〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第6回】 「別表6(10) 中小企業者等が機械等を 取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本連載では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していく。 第6回目は、実務上適用例が増えてきているものの、一般的な書籍等では解説される機会がまだ少なく、かつ最近様式改訂があった「別表6(10) 中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる中小企業等投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 本制度の税額控除は、中小企業者等のうち資本金が3,000万円以下の法人(特定中小企業者等という)について、特定の要件を満たした機械等(※1)を 平成29年3月31日までに取得又は製作し、指定事業の用に供した場合に、その取得価額に7%を乗じた金額を法人税額から控除できる(当期の法人税額の20%が上限)ものである。なお、税額控除の限度額を超える金額については、翌事業年度に繰り越すことができる(1年間)。 適用の対象となる主な資産の要件は、次の通りとなっている。 (※1) 中古品、貸付の用に供する設備等は原則として対象外。 (※2) 少額の減価償却資産の取得価額の損金算入(法令第133条)又は一括償却資産の損金算入(法令第133条の2)の規定の適用を受けるものを除く。 指定事業は以下の通り。 なお上記の対象設備のうち、連載【第1回】で解説した生産性向上設備投資促進税制(生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)の特定生産性向上設備等に該当する場合には、以下の特別償却又は税額控除の上乗せ措置の適用がある。 (注) ただし、貨物自動車、内航船舶については上乗せ措置の適用はない。また、デジタル複合機は、上乗せ措置のうちA類型の適用はない。なお、平成28年度の税制改正大綱(2015年12月24日閣議決定)によれば、この生産性向上設備投資促進税制は、平成29年3月31日までの適用期限をもって廃止されることになっている。 特定生産性向上設備等とは、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品等並びに一定のソフトウエアで、先端設備(A類型)又は生産ラインやオペレーションの改善に資する設備(B類型)として、産業競争力強化法第2条第13項に規定するものをいう。 この生産性向上設備等の範囲など産業競争力強化法に関する内容については、経済産業省のホームページを参照のこと。 Ⅲ 「別表6(10)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成28年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〔法人税額の特別控除額の計算〕 〔翌期繰越税額控除限度超過額の計算〕 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例40(贈与税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆同族会社に対する債権放棄とみなし贈与(相法9、相基通9-2) 同族会社に対して、株主等から債権放棄、資産の無償又は低額譲受け等があったことにより、その同族会社の株式又は出資の価額が増加した場合には、債権放棄等を行った者から、他の株主に、その株式の価額の増加分に相当する利益の供与があったものとして、贈与税が課税される。 (了)
金融・投資商品の税務Q&A 【Q5】 「外国法人が発行した外貨建利付債券の利子の取扱い」 ~「国外」で受け取る場合~ PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 所得税法上、公社債の利子は利子所得として取り扱われます。平成27年12月31日以前は、国外発行の公社債の利子で、支払の取扱者による源泉徴収がなされていないものについては、利子所得として総合課税の対象とされていました。しかし平成25年度税制改正により、平成28年1月1日以後は、特定公社債の利子については上場株式等の配当所得等として申告分離課税の対象となります。 なお、発行日が平成27年12月31日以前の公社債についても、利子の支払われるべき日が平成28年1月1日以後の場合は、新税制が適用されます。 1 源泉徴収 国外で発行された特定公社債の利子については、国内における支払の取扱者を通じてその交付を受ける場合、交付の際に支払を受けるべき金額(外国所得税が課されている場合は控除後の金額)に対し源泉徴収がなされます(【Q4】参照)。 おたずねの場合、外国証券会社の国外口座で利子の支払を受けるということですので、利子の金額(円換算額)に対して日本の源泉税は課されません。 2 申告分離課税 国外発行の特定公社債の利子は、支払の取扱者による源泉徴収がなされていない場合、原則として申告が必要となり、上場株式等の配当所得等として申告分離課税20.315%(国税15.315%、地方税5%)が適用されます。上場株式等(特定公社債を含む)に係る一定の譲渡損失との損益通算等が可能です。 この場合における利子所得として収入金額に計上すべき金額は、外貨建の利子の金額をその収入すべき日(利子につき支払開始日と定められた日)におけるTTM(電信仲値相場)により円換算した金額となります。 (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第6回】 「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [8] 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の創設 1 制度内容 地方公共団体が行う一定の地方創生事業に対する企業の寄附について、現行の損金算入措置に加え、住民税、事業税、法人税の税額控除の優遇措置を新たに講じ、地方創生に取り組む地方を支援する制度として、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)が創設された。 