〈検証〉 「コーポレート・ガバナンス報告書」からみた CGコード初適用への各社対応状況 【第3回】 (最終回) 「“説明”率の高い原則に関する主な事例検証(その2)」 弁護士・公認会計士 中野 竹司 6 原則3-1「情報開示の充実」記載例 (1) 概要 原則3-1では、経営やコーポレート・ガバナンスに対する基本的な考え方の開示に加えて、「取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続」「取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」の開示を求めている。 このうち、報酬決定の方針と手続について、「方針」としては報酬制度の理念や目的、概要を記載する例などがみられた。「手続」については会社法に基づいた報酬限度額の決定方法や各取締役への配分等の基本的な記述を行っている企業に加え、より踏み込んだ記載を行っている上場企業もあった。 また、経営陣・役員の指名に当たっての方針と手続について、「方針」として具体的な選任基準を記載したものがあった。また、「手続」については、各社における基本的なプロセスを記載したものの他、意思決定の透明性・公平性確保のための仕組みを記載したものもあった。 以下、具体的な記載事例を挙げる。 (2) 「取締役会が経営陣幹部・取締役会の報酬を決定するに当たっての方針と手続」記載例(スタートトゥデイ(同社HPにて開示)) (3) 「取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続」記載例 ① 代表取締役CEOが候補者を提案し、取締役会で決議している例(亀田製菓) ② 取締役会で決定するとした例(ソフト99コーポレーション) なお、同社はHPで公開しているコーポレート・ガバナンス・ポリシーで、詳細な情報を公開している。 ③ 指名委員会で決定するとした例(三菱商事) 7 原則4-11③「取締役会全体の実効性の分析・評価」記載例~実施率が半数以下の原則~ (1) 概要 この補充原則に基づく開示は、「取締役会全体の実効性について分析・評価」を行った「結果の概要」である。 取締役会の実効性評価の目的は、取締役会全体が適切に機能しているかどうかを定期的に検証し、その結果を踏まえ、問題点の改善や強みの強化等の適切な措置を講じていくという継続的なプロセスにより、取締役会全体の機能向上を図ることにあり、評価結果の概要を開示することにより、自社に対する支持基盤の強化に役立つことが期待されるとされていた(※)。 (※) 油布志行=渡邉浩司=高田洋輔=浜田宰「『コーポレートガバナンス・コード原案』の解説[Ⅳ・完]商事法務2065号50頁、高山与志子「取締役会評価とコーポレート・ガバナンス-形式から実効性の時代へ-」商事法務2043号17頁 しかし、日本の上場企業において、開示のための「取締役会全体の実効性について分析・評価」を行っていた会社は従来ほとんどなかったと思われ、また結果の開示を求めることは諸外国のコーポレートガバナンス・コードに比べてもかなり踏み込んだ原則との指摘もある。 このため、先に述べたように、この原則は、コーポレート・ガバナンス原則適用当初から、コーポレート・ガバナンス報告書で対応に苦慮している原則として挙げられていたところ、最終的な実施率は、招集通知の英訳と並び50%を割り込んでいる。 以下、具体的な記載事例を挙げる。 (2) ヒアリングや相互評価を行っている例(大東建託) 取締役会全体の評価をどのような方法で行うかは、各社試行錯誤を行っているようだが、手法としては各取締役へのアンケート、指名委員会が各取締役への評価をまず行い、その上で取締役会全体としての評価を行うもの、人事諮問委員会、コーポレートガバナンス委員会が評価に関与するものなどがあった。 (3) 一定の第三者の関与の下で評価を行う例(日本瓦斯) 取締役会全体の実効性の分析・評価について、外部の専門家等の第三者が関与する形態も海外では広くみられるが、我が国の上場企業ではそれほど多くなかった。また、第三者評価が必要でない理由を開示した会社もあった。 (4) 結果の概要の開示例 結果の概要の記載としては、端的に問題がない旨を記載したもの、取締役会に実効性がある旨を理由とともに詳細に開示したもの、結果の概要の開示については今後の課題としたものなどがあった。 以下、具体的な記載事例を挙げる。 ① 取締役会の事項性に疑義や問題がなかった点を記載した例(エーザイ) ② 結果について比較的詳細に開示している例(豊田自動織機) ③ 結果の概要については検討課題として記載している例(大東建託) 8 2016年の展望 2015年は、コーポレートガバナンス・コード元年であったことから、各社ともコーポレート・ガバナンス報告書においてどのように対応した記載を行うか非常に労力を用いた年であったと思われる。 