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理由付記の不備をめぐる事例研究 【第47回】「交際費等(外注費)」~英文添削料の差額負担額が交際費等に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第47回】 「交際費等(外注費)」 ~英文添削料の差額負担額が交際費等に該当すると判断した理由は?~   千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して、「英文添削料の差額負担額が交際費等に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた東京地裁平成14年9月13日判決(税資252号順号9189。以下「本判決」という)を素材とする。   1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注)  素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本件理由付記から読み取ることができる関係図   3 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性   4 検討 (1) 関係法令の確認 本件更正処分は、本件差額負担額が租税特別措置法61条の4の交際費等に該当するものとして、損金算入を否認するものである。 一般に、次の3つの要件全てを満たす支出は交際費等に該当すると解されている(本判決の控訴審である東京高裁平成15年9月9日判決・判時1834号28頁等参照)。 《交際費等の3要件》 ただし、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」など一部の費用については交際費等から除かれている(措法61条の4④一~三、措令37の5)。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社の帳簿書類の記載内容又はその前提たる事実を処分の前提とした上で、本件差額負担額は、本件理由付記記載の①ないし④の観点から、病院等の医師等との関係を円滑にすることを目的として負担されたものと評価して、法人税法上の交際費等に該当すると判断したものである。したがって、本件更正処分は、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 すると、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 本件理由付記には、「この本件差額負担額は、次のことから、病院等の医師等との関係を円滑にすることを目的として負担されたものと認められ交際費等に該当すると認められます。」と記載されている。この記載部分は、上記交際費等の3要件のうちの【2】の要件に対応する。 本件更正処分において、課税庁が交際費等の要件をどのように解していたのかについて、直接的には明記されていないが、かかる記載部分は、少なくとも、課税庁が「取引先等との関係を円滑にすることを目的として負担されたもの」は交際費等に該当するための要件ないし要素と解していたことを意味するのであろう。そして、本件理由付記は、かかる要件ないし要素に対応する具体的な事実として、本件理由付記記載の①ないし④を記載している。 これらの点からすれば、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるといえる。 したがって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 (4) 更なる議論 ~本件理由付記の記載誤りが理由付記の十分性に及ぼす影響~ 本稿では記載を省略したが、実際の理由付記においては、「1 交際費等の損金不算入額」の項目の末尾に、「英文添削に係る費用等」として、英文添削外注費及び英文添削収入の相手先及び金額並びに差引負担額(本件負担額)が記載されていた。そして、このうち英文添削収入の相手先の欄には、更正処分に係る3事業年度のいずれにおいても、「〇〇大学 〇〇外3,713件」と記載されているという誤りがあった。 本判決は、上記のように「各事業年度において英文添削の依頼件数が同一であることは不自然といわざるを得ず、少なくとも本件各事業年度のうち2事業年度における上記相手先の欄の記載には、誤りがあるものと推認される」とした上で、要旨次のとおり判示して、このような記載誤りをもって理由付記に不備があるとはいえないと判断した。 理由付記に誤りがあるからといって直ちに当該理由付記が違法という評価を受けるものではない。やはり、理由付記の趣旨目的との適合性の判断に帰着するのである。この際、誤っている部分以外の記載内容、その誤りの内容・程度、その誤りが読み手に与える影響等を総合的に勘案する必要があると考える。 *  *  * 次回は、「会議費として計上している支出は交際費等に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 267(掲載号)
#泉 絢也
2018/05/10

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第19回】「不妊治療のため医師の指導に基づき購入したサプリメントは医療費控除の対象とはならないと判断された事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第19回】 「不妊治療のため医師の指導に基づき購入したサプリメントは医療費控除の対象とはならないと判断された事例」   税理士 佐藤 善恵     (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 本件は、甲(納税者)が生計を一にする同人の妻(乙)の不妊治療のために、医師の治療に基づき購入した数十種類のサプリメント(本件サプリメント)の費用が、医療費控除の対象となる医療費に含まれるか否かを主な争点とする事案である。 争点は、次のとおりであるが、本稿は①を取り上げる。 (※) 薬事法は、平成26年11月25日から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」という名称に変更された。   〔関係法令等〕 ◆所得税法第73条(医療費控除)2項 ◆所得税法施行令第207条 (医療費の範囲) ◆所得税基本通達73-3(控除の対象となる医療費の範囲)   〔納税者の主張(要旨)〕 医療費の範囲は、基本通達73-3をもって拡大され、医師による診療、治療を受けるために直接必要なものも医療費に含められており、医師等による診察等を受けるための食事代等の費用で通常必要なものも上記医療費に含められているところ、本件サプリメントは、丙医師の判断で不妊治療の一環として購入されたものであるから、その購入費用は、「医師・・・による診療又は治療(所令207一)」の対価に当たるというべきであり、医療費控除の対象となる。 (※) 予備的主張については省略   〔判断の分水嶺〕 判断の分水嶺は、所得税法施行令207条2号「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の解釈である。この点、裁判所は、同号にいう「医薬品」とは、薬事法2条1項所定の「医薬品」をいうものと解した。 また、医師による処方や指導の存在は、医薬品該当性の判断において本質的な要素ではないと判示している。   〔裁判所の判断〕 (認定事実によれば)本件サプリメントの多くは、管理栄養士等の資格を有している販売員から購入することができるなど、医師の処方がなければ購入できないものとも認められず、薬事法上の医薬品には当たらない(施行令207条2号に関する判断)。 本件サプリメントの購入、摂取は、社会通念上、医師の診療等に通常必要とされるものであると解することはできない(施行令207条1号に関する判断)。   〔本判決が示唆するもの〕 不妊治療に伴いサプリメントを摂取することは珍しくないと思われるが、本判決は、施行令207条2号の「医薬品」は、薬事法に規定する医薬品である旨を判示した点は、広く参考になる。 ただし、本判決は、納税者が上告及び上告受理申立てをしており未確定である。 参考までに、地裁判決に添付されたサプリメントの一覧は次のとおりである。 本情報の「国税訟務官からのコメント」を紹介する。 (了)

#No. 267(掲載号)
#佐藤 善恵
2018/05/10

M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-財務・税務編- 【第1回】「純有利子負債の分析(その1)」

