 X社の株式を取得することでX社はJ社(又はA社)の子会社となる。そこで、買収後は、X社からJ社(又はA社)に対して、配当の支払がなされることになる。そのほか、グループ間取引によって利子やロイヤルティ等の支払がなされる可能性もある。 これらの支払がなされる際には、源泉地国であるX国の国内法によっては源泉徴収がなされることになる。この源泉徴収課税については、その支払を受ける者の居住地国とX国との間で租税条約が締結されていれば、一定の減免を受けられる可能性がある。 この点、配当について、その支払を受けるのは直接の親会社であり、J社が直接株式を取得した場合は日本とX国との間の租税条約が適用されることになる。これに対して、A社を通じて株式を取得した場合はA国とX国との間の租税条約が適用されることになる。 これらの租税条約の内容が異なる場合、いずれが株式を取得するかによって配当の支払時にX国で適用される源泉徴収税率が異なる可能性がある。   2 居住地国における課税関係 X社から配当その他の所得を受領する側においても、J社とA社のいずれがその主体になるかによって当然課税関係が異なることになる。 この点、日本では、25%以上の株式(又は議決権)を6ヶ月以上保有する外国子会社からの配当については、子会社の所在地国で配当が費用として控除されるものでない限り、その95%を課税所得から除外することが認められる(外国子会社配当益金不算入制度)。 なお、課税されない配当に対応する費用については本来控除を否定して課税所得に含めるべきところ、これを個別に特定することが困難であるため、その控除を認める代わりに一律に配当の5%を課税所得に含めることとされている。 これに対して、A国の国内法によっては、一定の資本関係を有する子会社から受領する配当についてはその全額が免税とされる可能性がある(一定の資本参加を要件とすることから、資本参加免税といわれる)。また、そもそも配当が課税所得に含まれていない可能性もある。   3 子会社株式の譲渡益課税 将来、買収したX社(子会社)の株式を譲渡することがあり得る。仮に譲渡益(キャピタルゲイン)が生じた場合、J社とA社のいずれが株主であるかによってその帰属主体が異なることになる。 この点、日本では、配当の場合と異なり、子会社株式の譲渡益について益金不算入制度はなく、通常の所得と同様に課税所得に含まれることになる。 これに対して、A社の国内法によっては、子会社株式の譲渡益についても配当と同様に資本参加免税の適用が認められる可能性やそもそも課税所得に含まれていない可能性がある。ただし、その場合には、日本の外国子会社合算税制の適用関係についても検討が必要となる。 以上に加えて、A社を通じてX社の株式を保有する場合には、J社としては、X社の株式を直接譲渡するのではなく、その代わりにA社の株式を譲渡することによって間接的にX社を売却するという選択肢を採ることも可能となる。 この点、X社の株式が直接譲渡される場合、その譲渡益に対してX社の所在地国であるX国の国内法によっては源泉地国課税がなされる可能性があるが、A社の株式を譲渡することで間接的にX社が譲渡される場合は、X国の国内法でも課税の対象とされないことが多い。仮に国内法で課税の対象にされていても、租税条約では一般に源泉地国課税が否定され、X国では免税となる可能性がある。 このように、間接的に子会社株式を譲渡する場合には、その譲渡益に対して源泉地国課税がなされる可能性が低くなるといえる。   (了)

#No. 268(掲載号)
#木村 浩之
2018/05/17

相続税の実務問答 【第23回】「他の相続人の相続税を負担した場合」

相続税の実務問答 【第23回】 「他の相続人の相続税を負担した場合」   税理士 梶野 研二   [答] あなたが妹さんの相続税を負担することが、遺産分割協議の際の合意事項であると認められる場合には、それは代償分割の合意であると考えることができます。 その場合には、あなたが負担することとなる妹さんの相続税相当額を代償金の額として、あなたの相続税の課税価格の計算上、控除するとともに、同額を妹さんの相続税の課税価格に加算して、相続税額を計算することとなります。 また、遺産分割協議において、特に合意がなかった場合には、あなたが妹さんの相続税を立替払いしたと認められる場合を除き、妹さんの負担すべき相続税額に相当する金額をあなたから妹さんに対して贈与があったものとして、妹さんに贈与税が課されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 他の相続人の相続税を負担した場合 相続又は遺贈により財産を取得した者は、相続税法の規定に従って計算した相続税を納める義務があります(相法1の3、11)。相続税の納税義務者の納めるべき相続税を当該納税義務者に代わって他の相続人が納めた場合には、相続税法第8条の規定に基づき、原則として、当該納税義務者が当該相続税相当額を負担した他の相続人から、当該相続税相当額の贈与を受けたものとして贈与税が課されることとなります。   2 相続税相当額が代償金と認められる場合 しかしながら、例えば、法定相続分相当額以上の財産を取得した相続人が他の相続人の相続税相当額を負担することが、遺産分割協議の際に合意されていたならば、そのような遺産分割は、一種の代償分割が行われたものと考えることができます。 そうすると、相続税を負担することとなった相続人から、相続税相当額を負担してもらうこととなった相続人に対して、相続税相当額の代償金が支払われるものとして各相続人の相続税の課税価格を計算することとなります。この場合には、贈与税の課税問題は生じません。 (注) 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算については、【第9回】「代償分割により取得した財産への課税」及び【第10回】「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」を参照してください。 なお、遺産分割協議書にその旨が記載されていないとしても、相続税相当額の負担をも織り込んだところで分割協議が調ったことが確認できるのであれば、その合意自体は有効であり、遺産分割協議書にその旨が記載されていないという理由で直ちに贈与税の課税がされることとなるものではありません。しかしながら、相続税相当額の負担が遺産分割協議の際に合意されていたことが立証できない場合には、課税当局から、贈与との指摘がされたとしても、反論することは難しいと思います。 したがって、遺産分割協議時に、相続人のうちの1人が、他の相続人の相続税相当額を負担することが合意されたならば、その旨を遺産分割協議書に記載しておくことが必要です。   3 相続税相当額の立替え 相続税の納税義務のある者が相続税の納期限に納税資金を準備できない場合に、他の相続人又は相続人以外の個人に、相続税相当額を立替払いしてもらうことがあります。他の相続人又は相続人以外の個人に立替払いしてもらった金額は、いずれは返済すべきものですから、当該相続税の納税義務のある者に贈与税が課されることはありません。 しかしながら、当該相続税の納税義務のある者の返済が見込めないような場合には、相続税相当額の贈与があったと認定されることもあり得ます。 このような指摘を回避するためには、他の相続人又は相続人以外の個人に一時的に相続税の立替払いしてもらったときには、その金額、返済の方法、返済の期限等を文書に明確に定め、かつ、その定めに従って、確実に返済しておくことが求められます。   4 ご質問の場合 あなたが妹さんの相続税を負担することが、遺産分割協議の成立時における合意事項であるならば、妹さんに贈与税が課税されることはありませんが、その場合、妹さんの相続税相当額は、代償分割によりあなたから妹さんに支払われる代償金の額として、相続税の課税価格の計算をすることになります。 また、あなたが妹さんの相続税を負担することが、遺産分割協議の成立時における合意事項ではないならば、あなたから妹さんに対する贈与とみなされて贈与税が課税されることとなります。ただし、あなたが、一時的に妹さんの相続税を納付したものの、その金額相当額を妹さんから返済を受けることが確実であるならば、贈与税が課されることはありません。   (了)

