〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第11話】 「サラリーマンと特定支出控除」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「中尾統括官、私はサラリーマンにも確定申告を認めればよいのではと・・・以前から思っていたのですが・・・これについて、どう思われますか?」 浅田調査官は中尾統括官に尋ねる。 所得課税第三部門は、皆、調査に出ているため、2人しかいない。 「・・・???・・・サラリーマンに・・・確定申告は認められているだろう?」 中尾統括官は怪訝そうな顔をする。 「所得税法57条の2がそれだ。」 中尾統括官は平成30年版の税務六法を開いて浅田調査官に見せる。 「しかし・・・これは特定支出が給与所得控除額の1/2を超えるときに限って、認められるもので・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、所得税法57条の2第1項を覗き込む。 「確かにそうだが・・・この条文は、もともと大島訴訟事件(最高裁昭60.3.27判決)がきっかけとなって出来たもので・・・『サラリーマンに対しても確定申告の途を開いた』と、当時、マスコミが華々しく報道していたよ・・・」 中尾統括官は懐かしそうに言う。 「私が税務署に入って・・・ちょうど3年目の時だったと思う・・・」 中尾統括官は、引き出しから、古い判例のコピーを取り出す。 「これが大島訴訟事件の概要で・・・給与所得者に概算控除を採用していることについて、最高裁は合理的であると判断し、納税者が負けたのだけれど・・・その後、法改正があって・・・平成63年度から、給与所得者に対して特定支出控除を認めたんだ・・・」 中尾統括官は、判例のコピーを見せる。 「・・・しかし、この特定支出控除を適用して確定申告をしたサラリーマンは・・・極めて少なかったと聞いているのですが・・・」 浅田調査官は、頸を傾げる。 「そうだなあ・・・数人の確定申告しかなかったことを考えると、多くのサラリーマンは・・・確定申告ができなかったともいえる・・・」 中尾統括官は頷く。 「だからその後、特定支出控除については・・・改正が行われ・・・今年の税制改正でも、特定支出控除については見直しが行われている。」 中尾統括官は、机の上から、平成30年度税制改正の冊子を手に取る。 「しかし・・・この程度の改正で・・・特定支出控除の適用者の数が増えるのでしょうか・・・」 浅田調査官は疑わしい眼差しになる。 「特定支出控除の改正は、平成24年度にも行われている。」 中尾統括官は、そう言うと、平成24年度改正の資料を見せる。 「この改正によって、平成26年度の特定支出控除の適用者の数が約1,600人に増加したと報道されている・・・それまでは、毎年、数人か、多くても15~16人ぐらいしかいなかったのだから・・・」 中尾統括官は、苦笑する。 「しかし・・・我が国のサラリーマンの数を考えると・・・1,600人というのは、とても少ないですよね・・・」 浅田調査官は、腕を組みながら、頸を傾げる。 (つづく)
《速報解説》 会社計算規則の一部改正案がパブコメに付される ~「収益認識に関する注記」を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年7月27日、法務省は、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、企業会計基準委員会の「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号。平成30年3月30日公表)等及び金融庁の「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第29号。平成30年6月8日公布)等を受けて、会社計算規則の一部を改正するものである。 意見募集期間は平成30年8月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 1 収益認識に関する注記 注記表の項目として、収益認識に関する注記を規定し、次の注記を行う(会社計算規則98条1項18号の2、115条の2)。 2 その他 「収益認識に関する会計基準」において、返品調整引当金等の計上が認められないことから、それに伴う所要の改正を行う(会社計算規則6条2項)。 繰延税金資産等の表示について、投資その他の資産に表示することを明確化する(会社計算規則83条1項)。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 ただし、次の経過措置が設けられる予定である。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2018年7月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.278を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第49回】 「交際費と福利厚生費との区分」 税理士 山本 守之 1 背景 最近の人手不足の事情から、企業が福利厚生の支出を増加させ、内容を拡大しています。このようなことから、企業の支出する費用が交際費となるか福利厚生費となるかについて争いが生じています。 従来の福利厚生の内容や税務の取扱いが相変わらず宴会中心であることから従業員に受け入れられず、参加人数が減っているという背景があります。官僚の考える福利厚生が現在も変わらず宴会中心であり、通達の明示も古いものであるからです。 交際費の要件のうち、「事業に関係のある者」が従業員を含むものとされており、通常の金額を超える分は福利厚生費ではなく、交際費等となる単純な解釈が税務の中心に生じています。 (留意点) 創立記念日において得意先を招待する宴会費は交際費等に該当しますが、その際に従業員を出席させたとしても全額が交際費等とします。 2 事例と事例対象となる法人 X社の主張する「感謝の集い」の参加人員、参加率、1人当たりの費用は次の通りです。 3 「感謝の集い」の内容に対する課税庁の考え方 「感謝の集い」に係る費用は、いずれも「交際費等」に該当します。 「感謝の集い」は、X社及び協力会社等の全従業員を対象としており、これらの従業員は、措置法61条の4第3項の「その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」に該当することから、「交際費等」に該当する支出の相手方となります。 (注) 従業員は「事業に関係ある者」に該当するから、交際費等の対象となります。 また、「感謝の集い」は、参加者の慰安を目的として飲食の提供及びコンサート鑑賞を行ったものです。したがって、「感謝の集い」に係る支出は、措置法61条の4第3項柱書の「交際費等」に該当する要件を満たしています。 「感謝の集い」に係る費用は、措置法61条の4第3項1号の「通常要する費用」の範囲を超えているから交際費等の支出となります。 4 「感謝の集い」行事の開催に至る経緯等 X社は、平成12年、累積赤字約48億4,000万円、固定化債権105億円、借入金171億円を有し債務超過の状態であって、十数年来倒産すると言われ続け、従業員に生気はなく、誇りや自信を喪失した状況にありました。 甲は同年、代表取締役社長に就任して再建に着手し、従業員に対し「自分がされて嬉しいことを人にしなさい」等の「当たり前のこと」を言い続けるとともに、「どこよりもいい商品をどこよりも安く作り、安売りせずに適正価格で全量売り切る体制」を整備した結果、社長就任後2年で累積赤字を解消し、その後、グループ会社も全て黒字化して無借金経営としました。 X社の売上は、平成20年3月期に約490億9,500万円(経常利益約21億3,100万円)、平成21年3月期に約531億5,000万円(同約22億7,500万円)、平成22年3月期に約515億2,300万円(同約3億4,400万円)、平成23年3月期に約519億3,200万円(同約17億4,200万円)、平成24年3月期に約537億7,200万円(同約15億1,700万円)であって、平成26年3月期には約536億8,600万円となっており、ほぼ順調に増加傾向にあって、同年11月には、「ブロイラー生産販売で国内トップシェアを持ち、同年3月期決算でグループ全体で1,200億円超を記録し、甲は大きな負債を抱え伸び悩んだ企業を、ここまで成長させた」と報じられるまでになりました。 経営再建の過程を経て、甲は、「倒産すると言われ続けた会社で、私を信じ、頑張り続けた従業員に報いてやりたい」という強い思いから、従業員に対する感謝の気持ち、従業員のやる気を引き出し、会社に長く勤めたいというモチベーションを高めていくためにも、平成18年、会社創立40周年を機に、同年から年1回の頻度で、X社及び協力会社等(専属の下請先)の全従業員を対象に、「感謝の集い」を開催することとしました。 5 「感謝の集い」の行事開催場所 甲は、従業員全員の気持ちを1つにまとめ上げるとともに、その場を利用して会社の進むべき道を示し、全体のやる気を高めていくために、従業員1,000人全員が一堂に会することが必要であると考えました。 X社やグループ会社の工場や事業所は九州各地(ただし、長崎県及び沖縄県を除く)に点在しており、1,000人規模の従業員を一堂に収容できる会場で、本社に近い会場としては、本件ホテル(大型リゾートホテル)のみでした。そこで、「感謝の集い」は、大型リゾートホテルの大ホール(宴会場)で行われることとなりました。 6 「感謝の集い」の日程について X社においては、4工場(本社及び各工場)を、年間300日稼働させて、年間約5,314万羽(1日当たり約18万羽)の食鳥を処理し、主要商品に限っても1日当たり約240トンの鶏肉を産出しています(全国シェア約10%)。したがって、仮に、全工場の稼働が2日間停止すると、約480トンの商品供給が停止され、市場や消費者に多大な迷惑を及ぼすことになるという事情がありました。また、X社の従業員の6割以上が女性であり、2日間家を空けることができないなどの事情もありました。 X社としては、「感謝の集い」について、宿泊を伴う慰安旅行として行うのは困難であると考え、「日帰り慰安旅行」という形態で行うこととしました。 従業員は、九州の各地から、開催日当日の朝、大型リゾートホテルに向けて出発し、「感謝の集い」の終了後、各工場等に戻るという旅程でした。例えばA工場の従業員は午前8時に同工場を出発し、また、本社及び本社工場並びにB工場の従業員も午前9時30分には各地を出発し、「感謝の集い」終了後、各工場に戻っていきました。そして、「感謝の集い」の時間は、午前11時から午後3時50分までの4時間50分程であったことから、「感謝の集い」は、従業員の往復の移動時間(約3時間ないし約6時間)を含めて、約8時間から約11時間を要する行事となりました。 7 「感謝の集い」行事の内容 「感謝の集い」については、参加者に対し、「X社感謝の集い」と題する小冊子が配布され、当日の行事の次第及び内容等が記載されていました。また、上記小冊子表紙には、「ありがとうのこころをあなたに 株式会社 X」と記載されていました。「感謝の集い」は、大型リゾートホテルの4階の大ホールにおいて、X社及び協力会社等の従業員及び役員等、約1,000人が出席して行われました。 「感謝の集い」の内容は、各事業年度とも、おおむね次の通りです。 8 「感謝の集い」に対する従業員の受け止め方 日々鶏肉の解体等の処理・加工・販売業務等に携わる従業員や同じ環境で働く下請協力会社の専属従業員に対し、「厳しい労働環境の中での忍耐、働きづめの努力に感謝し、その労働意欲のモチベーションを向上して、誇りと自信をもって働き続けてほしい」という思いを込めて開催してくれている行事であって、従業員にとって年に一度のかけがえのない楽しみであり、会社が一体となって組織としての結束力を高め、社長の感謝の心を感じ、それに対し全従業員が感謝の心で応え明日の勤労意欲の向上に向かう唯一の機会です。 