検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10958 件 / 6951 ~ 6960 件目を表示

平成29年度税制改正における『組織再編税制』改正事項の確認 【第5回】

平成29年度税制改正における 『組織再編税制』改正事項の確認 【第5回】 (最終回)   公認会計士 佐藤 信祐   6 2段階組織再編成の見直し T&Amaster675号15頁の「二次・三次再編の税制適格要件を見直し」では、二次再編が見込まれている場合だけでなく、三次再編が見込まれている場合についても改正法人税法施行令で規定されることが報道されていた。この点、法人税法施行令4条の3第25項を確認すると、二次再編が適格合併である場合には、「当該適格合併に係る合併法人は、当該適格合併後においては当該各号に定める法人とみなして、当該各号に規定する規定及びこの項の規定を適用する。」と規定されている。これにより、二次再編の合併法人が適格合併により解散することが見込まれている場合にも、「当該各号に定める法人」とみなされることから、一次再編を適格組織再編として取り扱うことが可能になる。 ただし、実際の条文を見てみると、すべての組織再編に対応したものとはなっていない。例えば、合併については、法人税法施行令4条の3第3項2号において、同条2項2号を読み替えることにより、実質的に同令25項が適用されるため、同一の者が適格合併により解散することが見込まれる場合の取扱いについては、50%超100%未満グループ内の合併においても対応しているように思われる。しかし、法人税法本法にはこのような規定がないことから、合併法人が適格合併により解散することが見込まれる場合における従業者引継要件、事業継続要件については、三次再編に対応していないということが言える。 これは、共同事業を行うための合併における従業者引継要件、事業継続要件についても同様である。この点については、財務省の立法担当者による「平成29年版改正税法のすべて」を確認する必要があろう。   7 資産調整勘定の償却の見直し 平成29年度与党税制改正大綱では、資産調整勘定及び差額負債調整勘定について、月割計算を行うことが記載されている。実際の条文については、法人税法62条の8第4項、7項を確認されたい。   8 繰越欠損金、特定資産譲渡等損失の見直し 平成29年度税制改正前は、特定資産譲渡等損失相当額における「特定資産」の定義が「支配関係発生日において有する資産」、特定資産譲渡等損失額の損金不算入における「特定資産」の定義が「支配関係発生日前から保有していた資産」とされていた。 そのため、例えば、3月決算法人であるA社を×1年7月1日に買収したときは、A社において、×1年4月1日から×1年6月30日までに発生した損失は、支配関係発生日(×1年7月1日)には存在しないことから、特定資産譲渡等損失相当額に該当しないと解されていた。これに対し、特定資産譲渡等損失額の損金不算入の計算では、支配関係発生日前には有していることから、該当する余地があると解されていた。 この点につき、平成29年度税制改正では、「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除制度のうち支配関係がある法人間でみなし共同事業要件を満たさない適格合併等が行われた場合における欠損金の制限措置及び特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入制度について、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に生じた特定資産の譲渡等損失額を制限の対象に加える(平成29年度与党税制改正大綱72頁より抜粋)」こととされた。 これを条文で確認すると、法人税法62条の7第2項2号では、特定保有資産の定義について、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日前から有していた資産」と定められた。このことにより、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に取得した資産は特定保有資産から除外されることとされ、納税者優位に解することができるようになった。 それと当時に、法人税法施行令123条の8第3項5号では、「第62条の7第2項第1号に規定する支配関係発生日(第12項において「支配関係発生日」という。)の属する事業年度開始の日以後に有することとなった資産及び同日における価額が当該同日における帳簿価額を下回っていない資産」を特定資産から除外することされた。すなわち、特定引継資産からも支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までの間に取得した資産が除外されることが明らかにされている。さらに、時価が帳簿価額を下回っていない場合に特定資産から除外することができるという特例も、その算定基準日が支配関係発生日の属する事業年度開始の日とされた。 そして、法人税法施行令112条5項1号においても、 と規定された。 このことにより、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日前から有していた資産」が、特定資産として取り扱われることになり、支配関係発生日の属する事業年度開始の日から支配関係発生日の前日までに損失を実現させることにより、繰越欠損金の引継制限、使用制限を回避することはできなくなった。   9 むすび このように、平成29年度税制改正では、組織再編税制の大幅な見直しがなされており、今後の実務への影響は大きいと思われる。 なお、本稿は、「平成29年版改正税法のすべて」が公表される前に校了したものであるため、その内容については触れていない。「平成29年版改正税法のすべて」を確認することにより、その制度趣旨についても理解することができると思われる。 本稿が、皆様のお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)

#No. 218(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/05/18

相続税の実務問答 【第11回】「代償分割の対象となった財産の中に小規模宅地等がある場合」

相続税の実務問答 【第11回】 「代償分割の対象となった財産の中に小規模宅地等がある場合」   税理士 梶野 研二   [答] お兄様については、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「小規模宅地等の特例」といいます)を適用することにより、相続税の課税価格は算出されないこととなりますが、お兄様が、同特例を適用することによって、あなたの相続税の課税価格の計算に影響が生じることはありません。 なお、お兄様については、相続税の課税価格が算出されないとしても、小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告が必要となりますので、ご注意ください。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   ● ● ● ● ●  説 明 ● ● ● ● ● 1 小規模宅地等の特例 相続や遺贈により取得した財産のうちに、その相続開始の直前に被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で一定の要件を満たすものがある場合に、その宅地等を取得した相続人等が一定の要件を満たすときには、その宅地等を取得した相続人等全員の選択により、その宅地等のうちの一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額を軽減することができます。 例えば、被相続人の居住の用に供されていた宅地を取得した相続人が被相続人と同居していた者であり、その者が相続税の申告期限まで居住を継続する場合には、その宅地は、租税特別措置法第69条の4第3項第2号に定める特定居住用宅地等に該当し、相続税の課税価格に算入すべき価額は、330平方メートルまでの部分についてその宅地の相続税評価額の100分の20とされます。   2 ご質問の場合 (1) 小規模宅地等の特例を適用した場合の相続税の課税価格の計算 お母様とお兄様が居住の用に供していた建物の敷地は、お兄様が、代償分割により、単独で相続されたとのことですが、お兄様が相続したこの敷地は、特定居住用宅地等に該当するものと思われます。 この敷地の面積が330平方メートル以下であるとすると、小規模宅地等の特例を適用することにより、相続税の課税価格に算入される価額は、1,400万円(7,000万円×20/100)となります。 そうしますと、次の算式のとおり、お兄様の相続税の課税価格は、算出されないこととなります。ただし、この小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続税の申告が必要となりますので、ご注意ください(措法69の4⑥)。 (注) ご質問の場合、代償分割の対象とされた財産が、土地及び建物であるとの前提を置くと、お兄様が支払う代償金の額(3,840万円)は、土地及び建物の価額の合計額(2,080万円)から控除し、控除しきれない額は、切捨てとなり、代償分割に関係しないその他の財産の価額500万円がお兄様の相続税の課税価格となるとの考え方もあり得ます。相続税の課税価格の計算に当たっては、代償分割の趣旨、内容、分割協議書の文言等を十分に検討する必要があると思われます。 なお、お兄様が、小規模宅地等の特例を適用したとしても、あなたの相続税の課税価格4,340万円に変動はありません。 (2) 各共同相続人の課税価格に開差が生じることについて 上記(1)のように、被相続人の居住の用に供されていた宅地を取得した相続人が小規模宅地等の特例を適用することにより、共同相続人間で遺産を平等に分割したにもかかわらず、それぞれの相続税の課税価格、したがって相続税の負担額が異なることとなります。 この差異は、この特例が、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地を相続等により取得した相続人等で、事業や居住の継続等の一定の要件を満たす者について、その者の相続税の課税価格に算入される金額を減額することにより、その者の事業継続又は居住継続を支援するという趣旨で設けられていることによるものです。 また、小規模宅地等の特例を適用した相続人について、同特例適用後の土地の価額及びその他の取得資産の価額の合計額から代償債務の額を控除すると、上記(1)の計算式で示したとおり控除しきれない金額が生じますが、この控除しきれない金額は切捨てとなり、他の共同相続人の課税価格から控除することは認められません。そのため、分割のしかたによって、共同相続人全員の相続税の負担額の合計額が増加することがあり得ます。 例えば、ご質問のケースで、建物とその敷地をお兄様が取得し、その他の財産を質問者が取得した場合の相続税の課税価格は次のようになり、課税価格の合計額が、相続税の基礎控除額4,200万円(3,000万円+600万円×2名)を超えませんので、相続税額は算出されないこととなります(ただし、小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続税の申告が必要です)。 このように、遺産分割の方法や分割の内容により、税負担に差異が生じることがありますので、遺産分割に当たっては、専門家のアドバイスを受けるなど、事前に十分な検討を行う必要があるでしょう。   (了)

