連結会計を学ぶ 【第22回】 「持分法の意義」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 持分法に関する会計処理等は、「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)及び「持分法会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第9号。以下「持分法実務指針」という)において規定されている。そのほか、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)も公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 持分法の意義 1 持分法の適用範囲 非連結子会社及び関連会社に対する投資については、原則として持分法を適用する(持分法会計基準6項)。 「関連会社」とは、企業(当該企業が子会社を有する場合には、当該子会社を含む)が、出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業をいう(持分法会計基準5項)。 「子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合」については、持分法会計基準5-2項に規定されており、より詳細には、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号)を参照していただきたい。 また、重要性の原則の適用については、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第52号)を参照していただきたい。 2 基本的な会計処理 「持分法」とは、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法をいう(持分法会計基準4項)。 持分法適用会社の純資産又は資本には、資本連結手続の対象となる子会社の資本と同様、新株予約権は含まれないことに留意する(持分法実務指針2項、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)6項等)。 3 持分法と連結の関係 前回までの本連載では、連結財務諸表の作成に関する会計処理等について解説してきた。 連結は、連結会社の財務諸表を勘定科目ごとに合算することによって企業集団の財務諸表を作成するので、完全連結(ライン・バイ・ライン・コンソリデーション又はフル・ライン・コンソリデーション)といわれる(持分法実務指針2項)。 一方、持分法による処理は、被投資会社の資本及び損益に対する投資会社の持分相当額を、原則として、貸借対照表上は投資有価証券の修正、損益計算書上は「持分法による投資損益」によって連結財務諸表に反映することから、一行連結(ワン・ライン・コンソリデーション)といわれる。 連結と持分法による処理との間には、連結財務諸表における連結対象科目が全科目か一科目かという違いはあるが、その親会社株主に帰属する当期純利益及び純資産に与える影響は、持分法実務指針2-2項に記載する事項を除いて、同一である。 4 持分法と連結の会計処理の相違 持分法と連結の会計処理の相違として、次のことが規定されている(持分法実務指針2-2項)。 (了)
改正法案からみた 民法(相続法制)のポイント 【第5回】 「遺言制度の見直し」 弁護士 阪本 敬幸 前回は遺産分割等の見直しに関する改正事項を取り上げたが、今回は、遺言制度の見直しについて解説する。 [1] 自筆証書遺言の方式の緩和(法案968条) 現行法上、自筆証書遺言は全文自書が要求されている。しかし財産目録については全文自書とすることは煩雑である上、対象の特定という形式的な事項であることから、自書でなくてもよいこととされた。 ただし、目録の全頁について、遺言者の署名・押印が必要である(法案968条2項)。また財産目録の加除訂正については、現行法同様に、遺言者が自筆で訂正したことを付記した上、署名・押印が必要である(法案968条3項)。 [2] 遺贈義務者の担保責任(法案998条) 債権法改正により、売買等有償契約の担保責任について法定責任説の考え方が否定されて契約責任説的な規定が置かれることとなった。すなわち、特定物・不特定物を問わず、売主には、当事者の意思すなわち契約内容に適合する物を引き渡す義務があり、契約内容に適合しない物であった場合には、買主は売主に対し追完請求等をすることができることとされた(債権法改正により平成32年4月1日に施行される民法(以下、「改正民法」という)条文562条・563条・565条等)。 無償契約である贈与においても、贈与者の契約責任が明確にされることとなった。