日本の企業税制 【第63回】 「役員給与をめぐる規律の見直し」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 昨年12月に公表された平成31年度税制改正大綱では、役員の業績連動給与の損金算入要件の1つである手続要件の見直しが行われることが盛り込まれている。 具体的には、現行制度では、報酬(諮問)委員会による決定を経る場合には、同委員会の構成員に1人でも業務執行役員が含まれていると損金不算入となることとされているが、構成員の過半数が「独立社外役員」であり、その「独立社外役員」全員が賛成することを要件に損金算入を認めることとする。 一方、監査役(会)設置会社や監査等委員会設置会社において認められている監査役の過半数の適正書面(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員の過半数の賛成)に基づく損金算入は、今後認められないこととなる。 〇コーポレートガバナンス・コードの改訂 今回の改正のきっかけの1つとなったのは、昨年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂である。 まず、補充原則4-2①が次のように改訂された(下線筆者)。 中期的な業績と連動する報酬の割合を適切に設定すべきことは改訂前から提示されていたところであるが、改訂後は「客観的・透明性ある手続に従い」制度設計をすべきことが追加された。この手続に関しては、補充原則4-10①が次のように改訂され、「独立した諮問委員会」の例示として、独立社外取締役を主要な構成員とする報酬委員会が挙げられた(下線筆者)。 なお、昨年7月の東京証券取引所の調査によれば、東証一部上場会社の91.3%(1,916社)において2名以上の独立社外取締役がおり、3分の1以上に絞っても33.6%(706社)に及んでいる。また、法定・任意の報酬委員会を設置している会社も792社(37.7%)となっている。 〇有価証券報告書の記載事項の拡充 昨年11月に公表されパブリックコメントが行われていた「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正案では、建設的な対話の促進に向けた情報の提供の観点から、役員の報酬について、報酬プログラムの説明(業績連動報酬に関する情報や役職ごとの方針等)、プログラムに基づく報酬実績等の記載を求めることとしている。なお、改正後の規定は、本年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定である。 具体的には、第一に、役員の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針について、①役職ごとの方針を定めている場合はその内容、②方針の決定権限を有する者の氏名又は名称、その権限の内容、裁量の範囲、③方針の決定に関与する委員会(以下、委員会等)が存在する場合は、その手続の概要、の開示が追加される。 第二に、提出会社の役員の報酬等に業績連動報酬が含まれる場合は、①業績連動報酬とそれ以外の報酬等の支払割合の決定方針を定めているときは、その方針の内容、②当該業績連動報酬に係る指標、③当該指標を選択した理由、④当該業績連動報酬の額の決定方法、⑤最近事業年度における当該業績連動報酬に係る指標の目標、実績、の開示が求められる。 第三に、①提出会社の役員の報酬等に関する株主総会の決議が、(a)ある場合は、当該決議年月日、(b)ない場合は、提出会社の役員の報酬等について定款に定めている事項の内容、②最近事業年度の提出会社の役員の報酬等の額の決定過程における提出会社の取締役会、委員会等の活動内容、の開示も追加される。 〇会社法の改正 会社法改正に向け、1月16日に法制審議会会社法制(企業統治関係)部会は「会社法制(企業統治関係)の見直しに関する要綱案」を決定したが、役員報酬について次のような見直しが盛り込まれている。 まず、監査役会設置会社(公開会社で大会社の有報提出会社)及び監査等員会設置会社においては、取締役(監査等委員である取締役を除く)の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による定めがある場合には、その定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針(報酬等の決定方針)を取締役会で決定することが義務付けられる。また、報酬議案を株主総会に提出した場合には、取締役は、その株主総会において、その報酬(定額金銭報酬を含む)を相当とする理由を説明する。 また、報酬に関する事業報告において、①報酬等の決定方針に関する事項、②報酬等についての株主総会の決議に関する事項、③取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項、④業績連動報酬等に関する事項、⑤職務執行の対価として株式会社が交付した株式又は新株予約権等に関する事項、⑥報酬等の種類ごとの総額、に関する開示事項が追加される。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第6回】 「租税法律主義と実質主義との相克」 -税法の解釈適用論上の原理的課題- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 租税法律主義を税法の解釈適用の場面で論じるとき、原理的には、実質主義ないし実質課税の原則との相克をいかにして克服すべきかが課題とされてきた。その議論の一端は既に第2回のⅢで取り上げたが、今回は、その原理的課題の意義それ自体を検討することにしたい。 税法上の実質主義について、かつて、清永敬次教授は次のように述べておられた(同『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)362頁[初出・1967年])。 以上の引用文のうち特に最後の一文には、今回のテーマである、租税法律主義と実質主義との相克をめぐる問題状況が、的確かつ簡潔に描き出されているように思われる。以下では、まず、その問題状況を、租税国家における「税法の世界」の比喩的素描(【2】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。以下同じ)に依拠しながら、敷衍しておこう。 なお、実質主義の意味内容は(今日においてもなお)清永教授の言われるように「曖昧で非常にとらえどころのないもの」であるとはいえ、ここでは、筆者のみるところ適切と思われる定義に従い、「税法の解釈及び課税要件事実の判断については、各税法の目的に従い、租税負担の公平を図るよう、それらの経済的意義及び実質に即して行うものとするという趣旨の原則」(税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)4頁。