#No. 218(掲載号)
#梶野 研二
2017/05/18

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第14回】「買換資産を本人が居住の用に供しない場合の適用関係①(単身赴任等の場合)」-居住の用の判定-

特定居住用財産の買換え特例[一問一答] 【第14回】 「買換資産を本人が居住の用に供しない場合の適用関係① (単身赴任等の場合)」 -居住の用の判定-   税理士 大久保 昭佳   Q 譲渡資産や買換資産を、X(譲渡者本人)が単身赴任等で日常生活の用に供していないときでも、「特定の居住用財産の買換えの特例(措法36の2)」の適用を受けることができる場合があるそうですが、この場合の適用関係について説明してください。 A それぞれの態様に応じた適用関係を図解により説明しますと、次のとおりとなります。 ●○●○解説○●○● (1) 買換資産に本人と妻子が同居する場合 譲渡資産について居住用家屋の所有者(譲渡者本人)が単身赴任等で他に起居している場合には、措通36の2-23(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用)により、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に準じて「居住の用に供している」かどうかを判定しますから、この特例の適用を受けることができます。 (2) 買換資産に妻子のみが居住する場合 買換資産について居住用家屋の所有者(譲渡者本人)が単身赴任等で他に起居している場合には、措通36の2-17(買換資産を当該個人の居住の用に供したことの意義)により、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に準じて「居住の用に供している」かどうかを判定しますから、この特例の適用を受けることができます。 (了)

