《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成28年4月~6月)」 ~注目事例の紹介(重加算税の賦課決定処分を中心に)~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、平成28年12月15日、「平成28年4月から6月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは表のとおり、全16件であった。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が12件、棄却された事例が4件となっている。税法・税目としては、国税通則法6件、所得税法4件、相続税法及び登録免許税法が各2件、法人税法及び国税徴収法が各1件であった。 【表:公表裁決事例平成28年4月~6月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された16件の裁決事例のうち、重加算税に関する不服審判所の考え方が示された上記②から⑥の5件の裁決事例から、不服審判所が、原処分庁の課税処分の一部又は全部を取り消したポイントを中心に紹介したい。 以下においては、審判所の判断について、「重加算税の賦課決定処分の要件」と「事例への当てはめ」という形で、全体の構成を統一しており、同時に、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。 1 重加算税(隠ぺい、仮装の認定 認めた事例)・・・② ◆相続財産である現金を申告しなかった事例 ⇒ 重加算税の賦課決定処分を認める (1) 争点 争点は、現金の申告漏れについて、重加算税の賦課要件である「隠ぺい」が認められるか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人の行為を「隠ぺい」と認め、原処分庁による重加算税の賦課決定処分を適法であると結論づけた。 なお、前掲表中、本事例は「一部取消し」に分類されているが、これは過少申告加算税計算の基礎となるべき税額について、一部取消しがあったものであり、重加算税の賦課決定処分については、棄却されている。 2 重加算税(隠ぺい、仮装の意図)・・・③ ◆生命保険金、生命保険契約に関する権利の申告漏れ ⇒ 重加算税の賦課決定処分を取り消す (1) 争点 争点は、請求人が、課税要件事実を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき過少申告をしたと認められるか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人の行為を「隠ぺい」とは認めず、原処分庁による重加算税の賦課決定処分を取り消す判断をした。 3 重加算税(隠ぺい、仮装の意図)・・・④ ◆死亡保険金の一部の申告漏れ ⇒ 重加算税の賦課決定処分を取り消す (1) 争点 争点は、請求人が本件各無申告保険金を本件当初申告の対象に含めなかったことは、課税要件事実を隠ぺい、仮装したところに基づく過少申告であるか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人の行為を「隠ぺい」とは認めず、原処分庁による重加算税の賦課決定処分を取り消す判断をした。 4 重加算税(隠ぺい、仮装の認定 認めなかった事例)・・・⑤ ◆太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装 ⇒ 重加算税の賦課決定処分を取り消す (1) 争点 争点は、請求人が、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人の行為を「隠ぺい」とは認めず、原処分庁による重加算税の賦課決定処分を取り消す判断をした。 5 重加算税(隠ぺい、仮装の認定 認めなかった事例)・・・⑥ ◆被相続人名義の預金口座の一部申告漏れ ⇒ 重加算税の賦課決定処分を取り消す (1) 争点 争点は、請求人が法定申告期限までに申告書を提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否かである。 (2) 審判所の判断 審判所はまず、重加算税を課するための要件として、次のように述べた。 そのうえで、以下の理由から、請求人の行為を「隠ぺい」とは認めず、原処分庁による重加算税の賦課決定処分を取り消す判断をした。 (了)
《速報解説》 「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」、意見募集を経て正式公表 ~監査証拠がイメージ文書の場合などのリスク・留意点を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月26日、日本公認会計士協会は、「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」(IT委員会研究報告第50号)を公表した。 IT委員会研究報告第50号は、平成27年及び平成28年の電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(以下「電子帳簿保存法施行規則」という)等の改正によるスキャナ保存制度の緩和の内容を周知し、企業がスキャナ保存制度を採用している場合の監査上の対応について述べている。 これにより、平成28年9月26日から意見募集していた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に寄せられた主なコメントの概要及び対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 電子保存とは、当初から電磁的記録で作成された文書を電磁的記録で保存すること及び書面で作成された書類をスキャナでイメージ化し、電磁的記録で保存することの両方を含んでいる(Ⅰ、1)。 