#No. 268(掲載号)
#梶野 研二
2018/05/17

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第37回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第37回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第5章》 平成18年度税制改正) 3 株式交換等に係る税制 (1) 改正の概要 平成18年度税制改正により、株式交換・移転を行った場合には、合併を行った場合と同様の取扱いをすることになった。すなわち、非適格株式交換・移転に該当した場合には、完全子法人の保有する資産に対して時価評価を行うことが必要になった。なお、合併と異なり、資産及び負債を移転するわけではないため、保有している資産の時価評価という整理になっている(※1)。 (※1) 『平成18年版改正税法のすべて』299頁。 これに対し、株主が保有していた子法人株式については、合併と同様に、親法人株式以外の資産が交付されない場合には、投資が継続していると考えられるため、譲渡損益が実現しないこととされた。ただし、非適格株式交換・移転に該当する場合であっても、子法人から株主への資産の交付がないことから、みなし配当の対象からは除外された(※2)。 (※2) 前掲(※1)299頁。 このように、合併と足並みを揃えた理由としては、①会社法における合併と株式交換・移転の手続きが似ていること、②株式交換・移転を行った場合には、株式取得を通じて子法人の事業、資産を実質的に取得するのと同様の効果があること、③株式交換・移転は、合併を行った後に現物出資をしたのと同じ形態になること、であると説明されている(※3)。 (※3) 前掲(※1)299頁。 そして、親法人が取得した子法人株式の取得価額についても、非適格株式交換・移転を行った場合には時価になるものの、適格株式交換・移転を行った場合において、完全子法人の株主の数が50人未満である場合には、完全子法人の株主が有していた完全子法人株式の帳簿価額の合計額、完全子法人の株主の数が50人以上である場合には、完全子法人の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額(株式交換の前に、株式交換完全親法人が株式交換完全子法人の株式を有していた場合には、適格株式交換により株式交換完全親法人が取得した株式交換完全子法人の株式の数の占める割合を乗じて計算した金額)を基礎にそれぞれ計算することとされた。 さらに、被合併法人の完全子会社が、適格合併により連結子法人になる場合における時価評価課税の取扱いとの整合性のために、適格株式交換を行った場合における連結納税開始・加入時の時価評価の特例が定められた(※4)。 (※4) 前掲(※1)320頁。 (2) その後の影響 株式交換・移転税制の導入は、M&A業界に大きな衝撃を与え、様々な批判があったと記憶している。とりわけ、実務で問題視されたのは、営業権の時価評価課税である。この点については、平成29年度税制改正により、帳簿価額が1,000万円未満の資産を時価評価課税の対象から除外することにより解決された。 しかし、それまでの間は、株式交換・移転税制の脱法手段として、全部取得条項付種類株式を利用したスキームが生み出され、平成26年改正会社法では、株式併合・株式等売渡請求が導入されることにより、会社法上、堂々と株式交換・移転税制を逃れることを容認するような改正が行われた。 そして、平成29年度税制改正では、ブート税制が導入されるとともに、全部取得条項付種類株式、株式併合、株式等売渡請求により少数株主を締め出した場合であっても、株式交換・移転を行った場合と同様に取り扱われるようになった。 しかし、ブート税制と足並みを揃えた結果、ほとんどの事案において時価評価課税の対象から除外されるようになり、本稿校了段階では、非適格株式交換等・移転はほとんど用いられていない。むしろ、連結納税開始・加入における時価評価課税を逃れる手段として、適格株式交換等・移転が用いられていると言った方が、実態に合致している状態となっている。   4 新株予約権を対価とする費用 平成17年12月にストック・オプション等に関する会計基準が公表されたことに伴い、会計上、ストック・オプションの付与日における公正な評価額を付与日から権利確定日までの期間にわたって費用計上することとされた。 平成18年度税制改正では、従業員等において給与所得その他の勤労性の所得として課税される場合に限り、その課税される事由が発生する時点で損金算入することが認められた。すなわち、平成18年当時の法人税法施行令111条の2第2項では、 と規定されたことから、新株予約権者で付与時課税の対象になる場合には、譲渡制限が付されていないため、本税制の適用から除外される。 しかしながら、本税制の規定は、損金の額に算入する時期について定めた規定に過ぎず、付与時に課税される新株予約権については、役務提供の対価として支払うべき「未払金」という負債を「新株予約権」という負債に振り替えたのと変わらないため、新株予約権を付与した時点で損金の額に算入されると考えられる(※5)。ただし、新株予約権者が役員である場合には、役員給与の損金不算入の適用を受けるか否かの検討を行う必要がある。 (※5) 前掲(※1)347頁。 次に、新株予約権者で権利行使時課税の対象になる場合には、それが役務提供の対価である場合に限り、損金の額に算入することが認められる(また、当然のことながら、新株予約権者が役員である場合には、役員給与の損金不算入の適用を受けるか否かの検討を行う必要がある(※6))。そして、具体的な損金算入時期については、新株予約権の交付を受ける個人において、給与等課税事由が生じた時点であるとされた。これは、発行法人における損金が個人における所得に先行することを避けるためである(※7)。 (※6) 前掲(※1)346頁。 (※7) 前掲(※1)344頁。 ただし、損金の額に算入することができる金額は、新株予約権の発行が正常な取引条件で行われた場合には、新株予約権の発行の時の時価に相当する金額であるとされている。これに対し、新株予約権者では、「当該権利行使により取得した株式のその行使の日における価額」から「当該新株予約権の行使に係る当該新株予約権の取得価額にその行使に際し払い込むべき額を加算した金額」を控除した金額に対して所得税が課税されることから、発行法人において損金の額に算入することができる金額と、新株予約権者において所得税が課されるべき課税標準は一致しないという点に留意が必要である。 これに対し、税制適格ストック・オプションを発行する場合には、新株予約権の交付を受ける個人において、給与所得、事業所得、退職所得及び雑所得が発生しないことから、給与等課税事由が生じないため、損金の額に算入することができないという整理になる(※8)。 (※8) 前掲(※1)348頁。   5 新株予約権の有利発行又は不利発行 新株予約権は負債であることから、有利発行又は不利発行を行った場合には、資本等取引に該当せず、発行法人において益金の額又は損金の額に算入すべきではないかという疑問が生じる。この点につき、平成18年度税制改正では、これらを益金の額又は損金の額に算入しないこととされた。 この点について『平成18年版改正税法のすべて』349頁では と説明されている。 この取扱いは、募集株式の有利発行、不利発行においても同様に考えることができる。すなわち、時価と異なる価額で募集株式を発行したとしても、株主課税として取り扱われるものの、発行法人において課税は生じない。さらに、擬似DESにおいても、時価よりも高い金額で募集株式を発行したものとして整理せざるをえないが、株主において寄附金として認定され、有価証券の取得価額を構成しないものとされたとしても、発行法人において受贈益が生じることはないということが言える。 *   *   * 次回では、欠損等法人の取扱いについて解説を行う予定である。 (了)

