〔経営上の発生事象で考える〕 会計実務のポイント 【第12回】 「多店舗展開企業における店舗の閉鎖」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 1 固定資産の減損 《解説》 減損処理の要否は、以下のフローで検討する。 【減損処理の要否の検討】 以下のような場合には、減損の兆候があると判定され、減損損失を計上するかどうかの回収可能性テストを実施することになる。 《減損の兆候の例示》 ① 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスの場合 ② 使用範囲又は方法について回収可能価額を著しく低下させる変化がある場合 ③ 経営環境の著しい悪化の場合 ④ 市場価額の著しい下落の場合 (固定資産の減損に係る会計基準の適用指針12~15) 店舗撤退の意思決定は、②の事象に該当するため、減損損失の認識の判定を行う。その結果、投資額の回収が見込めない場合(当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合)は、減損損失の測定を行い、当該資産又は資産グループの回収可能価額までこれらの帳簿価額を減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする。 2 耐用年数の変更 《解説》 減損損失の計上が行われなかった場合や、減損損失を計上してもなお固定資産の帳簿価額が残っている場合、固定資産の耐用年数の変更の検討が必要になる。 店舗撤退の意思決定が行われた場合には、経済的に使用可能予測期間は店舗の撤退予定日までになると考えられる。この期間と当初予定の残存耐用年数とのかい離が明らかになった場合には、耐用年数の変更を行う必要がある。 店舗の撤退の意思決定を原因として耐用年数の変更を行う場合には、当初使用していた耐用年数はその見積り時点においては合理的に見積もられたものであると考えられるため、過去の誤謬にはあたらない。このような場合には、会計上の見積りの変更として将来にわたり変更を行うことになる。 3 店舗閉鎖損失引当金 《解説》 店舗の撤退に伴い発生する費用又は損失は、上述した減損損失や耐用年数の短縮による減価償却費の増加のほか、固定資産除却損、解体費用、撤去工事費用、賃貸借契約解約違約金、オペレーティング・リース取引に係る解約違約金などがある。このうち、賃貸借契約解約違約金、オペレーティング・リース取引に係る解約違約金については、以下の企業会計原則注解18の要件を満たす場合には、店舗閉鎖損失引当金を計上する必要がある。 「企業会計原則」注解18 引当金の計上要件 ① 将来の特定の費用又は損失である ② その発生が当期以前の事象に起因する ③ 発生の可能性が高い ④ 金額を合理的に見積もることができる 賃借していた店舗建物を中途解約した場合には、例えば賃料の数ヶ月分の解約違約金が発生するなどの契約条項が存在することが一般的である。このような場合には、解約違約金について契約書に明記されている以上、合理的に見積もることが可能である。そのため、期末時点において店舗撤退の意思決定が行われているのであれば、引当金の要件を満たすものと考えられる。 オペレーティング・リース取引に係る解約違約金についても同様の理由により引当金の要件を満たすケースがある。 なお、固定資産除却損、解体費用、撤去工事費用は、実際に除却や解体撤去工事が行われた時に損失計上すべきものと考えられる。 【検討事項のチェックリスト】 ~多店舗展開企業における店舗の閉鎖~ ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (了)
家族信託による 新しい相続・資産承継対策 【第4回】 「家族信託と生前贈与との違い」 弁護士 荒木 俊和 1 はじめに 財産を保有している本人が生前に次の代へ財産を引き継がせる制度として、生前贈与と同様に家族信託が挙げられるが、本稿では家族信託と生前贈与との比較をして、その異同について解説する。 2 財産管理機能を持つ信託 信託には「財産管理機能」があるとされている。 すなわち、委託者は受託者に対し、信託財産を信託することによって財産の管理を受託者に委ねることができ、財産管理の煩から免れることができるようになる。 このことにより、委託者が信託しておけば、認知症などによって意思能力を失っても、物理的に財産を管理する能力を失っても、ひいては委託者が死亡した後であっても、信託が存続する限りは受託者による財産管理が継続される。 一方で、生前贈与であれば贈与をした時点から、贈与を受けた者(受贈者)の財産となるため、受贈者が財産を管理することが当然となる。 3 所有権を移転させる効果の異同 (1) 法律上の前提 信託は、①信託契約の締結、②遺言による信託、③自己信託(信託宣言)の3種類の方法で成立するものとされている。 しかし、家族信託において信託を活用する場合、通常は①信託契約の締結によることになる。 一方、贈与も契約によって成立するものであることから、法律効果が発生する原因においては、家族信託と生前贈与との間で大きな差はないといえる。 (2) 法律上の効果 法律上の効果としては、家族信託であっても、生前贈与であっても、特定の財産の所有権を移転させるという点においては同じである。 ただし、信託の場合には、委託者が、信託する目的(「信託目的」又は「信託の目的」という)を定めて財産を受託者に移転し、受託者は、その財産を信託財産として信託目的に従い受益者のために管理又は処分等を行うとされる(神田秀樹他『信託法講義』弘文堂、1頁)。 すなわち、受託者は所有権を取得するとしても信託目的による制限を受け、受益者のために管理等を行うものとされるのに対し、贈与の場合には受贈者に完全な所有権が移転するため、受贈者は自らの意思に従って自由に財産を管理処分することができるという違いがある。 (3) 撤回や変更の可否 また、家族信託と生前贈与それぞれの場合において、従来財産を保有していた者が撤回をしたい(元の状態に戻したい)という場合や変更を行いたいという場合の異同についてはどうであろうか。 