組織再編税制の歴史的変遷と制度趣旨 【第6回】 公認会計士 佐藤 信祐 (《第1章》 平成13年度税制改正前の議論) (3) 株主の課税 ① 株式の譲渡損益の取扱い 「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」の「第三 株主の課税」では、株式の譲渡損益の取扱いとみなし配当の取扱いが記載されている。このうち、株式の譲渡損益の取扱いは、以下のように記載されている。 【第3回】で解説したように、被合併法人又は分割法人における譲渡損益の計上は「移転資産に対する支配の継続」で考えるのに対し、株主における株式譲渡損益の計上は「投資の継続」で考えることから、両者は異なるものである。すなわち、被合併法人又は分割法人で譲渡損益を計上する場合であっても、金銭などの株式以外の資産の交付を受けていないのであれば、投資が継続していると考え、株式譲渡損益は認識しないことになる。 この点につき、『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』32頁(日本租税研究協会、平成13年)では、株主が投資家であるという前提に立った考え方としたうえで、法人と株主との関係において、株主は投資家であると一律に決めて制度を創るのが実態に合っていないという話が出た場合には、もう一度見直しが必要であることも触れられている。 言い換えると、被合併法人を支配する株主が存在する場合において、合併により、当該株主による支配が清算されるのであれば、合併の対価として金銭などの株式以外の資産が交付されたかどうかを問わず、株式譲渡損益を認識するという考え方も、立法論としては可能であるとは思われる。しかし、そこまで複雑な制度にはしておらず、株主が一般投資家の立場であるという前提で制度を創ったのであれば、金銭などの株式以外の資産が交付されていない限り、株式譲渡損益を認識しないという考え方は、事業分離等に関する会計基準32、37、43項とも整合的である。 ② みなし配当の取扱い 「第三 株主の課税」では、みなし配当の取扱いについて、以下のように記載されている。 『企業組織再編成に係る税制についての講演録集』32頁では、この段階では、まだ一部検討が終わっていないとされているため、ここでは、上記から読み取れる内容のみに限定して検討を行うこととする。 非適格合併又は非適格分割型分割を行った場合には、資産及び負債を合併法人又は分割承継法人に時価で移転し、対価として受け取った合併法人株式又は分割承継法人株式を減資の対価として株主に交付したものとして取り扱うこととしている。すなわち、下図の取扱いを想定したものである。 【非適格合併又は分割型分割における取引図】 このような取扱いは、現行法人税法62条1項からも読み取れる。その結果、被合併法人又は分割法人において譲渡損益を認識するだけでなく、その株主においてみなし配当を認識すべきであるという整理になる。さらに、合併法人又は分割承継法人からすれば、「時価による資産の現物出資」を受けていることから、利益積立金額を増加させる理由が存在せず、すべて資本金等の額として受け入れるということになる。 このように、株式譲渡損益の計算と異なり、被合併法人又は分割法人における譲渡損益の処理、その株主におけるみなし配当の処理、合併法人又は分割承継法人における純資産の部が、それぞれ整合的になっている。さらに、適格合併又は適格分割型分割を行った場合には、「利益積立金額が新設・吸収法人や合併法人に引き継がれることから、先に述べたとおり、配当とみなされる部分は無いものと考える」としている。すなわち、適格合併又は適格分割型分割の段階では、配当課税を行わないが、合併法人又は分割承継法人の株主として、配当課税の対象にできるように、利益積立金額として残されているということも言える。 平成22年度に導入されたグループ法人税制により、100%子会社の清算や自己株式の取得により生じる株式譲渡損益相当額について、資本金等の額の増減として取り扱うことになった(法令8①二十)。この根拠は明確ではないが、利益積立金額として処理することができないから資本金等の額として処理したようにしか思えない。 つまり、企業会計では資本・利益区分の原則が存在し(企業会計原則第一の三)、資本として処理できないものをその他利益剰余金の増減としている。債務超過会社の合併、分割において、資本のマイナスとして処理できないことから、その他利益剰余金のマイナスとしていることが良い例として挙げられるであろう(会社計算規則35②但書、37②但書、45②但書、49②但書)。これに対し、法人税法では、利益積立金額として処理できないものを資本金等の額の増減としていると考えると分かりやすい。 この理由については明示されていないが、株主におけるみなし配当課税を意識したものであると考えられる。 * * * 次回では、「第四 各種引当金の引継ぎ等」以降について解説を行う予定である。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第32回】 「役員賞与引当金」 ~事前確定届出給与に係る役員賞与引当金の繰入額の損金算入が認められないと判断した理由は?~ 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して行われた「役員賞与引当金繰入額の損金算入の否認」に係る法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた国税不服審判所平成23年5月19日裁決(TAINSコード:F0-2-496。以下「本裁決」という)を素材とする。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 4 検討 (1) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社が平成21年1月期の法人税の確定申告に当たり、同年3月31日における法人税法34条1項2号の規定に基づく役員給与(事前確定届出給与)の支給に係る引当金の繰入額として1,200万円を損金の額に算入していることを前提として、当該引当金繰入額は損金の額に算入されないとして行うものである。すると、本件更正処分は、更正処分に係る事実関係として、X社の帳簿書類の記載をそのまま受け入れるものであるから、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当する。