#No. 268(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/05/17

〔平成30年4月1日から適用〕改正外国子会社合算税制の要点解説 【第8回】「部分合算課税②」-各特定所得の計算(非損益通算グループ所得)-

〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第8回】 「部分合算課税②」 -各特定所得の計算(非損益通算グループ所得)-   税理士 長谷川 太郎   1 押さえておきたいポイント   2 各特定所得の概要 部分合算課税の対象となる金額(部分課税対象金額)の計算構造については、前回解説を行った。今回からは、その計算の基礎となる各特定所得について、その内容の確認を行う。 各特定所得の概要は以下の通りとなっている。租税回避リスクを所得類型ごとに判断し、外国関係会社にその所得を得るだけの実質を備えていると考えられるものについて、事務負担も考慮して個別に除外することとされている(改正前は「事業(特定事業を除く)の性質上重要で欠くことのできない業務から生じたものを除く」とされていた(旧措法66の6④))。 【各特定所得の概要】 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 上記のうち、今回は「非損益通算グル-プ所得」(①~⑥)について取り上げ、次回は「損益通算グル-プ所得」(⑦~⑪)を取り上げることとする。   3 非損益通算グル-プ所得の内容及び留意点 ① 剰余金の配当等(措法66の6⑥一、措令39の17の3②~⑥) 剰余金の配当等に係る特定所得は、以下の計算により算出される。 (※1) 持株割合が25%以上(一定の資源投資法人から受ける配当等にあっては10%以上)かつ支払義務確定日以前6ヶ月以上(設立保有の場合には設立時から確定日まで)継続して保有している株式等に係る配当等を除く。ただし、配当支払法人において損金算入される配当等については、除外対象から除く(特定所得に含める)。 (※2) 「剰余金の配当等の額に係る費用の額として計算した金額」とは、以下の算式により計算した控除負債利子のことをいう。ただし、「剰余金の配当等の額を得るために直接要した費用の額」とされる負債利子の額がある場合には当該金額を控除した金額とし、控除した金額がマイナスとなる場合には「0」とする。 ② 受取利子等(措法66の6⑥二、措令39の17の3⑦⑧) 受取利子等に係る特定所得は、以下の計算により算出される。 (※3) 受取利子等に含まれるもの ・手形の割引料 ・償還有価証券に係る調整差益 ・その他経済的な性質が支払いを受ける利子に準ずるもの(リ-ス資産の引渡しを行ったことにより受けるべき対価の額に含まれる利息に相当する金額を除く。) ⇒リ-ス資産に係る利息相当については、「固定資産の貸付けによる対価の額」に含まれることから、受取利子等の範囲からは除かれている。 (※4) 受取利子等から除かれるもの その本店所在地国において活動するための十分な経済合理性があると認められる一定の利子については、特定所得の対象から除かれている。 具体的には、預貯金の利子、割賦販売の利子、グル-プファイナンス会社の収受する関連者からの利子、グル-プファイナンス会社等に貸し付けたことによる利子が除外対象となるが、詳細は以下の通りである。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※5) 受取利子等の額を得るために直接要した費用の額は、「例えば、その受取利子等について課された源泉税や借入金を原資に金銭の貸付けを行う場合におけるその借入金に係る支払利子等のような、その受取利子等の額を得るために直接紐付きの関係が確認できる費用が想定されています。」とされている(財務省「平成29年度税制改正の解説」国際課税関係の改正P.694)。 (※6) 「通常必要と認められる業務」については、「平成29年度改正 外国子会社合算税制に関するQ&A(情報)」のQ11において解説がされており、「財務業務」及び「貸付け業務」として具体的な業務内容や業務委託をしている場合の考え方等についても解説がされている。「全て」に従事しているかどうかの考え方については、Q12において解説がされているため、詳細は各Q&Aを確認されたい。 ③ 有価証券の貸付けによる対価(措法66の6⑥三) 有価証券の貸付けの対価に係る特定所得は、以下の計算により算出される。 ④ 固定資産の貸付けの対価(措法66の6⑥八、措令39の17の3⑮~⑰、⑳㉑) 固定資産の貸付けの対価に係る特定所得は、以下の計算により算出される。 (※7) 以下の固定資産の貸付けについては、対象から除かれている。 (イ) 主としてその本店所在地国において使用に供される固定資産(不動産及び不動産の上に存する権利を除く)の貸付けによる対価の額 (ロ) その本店所在地国にある不動産及び不動産の上に存する権利の貸付けによる対価の額 (ハ) その本店所在地国においてその役員または使用人が固定資産の貸付けを的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てに従事していること等の一定の要件を満たす部分対象外国関係会社が行う固定資産の貸付けによる対価の額 (※8) 減価償却費 減価償却費の額は、会社単位の合算課税の計算と同様に、原則として法人税法第31条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)の規定の例に準じて計算した場合に算出される償却限度額に達するまでの金額とされているが、部分対象外国関係会社が有する固定資産に係るその事業年度の償却費の額としてその本店所在地国の法令の規定によりその事業年度の損金の額に算入している金額をもって固定資産の償却費の額とすることができるとされている。 ただし、償却費の額としてその事業年度の損金の額に算入している金額が、その固定資産の取得価額を各事業年度の損金の額に算入する金額の限度額として償却する方法を用いて計算されたものである場合には、法人税法第31条の規定の例によるものとした場合に損金の額に算入されることとなる金額に相当する金額をもって償却費の額とされるとされている。これも会社単位の合算課税の計算と同様である。 ⑤ 無形資産等の使用料(措法66の6⑥九、措令39の17の3⑱~㉑) 無形資産等(※9)の使用料に係る特定所得は、以下の計算により算出される。 (※9) 無形資産等 無形資産等とは、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使用権を含む)または著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む)をいう。 (※10) 以下の使用料は、対象範囲から除外されている。 (イ) 部分対象外国関係会社が無形資産等の研究開発を主として行った場合のその無形資産等の使用料 (ロ) 部分対象外国関係会社が取得した無形資産等につき相当の対価を支払い、かつ、その無形資産等をその事業(株式等若しくは債券の保有、無形資産等の提供または船舶若しくは航空機の貸付けを除く。以下の(ハ)において同じ)の用に供している場合のその無形資産等の使用料 (ハ) 部分対象外国関係会社が使用を許諾された無形資産等につき相当の対価を支払い、かつ、その無形資産等をその事業の用に供している場合のその無形資産等の使用料 (※11) 減価償却費 「④ 固定資産の貸付けの対価」と同様の考え方により計算を行う。 ⑥ 異常所得(資産、人件費、減価償却の裏付けのない所得)(措法66の6⑥十一、措令39の17の3㉓~㉗) 異常所得に係る特定所得は、以下の計算により算出される。 (*) 財務省「平成29年度税制改正の解説」P712より抜粋 (了)