公益社団法人日本租税研究協会ウェブサイト「税制調査会答申集」参照)として、理解しておくことにする。 Ⅱ 租税国家における「税法の世界」と実質主義 1 税(法)は私的経済活動の上に建てられた「家」のようなものである この見出しの一文は、筆者が租税国家における「税法の世界」の比喩的素描図(【2】)のタイトルとして用いたものであるが、その含意は以下のようなものである(【42】)。 税(法)は私的経済活動の上に建てられた「家」のようなものであるが、その「土台」である私的経済活動は私法によって規律されることから、その「家」の「構造」を規律する税法は、その「建材」として、私法上の概念や法律関係を用いることが多い。そのため、その「家」の「土台」としての私的経済活動に関する経済的思考と、その「家」の「構造」を規律する税法それ自体及びその「建材」としての私法上の概念・法律関係に関する法律的思考とが、その「家」の中で対立し、その結果、あたかも「軟弱地盤の上に建つ家」にみられるが如き「建付けの悪さ」を生じさせる。経済的思考は「柔軟・変化・複雑多様性」によって特徴づけられるのに対して、法律的思考は「硬質・安定・明確性」によって特徴づけられるので、両者は異質な思考として税(法)という「家」の「建付けの悪さ」を生じさせるのである。 ここでいう「建付けの悪さ」は、私法上の法形式は異にするが経済的実質を同じくする私的経済活動それ自体ないしその経済的成果に対して、私法上の法形式を重視して、異なる課税をすることに基因して生ずる課税上の不公平を意味する。 2 実質主義と経済的観察法 税法の解釈適用は、このように、本質的には、経済的思考と法律的思考との相克の中にある。その相克は、税(法)という「家」の「建付けの悪さ」をいかにして解消するかをめぐるものである(【42】)。 実質主義は、かつては、経済的思考(による租税負担公平の実現)を重視し、課税要件事実の経済的意義及び実質に即した解釈適用によって、換言すれば、経済的思考を税法の解釈適用の中に持ち込むことによって、いわば「建材の柔軟化」を通じて、税(法)という「家」の「建付けの悪さ」を解消しようとする考え方であった。これは、ドイツの1919年ライヒ租税基本法(Reichsabgabenordnung)が創設した経済的観察法(wirtschaftliche Betrachtungsweise)に相当するものであった。 これに対して、法律的思考を重視する立場からは、法律的思考によって「建材の硬質性」を堅持し、もって税法の解釈適用に厳格さを貫徹し、その限界を明確にした上で、その限界を超えるところでは、税(法)という「家」の「建替え」(=法改正)によってその「建付けの悪さ」を解消することが要請される。このような要請は、租税法律主義(合法性の原則)の下での厳格な解釈適用の要請(【41】)と重なり合う。 Ⅲ 税法の解釈適用方法論の観点からみた実質主義 1 目的論的解釈及び目的論的事実認定 経済的観察法を法の解釈適用方法論の観点からみると、それは、一種の目的論的解釈及び目的論的事実認定の要請であり、一般論としては、その許容性が直ちに否定されるべきものではない。今日のドイツにおいては、経済的観察法は、これを定める明文の規定は1977年租税基本法によって削除されたものの、そのように理解されている。しかし、かつて経済的観察法に対して厳しい批判が加えられたのは、それがとりわけ第二次世界大戦前のドイツでは、「国庫主義の理論的な武器」として、税法の自由で恣意的な解釈適用を可能にするために、用いられていたからである。 そのような国庫主義的な経済的観察法の典型的な立場によれば、租税法律の第1の目的は、できるだけ多くの税収を確保することであり、さらに、その結果生ずる私的経済に対する攪乱的・敵対的侵害を、租税負担公平の実現を旨とする公平負担の原則(【21】)によって正当化することも、租税法律の任務である、とされていた。これらのことは租税立法一般の動機を述べるものである。 しかし、そのような立法動機を税法の解釈適用の基準として援用することを、税務官庁に認めることによって、租税立法者の裁量に匹敵するほどの「自由」を、さらにナチス政権下ではそれを凌駕するほどの「自由」を、税務官庁に与えようとしたところに、国庫主義的な経済的観察法の狙いがあり、同時に、問題もあったのである。それは、「税法の解釈適用論の衣を着た自由裁量論」ともいうべき考え方であり、法治主義を破壊する危険性を孕むものであった。しかもその危険性はナチス政権下で現実のものとなった。 2 経済的実質主義への「先祖返り」のおそれ わが国の実質主義も、かつては、国庫主義的な経済的観察法と同様の「極印」(「経済的実質主義」)を押されていたと考えられる。しかし、租税法律主義(合法性の原則)の下で税法の解釈適用に厳格さが強く求められるようになった今日では(第3回参照)、経済的実質主義(国庫主義的な実質主義)は「封印」されているとみてよかろう。 もっとも、その「封印」は、目的論的解釈及び目的論的事実認定において、租税法規の趣旨・目的の捉え方あるいは使い方如何によっては、緩んでしまい、それに伴い、税法の自由で恣意的な、したがって行き過ぎた解釈適用(税法の解釈適用の「過形成」)に伴う弊害が顕在化してくるおそれがある。その弊害は、経済的実質主義への「先祖返り」ともいうべき解釈適用によるものである。 Ⅳ まとめ 租税法律主義と実質主義との相克に関する以上の課題認識の下で、次回以降何回かにわたって、経済的実質主義への「先祖返り」ともいうべき、税法の解釈適用の「過形成」について、裁判例を素材にして検討していくことにしたい。 「過形成(hyperplasia)」とは、医学用語で「細胞の増加による組織の過度の発育」(森岡恭彦総監訳『カラー図説 医学大事典』(朝倉書店・1985年)111頁)をいうが、その卑近な例としてはいわゆるペンだこが挙げられる。過形成は、「腫瘍」とは異なり、「新しく形成された部分に正常の構造と機能が維持されている」(同)ので、「その原因たる刺激がなくなればこの過形成は終わる」(和田攻総監修『医学生物学大辞典』(朝倉書店・2001年)1303頁)とされる。 税法の解釈適用の「過形成」に関する検討の狙いは、税法の解釈適用について、医学において「過形成」にも認められるような「正常な構造と機能」を回復しようとするところにある。このような問題意識については、基本的には既に拙稿「租税回避と税法の解釈適用方法論-税法の目的論的解釈の『過形成』を中心に-」岡村忠生編著『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(ミネルヴァ書房・2015年)1頁、11-12頁で述べたが、この論文で取り上げた裁判例だけでなく他の裁判例も素材にして、税法の解釈適用の「過形成」について検討を加える予定である。 (了)