M&Aに必要な デューデリジェンスの基本と実務 -財務・税務編-   公認会計士・公認不正検査士 松澤 公貴   (次回)→   ◇〔財務・税務編〕開始にあたって◇ 「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務」は、今回からいよいよ、財務デューデリジェンスの調査項目ごとにその調査内容・調査手順を説明する「各論」に入る。また、これと並行して、本連載の姉妹編「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編-」の連載も開始される。 読者諸賢は、本連載を財務・税務デューデリジェンスに関する独立の読み物として読んでいただいてもよいが、並行して連載される「M&Aに必要なデューデリジェンスの基本と実務-法務編-」とともに読み進めていただくことで、総合的・有機的にデューデリジェンスを理解し、その実務を身に付けることができる。   《第1章》 -実態純資産の分析- 第1節 純有利子負債の分析 【第1回】 「純有利子負債の分析(その1)」   〔分析の対象となる主な勘定科目〕   ▷純有利子負債 純有利子負債(ネットデット/Net debt)は、M&Aにおける最終的な買収価額の決定に直接影響する重要な項目であり、純有利子負債が買収価額に適切に反映されていない場合には、表明保証を用いることによってそのリスクを回避するにしても、買い手候補は買収後に本来売り手が負担すべきであった追加資金を一時的に立替える必要が生じる場合もある。そのため、純有利子負債を抽出して分析する必要がある。 ◆株主価値の算出ロジック (出典:松澤綜合会計事務所プレゼンテーション資料) 純有利子負債は、借入金・社債などの将来的にキャッシュアウトが生じる性質のものであり、一般的に貸借対照表に計上されている有利子負債、有利子負債に準ずるもの及びオフバランス債務から、運転資金に最低限必要な現預金や拘束性預金を除いた余剰現預金を控除した金額である。 ◆平成28年における主要業種別純有利子負債の水準(単位:百万円) ※画像をクリックすると拡大して表示されます。 (出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査(平成28年確報)」(調査対象母集団全1,485,107社)から筆者作成) (注1) 有利子負債、現金及び現金同等物は、簡易的に上表に掲記した勘定科目とみなしている。なお、有利子負債における未払利息及び拘束性預金は判明しないため無視している。 (注2) ネットD/Eレシオ=純有利子負債÷自己資本として計算している。 (注3) EBITDA純有利子負債倍率=純有利子負債÷EBITDAとして計算している。なお、EBITDA=営業利益+減価償却費としている。 (注4) 有利子負債利子率=支払利息÷有利子負債として計算している。   ▷ネットD/Eレシオ ネットD/Eレシオは、純有利子負債を自己資本で除して計算する。純有利子負債は自己資本でまかなえることが望ましいという見方から、長期の支払能力(財務健全性)の目安となる。値が1を上回ると純有利子負債が多く、1以下なら自己資本が多い結果となる。なお、他の指標も同様だが、同業他社や業界平均からの乖離理由も分析する必要がある。   ▷ EBITDA純有利子負債倍率 EBITDA純有利子負債倍率は、純有利子負債をEBITDAで除して計算する。EBITDA純有利子負債倍率が低い会社は、事業から得られるキャッシュフローに比して借入などの有利子負債が少ないことを意味し、財務健全性が高い企業といえる。 一方、EBITDA純有利子負債倍率=5倍であれば、有利子負債が5年で返済できるかというと、それは「否」である。なぜなら、設備投資がEBITDAには含まれていないからである。対象会社が返済に充てられるフリーキャッシュフローは、営業CFから投資CFを控除した金額であるうえに、EBITDAは税金も考慮していない。 よって、設備投資が多い業種や、成長ステージにある会社は、EBITDA純有利子負債倍率の数値をもって財務健全性を判断することは危険である。   ▷純有利子負債月商倍率 純有利子負債月商倍率は、ある時点(通常は決算日)において、対象会社が月商の何ヶ月分の純有利子負債を抱えているかを示す指標である。一般的に対象会社の資金繰り上、純有利子負債は月商の3ヶ月以内が好ましいとされている。   ▷有利子負債利子率 有利子負債利子率は、有利子負債に対する支払利息の割合のことであり、支払利息を平均有利子負債残高で除して計算する。簡易的には、決算時に年間の支払利息を期首と期末の有利子負債額の平均で除して計算する。 対象会社の資金調達金利を平均的に示す指標であり、一般的には同業他社と比較することで財務健全性を評価し、利子率が低いほど、経営破綻リスクが低く信用力が高いと評価される。 【実務事例1-1】 和光商事は、M&Aにより子会社となった成増興業の借入金利が自社の調達金利に比して高かった。そのため、和光商事は、自社のメインバンクに相談し、メインバンクから追加借入れを実行したうえで子会社へ貸付け、子会社となった成増興業は全ての借入金を返済した。 ▷純有利子負債と運転資本の季節的変動分析 事業に季節性がある場合には、概ね運転資本の増減を通じ、純有利子負債残高に影響を与えていると考えられる。事業に必要な資金水準を検討する際に、期末の運転資本や純有利子負債残高だけに着目して分析を行ってしまうと判断を誤ることになる。 一方、季節性以外の要因でキャッシュフローが変動している場合には、回収サイトの長期化、棚卸資産回転期間の悪化、粉飾決算の存在など、運転資本の詳細を分析する必要がある。 ◆純有利子負債と運転資本の季節的変動分析イメージ(単位:百万円) ※画像をクリックすると拡大して表示されます。 (筆者作成)   ▷負債類似項目(デットライクアイテム) 負債類似項目は、負債として計上されているもののうち、有利子負債を除き運転資本に含めないもの、及び簿外債務(未計上、偶発債務等)が含まれる。主な負債類似項目は、下記のとおりである。なお、負債類似項目の詳細は他の稿を参照のこと。 (了)