#No. 268(掲載号)
#長谷川 太郎
2018/05/17

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第2回】「みんな損がキライ」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第2回】 「みんな損がキライ」   公認会計士 石王丸 香菜子   *資料* 第1事業部の製造ラインは、受注の関係により、5月だけフル稼働でなく遊休が生じる予定である。この遊休を活用するため、得意先A社に対して、A社の社名入りファイル10,000個を納入する契約を交渉するか、検討している。現在、ライバル企業も、同様の取引をA社に対して交渉しており、当社がA社に交渉した場合、受注できる見込みは50%と見込んでいる。 仮に契約が成立した場合には、6月中に社名入りファイル10,000個を1個当たり400円で納入する。ただし、製造ラインに遊休が生じるのは5月だけなので、契約の成立を待たずに、見切り発車で社名入りファイル10,000個を5月中に製造するしかない。 5月に見切り発車でファイルを製造したものの、A社から受注できなかった場合、A社の社名入りファイルであるため、そのまま外部販売することはできない。ただし、社名の入った部分のパーツを取り外し、アウトレット品として1個当たり160円で外部販売することができる。パーツ取り外しについては、追加の原価は生じない。 ファイル1個当たり原価   *  *  * 1 損失を避けるココロの性質 私たちの生活の中では、利益を得るチャンスもあれば、損失を被るリスクもある、というシ-ンが多くあります。第1事業部長とカズノ君の会話の中で出てきたように、 50%の確率で15,000円の利益 or 50%の確率で9,000円の損失 というゲ-ムがあったとします。単純に計算すれば、15,000円×50%+△9,000円×50%=3,000円ですから、ゲ-ムから得られる金額の期待値は3,000円の利益ですが、たいていの人は、このゲ-ムをやりたいと思わないでしょう。 その理由は、15,000円の利益を得るという「期待感」と、9,000円の損失を被るという「恐怖感」とを比較すると、9,000円の損失を被るという「恐怖感」の方を強く感じるからであると考えられます。 そこでみなさんは、いくらの利益を得られるなら、このゲ-ムをやってみようと思うでしょうか? 例えば、50%の確率で、9,000円の倍以上の20,000円の利益が得られるならば、ゲ-ムにチャレンジしようという気持ちになる人は、多そうですね。たいていの人の場合、損失の約2倍以上の利益を見込めないと、このゲ-ムをやりたいとは思わないという実験結果があります。 大雑把に言えば、ココロで感じる「損失を被る時のがっかり感」は、「同じ金額の利益を得る時の幸福感」の約2倍のインパクトがあるというわけです。そのため、『利益を得たい』という心理よりも『損失を避けたい』という心理の方が非常に強く働くことになります。 こうしたココロの性質は、「」と呼ばれています。 損失回避の傾向は、アタマで合理的に熟慮した結果というよりも、ココロの直感的・本能的な反応です。第1事業部長の判断にも、この損失回避の傾向が表れていますね。   2 データを正しく扱うことで合理的な意思決定を ここで、視点を切り替えて、カズノ君が原価デ-タから気づいたことについて、考えてみましょう。 ファイル1個当たりの原価の内訳は、材料費などの変動費が150円、減価償却費などの固定費が100円です。材料費などの変動費は、ファイルの製造量に応じて増減する原価です。一方、製造ラインの減価償却費などの固定費は、ファイルの製造量には関係なく一定額が必ず発生してしまう原価です。 この固定費は、A社向けファイルを製造するかしないかに関わらず、発生してしまうという点に注目してください。「ファイル1個当たりの固定費」は、必ず発生してしまう一定額の費用を、便宜上、製造量で割って算出したものにすぎません。 したがって、A社向けファイルを製造するか否かの意思決定に際しては、この固定費を考慮するべきではありません(このように、意思決定の際に考慮しない原価のことを、『埋没原価』と言います)。 この点に注意して、固定費を含めない損益を算定してみましょう。 固定費を考慮外とすると、受注できた場合は2,500,000円の利益増加、受注できずアウトレット品として販売する場合でも100,000円の利益増加となりますから、実はこの案件、第1事業部長の判断とは逆に、契約交渉すべきだということがわかりますね。 このように、ココロの直感的・本能的な損失回避の傾向に、会計デ-タの扱い方の間違いが重なると、合理的な意思決定ができずに、せっかくのビジネスチャンスを逃しかねません。 損失を強く避けるココロの癖を知っておくとともに、遊休能力を利用するか否かの意思決定における固定費の扱いを覚えておきましょう。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 「利益を得たい」という心理よりも、「損失を避けたい」という心理の方が非常に強く働く傾向のこと。 ▷ 製品の製造量や販売量に関係なく、一定額が発生してしまう原価。設備の遊休能力を利用するか否かの意思決定をする場合、設備について生じる固定費は、考慮する必要はない。 (了)

