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金融・投資商品の税務Q&A 【Q36】「個人が匿名組合契約に基づき太陽光発電事業に投資を行い利益の分配を受ける場合の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q36】 「個人が匿名組合契約に基づき太陽光発電事業に投資を行い利益の分配を受ける場合の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 1 太陽光発電事業 太陽光発電事業は、一般的に、特別目的会社(SPC)が太陽光パネルを取得し、当該太陽光パネルを使用して売電収入を得ることにより、収益を獲得するスキームです。太陽光パネルの購入には多額の資金を必要とするため、金融機関等から借入れを行うほか、出資者から出資を募ります。一般的な出資形態の一つとして匿名組合型があります。 匿名組合型の場合、営業者は一般的に、匿名組合事業に係る利益の計算上、太陽光パネルについて税務上の限度額まで減価償却を行い、減価償却費計上後の損益を匿名組合員に分配します。   2 匿名組合員の所得税課税 匿名組合の損益は、匿名組合の営業者及び匿名組合員の損益として法人税又は所得税の課税対象となります。匿名組合の税務上の取扱い概要については【Q27】のとおりです。 匿名組合員たる個人(居住者)が匿名組合契約に基づき営業者から受ける利益の分配は、20.42%の源泉税が課された上で、所得税課税の対象となります。所得分類は、原則として雑所得とされます(ただし、匿名組合員が匿名組合契約に基づいて営業者の営む組合事業に係る重要な業務執行の決定を行っているなど組合事業を営業者と共に経営していると認められる場合には、営業者から受ける利益の分配は、当該営業者の事業の内容に従って事業所得又はその他の各種所得に所得分類されます)。 雑所得として取り扱われる匿名組合に基づく利益の分配は、所得税法上、総合課税の対象とされます。匿名組合に基づく利益の分配に源泉税が課される場合における当該源泉税額は、所得税額から控除することができます。 損失の分配については、雑所得のマイナスとして取り扱われるため、他の所得との損益通算はできません。また、匿名組合契約において、投資家に対し、各計算期間に損失の負担を求めず、匿名組合契約の終了時に損失分担義務を負うこととしている場合は、当該損失は各計算期間において未だ確定していないことから、当該計算期間の各種所得の計算上匿名組合員たる個人の雑所得の必要経費に算入することはできないとされています(翌営業年度以降に当該匿名組合事業に利益が生じた場合については、出資の欠損額を填補した後に分配を受ける利益が、各種所得の金額の計算上総収入金額に算入されることになります)(【Q27】参照)。   3 本件へのあてはめ 匿名組合員たる個人が匿名組合契約に基づき営業者から受けるべき利益の分配は、原則として雑所得として総合課税の対象となります。確定申告により、利益の分配に課された源泉税を控除することができます。 損失の分配は、他の所得との損益通算はできません。   (了)

#No. 210(掲載号)
#箱田 晶子
2017/03/16

被災したクライアント企業への実務支援のポイント〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第4回】「個人が支援を受けた場合、支援を行った場合」

被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔税務面(所得税)のアドバイス〕 【第4回】 「個人が支援を受けた場合、支援を行った場合」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   企業の事業所がある地域で大規模災害が発生した場合、多くの役員や従業員(以下、従業員等という)が災害の影響を受けると考えられる。企業の総務、経理担当者は、災害時における個人の税務上の取扱いを理解し、従業員等への情報発信や従業員等からの相談に適切な対応ができるようにしておきたい。 以下、災害時の税務上の取扱いについて、被災した個人が「支援を受けた」場合と、個人が被災者に「支援をした」場合に分けて解説を行う。   【1】 被災した個人が支援を受けた場合 個人が被災した場合、勤務先企業や日本赤十字社等から災害見舞金や義援金等を受け取ったり、各種の支援を受けることがある。災害見舞金や義援金等を受け取ったり、各種の支援を受けても、それが社会通念上相当と認められる範囲のものであれば、所得税は課されない(所法9①十七他)。 課税されない災害見舞金等には、次のようなものがある。 (1) 勤務先から支給を受ける災害見舞金や支援等 上表(1)の(ア)から(エ)については、所得税は課税されない(詳細は前回参照)。 (2) 勤務先以外から受ける災害見舞金等 ① 配分や支給を受けた場合の課税関係 (ア) 災害義援金の配分 心身又は資産に加えられた損害について個人が支払を受ける相当の見舞金に、所得税は課されない(所法9①十七、所令30三)。 したがって、配分を受けた義援金に所得税が課されることはない(所令30三)。 (イ) 災害見舞金 知人や友人から見舞金を受け取った場合、その見舞金がその受取人の社会的地位、贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては、所得税は課されない(所法9十七、所令30三、所基通9-23)。 また、このような見舞金は、贈与税の課税対象にもならない(相基通21の3-9)。 (ウ) 災害弔慰金 一定の自然災害が発生した場合には、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づいて、死亡した人の遺族に対して「災害弔慰金」が、精神又は身体に著しい障害を受けた人には「災害障害見舞金」が市町村から支給される。 「災害弔慰金」及び「災害傷害見舞金」は、同法により非課税とされている(災害弔慰金の支給等に関する法律6)。 (エ) 被災者生活再建支援金 自然災害によって住宅に被害を受けたときには、「被災者生活再建支援法」に基づいて、被災世帯の世帯主の申請により、都道府県から被害の割合に応じた「被災者生活再建支援金」が支給される。 「被災者生活再建支援金」は、同法により非課税とされている(被災者生活再建支援法21)。 ② 雑損控除との関係 配分を受けた義援金や支給を受けた災害見舞金等と、本シリーズ【第5回】で取り上げる予定の雑損控除との関係をまとめると次の通りである(国税庁「東日本大震災により損害を受けた場合の所得税の取扱い(情報)(個人課税課情報第3号、資産課税情報第6号)」の「第Ⅱ 質疑応答編」第8、3-2)。 ◆災害義援金 ◆災害見舞金 ◆災害弔慰金 ・・・資産の損害の補てんを目的として配分又は支給されるものではない。 ⇒雑損控除の損失額の計算において控除する必要はない。 ◆被災者生活再建支援金 ・・・住宅の被害の程度と再建方法に応じて支給される。 ⇒雑損控除の損失額の計算において控除しない。   【2】 被災した個人が金融機関等から債権放棄を受けた場合 個人が債務免除を受けた場合の債務免除益は、原則として所得金額の計算上収入金額又は総収入金額に算入する(所基通36-15(5))。ただし、資力を喪失して債務を返済することが著しく困難である場合に受けた債務免除益は、課税の対象とならない(所法44の2①)。 住宅ローンや事業性ローンを借りている個人が、金融機関等から「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」に基づいて債務免除を受けた場合は、上記「資力を喪失して債務を返済することが著しく困難である場合に受けた債務免除益」に該当するものとして課税されない。 詳細は本誌掲載の下記拙稿をご参照いただきたい。   【3】 個人が被災地域や被災者に対して支援を行った場合 (1) 個人が寄附金を支出した場合の取扱い 個人が特定寄附金を支出したときは、寄附金控除を受けることができる(所法78①)。 寄附金控除の額は、次の算式により計算する。 なお、東日本大震災に関連する寄附金については、震災特例法により特別な取扱いが規定されている。その内容については、本シリーズ【第6回】において、過去の大規模災害時における特例措置としてまとめて解説する予定である。 (2) 特定寄附金とは  特定寄附金には、次のようなものが該当する(所法78①、措法41の18の3)。 なお、災害救助法の規定の適用を受ける地域の被災者のために、日本赤十字社や新聞・放送等の報道機関等の募金団体が募集する義援金等については、その義援金等が最終的に義援金配分委員会等に対して拠出されることが募集趣意書等において明らかにされているものであるときは、地方公共団体に対する寄附金として扱われる(所基通78-5)。 (了)