家族信託の場合、信託契約において特段の定めを置かなければ、信託法に従い、原則的に委託者、受託者及び受益者の三者間の合意によって信託の変更ができることとなるが(信託法第149条第1項)、信託契約において別段の定めを置くことができ(同条第4項)、委託者が単独で変更することも可能となる(ただし、受益者が不利益を受ける一定の場合には制限を受けることがある)。 一方、生前贈与の場合には、書面によって贈与した場合や、書面によらなくとも贈与の実行が完了した場合には、撤回ができないものとされている(民法第549条)。 4 税務上の取扱いの異同 (1) 家族信託における税務上の取扱い 本稿ではあまり詳細な解説は行わないが、家族信託(委託者、受託者、受益者ともに個人の場合)に関する財産権の移転に伴う税務上の取扱いは概ね以下のとおりである。 前提として、信託財産の所有権は法律上、受託者に移転するものの、税務上、その経済的な利益が帰属する受益者への課税を目的として、信託財産が受益者(等)に帰属するものと擬制して基本的な整理がなされている。 (ア) 家族信託を設定する時点 単独自益信託(委託者と受益者が同一であり、かつ、同一の自益信託)の場合には、委託者が信託設定前には信託財産を保有しており、一方で信託設定後には受益者が受益権を保有していることとなり、委託者と受益者が同一である以上、財産権が移転したものとはみられず、信託財産の移転に伴う課税関係は生じない。 他方で他益信託(委託者と受益者が異なる信託)の場合には、信託財産が委託者から受益者に対して移転したものとみなして、受益者に贈与税が生じる(受益者が時価相当額の対価を支払った場合は生じないが、この場合は委託者に譲渡所得が発生する可能性がある)。 (イ) 家族信託の期間中 信託財産に帰せられる資産及び負債並びに収益及び費用は、受益者の所得とみなされることとなる。 すなわち、収益物件を信託財産とする場合の賃料収入は、受益者の収入とみなされることとなる。 また、受益権が譲渡された場合には前受益者から新受益者へ信託財産が移転したものとみなして課税関係が生じる。 (ウ) 家族信託を終了する時点 信託の終了時点においては、その終了直前の受益者と残余財産の帰属者との関係により課税関係が整理される。 すなわち、終了直前の受益者と残余財産の帰属者が同一である場合(この場合の受益者を残余財産受益者という(信託法第182条第1項第1号))には課税関係が生じないが、異なる場合(この場合の残余財産の帰属者を帰属権利者という(同項第2号))には信託の終了事由に応じて贈与税又は相続税等の課税関係が生じうることとなる。 (2) 生前贈与における税務上の取扱い 生前贈与の場合には、財産の贈与の時点において受贈者に贈与税が発生する。 その後は受贈者が完全な財産の所有者となることから、受贈者が当該財産を移転させれば課税関係が生じることとなる。 5 活用方法の異同 以上を踏まえて、家族信託と生前贈与のいずれを活用するかについて以下に述べる。 (1) 即座に資産承継を行いたい場合 このような場合には生前贈与を行うことが原則的となる。 ただし、即座に生前贈与を行うと贈与税が高額になってしまう場合や財産を管理する者(受託者)と収益を得る者(受益者)を分けたいような場合には家族信託を検討する余地がある。 (2) 財産管理を委ねたいだけの場合 この場合は家族信託を検討すべきである。 すなわち、生前贈与で財産の所有権を移転した後、一定期間をおいて返還させるというような特約を付けた生前贈与も考えられなくもないが、通常は税務上の不利益となる。 また、生前贈与の場合には完全な所有権が受贈者に移転するため、その管理処分に対して契約上の制約を設けることは困難又は煩雑である。 (3) 資産承継のタイミングを前後させたい場合 この場合には家族信託の活用が有効である。 特に非上場株式を保有している経営者(オーナー社長)が事業承継対策を行う場合には、株式の承継のタイミングを早める、又は遅らすことが有効となる場合が多く存在する。 すなわち、現在は株価が低く、早めに株式を贈与してしまいたいが後継者が未熟な場合や、逆に現在は株価が高いが、将来的には株価が下がってくる見込みがある場合、家族信託によって会社の経営権(意思決定権限)を移すタイミングと財産権(受益権)を移すタイミングをずらすことで、理想的なタイミングの選択ができる。 また、財産をいつか譲ろうと考えているうちに財産を保有している者が認知症になってしまい、財産を移転させることができなくなるリスクを免れる意味でも家族信託の活用が考えられる。 (了)
事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第7回】 「過重労働とコンプライアンス -行政・立法と大手広告代理店事件」 弁護士 原 正雄 1 1991年の事件 1991年8月、今回の事件が起きたのと同じ大手広告代理店で、入社2年目の社員(24才)が自ら命を絶った。同社員は長時間労働を続け、直前は3日に1回、午前6時30分まで残業し、家に帰れず会社近くで宿泊する状況であったとのことである。 1998年、同事件が労災認定された。遺族が会社を訴え、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の全てが会社の責任を認めた。特に、最高裁判所が、会社に「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」があり上司の配慮不足が「過失」であった、と認定したことは、その後の行政や立法に大きな影響を与えた(最判2000年3月24日民集54巻3号1155頁。2000年6月、差戻し後の高等裁判所で、会社が約1億6,800万円を支払い陳謝する、との和解が成立)。 2 立法や行政の取り組み (1) 行政による対応の強化 2001年12月12日、厚生労働省は「脳・心臓疾患の認定基準」を改正し、月100時間以上の時間外労働で、原則として過労死の労災認定をするとした。 