《速報解説》 国税庁、小規模宅地等特例の平成30年度改正に係る 改正措置法通達を公表 ~貸付事業の事業的規模を明確化~ 税理士法人トゥモローズ 代表社員 税理士 角田 壮平 去る7月9日に国税庁は平成30年度税制改正に係る「相続税法基本通達等の一部改正について」を公表した。以下では、小規模宅地等の特例に係る項目のうち重要度の高い論点につき解説をする。 1 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等の詳細(改正通達69の4-24の3) 平成30年度税制改正大綱において、 と記載されており、相続開始前に駆け込みで取得した賃貸不動産等は当該特例の対象外とされた。 当該改正点につき、法令上は、下記の通り規定されている(措置法69の4③四)。 上記条文において、「相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(省略)を除き、」とされている部分の詳細が、本件改正通達により明らかになった(改正通達69の4-24の3 新たに貸付事業の用に供されたか否かの判定)(新設)。 本件通達では、「新たに貸付事業の用に供された」とは、貸付事業の用以外の用に供されていた宅地等が貸付事業の用に供された場合又は宅地等若しくはその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の当該宅地等が貸付事業の用に供された場合をいうと示されている。 なお、相続開始前3年以内に下記のような事象が生じたとしても、これらの事象は新たに貸付事業の用に供された場合には該当しない旨も示された。 2 事業的規模の明確化(改正通達69の4-24の4) 平成30年度税制改正大綱において、 と記載されており、下線部分の事業的規模について、措置法、措置法施行令(以下、「措令」)、措置法施行規則を確認しても詳細を見出すことはできなかった。 ちなみに、措令では、事業的規模について、下記の通り規定されている(措令40の2⑯)。 また同項に規定する「準事業」とは、下記の通り定められている(措令40の2①)。 すなわち、措令では、事業的規模の貸付事業を「特定貸付事業」と名付け、その特定貸付事業には準事業は含まれないということである。 改正通達にて、特定貸付事業の詳細が明らかになった(改正通達69の4-24の4 特定貸付事業の意義)(新設)。 具体的には、貸付の種類により下記の通りに判定することとなる。 (了)
《速報解説》 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)に係る 改正措置法関係通達が公表される ~設備投資要件の「国内資産」に係る項目等を新設~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成30年6月29日、国税庁より「租税特別措置法関係通達(法人税編)等の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された。 この中には、平成30年度の税制改正で抜本的に改正された「賃上げ・投資促進税制」(旧・所得拡大促進税制)に関する通達の新設・改正も含まれている。 そこで本稿では、該当通達の改正等の概要について取りまとめておくこととしたい。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。 2 改正点 今回改正等された通達は下表の通りである。 3 改正事項 (1) 継続雇用制度対象者の判定(廃止) 旧・措通42の12の5-5は、月の途中で継続雇用制度の適用対象となった者に対して、継続雇用前の職務に対する給与等の額と継続雇用後の職務に対する給与等の額とを同一の日に支給している場合において、継続適用を要件として、当該給与の全体について継続雇用制度対象者に対して支給した給与等の額として取り扱うことを認めることが明らかにされていた。 これは、改正前の制度においては、継続雇用制度の適用対象者に対して支払う給与等は、改正前制度の適用要件に用いていた平均給与等支給額の算定基礎となる「継続雇用者給与等支給額」の集計対象から除くこととされていた(旧・措令27の12の5⑭)ことに関連して設けられていたものである。 しかし、平成30年度の税制改正によって「継続雇用者」の定義から継続雇用制度の適用対象者が除外され(措法42の12の5③六、措令27の12の5⑬)、このような取扱いを定める意義が失われたことから、本通達が削除されたものと考えられる。 (2) 国内資産の範囲の明確化(新設) 中小企業者等に該当しない法人に対して新たに適用要件として定められた「国内設備投資額」とは、法人が適用年度において取得等をした国内資産で当該適用年度終了の日において有するものの取得価額の合計額をいう(措法42の12の5③八)。