地方創生応援税制の優遇措置を受けるための手続は次のとおりである。 なお、内閣府地方創生推進事務局のウェブサイトに、「活用の手引き」(企業版ふるさと納税を検討する企業向けに制度の概要、手続の流れ、留意事項等が記載されている)が掲載されている。 以上の内容を盛り込んだ「地域再生法の一部を改正する法律」及び関係する政省令等は、平成28年4月20日に公布及び施行されている。 連結納税適用法人の地方創生応援税制の取扱いは、以下のようにまとめられる。 《連結納税適用法人の地方創生応援税制の取扱い》 具体的な取扱いは次のとおりとなる。 (1) 事業税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、特定寄附金を支出した日を含む連結事業年度(寄附金支出連結事業年度)において支出した特定寄附金の額(注1)の合計額(注2)の10%に相当する金額を事業税額から控除するものとする(平成28年地法改正法附則9の2の2①、平成28年地令改正法令附則6の2の2)。 ただし、寄附金支出連結事業年度の事業税額の20%(地方法人特別税は廃止される平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度から15%)に相当する金額を上限とする(平成28年地法改正法附則9の2の2①、地方法人特別税等に関する暫定措置法2②、平成28年地法改正法9、平成28年地法改正法附則1三)。 (注1) 寄附金支出連結事業年度の法人税の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されたものに限る。 (注2) 分割法人の場合は、分割基準により按分して計算した金額とする。 (2) 道府県民税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、特定寄附金を支出した日を含む連結事業年度(寄附金支出連結事業年度)において支出した特定寄附金の額(注3)の合計額(注4)の5%(平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度分にあっては、2.9%)に相当する金額を道府県民税の法人税割額から控除するものとする(平成28年地法改正法附則8の2の2③、平成28年地令改正法令附則5の3)。 ただし、寄附金支出連結事業年度の道府県民税の法人税割額の20%に相当する金額を上限とする(平成28年地法改正法附則8の2の2③)。 (注3) 寄附金支出連結事業年度の法人税の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されたものに限る。 (注4) 分割法人の場合は、個別帰属法人税額の分割基準となる従業者の数に按分して計算した金額とする。 (3) 市町村民税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、特定寄附金を支出した日を含む連結事業年度(寄附金支出連結事業年度)において支出した特定寄附金の額(注5)の合計額(注6)の15%(平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度分にあっては、17.1%)に相当する金額を市町村民税の法人税割額から控除するものとする(平成28年地法改正法附則8の2の2⑨、平成28年地令改正法令附則5の3)。 ただし、寄附金支出連結事業年度の市町村民税の法人税割額の20%に相当する金額を上限とする(平成28年地法改正法附則8の2の2⑨)。 (注5) 寄附金支出連結事業年度の法人税の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されたものに限る。 (注6) 分割法人の場合は、個別帰属法人税額の分割基準となる従業者の数に按分して計算した金額とする。 (4) 連結法人税 連結親法人又は連結子法人が、改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)から平成32年3月31日までの間に、地域再生法に規定する認定地方公共団体に対してまち・ひと・しごと創生寄附活用事業に関連する寄附金(特定寄附金)を支出した場合には、連結親法人及び各連結子法人の税額控除限度額(注7)の合計額を寄附金支出連結事業年度の連結所得に対する調整前連結税額(注8)から控除することとする(措法68の15の3①)。 ただし、連結親法人又は各連結子法人ごとに、寄附金支出連結事業年度における税額控除限度額が連結親法人又は連結子法人の寄附金支出連結事業年度の法人税額基準額(注9)を超えるときは、その税額控除限度額は、法人税額基準額を限度とする(措法68の15の3①)。 (注7) 税額控除限度額とは 税額控除限度額とは、連結親法人又は連結子法人の寄附金支出連結事業年度において支出した特定寄附金の額(※1)の合計額の20%に相当する金額から特定寄附金の支出について道府県民税及び市町村民税(都民税を含む)に係る税額控除額として政令で定める金額(※2)を控除した金額をいう。ただし、当該金額が連結親法人又は連結子法人の寄附金支出連結事業年度において支出した特定寄附金の額の合計額の10%に相当する金額を超える場合には、当該10%に相当する金額をいう。 (※1) 当連結事業年度の連結所得の金額の計算上損金の額に算入されるものに限る。 (※2) 特定寄附金の支出について道府県民税及び市町村民税(都民税を含む)に係る税額控除額として政令で定める金額とは、「調整前個別帰属法人税額(個別所得金額に連結法人税率を乗じた金額)から控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額等を控除した金額(※3)」(個別帰属法人税額)に2.58%(平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度は1.4%)を乗じて計算した金額という(措令39の45の3①、平成28年措令改正法令附則28)。