2003年5月23日、厚生労働省は、「賃金不払残業総合対策要綱」を発表し、サービス残業の取り締まり強化を宣言した。その結果、全国の労働基準監督署による是正指導の件数は飛躍的に増加し、刑事立件化による書類送検も積極的に行われるようになった。 同年、大手消費者金融が、従業員にサービス残業をさせたとして、厚生労働省大阪労働局から強制捜索を受け、会社と役員らが書類送検された。後に従業員5,000人に残業代35億円を後払いしたことで起訴猶予となったものの、行政の強い決意を感じさせる事件であった。また、同年、中部地方の電力会社が、労働基準監督署の是正勧告を受けて、従業員1万2,000人に残業代65億円を後払いした。翌2004年は、関東地方の電力会社が、同様に労働基準監督署の是正勧告を受けて、従業員2,800人に残業代14億円を後払いした。行政の対応は、明らかに変わってきた。 2006年、改正労働安全衛生法による「長時間労働者に対する面接指導制度」や「過重労働による健康障害防止のための総合対策」が導入された。 もっとも、その後の2008年にも、大手居酒屋の26歳の社員が過労で自ら命を絶つという事件が起きた(2015年12月8日、会社と社長らが連帯して1億3,365万円を支払い、再発防止策を取る、との和解が成立)。 (2) 長時間労働の是正に向けた施策 2014年11月1日、議員立法により、過労死等防止対策推進法が施行された。同法に基づき、厚生労働省は過重労働の撲滅に向けた取り組みを開始した。 2015年4月、厚生労働省は、東京労働局と大阪労働局に、重大悪質な労働基準法違反を取り締まる組織として「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」を新設した。 2015年5月18日、厚生労働省は「違法な長時間労働を繰り返している企業に対する指導・公表について」を発表し、重大な労基法違反については企業名を公表する、との方針を明らかにした。 2015年4月から同年12月までの間、厚生労働省は、労基署を通じ、8,530事業場に立入調査し、4,790事業場に是正勧告を出した。書類送検に至った企業も複数存在する。 2015年12月1日、改正労働安全衛生法が施行され、企業が従業員のためにストレスチェックを実施することが義務付けられた。 2016年4月1日、厚生労働省は、長時間労働削減推進本部の会合で、月80時間超の残業の疑いで立入検査の対象とする方針を示した(従来は月100時間超)。また、各都道府県の全ての労働局に「過重労働特別監督監理官」を各1名配置することにした。 2016年10月7日、厚生労働省は、初の統計資料として「過労死等防止対策白書」を公表した。同白書は、月80時間超の残業がある企業が22.7%と指摘している。約5社に1社が立入検査の潜在的な対象になる。仕事が一因となった自殺は年間2,000人以上、労災請求件数1,500件以上(過去最多)という点も報告している。 (3) 安倍内閣による労働基準法の改正案 安倍内閣は、「働き方改革」の一環として、労働基準法の改正を目指している。 改正法案は、長時間労働の抑制という観点から、労働基準監督官が時間外労働について労働者の健康の確保に特に配慮して助言指導するとしている。改正法案が成立すると、月45時間、年360時間超の時間外労働を想定した「特別条項付き36協定」は、助言指導を受ける可能性が高い。 他方、改正法案は、多様で柔軟な働き方の実現という観点から、高度プロフェッショナル制度の創設を目指している。高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件(想定では1,075万円以上)を満たす高度プロフェッショナルについて、時間外・休日・深夜の割増賃金等を不要とする制度である。これは、安倍内閣の成長戦略の一つである「時間ではなく成果で評価される新たな労働時間制度の創設」に基づく。 しかし、高度プロフェッショナル制度は、野党から「残業代ゼロ法案」として強い反発を受けた。安倍内閣は、改正法案の2015年中の成立を断念した。その後、改正法案は、継続審議となって現在に至っている。今回の事件は、そのような状況下で起こった。 3 今回の事件 (1) 事件前の会社の状況 大手広告代理店では、上述のとおり、1981年、社員が自ら命を絶ち、2000年、最高裁判所で敗訴した。その後も2013年6月に30歳の男性社員が病気で亡くなったが、2016年に長時間労働による過労死であったとして労災認定を受けた。 また、同社は、2010年8月に中部支社が、2014年6月に大阪支社が、2015年8月に本社が、2015年秋に子会社が、それぞれ長時間労働で労基法違反であるとして労基署から是正勧告を受けた。 同社はノー残業デーを設けるなど改善に努めたが、報道によれば「(その後も)残業がなかったのは1日もない」との社員の声もあった(読売新聞2016年11月8日)。 (2) 事件発生に至る経緯 今回の事件で亡くなったTさんは、東京大学を卒業し、2015年4月、同社に入社、本社でインターネット広告を担当する部署に配属された。 その後、10月に使用期間が終わって本採用になり、かつ、部署の人数が14人から6人に減員したため、業務が大幅に増加した。Tさんは、同月4日、ツイッターに「神様、会社行きたくないです」と書き込んでいる。10月中のTさんの時間外労働は、労働基準監督署が認定しただけでも約105時間で、実際はそれ以上であったようだ。しかし、Tさんが申告した10月の時間外労働は、69.9時間であった。過少申告するよう指導されたため、とのことであった。これは、36協定で上限が70時間であったことに基づくとある(日本経済新聞2016年10月15日)。 11月の勤務状況も同様であったようだ。そのため、Tさんは、上司に仕事を減らすよう依頼したが、改善されなかったようである(日本経済新聞2016年11月10日)。労基署は、Tさんが疲れた様子で、友人らに「死にたい」と訴えた時点でうつ病を発症した、と推定した(読売新聞2016年10月8日)。