そして「国内資産」とは、国内にある当該法人の事業の用に供する機械及び装置その他の減価償却資産(時の経過によりその価値の減少しないものを除く)をいう(措令27の12の5⑰)。 また、適用要件を満たしているかどうかの判定に用いられる「当期償却費総額」とは、法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額をいう(措法42の12の5③九)。 これらのうち、「国内資産」及び「取得価額」並びに「償却費として損金経理をした金額」の具体的な取扱いに関連して以下の通達が新設された。 ① 国内資産の内外判定(措通42の12の5-6) 国内資産に該当するかどうかは、その資産が法人の事業の用に供される場所が国内であるかどうかにより判定するのであるが、例えば次に掲げる無形固定資産が事業の用に供される場所については、原則として、それぞれ以下に定める場所による。 ② 国内事業供用が見込まれる場合の国内資産の判定(措通42の12の5-7) 法人の有する資産が適用年度終了の日において当該法人の事業の用に供されていない場合であっても、その後国内において当該法人の事業の用に供されることが見込まれるときには、当該資産は国外資産に該当することが明らかにされた。 これは、国内資産の定義規定(措令27の12の5⑰)において「・・・事業の用に供する機械及び装置・・・」という表現が用いられていることから、適用年度末において実際に事業供用されている必要はないことは文理解釈上明らかであったが、この点について確認的に明らかにされたものと考えられる。 ③ 「資本的支出」及び「償却費として損金経理をした金額」の取扱い 「国内設備投資額が当期償却費総額の90%以上であること」という適用要件に関連して、以下の通達が新設された。 (a) 資本的支出の範囲(措通42の12の5-8) 法人の有する国内資産につき資本的支出を行った場合の当該資本的支出に係る金額は、措通42の12の5-11ただし書(償却費として損金経理をした金額)の適用があるものを除き、「国内設備投資額」に含まれるものとすることが明らかにされた。 この「措通42の12の5-11ただし書」は、償却費として損金経理をした金額に法基通7-5-1又は7-5-2による金額を含めない取扱いを継続的に適用している場合を指すが、この適用を受ける場合には、当該資本的支出に係る金額は国内設備投資額に含まれないということである。 この趣旨については次の(b)で考察しているので参照されたい。 (b) 償却費として損金経理をした金額の範囲(措通42の12の5-11) 当期償却費総額は、法人がその有する減価償却資産につき適用年度においてその償却費として損金経理をした金額をいうが(措法42の12の5③九)、これには、法人税基本通達7-5-1又は7-5-2の取扱いにより償却費として損金経理した金額に該当するものとされる金額が含まれることが明らかにされた。 ただし、法人が継続して、これらの金額につきこの「償却費として損金経理をした金額」に含めないこととして計算している場合には、国内設備投資額の計算につき当該法人の有する国内資産に係るこれらの金額に相当する金額を含めないこととしているときに限り、この計算を認めることとされている。 この趣旨について考えてみるに、法基通7-5-1に掲げられている項目が「償却費として損金経理をした金額」に含められた上で、減価償却超過額を構成するという取扱いは、対応する当初支出が設備投資額を構成していることが前提となっていると考えられる。 とすれば、これらの項目を「償却費として損金経理をした金額」に含めず、別途の項目として税務調整を行っている場合には、そうした前提が崩れることから、対応する当初支出は設備投資額に含めるべきではないということになる。 措通42の12の5-8は、このことを確認的に明らかにした取扱いであると考えられる。 (参考)法人税基本通達7-5-1(償却費として損金経理をした金額の意義) (参考)法人税基本通達7-5-2(申告調整による償却費の損金算入) ④ 「国内資産の取得価額」の取扱い (a) 圧縮記帳をした国内資産の取得価額(措通42の12の5-9) 法人の有する国内資産のうち、圧縮記帳の適用を受けたものがある場合には、その圧縮記帳前の実際の取得価額によるものとする。 ただし、措通42の12の5-11ただし書の適用があるものにあっては、その圧縮記帳前の実際の取得価額から、同通達の「当該法人の有する国内資産に係るこれらの金額に相当する金額」を控除した金額によるものとする。 (b) 贈与による取得があったものとされる場合の適用除外(措通42の12の5-10) 贈与による取得は、「国内設備投資額」の定義を満たす「取得等」には該当しない(措法42の12の5③八、措令27の12の5⑯)ことを踏まえ、以下の取扱いについて明らかにされた。 (※) 資産を著しく低い対価の額で取得した場合においては、措通42の12の5-11の取扱いの適用はない。