〈一問一答〉 副業・兼業に関する担当者のギモン 【第7回】 「副業・兼業と従業員の健康管理」 弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 労働者の健康管理 会社は、労働者が副業・兼業をしているか否かにかかわらず、労働安全衛生法第66条などの法令の規定に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後措置等の健康確保措置を実施しなければならない。 この点、副業・兼業ガイドラインは、会社が労働者の副業・兼業を認めている場合の健康管理に関し、会社は、労働者に対して、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受ける旨を伝えるとともに、副業・兼業の状況を踏まえ、必要に応じて法令が規定する内容を超えた健康確保措置を実施するなど、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う労働者の健康確保に資する措置を実施することが適当であると指摘している。また、副業・兼業を行う労働者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外労働の免除や抑制等を行うなど、それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、労使で話し合うことが適当であるとも指摘している(副業・兼業ガイドライン3(3)イ)。 2 使用者の安全配慮義務 労働者が過重労働に起因して死亡したり、うつ病に罹患して自殺したりするようなケースにおいて、これまでの裁判例は、会社の安全配慮義務違反による債務不履行責任を認めており、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」と判断されてきた(電通事件=最高裁平成12年3月24日判決民集54巻3号1155頁。なお、同判決は、不法行為責任の注意義務に関する判断であるが、その後の裁判例は、この注意義務と同一内容の義務を労働契約上の安全配慮義務として肯定している)。 また、労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定し、会社の安全配慮義務を法律上も明記している。 このような安全配慮義務の具体的な内容として、過重労働に起因する疾病・死亡・自殺等のケースにおいては、会社は、以下のような義務の履行を求められる。 3 副業・兼業と安全配慮義務 それでは、万が一、労働者が副業・兼業に伴う過重労働により健康を害した場合に、本業先の企業は、副業・兼業を認めていたという事情により、安全配慮義務違反の責任が認められたり、責任が重くなったりすることがあるのか。あるいは、副業・兼業を行う労働者が長時間労働や不規則な労働によって健康に悪影響を及ぼす可能性が想定されるような場合に、本業先の企業は、安全配慮義務の履行の一環として、副業・兼業の許可を取り消す義務を負うのであろうか。 この点、副業・兼業は、本来労働者の私生活における行為であるため、本業先の企業が当然にその中止等について指示する権限を有するものではない。また、そもそも安全配慮義務は、会社による管理支配が及ぶ状況があることを前提とするが、副業・兼業先における業務について本業先の企業の管理支配が及ぶわけでもない。加えて、副業・兼業は、基本的に労働者の自発的意思によって行われるものであり、安易な許可の取消しは、キャリア形成の観点から労働者が行った自己決定を否定する結果ともなりかねない。 これらの事情に加え、一般的な健康管理は、本来、労働者の自己責任によって行われるべきものであることも併せ考慮すると、仮に労働者が副業・兼業に伴う過重労働によって健康を害した場合であっても、副業・兼業を認めていたという事情をもって、当然に本業先の企業に安全配慮義務違反の責任が認められると解するのは相当でないように思われる。 他方で、本業先の企業として、労働者が実際に健康を害する高度の危険があると把握したような場合、例えば、健康診断やストレスチェック等における医学的知見をもとに当該労働者が疾病に至る高度の危険を有すると判断されるような場合には、上記①および②の義務の履行として、当該労働者に対するヒアリング等によって疲労の蓄積や体調悪化の原因・程度を把握するとともに、上記③および④の義務の履行として、労働時間や業務の軽減等の措置をとる義務が生じるものと解される。この場合、労働者の疲労の蓄積や体調悪化の原因が副業・兼業の業務状況にあると認められるときは、副業・兼業の許可を取り消す措置(【第4回】参照)を検討する必要がある場合もあろう。 副業・兼業ガイドラインも、副業・兼業の場合には、副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者が安全配慮義務を負っているとしたうえで、副業・兼業に関して安全配慮義務違反が問題となり得る場合としては、使用者が、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生じるに至った場合等が考えられるとしている(副業・兼業ガイドライン3(1)ア)。 (了)
