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〈平成30年度改正対応〉賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の適用上の留意点Q&A 【Q2】「適用要件の見直し」

〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q2】 「適用要件の見直し」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   [Q2] 平成30年度の税制改正により、従来の適用要件はどのように見直されたのでしょうか。   [A2] 今回の改正により、適用要件について以下の見直しが行われています。 ・大企業と中小企業で異なる要件を設定 ・基準事業年度概念の廃止 ・比較雇用者給与等支給額の取扱い及び調整計算の見直し ・平均給与概念の廃止 ・大企業については設備投資要件の追加 【解説】 改正後の制度では、大企業(中小企業者等以外)と中小企業者等のそれぞれについて適用要件が定められており、具体的には下表の通りである(措法42の12の5①②)。 (1) 適用要件に差異を設けている 改正後の制度では、適用対象法人を「中小企業者等」に該当する法人とそれ以外の法人(いわゆる大企業)に区別し、それぞれに異なる適用要件を定めている。中小企業者等の定義自体は変更されていない(措法42の4⑧六、措令27の4⑫)。 なお、本連載では以後、中小企業者等に該当しない法人のことを便宜的に「大企業」と称する。 (2) 基準雇用者給与等支給額の取扱い・設立事業年度の取扱い 改正前の制度の適用要件とされていた「基準雇用者給与等支給額」との比較は、今回の改正により「基準事業年度」の概念が廃止されたため不要となった。 あわせて、基準雇用者給与等支給額の算定に関して定められていた「新設法人の取扱い」(旧措法42の12の5②四ハ)も廃止されたほか、設立事業年度に本税制は適用されないことが明確にされた(措法42の12の5①冒頭カッコ書き)。 (3) 比較雇用者給与等支給額の取扱いの見直し 改正前の制度の適用要件とされていた「比較雇用者給与等支給額」との比較は、適用要件として定められるのではなく、「雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以下である場合」には適用要件を満たさないという表現に変更された(措法42の12の5①本文)。 改正後の制度では控除税額を比較雇用者給与等支給額からの増加額に基づき計算することとされたため、これを適用要件とする意味がなくなったものと考えられる。 また、適用年度と前事業年度等の月数が異なる場合の調整計算についても、支給実態をより適切に反映させるための見直しが図られている(詳細は【Q3】を参照されたい)。 (4) 平均給与等支給額の取扱い 改正前の制度の適用要件とされていた「平均給与等支給額」の比較は、継続雇用者給与等支給額の総額によって判定することとされたほか、継続雇用者給与等支給額の集計範囲についても見直しが行われている(詳細は【Q4】を参照されたい)。 平均給与等支給額が分数概念であったために特別な規定が必要とされていた「継続雇用者給与等支給額が零の場合の取扱い」についても変更され、この場合には適用要件を満たさないことが明確化された(措令27の12の5㉒)。 (5) 設備投資要件の追加(大企業のみ) 大企業については、一定規模の設備投資を行うことが適用要件の1つとされており、賃上げの要件のみを満たしているだけでは本税制の適用を行うことができない。 具体的には、国内設備投資額が当期償却費総額の90%以上であることが必要である(措法42の12の5①二。詳細は【Q5】を参照されたい)。 (6) 賃上げと設備投資に消極的な大企業に対する租税特別措置の適用停止(大企業のみ) 「賃上げ」と「設備投資」の要件に関連して、そのどちらの要件も満たさない企業について本税制の適用を受けられないことは言うまでもない。 これに加え、平成30年4月1日から平成33年3月31日までの間に開始する事業年度(対象年度)において、以下のすべての要件を満たす大企業については、投資に消極的な企業であるとして一定の租税特別措置(研究開発税制、地域未来投資促進税制、IoT投資促進税制)の適用が停止されることとなった(措法42の13⑥)。 (了)

#No. 277(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2018/07/19

〔平成30年度税制改正対応〕非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度(事業承継税制の特例措置) 【第5回】「相続税の納税猶予制度の特例(その2)」

〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第5回】 「相続税の納税猶予制度の特例(その2)」   太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳    3 相続税の申告 (1) 期限内申告・担保の提供 特例措置の適用を受ける特例経営承継相続人等(後継者)は、この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書に、当該非上場株式等の明細及び納税猶予分の相続税額の計算に関する明細その他財務省令で定める事項を記載した書類を添付して提出しなければならない(措法70の7の6⑥)。 「その他財務省令で定める事項を記載した書類」として、特例認定承継会社の定款、相続の開始の直前及び相続の開始の時における株主名簿、円滑化法認定における認定書及び申請書、特例承継計画の確認に関する確認書及び申請書、遺言書・遺産分割協議書などが規定されている(措規23の12の3⑭)。 申告期限は、一般措置と同様に相続開始があったことを知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10ヶ月を経過する日であり、当該申告期限までに納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供する必要がある。この担保について、特例措置の対象となるすべての株式を担保として提供した場合は、当該納税猶予分の相続税額に満たないときであっても、納税猶予分の相続税額に相当する担保が提供されたとみなされる(措法70の7の6④)。 (2) 納税猶予分の相続税額 特例措置において納税が猶予される相続税額は、特例対象非上場株式等の価額を特例経営承継相続人等に係る相続税の課税価格とみなして、相続税額を計算した金額とされている(措法70の7の6②八)。 仮に、相続人が2名(子A・子B)、特例経営承継相続人である子Aが特例対象非上場株式等(評価額10億円)と現金1億円を、子Bが2億円の現金を相続した場合、次のとおり、相続税の納税猶予額は412,500,000円、納付すべき相続税額は135,399,900円(子A:51,107,600円、子B:84,292,300円)となる。 上記〈ステップ2〉において、特例措置の適用を受ける非上場株式等のみを相続財産として納税猶予分の相続税額を算定することとなるため、納税猶予の適用を受ける非上場株式等については累進税率による税率の低い部分が納税猶予の対象となり、納税猶予の対象とならない非上場株式等以外の財産には税率の高い部分が適用されることとなる点に留意が必要である。   4 納税猶予期限の確定事由 特例措置の適用を受けた非上場株式等を相続税の申告後も継続保有することにより、納税猶予が継続することとなる。したがって、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡するなど一定の事由が生じた場合には、納税が猶予されている相続税の全部又は一部について納税猶予の期限が確定し、猶予税額を利子税と併せて納付しなければならない(措法70の7の6③)。 納税猶予の確定事由については、雇用確保要件以外は一般措置と同様であるため、主要なもののみ挙げることとする。   5 雇用確保要件の内容 (1) 年次報告書の提出 特例認定承継会社は、当該認定に係る相続税の申告期限から5年間、相続税の申告期限の翌日から起算して1年を経過するごとの日(以下「第一種相続報告基準日」という)の翌日から3月を経過する日までに、常時使用する従業員の数や、中小企業者が資産保有型会社又は資産運用型会社に該当しないこと等を都道府県知事に報告しなければならない(円滑化規則12③)。 一般措置においては、平成30年度改正後も認定を受けた中小企業者が5年間で平均8割の雇用を維持することができなかった場合は認定取り消し(円滑化規則9③三)となるため、従業員数確認期間(経営承継期間と同様、相続税の申告期限の翌日以後5年を経過する日をいう)の末日からから2月を経過する日が納税猶予の期限となり、猶予税額の全額と利子税を納付しなければならない(措法70の7の2③二)。 一方、特例措置においては、一般措置において雇用確保要件が規定されている租税特別措置法70条の7の2第3項2号を除いて一般措置を準用することとされており、5年間で平均8割の雇用を維持することができなかった場合でも納税猶予の期限が確定しないこととされた(措法70の7の6③)。 (2) 都道府県知事の確認 特例措置の適用を受けた場合において、特例相続報告基準日(相続税の申告期限の翌日から1年を経過するごとの日)におけるそれぞれの常時使用する従業員の数の合計を基準日の数で除して計算した数が、当該認定に係る相続の開始の時における常時使用する従業員の数に100分の80を乗じて計算した数を下回る数となった場合には、その下回る数となった理由について都道府県知事の確認を受けなければならない(円滑化規則20②)。 この確認を受けようとする場合には、当該認定に係る有効期限の末日の翌日から4月を経過する日までに、【様式第27】による報告書(※1)を都道府県知事に提出する必要がある(円滑化規則20③)。 (※1) 従業員の数が100分の80を下回る数となった理由について、認定経営革新等支援機関の所見の記載があり、理由が経営状況の悪化である場合又は認定経営革新等支援機関が正当なものと認められないと判断したものである場合には、認定経営革新等支援機関による経営力向上に係る指導及び助言を受けた旨が記載されているものに限る。 道府県知事は、上記の報告を受けた場合において、確認をした時は、【様式第28】による確認書を交付し、確認をしない旨を決定したときは【様式第29】により申請者である特例認定承継会社に対して通知をしなければならないこととされている(円滑化規則20⑭)。 (3) 継続届出書の提出 特例措置の適用を受ける特例経営承継相続人等は、特例経営承継期間内(5年間)は毎年、その期間経過後は3年ごとに、継続届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない(措法70の7の6⑦)。 その際、上記(1)の年次報告書と、雇用確保要件を満たすことができていない場合には上記(2)の報告書及び道府県知事の確認書(様式第28)を継続届出書に添付しなければならない(措令40の8の6㉗、措規23の12の3⑮六)こととされた。なお、特例措置に係る継続届出書の様式は、本稿執筆現在、国税庁ホームページにおいて未公表である。 継続届出書が届出期限(第一種基準日(※2)の翌日から5月を経過する日及び第二種基準日(※3)の翌日から3月を経過する日)までに納税地の所轄税務署長に提出されない場合には、届出期限の翌日から2月を経過する日をもって同項の規定による納税の猶予に係る期限となり、猶予されている相続税の全額と利子税を納付する必要がある(措法70の7の6⑦⑨)。したがって、雇用確保要件を満たせていないことについて道府県知事の確認が受けられた場合には納税猶予が継続され、確認が受けられなかった場合には、納税猶予の継続が認められず納税猶予の期限が確定することとなる。 (※2) 第一種基準日とは、相続税の申告書の提出期限の翌日から1年を経過するごとの日をいう(措法70の7の6②九イ)。 (※3) 第二種基準日とは、特例経営承継期間の末日の翌日から3年を経過するごとの日をいう(措法70の7の6②九ロ)。   6 事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除 特例経営承継期間の末日の翌日以後に、事業の継続が困難な事由として政令で定める事由が生じた場合において、特例措置の適用を受けた非上場株式等を譲渡等したときは、その対価の額(対価の額が時価の2分の1以下である場合には、時価の2分の1に相当する金額を下限とする)をもとに相続税額を再計算し、再計算した相続税額と直前配当等(配当金及び損金不算入となった役員給与)の額の合計額が当初の納税猶予税額を下回る場合には、その差額が免除される(措法70の7の6⑬一~四)。 (※) 国税庁HP「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(事業承継税制)のあらまし」より 「事業の継続が困難な事由として政令で定める事由」とは、次に掲げる事由とする(措令40の8の6㉙)。 上記(a)の「収益の額が費用の額を下回る場合として財務省令で定める場合」とは、特例認定承継会社の経常損益額が零未満である場合をいう(措規23の12の3⑳)。 再計算された相続税額と猶予税額との差額について免除を受けるための手続き及び再計算された相続税について担保提供を行ったうえで改めて納税猶予を受けるための手続き等については、本連載の後段において詳述することとする。 *  *  * 次回は、非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70の7の7)、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の8)について解説する。   (了)

#No. 277(掲載号)
#日野 有裕、梶本 岳
2018/07/19

平成30年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第3回】「『所得拡大促進税制』の改組(その3:連結納税特有の論点、連結納税と単体納税の有利・不利)」