平成30年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「雑損控除等の実務に関するQ&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 最終回は、前回制度内容とその効果を解説した雑損控除について、適用にあたって判断に迷うケースをピックアップしQ&A方式で解説するとともに、昨年12月に国税庁が注意喚起を行った、住宅取得等資金の贈与特例と住宅借入金等特別控除をいずれも適用する場合の控除額の計算方法を取り上げることとする。 〈雑損控除の対象となる資産〉 【Q1】 豪雨により別荘が全壊する被害を受けた。この損失について、雑損控除の適用を受けることはできるか。 【A1】 別荘について生じた損失の金額は、雑損控除の対象とならない。 -解説- 雑損控除の対象となる資産は、生活に通常必要な資産である(所法72①)。不動産のうち生活に通常必要な資産は、居住の用に供する住宅とその敷地である。別荘のように主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有する不動産は、生活に通常必要な資産には該当しない(所令178①二)。 したがって、別荘について災害により生じた損失の金額は、雑損控除の対象とならない。また、災害減免法による所得税の軽減免除の適用対象となる「住宅」も、「自己又は扶養親族が常時起居する家屋」とされており、別荘は含まれていない(災免法2、災免通2)。 なお、災害により、生活に通常必要でない資産について受けた損失の金額は、その損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の総合課税の譲渡所得の金額の計算上控除することができる(所法62、所令178③)。 〈雑損控除の適用対象となる親族の範囲〉 【Q2】 豪雨により自宅が被害を受けたため、確定申告により雑損控除の適用を受ける。以下の場合において、住宅に係る損失の金額の全額を夫の雑損控除の対象にできるか。 家族構成:夫、妻、夫の母(夫の扶養親族) 自宅の持分:夫1/2、妻1/4、夫の母1/4 確定申告する年分の所得 夫:給与所得600万円、妻:給与所得400万円、夫の母:所得なし 【A2】 住宅に係る損失の金額の全額について、夫の雑損控除の対象とすることはできない。損失の金額のうち夫の母の持分に相当する額(1/4)は、夫の雑損控除の対象になるが、妻の持分に相当する額(1/4)は、妻の雑損控除の対象となる。 -解説- 雑損控除の適用を認められる親族の範囲は、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族でその年分の総所得金額等が38万円以下のものである(所法72①、所令205①)。 事例の場合、妻の総所得金額等は38万円を超えていることから、住宅に係る損失の金額のうち妻の持分に相当する額を夫の雑損控除の対象とすることはできない。当該損失の金額については、妻の雑損控除の対象となる。 次に、所得がある者が2人以上いる場合に、生計を一にする総所得金額等38万円以下の親族をいずれの親族として雑損控除を適用するかは、以下により判断する(所令205②)。 夫の母(総所得金額等38万円以下)は夫の扶養親族であることから、夫の親族として雑損控除を適用する。 〈被災者生活再建支援金と雑損控除〉 【Q3】 被災者生活再建支援法に基づく支援金を受け取っている。雑損控除の計算において、受け取った支援金は差し引くのか。 【A3】 被災者生活再建支援法に基づく支援金は、雑損控除の計算において損失の金額から差し引く必要はない。 -解説- 雑損控除の計算において、保険金、損害賠償金等の損失を補填する金額がある場合には、それらを控除した後の金額が損失の金額となる(所法72①)。 被災者生活再建支援法に基づく支援金は、住宅の被害の程度や再建方法により支給額が決まることから、東日本大震災前の雑損控除の計算においては、保険金等と同様に損失を補填するものとして、損失の金額から控除することとされていた。 その後、税務上の取扱いが変更され、東日本大震災以後は、雑損控除の計算において被災者生活再建支援法に基づく支援金は損失の金額から控除しないものとされた。 〈雑損失の繰越控除の計算方法〉 【Q4】 次の《ケース①》及び《ケース②》において、本年分の雑損失のうち翌年以後に繰り越される金額はそれぞれいくらになるか。 《ケース①》(総所得金額等 < 雑損失の額) 総所得金額等:500万円 雑損失の金額:800万円 雑損控除以外の所得控除の額:200万円 《ケース②》(総所得金額等 > 雑損失の額) 総所得金額等:500万円 雑損失の金額:400万円 雑損控除以外の所得控除の額:200万円 【A4】 翌年以後に繰り越される雑損失の金額は、《ケース①》:300万円、《ケース②》:0円となる。 -解説- 雑損失のうち損失が生じた年に控除しきれなかった金額は、翌年以後3年間にわたって繰越控除することができる(所法71①)。また、所得金額から差し引く所得控除の順序は決められており、まず雑損控除を行うこととされている(所法87①)。 したがって、《ケース①》では、雑損失のうち総所得金額等を超える部分の金額が翌年以後に繰り越す雑損失の金額となる。 《ケース②》では、所得控除の合計額(400万円+200万円=600万円)は総所得金額等を超えている(引ききれない)が、所得控除の中では雑損控除を優先して控除するので、翌年以後に繰り越す雑損失の金額はない。 〈住宅取得等資金の贈与と住宅借入金等特別控除〉 【Q5】 平成30年3月に新築の住宅(土地建物合計4,000万円、特定取得に該当、共有者はいない)を購入し、翌月より居住の用に供している。4,000万円のうち500万円は実父から贈与された資金で支払い、残額は金融機関から借り入れた(諸費用分を含め3,700万円)。実父からの贈与については、住宅取得等資金の贈与の特例の適用を受ける。 このとき、住宅借入金等特別控除の控除額(一般の住宅)はどのように計算するのか。平成30年12月末の借入金残高は3,600万円であり、住宅借入金等特別控除の適用要件はすべて満たしている。 【A5】 年末の借入金残高3,600万円と、取得対価の額等から贈与額を差し引いた3,500万円(4,000万円-500万円)を比較し、少ない方の金額3,500万円に1%を乗じた35万円(3,500万円×1%)が控除額となる。 -解説- 直系尊属から取得資金の贈与を受けた場合には、一定の金額まで贈与税が非課税となる(住宅取得等資金の贈与の特例)(措法70の2)。また、当該取得等した家屋及び土地等について住宅借入金を有する場合には、住宅借入金等特別控除の適用も合わせて受けることができる(措法41)。 両方の制度の適用を受けるときには、住宅借入金等特別控除の控除額の計算において、家屋及び土地等の取得対価の額等から贈与の特例の適用を受けた金額を差し引く必要がある(措令26⑤)。 なお、この場合には、「(付表1)補助金等の交付を受ける場合又は住宅取得等資金の贈与の特例を受けた場合の取得対価の額等の計算明細書」を作成する。 (注) 令和元年分以降、「(付表1)補助金等の交付を受ける場合又は住宅取得等資金の贈与の特例を受けた場合の取得対価の額等の計算明細書」が廃止され、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」の様式の一部が変更されている。新たな様式及び記載方法については、令和元年分確定申告実務の留意点【第3回】【Q5】をご参照いただきたい。 (連載了)