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第27回】 「中古車販売会社の保険金過剰請求事件 -現場の声が上がってこなかった理由」 弁護士 原 正雄 2023年7月25日、中古車販売会社のBM社が記者会見を開いた。事故車両の修理の際に意図的な損壊や不要な部品交換などを行って保険金を過剰に請求していた、その責任を取って社長が辞任する、という内容であった。BM社はその後、国土交通省からの自動車整備の事業停止処分や民間車検場の指定取消、金融庁からの保険代理店登録の取消に至った。 今回の不正はBM社のBP部門で生じたものであった。BPとは「bodywork & paint」すなわち鈑金塗装のことで、車両の修理を意味する。BM社の事業は中古車の買取・販売が中心であり、BP部門の売上はグルーブ全体の2~3%にすぎない。そうした部門でなぜ本件のような重大な問題が生じたのか。また、そうした重大な問題が生じていることについて、なぜ経営陣に報告が上がってこなかったのか。2023年6月26日付の特別調査委員会の調査報告書に基づいて以下分析する。 1 不正の内容 特別調査委員会のサンプルテストによれば、検証対象の約44%に不正の疑いがあった。また、アンケート(回答率97.9%)によれば、回答者の27.2%が「自ら不正に関与した」と回答し、17.8%が「他の者による不正を見聞きした」と回答した。BM社のBP部門において不正が蔓延していた状況が窺える。その手法は、以下のとおりであった。 (1) 損傷の確認 BM社は、損保会社から車両修理案件の紹介を受ける。BM社は、BP工場で修理車両を受け入れ、フロント(または工場長)が損傷を確認し、写真を撮影する。 ところがBP工場では、損傷の確認時に物理的に車体に傷を付け、修理範囲を拡大させることがあった。また、損傷がないのにあるように装う写真や、損傷を実際より広範囲に装う写真を撮影することなどもあった。 BM社では、損保各社との修理代の交渉を一括して行う部門として「PT」という部署があった。「PT」はBP工場からそうした写真などのデータ送信を受け、そのまま初期見積書を作成し、損保会社に送信していた。 (2) 鈑金作業・塗装作業 損保会社が初期見積書を確認した後、BP工場は初期見積書に基づき、修理や部品交換、塗装作業を行う。 ところが、BP工場では、不要な部品交換を行うことがあった。また、人力で牽引可能であるのに工賃が高額なタワー牽引を行うことがあった。さらに、タワー牽引をしていないのにしたと装う写真を撮影することなどもあった。 塗装においても、不要な塗装を行うことがあった。また、高機能塗装をしていないのにしたと装う写真を撮影することなどもあった。 (3) 損保会社との協定 修理後、「PT」はBP工場から修理状況の写真を受け取り、その内容を確認して協定見積書を作成し、損保会社に送付する。それに基づいて損保会社は保険金を支払う。 しかし、上記によってBM社は、協定において使用していない部品の費用や、実施していない作業の費用を計上し、過剰な保険金を請求していた。 2 不正の原因 上記の不正が行われた原因として、損保会社との交渉を一括して行う部署である「PT」の問題と、営業目標である「アット」の問題があった。 (1) 「PT」の問題 「PT」では、初期見積りが過大となる傾向にあった。初期見積りで想定しなかった修理が事後に追加になっても損保会社に認めてもらうことが容易ではなかった。そのため、追加修理が発生しないよう、当初から多めに見積もっていたからである。 これに対して、以前には「PT」が過大な初期見積りをしても、作業員が不要と判断して行わないことがあった。 しかし、「PT」では、わずか20名ほどの担当者で年間4万件超の協定を取り扱う。そのため、業務過多で連日の深夜業務を余儀なくされていた。実際の修理内容が初期見積りと異なると、「PT」担当者の作業が増え、負担をさらに高める。また、「PT」は、現場が修理内容を縮小することについて、行うべき修理を行わないもので手抜きである、と受け止めていた。そのため、BP本部は、BP工場に対して繰り返し、初期見積りどおりに修理するよう指示する旨の通達を行った。 結果として、現場であるBP工場では、初期見積りに記載がある以上、不要な作業でも行うべきである、という風潮が生じてしまったものと解する。 (2) 「アット」の問題 アンケートで「自ら不正を行った」と回答した従業員の58.6%が、不正を行った理由について「上司からの指示」と回答した。不正が行われた時期についても、回答者の19.6%が「特定の者が上司であった期間」を選択した。不正が上司の指示によって行われていたことが窺える。 上司が不正を指示した原因として、BP部門における「アット」という営業目標の問題があった。BM社では、修理案件1件当たりの工賃と部品粗利の合計金額を「アット」と呼んでいた。「アット」の目標値は、1件当たり14万円前後であった。「アット」目標未達の工場長は、強い非難を受ける。この点についてBP工場の従業員は「売上の低いフロントや工場長は、月末に近づくと、どうやって数字を達成するんだと詰められ、未達だとぼろくそに文句を言われていた」、「まともな職場ではおよそ使われない言葉で罵倒されることが日常的に行われていた」と述べている。 もっとも、修理案件の数は、損保会社からの紹介に左右される。工賃は、修理車両の損傷状況で決まる。