〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第40回】 「金銭又は有価証券の受取書⑥(仮領収書等)」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は物品卸売会社です。 営業担当者が得意先への納品時に、品代を現金で領収する場合がありますが、その際には、営業担当者名で仮領収書を作成交付し、後日、経理課において、正式な領収書を郵送にて交付しています。 この場合、仮領収書にも印紙の貼付が必要ですか。また、仮領収書の代わりに納品書に領収のスタンプ、あるいは名刺の裏に領収した旨のメモを記入して交付した場合はどうですか。 【事例1】 仮領収書 平成28年10月27日 〇〇商店 様 仮 領 収 書 金 65,000円 上記金額を商品代金として受領しました。 〇〇物品販売株式会社 営業太郎 印 【事例2】 納品書に領収のスタンプ 平成28年10月27日 〇〇商店 様 納 品 書 【事例3】 名刺の裏に領収サイン (名刺表) (名刺裏) 【事例1】から【事例3】すべて第17号の1文書(売上代金に係る金銭の受取書)に該当する。また、後日、経理課から郵送される領収書についても仮領収書等と同様に、金銭の受取書に該当する。 [検討1] 印紙税の課税対象 印紙税の課税対象は、金銭の受領の事実そのものを課税対象としているのではなく、金銭の受領の事実を証明する目的で作成される文書に対して課税対象としている。 したがって、1つの受領事実に対して、数通の文書を作成交付した場合、それが受領事実を証明する目的で作成されたものである限り、いずれも金銭の受取書に該当することとなる。 事例の仮領収書等は、後日、経理課から正式に「領収書」が発行されると必要がなくなるが、それまでの間は有効なものであり、金銭の受取書に該当する。 なお、印紙税法に「文書」の定義はされていないが、文書とは一般的には文字で書き記したもの、書き物、かきつけ、書類などが文書といわれている。したがって、紙だけにとどまらず、木片や布切れなどに課税事項を記した場合も印紙税法上の文書に該当する。 [検討2] 課税文書に該当する「金銭の受取書」とは 印紙税の課税文書に該当する「金銭の受取書」とは、金銭を受領した者が金銭を支払った者に、金銭の受領事実を証明する目的で交付する文書であり、その文書の名称、呼称や形式的な記載文言によるのではなく、その記載文言の実質的な意義に基づいて判断する。したがって、【事例2】のように納品書に領収済みである旨の表示をしたり、【事例3】のように名刺の裏に手書きで受領金額を記載した場合であっても、金銭の受領事実を証明する目的であれば、「金銭の受取書」に該当することとなる。 [検討3] 作成者 課税文書の作成者は、その作成した課税文書について、印紙税を納める義務がある。 事例の仮領収書等には営業担当者名が記載されている。そのため、営業担当者が作成者となり、納税義務者となるのではないかと思うかもしれないが、営業担当者は会社の従業員として会社の業務を遂行するために、売掛金を回収し、仮領収書等を作成交付しているため、この場合の作成者は会社となる。 ▷ まとめ (了)
ファーストステップ 管理会計 【第5回】 「製造間接費の分析」 ~パッと見ただけではわからない通信簿と同じ~ 〔原価管理編④〕 公認会計士 石王丸 香菜子 原価の実際発生額を、あるべき標準原価と比較して、その差を分析することを「差異分析」といいます。差異分析は、標準原価計算の考え方に基づく原価管理の方法です。 今回は、製造間接費の差異分析をしてみましょう。 ◆製造間接費の差異分析は通信簿に似ている 誰でも学生時代には通信簿をもらいますね。 通信簿は、実際の成績と、達成すべき成績とを比較する、いわば成績の「差異分析」です。 最近の小学校の通信簿を見たことはありますか? 地域や学年による違いはありますが、例えばこんな項目が並んでいます。 1つの科目の成績が、細かい項目に分けて分析されていますね。 製造間接費の差異分析もこれに似ていて、細かい項目に分けて分析する方法が採られます。 これらの差異について、身近な事例で考えてみましょう。 ◆同窓会の会場を予約する 皆さんが小学校の同窓会の幹事になって、事前に会場を予約するとしましょう。 当時50人のクラスだったので、最大50人が会食可能な会場を予約しました。会場代は、同窓会当日の実際の利用人数に関わらず、50,000円で一定です。別途、当日に、1人当たり3,000円の食事代がかかります。 【第4回】で見たように、製造間接費も、操業度(直接作業時間や機械運転時間など)に比例して増減する変動費と、操業度に関係なく一定額が生じる固定費とに分解できます。 