1 平成27年度税制改正後のスキャナ保存制度 平成27年度税制改正及び平成28年度税制改正の概要について述べている(「付録2:平成27年度・28年度税制改正の詳細」も参照)。 平成28年の電子帳簿保存法施行規則の改正によりスキャナ保存における入力機器は、「原稿台と一体になったものに限る」という要件が外されたことから、ハンディスキャナやデジタルカメラ、スマートフォン搭載の約388万画素以上のカメラによる撮影データによる電子データ化も認められることになった。 2 監査証拠がイメージ文書の場合の留意点 スキャナ保存制度により、企業は当初書面で受け取った証憑についても、電子的イメージとして保存できるようになる。 書面からイメージ文書への媒体の変換は、企業の管理下において実施されるので、会計記録や監査証拠が、オリジナルな形を変えることとなり、そこに種々のリスクが想定される(Ⅲ)。 監査人は、スキャナ保存制度の導入による被監査会社におけるリスクの発生及びそれに対応した内部統制の変化に留意するとともに、監査証拠の質の変化に伴う発見リスクの変動にも留意する(Ⅲ)。 3 経営者による内部統制の構築 書面からイメージ文書への媒体の変換により、紙の文書に比べて保存場所を取らないため保管コストが低減されるなどの利点がある。 その一方で、例えば、改竄やすり替えなどの不正行為の痕跡が残らない可能性、システム障害などにより文書が消失する可能性などのリスクがある(Ⅲ、1(1))。 経営者は、これらのリスクを低減する適切な内部統制を構築することにより対応することが述べられており、全般統制、業務処理統制等の整備・運用について詳細に述べられている(Ⅲ、1(2))。 4 監査人の対応 重要な業務処理に関するプロセスにおいてスキャナ保存手続が採用されている場合、スキャナ保存手続に関する全般統制及び業務処理統制について理解し、その整備・運用状況の有効性を評価することが考えられる(Ⅲ、2)。 被監査会社におけるリスク及びそれに対応して構築された内部統制を前提にして、監査人が実施する監査手続について述べられている(Ⅲ、2)。 IT委員会研究報告第50号では、「データ提供依頼書の例」を示し、監査人は、企業とイメージ文書入手の手続等をあらかじめ決定しておくことが望ましいとしている(Ⅲ、4(3)、【図表2】データ提供依頼書の例)。 5 原本の保存に関する被監査会社との協議 自主規制・業務本部 平成27年審理通達第3号「平成27年度税制改正における国税関係書類に係るスキャナ保存制度見直しに伴う監査人の留意事項」(平成27年9月30日)では、「監査上必要と判断される金額以上の契約書など、重要な監査証拠となり得る書類の原本を、監査に必要な期間、保存することの必要性に関して、被監査会社と事前に十分協議することが適切と考えられる。」とされている。 被監査会社との事前の協議事項のポイントとして、次の事項が挙げられている(Ⅲ、3)。 6 IT委員会研究報告第30号の廃止 前述のとおり、平成28年12月26日付けで「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」(IT委員会研究報告第50号)が公表されたことから、「e-文書法への対応と監査上の留意点」(IT委員会研究報告第30号)は、同日付けで廃止されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、改正「公益法人会計基準に関する実務指針」を公表 ~過年度遡及や資産除去債務会計基準等適用にあたり留意事項を示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月22日、日本公認会計士協会は「公益法人会計基準に関する実務指針」(非営利法人委員会実務指針第38号)の改正を公表した。 これは、内閣府公益認定等委員会の下に設置された公益法人の会計に関する研究会から公表された「公益法人の会計に関する諸課題の検討状況について」(平成27年3月26日)及び内閣府公益認定等委員会から公表された「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成28年3月23日)に対応するものであり、Q&A方式により記載されている。 これにより、平成28年10月13日から意見募集していた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も併せて公表されており、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。「過年度遡及会計基準」という)に関連するコメントが多く寄せられている。 なお、監査上の取扱いについては、平成28年9月27日に、「公益法人会計基準を適用する公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人の財務諸表に関する監査上の取扱い及び監査報告書の文例」(非営利法人委員会実務指針第34号)が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 過年度遡及会計基準関係 「過年度遡及会計基準」の適用について、Q5及びQ6に記載されている。 公益法人では、原則として、過年度遡及会計基準に準拠することになるが、未適用の会計基準等に関する注記は、会社計算規則98条「注記表の区分」で特に記載が求められていないことから、当該注記を行うかどうかは各法人の任意と考えられている(Q5)。 また、Q6において、設例を用いて、会計方針の変更、表示方法の変更、会計上の見積りの変更、減価償却方法の変更、過去の誤謬の訂正が説明されている。 