そのため、現場の努力によって「アット」を向上させることは困難であり、現場のノルマとして「アット」目標を設定することは不合理であった。この点についてBP工場の従業員は「要するに過剰な初期見積りどおりに作業をすることを求めるものであるから、現場に不正を指示しているのだと思った」と述べている。 その結果、プレッシャーに耐え兼ねた工場長らが不正を行うようになり、工場長の転勤や工場長間の情報交換などを通じて全国30ヶ所のBP工場に伝播していった。 なお、「PT」は現車の確認はしておらず、BP工場からデータ送付された写真やチェックシートを見るだけである。そのため、損傷や作業等の不審な点にすぐ気付くことはできなかったようである。また、修理費用が高額な方がノルマ達成の観点からは望ましい、という事情もあった。結果として「PT」を通じてBP工場の不正が発見されることはなかった。 3 BM社における報告体制の問題 上述のとおり、BP工場では不正が蔓延しており、その原因はBM社の組織体制と経営方針にあった。ところが、特別調査委員会の調査では、A社長は、そうした不正を全く知らなかったと弁明した。 (1) 内部通報制度の不備 経営陣が不正を把握できなかった要因の1つに、内部通報制度が不十分であったという事情があった。 BM社では、ハラスメント事案に関する通報制度は整備されていた。そのため、ハラスメントについては相応の通報実績もあった。しかし、通報対象はハラスメント事案に限られている上、通報後の対応に関する規程も整備されていなかった。 (2) 従業員からの告発の黙殺 現場の声が上がってきても、経営陣が適切に対応していなかったという事情もあった。 2022年1月頃、S店BP工場の作業員H(A社長の甥)が、A社長に対して不正を告発するLINEメッセージを送信した。同メッセージには、証拠として不要な作業を指示するチェックシートの写真等も添付されていた。そのため、A社長は、同メッセージ等をBP部長であるFに転送し、調査するよう指示した。 もっとも、H作業員は以前からS店BP工場のG工場長に不満を持ち、度々苦情を申立てていた。A社長とF部長は、今回の告発もその延長だろうと先入観を抱いてしまった。その結果、F部長は当該工場を訪問したものの、実質的な調査を行わなかった。F部長が行ったのは、H作業員と話をしてG工場長に協力するよう求め、G工場長との話し合いをさせるという対応であった。そうした対応は、F部長からA社長にもLINEメッセージで「Hさん自身反省してGさんに協力すると言って頂きました。Gさんも含め、三人でHさんの思いとGさんの思いと、話し合いを行い、蟠りを解きました」と報告された。 上記について特別調査委員会は、特段の調査もせずにH作業員を懐柔して黙らせたものであって、もみ消しとも言いうる状況であった、と評価している。 (3) 現場の声を拾い上げようとする姿勢の欠如 以上のとおりBM社の経営陣は、現場の声を拾い上げることができなかった。これは、BM社の経営陣に、現場の声を聞きたいという意識がなかったからであった。経営陣は全国のBP工場を巡回していたが、清掃が行き届いているか等を点検するだけで、現場の声を聞くという姿勢は示してこなかった。経営陣の側から従業員に歩み寄らなければ、現場の悩みや不正の情報を吸い上げることはできない。特別調査委員会は、経営陣が現場の実情に全く気付いていなかったとすれば、そのこと自体が深刻な問題である、と評価している。 今回の問題が発覚した後、特別調査委員会は、BP工場従業員へのアンケートやヒアリングを実施した。その際にA社長は、全対象者に向けて「全てを洗いざらい申告してほしい」とのメッセージを出した。その結果、不正についての申告などが数多く寄せられたとのことである。経営陣が歩み寄りの姿勢を見せれば、BM社においても現場の声が上がってくることが分かる。 4 結語 本件の教訓として、経営陣が現場の声に耳を傾ける姿勢を示すことがいかに大切か、ということがある。そうした姿勢を見せれば、現場からは声が上がってくる。 現場の声を聞く姿勢を示す方法の1つとして、経営陣が現場を視察するときは、現場の従業員に積極的にヒアリングをすべきである。 また、内部通報制度を誠実に運用するとのメッセージを発することも重要である。経営陣が内部通報制度について真摯なメッセージを発すれば、不正などに直面した従業員が内部通報制度を利用する可能性は飛躍的に高まる。 今回の事案はBM社に固有の特殊事案ではない。あらゆる会社に該当し、起こり得る問題である。経営陣は、経営上の重要な課題の1つとして、現場の声を拾い上げることができる体制を構築すべきである。 (了)
プラス思考の経済効果 【第22回】 「2023年・2024年の大谷選手の経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 2023年の大谷翔平選手の活躍は素晴らしいものでした。打者としては9月4日までのアスレチックス戦に出場して、打率3割4厘、ホームラン44本、打点95、得点102、盗塁20で日本人初のホームラン王を獲得、投手としては8月24日のレッズ戦まで23試合に登板して10勝5敗、防御率3.14、167奪三振の素晴らしい成績でした。そして、アメリカンリーグの2度目のMVPを獲得しました。 今回は、2023年・2024年の大谷選手の経済効果を推計してみましょう。 2 2024年の大谷選手の所属球団は? この原稿を書いている時点では、大谷選手の2024年の所属チームは未確定です。