「感謝の集い」について、各工場に勤務する従業員は、次のように述べています。 9 交際費と福利厚生費 租税措置法61条の4第3項は、同条第1項に規定する「交際費等」について、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為・・・のために支出するもの(次に掲げる費用のいずれかに該当するものを除く。)をいう。」と規定し(柱書)、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用」(同項第1号)等を掲記しています。 措置法通達61の4(1)-1(交際費等の意義)では、措置法61条の4第3項に規定する「交際費等」とは、交際費、接待費、機密費、その他の費用で法人がその得意先、仕入先その他事業に関係ある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するものをいうのであるが、主として次に掲げるような性質を有するものは交際費等には含まれないものとするとして、「福利厚生費」等を掲記しています。 措置法通達61の4(1)-10(福利厚生費と交際費等との区分)は、社内の行事に際して支出される金額等で次のようなものは交際費等に含まれないものとして、「創立記念日、国民祝日、新社屋落成式等に際し従業員等におおむね一律に社内において供与される通常の飲食に要する費用」等を掲記しています。 官僚の考える典型的な福利厚生の概念で行われる事業は、参加者も減り従業員にとって魅力のない行事になっています。 人手不足のなかで、参加率を増やすためにさまざまな工夫がされています。福利厚生はどんどん変わっている中、税の判断はこれでよいのでしょうか。税は世の中から取り残されているのではないでしょうか。税の解釈も世の流れに遅れないようにしなければなりません。福利厚生をいつまで宴会中心のものと考えるのでしょうか。 10 黒字体制への考え方 「感謝の集い」の目的は、X社が甲のリーダーシップの下、生産及び販売体制の整備によって債務超過による倒産の危機を乗り越え、グループ会社を含めて黒字経営となったという経営再建の歴史的経緯を踏まえて、甲が、その原動力となった従業員に感謝の気持ちを伝えて労苦に報いるとともに、従業員の労働意欲をさらに向上させ、従業員同士の一体感や会社に対する忠誠心を醸成することにありました。 このように従業員の一体感や会社に対する忠誠心を醸成して、さらなる労働意欲の向上を図るためには、従業員全員において非日常的な体験を共有してもらうことが、有効、必要であると考えられています。 11 福利厚生事業の範囲を超えていない 「感謝の集い」への従業員の参加率は、各事業年度とも70%を超えており、X社の業績の推移及び「感謝の集い」に対する従業員の受け止め方等によれば、「感謝の集い」は、従業員の更なる労働意欲の向上、一体感や忠誠心の醸成等の目的を十分に達成しており、その成果がX社の業績にも反映されているものと認められます。 これに比べて、いつまでも古い概念で「福利厚生」の範囲を考える税務は反省すべきでしょう。 12 日帰り慰安旅行として通常性は超えない 「感謝の集い」に係る費用について、「日帰り慰安旅行」に係る費用額との比較を行うことも十分な合理性を有するというべきであり、「感謝の集い」に係る費用は、「日帰り慰安旅行」に係る費用額と比較すれば、通常要する程度であるといえます。福利厚生は行事の一体感から経営指向をもとに考えるべきです。 以上のとおりであることから、本件各福利厚生費は、措置法61条の4第1項の「交際費等」に該当するということは困難であると考えられます。 13 行事の内容と課税庁の主張 「感謝の集い」については、「感謝の集い」の開催場所が市内の著名なホテルの大宴会場であり、1人当たり1万2,000円の午餐の他にアルコール等の飲物が提供され、著名な歌手やピアノ演奏家等による歌謡・演奏のコンサ一トが催されるなど大きな規模で行われたものであり、支出総額は、おおよそ2,100万円ないし2,700万円と高額であって、参加者1人当たりの費用としてもおおよそ2万2,000円ないし2万8,000円に上ります。 そして、この金額が、平日の昼の時間帯に、開演から終了まで4時間程度という比較的短い時間で行われた慰安行事に費やされた額としては極めて高額であることは明らかです。したがって、「感謝の集い」は、法人が費用を負担して行う福利厚生事業として社会一般的に行われていると認められる行事の程度を著しく超えているといわざるを得ないのです。 しかし、福利厚生の狙いと効果という点から観察すれば、単に金額を対比すべきではないと思います。 14 行事の内容とX社の主張 (1) 主張その1 措置法61条の4第3項及び措置法通達61の4(1)-1によれば、全従業員を対象とした慰安目的の行事に係る費用は、福利厚生費に該当し、「通常要する費用」であるか否かを問わず、そもそも「交際費等」には該当しません。 すなわち、措置法61条の4第3項は、「交際費等」の支出の相手方につき「その得意先、仕入先その他事業に関係ある者等」と規定しているところ、この文言から一般的に理解されるのは取引相手ですから、従業員に対する支出は福利厚生費であって、「交際費等」には該当しないものの、特定の一部の従業員を対象とする場合には、法人の冗費が増大し、損金不算入制度の趣旨に反するから、福利厚生費ということはできず、例外的に「交際費等」に該当するものと解すべきです。この点、措置法通達61の4(1)-1においても、「福利厚生費」は交際費等には含まれないものとするとされており、福利厚生費が「通常要する費用」を超える場合を除くとは規定されていません。 