すなわち、当該資産を時価相当額で受け入れたうえで、贈与相当額について減額し、これを「償却費として損金経理をした金額」として取り扱うわけではないので留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 金融庁、平成30年7月豪雨の被災者に向け有報等の提出期限に係る措置について財務(支)局への相談を呼びかけ 公認会計士 阿部 光成 平成30年7月12日、 金融庁は、「平成30年7月豪雨に関連する有価証券報告書等の提出期限に係る措置について」を公表し、次のように述べている。 なお、それぞれの開示書類の提出期限は次のとおりである。 ・有価証券報告書の提出期限:事業年度経過後3ヶ月以内 ・四半期報告書の提出期限:四半期会計期間経過後45日以内 ・半期報告書の提出期限:中間会計期間経過後3ヶ月以内 臨時報告書についても、豪雨という不可抗力により臨時報告書の作成自体が行えない場合には、そのような事情が解消した後、可及的速やかに提出することで、遅滞なく提出したものと取り扱われることとなると記載されている。 上記に述べた事項以外でも、今般の豪雨により実務上の支障が生じているなど、お困りのことがあれば、遠慮なく所管の財務(支)局まで相談していただきたいとのことである。 また、7月13日、 金融庁は、平成30年7月豪雨による被災者等からの各種金融機関の窓口の問合せや金融機関等との取引に関する相談等への対応のため、「平成30年7月豪雨金融庁相談ダイヤル」を開設している。詳しくは下記金融庁ホームページを参照されたい。 (了)
2018年7月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.276を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第66回】 「新聞報道からみる租税法(その3)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 (3) 更正の予知と新聞報道 (ア) 事件の概要 更正の予知がない段階で提出された修正申告には過少申告加算税が課されず免除されるところ、かかる更正の予知の認定に新聞報道が影響を及ぼした事例として、いわゆるルノワール事件がある。 この事件は、ルノワールの絵画「浴後の女」と「読書する女」の売買取引において、買い主であるD商事の主張する絵画購入費と実際に売り主に支払われた金額について、15億円相当の差額が行方不明になっているなどとして世間の注目を集めた取引を巡り、かかる取引の仲介を取り持ったX(原告・控訴人)の仲介手数料の計上漏れに関して争われた事件である。 税務署長Y(被告・被控訴人)は、Xが、平成元年の所得税の確定申告において本件仲介手数料収入を含めるべきであったにもかかわらず、その存在を秘匿する目的で、本件仲介手数料として受け取った小切手3枚を「G」の仮名で裏書きした上、同名の仮名口座に入金するなどして、あたかもXには同収入がなかったかのように仮装することにより、2億3,500万円の本件仲介手数料収入のすべてを隠蔽し、そのように仮装し、隠蔽したことに基づき、平成元年分の所得税の確定申告を行ったものであり、これが、国税通則法68条《重加算税》1項に該当するとして重加算税の賦課決定処分を行った。 これに対して、Xは、Xの行った修正申告には国税通則法65条《過少申告加算税》5項(以下「本件規定」という。)が適用されるべきであるなどとして、上記処分の取消しを求めた。 本件規定は、過少申告がなされた場合であっても、その後修正申告書の提出があり、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について「更正があるべきことを予知してされたもの」でないときには、過少申告加算税を賦課しないとするものであるが、本件では、ここにいういわゆる「更正の予知」の有無が1つの争点となっている。 なお、Xは、平成3年4月2日、K代議士とともに国税庁長官を訪れ、本件仲介手数料を得たのに申告をしていないこと及び本件仲介手数料につき修正申告を行う意思があることを説明している(修正申告を行ったのは、同年7月4日である。)。 (イ) 東京地裁平成14年1月22日判決(訟月50巻6号1802頁) 東京地裁では、「平成3年3月30日付けの新聞報道とその後の原告の対応」として、次のような事実が認定されている。 さらに、1面のほか、社会面における記事についても触れている。 続けて、これらの記事が掲載されたJ紙の、翌日の朝刊の記事についても次のように認定している。 加えて、J紙のほか、W紙における記事掲載についても触れている。 こうした、本件事件を巡る一連のマスコミ報道を確認した後、東京地裁は以下のとおり、本件規定の解釈について判示する。 このように、東京地裁は、いわゆる「端緒把握説」に立って更正の予知のタイミング、すなわち、過少申告加算税が免除される時点を捉えているものと解されるが、同地裁はこうした立場から次のように本件を検討している。 