エンゼルスに残るのでしょうか、それとも他球団に移籍するのでしょうか。大谷選手を欲しがらない球団はないでしょう。ただし、長期契約となると、契約金は史上最高額になると予想されています。そうなると、実際に契約できるのは、経営状況が良く財政力のある球団というように絞られてきます。執筆時点では、今所属しているエンゼルスの他に、ヤンキース、メッツ、ブレーブス、ドジャース、フィリーズ、レッズ、ジャイアンツ、レンジャーズ、パドレス、マリナーズなどの球団名が挙げられています。 3 2023年の大谷選手の経済効果 大谷選手の経済効果の計算の基になる直接効果は次の8項目です。 (1) アメリカ国内の直接効果 ① 本拠地エンゼル・スタジアムの観客増加による消費額 2023年のエンゼルスの観客数は約264万人でした。エンゼルスの関係者の話では大谷選手が在籍していなかった時と比べて、大谷選手が出場すると1試合約5,000人の観客が増えるとのことでしたので、大谷選手の出場試合数を考慮すると約33万5,000人の観客が増加したことになります。MLBのデータから観客1人当たりの消費額を約1万円とすると、エンゼル・スタジアムの観客増加による消費額は約33億5,000万円となります。 ② 大谷選手の年俸 2023年の大谷選手の年俸は約43億4,000万円でした。 ③ 大谷選手のスポンサー契約料 2023年に大谷選手は、シューズメーカーの「ニューバランス(NB)」と新規契約を結びました。この時、アメリカの経済雑誌「フォーブス」は大谷選手のスポンサー収入を、日本の企業とアメリカの企業を合わせて約49億円と発表しています。 ④ 大谷選手による放映権収入 2022年のNHKなどを含むエンゼルスの大谷選手関係の放映権収入は約69億4,800万円であったので、2023年も同額であると仮定します。 ⑤ 大谷選手のグッズの売上高 2022年の大谷選手のグッズの売上高は約9億8,400万円でした。2023年は人気が沸騰したので、その金額を上回り約11億円と推定します。 ⑥ エンゼル・スタジアムなどへの日本企業の広告料 大谷選手の活躍で日本企業がエンゼル・スタジアムなどエンゼルス関係の野球事業に宣伝広告を出しています。それは総額約10億円と想定されています。 (2) 日本国内の直接効果 ① 大谷選手応援ツアーの売上高 日本から大谷選手応援のアメリカツアーに参加した人たちの費用は、総額約12億円と推定されています。 ② 大谷選手のグッズの売上高 日本での大谷選手のグッズの売上高はWBC優勝の影響もあり約5億円と推定されています。 その結果、2023年の大谷選手の直接効果は約233億3,800万円となり、産業連関分析をすると経済効果は約504億1,008万円となりました。 4 2024年の大谷選手の経済効果 大谷選手は2023年9月19日に「右肘靭帯損傷」で2度目の手術を受けました。これで来シーズンはDHの打者としてのみ登場することになりました。この手術で大谷選手の選手としての価値が下がったかというと、長期的に見てほとんど下がっていないと言われています。そのため、手術したにもかかわらず大谷選手を希望する球団は非常に多いのです。 本稿では、大谷選手がエンゼルスに残留するケースと、移籍先として最有力であると言われているドジャースに移籍したケースの2つの場合を分析してみます。 (1) エンゼルスに残留するケース 大谷選手が2024年もエンゼルスに残留する場合には、2023年の経済効果と比べてあまり大きな変化はないと想定されます。年俸は増加しますが、投手としての登板がなくなるので、観客が伸び悩む可能性があるからです。2024年もエンゼルスがこれまでと同じようにプレーオフに出場できない成績であれば、観客数はほとんど増加しないと考えられます。そこで、エンゼルスに残留する時は、年棒約60億円の1年間程度の短期契約になると想定されます。その時は、2024年の経済効果は2023年とほぼ同額の約500億円になると想定されます。 (2) ドジャースに移籍するケース ドジャースは、歴史のある人気球団です。エンゼルスと同じカリフォルニア州にあり、日本人にもなじみのある球団で、経済力も豊かです。 ドジャースは人気球団ですので、2023年の主催ゲームではMLB最高の約384万人の観客を集めました。これは、エンゼルスよりも120万人も多いのです。そのため、大谷選手がエンゼルスに残留する時よりも、かなり大勢のファンがドジャー・スタジアムに詰めかけるでしょう。さらに、ドジャースに移籍すると10年契約で最低でも約750億円の契約料と言われています。また、エンゼル・スタジアムに広告を出している日本企業は大谷選手が移籍するとほとんどすべてがドジャー・スタジアムに広告を移すでしょう。そして、大谷選手のスポンサー契約料も増加するでしょう。 これらのことを考慮しますと、大谷選手がドジャースに移籍すると、直接効果は約298億円で、産業連関分析をすると経済効果は約643億6,800万円となります。大谷選手がエンゼルスに残留する場合と比べて約140億円増加することになります。 5 まとめ 最近の大谷選手の経済効果の推移を見ると以下のようになります。年々、大谷選手の経済効果はシーズンでの活躍とともに増加してきています。 〈大谷選手の経済効果(2024年は予測値)〉 2024年の大谷選手はお金を求めて球団を決めるのではなく、自分の希望を聞き入れ二刀流を認めてくれて、そしてシーズンが終わってからプレーオフやワールドシリーズに出場できる強い球団を求めていると考えられます。 ドジャースを含めて2024年以後10年前後の長期契約で5億ドル(約750億円)以上の契約を提示する球団は、この契約期間中に大谷選手がケガをしないで二刀流で活躍してくれれば十分採算が合うと考えていると思われます。 さあ、どの球団が大谷翔平選手のハートを射止めることができるでしょうか。 (了)
