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相続税の実務問答 【第22回】「遺産分割が調ったことによる相続税額の調整(相続人間で調整をする場合)」

相続税の実務問答 【第22回】 「遺産分割が調ったことによる相続税額の調整 (相続人間で調整をする場合)」   税理士 梶野 研二   [答] 相続税の申告書の提出期限において、遺産が未分割であったため、法定相続分に従って遺産を取得したものとして相続税の申告をしていた場合に、その後の遺産分割により、法定相続分よりも少ない財産しか相続しないこととなり、遺産分割の結果に基づいて計算した相続税額が、当初申告において計算した相続税額よりも少なくなるときには、相続税の更正の請求を行うことにより、差額の相続税額の還付を受けることができます。 しかし、更正の請求をせずに、更正の請求をしたならば還付されることとなる相続税額相当額を相続人間で授受することにより相続税の負担額を精算した場合に、それが遺産分割協議の際の相続人間の合意によるものであると認められるならば、遺産分割の1つの方法である代償分割に基づく金銭の授受が行われたものと解するのが相当であることから、贈与税が課税されることはありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 未分割遺産が分割された場合の相続税額の是正手続 相続税の申告書の提出期限までに、共同相続人間で遺産の分割がされなかった場合には、各共同相続人が民法に規定する相続分の割合(法定相続分)に従って遺産を取得したものとして、課税価格を計算して、相続税の申告をすることとされています(相法55)。 その後、遺産の分割が行われ、遺産分割により取得した財産の額を基に計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した場合の課税価格よりも小さくなった相続人は、遺産分割の結果に従って相続税の額の再計算をし、これに基づいて更正の請求をすることができることとされています(相法55ただし書き、32①一) この更正の請求を行うかどうかについては、遺産分割により取得した財産の額を基に計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した課税価格よりも少なくなる相続人の選択に委ねられています(詳細については前回参照)。   2 遺産分割に伴う相続税額の調整を相続人間で行った場合 申告書の提出期限において、遺産が分割されていなかったことから、法定相続分に従って課税価格の計算をして相続税の申告が行われた場合において、その後、遺産分割がされ、遺産分割によって取得した財産の額を基に再計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した相続税の課税価格より小さくなったことから、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときに、相続税の更正の請求せずに、何ら負担調整をすることなく相続税の課税を終了させたとしても、贈与税の課税問題が生じることはありません(詳細については前回参照)。 それでは、遺産分割がされ、遺産分割によって取得した財産の額を基に再計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した場合の相続税の課税価格より大きくなり、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過少となる相続人から、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過大となる相続人に対して、相続税法第32条の規定による更正の請求を行ったならば還付されることとなった相続税相当額を、直接、交付した場合には、新たな課税問題が生じることとなるのでしょうか。 この点については、次のように考えられます。すなわち、相続税の負担額を調整するために相続人間で一定の金額を授受することまで織り込んで遺産分割が行われたならば、そのような合意は遺産分割の1つの方法である「代償分割」と捉えることができると思われます。そのことが遺産分割協議書に謳われている場合はもとより、遺産分割の合意は必ずしも書面によることが要件とはされていないことからすると、遺産分割書にその旨の記載がないとしても、遺産分割の際になされた合意に基づいて、相続税の負担調整を相続人間の一定の金員の授受という形で行うこととなったことが認められるならば、当該合意により授受される金員は、贈与による金員の授受とはなりませんので、贈与税の課税問題は生じないと考えられます。   3 ご質問の場合 遺産分割の結果、取得した財産の価額が法定相続分相当額よりも少なくなったお姉様は、相続税の更正の請求をすることができ、この更正の請求に基づいて相続税の減額更正が行われるときには、併せて、あなたに対して、相続税の増額更正がされることとなります(増額更正の前に、あなたが修正申告書を提出することもできます)が、このような煩瑣な手続きを経ることなく、お姉様が更正の請求をしたならば減額された相続税相当額を、あなたからお姉様に支払うことを遺産分割協議の際に合意していたのであれば、この金員の授受は贈与と認定されず、お姉様に贈与税が課されることはありません。   (了)