そして、コーポレートガバナンス・コードに対応するため、社外取締役の登用が促進され、また従来実施されなかった施策について、コードの原則に定められた対応を“実施”ないし実施の準備との“説明”をした上場企業も多かったことが、コーポレート・ガバナンス報告書の分析により明らかにされた。 2016年は、コーポレートガバナンス・コードを“実施”した会社もその対応について検証する元年になるケースも多くなり、また、実施の準備との“説明”をした約30%の未実施の原則が“実施”されることとなると思われる。 したがって、各社のコーポレート・ガバナンスの状況がより明らかになると思われる。 さらに、中期的には、コーポレートガバナンス・コード対応を進めた上場企業と、あえて“説明”を選んだ上場企業の業績の比較という視点も分析可能となることから、今後も各社のコーポレート報告書の記載及び企業業績は注目されていくと思われる。 (連載了)
〈小説〉 『資産課税第三部門にて。』 【第6話】 「限定承認とみなし譲渡課税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「お~い、谷垣君。」 田中統括官が谷垣調査官を呼ぶ。 「この相続税の申告書を見ると、相続人は、限定承認をしているらしい・・・」 田中統括官は申告書に添付されている家庭裁判所からの限定承認受理の通知書を見ながら、谷垣調査官に声をかけた。 谷垣調査官は腕時計を見た。午前11時50分である。 「限定承認って・・・民法のですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「それは当たり前だろう。君も税務職員なら、限定承認って聞いたら、民法よりも所得税法59条1項をすぐに思い浮かべないと。特に資産課税部門の職員であればなおさらだ。」 田中統括官は薄笑いしながら谷垣調査官を見た。 「・・・みなし譲渡課税の規定ですね。」 谷垣調査官は少しムッとした表情で答える。 「ということは、被相続人の譲渡所得の申告が出ているかどうかを確認するということですね、統括官の指示としては・・・」 谷垣調査官は再び時計を見る。ちょうど時計の針は正午を指している。谷垣調査官は行き付けの食堂が既に混んでいることを見越して、田中統括官の会話にしばらく付き合うことにした。 なぜか田中統括官は、よく昼食前に谷垣調査官を呼び止める。 「この相続税の申告は、限定承認をした後に、相続財産の額が相続債務を超えるものであることが判明したケースのようだ・・・」 田中統括官は説明する。 「ということは・・・このケースでは相続人が限定承認をしない方が良かったということですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「そうだな。」 田中統括官は相続税の申告書を見る。 「相続人の予想に反して相続財産の額が相続債務を超える場合に、所得税法59条1項を適用するのは少し可哀想だと思いませんか?」 谷垣調査官は、相続人に同情して言った。 「単純承認よりも限定承認をした方が、結果として税金の負担が多くなったということだ。」 田中統括官は谷垣調査官の顔を見ながら答える。 「統括官は、譲渡所得を課税すべきだと思うのですか?」 谷垣調査官は不満そうに尋ねた。 「法律でそう定められているのだからな。」 田中統括官は平然と答える。 「しかし、限定承認という規定を定めた民法の立法趣旨に反するのでは・・・限定承認というのは相続人を保護する制度で・・・すなわち、相続によって取得した財産を限度として、債務等の弁済を相続人に負わせるものですよね。」 谷垣調査官の声のトーンが高くなる。 「民法は、限定承認をした場合には、相続債務が相続財産の額を超えていたとしても、相続人は、相続によって得た財産の限度でのみ責任を負えば足り、残った債務を自己の固有財産で弁済する必要がないということだ。」 田中統括官は言葉を続ける。 「そこで、所得税法59条1項1号は、限定承認制度が設けられた趣旨を尊重し、譲渡所得の基因となる資産については、相続開始時点におけるその価額に相当する金額で譲渡があったものとみなして、被相続人に対する譲渡所得課税を行うこととしている・・・」 谷垣調査官は再び腕時計を見た。既に12時30分を過ぎている。 「・・・そして、被相続人の所有期間中におけるキャピタルゲインを被相続人の所得として課税し、これに係る所得税額を被相続人の債務として清算させることとしている。」 田中統括官は満足そうに谷垣調査官の顔を見た。 「このケースのように、限定承認の結果、発生する譲渡所得に係る所得税の納付は、どのようになるのですか?」 谷垣調査官が尋ねる。 