#No. 218(掲載号)
#大久保 昭佳
2017/05/18

ストーリーで学ぶIFRS入門 【第16話】「連結財務諸表(IFRS第10号)、おさえるポイントは3つ!」

ストーリーで学ぶ IFRS入門 【第16話】 (最終回) 「連結財務諸表(IFRS第10号)、おさえるポイントは3つ!」」 仰星監査法人 公認会計士 関根 智美   ようやく仕事がひと段落ついた桜井は、大きく伸びをして、肩を回す。窓の外を見ると、空はまだ明るい。日が長くなってきた証拠だ。 桜井は、とある中規模の上場メーカーの経理部に勤めている。5月も下旬に差しかかり、まだまだ忙しいものの、年度決算という繁忙期のピークが過ぎた経理部内の雰囲気も落ち着いてきた。 「お疲れさん。」と、桜井の隣に座っているイカツイ男性が声をかけてきた。2年先輩の藤原だ。藤原とは年末からしばらく険悪な関係が続いていたのだが、先月ようやく和解し、以前のように気軽な話をする仲に戻っている。 「今日は久しぶりに早く上がれそうです。先輩も順調そうですね。」 「ああ。この決算が終わったら、またIFRSプロジェクトが待っているけどな。」 藤原は溜息をついた。桜井の会社では、数年以内にIFRSを導入することが決まっており、藤原はそのプロジェクトチームの一員なのだ。桜井はメンバーには含まれていないものの、去年の夏から藤原にIFRSを教わっていた。 「僕が先輩からIFRSを教わり始めて、そろそろ1年になるんですね・・・」 桜井は感慨深げに言った。初めは教わる一方だった桜井も、最近では藤原に頼らず、自分から進んで本を開くようになっている。 「そう言えばそうだな。ちゃんと自主勉続けているか?」と、藤原が訊いた。 「もちろんですよ。今は忙しいから、専ら電車の中だけですけど。」 「へぇ。なかなか頑張っているじゃないか。」 「今朝は、IFRS第10号の連結財務諸表の章を勉強したんですよ。」 藤原の言葉に嬉しくなり、桜井は得意げに言った。今回の決算で初めて本格的に連結業務に携われたこともあり、桜井はIFRSの連結についても興味を覚えたからだ。 「そう言えば、連結について教えていなかったな。すっかり忘れていた。」 頬をポリポリ掻きながら、藤原が言った。IFRS導入決定後すぐに検討した論点であったこともあり、藤原の中では既に桜井に教えたつもりになっていたのだ。 「え、忘れてたんですか!?」 言い訳をするのも格好が悪いと思った藤原は、桜井にこう言った。 「俺も切りがいいところだから、今から簡単に説明してやるよ。今朝の復習になるだろ?」 「まぁ、しょうがないですね。それで手を打ちましょう。」 桜井の生意気な返事に口元を緩めた藤原は、桜井の頭を軽く小突いた。 IFRS第10号「連結財務諸表」と日本基準との違い 藤原はいつものようにコホンと咳払いをすると、話を始めた。 「さて、まずはIFRS第10号と日本基準との相違点を確認していこう。」 「そこなら僕に任せてください。」 桜井は胸を張って言った。 「連結手続は基本的に日本基準と同じなんですが、連結の範囲、報告日の統一、会計方針の統一などの項目でIFRSと日本基準との間に差異があります。」 桜井は、顎に手を当てて、思いつく日本基準との違いを挙げた。 「ああ。違いのある項目を書き出すと、こんなもんだ。」 そう言うと、藤原は白紙にずらずらと項目を書き出した。 【連結財務諸表―IFRS第10号と日本基準との主な差異】 「へぇ。こうやって差異がある項目をみると、それなりにあるんですね。」 桜井は、藤原が書き連ねた項目をそれぞれ見ながら感想を言った。 ◆今回の学習項目は「連結の範囲」「会計方針の統一」「報告日の統一」 「その中でも今日は、上3つの『連結の範囲』、『会計方針の統一』、『報告日の統一』について教えるぞ。この3つを押さえておけば、当面は大丈夫だ。」 「はい、お願いします。」 桜井はぺこりと藤原に頭を下げた。   連結の範囲 会計方針の統一 報告日の統一   ◆ IFRSでは原則として、すべての子会社を連結する 藤原は、もう一度咳払いをした。 「まず、IFRSでは、原則として、すべての子会社(subsidiary)が連結の対象になる。」 「あ、それなら知っています。日本基準のような、支配が一時的等の理由によって連結から除外する例外規定は、IFRSにはないんですよね。」 「ああ。もちろん子会社の判定に際して重要性を勘案することはあるだろうが、IFRS第10号『連結財務諸表(consolidated financial statements)』には、子会社に関する例外規定はないな。」 しかし、桜井は腑に落ちない様子だ。 「でも、先輩はさっき『原則として』と言っていましたよね?なんだか例外があるように聞こえますが・・・?」 桜井の疑問に藤原はニヤリと返した。 「よく気がついたな。実は親会社(parent)が投資会社(investment entities)に該当する場合の例外があるからなんだ。」 「へぇ。そんな例外があるんですね。」 「ただ、ウチの会社のようなメーカーには関係ない話だから、この例外については、気にしなくていいぞ。」 桜井は「はい。」と頷きながら、ノートにメモを取った。 ◆支配モデルにより子会社かどうかを判定する 「そして、連結の範囲に含まれる子会社に該当するかどうかは、支配(control)モデルにより判定するんだ。」 「支配力で子会社がどうかを判定する考え方は、日本基準と同じなんですね。」 「そうだな。この支配モデルでは、3つの要件を満たす必要がある。この3要件は分かるか?」 「もちろんです。」と、桜井はノートから顔を上げて答えた。 「パワー、リターン、パワーとリターンの関連、という3つの要件を全て満たせば、その投資先を支配していると考えるんですよね?」 「正解だ。この3つの要件の関係を図で表すとこんな感じだな。」 藤原は再びペンを手に取り、紙に図を書き始めた。 【支配の3要件】 「この図の中の①~③までの要件が「支配の要件」というわけですね。」 図を見た桜井が確認した。 「その通り。では、今度はそれぞれの要件がどんなものかを確認していくぞ。」 ① パワー 藤原は、間を置かず説明を続けた。 「1つ目の要件はパワー(power)だ。この要件をより詳しく言うと、『投資先に対するパワーを有していること』という要件だ。具体的には、どういうことを意味しているのか、分かるか?」 藤原は腕を組んで椅子の背もたれにもたれかかりながら、桜井に尋ねた。桜井は、言葉を思い出しながら答えた。 「えっと・・・確か、関連性のある活動を指図する現在の能力を与える既存の権利を有していれば、投資先に対するパワーを有していると言えるんですよね。」 「そうだな。」 そこで、桜井が弱々しく付け加えた。 「実は、ここの意味がよく分からなくて・・・」 「確かに分かりにくい表現だよな。」と藤原も同意した。そして、こう続けた。 「こういう時は、言葉を分解して理解していくんだ。まずは『関連性のある活動』が何を指しているのかを知る必要があるな。」 ◆「関連性のある活動」とは 「えーと・・・何でしたっけ? 言葉からは想像できない定義だったことは覚えているんですけど・・・」 藤原は桜井の言葉に苦笑しながら説明した。 「『関連性のある活動(relevant activities)』とは、投資先の活動のうち、投資先のリターンに重要な影響を及ぼす活動のことを指すんだ。」 「あ、そうでした!」 「これには、資産の取得や処分、新しい製品や工程の研究や開発、資金調達に関する決定なんかが含まれることになる。」 「なるほど。少しずつイメージが湧いてきました。」 ◆「関連性のある活動を指図する能力」と「その能力を付与できる既存の権利」 「よし。次に、『関連性のある活動を指図する能力を付与することができる既存の権利』を分解しよう。」 「えーと、『関連性のある活動を指図する能力』と『その能力を付与できる既存の権利』といった感じでいいんですか?」 「そうだ。」 藤原は、桜井が理解できやすいように、再びイメージ図を描いた。 「分かりやすく、ウチの会社を例に説明しよう。まず、『関連性のある活動』を特定しなければならないんだが、ここでは営業上の重要な決定を『関連性のある活動』と考えよう。」 「はい。」 「では、そこで質問だ。ウチの会社では営業上の重要な決定は誰がするんだ?」 「えーと、取締役会ですか?」 「そうだな。じゃ、取締役に権限を与えるのは誰だ?」 「株主だと思います。」 藤原の顔色を窺いながら桜井が答えた。 「そう。株主、つまり議決権保有者だ。この例では、『既存の権利』とは議決権のこと指すんだ。」 「そういうことですか。あの分かりにくい定義の意味がやっと理解できました。投資先の関連性のある活動に関して意思決定できる能力を与えることができる権利を持っていれば、その投資先に対してパワーがあると言えるわけですね。」 「そういうことだ。」 藤原は満足そうな表情を浮かべた。 ◆通常、議決権の過半数を保有していれば、パワーを有する 「パワーを有するかどうかの評価に際しては、実質的な権利のみを検討することになるんだが、一般的には議決権の過半数を保有してれば、その投資先に対してパワーを有していると言えるんだ。」 「はい。」 ◆ IFRSでは潜在的議決権も考慮する 「それから、議決権の過半数を保有していない場合にパワーを有しているかを判断する時に出てくる考慮事項の一つに、潜在的議決権(potential voting rights)がある。」 「潜在的議決権、ですか?」 「ああ。日本基準には潜在的議決権に関する規定はないが、IFRSでは考慮する必要がある。よく覚えておけよ。」 「なるほど。了解しました。」 ② リターン 「続いて要件の2つ目、リターン(returns)についてだ。ここでは、投資者が投資先への関与により生じる変動リターンに晒されているか、または権利を有しているかどうかを判断することになる。」 ◆リターンには正の値、負の値、その両方の場合がある 「そう言えば、このリターンには、正の値のみだけではなく、負の値のみ、または、その両方の場合があるって本に書いてありました。」 「その通り。投資先からのリターンと聞くと、プラスのイメージを思い浮かべるかもしれないが、マイナスの場合や、プラスとマイナスの両方が生じる場合もあり得るんだ。」 「分かりました。」と桜井は頷いた。 ◆変動リターンかどうかは取り決めの実質に基づき評価 「それから、『変動リターン』とあるが、リターンに変動性があるかどうかは、リターンの法的形態にかかわらず、取り決めの実質に基づいて評価する必要がある。」 「えーと、それってどういう意味なんですか?」 「例えば、投資者が固定金利の債権を保有している場合、この固定金利の支払いは変動リターンだ。」 「利息の金額は一定なのに『変動リターン』なんですか?」 「そうなんだ。金利の支払いには債務不履行リスクがあり、投資者は債権発行者の信用リスクに晒されているため、リターンに変動性があると考えるからなんだ。基準には他にも、固定の業績報酬についても投資者を投資先の業績リスクに晒すことになるため、変動リターンであるといった例が挙げられている。」 「なるほど。リターンが契約上固定額であったとしても、リターンに変動性があるかどうかを実質的に判断しなければならないってことなんですね。うーん、難しいなぁ。」 藤原は、桜井のぼやきに苦笑した。 「ウチの会社規模だと、そこを悩む必要はないけどな。」 ◆リターンの範囲は広い 藤原は、この項目の最後の説明に入ることにした。 「そして、“リターン”と一言で表現しているが、その範囲は広いんだ。」 「配当や分配金だけじゃないんですか?」 「そのほかにも、投資価値の変動、サービス業務等による報酬、税務上の便益、規模の経済や希少な製品の調達などもリターンに含まれる。」 「へぇ!単純に金銭的なリターンだけってわけじゃないんですね。」 桜井は感心した様子で言った。 ③ パワーとリターンの関連 「そして最後に、投資先への関与により生じるリターンに影響を及ぼすように投資先に対するパワーを用いる能力を有している場合、投資先を支配していると言える。これが、3つ目の要件にあった、『パワーとリターンの関連(link between power and returns)』だ。」 「うーん、先輩、なんでこの3つ目の要件が必要なんですか?投資先に対してパワーを有していて、投資先への関与により生じるリターンだけでも十分な気がするんですが・・・」 桜井は、腕組みをして藤原が書いた支配の要件のイメージ図とにらめっこをした。 ◆「本人」なのか「代理人」なのかを決定 「この要件は、投資者が本人か代理人かを検討することを意味しているんだ。」 「代理人?」 桜井は、図から藤原へと視線を移した。 「そうだ。投資者がパワーを有していたとしても、その権利を自分のためではなく、他の当事者の便益のために行使する場合は、投資者は他の当事者の代理人にすぎず、当該投資先を支配しているとは言えないからなんだ。」 桜井は、ポンと手を打った。 「なるほど。そういうことですか!」 「だから、投資者が投資先を支配しているかどうか判定する際には、自らが本人か代理人かを決定することになる。それから、パワーを有している他の企業が、自社の代理人として行動しているかどうかについても検討する必要があるんだ。」 「つまり、パワーとリターンの要件を満たし、投資者が本人であれば、投資先を支配していることになり、代理人である場合には、支配しているとは言えないんですね。」 「そういうことだ。代理人かどうかを決定するには、投資先に対する意思決定権限の範囲や他の当事者が保有している権利、そして報酬などを考慮することになる。」 「はい。分かりました。」 「ここでも簡単なイメージ図を書いた方が、理解しやすいだろう。」 藤原は、桜井にも見えるように、再び余白部分にボックスと言葉を書き並べ始めた。 「ありがとうございます。」桜井は素直に礼を言った。   会計方針の統一 連結の範囲 報告日の統一   ◆類似の状況における同様の取引及び事象は統一された会計方針を用いる必要がある 「では、『会計方針の統一(uniform accounting policies)』に移ろう。ここからは、連結の範囲みたいに長々とした説明はないから安心してくれ。」 藤原の言葉に、桜井は安堵した。 「はい。たしかIFRSでは、類似の状況における同様の取引及び他の事象に関し、統一された会計方針を用いて、連結財務諸表を作成しなければならないんですよね。」 「その通りだ。もしある子会社が、類似の状況での同様の取引及び事象について連結財務諸表で採用した以外の会計方針を使用している場合には、連結財務諸表作成の際に、その子会社の財務諸表に適切な修正を行う必要があるんだ。」 「はい。同じような取引にもかかわらず、親会社や子会社毎に会計方針が異なるのはおかしいですもんね。」 「そうだ。ここは大丈夫そうだな。」 ◆日本基準では当面の間、IFRSや米国基準作成財務諸表を利用できる 「そういえば、日本基準にも会計方針を一致させるという規定はありますけど、IFRSや米国基準で作成された子会社の財務諸表は一定の修正だけすれば当面の間、そのまま使用できますから、ここもIFRSと異なる点ですね。」 「ああ。その通りだ。よく知ってるじゃないか。」 「今回の決算、この調整部分は僕が担当でしたから。」 桜井は、藤原を真似てニヤリとした。   報告日の統一 連結の範囲 会計方針の統一   ◆親会社と子会社の報告日を統一させる必要がある 「よし、これで最後の項目だ。報告日(reporting date)についても親会社と子会社で一致させる必要があるという規定だ。」 「はい。では、IFRS導入に向けて、すべての子会社の決算日を親会社と一致させる必要があるってことですか?」 「決算日を統一させた方が楽にはなるが、必ずしも決算日を統一させることを求めているわけじゃないな。ただし、親会社と子会社の報告日が異なる場合は、子会社は連結のために親会社の報告日現在の追加的な財務情報を作成しなければならないんだ。」 「へぇ。では、もし親会社が3月決算で、子会社が3月決算以外だった場合、子会社は3月末日を報告日として仮決算する必要があるってことですね。」 「そういうことだ。」 藤原は頷いた。 ◆親会社の報告日現在の子会社の財務諸表作成が実務上不可能な場合、報告日の差異は3ヶ月以内 「ただし、親会社の報告日現在の子会社の財務諸表を作成することが実務上不可能な場合は、親会社は子会社の直近の財務諸表を用いて子会社の財務情報を連結することになる。」 「へぇ。」 「その時は、子会社の報告日と親会社の報告日との間に生じる重要な取引又は事象の影響を調整することになるんだ。」 桜井は黙って頷いた。 「そして、いかなる場合でも、子会社と親会社の報告日の差異は3ヶ月を超えてはならない。また、報告期間の長さ及び財務諸表の日付の差異は毎期同一でなければならないんだ。」 「なるほど。分かりました。」 ◆日本基準との相違点 「ここでの日本基準との相違点はもう分かっているな?」 「はい。日本基準では、親会社の連結決算日と子会社の決算日が3ヶ月を超えない場合は、グループ間取引に係る重要な不一致を調整すれば子会社の財務諸表をそのまま連結できますよね。つまり、親会社の報告日現在の財務諸表の作成が実務上不可能な場合に限らず、子会社の直近の財務諸表を基礎として連結決算を行うことができます。」 「そうだな。それから?」と藤原は片眉を上げて、桜井を促した。 「まだありましたっけ?・・・えーと、あ、分かりました。」 「日本基準では、連結決算日と子会社の決算日との間に生じた重要な連結グループ内取引については調整をするんですけど、IFRSでは外部取引についても調整する必要があるという点が違いますね。」 「その通りだ。今回はここまでだな。この程度理解しておけば、ひとまず大丈夫だろう。」 藤原の言葉を聞いて、桜井はホッと安堵の溜息を漏らした。 「よく勉強しているね。感心、感心。」 桜井が振り向くと、会議から戻ったばかりの清瀬部長と倉田課長がこちらを見ていた。倉田が桜井に話しかける。 「君、最近IFRSの勉強頑張っているんだってね。」 「はい。ありがとうございます。これも藤原先輩のおかげです。」 桜井は藤原の方とちらりと見ながら、答えた。 「うんうん、そうだよね。藤原君、かなり君のこと押していたからねー」 「はぁ・・・」 話が見えない桜井は曖昧に相槌を打った。そんな桜井の表情には気づかず、倉田は更に言葉を続ける。 「僕はね、まだ早いんじゃないかと言ったんだけど、藤原君が、君ならIFRSプロジェクトチームのメンバーでもやっていけるって言ってね。」 「え?」 桜井は一瞬耳を疑った。藤原が桜井をプロジェクトチームメンバーに推薦したなんて、藤原からはもちろん一言も聞いていない。 「それで、そこにいる頑固な藤原君から、この1年で君がチームについていけるようにIFRSを教えるから、そこで判断してくれってお願いされていたんだよ。」 「そ、そうだったんですか?」 桜井は藤原の方を見たが、藤原はさっと横を向き、桜井と目を合わそうとしない。藤原の性格をよく知る桜井は、それが照れ隠しであることを分かっていた。 「IFRSのこと、ずいぶん分かってきたみたいだね。」 倉田がいつもの笑顔を桜井に向けた。 桜井の斜め向かいに座っている伊崎が、パソコンディスプレイの横から顔出し、ポカンと口を開けたままの桜井に言った。 「ようこそ。桜井君もこれで晴れてIFRS導入プロジェクトメンバーの一員だね。やることは山積みだから、さっそく活躍してもらうよ。」 「え・・・あ、はい。」 ようやく声が出るようになった桜井だが、まだ足元がふわふわしたままだ。 「よかったな。」と藤原が桜井の背中をバシッと叩いた。思わず桜井がよろめく。 そこで桜井は、何故あれほど熱心に藤原がIFRSを教えてくれたのか、ようやく理解できた。すべては自分をプロジェクトメンバーに入れるためだったのだ。 「僕、これからもがんばります!」 頬を紅潮させながら、桜井は皆の前で宣言した。 「日本基準のほうも、その意気込みでよろしく頼むわよ。」 今度は向かいから経理部紅一点の橋本が声をかけた。 そこで山口が口を挟んだ。 「え?IFRSを導入したら、日本基準はもういらないんじゃないですか?」 一瞬、経理部が沈黙に包まれる。 「あのさ、山口くん、IFRSは連結財務諸表だけだよ。IFRS導入後も、個別財務諸表は引き続き日本基準で作成するんだ。」 桜井は後輩の言葉に苦笑しながら、訂正した。 「そうなんですか?すみません。僕、てっきり全部IFRSに変わるのかと思っていました!」 恥ずかしそうにぺこぺこ頭を下げる山口の横で、藤原が笑いながら桜井に言った。 「今度はお前が山口にIFRSを教える番だな。」 「えー、ぼくがですか!?」 慌てる桜井の周りで笑いが広がった。 窓の外はまだまだ明るい。季節は夏に近づこうとしていた。 (連載了)