#No. 267(掲載号)
#松澤 公貴
2018/05/10

外国人労働者に関する労務管理の疑問点 【第13回】「外国人が請求可能な厚生年金保険の脱退一時金とは?」

外国人労働者に関する 労務管理の疑問点 【第13回】 (最終回) 「外国人が請求可能な厚生年金保険の脱退一時金とは?」   社会保険労務士・行政書士 永井 弘行     1 短期在留外国人の脱退一時金とは 短期滞在の外国人を対象に、厚生年金保険から支給される一時金です。 日本に短期滞在する外国人は、厚生年金保険料を支払っても、保険料を10年以上支払った人に支払われる日本の老齢年金は受け取れません(従前、老齢年金の支給に必要な年金加入年数は「25年以上」でしたが、平成29年8月以降は「10年以上」に短縮されました)。 そのため保険料の掛け捨てを防ぐために、外国人が日本を出国後2年以内に日本年金機構に請求すれば、厚生年金保険に加入した期間や納付額に応じて、脱退一時金が支払われます。 これは平成6年に創設された制度で、国民年金にも同様に脱退一時金の制度があります。   2 脱退一時金を受給するための条件 次の4つの条件を全て満たした外国人が、退職などの理由で厚生年金保険の被保険者ではなくなり、日本を出国後2年以内に日本年金機構に請求すれば、脱退一時金を受け取ることができます。 ③は「日本に住所がないこと」が必要です。具体的には、日本出国前に住民票のある市区役所で「転出届」の届出をして、出国後には住民票が無くなっていること(除票になっている)が必要となります。 ④は老齢年金の受給資格期間を満たしていないことが必要条件です。「保険料の納付実績が10年以上」あれば、国籍を問わず、65歳以降に老齢年金を受け取ることができます。その場合、本人が希望しても脱退一時金を請求することはできません。 平成29年8月以降は、この「日本で10年以上の保険料納付実績があるために、本人が希望しても、脱退一時金を請求できないケース」が出ています。   3 脱退一時金の支給額 (1) 受給金額 脱退一時金は、厚生年金保険の加入月数(被保険者期間)に応じて、計算されます。脱退一時金が支給されるときは、非居住者に対する20.42%の所得税・復興特別所得税が差し引かれ(源泉徴収され)、残額が支給されます。 (2) 脱退一時金の計算式 ① 厚生年金保険の加入期間の平均標準報酬額とは 会社に勤めていた期間中の毎月の「標準報酬月額」と「標準賞与額」の合計額を勤務期間の総月数で割り、1ヶ月当たりの平均額に換算した金額のことです。「標準報酬月額」とは平均賃金に相当する金額です。毎年4月~6月の3ヶ月間の賃金実績をもとにして「標準報酬月額」が決定されます。 「標準賞与額」とは、支払われた賞与額の1,000円以下の額を切り捨てた1,000円単位の金額のことです。 ② 支給率とは 厚生年金保険の加入期間、つまり「日本で会社に勤務した期間」によって決まる係数です。勤務期間が6ヶ月から3年間までは、6ヶ月単位で係数が増加しますが、3年以上の場合は、係数は増加せず一定です。 転職で会社を変わっても厚生年金保険に加入している限り、この被保険者期間は通算されます。 ③ 保険料率とは 厚生年金保険に加入していた最終月の前年10月時点の保険料率を用います。最終月が1月~8月の場合は、前々年10月時点の保険料率を用います。 平成29年9月以降の厚生年金保険の料率は18.3 %です(第一種・第二種保険料率、事業主・被保険者が折半負担。本人負担は9.15%)。   4 脱退一時金の計算例 計算式だけでは分かりにくいので、具体例として「年収320万円で3年間働いた人」の脱退一時金の金額を見てみましょう。 (1) 前提 毎月の賃金が20万円、賞与1回当たり40万円(賞与は年2回支給)で年収320万円の従業員が、日本で3年間働いて帰国した場合。 (2) 計算方法 (※) 平成29年9月以降 上記の計算例のとおり、脱退一時金は約88万円となります。 ここから20.42%の所得税・復興特別所得税(この例では179,368円)が源泉徴収され、本人には控除後の金額(この例では699,029円)が支払われます。 なお、20.42%は、非居住者に対する税率です。控除された所得税・復興特別所得税は、日本国内の納税管理人を通して還付申告することが可能です。   5 脱退一時金の請求手続きと必要書類   6 脱退一時金は外国通貨(ドル、ユーロなど)で送金 脱退一時金の支給額は日本円で決定されますが、支払いは各国の通貨で送金されます。外国通貨は現在、アメリカ・ドル(USD)やユーロなどによる支払いが中心です。アジアのほとんどの国、例えば中国、韓国、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどの国は、アメリカ・ドルで支払われます。 為替レートは、支給決定時の為替レートをもとに、支給額が算定されます。申請書を提出した時点の為替レートではありません。 支給が決まると、日本の大手都市銀行経由で振込が行われます。支給までにかかる期間は、申請した書類に不備がないときでも、日本年金機構に書類が受理されてから、3~4ヶ月程度かかります。 なお、脱退一時金の送金と同時に「脱退一時金支給決定通知書」が本人宛てに郵送されます。   7 脱退一時金を申請するときに注意すること 脱退一時金を受け取った場合は、計算の前提となった期間は、年金の加入期間でなかったことになります。 もし将来、外国人が日本に戻ってきても、その期間は年金の加入期間にはなりませんので、注意が必要です。   8 日本と社会保障協定を結んでいる国の人は 日本は現在、下記の国と社会保障協定を結んでいます。これは外国人の母国と日本での「社会保障に二重に加入することを防ぎ」、「日本と相手国の年金加入期間を互いに通算する」ことができるようにした制度です。 ◆社会保障協定の相手国(2017年8月時点) (注) イギリス、韓国、イタリアは「保険料の二重負担防止」のみです。この3ヶ国は「日本と相手国の年金加入期間を互いに通算する取扱い」がありません。 脱退一時金の支給を受けると、社会保障協定に基づき、脱退手当金の計算の基礎となった期間(日本の会社で働いた期間)は年金加入期間として通算されなくなります。 「年金加入期間の通算」が可能な国の人は、帰国後に、 を十分に比較して判断することが大切です。 例えば、日本の会社で5年間働いていたアメリカ人は、帰国後に脱退一時金を受け取ると、日本で勤務した5年間は、将来本国(アメリカ)で年金を受け取るときに「年金の加入期間として通算されない」ことになります。 どちらを選択するかは本人の自由です。ただし、脱退一時金を受け取る場合は、「その期間だけ将来の年金の加入期間が減る」ことに注意が必要です。 *  *  * 私が執筆した「外国⼈労働者に関する労務管理の疑問点」のシリーズは、今回で終了です。 これまで執筆してきた内容が、少しでも皆様の参考になりましたら幸いです。 (連載了)