#No. 265(掲載号)
#梶野 研二
2018/04/19

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第34回】

組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第34回】   公認会計士 佐藤 信祐   (《第5章》 平成18年度税制改正) ③ DES(デット・エクイティ・スワップ) 平成18年度税制改正前は不明確であったが、平成18年度税制改正により、非適格現物出資に該当するDES(デット・エクイティ・スワップ)を行った場合の取扱いが明確になり、増加する資本金等の額が、券面額ではなく税制上の時価になるとともに、債務消滅益課税が生じることになった(※1)。 (※1) 『平成18年版改正税法のすべて』248頁。 具体的には、以下の事例を参照されたい。 なお、経済産業省 経済産業政策局 産業再生課 事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会「事業再生に係るDES(Debt Equity Swap:債務の株式化)研究会報告書」15頁、国税庁・文書回答事例「企業再生税制適用場面においてDESが行われた場合の債権等の評価に係る税務上の取扱いについて(平成22年2月22日)」では、交付する株式の時価により増加資本金等の額を算定するのではなく、DESにより受け入れた債権の回収可能額により増加資本金等の額を算定することが明らかにされている。 ④ 2以上の種類株式を発行する法人が自己株式の取得等をした場合の減少資本金等の額 平成18年度税制改正では、2以上の種類株式を発行している場合において、自己株式を取得したときは、種類株式ごとに種類資本金等の額を算定し、当該種類資本金等の額に基づいて、みなし配当の計算を行うこととされた。 これは、1株当たりの時価が1株当たりの資本金等の額よりも大きい法人が、取得請求権付株式又は取得条項付株式を発行する場合において、普通株式と合算して資本金等の額を計算してしまうと、取得請求権付株式又は取得条項付株式の1株当たりの払込金額に比べて1株当たりの資本金等の額が小さくなってしまうことから、将来において、当該取得請求権付株式又は取得条項付株式を発行法人が取得した段階で、みなし配当と株式譲渡損が両建てになってしまうという問題を解決するためのものである。 すなわち、本改正により、取得請求権付株式又は取得条項付株式の1株当たりの払込金額と1株当たりの資本金等の額が一致することから、みなし配当の金額を適正に計算することが可能になった。 ⑤ 非適格合併等に伴い移転を受ける資産等に係る調整勘定等の損金算入制度等整備の創設に伴う整備 本連載でいずれ解説を行うが、非適格合併、非適格分割又は非適格現物出資(直前に営む事業及び主要な資産及び負債のおおむね全部が移転するものに限る)を行った場合には、資産調整勘定及び負債調整勘定が認識されることになった。 そのため、資産調整勘定及び負債調整勘定が認識される場合には、発行した株式又は出資の価額が増加資本金等の額として処理されることになり、資産調整勘定及び負債調整勘定が認識されない場合には、移転資産と移転負債の差額が資本金等の額として処理されることになった。 ⑥ 株式交換等に係る税制の改正に伴う整備 本連載でいずれ解説を行うが、株式交換・移転税制が導入されたことに伴い、完全子法人株式の取得価額の計算方法についても整備された。これに伴い、法人税法施行令8条1項では、完全子法人株式の取得価額から完全子法人の株主に交付した金銭を減算した金額が増加資本金等の額として規定された。 さらに、会社法上、株式交換・移転を行った場合の新株予約権の取扱いについて、引き継ぐことを強制するのではなく、旧新株予約権の消滅と新たな新株予約権の発行として整理されることになった。それに伴い、法人税法上も、適格株式交換・移転により増加する資本金等の額から新株予約権の帳簿価額を減算し、非適格株式交換・移転により増加する資本金等の額から新株予約権の時価を減算することになった。 これに対し、完全子法人では、新株予約権が消滅することから、消滅益が生じるという問題が生じる。すなわち、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針115-2では、 と規定されている。 この考え方は、法人税法も同様であり、株式交換・移転の日の前日に完全子法人で付していた新株予約権又は新株予約権付社債の帳簿価額を益金として計上すべきであると考えられる。これは、法人による完全支配関係があることにより、グループ法人税制を適用することができたとしても、完全親法人において寄附金が発生していないことから、結果的に、受贈益の益金不算入を適用することができないため(法法25の2)、同様の結論になる。ただし、税制適格ストックオプションのように、法人税法上、負債とされていない新株予約権については、新株予約権の消滅により、益金の額に算入されることはあり得ない。 なお、株式交換・移転に伴って、新株予約権又は新株予約権付社債に係る債務を完全親法人が引き受ける対価として、完全親法人から完全子法人に対する債権が発生させる場合が考えられる。このような場合には、新株予約権又は新株予約権付社債に係る債務が消滅したものの、新たな債務が発生していることから、平成19年度税制改正により、その分だけ益金の額を減少させることができるようになった。 ⑦ 支払配当に関する整備 平成17年改正前商法と異なり、会社法では、剰余金の配当に係る回数制限が廃止されたことから、事業年度との対応関係がなくなったため、法人税法上も、支払いに係る効力が生じる日に利益積立金額を減少させることになった(※2)。ただし、同族会社等の留保金課税の計算では、決算期後の株主総会等で決定される配当を前事業年度に流出したものとみなすことにより、従前通りの取扱いとなっている(※3)。 (※2) 前掲(※1)254頁。 (※3) 前掲(※1)254頁(注1)。 ⑧ その他の整備 そのほか、平成18年度税制改正では、新株予約権の行使により自己株式を交付した場合、取得条項付新株予約権の取得事由の発生による取得の対価として自己株式を交付した場合、資本の払戻しを行った場合の取扱いについてそれぞれ定められた。 このうち、資本の払戻しは、その他資本剰余金の配当によるものであり、平成18年改正前法人税法における株式消却を伴わない有償減資の取扱いを踏襲したものである。これは、会社法の施行により、株式の消却を伴わない有償減資を、資本金からその他資本剰余金へ振り替えた後に当該その他資本剰余金を原資とする剰余金の配当とする手続きとして整理されたことに伴い、払戻原資に着目したうえで、その他利益剰余金を原資にする場合には利益部分の払戻し、払戻原資にその他資本剰余金が含まれている場合には、それ以外の払戻しとして整理されたためである(※4)。 (※4) 前掲(※1)262頁。 なお、国税不服審判所平成24年8月15日裁決では、 と判示されている。 さらに、みなし配当の計算方法も、資本金等の額、利益積立金額の改正に伴い整備されているが、本稿では解説を省略することとする。 *   *   * 次回では、有価証券の譲渡損益の計算について解説を行う予定である。 (了)