この2.58%(1.4%)とは、住民税からの税額控除の限度額である20%に住民税率12.9%(7%)を乗じた率となる。 (※3) 連結確定申告書等に控除対象個別帰属調整額及び控除対象個別帰属税額等の金額を明らかにする書類の添付がない場合には、控除額は0となる(措令39の45の3③)。 (注8) 調整前連結税額とは 調整前連結税額とは、留保金課税、所得税額控除、外国税額控除、租税特別措置法上の税額控除を増額又は減額する前の連結法人税額をいう(措法68の9⑥二。以下、[8]に同じ)。 (注9) 法人税額基準額とは 法人税額基準額とは、次の①又は②の金額のうち、いずれか少ない金額をいう(措令39の45の3④)。 この取扱いは、連結確定申告書及び地方税申告書等に別表の添付があり、かつ、別表に記載された寄附金が特定寄附金に該当することを証する書類として財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する(措法68の15の3③、平成28年地法改正法附則8の2の2⑤⑪、9の2の2②)。この場合において、税額控除額は、別表に記載された特定寄附金の額を基礎として計算した金額に限るものとする(措法68の15の3③、平成28年地法改正法附則8の2の2⑤⑪、9の2の2②)。 《連結法人税に係る地方創生応援税制の税額控除額》 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 [地方創生応援税制に係る税額控除額の個別帰属額の計算方法] 上記で計算された連結税額控除額のうち、各連結法人の個別帰属額は、各連結法人の税額控除額(税額控除限度額又は法人税額基準額)となる(措法68の15の3④、措令39の45の3⑤)。 [地方法人税における地方創生応援税制に係る税額控除額の取扱い] 法人税における地方創生応援税制の税額控除額は、地方法人税の課税標準となる基準法人税額の計算において連結法人税額から控除される(地方法6三)。 この場合、各連結法人の地方創生応援税制の税額控除額の個別帰属額に地方法人税率(4.4%又は10.3%)を乗じた金額が地方法人税個別帰属額の計算において減算される(措法68の15の3④、措令39の45の3⑤、地方法15①)。 [住民税における地方創生応援税制に係る税額控除額の取扱い] 連結親法人又は連結子法人の各連結事業年度の個別帰属法人税額(道府県民税及び市町村民税の課税標準)の計算において、法人税における地方創生応援税制に係る税額控除額の個別帰属額は個別帰属法人税額から控除されない(つまり、連結法人税個別帰属額に加算される。地方税法附則8⑥⑧、地法23①四の三、292①四の三)。 2 適用時期 改正地域再生法の施行日(平成28年4月20日)以後に特定寄附金を支出した場合に,その支出をした日を含む連結事業年度から適用される(平成28年所法等改正法附則1十二、平成28年地法改正法附則1十一)。 (了)
理由付記の不備をめぐる事例研究 【第16回】 「宥恕規定・収用換地等特別控除」 ~やむを得ない事情がないと判断した理由は?~ 中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也 今回は、青色申告法人X社に対して、修正申告書において損金の額に算入された収用等の特別控除を否認した法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた、国税不服審判所平成13年6月27日裁決(裁決事例集61号427頁。以下「本裁決」という)を取り上げる。 1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本裁決の裁決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。 2 本件理由付記から読み取ることができる関係図 3 本裁決の判断 本裁決は、大要次のとおり、理由付記に不備はないと判断した。 (1) 法人税法130条2項の趣旨 (2) 理由付記の十分性 4 私見 (1) 関係法令等の確認 租税特別措置法65条の2第1項の収用換地等の場合の所得の特別控除の規定は、確定申告書等にこれらの規定により損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書及びこれらの規定の適用を受けようとする資産につき公共事業施行者から交付を受けた買取り等の申出があったことを証する一定の書類の添付がある場合に限り、適用するものとされている(措法65の2④)。 他方で、税務署長は、この4項の記載又は添付がない確定申告書等の提出があった場合においても、その記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類並びに同項の明細書及び財務省令で定める書類の提出があった場合に限り、1項の規定を適用することができるといういわゆる宥恕規定を用意している(措法65の2⑤)(※)。なお、修正申告書は上記の確定申告書等には含まれない(措法2②二十七)。 (※) 素材とした本裁決の事案では、X社は、当初の確定申告においては、収用換地等の場合の所得の特別控除の規定の適用を受けていなかったが、確定申告後に、宥恕規定の適用を求める陳情書を課税庁に提出し、その数ヶ月後、同規定を適用した修正申告書を提出した。これに対して、課税庁が、上記確定申告書等には修正申告書は含まれないことを理由に(措法2②二十七)、特別控除の規定の適用はできないとする本件更正処分を行った、という経緯がある。 (2) 求められる理由付記の程度 本件更正処分は、X社の帳簿書類記載の事実そのものを否定したものではなく、X社が、×年×月×日に提出した修正申告書において、収用等の特別控除額〇〇〇円を損金の額に算入しているところ、当該修正申告書は租税特別措置法65条の2に規定する確定申告書等に該当しないことを理由に、その損金算入を認めないものであるから、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に該当すると考える。 