#No. 267(掲載号)
#永井 弘行
2018/05/10

空き家をめぐる法律問題 【事例2】「空き家で火災が起きた場合の法的責任」

空き家をめぐる法律問題 【事例2】 「空き家で火災が起きた場合の法的責任」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私は、現在、実家を離れて生活していますが、過去に相続した実家は昭和の頃に建築された木造瓦葺の家屋で、現在は空き家の状態になっております。 ある日、地元の消防団から連絡があり、実家が火事になっており、隣家に延焼しているとの連絡を受けました。無事消火できたものの、隣家にも延焼してしまいました。調査の結果、実家の居室からタバコとライターが発見され、火災の原因は、タバコの火の不始末と考えられるとのことでした。 近所の方に聞いた話によれば、実家の雨戸の一部が外れており、割れた窓ガラスから近所の不良少年たちが頻繁に出入りしていたとのことでした。隣家の方からは、空き家の管理を適切に行っていなかったことが原因だと責められています。 私は、実家に火災保険をかけていませんが、隣家の方に対してどのような責任を負うのでしょうか。   1 空き家と火災について 消防庁の平成29年版の消防白書によれば、建物火災発生件数が出火件数に占める割合は、全体の約6割に及んでいる。平成28年中の主な出火原因別の出火件数表を見ると、以下の出火原因が上位を占めている。 空き家に関しては、所有者の管理が十分に行き届かないこともあり、不審者の侵入や放火の対象となるリスクが、管理者がいる居宅に比べて高い。 それでは、空き家の管理が行き届かなかったことが一因となって、第三者が空き家に侵入して火災を発生させ、隣家を延焼させた場合に、空き家の所有者は、隣家の所有者に対して、どのような法的責任を負うのだろうか。 本稿では、この点を若干検討することとしたい。   2 失火責任法に基づく損害賠償請求について (1) 失火責任法とその趣旨 民法においては、故意又は過失によって第三者に損害を与えた者は、損害賠償責任を負うのが原則である(民法第709条)。これに対して、失火に関しては、同条の特別法として、失火ノ責任ニ関スル法律(以下「失火責任法」という)が定められている。 同法は、日本には歴史的に木造家屋が多く存在するため、火災が発生すると延焼する可能性が高く、失火者に軽過失がある場合にまで、これによる損害を全て負担させることは酷な結果を招く等の理由から、失火者の不法行為責任を限定することを目的としている。 そこで、失火責任法は、失火者に重過失がある場合に限定して、損害賠償責任を負わせることとしている(もっとも、後述するように、民法第709条以外に基づく不法行為責任との関係では例外もある)。 (2) 重過失とは何か そこで、失火責任法に規定する重過失の内容が問題となるが、同法に規定する重過失とは、 をいうものとされている(最判昭和32年7月9日民集11-7-1203)。 裁判例においては、(ア)寝タバコによる引火の事例、(イ)天ぷら油を入れた鍋をガスコンロで加熱したまま長時間その場を離れた間に引火した事例、(ウ)石油ストーブのそばにガソリンの入った蓋のないビンを置き、ビンが倒れて引火した事例、(エ)石炭ストーブの残火のある灰を段ボール箱に投棄したため火災が発生した事例などで重過失が認められている。 それでは、本件のように、タバコの火の不始末をした者が、空き家内に進入した第三者である場合にまで、空き家の所有者に重過失が認められる場合はあるのだろうか。 この問題に関して、下級審ではあるが、不良少年の倉庫内での火遊びによって発生した火災で延焼被害を受けた者が、倉庫の所有者に対して、民法709条及び失火責任法に基づいて損害賠償請求をした裁判例がある(那覇地判昭和50年6月28日判タ327-253以下)。 この事例において、那覇地裁は、倉庫の所有者に、火災防止についての過失があったことを認めつつも、同人が外部からの侵入を防止するための通常必要とされる一応の手段を講じており、不良少年が倉庫内に進入することを予測できなかったこと等を理由に、重過失を否定している。 那覇地裁は、結論において、倉庫の所有者の損害賠償責任を否定したが、建物や施設の管理に重過失がある場合には、たとえ第三者の行為が介在していても失火について損害賠償責任を負う場合があることを認めた点において参考となり得るものである。 (3) 本件の検討 本件の空き家の場合、雨戸の一部が外れ、窓ガラスが割れている点では、建物の管理に過失が一切ないとまでは言えないであろうが、雨戸を付けるなど一定の防犯措置が講じられており、不良少年が窓から建物内に侵入してタバコを吸うことまで予見することは困難であろうから、実家の所有者に重過失が認められる可能性は低いと考えられる。 (4) 補足 ところで、本件のような事案においては、第一次的には、タバコの火の不始末をした不良少年やその監督責任者が責任を負うべきものと考えられる(責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合、重大な過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、監督について重大な過失がなかったときは、監督義務者は火災により生じた損害を賠償する義務を免れると判示した最高裁判例として、最判平成7年1月24日民集49-1-25がある)。 また、上記(2)の那覇地判の事案も、原告が、訴訟物として、民法709条及び失火責任法に基づく損害賠償請求を選択したため、上記のような判断になったものに過ぎず、原告が異なる法律構成(民法714条や民法717条に基づく損害賠償請求)を選択していた場合には、異なる結論が得られた可能性もある。   3 民法第717条に基づく損害賠償請求について (1) 危険責任に基づく無過失責任 民法第717条は、土地の工作物に瑕疵があったことによって生じた損害について、占有者に第一次的責任を負わせ、占有者が責任を負わない場合に、所有者に無過失責任を負わせている。 同条が、所有者に無過失責任を負わせているのは、危険責任と呼ばれる帰属原理、すなわち、危険なものを作り出した者や所有者がこれによって生じた損害を賠償する責任を負うべとする考え方を根拠にしている。 (2) 設置・保存の瑕疵とは何か 民法第717条に規定する「土地の工作物」とは、土地に接着して人工的作業によって土地に設置されたものをいい、建物はこれに該当する。問題は、本件のように、空き家の管理に問題がある場合に、同条に規定する設置・保存の「瑕疵」があったと認められるかである。 この点、同条に規定する設置・保存の「瑕疵」とは、工作物が、その種類に応じて、通常予想される危険に対し、通常備えているべき安全性を欠いていることをいう(国家賠償法第2条の事案ではあるが、最判昭和45年8月20日民集24-9-1268参照)。 ここで重要なのは、瑕疵の判断においては、当該工作物が通常予想される危険に対する安全性を有していることであり、第三者等がその土地の工作物を異常な方法で利用等したために生じた危険等に対する安全性までは求められていないということである。 (3) 本件の検討 居住用の建物やその雨戸や窓ガラスが通常備えているべき安全性の判断基準について、第三者が外部から侵入し火災を発生させることまでの予見可能性を含めるのは困難であろう。したがって、本件における空き家の所有者は、隣家の所有者に対して、民法第717条に基づいて損害賠償責任を負う可能性は低いと考えられる。   4 補論-土地工作物責任と失火責任法の関係- 本件とは異なるが、建物の天井裏の電気配線は、当該電気配線が建物と一体をなすことをから、過去の裁判例においては、土地の工作物と認定されている。 例えば、天井裏の電気配線が短絡(ショート)によって燃焼した結果、火災が生じ、隣家に損害を与えた場合、当該建物の所有者は、隣家に対して、民法第717条に基づく損害賠償責任を負う可能性がある。一方で、失火責任法は、失火者の損害賠償責任を重過失の場合に限定していることから、無過失責任を負わせる民法第717条との関係をどのように考えるかが問題となる。 この問題についての最高裁判決は出されておらず、下級審や学説においても見解が別れている。もっとも、現在の下級審は、危険責任の考え方を重視し、失火責任法を適用せず、土地工作物の所有者に、民法第717条に基づいて損害賠償責任を負わせる傾向にあるとされている。したがって、空き家の所有者としては、空き家を適切に管理する必要があることはいうまでもない。 (了)

