検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10495 件 / 6341 ~ 6350 件目を表示

《速報解説》 日税連、税理士業務に係るFinTechの影響と対応をまとめた中間報告を公表~金融機関・クラウド会計ソフトベンダーの動向に懸念を示す~

《速報解説》 日税連、税理士業務に係るFinTechの影響と対応をまとめた中間報告を公表 ~金融機関・クラウド会計ソフトベンダーの動向に懸念を示す~   Profession Journal 編集部   2017年7月12日、日本税理士会連合会はホームページ上にFinTechの進展に伴う金融サービスの変革による税理士業務への影響と対応について取りまとめた中間報告を掲載した。   〇 FinTechとは IT分野の技術革新の波は金融にまで波及しており、その代表が「FinTech(フィンテック)」である。FinTechとはFinance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、金融とITの融合による新しいサービスと定義づけられている。 FinTechの領域は幅広いが、中間報告では「クラウド会計」「人工知能」「仮想通貨」といった税理士業務と特に関わりのある分野を取り上げてその影響を解説している。 また、中間報告が公表された背景としては、金融機関がFinTechを用いた過度の営業及び優先的地位を利用した取引先企業の囲い込みを行い、顧問税理士の存在を軽視する動きが進むことを懸念したためだと思われる。   〇 FinTechによる税理士業務への影響 中間報告では次の①~③を主に税理士業務に影響するとして取り上げている。 ① クラウド会計ソフトによる自動仕訳 クラウド会計ソフトにより会計業務が自動化することで企業の経理担当者や会計事務所が行っている手作業が省力化されるため、経理担当者や会計事務所に係る雇用の大幅な削減が見込まれる。ただし、業務の大部分が自動化されたとしても、経理担当者や会計事務所による会計処理に係る入力確認、税理士等による試算表及び決算書の作成時の確認は変わらず必要となる。 ② 人工知能による自動仕訳の精度の向上 人工知能の機能を備えたクラウド会計ソフトの導入により、自動仕訳の精度が上がり、販売管理などの他のアプリケーションと連動することで税理士業務の大幅な減少が見込まれる。なお、人工知能の導入により、判断に係る部分が一定程度代替することが可能ではあるが、高度な判断を求められる場合には当然ながら専門家である税理士の能力が必要となる。 ③ 仮想通貨の普及による新たな課題 「ビットコイン」などで度々メディアに取り上げられており、一般的な認知も高まってきた仮想通貨であるが、いまだ運用のための制度がしっかりと整っていない状況であるため、税務上、課税逃れに利用される可能性もあり、法務・会計・税務上の取扱いには今後多くの課題が出てくるものと思われる。税務面においては、財務省主税局及び国税庁が関心を示しており、今後の動向を注視する必要がある。   〇 金融機関、会計ソフトベンダーの動向と懸念事項 中間報告ではFinTechを要因とした実際の問題事例として、クラウド会計ソフトを提供するベンチャー企業(以下、「クラウドベンダー」という)と金融機関が組んで、中小企業に対して融資の借り換え、クラウド会計ソフトの導入等の営業、さらに税理士の紹介等の提案を行ったことで問題となった事例を取り上げている。 一般的に、融資を受けている企業からすれば、優越的地位にある金融機関からの提案を拒否することは難しい。まして顧問税理士が不在の際に営業・提案を行われたときは、顧問税理士に相談することなく経営者が企業にとって重要な案件を決めてしまうことも考えられる。 その結果、金融機関、会計ソフトベンダーと顧問税理士との間でトラブルに発展する可能性が懸念されている。 〈金融機関による優越的地位を利用した営業(例)〉 (※) 「FinTechへの対応について(中間報告)」より このようなことから、FinTech の進展に伴い、金融機関、会計ソフトベンダーによる顧問税理士の存在を軽視した動きが今後進むのであれば、非常に深刻な問題であるとして日税連は未然防止策を講じることを急務としている。   〇 日税連に求められる対応 以上のような影響、問題に対する日税連・税理士会に求められる対応として、中間報告では次のようにまとめている。 〈日税連・税理士会に求められる対応〉 (※) 「FinTechへの対応について(中間報告)」より *  *  * また、日税連ではFinTechの動向について情報収集を引き続き行い、必要に応じた対応策を検討・実施することで、会員の中小企業支援に係る業務の環境整備を図っていくとのことだ。 (了)

#No. 227(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2017/07/21

《速報解説》 金融庁より「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」が公表~パートナーローテーション制度の有効性を検証、欧州における強制ローテーション制度の動向を注視~

《速報解説》 金融庁より「監査法人のローテーション制度に関する 調査報告(第一次報告)」が公表 ~パートナーローテーション制度の有効性を検証、 欧州における強制ローテーション制度の動向を注視~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年7月20日、金融庁は「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を公表した。 これは、平成28年3月8日に公表された「「会計監査の在り方に関する懇談会」提言-会計監査の信頼性確保のために-」において、監査法人の強制ローテーション制度の導入に関する調査・分析を行うべきとの提言を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 監査法人の強制ローテーション制度 監査法人の強制ローテーション制度とは、企業が監査契約を締結する監査法人((個人の)監査事務所を含む)を一定期間毎に強制的に交代させる制度のことである(調査報告2ページ)。 一方、パートナーローテーション制度とは、業務執行社員(パートナー)が継続的に同じ被監査企業の会計監査に従事できる期間に上限を設け、これを強制的に交代させる制度である(調査報告2ページの注2)。 調査報告は、パートナーローテーション制度導入後も、わが国では不正会計事案が発生し、同制度の導入時に期待された「新たな視点での会計監査」という観点からは、その目的・効果を必ずしも達成していない状況にあるとも言えると述べている。 欧州では、2014年に制定された法定監査規則において監査法人の強制ローテーション制度の導入が決定され、2016年より適用が開始されている(調査報告2ページ)。 調査報告では、監査法人の強制ローテーション制度などに関する欧州の動向や経験について詳細に記載されている。   Ⅲ 調査報告のまとめ 次のことが記載されている。 今後は、欧州における監査法人の強制ローテーション制度導入の効果等を注視するとともに、わが国において、監査法人、企業、機関投資家、関係団体、有識者など会計監査関係者からのヒアリング等の調査を行い、監査法人の強制ローテーション制度の導入に関する論点についての分析・検討を進めていくことが考えられるとのことである(調査報告32ページ)。 (了)