「もちろん、相続人が相続する財産の限度において弁済することになる。」 田中統括官が答える。 谷垣調査官は質問を続けた。 「では被相続人の債権者に対して弁済した後、今回のように国税が発生した場合、どのように処理されるのですか?」 「国税徴収法8条の国税優先の原則を知っているだろう。」 田中統括官は机の上に置かれていた税務六法を手に取り、チラッと谷垣調査官を見てその条文を読み上げた。 「そうすると、私債権者に弁済し、国税が滞納になった場合、税務署はどうするのですか?」 谷垣調査官は腕時計を見ながら尋ねた。腕時計の針は12時50分を指している。 「そりゃあ被相続人の債務だから、相続財産の限度内であっても、相続人に対して支払いを求め、相続人が支払うことができなければ、結局、国としては徴収できないということになるのだろう。」 田中統括官は満足そうに答える。 谷垣調査官は少し落ち着かない様子で尋ねた。 「ところで統括官、もう1時になりますが・・・これから、私・・・食事に行っても良いですか?」 谷垣調査官が尋ねると、田中統括官は「もう、こんな時間になっているのか・・・」と言いながら、バツが悪そうな表情で大きく頷いた。 (つづく)
《速報解説》 今年の準確定申告でマイナンバーの記載が必要なケースに注意! ~早期の対応でマイナンバー本人確認書類の確実な収集が肝要 Profession Journal編集部 確定申告真っ只中だが、「所得税の確定申告書へのマイナンバー(個人番号)の記載は来年以降」とお考えの読者が一般的だろう。 だが、所得税関係であっても、準確定申告ではマイナンバーの記載が求められるケースがあるため、留意したい。 〇原則は、29年1月以降に提出するものから記載が必要 国税庁のHPに掲載されている「番号制度概要に関するFAQ」には次のような設問がされている。 つまり、所得税関係の申告書へのマイナンバーの記載は、原則的に平成29年に入ってからの作業と考えられている。 ところが、相続の開始に伴う準確定申告については、今年の申告であってもマイナンバーの記載が求められるケースがあることから留意したい。 〇平成27 年分準確定申告では、相続人等の代表者を指定する場合は必要に 平成27年に開始した相続に伴って平成28年1月1日以後に行う準確定申告において、相続人等(相続人・受遺者)の代表者を指定するケースでは、「死亡した者の平成27 年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(兼相続人の代表指定届出書)平成28 年分以降用」にマイナンバーの記載を行わなければならない。 相続人等の代表者を指定するときには、所定の欄に①すべての相続人等のマイナンバーの記入と、②すべての相続人等の本人確認書類の提示又は写しの添付が必要となるわけだが、複数人の相続等がいる場合であっても、必ずしも代表者の指定を行う必要はないため、これをしない場合にはマイナンバーの記載は不要となる。 〇平成28年分準確定申告では、すべての相続人等のマイナンバーが必要に 平成28年の相続開始に伴う準確定申告にあたっては、上記の相続人等の代表者を指定の有無に関係なく、下記のようにマイナンバーの記載が求められることとなる。 〇マイナンバーの収集では早期の対応を 上記のとおり、準確定申告に際してはマイナンバー実務の対応を行わなければならないわけだが、本人確認書類とは、次のとおり「番号確認」と「身元確認」ができるものであり、これらを提示または添付する必要がある。 周知のとおり、準確定申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して4ヶ月を経過した日の前日までに提出しなければならない。 相続の処理で多忙なその時期に、マイナンバーの対応は失念しがちであり、また相続人等が多い場合や遠方にいる相続人等から上記の書類を得なければならない場合は、当人らがマイナンバーの取扱いに不慣れでもあることから、予想外に時間を要することも十分に想定できる。 こうしたことから、マイナンバー等の収集対応は、早期に着手されたい。 (了)