#No. 267(掲載号)
#羽柴 研吾
2018/05/10

税理士のための〈リスクを回避する〉顧問契約・委託契約Q&A 【第9回】「顧問税理士の交代に伴うトラブルを回避する委任条項案」

税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第9回】 「顧問税理士の交代に伴うトラブルを回避する委任条項案」   弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹   Q このたびある会社から、以前に顧問契約を締結していた税理士との契約を打ち切ったとして、新たに私(税理士)と顧問契約を締結してほしいとの話があった。 私は、その会社と顧問契約を締結しようと思っているが、このように顧問税理士の交代の際に注意すべき点はあるか。 A 1 前の税理士の顧問契約との関係について 設問のように顧問税理士が交代する場合、会社と前の顧問税理士(Aとする)との間の顧問契約は終了し、その後に、会社は新たな税理士(Bとする)との間で新たな別個の顧問契約を締結することとなる。決して、会社とAとの顧問契約をBが引き継ぐということはない。 したがって、Bは、会社に対し、その新たな顧問契約に基づき税理士業務を遂行すれば足りるから、仮に、Aが会社に対して何かしらの法的責任を負っていたとしても、それをBが引き継ぐということもない。   2 顧問税理士交代の際の実務上の問題点 しかしながら、会社の会計上及び税務上の処理については継続性が求められることはいうまでもないところ、BがAから会計ないし税務に関する資料をスムーズに引き継ぐことができればよいが、実務では、必ずしもBがAからそれらの資料を引き継ぐことができるとは限らない。交代に至った事情にもよるが、むしろ資料の引継ぎがないことの方が比較的多いのが実情であろう。 また、Bが新たな顧問契約を締結した時点で、法人税や消費税等の次の申告期限までに比較的時間がある場合はまだしも、次の申告期限までにあまり時間がない場合などにおいては、資料の引継ぎがなければ、会社に対して一から資料の収集を依頼する必要があり、会社の対応いかんによってはBの申告業務に支障が生ずる事態も想定される。   3 実務上の留意点 それでは、このような顧問税理士の交代の際に、どのような点に留意すべきか。ここでは、特に問題になりそうな「消費税」と「従前からの不正経理等」を取り上げる。 (1) 消費税の申告について まず、消費税については、会社が免税事業者か否か、簡易課税制度を選択しているか否か、という点について、Bにおいて責任をもって確認することが求められることに争いはない。 もっとも、その確認は、誰に、どのような方法で確認することを要するのであろうか。 この点、参考になる裁判例(東京地裁平成30年2月28日判決)がある。 〔事案の概要〕 平成26年4月、被告税理士Yは、原告(個人)Xとの間で顧問契約を締結し、平成26年分の消費税の確定申告に当たり、平成24年分は簡易課税制度による申告であって同年分の課税売上高が5,000万円以下であったことを確認した上で、平成27年3月6日、所轄税務署に確認したところ、Xからは簡易課税制度選択不適用届出書等の提出はなく、簡易課税制度が適用される旨の返答を受けた。 そこで、Yは、3月17日、簡易課税制度により計算して申告したが、3月30日になって所轄税務署から「Xは事業廃止届出書を提出したことがあるため、簡易課税制度は適用されない」旨の連絡があった。このため、至急、Yはいわゆる訂正申告をしようと考え、Xに追加資料の提示を求めようとしたが、Xとは連絡がつかず、結局、訂正申告されずに終わった。 これに対し、Xが、簡易課税制度を選択していなかったのにそれを調査せずに誤った方法により申告したことは債務不履行に当たるとして、Yに対して損害賠償請求した。 〔判示内容〕 これに対し、裁判所は、事実経過については事案の概要のとおり認定した上で、おおむね以下のとおり判示して、Xの請求を棄却した。 この裁判例での事案は、相当稀なケースであるが、新たに顧問税理士となった者においてどこまで調査すべきであるのか、という点で参考になる。結論としては妥当なものと思われる。もっとも、顧問契約自体は平成26年4月に締結されているところ、顧問契約の内容にもよるが、申告期限までに相応な期間があった点をどのように評価すべきかは議論の余地がありそうである。 そこで、未然のトラブル防止策としては、顧問契約書ないしは覚書などにおいて、当該納税者についての消費税の申告方法につき、例えば「簡易課税制度が適用される前提で行う」旨、及び「万一これと異なる場合であっても、納税者から申告業務に要する期間を踏まえた合理的な時期までにその旨の指摘がない限り税理士はその責を負わない」旨のような委任条項を盛り込むことが考えられる。 (2) 従前からの不正経理等について 次に、新たな顧問先において、従前から粉飾などの不正経理等がありそれを前提に申告もなされていた、という事実があった場合はどうであろうか。 まずもって、新たに顧問となった税理士において、このような事実を認識した場合には、原則として、その旨を納税者に指摘し是正を指導すべきことはいうまでもない。 もっとも、このような不正な処理は、交代した税理士自身が顧問を務めた時代になされたものではないため、それを認識することが困難である場合が多いであろう。 この点、一般に顧問税理士にこのような不正経理等を調査し是正すべき義務があるかどうかについては、顧問契約の内容にもよるし、ケースバイケースで判断が分かれるところである。具体的には、記帳代行業務を請け負っていた場合で顧問税理士が原資資料に基づく伝票類を精査すべき義務があるかどうかが問題となるところ、裁判例においては、特段の合意がない限り否定的であるが(例えば、東京地裁平成25年1月22日判決など)、結局は、個々の合意内容によるとされている。 そこで、未然のトラブル防止策としては、顧問契約書などにおいて、 旨のような委任条項を盛り込むことが考えられる。 *  *  *  * ところで、あたかも不正経理等がある(少なくともその可能性のある)ことを前提としたような委任条項案については、新規に顧問契約を締結するような場面において、税理士からはなかなか提示しにくい面もあろうかと思う。 しかしながら、自身が関与していない時代における不正経理等についてまで税理士としての責任を追及されてしまい、無用な精神的、経済的負担を強いられてしまうおそれを考えれば、このような委任条項案については、むしろ当然のことを確認したまでと理解して提示すべきものと思われる。 ただし、以上のような免責条項を設けたとしても、あらゆる不利益ないし損害につき税理士が免責されるとは限らない点については留意をいただきたい。 (了)