こうした検討を踏まえ、結論として、東京地裁はYの処分を妥当なものであるとした。 このように、本件においては、Xが国税庁長官に面会し修正申告の意思表示をするまでの経緯について、新聞報道を加味した上で判断していることが分かる。 もちろん、東京地裁は新聞報道のみをもって「更正の予知」の有無を判断しているわけではなく、本件取引を巡る関係者の動向等を勘案した上で上記のような結論を導いているわけであるが、新聞報道がXの修正申告の意思表示に与えた影響については無視できないものであったであろうことが推察される事案である。 もっとも、本件のように、新聞報道によって自らの更正処分の可能性を知るといったケースは特異であると片付けることもできるかもしれない。 しかしながら、例えば国税庁の最新の動向を新聞報道で知るといったことは、何も本件のような特殊事案ではなくとも、一般的な納税者においてもあり得るところであり、ルノワール事件からはそうした一面をくみ取ることもできるのではなかろうか。 (ただし、個々の納税者における更正の予知について、新聞報道の有無のみをもって判断されることはないと思われることを指摘しておきたい。) 結びに代えて 財産権の侵害規範である租税法においては、租税法律主義の要請の下、予測可能性の保障が求められる。 本稿(その1)において取り上げた興銀事件は、予測可能性が十分に担保されていたか否かの判断に当たって、「一般国民の間に相当程度の流通量がある」新聞での報道が手掛かりとされた事例であるといえよう。 もっとも、興銀事件は平成8年当時のものであるから、その後新聞の流通量は減る一方で、インターネット媒体による記事が増加傾向にあると思われるが、それでもなお新聞報道による周知が国民の予測可能性に与える影響は無視できないといえ、興銀事件を巡る地裁及び高裁の判断等を過去のものと理解すべきではないように思われる。 なお、一般社団法人日本新聞協会の発表によれば、新聞の発行部数と世帯数は以下のように推移しているという(同協会のホームページに掲載されたデータを基に筆者がグラフ化。なお、同ページでは平成12年からのデータが公表されている)。 興銀事件は平成8年当時の事件であるため、上記日本新聞協会の発表からはその当時の正確な発行部数を知ることはできないが、平成12年から平成19年まで毎年4,700万部程度の発行部数で推移していることからすれば、平成8年当時もほぼ同様もしくはそれ以上の発行部数であったことが推察されよう。仮にその推察が正しいとすれば、ここ20年余りで一般紙の発行部数は850万部ほど減少していることとなる。 しかしながら、平成29年度においても3,876万部の発行数を維持していることに鑑みれば、依然として新聞は国民の周知に相当程度の役割を果たしていると解され、予測可能性の有無を判断するためのものさしとしての機能は無くなっていないと思われる。 (了)
〈平成30年度改正対応〉 賃上げ・投資促進税制(旧・所得拡大促進税制)の 適用上の留意点Q&A 【Q1】 「平成30年度税制改正により変更・追加された事項の全体像」 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 ◆はじめに◆ 平成30年度税制改正によって、従来の所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)が抜本的に改組され、租税特別措置法上のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」と改められた。 この改正により、適用要件や控除税額の計算が変更されたほか、改正前の制度における用語の定義自体も変更されたものがあり、従来の理解のまま改正後の制度を適用しようとすると結論を誤る可能性がある。 そこで本連載では、平成30年度税制改正により変更された点に焦点を当て、改正後の制度を適用する上で留意すべき事項についてQ&A形式で解説することとしたい。 本連載は単体納税制度における取扱いを前提としており、連結納税制度における取扱いについては触れていない。また、新制度について引き続き「所得拡大促進税制」と称するのは本来適当ではないと考えるが、適当な呼称が定着していないことに鑑み、本連載においては引き続き「所得拡大促進税制」と称する。 なお文中、意見にわたる部分は筆者の私見であることを予め申し添える。 [Q1] 平成30年度の税制改正により、所得拡大促進税制について抜本的な見直しが行われたと聞きましたが、具体的にはどのように見直されたのでしょうか。 [A1] 平成30年度の税制改正では、主に以下のような見直しが行われています。 ① 適用要件の見直し ② 控除税額の計算方法の見直し ③ 上乗せ控除制度の見直し(人材投資に積極的な企業向け) 【解説】 平成25年度の税制改正によって創設された「所得拡大促進税制」(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)は、賃上げの促進を通じて個人消費・投資の活性化を促し、ひいてはデフレ脱却と経済再生の達成を志向するという一貫した政策目標のもと、本税制の適用を促進すべく、毎年のように適用要件の見直し等が行われ5年が経過し、本来の適用期限の終了時期を迎えようとしていたところである。 そのような状況下、平成29年12月8日には「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定され、その中では「生産性革命」という項目が大きな柱として設定されている。特に、賃上げや設備投資・人材投資の加速は生産性革命を達成するための重要な要素とされている。 これを踏まえ、平成30年度の税制改正では、生産性革命を達成するための重要な要素である「賃上げ」と「投資」(設備投資・人材投資)の促進を税制面から支援すべく「所得拡大促進税制」の抜本的な見直しが行われている。本税制のタイトルも「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」に改められていることからして、本税制は単なる「賃上げ促進」のみではなく、一定の投資促進も政策目標に含めた税制に改組されたと理解すべきである。 これに伴い適用要件が抜本的に見直され、一定の賃上げ及び設備投資を行った企業に対して税額控除の適用を認めることとされた。ただし一律に適用要件を定めてしまうと中小零細企業に与える影響が大きいと考えられることから、設備投資の要件は大企業についてのみ求めることとし、賃上げに係る要件についても中小企業と大企業で異なる水準を設定している。 控除税額の計算についても、改正前の制度では「基準年度」からの増加額及び「前年度」からの増加額(上乗せ)を基礎として計算していたが、基準年度が既に5年以上前のものであり直近の賃上げの実態と乖離していることから、基準年度を廃止し、前年度からの増加額を基礎として計算する方法に改められた。 なお人材投資については適用要件に含めるのではなく、一定の人材投資を達成した企業に対して上乗せ控除を認めるという制度となっている。 (了)
〔Q&A・取扱通達からみた〕 適格請求書等保存方式(インボイス方式)の実務 【第1回】 「適格請求書発行事業者の登録制度」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 適格請求書発行事業者の登録については、課税事業者に限られるのであるが、免税事業者であっても、以下のような場合には申請を行うことができる。 免税事業者が課税事業者となる課税期間の初日から登録を受けようとするときは、原則として、当該課税期間の初日の前日から起算して1月前の日までに登録申請書を提出しなければならない。 免税事業者が登録を受けるためには、原則として、消費税課税事業者選択届出書を提出し、課税事業者となる必要があるが、登録日が平成35年10月1日の属する課税期間中である場合は、課税選択届出書を提出しなくても、登録を受けることができる。 この場合においては、登録を受けた日から課税事業者となることから以下のようになる。 適格請求書発行事業者の登録は、適格請求書発行事業者登録簿に登載された日(以下「登録日」という)からその効力を有するのであるから、登録等の通知による通知を受けた日にかかわらず、適格請求書発行事業者は、登録日以後に行った課税資産の譲渡等について適格請求書を交付することとなることなる。 ただし、登録日から登録の通知を受けた日までの間に行った課税資産の譲渡等について、既に請求書等の書類を交付している場合には、当該通知を受けた日以後に登録番号等を相手方に書面等(既に交付した書類との相互の関連が明確であり、当該書面等の交付を受ける事業者が同項各号に掲げる事項を適正に認識できるものに限る)で通知することにより、これらの書類等を合わせて適格請求書の記載事項を満たすことができる。 免税事業者である新設法人の場合、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、消費税課税選択届出書を提出すれば、その事業を開始した日の属する課税期間の初日から課税事業者となることができる。 この場合において、新設法人が、事業を開始した日の属する課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した登録申請書を、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに提出した場合において、税務署長により適格請求書発行事業者登録簿への登載が行われたときは、その課税期間の初日に登録を受けたものとみなされる。 適格請求書発行事業者は、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「登録取消届出書」という)を提出することにより、適格請求書発行事業者の登録の効力を失わせることができる。 なお、この場合、原則として、登録取消届出書の提出があった日の属する課税期間の翌課税期間の初日に登録の効力が失われることとなるが、登録取消届出書を、その提出のあった日の属する課税期間の末日から起算して30日前の日から、その課税期間の末日までの間に提出した場合は、その提出があった日の属する課税期間の翌々課税期間の初日に登録の効力が失われることとなるので注意が必要である。 適格請求書発行事業者は、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合でも免税事業者とはならない。 登録番号の構成は、以下のとおりである。 (了)