《速報解説》 国税庁、会社役員賠償責任保険の税務上の取扱いについて 会社法解釈指針を踏まえた回答(情報)を公表 ~新たなD&O保険特約の会社負担分は一定手続により役員への給与課税を行わず Profession Journal編集部 国税庁は2月24日付、経済産業省からの照会に対する回答を公表し、会社役員賠償責任保険(D&O保険)のうち株主代表訴訟担保特約部分の保険料を会社が負担した場合、一定の条件のもと、役員個人に対する給与課税を行わないことを明らかにした。経済産業省からも国税庁からの回答があった旨の情報が公表されている。 会社役員賠償責任保険とは一般的に、株主や取引先等から役員に対する損害賠償請求訴訟(第三者訴訟・株主代表訴訟)が提起された場合に、役員が被る損害を補填する保険であり、企業と保険会社との契約によるもので、金融庁の審査を受けた保険商品が損害保険会社各社から販売されている。 会社役員賠償責任保険では、株主代表訴訟に敗訴した場合の損害賠償金と争訟費用は基本契約では担保されておらず、別途「株主代表訴訟担保特約」を付ける必要がある。ただしこの特約部分の保険料を会社が負担することは会社法上利益相反・忠実義務違反の懸念があるため、実務では役員個人が負担することとなっていた。 また、株主代表訴訟担保特約の保険料を会社が負担した場合、従前の税務上の取扱いでは下記個別通達の通り、会社から役員に対して経済的利益の供与があったものとして給与課税の対象とされていた。 一方、昨今のコーポレート・ガバナンス重視の傾向や多重代表訴訟制度の導入で株主代表訴訟が提起されるケースは増加すると見られこの保険のニーズが高まるなか、役員自らが特約部分の保険料を負担しなければならない上記の実務は新たな就任要請を躊躇させる一因となり、改正会社法等で社外取締役の活用が求められている企業にとって足かせとなっていた。 そこで経済産業省研究会が昨年7月に公表した会社法の解釈指針では、会社が利益相反の問題を解消するための次の手続を行えば、会社がこの特約部分に係る保険料を会社法上適法に負担することができるとの解釈が示されていた。 そこで今回経済産業省は、上記の解釈を踏まえると、株主代表訴訟敗訴時担保部分を特約として区分する必要がなくなることから、普通保険約款等においてこの部分の免責条項を設けない「新たな会社役員賠償責任保険」(一部暫定的な取扱いによるものを含む)の税務上の取扱いについて照会したところ、国税庁から、新たな会社役員賠償責任保険の保険料を会社が上記①②の手続きを行うことにより会社法上適法に負担した場合には、役員に対する経済的利益の供与はないと考えられることから、役員個人に対する給与課税を行う必要はないと回答した。 なお、上記以外の会社役員賠償責任保険の保険料を会社が負担した場合には、従前の取扱いのとおり経済的利益の供与があったものとして役員個人に対し給与課税が行われる。 すでに当該保険契約を締結している企業及び現在導入を検討している企業は、今回の国税庁情報を踏まえた各損害保険会社による保険サービス内容の見直し等の動きに注視されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 意見募集を経て 「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」が正式決定 ~コメント対応も同時公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年2月24日、日本取引所自主規制法人は「『上場会社における不祥事対応のプリンシプル』の策定について」を公表した。 これにより、平成28年1月22日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 公表に際して、「「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(案)に寄せられたパブリック・コメントの結果について」も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」は、趣旨と本文をあわせて2ページであるので、ぜひ原文をお読みいただきたい。 1 公開草案からの主な変更点 2 寄せられたコメントの例 「不祥事」の定義はないが、プリンシプル・ベースのアプローチにおいては、関係者が尊重すべき基本的な原則を明らかにするとともに、個々の用語等の意義・解釈は、当事者がその趣旨を踏まえつつ個別の状況等に即して適切に判断することが想定されていると説明されている。 「調査環境の整備」の内容は、調査に必要な情報の入手等が円滑かつ適切に行われるように対応することを想定したものであり、例えば、役員・社員等に対して資料提出やヒアリング等に適切に応じるよう求めることや、調査に関する情報提供窓口の設置や通報者の保護等が考えられる(これに限られるわけではない)と説明されている。 不祥事の調査方法は、第三者委員会による調査に限られず、いわゆる社内調査も含み、個々の不祥事の内容等に照らして上場会社において適切に選択する必要があると説明されている。 仮に第三者委員会を設置しない上場会社は、その理由を開示する等の説明が求められることになるのかについては、本プリンシプルは、第三者委員会を設置しない場合にその理由の開示を一律に求めるものではないと説明されている。 (了)