#No. 210(掲載号)
#篠藤 敦子
2017/03/16

包括的租税回避防止規定の理論と解釈 【第35回】「租税回避の定義」

包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第35回】 (最終回) 「租税回避の定義」   公認会計士 佐藤 信祐   前回までで、我が国における租税回避に対する論点の多くは解説できたと思う。最終回に当たる本稿では、租税回避の定義についてまとめるとともに、今後の動きについて予測したい。   1 租税回避の定義 かつて、金子宏教授は、 を租税回避であると位置づけ(※1)、この定義が通説であったと思われる。 (※1) 金子宏『租税法』121-122頁(弘文堂、第19版、平成26年) これに対し、今村隆教授は、 を租税回避の定義として位置づけた(※2)。 (※2) 今村隆「租税回避とは何か」税務大学校論叢40周年記念論文集57頁(平成20年) 【第33回】で解説したヤフー・IDCF事件は、包括的租税回避防止規定の射程を、組織再編税制の各規定を「租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの」とした。そして、濫用の有無の判断について、①経済合理性がないかどうか、②事業目的がないかどうか等を考慮したうえで、「当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断する」としている。 今村教授が、事業目的がほとんどなく、租税法規の趣旨・目的に反することから経済的実質を欠く場合を租税回避と位置付けているのとはやや異なるものの、租税法規の趣旨・目的からの逸脱を租税回避と位置付けていることには変わりはない。このように、ヤフー・IDCF事件最高裁判決と同様の判断を同族会社等の行為計算の否認に及ぼすことは、理論的には不可能なことではない。そして、制度の濫用や制度趣旨からの逸脱としたほうが、より租税回避の定義が明確となるだけでなく、①経済合理性がないかどうか、②事業目的がないかどうかにより判断するということになれば、実務家からの立場としても、それほど違和感はない。 【第33回】では、①②は例示であるとしたが、例示として想定できないようなものを根拠として、租税回避の範囲を拡大することは許されるべきではない。そのため、基本的には、ヤフー・IDCF事件最高裁判決を基礎に、租税回避の一般的な定義が定められていくべきではないかと考えられる。   2 立法論としての租税回避否認 このように、租税回避の定義は、理論上は濫用論に移るべきであると考えられるが、現行法上、実際の運用は、経済合理性や事業目的を基礎に判断せざるを得ないと考えられる。そうなると、経済合理性の有無や事業目的の有無を判断することが容易ではないという問題が挙げられる。さらに、制度の趣旨・目的に反するかどうかという点も、ヤフー事件東京地裁判決にあるように、みなし共同事業要件を「移転資産に対する支配の継続」という、本事件の前には公表されていなかったような制度趣旨を持ち出し、東京高裁判決で修正されるということは、あまりにお粗末であると言わざるを得ない。 ヤフー・IDCF事件、日本IBM事件のみならず、それ以前の武富士事件を振り返ってみても、租税回避の射程範囲はそれぞれの事件によって異なり、租税回避の射程は混沌とし始めたと言える。租税回避に対する対応を、従前の解釈論の延長線上で行うのはもはや限界にきていると言わざるを得ない。 ましてや日本IBM事件では、税務調査において十分な資料が開示されなかったことが納税者の勝訴の要因となっており、ヤフー・IDCF事件最高裁判決にあるような「組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したもの」かどうかの立証責任を国側に負わせることは、納税者の遵法精神を著しく害する結果となる。租税回避に該当するかどうかの限界値を定める必要はないし、そのようなことは不可能であるが、納税者の予測可能性を高めるとともに、課税庁としても租税回避に対応しやすい制度が望まれる。 そのため、租税法律主義を基本とする我が国の租税法の法体系からすれば、解釈論ではもはや限界であり、一般的否認規定を整備する必要があると考えられる。このような中で、財務省財務総合政策研究所が公表した「フィナンシャルレビュー(平成28年第1号)」では、BEPSと租税回避への対応についてまとめられている。立法論としての租税回避への対応が検討されている証左と言えよう。近いうちに、一般的否認規定が導入される可能性があると思われるが、その際には、解説を行いたいと考えている。   3 まとめ 本連載では、ヤフー・IDCF事件東京地裁判決、東京高裁判決をきっかけとして、実務家の立場から、包括的租税回避防止規定の射程範囲を探っていった。当初の想定よりも早く最高裁判決が公表されたことと、立法論への議論が高まっていったこともあり、やや軌道修正を行ったが、現段階の実務対応という意味では、可能な限りの解説をさせていただいたと思う。 今回で本連載は終了するが、租税回避についての研究は、学術的な分析と実務的な分析を融合させたうえで検討を行う必要がある。そのため、さらに研究を重ねたうえで、研究成果を公表できるようにしたい。 本連載が、皆さまのお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)