#No. 218(掲載号)
#関根 智美
2017/05/18

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる会計処理と税務Q&A 【第4回】「ポストペイ方式の電子マネーによる経費決済を行った場合の会計処理」

電子マネー・仮想通貨等の非現金をめぐる 会計処理と税務Q&A 【第4回】 「ポストペイ方式の電子マネーによる経費決済を行った場合の会計処理」   公認会計士・税理士 八代醍 和也   A 【第2回】・【第3回】と「プリペイド方式の電子マネー」を使用して経費決済を行った場合の会計処理、税務上の留意点について解説を行ったが、今回から、もう1つの類型である「ポストペイ方式の電子マネー」を使用した経費決済について解説を行う。プリペイド方式の場合と同様、今回は会計処理に関する検討を行い、次回において税務上の留意点を検討する。   1 ポストペイ方式の電子マネーの特徴 まずは、ポストペイ方式の電子マネーがどういったものだったか、簡単に振り返る。【第2回】でも説明したが、読んで字の如くプリペイド(Pre-paid:先払い)方式の場合とは逆に、利用代金をPost-Pay:後払いするタイプのものであった(ポストペイ方式の代表例としては、iD、QUICPay、Smartplus、Visa Touchのほか、公共交通機関系電子マネーのPiTaPaなど)。 ここで1つの疑問が生じるのではないだろうか。 クレジットカードとどのような違いがあるのか、と。 確かにポストペイ式の電子マネーは、クレジットカードの追加サービスとして付加されることが多く、支払もクレジットカードの利用代金と合算で行われることから、日常的にあまりその違いを意識することは少ないかもしれない。 しかし、よく考えてみると、ポストペイ方式の電子マネーを使用した場合には、クレジットカード利用時のように販売員にクレジットカードを預ける必要もなければサインを求められることもない。カードを専用のカードリーダーにタッチするだけで決済は完了していることを思い出してもらえると理解しやすいかと思う。 つまり、今日においては、クレジットカードをより便利に利用できるように付加されることが多いサービスという位置付けで捉えられることが多いと筆者は考える(ただし、携帯電話に搭載するなど、個別にクレジットカードを必要としない電子マネーサービスも存在する)。   2 電子マネー使用に伴う会計処理 (1) 電子マネーの有する会計的特性 ポストペイ方式の電子マネーの会計処理の検討にあたっても、まずはその会計的特性を検討してみたい。 ポストペイ方式は、資金決済法に規定する「前払式支払手段」のように、法令上規定された明確な定義づけがない。しかし、ポストペイ方式の電子マネーを使用することで享受できるサービスが何かを考えてみれば、それは非常に理解しやすいものである。 すなわち、私たちはポストペイ方式の電子マネーによってキャッシュレスで日々の物品の購入や役務提供を受けることができ、これらの利用代金は約定の締め日ごとに集計され、その後約定の支払日に所定の金融機関口座から支払われることになる。 まさに信用販売(クレジット)機能そのものである。 実際のクレジットカードと比較してみた場合に、サインの必要性の有無の違いこそあれ、その特性は利用代金の後払いという意味で同一といってよく、また、会計的特定としては、これに尽きるのである。 (2) ポストペイ方式の電子マネーに関する会計処理 それでは、(1)の会計的特性を前提に、その会計処理を検討してみよう。 ① ポストペイ方式の電子マネーを使用した際の会計処理 ここからは【第2回】と同様、読者の具体的なイメージをつかんでもらうことでその理解に資するよう、設例を用いて説明する。 この時点では、現金支払いなく物品の納品を受けることになる。代金の支払行為は行われておらず、その意味での経済的価値の流出は生じていないが、パソコン周辺機器の購入行為自体は完了し、実際に物品の引渡しを受けている。 このため、発生主義会計の観点からは、経済的価値費消の原因事実がこの時点で発生したと捉えるとともに、電子マネーサービス提供者に対する支払義務が生じたとものと考える。 かくしてこの時点で費用とそれに見合う債務を計上すべきことになり、以下のような仕訳が起票されることになる。 ② 支払日に代金が引き落とされた際の会計処理 支払日においては資金の支払とそれに伴い仕訳1で認識済みの支払義務の消滅にかかる処理を行う。いうまでもなく、費用は既に計上されており、この段階においては計上されない。 起票される仕訳は以下のとおりである。 ③ その他の会計処理・論点 枝葉な論点について、以下でまとめて解説する。 ◆支払金額の減免 ポストペイ方式の電子マネーでは、利用者サービスの一環及び利用促進を目的として、利用実績に応じた支払金額の減免を行っているケースがある。これらの会計処理について明確に規定した基準等はないが、会計的には減免を受けた段階で費用のマイナス処理とするか、雑収入で計上することが一般的には行われているようである。 両会計処理について検討を加える。 【費用のマイナス処理】 公共交通機関系電子マネーのように利用目的が特定されている場合には、この処理を行うことで、損益計算書上、利用代金の総額から減免額を差し引いた実際の支払金額で旅費交通費が計上されることになり、適切な営業損益管理の観点からは一定の合理性があると考えられる。 一方、電子マネーの利用店舗や購入した物品・役務の種類が多岐に渡る場合には、減免額を各費用に合理的に配分することは実務面で困難であることが多く、費用対効果の面からの検討も必要になる。また、次回に詳説するが、この処理の場合、消費税において一定の調整を行うことが必要にもなる。 【雑収入処理】 上記のように費用を減額するのではなく、雑収入として営業外収益に計上する方法である。費用のマイナス処理を行った場合には、上記のとおり営業損益管理に資する面はありつつも、一種の仕入値引を受けた場合と同様に経理されていることになる。 もちろん実際には、当該減免は財・役務の販売者によって行われたものではなく、あくまでも電子マネーサービス提供者によって行われたものであるところ、仕入値引的な取引として捉えることに違和感を持つ向きもあろう。 筆者としては、費用のマイナス処理の部分で述べた減免額の各種費用への配分の問題も生じず、取引の実態面や経理実務の便宜を考えた場合に、より優れた会計処理であると考えている。 ◆仕訳の記帳について 【第2回】のプリペイド方式の電子マネーの解説でも述べたが、ポストペイ方式の場合も利用する会計ソフトによっては、インターネット経由で電子マネーサービス提供者から提供される電子マネー利用実績データを財務会計システムに直接取り込んだり、CSVファイル化したデータを取り込んで、自動で大量の会計仕訳を起票することができる。事務処理の簡便化を志向するのであれば利用を検討してよいかもしれない。 *  *  * 次回は、同じ「ポストペイ方式の電子マネー」により経費決済を行った場合の税務上の留意点について解説する。 (了)