Tさんが申告した11月の時間外労働は、69.5時間であった。 12月、Tさんは「1日の睡眠時間2時間はレベルが高すぎる」「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた後に何が残るんだろうか」等のメッセージを発信している。2015年12月25日クリスマス早朝、Tさんは、母親に「今までありがとう」とメールを送った後、会社の女子寮で自らの命を絶った。24歳であった。 (3) 労災認定と記者会見 2016年9月30日、労基署は、Tさんについて「長時間労働で精神障害を発症し、自殺」として労災認定した。 大手広告代理店は、1週間前の同月23日、本事件とは別に、インターネット広告の不正請求事件について記者会見を開いていた。会見で「現場は恒常的に人手が不足している」との説明がなされた。Tさんが配属されていたのは、本社でインターネット広告を担当する部署であった(朝日新聞2016年10月8日)。 2016年10月7日、Tさんの遺族が記者会見を開いた。同日は、安倍内閣が、初の「過労死等防止対策白書」を閣議決定した日であった。 (4) 行政による立入調査 行政の反応は素早かった。2016年10月11日、東京労働局長が同社の幹部を呼び、再発防止策を要求した。12日、厚生労働大臣が「再び自殺事件が発生したことは本当に遺憾の至りだ」とコメントを公表した。13日、首相が政府の働き方改革実現会議の意見交換会で、本事件に言及した。 上述のとおり、安倍内閣は、時間外・休日・深夜の割増賃金等を不要とする「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法の改正案の成立を目指している。が、野党は「残業代ゼロ法案」と反発している。改正法案が成立すれば、大手広告代理店は同制度の適用を受ける可能性もある。そのような企業で「長時間労働で精神障害を発症し、自殺」という事件が起きたことは、同法案の成立への逆風となりかねない。安倍内閣として危機感を有したことが伺える。 2016年10月14日、各地の労働局が、大手広告代理店の本社と支社に一斉に立入調査を行った。通常と異なり事前通知なしの「抜き打ち」であった。しかも、調査には「過重労働撲滅特別対策班(かとく)」も参加した。上述のとおり、「かとく」は重大悪質な労働基準法違反を取り締まる組織である。既に、靴販売店や量販店、大手飲食業など複数社を書類送検し、内数社を略式起訴での罰金刑とした実績を有していた。同日、官房長官が記者会見で「結果を踏まえ、過重労働防止に厳しく対応する」とのコメントを公表した。一企業への立入調査について官房長官がコメントを発表するのは、異例であった。 翌18日、厚生労働大臣が記者会見で「事案を徹底的に究明し、違反事実には厳しく対処する」とコメントし、同社のみならず主要子会社5社全てへ立入調査する旨を公表した。グループ全体で違法な長時間労働が常態化していないか調べる、とのことであった。翌19日、首相は、転職・起業経験者らとの意見交換会で「このようなことは二度と起こしてはならない」とコメントを公表した。 (5) 刑事上の強制捜査への発展 2016年11月7日、厚生労働省は、労基法違反の疑いで、合計88名の職員を動員して大手広告代理店の本社と3支社に捜索を行い、勤務記録や入退館記録などを押収した。10月14日の立入調査は任意調査であったが、今回は強制捜査であった。それまでの調査で、入退館記録と勤務時間報告書に齟齬があり、30人以上で100時間以上の過少申告、残業代未払いとの事実が発覚したことに基づく。労働基準法は、36協定を超えた長時間労働や残業代未払について、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰を定めている(同法32条、37条、119条1号)。本事件は、会社や役員らの管理責任が刑事上の問題として問われることとなった。 2016年11月9日、厚生労働省は、同社の役員、労務担当者、過少申告を指示した上司たち、幹部数十名から事情聴取するとの方針を公表した。マスコミは「異例の大規模な聴取」と報道した。同日は、厚生労働省が都内で過労死等防止対策推進シンポジウムを開催した日でもあった。同シンポジウムには遺族が登壇し、本事件について語ったうえで改革を訴えた。 4 過重労働とコンプライアンス 上記の経緯を見ると、本事件は、行政がまさに全力で、長時間労働の改善や過労死の防止に取り組んでいる最中に起きた事件であることが分かる。大手広告代理店は、それ以前にも複数回にわたって是正勧告を受けるなどしていたが、今回の事件を防ぐことはできず、行政の取り組みに答えることができなかった。 大手広告代理店は、1951年に「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは・・・」等と説く、有名な「鬼十則」と呼ばれる社員心得を制定している。同社は、そうした心得のもと社員が一丸となって努力した結果、2001年に創立100周年を迎え、東証第一部に上場し、現在は世界有数の広告代理店にまで発展した。正社員として一定の報酬を得ている以上は激務もやむなしとする風潮が、同社に限らず世間に存在していた。 しかし、コンプライアンスの実現が強く求められるようになった現在、次第にそうした考え方は受け入れられなくなってきている。これまでも、無申告のサービス残業となった場合、未払い額の倍額の支払を必要とする「付加金制度」(労働基準法114条)や、年6%の遅延損害金制度(退職者には年14.6%の遅延利息、賃金の支払の確保等に関する法律第6条)、また、刑事罰などが存在した。刑事罰となれば、官庁からの指名や受注を停止されることもある。こうした制度は、今後ますます厳格に適用されるだろう。なぜなら、行政は、世論が求めていることを実現しようとするからである。 今回の事件は、いかなる場合も違法な過重労働は許されない、との社会的合意が形成される大きな契機となる可能性がある。 