同窓会の例では、「人数」を操業度と考え、「食事代」が変動費、「会場代」が固定費ということになります。 ◆1人当たりの会場代はいくらか-基準操業度とは ここで同窓会の招待状を送付する前に、1人当たりの会場代を計算してみましょう。 実際に来る人数は事前にはわからないので、会場をフルに利用すると仮定した「50人」を基準とし、1人当たりの会場代を計算します。 50,000円÷50人=@1,000円・・・1人当たりの会場代 会場代@1,000円と食事代@3,000円を合わせた@4,000円が、事前に計算した「1人当たりが負担すべき予算上の金額」になります。 製造間接費の場合も、固定費の予算額を、基準となる操業度で割って、操業度1単位当たりの予算上の固定費(例:会場代@1,000円)を求めます。これを「固定費率」と呼びます。これに対し、操業度1単位当たりの予算上の変動費(例:食事代@3,000円)は「変動費率」です。 両者を合わせたもの(@4,000円)を、操業度1単位当たりに負担させるべき「標準配賦率」といいます。 また、固定費率を求めるための基準を、管理会計では「基準操業度」と呼びます。同窓会の例でいえば、「50人」が基準操業度に該当します。 一般に基準操業度は、季節や景気変動による生産量への影響を長期的に平均した操業度や、次の1年間に予想される操業度を利用するケースが多いです。 ◆ラッパの図を使えばわかりやすい! ここまでの説明は、次のラッパのような図を使って考えるとわかりやすくなります。 上の図では、縦軸が製造間接費、横軸が操業度になっていて、両者の関係を表しています。 緑の線は固定費予算額(例:会場代50,000円)を表します。そして赤の線は、固定費に変動費を加えた全体の予算額です。 ここで横軸の操業度のうち、基準操業度(例:50人)から縦に伸びる黒の線と赤の線が交わる部分が、基準操業度における製造間接費の予算額(例:200,000円(@4,000円×50人))になります。 そして、赤の線・緑の線の出発点から基準操業度を結ぶ青の線を引くと、ラッパのような図が出来上がります。 図の中で、変動費率(例:食事代@3,000円)と固定費率(例:会場代@1,000円)は、それぞれ赤の線と青の線の『開き具合』として表されます。 ちなみにこの図、ラッパ図という名前ではなく、『シュラッター図』といいます。 ではシュラッター図について、もう少し詳しく見ていきましょう。 ◆標準操業度と実際操業度 さて、同窓会の招待状を送付して、43人から出席の返事が来たとします。 同窓会に来るべきなのは43人です。 管理会計では、あるべき水準を「標準」と呼ぶのでしたね。一定量の製品を製造するために、あるべき操業度のことを「標準操業度」といいます。 そして同窓会当日、返事を出さなかったのにひょっこり来る人がいて(幹事さんは大変です・・・)、実際に会場に来たのが45人だったとします。 管理会計では、一定量の製品を製造するために、実際にかかった操業度を「実際操業度」といいます。 では、先ほどのシュラッター図に、「標準操業度」と「実際操業度」を書き加えてみましょう。 ◆標準と実際の差異を線の長さの違いで考える 同窓会に来るべき43人に、事前に計算した1人当たりが負担すべき予算上の金額@4,000円(=「標準配賦率」)をかけると、43人×@4,000円=172,000円と計算できます。 これが、実際発生額と比較する、あるべき標準原価であって、製造間接費では「標準配賦額」といいます。 この標準配賦額、シュラッター図のAの長さがこれに当たります。 一方、実際に同窓会に来た45人ベースでの予算額は、会場代50,000円+食事代@3,000円×45人=185,000円です。この実際操業度における予算額185,000円は、図のCの長さになります。 しかし、コースメニュー以外のものを頼んだ人がいて(幹事さんは本当に大変・・・)、実際には187,000円かかりました。 この実際発生額は、図のBの長さとして表すことができます。 冒頭に述べたように、差異分析とは、「実際発生額」と「あるべき標準原価」(製造間接費では「標準配賦額」)とを比較して、その差を分析することをいいます。 つまり、シュラッター図でいえば、『AとBの長さの違いについて考える』ということが、製造間接費の差異分析をすることになるのです。 では、AとBの長さの違いは、どのように考えるとよいのでしょうか。 ◆差異を3つに分けて考える AとBの長さの差を計算すると、172,000円(標準)-187,000円(実際)=△15,000円で、不利差異となります(実際が標準を超える場合が「不利差異」、逆の場合が「有利差異」です)。 