したがって、理由付記の程度としては、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないことになる(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁等参照)。 (3) 理由付記の十分性 本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものであると考える。 すなわち、本件理由付記は、X社が提出した修正申告書は租税特別措置法65条の2に規定する確定申告書等に該当しないことから、収用等の特別控除額〇〇〇円は損金の額に算入されないという処分理由を明記している。したがって、本件理由付記は、その記載内容から法令上の根拠が明らかになるものであり、かつ、法令上の要件に対応する具体的な事実を記載するものであり、これによって課税庁の判断過程が明らかとなるものであるから、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという理由付記の趣旨目的に適うものであると考える。 これに対して、本件理由付記には課税庁が宥恕規定の適用がないと判断したことについての記載がないという主張もあり得よう。しかしながら、本件理由付記の記載内容から、宥恕規定に該当するようなやむを得ない事情はないと課税庁が判断したものであることは推察可能である。 そもそも、宥恕規定に該当する事情は、X社が主張・立証すべきであることを前提とすれば、本件において宥恕規定の適用がないことについての記載がないとしても、このことのみをもって直ちに上記理由付記の趣旨に悖ることにはならないという反論もなし得る。 X社とすれば、宥恕規定に該当するようなやむを得ない事情を主張・立証すればよいのであるから、本件理由付記程度の記載であっても、相手方に不服申立ての便宜を与えるという趣旨目的に適うと解しておく。 (4) 異なる視点 今後の議論の発展のためにも、以下では、上記と異なる視点を示しておく。 素材とした本裁決の事案では、X社が、確定申告後において、課税庁に提出した宥恕規定の適用を求める陳情書には、やむを得ない事情として次のような記載があったが、この点に関する課税庁の判断は理由付記に記載されていない。 審査請求において、課税庁は、宥恕規定におけるやむを得ない事情とは、自然的災害等の客観的に見て本人の責めに帰すことのできない事情をいい、個人的事情は該当しないという解釈を主張しているが、このような解釈の下で、課税庁が上記陳述書に照らして、宥恕規定の適用の有無について、具体的にどのような検討・判断を行ったのかが本件理由付記に記載されていない。 このように、陳述書の存在を踏まえた上で、本件理由付記が更正処分庁の恣意抑制又は不服申立ての便宜という理由付記の趣旨目的に適うものであるといえるのかという点について、再検討することは可能である。 この点、本連載の【第3回】において取り上げた大阪高裁平成25年1月18日判決(判時2203号25頁)は、法人のこれまでの申告状況、過去の税務調査の状況、更正処分の前提となった税務調査の状況などから、行政処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える必要がある論点を抽出した上で、理由付記にはこの点について何ら記載するものではなく、行政処分庁の判断過程を検証することができないとしている。 この判決を参考として、本件における宥恕規定の適用を求める陳情書の記載内容や税務調査におけるX社と調査担当職員とのやりとりの状況などから、行政処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える必要がある論点は宥恕規定の適用の有無であるとした上で、本件理由付記にはこの点についての記載がなく、課税庁の判断過程を検証することができないという観点から、理由付記に不備があるという主張を展開することも考えられよう。 * * * 次回は、青色申告承認取消処分の理由付記制度の概要と関連する裁判例等を確認する。 (了)
裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第12回】 「譲渡制限株式の譲渡②」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、譲渡制限株式の譲渡が経営権の移動に準じて取り扱うことができる場合として、東京高裁平成20年4月4日決定について解説した。 本稿では、類似の裁判例であるが、福岡高裁平成21年5月15日決定について解説を行うこととする。 2 福岡高裁平成21年5月15日決定・金判1320号20頁 (1) 事実の概要 本事件は、発行済株式総数200株を発行する株式会社ホスピカの株式のうち、94株を保有する株式会社システム医療研究所が、申立人に当該株式を譲渡したのに対し、当該株式の譲渡を承認しない旨及び相手方を買取人として指定する旨の通知を受けたため、売買価格の決定の申立てがなされた事件である。 本事件では、仮装譲渡・権利の濫用についても争われているが、本稿では、売買価格の決定についてのみ解説を行うこととする。 (2) 申立人の主張 (3) 相手方の主張 (4) 原決定(福岡地裁平成20年4月8日決定・金判1320号27頁) (5) 裁判所の判断 (6) 評釈 本事件では、DCF法に疑義があるものとしながらも、全く無視するのは相当ではないとして、純資産法との折衷方式により売買価格を決定している。 そして、DCF法の算定内容としては、申立人は161万7,590円、247万3,000円と算定しているのに対し、相手方は22万6,485円と算定しており、裁判所は後者を採用したようである。 これは、純資産価額法との乖離が少ないことから裁判所も採用しやすかったという点が大きな理由であり、そのような採用の仕方が望ましいのかは疑問があるところである。 前回でも解説したが、支配株主にとっての株式価値を算定するに際しては、DCF法を採用しながらも、一定の場合には純資産価額法との折衷方式を採用するというのが裁判所の傾向として存在する。 本事件では、介護事業の特殊性からして、事業計画や資本還元率の算定が困難であったことから、純資産価額法の折衷割合を増やさざるを得ず、そのことが、本決定の内容に繋がったと考えられる。 次回では、大阪高裁平成元年3月28日決定について解説を行う予定である。 (了)