#No. 218(掲載号)
#八代醍 和也
2017/05/18

ファーストステップ管理会計 【第11回】「追加受注の意思決定」~給食用パンの注文を受けるか~

ファーストステップ 管理会計 【第11回】 「追加受注の意思決定」 ~給食用パンの注文を受けるか~ 〔意思決定編①〕 公認会計士 石王丸 香菜子   今回からは、管理会計の一つの分野である「意思決定会計」について見ていきましょう。 「意思決定」というと、何やら難しいことを決めるように思えますが、「意志」ではなく「意思」ですので、「何かを決める」ということです。「意志を貫く」などという場合の、固く強い気持ちということではありませんから、ご安心を。   ◆意思決定会計って? 誰でも、「待ち合わせ場所に自分の車で行くか、電車で行くか」といった、ごく小さなことから、「愛車を手放すか、持ち続けるか」といった、重大事項(?)まで、日々様々な意思決定を行っています。 個人の場合は、必ずしも損益だけを基準に決めるわけではなく、感情や好みに左右されたり、行き当たりばったりで決めたりすることもあります。 しかし、企業の場合は、情報のないまま決めたり、行き当たりばったりで決めたりして、損失を重ねては困りますよね。 そこで、企業が有利な意思決定を行えるように役立つ情報を提供するのが、意思決定会計です。   ◆意思決定のタイプは大きく分けて2つ 意思決定は、大きく2つのタイプに分けることができます。先ほど挙げた個人の意思決定で考えてみましょう。「待ち合わせ場所に自分の車で行くか、電車で行くか」と「愛車を手放すか、持ち続けるか」の決定的な違いは何でしょうか。 ・・・「重要性が全く違うよ!」と思った方、正解です! 「待ち合わせ場所に自分の車で行くか、電車で行くか」という意思決定は、すでに車を持っているという現状が前提になっていますよね。これは、現状の大きな枠組みは変えずに行う、日常的な意思決定です。前提となる枠組み自体を大きく変えるものでないので、関係する金額は比較的少額で、その影響は短期間にとどまります。 管理会計では、このような既存の構造を前提に、その枠組みの中で日常的に行う意思決定を「業務的意思決定」といいます。 一方、「愛車を手放すか、持ち続けるか」という意思決定に際し、仮に愛車を手放す決定をした場合には、今後、待ち合わせ場所に愛車で行くという案は、そもそも選べなくなります。つまり、こちらは、現状の枠組み自体を変更するような、大きな意思決定です。枠組み自体を大幅に変えるものなので、関係する金額は多額で、その影響は長期間に及びます。 管理会計では、このような既存の構造自体を変革するような戦略的な意思決定を「構造的意思決定」といいます。 2つのタイプの意思決定は、その性質が大きく違いますので、意思決定会計のアプローチも異なります。まずは、イメージしやすい日常的な「業務的意思決定」について、簡単な事例で考えてみましょう。   ◆ベーカリーに新しい注文が舞い込んだら・・・ あるベーカリーでは、食パンを製造・販売しています。 食パン1個当たりの売価及び原価のデータは、次のようになっています。 原価には、製造量などに比例して発生する「変動費」と、製造量などとは関係なく常に一定額が発生する「固定費」とがあるのでしたね。このベーカリーでは、食パンを製造するために、年間800,000円の固定費が発生します。また、食パンは年間20,000個まで製造することが可能です。 固定費は製造量に関係なく一定額が生じますが、原価管理上、食パン1個当たりが負担すべき金額を便宜的に算定すると、800,000円÷20,000個=@40円となります。これが上のデータの「固定費 @40円」です。 このベーカリーでは、年間20,000個まで食パンを製造することが可能ですが、今年度は売れ行きを考慮して、実際には年間18,000個を製造することになりました。つまり、20,000個-18,000個=2,000 個分は、製造する能力はあるけれども製造しない状態です。 さて、このような状況で、ベーカリーに新しい注文が舞い込んだとしましょう。 ある日、ベーカリーの近くの保育園から、給食用食パンの注文の打診がありました。保育園は、年間1,800個の食パンを納入してほしいとのことです。ただし、継続的に大量購入するので、1個当たり110円の安値で納入してもらえないか、と交渉されました。 ベーカリーは、この注文を引き受けるべきでしょうか? 皆さんがベーカリーの経営者になったつもりで、意思決定してみてください。   ◆@110円で注文を受けたら損をする? 現状ではフル稼働していないため、注文のあった1,800個の給食用食パンを製造することは可能です。そこで、この注文における食パン1個当たりの損益を考えてみます。 現状のデータを単純に当てはめて計算すると、食パン1個当たり10円の損失が生じるように思えます。 というわけで、「この条件での注文はお断りします!」 ・・・これはベーカリーにとって、本当に望ましい意思決定でしょうか?   ◆覆水盆に返らず ここで、費用の性質に立ち返ってよく考えてみましょう。 食パンを製造・販売するためにかかる固定費800,000円は、食パンの製造量に関わらず、常に一定額が生じてしまう費用です。食パンを製造するための能力全体を維持するために、投下することをすでに決めてしまった金額とも言えます。現状では、これを覆すことはできません。 つまり、この金額は、保育園からの給食用食パンの注文を受けるにしても、断るにしても、生じてしまう費用になります。 「覆水盆に返らず」とは、まさにこのことですね。 これを念頭に、この注文による損益を考え直してみましょう。 現状(=給食用パンの注文を受けない案)を基準として、給食用パンの注文を受ける案を選ぶことで、プラスになる項目とマイナスになる項目をピックアップしてみます。 現状を基準とすると、追加注文を受けても固定費は増加しないので、固定費はマイナス項目にはならないことに注意してください。プラスになる項目とマイナスになる項目の差引は@30円のプラスとなり、追加注文を受けると、現状よりも@30円×1,800個=54,000円利益がプラスになることがわかります。つまり、この注文を引き受けるのが望ましいと言えます。 また、プラスになる項目とマイナスになる項目の差引がプラスならば利益が生じますので、この事例では、「保育園への売価-変動費」(=「限界利益」)がプラスになる、つまり保育園への売価が@80円超である限り、注文を引き受けるのが有利になります。   ◆いろいろなデータに惑わされない 意思決定をするうえでのポイントは、給食用パンの注文を受けない案と、受ける案のどちらを選んでも、必ず発生してしまう費用については、意思決定上は考慮する必要がないということです。 このように、どの案を選択しても必ず発生してしまう原価のことを、管理会計では「埋没原価」あるいは「無関連原価」と呼びます。 また、他の案(=給食用パンの注文を受けない案)を基準として、ある案(=給食用パンの注文を受ける案)を考える時、プラスになる項目(=保育園からの収入)を差額収益、マイナスになる項目(=追加製造のための変動費)を差額原価と言います。差額収益と差額原価の差引(純額)である差額利益がプラスになるならば、この案を選ぶほうがよいということになります。 管理会計の用語は独特な言い回しですが、複数の案から一つを選ぶ意思決定をする際には、いろいろなデータに惑わされず、意思決定に本当に関連するものだけを見極めてピックアップする、という基本を理解することが大切です。   ◆車のハンドルには「遊び」が必要 こうした意思決定会計の考え方は役に立つものですが、現実の世界においては、意思決定会計による結果が万能とは限りません。 例えば、保育園からの注文を@110円という安値で引き受けて、他のお客がこの条件を知ってしまったら、どうなるでしょうか。「同じ食パンなのに値段が違うのはおかしい!」とか「うちも値引きしてよ!」という苦情や要求が生じそうですよね。。。 ですから、意思決定会計の情報を踏まえたうえで、最終的にはそれ以外の要素も含めて総合的に判断する必要があります。 意思決定会計の考え方を身につけたら、車のハンドルの「遊び」のように、実際には多少の幅を持たせてうまく乗りこなすのが理想です。 *  *  *  *   次回も簡単な事例を通じて、業務的意思決定の考え方をおさえましょう。 (了)  