《速報解説》 会計士協会より 「公益法人会計基準に関する実務指針」の公開草案が公表 ~各委員会報告を改訂・統合~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成28年2月24日、日本公認会計士協会は非営利法人委員会報告「公益法人会計基準に関する実務指針」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、平成27年4月24日に内閣府公益認定等委員会委員長から日本公認会計士協会会長あてに「公益法人の会計に関する諸課題の更なる検討について(協力依頼)」が発出されたことを受けたものである。また、非営利法人委員会報告第28号、第29号、第31号及び第32号に必要な改訂を行った上で、各委員会報告を統合している。 意見募集期間は平成28年3月8日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 公開草案は、Q&A形式で、次の事項に関する49項目を取り上げている。 社団法人・財団法人は、法令によって特定の会計基準の適用が強制されていないため、自らの判断によって、採用する財務報告の枠組み(会計基準)を選択適用することになる(公開草案Q1)。 ただし、「新たな公益法人制度への移行等に関するよくある質問」(FAQ)(平成27年4月版内閣府)問Ⅵ-4によれば、いずれの法人類型も利潤の獲得と分配を目的としない非営利法人であることから、「通常は、公益法人会計基準を企業会計基準に優先して適用することになる」と述べられている。 また、公益法人会計基準について(平成20年4月11日内閣府公益認定等委員会、平成21年10月16日改正)別紙公益法人会計基準を選択適用している法人が多いと思われると述べられている。 公開草案は、寄付の取扱いとその会計処理、有価証券の評価とその会計処理、固定資産の減損会計、税効果会計などについて、設例と仕訳を用いて丁寧に記載している。 Ⅲ 適用時期等 公表日から適用することを予定している。 (了)
2016年2月25日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.158を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!- - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第20回】 「寄附金の課税要件を考える」 税理士 山本 守之 〔事 例〕 この事例は、平成21年5月21日の国税不服審判所の裁決例を参考にしています。 税務調査において寄附金の損金算入が否定され、国税不服審判所の審査請求で全部取消しとなって、更正処分が取り消される例が少なくありませんが、そのほとんどが不開示となっています。そこで、TAINSで情報公開法により公開された事例を中心にその内容を取り上げてみましょう。 資産取得のための条件として寄附をした場合は、その寄附金が国等に対する寄附金や指定寄附金であっても、その資産の取得のために要した費用であるから、損金の額に算入できず、資産の取得価額を構成するという主張が税務の第一線からなされましたが、それだけの理由で損金算入を否認してよいものでしょうか。 〔争 点〕 本件はA社が、全額損金の額に算入したP国立大学法人へ寄附した建物に係る建築費用の額(指定寄附金)について、原処分庁(O税務署長)が、国等に対する寄附金の支出はA社がP国立大学法人から土地を取得するための条件として行われたものであるから、国等に対する寄附金は、土地の購入のために要した費用であり、土地の取得価額に算入されるとして法人税の更正処分等を行ったのに対して、A社が、原処分庁の認定には誤りがあり違法であるとして同処分等の全部の取消しを求めた事案ですから、本件寄附金が、土地の取得価額に算入されるか否かが争点です。 〔寄附金認定の問題点〕 法人税法37条で寄附金の損金不算入とする規定は、昭和17年2月の旧臨時租税措置法の改正によって設けられました。創設の当時は太平洋戦争の最中(太平洋戦争は昭和16年12月8日に始まりました)であり、寄附金が激増し、他面においても税率が非常に高率であったことから、法人の支出する寄附金を損金算入するとすれば、国の財政収入の確保を阻害するばかりではなく、寄附金の出捐による法人の負担が、法人の減収を通じて国に転嫁され課税の公平上適当ではないとする考え方でした。 現在でも資産の低廉譲渡、無利息貸付、子会社の人件費の親会社負担などが寄附金課税の対象となり、これらの取引が何故行われたかという取引の背景を検討しないまま課税されるので、課税庁と納税者の間のトラブルの種になっています。 