すなわち現行法上は、贈与者は原則として担保責任を負わないとされているが(民法551条)、改正民法においては、贈与者に契約責任があることを前提とした上で、贈与者は目的物を贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定されることとされた(改正民法条文551条)。 こうした改正民法の規定を遺贈の場合に引き直して考えると、通常、遺言者の意思としては、遺贈義務者に遺贈目的物を相続開始時の状態で引き渡しをさせようとするものと推定することができる。そこで、現行法上の遺贈義務者の担保責任の規定を削除し、遺贈義務者に遺贈目的物を相続開始時の状態で引き渡す義務を負わせ、遺言者が遺言でこれと異なる意思を表示していた場合にはその意思に従うとされた(法案998条)。 また現行法上は、第三者の権利の目的である財産の遺贈について、受遺者は遺贈義務者に対し、第三者の権利の消滅を請求できないとされている(民法1000条)。しかし、第三者の権利を消滅させるべきか否かについても遺言者の意思により決するべきものであるから、上記法案998条の定めがあれば足り、民法1000条は削除されることとなった。 [3] 遺言執行者の権限の明確化等(法案1007条以下) 1 趣旨 現行法上、遺言執行者の法的地位や権限については不明確な部分も多い。また、遺言執行者がある場合の第三者保護が薄いことから、第三者保護の必要性も指摘されていた。 こうした観点から、遺言執行者の権限や第三者との関係等に関する改正がなされた。 2 内容 (1) 法的地位・一般的権限等 (ア) 遺言執行者の法的地位 現行法上、遺言執行者の法的地位について「相続人の代理人とみなす」という規定(民法1015条)がある。しかし 遺言執行者は、遺言すなわち遺言者の意思を実現することを職務とする者であるから、本来は遺言者の代理人的立場にあり、必ずしも相続人の利益のために職務を行う地位にあるわけではなく、相続人の意思に反して行動することもあり得る。 このような考えに基づき、民法1015条は削除され、「遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる」として、遺言執行者の行為の効果が規定されることとなった(法案1015条)。 (イ) 遺言執行者の権限 また現行法上、遺言執行者の一般的な権限として「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とされているが(民法1012条)、判例上、遺言執行者には必ずしも包括的な権限があるわけではなく、遺言内容の実現の範囲で権限が与えられているとされている。このように遺言内容により遺言執行者の権限の範囲も変動するため、「遺言の内容を実現するため」に権利義務を有するということが明記された(法案1012条)。 法案1012条は、遺言執行者は遺言内容を実現するために行動する者であり、必ずしも相続人のために行動するわけではないという前記遺言執行者の法的地位を明らかにする意味も持つ。 (ウ) 相続人への通知義務 他に、遺言執行者が任務開始した場合の相続人への遺言内容の通知義務が規定された(法案1007条2項)。 (2) 特定財産に関する遺言の執行に関する権限 (ア) 特定財産に関する遺言の執行 後日解説することとするが、遺産分割によるものか否かに関わらず、相続に際して法定相続分を超える権利承継があった場合は、法定相続分を超える部分については、対抗要件を具備しなければ第三者に対抗できないとされることとなった(法案899条の2第1項)。 現行法上は、特定の財産を相続人に承継させる遺言(相続させる旨の遺言)により権利を承継した場合には、対抗要件なくして第三者に権利を対抗できるとされている(最判平成14年6月10日)ことを修正するものである。 この改正により、相続人にとって、相続により承継した権利の対抗要件を具備することは重要なものとなる。 そこで、この点を明確にすべく、遺言執行者は対抗要件具備のために必要な行為をすることができるとする規定が置かれることとなった(法案1014条2項)。 (イ) 特定財産が預貯金債権であるとき 特定の財産を相続人に承継させる遺言の対象財産が預貯金債権である場合、遺言執行者としては、相続人に預貯金債権の対抗要件を取得させ、預貯金債権を行使させる(預貯金の名義を相続人に変える)ということも考えられる。 しかし、実務上、相続財産である預貯金の名義変更をするということはほとんどなく、預貯金を解約又は払戻しをすることが通常であり、遺言者の通常の意思にも合致する。 そこで、預貯金債権を相続させる旨の遺言がある場合には、遺言執行者に預貯金債権の払戻し・解約を行う権限を与える旨が定められることとなった(法案1014条3項)。 ただし、解約については、相続させようとする預貯金債権の全部を目的とする遺言がある場合に限られる(法案1014条3項但書)。 (ウ) 被相続人が遺言で別の意思表示をしたとき 当然ではあるが、被相続人が遺言で別の意思表示をしていれば、遺言執行者としては遺言に従わねばならない(法案1014条4項)。 (3) 遺言執行者の復任権 現行法上、遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ第三者に任務を行わせることができないとされている(民法1016条1項)。しかし、法的知識のない相続人が遺言執行者となることも多いことから、復任のための要件を緩和することが提案されていた。 そこで、遺言執行者は相続人の法定代理人であると解されていることを考慮し、他の法定代理人の復任権(民法106条、改正民法105条)同様、「自己の責任で」第三者に任務を行わせることができるとされ(法案1016条1項)、やむを得ない事由があって復任する際には、遺言執行者の責任は選任及び監督に限定すると定められた(法案1016条2項)。 (4) 第三者保護 現行民法1013条及び判例により、遺言執行者がある場合、相続人の遺言執行妨害行為は絶対無効とされている。しかし、この「遺言執行妨害行為は絶対無効」を貫くと、遺言執行妨害行為に基づき利害関係を有することとなった第三者は、遺言内容や遺言執行者の存在を知らなかったとしても、不測の損害を被ることとなる。 そこで、遺言執行妨害行為は原則として無効であるとしつつ、善意の第三者には対抗できないことが定められた(法案1013条2項)。 また、遺言執行者がいたとしても、相続人の債権者が権利行使できることも定められた(法案1013条3項)。 [4] 自筆証書遺言の保管制度の創設(法務局における遺言書の保管等に関する法律案) 1 趣旨 自筆証書遺言には、作成後の紛失の恐れ、相続人による隠匿・変造の恐れ、相続人が遺言の存在を知らないまま遺産分割がなされる恐れ、遺言の真正をめぐる紛争の恐れなど、公正証書遺言に比べ、問題が生じる恐れが高い。こうした問題を防止すべく、中立な第三者が自筆証書遺言を保管する制度の創設が提案されていた。 これを受けて、今回の改正相続法案と同時に、法務局で自筆証書遺言の保管を取り扱うこととする「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」が国会で成立した。 2 内容 「法務局における遺言書の保管等に関する法律案」の概要は、以下の通りである。 ◆遺言書保管官(法務局職員)が、遺言者の申請に基づいて遺言書(自筆証書遺言に限る)を保管する。 ◆遺言書保管を申請する場合は、本人が出頭して行わねばならず、本人確認資料も必要。 ◆遺言者は、いつでも、保管されている遺言書の閲覧・保管申請の撤回を申請できる。 ◆遺言書保管官は、遺言書を保管するほか、電子記録(遺言書保管ファイル)として遺言書の画像情報を保管する。 ◆相続人・受遺者・遺言執行者など一定の者(法案では、「関係相続人等」と呼んでいる)は、遺言者の死後、遺言書保管ファイルに記録された事項の証明書(遺言書情報証明書)の交付を受け、あるいは遺言書原本の閲覧を求めることができる。遺言書の写し(遺言書保管ファイルとして記録された画像)は証明書により交付されるが、遺言書原本の交付はされないので、遺言書原本は法務局で保管され続けることとなる。 ◆誰でも、自分が「関係相続人等」となるような遺言書が保管されていないか、遺言書保管官に請求して確認の証明書(遺言書保管事実証明書)を交付してもらうことができる。 ◆遺言書保管書が保管している遺言書については、検認の手続きは不要。 法務局における遺言書の保管等に関する法律案の詳細は、法務省ホームページから確認されたい。 (了)
税理士のための 〈リスクを回避する〉 顧問契約・委託契約Q&A 【第11回】 「他の専門家の成果物を前提として業務を行う場合」 弁護士・税理士 米倉 裕樹 弁護士・ 関西大学法科大学院教授 元氏 成保 弁護士・税理士 橋森 正樹 Q Aは税理士Yに対し、父親(既に死亡している)の養親であるBの相続税の申告の相談をした。その際、YはAの要望により、Bの遺産である不動産の相続登記申請手続に必要な事項全般について依頼することを前提に、Aに対して司法書士Zを紹介した。結局、Aはその紹介に基づいて、Yを介して、Zに対して同不動産の相続登記申請手続に必要な事項全般を依頼することとなった。 Aは、自らが収集した戸籍謄本などの関係書類をZに手渡し、相続関係図の作成を依頼し、Zはその依頼に基づいて相続関係図を作成した。しかしその際、実は、Aは父親(既に死亡)とBとの養子縁組前に出生しているので、民法887条2項但書に基づき、父親を代襲して相続人となることはできず、Bの相続人は、Bの実子であるXのみだったのだが、Zは誤ってXとAの2名が相続人であるとする相続関係図を作成し、それをYに交付した。 その誤った相続関係図を前提に、XとAは遺産分割協議を行い、また、これら両名から依頼を受けたYは、期限内に、同遺産分割協議を前提としたXとAの相続税の申告書を作成し、所轄税務署長に提出した。 