相続税の実務問答 【第31回】 「配偶者居住権に係る相続税課税」 税理士 梶野 研二 [答] 配偶者居住権や配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利は、相続税の課税対象となります。 なお、配偶者居住権の価額及び配偶者居住権が設定されている家屋の価額並びに配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の価額及び配偶者居住権が設定された建物の敷地の所有権等の価額については、平成31年度税制改正により評価方法が定められました。 平成31年度税制改正を踏まえた配偶者居住権等の評価事例を掲載しましたので、参考にしてください。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 配偶者居住権の創設 「民法及び家事審判法の一部を改正する法律」が平成30年7月6日に成立し、同月13日に公布されました。この改正民法により、被相続人の死亡後も配偶者が被相続人の生前と同様の生活環境の下で安心して生活することができるようにとの趣旨で、配偶者居住権の規定が設けられました。この規定は、令和2年(2020年)4月1日以後の相続・遺贈に適用されます。 〇 改正民法(抜粋) 2 配偶者居住権に対する相続税の課税 金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものが相続税の課税対象となります(相法11の2、相基通11の2-1)。配偶者居住権は、配偶者が、当該配偶者の終身又は遺産分割若しくは遺言等により定められた存続期間において、遺産である建物に被相続人の相続開始後も引き続き無償で使用及び収益をすることができる権利であり、その権利には経済的価値があると考えられますので、相続税の課税対象となります。また、配偶者が配偶者居住権を取得したことに伴い、配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利が生じますが、これについても同様に相続税の課税対象となります。 3 配偶者居住権が設定された場合の建物及びその敷地等の評価 配偶者居住権は、平成30年の改正民法により新たに創設された権利です。そのため財産評価基本通達等の既存の定めによって配偶者居住権の価額及び配偶者居住権が設定されている家屋の価額並びに配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の価額及び配偶者居住権が設定された建物の敷地の所有権等の価額を評価することはできません。 そこで、平成31年度税制改正により、相続税法に配偶者居住権等の評価方法に関する規定が設けられました(相法23の2)。 4 評価事例 平成31年度税制改正により定められた評価方法に基づく評価事例を紹介します。 【事例1】 残存耐用年数が存続年数を上回るケース ▷ 相続開始日:平成32年(2020年)6月1日 ▷ 相続開始日における配偶者(妻)の年齢:70歳 ▷ 相続開始日における配偶者の平均余命:20年 (第22回生命表(完全生命表)による。) ▷ 建物の構造:鉄筋コンクリート造 ▷ 法定耐用年数:47年 ▷ 法定耐用年数に1.5を乗じて計算した年数:71年 ▷ 築後経過年数:10年 ▷ 残存耐用年数:71年-10年=61年 ▷ 存続年数:20年 ▷ 期間20年、年利率3%の複利現価率:0.554 (小数3位未満を四捨五入した) (注) 民法第404条に定める法定利率は、現在年5%ですが、平成32年(2020年)4月1日以降は年3%となります(平成29年民法(債権法)改正)。 ▷ 建物の時価(相続税評価額):5,000,000円 ▷ 土地等の時価(相続税評価額):30,000,000円 イ 「配偶者居住権」及び「配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利」の価額は次のように評価します。 (イ) 配偶者居住権の評価額 (ロ) 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の評価 30,000,000円-30,000,000円×0.554=13,380,000円 ロ 「配偶者居住権が設定された建物(居住建物)の所有権」及び「居住建物の敷地の所有権」は次のように評価します。 (イ) 配偶者居住権が設定された建物(居住建物)の所有権の評価 5,000,000円-3,153,333円=1,846,667円 (ロ) 居住建物の敷地の所有権の評価 30,000,000円-13,380,000円=16,620,000円 【事例2】 残存耐用年数が存続年数を下回るケース ▷ 相続開始日:平成32年(2020年)6月1日 ▷ 相続開始日における配偶者(妻)の年齢:65歳 ▷ 相続開始日における配偶者の平均余命:24年 (第22回生命表(完全生命表)による。) ▷ 建物の構造:木造 ▷ 法定耐用年数:22年 ▷ 法定耐用年数に1.5を乗じて計算した年数:33年 ▷ 築後経過年数:20年 ▷ 残存耐用年数:33年-20年=13年 ▷ 存続年数:24年 ▷ 期間24年、年利率3%の複利現価率:0.492 ▷ 建物の時価(相続税評価額):2,000,000円 ▷ 土地等の時価(相続税評価額):20,000,000円 イ 「配偶者居住権」及び「配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利」の価額は次のように評価します。 (イ) 配偶者居住権の評価額 2,000,000円-2,000,000円×0×0.492=2,000,000円 (注) 残存耐用年数(13年)から存続年数(24年)を控除した年数が零以下となることから、算式の「(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数」は、零となります。したがって、この場合には、配偶者居住権の価額は、建物の価額と等しくなります。 (ロ) 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利の評価額 20,000,000円-20,000,000円×0.492=10,160,000円 ロ 「配偶者居住権が設定された建物(居住建物)の所有権」及び「居住建物の敷地の所有権」は次のように評価します。 (イ) 配偶者居住権が設定された建物(居住建物)の所有権の評価額 2,000,000円-2,000,000円=0円 (ロ) 居住建物の敷地の所有権の評価額 20,000,000円-10,160,000円=9,840,000円 (了)
〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第10回】 「価格改定と寄附金課税」 弁護士 木村 浩之 [Q] 日本法人である当社は、外国子会社との間の取引価格を見直しました。今般、税務調査によって価格改定は外国子会社に対する利益供与であるとして、寄附金に当たるとの指摘を受けました。どのように対応すればよいでしょうか。 [A] 調査において価格改定が寄附金に当たるとの指摘がなされた場合、それが実質的な贈与ではないことを証拠に基づいて主張することが重要になります。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 国外関連者との取引については、移転価格課税のほか、寄附金課税の適用対象ともなりうる。例えば、日本の親会社が海外の子会社に製品を販売する場合、その対価が著しく低いとすれば、移転価格課税が適用されうるが、他方、親会社から子会社に対して時価との差額を実質的に贈与するものと認められれば、寄附金課税も適用されうる。 この点、実務では、国外関連者間の取引が実質的な贈与と認められる場合、移転価格課税ではなく、寄附金課税がなされることが多いといえる。そして、国外関連者に対する寄附金については、その全額が損金不算入とされる(措法66の4③)。 このようなことから、国外関連者との取引に係る価格改定が税務調査において寄附金に該当するとの指摘がなされた場合、当該価格改定が実質的な贈与ではないことを証拠に基づいて主張することが重要となる。 2 価格改定と寄附金 国外関連者との取引においては、当初設定した価格を期中や期末に変更し、それに応じて当初価格との差額を調整金として支払がなされることがある。 例えば、親会社が海外の製造子会社に製造委託をして、その委託料を支払う場合、期中に一定の対価を支払うものとした上で、期末において年間の総コストをカバーしてさらに一定の利益が生じるような対価に改定し、既払額との差額を調整金として支払うことがありうる。 このような価格改定に基づく調整金の支払が実質的な贈与と認められる場合、寄附金課税の対象となる可能性がある。もっとも、どのような場合に実質的な贈与と認められるかは、必ずしも明らかとはいえない。 3 関連裁判例 この点、国内取引に関する事案であるが、価格改定の寄附金該当性が争われた裁判例がある(東京地判平成26年1月24日・税資264号順号12394)。この事案は、親子会社間における継続的な製造物供給契約に関して、期中に支払われた代金を期末に減額して調整したことが寄附金に該当するか否かが争われたものである。 裁判所は、この事案につき、期中に支払われた代金は暫定的なものであり、期末における代金の調整は親子会社間の役割及び貢献度に応じて損益を分配するものであり、不合理なものではないことを理由に、寄附金には該当しない旨を判示した。 4 移転価格事務運営要領 また、国税庁は、税務職員が従うべき事務運営指針として、移転価格事務運営要領を定めている。ここでは、価格調整金等がある場合の留意事項として「当該支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠、当該支払等を決定した日、当該支払等をした日等を総合的に勘案して検討し、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められるときは、取引価格の修正が行われたものとして取り扱う」とされている(同要領3-20)。 これは、調整金の支払が合理的な理由に基づくものである場合、寄附金としては取り扱わないことを意味するものと解される。 (了)
「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第13回】 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 (2) 消費税法 収益認識基準等へ対応した法人税法の改正は前回解説したとおりだが、消費税法は収益認識基準等に対応した改正が行われていない。 消費税の税額計算の基礎となる課税標準は、「課税資産の譲渡等の対価の額」である。例えば、1つの契約に履行義務Aと履行義務Bがある場合、取引価格1,000を独立販売価格に応じて履行義務A900、履行義務B100と配分したとする。そして、履行義務Aは当期に収益を認識したが、履行義務Bは翌期に収益を認識するため、当期は契約負債として計上している。この場合、「課税資産の譲渡等の対価の額」は、取引価格1,000であると考えられるため、消費税法上は、収益認識基準等の会計処理が認められない。 また、収益を純額で認識した場合も純額の金額をベースに消費税を計算するのではなく、従来どおり総額の金額をベースに消費税を計算する。さらに、課税売上割合の計算も従前どおりである。 以上のとおり、消費税については、従前どおりに会計処理する必要があるため、システム変更する場合、会計処理(≒法人税の処理)と消費税の処理の両方に対応できるようにする必要がある。 (3) 会計、法人税、消費税の差異の設例 国税庁より収益認識基準等に従って会計処理を行った場合に、会計・法人税・消費税の相違点の典型例6つが公表されている(国税庁「収益認識基準による場合の取扱いの例」(平成30年5月))。 以下では、この典型例6つについて解説する。 ① 自社ポイントの付与 ケース1 自社ポイントの付与(論点:履行義務の識別) 家電量販店を展開するA社はポイント制度を運営している。A社は、顧客の100円(税込)の購入につき10ポイントを付与する(ただし、ポイント使用部分についてはポイントは付与されない。)。顧客は、1ポイントを当該家電量販店グループの1円の商品と交換することができる。X1年度にA社は顧客に10,800円(税込)の商品を販売し、1,080ポイントを付与した(消化率100%と仮定)。A社は当該ポイントを顧客に付与する重要な権利と認識している。顧客は当初付与されたポイントについて認識しない。なお、消費税率8%とする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 契約における重要な金融要素 ケース2 契約における重要な金融要素 企業は顧客Aとの間で商品の販売契約を締結し、契約締結と同時に商品を引渡した。