平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第3回】 「『所得拡大促進税制』の改組(その3:連結納税特有の論点、連結納税と単体納税の有利・不利)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸     3 連結納税特有の論点1(他の連結法人の役員の親族は使用人に含まれるのか) 国内雇用者の対象になる使用人には、役員の親族等、役員と特殊の関係にある者は含まれないが、ある連結法人の使用人の中に、他の連結法人の役員の親族がいる場合、その使用人は当該連結法人の国内雇用者に含まれるか否かという疑問が生じる(例えば、持株会社である連結親法人の役員の親族が、事業会社である連結子法人の使用人である場合など)。 つまり、連結納税制度における所得拡大促進税制は、連結グループ全体で要件の判定を行うという仕組みであるため、連結グループを一法人とみなした場合、そのような使用人は国内雇用者に含まれないのではないかという疑問である。 しかし、条文上、連結納税制度における所得拡大促進税制の適用要件の判定は、連結グループを一法人とみなしてまとめて計算するのではなく、あくまで各連結法人ごとに計算した雇用者給与等支給額(比較雇用者給与等支給額、継続雇用者給与等支給額、継続雇用者比較給与等支給額を含む。以下、同じ)を合計した金額で行うことになっている(個社の数値の積上げで判定する)。 言い換えると、各連結法人ごとに単体納税を採用している場合に計算される雇用者給与等支給額を合計した金額で要件の判定を行うことになるため、この場合、当該使用人は、当該連結法人の国内雇用者に含まれることになる。   4 連結納税特有の論点2(他の連結法人への転籍者は継続雇用者に含まれるのか) 継続雇用者は、当連結事業年度及び前連結事業年度の全期間の各月において給与等の支給がある雇用者が該当するため、前連結事業年度に中途入社した者や当連結事業年度に退職した者は除かれる。 そのため、ある連結法人の国内雇用者が当連結事業年度又は前連結事業年度の中途に他の連結法人に転籍した場合、その国内雇用者は、当該連結法人又は当該他の連結法人の継続雇用者に含まれるか否かという疑問が生じる。 つまり、連結納税制度における所得拡大促進税制は、連結グループ全体で要件の判定を行うという仕組みであるため、連結グループを一法人とみなした場合、そのような国内雇用者は当該連結法人又は当該他の連結法人のいずれにおいても継続雇用者に含まれるのではないかという疑問である。 しかし、租税特別措置法第68条の15の6第3項第5号では、継続雇用者給与等支給額について、「連結親法人又は当該連結親法人による連結完全支配関係にある各連結子法人ごとに、継続雇用者(省略)に対する当該適用年度の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。」と定義しているため、連結グループを一法人とみなして考えるのではなく、あくまで各連結法人ごとに継続雇用者に該当するか否かを考えた上で、各連結法人ごとに継続雇用者給与等支給額(継続雇用者比較給与等支給額を含む。以下、同じ)を計算することになる。 言い換えると、各連結法人ごとに単体納税を採用している場合に継続雇用者に該当する国内雇用者を対象にして、継続雇用者給与等支給額を計算することになるため、この場合、当該国内雇用者は当該連結法人又は当該他の連結法人のいずれにおいても継続雇用者には該当しない。   5 連結納税と単体納税の有利・不利 【第1回】【第2回】で比較したとおり、連結納税制度における所得拡大促進税制は単体納税におけるものと取扱いが異なる。 そのため、連結納税を採用した場合、所得拡大促進税制について、次の点で単体納税と比較した場合に有利・不利が生じることとなる。 連結グループ全体で適用要件(賃上げ要件、設備投資要件、教育訓練費要件)の判定を行うため、単体納税において、各連結法人ごとに適用要件を満たす場合でも、連結納税において、連結グループ全体で適用要件を満たさない場合がある。また、単体納税において、各連結法人ごとに適用要件を満たさない場合でも、連結納税において、連結グループ全体で適用要件を満たす場合がある。 さらに、税額控除限度額の計算上、雇用者給与等支給増加額に乗じる率が15%から20%、15%から25%となる上乗せ措置についても、連結納税の場合、連結グループ全体で教育訓練費要件等の判定を行うため、各法人ごとに判定する単体納税と比べて連結納税の有利・不利が生じる。 連結納税における所得拡大促進税制は、各法人ごとの法人税額基準額を限度とする単体納税と異なり、連結グループ全体の法人税額基準を限度に控除が行われるため、その点で有利・不利が生じる。 例えば、単体納税では、連結子法人において所得が発生しないため、当該連結子法人で税額控除を受けられなかった雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額。以下、同じ)について、連結納税により、連結グループ全体で所得が発生することにより、税額控除が受けられる場合がある。 一方、単体納税では、連結子法人において所得が発生していたため、当該連結子法人で税額控除を受けることができた雇用者給与等支給増加額について、連結納税により連結グループ全体で所得が発生しないことになり、税額控除が受けられなくなる場合もある。ただし、この場合、そもそも連結納税の損益通算効果により連結グループの法人税額が減少するため、その点において連結納税の採用は不利にならない。 連結納税の場合、連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合(連結親法人が中小企業者に該当しない場合、あるいは、中小企業者に該当するが連結納税の適用除外事業者に該当する場合)、連結グループ全体で中小企業者の所得拡大促進税制を適用することができないため、単体納税で中小企業者の所得拡大促進税制を適用している連結法人がある場合、不利益が生じる。 また、同様に、連結納税の場合、連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合、所得拡大促進税制の税額控除額を住民税の課税標準(調整前個別帰属法人税額)から控除できないため、単体納税でこれを控除している連結法人がある場合、不利益が生じる。 [所得拡大促進税制の税額控除額が増加するケース(その1)] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [所得拡大促進税制の税額控除額が増加するケース(その2)] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [所得拡大促進税制の税額控除額が減少するケース(その1)] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 [所得拡大促進税制の税額控除額が減少するケース(その2)] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   (了)

#No. 277(掲載号)
#足立 好幸
2018/07/19

相続税の実務問答 【第25回】「死亡退職金(退職給与規程により支給対象者が決まっている場合)」

相続税の実務問答 【第25回】 「死亡退職金(退職給与規程により支給対象者が決まっている場合)」   税理士 梶野 研二   [答] お母様に支給された死亡退職金は、お母様が相続により取得した財産ではなく、A社の退職給与規程に基づいて、お母様が固有の権利としてA社から取得したものです。したがって、この死亡退職金は遺産分割の対象とはなりません。 相続税の申告においては、お母様が取得した財産として相続税額の計算を行うことになります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 死亡退職金 被相続人の死亡により相続人その他の者が、本来であれば被相続人に支給されるべきであった退職金(死亡退職金)の支給を受けた場合(ただし、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものに限られます)には、その退職金は、相続人等の固有の権利であって、相続により取得するものではありません。しかしながら、相続税の課税上は、相続により取得したものとみなされて、相続税の課税対象とされます(相法3①二)。 ただし、相続人が支給を受けた死亡退職金については、次の計算式で求めた非課税限度額を超えた場合のみ、相続税が課税されることとなります(相法12②六) (死亡退職金の非課税限度額) 500万円 × 相続税法第15条第2項に規定する相続人の数 (注) 相続税法第15条第2項に規定する相続人の数は、相続の放棄をした者を含み、また、被相続人に養子がある場合には、一定の制限が設けられています(相法15②③)。   2 死亡退職金の支給を受けた者 相続税法第3条第1項第2号の被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の支給を受けた者とは、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に掲げる者をいうものとされています(相基通3-25)。   3 質問の場合 お父様が営業部長を務めていたA社の場合、亡くなった従業員に配偶者がいるときには、退職給与規程により、その配偶者に死亡退職金が支給されることとされています。お母様は、この退職給与規程に基づいて、A社から、直接、死亡退職金を取得したのであって、被相続人から相続によって取得したものではありません。 相続税の課税上は、お母様が、この死亡退職金を相続により取得したものとみなされますが、お父様の遺産ではないため、遺産分割の対象とはなりません。 したがって、相続税の申告書の提出期限までに、遺産分割協議が調わないことから、相続税法第55条に規定により、各相続人が法定相続分により財産を取得したものとして相続税の申告をする場合であっても、死亡退職金2,700万円全額をお母様が相続により取得した財産として相続税の計算を行うこととなります。 なお、お母様が取得した死亡退職金については、非課税限度額に相当する金額1,500万円(500万円×相続人の数3人)までは非課税財産とされますので、2,700万円のうち、この非課税金額を超える1,200万円が相続税の課税価格に算入される金額となります。また、遺産分割が完了していないとしても、この1,200万円については相続税法第19条の2第1項の規定による配偶者の税額軽減の計算の対象にもなります。   (了)