#No. 218(掲載号)
#石王丸 香菜子
2017/05/18

連結会計を学ぶ 【第3回】「連結の範囲に関する適用指針①」―親会社と子会社―

連結会計を学ぶ 【第3回】 「連結の範囲に関する適用指針①」 ―親会社と子会社―   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)では、連結財務諸表に含まれる子会社の範囲を、支配の概念にもとづいて基本的な規定を設けている。 より具体的な指針としては、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号。以下「連結範囲適用指針」という)が公表されている。 今回(第3回)と第4回及び第5回では、「連結範囲適用指針」にしたがって連結の範囲を解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 親会社と子会社 1 議決権割合の算定 連結会計基準では、「他の企業の意思決定機関を支配している企業」として、他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有している企業と規定している(連結会計基準7項(1))。 子会社の判定に係る議決権の所有割合は、原則として、次の算式によって算定する(連結範囲適用指針4項、36項)。 上記算式の議決権については次の事項に注意する(連結範囲適用指針4項~7項)。 ① 議決権は、期末における議決権である。 ② 他の会社が関連会社に該当するかどうかの判定に際して、持株関係が複雑であり、行使し得る議決権の総数の把握が困難と認められる場合には、議決権の所有割合の算式における分母を、行使し得る議決権の総数に代えて、直前期の株主総会招集通知に記載されている総株主の議決権の数により算定することができる。 ③ 行使し得る議決権の総数は、株主総会において行使し得るものと認められている総株主の議決権の数である。 したがって、次の株式に係る議決権については、いずれも行使し得る議決権の総数には含まれないこととなる。 (a) 自己株式(会社法308条2項) (b) 完全無議決権株式(株主総会のすべての事項について議決権を行使することができない株式。会社法108条1項3号) (c) 会社法308条1項による相互保有株式 ④ 所有する議決権の数は、行使し得る議決権の総数のうち自己及び子会社の所有する議決権の数による。 ⑤ 議決権の所有割合を算定するにあたっては、議決権のある株式又は出資の所有の名義が役員等自己以外の者となっていても、議決権のある株式又は出資の所有のための資金関係、当該株式又は出資に係る配当その他の損益の帰属関係を検討し、自己の計算において所有しているか否かについての判断を行う必要がある。   2 緊密な者及び同意している者 緊密な者及び同意している者が存在している場合には、子会社の判定について用いられる議決権の所有割合は、原則として、次の算式によって算定する(連結範囲適用指針8項)。 「緊密な者」とは、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者である(連結範囲適用指針8項)。 「同意している者」とは、契約や合意等により、自己の意思と同一内容の議決権を行使することに同意していると認められる者である(連結範囲適用指針8項、10項)。 緊密な者に該当するかどうかは、両者の関係に至った経緯、両者の関係状況の内容、過去の議決権の行使の状況、自己の商号との類似性等を踏まえ、実質的に判断する(連結範囲適用指針9項)。 例えば、次に掲げる者は一般的に緊密な者に該当するものと考えられている(連結範囲適用指針9項)。 ① 自己(自己の子会社を含む)が議決権の100分の20以上を所有している企業 ② 自己の役員又は自己の役員が議決権の過半数を所有している企業 ③ 自己の役員もしくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めている当該他の企業 ④ 自己の役員もしくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、代表権のある役員として派遣されており、かつ、取締役会その他これに準ずる機関の構成員の相当数(過半数に満たない場合を含む)を占めている当該他の企業 ⑤ 自己が資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総額のおおむね過半について融資(債務保証及び担保の提供を含む)を行っている企業(金融機関が通常の取引として融資を行っている企業を除く) ⑥ 自己が技術援助契約等を締結しており、当該契約の終了により、事業の継続に重要な影響を及ぼすこととなる企業 ⑦ 自己との間の営業取引契約に関し、自己に対する事業依存度が著しく大きいこと又はフランチャイズ契約等により自己に対し著しく事業上の拘束を受けることとなる企業   上記以外の者であっても、出資、人事、資金、技術、取引等における両者の関係状況からみて、自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者は、「緊密な者」に該当する(連結範囲適用指針9項なお書き)。 自己と緊密な関係にあった企業であっても、その後、出資、人事、資金、技術、取引等の関係について見直しが行われ、自己の意思と同一の内容の議決権を行使するとは認められない場合には、緊密な者に該当しない(連結範囲適用指針9項また書き)。 (了)

#No. 218(掲載号)
#阿部 光成
2017/05/18

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q1】「労務においては事前に何を検討すべきか」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q1】 労務においては事前に何を検討すべきか   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 組織再編時には事前に様々な検討が必要となるが、労働契約の承継、組織再編後の労働条件に関する検討が必ず必要となる。    労働契約の承継 株式交換等の労働契約の承継を伴わない組織再編を除き、組織再編後の組織体制を踏まえて、どの労働契約を承継するか、また、労働契約を承継するにあたり法的に必要な手続きはどのようなものがあるかを事前に確認し、整理しておく必要がある。 労働契約の承継を伴う組織再編には、合併、事業譲渡、会社分割があるが、例えば、会社分割のケースでは、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」に基づく手続きが必要となり、その手続きを実施するにあたっては一定の期間が必要になる。 また、例えば、営業エリアが重なる2社が合併するケースでは、営業所等の統廃合が行われ余剰人員が生じる可能性がある。この場合には、組織再編前に人員削減を行う選択も考えられ、いわゆる整理解雇の4要件に照らして早い段階から検討を重ねて準備する必要がある。 このように組織再編時には労働契約の承継に関して実施すべき事項が様々に考えられることから、事前に対応すべき事項を洗い出し、具体的な実行スケジュールを策定して進める必要がある。    組織再編後の労働条件 労働契約の承継を伴う組織再編においては、組織再編後の労働条件をどうするかを検討しておく必要がある。 例えば、2社が合併するケースでは、主に次の3つの対応が考えられる。 上記のうち①を除き、まずは、両社の労働条件を比較し、何がどの程度異なるか、労働条件の差異を分析する必要があり、この差異分析を踏まえて組織再編後の労働条件を検討することとなる。さらに、組織再編後の労働条件をこれまでよりも低下させる場合には、不利益な変更に当たるため、さらなる検討が必要となる。 例えば、所定労働時間が次の通り異なる2社が合併する場合を考えてみよう。 合併後の1日の所定労働時間についてA社を基準に7時間15分とする場合、B社の従業員からみると1日の所定労働時間が15分延長されることになり不利益な変更となる。よって、この不利益な変更が可能かどうかの検討が必要となる。    労働条件の不利益変更 労働条件を不利益に変更する方法としては、①個別に合意する方法(労働契約法第8条)、②就業規則を変更する方法(労働契約法第10条)、労働組合がある場合には③労働協約(労働組合と書面で取り決めしたもの)を締結する方法(労働組合法第16条等)があるが、組織再編時には、労働契約法第10条を踏まえて、「労働者の受ける不利益の程度」、「労働条件の変更の必要性」、「変更後の就業規則の内容の相当性」、「労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情」に照らして合理的なものとなるよう対応を検討することとなる。 先のB社の従業員の1日の所定労働時間が15分延長される例では、不利益の程度を緩和するため、その延長時間に相当する月例給与の増額や所定休日の追加等の対応が考えられる。 なお、組織再編時には、様々な制度が変更となり、有利に変更される項目と不利益に変更される項目の両者が混在することが多いため、実務的には、ひとつひとつの項目ごとに対応を検討するのではなく、全体的なバランスをみつつ緩和措置等の対応を検討することとなる。 (了)