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (2) 理由付記の十分性 次のとおり、本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 ア 債務確定基準と引当金 法人税法22条3項2号は、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、「前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額」を掲げている。当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを「当該事業年度の・・・費用」から除外している上記括弧書き部分は、費用の年度帰属(計上時期)を決する役割を有しており、一般に、債務確定基準ないし債務確定主義とよばれている。 企業会計上の引当金は、現時点では財貨又は役務の費消という事実が発生しておらず、あくまで将来的に費用又は損失の発生の可能性が高い場合に計上するものにすぎないし、原因事実の発生といってもどのような事実をその原因と捉えるのかという点について見解が分かれうる。よって、発生の可能性、発生額及び当期の負担に属する金額について、法人による見積りの要素を排除することができないという側面を有する。すると、所得金額の計算の正確性・明確性の担保、課税の公平の確保という観点から、引当金の費用計上を無条件に認めることには不安を覚える。 そこで、法人税法は、債務確定基準を採用するとともに、貸倒引当金(法法52)など別段の定めとしての引当金の規定を設け、この法定された引当金を除き、一般に引当金繰入額を当該事業年度の損金の額に算入することを認めていない。 イ 理由付記の趣旨目的との適合性 上記のとおり、法人税法は、所定の引当金以外の引当金に係る繰入額の損金算入を認めていないところ、本件理由付記には本件更正処分の根拠条文として同法22条3項が明記されておらず、「債務として確定していない」というような文言も使用されていない。 他方、「役員賞与引当金」、「役員賞与引当金繰入額」、更正処分の対象である平成21年1月期の翌事業年度に属する「平成21年3月31日に法人税法第34条第1項第2号の規定に基づく役員給与を支給するに当たり引当金として繰り入れたものである」という本件理由付記の記載振りから、少なくとも、本件更正処分が法人税法上、役員賞与ないし事前確定届出給与に係る引当金繰入額の損金算入は認められないという解釈を前提としていることは容易に読み取ることが可能である。 したがって、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものである。よって、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 * * * 次回は、「代表者の配偶者に対する交際費の支出が代表者の役員給与(賞与)に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例54(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆貸倒損失の計上(法法22③三、法基通9-6-1~3) 法人の有する金銭債権について、次の事実が生じた場合には、その金銭債権の額のうち全部又は一部の金額は、その事実が発生した日の属する事業年度において、貸倒れとして損金算入が認められる。なお、①の法律上の貸倒れについては、その切り捨てられることとなった部分の金額につき損金算入が強制される。 ① 法的手続きにより債権の額が切捨てとなったとき(法律上の貸倒れ) ② 回収不能が明らかになったとき(事実上の貸倒れ) ③ 取引停止後1年以上経過したとき(形式上の貸倒れ) ◆事実上の貸倒れ(法基通9-6-2) 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできない。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第19回】 「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」 〈その2〉 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 前回は「別表10(5) 収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」を採り上げたが、今回は同じ別表のうち、「Ⅱ 特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書」の部分を採り上げる。 Ⅱ 概要 本明細書は、法人が、特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(措置法第65条の3)、特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除(第65条の4)、農地保有の合理化のために農地等を譲渡した場合の所得の特別控除(第65条の5)の規定の適用を受ける場合に記載する。 本制度は、前回説明した収用換地等の場合の5,000万円の特別控除以外にも、法人の有する土地等が特定の事業のために買い取られた場合に認められる所得の特別控除制度である。 そもそも法人が所有する土地等の資産の譲渡益があった場合には、その収益は課税所得となるのが原則である。しかし、特定の公共事業等による買取りの利益までをも課税対象とすると企業は代替資産の取得が困難となり、事業継続に支障をきたす恐れが生じてしまう。 そこで公共事業等の施行を円滑に進めることができるように、一定の要件のもと譲渡益について以下のような特別控除の制度が設けられたのである。 なお本明細書では、上記の場合の他、特定の長期所有土地等の所得の特別控除(措置法第65条の5の2)の場合にも記載することになる。 