5 過重労働の防止策 事件が起きた大手広告代理店では、勤怠管理は、社員が毎日、パソコンで労働時間集計表に勤務時間を入力する仕組みとなっていた。そのため、短い時間を入力されてしまうと、会社が長時間労働を把握できないという問題があった。また、労働時間を月間で管理しており、1日単位では管理していなかったようである。この点については、企業によっては、ICカード等による入退館時間の記録や、PCのログオン・ログオフの時間などと、申告労働時間との差異を確認している。就業時間が過ぎると総務担当が見回りをし、申請のない残業をしている社員がいないかを確認する企業もあるとのことである(日本経済新聞2016年12月8日)。 現在、大手広告代理店は、労働時間管理の改善に向けて全力で取り組んでいる。2016年10月17日、同社は、社長名で社員に緊急メッセージのメールを送った。同年11月1日、社長を本部長とする「労働環境改革本部」を設置した旨を社長名でリリースした。同月7日、社内ホールに数百人の社員を集め、数十分かけて会社の現状や改革方針を説明した。 また、同社は、諸施策の策定に際し、社員の多様な意見や価値観を積極的に取り入れ、共に改革を進めていく趣旨から、「入社1~5年目」「同6~10年目」「同11年目以降」「マネジメント職」「契約社員」「他社からの出向者」から成る合計10の提言チームを組成し、問題提起と提言について役員と直接に意見交換する手続を進めている。同年12月2日には「労働環境改善の取り組みについて」とのリリースで、以下の改善策を公表している。 また、上記の「鬼十則」を社員手帳から削除する方向で検討している旨が、報道されている。 こうした改善策は、多くの企業にとっても参考になる点が多い。二度と本事件のようなことが起きないよう、私たちは労務管理におけるコンプライアンスを考えていかなければならない。 (了)
税務ピンポイント解説 【第6回】 「特例で異なる“居住の判定”に要注意!」 Profession Journal 編集部 「リタイアしたら、老人ホームにでも入居してのんびりしたい・・・」と考える方が増えているそうです。日本には「子どもは親の面倒をみるもの」という価値観が根強くある一方、最近では「家族に迷惑をかけたくない」と老人ホームへの入居を検討される方が多いそう。ちなみに、一口に「老人ホーム」と言っても、介護施設型・住宅型の2類型、全部で9タイプのものがありますが、介護を必要としない方の入居の際には多額の資金が必要となる場合がほとんどです。 このように、最期の時を迎えるまでお金の問題はついて回りますが、実は、亡くなったときに住んでいた場所で各種税額にも影響が出ることをご存じですか? 相続税申告でミスが許されない「小規模宅地の特例」の“特定居住用宅地”の適用にあたって問題となっていたのが、相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の居住要件の判定。周知のように、平成25年度税制改正で、一定の要件を満たす場合には、老人ホームに入所していた場合でも居住要件を満たす旨が法律に規定されました。 一方、平成28年度税制改正で創設された「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」では、特例の適用対象は「相続の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋」です。この場合、被相続人が相続開始直前に老人ホームに入所していれば、実際に被相続人が住んでいた場所が「生活の本拠」と判定されるため、本特例制度の適用はできないのです。 つまり、被相続人が老人ホームに入所しているという実態は同じなのに、税制上の特例によって「生活の本拠」の判定が異なるため、現状では2つの特例の恩恵を受けることはできないことになります。 小規模宅地の特例と、空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の被相続人の居住要件の相違は、両者を規定する税法が異なることから致し方ないとの見方もありますが、なにか判然としません。今後に、空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用要件の改正が待たれます。 ちなみに、生前であれば、老人ホームへの入居から一定期間内にその居住用家屋を親族等以外の者に譲渡すれば、通常通り譲渡所得の3,000万円控除の適用を受けることは可能です。また、相続開始後では取得費加算の特例の適用も可能となるため、これらの特例の適用に際しては、税額軽減についての効果測定も必須となります。 (了)
《速報解説》 役員給与税制、各給与類型の対象範囲を拡大 ~平成29年度税制改正大綱~ 税理士 仲宗根 宗聡 1 はじめに 12月8日公表の「平成29年度税制改正大綱」では、「攻めの経営」を促すべく、経営陣に中長期インセンティブを付与するための多様な業績連動報酬や自社株式報酬の導入を促進するよう、損金算入の対象範囲が拡大されることが明記された(大綱p67)。 主な改正事項をまとめると次の通りである。なお、大綱の記載内容では未確定の部分も多いため、今後公表予定の改正法令等の規定内容を十分に確認する必要があると考える。 2 利益連動給与の見直し (1) 算定指標の範囲 従来、算定指標の範囲は「利益の状況を示す指標」のみが対象であったが、『株式の市場価格の状況を示す指標』及び『売上高の状況を示す指標』(利益又は株式の市場価格の状況を示す指標と同時に用いられるものに限る)が追加される。 (2) 指標の計測期間 従来、計測期間は単年度の指標のみが対象であったが、複数年度等の指標を用いることができるようにされる。 (3) 株式報酬 上記(1)の算定指標を基礎として算定される数の市場価格のある株式を交付する給与で確定した数を限度とする株式の交付が対象に追加される。 (4) 対象法人 同族会社のうち非同族法人との間に完全支配関係がある法人の支給する給与が対象に追加される。 