2 金融商品会計関係(開示) 「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。「金融商品会計基準」という)40-2項における時価の開示について、Q29及びQ30に記載されている。 Q29では、「公益法人の会計に関する諸課題の検討結果について」(平成28年3月23日)の記載を用いて、開示すべき金融商品の範囲を金融商品会計基準で規定するすべての金融商品を対象とするのではなく、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びにデリバティブ取引(先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引)等の法人の資産運用を図る手段として用いられる金融商品に限定していることが述べられている。 また、当該金融資産の運用次第では、公益目的事業の安定的な持続可能性に影響を与えるなど、法人運営に相当のリスクをもたらすおそれがあると法人が判断した場合に注記することとすべきであるとされているが、それ以外の場合であっても法人が自主的に注記を行うことは妨げられないことについて述べられている。 Q30では、「金融商品の状況に関する事項」の財務諸表における開示例が示されている。 3 資産除去債務関係 Q49では、公益法人における資産除去債務の会計処理上の留意点が述べられている。 資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額及び時の経過による資産除去債務の調整額は、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて事業費又は管理費に計上することになる。 資産除去債務の発生時に当該債務を合理的に見積もることができない場合についても述べられているが、例えばとして、建物を期限の定めなく公益目的事業に使用してほしいということで寄付を受けているが、当該保有に関する制約が寄付者等からいつ解除されるか明確ではない、すなわち資産除去債務の履行時期が寄付者等から明示されていないことだけをもって、ただちにその金額を見積もれない理由となるものではないことに留意するとし、このような場合には、当該資産に適用している耐用年数等から撤去時期を合理的に見積もることができないか慎重に検討する必要があるとしている。 4 賃貸等不動産関係 Q50からQ53までにおいて、公益法人における賃貸等不動産について述べられている。 基本的に「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第20号)等に従って記載されているが、公益法人に関する留意点についても述べられている。 Ⅲ 適用時期等 平成28年4月1日から開始する事業年度から適用する。 ただし、同日前に開始する事業年度から適用することを妨げない。 (了)
《速報解説》 株式保有特定会社の判定基準に新株予約権付社債を追加、 保有状況如何では評価額が高くなるケースも ~平成29年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 八代醍 和也 平成28年12月8日に与党から公表され22日に閣議決定された「平成29年度税制改正大綱」では、資産税に関する種々の改正案が示されているが、その中でも取引相場のない株式の評価に関しては、既報の「類似業種比準方式の見直し」(下記拙稿を参照)に加え、株式保有特定会社の判定基準にも見直しが行われており、こちらも会社によっては不利な影響及ぼす可能性がある見直しとなっている。 以下、その内容について解説を行う。 なお、文中の意見に関する部分については筆者の私見であることを申し添える。 1 概要 今般の見直しのポイントを整理すると、以下のとおりとなる。 2 見直しの影響 株式保有特定会社(いわゆる「株特」)は株式等の価額の割合が全資産の50%以上である会社で、会社の規模に関係なく純資産価額方式で評価され、類似業種比準方式の場合と比べて、一般的には高い金額で評価されることとなる。 この判定にあたり、新株予約権付社債はこれまで除外されてきたのであるが、改正案では、新株予約権付社債は株価と連動して価額が形成されるものであることから、これを含めて判定を行うこととされた。 しかしながら、新株予約権付社債を判定対象に加えることにより、株式に代えて他の資産を保有することにより、株式保有特定会社と判定されることを免れ、類似業種比準方式で評価しようとする「株特はずし」に一定の歯止めをかけたというところが実際の本音のようである。 いずれにせよ、株式とその性質が共通する新株予約権付社債についても同様の取扱いをするというのは、納税者不利とはいえ、ある程度納得感のある改正案であると筆者は評価している。 現行と改正案におけるそれぞれの判定式は下表のとおりとなる。 (表1) 株式保有特定会社の判定式 この結果、新株予約権付社債を保有している会社においては、「株式」に「新株予約権付社債」を加えた割合が全資産の50%を超えた場合には、株式保有特定会社と判定されることになる。 上記を例示すると、下図のとおりとなる。 (図1) 株式保有特定会社の判定の見直し(数値は仮のもの) 3 改正案への対応 今般の見直しはとりもなおさず、株式保有特定会社と判定される会社の範囲を広げるものであり、納税者にとっては不利影響を及ぼすものである。 改正案への対応策としては、短期的なものと中長期的なものとの2つに整理できると考える。 ① 向こう2年程度での株式譲渡を検討している場合 新株予約権付社債を保有しており、かつ、全資産に占める株式の割合が相当程度高い評価会社の株式について向こう2年程度での譲渡を検討している場合、まずは改正案における判定結果において、その評価会社が株式保有特定会社に該当するかどうかの検討を行う必要がある。 