#No. 267(掲載号)
#米倉 裕樹、元氏 成保、橋森 正樹
2018/05/10

〔“もしも”のために知っておく〕中小企業の情報管理と法的責任 【第2回】「情報漏えいしないための体制整備の義務」

〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第2回】 「情報漏えいしないための体制整備の義務」   弁護士 影島 広泰   -Question- 個人データの漏えい等を防ぐために、社内にどのような体制を整備しておく必要がありますか。 -Answer- 社内規程の整備、組織体制の整備、従業員等に対する教育が必要です。   ➤個人情報保護法のガイドライン上における「事業主の義務」とは? 個人情報保護法20条は、個人データの管理について、以下のとおり「安全管理措置」を課していることは、前回述べたとおりである。 また、同法21条は、以下のとおり、従業者に対する監督義務を定めている。 なお、ここでいう「従業者」とは、以下のとおり、従業員のみならず、取締役や派遣社員等も含まれるので注意が必要である(通則ガイドライン「3-3-3」)。 これらの義務の具体的内容は、委員会が公表している通則ガイドラインで規定されていることも前回述べたとおりである。 ◆個人情報保護法のガイドラインが定める安全管理措置(概要) 今回は、①から④について解説する。   ① 基本方針の策定 ガイドラインでは、「個人データの適正な取扱いの確保について組織として取り組むために、基本方針を策定することが重要である」とされている。「重要である」というのは、義務ではないということを意味する。 ここでいう「基本方針」とは、一般的には「プライバシーポリシー」と呼ばれているものである。「事業者の名称」、「関係法令・ガイドライン等の遵守」、「安全管理措置に関する事項」、「質問及び苦情処理の窓口」等を記載することがガイドラインで例示されている。   ② 個人データの取扱いに係る規律の整備 ②は、社内の「規律」を整備することであり、これは義務である。一般的には、「個人情報取扱規程」のような社内規程を策定するという対応が行われている。 ただし、以下の「中小規模事業者」に該当する場合には、「個人データの取得、利用、保存等を行う場合の基本的な取扱方法を整備する」と、軽減された例示がなされている。すなわち、社内規程のような大げさなものでなくても、「従業員情報はこのPCに保存して、人事部長が管理する」といった基本的な取扱い方法がルール化されていればよいと考えられる。   ③ 組織的安全管理措置 (1) 組織体制の整備 ③として、まずは安全管理措置を講ずるための組織体制を整備しなければならない。ガイドラインには様々な例示がなされているが、実務的に重要であると考えられるのは、①責任者の設置、及び②社内の報告連絡体制である。 (2) 個人データの取扱いに係る規律に従った運用 社内の「規律」を作るだけでは不十分であり、それに従って運用しなければならないという、いわば当たり前のことがガイドラインで義務付けられている。 (3) 個人データの取扱状況を確認する手段の整備 社内で個人データがどのように取り扱われているのかを確認する手段を整備する義務がある、ということである。多くの会社では、「個人情報取扱台帳」などと呼ばれる「台帳」を整備することで、これに対応している。 これは、例えば以下のようなイメージである。 要するに、『社内のどこに、どのような個人データがあるのか』を一覧できるものが、「台帳」である。 「台帳」を整備することそのものはガイドライン上の義務ではないが、何らかの「手段」を整備することは義務付けられている。自社オリジナルの「手段」を考案する手間をとるよりも、一般的に普及している「台帳」を整備するのが実務的であろう。 (4) 漏えい等の事案に対応する体制の整備 万が一個人データが漏えいした際にどうするのかをあらかじめ決めておくということである。 社内の誰が対応に当たるのかをあらかじめ決めておくことが、初動を迅速に行うキーポイントである。特に夜間の情報漏えいの発生を考えれば、誰が対応するのかをあらかじめ決めておくことの重要性がお分かりいただけるであろう。 (5) 取扱状況の把握及び安全管理措置の見直し 安全管理措置は、一度構築すればそれで終わりではなく、PDCAを回さなければならないと義務付けられている。 例えば、年に1回、年度末あたりに各部門の責任者が集まる会議で、「本年の個人データの取扱いについて」という議題を話し合うといった対応が考えられる。定期的に話し合えば、例えば「従業員がスマホを紛失した」とか、「書類がなくなった」などという事故が発生していることが社内で共有され、「では、再発防止策はどうしましょうか」という話になり、PDCAが回り出すことになる。   ④ 人的安全管理措置 従業者に対して、個人データの適正な取扱いを周知徹底するとともに、適切な教育を行うことが義務付けられている。 例えば、従業員が会社から顧客名簿を持ち出すなどといった不祥事が発生した場合、会社として従業員教育を適切に行っていなかったということになれば、「人的安全管理措置」を適切に果たしていなかったとして個人情報保護委員会からの勧告・命令の対象になり得るということである。 (了)