#No. 268(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/05/17

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第72回】昭光通商株式会社「改善報告書(平成29年6月26日付)」、「改善状況報告書(平成29年12月27日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第72回】 昭光通商株式会社 「改善報告書(平成29年6月26日付)」、 「改善状況報告書(平成29年12月27日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載【第58回】で取り上げた昭光通商株式会社(以下「昭光通商」と略称する)の子会社で発生した資金循環取引の発覚に伴う過年度決算の訂正事案に関し、2017年6月12日において、東京証券取引所(以下「東証」と略称する)は、「公表措置及び改善報告書の徴求」を公表し、同月26日までに「改善報告書」の提出を求めた。その理由を、リリースから引用する。 公表措置を受けて、昭光通商は、同年6月26日「改善報告書」を、12月27日に「改善状況報告書」を東証に提出した。本稿では、両報告書の内容から、なぜ短期間に2度の特別調査委員会を設置することになったのか、とりわけ、最初の特別調査委員会による再発防止策の提言が、経営陣に受け容れられなかったのかを検証したい。   【東証による公表措置に至る経緯】   【昭光通商株式会社の概要】 昭光通商株式会社は、1947(昭和22)年5月設立。化学品、合成樹脂、金属などの製造及び販売を主たる事業とする。資本金約80億円。売上高124,326百万円、経常利益1,967百万円(数字は、いずれも平成29年12月期)。従業員数525名。本店所在地は東京都港区。東京証券取引所1部上場。 昭光通商(上海)有限公司(以下「昭光上海」と略称する)は2001年10月1日設立。設立時のリリースには、「現在推進中の中期経営計画において、貿易取引の拡大を掲げ、国際化戦略を積極的に進めて」いる中、「この戦略の具体的施策として」、上海に本格的な営業拠点を置くという説明がされている。設立時の資本金は400,000米ドル(現在は64,000千米ドル)で、昭光通商が100%出資している。主要事業は、輸出入取引全般及び中国国内取引。 株式会社ビー・インターナショナル(以下「ビー社」と略称する)は、化学品及び関連商品の輸入販売を業務内容とし、2014年1月、昭光通商が株式の100%を取得して連結子会社化した。資本金5,000万円、本店所在地は東京都港区。   【2度にわたる特別調査の概要】 1 昭光通商及び昭光上海における貸倒引当金繰入(特別損失の計上) 2015(平成27)年5月8日、昭光通商は昭光通商及びその連結子会社である昭光上海において、中国国内の取引先に対する売掛債権の回収不能が発覚し、貸倒引当金繰入額128億円を特別損失として計上することとなったことを公表した。 設置された特別調査委員会(調査委員に昭光通商の常勤監査役が加わっているため、第三者委員会ではない)の調査結果概要は、同年7月30日に公表された「特別調査委員会の調査結果について」と題されたリリースは、A4版でわずか6ページというものであり、取引の全容を説明するものとは言えなかった。 調査結果は、昭光通商が中国国内の鉄鋼関連メーカーに販売した「鉄鉱石」取引に係る売掛金残高約61億円、昭光上海が同じ中国企業に販売した「鉄鋼製品」取引に係る売掛金残高54億円については、「取引の実在性については、特段の疑義を差し挟む根拠は、確認されませんでした」とする一方、昭光上海が別の中国国内の貿易商社に販売した「鉄鋼製品」取引に係る売掛金残高26億円については、「2014年6月以降の取引において製品の出荷がなされていないことが判明した」として、仕入及び販売を取消したうえで、仕入先に支払済みであった代金を長期未収入金に計上したことを説明している。 なお、以下では、この特別損失の計上について、「中国子会社問題」と表記する。 2 ビー社における資金循環取引(本連載【第58回】の内容をまとめたものである) 昭光通商は、平成28年第3四半期の決算概況説明会以降、会計監査人である有限責任あずさ監査法人から連結子会社であるビー社の取引について、仕入先及び販売先になっているA社及びB社の代表取締役が同一人物であることから、商流の適正性・合理性等について、注意喚起及び調査依頼を受けた。 そこで、昭光通商監査役は、11月25日にビー社への往査を実施するとともに、引き続き、関連部門を中心に本件取引の関係書類等の精査を行ったところ、受領していた船荷証券の写しに偽造又は変造を疑わせる痕跡が発見されたため、外部専門家をメンバ-とする特別調査委員会を設置して、調査を行った。 その結果、ビー社が行った資金循環取引には、B社を仕入先とし、A社を販売先とする「取引A」と、A社を仕入先としてB社を販売先とする「取引B」との2つの類型があった。 【図1:取引Aの商流】 取引Aでは、中国メーカーが製造した工業品を上海所在のG社が輸入し、最終顧客であるC社工場などに直接納品されることとなっていたため、ビー社においては、納品確認等は行っていなかった。 