《速報解説》 中小企業者等の少額減価償却資産の特例、適用期限の延長に加え対象法人の見直しあり ~令和6年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 取得価額30万円未満の減価償却資産を対象とした「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」(措法67の5)については、「令和6年度税制改正の大綱」(12月22日(金)閣議決定)において令和8年3月31日までの2年延長が示されたが、下記の通り一部対象法人の見直しも行われる。 大綱(P62)では本制度について、下記のように記述されている(下線部は編集部による)。 下線部のとおり、いわゆる電子申告が義務化された法人(事業年度開始の日における資本金の額又は出資金の額が1億円超)については、従業員要件を300人以下(現行500人以下)に引き下げるとされている。 ここで、そもそも本制度が中小企業を対象とした特例措置であるとの認識の間で混乱が生じる恐れがあるため、以下で整理したい。 本制度の対象となるのは「中小企業者等」(措法67の5①)のうち、事務負担に配慮する必要があるとして「常時使用する従業員の数が500人以下」(令和2年度改正で1,000人以下から引下げ)とされている(措法67の5①、措令39の28①)。 この「中小企業者等」は措法67の5①上、「中小企業者(措法42の4⑲七、措令27の4⑰)」と「等」に分けられ、後者の「等」は「農業協同組合等(措法42の4⑲九)」を指し、下記の組合等が該当する。 ここで、「中小企業者(措法42の4⑲七、措令27の4⑰)」は資本金の額又は出資金の額が1億円以下とされているため(※1)電子申告義務化法人の対象外となるが、「等」すなわち「農業協同組合等(措法42の4⑲九)」については、本制度の適用にあたり資本金・出資金の制約がない。 (※1) 中小企業者に係るもう一方の要件である「資本又は出資を有しない法人のうち従業員数1,000人以下」は、本制度独自の要件である上記の500人以下の従業員数要件があるため考慮外。 このため「農業協同組合等(措法42の4⑲九)」は、「常時使用する従業員の数が500人以下」という要件については「中小企業者(措法42の4⑲七、措令27の4⑰)」と共通するものの、資本金又は出資金1億円超、すなわち電子申告義務化法人の対象であっても本制度の適用が可能とされる。 (※2) 組合等のうち電子申告義務化の対象となるものについては、e‐Taxホームページ「大法人の電子申告の義務化について」にある「電子申告の義務化の対象法人一覧表(組織区分別)」を参照されたい。 ここまでの解説については本誌にも寄稿いただいている鯨岡健太郎公認会計士・税理士の著作『中小企業の判定をめぐる税務』(清文社 刊)に図解されているため、そちらをご覧いただきたい。 上記を踏まえ、令和6年度税制改正大綱で示された内容を整理すると、本制度の適用対象である「中小企業者等」のうち、「電子申告が義務化された(資本金又は出資金1億円超の)農業協同組合等」については、「常時使用する従業員の数が500人以下」との要件を「300人以下」とする改正案が見えてくる。 ちなみに12月22日(金)に公表された経済産業省による税制改正資料(P22)においても、「従業員数については、中小企業者は500名以下、出資金等が1億円超の組合等は300名以下が対象」(赤字が改正箇所)と解説されている。 なお、上記改正案の施行時期については大綱に記載がないため、今後の法案等で確認する必要がある。 (了)
《速報解説》 草案からの修正を経て、RSの特例に関して 取締役等の死亡などの事由の取扱いにつき明確化を図る 「企業内容等開示ガイドライン」の改正が、金融庁より公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023(令和5)年、12月26日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正を公表した。 これにより、2023年11月6日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されており、公開草案から修正されている箇所もある。 これは、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合に、有価証券届出書の提出を不要とする特例に関して、取締役等の死亡などの事由の取扱いについて明確化を図るものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 総額1億円以上の有価証券の募集又は売出しを行う際には、有価証券届出書の提出が必要とされている。 他方、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合(いわゆる譲渡制限付株式(RS:Restricted Stock))については、有価証券届出書の提出を不要とし、臨時報告書の提出で足りるとする特例が設けられている。 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正は、株式報酬について発行会社の株式報酬規程やRSの割当契約等において、次の事由が生じた際、譲渡制限を解除する旨の条項が含まれている場合であっても、上記の特例の譲渡制限期間の要件を満たし、有価証券届出書の提出が不要であることを明確化するものである Ⅲ 適用日 2023年12月26日付で適用される。 (了)