この制度は、法人が平成21年1月1日から平成22年12月31日までの期間内に取得をした国内にある土地等について、その取得をした日から引き続き所有し、かつ取得をした日の翌日からその土地等の譲渡をした日の属する年の1月1日までの所有していた期間が5年を超えるものの譲渡をした場合で、一定の要件を満たしている場合には、その譲渡益の額のうち年1,000万円までは、その譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することを認めるものである。 これは対象となる土地等の取得を平成21年と22年の2年間に限定し、集中的な土地取得を促進することで、当時の低迷する市場の土地需要を喚起し、土地の流動化を図るための臨時的な特例措置であることに留意する必要がある。 ▼ 注意!▼ これらの特別控除が同一暦年中に2つ以上適用される場合には、特別控除の合計額は5,000万円が限度とされる。この限度額の計算は、事業年度単位ではなく、あくまで暦年単位で判定することになる。 Ⅲ 「別表10(5)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成29年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 Ⅱ 特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除等に関する明細書 「譲渡経費の額の計算」 「特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」 「特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」 「農地保有の合理化のために農地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」 「特定の長期所有土地等を譲渡した場合の特別控除額の計算」 (了)
平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第11回】 (最終回) 「設備投資減税と金融支援」 アースタックス税理士法人 代表社員 税理士 島添 浩 シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志 本連載ではここまで、設備投資減税(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)に関する規定の概要、手続き、資産別の選択のポイントについて確認してきた。 最終回となる今回は、この設備投資減税を選択した場合における法的な金融支援について確認する。 中小企業等経営強化法では、経営力向上計画が認定された事業者に対して法的な金融支援を行うことを定めており、政策金融機関の低利融資や民間金融機関の融資につき通常融資とは別枠での融資限度額の設定(利率の軽減を含む)、信用保証、保証債務等の資金調達に関する支援策を行うこととしている。 具体的には、以下のような金融支援が定められている。 なお、これらの金融支援策については、設備投資減税の適用が受けられる中小企業者以外の事業者についても支援される制度が含まれており、適用対象者について注意が必要である。 また、上記以外にも経営力向上計画が認定された事業者であれば、『ものづくり・商業・サービス補助金』という補助金制度の審査において加点されることとなっている。 1 適用対象者 中小企業等経営強化法第2条2項において、経営力向上計画の認定を受けることができる中小企業者等とは、以下の法人をいうのであるが、金融支援策については、各支援策によってその対象者が異なるので注意しなければならない。 また、固定資産税の特例や各設備投資減税(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制、中小企業経営強化税制)の対象となる事業者についても、経営力向上計画の認定を受けることができる事業者とは異なることから確認が必要である。 ◆経営力向上計画の認定を受けられる「中小企業者等」の定義(中小企業等経営強化法第2条第2項) (※) 企業組合、協業組合、事業協同組合、事業協同小組合、商工組合、協同組合連合会、その他政令で定める組合についても、経営力向上計画の認定を受けることができる。 ◆固定資産税の特例が受けられる中小事業者等 ただし、次の法人は、資本金が1億円以下でも対象とならない。 ◆設備投資減税が受けられる中小事業者等 以下の法人のうち青色申告書を提出している法人。 ただし、次の法人は、資本金が1億円以下でも対象とならない。 (注) 資本金が3,000万円超の法人は、税額控除の適用が受けられないなどの制限を受ける場合がある。 ◆各金融支援策と適用対象者 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) その他政令で定める法人の意義 中小企業者以外に医療法人等、社会福祉法人、特定非営利活動法人についても資本金等の総額が10億円以下又は従業員数2,000人以下の要件を満たす場合は、その対象となる。 (※2) 中小企業者の意義 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 日本政策金融公庫による低利融資 経営力向上計画の認定を受けた事業者が行う設備投資に必要な資金については、日本政策金融公庫において低利で融資を受けることができる。 なお、融資の上限等については、①国民生活事業と②中小企業事業に区分され、以下のようになっている。 ① 国民生活事業(小規模事業者や創業企業への事業資金融資など) (イ) 対象者 次のすべてに該当する者。 (ロ) 貸付限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円) (ハ) 貸付金利 設備資金について、基準利率から0.9%引下げ(運転資金は基準金利) (※) 基準利率は1.76%(平成29年6月現在) (ニ) 貸付期間 ・設備資金20年以内(うち据置期間2年以内) ・運転資金7年以内(うち据置期間2年以内) ② 中小企業事業(中小企業・小規模事業者の成長・発展のための事業資金融資) (イ) 対象者 次の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する者。 (ロ) 貸付限度額 直接貸付7億2,000万円(うち運転資金2億5,000万円) (ハ) 貸付金利 設備資金について、基準利率から0.9%引下げ(運転資金は基準金利) (※) 基準利率は1.21%(平成29年6月現在) (ニ) 貸付期間 ・設備資金20年以内(うち据置期間2年以内) ・運転資金7年以内(うち据置期間2年以内) 3 商工中金による低利融資 経営力向上計画を策定している事業者に対し、商工中金の独自の融資制度により、低利で融資を受けることができる。 なお、商工中金における融資制度の種類としては、革新支援のうち『新事業活動促進資金』に該当し、経営革新計画の承認を受けた中小企業者、経営向上計画について商工中金より承認を受けた中小企業者等が、経営革新、経営の向上等のために必要な設備資金、運転資金の融資を受けることとなる。 4 中小企業信用保険法の特例 中小企業者は、経営力向上計画の実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際、信用保証協会による信用保証のうち、普通保険等とは別枠での追加保証や保証枠が拡大される。 なお、この特例規定は、新商品・新サービスなど「自社にとって新しい取組」(新事業活動)を行う場合に限る。 保証限度額等については、以下のとおりである。 5 中小企業投資育成株式会社法の特例 経営力向上計画の認定を受けた場合、通常の投資対象(資本金3億円以下の株式会社)に加えて、資本金額が3億円を超える株式会社(中小企業者)についても、中小企業投資育成株式会社からの投資を受けることが可能となる。 なお、中小企業投資育成株式会社とは、中小企業投資育成株式会社法によって設立された法人で、資本調達力が弱く、また証券市場を通じて資本を調達することのできない中小企業に対し、「自己資本の充実を促進し、その健全な成長発展を図るため、中小企業に対する投資等の事業を行う」ことを目的として、国、地方公共団体、民間(金融機関、証券会社など) の出資で設立されており、具体的な業務としては、資本金3億円以下の株式会社で、政令で指定する業種に属するものの株式や転換社債の引受け及びその保有することを主な業務としており、それ以外にも投資先企業に対し、依頼に応じて経営や技術指導を行っている。 今回の特例規定により、資本金が3億円超の中小企業者であっても経営力向上計画の認定を受けている場合には、投資を行うことができることとなった。 6 日本政策金融公庫によるスタンドバイ・クレジット 経営力向上計画の認定を受けた中小企業者(日本国内に親会社がある内国法人)の海外支店又は海外現地法人(以下「海外現地法人等」)が、日本政策金融公庫の提携する海外金融機関から現地通貨建ての融資を受ける場合に、日本政策金融公庫が信用状(スタンドバイ・クレジット)を発行して、債務の保証を実施できることとなった。 具体的な内容は、以下のとおりである。 ① 対象者 信用状の発行が、海外現地法人等が提携金融機関から現地流通通貨建て融資を受けることを目的としたものであり、かつ、次のいずれかに当てはまる法人であること。 (注) 本制度により資金調達を行う海外現地法人等は、認定事業者が経営を実質的に支配している先で、かつ、上記の計画において認定事業者と共同で事業を行うこととされている法人に限る。 ② 信用状の補償限度額 法人1社あたり4億5,000万円とする。なお、海外支店や工場等、国内親会社と法人格が同一の場合は国内親会社毎に4億5,000万円、海外において別個に法人格をもつ場合は当該法人毎に4億5,000万円が補償限度額となる。 ③ 補償料率 信用リスク・信用状有効期間等に応じて所定の料率が適用される。 ④ 信用状の有効期間 1年以上6年以内 ⑤ 海外の借入条件 融資条件(期間・返済方法・金利等)の詳細については、提携金融機関が決定することとなるが、以下の内容であることが必要となる。 ⑥ 提携金融機関 平安銀行(中国)、インドステイト銀行(インド)、バンクネガラインドネシア(インドネシア)、山口銀行(日本)、KB國民銀行(韓国)、CIMB銀行(マレーシア)、バノルテ銀行(メキシコ)、メトロポリタン銀行(フィリピン)、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(シンガポール)、合作金庫銀行(台湾)、バンコック銀行(タイ)、ベト・イン・バンク(ベトナム) 7 中小企業基盤整備機構による債務保証 中堅クラスの企業等、信用保険法の特例(上記4参照)が措置されていない中小企業者以外の者が、経営力向上計画を実施するために必要な資金について、中小企業基盤整備機構が行う中小企業等経営強化法に基づく債務保証制度(経営力向上促進債務保証制度)により、最大25億円までの債務の保証を受けることができる。 なお、中小企業基盤整備機構とは、中小企業を中心とする事業者への事業活動支援を目的として設立された独立行政法人であり、創業や新規事業展開においての資金援助と助言、人材育成支援、産業用地の提供、債務の保証、共済制度の運営等を行っている。 この債務保証については、資本金10億円以下又は従業員2,000人以下の中堅企業等を対象としており、設備投資減税の適用が受けられる中小企業者は対象外となるので注意が必要である。 具体的な内容は、以下のとおりである。 ① 対象事業者 経営資源を高度に利用する方法を導入して事業活動を行うことにより、経営の向上を図る、経営力向上計画の認定を受けた事業者(中堅企業等に限定) ② 保証限度額 25億円(最大50億円の借入まで) ③ 保証割合 50% ④ 保証率 ・有担保の場合0.3% ・無担保の場合0.4% ⑤ 保証期間 ・設備資金は10年以内 ・運転資金は5年以内 8 食品流通構造改善促進機構による債務保証 食品製造業者等は、経営力向上計画の実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際に信用保証を使えない場合や巨額の資金調達が必要となる場合に、食品流通構造改善機構が行う食品流通構造改善対策債務保証事業による債務の保証を受けることができる。 なお、食品流通構造改善促進機構とは、食品の流通部門の構造改善を促進することを目的として、農林水産省の許可を得て設立された公益財団法人であり、食品の流通構造の改善を図る計画で農林水産大臣の認可を受けたもの(認定計画)に係る構造改善事業に必要な資金の借入れに係る債務保証、事業参加及び受託実施、同事業を実施する方に対する必要な資金のあっせん、食品の流通構造の改善を図るための援助、食品流通に関する調査研究、情報の提供など、食品の流通機構の合理化と流通機能の高度化を図る取組を支援する業務などを行っている。 