税務判例を読むための税法の学び方【87】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その15:「「退職所得」の意義②」(最判昭58.9.9)) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 今回より、実際の判決の内容についてみていく。 4 裁判所の判断(第一審(東京地裁昭和51年10月6日判決)の判断) これは裁判所HPや法務省訟務重要判例集データベース等、入手しやすい形では公開されていないため、ここに当事者の主張(一部)も紹介する。また同じ理由で、判決の過半を紹介する。少し長くなるがご容赦願いたい。 * * * 次回は、控訴審(東京高裁昭和53年3月28日)の判断を取り上げる。 (続く)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第28回】 「IFRS15(収益認識の基本)」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 2014年5月28日にIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益(以下、「IFRS15」という)」が公表されている。IFRS15は、原則、2018年1月1日以後開始する事業年度から適用される。 また、日本においても、IFRS15の強制適用日に適用が可能となることを当面の目標として収益認識に関する包括的な会計基準の開発が検討されている(「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集(以下、「意見募集」という)」15)。 今回は、IFRS15の「基本」について解説する。IFRS15では、収益認識は履行義務単位で行う。そして、5つのSTEPに分けて検討する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 まず、顧客との契約を識別する。契約とは、強制可能な権利及び義務を生じさせる複数の当事者間の合意であり、以下の識別要件のすべてに該当するものをいう(意見募集197)。 契約の識別の要件を満たした場合、【STEP2】を検討する。満たさない場合、以下のように収益認識を行う。 顧客との契約が契約の識別要件を満たさず、企業が顧客から対価を受け取る場合には、企業は、以下のいずれかの事象が発生している場合にのみ、受け取った対価を収益として認識する(意見募集200)。また、【STEP2】以降の検討は不要である。 IFRS15では、収益認識は履行義務単位で行う。ここでは、契約においていくつの財又はサービスを約束しているか(履行義務があるか)を検討する。 顧客に約束している財又はサービスが、以下の要件の両方に該当する場合には、別個の履行義務であるとする(意見募集204~206)。 (1)は財又はサービスの性質の観点から別個のものとなることが可能かどうかについて検討する要件であり、(2)は契約の観点から財又はサービスを移転する約束が別個のものであるかどうかについて検討する要件である(意見募集204)。 ここでは、取引価格を算定する。取引価格とは、約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額であり、第三者に代わって回収する金額(例えば、一部の売上税)を除くものである。顧客との契約において約束された対価には、固定された金額、変動性のある金額、あるいはその両方が含まれる場合がある(意見募集225)。 取引価格を算定する際には、以下の4つについて検討する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (1) 変動対価 契約において約束された対価に変動対価を含んでいる場合には、企業は、約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ることになる対価の金額を見積もる(意見募集226)。見積り方法には、「期待値法」と「最頻値法」がある(意見募集229)。 見積もられた変動対価の金額について、当該変動対価に関する不確実性がその後において解消される際に、認識した収益の累計額に重大な戻入れが生じない可能性が非常に高いと判断される範囲の金額のみを取引価格に含める(意見募集230)。 (2) 重要な金融要素 契約が金融要素を含んでいるかどうか及び金融要素が契約にとって重要であるかどうかを評価する。 ① 重要な金融要素の評価 評価する際には、関連するすべての事実及び状況を考慮しなければならないが、これには以下の両者が含まれる(意見募集234)。 なお、上記(ⅰ)及び(ⅱ)に関わらず、顧客との契約は、以下の要因のいずれかが存在する場合には、重要な金融要素を含まないと判断される(意見募集236)。 重要な金融要素を含んでいると評価された場合、②を検討する。含んでいないと評価された場合、(3)を検討する。 ② 重要な金融要素を含んでいる場合 契約が重要な金融要素を含んでいる場合には、企業は、約束された対価の金額を貨幣の時間価値の影響について調整する(意見募集233)。つまり、割引計算を行う。割引計算を行う際に、企業は、契約開始時における企業と顧客との間での独立した金融取引に反映されると考えられる割引率を使用する(意見募集235)。 なお、契約開始時において、企業が約束した財又はサービスを顧客に移転する時点と顧客が当該財又はサービスに対して支払を行う時点との間の期間が 1年以内となると見込まれる場合は、重要な金融要素の影響について調整する必要はない(意見募集注43)。 (3) 現金以外の対価 企業が現金以外の対価を受領する場合には、当該対価を公正価値で測定する。現金以外の対価の公正価値を合理的に見積もることができない場合には、当該対価の測定を、約束した財又はサービスの独立販売価格を参照して間接的に行う(意見募集237)。 (4) 顧客に支払われる対価 顧客に支払われる対価では、以下の検討が必要である。 ① 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか否かにより会計処理が異なるため、まず、顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いであるか否かを検討する。 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いである場合、③を検討する。区別できる財又はサービスに対する支払いでない場合、②を検討する。 ② 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いでない場合の会計処理 顧客に支払われる対価を、取引価格の減額(収益の減額)として会計処理する(意見募集240)。 顧客に支払われる対価を取引価格の減額として会計処理する場合には、以下の事象のうち遅い方が発生する時点で(又は発生するにつれて)、収益を減額しなければならない(意見募集242)。 次は、【STEP4】を検討する。 ③ 公正価値の合理的な見積り 顧客に支払われる対価が、区別できる財又はサービスに対する支払いである場合、企業は受け取る財又はサービスの公正価値を合理的に見積もることができるかどうかを検討する。 公正価値を合理的に見積もることができる場合、④を検討する。合理的に見積もることができない場合、②を検討する。 ④ 公正価値を超過するか 区別できる財又はサービスに対して支払われる対価が、③で算定した受け取る財又はサービスの公正価値を超過する場合、⑤を検討する。超過しない場合、⑥を検討する。 ⑤ 公正価値を超過する場合の会計処理 顧客に支払われる対価が、企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超える場合には、企業はその超過額を取引価格の減額として会計処理する(意見募集241)。残りの金額は、当該財又はサービスの購入を仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理する(意見募集241)。 ⑥ 公正価値を超過しない場合の会計処理 顧客に支払われる対価が、企業が顧客から受け取る別個の財又はサービスの公正価値を超えない場合には、当該財又はサービスの購入を仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理する(意見募集241)。 ここでは、【STEP3】で算定した取引価格を【STEP2】で決定した各履行義務へ配分する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 取引価格を配分する目的は、企業がそれぞれの履行義務に対する取引価格の配分を、企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価の金額を描写する金額で行うことである(意見募集246)。 実際の配分は、契約で識別されているそれぞれの履行義務に対する取引価格の配分を独立販売価格(企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格)の比率に基づいて行う(意見募集247、注44)。独立販売価格として最善のものは、企業が当該財又はサービスを同様の状況において同様の顧客に別個に販売する場合における、当該財又はサービスの観察可能な価格である。 財又はサービスについて契約書に記載された価格や定価は、当該財又はサービスの独立販売価格である可能性があるが、独立販売価格であると推定してはならない(意見募集248)。 独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合には、企業は、独立販売価格を取引価格の配分の目的(意見募集246)に合致するように見積もらなければならない(意見募集249)。独立販売価格を見積もるための適切な方法には、以下の3つがある(意見募集249、注46)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 【STEP5】では、いつ、どのように収益を認識するかを決定する。 企業は、約束した財又はサービスを顧客に移転することによって履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識する。財又はサービスは、顧客が当該財又はサービスに対する支配を獲得した時に(又は獲得するにつれて)、顧客に移転する(意見募集256)。 そして、【STEP2】に従って識別された履行義務のそれぞれについて、企業は、契約開始時に、企業が履行義務を「一定の期間」にわたり充足するのか、それとも「一時点」で充足するのかを決定する(意見募集258)。 (1) 一定の期間にわたり充足するか否か 以下の要件①から③のいずれかを満たす場合、一定の期間にわたって充足される履行義務となる。それ以外は、一時点で充足される履行義務となる(意見募集259)。 一定の期間にわたって充足する履行義務の場合、(2)を検討する。一時点で充足する履行義務の場合、(3)を検討する。 (2) 一定の期間にわたって充足する履行義務 一定の期間にわたり充足する履行義務については、その進捗に応じて収益を認識する(意見募集260)。 進捗度の測定方法としては、「アウトプット法」と「インプット法」がある(意見募集260)。企業は、いずれか適切な方法を選択する。 上記の方法で進捗度を合理的に算定できない場合も考えられる。しかし、進捗度を合理的に算定できない場合でも履行義務を充足する際に発生するコストを回収すると見込んでいる場合がある。このような場合、当該履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまで、発生したコストが回収されると見込まれる範囲でのみ収益を認識する(意見募集262)。 (3) 一時点で充足する履行義務 一時点で充足する履行義務については、財又はサービスに対する支配が顧客に移転した時点で収益を認識する。 IFRS15では、支配の移転の指標として以下のものが例示されている(意見募集264)。 * * * 以上、5つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