#No. 277(掲載号)
#梶野 研二
2018/07/19

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第46回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第46回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) ③ 分割編 Ⅲ.分割編でも、Ⅱ.合併編と同様の内容が記載されている。合併編に比べて特徴的なのは、「組織再編税制の手引」146-147頁において、分割型分割に該当するのか、分社型分割に該当するのかにつき、分割計画書又は分割契約書を閲覧したうえで調査を行う必要があるという点が記載されていることであろう。 平成22年度税制改正により、分割型分割及び分社型分割の定義が変わったため、同手引の内容をそのまま利用することはできないが、その基本的な調査の姿勢については参考にすることができる。 そして、合併と異なり、期中損金経理額等の損金算入に関する届出書、一括償却資産、繰延消費税額等の引継ぎに関する届出書がそれぞれ必要になるという点に留意が必要である。具体的には、「組織再編税制の手引」244-247、269-280頁において、これらの届出書を提出しているかどうかが調査対象になることが明らかにされている。 なお、同手引174-181、183-192、249-251頁では、分割型分割、分社型分割における資本金等の額、利益積立金額の調整計算についても記載されている。平成13年当時と異なり、組織再編税制に関する申告書の書き方についての書籍も充実していることから、同手引でも具体的な調整方法について記載されており、税務調査において指導を受ける可能性があるため、ご留意されたい。 ④ 現物出資編 Ⅳ.現物出資編でも、Ⅱ.合併編、Ⅲ.分割編と同様の内容が記載されているが、①外国法人に対する現物出資、②DES(デット・エクイティ・スワップ)について記載されているという点が特徴的である。 すなわち、会社法上、(ⅰ)内国法人を分割法人とし、外国法人を分割承継法人とする分割、(ⅱ)外国法人を分割法人とし、内国法人を分割承継法人とする分割は認められていないが、(イ)内国法人を現物出資法人とし、外国法人を被現物出資法人とする現物出資、(ロ)外国法人を現物出資法人とし、内国法人を被現物出資法人とする現物出資は認められているため、「組織再編税制の手引」305-308頁には、クロスボーダーの現物出資についての内容が記載されている。 そして、デット・エクイティ・スワップを行った場合の現物出資法人の処理については同手引336-339頁で記載されており、被現物出資法人の処理については同手引362-363頁で記載されているが、ここで留意すべきは後者である。すなわち、非適格現物出資に該当するDESを行った場合には、被現物出資法人において債務消滅益課税が生じることが明らかにされており、税務調査でも当然に議論になると考えられる。 なお、Ⅴ.事後設立編については、平成22年度税制改正により廃止され、Ⅴ.株式交換編、Ⅵ.株式移転編は、平成28年度税制改正、平成29年度税制改正により、(ⅰ)株式交換やスクイーズアウトを行った後に子法人株式を譲渡する場合、(ⅱ)株式交換やスクイーズアウトを行った後に逆さ合併を行う場合以外は、ほとんど適格組織再編成として処理されることになったため、本稿では解説を行わない。 ⑤ 申告調整編 Ⅷ.申告調整編では、適格組織再編成に係る移転資産及び移転負債を時価で引き継ぐ場合と、非適格組織再編成に係る移転資産及び移転負債を簿価で引き継ぐ場合に分けて解説がなされている。そして、実務上、会計上は資産及び負債を時価で引き継いだにもかかわらず、税務上は適格組織再編成に該当する事案は十分に想定される。 「組織再編税制の手引」516-517頁では、適格合併を行った場合の申告調整について記載されているが、被合併法人の最後事業年度の別表5(1)における「差引翌期首現在利益積立金額」の「差引合計額」が適格合併により合併法人で増加する利益積立金額となり、被合併法人の最後事業年度の別表5(1)における「差引翌期首現在資本金等の額」の「差引合計額」が、適格合併により合併法人で増加する資本金等の額となることが、強く意識されている。 平成13年当時と異なり、組織再編税制に関する申告書の書き方についての書籍も充実していることから、同手引でも具体的な調整方法について記載されており、税務調査において指導を受ける可能性があるため、ご留意されたい。 なお、Ⅷ.申告調整編では、繰越欠損金と特定資産譲渡等損失額の別表についても解説されているが、申告書の書き方を示しているだけであり、「組織再編税制の手引」が公表される前であっても、市販の書籍で確認できる内容がほとんどである。 敢えて指摘するとすれば、同手引539頁で記載されている別表7(1)付表1の作成方法として、第8欄に記載する金額が「特定資本関係事業年度以後の事業年度である場合には(5)と(7)のうち少ない金額」とされている理由について、 としている点である。 すなわち、第5欄の金額は被合併法人の最後事業年度の別表7(1)に残っている繰越欠損金であり、第7欄の金額は第9欄から第13欄(特定資本関係事業年度以後の欠損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額の計算)により計算された金額であるが、この場合の第9欄の金額は、被合併法人の最後事業年度の別表7(1)に残っている繰越欠損金ではなく、それぞれの事業年度で発生した繰越欠損金を記載するということが分かる。 このように、平成22年度税制改正の直前段階では、ようやく国税庁も組織再編税制に対応できる体制になっており、簡単なものであれば、現場レベルで組織再編税制の税務調査に対応できるようになっていたことが分かる。 とりわけ、形式的な申告調整方法については、既にマニュアル化がされていたことは、実質的な内容についての調査を行うことができる余力が存在していたことを意味し、その後のヤフー事件やSスキーム事件のような難しい組織再編税制についても対応できるようになっていたことが分かる。 *   *   * 次回では、平成18年から平成21年までの間に、国税局の職員が租税研究で行った講演内容について解説する予定である。 (了)