#No. 227(掲載号)
#阿部 光成
2017/07/21

《速報解説》 「収益認識に関する会計基準(案)」及び同適用指針(案)が公表~IFRS15号とは別の「重要性等に関する代替的な取扱い」も示す~

《速報解説》 「収益認識に関する会計基準(案)」及び同適用指針(案)が公表 ~IFRS15号とは別の「重要性等に関する代替的な取扱い」も示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成29年7月20日、企業会計基準委員会は次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、収益認識に関する包括的な会計基準を開発するためのものである。 国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は、共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号、FASBにおいてはTopic 606)を公表しており、IFRS第15号は平成30年(2018年)1月1日以後開始する事業年度から、Topic 606は平成29年(2017年)12月15日より後に開始する事業年度から適用される。 公開草案の公表に際して、次の別紙が公表されているので、公開草案の理解に資すると考えられる。 意見募集期間は平成29年10月20日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 公開草案の主な内容 1 範囲 次の①から⑥を除いて、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用する(収益認識会計基準案3項)。 2 定義 契約、顧客、履行義務、契約資産、契約負債、債権などについて定義されている(収益認識会計基準案4項~12項)。 3 会計処理 基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益の認識を行うことである。 次の5つのステップからなる。 ステップ1 顧客との契約(次の①から⑤の要件のすべてを満たすもの)を識別する。 ステップ2 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する。 ステップ3 取引価格を算定する。 ステップ4 契約における履行義務に取引価格を配分する。 ステップ5 履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する。 次の事項に関する設例も設けられている。 4 特定の状況又は取引における取扱い 次の特定の状況又は取引に適用する指針を定めている。 5 重要性等に関する代替的な取扱い 公開草案は、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、IFRS第15号における取扱いとは別に、次の個別項目に対する重要性の記載等、代替的な取扱いを定めている。 (1) 契約変更(ステップ1) ◆ 重要性が乏しい場合の取扱い (2) 履行義務の識別(ステップ2) ① 顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い ② 出荷及び配送活動に関する会計処理の選択 (3) 一定の期間にわたり充足される履行義務(ステップ5) ① 期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェア ② 船舶による運送サービス (4) 一時点で充足される履行義務(ステップ5) ◆ 出荷基準等の取扱い (5) 履行義務の充足に係る進捗度(ステップ5) ◆ 契約の初期段階における原価回収基準の取扱い (6) 履行義務への取引価格の配分(ステップ4) ◆ 重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用 (7) 契約の結合、履行義務の識別及び独立販売価格に基づく取引価格の配分(ステップ1、2及び4) ① 契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分 ② 工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位   6 認められなくなる日本基準又は日本基準における実務の取扱い 本公開草案によると、主に、次の現行の日本基準又は日本基準における実務の取扱いが認められないこととなる。 7 表示 顧客から対価を受け取る前又は対価を受け取る期限が到来する前に、財又はサービスを顧客に移転した場合は、収益を認識し、契約資産又は債権を貸借対照表に計上する。 契約資産は、金銭債権として取り扱い、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に従って処理する。 財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上する。 企業が履行している場合又は企業が履行する前に顧客が対価を支払う場合には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は債権を適切な科目をもって貸借対照表に表示する(経過措置あり)。 8 注記 顧客との契約から生じる収益については、企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)を注記する。 企業が履行義務を充足する通常の時点とは、例えば、商品又は製品の出荷時、引渡時、サービスの提供に応じて、あるいはサービスの完了時をいう(収益認識会計基準案133項)。   Ⅲ 適用時期等 公開草案では経過措置が定められている(収益認識会計基準案81項~85項)。 (了) ↓お薦め連載記事↓

#No. 227(掲載号)
#阿部 光成
2017/07/21

プロフェッションジャーナル No.227が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年7月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.227を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/07/20