具体的な内容は、以下のとおりである。 ① 対象者 食品の流通部門の構造改善を促進することを目的として経営力向上計画の認定を受けた食品製造業者等(中小企業等経営強化法第2条第2項に規定する中小企業者等) ② 対象資金 対象事業の実施に必要な設備資金並びに同事業の維持発展に必要な運転資金(試験研究費、試作費、市場調査費等) ③ 保証限度額 1事業者あたり6.5億円以内 ④ 保証期間 ・設備資金は20年以内(据置期間5年以内) ・運転資金は5年以内 ⑤ 債務保証料 保証債務残高の0.8%以内 9 補助金制度の加点 経営力向上計画の認定を受けた事業者は、「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金(2次公募)」において、その審査基準に対して加点されることとなっている。 この募集は2次募集となっていることから新規の募集を受け付けているわけではないが、今後も中小企業庁が実施する補助金制度において、認定事業者に対する優遇制度は検討される可能性があるので留意されたい。 10 金融支援制度の適用を受ける場合の留意点 中小企業等経営強化法における金融支援制度については以上のとおりであるが、設備投資減税の対象者や対象資産と必ずしも一致するわけではなく、以下の点に留意する必要がある。 ① 対象者に注意 金融支援制度においては、適用対象者が各制度において異なるが、設備投資減税の対象となる中小企業者よりも範囲が広く、認定事業者であれば金融支援を受けることができる可能性がある。 ② 対象資産に注意 例えば、建物及び構築物については、前回述べたとおり、設備投資減税(中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制及び中小企業経営強化税制)の対象とはならないが、金融支援制度の適用が受けられることに留意すべきである。 また、金融支援制度については、中小企業経営強化税制における生産性向上設備(A類型)及び収益力強化設備(B類型)の区分に関係なく適用できることから、金融支援制度を受ける前提で資産を取得する場合には、手続きを行う際に注意しなければならない。 なお、建物及び構築物は、地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)の対象資産になっている(【第4回】参照)。 ③ 融資制度を活用するための事前準備 この金融支援制度については、経営力向上計画の認定を受けた事業者であっても各金融機関や団体における審査を別途受けることとなるため、認定事業者であっても金融支援を受けられない可能性があることに注意が必要である。 したがって、金融支援制度を受ける前提で資産を取得する場合には、事前に各金融機関等と検討しなければならない。なお、各金融機関においても経営力向上計画の認定を受けるための指導等を行っていることから、事前確認を有効に活用することが重要となる。 (連載了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第13回】 「相続の時から譲渡の時までの利用制限 (相続後に無償で貸した場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年3月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得しました。 相続の開始の直前まで、父親はその家屋で一人暮らしをしていましたが、相続後、Xは、その家屋を海外勤務から帰国した弟家族に一時的に無償で貸し付けました。 弟家族が新居を購入して転居したことから、その家屋を取り壊して更地にし、本年12月に売却しました。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 相続の時から譲渡の時までの間に、被相続人居住用家屋が貸付けの用に供されていたことから、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋を譲渡する場合(家屋のみの譲渡又は家屋及びその敷地の譲渡の場合)、又は、被相続人居住用家屋の取壊し等の後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合(更地の譲渡の場合)も、相続の時から譲渡の時までの間に、「事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されたことがないこと」が要件の1つとして規定されています(措法35③一イ・二イロ)。 そして、この利用制限の要件に係る判定に当たっては、相続の時から譲渡の時までの間に、それが一時的に利用されていた場合であっても、事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたものとして取り扱われることとなります。また、この貸付けの用には、無償の貸付けも含まれることとなっています(措通35-16(相続の時から譲渡の時までの利用制限))。 したがって、本事例の場合、Xの弟家族への貸付は一時的な無償による貸付けであるものの、上記通達の取扱いにより、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第9回】 「非永住者の所得と社会保険料控除」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私(現在、日本の居住者)甲は乙社(外国法人)の従業員ですが、今年、本国から出向で、日本に派遣されました。日本国内では管理業務に従事し、派遣期間は4年間の予定です。 給料は本国払いと日本払いの両方があります。本国払いの給料については本国にプールして、日本に送金することはありません。他に本国の法人から毎年、配当が支払われますが、これも本国の口座にプールする予定です。 日本での給料については、毎月、いろいろな支払いがなされそうですが、所得税はどの所得について課されるのですか。確定申告は不要ですか。 