被災したクライアント企業への 実務支援のポイント 〔会計面のアドバイス〕 【第3回】 「費用・損失の計上②」 公認会計士・税理士 新名 貴則 1 被災による損失の表示 大地震などによって法人が被災した場合に、直接的・間接的に法人に発生する損失については、原則として当該損失を示す適当な勘定科目を用いて、損益計算書の特別損失として計上する。具体的には次のような科目である。 ただし、金額的重要性がないと判断される場合には、特別損失ではなく経常的な費用として表示することも可能である。この場合は、その内容に応じて売上原価、販売費及び一般管理費又は営業外費用として計上することになる。 損益計算書における表示科目としては、上記のように当該損失を示す適当な勘定科目を用いて表示するのではなく、「災害損失」「災害による損失」などの科目を用いて、一括して表示することもできる。実務上はこの表示方法が多く採用されているようである。 ただし、当該損失の主な内容について注記を行うべきと考えられる。 【災害による損失の開示例】 ◆損益計算書 ◆注記事項 (損益計算書関係) 2 災害損失に係る引当金の表示 損壊した資産の点検費や撤去費用等や、被害を受けた資産の原状回復費用などであって、決算日後に予定されているもので引当金の要件を満たすものについては、引当金を計上することになる。具体的な勘定科目としては、「災害損失引当金」が多く用いられているようである。 当該引当金は、その内容に応じて貸借対照表の流動負債又は固定負債に計上し、その計上基準を重要な会計方針として開示する必要がある。 当該引当金の繰入額は、原則として「災害損失引当金繰入額」等の科目により損益計算書の特別損失として計上する。ただし、「災害による損失」等の科目に含めて表示することもできる。 【災害損失引当金の開示例】 ◆貸借対照表 ◆重要な会計方針 ◆損益計算書(引当金繰入額を一括して計上する場合) ◆注記事項 (損益計算書関係) (※) 損益計算書上で引当金繰入額を別掲する場合 ◆損益計算書 ◆注記事項 (損益計算書関係) (了)
「従業員の解雇」をめぐる 企業実務とリスク対応 【第6回】 「普通解雇②」 ~協調性欠如、勤務態度不良による解雇~ 弁護士 鈴木 郁子 1 はじめに ~協調性欠如、勤務態度不良は改善機会の付与が肝心~ 解雇の相談で最も多く、また、最も扱いが難しいのが、この協調性欠如・勤務態度不良を理由とした解雇である。 前回(第5回)解説した能力不足・適格性欠如の解雇類型は雇用契約時の雇用契約の内容の如何によってその解雇の可否の結論が変わってくる類型であったが、本類型の特徴は、従業員の雇用契約後の問題行動が「解雇」という最終手段を講じなければ回避し得ないものであったのか、が問題となる類型である。 【第4回】に紹介した解雇権濫用の判断基準でいえば、 が問題となり、会社の対応の如何で解雇の帰趨が異なってくる類型である。 それでは以下、検討を行いたい(従業員の問題行動のうち非違行為(企業の社会秩序義務違反)については、【第8回】で取り上げる)。 なお、実際の解雇にあたって、①解雇制限に違反しないこと、②解雇手続の履践は当然必要となるが、この点については後述する「4 実務上の留意点」を参照されたい。 2 協調性欠如による解雇 (1) 協調性を欠くことが解雇理由となるためには 会社は、組織であり、他の従業員と協調し、全体として業務を遂行することが当然に想定されている。したがって、他の従業員と協調して労務を提供することが雇用契約上の債務の一内容となっており、協調性を欠くため会社の業務に支障を来している場合には、債務不履行(不完全履行)として、普通解雇の解雇理由となり得る。 とはいえ、 (Ⅰ) どの程度の協調性不足であれば、 また、 (Ⅱ) 会社として何をすれば、 ① 客観的な理由があり ② 社会通念上相当(解雇権濫用法理) として解雇できるのだろうか。 (2) 他の従業員・取引先からの申入れは解雇原因になり得るか まず、協調性欠如といっても、現に全体の業務に支障を来たしていないのであれば、解雇はできない。 一方で、当該従業員のために、他の従業員から「当該従業員を辞めさせてほしい、辞めないのであれば自分が辞める」との申入れがあったり、取引先からも「担当者を代えてほしい」との申入れがあった場合には、現に業務に支障を来たしているので、解雇原因となり得る。 ただし、単なる相性の問題であって、むしろ苦情を申し立てた従業員や取引先の方に問題があるケースも少なくない。 したがって、真に当該従業員の行動に問題があるのか、いじめではないのか等、他の従業員の声なども確認した上で慎重に判断をする必要がある。 いずれにせよ、業務への支障の程度は相当程度のものが必要である。 (3) 注意や配転等による改善機会を設ける そして、現に業務に支障を来たしているような協調性欠如の事実があったとしても、すぐにこれを解雇することはできない。 本人に対して具体的なエピソード等を示し、協調性の欠如により業務に支障を来たしている具体的内容を示して注意をすべきである。そして注意により様子を見てそれでも改まらないのであれば、書面による厳重注意や譴責等の懲戒処分を行うことになる。 また、人との関わりがなくとも業務を行うことができる部署があるのであればそちらに配転する、また、部署の特定の人間関係が原因となっていることも少なくないので、その場合には他の部署に配転し様子を見ることなども必要となる。なお、配転にあたっては、協調性不足が配転の理由であることを説明し、配転自体がその改善の機会の付与であることを本人に自覚させなければならない。 どの程度改善の機会を与えなければならないかは状況により異なるが、他部署への配転が可能な大企業の場合には、配転は必須の条件といえる。一方で、少人数しかおらず配転の余地がない中小企業の場合には、そこまでの対応ができなくとも、解雇が認められることがある。 ただし、いずれにせよ、解雇に至る前に、懲戒処分を経ること、改善されないのであれば解雇の可能性があることを告げることは、最低限必要であろう。 