〔平成30年度税制改正対応〕 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例制度 (事業承継税制の特例措置) 【第4回】 「相続税の納税猶予制度の特例(その1)」 太陽グラントソントン税理士法人 パートナー 税理士 日野 有裕 パートナー 税理士 梶本 岳 今回から2回にわたり、非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除(措法70の7の6)について解説していく。 相続税の納税猶予及び免除の特例を受けるにあたっての手続きは、以下のとおりである。 ① 特例承継計画の提出・確認 ↓ ② 相続開始・円滑化法の認定 ↓ ③ 相続税の申告 ↓ ④ 事業の継続(相続後5年間) ↓ ⑤ 株式の継続保有(5年経過後) ↓ ⑥ 納税猶予の免除(後継者の死亡・事業継続が困難な場合等) 1 特例承継計画の提出・確認 相続税の納税猶予において特例措置の適用を受けるためには、まず「施行規則第17条第2項の規定による確認申請書(特例承継計画)」【様式第21】を平成35年3月31日までに都道府県知事に提出する必要がある(円滑化規則17①一)。また、平成35年3月31日までの相続については、相続後に2(2)の認定申請書と特例承継計画を併せて提出することも可能とされている。 特例承継計画の記載事項については相続・贈与共通であるため、贈与税の納税猶予に関する【第2回】の解説を参照されたい。 2 非上場株式等の相続・円滑化法の認定 (1) 非上場株式等の相続 ① 特例認定承継会社 特例措置の対象となる特例認定承継会社とは、円滑化法の認定を受けた会社で、以下の(a)~(f)のすべてを満たすものをいう(措法70の7の6②一)。 一般措置の対象となる認定承継会社の要件についても同様である。 上記(f)に掲げた「円滑な事業の運営を確保するために必要とされる要件」は以下のとおり(措令40の8の6⑨)。 (※) 特定特別関係会社とは、次の(ア)、(イ)、(ウ)が所有する議決権の合計が総議決権数の50%を超える会社をいう(措令40の8⑧)。 また、納税猶予の対象となる非上場株式等は、一般措置においては議決権総数の2/3まで(措法70の7の2①)であったが、特例措置においてはその上限が撤廃されている。 ② 特例被相続人の要件 今回の特例措置創設により、先代経営者以外からの非上場株式等の相続又は遺贈(以下「相続等」という)においても納税猶予の適用を受けることができるようになったが、先代経営者以外の者が特例被相続人となるためには、相続の開始の直前において以下のいずれかに該当する者が存在することが必要とされており(措令40の8の6①二)、代表権を有していたことのない代表者の配偶者等が最初の特例被相続人にはなれないことが規定されている。 (※) 特例被相続人については、一般措置においても複数名からの相続等を可能とする改正が行われており、特例措置と同じ要件が追加されている(措令40の8の2①)。 上記の要件が満たされない状況、つまり、初めて相続において特例措置を適用する際には、代表権を有していた個人で以下の(a)~(c)のすべてを満たす者が特例被相続人となる(措令40の8の6①一)。したがって、最初の特例措置は先代経営者からの贈与・相続でなければならない。 ③ 特例経営承継期間 特例措置が認められる期間は、先代経営者からの相続等については、平成39年12月31日までである。そして、先代経営者以外からの相続等については、先代経営者の相続の開始の日から特例経営承継期間の末日までの間に相続税の申告期限が到来する相続等に限るとされている(措法70の7の6①)。 「特例経営承継期間」とは、最初に特例措置の適用を受ける相続税の申告書の提出期限の翌日から次のいずれか早い日までの期間をいう(措法70の7の6②六)。 例えば、平成38年10月30日に特例措置の適用を受ける最初の相続があった場合、先代経営者以外からの特例措置を受けることができる期限は以下の通りとなる(特例経営承継期間は5年と仮定)。 つまり、特例経営承継相続人等(後継者)の死亡がない場合は、特例措置の適用を受ける最初の相続(特例贈与がある場合は最初の贈与)に係る申告期限の翌日から5年間が特例経営承継期間となるため、上記のように先代経営者以外から特例措置により相続を受けられる期間が、平成39年12月31日を超えることがある。 