【図2:取引Bの商流】 取引Bでは、ビー社の販売先・仕入先が真逆になっているだけで、A社とB社の間にビー社が入るという商流自体は変わらない。また、取引Aとは異なり、輸入を担当する商社名や最終顧客名などは、ビー社に明らかにされていなかった。 特別調査委員会は、これらの取引を資金循環取引と断定し、昭光通商は過年度決算の修正を余儀なくされることなった。昭光通商がビー社を買収した2014年12月以降におけるこうした資金循環取引の累計額は14,655百万円に達し、2016年12月期においてはビー社の売上高8,478百万円のうち71%を資金循環取引が占めるという事態に陥っていた。 3 中国子会社問題を受けた昭光通商の取組み 昭光通商による、第1回目の特別調査委員会の調査結果の公表(2015年7月30日)では、「特別調査委員会の調査報告を真摯に受け止め、同じような事態が二度と起こらないよう、提言された内容を最大限に尊重」するとして、再発防止策6項目が列挙されている。 ところが、2度目に設置した特別調査委員会の報告書(2017年4月17日)では、特別調査委員会が再発防止策の冒頭に総論として挙げたのが、「当社としての取組の検討・実施・検証・公表」という項目であった。そこでは、昭光通商の取組みについて、次のような批判が語られている。 4 特別調査委員会の人選について 2度にわたる特別調査委員会には、いずれも、常勤の社外監査役である酒井仁和氏(昭光通商の親会社である昭和電工株式会社出身)が委員として加わっている。 常勤監査役を委員に加えることで、社内の情報収集や関係者へのヒアリングがスムーズに進むなどのメリットが期待できることは否定しないが、常勤監査役として「中国子会社問題」再発防止策の取組状況を監視・監督する立場にあった酒井氏が、「全社的なリスク評価を行っておらず、組織的な実施及びその評価、並びに、更なる施策の検討といったPDCAサイクルの実施が十分でなかった」とする調査報告書をまとめていることに違和感を抱かざるを得ない。 なお、酒井氏は、昨年12月5日付「役員の異動のお知らせ」において、平成29年3月下旬開催の定時株主総会で退任の予定が伝えられたものの、3月6日付「役員の異動のお知らせ」において、「平成28年度決算発表が再延期となり、平成29年2月13日に設置した特別調査委員会の委員であることを鑑み、監査役辞任を見送る」という、異例の役員人事となっている(なお、その後平成29年7月から、非常勤の社外監査役)。   【改善報告書における原因分析】 「中国子会社問題」において、昭光通商は、昭光通商により作成されたと思われる特別調査委員会による調査の「概要」を公表したのみであり(A4にして約4ページ)、全文は公表していない。 そして、2014年6月以降の取引における実在性に疑義が生じながらも、貸倒引当金の繰入時期は、売掛金の未回収問題が発覚した2015(平成27)年12月期に特別損失として計上し、過年度決算の修正は行わないこととしている。また、調査対象も昭光通商と昭光上海における中国取引を中心に、両社に限定されていた。 こうしたことから、中国子会社問題における特別調査委員会による再発防止策の提言がなぜ、昭光通商において徹底されなかったのかが問題となろう。もっといえば、中国子会社問題における特別調査委員会の調査対象を連結子会社のすべてにまで広げておけば、ビー社の資金循環取引はその時点で明らかになった可能性が高い。 こうした疑問に、昭光通商が東証に提出した「改善報告書」がどのように答えているか、検証したい。 1 「改善報告書」における原因分析 昭光通商が東京証券取引所に提出した「改善報告書(平成29年6月26日付)」には、「原因分析」の項目が設けられ、6ページ以上にわたって詳細な分析が記載されている。 まずは、「原因分析」の見出しを列挙したい。 巨額の貸倒引当金の設定を余儀なくされたにもかかわらず、経営者に、「再発防止策の適確な立案と効果的な実行を会社全体として総合的、継続的に管理する全社的な体制を構築して進めるべきとの認識がなかったこと」について、改善報告書では、 という2つの問題点を認識している。 いまさらではあるが、高い報酬を支出してまで調査委員を招聘するのは、証券取引所、株主をはじめとするステークホルダーへの言い訳などが目的ではなく、ましてや、経営陣の保身のためであってはならない。 言うまでもなくその目的は、事実の徹底的な解明と原因分析を通じて、再発防止策の提言を受け、企業の信頼回復を図ることにほかならない。 せっかく的確な提言を示されながら、これを自己の都合の良いように解釈してしまい、結果的に2度目の調査委員会を設置せざるを得なかった昭光通商の事案は、不祥事を発生させた組織にとって、示唆に富むものであると言えよう。 2 「改善状況報告書」における改善措置とその実施状況 昭光通商が東京証券取引所に提出した「改善状況報告書(平成29年12月27日付)」から、改善措置及びその実施状況について、昭光通商は次のように評価している。 こうした評価の妥当性については、昭光通商の今後の業績を見ていくことで検証することとなろうが、全社横断的な「再発防止プロジェクトチーム」の組成と、取締役会への取組み状況の定期的な報告、再発防止策の実施支援を外部専門家に業務委託したこと、審査法務部の部長に外部の人材を採用したことなど、目に見える形で再発防止策に取り組んでいる状況が、昭光通商による改善状況報告書には詳細に記述されている。 (了)