このような通達の規定からも、福利厚生費は、費用の多寡にかかわらず、「交際費等」には含まれないというべきです。 「感謝の集い」は、X社及び協力会社等の全従業員に受益の機会が保障されたものであって、特定の一部の従業員を対象とするものではありません。したがって、「感謝の集い」に係る費用(各福利厚生費を含む)は、福利厚生費に当たり、「交際費等」には含まれないというべきです。 (2) 主張その2 仮に、課税庁主張のとおり、福利厚生費について、「通常要する費用」を超える場合には、「交際費等」に含まれると解されるとしても、各福利厚生費は、「通常要する費用」の範囲内であると認められます。すなわち、福利厚生費が「通常要する費用」の範囲内であるか否かについては、実際の支出に即して、その目的達成との関係において通常要する費用かどうかという観点から、行事の規模、開催の場所、参加者の構成、飲食等の内容、1人当たりの費用額、会社の規模を判断要素として判断すべきであって、実際の支出の目的達成とは無関係に、抽象的一般的に判断すべきではありません。 「感謝の集い」については、その目的が全従業員に対して感謝の意を表するとともに、労働意欲の向上を図ることなどにあって、1,000人を超える従業員全員を一堂に集める必要があること、工場での操業を2日以上停止させることはできないことなどに照らせば、判断要素のどの点についても「通常要する費用」の範囲に含まれるというべきです。 したがって、各福利厚生費は除外費用に該当し、措置法61条の4第3項の「交際費等」には該当しないというべきです。 * * * ここに述べた、通達に書かれていない等は納税者の反論に過ぎません。福利厚生は、交際費等と異なる視点で検討すべきでしょう。 15 私見 交際費とすべきか福利厚生費とすべきかは、単に支出金額が通常性を保っているか否か等だけではなく、一体性を保つため、稼働を止めずに福利厚生事業を行う効果を考えるなど多面的な要素が必要となります。従業員を確保するためにはどうすればよいか等は経営手法を含めて考えるべきですし、その内容が変化しつつあることを理解すべきです。 税務の判断にも新しい経営手法を加味すべきでしょう。 (了)
これからの国際税務 【第8回】 「多国籍企業情報の文書化義務と税務コンプライアンス」 早稲田大學大学院会計研究科 教授 青山 慶二 1 BEPS合意に基づく国別報告書、マスターファイル等の整備 多国籍企業グループによる巧妙な二重非課税スキームの活用による租税回避は、多くの国の課税当局の財政運営に対するチャレンジとして注目を浴び、BEPSプロジェクトで対応策が合意された。 それらのスキームは、国家間の税制のミスマッチの間隙を突く点に共通する特色があり、BEPS勧告の多くは国内法及び条約の実体法規定(PE帰属利得、移転価格、CFC税制等)の改正を指摘するものであったが、同時に、超過収益の源となる無形資産の収益力評価等に関する情報の非対称性という多国籍企業が安住してきた実態にも、メスが入れられることになった。 以下においては、既に実行段階に移されている国別報告書等の交換に代表される情報開示義務の拡大の内容とその意義、及び今後の課題点を概観する。 2 グループ情報の文書化義務拡大の概要 BEPS行動13に基づく移転価格文書化要請は、従来の文書化義務(移転価格算定に直接活用される比較対象取引情報を中心としたもの)を明確化するとともに、一定の規模以上のグループ法人(我が国では連結総収入1,000億円以上)については、グローバルな経営戦略を明らかにする情報(国別報告事項及び事業概況報告事項)にまで提供範囲を拡大した(租税特別措置法66条の4の4及び同66条の4の5参照)。 国別の事業体の内容、その収入金額・納税額、資本金、雇用数、資産等の事業活動の地域配分を明らかにする国別報告や、グローバルな機能・リスク配分や無形資産活用戦略などを定性的に叙述する事業概況報告は、これまでは税務調査に入った後で質問検査権の行使等で入手されうるものであったが、今後はグループのユニットが所在する全世界の課税当局で事前に入手できるようになった。 なお、上記2種類の新たな文書化は、性質上親会社において作成されると想定されているが、特に国別パーフォーマンスに係る係数を内容とする守秘性のある国別報告書は、企業は親会社所在地当局に対してのみ提出すればよいとされ、当該情報は租税条約の情報交換規定を利用して、グループ法人が所在する国の課税当局と共有されることが予定されている(我が国では、最も早い提出時期は2018年3月末であり、情報交換はすでに開始している)。 3 文書化拡大の意義 関連者間取引に対して適用される移転価格税制やPE帰属利得の焦点は独立企業原則の適用であり、その過程では、比較対象取引との差異や関連企業間の取引条件の確認に際して、各事業体が果たす機能・リスクの分析が不可欠とされている。特に、独立企業間の比較対象取引の発見が困難ないしは不可能な高度の無形資産取引を含む関連者間取引においては、親子会社間・本支店間等の機能・リスク分析は欠かせないものとなる。 BEPS懸念に悩む子会社等の所在地国では、グローバル経営方針や各拠点のパーフォーマンスに係る情報等へのアクセスが困難で、BEPSリスクの評価が不十分と意識されてきた。定量データを含む国別報告及び定性的な経営戦略の叙述を内容とする事業概況報告は、申告内容の確認及び調査の必要性の測定に大いに役立つものと期待されている。 4 今後の課題 拡大した報告義務に基づき、移転価格税制やPE帰属所得が、BEPSプロジェクトを通じて統一された実体法ガイダンス(新移転価格ガイドライン、PE帰属のガイダンス等)に沿って精緻化の上適用されると、当局及びビジネスの双方にとってグローバルスタンダードに基づく予測可能性の強化というメリットが享受される。ただし、新しい文書化情報のミス活用(特に国別報告書の定量データを十分な機能・リスク分析を経ずに直接活用する利益配分など)の懸念は、拭い去れていない。 この点については、BEPS行動14が規定する紛争解決の効率化策に期待が集まる。