後日、所轄の税務署による税務調査の際、担当の税務職員により相続関係図に誤りがあることが指摘された。Yは急遽Xのみを相続人とする申告書を作成して修正申告をしたが、Xに対して過少申告加算税と延滞税が賦課されることとなった。 このXに生じた過少申告加算税と延滞税の負担(損害)について、YやZはいかなる責任を負うのか。 A 税理士の業務において、弁護士や司法書士、行政書士といったいわゆる他士業と協同すべき場面は多く、依頼者に対してより良いサービスを提供するために、多くの士業間のネットワークも構築されている。 ところが、そのうちの1人がミスを犯し、結果として依頼者に何らかの損害が生じたときには、たちまち、依頼者との関係では誰がその損害賠償の責任を負うのか、士業同士のいわば内部関係としては最終的に誰がその損害賠償の責任を負担するのか、といった問題が生じてしまう。 上記の事例で、依頼者に生じた損害は、過少申告加算税と延滞税の負担である。相続関係図を作成したのは司法書士であるZであり、その作成段階でのミスが発端となってはいるが、誤った相続税の申告書を提出したのはY自身である。したがって、このような場合に、相続関係図を作成したのはZであるとして、依頼者との関係でYがその責任を完全に免れることはできない。 この質問は、名古屋地裁平成17年12月21日(TAINSコード:Z999‐2046)の事案を題材にしたものであるが、その判示は、「甲(税理士)についても、乙(依頼者)との間の委任契約から相続税申告書作成に当たり相続人を調査・確認すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った債務不履行があ(る)」と述べており、やはりこの税理士の責任を肯定している。 質問の事例においては、税理士が誤った相続関係図を作成した司法書士を依頼者に紹介しており、その点から、税理士としても依頼者に対して何らかの責任を感じるのが通常かもしれない。しかし、上記の裁判例の理屈は、必ずしも税理士が司法書士を紹介した場合に限られるものではなく、依頼者自身が連れてきた司法書士が誤った相続関係図を作成し、それを税理士が鵜呑みにして相続税の申告書を提出した場合であっても、やはり依頼者との関係で税理士が責任を免れるとは考えられない。 また、この事例は、法的に相続人が誰となるかという、比較的簡易な点が問題となっており、税理士としても、さほど時間を要せずに調査・確認をすることができるとも考えられる。しかし、他の専門家の調査結果を前提として申告を行う場面はこのような場合に限られるものではなく、その中には、時間的あるいは内容的に、税理士としては、その第三者の調査結果に全面的に依拠せざるを得ないようなケースもある。 このような場合には、依頼者との間で取り交わす委任契約書において、例えば以下のような条項を設けておくことにより、後のリスクを回避することが考えられる。 次に、質問の事例の場合、依頼者に対して賠償が行われた後、それを税理士と司法書士とでどのように分担するか、という問題がある。この内部的負担割合の問題は、法的には、両者の過失の割合により決せられるべきものであるところ、これには明確な基準があるわけではない。 上記裁判例は、税理士が依頼者に対して訴訟外で和解金を支払うことによって和解をし、その税理士の司法書士に対する求償権が問題となったという事案であるが、判示は、「その内部負担割合は、丙(司法書士)と甲(税理士)との過失の割合によりこれを定めるべきである」としつつ、「しかし、丙の過失(補助者である丁の過失を含む)と甲の過失とを比較してもそのいずれが重いということはできず、その過失の割合は、丙1、甲1と認めるのが相当である」と結論付けている。 税理士と司法書士その他の専門家との間で、あらかじめこのような場合の内部負担の割合を定めておくこともできるので、例えば、事前に以下のような条項を盛り込んだ覚書を取り交わしておくことも考え得る。 このように、複数の専門家が関与する業務については、その責任の所在を、依頼者との関係で、あるいはその専門家同士で、予め可能な限り明確にしておくことが望ましいといえる。なお、本質問に関連しては、本連載【第5回】「監査法人(公認会計士)が関与している関与先における税理士の注意義務」も参照していただきたい。 (了)
〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第4回】 「従業員が取引先情報の入ったスマートフォンを紛失してしまった場合」 弁護士 影島 広泰 -Question- 従業員が、取引先の担当者の氏名と電話番号が保存されたスマートフォンを紛失してしまいました。会社が責任を問われるでしょうか。 -Answer- 起動時のパスワード設定などをしていれば、通常は責任を問われる可能性は低いと考えられます。 スマートフォン(以下「スマホ」という)に個人データを保存して持ち運んでいる場合、通則ガイドラインが定める安全管理措置のうち「物理的安全管理措置」(下記表の⑤)を果たしていたかどうかが問われることになる。 ◆個人情報保護法のガイドラインが定める安全管理措置(概要) (※) ①~④については【第2回】で解説。また、⑤の(1)(2)については【第3回】で解説。 ⑤ 物理的安全管理措置 ガイドラインでは、「物理的安全管理措置」として以下の4つの措置が義務であるとされているが、今回は(3)と(4)について解説する。 (3) 電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止 電子媒体や書類を持ち運ぶ場合、「容易に個人データが判明しない」措置を講じることが義務付けられている。 具体的な手法としては、以下が例示されている。 これらの手法はあくまでも例示であるから、これらを参考に、リスクに応じて「容易に個人データが判明しない」措置を講じればよい。 例えば、『個人データを社内の廊下で持ち運ぶ場合には、封筒に入れたり、バインダーに挟んだりして、外から見えないようにして持ち運びましょう』といったルールを社内で設けることが考えられる。 なお、近時、情報漏えいインシデントとして筆者への相談が多いケースが、スマホの紛失である。 従業員の私物のスマホであっても、取引先の担当者の氏名や電話番号が保存されており、それを業務に使用しているのであれば、会社の事業の用に供している個人情報データベース等ということになるから、会社の安全管理措置義務の対象となる。 そしてスマホは、電話帳という形で個人データを電子媒体に保存して持ち運んでいることになるから、上記の「電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止」の対象になると考えられる。 そこで上記の手法の例示をみると「持ち運ぶ個人データの暗号化、パスワードによる保護等」があげられている。つまりスマホは、データの暗号化やパスワードによる保護を行うことが求められていると解釈することができるのである。 私物のデバイスの管理については、社内できちんとしたルールを定めて運用することが望ましいが、なし崩し的に私物のスマホが業務に使われているような会社では、最低限の対応として、せめて「スマホは起動時のパスワードを設定すること」というルールを社内に徹底しておくとよい(多くのスマホでは内部のデータは暗号化されている)。 そうすれば、万が一スマホを紛失しても、「当社では、通則ガイドラインの物理的安全管理措置の例示に従って、暗号化とパスワードによる保護を行っていました」として、安全管理措置を適切に講じていたということができるのである。 (4) 個人データの削除及び機器、電子媒体等の廃棄 今回の事例とは異なるが、ガイドラインの物理的安全管理措置の(4)は削除・廃棄についての規制であり、「復元不可能な手段で行わなければならない」とされている。 つまり、紙であればシュレッダー、電子媒体であれば物理的な破壊や専用ソフトによる完全消去などが義務付けられていることになる。 (了)
《速報解説》 企業会計審議会、「監査基準の改訂に関する意見書」を公表 ~監査上の主要な検討事項(KAM)記載は原則平成33 年3月決算分から~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成30年7月5日付で(ホームページ掲載日は平成30年7月6日)、企業会計審議会は、「監査基準の改訂に関する意見書」を公表した。これにより、平成30年5月8日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」を記載することなど、財務諸表利用者に対する監査に関する情報提供を充実させるものである。 意見書の公表に際して、公開草案に対する「コメントの概要及びコメントに対する考え方」(以下「コメント対応」という)も公表されているので、改訂監査基準の理解に資するものと思われる。 また、平成30年7月5日に開催された企業会計審議会の「資料3 監査基準の改訂について(公開草案からの修正箇所)」では、公開草案からの修正箇所が示されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「監査上の主要な検討事項」に関する主な改正内容 1 監査上の主要な検討事項 「監査上の主要な検討事項」とは、監査人が当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項をいう。国際監査基準では、KAM(Key Audit Matters)として規定されているものである。 今回の「監査基準」の改訂に際しても、監査報告書における監査意見の位置付けは、従来と変わりはなく、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は監査意見とは明確に区別されるものである。 