日本の企業税制 【第45回】「「収益認識に関する会計基準」の策定が税務へ与える影響」

日本の企業税制 【第45回】 「「収益認識に関する会計基準」の策定が税務へ与える影響」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   〇「収益認識に関する会計基準(案)」の公表 企業会計基準委員会(ASBJ)は、本稿公開日(7月20日)にも「収益認識に関する会計基準(案)」等を公表する予定と思われる(意見募集期間は3ヶ月)。平成27年3月に収益認識に関する包括的な会計基準の策定に着手して以来、2年を超える検討を経て、まとめられたものである。 この背景には、国際会計基準審議会(IASB)と財務会計基準審議会(FASB)とが共同して、収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い、平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IFRS 15号、Topic 606)が公表され、EU、米国においてほぼ同一の会計基準が2018年1月1日に発効されることがある。 一方、日本においては、これまで、企業会計原則の損益計算書原則に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る」とされているのみであり、包括的な基準が存在していないのが現状である。   〇IFRS15号を全面的に採用 今回の公開草案は、基本的に連結財務諸表と個別財務諸表ともに、IFRS15号の定めをすべて取り入れることとした上で、これまでわが国で行われてきた実務等に配慮すべき項目について、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で、「適用指針(案)」において、重要性等に関する代替的な取扱いを追加的に定めるかたちとなる。 例えば、一時点で充足される履行義務に関しては、履行義務が充足された一時点で収益を認識することとなるが、国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転されるまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時点等に収益を認識することもできることとされている。 この他にも、履行義務の識別に関し、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合の取扱い、一定の期間にわたり充足される履行義務に関し、期間がごく短い工事契約及び受注制作のソフトウェアの取扱いや船舶による運送サービスの取扱いなど、代替的な取扱いは多岐にわたっている。   〇これまでの実務との差異 しかし、新しい会計基準案の基本的な構造は、IFRS15号と同様、5つのステップ(契約の識別、履行義務の識別、取引価格の算定、履行義務への取引価格の配分、収益の認識)に基づき、履行義務の識別、取引価格の配分、支配の移転による収益認識等を採用している。 上記のように一定の代替的な取扱いが認められてはいるものの、主に、次の現行の実務の取扱いは認められないこととなる。 ① 顧客に付与するポイントについての引当金処理 ② 消費税の税込方式による会計処理 ③ 返品調整引当金の計上 ④ 割賦販売における割賦基準に基づく収益計上   〇法人税法における収益の額の計上基準 現行の法人税法では、「各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」(法法22①)とされ、「当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、・・・当該事業年度の収益の額とする」(法法22②)とされている。その制定経緯からすると、「所得の金額」は純資産の増加額であり、「収益」とは純資産の増加の原因となるすべての事実と解される。 一方、「収益」の額を計上する時期はいつかということについては、資産の引渡しの日(物の引渡しを要しない役務の提供の取引については、役務の全部を完了した日)の属する事業年度とされていると解される(例えば、法基通2-1-1、2-1-5)。 なお、収益認識の特例としては、いくつかの規定が存在しており、返品調整引当金(法法53、法令99~102)、長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度(法法63、法令124、125、127)、工事の請負に係る収益及び費用の帰属事業年度(法法64、法令129、130)が規定されている。   〇新会計基準の税務への影響 今回の公開草案には、現行実務に配慮して幅広く代替的な取扱いが認められており、税務上の影響も最小限となるものと見られるが、場合によっては、これまでの税務上の取扱いとの間で齟齬が生じ、税額や納税実務に影響を及ぼす可能性がある。 特に代替的な取扱いが認められないものについては注意が必要である。 例えば、物の販売の場合、履行義務は物の引渡しにより充足されるので、当然、収益は一時点で認識することになるが、代金が長期割賦の場合には、現行の税務上の取扱いと差が生じる。 現行法では、「確定した決算において」払期日の到来した賦払金の合計金額に応じて経理するいわゆる「延払基準」の方法により経理した場合には、収益等の一部を繰り延べることが認められている(法法63)。しかし、公開草案では「延払基準」での経理は難しいことから、法人税の所得計算において収益の一部を繰り延べることができなくなるおそれがある。 また、法人税法上、「損金経理により返品調整引当金勘定」に繰り入れた金額については、損金算入が認められることとされているが(法法53)、公開草案では、返品調整引当金勘定に繰り入れるのではなく、返品が見込まれる部分はそもそも収益を認識しないことになるので、損金算入の要件を満たせないおそれがある。 (了)