#No. 268(掲載号)
#米澤 勝
2018/05/17

連結会計を学ぶ 【第18回】「子会社株式の一部売却②」-支配の喪失-

連結会計を学ぶ 【第18回】 「子会社株式の一部売却②」 -支配の喪失-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は子会社株式の売却により、支配を喪失するケースについて、「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社から関連会社となるケース(支配の喪失) 1 子会社株式の売却損益の修正 子会社株式の売却により支配を喪失して関連会社となる場合には、資本連結実務指針45項及び45-2項に従って会計処理を行う(資本連結実務指針41項)。 子会社株式の一部を売却し連結子会社が関連会社となった場合、当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されない。 このため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表上に計上している当該関連会社株式の帳簿価額は、当該会社に対する支配を喪失する日まで連結財務諸表に計上した取得後利益剰余金(時価評価による簿価修正額に係る償却及び実現損益累計額を含む)及びその他の包括利益累計額並びにのれん償却累計額の合計額等(以下「投資の修正額」という)のうち売却後持分額を加減し、持分法による投資評価額に修正することが必要となる(資本連結実務指針45項)。 個別財務諸表上、子会社株式の売却損益は、売却価額と売却した分の帳簿価額(個別財務諸表上の帳簿価額)の差額として算定される。 一方、連結財務諸表上は、売却した分の帳簿価額(個別財務諸表上の帳簿価額)を、連結財務諸表上の帳簿価額に修正する必要がある。 このため、売却前の投資の修正額とこのうち売却後の株式に対応する部分との差額(その他の包括利益累計額を除く)について、個別財務諸表で計上した子会社株式売却損益の修正として処理することとなる(資本連結実務指針45項)。 2 その他の包括利益累計額の取扱い その他の包括利益累計額に関する処理については、連結財務諸表上、子会社に係るその他の包括利益累計額(その他有価証券評価差額金、退職給付に係る調整累計額など)のうち一部売却に係る部分については、子会社株式の売却により連結上の実現損益となるため、個別財務諸表上の子会社株式売却損益(当該部分が既に含まれている)の修正に含めないとされている(資本連結実務指針45項)。 当該実現損益は当期純利益を構成するため、組替調整額(「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)9項)の対象となる。 3 取得関連費用の取扱い 資本連結実務指針8項のとおり、連結財務諸表上、子会社株式の取得関連費用は、発生した連結会計年度の費用として処理されるが、個別財務諸表においては、付随費用は、取得価額に含めることとなる。支配獲得後において、子会社株式を追加取得した際に発生した取得関連費用(連結財務諸表)及び付随費用(個別財務諸表)も同様である(資本連結実務指針46-2項、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)26項、「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)56項)。 このため、子会社株式の売却時において、付随費用は個別財務諸表上の売却簿価に含まれるが、連結財務諸表上の売却持分には含まれないことから、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用のうち売却した部分に対応する額については、連結財務諸表上、個別財務諸表に計上した子会社株式売却損益の修正として取り扱う(資本連結実務指針46-2項)。 また、引き続き保有する部分に対応する額については、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当せず連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上することとなる(資本連結実務指針46-2項)。 支配を喪失して子会社から関連会社となり、持分法を適用することとなった場合には、連結財務諸表上、関連会社株式の投資原価には支配喪失以前に費用処理した支配獲得時の付随費用を含めないとされている(資本連結実務指針46-2項、66-7項)。 4 のれんの未償却額の取扱い 支配獲得後に追加取得や一部売却等が行われた後に、子会社株式を一部売却し、支配を喪失して関連会社になった場合、支配獲得後の持分比率の推移等を勘案し、適切な方法に基づいて、関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却額を算定する(資本連結実務指針45-2項)。 支配を喪失して関連会社になった場合におけるのれんの未償却額の算定に当たっては、いくつかの考え方があり得るが、支配獲得後の持分比率の推移等を勘案し、のれんの未償却額のうち、支配獲得時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法や支配喪失時の持分比率に占める関連会社として残存する持分比率に相当する額を算定する方法などの中から、適切な方法に基づいて、関連会社として残存する持分比率に相当するのれんの未償却額を算定することとなる(資本連結実務指針66-6項)。   Ⅲ 子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなるケース(支配の喪失) 1 子会社株式の売却損益の修正 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)29項は、子会社株式の一部を売却し、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとしている。 この場合の子会社株式売却損益の修正額は、関連会社になった場合(資本連結実務指針45項及び45-2項)に準じて算定する(資本連結実務指針46項)。 売却後の投資の修正額の取崩額は、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に、連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上することになる(資本連結実務指針46項)。 2 取得関連費用の取扱い 前述のように、子会社株式の一部を売却し、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合には、連結財務諸表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するとされており、当該個別貸借対照表上の帳簿価額には付随費用が含まれることになる(資本連結実務指針46項、46-2項)。 子会社株式の売却時において、付随費用は個別財務諸表上の売却簿価に含まれるが、連結財務諸表上の売却持分には含まれないこととなるので、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用のうち売却した部分に対応する額については、連結財務諸表上、個別財務諸表に計上した子会社株式売却損益の修正として取り扱い、引き続き保有する部分に対応する額については、子会社が連結子会社及び関連会社のいずれにも該当せず連結範囲から除外される際に、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金の区分に連結除外に伴う利益剰余金減少高(又は増加高)等その内容を示す適当な名称をもって計上することとなる(資本連結実務指針46-2項)。 (了)