#No. 265(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/04/19

〔平成30年4月1日から適用〕改正外国子会社合算税制の要点解説 【第6回】「経済活動基準②」-非関連者基準・所在地国基準-

〔平成30年4月1日から適用〕 改正外国子会社合算税制の要点解説 【第6回】 「経済活動基準②」 -非関連者基準・所在地国基準-   税理士 長谷川 太郎   1 押さえておきたいポイント(再掲) (※) 経済活動基準の概要については前回(第5回)を参照されたい。   2 非関連者基準及び所在地国基準 (1) 非関連者基準 「非関連者基準」は、その事業を主として関連者以外の者と行っていることを要件とするものであり、卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業または物品賃貸業(航空機の貸付けを主たる事業とするものに限る)に適用される基準となっている(措法66の6②三ハ(1))。 また、事業の判定方法は、これまでと同様に原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準とし(措通66の6-17)、2以上の事業を営んでいる場合には、収入金額または所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して主たる事業の判定をするとされている(措通66の6-5)。 ① 航空機の貸付けを主たる事業とする場合に適用される判定基準 航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社については、これまでの所在地国基準から非関連者基準を適用することに改正された(措法66の6②三ハ(1))。 具体的には、航空機の貸付けによる収入金額の合計額のうちに、当該収入金額で関連者以外の者から収入するものの合計額の占める割合が50%を超える場合に要件を充足する(措令39の14の3⑮七)。 ② 実質支配基準による関連者の範囲の拡大 実質支配基準の導入に伴い、関連者の範囲が拡大されている(措令39の14の3⑭四・五・六)。 (※) 財務省「平成29年度税制改正の解説」P680より抜粋 ③ 非関連者を介した実質的な関連者取引 取引対象となる資産、役務等が、外国関係会社から非関連者を介して関連者に移転・提供され(ケース①)、又は関連者から非関連者を介して外国関係会社に移転・提供される(ケース②)ことが「あらかじめ定まっている場合」には、外国関係会社と非関連者との取引は関連者取引とみなすこととされた(措令39の14の3⑯)。 改正前から非関連者基準を満たすために非関連者を介在させるような取引の場合には「相当の理由があると認められる場合を除き」直接関連者と取引をしたものとみなす規定があった(旧措令39の17⑪)が、今回の改正により、「あらかじめ定まっている場合」となり、より厳格な取り扱いとなっている。 (※) 財務省「平成29年度税制改正の解説」P682より抜粋 ④ 保険業の特例 前回の実体基準及び管理支配基準と同様に、今回の改正で英国ロイズ市場以外でも一定の保険引受子会社と管理運営会社を一体とみなして経済活動基準の判断を行うこととなっており、一定の保険引受子会社と管理運営会社間の取引については、関連者取引に該当しないものとされた(措令39の14の3⑱)。 (2) 所在地国基準 所在地国基準は、非関連者基準が適用される業種以外の業種に適用され、外国関係会社の事業を主としてその本店所在地国において行っているかどうかによる判断基準となっている。 今回の改正で、製造業を主たる事業とする外国関係会社について、「主として本店所在地国において製品の製造を行っている場合(製造における重要な業務を通じて製造に主体的に関与していると認められる場合も含む)」とされている(措令39の14の3⑳三)。 これまで、来料加工等において本店所在地国が香港にあり、委託先の工場が中国にある場合には、香港において製造を行うにあたり必要となる工場がないため、香港において主として事業を行っていないと判断されることがあった。今回の改正において「製造における重要な業務を通じて製造に主体的に関与している場合」には所在地国基準を充足できるとされ、適用範囲が拡充されている。 具体的には、以下の業務の状況を勘案して「主体的に関与している」か否かが判断されることになる(措規22の11②)。   3 推定規定 今回の改正により、確定申告書への別表添付要件が不要とされた一方で、経済活動基準を満たすことを明らかにする書類等の提出等を求められた際に、あらかじめ定められた期間内に提出等ができない場合には経済活動基準を充足しないとする推定規定が設けられている。 税務当局の職員は、外国関係会社の租税負担割合が20%以上である事実が客観的に確認することができず、経済活動基準を充足するかどうかを判定するために必要があるときは、期間を定め、内国法人に対して経済活動基準を充足する事実を明らかにする書類等の提示または提出を求めることができる(措法66の6④)とされている。この場合において、書類等の提示または提出がない時は、当該外国関係会社について、経済活動基準を充足しない(会社単位の合算課税が適用される)と推定することとされている。ただし、特定外国関係会社に該当すると推定される場合には、特定外国関係会社への該当が優先される(措法66の6②三)。 (了)