#No. 267(掲載号)
#影島 広泰
2018/05/10

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第8話】「株主優待乗車証と雑所得」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第8話】 「株主優待乗車証と雑所得」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「統括官は株主優待乗車券を持っていますか?」 浅田調査官は中尾統括官の背後から急に声をかけた。 「・・・株主優待乗車券?」 昼休みに新聞を読んでいた中尾統括官は、驚いたように振り返る。 浅田調査官は笑っている。 「ええ、例えば・・・私鉄の優待乗車券など・・・」 浅田調査官は中尾統括官の顔を覗きながら尋ねる。 「近鉄の優待乗車券は持っているけど、株主優待乗車証はもちろん持っていないよ。」 中尾統括官はぶっきらぼうに答える。 「株主優待乗車証って、定期みたいなものですよね・・・6ヶ月間の・・・」 浅田調査官は確認する。 「そうだね・・・近鉄の場合、5,100株以上持っていなければ貰えない。」 「そうすると、今、近鉄の株価は4,200円だから・・・」 浅田調査官は暗算する。 「21,420,000円を持っていなければ・・・貰えない・・・ところで、統括官は何株持っているのですか?」 浅田調査官は再び尋ねる。 「・・・1,000株だよ。・・・だから優待乗車券は4枚しか貰えない。」 中尾統括官は、さらにぶっきらぼうに答える。 「中尾統括官は奈良にお住まいですから、この河内税務署までは近鉄電車で通勤しているのですよね。」 浅田調査官は確認する。 「・・・そうだよ。」 中尾統括官は、再び新聞の記事を読み始める。 「もし、統括官が株主優待乗車証を持っていて・・・それを通勤で使用するとしますよね。一方、国からは定期代を貰っている・・・これって、どうなるのですか?」 浅田調査官は思案顔になる。 「・・・君は、株主優待乗車証を持っている場合には、定期代を貰ってはいけないと言うのか?」 中尾統括官は驚いた様子で、浅田調査官の顔を見る。 「・・・いえいえ、そういう意味ではなく・・・」 浅田調査官は苦笑する。 「それでは、どういう意味だ。」 中尾統括官は、真剣な顔になる。 「課税関係なのですが・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の気迫に押されて、小声になる。 「株主優待乗車証は、もちろん配当所得にはなりませんよね。」 浅田調査官は、通達集をめくって調べる。 「・・・『法人が株主等に対してその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益であっても、法人の利益の有無にかかわらず供与することとしている次に掲げるようなものは、法人が剰余金又は利益の処分として取り扱わない限り、配当等には含まれないものとする』・・・と、所得税基本通達24-2に書かれています。そして、次に掲げるものとして、株主優待乗車券等が(1)に掲げてある・・・」 「そして、株主優待乗車証は、金券ショップでは、おおよそ10万円ぐらいで売買されているのですが・・・」 浅田調査官は、言葉を続ける。 「年2回、配当時に、株主優待乗車証が株主に交付されることを考えると、20万円になる・・・これって、この通達の注記に書いてあるように、株主優待乗車証は、雑所得として申告しなければならないのですよね。」 浅田調査官は、所得税基本通達24-2の注記を見る。 「・・・しかし、株主優待乗車証って、雑所得で申告している人がいるのでしょうか・・・私は今まで、所得税の確定申告書で見たことがないのですが・・・」 浅田調査官は頸を傾げる。 「もちろん、給与が年収2,000万円以下のサラリーマンの場合、20万円以下の所得については、申告する必要はない・・・」 中尾統括官は、税務六法を開く。 「・・・しかし、多くの株式を所有している資産家は、この所得税法121条の規定には該当せず、本来であれば、雑所得として申告すべきでしょうが・・・なされていない・・・これって、所得の課税漏れということなのでしょうか・・・」 浅田調査官は不満そうに言う。 「まあ僕の場合、1,000株しか持っていないし、もちろん所得税法121条に該当するから、申告する必要はないけどね。」 中尾統括官は自嘲気味にニヤリと笑う。 (つづく)

#No. 267(掲載号)
#八ッ尾 順一
2018/05/10

AIで士業は変わるか? 【第13回】「高度専門業務は外注される時代へ」

AIで 士業は変わるか? 【第13回】 「高度専門業務は外注される時代へ」   公認会計士 佐藤 信祐   1 AIがもたらす業務内容の変化 IT化、グローバル化によって、我々の業界は大きく変わったように思われる。具体的には、1つのクライアントに対して、1人の公認会計士又は税理士がすべての業務を行っていた時代から、分業というものが成立するようになったと考えられる。 例えば、税務申告書を作成する税理士と税務コンサルティングを行う税理士が別々であっても構わない。売上総額という意味では前者の方が高額であるが、1時間当たりの単価という意味では後者の方が高額である。今までは、1人の税理士がすべてを行っていたために非効率であったが、分業が成立すると効率的に仕事ができるようになる。 AIが進化していくと、いわゆる中付加価値の業務が減っていくと言われている。AIの進化により、入力などの低付加価値の業務が減っていくように思われるのかもしれないが、中付加価値の業務がマニュアル化されることにより、中付加価値だった業務内容が低付加価値の業務内容に変わっていくため、低付加価値の業務はむしろ増えていくと思われる。逆に、今まで中付加価値の業務の中に混在していた高付加価値の業務が純化されることにより、高付加価値の仕事が増えていくことも考えられる。   2 専門家をフルタイムで雇うことができない時代に そのような時代に、専門家の仕事はどのようになるのだろうか。筆者の仕事は税務コンサルティングであるため、容易に推測しやすい税務コンサルティングをメインに考えていきたい。 まず、特殊業務を行う税務専門家をフルタイムで雇える会計事務所は、かなり減っていくと思われる。例えば、当事務所では、FAS業務を行う複数の会計事務所と提携している。これは、組織再編税制の専門家を1人抱えられるだけの売上を獲得するためには、FAS業務を行う公認会計士が300人くらい必要になるからである。 税務デューデリジェンス業務を想定される読者もいるのかもしれないが、独立系の会計事務所だと、財務デューデリジェンス業務を行う公認会計士が税務デューデリジェンスを同時に行い、難易度の高い部分だけを抽出して外注していることが多い。そうなると、組織再編税制の専門家1人を抱えるだけの売上を獲得するためには、かなりの件数を獲得する必要が出てくる。通常の申告業務を行っている会計事務所であれば、1,000人以上の職員がいて、ようやく組織再編税制の専門家を1人抱えるだけの売上を獲得できるようになる。 組織再編税制がかなり定着していることから、難易度の高い組織再編税制に限定すれば、この300人、1,000人という人数は、さらに増えていくであろう。この傾向は、組織再編税制だけでなく、事業承継、資産税、M&Aなどのあらゆる分野に浸透していくと思われる。 さらに一歩進んで考えてみよう。上場会社、上場準備会社で、CFOは常駐する必要があるのだろうか。多くのケースにおいて、CFOの役割は経理部長が担っていることから、CFOとしての業務を純化させれば、1人の人間がフルタイムで働かなければならないほどの作業量ではないため、CFOの業務を外注した方が合理的な場合も多いであろう。非上場会社であれば、経理部長の業務を外注するという選択肢も出てくるかもしれない。 このように考えてみると、専門性が強くなればなるほど、ひとつの会社のために働くには、工数が少なすぎるということになる。複数の上場会社のCFOを兼ねる人も出てくるであろうし、筆者のように、複数の会計事務所から依頼を受ける人も出てくるであろう。すなわち、AIの進化により、専門家を内製する時代ではなく、外注する時代に移っていく可能性が高いと思われる。   3 管理職すら外注される時代に さらに進んで考えてみよう。そもそも管理職は常駐する必要があるのだろうか。IT化がもたらしたものとして業務のフラット化が挙げられる。AIにより、それがさらに進んでいけば、管理職が常駐するのではなく、複数の会社の管理職を兼ねる人も出てくるのかもしれない。 滑稽な未来だと思われるのかもしれないが、すでにある会計事務所では、そのような体制を確立している。具体的な申告作業を行うスタッフを正社員として雇っておきながら、クライアントとの税務相談やスタッフが行った申告書のレビューを外注するのである。 これは、大手ビッグ4と異なり、マネージャークラスの公認会計士、税理士を確保するのが難しいという事情もある。それなら、マネージャーの業務を純化させたうえで、独立した公認会計士、税理士に、それなりの値段で外注することにより、マネージャークラスを雇えないという問題を解決することができる。 その結果、1時間当たりの報酬額は高くなってしまうが、正社員として雇用するよりは報酬総額を抑えることができる。かつては、「安い値段で外注」することによるピンハネが可能だったのかもしれないが、現在では、「高い値段で外注」することにより、WinWin(ウィンウィン)の関係を作っている事案の方が多いように思われる。   4 正社員の存在意義は何か そのような未来において、正社員の存在意義はあるのだろうか。会社からしてみれば、損益計算書において、給与手当となっていたものが、外注工賃に代わるだけであるから、正社員にこだわる必要はない。社風に染まらない外注先に仕事を任せられるのかと思われるのかもしれないが、一般事業会社を例に挙げると、ひとつの仕事をひとつの会社だけで完結している事案はそれほど多くはない。そして、税理士業務を例に挙げると、そもそも一般事業会社からの外注の仕事がほとんどである。 外注先に高い報酬を支払うわけがないと思われるのかもしれないが、高い報酬を支払わないのであれば、他の会社の仕事を引き受ければよいのである。そのようなことが可能なのは、外注先が専門化を進めることにより、仕事を効率的に行うことができるようになるからである。例えば、相続税に特化した会計事務所と普通の会計事務所だと、同じ相続税の申告書でも、約3倍のスピードの差がある。つまり、相続税に特化した会計事務所が、3分の1の値段で引き受けたとしても、十分な利益を獲得することができるのである。 そう考えてみると、正社員にやらせるよりは、外注先にやらせた方が安いという仕事はかなり増えていくであろう。もちろん、このような未来は、パソコンと携帯電話があれば、容易に独立できてしまう公認会計士、税理士業界特有なものであると片づけることができるのかもしれない。しかし、似たようなことが可能な業種が予想以上に多いのであれば、正社員という仕組みが、いずれは制度疲労を起こす可能性は否定できない。   5 むすび 本稿は、AIが進化した時代における公認会計士、税理士業界の将来を想定してみた。このような未来を想定した理由としては、多くの会計事務所において、高付加価値業務と低付加価値業務の両方を引き受けることにより業務が非効率になっており、いずれかに特化したいという声が多いからである。そして、働き方改革により、残業がかなり減らされる正社員と、高度プロフェッショナル制度により、高い報酬を獲得できる正社員に二極化していく未来が容易に想像できるからである。 このような動きは、ゆっくりとではあるが進みつつあるため、5年後、10年後には、現在とは大きく異なる業界になっている可能性はあると思われる。 (了)