#No. 277(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/07/19

〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第4回】「海外拠点に係る課税関係」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第4回】 「海外拠点に係る課税関係」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社は、海外に事業を展開するため、A国に拠点を設けることを検討しています。拠点には支店や子会社の形態があると聞いていますが、それぞれ課税上どのように異なるのでしょうか。 [A] 支店と子会社で最も大きく異なる点は法人格の有無であり、それによって費用収益の帰属が異なります。すなわち、法人格を有しない支店で生じた費用と収益はすべて本店の費用と収益に合算されるのに対して、独立した法人格を有する子会社の費用と収益が親会社の費用と収益に合算されることは通常ありません。 そのほか、将来の譲渡時の課税関係や利子の費用控除などの点で異なる可能性があり、また、資金の還流の場面においても支店と子会社で課税関係が異なり得ますので、これらを総合的に検討することが重要です。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 企業が海外に事業を展開するにあたっては、事業活動の拠点を設ける場合とそうでない場合がありうる。海外の顧客と契約を締結して商品の販売やサービスの提供をするなど、日本にいながら事業を展開することも可能であり、その場合は海外に拠点を設ける必要はない。 これに対して、現地に実際に進出して事業活動をする場合には、何らかの拠点を設ける必要がある。この拠点には、一般に、支店の形態と子会社の形態がありうる。企業にとっては、現地で稼得した所得に対して、関係する国でどのような課税がなされるかを検討することが重要である。特に、企業の本国と進出先で生じうる二重課税をどのように回避し、税負担を軽減するかを検討することが重要となる。   2 支店と子会社の課税上の差異 (1) 費用収益の帰属 支店と子会社で大きく異なる点として、法人格の有無が挙げられる。すなわち、子会社と異なって支店は独立した法人格を有しておらず、法的な観点からは、支店で生じた費用と収益はすべて本店の費用と収益に合算される。 そこで、日本のように本店の所在地国が全世界的課税方式を採用する場合、支店が得た収益について、支店の所在地国で課税されるのみならず、本店の所在地国でも本店の所得に合算して課税されることになる。逆に、支店で損失が生じた場合には、本店の所得から控除することが認められる。 以上に対して、子会社は独立した法人格を有しており、子会社が得た収益について、子会社の所在地国で課税されるほかは、通常、親会社の所得に合算されて課税されることはない(例外として、外国子会社合算税制の適用がある場合)。また、子会社の損失が親会社の所得から控除されることもない。 したがって、海外で事業を展開するにあたっては、例えば、損失が見込まれる段階では支店の形態で国外の損失を取り込み、利益が見込まれる段階で子会社に変更するという戦略をとることも検討の対象となる。 (2) 譲渡益課税 また、支店と子会社で異なる可能性があるものとして、将来において第三者に事業を譲渡する場合、現地での譲渡益課税の有無が異なりうる。すなわち、支店に帰属する資産を譲渡する場合、その譲渡益について現地で課税がなされる可能性が高いのに対して、子会社の株式を譲渡する場合には、その課税がなされる可能性は低くなる。 この点については、現地の国内法によって異なるため、その検討が必要となるほか、関係する租税条約の検討も必要となる。一般に、租税条約では、支店に帰属する資産の譲渡益について源泉地国で課税が認められるのに対して、株式の譲渡益については源泉地国での課税が否定されることが多い。 (3) 利子の費用控除 さらに、海外での事業展開にあたって、外部から資金調達をする際、外国子会社の資本金に充てるための借入れに係る利子については、費用控除が制限される可能性がある。これは、外国子会社の所得が課税の対象にはならないため、これに対応する費用控除を否定するものである。 これに対して、支店の資金に充てるための借入れに係る利子については、通常、このような制限はない(ただし、国外事業所得が免除される場合は除く)。   3 税負担の検討 以上の点を踏まえて、支店と子会社のいずれの形態を選択するかによって、将来における税負担がどのようなものになるかを検討する。その検討にあたっては、資金還流時の課税関係についても考慮が必要である。 なかでも、子会社の形態を選択した場合になされうる親会社への配当に対する課税関係について検討することが重要である。この配当課税については、親会社の所在地国における課税のほか、子会社の所在地国における源泉徴収課税についても検討することになる。その検討に当たっては、各国の国内法のみならず、関係する租税条約もあわせて検討することが必要である。 この点、各国の国内法によっては、親会社と子会社の異なる主体で二重に課税される事態(経済的二重課税の問題)を避けるために、親会社の所在地国において、一定の子会社からの配当を免税とすることが認められることも多い。 また、子会社の所在地国でも、国内法によって配当に対する源泉徴収課税をしない国もある。そうでなくても、租税条約が適用される場合には、その源泉徴収税率は一定の減免を受けられることが多い。   (了)

#No. 277(掲載号)
#木村 浩之
2018/07/19

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第4回】「埋もれたコストの呪縛」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第4回】 「埋もれたコストの呪縛」   公認会計士 石王丸 香菜子   *資料1* 第2事業部では、スマホ用シールのAタイプとBタイプを製造している。一定サイズの台紙に強化コーティングを施した後、製造工程の最終段階でカットすることで、AタイプとBタイプに分かれる。そのため、どちらか一方のタイプだけを製造することはできず、2つのタイプが必然的に製造されることになる。 月間データ   *資料2* Bタイプ販売担当者の調査によると、Bタイプに追加加工を行いデザイン性の高いB-Newタイプとすることで、販売価格を4割増しの@560円にできる。 Bタイプ2,000個を追加加工するには、300,000円がかかる。ただし、追加加工作業の最終段階で、数量の5%分は加工に失敗する見込みである。追加加工に失敗したものは販売不可能となり、処分価値はない。   *  *  *   1 その第一印象は正しいか ある人の特徴として、 と聞く場合と、 と聞く場合、どちらのほうが好印象を覚えるでしょうか。 たいていの場合は、①のほうに良い印象を持つようです。①と②は、内容は同じで順序が違うだけなのですが、人は、最初に与えられた情報(①は『知的』、②は『嫉妬深い』)に、非常に強い影響を受ける傾向があるためだと考えられています。 これはアッシュという心理学者が行った実験で、よく知られていますので、ご存知の方も多いかもしれませんね。 こんな性格の彼氏がいたら、ものすご~く疲れそう・・・。 ともあれ、人は第一印象に強い影響を受ける傾向にあり、これをと呼びます。PN社の第2事業部長も、Bタイプについて『赤字』という第一印象を強く持って、それを前提に悩んでいるようですが、そもそも、その第一印象は正しいのでしょうか。   2 埋没原価は気にしない! AタイプとBタイプは、どちらか一方だけを製造することはできず、2つのタイプが同時必然的に製造される関係にあり、製造原価を各タイプに跡付けて集計することができません。 したがって、各タイプの製造原価を1,000,000円ずつと考えるのは、合理的ではなく、Bタイプが赤字であるという印象は正しくありません。 また、AタイプとBタイプの製造原価合計2,000,000円は、これらの製品を製造する以上、どうしても発生してしまうので、Bタイプを追加加工するか否かの意思決定には無関係です。 つまり、Bタイプを追加加工するか否かの意思決定にあたっては、製造原価2,000,000円は考慮する必要のない埋没原価なのです。 【第2回】のケースでは、設備について生じる固定費が埋没原価となりましたが、今回のケースでは、AタイプとBタイプの製造原価全てが埋没原価となります。どのような意思決定を行うかによって、何が埋没原価に該当するのかが異なるので、注意したいですね。 これらを踏まえたうえで、Bタイプの追加加工の意思決定について、もう一度シンプルに考えてみましょう。 Bタイプを追加加工することで、現状と比べて、いくら収益と原価が増えるかを、素直に計算します。Bタイプの赤字疑惑や、2,000,000円の埋没原価に縛られる必要はありません。 実は、追加加工すると、かえって損をしてしまうのです! このように、別の案を採用した際に、収益と原価がどれだけ増えたり減ったりするかを集計して意思決定することを、と呼びます。 いろいろなデータがある場合でも、最初の印象や埋没原価に惑わされず、シンプルに考えるのがコツです。 ちなみに、AタイプとBタイプは同時必然的に製造されるので、両タイプを合わせて得られる収益が、製造原価2,000,000円を上回っているのなら、全体では利益が出ていることになり、製造・販売を続けるべきと言えます。 両タイプの収益を合わせると、@800円×2,000個+@400円×2,000個=2,400,000円で、2,000,000円を上回っていますので、全体としては決して赤字ではないのです。 逆に、両タイプの収益を合わせても2,000,000円に満たないのであれば、これら製品の製造・販売自体を中止するほうがよいということになります。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 最初に与えられた情報に非常に強い影響を受ける効果のこと。 ▷ 別の案を採用した際に、収益と原価がどれだけ増えたり減ったりするかを集計して意思決定すること。 (了)