#No. 210(掲載号)
#佐藤 信祐
2017/03/16

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第19回】「復配の翌年度に起きやすい注記ミス」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第19回】 「復配の翌年度に起きやすい注記ミス」   公認会計士 石王丸 周夫   1 今回の事例 計算書類のドラフトにはうっかりミスがつきものです。 たとえば、こんなミスをよく見かけます。 【事例19-1】 配当に関する注記で記載事項が不足している。 【事例19-1】は連結計算書類の連結注記表に記載される「連結株主資本等変動計算書に関する注記」の一部で、剰余金の配当に関する情報を抜き出したものです。 これ以外には、配当に関する記載はありませんでしたが、実は「不足している情報」があります。 何が足りないか、わかりますか? この注記を何度も作成したことがある方は、「あれっ?」と感じるところがあると思います。 ただし、連結株主資本等変動計算書を合わせて見なければ、断定はできないでしょう。 そこで、この会社の連結株主資本等変動計算書(一部のみ)を以下に示します。 いかがでしょうか? 注記の不足部分を考えてみてください。   2 足りなかったのはこの情報 さっそく、答えを見てみましょう。 「正解」の赤枠で囲った部分が不足部分でした。 「(1)配当金支払額」という項目です。 一般に、「剰余金の配当に関する事項」の注記には、以下のとおり、2つの事項を記載します。 〈「剰余金の配当に関する事項」の記載事項〉 【事例19-1】では、(2)の情報のみ記載し、(1)をまるまる落としてしまっていたのです。 それにしても、なぜそんなことになってしまったのでしょうか? 前年度の注記を見ながら同じように作成すれば、(1)をまるまる落としてしまうことなどなさそうですが・・・。   3 復配した次の期にミスが起こった 上に示した(1)(2)の記載事項は、どんな会社でも必ず毎期記載されるかというと、そういうわけではありません。計算書類の注記というのは、一般に、該当がなければ記載する必要はありません。配当の注記に関しても、該当がなければ記載の必要はないのです。 この場合、「該当がない」というのは、「配当がなされない」という意味です。 整理すると、以下のようになります。 〈配当の有無と注記の要否の関係(まとめ)〉 毎期継続して配当を実施している会社の場合は、パターンⅠとなります。業績が悪くなって無配になってしまった年度がパターンⅡです。そのまま無配が継続したのがパターンⅢです。その後、業績が回復して配当を再開した年度がパターンⅣです。そして、再び順調に配当を継続していけるようになった年度が、パターンⅤというわけです。 それで【事例19-1】ですが、実はこの会社、パターンⅤの年度だったのです。 したがって、前年度の注記はパターンⅣに該当し、(1)の記載はなく、(2)しか記載されていませんでした。 そのパターンをまねして今期のパターンⅤの注記を作成してしまったため、(1)の記載をまるまる落としてしまったのです。 なお、この連載の【第9回】では、パターンⅣ(復配時)の事例を使ったうっかりミスを紹介しています。そこでは前年度がパターンⅢだったことにより、(2)の注記を落としてしまったという事例でした。 このように、復配時及びその翌年度は、前の年度に記載しなかった事項を記載しなければならないため、うっかりミスが起きやすいのです。 十分に注意しましょう。   4 配当に関する注記のチェック方法 おさらいの意味で、配当に関する注記と連結株主資本等変動計算書の対応箇所を確認しておきましょう。 連結株主資本等変動計算書の「剰余金の配当」と「利益剰余金」が交わる欄に記載されている「△152」は、当連結会計年度中に会社が実施した配当の額を指しています。その金額は、連結注記表の「連結株主資本等変動計算書に関する注記」の中で、「(1)配当金支払額」という項目として記載されています。 この2つが一致すればOKです。 連結注記表の「(1)配当金支払額」の下に記載されている「(2)基準日が当連結会計年度に属する配当のうち、配当の効力発生日が翌期となるもの」については、一般に、剰余金の配当議案と一致します。ここでは、たまたま「(1)配当金支払額」と同額の「152百万円」と記載されていますが、これは連結株主資本等変動計算書に表示されている「△152」とは関係がありませんので、注意してください。 なお、配当の議案のイメージについては、【第9回】で紹介しています。   〈今回のまとめ〉 剰余金の配当に関する注記については、連結株主資本等変動計算書と剰余金の配当議案を参照して、整合性を確認しましょう。 (了)