監査報告書の記載に際しては、「監査上の主要な検討事項」の区分を設け、関連する財務諸表における開示がある場合には当該開示への参照を付した上で、次の事項を記載する。 「監査上の主要な検討事項」のイメージは、企業会計審議会の「資料1「監査報告書の透明化」について」(平成29年10月17、金融庁)の15ページから17ページが参考になる。 「コメント対応」では次のことが記載されている。 2 「監査上の主要な検討事項」と企業による開示との関係 企業に関する情報を開示する責任は経営者にあり、監査人による「監査上の主要な検討事項」の記載は、経営者による開示を代替するものではない(二、1(5))。 監査人が「監査上の主要な検討事項」を記載するに当たり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。 監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待されている。 3 「監査上の主要な検討事項」と公共の利益 監査人は、「監査上の主要な検討事項」の記載により企業又は社会にもたらされる不利益が、当該事項を記載することによりもたらされる公共の利益を上回ると合理的に見込まれない限り、「監査上の主要な検討事項」として記載することが適切である(二、1(5))。 財務諸表利用者に対して、監査の内容に関するより充実した情報が提供されることは、公共の利益に資するものと推定されており、「監査上の主要な検討事項」と決定された事項について監査報告書に記載が行われない場合は極めて限定的であると考えられている。 Ⅲ 監査報告書の記載区分等に関する主な改正内容 監査報告書の記載区分等に関して次の改訂を行う。 「経営者及び監査役等の責任」として、「監査役等には、財務報告プロセスを監視する責任があること」が記載される。 「監査役等の責任」の記載は、監査役等の責任を拡大させるものではなく、経営者による職務の執行を監査するというこれまでも監査役等が担っている役割の一部として、財務報告プロセスを監視する責任があることについて、監査報告書においても明確に記載するものと考えるとのことである(「コメント対応」No.67~69)。 Ⅳ 実施時期等 (了)
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《速報解説》 改正産業競争力強化法、施行は平成30年7月9日に ~株式対価M&Aに係る課税繰延べの特例が開始、 認定経営革新等支援機関は5年ごとの更新制へ~ Profession Journal編集部 既報のとおり先月(6月6日)に施行された生産性向上特別措置法に続き、産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行日が平成30年7月9日となることが、本日(7/6付)の官報号外第147号掲載の産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令において明らかとなった。 産業競争力強化法は日本経済を再生し産業競争力を強化することを目的に平成26年1月から施行され、規制改革や産業の新陳代謝を目的とした施策が行われていたが、改正法(5月23日に公布)では産業構造や国際的な競争条件の著しい変化を受け政府が昨年12月に取りまとめた「新しい経済政策パッケージ」に基づき、新たな施策の追加や見直し等が行われており、産業競争力強化法の他にも中小企業等経営強化法や経営承継円滑化法など関連する複数の法改正が含まれている。 なお今回の施行期日確定に伴い、産業競争力強化法施行規則の他、関係する政令及び府令・省令、告示なども官報同号において公布されている。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 経済産業省ホームページより 今回の改正法において税制に関係するものとしては、特別事業再編を行う法人の株式を対価とする株式等の譲渡に係る所得の計算の特例(措法66の2の2、措令39の10の3)を受けるために必要な「特定事業再編計画」の認定制度に関する規定が織り込まれているほか、中小企業向けの施策として「経営力向上計画」の対象にM&A等による事業承継を伴うものを追加することで登録免許税・不動産取得税の特例(軽減税率)が受けられるよう中小企業等経営強化法の一部改正が行われており、これらの特例措置についても改正法の施行の日である7月9日からスタートすることとなった。 また上述の改正中小企業等経営強化法では、6月には認定機関の数が29,188となりその7割以上を税理士(及び税理士法人)が占める経営革新等支援機関制度について、中小企業の経営課題の複雑化及び認定を受けたものの直近1年間で認定支援業務を行っていない者が約3割存在するとの状況を踏まえ、認定期間に5年の有効期間を設け、期間満了時に改めて業務遂行能力を確認する更新制が導入されるとともに、認定廃止の届出制度等について整備されることとなった。 (※) 既に認定を受けている経営革新等支援機関については、施行日から概ね5年以内に順次認定の有効期限がくるよう経過措置が規定される。 (了)