#No. 227(掲載号)
#小畑 良晴
2017/07/20

〈平成29年度改正対応〉所得拡大促進税制の実務 【第2回】「雇用形態別の留意点」

〈平成29年度改正対応〉 所得拡大促進税制の実務 【第2回】 「雇用形態別の留意点」   公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎   1 はじめに 所得拡大促進税制の計算基礎となる「雇用者給与等支給増加額」は、「国内雇用者」に対して支払われる給与等(雇用者給与等支給額)に基づき算出される。 一方、本税制の適用要件のひとつを構成する「平均給与等支給額」は、「継続雇用者」に対して支払われる給与等(継続雇用者給与等支給額)に基づき算出される。 用語が類似しているが、「継続雇用者」はあくまでも適用要件の判定にのみ用いられる概念であって、本税制は「国内雇用者」に対する給与等について適用されるという点は間違えないように押さえておきたい。 そこで本稿では、様々な雇用形態が想定される中で、主な雇用形態ごとに について検討し、雇用形態ごとの留意点について整理することとする(なお説明の都合上、60歳定年制を前提とする)。   2 国内雇用者及び継続雇用者の意義 所得拡大促進税制の適用上、国内雇用者とは、法人の使用人(当該法人の役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く)のうち、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の5②一、措令27の12の5⑤)。 ところで労働基準法第108条には、「使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調整し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払いの都度遅滞なく記入しなければならない」との定めがあり、これを受けた労働基準法施行規則第54条では、「使用者は、法第108条の規定によって、次に掲げる事項(筆者注:省略)を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない」と定めている。 ここで「労働者」とは何かが問題となるが、労働基準法における労働者は「職業の種類を問わず、事業又は事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されている(9条)ことから、賃金台帳は、雇用形態に関わらず、すべての労働者について作成する義務を負っているということになる。 したがって「国内雇用者」という概念は、基本的には雇用形態とは無関係の、比較的幅広く捉えられるものであるといえる。 他方で、適用要件の1つである「平均給与等支給額」の算定に当たっては、「継続雇用者給与等支給額」という概念が登場する。継続雇用者とは、当該適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者をいい、継続雇用者給与等支給額は、継続雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対して支給する額に限り、一定の継続雇用制度対象者に対して支給された額を除くものとされている(措法42の12の5②八、措令27の12の5⑭)。 要するに継続雇用者とは、前期と当期の2期にわたり給与等の支給対象となった雇用保険一般被保険者(継続雇用制度の適用対象者を除く)ということである。 よって、以下のケースのように、2期にわたり給与等支給対象たる雇用保険一般被保険者となっていない(1期しか支給対象になっていない)者については、平均給与等支給額の算定対象となる継続雇用者には含まれないこととなる。 継続雇用者の範囲から除外される「一定の継続雇用制度対象者」は、当該法人の就業規則において継続雇用制度を導入している旨の記載があり、かつ、雇用契約書又は賃金台帳のいずれかに当該継続雇用制度に基づき雇用されている者である旨の記載がある場合の当該者をいう(措規20の10)。 継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者(55歳以上)が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて65歳まで雇用する制度をいう(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9①二)。本制度の適用を受ける上では、引き続き雇用保険の一般被保険者の立場を維持することができるが、65歳を迎えた段階で本制度の適用が終了するとともに、一般被保険者としての資格を喪失する(年齢制限)。 ただし、継続雇用制度の適用を受けている中で企業との別段の合意のもと、65歳を超えても引き続き雇用が維持される状況になったときは、雇用保険の高年齢被保険者(平成29年1月1日以降)の資格を取得することとなる。   3 雇用形態に着目した本税制適用上のポイント 以下では、次の①から⑪の雇用形態ごとに、 について個別に検討することとする。なお冒頭に述べたとおり、説明の都合上、60歳定年制を前提とする。 ① 60歳未満の正社員 ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ 〇 雇用保険の一般被保険者であることから、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めることとなる。   ② 60歳以上65歳未満の正社員 ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ △ 雇用保険の一般被保険者であるが、雇用状況によって以下の通り異なる。 なお、事業年度の中途で継続雇用制度の適用対象となった者に対して、同一日に、継続雇用前の給与と継続雇用後の給与をあわせて支給している場合において、法人が継続してその合計額を継続雇用制度対象者に対して支給した給与等としているときには、これを認める(措通42の12の5-5)。   ③ 65歳以上の正社員 ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ × 雇用保険一般被保険者に該当しない(高年齢被保険者)ため、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めない。   ④ 出向者(出向元法人の取扱い) ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ただし、出向先法人から支払を受ける給与負担金の額は「他の者から支払を受ける金額」として、給与等支給額から控除する(措通42の12の5-2(2))。 ▷適用要件 ⇒ 〇 雇用保険の一般被保険者であることから、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めることとなる。 ただし、出向先法人から支払を受ける給与負担金の額は「他の者から支払を受ける金額」として、給与等支給額から控除する(措通42の12の5-2(2))。   ⑤ 受入出向者(出向先法人の取扱い) ▷適用可否 ⇒ △ ▷適用要件 ⇒ × 雇用保険は出向元法人で加入しているのが一般的であり、出向先の雇用保険一般被保険者に該当しないため、継続雇用者給与等支給額の算定対象には含めない。     ⑥ 嘱託社員・契約社員 ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ △ 雇用保険一般被保険者の要件を満たしている場合には、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めることとなる。   ⑦ 派遣社員 ▷適用可否 ⇒ × 労働基準法第108条に定める賃金台帳ではなく、労働者派遣法第42条に定める「派遣先管理台帳」の記載対象となるため、派遣社員は国内雇用者に該当しない。 ▷適用要件 ⇒ × 国内雇用者に該当しない以上、継続雇用者にも該当しない。   ⑧ 外国人社員(国内で勤務する外国人社員) ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ 〇 雇用保険の一般被保険者であることから、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めることとなる。   ⑨ 海外勤務社員(国外で勤務する日本人社員) ▷適用可否 ⇒ × 国内の事業所に勤務しておらず、国内雇用者の定義を満たしていない。 ▷適用要件 ⇒ × 国内雇用者に該当しない以上、継続雇用者にも該当しない。   ⑩ パート、アルバイト ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ △ 雇用保険一般被保険者の要件を満たしている場合には、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めることとなる。   ⑪ 日雇い労働者 ▷適用可否 ⇒ 〇 賃金台帳への記載対象であることから、給与等支給額は所得拡大促進税制の適用対象となる。 ▷適用要件 ⇒ × 雇用保険一般被保険者に該当しない(日雇労働被保険者)ため、継続雇用者給与等支給額の算定対象に含めない。   (了)

#No. 227(掲載号)
#鯨岡 健太郎
2017/07/20

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第3回】「中小企業経営強化税制②・固定資産税の特例措置」