#No. 210(掲載号)
#石王丸 周夫
2017/03/16

ファーストステップ管理会計 【第9回】「最適セ-ルス・ミックスを探せ」~ジャムおじさんはスゴ腕経営者?~

ファーストステップ 管理会計 【第9回】 「最適セ-ルス・ミックスを探せ」 ~ジャムおじさんはスゴ腕経営者?~ 〔利益管理編③〕 公認会計士 石王丸 香菜子   【第7回】・【第8回】では、企業の利益管理について、大きな視点で取り扱いましたが、今回からは、もう少し細かい視点で考えてみましょう。 皆さんがベ-カリ-でパンを買う時、例えば「あんパン2つとクロワッサン1つ」の組み合わせにするか、それとも「あんパン1つとクロワッサン2つ」の組み合わせにするか、迷うことがありますよね。 そんなとき、パンを買う側としては、なるべく満足度を大きくするようなパンの組み合わせを選ぶでしょう。 これと同じように、パンを売るベ-カリ-の側としては、なるべく利益を大きくするような、パンの生産・販売量の組み合わせを考えるはずです。 企業が複数の製品・商品を取り扱う場合、利益を最大にするような生産・販売量の組み合わせのことを、管理会計では「最適セ-ルス・ミックス」と呼びます。   ◆あんパンとクロワッサンの組み合わせを考えよう あるベ-カリ-では、あんパンとクロワッサンが人気商品であるとします。ベ-カリ-の経営者になったつもりで、ベ-カリ-の利益を最大にするような、あんパンとクロワッサンの販売量の組み合わせを考えてみましょう。 パンが売れ残るのは困りますから、各パンの生産量の上限は、お客さんが買ってくれる数、すなわち需要量となります。需要量以外に、あんパンとクロワッサンの生産・販売を制限する要因がなければ、それぞれ需要量まで生産・販売すればいいですね。 ここで、あんパンとクロワッサンの1個当たりの売価及び原価(変動費)が以下のようであるとします(ちなみに、パンを製造するために常に一定額生じる固定費については、生産・販売量とは無関係なので、ここでは考慮する必要がありません)。 売価から変動費を差し引いた残りを、管理会計では「限界利益」と呼ぶのでしたね(【第7回】の図では、赤の線と青の線の傾きの差で表しました)。 あんパンとクロワッサンの、1日当たりの需要量を各200個とします。 それぞれを200個製造する場合、限界利益の合計は、 です。   ◆バタ-が品薄です! ところで、近年、バタ-の品薄状態が続いていることは、ご存じの方も多いと思います。 この影響で、皆さんの経営するベ-カリ-でも、材料の1つであるバタ-の調達量に上限があるとします。あんパンとクロワッサンのために使用できるバタ-の量は、1日当たり4,000gです。 では、この限られたバタ-を有効に使って、あんパンとクロワッサンを生産し、最大の利益をあげることを考えてみましょう。 あんパンとクロワッサン1個当たりのバタ-の使用量は、以下の通りです(ちなみに、クロワッサンは、お菓子のパイと同じように、生地にバタ-を折り込むことでサクサクの層を作るので、多くのバタ-を使います)。 あんパンとクロワッサンを200個ずつ製造しようとすると、 となり、バタ-が足りません。 それでは、あんパンとクロワッサンを何個ずつ製造すればよいのでしょうか。   ◆稼ぎ頭はクロワッサンなのか? 1個当たりの限界利益は、クロワッサンのほうが大きいので、一見すると、クロワッサンを優先して製造するほうが利益をあげられるようにも思えます。 仮に、クロワッサンを200個製造すると、バタ-の使用量は@20g×200個=4,000gとなり、これだけでバタ-を使い切ってしまいますので、あんパンは製造できません。 この場合の限界利益は、 になってしまいます。   ◆バタ-1g当たりの限界利益で考える しかし、よく考えると、「貴重なバタ-を利用して、なるべく効率的に利益をあげる」必要があることに気づくでしょう。 つまり、製品1個当たりの限界利益ではなく、バタ-1g当たりの限界利益を考え、これが大きいほうを優先して製造すれば、利益が大きくなります。 バタ-1g当たりの限界利益は、あんパンのほうが大きいことがわかります。 そこで、まずはあんパンを優先して製造することを考えてみましょう。 あんパンを200個製造すると、バタ-の使用量は@5g×200個=1,000gです。バタ-の残りは4,000g-1,000g=3,000gですので、これを使ってクロワッサンを製造します。 クロワッサンは、3,000g÷@20g=150個製造できますね。 この場合の限界利益の合計は、 となります。クロワッサンだけを生産・販売する場合よりも大きくなりますね。 このように、生産に当たって利用できる資源が限られる場合には、「資源1単位当たりの限界利益」を考え、その限界利益が大きい製品の生産・販売を優先することで、最適セ-ルス・ミックスを決定することができます。 (なお、「限界利益」の代わりに、「貢献利益」という言葉が使われることもあります。ある製品のためだけに個別的に生じる固定費がある場合には、限界利益からさらにこの個別固定費を差し引いた残りを、「貢献利益」と呼ぶことがあります。ただし、固定費は様々な製品に共通して生じるものが大半なので、「限界利益」と「貢献利益」は、ほぼ同じ意味として用いられるケ-スも多いです。)   ◆制約は原材料だけではない 今回の例のバタ-使用量のように、生産に当たっての制限を、「制約条件」と呼びます。 実際の企業では、製品の生産・販売にあたって、様々な制約が生じます。原材料の入手量が安定しないケ-スや、原材料を輸入しており一度の輸入量が決まっているケ-スは、その典型です。 また、原材料だけでなく、設備や機械を稼働できる時間や、人員の作業時間、原材料や製品の保管スペ-スなど、生産体制面の制約も考えられます。 ベ-カリ-の例では、オ-ブンの稼働時間なども、生産を制約する可能性があります。オ-ブンの台数が限られていて稼働時間に上限がある場合、焼く時間の長い大型の食パンばかり生産していては、他のパンが焼けなくなってしまいます。 この場合には、オ-ブン稼働時間当たりの各パンの限界利益を考える必要があります。例えば、焼く時間の短い小型のあんパンや、オ-ブンを利用しないカレ-パンなどと組み合わせることで、最適セ-ルス・ミックスを決定することができるでしょう。 アニメの『アンパンマン』では、アンパンマン・食パンマン・カレ-パンマンが出てきますが、ジャムおじさんがあえてこのトリオを選んだ理由は、実はこの辺りにあるのかもしれませんね! ・・・ともあれ、最適セ-ルス・ミックスを考えるには、その前提として、 を洗い出すことが重要と言えます。   ◆制約が複数ある場合はどうするか 今回は、各製品に共通する制約条件が1つだけのケ-スを考えましたが、実際には制約が複数あるケ-スも多いでしょう。次回は、制約条件が複数あるケ-スに利用できる「線形計画法」の考え方と、実務上の利用について紹介します。 (了)  