#No. 265(掲載号)
#長谷川 太郎
2018/04/19

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第46回】「交際費(損金性否認)」~交際費勘定に計上している支出の損金性が認められないと判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第46回】 「交際費(損金性否認)」 ~交際費勘定に計上している支出の損金性が認められないと判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して行われた「交際費勘定に計上している支出は損金性が認められないこと」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁昭和53年4月24日判決(行集29巻4号555頁。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注)  素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社の帳簿における交際費勘定中、来客に対するものとして支出したこととしている22万円及びK店主任の諸経費として支出したこととしている10万円について、その支出を確認する領収書等の証拠書類がなく、接待等の事実も確認できないことを理由に損金の額に算入されないとするものである。よって、X社の帳簿書類の記載自体を否認して更正する場合に該当する。 したがって、理由付記の程度としては、 ことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 上記(1)③の「帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料の摘示」とは、厳密にいえば、【1】「資料の摘示」という形式的な要素と、【2】当該資料が「更正処分の根拠となるもの」であり、かつ、当該青色申告者の「帳簿書類の記載以上に信憑力があるもの」であるという実質的な要素の2つから成る。 【1】において摘示すべき「資料」とは「証拠」と言い換えることができそうである。もっとも、反面調査先の応答内容を記載した質問応答録や課税庁内部の報告文書である調査官報告書などの証拠を逐一摘示することまでは求められていないという意味で、税務調査等で把握した事実そのものや当該事実が税務調査等で把握されたものである旨を摘示することも、ここでいう「資料の摘示」に該当すると解しておく。 本件理由付記は、関係者からの質問応答記録や課税庁の調査担当者作成の調査報告書などの証拠資料を摘示しているものではないものの、交際費勘定に計上されている上記22万円及び10万円は、その支出を確認する領収書等の証拠書類がないこと及び接待等の事実が確認できないことの2点を根拠として摘示する。その上で、これらの支出が損金の額に算入されないという判断結果を記載している。 実際に、本件において、「来客」や「K店主任の諸経費」という帳簿書類の記載それ自体から、取引内容、支出目的、支出の信憑性等について、どの程度、読み取ることができるかは必ずしも明らかではない(この点は、他の帳簿書類の状況等によって変化しうること及びそれによって記載すべき理由の程度も変わりうることに注意)という留保を付けざるを得ないものの、本件理由付記は、その記載内容から処分の根拠となる法令及び具体的な事実(ここでは損金性が認められるために当然求められる接待等の事実が確認できないこと)を理解することができるものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであると考える。 また、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、更正処分の根拠を帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによって明示していると解される。 もっとも、上記【2】の当該資料が「帳簿書類の記載以上に信憑力があること」という実質的な要素に係る信憑力の程度の問題については、色々と議論のあるところではある。本件理由付記に対しては、上記22万円及び10万円の支出を確認できるような領収書等の証拠書類がないとする根拠資料の摘示は必要ないとしても、接待等の事実が確認できないことを示す根拠資料の摘示は必要であるという批判もなし得る。例えば、税務調査官の質問に対する代表取締役又はK店主任の回答内容や反面調査先の回答内容等を記載すべきであるという批判である。 これに対しては、交際費を支出していないと判断した具体的根拠を信憑力のある資料により摘示していないから、本件理由付記は不備であるというX社の主張を排斥するにあたり、本判決が次のとおり判示していることが参考となる。 以上から、本件理由付記は法人税法130条2項の要請を満たすものであると考える。 *  *  * 次回は、「英文添削料の差額負担額が交際費に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 265(掲載号)
#泉 絢也
2018/04/19

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第1回】「メンタル・アカウンティングが意思決定の邪魔をする」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第1回】 「メンタル・アカウンティングが意思決定の邪魔をする」   公認会計士 石王丸 香菜子   *  *  * 1 “ココロ”の中の勘定(メンタルアカウンティング) 企業が様々な取引を行う際には、その取引を適した勘定に記入する会計処理を行います。これと同じように、私たちのココロの中にも勘定があって、知らず知らずのうちに、収入や支出、利益や損失を、いろいろな勘定に振り分けています。 行動経済学では、これを「メンタル・アカウンティング」と呼びます。 イメージしやすい例として、オー・ヘンリーの代表作『賢者の贈り物』のあらすじを考えてみましょう。 貧しいカップルが、それぞれ相手にクリスマスプレゼントを買おうとします。女性は、自分の自慢の髪を売ってお金を工面し、男性のために時計用の鎖(チェーン)を買います。一方、男性は、自分の大切な時計を売ってお金を工面し、女性のためにクシを買います。 この場合、女性のココロの中の勘定は、こんな感じのはずです。 女性は、高価なクシを買うと、日用品に使ってもよいと考える予算をオーバーしてしまうので、自分ではクシを買いません。しかし、相手へのプレゼントに使ってもよいと考える予算は大きいので、高価な鎖を買うという意思決定をするわけです。 このように、人は無意識のうちに、ココロの中にいろいろな勘定を持っていて、収入や支出を各勘定に振り分け、その勘定の中でやりくりをしています。ココロの勘定は、個人のお金の使い過ぎやムダ遣いを防ぐための、セルフコントロールシステムとして機能しています。 しかし、こうしたメンタルアカウンティングは、ココロの中の狭い勘定の枠内でやりくりをするため、全体像を考慮した合理的な意思決定を妨げることがあります。『賢者の贈り物』の例では、女性が自分にクシを買うにしろ、相手のために鎖を買うにしろ、高額の支出をすることに変わりはなく、合理的な意思決定であるとは言えないかもしれません(むろん、カップルの関係において、合理的であることが円満の秘訣であるというわけではありませんが・・・)。   2 「メンタルアカウンティング」が意思決定に影響する それでは、メンタルアカウンティングという無意識のココロのはたらきを念頭に置いて、PN社の第1事業部長や第2事業部長のココロの中をのぞいてみましょう。 ◆第1事業部長のココロの中 ◆第2事業部長のココロの中 こうしたメンタルアカウンティング的な発想は、経済的合理性が求められる企業での意思決定としては、適していないことも多いのです。 カズノ君の指摘のように、プロジェクトAについての一昨年の投資金額は、今となっては取り返すことのできない金額であり、現時点での意思決定の際に考慮するべきではありません(管理会計では、こうした金額を「」といいます)。 また、心情的には、幸運で得たちょっとした臨時収入があると、その金額を使って強気な投資や支出を行いがちです(身近な例では、ギャンブルで儲けたお金を、また気軽にギャンブルに使ってしまうのと同じです。カジノを「ハウス」と呼ぶことから、こうした心理を「ハウスマネー」効果と呼びます)。 しかし、企業活動上は、投資や支出についての効果とリスクを勘案して、合理的に意思決定を行う必要があります。 こうした合理的な意思決定を行うためには、管理会計の考え方や知識が役立ちます。管理会計は、例えば企業における以下のようなシーンで利用できます。 *  *  * この連載では、行動経済学など人の心理的側面に触れながら、企業経営上、合理的でない意思決定をしてしまいがちな事例を取り上げ、合理的な意思決定を行うために役立つ管理会計の考え方や知識を易しく解説します。 PN社のカズノ君たちと一緒に、企業経営に役立つ管理会計を勉強していきましょう!   ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 人がココロの中で無意識に様々な勘定を設定し、収入や支出を各勘定に振り分けてやりくりすること。狭い勘定の枠内で判断するので、合理的な意思決定の妨げになることがある。 ▷ 意思決定の際に考慮すべきでないコスト。 (了)