《速報解説》 会計士協会、独立監査人が実施する中間・期中財務諸表に対するレビューの草案を公表 ~合わせて「四半期開示制度の見直しに関する留意点(レビュー編)」も公開~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年12月22日、日本公認会計士協会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、「四半期レビュー基準の期中レビュー基準への改訂及び監査に関する品質管理基準の改訂について(公開草案)」(企業会計審議会監査部会)を受けたものである。 なお、「四半期開示制度の見直しに関する留意点Vol.1~レビュー編~」も公表されている。 意見募集期間は2024年1月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー(公開草案) 金融商品取引法における中間財務諸表に対するレビューを対象とする。 現行の「四半期レビュー」(四半期レビュー基準報告書第1号)を改正し、「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書第1号)として公表する。 「四半期レビュー」を「期中レビュー」へ、また、「四半期財務諸表」を「中間財務諸表」へなどの用語の改正を行う。 質問、分析的手続を中心としたレビュー手続であり、保証水準は「限定的保証」である。 適正表示の枠組みを対象とする。 Ⅲ 独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー(公開草案) 金融商品取引法における中間財務諸表に対するレビュー以外の期中レビューを対象とする。 任意の期中レビューを想定し、「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー」(期中レビュー基準報告書)を新設する。 質問、分析的手続を中心としたレビュー手続であり、保証水準は「限定的保証」である。 適正表示及び準拠性の枠組みを対象とする。 Ⅳ 適用時期等 「独立監査人が実施する中間財務諸表に対するレビュー(公開草案)」の適用時期等は次のとおりである。 「独立監査人が実施する期中財務諸表に対するレビュー(公開草案)」の適用時期等は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 プラットフォーム課税の導入等 ~令和6年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和5年12月22日に閣議決定された「令和6年度税制改正大綱」では、国外事業者によるオンラインゲーム等モバイルアプリの配信を、取引を仲介したプラットフォーム事業者が行った取引とみなして、プラットフォーム事業者に消費税の納税義務を課す見直しが行われた。改正の背景と制度の内容を以下で概説する。 1 改正の背景 (1) 過去の電気通信利用役務の提供に関する改正 日本国内で利用されるデジタルサービスにつき、提供者の所在地にかかわらず等しく課税し、公平な競争環境を確保することを目的として、平成27年度の税制改正で次の見直しが行われた。 (※) 登録国外事業者制度は令和5年10月以降、適格請求書等保存方式に吸収された。 (2) 近年のデジタルサービス市場の動向 近年のデジタルサービス市場では、オンラインゲームを中心とした消費者向けモバイルアプリの成長が顕著である。その背景には、プラットフォーム事業者を介して契約、配信、代金決済等を行うことで事業規模の小さいサプライヤーや国外のサプライヤーがサービス提供できるようになったという市場構造の変化がある。 (3) 消費者向けモバイルアプリの配信に関する消費税課税の問題点 電子書籍や音楽・動画配信等のコンテンツ販売は大規模なプラットフォーム事業者がサプライヤーからコンテンツを購入した上で提供(バイセル方式)するため、プラットフォーム事業者が消費税の納税義務者となる。一方、オンラインゲーム等のモバイルアプリでは、通常、プラットフォーム事業者は取引の仲介を行っているにすぎず、個々のサプライヤーが消費者に対してコンテンツを提供する(セールスエージェント方式)ため、サプライヤーが消費税の納税義務者となる。サプライヤーには日本国内に一切拠点を持たない小規模な国外事業者が数多く含まれ、納税義務者の補足等に限界がある。そのため、国内外の事業者間で競争条件の同一化が阻害されている、課税の公平性を確保できていないなどの問題が生じている。 (4) 諸外国における動向 上記の問題を解決するため、世界の多くの国ではプラットフォーム課税が導入されている。プラットフォーム課税とは、国外事業者がプラットフォームを介して行うモバイルアプリの配信等につきプラットフォーム事業者が行った取引とみなして、プラットフォーム事業者に消費税の納税義務を課すものである。 日本においても令和5年度税制改正大綱(与党大綱)でプラットフォーム課税を検討することが示されており、令和6年度税制改正大綱にて具体的な見直しとなった。 2 制度の内容 (1) 内容 国外事業者がプラットフォームを介して行う消費者向け電気通信利用役務の提供のうち、一定規模を超えるプラットフォーム事業者を介して対価を収受するものについては、そのプラットフォーム事業者が行ったものとみなして、国外事業者に代わり納税義務が課される。 ① 対象となるプラットフォーム事業者の規模要件 プラットフォーム事業者自身のプラットフォームで行ったものとみなされる消費者向け電気通信利用役務の提供に係る対価の額の合計額が、その課税期間につき50億円を超える事業者を国税庁長官が「特定プラットフォーム事業者」として指定する。 特定プラットフォーム事業者の指定は、プラットフォーム課税に高い税務コンプライアンスや事務処理能力が求められること等を考慮して設けられている。 ② 適用時期 令和7年4月1日以後に行われる電気通信利用役務の提供について適用される。 (2) 気になるポイント 事業者が事業のためにプラットフォーム課税の対象となるモバイルアプリを利用した場合の仕入税額控除や、特定プラットフォーム事業者の指定がその課税期間の取引額に拠るのは課税の予見可能性として問題ないかなど、整備が必要な点が出てくると考えられる。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「グループ監査における特別な考慮事項」に伴う監査基準報告書等の改正案を公表 ~「経営者確認書」や「監査報告書の文例」などを修正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年12月22日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」に伴う監査基準報告書等の改正(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)に伴って、監査基準報告書580「経営者確認書」などを改正するものである。 意見募集期間は2024年1月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 監査基準報告書580「経営者確認書」 経営者確認書の記載例のうち、「2.金融商品取引法に基づく監査の経営者確認書(連結財務諸表)の記載例」及び「3.金融商品取引法に基づく中間監査の経営者確認書(中間連結財務諸表)の記載例」について、「当社」を「当社グループ」に修正する(改正案付録2)。 Ⅲ 監査基準報告書560実務指針第2号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」 次の修正を行う。 Ⅳ 監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」 「財務諸表監査における監査人の責任」について、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」の規定に合わせて修正する(改正案20項及び各文例)。 Ⅴ 監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に関するQ&A」 監査人の責任の記載内容に関し、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」を参照している箇所について修正する(改正案Q1-1)。 Ⅵ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する。 公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する。 ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用することを妨げない。 監査基準報告書560実務指針第2号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」の改正については、2024年4月1日以後に監査報告書を発行する訂正後の財務諸表に対する監査に適用する。 (了)