そこでは、①仲裁による事後解決のみならず、②バイあるいはマルチの事前確認により、文書化情報に基づく機能・リスクの分析結果を課税当局間で共有することの有効性が強調されている。 2018年1月にOECDは、日米等8ヶ国によりパイロットプロジェクトとして開始した国際コンプライアンス保証プログラム(通称ICAP)をスタートさせた。文書化情報をマルチで検討し、課税当局にとって低リスクとマルチで合意されたグループには、コンプライアンス上のアクションを取らないとするものである。目下は先進国のみの参加であるが、今後参加国が新興国にまで拡大することが望まれる。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第47回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) 3 国税局職員の講演 平成18年から平成21年までの間に、国税局の職員が租税研究で行った講演内容については、鍋谷彰男「組織再編税制について」租税研究695号5-34頁(平成19年)、森秀文「組織再編税制適用上の留意点」租税研究702号53-68頁(平成20年)、一石欽哉「組織再編税制における実務上の留意点」租税研究717号126-138頁(平成21年)、山田弘一「企業組織再編税制について-グループ内再編の留意点を中心に」租税研究719号134-164頁(平成21年)に掲載されている。 これらに掲載されている内容は、条文で明確なものや、その後の改正で変わったり、明確化されたりしたものも少なくない。そのため、本連載では、条文では断言できないものに対して示された国税局職員の見解のうち、現行法上も有効なものについてのみ解説を行う。 まず、森秀文「組織再編税制適用上の留意点」租税研究702号57-58頁では、100%グループ内で完結している持合株式についての見解が示されている。森氏は、完全支配関係が成立する旨の見解を示しており、本稿校了段階では、国税庁 質疑応答事例「資本関係がグループ内で完結している場合の完全支配関係について」で同様の見解が示されている。 そして、同論文129頁では、主要資産等引継要件における主要な資産及び負債の判定について、 と解説されている。 このように、事業を営む上で必要不可欠な資産のみを主要な資産と捉えていることから、引き継がなければいけない資産及び負債をかなり限定的に解していることが分かる。 それ以外の内容については、条文で明確なものや、その後の改正で変わったり、明確化されたりしたものであるため、本稿では解説を行わない。 4 筆者(佐藤信祐)の見解 (1) はじめに ここでは、平成18年から平成21年までの間に公表した筆者の見解についてまとめたい。 この間にいくつか書籍を書かせていただいたが、条文で明確なものや、その後の改正で変わったり、明確化されたりしたものもある。そのため、本連載では、条文からは断言できないものの、組織再編税制の実務家の中で暗黙知として共有されていた解釈のうち、現行法上も有効なものについてのみ解説を行う。後述するが、その後に、国税庁の解釈が公表されたものもあるため、その点についても触れる予定である。 (2) 税制適格要件 平成18年に『組織再編における税制適格要件の実務Q&A』(中央経済社)を上梓したが、その後、平成19年に第2版、平成21年に第3版を上梓したため、本稿では、第3版に基づいて解説を行う。 ① おおむね100分の80の考え方 (ⅰ) 平成21年当時の見解 拙著88頁では、以下のように記載していた。 このように、おおむね100分の80以上と規定されているものの、「従業者」に含めるべきか否かの判断が難しい場合を除き、100分の80に満たないものについては、従業者引継要件を満たすことができないと解していた。 しかし、その後の国税局の対応を見ていると、より柔軟に解する余地があるように思われる。この点については、【第32回】で解説したように、すでに平成15年段階で、東京国税局調査第一部特官付主査であった五枚橋實氏が、従業者引継要件を柔軟に解する余地を指摘していた。 そのほか、平成24年6月に行われた第2回税務大学校特別セミナー(最近の経済情勢と税制について-組織再編税制・貸倒損失の適用を中心に-)でも、丸山慶一郎氏(東京国税局調査第一部調査審理課所属)が、制度趣旨に反していない限り、100分の60や100分の70であっても、従業者引継要件を満たしていると認定することができる旨の発言をされていた。 (ⅱ) 従業者引継要件の制度趣旨 「おおむね」という不確定概念を分析する際には、従業者引継要件が設けられた趣旨を理解する必要がある。すなわち、すでに本連載で触れているが、100%グループ内の適格組織再編成の要件では、「完全に一体と考えられる持分割合の極めて高い法人間で行う組織再編成」であることから事業単位の移転であることは求められなかったのに対し、50%超100%未満グループ内の適格組織再編成、共同事業を営むための適格組織再編成は、事業単位の移転であることを求めていたことから、従業者引継要件が求められたという経緯がある。 このように、事業単位の移転であることの要件の1つとして従業者引継要件が要求されたという経緯を考えれば、75%の従業者の引継ぎであっても従業者引継要件を満たすと判断することもできるし、90%の従業者の引継ぎであっても従業者引継要件を満たさないと判断されてしまうことも考えられる。とりわけ租税回避行為が行われた場合には、「おおむね100分の80」という文言を縮小解釈することにより否認されてしまう可能性はあり得る。 (ⅲ) 実務上の留意点 それでは、納税者に有利なように「おおむね」という文言をどこまで拡大解釈することができるのかは、有価証券評価損に対する法人税基本通達9-1-7を参考にすることができる。同通達9-1-7では、おおむね50%以上の時価の下落があり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれていないことが要件とされているからである。 