#No. 267(掲載号)
#佐藤 信祐
2018/05/10

《速報解説》 大法人の電子申告義務化に向け国税庁のe‐Taxページで改正の対応状況等を確認~対象法人の書面での申告は無申告加算税の対象となる等、FAQの公表も~

《速報解説》 大法人の電子申告義務化に向け国税庁のe‐Taxページで改正の対応状況等を確認 ~対象法人の書面での申告は無申告加算税の対象となる等、FAQの公表も~   Profession Journal編集部   平成30年度税制改正により、平成32年(2020年)4月1日以後に開始する事業年度(課税期間)から、資本金の額又は出資金の額が1億円を超える大法人については、電子申告が義務化される。 (※) 大法人の他、相互会社、投資法人及び特定目的会社も対象となる。また消費税等については国及び地方公共団体も対象。 これは法人税(及び地方法人税)の申告だけでなく、地方税である法人住民税及び法人事業税、さらに消費税及び地方消費税についても義務化の対象となる。また対象となる手続には、確定申告書以外にも中間(予定)申告書、仮決算の中間申告書、修正申告書及び還付申告書が含まれる。 このように、これまで電子申告を行っていなかった大法人の中には、2年後の制度開始に向け、社内における申告実務のフローや税務・会計システムの見直し等、すでに対応に向け動き出しているところも少なくないだろう。 【参考図①】 (※) 国税庁・e‐Taxホームページより 【参考図②】 (※) 国税庁・e‐Taxホームページより 一方で、企業からの各申告データを受け入れる国側のシステムも、この大幅改正への対応が必要となるわけだが、企業としてもこれらe‐Tax等の仕様変更への対応が求められることから、その進捗状況を把握しておきたいところだ。 この電子申告の義務化に関する情報や、並行して導入されるe‐Taxの利便性向上施策等の対応状況については、国税庁のe‐Taxページにおいて確認することができる。 上記のページでは、電子申告義務化の概要やこれらについての「よくある質問」(後述)、さらに各施策の内容と適用開始時期などを確認することができる。また4月27日付で公布された告示を受けCSV形式による提出が認められる別表の明細記載部分の具体的な対象に関し情報が更新されるなど、最新情報を確認することもできる。 ちなみに、次の4項目の改正事項についてはすでに30年4月から対応が行われているため、下記ページから確認しておきたい。 「電子申告の義務化についてよくある質問」では、義務化の対象となる資本金の額の判定時期が「事業年度開始の時」である点や、義務化の対象となる法人がe‐Taxにより法定申告期限までに申告書を提出せず書面により提出した場合にはその申告書は無効とされ無申告加算税の対象となる旨等が説明されている。 留意したいのは、所轄税務署からは対象法人へ義務化の通知等を行うことは予定されておらず、一方で対象法人は「電子申告義務化適用届出書(仮)」(様式は本年6月頃公表予定)を適用事業年度開始の日から1ヶ月以内に所轄税務署長へ提出しなければならない点。このように自社が義務化の対象となるかどうかは自ら確認する必要があり、期中で増資・減資した場合などケースによっては所轄税務署への確認も行っておきたいところだ。 今回義務化の対象となり新たに対応に追われる大法人等以外に、すでに電子申告を行っている大法人についても、上記の利便性向上施策等の導入により、提出情報や提出方法、データ形式の見直し等に対応しなければならず、申告に係る運営の見直しが必要となるケースも想定されよう。 また、利便性向上施策については、電子申告が義務化されない中小法人等にも適用される。中小法人等は大法人に比べ電子申告の普及率が高いことから、その影響範囲は広いものになると考えられる。 なお、冒頭述べたとおり地方税も義務化の対象となることから、e‐Taxとのデータ連携等、eLTAXの今後の動向にも注視が必要だ。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 266(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2018/05/09
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