その上で該当する場合には、適用開始前の株式譲渡についても検討する必要が生じよう。 改正案が「平成30年1月1日以後の相続等により取得した財産の評価に適用」されることになるため、なるべく早い時期での検討を行いたいところである。 ② 中長期的に資産構成を見直す必要も また、短期的には株式譲渡の予定がない場合であっても、新株予約権付社債を保有している評価会社については、その他の株式割合が相当に低い場合を除いては、合理的な範囲で他の資産への組替えを行っていき、会社のバランスシート上の資産の部の構成を段階的に見直していくことを検討すべきである。 こちらも株式譲渡の直前になってしまってから慌てて対策を講じたり、「株特はずし」を行って株式保有特定会社でなくなった後、直ちに評価会社の株式を譲渡するなどした場合には、評価会社の資産構成の変動に合理的な説明がつかず、課税庁から不当な税負担の軽減を図ったものと認定される可能性もあり、少しずつ早めに対応しておくことが肝要であろう。 (了)
《速報解説》 「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」等の改正(公開草案)が公表 ~指定国際会計基準等準拠の国内子会社・国内関連会社を対象範囲に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月22日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は平成29年2月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 現行の「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)は、「当面の取扱い」として、次のケースを規定している。 公開草案は、「在外子会社の財務諸表(国際財務報告基準又は米国会計基準)」だけでなく、「国内子会社」が指定国際会計基準に準拠した連結財務諸表を作成して金融商品取引法に基づく有価証券報告書を開示している場合も、「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)の対象範囲に含めようとするものであり、表題を「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」と改正することを提案している。 なお、「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」を国内子会社が適用する場合に関しても、同様に本実務対応報告の対象範囲に含めるとしている。 改正により、「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号の改正案)は、「当面の取扱い」として、次の2つのケースを規定することになる。 持分法適用関連会社については、「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告第24号の改正案)をお読みいただきたい。 Ⅲ 適用時期等 (了)
平成27年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「平成27年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 相続時精算課税との併用を認める等、事業承継税制の要件緩和 ~平成29年度税制改正大綱~ エアーズ税理士法人 税理士 瀧尻 将都 1 はじめに 平成28年12月8日に与党(自由民主党及び公明党)より平成29年度税制改正大綱が公表され、22日に閣議決定された。以下では、大綱で示された事業承継税制の要件緩和について解説を行う。 2 改正の背景 与党大綱の冒頭「第一 平成29年度税制改正の基本的な考え方」では、事業承継税制の見直しについて、次のように説明されている。 同制度は、平成25年度の税制改正の要件緩和に伴い、平成27年度の認定件数は増加したものの、平成27年度の認定件数の推計は456件(平成28年8月 経済産業省「平成29年度税制改正に関する経済産業省要望」より)程度であり、同制度のさらなる利用促進と利便性の向上を図る必要があった。 そこで、具体的には、相続時精算課税制度との併用、人手不足の中での雇用要件の見直し及び、災害による被害を受けた場合や、主要取引先の倒産により売上が減少した場合には、雇用確保要件等の緩和を行うこととなった。 この改正は、平成29年1月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用するとともに、所要の経過措置を講ずることになっている。 3 改正の概要 〈改正点①〉 相続時精算課税制度に係る贈与を、贈与税の納税猶予制度の適用対象に加える。 贈与税の納税猶予の適用を受けても、認定が取り消された場合、高額の贈与税負担が発生するリスクが存在し、これにより同制度の利用は敬遠されていた経緯があるが、この改正により相続時精算課税制度との併用を認めることにより、認定が取り消された場合でも、税負担は相続税と同額になるため、同制度の利用促進につながるものと考えられる。 (※) 「平成29年度 経済産業関係 税制改正について」P30より 〈改正点②〉 納税猶予の取消事由に係る雇用確保要件について、相続開始時又は贈与時の常時使用従業員数に100分の80を乗じて計算した数に1人に満たない端数があるときは、これを切り捨てる(現行は「切り上げる」)こととする。ただし、相続開始時又は贈与時の常時使用従業員数が1人の場合には、1人とする。 