この点につき、日本税理士会連合会編、山本守之・守之会著『検証 税法上の不確定概念』16-17頁(中央経済社、平成12年)では、 とした上で、 と解説されている。 この考え方を採用すれば、従業者引継要件では、5%程度のアローワンスと考えれば75%まで認められる余地があると考えることができる。さらに、50%について5%のアローワンスを認めたということで、80%については8%以上のアローワンスが認められるべきとするならば70%くらいまでは認められる余地があると考えることもできる。 しかし、このような不確定概念が導入されたのは、「従業者」の定義が曖昧であったことが理由であると思われる。そのため、単に何%なら認められるといった考え方ではなく、引き継がない従業者の勤務実態などからして、「従業者」に含めるべきか否かの判断が難しい場合のためのアローワンスであると考えることもできる。 このように、そもそも曖昧な従業者の定義に対応するためでもあり、さらには、制度趣旨に則って従業者引継要件を満たすか否かを判断するためでもあると考えるのであれば、上記の国税不服審判所の裁決例は、「さすがに60%の引継ぎでは認められないであろう」という判断には役に立つのかもしれないが、「75%の引継ぎなら認められるはず」と判断するべきではないと思われる。 このように、「おおむね」という概念から、75%や70%の引継ぎであったとしても、従業者引継要件を満たせる場合もあり得るが、実務上、制度趣旨を踏まえたうえで判断する必要があると考えられる。 * * * 次回では、引き続き税制適格要件の内容について触れる予定である。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q3】 「比較雇用者給与等支給額に関する調整計算の見直し」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 [Q3] 平成30年度の税制改正によって改正された、比較雇用者給与等支給額に関する調整計算の内容について教えて下さい。 [A3] 適用年度の月数と前事業年度等の月数が異なる場合の調整計算について、前事業年度の月数が6月に満たない場合の取扱いが新たに追加されました。 【解説】 (1) 調整計算の趣旨 雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額以下である場合、本税制は適用されないこととなるが(措法42の12の5①)、このような比較を行う場合には算定基礎となる月数を統一しておく必要がある。 そのため、適用年度の月数と前事業年度等の月数が異なる場合には、一定の調整(月数補正)を実施することとされている。 (2) 改正の概要 改正前の制度における調整計算は、単に前事業年度における雇用者給与等支給額に適用年度の月数を乗じ、これを当該前事業年度の月数で除して算定することとされていた(旧措法42の12の5②六ロ)。 これに対し改正後の制度では、前事業年度の月数と適用年度の月数の大小関係に応じて、以下のように算定することとされた(措令27の12の5⑥)。 このように、前事業年度の月数が6月に満たない場合の取扱いが新設されたのは、単純な月数補正の計算では給与等の支給実績を適切に反映しない可能性がある(実績部分よりも補正部分のほうが大きくなってしまう)と考えられるため、適用年度開始の日前1年以内に終了した各事業年度の実際の支給額に基づく月数補正を行うことにしたものと考えられる。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第28回】 「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(23)付表1 給与等支給額、当期償却費総額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」〈その1〉 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第28回目以降は、平成30年度の税制改正により見直しが行われたことによりその様式も改正された、賃上げ・投資促進税制(改正前 所得拡大促進税制)関連の別表をあらためて採り上げるとともに、改正点を踏まえながらその適用パターンごとに分けて順次解説していく。 ※ 中小企業者とは、資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人でその発行済株式又は出資の総数又は総額の一定割合以上を大規模法人に所有されていない法人及び資本又は出資を有しない法人で常時使用する従業員の数が1,000 人以下の法人をいい、それ以外を大企業等という。 まず今回は、パターン①の場合における、「別表6(23) 雇用者給与等支給額が増加した場合又は給与等の引上げ及び設備投資を行った場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の記載の仕方を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、平成30年4月1日以前に開始し、平成30年4月1日以後終了する事業年度において、青色申告書を提出する法人が平成30年改正前の租税特別措置法(以下「平成30年旧措置法という」)第42条の12の5第1項の規定の適用を受ける場合に作成する。 改正前の所得拡大促進税制は、平成25年4月1日から平成30年3月31日までに開始する事業年度において、以下の(イ)、(ロ)及び(ハ)の要件をすべて満たした場合、国内雇用者(注1)に対する給与等支給増加額について、その一定割合の税額控除ができる(当期の法人税額の10%、中小企業者等は20%が上限)制度である。 (注1) 国内雇用者とは、法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者を除く)のうち国内事業所に勤務する雇用者(労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者)をいう。 (注2) 給与等支給額とは、各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額(その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合はその金額を控除した額)をいう。 (注3) 基準事業年度とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度をいう。 (注4) 平均給与等支給額とは、適用年度の継続雇用者(適用年度及び適用年度の前事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者)に対する給与等の支給額を、対象となる適用年度の月別継続雇用者の合計数で除した金額をいう。 ▼ 注意!▼ 上記の継続雇用者は、雇用保険の一般被保険者に該当するものに限られる。また、継続雇用制度(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条第1項第2号に規定する制度)の対象者は除く。 この制度による税額控除限度額は、次のとおりである。 給与等支給増加額(給与等支給額-基準事業年度の給与等支給額)×10%+加算額※1 ※1 平成29年4月1日以後に開始する事業年度において、適用年度の平均給与等支給額がその前事業年度の平均給与等支給額と比べて2%以上増加している場合、次の一定額を加算する。 ➡ ただし、その適用年度の調整前法人税額の10%相当額が限度額(中小企業者等は20%)となる。 また、平成28年度の税制改正により、いわゆる雇用促進税制との重複適用が一定の調整のもと可能となった。したがって、平成30年旧措置法第42条の12第1項から第3項まで(特定の地域において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定、又は改正後の同法第42条の12第1項もしくは第2項(地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除)の規定を重複して適用する場合には、調整計算のために「別表6(23)付表2 雇用者給与等支給増加重複控除額の計算に関する明細書」を作成することになる。 なお、この雇用促進税制(改正後の別表6(19))との重複適用の事例は別の機会に解説することとしたい。 Ⅲ 「別表6(23)」及び「別表6(23)付表1」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成30年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 ◆別表6(23) 〔中小企業者等以外の法人〕欄 〔中小企業者等〕欄 ◆別表6(23)付表1 〔平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額の計算〕欄 (了)
〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第6回】 「特例贈与者が死亡した場合の相続税の特例」 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳 今回は非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70の7の7)、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の8)について解説していく。 特例贈与者が死亡した場合において、相続税の納税猶予及び免除の特例を受けるにあたっての手続きは、以下のとおりである。 ① 特例贈与者の死亡 ↓ ② 非上場株式等の相続・円滑化法の確認 ↓ ③ 相続税の申告 ↓ ④ 事業の継続(相続後5年間) ↓ ⑤ 株式の継続保有(5年経過後) ↓ ⑥ 猶予相続税の免除(後継者の死亡・事業継続が困難な場合等) 1 特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税 特例措置により株式を贈与した特例贈与者が死亡した場合には、贈与税は免除されるが、当該贈与により取得した特例対象受贈非上場株式等は、後継者が相続又は遺贈により取得したものとみなされる。 この場合において、相続税の課税価格の計算の基礎に算入すべき特例対象受贈非上場株式等の価額は、贈与の時における価額を基礎として計算するものとする(措法70の7の7①)。 2 特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除 特例贈与者の死亡により、特例贈与者から相続又は遺贈により取得したものとみなされた特例対象受贈非上場株式等について、相続の開始の日の翌日から8月を経過する日までに都道府県知事に申請し、「円滑化法の確認」(円滑化規則13①)を受け、一定の要件を満たす場合には、その相続又は遺贈により取得したとみなされた非上場株式等について、相続税の納税猶予及び免除の特例の適用を受けることができる(措法70の7の8①)。 3 非上場株式等の相続・円滑化法の確認 (1) 非上場株式等の相続 ① 特例認定相続承継会社 特例措置の対象となる特例認定相続承継会社とは、贈与税の特例措置の適用を受けた特例認定贈与承継会社で、相続の開始の時において、一定の要件を満たすものをいう(措法70の7の8②二)。 特例認定相続承継会社の要件については、贈与税の納税猶予における特例認定贈与承継会社、相続税の納税猶予における特例認定承継会社、一般措置の対象となる認定相続承継会社と同じである(【第2回】参照)。 ② 特例経営相続承継受贈者(後継者) 贈与税の特例措置の適用を受けていた特例経営承継受贈者で、次に掲げるすべての要件を満たすものをいう(措法70の7の8②一)。後継者の要件については、一般措置と同じである。 ③ 承継期間 相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の6)においては、「平成30年1月1日から平成39年12月31日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る相続又は遺贈による取得(以下略)」と期間を限定する記述が存在するが、特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70の7の8)には期間を限定する記述が存在しないことから、承継期間が限定されていないことが確認できる。 したがって、平成39年12月31日までに特例措置による贈与を実行している場合には、特例贈与者が平成40年1月1日以後に死亡した場合であっても、相続税の納税猶予を適用することが可能である。 (2) 円滑化法の確認 非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例の適用を受ける場合には、特例贈与者の相続の開始の日の翌日から8月を経過する日までに、特例認定相続承継会社の主たる事務所の所在地の都道府県知事に申請書を提出し、上記(1)①及び②の要件を満たしていることについて、都道府県知事の確認(円滑化規則⑬一)を受けなければならない。 申請書は「施行規則第13条第2項の規定による確認申請書」【様式第17】(円滑化規則13②)とされており、一般措置と同じ様式を用いることとなる。 4 相続税の申告 特例措置の適用を受ける特例経営相続承継受贈者(後継者)は、この制度の適用を受ける旨を記載した相続税の申告書に以下の書類を添付して提出しなければならない(措法70の7の8⑤)。 申告期限、納税猶予分の相続税額、担保提供については、相続税の納税猶予と同じ内容が規定されている(措法70の7の8①・②四・④)。 上記(b)に掲げた「その他財務省令で定める事項」とは、特例経営相続承継受贈者に係る特例贈与者の死亡による相続の開始があったことを知った日、その他参考となるべき事項をいう(措規23の12の5⑪)。 * * * 次回は、【第3回】及び【第5回】で紹介した「事業の継続が困難な事由が生じた場合の納税猶予額の免除」の制度について詳しく解説する。 (了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第4回】 「『情報連携投資等促進税制』の創設」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [2] 『情報連携投資等促進税制』の創設 第4次産業革命で激変するビジネス環境に迅速に対応するため、サイバーセキュリティ対策を講じながら行うIoT投資(ソフトウェア、センサー、ロボット等を連携させる投資)に対して特別償却又は税額控除ができる措置を講ずることになった。 情報連携投資等促進税制も他の設備投資促進税制と同様に、連結納税の場合でも、各連結法人ごとに適用要件の判定と特別償却限度額又は税額控除額の計算が行われる(つまり、税額控除について、研究開発税制や所得拡大促進税制のように連結納税グループでの全体計算の仕組みになっていない)。 ただし、次の点で単体納税と異なる取扱いとなる。 具体的には、連結納税における情報連携投資等促進税制について、単体納税における取扱いと比較すると次のようにまとめられる。 なお、情報連携投資等促進税制は、「生産性向上特別措置法」の施行日(平成30年6月6日)から平成33年3月31日までの間に情報連携利活用設備の取得等をして、その事業の用に供した場合に適用される(平成30年所法等改正法附則1十四ロ)。 連結納税制度における情報連携投資等促進税制の税額控除の取扱いは上記のとおりであるが、単体納税と比較した場合の連結納税の有利・不利は次の点である。 ① 税額控除の限度額となる法人税額基準額が、連結法人税額及び連結法人税個別帰属額の両方を考慮して計算される。また、情報連携投資等促進税制の税額控除割合の上乗せ措置が適用できる賃上げ要件について、連結グループ全体で判定を行う。 例えば、次のようなケースの場合、連結納税では、損益通算後の連結法人税額を基礎にした法人税額基準額が単体納税の法人税額基準額より小さくなり、税額控除額が減少することになる。 ただし、この場合、そもそも連結納税の損益通算効果により連結グループ全体の法人税額が減少するため、その点において連結納税の採用は不利にならない。 なお、地方法人税についても課税標準が増加するため、連結納税の方が不利となる。 [情報連携投資等促進税制の有利・不利] ※画像をクリックすると別ページで拡大して表示されます。 ※1 連結法人税額11,600×20%×P社個別所得金額200,000/(P社個別所得金額200,000+B社個別所得金額100,000)=1,546 ※2 連結法人税額11,600×20%×B社個別所得金額100,000/(P社個別所得金額200,000+B社個別所得金額100,000)=773 ※3 連結法人税額11,600×20%×P社個別所得金額200,000/連結所得金額50,000=9,280 ※4 連結法人税額11,600×20%×B社個別所得金額100,000/連結所得金額50,000=4,640 ② 連結納税の場合、連結親法人が中小連結親法人に該当しない場合(連結親法人が中小企業者に該当しない場合、あるいは、中小企業者に該当するが連結納税の適用除外事業者に該当する場合)、その税額控除額を住民税の課税標準(調整前個別帰属法人税額)から控除できないため、単体納税でこれを控除している連結法人がある場合、不利益が生じる。 (了)