顧客は契約から2年後に税込対価2,160千円を支払う。契約上、利子を付すこととはされていないが、信用供与についての重要な便益が顧客に提供されると認められる。対価の調整として用いる金利は1%とする。なお、消費税率8%とする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ③ 割戻を見込む販売(変動対価) ケース3 割戻を見込む販売(論点:変動対価) A社は、B社と商品Zの販売について2年契約を締結している。この契約における対価には変動性があり、下記のように、B社が商品Zを1,000個よりも多く購入する場合には1個当たりの価格を4,000円に、さらに2,000個よりも多く購入する場合には3,000円に減額すると定めている。 A社は、B社への2年間の販売数量予測は2,000個になると予想している。X1年5月に1,000個を販売し、X2年5月に1,000個を追加販売した。なお、消費税率8%とする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 返金権付き販売 ケース4 返品権付き販売(論点:変動対価) A社は、顧客へ1個200円の商品(原価120円)を100個販売し、その返品予想は2個と見込んだ。なお、消費税率8%とする。A社の仕訳は次のとおり。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 本設例は、平成30年度税制改正における返品調整引当金に係る経過措置の適用終了後の取引を前提としている。なお、経過措置期間中は会計における返金負債勘定の金額から返品資産勘定の金額を控除した金額に相当する金額が損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れたものとして取扱われる(平成30年改正法附則25、改正法令附則9)。 ⑤ 商品券等 ケース5 商品券等(論点:非行使部分) 企業Bは1枚当たり1千円のギフトカードを500枚、合計500千円を顧客に発行した。過去の経験から、発行済ギフトカードのうち10%である50千円分が非行使部分になると見込んでいる。発行した翌期に200千円相当の商品と引き換えられ、消費税を含めて行使された。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ⑥ 消化仕入(本人か代理人か) ケース6 消化仕入(論点:本人・代理人) 百貨店Aは、B社と消化仕入契約を締結している。百貨店Aは顧客に1個20,000円の商品(卸値19,000円)を1個販売した。百貨店Aは、自らをこの消化仕入れに係る取引における代理人に該当すると判断している。なお、消費税率8%とする。百貨店Aの仕訳は次のとおり。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 〈まとめ〉 上記典型例6つについて表にまとめると、下記のようになる。 ※ 法人税法上、商品券を発行した時点で、雑収入として計上することも容認される。 (了)
企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第10回】 「デフォルトに振り回されるココロ」 公認会計士 石王丸 香菜子 *資料* 第1事業部で扱うカードリーダーの返品やクレームに関する、前期1月~3月のデータは以下の通りであった。 これ以外に、製品の品質管理のために生じるコストにはどのようなものがあるだろうか。また、データを集めることで、どのように品質管理に役立てることができるだろうか。 * * * 1 デフォルトの✔ 、外しますか? あなたのメールの受信フォルダ、いつの間にか、配信希望した覚えのないメールマガジンでいっぱいになっていませんか? インターネットで買い物をした時など、メールマガジンの配信を希望するかどうかを問われることがありますよね。そんな時、 こんなふうになっていることはありませんか。初期設定で✔とされていると、チェックをわざわざ外すのは気が引けるし、少し面倒なこともあって、そのままOKボタンを押してしまう人が多いのではないでしょうか。仮に、 となっていたら、よほどメールマガジンを読みたい場合以外は、あえてチェックを入れないでしょう。 人の判断は、デフォルト(初期設定)に大きな影響を受ける傾向にあります。「」と呼ばれるもので、フレーミング効果(【第5回】参照)の1つと考えることもできます。 第1事業部が以前から扱うカードリーダーについても、品質管理活動や検査方法がすでにデフォルトとして示されているため、それを超えた活動がされていないようですね。 2 品質コストは大きく2つに分けて考える 製品の品質管理や品質改善のために生じるコストを「」と呼び、これを測定・分析して経営管理に役立てるシステムを「品質原価計算」と言います。品質コストを分析する際には、「予防-評価-失敗アプローチ(PAF法:prevention-appraisal-failure approach)」という考え方で、品質コストを分類する方法が知られています(1950年代にGE社の品質担当エンジニアが考えた分類法と言われています)。 この考え方では、品質コストを、そもそも製品の品質不良が発生しないようにするためのコスト(「品質適合コスト」)と、製品の品質不良が発生してしまったために必要となるコスト(「品質不適合コスト」)とに大別します。 品質適合コストは、製品の品質不良の発生を予防するためのコスト(「予防コスト」)と、製品の品質不良を発見するためのコスト(「評価コスト」)とに細分できます。 予防コストの例としては、品質改善のための設計変更費や、作業員に対する品質教育訓練費などが挙げられます。また、評価コストの例としては、材料を受け入れる際の検査費や、完成品を出荷する際の検査費などが挙げられます。これらは、製品の品質不良の発生を事前に防ぐためのコストですので、経営者や管理者が、予算を割り当てて発生額をコントロールできるコストです。品質適合コストに適切な予算を配分することで、製品の品質改善・品質向上を図ることができます。 第1事業部では、以前からカードリーダーを取り扱っているため、製品設計や教育訓練、検査の方法などがデフォルトとしてすでに決まってしまい、品質適合コストに対して十分な予算を取っていない状況であると考えられます。 一方、品質不適合コストは、製品の出荷前に不良品が発生した場合に生じるコスト(「内部失敗コスト」)と、製品の出荷後に不良品が発生した場合に生じるコスト(「外部失敗コスト」)とに細分できます。 内部失敗コストの例としては、製造中の仕損費や、出荷前の検査で見つかった不適合品の手直費などが挙げられます。