3 事前確定届出給与の見直し 従来、事前確定届出給与の対象範囲は、「金銭」及び「譲渡制限付株式」が対象であったが、『株式の交付』及び『新株予約権の交付』が追加される。 これらの株式及び新株予約権は、市場価格のある株式又は市場価格のある株式の取得の基因となる新株予約権で、役務提供を受ける法人又はその法人の発行済株式の50%超を直接若しくは間接に保有する法人が発行したものに限る。 4 定期同額給与の見直し 定期同額給与の範囲に、税及び社会保険料の源泉徴収等の控除後の金額が同額である定期給与が追加される。 5 譲渡制限付株式の見直し (1) 譲渡制限付株式の範囲 従来、自社の株式が付与の対象であったが、役務提供を受けた法人以外の法人が交付する株式も対象に追加される。 (2) 損金算入時期 従来、譲渡制限付株式を対価とする費用については、譲渡制限が解除された日が給与等の課税時期になり、法人の損金算入時期も譲渡制限が「解除された日」の属する事業年度とされていたが、譲渡制限が解除されることが『確定した日』の属する事業年度の損金の額に算入することとされた。 (了)
《速報解説》 配当・利益・簿価純資産価額の比重を1:1:1へ変更等、 H29.1.1以後の類似業種比準方式を見直し、評価額への影響大のケースも ~平成29年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 八代醍 和也 去る平成28年12月8日、与党より「平成29年度税制改正大綱」が公表され、その中に「類似業種比準方式の見直し」が盛り込まれ注目を集めている。 以下、今般の見直しの具体的な内容について解説を行う。なお、文中における意見の部分については、筆者の私見であることを申し添える。 1 改正の概要 今般の見直しのポイントは以下の3点であり、平成29年1月1日以後の相続等により取得した取引相場のない株式の評価に適用される。 2 類似業種の上場株式の株価に2年間の平均株価を追加 類似業種の上場会社の株価について変更点をまとめると、【表1】のようになる。 【表1】 類似業種の上場株式の株価についての改正点 現行では、類似業種の上場株式の株価が直近1年以内に上昇しているような場合に、評価対象会社の株式が実態よりも高く評価されてしまうことが懸念されるが、表中の⑤の方法を用いることで、その影響を一定程度排除できるものと考えられる。 3 類似業種の上場株式の配当、利益及び簿価純資産価額に連結決算上の数値を反映 改正案では、類似業種の上場会社の配当金額、利益金額及び簿価純資産価額は、連結決算上の数値が使用されることに変更される。現代の我が国の上場会社は多角化・国際化が高度に進んでおり、そうした状況下において類似業種比準方式に用いる配当金額、利益金額及び簿価純資産価額についても連結決算上の数値を使用することがより適切な評価方法であると考えられるようになったためと思われる。 4 配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重の変更 類似業種比準方式の比準割合の算定式において、配当金額、利益金額及び簿価純資産価額の比重が現行「1:3:1」であるところ、これが「1:1:1」に変更される。 改正案による比準割合及び評価額の算定式を示すと、以下のとおりである。 結果として、変更後は現行よりも評価対象会社の利益金額の影響が小さくなるように設計されていることになる。この点今般公表された大綱上は「相続税法の時価主義の下、実態を踏まえて」行われるものと説明されているが、実際上は、意図的な多額の損失計上により評価額を低く抑えることを防止する狙いがあるのではないかと考えることもできる。 また、この比重の変更に関しては、平成29年1月1日以後という適用開始時期も実務家にとって非常に大きなインパクトを持つものと考えられる。 すなわち、今般の改正内容は評価額自体の変更であり、贈与等の時期如何では、納税額に相当程度影響を及ぼす可能性があることを意味する。 したがって、平成28年中に譲渡を行うべきかどうか、至急シミュレーションを行う必要があるケースも想定されよう。 5 会社規模の判定基準の見直し 上述した類似業種比準方式の見直し①~③に加え、大綱では、純資産価額方式との併用方式を用いる際の類似業種の割合に関し、「評価会社の規模区分の金額等の基準について、大会社及び中会社の適用範囲を総じて拡大する」としている。 経済産業省資料によると、併用方式の類似業種の割合(L)が高まることで、時価純資産(含み益)が重い中会社の株価を抑える効果があるとしており、こちらも事業承継の促進を目的とした改正となる。なお、具体的な見直し後の数値は記載されていない。 (了)
《速報解説》 「監査法人のガバナンス・コード(案)」がパブコメへ ~意見募集は平成29年1月31日まで~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年12月15日、金融庁の「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」(座長 関哲夫(株)みずほフィナンシャルグループ取締役)は、「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード)(案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言において、監査法人の組織的な運営において確保されるべき原則を規定した「監査法人のガバナンス・コード」の策定が述べられたことによる。 意見募集期間は平成29年1月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 公開草案の主な内容 1 主な内容 コード(案)は、5つの原則とそれを適切に履行するための指針によって構成されており、次のことなどが述べられている。 コード(案)は、コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する)の手法が想定されている。 2 その他 コード(案)の指針では次のことも述べられている。 (了)