事業承継税制の雇用要件について、維持すべき従業員数(5年平均8割)を計算する際、改正前は端数を切り上げていたところを、改正により切り捨てることになった。従来、5名未満の企業の従業員数が1名減った場合、改正前は要件を満たさないこととなっていたが、改正により5名未満の企業の従業員数が1名減った場合でも、雇用要件を満たすことが可能となる。 (※) 「平成29年度 経済産業関係 税制改正について」P28より 〈改正点③〉 災害等の被災者等が納税猶予制度の適用を受ける場合について、次の措置を講ずる。 ① 災害等の発生前に相続若しくは遺贈又は贈与により非上場株式等を取得し、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「経営承継円滑化法」)の認定を受けている、又はその認定を受けようとしている会社が、その後に一定の災害等により被災した場合は、受けた被害の態様に応じ、その認定承継会社の雇用確保要件の免除又は緩和等をする。また、その被害を受けた会社が破産等した場合は、経営承継期間内であっても猶予税額を免除する。 ② 災害等の発生後に相続又は遺贈により非上場株式等を取得し、経営承継円滑化法の認定を受けようとしている会社は、上記①の措置に加え、事前役員就任要件を緩和する。 災害や取引先の倒産等が生じた場合、事業継続のため、やむを得ず、雇用調整を行うことがあるが、その場合、雇用確保要件に抵触し、認定を取り消される可能性があった。そのため、リスクを恐れ、同制度の利用を敬遠されていた経緯があるが、この改正により災害等が生じた場合でも、雇用要件の緩和(免除)により、災害等が生じても同制度の認定が取り消される可能性が低下するため、同制度の利用促進につながるものと考えられる。 (※) 「平成29年度 経済産業関係 税制改正について」P29より (了)
《速報解説》 ASBJ、「公共施設等運営事業における運営権者の 会計処理等に関する実務上の取扱い」(公開草案)を公表 ~PFI事業に係る会計処理等を整備~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月22日、企業会計基準委員会は、「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第48号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成23年に民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)(以下「PFI法」という)が改正され、公共施設等運営権制度が新たに導入されたことによる。 意見募集期間は平成29年2月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 公共施設等運営権制度について 管理者等(PFI法2条3項に規定する公共施設等の管理者である各省各庁の長等をいう)が所有権を有する公共施設等(PFI法2条1項に規定する道路、空港、水道等の公共施設、庁舎等の公用施設、教育文化施設等の公益的施設等をいう)について、公共施設等運営権(PFI法2条7項)を民間事業者に設定する制度が新たに導入された。 運営権者が実施する公共施設等運営事業は、公共施設等運営権の設定を受けて、管理者等が所有権を有する公共施設等について運営等(運営及び維持管理並びにこれらに関する企画をいい、国民に対するサービスの提供を含む)を行い、利用料金を自らの収入として収受するものである(24項。PFI法2条6項)。 2 公共施設等運営権の取得時の会計処理 公共施設等運営権の取得は、リース取引に該当せず、運営権者は、公共施設等運営権を取得した時に、公共施設等運営権の対価(運営権対価)について、合理的に見積られた支出額の総額を無形固定資産として計上する(3項、7項)。 運営権対価を分割で支払う場合、資産及び負債の計上額は、運営権対価の支出額の総額の現在価値によるとし、割引率には運営権者の契約不履行に係るリスク(運営権者の信用リスク)を反映させる(4項、5項)。 運営権対価の支出額の総額とその現在価値との差額については、運営権設定期間(PFI法17条3号に規定する公共施設等運営権の存続期間をいう)にわたり利息法により配分する(5項)。 3 減価償却の方法及び耐用年数 無形固定資産に計上した公共施設等運営権は、原則として、運営権設定期間を耐用年数として、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、その取得原価を各事業年度に配分する(8項)。 4 減損会計の適用 公共施設等運営権は「固定資産の減損に係る会計基準」の対象となる。 適用に際して、減損損失の認識の判定及び測定において行われる資産のグルーピングは、原則として、実施契約に定められた公共施設等運営権の単位で行う(10項)。 5 プロフィットシェアリング条項 実施契約において、運営権対価とは別に、各期の収益があらかじめ定められた基準値を上回ったときに運営権者から管理者等に一定の金銭を支払う条項(プロフィットシェアリング条項)が設けられる場合、当該条項に基づき各期に算定された支出額を、当該期に費用として処理する(11項)。 6 更新投資に関する会計処理 更新投資に係る資産及び負債の計上に関する取扱いは、次のとおりである(12項~15項。割引率については13項参照)。 7 開示 Ⅲ 適用時期等 本実務対応報告は、公表日以後適用することを予定している。 (了)