平成29年度税制改正を踏まえた設備投資減税の選定ポイント 【第3回】 「中小企業経営強化税制②・固定資産税の特例措置」   アースタックス税理士法人 代表社員  税理士 島添 浩  シニアマネジャー 税理士 小嶋 敏夫 壽命 正晃 發知 諭志   前回は中小企業経営強化税制の概要、適用手続きと手続きにあたってのポイント・留意点について確認した。 今回は引き続き中小企業経営強化税制における申請から税務申告までの流れについて確認する。さらに、中小企業等経営強化法によるもう一つの税制措置である固定資産税の特例措置についても紹介する。   1 中小企業経営強化税制の申請手続きと税務申告 (1) 設備取得のタイミングと申請から税務申告までの流れ 中小企業経営強化税制の適用対象となる「生産性向上設備」(A類型)と「収益力強化設備」(B類型)を合わせて「経営力向上設備等」というのであるが、この経営力向上設備等については、原則として経営力向上計画の認定後に取得することとなっている。 しかし、例外として設備取得後に経営力向上計画を申請することも認められている。この場合には、設備取得日から60日以内に経営力向上計画が受理される必要があるので注意しなければならない。なお、計画変更により設備を追加取得する場合も同様である。 A類型における工業会の証明書、B類型における投資利益率に関する確認書の申請から税務申告までの流れは以下のとおりである。 ① 原則(経営力向上計画の認定を受けてから設備を取得) (※) 中小企業庁ホームページより ② 例外(設備取得後に経営力向上計画を申請する場合) (※) 中小企業庁ホームページより (2) 税務申告の手続き ① 適用対象事業年度と税制措置の内容 本税制は、適用対象法人が平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に、経営力向上設備等の取得をして指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却(即時償却)と取得価額の7%(中小企業者等のうち資本金の額又は出資金の額が3,000万円以下の法人については10%)の税額控除との選択適用ができる措置である。なお、税額控除限度額の繰越しは1年間に限り認められている。 ② 申告要件等 中小企業経営強化税制の適用を受ける場合の申告要件は、以下のとおりである。いずれの場合も、確定申告書等に取得した設備が特定経営力向上設備等に該当するものであることを証する書類として、その法人が受けた認定に係る経営力向上計画の写し及び経営力向上計画に係る認定書の写しを添付しなければならない。 ② 重複適用の排除 他の特別償却又は税額控除の制度と同様に、租税特別措置法の規定によるこの制度以外の特別償却もしくは税額控除制度等の適用を受ける減価償却資産については、本税制の適用対象資産から除かれることになる。つまり、同じ減価償却資産で2以上の特別償却・税額控除に係る税制の適用を受けることはできない。しかし、後述する固定資産税の特例措置とは重複して利用することが可能である。   2 固定資産税の特例措置 これまで紹介した中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法に基づく税制措置であるが、この税制措置には中小企業経営強化税制のほかに、地方税である固定資産税の特例措置もある。 具体的な内容は以下のとおりである。 (1) 制度の概要 ①中小企業者等が、②適用期間内に、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき③一定の設備を新規取得した場合、固定資産税が3年間にわたって2分の1に軽減される制度である。 本制度は、これまで対象設備が工場等で多く使われるような機械装置だけに限定されていたため、認定事業者の約75%が製造業となっていた。このように利用業種が偏っていたことから、平成29年度税制改正において、商店やレストランで使われるような冷蔵陳列棚や空調設備等といった器具備品や建物附属設備にも対象を広げることとされた。 ① 中小企業者等とは? ② 適用期間とは? 平成29年4月1日から平成31年3月31日までの期間。 ③ 一定の設備とは? ▷生産性向上設備の要件 固定資産税の特例の対象となる一定の設備とは、中小企業経営強化税制のA類型と同様に、生産性向上設備である。 具体的には、以下の2つの要件を満たすものとされ、その設備等を販売するメーカー等の属する工業会等の証明書を取得する必要がある。(イ)の要件は一定の期間内に販売された設備であればよいとされ、導入する設備は最新モデルである必要はない。なお、旧モデルがないものについては、(ロ)の要件だけ満たせばよい。 なお、中小企業経営強化税制においてB類型の適用を受けている事業者が固定資産税の特例を受ける場合には、その適用を受けようとする設備ごとに別途工業会の証明書が必要となる。 ▷対象設備 前述したとおり、設備の種類ごとに取得価額と販売開始時期について要件が定められており、設備の取得価額の判定は1台、1基など単品で判定することになる。販売開始時期についても、機械装置の場合には10年以内とされ、必ずしも最新モデルである必要はない。 平成29年度税制改正により、これまでの「機械及び装置」に加え、新たに「器具及び備品」、「建物附属設備」、工具のうち「測定工具及び検査工具」が対象とされた。 各資産の具体例については、中小企業経営強化税制と同様のため、前回を参照されたい。なお、建物附属設備については、償却資産として課税される設備が対象となり、家屋として評価される設備は対象外となる。 また、補助金を受けた設備の取得価額は、補助金を差し引く前の金額が取得価額となるので、金額判定の際には注意が必要である。 (2) 対象地域・業種 平成29年度税制改正により対象資産として追加された「器具及び備品」、「建物附属設備」等については、対象となる地域・業種が限定されている。なお、機械装置については、改正前と同様に全国、全業種が対象となっている。 具体的には、以下の区分に従って対象の設備に該当するかを確認することになる。 上記①については、例えば東京都では26業種(全業種の27%)、大阪府では40業種(全業種の42%)が対象業種となる。また、一部の小売業(織物・衣服、飲食料品など)、宿泊業、飲食店、理美容、自動車整備業、医療業(東京都を除く)、社会保険・福祉・介護業(東京都を除く)などのサービス業は、労働生産性が全国平均未満であるため、原則として対象業種となる。 このように、対象資産として追加された「器具及び備品」、「建物附属設備」等については、地域と業種によって本税制の適用を受けることができるか決まるので注意が必要である。 上記についての詳細は、中小企業庁ホームページの「経営力設備等に係る固定資産税の特例に関する対象地域・対象業種の確認について」を参照されたい。 (※) 中小企業庁ホームページより (3) リース取引の場合 リース取引の場合にも、一定のものについては適用を受けることができる。ただし、オペレーティングリース取引は、本税制の対象外である。 所有権移転外リースの場合には、設備の利用者である企業(ユーザー)と固定資産税の負担者(リース会社)が異なるが、固定資産税を負担するリース会社が本税制を利用し、ユーザーが支払うリース料に含まれる固定資産税相当額が減額される仕組みになっている。 そのため、適用を受けようとするユーザーは、工業会証明書のほか、リース見積書、リース事業協会が確認した軽減額計算書が必要になるため、リース会社と連絡を取りながら手続きを進めていかなければならない。なお、ユーザーはリース会社が作成する「固定資産税軽減計算書」によって、固定資産税相当額が減額されていることが確認できる。 これに対して、所有権移転リース取引の場合には、固定資産税を納付した側(ユーザー又はリース会社)に本税制の特例措置が適用される。 (4) 手続きの流れ 本税制の適用対象設備は、中小企業等経営強化法に規定する経営力向上計画に記載された経営力向上設備等のうち、A類型(生産性向上設備)に該当する設備であるが、B類型の場合も別途工業会の証明書の発行を受ければ対象となる。 適用を受けようとする事業者が最初に行うことは、設備を導入するメーカー等に証明書の発行を依頼することである。そして、証明書の交付を受けたら、経営力向上計画を作成し、担当省庁に申請することになる。担当省庁の認定を受けた後に設備を取得し、税務申告(償却資産税)を行うという流れになる。具体的な手続きの流れは以下のとおりである。 なお、工業会の証明書は1回取得すれば、中小企業経営強化税制(A類型)と固定資産税の特例の両方に利用することができる。 (※) 中小企業庁ホームページを元に筆者が一部加工 ① 設備ユーザーは、当該設備を生産した機器メーカー等(以下「設備メーカー」という)に証明書の発行を依頼する。 (※) ②~③は設備メーカーと工業会等とのやりとりである。 ② 依頼を受けた設備メーカーは、証明書(様式1)及びチェックシート(様式2)に必要事項を記入の上、当該設備を担当する工業会等の確認を受ける。 (注) 設備の種類ごとに担当する工業会等を定めている。 「対象資産区分及び対応工業会リスト」(中小企業庁ホームページ) ③ 工業会等は、証明書及びチェックシートの記入内容を確認の上、設備メーカーに証明書を発行する。 ④ 工業会等から証明書の発行を受けた設備メーカーは、依頼があった設備ユーザーに証明書を転送する。 ⑤⑥ 設備ユーザーは、④の確認を受けた設備を経営力向上計画に記載し、計画申請書及びその写しとともに④の工業会証明書の写しを添付して、主務大臣に計画申請する。主務大臣は、計画認定書と計画申請書の写しを設備ユーザーに交付する。 ⑦⑧ 認定を受けた経営力向上計画に基づき取得した経営力向上設備等については、税法上の他の要件を満たす場合には、税務申告(償却資産税)において税制上の優遇措置の適用を受けることができる。税務申告(償却資産税)に際しては、納税書類に④の工業会証明書、⑤の計画申請書及び⑥の計画認定書(いずれも写し)を添付する。 (5) 設備取得のタイミング 本税制の適用対象となる生産性向上設備については、経営力向上計画の認定後に取得するのが原則である。しかし、例外として設備取得後に経営力向上計画を申請することも認められている。 この場合には、設備取得日から60日以内に経営力向上計画が受理される必要があるので注意しなければならない。なお、計画変更により設備を追加取得する場合も同様である。 固定資産税の特例における工業会の証明書の申請から税務申告までの流れは以下のとおりである。 ① 原則(経営力向上計画の認定を受けてから設備を取得) (※) 中小企業庁ホームページより ② 例外(設備取得後に経営力向上計画を申請する場合) (※) 中小企業庁ホームページより ③ 固定資産税の賦課期日は1月1日であるため注意が必要 なお、固定資産税の特例の適用を受けるためには、固定資産税の賦課期日が1月1日であることから、原則の場合には12月31日までに設備を取得する必要がある。一方、例外の場合には12月31日までに「経営力強化計画」の認定を受ける必要があり、12月31日を超えて認定を受けた場合には減税の期間が2年間となるので注意が必要である。 *  *  * 次回は平成29年度税制改正で創設された「地域中核企業向け設備投資促進税制(地域未来投資促進税制)」について解説する。 (了)