#No. 210(掲載号)
#石王丸 香菜子
2017/03/16

ストック・オプション会計を学ぶ 【第11回】「未公開企業」

ストック・オプション会計を学ぶ 【第11回】 「未公開企業」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号。以下「ストック・オプション会計基準」という)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号。以下「ストック・オプション適用指針」という)にしたがって、未公開企業に関するストック・オプションについて解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 未公開企業に関する取扱い 1 会計処理の原則的な方法 ストック・オプション会計基準は、権利確定日以前の会計処理として、ストック・オプションの公正な評価額を、対象勤務期間にわたって費用として計上し、対応する金額を、ストック・オプションの権利の行使又は失効が確定するまでの間、貸借対照表の純資産の部に、新株予約権として計上すると規定している(ストック・オプション会計基準4項、5項)。 「公正な評価額」とは、一般に、市場において形成されている取引価格、気配値又は指標その他の相場(市場価格)に基づく価額をいい、市場価格がない場合でも、当該ストック・オプションの原資産である自社の株式の市場価格に基づき、合理的に算定された価額を入手できるときには、その合理的に算定された価額は公正な評価額と認められる(ストック・オプション会計基準2項(12))。 2 会計処理の基本的な考え方 以下に整理するように、ストック・オプションに関する会計処理には等価交換の考え方がある。 このため、未公開企業におけるストック・オプションの会計処理及び開示については、次のように規定されている(ストック・オプション会計基準13項、16項、63項)。 ストック・オプション適用指針では、未公開企業において、ストック・オプションの単価について、「公正な評価単価」を見積る方法と、「単位当たりの本源的価値」を見積る方法がともに認められていることに関して、次のように述べている。 未公開株式の価値や、ストック・オプション価値の算定技法の今後の進化も想定しており、企業の置かれた状況と、用いる算定技法のいかんによっては、十分な信頼性をもってストック・オプションの公正な評価単価の見積りを行う可能性も想定されることから、未公開企業についても、本来原則である公正な評価単価によるストック・オプション価値の測定と、単位当たりの本源的価値を見積る方法をともに認めることが適当であると考えられるとしている(ストック・オプション適用指針59項)。 (了)

#No. 210(掲載号)
#阿部 光成
2017/03/16

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第29回:2017年3月改訂】企業結合会計①「合併の会計」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第29回:2017年3月改訂】 企業結合会計① 「合併の会計」   仰星監査法人 公認会計士 許 仁九   〈事例による解説〉   〈X2年3月期の連結修正仕訳〉 ○開始仕訳 ○当期純利益の振替   〈会計処理〉 P社の会計処理 (1) 親会社(P社)持分(80%)に係る会計処理 (2) 非支配株主(A社)持分(20%)に係る会計処理   〈会計処理の解説〉 親会社が子会社を吸収合併する場合、当該取引は「共通支配下の取引」に該当することになります(企業結合に関する会計基準(以下、「基準」)16項)。 1 諸資産 親会社P社が子会社S社から受け入れる諸資産は、合併期日の前日に付された適正な帳簿価額により計上します(「指針」206項(1))。 2 株主資本及びのれんの会計処理 合併期日直前の持分比率に基づき、親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に按分し、会計処理を行います。 (1) 親会社持分相当額の会計処理 諸資産の親会社持分相当額960と親会社が合併直前に保有していた子会社株式(抱合せ株式)の適正な帳簿価額800との差額を抱合せ株式消滅差益として、特別利益に計上します(「指針」206項(2)①ア)。 (2) 非支配株主持分相当額の会計処理 諸資産の非支配株主持分相当額240と、取得の対価(非支配株主に交付した親会社株式の時価)300との差額をその他資本剰余金とします(「指針」206項(2)①イ)。 合併により増加する親会社の株主資本の額は、払込資本(資本金又は資本剰余金)とします(「指針」206項(2)イ、79項)。 (了)

#No. 210(掲載号)
#許 仁九
2017/03/16

税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題〔Q&A編〕 【第5回】「会社代表者が認知症となった場合の様々な影響」-商取引等-