#No. 268(掲載号)
#阿部 光成
2018/05/17

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編- 【第1回】「会社組織の調査」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編-   弁護士法人ほくと総合法律事務所 パートナー 弁護士 石毛 和夫   (次回)→   ◇〔法務編〕開始にあたって◇ 本連載は、既に連載されている「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務」の各論・法務編であり、並行して連載されている「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編-」の姉妹編にあたる。 したがって、読者諸賢は、本連載を、法務デューデリジェンスに関する独立の読み物として読んでいただいてもよいが、本誌No.259、No.261、No.264及びNo.266に掲載されている「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-共通編-」と合わせて読み、あるいは〔財務・税務編〕と並行して読み進めていただくことで、総合的・有機的にデューデリジェンスを理解することができる。   《序章》 -はじめに- 〔共通編〕【第1回】にも記載したとおり、法務デューデリジェンスは、M&A取引の実行にあたり、対象会社等について、法的問題点の有無を調査する手続である。 対象会社に関する法的問題点全般を洗い出すことを目的とするものであることから、その調査項目は、会社組織、株式、関係会社、許認可、契約、資産・負債、知的財産権、労務、訴訟・紛争など、広範にわたることが多い。 実施される手続は、〔共通編〕【第2回】・【第3回】でも記載したとおり、主として、①資料の査閲、②マネジメントインタビュー及び③現地調査である。 では、弁護士は、これらの手続により、いったいどのような事項を調査しているのだろうか。 以下、調査項目ごとに概説してみよう。   《第1章》 -会社組織- 【第1回】 「会社組織の調査」   1 精査対象資料 「会社組織」項目調査資料としては、以下のようなものが挙げられる(〔共通編〕【第2回】に掲載した表とも重複するが、ここでは読者の参照の便宜上、再掲載する)。   2 調査手続 一般に、「会社組織」や「会社統治」等と呼ばれている調査項目では、以下のような事項が調査される。 (1) 対象会社の組織の概要 対象会社の定款、登記事項証明書、組織図や役員履歴書等により、対象会社の機関設計、主要な事業所、定款による株式譲渡制限の有無、内部組織図及び役員等の組織概要に関する情報を整理し、報告書に取りまとめる。 M&A実行にあたって株主総会の決議や種類株主総会の決議が必要である場合には、その点も記載しておくべきであろう。 ◆株式会社における機関設計と会社規模・閉鎖性による違い (2) 直近の組織再編行為 直近(ケースにもよるが、過去2~3年程度の間)に合併・事業譲渡(譲受)・会社分割・株式交換(移転)等がなされている場合は、その概要に関する情報を整理し、報告書に記載する。 (3) 定時株主総会 ① 株主総会議事録等により、定時株主総会が法令・定款所定の時期に開催され、法定の決議事項及び報告事項が決議・報告されていることを確認する。 ② 各決議の有効性を確認する。  株主総会議事録により、決議内容の違法(無効事由:会社法830条2項)や定款違反(取消事由:会社法831条1項2号)、特別利害関係株主の議決権行使による著しく不当な決議(取消事由:会社法831条1項3号)の有無を確認する。また、手続の違法、定款違反及び著しい不公正(取消事由:会社法831条1項1号)の有無も確認する。ただし、一般には、手続の調査は、招集通知や株主総会参考書類の記載内容のみから判断できる範囲のものに限られることとなろう。  なお、株主総会議事録があっても、法律上株主総会と評価し得る実態がなかった場合には、決議は不存在(会社法830条1項)とされ、議事録どおりの決議の効力は認められないことには注意を要する。そのような事情の有無は、マネジメントインタビューにより確認すべきこととなる。 (4) 臨時株主総会・種類株主総会 株主総会議事録等により、臨時株主総会の開催状況・決議内容を調査し、登記や定款等との不整合がないかを確認する。また、定時株主総会と同様にして、各決議の有効性を確認する。 対象会社が種類株式発行会社である場合には、種類株主総会の決議についても同様の調査が必要となる。ただし、種類株主総会の決議事項は限定的であること(会社法321条)に注意を要する。 (5) 取締役会 ① 取締役会議事録により、法定の頻度(3ヶ月に1回:会社法363条2項参照)で取締役会が開催されているか否かを確認する。 ② 法令等所定の取締役会決議事項が決議されているかを確認する。  代表取締役の選定(会社法362条3項)や株主総会の招集(会社法298条4項)等は比較的確認しやすいが、重要な職務執行の決定(会社法362条2項各号)に関する決議や、取締役の競業取引・利益相反取引の承認決議(会社法356条1項)等がもれなく履行されているかどうかの確認は難しい。  大規模な投資や事業展開、資金調達がいつなされたか、大口取引先との契約はいつ締結されたか、取締役が役員等を兼任している会社はどこか等、対象会社の社歴や経営実態に関する情報を総動員して、法定決議事項に該当する経営上の意思決定の有無をチェックしていくこととなる。  また、対象会社の中に、「常務会」「経営会議」等の名称で経営上の意思決定を行う会議体があるときは、本来取締役会で決議すべき事項をそちらで決議していることが間々あるので、そちらの議事録からアプローチすることも考えられる。 【取締役会の専決事項】 取締役会設置会社における取締役会の専決事項は、下記のとおりである。なお、これらの事項については、取締役会が決議しなければならず、社長や執行役員等に対して委任することが認められない。 ③ 決議の有効性を確認する。  実務上特に留意を要するのは、特別利害関係取締役の参加(会社法369条2項)である。ただし、特別利害関係取締役が審議・決議に参加していても、当然に決議が無効になるわけではないと考えられる(最高裁平成28年1月22日判決等参照)。 ④ その他、取締役会議事録の内容から、対象会社のリスク情報として指摘すべき事項がないかを確認する。 ⑤ なお、以上では便宜上、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社ではない、いわば「単純な」取締役会設置会社を前提に解説した。監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社の場合には、各委員会議事録の精査等により、各委員会及び委員が適法に職務を遂行しているかどうかの確認も必要となる。 (6) 監査役・監査役会 監査役や監査役会が設置されているときは、監査報告や監査役会議事録等から、監査役監査の実施状況を確認する。監査役監査での指摘事項があったときは、その内容及び是正の状況を調査する。 *  *  * 実務上は、「会社組織」項目の調査によってディール・ブレイクや具体的な減価要因に至る問題点が発見されることは稀であり、どちらかといえば、対象会社に対する基礎情報の収集・整理のための調査という側面が強い。 しかし、経験上、例えば取締役会の開催・決議や監査役の監査等、「会社組織」の領域における法令遵守体制が未整備である会社は、概ね、それ以外の領域においても体制未整備であることが多い。 その意味では、「会社組織」の調査は、対象会社の全般的な法務リスクの程度をはかるバロメータとなるため、なかなかあなどれない調査なのである。 (了)

#No. 268(掲載号)
#石毛 和夫
2018/05/17
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