《速報解説》 ASBJ、「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い」等を公表 ~コメント対応、IFRSに係る論点の検討も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月16日、企業会計基準委員会は次のものを公表した。 これにより、平成28年6月2日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 また、これらの公表に際して、「実務対応報告公開草案第47号「リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い(案)」等の主なコメントの概要とそれらに対する対応」が公表されている。これによると、公開草案に対する反対意見も寄せられていることから、コメントに対する対応に記載された内容は、実務上、参考になるものと思われる。 今回の改正等は、平成 27年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」に基づき実施される施策として、新たな確定給付企業年金の仕組みが導入されていることから、これに関する会計処理等を規定するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 実務対応報告第33号の主な内容 1 範囲 「リスク分担型企業年金」に関する会計処理及び開示に適用する(2項)。 ① リスク分担型企業年金は、確定給付企業年金法(平成13年法律第50号)に基づいて実施される企業年金のうち、確定給付企業年金法施行規則(平成14年厚生労働省令第22号)1条3号に規定する企業年金である(2項)。 ② 給付額の算定に関して、確定給付企業年金法施行規則25条の2に規定される調整率(積立金の額、掛金額の予想額の現価、通常予測給付額の現価及び財政悪化リスク相当額(通常の予測を超えて財政の安定が損なわれる危険に対応する額)に応じて定まる数値)が規約に定められる(2項、16項)。 2 会計上の退職給付制度の分類 退職給付制度の分類は次のように行う(3項~5項、22項)。 ① 確定拠出制度(退職給付会計基準4項) リスク分担型企業年金のうち、企業の拠出義務が、給付に充当する各期の掛金として、規約に定められた標準掛金相当額(給付に要する費用に充てるため、事業主が将来にわたって平準的に拠出する掛金に相当する額)、特別掛金相当額(年金財政計算における過去勤務債務の額に基づき計算される掛金に相当する額)及びリスク対応掛金相当額(財政悪化リスク相当額に対応するために拠出する掛金に相当する額)の拠出に限定され、企業が当該掛金相当額の他に拠出義務を実質的に負っていないもの ② 確定給付制度(退職給付会計基準5項) ①以外のリスク分担型企業年金 ③ 再判定 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、直近の分類に影響を及ぼす事象が新たに生じた場合(例えば、新たな労使合意に基づく規約の改訂が行われた場合)、実務対応報告第33号3項及び4項に従って、会計上の退職給付制度の分類を再判定する。 3 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金の会計処理及び退職給付制度間の移行に関する取扱い ① 規約に基づきあらかじめ定められた各期の掛金の金額(実務対応報告第33号10項(3)に基づき未払金等として計上した特別掛金相当額を除く)を、各期において費用として処理する(7項)。 ② 退職給付会計基準5項に定める確定給付制度に分類される退職給付制度から退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に移行する場合、退職給付制度の終了に該当する(9項。具体的な会計処理は10項に規定)。 なお、退職給付会計基準5項に定める確定給付制度に分類されるリスク分担型企業年金の会計処理及び開示に関する取扱いは、退職給付会計基準等に従うことに特段の論点はないと考えられたことから、実務対応報告第33号では、特に取扱いは示されていない(21項)。 4 開示 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金については、退職給付会計基準32-2項に定められている注記事項として、次の事項を記載する。 (1) 企業の採用するリスク分担型企業年金の概要 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金の概要として、例えば、次の内容を記載する。 ① 標準掛金相当額の他に、リスク対応掛金相当額があらかじめ規約に定められること ② 毎事業年度におけるリスク分担型企業年金の財政状況に応じて給付額が増減し、年金に関する財政の均衡が図られること (2) 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額 退職給付会計基準4項に定める確定拠出制度に分類されるリスク分担型企業年金に係る退職給付費用の額については、実務対応報告第33号7項に基づき費用処理した額を確定拠出制度に係る退職給付費用の額として注記する。 (3) 翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数 規約に定められる所定の方法によりあらかじめ定められた、翌期以降に拠出することが要求されるリスク対応掛金相当額及び当該リスク対応掛金相当額の拠出に関する残存年数を注記する。 Ⅲ 適用時期等 実務対応報告第33号は、平成29年1月1日以後適用する。 Ⅳ IFRSに関連して リスク分担型企業年金に関するIFRS上の会計処理については、企業会計基準委員会の事務局による論点の検討が行われているので、お読み頂きたい。 (了)
2016年12月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.199を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。