2018年7月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.275を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.66- 「進む“プラットフォーマー”からの情報入手の議論」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 働き方改革法が成立した。非正規雇用の処遇改善(同一労働・同一賃金)や長時間労働の是正、さらには高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す高度プロフェッショナル制度などがこれから実行に移される。 働き方のもとで兼業・副業、クラウドワーカーが増えてくると、給与所得者と個人事業者の区分があいまいになり、給与所得・事業所得・雑所得などの所得分類も、税負担の公平という観点から問題が生じる。 このことについては、2017年2月掲載の本連載No.49「シェアリングエコノミーと税制」において一度問題提起している。シェアリングエコノミー、ギグエコノミーの発達の下で生じる税や社会保障の問題を真剣に検討すべきだという内容である。 今回は、そのことを踏まえたうえで、デジタル経済の主役ともいうべき「プラットフォーマーの責任」という観点からこの問題をとらえてみたい。 * * * 働き方改革が進んでいくと、不特定多数の人(クラウド)に業務を外部委託(アウトソーシング)するクラウドソーシングという形態のもとで働く人々が増加してくる。副業・兼業の推奨もあり、クラウドワーカーの数は飛躍的に増加しつつある。2017年度にはその規模は1,500億円にも達するという。 一方、彼ら・彼女らには、最低賃金法も適用されず、長時間労働のもと低賃金で働いているケースも多いという。また企業の福利厚生制度や社会保険制度も適用されないことが多く、社会保障・セーフティーネットの観点から多くの問題が指摘され始めている。 彼ら・彼女らのセーフティーネットを考える場合には、まずは彼らの所得実態を把握することが必要となる。これは徴税のためというより、効果的・効率的な社会保障の提供のためである。 こういう問題の中心的な責任を担うのは、仲介の場を提供し手数料を得るプラットフォーマーであろう。プラットフォーマーは、クラウドワーカーへの支払いなどを電子的に記録・保存していることが一般的なので、それをマイナンバーと紐づければ正確な所得(収入)が把握できる。具体的には、一定規模以上のプラットフォーマーに、マイナンバーの付いた支払調書(資料情報)の制度を導入することである。 * * * 17年6月19日に開催された政府税制調査会の海外調査報告書には、「経済活動が多様化する中、適正公平な課税を実現していくためには、税務当局が、法定調書やそれ以外の方法により、必要な情報を収集できるような制度的な対応も必要となってくるのではないか。」と記載されている。 (※) 政府税制調査会資料を元に筆者加工。 実は、このような動きは、OECDのポストBEPSの中でも議論されている。3月に公表された中間報告書(Tax Challenges Arising from Digitalization - interim Report 2018, Chapter7. Special feature - Beyond the international tax rules)では、シェアリングエコノミーとギグエコノミーの発達の下で、オンラインプラットフォーマーが負うべき責任として、所得情報の提供が議論されているのである。 わが国でも年末にかけて議論が具体的になっていくのであろうか。 (了)
組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第44回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第8章》 平成18年から平成21年までの議論) (3) 三社合併における適格判定について 平成21年1月29日に、国税庁文書回答事例として「三社合併における適格判定について」が公表された。 平成17年改正前商法では、2社以上の法人を被合併法人とする吸収合併を行った場合には、全体が適格合併に該当するかどうかで判断すべきとしていたが、会社法施行後は、会社法上、 と解されるようになった(※1)。 (※1) 郡谷大輔ほか『会社法の計算詳解(第2版)』382頁、中央経済社。 