これを通信簿のように細かく分けて考えましょう。下図のように、①②③の3つに分けてみます(②は2か所あります)。 ◆予定外のメニューを頼んだことによる差(予算差異) ①の部分は、実際操業度における予算額(C)と実際発生額(B)との差額です。 同窓会当日、予定していたコースメニュー以外のものを頼んだことによる次の差異がこれに当たります。 185,000円(C)-187,000円(B)=△2,000円(不利差異) 製造間接費の差異分析では、このような実際操業度における予算額(C)と実際発生額(B)とのズレにより生じた差異を「予算差異」と呼びます。 予算差異が不利差異である場合には、予算をオーバーした理由(例えば、補助材料や消耗品の浪費、設備の取扱いが悪いことによる修繕費の超過など)を調査し、これを改善することができます。 同窓会の話でいえば、次回からは、コースメニュー以外のものは頼まないよう参加者によく伝える、お店の人と事前に打合せしておく、などでしょうか・・・。 ◆来るべき人数と実際に来た人数が違うことによる差(能率差異) ②の部分は、同窓会に来るべき人数(43人)と実際に来た人数(45人)が違ったことにより生じた差額です。 シュラッター図で示したように、②は、食事代(変動費)から生じる部分と、会場代(固定費)から生じる部分の2つから成ります。 変動費部分:@3,000円×(43人-45人)=△6,000円 固定費部分:@1,000円×(43人-45人)=△2,000円 合計:△8,000円(不利差異) 製造間接費の差異分析では、このように標準操業度(43人)と実際操業度(45人)とのズレにより生じた差異を「能率差異」と呼びます。 能率差異が不利差異である場合は、あるべき標準操業度で作業を達成することができなかった、すなわち、能率が悪かったということですので、作業能率が悪かった理由(例えば、作業員の指導不足や配員の不手際など)を調査し、その改善に役立てることができます。 ◆割り当てきれなかった会場代(操業度差異) ③の部分は、同窓会に実際に来た人数(45人)が、会場をフル利用する場合の人数(50人)に届かなかったことにより、割り当てきれなかった会場代(固定費)です。 計算すると次のようになります。 @1,000円×(45人-50人)=△5,000円(不利差異) 製造間接費の差異分析では、このように実際操業度(45人)と基準操業度(50人)とのズレにより、配賦しきれなかった固定費部分を、「操業度差異」と呼びます。 上記のように操業度差異が不利差異である場合は、「生産能力を維持するためにかかる固定費を有効に使いきれなかった」と言うことができます。 ◆もらった通信簿をどう見るか はじめに紹介した通信簿をもう一度見てみましょう。 成績が細かい項目に分けて分析されていますね。 でも、この通信簿をパッと見ただけでは、今後の学習にどう役立てればいいか、すぐには判断できない印象を持つ方が多いのではないでしょうか。 実は、製造間接費の差異分析もこれと同じで、細かく分析しても、今後の原価管理にどう役立てればいいか、すべてが明らかになるわけではないのです。 もちろん、予算差異や能率差異が不利差異の場合には、その原因を調査して、今後の管理に役立てることはできます。 しかし、いったん予約した同窓会の会場代は取り消せないのと同じように、製造間接費の固定費部分は、生産能力を維持するために、すでに投下の意思決定をしてしまった費用であることが多いと考えられます。また、同窓会にクラス全員が来なかったとしても、それが幹事だけの責任ではないように、操業度は製造現場だけでコントロールできるものでもありません。 そのため、能率差異の固定費部分や、固定費を配賦しきれなかったことによる操業度差異については、その金額を把握することはできても、製造現場で今後の原価管理のために具体的に活かすのは難しいことも多いのです(このような考えから、能率差異の固定費部分を操業度差異に含め、管理不能なものとして扱うこともあります)。 ◆標準原価計算の限界を克服する方法がある ここまで読んで、がっかりされた方もいるかもしれませんね。 標準原価計算による管理は、製造間接費の重要性がそれほど高くなく、その内訳がシンプルな場合には、一定の効果があります。また、実務上利用されることが多く、原価管理の前提として押さえておきたい知識です。 ただし、現在の企業では、製造間接費の重要性が増し、その内訳も多岐にわたるため、こうした管理には限界があるのも事実です。 これを背景に、1980年代に誕生したのが「活動基準原価計算(ABC)」です。 次回はこの『ABC』について取り上げます。 (了)