《速報解説》 公益法人等への不可欠特定財産の現物寄附は みなし譲渡課税の対象外に(特例対象に追加) ~平成29年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 個人が、現金以外の土地・建物などの財産を法人に寄附した場合には、これらの財産は寄附時の時価で譲渡があったものとみなされ、これらの財産の取得時から寄附時までの値上がり益に対して所得税が課税される。 ただし、これらの財産を公益法人等に寄附した場合において、その寄附が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与することなど一定の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けたときは、この所得税について非課税とする制度が設けられている。 このたび公表された平成29年度税制改正大綱(p34)において、この承認に係る特例の対象の範囲に、 が追加された(下線筆者)。 これにより、従来からの下記の要件3つを満たした上で、更に公益社団法人又は公益財団法人の役員等以外からの現物寄附については、その財産が法人の公益目的事業にとって不可欠特定財産であれば、みなし譲渡課税が課されないことになる申請書の提出後1月以内に承認又は不承認の決定がなかったとき当該申請の承認があったものとみなされる特例対象になる。 「公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産」は、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」という)第5条第16号において、公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産があるときは、その旨並びにその維持及び処分の制限について、必要な事項を定款で定めなければならないと規定されており、公益認定の要件の一つとなっている。 また、内閣府公益認定等委員会から平成20年4月に公表されている「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」のⅠ15.では、 と説明している。 なお、不可欠特定財産がある旨の定款の定めについては、財産種別や場所・物量等を列記するなどの方法により、どの財産が不可欠特定財産に該当するのかが分かるように定款に具体的に記載する必要がある。(内閣府「新たな公益法人制度への移行等に関するよくある質問(FAQ)」問Ⅵ‐3‐②) これらは、設立者・寄附者の意思を尊重する観点から、公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産の安易な処分を防止することを目的としている。 金融資産や通常の土地・建物は、処分又は他目的への利用の可能性があり、不可欠特定財産には該当しないため、これらの寄附は今回の改正の対象とはならない。 (了)
《速報解説》 上乗せ措置の中小企業経営強化税制への改組等、 中小企業向け法人税の設備投資促進税制の改正事項 ~平成29年度税制改正大綱~ 税理士 小谷 羊太 平成28年12月8日に公表された「平成29年度税制改正大綱」(与党大綱)において、法人が取得する一定の減価償却資産に係る特別償却及び特別控除制度について、新設・延長・拡充等の整備が明記された。 以下、それぞれの内容を概観する。 1 設備投資促進税制の概要 設備投資促進税制とは、地域における産業活性化等の向上に繋がる設備投資について、特別償却又は特別控除などの優遇措置が受けられる制度である。 ① 特別償却制度 (イ) 又は (ロ) (※) 上記の金額を上限として償却費として損金経理した場合に、損金算入が認められる。 (※) 特別償却制度は課税の繰延制度である。 (※) (ロ)の一定額が「通常の減価償却費」であるときは、結果的に取得価額の全額が償却(即時償却)できる。 ② 特別控除制度 (※) 当期の法人税額の一定額(20%など)を上限として、税額控除が認められる。 (※) 特別控除制度は課税の減免制度である。 2 平成29年度税制改正大綱における改正案 ▷【新設される制度】 地域中核企業向け設備投資促進税制の創設 青色申告書を提出する法人が、特定事業計画に基づき、一定の施設等を新設し、又は増設した場合において、その特定施設等を構成する機械装置、器具備品、建物及びその附属設備並びに構築物を取得等し、その事業の用に供したときは、特別償却又は特別控除との選択適用ができる。 ① 特定事業計画 特定承認地域中核事業計画 ⇒承認地域中核事業計画(仮称)のうち、地域未来投資促進法による一定の基準に適合することについての国の確認を受けた計画 ② 一定の施設等 ①の事業計画に係る地域未来投資促進法(仮称)の同意地域中核事業促進地域(仮称)内における特定地域中核事業施設等。 取得価額の合計額が2,000万円以上のもの(本制度の対象となる金額は100億円が限度となる)がその対象となる。 ③ 特別償却費 ④ 特別控除額 なお、この改正案は、「企業立地の促進等による地域における産業集積の形成及び活性化に関する法律」の改正が前提となる。適用期限は同法の改正法の施行の日から平成31年3月31日までの間に新設等された施設を構成する資産に係るものとされる。 ▷【拡充される制度】 「中小企業投資促進税制の上乗せ措置」の「中小企業経営強化税制」への改組 平成29年3月31日で適用期限を迎える中小企業投資促進税制の上乗せ措置(生産性向上設備等に係る即時償却等)が、サービス業も含めて広く中小企業の生産性の向上に資することを目的に、「中小企業経営強化税制」へ改組されることとなった。 