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 〔Q&A編〕 【第5回】 「会社代表者が認知症となった場合の様々な影響」 -商取引等-   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   [設問05] 私の父は若い頃に建設会社を創業し、50年以上にわたって社長として会社(取締役会設置会社)を経営してきました。自社の株式も、父が100%を保有しています。 3人兄弟の長男である私は、大学卒業と同時に父の会社に入社して以来、現在は取締役として会社経営を手伝っています。 ◆  ◆  ◆ その父の様子が、1、2年くらい前から少しおかしいのです。 例えば、新規で受注した工事現場のことで相談を持ちかけても、過去に受注した同様の現場の内容と混同し、事情が飲み込めないのです。 また、先日は、業界団体で長年ご一緒している方から、「最近、お父さんは、懇親会の席で仲間の顔がすぐにわからないことがあったり、周囲との会話もいまいち噛み合わないことがあるようだ」という心配な話も聞きました。 父はもともと大工だったことから職人気質の面があって頑固な性格であり、私たち家族がどんなに勧めても、病院で認知能力に関する検査を受けてくれません。 ◆  ◆  ◆ そのような中で、今度、隣町で建設される大きな工場の案件を数社で共同受注することになりました。 また、今般、当社と商圏を同じくする中堅規模の会社が、後継者がいないために会社の売却を検討中との話が出ております。この会社を買収できればそのシナジー効果は非常に大きなものがあると予想され、ビジネス・チャンスとしても非常に魅力的な案件です。 現在の状況のままでこれらの契約を進めていくことには、どのようなリスクがあるでしょうか。   1 取締役が判断能力を喪失すること=取締役としての資格喪失となる 帝国データバンクが2017年1月に発表したデータ(全国社長分析(2017年))によれば、我が国における社長の平均年齢は59.3歳と過去最高を更新したとのことである。 他方で、中小企業における事業承継の問題は各方面での複雑な調整が必要となるため、なかなか円滑には進んでいない現状にある。 そのため、「会社経営者が認知症となり、判断能力に支障が生じている」といったケースは、今後ますます増加していくものと思われる。 この点、長期的にはいわゆる「事業承継」対策がどの会社においても必要であることは明白であるが、【設問05】ではこのような根本的対策を取る時間的余裕のない状況を念頭に取り上げてみた。 「会社経営と判断能力」という関わりで言えば、まず前提として、成年被後見人や被保佐人は、取締役には就任できない(会社法が定める欠格事由)。 そのため、【設問05】においては、今後、仮に相談者の父の判断能力低下が進み、成年後見人や保佐人が選任されるような状態にまで至った場合には、取締役の地位そのものを喪失する。 この場合、後継の者を新たに取締役・代表取締役に選任する必要が生じることになる。   2 会社代表者の判断能力が低下した場合の問題点 通常、会社においては、代表取締役が会社を代表して意思表示を行うことで契約を締結する。 この際、仮に代表取締役本人において、契約時に判断能力を失っていたという事情があれば、会社名義で締結した契約であっても、事後的に無効とされてしまう可能性があるとの重大なリスクが存在する。 この点、解説編【第3回】では、意思表示をした個人が判断能力を欠いていた場合の効果につき説明をした。 他方で、法人である会社が行った取引における場合には、取引先等の第三者を保護するための各種制度により、代表取締役の判断能力が失われていた状態であったとしても、契約の有効性が認められる場合もある。 しかし、最終的にいずれの結論が出る形となったとしても、このような無用な紛争が生じること自体が、企業活動にとっては大きなマイナスである。 【設問05】で言えば、数社で共同しての工場建設に際し、長期にわたって建設計画の詰めを行い、ようやく発注者との工事請負契約や共同事業者との共同事業契約等を締結し、これに基づき建築を開始した矢先に、工場の発注者から、あるいは共同で工事を受注するとしていた他社から、契約の無効を主張されるリスクがないとも言い切れない。   3 オーナー株主の判断能力が低下した場合の問題点 【設問05】においては、相談者の父は代表取締役というだけでなく、会社のオーナー株主としての地位も同時に有している。このことが、さらに状況を複雑にする。 株主は、株主としての権利(いわゆる株主権)を有し、これには株主総会における議決権をはじめとした様々な権利が含まれる。 株主権を行使する株主自身の判断能力に問題があるとなれば、株主権の行使がすべて事後的に無効とされるという極めて由々しきリスクが発生する。企業活動においては、会社内部のみならず取引先や顧客等といった関係者も多く存在するのであり、これらに与える影響は大きい。 【設問05】における父は、自社株式の100%を有するオーナー株主である以上、有効に議決権行使を行えるものが一人もいないことから、株主総会を開催することはできない。 そのため、理屈上は、定時の株主総会や取締役の選解任はおろか、会社の活動によっては株主総会の決議が必要となるような事項にも対応できないこととなる。 例えば、【設問05】では、同業他社の買収という話も出てきているが、このようなM&Aの過程において代表取締役の判断能力の問題が相手先において問題視されたり、会社買収の手続において必要となる各種の株主総会も開催できないということになる。こうなっては、有効な契約締結そのものが不可能となる。   4 考えられる対応策 では、【設問05】のような状況下とタイミングでも可能な対応方法を考えてみよう。 【ア】 仮に相談者の父の判断能力が相当に低下・減弱してはいるものの、まだかろうじて正常といえるような状態を保っている場合、または特定の曜日や時間帯はほぼ正常な判断をすることができるという場合 においては、 他方で、 【イ】 相談者の父が判断能力をもはや喪失している状態にまで至ってしまっている場合 には、取りうる対応はかなり制限される。 例えば、   5 事業承継対策の必要性 以上のように、会社経営者かつオーナー株主の判断能力が低下してくると、会社経営上多大な支障が生じる。 そのため、中小企業におけるオーナー経営者がある程度以上の年齢に達している場合には、じっくりと時間をかけて準備に時間をかけられる余裕のあるうちから、次代への経営のバトンタッチである「事業承継」に本格的に取り組むことが強く推奨される。 本稿では紙幅の制限があり具体的な説明はできないが、下記の中小企業庁のウェブサイトでは、事業承継にまつわる数々の情報が紹介されている。 一般向けのパンフレットから本格的な検討のためのガイドラインまでが掲載されているので、ご参照いただきたい。 (了)