#No. 265(掲載号)
#石王丸 香菜子
2018/04/19

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第140回】リース会計⑦「不動産リース」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第140回】 リース会計⑦ 「不動産リース」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 土地はオペレーティング・リース取引に該当するものと推定 建物は以下のとおりオペレーティング・リース取引に該当すると判定 《現在価値基準》 ① (3,000千円×12月×10年)-(2,500千円×12月×10年)=60,000千円 ② ①÷100,000千円=60% ∴概ね90%以上ではない。 《経済的耐用年数基準》 10年÷20年=50% ∴概ね75%以上ではない。   〈会計処理の解説〉 不動産の賃貸借取引もリース取引に該当し、ファイナンス・リース取引に該当するか、オペレーティング・リース取引に該当するかを判定します(適用指針第19項)。 土地と建物等を一括したリース取引の現在価値基準の判定にあたっては、リース料総額を“合理的な方法”で土地に係る部分と建物等に係る部分に分割して判定しますが、“合理的な方法”としては次のような方法が挙げられます(適用指針第20項、第99項)。 ただし、土地の賃料が容易に判別可能でない場合には、土地部分と建物部分を区分せずに現在価値基準の判定を行うことができるものとするとされています(適用指針第100項)。 土地については次の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合を除き、オペレーティング・リース取引に該当するものと推定することとされています(適用指針第19項ただし書き)。 これは、土地の経済的耐用年数は無限であるため、上記の(1)又は(2)のいずれかに該当する場合を除いては、通常、フルペイアウトのリース取引に該当しないと考えられることによります(適用指針第98項)。 (了)

#No. 265(掲載号)
#竹本 泰明
2018/04/19

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q12】「企業が合併した場合、雇用保険に関してどのような手続きが必要か」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q12】 企業が合併した場合、雇用保険に関してどのような手続きが必要か   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 雇用保険に関しては、消滅会社の適用事業所を管轄するハローワークにおいて、同一事業主としての認定を受けた上で、適用事業所を廃止する手続き又は適用事業所の名称を変更する手続きを行う。 ここでは、A社を消滅会社、B社を存続会社とする吸収合併の前提で、必要な雇用保険の手続きを確認する。なお、適用事業所は、A社、B社ともに1事業所の前提とする。    同一事業主の認定手続き A社の適用事業所を管轄するハローワークにおいて、A社とB社が同一の事業主であることの認定を受ける手続きを行う。 この同一事業主の認定手続きは、同一事業主であることを確認する一定の資料を提出するものとなるが、ハローワークにより「新旧事業実態証明書」や「同一事業主認定申請書」等の任意様式の提出が必要になるため、管轄のハローワークに事前に提出書類の確認が必要となる。 なお、任意様式以外では概ね次のような書類の提出が求められる。    適用事業所廃止又は事業所等変更手続き 同一事業主の認定手続きを行ったうえで、合併後の適用事業所の状況により、A社の適用事業所を管轄するハローワークにおいて次の手続きを行う。この手続きは、合併後10日以内に実施することとされているため、同一事業主の認定手続きも含めて対応が必要となる。 ①は、A社の適用事業所を廃止する手続きとなる。合わせて、会社で所有している雇用保険適用事業所台帳を返却する。 ②は、B社において2つの適用事業所を持つ形となり、A社の適用事業所の名称を合併後の事業所の名称に変更する手続きとなる。合わせて、会社で所有している雇用保険適用事業所台帳を返却する。 なお、②の手続きを行う場合は、労働保険において名称を変更する手続きを行った控えの提示が求められるため、雇用保険の手続きの前に、労働保険において名称を変更する手続きを行う必要がある。 (〔合併編〕終了)