#No. 218(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2017/05/18

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第9回】「死後に遺言書の無効が争われるケース(その1)」

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第9回】 「死後に遺言書の無効が争われるケース(その1)」   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   [設問09] 最近では、人生の終わりをより良きものとし、亡くなった後の遺産相続等も円滑に進めるための準備を早くからしていこうという趣旨で、『終活』というキーワードを目にする機会が増えている。 この「終活」の一環として、家族に向けたお別れのメッセージを手紙やビデオ等で残したり、所有する財産について遺言書を作成すること等が多く行われている。 しかし、遺言書を作成しておきさえすれば、死後の紛争を完全に防ぐことが可能なのだろうか。以下のケースをもとにして考えてみよう。 ◆  ◆  ◆ 【ケースA】 父(被相続人)の死後に自筆証書遺言が発見された。法律が要求する記載要件はすべて整っている。 ところが、法定相続人の一部から、 との異論が出され、他の相続人を被告とした遺言無効確認請求訴訟が提起された。 ◆  ◆  ◆ 【ケースB】 ケースAで、そもそも遺言書の筆跡そのものが父のものではないと主張された場合はどうなるか。   1 遺言書を作成していても、死後に紛争となる余地はある 高齢社会の進展とともに、様々な機会で遺言書を作成しておくことの重要性が強調されている。 このような啓蒙活動の影響もあり、実際、日公連(日本公証人連合会)が発表しているデータによれば、全国の公証役場で作成された遺言公正証書の件数は、平成19年に74,160件であったものが平成28年では105,350件と、ここ10年間で約1.42倍も増加しているようである。 相続の際に遺言書が残されているケースは確実に増加している現在、弁護士の目から見ていて、2つのトレンドがあると筆者は感じている。 1つめは、遺留分減殺請求が目立って増加していることである。 遺言書を作成する動機のうちで大きいのは、法定相続分に従った各人の取り分を変更し、特定の者に特別に多額の遺産を相続させたいという希望である。これが進み、相続人間における不均衡が遺留分を侵害するほどに著しいものとなると、今度は遺留分減殺請求をめぐっての激しい対立が生じてくる。 2つめは、今回取り上げたように、死後に遺言の無効が争われるケースの増加である。   2 遺言書の有効性 遺言は、法律が要求する要件を満たして初めて効力が発生する「要式行為」であり、記載要件を一つでも欠けば無効とされてしまう。 そのため、特に自筆証書遺言の場合、弁護士等の法律専門家の関与無しに自分だけで作成した遺言書は、そもそも法律上の要件を満たさず無効と扱われるケースも少なくない。この場合、遺言書は無いものとして取り扱われ、相続人全員による遺産分割協議が必要となる。 加えて、遺言を作成する時点において、遺言者が遺言能力を有することも重要な要件となる。 ここで「遺言能力」とは、遺言の内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足る能力であると一般的に言われている。実質上は、この連載で説明してきた「判断能力」「意思能力」というものとほぼ重なり合ってくると理解してよいだろう(解説編【第3回】参照)。   3 裁判における主張・立証の実際 まず、「遺言書が民法が要求する形式的要件を満たさない」として訴訟提起する場合、要件を満たす有効な遺言書であることの立証責任は被告の側が負うと解されている。 しかし、問題の性質上、裁判での勝敗見込みは比較的簡単に付く場合も多い。 このような場合、裁判所に対する元々の請求内容は「遺言書が無効であることを確認する判決を下してほしい」ということで出訴しているが、仮に原告が勝訴判決を得たとしても、その後で改めて法定相続人全員で遺産分割を行う必要がある。その意味で、原告としても二度手間となる。 そこで、一般に裁判所は、遺言無効確認請求訴訟の手続の中において、遺産分割の全体を含めた和解交渉(遺産を具体的に、誰が、どれだけ取得するのかという和解交渉)を主導してくれることも多い。ただし、原告・被告以外にも多数の法定相続人がいるような場合には、裁判手続内での全体解決は困難であろう。 他方で、【ケースA】のように、遺言書作成当時の遺言能力が争われている場合には、勝敗見込みを立てることも容易にはできない。最終的には、裁判所がどう判断するかにかかってくるからである。 このような場合、無効を主張する側としては、①遺言書作成前後での被相続人の医療記録、②看護日誌、③認知症の有無・病状、④本人の生活状況、⑤身のまわりの世話をしていた者の証言等の記録を証拠として提出し、争っていくことになる(証拠となりうるものの一例として、解説編【第5回】参照)。 なお、遺言無効確認請求訴訟においては、本稿では取り上げなかったが、複雑な法律上の問題点が多数存在する。これらにつき現在の裁判実務の一般的運用を解説するものとして、次のものがある。 また、遺言能力につき裁判例の分析を通じて詳細に検討するものとして、次の論文がある。   4 「署名の偽造」を主張される場合もある 【ケースB】では、遺言者である父の遺言能力にとどまらず、遺言者である父の署名そのものが他人の手によるもの、つまり偽造であると主張しているケースである。 本連載のテーマである「認知症」や「判断能力」という点からは外れるが、関連問題として触れておこう。 【ケースB】のような場合には、遺言書の効力を争う側において筆跡鑑定の専門家に鑑定を依頼し、その鑑定報告書を証拠として提出していくのが通常である。 これに対し、多くのケースでは、相手方の側でも別個の専門家に依頼し、そこで得た鑑定報告書を反論証拠として提出することになる。当然、鑑定結果は原・被告で真逆なものとなる。 このような場合、裁判所が選任する中立的な鑑定人により改めて筆跡鑑定を実施する場合もあれば、そこまではせず、裁判所が双方の鑑定報告書を吟味して最終判断を下すこともある。 筆跡鑑定が問題となる場合の注意点を2点だけ述べる。 1つは、費用の点である。 筆跡鑑定を依頼する場合は、平均して20~50万円前後の費用がかかる。場合によっては鑑定報告書を作成した専門家に出廷を依頼し、報告書の信用性につき裁判官の面前で証言してもらう必要も出てくる。そのようなときには、当然に追加料金が発生する。 このように、少なからぬ費用がかかるということは、請求額との兼ね合いで念頭に置いておくべきであろう。 もう1つは、一般的な信用性の点である。 筆跡鑑定は、DNA鑑定や他の科学的な鑑定方法とは異なり、鑑定する者の長年の経験や専門的知識の蓄積といった主観的要素がどうしても入らざるを得ない。 そのため、裁判所の傾向としては、他の科学的な鑑定方法に比べれば若干信用性を割り引いて受け止めることも多く、筆跡の同一性の有無に加え、遺言の内容それ自体の複雑性や遺言作成に至る経緯、遺言書の保管状況や発見状況、遺言者と相続人との間の人的関係等といった事情をも総合的に考慮して偽造の有無を判断していくということが通常である。 つまり、遺言書の有効性を争う側からすれば、自己の主張に沿う鑑定報告書を提出しているからといって過度の期待をすることは禁物ということである。   5 遺言無効を争う場合の留意点-遺留分減殺請求の通知を忘れないこと 最後に、遺言書の無効を争う側において忘れてはならない注意点を指摘しておく。 それは、遺言書の無効を争いながらも、遺留分減殺請求の通知は、「1年」という期間内に必ず内容証明郵便で送付し、遺留分減殺請求権の権利行使を予備的にでもしておかなければならないということである。 仮に、数年をかけて遺言書の無効を裁判で争った結果、遺言当時における遺言者の遺言能力には問題がなく、遺言書が有効であることが確定したとする。 このとき、有効となった遺言書が自己の遺留分を侵害しているとして改めて遺留分減殺請求を行おうと考えても、1年という期間制限(遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈があったことを知った時から1年間)を経過してしまっているときは、遺留分減殺を請求することができないので注意を要する。 実際の裁判では、1つの裁判の中で、主位的な請求として遺言無効確認を請求し、予備的な請求として遺留分減殺を請求していくことが大半である。つまり、はじめから遺言無効の問題も遺留分の問題も一挙的に解決することを目的として出訴していくという趣旨である。 *  *  * 次回は、遺言を残す側、すなわち、遺言者本人及び遺言書を残してもらうことにメリットを有する相続人の立場でできる準備を解説する。 (了)