#No. 210(掲載号)
#栗田 祐太郎
2017/03/16

役員インセンティブ報酬の分析 【第1回】「特定譲渡制限付株式①」-平成28年度税制改正後-

役員インセンティブ報酬の分析 【第1回】 「特定譲渡制限付株式①」 -平成28年度税制改正後-   弁護士・公認会計士 中野 竹司   (※) 役員に対する各種報酬プランの概要については、本誌掲載の下記拙稿を参照されたい。   1 譲渡制限付株式を用いた報酬形態の概要 従来より役員のインセンティブ報酬のツールとして株式報酬の活用が期待されていたが、そのためには、税法上の取扱いを含め、制度導入手続の明確化が必要であった。 そこで、経済産業省が平成27年7月に公表した、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書で、我が国において株式報酬を導入する際の手続を整理し、金銭報酬債権を現物出資するなど実務的に簡便な手法を用いる手続を整理した。 さらに平成28年度税制改正において、企業経営者に対する適切なインセンティブ付与促進が企図され、役員株式報酬のうち、いわゆる特定譲渡制限付株式の損金算入要件が明らかになった。続いて平成28年4月には、経済産業省から「「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬「いわゆる「リストリクテッド・ストック」の導入等の手引き~」が公表され、特定譲渡制限付株式報酬の導入に関する実務的な環境整備がなされた。 このような環境整備を踏まえ、実際に特定譲渡制限付株式報酬の事例が出てくるようになった。 この特定譲渡制限付株式は、役員インセンティブ報酬の中の、リストリクテッド・ストックの一形態と考えられるが、パフォーマンス・シェアとしての性格も有する制度も導入されている。 平成28年度税制改正により、法人税法で定められた特定譲渡制限付株式とは、役員報酬のうち損金算入が可能な事前確定届出給与に該当するものである。 特定譲渡制限付株式の税法上の要件を満たすためには、大まかにいうと次のような事項を充たす必要がある(税務上の取扱いについての詳細は、本稿では触れていない)。 (※) 要件の詳細は法人税法第54条1項、法人税法施行令第111条の2第1項~3項を参照。 なお、特定譲渡制限付株式報酬制度を導入する場合、通常は種類株ではなく、普通株式を用いて付与対象の取締役と会社間で譲渡制限付株式割当契約を締結するとともに、株式の引き出し等が自由にできないことを客観的に担保するため、以下のようなスキームで株式を管理することが多い。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   2 ガバナンス面から見たメリット・デメリット 特定譲渡制限付株式は、株式報酬の一形態であり、付与されても一定の期間、売却を制限されることから、企業価値の持続的な向上を図るインセンティブを与えるとともに、役員等と株主の価値共有を進めることができるというガバナンス面のメリットがあると考えられる。特に、外部から有能な者を役員等に迎え、当該者に一定期間、企業で継続して勤務してもらうことへのインセンティブを与えることに向いている株式報酬の形態といえる。 なお、特定譲渡制限付株式は、一般的にはリストリクテッド・ストックの一形態と考えられるが、役員等から会社への無償譲渡理由に、法人の定めた業績指標等について未達であった場合を定めることにより、パフォーマンス・シェアとしての機能も持たせることが可能な制度設計となっている。 もっとも、事前確定届出給与の要件上、職務執行開始当初にその報酬債権の額(支給額)が確定せず、実際の勤務状況や業績状況に応じて報酬債権の額が決まる場合は、事前確定届出給与には該当しない。このため、海外で広く設計されている目標業績達成時に株式報酬が付与されるタイプのパフォーマンス・シェアは、損金算入要件を満たさない。 したがって、通常議論されるパフォーマンス・シェアと異なり、役員等が業績目標達成をした場合には株式報酬を与えるという「飴としてのインセンティブ」よりも、役員等が業績目標を達成しなかった場合には事前確定した株式報酬がもらえないという「鞭としてのインセンティブ」が働くため、一般的にパフォーマンス・シェアとはインセンティブ構造が異なる。 なお、平成29年度税制改正により、パフォーマンス・シェア型の株式報酬がより導入しやすくなる改正がなされる予定であり、この連載の中で紹介する予定である。 また、特定譲渡制限付株式は、通常、普通株式が利用されることから、株式報酬付与時から付与された役員等は議決権を行使できることとなる。そして、業績目標未達といった理由で会社が無償取得する場合でも、無償取得されるまでは、役員等は議決権行使できることを意味する。 そのため、特定譲渡制限付株式付与時から議決権が発生するため、役員等への付与により、不当な経営者支配の懸念を生じさせないかという観点も制度設計においては必要となろう。   3 企業の導入事例 平成28年度税制改正を踏まえて、特定譲渡制限付株式報酬制度を導入した上場企業の例について、導入企業の適時開示を基に以下分析する。 (1) 制度導入目的 制度導入目的としては、会社の企業価値の継続的な向上を図るインセンティブを与えるとともに、取締役と株主との一層の価値共有を進めることを目的とする企業が多かった(株式会社ジー・スリーホールディングス、株式会社オルトプラス、オプテックスグループ株式会社、株式会社クボタ、株式会社N・フィールド、株式会社ケアネット、東洋炭素株式会社、株式会社サイゼリヤ、三菱地所株式会社など)。 (2) 制度導入対象 特定譲渡制限付株式による役員報酬は、社外取締役又は監査委員会委員を除外した取締役に付与される制度を導入した企業も散見された。 これは、社外取締役等の職務の遂行が、株価の上昇というインセンティブによってより円滑に遂行されるわけではないという判断によって、株式報酬付与の対象から除外されたものと考えられる。 もっとも、社外取締役等に当該企業に残るというインセンティブを与えるメリットが考えられるので、除外しないことが不合理とは言えないとも考えられる。 (3) 制度導入条件 導入企業においては、制度導入に伴い、本制度のための役員報酬支給決議を株主総会で行っているが、その際、従来の報酬決議とは別枠で報酬額を決議する会社が多い。 