#No. 277(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/07/19

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第141回】企業結合会計⑨「共同支配企業の形成」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第141回】 企業結合会計⑨ 「共同支配企業の形成」   仰星監査法人 公認会計士 永井 智恵     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 ① C社(共同支配企業)の個別財務諸表上の会計処理 ◆X1年4月1日 (※3-1) A社から移転されるa事業の資産の分割期日の前日における適正な帳簿価額 (※3-2) B社から移転されるb事業の資産の分割期日の前日における適正な帳簿価額 (※4) A社における移転直前の帳簿価額 ② A社(共同支配投資企業)の会計処理 ◆X1年4月1日 【個別財務諸表上の会計処理】 《②-1 a事業をC社へ移転》 (※5) a事業に係る株主資本相当額 【連結上の会計処理】 《②-2 b事業に対する55%の取得についてのれんの算定》  ⇒仕訳なし ただし、b事業に係るA社の持分増加額(55%)について、持分法適用上、のれんを算定する。  ⇒b事業に係るのれん=29.7(※6)-24.75(※7)=4.95 (※6) b事業に対して投資したとみなされる額=b事業の時価54×55%=29.7 (※7) b事業に係るA社の持分の増加額=取得時のb事業の諸資産の時価45×55%=24.75 《②-3 a事業に係るA社持分の減少(45%)による持分変動差額の算定》 (※8) a事業に係るA社の持分の減少(45%)により生じた差額=29.7(※9)-21.6(※10)=8.1 (※9) a事業が移転されたとみなされる額=a事業の時価66×45%=29.7 (※10) a事業に係るA社の持分の減少額=a事業の株主資本相当額48×45%=21.6 ◆X2年3月31日 【個別財務諸表上の会計処理】  ⇒仕訳なし 【連結上の会計処理】 《②-4 C社の当期純利益の取り込み》 (※11) C社の当期純利益10×C社に対する持分割合55%=5.5 《②-5 b事業に係るのれんの償却》 (※12) b事業に係るのれん4.95÷3年=1.65 ③ B社(共同支配投資企業)の会計処理 ◆X1年4月1日 【個別財務諸表上の会計処理】 《③-1 b事業をC社へ移転》 (※13) b事業に係る株主資本相当額 【連結上の会計処理】 《③-2 a事業に対する45%の取得についてのれんの算定》  ⇒仕訳なし ただし、a事業に係るB社の持分増加額(45%)について、持分法適用上、のれんを算定する。  ⇒a事業に係るのれん=29.7(※14)-24.75(※15)=4.95 (※14) a事業に対して投資したとみなされる額=a事業の時価66×45%=29.7 (※15) a事業に係るB社の持分の増加額=取得時のa事業の諸資産の時価55×45%=24.75 《③-3 b事業に係るB社持分の減少(55%)による持分変動差額の算定》 (※16) b事業に係るB社の持分の減少(55%)により生じた差額=29.7(※17)-11(※18)=18.7 (※17) b事業が移転されたとみなされる額=b事業の時価54×55%=29.7 (※18) b事業に係るB社の持分の減少額=b事業の株主資本相当額20×55%=11 ◆X2年3月31日 【個別財務諸表上の会計処理】  ⇒仕訳なし 【連結上の会計処理】 《③-4 C社の当期純利益の取り込み》 (※19) C社の当期純利益10×C社に対する持分割合45%=4.5 《③-5 a事業に係るのれんの償却》 (※20) a事業に係るのれん4.95÷3年=1.65   〈会計処理の解説〉 「共同支配企業」とは、複数の独立した企業により共同で支配される企業をいい、「共同支配企業の形成」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、当該共同支配企業を形成する企業結合をいいます(企業結合会計基準11項)。 この「共同支配」とは、複数の独立した企業が契約等に基づき、ある企業を共同で支配することをいい(企業結合会計基準8項)、共同支配企業を共同で支配する企業を「共同支配投資企業」といいます(企業結合会計基準12項)。 【共同支配企業のイメージ】 ある企業結合を共同支配企業の形成と判定するためには、①共同支配投資企業となる企業が、複数の独立した企業から構成されていること及び②共同支配となる契約等を締結していることに加え、③企業結合に際して支払われた対価のすべてが、原則として、議決権のある株式であることと④支配関係を示す一定の事実が存在しないことという要件を満たさなければなりません(企業結合会計基準37項)。 共同支配企業の形成は、例えば、複数の共同支配投資企業の子会社同士の合併により形成される場合や、本事例のように複数の共同支配投資企業が共同新設分割することにより形成される場合があります。 共同支配企業の形成は「持分の結合」であり、共同支配企業は、資産及び負債を企業結合直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合会計基準38項、116項)。また、移転された資産及び負債の差額は、移転事業に係る株主資本相当額を払込資本とし、移転事業に係る評価・換算差額等は移転直前の適正な帳簿価額をそのまま引き継ぎます(適用指針193項)。 本事例においては、合弁会社であるC社がA社及びB社から移転されるa事業及びb事業の資産を分割期日の前日における適正な帳簿価額(それぞれ50及び20)により計上しています。また、a事業及びb事業の株主資本相当額(それぞれ48及び20)を払込資本として、a事業に係る評価・換算差額については移転直前の帳簿価額2をそのまま引き継ぎます(①の仕訳を参照)。 共同支配投資企業が受け取った共同支配企業株式の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定します(企業結合会計基準39項(1))。 本事例においては、A社及びB社が受け入れるC社株式の取得原価は、移転したa事業及びb事業の株主資本相当額(それぞれ48及び20)に基づき算定しています(②-1及び③-1の仕訳を参照)。 連結上では、共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資について持分法を適用します(企業結合会計基準39項(2))。それにより、共同支配投資企業では、共同支配企業に対する持分の増加によるのれん(又は負ののれん)と、移転した事業に対する持分の減少による持分変動差額が認識されます。 本事例においては、A社及びB社がそれぞれC社に対して持分法を適用し、C社に対する持分の増加によるのれん(それぞれ4.95及び4.95)が認識されています(②-2及び③-2を参照)。また、移転したa事業及びb事業に対する持分の減少による持分変動差額(それぞれ8.1及び18.7)が認識されています(②-3及び③-3の仕訳を参照)。   (了)