#No. 218(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/05/18

役員インセンティブ報酬の分析 【第3回】「ストック・オプション①」-平成28年度の状況-

役員インセンティブ報酬の分析 【第3回】 「ストック・オプション①」 -平成28年度の状況-   弁護士・公認会計士 中野 竹司   1 役員報酬のためのストック・オプションの概要 この連載ですでに述べたように、コーポレートガバナンス・コード原則が策定されたことを契機に、役員に対する自社株報酬への注目度が高くなっている。 このうちストック・オプションは、自社株式オプション、すなわち新株予約権といった自社の株式を原資産とするコールオプションを利用したもので、企業がその従業員等に、報酬として自社株式オプションを付与する報酬制度である。 ストック・オプションは、会社法制定時にその246条2項において、「前項の規定にかかわらず、新株予約権者は、株式会社の承諾を得て、同項の規定による払込みに代えて、払込金額に相当する金銭以外の財産を給付し、又は当該株式会社に対する債権を持って相殺することが出来る。」という定めが置かれ、役務提供の対価と相殺等することにより新株予約権を付与できることが明らかにされた。またこれに伴い、税務上の取扱いが平成18年税制改正等によりある程度明らかにされたことから、他のインセンティブ報酬制度よりも早い時期から普及が進んだ。一般的に、全上場企業のうち、ストック・オプションを発行した経験のある企業は、少なくとも4割はあるといわれている。 ストック・オプション制度の具体的な形態としては、株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)、業績等条件付ストック・オプションや有償ストック・オプションなどがある。具体的には、三井物産は株価に連動したストック・オプションを導入しているし、資生堂は業績連動型のストック・オプションを導入している。 このうち、業績連動の中長期インセンティブとして、株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)が、広く利用されてきた(荏原製作所)。 株式報酬型ストック・オプション(1円ストック・オプション)とは、株式を報酬として付与することを目的とし、オプションの権利行使価額を非常に低く設定したものである(通常は1円)。これは、もともとは退職慰労金制度を廃止し、その代替として付与する目的で普及してきた。 なお、役員個人の税務メリットを考えると、給与所得より退職所得と区分された方が有利と考えられる。ただし、権利行使期間が退職から10日間に限定されているストック・オプションの権利行使益は退職所得と考えられるが(東京国税局「権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について(文書回答事例)」(平成16年11月2日))、それ以外の場合の所得区分は明確ではないという税務上の不明確さがある。   2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット ストック・オプションは、例えば株式公開前に従業員へストック・オプションを与え、株式公開時にこれを行使した後、株式売却益を得ることや、公開後は株価が上昇することによりやはり株式売却益を得ることが可能となる方法であり、手元現金が不足している企業が従業員や役員に対するインセンティブを付与することができる等のメリットがある。 しかし、ストック・オプションは、これを行使して株式を取得・売却することで初めて報酬が実現する手法である。このため、役員が手に入れる現金の額は株価の上昇と直結し、ストック・オプションの行使価額が株価を上回っている状況では行使するインセンティブが働かないという点で難点があり、役員が中長期的な業績向上よりも、株価上昇を狙った短期的な利益計上に走りがちであるという問題点が指摘されている。また、株価が低迷している状況下では、ストック・オプションは業績連動の機能を果たせないという限界もある。 これに対して、パフォーマンス・シェアやリストリクテッド・ストックのような株式による報酬は、株価が上昇しても下落しても株式売却額相当の現金を手に入れることができ、また業績連動期間や譲渡制限期間を中長期に設定することで役員の中長期的な企業業績向上のインセンティブ付けが可能になるという点で、ストック・オプションより良い面があるとされる。   3 会社法上の視点 (1) 法的構成 会社法上、無償で株式を発行することや労務出資は認められていないため、無償でも交付可能な新株予約権が比較的広く利用されてきた。 そして、無償ストック・オプションを発行する際の法的な構成としては、ストック・オプションを職務執行の対価として考え、金銭の払込みなくストック・オプションを交付する方法(無償構成)と、ストック・オプションの公正価値相当額の金銭債権を役員等に付与すると同時に、同額を払込金額としてストック・オプションを付与し、役員と会社がそれぞれ有する同額の金銭債権を相殺する方法(相殺構成)の2つがあると考えられる。 (2) 役員報酬規制との関係 ストック・オプションは、役員に対する報酬の性格を有することから、役員報酬規制(会社法361条1項)の対象となる。 そして、無償構成の場合は、金銭ではない財産であることから、会社法361条1項3号の非金銭報酬としての決議が必要である。また、併せて同条1号又は2号の決議も必要である。 相殺構成の場合は、役員に報酬として付与されるのは金銭債権であるから、同条1号の決議がなされれば足りるが、決議に際してストック・オプションを利用した報酬であることを株主に伝えることが望ましいとも考えられる。このため、どのように開示するか工夫が必要であろう。 なお、有償ストック・オプションは、会社法上の報酬には該当しないと考えられるが、払込額が公正な価額かという点が会社法上問題になりうる。   4 税法上の視点 ストック・オプションの法人税法、所得税法等の税法における取扱いは非常に複雑であり、ストック・オプションを利用した役員に対するインセンティブ報酬を設計する場合には、税務上の取扱いを個別・具体的に十分検討する必要がある。 税法上の取扱いの概要は、以下のようになっている。 (1) 無償ストック・オプション 無償ストック・オプションについては、税制適格か税制非適格かによって、役員側・会社側いずれも税務上の取扱いが大きく異なる。 ① 税制非適格ストック・オプション (ア) 役員側 ストック・オプションが②で述べる税法上の適格要件を充足しない場合、付与時において、ストック・オプションに譲渡制限が付いている場合には、役員報酬は実現しておらず、給与所得課税も生じない(所得税法施行令84条)。 そして、権利を行使した時点で行使時の時価が権利行使価額を上回っている部分について一般的には給与所得として課税され、権利行使により取得した株式の取得価額は時価となる。 また当該株式を売却した時点で、譲渡価額と権利行使時の時価との差額部分について株式等に係る譲渡所得等として課税がなされる。なお、すでに述べたように、権利行使期間が退職から10日間に限定されているストック・オプションの権利行使益は退職所得と解される。 (イ) 会社側 権利を付与した時点においては、発行会社には特段の課税関係は生じない。権利が行使された時点で、ストック・オプション費用に関し、一定の要件のもと役務提供の対価として損金算入が認められている(法人税法54条1項)。また、発行会社には源泉徴収義務が生じ、役員に対して現金を請求する必要が生じる(所得税法222条)。 ② 税制適格ストック・オプション (ア) 役員側 税制適格ストック・オプションの場合、権利行使時において給与所得等としての課税はなされず、課税は繰り延べられ、株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額に対して株式等に係る譲渡所得等として課税される。 ここで、税制適格ストック・オプションの要件には以下のようなものがある。 (※) 経済産業省HP「ストックオプション税制のご案内」より。 (イ) 会社側 税制適格ストック・オプションの場合、役員に給与等課税事由が生じないため、会社において、公正価値相当額を損金算入することは認められない(法人税法54条2項)。 (2) 有償ストック・オプション (ア) 役員側 役員が、新株予約権の公正価値を実際に払込んだ場合、当該払込金額がストック・オプションの取得価額となり、この時点では特段の課税関係は発生しない。 そして、権利行使により取得した株式の取得価額は、行使価額に新株予約権の取得価額を加算したものとされており(所得税法施行令109条1項1号)、行使時にも課税関係は発生しない。 株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額に対して株式等に係る譲渡所得等として課税される。 (イ) 会社側 有償ストック・オプションの場合、役員に給与等課税事由が生じないため、会社において、公正価値相当額を損金算入することは認められない(法人税法54条2項)。 (3) 今後の動向 平成29年度税制改正により、平成29年10月1日以降の決議、または交付となったストック・オプションを用いた役員のインセンティブ報酬については税法上の取扱いが大きく異なるケースが出てくると思われるので、本連載でも今後フォローしていきたい。   5 会計上の視点 役務提供の対価としてストック・オプションが交付された場合の会計処理は、「ストック・オプション等に関する会計基準(企業会計基準第8号)」(以下「会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第11号)」(以下「適用指針」という)において明らかにされている。 なお、有償ストック・オプションは、現時点では会計基準、適用指針により会計処理が明らかになっているとは言えない。もっとも、ASBJより、「実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」等の公表」が発出されており、近い将来会計基準も制定される予定である。 ストック・オプション会計基準及び適用指針によれば、ストック・オプションを利用した役員報酬の会計処理は、概ね以下のようになっている。 ストック・オプションの権利確定前においては、ストック・オプションを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上する(会計基準4項)。 各会計期間における費用計上額は、ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額である。ストック・オプションの公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定する(会計基準5項)。なお、ストック・オプションの公正な評価単価の算定は付与日現在で算定し、条件変更の場合を除き、その後は見直さない(会計基準6項(1))。 ストック・オプションの権利確定後は、ストック・オプションが権利行使され、これに対して新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振替える。 なお、新株予約権の行使に伴い、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価額及び権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額であり、平成18年8月改正の企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に従って会計処理を行う(会計基準8項)。 権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額(会計基準第4項)のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上する。この会計処理は、当該失効が確定した期に行う(会計基準9項)。 (了)

#No. 218(掲載号)
#中野 竹司
2017/05/18
#