#No. 227(掲載号)
#アースタックス税理士法人
2017/07/20

相続税の実務問答 【第13回】「換価分割の成立による相続財産の譲渡」

相続税の実務問答 【第13回】 「換価分割の成立による相続財産の譲渡」   税理士 梶野 研二   [答] あなたの単独名義の不動産を譲渡した場合には、形式的には、譲渡収入はあなた1人に帰属することとなりますので、譲渡所得に係る所得税もあなたが1人で負担することとなってしまいます。 このような課税を避けるためには、この譲渡が、換価分割の合意に基づき行われるものであって、譲渡の手続きを円滑に行うため、便宜的にあなたの単独所有としたものであることを遺産分割協議書等において、明確にしておく必要があるでしょう。   ● ● ● ● ●  説 明 ● ● ● ● ● 1 換価分割とは 遺産分割は、被相続人に帰属していた個々の財産そのものを共同相続人のうち特定の者に分属させる方法(現物分割)のほか、相続財産の全部又は一部を売却して、その売却代金を各相続人に分配する方法(換価分割)や、相続財産の全部又は一部を共同相続人のうちの1人又は数人に相続させるとともに、その者から他の共同相続人に対して一定の金銭等を交付する方法(代償分割)により行うこともできます(【第9回】「代償分割により取得した財産への課税」参照)。 換価分割により、不動産を売却する場合、その不動産は被相続人の名義となっていますから、まず、この名義を相続人の名義に変更しなければなりません。この場合、相続人間で合意に至った換価代金の配分割合に応じて、登記を行うこととなります。 しかしながら、売却するに当たり、法定相続分により相続人全員の共有登記がされる場合も少なくないと思われます。また、便宜的に、換価しようとする不動産の所在地に近い場所に住んでいる相続人や、共同相続人を代表して売却行為を実際に進めていく相続人の単独名義にすることもあります。 さらに、譲渡代金が、直接、各相続人に支払われたり、又は各相続人の銀行口座に振り込まれることは少なく、むしろ、相続人のうちの代表者が一括して譲渡代金を受領し、その後、相続人間で合意した割合で、譲渡代金を分配するのが一般的ではないでしょうか。 そうしますと、あたかも相続人のうちの代表者が、その譲渡した不動産を単独で相続するとともに、一定の金銭を他の相続人に交付する代償分割が行われたような外観を呈することとなります。   2 換価分割における課税上の問題 (1) 相続税における問題 換価分割が行われた場合、各相続人の相続税の課税価格は、換価分割の対象となった財産の価額に、換価代金の配分割合を乗じて計算した価額により計算することとなります。 一方、代償分割が行われた場合には、代償財産を交付した相続人については、相続により取得した財産の価額から他の相続人に交付した代償財産の価額を控除した価額を基に相続税の課税価格を計算します。 また、代償財産を取得することとなった相続人については、この代償財産の価額を基に相続税の課税価格を計算することとなります。この場合、代償分割の対象となった不動産等の通常の取引価額と相続税評価額の間に差異がある場合には、その調整計算を行うこととなります(【第10回】「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」参照)。 したがって、譲渡された相続財産が、換価分割の合意に基づき譲渡されたものなのか、あるいは、相続人のうちの1人がその財産を単独で相続し、代償金の支払いのために売却したものであるのかによって、相続税の課税価格の計算方法が異なることになります。 (2) 譲渡所得課税における問題 相続財産の譲渡が行われるわけですから、譲渡所得に対する所得税の課税についても考えておかなければなりません。 換価分割の合意に基づき譲渡されるのであれば、その収入金額は、合意された換価代金の配分割合に応じて、各相続人に帰属することとなり、各相続人がその割合に応じて所得税の負担をすることとなります。 一方、代償分割においては、代償分割によりその相続財産を取得することとなった相続人が、その相続財産を譲渡することとなりますので、その譲渡に係る収入金額は、その相続人に帰属することとなり、その相続人のみが所得税を負担することとなります。したがって、代償金の交付を受ける相続人には、所得税の負担は生じません。 このように、譲渡された相続財産が、換価分割の合意に基づき譲渡されたものなのか、あるいは、相続人のうちの1人がその財産を単独で相続し、代償金の支払いのために売却したものであるのかによって、所得税の納税義務者も異なることとなります。   3 換価分割が行われたのかどうかの判断の方法 上記2のとおり、譲渡された相続財産が、換価分割の合意に基づき譲渡されたものなのか、あるいは、相続人のうちの1人がその財産を単独で相続し、代償金の支払いのために売却したものであるのかによって、相続税や所得税の税負担に違いが生じることとなります。特に所得税(譲渡所得)については、納税義務者が異なることとなります。しかしながら、相続財産の譲渡がいずれの譲渡なのか、判断が困難な場合も少なくなく、これを争点とする訴訟も見られます。 これまでの判断事例をみると、分割協議の経緯、当事者の認識、授受する金額の決定方法、譲渡の前に譲渡資産を単独名義にした理由、売買交渉の当事者・経緯などから総合的に判断がなされているようです。   4 ご質問の場合 換価対象の不動産の登記上の名義を質問者の単独名義とし、売買交渉も質問者が行い、譲渡代金も質問者の銀行口座に入金されることから、外観上は、質問者が単独で相続し、それを譲渡したようにみえます。このため、後日、当該不動産の譲渡が質問者の単独の譲渡ではないかとの指摘を受ける可能性もあります。 そこで、換価分割の合意をするということであれば、遺産分割を換価分割の方法により行うものである旨を遺産分割協議書に明記し、換価に当たっては、便宜的に質問者の単独名義とすること、譲渡代金は質問者の銀行口座に入金されるが、それは換価代金の分配のためであって、入金後、一定の期限内にその精算を行うことなど、相続人間で覚書等の文書で確認しておくことが望ましいと考えられます。   (了)

#No. 227(掲載号)
#梶野 研二
2017/07/20

相続空き家の特例 [一問一答] 【第3回】「「相続空き家の特例」を受けられない家屋①(区分所有登記がされている建物の場合)」-相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-

相続空き家の特例 [一問一答] 【第3回】 「「相続空き家の特例」を受けられない家屋① (区分所有登記がされている建物の場合)」 -相続空き家の特例の対象となる譲渡の範囲-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、昨年7月に死亡した父親のマンション(昭和56年5月31日以前に建築)を相続により取得した後、耐震リフォームをして、本年12月に4,300万円で売却しました。 相続の開始の直前まで父親が1人で住んでいたマンションですが、相続の時から譲渡の時まで空き家の状態となっていました。 この場合、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A Xが譲渡したマンションが区分所有登記がされている建物である場合には、「相続空き家の特例」を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」の対象となる被相続人居住用家屋は、その相続の開始の直前において、その相続又は遺贈に係る被相続人の居住の用に供されていた家屋(その被相続人が主としてその居住の用に供していたと認められる一の建築物に限ります)で、次に掲げる要件を満たすものとされています(措法35④、措令23⑥)。 そして、上記②について立法者は、 と示しています(財務省HP「平成28年度税制改正の解説」152~153頁)。 よって、本事例において、譲渡されたマンションが区分所有建物である旨の登記がされている建物である場合には、上記②の要件を満たさず、「相続空き家の特例」を受けることはできないこととなります(措通35-11(建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物))。 (了)