#No. 277(掲載号)
#永井 智恵
2018/07/19

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編- 【第3回】「業務関連主要契約の調査」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -法務編-   弁護士法人ほくと総合法律事務所 弁護士 又吉 重樹   ←(前回) | (次回)→   本連載では、法務デューデリジェンスにおいて弁護士が具体的に何をどう調査しているのかを、調査項目ごとに詳述している。今回はその第3章として、「業務関連主要契約」項目を取り上げる。   《第3章》 -業務関連主要契約- 【第3回】 「業務関連主要契約の調査」   はじめに 買収者は、「買収後に自らが企図する経済的効果を実現できるか」という観点から、対象会社が買収後も買収前と同様に事業を維持できるか否かに関心を持つことが多い。 「業務関連主要契約」項目においては、かかる関心事に応えるべく、個々の契約を精査していくこととなる。他方、通常、対象会社は、事業活動のために多数の契約を締結しているため、時間・コストとの兼ね合いから、いかなる範囲の契約をいかなる深度で精査すべきか、判断に悩む場合も少なくないと思われる。 そこで、本稿では、「業務関連主要契約」における一般的な精査対象資料及び調査手続を概観したうえで、調査資料の範囲・深度の特定・限定について一案を紹介することとしたい。   1 精査対象資料 「業務関連主要契約」項目調査資料としては、〔共通編〕【第2回】に掲載した「資料依頼リスト」の「Ⅳ 業務」欄に掲記のようなものが挙げられる。   2 調査手続 「業務関連主要契約」項目の調査では、一般には、対象会社に主要な取引先との契約書の提示を求め、その内容を精査することとなる。契約書が作成されていない場合等には、インタビューで補完することも考えられる。 通常、契約条件のうち、例えば以下のようなものが確認の対象となる。 このほか、重要な契約条件の中に明らかな違法条項がある場合等も、デューデリジェンス報告書への記載を検討すべきであろう。また、対象会社の業界における一般的な契約書のサンプルを入手することができれば、当該サンプルと対象会社が締結している契約の差異を確認することにより、違法・不当な契約条項の有無の確認に役立つ場合がある。 筆者の所属する法律事務所においては、こうした各確認事項を下表のような一覧表にまとめてデューデリジェンス報告書に別紙として添付するとともに、報告書本紙において、各確認事項のうち特に解説を要する事項を抜粋し、依頼者に情報提供することが多い。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 冒頭で述べたとおり、買収者としては、「対象会社が買収後も買収前と同様に事業を維持できるか否か」に関心を持つことから、契約書精査の内容も、「解約リスク」の分析を中心としたものとなる。Change of Control条項や、契約の有効期限・自動更新条項等が注目されるのはそのためである(もちろん、保証債務の有無や契約条件の違法の有無等、解約リスクに還元されない論点も少なくないが)。 なお、財務デューデリジェンスでは対象会社の正常収益力が調査・分析の対象となる関係上、主要取引先との契約の解約リスクは、財務デューデリジェンスにおいても検討の対象となる。その意味で、財務デューデリジェンスと法務デューデリジェンスとは、一定程度、重複する。 ただし、法務デューデリジェンスでは、契約書の記載を第一次的な拠り所として、法令や裁判例に照らし、「現に解約が主張され、その効力をめぐって法的紛争となった場合」に予想される帰結を分析する。したがって、法務デューデリジェンスによる解約リスク分析は、財務デューデリジェンスによる分析の基礎となり、これを補完するものと位置づけられる。 他方で、法務デューデリジェンスは、解約リスクが顕在化した場合の財務的インパクト(売上減、利益減等)の定量的分析の精度においては、財務デューデリジェンスに及ばない。各デューデリジェンス間の協働や調査結果の統合的理解が必要である所以である。   3 調査資料の範囲・深度の特定・限定について 「業務関連主要契約」は法務デューデリジェンスにおける重要な調査項目の1つであるが、対象会社が締結している数多の契約のすべてを網羅的かつ詳細に確認することは、コスト・時間の側面から非現実的・非効率的である。 では、どのようにして、精査の対象とする契約を選抜(特定・限定)すべきか。 調査対象とする契約の範囲・深度の特定・限定について一般的な基準は設定しがたく、最終的には、依頼者(買収者)において、自らが当該買収により企図する経済的効果の内容に照らし検討・判断する事項である。ただし、依頼者(買収者)としても、デューデリジェンスを実施する前の段階で、どの契約書を確認すればよいか、分からない場合も多いであろう。 そのような場合、1つの選択肢として、対象会社自身に、「現在行っている事業を維持するうえで重要と考えられる取引先」のピックアップを求める方法が考えられる。具体的には対象会社自身に対し、「重要な取引先のリストと、当該取引先との契約書の写し」の提示を求めるのである。 このような方法は、買収側がすべき判断を、対象会社に丸投げしているようにみえるかもしれない。しかし、①対象会社が締結している契約をもっとも把握しているのは対象会社自身であるし、②法務デューデリジェンスが行われる段階では、売主ないし対象会社も買収に基本的に同意していることが前提であるから、対象会社の協力を期待できる場合が多いことからして、このようなやり方でも、一定程度、精度の高い回答を得られる可能性がある(※)。 (※) もちろん、対象会社の回答をそのまま鵜呑みにしてよいわけではない。依頼者(買収者)側において、必要に応じビジネス・財務・法務のデューデリジェンス担当者等の助言も得ながら、対象会社の回答を検証する必要はある。 また、法務デューデリジェンスと並行して実施されている財務デューデリジェンスにおいて、各契約の財務的インパクトの把握が進めば、その情報を基に、法務デューデリジェンスの対象とする契約書を特定・限定したり、対象会社から提供を受けた契約書に漏れがないかを検証したりすることも考えられる。 筆者が経験した製造業を営む会社を対象会社とする法務デューデリジェンスにおいても、財務デューデリジェンスを担当する公認会計士から情報共有を受けた結果、仕入先・販売先・配送業者のいずれも、それぞれの上位5社との取引高が全体の取引高の95%以上を占めることが確認できたため、依頼者(買収者)と協議し、徴求資料の範囲を、「主要取引先(仕入先・販売先・配送業者等の類型ごとに上位5社)との契約書の写し」に限定することができた例がある。   4 対応の検討 以上のようなプロセスを経て顕出された指摘事項は、依頼者(買収者)が当該買収により企図する経済的効果との関係でどの程度の重要性を有するかを確認したうえで、その対応策を検討することとなる。 例えば、相手方に一方的な解約権を付与する内容のChange of Control条項が規定されている場合でも、依頼者(買収者)が当該買収により企図する経済的効果を得るうえで、当該契約が必要不可欠とまではいえない場合は、対象企業の価値評価(ひいては、買収価格の評価)の問題に収斂される場合もあり得るし、買収後に、当該条項の撤廃等の交渉をすれば足りる場合もあり得る。 他方、当該契約が、依頼者(買収者)が当該買収により企図する経済的効果を得るうえで必要不可欠なものである場合には、当該Change of Control条項等の存在が、M&A自体の障害(Deal Break Point)となる場合もあり得る。 そのような場合には、当該買収にかかる買収契約書中に、買収実行の前提条件(Condition Preceding)として、売主・対象会社に、当該契約の相手方から当該買収を理由に解除権を行使しない旨の覚書を取得させる等の対応策を講ずることも考えられる。 (了)