この制度が創設された際の寄附金を損金の額に算入することを規制する趣旨については、次のように説明されていました(鈴木保雄他著『臨時租税措置法解説』)。 (注) 創設当時は国防献金や恤兵金は全額損金算入とし、限度超過額も寄附金審査委員会の質問により法人税を免除することにしていました。 この考え方は現在も、次のような取扱い(法人税基本通達7-3-3)に生きています。 この取扱いは、固定資産の取得に関連して地方公共団体に寄附金を支出しても、単純に指定寄附金となるのではなく、寄附金を支出することが条件とされているため著しく低い価額で固定資産を購入できた等、その支出した金額が実質的にみてその固定資産の代価を構成すべきものであると認められるときは、その支出した金額を取得価額に算入しなければならないという趣旨でしょう。 これらから考えれば、寄附金がその資産(土地)を取得するための条件となっている(原処分庁主張)だけではなく、事例の場合に「指定寄附金が固定資産の代価を構成するか否かについては、その支出した金額が、寄附金を支出することが条件とされているため著しく低い価額で固定資産を購入できた等、実質的にみてその資産の代価を構成しているか否かによって判断するのが相当である。」とする国税不服審判所の裁決が正しいと考えられます。 こうなると、寄附金を支出することが資産取得の条件となっているだけでなく、「著しく低い価額」で購入したことが、寄附金(建物の価額)が土地の取得価額と認定するための要件となります。 本件の場合の取引価額は、財産評価基本通達に基づく財産評価基準書路線価図による評価額及び固定資産税評価額を上回っており、不動産鑑定士の評価額から建物解体費3,500万円を控除した金額を基礎としたもので、適正であり、「著しく低い価額」とはなっていません。 また、本件の取引の背景については「本件土地の売買については、A社から持ちかけたものであり、A社には建物建替えのために土地を取得したい希望があり相手方も会館を建て替えたい希望があったと認められ、双方の希望を実現させるべく、本件土地を時価相当額で売買することとした上で、本件寄附金を授受することに合意したものと認めるのが相当である。」と判断しています。 土地等を取得するための条件になっている寄附金については、その取引条件だけでなく、「著しく低い価額」である等の立証が課税庁に求められますが、本事例ではそれがなされておらず、裁決文では次のように指摘されています。 寄附を条件とした資産の売買におけるその資産の取引価額は、その条件だけではなく、「著しく低い価額」が立証されなければなりません。 資産を取得するための条件として寄附金を支払った場合でも、その寄附金の額を資産の取得価額に含めるためには、次の3つの要件が必要となります。 上記の①~③は租税法における「課税要件法定主義」を示しています。 税理士が調査の立会いをするときは、調査官に対していたずらに「認めて下さい」と陳情することではなく、課税庁の主張を「課税要件を具備していますか」と指摘することです。 ▷この事件のコメント A社が国立大学に建物建設費用を寄附しました。A社は通常であれば国等に対する寄附金でありますから全額損金の額に算入されると考えていたのです。 しかし、この寄附は、国立大学の土地を払い下げる場合の条件となっていました。このため課税庁では建物建設費用の寄附部分を土地の取得価額に算入し、損金としたA社の処理を否認したというわけです。 この更正処分の根拠は「・・・その取得に関連して都道府県若しくは市町村又はこれらの指定する公共団体等に寄附金又は負担金の名義で金銭を支出した場合においても、その支出した金額が実質的にみてその資産の代価を構成すべきものと認められるときは、その支出した金額はその資産の取得価額に算入する。」という通達(法人税基本通達7-3-3)です。 気をつけたいのは、通達をみる前に課税要件のあり方を考えることです。 こうなると、通達の「・・・その支出した金額が実質的にみてその資産の代価を構成すべきもの」という表現を考える必要があります。 このため裁決では寄附金の額が取得価額となるためには、寄附金が資産を取得するための要件となっていることだけではなく、資産の取得のための価額が、一般の場合に比べて著しく低く定められていることが必要です。 結果は納税者の主張を受け入れ更正処分が取り消されました。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例35(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(租税特別措置法第37条の12の2) 上場株式等に係る譲渡損失は、その年分の上場株式等に係る配当所得の金額と損益通算ができ、損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失の金額は、翌年以後3年間にわたり確定申告をすることにより株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から繰越控除できる。 