#No. 227(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/07/20

平成29年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第4回】「所得拡大促進税制の見直し他」

平成29年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第4回】 「所得拡大促進税制の見直し他」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [4] 所得拡大促進税制の見直し 連結納税では、連結グループ全体を一つの法人とみなして所得拡大促進税制が適用されるが、平成29年4月1日以後に開始する連結親法人事業年度から、単体納税と同様に次のような改正が行われている(平成29年所法等改正法附則1、81)。 なお、今回の改正は、適用要件の一部が見直されただけであり、制度の仕組み自体が改正されたものではない。 連結納税における所得拡大促進税制の制度概要は、『連結納税適用法人のための平成27年度税制改正/【第10回】「所得拡大促進税制・その他の租税特別措置法上の見直し」/[10]連結納税適用法人に係る所得拡大促進税制の見直し/1(2)』を参照してほしい。 (1) 所得拡大促進税制の適用要件の一つである『平均給与等支給額が比較平均給与等支給額(前連結事業年度の平均給与等支給額)を超えること』(上記拙稿記載の[要件3])について、下表のように見直される(新措法68の15の6①)。 なお、平均給与等支給額及び比較平均給与等支給額は全連結法人を1つの法人として計算される。 (※) 中小連結親法人の定義については前回(「[3]研究開発税制の見直し」の(2))を参照。   (2) 付加価値割の所得拡大促進税制について、平均給与等支給額が比較平均給与等支給額を超えることとの要件を、平均給与等支給額から比較平均給与等支給額を控除した金額のその比較平均給与等支給額に対する割合が2%以上であることとの要件に見直す(新地法附則9⑭⑮)。 なお、この要件は、単体法人の額又は連結法人の合算額のいずれかの場合に要件を満たしていれば足りるものとする(「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)(平成29年4月1日現在)」総税都第16号第3章第2節第4 4の2の17)。   [5] 役員給与等の見直し 連結納税における役員給与の損金不算入については、別段の定めがないため、単体納税における法人税法第34条(役員給与の損金算入)の規定が適用される(法法81の3)。 したがって、業績連動給与の拡大、株式報酬の追加、退職給与の損金算入制度の創設など、平成29年度税制改正について単体納税と連結納税は全く同じ改正内容(改正時期を含む)となる。 そのため、本稿での解説は省略することとし、他の記事における解説を参照してほしい。   [6] 地域未来投資促進税制の創設 1 改正内容 連結納税においても、単体納税と同様に、地域未来投資促進税制(地域経済をけん引する地域中核企業等による未来投資を支援し、地域中核企業による地域の強みを活かした事業拡大を支援することを目的とした優遇税制)が創設される(新措法42の11の2、68の14の3、新措令27の11の2、39の44の3)。 連結納税の場合、単体納税と同じく、各連結法人ごとに適用要件の判定と特別償却限度額又は税額控除額の計算が行われる(つまり、税額控除について、研究開発税制や所得拡大促進税制のように連結納税グループでの全体計算の仕組みになっていない)。 そして、税額控除の限度額となる法人税額基準額が、連結法人税額の20%及び連結法人税個別帰属額の20%の両方を加味して計算される点以外は、単体納税と同じ取扱いとなる。 具体的には、連結親法人又は連結子法人(注1)が、企業立地促進法の改正法の施行日(注2)から平成31年3月31日までの間に、その連結法人の承認地域経済牽引事業(注3)に係る「地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律」の促進区域内(注4)において、承認地域経済牽引事業計画に従って、特定地域経済牽引事業施設等(注5)の新設又は増設をする場合において、特定地域経済牽引事業施設等を構成する機械及び装置、器具及び備品、建物及びその附属設備並びに構築物(特定事業用機械等)を取得等して、承認地域経済牽引事業の用に供したとき(注6)は、その承認地域経済牽引事業の用に供した日を含む連結事業年度(供用年度)において、その取得価額(注7)の40%(建物及びその附属設備並びに構築物については、20%)の特別償却(注8)とその取得価額(注7)の4%(建物及びその附属設備並びに構築物については、2%)の税額控除との選択適用ができる(新措法68の14の3①②、平成29年所法等改正法附則1十)(注9)。 ただし、税額控除については、次の①又は②のうちいずれか少ない金額(法人税額基準額)を限度とする(新措法68の14の3②、新措令39の44の3②)。なお、各連結法人ごとに税額控除額(個別帰属額)が計算されるため、全体計算の場合の個別帰属額の按分計算はない(新措法68の14の3⑦、新措令39の44の3③)。 (※) 調整前連結法人税額は、前回([3]研究開発税制の見直し)の(1)と同じ定義となる。   2 地方法人税における地域未来投資促進税制の税額控除額の取扱い 法人税における地域未来投資促進税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において、連結法人税額から控除される(新地方法6三)。 また、各連結法人の地域未来投資促進税制の税額控除額の個別帰属額に4.4%を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(新措法68の14の3⑦、新措令39の44の3③、新地方法15①)。   3 住民税における地域未来投資促進税制の税額控除額の取扱い 中小連結親法人又はその各連結子法人の各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における地域未来投資促進税制に係る税額控除額の個別帰属額は、個別帰属法人税額から控除される(連結法人税個別帰属額に加算しない。新地法附則8⑥、新地法23①四の三、292①四の三)。 中小連結親法人に該当しない連結親法人又はその各連結子法人については、個別帰属法人税額から控除されない(連結法人税個別帰属額に加算する)。 (※) 中小連結親法人の定義については前回(「[3]研究開発税制の見直し」の(2))を参照。   (了)

#No. 227(掲載号)
#足立 好幸
2017/07/20
#