そのため、本文書回答事例でも、①3社合併が行われた場合には、個々の合併ごとに税制適格要件の判定を行い、②3社合併が行われた場合において、当該3社合併に係る個々の合併に順序が付されているときは、その順序に従って個々の合併ごとに税制適格要件の判定を行うことが明らかにされた。そして、個々の合併に順序が付されている場合として、第1合併の効力発生を第2合併の実施に係る停止条件とすることにより、第1合併の効力発生がないと第2合併の効力が発生しないような契約内容とする場合が、具体例として挙げられている。 これに対し、新設合併とは、2以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものとされている(会社法2二十八)。そのため、新設合併の場合には、2社間の取引とは考えずに、3社の被合併法人の間の取引と考えるため、全体として、税制適格要件を満たすか否かにより判定を行うことになる。 このような考え方は、会社分割、株式交換及び株式移転を行った場合であっても同様である。 (4) 投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について ① 事業性 平成21年3月19日に、国税庁文書回答事例として「投資法人が共同で事業を営むための合併を行う場合の適格判定について」が公表された。 リーマンショックにより投資法人の合併を進める必要があったためであるが、法人税法施行規則に規定された事業の定義について、 としている。 そのため、これを他の事案に当てはめることができるのか、具体的には、不動産賃貸業においても同様に取り扱うことができるのか、ゴルフ場や温泉旅館のように資産保有会社と事業会社を分けている場合の当該資産保有会社においても同様に取り扱うことができるのかが問題となる。しかし、実際には、固定施設がなかったり、従業者が存在しなかったりする場合であっても、事業関連性要件が認められている事案が少なくない。 この点につき、会社法上、事業とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産であると解されている(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)。そして、平成17年改正前商法の時代では、現行会社法と異なり、事業の全部又は一部の移転に該当しない限り、会社分割を行うことができないと解されていたため(平成17年改正前商法373、374の16)、反復継続的に売上げが計上されているかどうかが意識されていた。 これに対し、法人税法施行規則3条1項1号に規定する事業の定義は、法令上の明確化のために、平成19年度税制改正により導入された規定であると解されている。そのため、平成19年度税制改正前と事業の定義は変わっていないと考えるべきである。そのように解するのであれば、本文書回答事例により、事業の定義が緩やかに解されたのではなく、もともと緩やかに解する余地があったとすべきである。 そのため、会社法上、事業性が否定されないのであれば、法人税法上も事業性を否定すべきではなく、他の業種であっても、投資法人と同様に事業性を緩やかに解することができると考えられる。 ② 従業者引継要件 さらに、本文書回答事例では、従業者引継要件の解釈についても、 としており、柔軟な解釈が公表されている。 ところで、地方税法では、角田晃「都道府県税関係 会社分割における従業者要件の判定 : 不動産取得税の課税・非課税をめぐって (ここが知りたい最新税務Q&A)」税 68巻2号71頁(平成25年)において、従業者引継要件は従業者が存在する場合にのみ要求される要件であり、従業者が存在しない場合には要求されないという解釈が示されている。当時の角田氏は、東京都主税局資産税部固定資産税課不動産取得税係であったことから、地方税法(不動産取得税)では、従業者が存在しない不動産賃貸業であっても、従業者引継要件に抵触しないという見解が有力になった。 これを法人税法にも当てはめることができるのかは賛否両論が考えられる。この点については、不動産取得税が100%グループ内の再編であっても従業者引継要件を満たす必要があるのに対し、法人税法では100%グループ内の再編では従業者引継要件を満たす必要がないことから、実際のニーズがそれほど多くはなく、敢えてチャレンジをする納税者や公式見解の公表を望む納税者が存在しなかったことから、本稿校了段階では、依然として国税庁による公式見解は公表されていない。 * * * 次回では、平成22年1月に作成され、本稿校了段階において、TAINSに収録されている「組織再編税制の手引」について解説を行う予定である。 (※) 平成21年3月31日に関東信越国税局文書回答事例「株式移転後に株式移転完全子法人を合併法人とする適格合併が見込まれている場合の当該株式移転に対する適格判定について」が公表されているが、平成29年度税制改正により無意味な内容となったため、本連載では解説を行わない。 (了)