なお、上場株式等に係る譲渡損失の金額を繰り越す場合には、譲渡損失が生じた年分以後、株式等の譲渡がない場合であっても連続してその繰り越す譲渡損失の金額を記載した確定申告書に確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)を添付して提出しなければならない。 また、上場株式に係る譲渡損失の金額は平成27年分までは無条件で未公開株式の譲渡損益との通算もできる。 ◆確定申告書を提出していない場合 譲渡損失が発生した年分やその後の年分において確定申告書を提出していない場合には、期限後申告により株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書と確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)を添付して、発生年分から使用年分まで確定申告書を提出すれば、譲渡損失を使用することができる。 ◆確定申告書を提出しているが譲渡損失の申告をしなかった場合 ① 特定口座(源泉徴収なし)・一般口座の場合 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書と確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)を添付して更正の請求をすれば、損失があったこととされる。 ② 特定口座(源泉徴収あり)の場合 申告するかしないかの選択が可能であり、申告しなかったのは納税者の選択とみなされるため、更正の請求はできない。 (了)
〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第1回】 「別表6(22) 生産性向上設備等を取得した場合の 法人税額の特別控除に関する明細書」 公認会計士・税理士 菊地 康夫 Ⅰ はじめに 本稿では、法人税申告書のうち、税制改正により変更もしくは新たに追加となった様式、複数の書き方パターンがある様式、実務書籍への掲載頻度が低い様式等を中心に、簡素な事例をもとに記載例と書き方のポイントを解説していくことにする。 第1回目は、比較的書籍等で解説される機会が少ない「別表6(22) 生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」を採り上げる。 Ⅱ 概要 この別表は、いわゆる生産性向上設備投資促進税制(生産性向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)のうち、税額控除を適用する場合に記載する。 本制度は、法人が産業競争力強化法の施行の日(平成26年1月20日)から平成29年3月31日までの期間(指定期間という)内に、特定生産性向上設備等の取得等をして国内にある当該法人の事業の用に供した場合に、その事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却又は税額控除を認めるものである。 なお、産業競争力強化法の施行の日(平成26年1月20日)から平成28年3月31日までの期間(特定期間という)内に、取得等をして、国内にある当該法人の事業の用に供した特定生産性向上設備等については、特別償却又は税額控除の上乗せ措置がある。 適用期間と設備等の種類の関係をまとめると以下のようになる。 (注) 上記の税額控除額が、控除の適用を受けようとする事業年度の法人税額の20%相当額を超える場合には、その20%相当額を限度とする。 特定生産性向上設備等とは、生産等設備を構成する機械及び装置、工具、器具及び備品、建物、建物附属設備、構築物並びに一定のソフトウエアで、先端設備(A類型)又は生産ラインやオペレーションの改善に資する設備(B類型)として、産業競争力強化法第2条第13項に規定するものをいう。 この生産性向上設備等の範囲など産業競争力強化法に関する内容については、経済産業省のホームページを参照のこと。 Ⅲ 「別表6(22)」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 平成26年4月1日から平成29年3月31日のうち、いずれかの日を含む事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 「法人税額の特別控除額の計算」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)