もっとも、制度導入を決議する際に、以前決議した報酬枠の範囲内で決議する事例も見られた(オプテックスグループ株式会社など)。 (4) 特定譲渡制限解除理由 ① 勤務の継続 最も多く見られた譲渡制限解除理由は、「一定期間勤務を継続すること」である。ただし、一般的に、会社都合による退任等、当該一定期間の途中で勤務が中断した場合でも譲渡制限が解除される場合など、例外を細かく定めている。 勤務の継続期間としては ・2年(市光工業株式会社、日本社宅サービス株式会社、株式会社オルトプラス) ・3年間から5年間までの間で、各取締役について一定の譲渡制限期間を定める(株式会社ネクストジェン) ・30年(西尾レントオール株式会社) など、期間の設定は比較的短いものが多いものの、様々である。 ② 業績目標の達成 業績目標の達成を特定譲渡制限解除理由にしている会社において、業績目標の設定は各社により異なる。 例えば、三菱地所株式会社では、3年間のTotal Shareholder Return(株主総利回り)の目標を達成できた場合は、その達成度合いに応じて譲渡制限が解除され、譲渡制限が解除されなかった場合は、会社に無償で返還(譲渡)される。 また、横河電機株式会社では、2016年9月30日から2018年7月25日を譲渡制限期間とし、2018年3月期決算の実績ROEに応じて解除率を4段階に分け、例えば14%以上であれば解除率100%すなわちすべての株式が譲渡可能となり、8%以下であれば解除率0%すなわちすべての株式が会社に無償で返還(譲渡)されるとし、業績達成度合いに応じて解除率を変化させている。 また、株式会社プラントでは、「大型店舗数」と「営業利益額」の達成度合いを、それぞれ70%、30%の割合でウエイト付けし、譲渡制限解除数を算出している。 (5) 報酬委員会等の活用 平成28年度に譲渡制限付株式報酬制度を導入した会社では、報酬委員会や報酬諮問委員会を活用する例も見られた。 例えば、三菱地所株式会社では、譲渡制限付株式の割り当てに関する具体的内容の一部について報酬委員会で決定されるとしている。また、横河電機株式会社では、業績制限期間及び業績達成条件その他制度運用全般に関する条項は、報酬諮問委員会の審議を経てその意見を尊重したうえで取締役会で決定されるとしている。   4 会社法上の視点 これまで、日本において株式報酬の割合が低い理由として、会社法上無償で株式を発行することや労務出資が認められなかったこと、株式報酬導入のための実務が成熟していなかったことから、会社法における必要な手続が明確でなく、先例もほとんどないという会社法上の問題もあった。 そこで上述したように、「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」報告書において株式報酬の導入手続やその仕組みを示したこと、及び、平成28年度税制改正によりいわゆるリストリクテッド・ストックのうち、損金算入要件を満たした特定譲渡制限付株式報酬の内容が明らかにされた中、「「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬「いわゆる「リストリクテッド・ストック」の導入等の手引き~」において、導入についての具体的な手続を詳細に紹介したことを背景に、特定譲渡制限付株式による株式報酬の導入が進んだ。 例えば、監査役会設置会社の場合に、会社法上の手続の流れは以下のようになる。 なお、税法上、特定譲渡制限付株式が事前確定届出給与と認められるためには、職務執行開始日(原則、定時株主総会の日)から1月を経過する日までに、上記②により、取締役個人別の報酬を定める必要がある点に留意が必要である。 また、④については、利益相反取引として取締役会の承認が必要となる場合があることにも留意が必要である。   5 会計上の視点 役員、従業員に対するインセンティブ報酬に関する会計基準としては、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第11号「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」、実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」があるが、特定譲渡制限株式を含めRSの会計処理について具体的に定めた会計基準は、本稿執筆現在のところ、公表されていない。 もっとも、「「リストリクテッド・ストック」の導入等の手引き」では具体的な会計処理の例を示しており、参考になる。そこで示された会計処理を参考にすると、以下のような会計処理がなされると考えられる。 - 事 例 - ① 報酬債権付与及び株式発行時(以下、単位:千円) (借)前払費用等 300,000  (貸)資本金等 300,000 ② 役務提供(1年目) (借)役員報酬 100,000  (貸)前払費用等 100,000 ③ 役務提供(2年目) (借)役員報酬 100,000  (貸)前払費用等 100,000 ④ 役務提供(3年目) (借)役員報酬 100,000  (貸)前払費用等 100,000 なお、①の段階で、特定譲渡制限付株式の付与を自己株式の処分で行った場合は、自己株式の帳簿価額を減額し、自己株式の処分対価と帳簿価額の差額である処分差額を、「自己株式処分差益」又は「自己株式処分差損」として、その他の資本剰余金(負の値になった場合は、その他利益剰余金から減額)とすることとなる。 また、譲渡制限解除条件が充足されずに、株式が会社に無償譲渡された場合には、前払費用を損失処理することになると考えられる。そして、会社が無償で取得した自己株式の取得価額をゼロとし、自己株式の数のみの増加として処理するのではないかと思われる(企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」14項参照。 (了)

#No. 210(掲載号)
#中野 竹司
2017/03/16

プロフェッションジャーナル No.209が公開されました!~今週のお薦め記事~

2017年3月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.209を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2017/03/09
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