また、本国で支払われる年金や社会保険料について、日本で確定申告をした場合、控除することができますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷非永住者の所得 「非永住者」は、居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人(所法2①四)で、非永住者の課税所得は、所得税法95条1項(外国税額控除)に規定する国外源泉所得(国外にある有価証券の譲渡により生ずる所得として政令で定めるものを含む)以外の所得及び国外源泉所得で国内において支払われ、又は国外から送金されたものである(所法7①二)。非常に読みにくい条文となっているが、このような条文となった経緯については本連載の【第4回】を参照されたい。 質問のケースでは、甲の所得は「給与所得」と「配当所得」である。非居住者の所得を考える場合は、国内源泉所得(所法161)とそれ以外の所得という観点で所得を分けることになるが、非永住者の所得の場合は国外源泉所得(所法95④)とそれ以外の所得という観点で所得を分けて考えることになる。 給与所得で国外源泉所得となるのは、給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国外において行う勤務その他の人的役務の提供に基因するもの(所法95④十イ)である。甲は出向して日本国内の管理業務に従事することから、甲の給与所得は国外源泉所得以外の所得となる。したがって、その給与所得が外国で支払われ、外国においてプールされたとしても、日本での課税対象となる。 配当所得で国外源泉所得となるのは、外国法人から受ける剰余金の配当(所法95④七イ)である。甲が受けたのは外国法人からの配当なので、国外源泉所得に該当し、国外にプールされていることから課税対象とならない。 よって、甲は国内からの給与の支払いだけでなく、国外において支払われた給与も含めて確定申告をしなければならないが、配当所得を申告する必要はない。 ▷本国で支払った社会保険料の控除 国際間を人が移動する場合に生ずる強制的なコストには、税金だけでなく、社会保険料や年金がある。年金については、社会保障協定を結んでいる国家間の行き来の場合は、一定の滞在期間以下の場合は、滞在国での保険料の支払いを免除したり、将来年金が支払われる段階において、外国で年金を支払った期間を通算して受給額が決まることもある(前回参照)。 それでは、非永住者が外国で支払った年金保険料や社会保険料を日本の所得の計算上、社会保険料控除の1つとして控除することができるかという問題がある 居住者が支払った又は控除される保険料(租税条約の規定により、当該租税条約の相手国等の社会保障制度に対して支払われるもので、我が国の社会保障制度に対して支払われる当該租税条約に規定する強制保険料と同様の方法並びに類似の条件及び制限に従って取り扱うこととされるものに限る)については、社会保険料とみなして、社会保険料控除の規定が適用される(実特法5の2①)。 このような制度ができたのは、フランスとの間の租税条約において次のように定められたことが起因となっている(日仏租税条約18②(a))。 外国で支払った保険料の全額が控除の対象となるのではなく、一定の限度額の範囲内で控除ができることとなる。 ただし、このように外国で支払われた保険料について社会保険料控除が認められる租税条約は、フランス以降、見受けられない。つまり、租税条約を結んでいる国から5年以内の期間派遣されている場合は、原則的には現地での保険料の支払いは免除されることになり、派遣元国のみで支払義務があるが、所得が日本で生じている場合であっても、派遣元国に支払った保険料を考慮して日本での所得税課税を軽減させることは難しいということである。 ▷社会保険料控除のための手続き 上記の社会保険料控除を受けるための手続きとしては、確定申告書に源泉徴収票、保険料の金額を証する書類、派遣元国(現状ではフランスのみ)の社会保障制度に係る権限ある機関のその居住者のその社会保障制度に係る法令の適用を受ける旨の証明書のほかに、「保険料を支払った場合等の課税の特例の届出書 保険料を支払った場合等の課税の特例の還付請求書」を添付しなければならない。 (了)
収益認識会計基準(案)を学ぶ 【第6回】 「収益の認識基準④」 -履行義務の識別- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 【第2回】において、「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「収益認識会計基準(案)」という)における収益認識のためのステップとして、次の5つがあることを解説した。 今回は、ステップ2の「契約における履行義務を識別する」のうち「履行義務の識別」を解説する。 収益認識は、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて行うので、履行義務の識別は重要なステップである(収益認識会計基準(案)14項(5))。 「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「収益認識適用指針(案)」という)では、履行義務の識別に関連する設例が多く作成されているので、実務への適用の際に参考になる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 約束した財又はサービスが別個のものか否か 「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)では、約束した財又はサービスが別個のものか否かの判断に関して、次の事例を取り上げていた(40項)。 1 機械の販売契約と保守サービス契約との複合契約 機械の販売契約と保守サービス契約とを一体で契約するが、機械の販売代金と保守サービス料の内訳が、契約書上、明示されていない。 2 据付けや試運転作業を伴う精密機器の販売 据付けや試運転作業を伴う精密機器の販売において、売手は機器を買手の工場に納入した後、据付けや試運転作業を実施し、買手は要求する性能の達成を確認して最終検収する契約となっている。なお、精密機器の販売、据付け及び試運転作業の対価の内訳が、契約書上、明示されていない。 3 ソフトウェアのライセンス供与に含まれるアップデート・サービスの提供 ソフトウェアのライセンス供与を行う契約には、そのライセンス期間にわたりソフトウェアのアップデートを行う条項を含むケースが見られる。 