#No. 277(掲載号)
#又吉 重樹
2018/07/19

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第3回】「後継経営者にとってのライフプランの考え方」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第3回】 「後継経営者にとってのライフプランの考え方」   税理士法人トゥモローズ   前回の「創業経営者のライフプラン」では、創業者のライフプランについて解説を行ったが、第3回目となる今回は、創業者から事業を引き継ぐ後継者のライフプランについて、そのポイントを説明していく。   1 事業承継の適齢期 少し前のデータとなるが、下図のように、後継者の事業承継時の平均年齢は、『50.9歳』である。これに対して、事業を承継した経営者たちが、「事業を承継したタイミングがちょうどよい時期だった」とする承継時の平均年齢は『43.7歳』となっている(「中小企業白書(2013年版)」P127)。 これらからすると、事業承継における後継者の最適年齢は、『45歳』くらいであると考えておいていただきたい。 【事業承継時の現経営者年齢別の事業承継のタイミング】 (出典) 中小企業白書(2013年版)P127 つまり後継者は、この『45歳』を1つの境として、先代経営者より事業を承継する前提でライフプランを組み立てる必要がある。 さらに、2代目、3代目としての後継者であれば、事業承継として代表権を引き継ぐ数年前には引き継ぐ会社に入り、後継者候補として社内外において引き継ぐべき会社の全体像を把握しておくべきである。 一方で、先代経営者の事業承継時の年齢は、日本全体の高齢化に比例して高齢化が進んでいる。中小企業における先代経営者の事業承継時の平均年齢は、会社規模や業種にもよるが、平均で『67歳から70歳』である(「中小企業白書(2013年版)」P125)。 【規模別・事業承継時期別の経営者の平均引退年齢の推移】 (出典) 中小企業白書(2013年版)P125 筆者(弊法人)が依頼を受けた事業承継の案件において、経営者が高齢であり事業を引き継ぐ時間的余裕が持てなかったケースがあった。 このケースでは、事業承継のサポート依頼を受けた時点で依頼者である先代経営者は既に代表を降り、会長職に就任していた。実務上においても、創業時からの従業員である親族外の新代表取締役に多くの権限委譲をしており、現役から退きつつある状況であった。 このような状況の中で、サラリーマンである二女の配偶者に後継者としての白羽の矢が立ったのであるが、結果として、この候補者は後継者候補を降りてしまった。 理由としては様々の要因があったものの、既に現役を退いた先代経営者から経営や実務のノウハウを直接引き継げる状況になかったことや現経営陣との関係性などから、後継者となることは難しいと判断したようだ。 大きな要因の1つは、この親族が「事業を引き継いでいくという覚悟」を持てるだけの時間が足りなかったことにあったのではなかろうか。 筆者からみるとこの候補者は、経験や資質ともに後継者候補としては適任であったと考えていたのだが、先代経営者、後継者候補ともに、あと数年早く事業承継を意識し検討し、事業を引き継ぐ時間的余裕があれば、親族内承継の道があったかもしれない案件であった。 事業承継は、事業を引き継ごうと決意してから実際に事業を引き継ぎ切れるまでに、おおよそ5年くらいの期間を要するといわれている。したがって、後継者においては、先代経営者の年齢や引退時期を考慮し、この引き継ぐ期間も加味したライフプランの設計が必要となる。   2 後継者のライフプランにおける留意事項 まず、後継者のライフプランにおいて検討しなければならないことは、事業を引き継ぐタイミングと他のライフイベントを照らし合わせることだ。 上述のとおり後継者が事業を引き継ぐタイミングは45歳前後と、ライフプランにおける資金計画の中でも支出合計がピークへ向かうタイミングである。しかし、これに対して事業の引き継ぎ期間中は、現状の給与水準を落として入社することも想定される。 また、実際に事業を引き継ぎ経営者となれば、サラリーマン時代とは異なり、毎月の報酬の支給が必ずされるとは限らず、会社の資金繰りの影響を受け、会社の状況によっては未払いとなることもあり得る。 このような中で、前回の「創業経営者のライフプラン」で触れた資金設計の住宅資金設計、教育資金設計、老後資金設計の3要素を中心とした自身のライフイベントと後継者候補として入社した後、後継者として経営を引き継いだ後の資金計画を設計する必要がある。 ① 住宅 サラリーマン時代に住宅ローンを組んでいる場合において、ボーナス返済を選択しているときは、返済資金について注意が必要となる。 一般的に中小企業においては、役員に対する役員賞与の支給は行っていないケースの方が多いはずであるから、サラリーマン時代からのボーナス返済を継続することは、返済時における家計への負担が想像以上に大きくなる。 また、仮に事前確定届出給与の支給が設定できた年度があったとしても、事業年度によって設定が未確定である事前確定届出給与を、住宅ローンのボーナス返済とひもづけて返済原資とすることはおすすめできない。   ② 教育 例えば20代後半で結婚をし、間もなく子供が生まれた場合、事業承継前後の時期で子供が高校・大学の進学時期を迎えることとなる。 日本政策金融公庫の「平成29年度 教育費負担の実態調査」によると、高校入学から大学卒業までに必要な入在学費用は、子供1人当たり『935.3万円』となっている。さらに、仕送りを行っているような場合には、年間平均93万円として4年間総額『約372万円』の仕送りを行わなければならない。 たとえ一人っ子であったとしても、事業承継を行う前後に950万円から1,300万円程の教育資金が必要となることを想定しておかなければならないのである。   ③ 老後資金 資金設計上、老後資金において注意すべき点は、創業経営者同様に、日々の生活費の水準が高くなってしまっている点にある。定年退職後のサラリーマンに比べ、経営者の場合には付き合い等が多く、交際費等が高額になりがちである。   ④ 相続資金 後継者のライフプランにおいて検討しておくべき重要事項として、先代経営者である親からの相続がある。相続においては、遺産を取得するのみならず、相続税の納税や相続した遺産の取得のための費用、維持管理のためにも費用は生じてくる。これら相続資金の収支をできるだけ早い段階で資金計画の中に盛り込んでいくべきである。 なお、これらの収支を資金計画の中に設定するためには、ある程度の精度で親の相続について事前に把握をしなければならない。相続財産の把握、相続税額の試算、相続人間の遺産分割に向けた協議、そして納税資金や代償資金の確保などの検討を行う必要がある。 また、相続税額の試算のためには、非上場株式である自社株式についても、株価を算出しなければならない。そして、当該株式について、生前に後継者として取得をすべきであるのか、相続まで据え置くのか。生前に引き受ける際には譲渡として有償で引き受けるか、贈与により無償で引き受けるのか。さらには贈与によった場合には、事業承継税制の適用の検討等、自社株式の取扱いについては、慎重に資金計画に取り込む必要がある。   3 親族外承継である後継者の場合 親族内承継であれば、事前に自身が後継者候補として事業を引き継ぐことを前提としたライフプランを描くことも可能であろうが、それ以外の親族外承継である場合には、ライフプラン作成前から事業承継を前提としたライフプランを想定することは困難である。 社内の役員、従業員承継により後継者となる者の場合には、ライフプランはさらに難しいものとなる。今まではサラリーマンとしてのライフプランを敷いてきたものが、事業承継を境に経営者としてのライフプランに置き換わることとなる。 また、事業承継に際して、先代経営者に対する株式の取得対価の支払いが必要となることも想定される。さらに、その対価のために借入れを行った場合や既存の法人借入金に対して、社長個人として保証債務を求められることもあるだろう。 親族外承継による後継者に関しては、これら事業承継に際したライフプランの練り直しが課題となる。 (了)

#No. 277(掲載号)
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2018/07/19
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