中小企業経営強化税制は、青色申告書を提出する中小企業者等で、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けたものが、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に、生産等設備を構成する「機械装置、工具、器具備品、建物附属設備及びソフトウェア」で、その法人の認定を受けた経営力向上計画に記載された経営力向上設備等(「特定経営力向上設備等」という)に該当するもののうち、一定の規模以上のものの取得等をして、その特定経営力向上設備等を国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合には、特別償却(即時償却)又は特別控除との選択適用ができる制度となる。 上記の通り改組後は、一定の経営向上設備等を取得等した場合の固定資産税の半減特例と同様に「中小企業等経営強化法」の認定を必要とする制度になる。 ① 生産等設備 指定事業の用に直接供される減価償却資産で構成される設備をいう。なお、事務用器具備品、本店、寄宿舎等に係る建物附属設備、福利厚生施設に係るもの等は該当しない。 ② 経営力向上設備等 中小企業等経営強化法に規定する次の設備をいう。 なお上述の通りこの特例の適用を受けるのは、経営力向上設備等のうち、認定を受けた経営力向上計画に記載されたもの(特定経営力向上設備等)に限る。 「生産性向上設備」は改組前(上乗せ措置)の「先端設備(A類型)」、「収益力強化設備」は改組前(上乗せ措置)の「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」(B類型)に該当するが、それぞれ改組前の対象設備(機械装置、ソフトウェア等)に、器具備品・建物附属設備等が加わった。なお、建物・構築物は除外されている。 経済産業省によると、サービス業は器具備品や建物附属設備の設備投資を行うケースが多いとしており、この改正によりサービス業も適用しやすい制度になったと考えられる。一方で後述のように、中小企業投資促進税制の対象設備からは器具備品が除外されている。 ③ 特別償却費(即時償却) ④ 特別控除額 ▷【延長等される制度】 ◆中小企業投資促進税制について、対象資産から器具備品を除外した上、その適用期限を2年間(平成31年3月31日まで)延長する。 ◆特定中小企業者が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は特別控除制度(商業・サービス業・農林水産業活性化税制)の適用期限を2年間(平成31年3月31日まで)延長する。 ▷【その他の整備】 上記の特別控除制度(中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制)における控除税額の上限において、控除税額の合計で、当期の法人税額20%を上限とする所要の整備を行う。 * * * 中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制の関係をまとめると、下図のとおりとなる。なお、固定資産税の課税標準の特例措置については[こちらの別稿]を参照されたい。 【参考図】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (※) 経済産業省ホームページより (了)
《速報解説》 経営力向上設備等取得に係る固定資産税の課税標準の特例措置、 地域・業種限定で対象設備を拡充 ~平成29年度税制改正大綱~ 税理士 小谷 羊太 平成28年12月8日に公表された「平成29年度税制改正大綱」(与党大綱)では、中小事業者等が取得する一定の機械・装置に係る固定資産税の課税標準の特例措置について、残り2年の適用期限に限り、地域・業種を限定した上で、対象設備が拡充されることが明記された。 1 償却資産に係る固定資産税の計算 償却資産に係る固定資産税の計算方法は下記の通りである。 (※) 課税標準額は、各資産の評価額を資産が所在する区ごとに合算した額(決定価格)。 (※) 課税標準額が150万円未満の場合は、課税されない。 (※) 課税標準の特例の適用を受ける資産がある場合は、その資産の評価額にそれぞれ特例率を乗じて得た額を基に課税標準額を算出する。 2 中小企業等経営強化法に基づく固定資産税の軽減措置の確認(現行制度) ① 概要 経営力向上計画に基づいて新たに導入した機械及び装置について、上記1の算式中にある固定資産税の課税標準額が、3年間半額になる。この措置は固定資産税の軽減措置としては、中小企業の設備投資を促進する目的から、平成28年7月より導入されたものである。 ② 対象者:中小企業者、中小事業者 ③ 対象設備 その他この特例措置の現行制度については、本誌掲載の下記記事を参照されたい。 3 平成29年度税制改正大綱における改正案 上記2の固定資産税の課税標準の特例措置について、地域・業種を限定した上で、その対象に、測定工具及び検査工具、器具・備品並びに建物附属設備(償却資産として課税されるものに限る)のうち、一定のものを加える措置がとられる。 今回の改正により、地域・業種を限定してではあるが、現行制度の機械装置に、「工具」、「器具・備品」、「建物附属設備」が対象資産として加えられることとなった。なお、この拡充措置は、この軽減措置(3年間の時限措置)の残り2年間(※)に限っての適用となる。 (※) 総務省公表資料によると、この措置は「その期限の到来をもって終了するものとし」と記載されている。 「地域・業種の限定」、「対象資産」については、次に掲げるものとなる。 ① 地域・業種 (※) 経済産業省の資料によると、最低賃金が全国平均以上となっている地域は「東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都」の7都府県のみであり、これらの地域については、労働生産性が全国平均未満の業種(小売業、宿泊業、飲食業、理美容、自動車整備業、東京以外の医療業、東京以外の社会保険・福祉・介護業などのサービス業)についてのみ、特例の対象とされる。 ② 対象資産 ③ 取得価額基準 * * * なお、中小企業向け法人税の設備投資に係る特例措置の改正事項については、[こちらの別稿]を参照されたい。 (了)