一方、平成33年10月30日に特例措置の適用を受ける最初の相続が行われた場合、先代経営者以外からの相続の期限は平成38年の10月30日となり、平成39年12月末よりも早く期限が到来するので注意が必要だ。 贈与者と受贈者双方で時期を決めることが可能な贈与とは異なり、相続開始の日をコントロールすることは困難であるため、先代経営者以外からの特例措置による承継が必要となる場合には、贈与税の納税猶予を選択することが望ましい。 ④ 特例経営承継相続人等 特例被相続人から相続又は遺贈により特例認定承継会社の非上場株式等を取得した個人で、次に掲げるすべての要件を満たす必要がある(措法70の7の6②七)。 上記(f)に掲げた「経営を確実に承継すると認められる要件」とは、次に掲げる要件とする(措規23の12の3⑨)。 今回の改正により、最大3名まで特例措置の適用を受けることが可能となったが、複数名への相続は議決権が分散することから、実務上それほどの利用は見込まれないと予想される。 (2) 円滑化法の認定 相続又は遺贈により特例認定承継会社の非上場株式等を取得した場合には、その相続の開始の日の翌日から8月を経過する日までに特例認定承継会社の主たる事務所の所在地の都道府県知事に認定申請書を提出し、認定(円滑化法12①)を受けなければならない(円滑化規則7⑦⑨)。 その申請書は2種類あり、①先代経営者から後継者への相続については「第一種特例相続認定中小企業者に係る認定申請書」【様式第8の3】(円滑化規則7⑦)、②先代経営者以外の株主から後継者への贈与については「第二種特例相続認定中小企業者に係る認定申請書」【様式第8の4】(円滑化規則7⑨)に必要事項を記載して申請することになる。 申請書等の様式等については、中小企業庁WEBサイトを参照されたい。 * * * 次回も引き続き本特例制度について、相続税の申告以後の制度を解説する。 (了)
平成30年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第2回】 「『所得拡大促進税制』の改組(その2:中小企業向け)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 2 所得拡大促進税制(中小企業者向け) 単体納税では、中小企業者(適用除外事業者を除く)に該当する場合に、前回解説した大企業向けの制度を適用する代わりに、中小企業者の所得拡大促進税制を適用することが可能となる(措法42の12の5②)。 ここで、「中小企業者」とは、資本金1億円以下の法人のうち、次に掲げる法人以外の法人をいう(措法42の4③⑧六・六の二、42の12の5②、措令27の4⑫)。 また、適用除外事業者とは、平成31年4月1日以後に開始する事業年度において、当事業年度開始日前3年以内に終了した各事業年度の所得の金額の年平均額が15億円を超える法人をいう(措法42の4③⑧六の二)。 一方、連結納税では、連結親法人が中小連結親法人に該当する場合に、大企業向けの制度を適用する代わりに、連結グループ全体で中小企業者の所得拡大促進税制を適用することが可能となる(措法68の15の6②)。 ここで、「中小連結親法人」とは、中小連結法人で適用除外事業者に該当しないもののうち、連結親法人であるものをいう(措法68の15の6②)。 中小連結法人とは、連結親法人が資本金1億円以下の法人(次に掲げる法人を除く)に該当する場合のその連結親法人又はその連結子法人(資本金1億円以下のものに限る)をいう(措法68の9⑧五、措令39の39⑪)。 また、適用除外事業者とは、平成31年4月1日以後に開始する連結事業年度において、当連結事業年度開始日前3年以内に終了した各連結事業年度の連結所得の金額の年平均額が15億円を超える連結親法人及び連結子法人をいう(措法68の9⑧五の二)。 中小企業者の所得拡大促進税制は次のとおりである。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第45回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (5) 組織再編税制の手引 ① 概要 平成22年1月に国税庁調査課により「組織再編税制の手引」が作成され、平成26年4月以降は、情報公開法第9条第1項による開示情報として、TAINSにて閲覧することが可能になった。副題として「審理・調査のポイント」と記載されているため、税務調査の手引きとして各国税局に配布された資料であることが分かる。 残念ながら、本稿校了段階では、グループ法人税制導入後のものを閲覧することはできないが(そもそも存在するのかも不明であるが)、現行法でも参考にすることができるポイントがいくつか見受けられる。本稿では、税務調査対策に焦点を当てたうえで、「組織再編税制の手引」について解説を行う。 