IFRS 第15号「顧客との契約から生じる収益」では、顧客との契約において提供が約束された財又はサービスを履行義務単位に分割することから、収益認識会計基準(案)では、以下に述べる方法が提案されている。 Ⅲ 履行義務の識別 1 履行義務 「履行義務」とは、顧客との契約において、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束をいう(収益認識会計基準(案)6項)。 なお、契約を履行するための活動は、当該活動により財又はサービスが顧客に移転する場合を除いて、履行義務ではない。例えば、サービスを提供する企業が行う契約管理活動は履行義務ではない(収益認識適用指針(案)4項)。 2 履行義務の識別の要件 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービス(後述の3)を評価し、次の(1)又は(2)のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(収益認識会計基準(案)6項、14項(2)、29項、収益認識適用指針(案)7項)。 顧客との契約は、一般的に、企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスを明示する。 しかしながら、顧客との契約には、契約締結時に、企業が財又はサービスを移転するという顧客の合理的な期待が生じる場合において、取引慣行、公表した方針等により含意されている約束が含まれる可能性があり、顧客との契約において識別される履行義務は、当該契約において明示される財又はサービスに限らない可能性があるので、履行義務の識別の際には、注意が必要である(収益認識会計基準(案)115項)。 3 約束した財又はサービスの例 約束した財又はサービスの例として、次のものがあげられている(収益認識会計基準(案)116項)。 4 履行義務の識別に関する意見 例えば、以下の取引について、履行義務の判断に迷う可能性があるとして議論されていたが、我が国に特有な取引とまではいえず、いずれも審議事項(4)-4の20項に記載の趣旨に当たるほどの重要性はないと考えられ、また、処理の多様性を軽減する可能性はあるものの、我が国のさまざまな業種において多様な取引があり、特定のケースを想定した設例を作成することは困難であると考えられるがどうかと述べられている(第349回企業会計基準委員会(2016年11月18日)の審議事項(4)-4、18項、21項、25項)。 Ⅳ 重要性等に関する代替的な取扱い 1 顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い 収益認識会計基準(案)29項の定めにかかわらず、約束した財又はサービスが、顧客との契約の観点で重要性に乏しい場合には、当該約束が履行義務であるのかについて評価しないことができる(収益認識適用指針(案)92項、146項)。 顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかを判定するにあたっては、当該約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮し、契約全体における当該約束した財又はサービスの相対的な重要性を検討する。 2 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択 収益認識会計基準(案)29項の定めにかかわらず、顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、商品又は製品を移転する約束を履行するための活動(収益認識適用指針(案)4項)として処理し、履行義務として識別しないことができる(収益認識適用指針(案)93項、147項)。 当該方法は、類似する種類の取引に対して首尾一貫して適用する。 Ⅴ 会計システム等への影響 次の影響が考えられる(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」(企業会計基準委員会、平成28年2月4日)47項、48項)。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第38回】 「100%子会社間の無対価会社分割」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、100%子会社間の無対価会社分割を解説する。企業グループとして、経営効率化のために会社分割により子会社間で事業の移転を行うことがある。その際に、対価を交付すると手続の手間が増えるため、会社分割の対価を交付しないで会社分割を行うことがある。このことを「無対価会社分割」という。 100%子会社間の無対価会社分割は、「共通支配下の取引」に該当する(【第18回】参照)。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 分割子会社の個別財務諸表上では、以下の会計処理が必要である(企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、「適用指針」という)」446)。 分割子会社では、移転事業に係る資産及び負債(移転資産・負債に係る繰延税金資産及び繰延税金負債を含む(注))の差額に相当する株主資本の額を変動させる。変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において決定した金額となる。 つまり、分割する資産及び負債の簿価を減少させて、その資産及び負債の差額分を株主資本を相手勘定として変動させる。そして、株主資本のどの項目を変動させるかは、取締役会等で決定する。 (注) 取り崩される繰延税金資産及び繰延税金負債の相手勘定は株主資本となるため、損益(法人税等調整額)への影響はない。 承継子会社の個別財務諸表上では、以下の会計処理が必要である(適用指針203-2(2)②、256、234)。 (注) 具体的には、分割子会社で資本金及び資本剰余金を変動させている場合、承継子会社では「その他資本剰余金」を変動させる。また、分割子会社で利益剰余金を変動させている場合、承継子会社では「その他利益剰余金」を変動させる。 会社分割により、事業(資産及び負債)が移転するため、実質的に株式の価値も移動している。つまり、分割子会社の株式の一部が承継子会社の株式に引き換えられたものとみなすことができる。 