#No. 265(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2018/04/19

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第11回】「非鉄金属メーカーにおける不適合品の出荷と「非公式の内規」」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第11回】 「非鉄金属メーカーにおける不適合品の出荷と「非公式の内規」」   弁護士 原 正雄   2018年3月28日、非鉄金属メーカーであるMマテリアルは、子会社の不正についての特別調査委員会の「最終報告書」を公表した。 本件における不正とは、顧客が求めた品質基準を満たさないのに、基準を満たしているかのように検査データをごまかし、不適合品を出荷していた、というものであった。 本件は、複数の子会社にわたって不正が行われていたこと、発覚から公表までにかなりの時間を要したことや、調査開始後も新たな不正が続々と判明したことなど、複雑な経緯を辿っており、論点は多い。 ただ、本件では、不適合品の出荷について、現場に「非公式の内規」が作成されていたことが注目される。そこで、本稿では、「非公式の内規」の内容を踏まえて、なぜそのような内規が作成されたのか、どのようにすれば、そうした内規の作成を防ぐことができるのか、分析していきたい。 なお、検査データの改ざん問題として、前回取り上げた事案も併せて参照されたい。   1 「特採処置実施規定」の内容 Mマテリアルの子会社であるMアルミは、アルミ板製品の不適合品の取扱いについて、非公式の内規として「特採処置実施規定」を定めていた。同規定は、規格外れの板製品であっても、逸脱の程度が一定範囲内であれば「特採処置」として許容する、というものであった。   2 「特採処置実施規定」が策定された経緯 同規定は、2002年11月に策定され、以後、約15年間にわたって運用されてきた。 2002年以前、Mアルミでは、製造部の下に「品質技術室」を置いていた。不適合品が発生した場合、品質技術室の担当者が、過去の実績に照らして顧客の使用上問題があるかを判断する。その結果、問題ないと判断すれば、試験データの書き換えを行っていた。 品質保証部は、こうした書き換えを問題と捉え、製造部に対して、不適合品の出荷を止めるよう申し入れた。これに対して、製造部内の品質技術室は、「不適合品の出荷停止は影響が大きいので、今すぐの出荷停止は無理である」と考えた。 ただし、当時の試験データの書き換えの運用は基準が不明確であり、担当者ごとに判断がばらつく懸念があった。そこで、試験データの書き換えに歯止めをかけるため、「特採処置実施規定」を新たに定めた。 つまり、試験データの書き換えを認める場合を限定することで、それ以外の書き換えを禁止したのである。   3 「特採処置実施規定」の問題 上記規定は、顧客の了承なしに試験データを書き換えることを認めるものであった。品質技術室の担当者らは、「特採処置実施規定があること自体も問題であり、将来的には解消しなければならない」ということは認識していた。 そこで、上記規定においては、特定の顧客のみ、特定の製品のみを対象とすると定め、他の顧客や製品には適用できないようにしていた。また、対象顧客や対象製品の追加は禁止されていた。 当初、対象顧客数は数十社以上あった。しかし、その後、製造工程が改善されて不適合品の発生率が下がると、Mアルミは、その都度「特採処置実施規定」を改訂して、対象顧客数を減少させていった。その結果、2016年11月には、対象顧客数は残り2社にまで減少していた。 もっとも、「試験データの書き換えに歯止めをかけるため」という「特採処置実施規定」の当初の目的は、約15年という年月が経過するうちに希薄化され、忘れられていった。その結果、同規定に定めがない顧客や製品についても、試験データの書き換えを許容する企業風土を作出してしまった。   4 背景事情 本件で、「非公式の内規」が策定された背景事情として、受注優先、納期優先の企業風土を挙げることができる。 Mアルミは、既に同業他社が先行している中で、事業を拡大していった。そのため、新規顧客との取引においては、既に同業他社に発注済みの顧客から乗り換えてもらう場面も多々あった。そうした場合、顧客は、同業他社と同じ規格を実現するよう、求めてくる。Mアルミの営業担当者は、自社の製造能力を顧みることなく、売上を優先して、そのままの規格で受注してしまった。 また、Mアルミでは、納期優先の考え方が重要視されており、品質の検査が重要なものであるとの共通理解が構築されていなかった。製造部門において、品質の検査を担う部署の立場が弱かったことも指摘されている。 こうした中で、品質の検査を担う品質技術部は、品質保証部から、不適合品の出荷を止めるよう申入れを受けた。品質技術部は、その申入れを尊重しつつ、出荷停止による影響を最小化すべく、「特採処置実施規定」を策定したのである。   5 防止策 ここで重要なのは、品質保証部が、不適合品の出荷を問題であると把握したにもかかわらず、経営層に伝達された形跡がないことである。 本来、出荷を停止するというのは、高度な経営マターである。品質技術室のような一部署が判断できないのは、当然である。 ところが、本件では、経営層に不適合品の問題が伝達されず、その結果、出荷停止の意思決定もなされなかった。品質技術室が「特採処置実施規定」を策定したのは、出荷停止という選択肢が許されない中での窮余の策であった。 このことから、本件のような事象を防止するための方策として、特に3つのことを指摘することができる。 第一に、品質保証部が把握した問題は、大小を問わず、自動的に経営層に伝達される仕組みを作ることである。品質保証が問題になる案件は、短期的には売上や納期、コストに影響を与えることが多い。経営層による意思決定がなければ、改善を期待できないのが通常である。そのため、経営層は、品質保証に係る問題を常に把握し、改善に向けて意思決定をしなければならない。 第二に、品質の検査を担う部署を製造部門から独立させることである。本件では、「特採処置実施規定」を策定した「品質技術室」は、上述したように製造部の下に置かれていた。一般に、製造部は、どうしても納期を優先してしまう傾向がある。検査を行う部署が製造部の下に置かれていたのでは、納期遵守に反するような行動ができないのは当然である。 第三に、品質保証を担う部署の人員数を充実させることである。Mアルミでは、今回の問題が発覚した後に至っても、品質統括部の人員は、僅か2名であった。人数が少なくては、充実した品質保証業務は行えない。また、人数が少ないということは、経営層から社内に対して「品質は重視していない」というメッセージを送ることに等しい。そのような状況では、品質保証を担う部署が何を言おうとも、製造部門が耳を貸さないのは当然である。 もちろん、本件では、品質を重視しない、契約を軽視しているなど、より本質的な問題として、企業風土の存在を指摘することができる。確かに、企業風土の改善は、欠かすことができない。ただ、企業風土の改善は、単に研修等を行うだけでなく、品質重視の組織に変更していくなど、経営層が行動で示すことが、より重要である。   6 従業員の「真面目さ」を正しく活用しなければならない 本件以外でも、現場において、経営層が関知しない非公式の内規が作成されていたという企業不祥事の事例はある。 例えば、1999年、茨城県の東海村にある原子力施設で、核物質が臨界に至り、大量の放射線や熱が発生し、死亡者が出るという重大な事故が発生した。 同施設では、本来、臨界事故が起きないよう、多数の作業工程を定めた詳細なマニュアルが策定されていた。ただ、会社側は、現場に対して、なぜ多数の作業工程が必要なのか、臨界がいかに危険なのかを伝えていなかった。 そこで、現場が独自の「創意工夫」を行い、より簡易な工程でもかまわないとする「裏マニュアル」を作成してしまった。現場は、何か不正の利益を得ようとしたのではなく、より効率的な手続を目指しただけであった。 この臨界事故の事例は、既に存在する不正を解消しようとした本件とは、前提が異なる。ただ、現場が何か不正の利益を得ようとしたわけではない、という点では一致する。あくまで、現場として最善を尽くした結果、現場が「ベストプラクティスである」と判断した結果をまとめて、それを「非公式の内規」としただけなのである。 そもそも、わざわざ「内規」や「マニュアル」を作成するというのは、手間のかかる作業である。現場の従業員は、本質的に、非常に真面目であることが見て取れる。ただし、その「真面目さ」の向かう方向が間違ってしまったのが、今回のMアルミの事件であり、東海村の臨界事故である。 従業員の「真面目さ」が向かう方向を指示するのは、本来、経営層の仕事である。コンプライアンス体制とは、従業員が向うべき方向を知るための枠組みである。 全ての企業は、従業員の「真面目さ」を正しく活用しなければならず、コンプライアンス体制の構築を怠るようなことがあってはならない。 (了)