《速報解説》 金融庁、「重要な契約」の開示に係る「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正を確定 ~企業・株主間のガバナンスに関する合意等の開示求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 令和5(2023)年12月22日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第81号)が公布された。これにより、2023年6月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 公開草案に寄せられたコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方も公表されており、金融庁の考え方が詳細に示されている。 これは、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という)及び臨時報告書における「重要な契約」の開示について改正するものである。「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」も改正する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 企業・株主間のガバナンスに関する合意 有価証券報告書等の提出会社(提出会社が持株会社の場合には、その子会社を含む)が、提出会社の株主との間で、次のガバナンスに影響を及ぼし得る合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的及びガバナンスへの影響等の開示を求める。 Ⅲ 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意 有価証券報告書等の提出会社が、提出会社の株主(大量保有報告書を提出した株主)との間で、次の株主保有株式の処分等に関する合意を含む契約(重要性の乏しいものを除く)を締結している場合、当該契約の概要や合意の目的等の開示を求める。 Ⅳ ローン契約と社債に付される財務上の特約 1 臨時報告書の提出 2 有価証券報告書等への記載 有価証券報告書等の提出会社が、財務上の特約の付されたローン契約の締結又は社債の発行をしている場合であって、その残高が連結純資産額の10%以上である場合(同種の契約・社債はその負債の額を合算する)、当該契約又は社債の概要及び財務上の特約の内容の開示を求める。 Ⅴ 施行期日等 本内閣府令は2024年4月1日から施行する。 なお、改正後の規定は、以下のとおり適用する。 (了)
《速報解説》 民間企業によるイノベーション投資を促進するためのイノベーションボックス税制の創設 ~令和6年度税制改正大綱~ 弁護士 羽柴 研吾 1 概要 令和5年12月22日に閣議決定された「令和6年度税制改正大綱」において、イノベーションボックス税制の創設が明記され、次のように、国内で自ら研究開発した知的財産権から生ずる譲渡所得やライセンス所得のうち、最大30%の金額をその事業年度の損金に算入できることとされた。この税制は、イノベーションの国際競争が激化する中、日本の研究開発拠点としての立地競争力を強化し、民間による無形資産投資を後押しすることを目的とするものである。 (※) 経済産業省「経済産業関係 令和6年度税制改正について」6頁より一部抜粋 2 イノベーションボックス税制の創設の背景 イノベーションボックス税制とは、知的財産権によって得られた所得について、優遇税率を適用することを通じてイノベーション投資を促す制度である。わが国では、既にイノベーション投資を促す税制として研究開発税制が導入されているところ、研究開発税制が研究開発投資に着目したインプット段階の税制として位置付けられているのに対し、イノベーションボックス税制は、研究開発の成果である知的財産の社会実装によって得られた収益に着目したアウトプット段階の税制として位置付けられている。 (※) 「自由民主党税制調査会資料」(令和5年12月7日)より一部抜粋 イノベーションボックス税制は、欧州を中心に導入され、近年ではアジア等の地域でも導入が進むなど、国際競争力を獲得するための制度間競争が顕著になっている。また、わが国の製造業における研究開発費は伸び悩みの傾向にあり、日本企業が海外で研究開発を行う比率も増加傾向にあるとの指摘もある。そのため、わが国の研究開発・イノベーション拠点としての魅力を高め、国際競争力を強化するために、イノベーションボックス税制の導入が期待されていたところであった。 このような国際情勢も踏まえ、経済産業省は「我が国の民間企業によるイノベーション投資の促進に関する研究会」を発足させ、令和5年7月31日に「我が国の民間企業によるイノベーション投資の促進に関する研究会中間とりまとめ」を公表し、イノベーションボックス税制の早期導入を提言していた。また、政府も、同年11月20日に公表した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」の1つとして、令和6年度税制改正において、イノベーションボックス税制を創設することを明記していた。 3 イノベーションボックス税制の概要 イノベーションボックス税制の適用にあたっては、自国での研究開発の実態との関連付けが求められている。これは、OECD修正ネクサスアプローチの考え方を採用したものと考えられる。 (1) イノベーションボックス税制の適用要件 (2) 損金算入できる金額の計算式 イノベーションボックス税制の適用によって受けられる所得控除の算定式のイメージは次のとおりである。 (※) 経済産業省「経済産業関係 令和6年度税制改正について」7頁より一部抜粋 上記(1)の要件を満たす場合、当該法人は、次の①と②の金額のうち、いずれか少ない金額の30%に相当する金額をその事業年度の損金に算入することができる。 4 施行日 イノベーションボックス税制は、令和7年4月1日から施行される予定である。 (了)