そのため、会社分割直前の分割子会社の株式の適正な帳簿価額のうち、引き換えられたものとみなされる額を合理的な按分方法により算定し、承継子会社の株式の帳簿価額に加算する(適用指針203-2(2)②また書き、294、295)。 按分方法は、以下の方法のうち、合理的な方法によって算定する(適用指針295)。 100%子会社間の無対価会社分割により企業グループで会社分割前と後で実態に何ら変わりはない。したがって、基本的に(※)連結財務諸表で必要な修正はない。 (※) 【STEP2】(3)で減損処理をしている場合、連結財務諸表上では減損処理がなかったものとして修正する必要がある。 《設例1》 P社の100%子会社であるX社は、同じく100%子会社であるY社に無対価吸収分割により、A事業を移転した。 X社において変動させる株主資本は、資本剰余金600、利益剰余金900である。 移転する繰延税金資産の回収可能性については、X社及びY社ともに問題ない。 A事業を移転することにより、P社におけるX社株式5,000のうち500がY社に引き換えられたものとする。 親会社P社は連結財務諸表を作成している。 X社のA事業の分割期日前日の貸借対照表は以下のとおりである。 〈会計処理〉 1 分割子会社X社の会計処理 (※1) 帳簿価額 (※2) 取締役会等の意思決定機関で決定した金額 2 承継子会社Y社の会計処理 (※1) X社のA事業の帳簿価額 (※2) X社で変動させた金額を引き継ぐ 3 親会社P社の会計処理 4 連結財務諸表における会計処理 企業結合年度において、共通支配下の取引等に係る重要な取引がある場合には、以下の(1)及び(2)を注記する。 なお、個々の共通支配下の取引等についての重要性は乏しいが、企業結合年度における複数の共通支配下の取引等全体では重要性がある場合には、当該企業結合全体で注記する。また、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準基準」52)。 なお、計算書類では、上記のような注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、5のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《自己株式》編 【第1回】 「自己株式の取得」 公認会計士・税理士 前原 啓二 はじめに 「中小企業会計指針」は、(1)自己株式の取得及び保有、(2)自己株式の処分、(3)自己株式の消却について、言及しています。 会社法により、一定の取得事由を満たせば、A社自身がA社株式を既存のA社株主である例えばb氏から購入することができ、A社自身がA社株式を長期間保有することもできます。 今回は「(1)自己株式の取得及び保有」についてご紹介します。 【設例1】 非上場会社であるA社(3月31日決算)は、×1年7月20日に、A社の既存株主であるb氏から1株80,000円で10株購入しました。 A社は以前に自己株式を取得したことはありません。 A社の×1年3月31日決算の貸借対照表上の純資産は次のとおりです。 資本金40,000千円、資本準備金10,000千円、利益準備金5,000千円、繰越利益剰余金45,000千円、純資産合計100,000千円 A社の発行済株式数は1,000株(普通株式の1種類のみ発行)です。 A社の×1年3月31日現在の資本金等の額は、50,000千円であり、×1年7月20日時点においても同額とします。 自己株式の取得に関する付随費用はないものとします。 b氏が相続したA社株式をA社へ譲渡したケースではありません。 1 仕訳 A社の仕訳は、次のとおりです。 自己株式の取得は、実質的に資本の払戻しとしての性格を有しているため、取得価額をもって純資産の部の株主資本の末尾において控除して表示します(中小企業会計指針70(1))。 【設例1】では、A社がb氏からA社株式(自己株式)を1株80,000円で10株購入したので、自己株式の取得価額は800,000円(=80,000円/株×10株)です。 したがって、この800,000円でもって、自己株式を純資産の部にマイナス計上します。 2 決算書 決算書の金額は、次のとおりです。 〈株主資本等変動計算書 -「自己株式の取得」に係る部分を抜粋〉 3 法人税法の規定における取扱い 非上場会社が有償で自己株式を取得した場合、税務上は原則として、その対価の額のうち①「資本金等の額に対応するとされる部分」と②「利益積立金に対応するとされる部分」に区分し、①前者については資本の払戻し、②後者については配当とみなします。 ① 自己株式取得の対価の額のうち「資本金等の額に対応するとされる部分」は、次の式により算定します(法令23)。 【設例1】の場合、自己株式取得の対価の額800,000円のうち「資本金等の額に対応するとされる部分」を次のとおり算定し、資本金等の額の減少とします。 ② 自己株式取得の対価の額のうち「資本金等の額に対応するとされる部分」を超える部分の金額が「利益積立金に対応するとされる部分」として、みなし配当とされます。 【設例1】の場合、みなし配当は次のように算定します。 この300,000円は、原則として配当とみなされるため、非上場会社からの配当として20.42%の所得税及び復興特別所得税をA社が源泉徴収しなければなりません。 源泉徴収額61,260円(=300,000円×20.42%)を加えた上記1の会計上の仕訳は、下記のとおりです。 4 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 上記3(法人税法の規定における取扱い)によると、自己株式取得についての税務上の仕訳は、次のとおりです。 この税務上の仕訳と上記1の会計上の仕訳を比べると、損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得への調整には影響がありませんが、当期末における利益積立金と資本金等の額は、それぞれ300,000円(みなし配当の額)、500,000円(自己株式取得の対価の額800,000円のうち「資本金等の額に対応するとされる部分」)の減額調整が必要なので、別表五(一)において、次のように記載します。 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 (了)