#No. 265(掲載号)
#原 正雄
2018/04/19

AIで士業は変わるか? 【第11回】「AIが企業の情報開示に与える影響」

AIで 士業は変わるか? 【第11回】 「AIが企業の情報開示に与える影響」   事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹   1 AIブーム 最近仲間同士集まった際に必ず話題に上がる言葉といえば、仮想通貨とAIです(仮想通貨の方は、いろいろあって若干沈静化していますが)。これらは明らかに「ブーム」と言っていいでしょう(仮想通貨の方は「バブル」?)。 新聞でAIという言葉を目にしない日はおそらくないかと思いますし、「週刊東洋経済」や「週刊ダイヤモンド」といった経済誌から「週刊ポスト」や「週刊現代」といった大衆誌まで、多くの特集が組まれ、AIの専門家や、専門家なのかどうかよく分からない評論家やコンサルタントまでが、「AIに仕事が奪われる」といった、こちらの不安を煽るようなことを言っています。 とうとうまったく門外漢の私のところに、このようなAIに関連した執筆の依頼が来るぐらいですから、特にAIはものすごいブームなのだと思います。   2 人間は単純? この執筆依頼を受けて困った私は、とりあえず近所のジュンク堂へ行き、タイトルにAIが入っている書籍を片っ端から手に取ってみました。しかし、目を通してみて、なかなかしっくりとくる書籍が見つかりませんでした。そんな中、唯一、私にとってしっくりときたのが、新井紀子著『AIvs.教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)でした。あくまで私個人の感想ですが、新井氏の言説には唯一説得力が感じられました。 たまにですが、いわゆる理系エリートの方の言説に対して違和感を抱いてしまうことがあります。すべての方ではありませんが、そうした方の中には、日頃複雑な数式等と向き合っているからでしょうか、少し人間を単純視し過ぎている方がいるようです(あくまで私個人がこれまで接してきた方々の傾向です)。AIについて論じている方の言説に対して抱いた違和感も同様のものです。 しかし、新井氏も理系エリートの方ですが、同氏の言説に対しては、そうした違和感を抱くことがありませんでした(同氏の言説に対しては、当然、賛否両論あるかと思いますが)。   3 会計士・税理士が消滅する? AIに取って代わられる仕事としてよく取り上げられるのが、この「プロフェッションジャーナル」の主たる読者である公認会計士や税理士の仕事です。しかし、ここで私が言うまでもなく、そうした言説は、公認会計士や税理士の仕事を単純視し過ぎています。監査や税務の仕事をまったく分かっておらず、単なる数字チェックや機械的な代行だと思っているようです。 新井氏によれば、AIには読解力と常識において限界があるとのことです。監査や税務においては、状況に応じて様々な解釈や判断が求められます。そうしたことはAIには無理なのです。AIは、公認会計士や税理士を助けてくれる存在にはなっても、仕事を奪う存在にはならないはずです(もちろん、解釈や判断を伴わない単純な仕事しか行っていない公認会計士や税理士がいるとしたら、彼らの仕事は奪われるかもしれません)。 最近、AIによって公認会計士や税理士の仕事がなくなるという言説を信じて、それらの資格取得を目指すのを止める方がいると聞いたことがありますが、それは、ノストラダムスの予言を信じて、努力するのを止めるようなものですね(それらの試験は実際には相対評価なので、賢明でない受験者が減ることにより質が上昇するといえるかもしれませんが)。   4 会計バカ・税法バカでは 高度な読解力が求められる公認会計士試験や税理士試験を突破した公認会計士や税理士なら、高度な読解力を有しているはずであり(おそらく)、読解力がAIに負けることはないでしょう。 しかし、常識はどうでしょうか。 的確な解釈や判断を行うには、会計や税法の知識だけでなく、常識が必要となるはずです。ここでの常識には、経済や経営の知識のほか、様々な知識が含まれますし(それは「教養」と呼ばれるものかもしれません)、経験知も含まれます。 AIに取って代わられることはないといっても、これまでと同じでいいわけではありません。AIにできない仕事の能力を高めていく必要があり、そのためには幅広く様々な知識を学び続ける姿勢を持ちながら、経験を積み重ねていかなければならないかと思います。   5 AIと開示 この「プロフェッションジャーナル」で「〔検証〕適時開示からみた企業実態」という連載を執筆しているため、やはり「開示」に関連させてと思い、本稿のタイトルを「AIが企業の情報開示に与える影響」としました。 ここまで開示に触れておらず、前置きが長くなったようですが、ここまでの内容から、AIが企業の情報開示に与える影響についての私の考えは、おおよそ想像していただけるのではないかと思います。 AIは企業の情報開示に影響を与えるかもしれませんが、すべての問題を解決してくれるわけではないはずです。 平成30年3月20日付の日本経済新聞に、「適時開示の質問・自動応答-日本取引所、AI導入拡大」という記事が掲載されていました。日本取引所グループが、企業からの適時開示システムに関する問い合わせに対してAIが応答する仕組みを導入するとのことです。 一瞬、「そんなこと可能なのか?」と思ったのですが、記事をよく読むと、AIが応答するのは、適時開示「システム」に関する問い合わせに対してであり、開示の内容に関わる問い合わせに対してではありません。   6 開示資料を作成するAI 今後、企業の側でも、情報開示にAIを導入する動きが出てくるかもしれません。企業の情報をデータベースに集め、AIがそれをもとに開示の要否を判断して、開示資料を作成するといったようなことは、不可能ではないかもしれません(法定開示資料を作成するAIを宝印刷やプロネクサスといった企業が、あるいは適時開示資料を作成するAIを東証が開発?)。 ただ、もしも本当にそうしたAIが現れたら、私の連載「〔検証〕適時開示からみた企業実態」で取り上げたくなるような開示を連発してくれるだろうと思います。 すなわち、AIは、定量的な情報に基づく開示資料の作成は容易にできても、定性的な情報に基づく開示資料の作成は困難なはずです。AIによる説明はパターン化したものとなり、真実からずれたものとなるでしょう。また、開示の要否の判断も、困難な場合があるでしょう。特にバスケット情報の開示の要否については、AIでは判断できないでしょう。 やはり企業の情報開示業務も、AIが代わってくれる部分は出てくるかもしれませんが、すべてを代わってくれるようにはならないでしょう(AIにすべて任せてしまった方がましだという企業も中にはあるかもしれませんが・・・)。 (了)