3 勤務態度不良による解雇 遅刻が多い、無断欠勤が多い、上司に無駄にたてつく、取引先とトラブルを起こす、業務指示を守らない、提出すべき書類の提出を頻繁に怠る等、勤務態度不良を理由として、会社は従業員を解雇し得るだろうか。 この類型の特徴は、それぞれの事実は、単体として見ると業務に著しい支障を生じさせているわけではないが、いくつかの事実の積み重ねがあって、はじめて業務に著しい支障を来たしていると評価され、解雇し得る類型であるということである。 解雇し得るというためには、いくつかの種類の事実の積み重ねが必要であるし、その問題行動が起きている期間についても、ある程度の期間、回数も相当程度であることが必要である。 そして、注意、勤務態度の改善機会の付与なくしての解雇はあり得ない。 本人に対して、勤務態度不良・問題行動の内容を詳しく告知し、注意、懲戒処分等を繰り返す必要があるし、改善しなければ解雇がありうることを注意・懲戒の際に告知しなければならない。 むしろ、この勤務態度不良のみを理由とする解雇は原則としてできないが、よほどの事情があり、また、注意、懲戒等を繰り返すことで、ようやく解雇が認められる余地がごく僅か生じてくる、と考えておいた方が無難である。 4 実務上の留意点 (1) 問題に関する客観的な証拠の収集 以上述べたとおり、協調性不足・勤務態度不良による解雇はあり得るものの、実務上は極めて難しく、繊細な対応の必要な類型である。 そして、解雇事由の存在、解雇権濫用に当たらないことの立証責任は会社側にあり、まず、協調性不足・勤務態度不良により業務に支障を来たしていることを会社が立証しなくてはならない。 したがって、協調性不足・勤務態度不良の具体的エピソードの客観的な裏付け資料を収集し、これを証拠化することになる。 まず、本人からのメール内容等、メールでのやりとりの内容等自体が、協調性不足・勤務態度不良の表れであるときは、それ自体が証拠となる。また他の従業員からの報告により会社が本人の問題行動を把握するケースもあるが、その場合は、当該従業員からの報告書や報告メールが証拠となる。 ただし、問題従業員から告げ口をしたと思われるのを避けたいため、報告は口頭であったり、報告書の作成を拒絶されることがある。その場合には、報告を聞いた者が上司や人事担当者等に、「本日、〇〇(報告者)から**(問題従業員)に関し、以下のとおり報告がありました」等とヒアリングした内容を報告メールの形で残して証拠化しておくとよい(メールは、その日時にメール記載の内容のやりとりが実際になされた証拠となりうるので、有効活用するべきである)。 ここで注意しなければならないのは、会社で人事評価の記録を付けている場合には、その記録に、本人に問題行動があることを反映させておくということである。 人事評価の記録にこれらの事項が何も記載されていないのであれば、会社として本人の問題行動を問題行動として受け止めていないと見られかねないからである。 (2) 改善機会を付与したことの証拠も そして、本人に対する注意や懲戒処分を行うことになるが、まずは本人に対して問題行動を指摘し、そのことについて本人の言い分を確認すべきである。そして、その言い分について改めて調査が必要な場合には追加調査を行い、その上で注意や懲戒処分等を行うことになる。 人事上の注意にとどめるのか、懲戒処分を行うのか、懲戒処分といってもどの程度のレベルのものにするのかは、本人の問題行動の内容及びこれまでの注意の回数にもよる。 解雇に踏み切る前には、その前の注意・懲戒の際に「問題行動が改められなければ次は解雇もありうる」等と告げるべきであるが、そのように告げた事実自体も、注意や懲戒処分結果の内容とあわせて記録化すべきである(注意や懲戒の処分結果の記録簿のようなものがないときは、少なくとも前述のとおり、報告の形をとったメールを残しておくべきである)。そして、本人に対する注意・懲戒自体は、書面で行う。 このとおり、解雇前に改善機会を付与したことの立証責任も会社にあるのである。 (3) まずは退職勧奨に取り組む その結果、問題行動が改まらなければ解雇を検討することになるが、解雇を行う前に、退職勧奨を行ってみた方がよい(解雇に伴う会社のリスクについては【第2回】を参照されたい)。 それまでの注意や懲戒の手続が慎重に丁寧に行われているのであれば、退職勧奨に応じるケースも多い。その際に、再就職のための就職活動期間に配慮して退職日を先に延ばすなどの配慮をすることも、合意退職の成立には有効である(その場合は、当該日付の合意退職書をとる)。 なお、合意退職に応じなければ、解雇をすることになるが、そもそも解雇が困難な類型であるので、懲戒解雇ではなく、普通解雇の形をとるべきである。 (4) 試用期間を有効に活用する このように、協調性不足・勤務態度不良による解雇には、踏まなければならない手続も多く、また争われるリスクも高い。 したがって、採用の段階から、そのことを覚悟した上で慎重に採用に臨む必要があるし、協調性不足・勤務態度不良等は、入社直後から問題行動として表れることが多いので、試用期間を有効に活用するべきである。 もちろん、試用期間にも解雇権濫用法理は適用されるが、緩やかに適用されるし、また本人も試用期間中であれば退職につき納得を得られやすく、解雇を争わず、また、退職勧奨にも応じやすいからである。 むしろ、問題行動を認識しつつ、試用期間を経て正社員として任用した場合には、その直後に解雇をすることはできないと覚悟しておいた方がよい。 (5) パワーハラスメントにならないよう注意 なお、本人に対する注意や退職勧奨を行う場合には、これがパワーハラスメントに当たらないよう、方法や伝え方には留意する必要がある。 まず、業務時間中、会社内で行う必要があるが、本人の名誉・プライバシー等に配慮し、他の従業員の面前で行うことは避けるべきである。また、怒鳴る、執拗に同じことを何度も言う、長時間にわたるなど、感情的・威迫的な態様で行うことは禁物であり、冷静沈着かつ端的に行わなければならない。 なお、一対一であると従業員の対応によっては興奮して不適切な発言をしてしまう可能性がある場合には、2~3名で行うこともよいであろう(人数が多すぎるのはよくない)。 (了)