外部失敗コストの例としては、販売後の返品に関する補修費や運送費・処分費、クレーム対応費などが挙げられます(第1事業部長が集計したコストは、外部失敗コストに相当する部分だけということになります)。品質不適合コストは、製品の品質不良が発生してしまったためのロスであり、特に外部失敗コストについては、経営者や管理者が発生額を直接コントロールすることが難しいものが多いと言えます。 品質適合コストと品質不適合コストの性質を踏まえると、品質適合コストに適切な資源配分をすることで、製品の品質を管理・改善し、品質不適合コストの発生を少なく抑えることができることがわかります。 経理部のカズノ君と第1事業部のメンバーは、以下のように品質コストを分類・分析し、当期より品質適合コストに多くの予算を割り当てた。その結果、製品の品質改善や品質管理が進み、品質不適合コストの削減につながった。 品質適合コストと品質不適合コストとがトレードオフ関係(一方が増えると一方が減る関係)にあるとすると、両コストの合計が最小になるような組合せが存在すると考えることもできます。このように考えると、品質適合コストをほどほどにし、ある程度の品質不適合コストを許容した場合(あえて一定の品質不良を許容した場合)に、両者の合計が最小となるケースもあり得ます。 しかし、品質適合コストと品質不適合コストの合計を最小にすることが、最適な経営選択とは限りません。というのも、製品の品質不良は、企業の信頼低下やブランドイメージ悪化につながる可能性があります。コスト最小化を追求してあえて品質を落とすことには、非常に大きなリスクがあり、結果として、予期しない大きな損失を引き起こすおそれもあるからです。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 人の判断が、デフォルト(初期設定)に大きな影響を受ける傾向のこと。 ▷ 製品品質の管理や改善のために生じるコストで、品質適合コストと品質不適合コストとに大別できる。適切な品質適合コストをかけることで、製品品質を改善し、品質不適合コストを抑えることができる。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第9回】 「取得原価の配分方法④」 -退職給付に係る負債への配分、ヘッジ会計の適用、暫定的な会計処理- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 前回に引き続き、取得原価の配分方法に関して解説する。 今回は、退職給付に係る負債への配分、ヘッジ会計の適用、暫定的な会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 退職給付に係る負債への取得原価の配分 確定給付制度による退職給付に係る負債は、企業結合日において、受け入れた制度ごとに「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)に基づいて算定した退職給付債務及び年金資産の正味の価額を基礎として取得原価を配分するので、被取得企業における未認識項目は、取得企業には引き継がれないことになる(結合分離適用指針67項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針67項)。 Ⅲ 被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合 被取得企業でヘッジ会計を適用していたか否かにかかわらず、受け入れた金融資産又は引き受けた金融負債(デリバティブを含む)は、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に従って算定した時価を基礎として取得原価を配分するので、被取得企業においてヘッジ会計が適用されており、繰延ヘッジ損失及び繰延ヘッジ利益が計上されていても、取得企業はそれらを引き継ぐことはできない(結合分離適用指針68項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針68項)。 Ⅳ 暫定的な会計処理 1 基本的な考え方と会計処理 取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に配分するとされている(企業結合会計基準28項)。 識別可能資産及び負債を特定し、それらに対して取得原価を配分する作業は、企業結合日以後の決算前に完了すべきであるが、それが困難な状況も考えられる。 そのため、企業結合条件の交渉過程において、通常、ある程度の調査を行っている場合が多く、また、1年を超えた後に企業結合日時点での状況に基づいて企業結合日時点での識別可能資産及び負債を特定し、しかもそれらの企業結合日時点での時価を見積ることは非常に困難であることなど実務面での制約等を考慮し、配分する作業は企業結合日以後1年以内に完了するものとし、完了前の決算においては暫定的に決定した会計処理を行うこととされている(企業結合会計基準104項)。 つまり、企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させることになる(企業結合会計基準注解(注6))。 例えば、企業結合日が年度決算の直前となる場合は、配分する作業が完了した時点で初めて会計処理を行うのではなく、その年度決算の時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行った上で、その後、追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる(企業結合会計基準104項)。 2 暫定的な会計処理の対象となる項目 暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか(結合分離適用指針73項)、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる(結合分離適用指針69項)。 ただし、企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算日までの期間が短い場合など、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債への取得原価の配分額が確定しない場合(被取得企業の適正な帳簿価額の算定が企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算には間に合わない場合等)も想定されるので、このような場合には、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のすべてを暫定的な会計処理の対象とすることができる(結合分離適用指針69項、378項)。 