まず、組織再編税制の手引は、Ⅰ.共通編、Ⅱ.合併編、Ⅲ.分割編、Ⅳ.現物出資編、Ⅴ.事後設立編、Ⅵ.株式交換編、Ⅶ.株式移転編、Ⅷ.申告調整編、Ⅸ.付録に分かれている。 このうち、Ⅰ.共通編で記載されている内容は市販の書籍で確認できるものがほとんどであり、Ⅸ.付録はキーワード索引に過ぎないため、本稿では、Ⅱ.合併編からⅧ.申告調整編のみを対象とする。 ② 合併編 (ⅰ) 税制適格要件の判定 ここでは、Ⅱ.合併編で記載されている内容のうち、実務上、間違いやすいと思われるものについて解説を行うこととする。 まず、「組織再編税制の手引」は、確定申告書に添付する「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」で入手できる情報から税制適格要件の判定を行うことを強く意識した内容となっている。そのため、同手引27頁では、 と記載されている。 そして、合併契約書では、合併の対価として交付された資産が明記されることから、同手引31頁では、 と記載されている。 さらに、完全支配関係継続要件、支配関係継続要件、事業継続要件及び株式継続保有要件が、合併時の見込みで判断することから、「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」からだけでは、これらの継続要件の判定を行うことができないため、同手引34、36、45、51頁では、合併を意思決定した際に作成した資料等で確認する必要があることが明らかにされている。 このように、「組織再編税制の手引」では、確定申告書に添付する「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」の記載内容についての事実確認を行ったうえで、記載されていることだけでは判断できない内容については、別途確認を行うという手順を採用していることから、「組織再編成に係る主要な事項の明細書」「合併契約書」が税務調査の初期段階において重要な資料になるという点に留意した上で、確定申告書を作成する必要がある。 (ⅱ) 個別資産及び負債の引継ぎ 「組織再編税制の手引」58-61頁では、「合併法人が有する抱合株式の帳簿価額を消却損として損金の額に算入していないか。」という点について解説されている。 これは、会計上、子会社と合併を行った場合には、被合併法人から受け入れた資産及び負債の簿価純資産価額と合併法人が保有していた被合併法人株式の帳簿価額との差額は特別損益として計上する必要があるものの、法人税法上は、被合併法人の資産、負債、資本金等の額及び利益積立金額を簿価で引き継いだ上で、抱き合わせ株式を資本金等の額のマイナスとして処理することから、法人税法上、当該特別損益が損金又は益金の額に算入される余地がないからである。 具体的な会計及び法人税法上の仕訳は以下の通りである。 【会計上の仕訳】 【法人税法上の仕訳】 (イ) 資産及び負債の引き継ぎ (ロ) 抱き合わせ株式の消却 そして、同手引63-64頁では、適格合併に係る被合併法人の最後事業年度以前の各事業年度分の調査により税務上の否認金の額があることが判明した場合、合併法人において利益積立金額の調整が適正に行われているかどうかを確認すべき旨が記載されている。これは、会計上も法人税法上も簿価で資産及び負債を引き継ぐとしても、会計上の簿価と法人税法上の簿価が異なることがあり得るため、その差異を調整したうえで合併法人に引き継ぐべきだからである。このほか、同手引81-85頁では、棚卸資産、減価償却資産及び繰延資産について指摘されている。 (ⅲ) 繰越欠損金の引継ぎ 適格合併を行った場合には、被合併法人の繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことができるが、その帰属事業年度は、繰越欠損金が発生した被合併法人の事業年度開始の日の属する合併法人の事業年度である。ただし、合併法人の合併事業年度開始の日以後に開始した被合併法人の事業年度において生じた繰越欠損金については、合併法人の合併事業年度の前事業年度において生じた繰越欠損金とみなされる。 「組織再編税制の手引」65-67頁では、「適格合併に係る合併法人が被合併法人から引継ぎを受けた未処理欠損金額の帰属事業年度は適正か」という点が記載されていることから、税務調査において、帰属事業年度が適正かどうかの確認が行われる可能性が高いと思われる。 (ⅳ) 資産調整勘定の計上 「組織再編税制の手引」86-88頁では、資産調整勘定及び負債調整勘定の計上について解説されている。特に、同手引88頁では、 と解説されている。これは、その差額の中に、寄附金や資産等超過差額が含まれている場合には、これらの金額については、資産調整勘定として処理することができないからである。 * * * 次回では、「組織再編税制の手引」に記載されている分割編以降の内容について解説を行う予定である。 (了)