#No. 265(掲載号)
#鈴木 広樹
2018/04/19

《速報解説》 平成30年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた法人税法施行規則等が公布される~大企業の措置法適用可否を判定する別表6(29)が新設~

《速報解説》 平成30年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた 法人税法施行規則等が公布される ~大企業の措置法適用可否を判定する別表6(29)が新設~   Profession Journal編集部   平成30年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則が4月13日付官報号外第84号で公布された。これら改正後の様式は原則として平成30年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則2)。 (※) 官報同号にて地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 以下、主な様式の変更内容を紹介する。 まず、制度が改組された所得拡大促進税制(措法42の12の5:給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除)は、次の通り大企業(中小企業者等以外)と中小企業者等ごとに様式が分かれ、共に拡充要件である教育訓練費増加割合の計算欄(大企業の場合は国内設備投資に係る計算欄含む)等が設けられた。 (※1) 雇用促進税制との重複適用時に使用。 (※2) 改正後の新制度は平成30年4月1日以後開始事業年度から適用されるため、同日をまたぐ事業年度の場合は旧制度の適用により中小企業者等も別表6(23)を使用する。 〈別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 〈別表6(23)付表1 給与等支給額、当期償却費総額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書〉 〈別表6(24) 中小企業者等が給与等の引上げを行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉   次に、本年度改正で創設された特例措置のうち、高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除(措法42の5②)に係る別表6(12)、革新的情報産業活用設備を取得した場合の法人税額の特別控除(措法42の12の6②)に係る別表6(25)が新設された。 〈別表6(12) 高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 〈別表6(25) 革新的情報産業活用設備を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 なお、上記別表6(25)の冒頭にある   特定税額控除規定の適用可否 │ 可  欄に注目していただきたい。 これは本年度改正において租税特別措置の適用要件の見直しがあり、大企業が次の要件のいずれにも該当しない場合、一定の税額控除の規定を適用しないこととされた(措法42の13⑥)ことによるもの。 このため、この規定を受ける制度として上記の別表6(25)の他、研究開発税制(中小企業者向けのものを除く)に係る別表6(6)等、地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に係る別表6(17)の冒頭にも同様に、適用可否の欄が設けられている。 なお、この適用可否を判定するための明細書は次の別表6(29)であり、大企業にとっては重要な様式といえるだろう。 〈別表6(29) 特定税額控除規定の適用可否の判定に関する明細書〉 その他、代表者及び経理責任者等の自署押印制度の廃止により別表1(1)等における「経理責任者自著押印」欄がなくなり「代表者自著押印」欄は「代表者記名押印」欄とされた。また、昨年度改正における新たなCFC税制に対応した別表17関係の様式(12表)が新設されている。 国税庁では今回の改正省令に対応した申告書様式のページを公表しているが、本稿公開時点では様式(PDFファイル)は公表されておらず、今後順次公表されることになる。 (了) ↓お薦め連載記事↓

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#Profession Journal 編集部
2018/04/19
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