暫定的な会計処理については、次の事項に注意が必要である(結合分離適用指針378項)。 なお、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価を売上債権に配分した後に発生した貸倒損失(設定された貸倒引当金を上回る損失額)は、取得企業の貸倒損失として費用計上しなければならず、当該損失をのれんに振り替え、資産計上することは認められない(結合分離適用指針378項)。 3 暫定的な会計処理の確定処理 暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う(結合分離適用指針70項)。 企業結合年度の翌年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下合わせて「財務諸表」という)と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させる(企業結合会計基準注解(注6))。 4 注記 「取得原価の配分に関する事項」として、取得原価の配分が完了していない場合は、その旨及びその理由を注記する(企業結合会計基準49項(4)③)。 企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い、取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、当該見直しがなされた事業年度において、その見直しの内容及び金額を注記する(企業結合会計基準49-2項)。 なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(企業結合会計基準49-2項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第146回】 退職給付会計⑫ 「退職給付引当金の計算方法を簡便法から原則法に変更した場合」 仰星監査法人 公認会計士 素村 康一 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 簡便法による退職給付費用の計上 ② 簡便法から原則法への変更に伴う退職給付引当金の調整 〈会計処理の解説〉 従業員数が比較的少ない小規模企業等においては、数理計算を要するような原則的な方法ではなく、簡便な方法により退職給付に係る負債及び退職給付費用を算定することが認められています。 この簡便法を適用できる「小規模な企業等」とは、原則として従業員数が300人未満の企業を指します。ただし、従業員数が300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあることにより原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができます。なお、この場合の従業員数とは退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味し、複数の退職給付制度を有する事業主にあっては制度ごとに判断します。 従業員数は毎期変動することが一般的であるため、簡便法の適用は一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定する必要があります(「適用指針」47項)。 原則として従業員数が300人以上に達した場合は、原則法により退職給付に係る負債及び退職給付費用を算定する必要があります。この結果、変更時点では簡便法による計算結果と原則法による計算結果との間に差異が生じることになります。そしてこの差異を会計処理するにあたっては、その差異の性質が問題となります。 まず、この差異は、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異や、見積数値の変更等により発生した差異ではないことから、数理計算上の差異には該当しません(同34項)。また、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分でもないことから、過去勤務費用にも該当しません(同41項)。 したがって、簡便法による計算結果と原則法による計算結果の差異は、数理計算上の差異や過去勤務費用のように一定の年数で按分する遅延認識(同35項、42項)によることはできず、簡便法から原則法へ変更した期に一括で費用処理することになると考えられます。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q13】 会社分割とはどういうものか 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 会社分割とは、会社の事業に関する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継するもので、吸収分割と新設分割がある。また、会社分割に伴う労働契約の承継にあたり、労働契約承継法に基づく手続きが必要となる。 会社分割 会社分割とは、会社の事業に関する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継するもので、分割契約を締結して既存の会社に承継する吸収分割と、分割計画を作成して新設会社に承継する新設分割がある(会社法757条、762条等)。 以下、会社分割により事業を分割する会社を分割会社、それを承継する会社を承継会社という。 【吸収分割のイメージ】 A社(分割会社)からY事業をB社(承継会社)に承継する場合 会社分割では、分割契約又は分割計画に基づいて、分割会社から承継会社に権利義務が包括的に承継される(会社法759条、764条等)。これにより分割会社の資産等が変動するため、債権者保護等の手続きが必要となる。また、分割会社から承継会社へ労働契約を承継するにあたっては、合併や事業譲渡の場合とは異なり、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(労働契約承継法)に基づく手続きが必要となる。 労働契約承継法の手続き 労働契約承継法は、会社法の特例として定められたもので、会社分割が行われる場合の労働契約の承継に関して労働者の保護を図ることを目的に、次の手続き等について定められている。 商法等改正法附則第5条の手続き 労働契約承継法の手続きに加えて、商法等改正法附則第5条に基づく手続きも必要となり、分割会社で承継される事業に従事する労働者等と、労働契約の承継に関して協議する必要がある。この手続きは、労働契約承継法の手続き③の前に実施するものとなる。 上記手続きにあたってはさまざまな検討を要するため、会社分割を行う場合は、これら必要な手続きも踏まえた上でスケジュールの組み立てが必要となる。 (了)